説明

エンジンのピストン

【課題】シリンダーヘッドの素材を変更することなく、燃焼室周辺を冷却して燃焼室の温度を低下できるエンジンのピストンを提供する。
【解決手段】シリンダーブロックに内蔵されたピストンと前記シリンダーブロックに取り付けられるシリンダーヘッドとの間に燃焼室が形成されるエンジンにおいて、前記ピストンのクラウン部下面に表面積拡張部が形成されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はエンジンのピストンに係り、より詳しくは、円滑な冷却作用により燃焼室の温度を低下させることによって異常燃焼による部品損傷、騒音および振動の発生を改善できるエンジンのピストンに関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、エンジンの燃焼室4は、シリンダーブロック1に設けられたピストン2の上面と前記シリンダーブロック1の上面にガスケットを介在した状態で取り付けられたシリンダーヘッド3によって形成される(シリンダーヘッド3の下面にシリンダーボアの上部を覆う凹状の燃焼室上部面が形成される)。
前記ピストン2はコネクティングロッド5を介してクランクシャフトに連結され、ピストン2の上下運動を回転運動に切り換える。
【0003】
図2の(a)は前記ピストン2の平面図であり、図2の(b)は前記ピストンの正面図であり、図2の(c)は図2の(a)のA−A線断面図であり、図2の(d)はピストン2の底面図であり(図2の(a)、A方向における底面図)、図2の(e)はピストンクラウン部下面の平面図である。
【0004】
図2に示すように、ピストン2の上面、すなわち、クラウン部2aの上面には吸気/排気バルブが最大にリフトしたときにバルブとピストンとの衝突を避けるためのバルブポケット(2c;排気バルブポケット、2d;吸気バルブポケット)が形成され、ピストン内側のクラウン部2aの下面は上方に凹状(ピンボス2b形成部は除く)に形成され、互いに対向する部分にピンボス2bが形成され、同時にピンホール2b’が形成され、ピストンピンを介して前記コネクティングロッドの小端部とピストンを結合できる機構になっている。
【0005】
ところで、ターボチャージャーが取り付けられたエンジンでは、過給作用によって燃焼室4の圧縮比が過度に上昇する場合、上死点付近で燃焼時に過給された空気との急激な混合によってノッキングなどのような異常燃焼が発生する。
異常燃焼が発生すると高熱と高圧により、吸気/排気バルブの溶損、ピストンの破損および固着、シリンダーヘッドのバルブブリッジのクラック発生など、エンジン主要部品が損傷してエンジンの耐久性が悪化する。
【0006】
また、前記異常燃焼現象によって車両の発進または変速時に燃焼騒音が発生する問題点があった。
また、前記異常燃焼現象によってエンジンに異常振動が発生する問題点があった。
【0007】
通常、上記のような場合、スパーク(点火)タイミングを遅らせるか燃焼室4の温度を低めて異常着火による燃焼進行が起こらないようにしているが、スパークタイミングを遅らせる場合にはエンジン出力が低下し、燃焼室の温度を低下させるために燃焼室周辺のシリンダーヘッドにウォータージャケット(冷却水通路)を形成する場合にはシリンダーヘッドの素材を変更しなければならない問題点があった。
【0008】
特許文献1は、シリンダーブロック及びシリンダーヘッド内のウォータージャケットの構成に工夫を凝らして、少ない冷却水量でもエンジンの熱負荷を効率良く低減することにより、燃費の向上を図りつつ、エンジンの冷却性能及び信頼性を確保するものであるが、特別な冷却水流通路の構成を必要とする。
【0009】
【特許文献1】特開2007−291913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前記のような点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、異常燃焼を防止するための方法のうち燃焼室の温度を低める方案を採用し、シリンダーヘッドの素材を変更することなく、燃焼室周辺を冷却して燃焼室の温度を低下できるエンジンのピストンを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記目的を達成するため、本発明に係るエンジンのピストンは、シリンダーブロックに内蔵されたピストンと前記シリンダーブロックに取り付けられるシリンダーヘッドとの間に燃焼室が形成されるエンジンにおいて、前記ピストンのクラウン部下面に表面積拡張部が形成されることを特徴とする。
【0012】
前記表面積拡張部は冷却溝からなっている。
また、前記表面積拡張部は、連続して形成される冷却溝と冷却ピンとからなっている。
また、前記冷却溝は、吸気バルブポケットが形成される部分の下部に、ピストンピン軸の垂直方向に形成される。
前記冷却溝はピストンピン軸の垂直方向に細長いドーム形状に形成される。
前記冷却溝はクラウン部下面の一側端部から両側ピンボスの間に延長して成形される。
【発明の効果】
【0013】
前記の構成により、ピストンのクラウン部、特にエンジンオイルが噴射される部分の表面積が増加することにより、ピストンのクラウン部を経てエンジンオイルへの熱伝達が活発になってピストンの上面温度が低下し、それゆえに燃焼室の温度が低下する。
したがって、異常燃焼現象を防止することにより、異常燃焼による高熱/高圧によってエンジン部品が損傷することを防止し、また、異常燃焼による燃焼騒音および振動が改善できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
図3は本発明に係るピストンが適用されたエンジンの構成図であって、シリンダーブロック1とピストン2とシリンダーヘッド3およびコネクティングロッド5が簡略的に示されている。
【0015】
周知のように、シリンダーブロック1の内部にはピストン2が内蔵され、前記ピストン2にはコネクティングロッド5が連結され、前記シリンダーブロック1の上部にはシリンダーヘッド3が取り付けられ、ピストン2の上面と共に燃焼室4を形成する。シリンダーブロック1とシリンダーヘッド3との間には燃焼ガス漏れを防止するためのガスケットが設けられる。
【0016】
本発明では前記燃焼室4の温度を低下させるために燃焼室4の下部をなすピストン2の温度を低下させる方法を採用した。
【0017】
また、前記ピストン2の冷却効果を倍加させるためにシリンダーブロック1にはピストンクーリングジェット6が設けられる。
【0018】
前記ピストンクーリングジェット6はエンジンオイルをピストン2の内側面、すなわちクラウン部2aの下面に噴射するエンジンオイル噴射装置であり、シリンダーブロック1のクランクケース上端部に取り付けられる。
【0019】
しかし、その取付け位置はコネクティングロッド5の大端部とそれに連結されたクランクシャフトの作動時に干渉されない部位であればよく、特定位置に限定されるものではない。
【0020】
但し、前記ピストンクーリングジェット6の噴射ノズル端部はエンジンオイルがピストンクラウン部の下面に噴射されるようにピストン2のクラウン部2aの下面に向かって位置しなければならず、例示した実施形態ではピストン2のクラウン部2aの下面のうちでも吸気バルブが設けられる側、すなわち吸気バルブポケット(2d;図2の(a)参照)が形成された部分の下面側に向かうようになっている。
【0021】
しかし、前記ピストンクーリングジェット6をシリンダーブロック1の反対側部分に設け、噴射ノズルをピストン2の排気バルブポケット2c形成部の下面側に向かうように設けることもできる。
【0022】
また、前記ピストンクーリングジェット6のエンジンオイル流入部(管)はクランクケースの下部に付着されるオイルパンの油面下側に延長設置されてオイルパンに溜まっているオイルを吸入するように設けてもよく、前記オイルパンのオイルをシリンダーヘッド側に移送するシリンダーブロック1の内に形成されたオイルギャラリーの内部に延び、その内部を流れるオイルを吸入するように設けてもよい。エンジンオイルの供給を受けるための当然の構成であるために詳細な図示は省略する。
【0023】
一方、図4の(a)は図2の(c)の対応図(改善前後の比較)であり、図4の(b)は図2の(e)の対応図であり、図4の(c)は図2の(d)の対応図である。
図に示すように、本発明に係るピストン2のクラウン部2aの下面には表面積拡張部が形成される。
【0024】
前記表面積拡張部は様々な形態で実現することができ、本実施形態では冷却溝2fで構成した。
すなわち、ピストンクラウン部2aの下面には所定間隔をおいて1対の冷却溝2fが形成され、その冷却溝2fの間の部分が冷却溝2fに比べて相対的に引込んだ冷却ピン2eとなる。すなわち、冷却溝2fと冷却ピン2eが連続して形成される。
【0025】
また、前記冷却溝2fと冷却ピン2eはピンボス2bの孔に挿入されるピストンピンの軸方向に対して垂直方向に形成される。
【0026】
図4の(b)はクラウン部の下面を上側にした状態を示したものであるため、前記冷却ピン2eに比べて冷却溝2f部分が突出するように見られる。
【0027】
図4の(c)にはピストンの底面図、すなわちクラウン部を下方から示した状態(図4の(a)と位相が同じであり、図4の(b)に対しては90度回転した状態)が示されている。前記冷却溝2fがピストンの上面に向かって凹んで細長いドーム形状に形成されていることが分かり、冷却溝2fの端部は丸い形状に形成されている。
【0028】
図4の(d)斜視図に示すように、ピストン2の内部形状を形成するためのアンダークラウン金型7の上面に冷却溝形成用突起部2f’が所定間隔離隔して形成される。前記突起部2f’の間の空間に前記冷却ピン2eが形成される。
【0029】
前記のような表面積拡張部はピストンクラウン部の下面に複数の突起と溝を規則的または不規則的なパターンで形成することができ、その溝と突起の形状に特に制限はない。
すなわち、クラウン部の下面に規則的な矩形断面を有した冷却ピンを一定間隔ごとに形成するか、半球型の突起を一定間隔に形成するか、三角形断面または半円形断面の凹凸を繰返して形成するなど、前述したように様々な方式で形成することができる。
【0030】
一方、前記表面積拡張部は、前記ピストンクーリングジェット6との相互上昇作用(ピストン冷却作用)のために、ピストンクーリングジェット6からエンジンオイルが噴射される部分に形成される。
【0031】
この場合、拡張された表面積(前記実施形態の場合、冷却溝2fと冷却ピン2eによって拡張された表面積)全体にエンジンオイルが満遍なく噴射して塗布され、エンジンオイルによる冷却作用がより広い面積にかけてなされることによって、ピストンクラウン部の冷却がより効果的になされる。
【0032】
したがって、前記実施形態において、前記冷却ピン2eと冷却溝2fはピストン中心軸を基準に、吸気バルブポケット2dが形成された側(吸気側部分)のクラウン部2aの下面に形成される。
【0033】
また、前記冷却ピン2eと冷却溝2fはクラウン部2aの下面に水平に形成される。
また、前記冷却ピン2eと冷却溝2fはクラウン部2a下面の一側端部から両側ピンボス2bの間に延長して成形される。
【0034】
したがって、噴射されたピストンクーリングジェット6から噴射されたエンジンオイルが前記冷却ピン2eと冷却溝2fの面積全体に塗布され、これらが形成されていない場合に比べてより広い面積にかけて冷却がなされる。
【0035】
上記のようにクラウン部下面の表面積拡張部で活発な冷却作用がなされることにより、クラウン部2aの上面、すなわちピストン2の上面からクラウン部の下面への熱伝達が活発になり、ピストンの上面と接した燃焼室4の温度(より正確には燃焼室に充填された混合器の温度)が低下し、任意地点における異常着火による異常燃焼が発生しなくなる。
特に異常燃焼が発生する吸気側部分の冷却が円滑になされることにより、吸気過給時に発生する異常燃焼現象を抑制するのに効果的である。
【0036】
上記のように、ピストンの冷却によって燃焼室の温度が低下し、異常燃焼が発生しなくなることにより、異常燃焼による高熱および高圧によって生ずる、吸気/排気バルブの溶損、シリンダーヘッドバルブブリッジのクラック発生、ピストンのクラウン部破損などの用品耐久問題が改善される。
【0037】
また、異常燃焼が発生しないために車両発進および変速時に異常燃焼騒音および異常振動が発生しなくなる。
また、本発明は、燃焼室の温度の低下をピストン冷却によって達成するため、シリンダーヘッドにウォータージャケットを形成する必要がなく、シリンダーヘッドの素材を変更する必要がなくなる長所がある。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、燃焼室の温度を低下させることにより、異常燃焼による部品損傷、騒音および振動の発生を改善できるエンジンのピストンに関する分野に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】エンジンの概略断面図である。
【図2】従来のピストンに係る図面であり、(a)は平面図、(b)は正面図、(c)は(a)のA−A線断面図、(d)は底面図、(e)はピストンクラウン部下面の平面図である。
【図3】本発明が適用されたエンジンの概略断面図である。
【図4】本発明に係るピストンの図面であり、(a)は吸気バルブポケット形成部の断面図、(b)はピストンクラウン部下面の平面図、(c)は底面図、(d)はピストンクラウン部の下面形状を形成するためのアンダークラウン金型の斜視図である。
【符号の説明】
【0040】
1:シリンダーブロック
2:ピストン
2a:クラウン部
2b:ピンボス
2c:排気バルブポケット
2d:吸気バルブポケット
2e:冷却ピン
2f;冷却溝
2f’:冷却溝形成用突起部
3:シリンダーヘッド
4:燃焼室
5:コネクティングロッド
6:ピストンクーリングジェット
7:アンダークラウン金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダーブロックに内蔵されたピストンと前記シリンダーブロックに取り付けられるシリンダーヘッドとの間に燃焼室が形成されるエンジンにおいて、
前記ピストンのクラウン部下面に表面積拡張部が形成されることを特徴とするエンジンのピストン。
【請求項2】
前記表面積拡張部は、冷却溝からなることを特徴とする、請求項1に記載のエンジンのピストン。
【請求項3】
前記表面積拡張部は、連続して形成される冷却溝と冷却ピンとからなることを特徴とする、請求項1に記載のエンジンのピストン。
【請求項4】
前記冷却溝は、吸気バルブポケットが形成される部分の下部に、ピストンピン軸の垂直方向に形成されることを特徴とする、請求項2に記載のエンジンのピストン。
【請求項5】
前記冷却溝は、ピストンピン軸の垂直方向に細長いドーム形状に形成されることを特徴とする、請求項2に記載のエンジンのピストン。
【請求項6】
前記冷却溝は、クラウン部下面の一側端部から両側ピンボスの間に延長して成形されることを特徴とする、請求項2に記載のエンジンのピストン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−293611(P2009−293611A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296520(P2008−296520)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(591251636)現代自動車株式会社 (1,064)
【出願人】(500518050)起亞自動車株式会社 (449)
【Fターム(参考)】