説明

エンジンの伝動装置

【課題】エンジン運転中、低負荷ギヤからの騒音の発生を抑制することができるエンジンの伝動装置を提供する。
【解決手段】高負荷ギヤ1となるクランクギヤ2から他の高負荷ギヤ1に動力を伝達する高負荷伝動ギヤトレイン3を設け、高負荷伝動ギヤトレイン3を構成する高負荷ギヤ1に、低負荷ギヤ4を噛み合わせ、高負荷伝動ギヤトレイン3の伝動力の一部を低負荷ギヤ4にも伝動できるようにした、エンジンの伝動装置において、低負荷ギヤ4と噛み合う高負荷ギヤ1に鍛造ギヤまたは鋳造ギヤを用い、低負荷ギヤ4に焼結ギヤを用いた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの伝動装置に関し、詳しくは、エンジン運転中、低負荷ギヤからの騒音の発生を抑制することができるエンジンの伝動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高負荷ギヤとなるクランクギヤから他の高負荷ギヤに動力を伝達する高負荷伝動ギヤトレインを設け、高負荷伝動ギヤトレインを構成する高負荷ギヤに、低負荷ギヤを噛み合わせ、高負荷伝動ギヤトレインの伝動力の一部を低負荷ギヤにも伝動できるようにしたものがある(例えば、特許文献1参照)。
このエンジンでは、高負荷ギヤとして、クランクギヤの他、動弁カムギヤと燃料噴射カムギヤとを用い、低負荷ギヤにエンジン潤滑用オイルポンプのオイルポンプギヤを用いている。
しかし、この種のエンジンでは、高負荷ギヤであるクランクギヤに、低負荷ギヤであるオイルポンプギヤを噛み合わせ、両ギヤに鍛造ギヤを用いているため、問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−171914号公報(図7参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
《問題》 エンジン運転中、低負荷軸ギヤであるオイルポンプギヤから騒音が発生することがある。
高負荷ギヤであるクランクギヤに、低負荷ギヤであるオイルポンプギヤを噛み合わせ、両ギヤに鍛造ギヤを用いているため、エンジン運転中、低負荷ギヤであるオイルポンプギヤから騒音が発生することがある。その明確な原因は不明であった。
【0005】
本発明の課題は、エンジン運転中、低負荷ギヤであるオイルポンプギヤからの騒音の発生を抑制することができるエンジンの伝動装置を提供することにある。
【0006】
このような課題解決のため、発明者らは、オイルポンプギヤの騒音の原因を追求し、原因が次のようなものであると推定するに至った。
すなわち、クランクギヤ等の高負荷ギヤ同士は、動弁カム軸と燃料噴射カム軸の高い負荷により、相互に強く噛み合っているため、回転が正確に同期するのに対し、低負荷軸ギヤであるオイルポンプギヤは、エンジン潤滑用オイルポンプの低い負荷により、クランクギヤへの噛み合いが弱く、クランクギヤに対する追従性が低い。
【0007】
そして、クランクギヤやオイルポンプギヤに用いている鍛造ギヤは、鍛造後に、ボブ盤等の歯切機械で歯形を成形しているため、歯面形状の成形精度に限界があり、各歯面形状が相互に滑らかに噛み合う形状になっていない場合が多い。
この結果、クランクギヤとオイルポンプギヤとの滑らかな噛み合いが阻害され、これらの回転が正確に同期せず、歯の衝突によってオイルポンプギヤから騒音が発生するものと推定される。
また、高負荷ギヤに低負荷ギヤである回転バランサギヤを噛み合わせたものでも、回転バランサギヤから騒音が発生していることを確認した。
【0008】
発明者らは、これらの知見に基づき、次のような考えにより、この発明に至った。
すなわち、低負荷ギヤと噛み合う高負荷ギヤに鍛造ギヤまたは鋳造ギヤを用い、低負荷ギヤに焼結ギヤを用いると、エンジン運転中、焼結の低負荷ギヤの歯面が、鍛造または鋳造の高負荷ギヤの歯面と噛み合うことにより、焼結体の空隙のある組織が徐々に変形し、前者の歯面が後者の歯面と滑らかに噛み合う形状に整形され、高負荷ギヤと低負荷ギヤの回転が正確に同期し、歯の衝突に起因する低負荷ギヤからの騒音の発生を抑制することができるのではないか。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明の発明特定事項は、次の通りである。
図1に例示するように、高負荷ギヤ(1)となるクランクギヤ(2)から他の高負荷ギヤ(1)に動力を伝達する高負荷伝動ギヤトレイン(3)を設け、高負荷伝動ギヤトレイン(3)を構成する高負荷ギヤ(1)に、低負荷ギヤ(4)を噛み合わせ、高負荷伝動ギヤトレイン(3)の伝動力の一部を低負荷ギヤ(4)にも伝動できるようにした、エンジンの伝動装置において、
高負荷伝動ギヤトレイン(3)を構成する高負荷ギヤ(1)として、クランクギヤ(2)の他、動弁カムギヤ(5)と、燃料噴射カムギヤ(6)と、燃料サプライポンプギヤのうちから選択される1種以上のギヤを備え、
低負荷ギヤ(4)として、エンジン潤滑用オイルポンプのオイルポンプギヤ(7)と回転バランサギヤ(8)のうちから選択される1種以上のギヤを備え、
低負荷ギヤ(4)と噛み合う高負荷ギヤ(1)に鍛造ギヤまたは鋳造ギヤを用い、低負荷ギヤ(4)に焼結ギヤを用いた、ことを特徴とするエンジンの伝動装置。
【発明の効果】
【0010】
(請求項1に係る発明)
請求項1に係る発明は、次の効果を奏する。
《効果》 エンジン運転中、低負荷ギヤからの騒音の発生を抑制することができる。
エンジン運転中、低負荷ギヤからの騒音の発生を抑制することができる。
その理由は、次のように推定される。
すなわち、図1に例示するように、低負荷ギヤ(4)と噛み合う高負荷ギヤ(1)に鍛造ギヤまたは鋳造ギヤを用い、低負荷ギヤ(4)に焼結ギヤを用いたので、エンジン運転中、焼結の低負荷ギヤ(4)の歯面が、鍛造の高負荷ギヤ(1)の歯面と噛み合うことにより、焼結体の空隙のある組織が徐々に変形し、前者の歯面が後者の歯面と滑らかに噛み合う形状に整形され、高負荷ギヤ(1)と低負荷ギヤ(4)の回転が正確に同期し、歯の衝突に起因する低負荷ギヤ(4)からの騒音の発生を抑制することができる。
【0011】
《効果》 焼結の低負荷ギヤの製造段階で、その歯面の成形に高い精度を要求されない。
エンジン運転中、焼結の低負荷ギヤ(4)の歯面が、鍛造または鋳造の高負荷ギヤ(1)の歯面と噛み合うことにより、焼結体の空隙のある組織が徐々に変形し、前者の歯面が後者の歯面と滑らかに噛み合う形状に整形されるので、焼結の低負荷ギヤ(4)の製造段階で、その歯面の成形に高い精度を要求されない。
【0012】
《効果》低負荷ギヤは焼結体であっても耐久性に問題が生じることはない。
低負荷ギヤ(4)は、低負荷のオイルポンプギヤ(7)や回転バランサギヤ(8)に過ぎないため、大きな負荷がかかることはなく、焼結体であっても耐久性に問題が生じることはない。
【0013】
(請求項2に係る発明)
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 低負荷ギヤからの騒音の発生を抑制する機能が高まる。
図2(A)(B)または図3(A)(B)に例示するように、低負荷ギヤ(4)のボス(11)とリブ(12)とを連結する連結板(13)に、その周方向に沿って複数の貫通孔(14)を並べて設けたので、複数の貫通孔(14)により、騒音が放射される連結板(13)の放射面積が小さくなり、低負荷ギヤ(4)からの騒音の発生を抑制する機能が高まる。
【0014】
《効果》 低負荷ギヤの貫通孔は比較的容易に形成できる。
鍛造でギヤに貫通孔をあけるには、金型に立てたピンを母材に衝突させる必要があり、金型が損傷しやすく、貫通孔の形成は比較的困難であったが、焼結でギヤに貫通孔をあけるには、金型にピンを立て、このピンの周囲に金属粉末を充填して金型で圧縮し、焼結品からピンを抜くだけでよいため、図2(A)(B)または図3(A)(B)に例示する低負荷ギヤ(4)の貫通孔(14)は比較的容易に形成できる。
【0015】
(請求項3に係る発明)
請求項3に係る発明は、請求項2に係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》低負荷ギヤからの騒音の発生を抑制する機能が高まる。
図2(A)(B)または図3(A)(B)に例示するように、貫通孔(14)を連結板(13)の周方向に長い形状にしたので、貫通孔(14)を正円とした場合よりも、騒音が放射される連結板(14)の放射面積を小さくすることができ、低負荷ギヤ(4)からの騒音の発生を抑制する機能が高まる。
【0016】
(請求項4に係る発明)
請求項4に係る発明は、請求項1から請求項3のいずれかに係る発明の効果に加え、次の効果を奏する。
《効果》 低負荷ギヤからの騒音の発生を抑制する機能が高まる。
図3(A)(B)に例示するように、低負荷ギヤ(4)のボス(11)とリブ(12)とを連結する連結板(13)に、その周方向に沿って複数のオイル跳ね上げ羽根(15)を設けたので、オイル跳ね上げ羽根(15)で跳ね上げたオイルで高負荷ギヤ(1)と低負荷ギヤ(4)の噛み合いがより滑らかになり、低負荷ギヤ(4)からの騒音の発生を抑制する機能が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態に係るディーゼルエンジンの伝動装置を説明する図である。
【図2】図1の伝動装置で用いる低負荷ギヤの基本例を説明する図で、図2(A)は正面図、図2(B)は図2(A)のB−B線断面図である。
【図3】図1の伝動装置で用いる低負荷ギヤの第1変形例を説明する図で、図3(A)は正面図、図3(B)は図3(A)のB−B線断面図である。
【図4】図1の伝動装置で用いる低負荷ギヤの第2変形例を説明する図で、図4(A)は正面図、図4(B)は図4(A)のB−B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1〜図4は本発明の実施形態に係るエンジンの伝動装置を説明する図であり、この実施形態では、ディーゼルエンジンの伝動装置について説明する。
【0019】
図1に示すように、高負荷ギヤ(1)となるクランクギヤ(2)から他の高負荷ギヤ(1)に動力を伝達する高負荷伝動ギヤトレイン(3)を設け、高負荷伝動ギヤトレイン(3)を構成する高負荷ギヤ(1)に、低負荷ギヤ(4)を噛み合わせ、高負荷伝動ギヤトレイン(3)の伝動力の一部を低負荷ギヤ(4)にも伝動できるようにしている。高負荷伝動ギヤトレイン(3)と低負荷ギヤ(4)とはギヤケース(17)内に収容されている。
【0020】
高負荷伝動ギヤトレイン(3)を構成する高負荷ギヤ(1)として、クランクギヤ(2)の他、動弁カムギヤ(5)と、燃料噴射カムギヤ(6)、アイドルギヤ(16)とを備えている。
高負荷伝動ギヤトレイン(3)は、クランクギヤ(2)にアイドルギヤ(16)を噛み合わせ、アイドルギヤ(16)に動弁カムギヤ(5)と燃料噴射カムギヤ(6)とを噛み合わせて構成されている。
コモンレール式燃料噴射エンジンの場合には、燃料噴射カムギヤ(6)に代えて、燃料サプライポンプギヤを用いる。
火花点火式エンジンでは、燃料噴射カムギヤ(6)や燃料サプライポンプギヤを用いないため、高負荷伝動ギヤトレイン(3)は、クランクギヤ(2)と動弁カムギヤ(5)のみから構成される場合もある。
すなわち、この発明では、高負荷ギヤ(1)として、クランクギヤ(2)の他、動弁カムギヤ(5)と、燃料噴射カムギヤ(6)と、燃料サプライポンプギヤのうちから選択される1種以上のギヤを備えていればよい。
【0021】
低負荷ギヤ(4)として、エンジン潤滑用オイルポンプのオイルポンプギヤ(7)と回転バランサギヤ(8)とを備えている。
エンジン潤滑用オイルポンプは、クランク軸のジャーナル部、動弁カム軸のジャーナル部等、エンジン摺動部に潤滑油を圧送するためのオイルポンプである。
回転バランサギヤ(8)は二軸の二次回転バランサギヤである。
この発明では、低負荷ギヤ(4)として、エンジン潤滑用オイルポンプのオイルポンプギヤ(7)と回転バランサギヤ(8)のうちから選択される1種以上のギヤを備えていればよい。
【0022】
低負荷ギヤ(4)と噛み合う高負荷ギヤ(1)に鍛造ギヤを用い、低負荷ギヤ(4)に焼結ギヤを用いている。
すなわち、オイルポンプギヤ(7)と噛み合うクランクギヤ(2)に鍛造ギヤを用い、回転バランサギヤ(8)と噛み合う動弁カムギヤ(5)及び燃料噴射カムギヤ(6)にも鍛造ギヤを用い、オイルポンプギヤ(7)と回転バランサギヤ(8)に焼結ギヤを用いている。
鍛造ギヤと焼結ギヤとはいずれもインボリュートギヤである。
鍛造ギヤに代えて鋳造ギヤを用いることもできる。
鍛造ギヤの素材には鋼、焼結ギヤの素材には鉄系または銅系の焼結合金、鋳造ギヤの素材には鋳鉄を用いる。
【0023】
図2(A)(B)に示すように、低負荷ギヤ(4)のボス(11)とリブ(12)とを連結する連結板(13)に、その周方向に沿って複数の貫通孔(14)を並べて設けている。
貫通孔(14)を連結板(13)の周方向に長い形状にしている。
【0024】
図3(A)(B)に示す低負荷ギヤ(4)の第1変形例は、図2(A)(B)に示す基本例において、低負荷ギヤ(4)のボス(11)とリブ(12)とを連結する連結板(13)に、その周方向に沿って複数のオイル跳ね上げ羽根(15)を設けたものである。
【0025】
図4(A)(B)に示す低負荷ギヤ(4)の第2変形例は、図2(A)(B)に示す基本例において、貫通孔(14)を設けていないものである。
【符号の説明】
【0026】
(1) 高負荷ギヤ
(2) クランクギヤ
(3) 高負荷伝動ギヤトレイン
(4) 低負荷ギヤ
(5) 動弁カムギヤ
(6) 燃料噴射カムギヤ
(7) オイルポンプギヤ
(8) 回転バランサギヤ
(11) ボス
(12) リブ
(13) 連結板
(14) 貫通孔
(15) オイル跳ね上げ羽根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高負荷ギヤ(1)となるクランクギヤ(2)から他の高負荷ギヤ(1)に動力を伝達する高負荷伝動ギヤトレイン(3)を設け、高負荷伝動ギヤトレイン(3)を構成する高負荷ギヤ(1)に、低負荷ギヤ(4)を噛み合わせ、高負荷伝動ギヤトレイン(3)の伝動力の一部を低負荷ギヤ(4)にも伝動できるようにした、エンジンの伝動装置において、
高負荷伝動ギヤトレイン(3)を構成する高負荷ギヤ(1)として、クランクギヤ(2)の他、動弁カムギヤ(5)と、燃料噴射カムギヤ(6)と、燃料サプライポンプギヤのうちから選択される1種以上のギヤを備え、
低負荷ギヤ(4)として、エンジン潤滑用オイルポンプのオイルポンプギヤ(7)と回転バランサギヤ(8)のうちから選択される1種以上のギヤを備え、
低負荷ギヤ(4)と噛み合う高負荷ギヤ(1)に鍛造ギヤまたは鋳造ギヤを用い、低負荷ギヤ(4)に焼結ギヤを用いた、ことを特徴とするエンジンの伝動装置。
【請求項2】
請求項1に記載したエンジンの伝動装置において、
低負荷ギヤ(4)のボス(11)とリブ(12)とを連結する連結板(13)に、その周方向に沿って複数の貫通孔(14)を並べて設けた、ことを特徴とするエンジンの伝動装置。
【請求項3】
請求項2に記載したエンジンの伝動装置において、
貫通孔(14)を連結板(13)の周方向に長い形状にした、ことを特徴とするエンジンの伝動装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載したエンジンの伝動装置において、
低負荷ギヤ(4)のボス(11)とリブ(12)とを連結する連結板(13)に、その周方向に沿って複数のオイル跳ね上げ羽根(15)を設けた、ことを特徴とするエンジンの伝動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−177440(P2012−177440A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−41181(P2011−41181)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】