説明

エンジンの制御装置

【課題】ドライバの操作量以外の要素により発生するトルク誤差に対し、スロットル開度の補正を行うが、アクセル開度とスロットル開度との差が大きくなる場合がある。このため、スロットル全開時に最大トルクの補正を行うが、全開前の領域で目標トルクの実現精度が低下することがある。
【解決手段】理論式から演算される目標空気量と計測される吸入空気量に基づいて、最大トルクの補正量を求めることで、スロットルの開閉状態に関わらず、目標トルクを実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの制御装置に係り、特に、目標トルクに基づいて、空気量を制御するトルクベース方式のエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、エンジンの目標トルクを算出し、この目標トルクを実現するようにスロットル開度を制御することで、吸入空気量を制御する技術が提案されている。しかし、高地での大気圧低下時や、外気温度上昇による吸気温度上昇時では、吸気密度が低下する。このような吸気密度の変化に伴うトルク誤差を補償するため、特開2008−157078号公報(特許文献1),特許3284395号(特許文献2)では、目標トルク算出後に、吸気密度補正を行い、スロットル開度を算出している。
【0003】
この場合、吸気密度補正後にスロットル開度を算出するため、補正量が大きい場合、ドライバ操作によるアクセル開度と、スロットル開度との差が大きくなる。例えば、補正量により、スロットル開度が、ドライバのアクセル開度よりも先に全開になる場合、ドライバがアクセル開度を増加させても、吸入空気量が増加しない。つまり、ドライバの操作量が、吸入空気量の増加、つまり、トルクの増加として反映されないため、アクセルレスポンスが悪くなり、ドライバビリティが低下する。
【0004】
そこで、WO2006−016423(特許文献3)では、スロットル全開時に、エンジン負荷に基づいて設定された目標空気量と吸入空気量計で実測された空気量を比較し、目標空気量の補正を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−157078号公報
【特許文献2】特許3284395号
【特許文献3】WO2006−016423
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ドライバの操作量以外の要素により、トルク誤差が発生した場合でも、スロットルの開閉状態に関わらず、最大トルクを補正することで、目標トルクを高精度に実現するエンジンの制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
大気圧または過給圧,吸気温度,吸気管圧力により目標空気量を演算し、目標空気量と吸入空気量により、空気量補正量を演算する。また、大気圧または過給圧,吸気温度に基づいて最大目標空気量を演算し、エンジン回転数,大気圧または過給圧により最大基本空気量を演算する。さらに、最大目標空気量,空気量補正量,最大基本空気量により、最大トルクの補正量を演算する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、大気圧やエンジンの吸気温度といった環境変化時や、スロットルチャンバーの経時変化等の各種外乱が発生した時においても、目標トルクを高精度に実現すること、及び、アクセル開度の変化を常にスロットル開度に反映することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明によるエンジンの制御装置の、全体の制御ブロックの一例。
【図2】本発明によるエンジンの制御装置の、ブロック109のトルクベース制御ブロックの一例。
【図3】本発明によるエンジンの制御装置が制御するエンジン構成の一例。
【図4】本発明によるエンジンの制御装置の内部構成の一例。
【図5】本発明によるエンジンの制御装置の、ブロック201の詳細なブロック構成の一例。
【図6】本発明によるエンジンの制御装置の、ブロック202の詳細なブロック構成の一例。
【図7】本発明によるエンジンの制御装置の、ブロック603の最大トルク補正量演算のブロック構成の一例。
【図8】本発明によるエンジンの制御装置の、ブロック203の詳細なブロック構成の一例
【図9】本発明によるエンジンの制御装置の、ブロック204の詳細なブロック構成の一例。
【図10】本発明によるエンジンの制御装置の、ブロック205の詳細なブロック構成の一例。
【図11】本発明によるエンジンの制御装置の、ブロック206の詳細なブロック構成の一例。
【図12】本発明によるエンジンの制御装置の、環境変化時のスロットル開度の、挙動の一例。
【図13】本発明によるエンジンの制御装置の、外部要求トルク発生時のスロットル開度と目標トルクの、挙動の一例。
【図14】本発明によるエンジンの制御装置の、最大トルク補正量反映時におけるスロットル開度とトルクの、挙動の一例。
【図15】本発明によるエンジンの制御装置の、図2の制御ブロックの、フローチャートの一例。
【図16】本発明によるエンジンの制御装置の、図5の制御ブロックの、フローチャートの一例。
【図17】本発明によるエンジンの制御装置の、図6の制御ブロックの、フローチャートの一例。
【図18】本発明によるエンジンの制御装置の、図7の制御ブロックの、フローチャートの一例。
【図19】本発明によるエンジンの制御装置の、図8の制御ブロックの、フローチャートの一例。
【図20】本発明によるエンジンの制御装置の、図9の制御ブロックの、フローチャートの一例。
【図21】本発明によるエンジンの制御装置の、図9の制御ブロックの、フローチャートの一例。
【図22】本発明によるエンジンの制御装置の、図9の制御ブロックの、フローチャートの一例。
【図23】本発明によるエンジンの制御装置の、図10の制御ブロックの、フローチャートの一例。
【図24】本発明によるエンジンの制御装置の、図11の制御ブロックの、フローチャートの一例。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の内燃機関の制御装置の実施形態を図面を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0011】
図1は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の行う全体の制御ブロックの一例である。
【0012】
ブロック101は、エンジン回転数計算手段のブロックである。エンジンの所定のクランク角度位置に設定されたクランク角度センサの電気的な信号、おもにパルス信号変化の単位時間当たりの入力数をカウントし、演算処理することで、エンジンの単位時間当りの回転数を演算する。
【0013】
ブロック102は、前述のブロック101で演算されたエンジンの回転数、及びエンジン負荷により、エンジンの要求する基本燃料を演算する。エンジン負荷は吸気管に設置された吸気管圧力センサの出力を、所定の処理で吸気管圧力に変換したもの、もしくは、熱式空気流量計等で計測されたエンジンの吸入空気量で代表させる。
【0014】
ブロック103は、前述のエンジン回転数、及び前述のエンジン負荷により、前述のブロック102で計算された基本燃料のエンジンの各運転領域における補正係数の演算を、マップ検索で行う。
【0015】
ブロック104は、前述のエンジン回転数、及び前述のエンジン負荷により、エンジンの各運転領域における最適な基本点火時期の演算を、マップ検索で行う。
【0016】
ブロック105は、前述のエンジン回転数、及び前述のエンジン負荷により、吸気,排気に設定されたVVTの位相角度を演算する。
【0017】
ブロック106は、前述のエンジン回転数、及びエンジン水温により、エンジンのアイドリング回転数を一定に保つためにアイドリング時の目標回転数を設定し、ISCバルブ制御手段への目標空気量、及びISC点火時期補正量を演算する。
【0018】
ブロック107は、前述のエンジン回転数、及び前述のエンジン負荷により、エンジンの各領域における最適な目標空燃比の設定を、マップ検索等で行う。
【0019】
ブロック108は、前述のブロック107で設定された目標空燃比となるように、排気管に設置された酸素濃度センサの出力により燃料のフィードバックコントロールを行い、空燃比フィードバック係数を演算する。
【0020】
ブロック109は、前述のエンジン回転数,アクセル開度、前述のブロック106で演算されたISC目標空気量等により、目標トルクを演算し、その値に基づき、燃料カット気筒数,要求点火時期,目標スロットル開度を演算する。
【0021】
ブロック110は、前述のブロック102で演算された基本燃料に対して、前述のブロック103で演算された基本燃料の補正係数、前述のエンジン水温、前述のブロック108で演算された空燃比フィードバック係数、前述のブロック109で演算された燃料カット気筒数等で補正を行う。
【0022】
ブロック111は、前述のブロック104で検索された最適な基本点火時期に対して、前述のエンジン水温、前述のブロック106で演算されたISC点火時期補正量、前述のブロック109で演算された要求点火時期等で補正を行う。
【0023】
ブロック112〜115は、前述のブロック110で補正された燃料量をエンジンに供給する燃料噴射手段である。ブロック116〜119は、前述のブロック111で補正されたエンジンの点火時期に応じてシリンダに流入した燃料混合気を点火する点火手段である。ブロック120は、前述のブロック109で演算された目標スロットル開度を実現するスロットル開度駆動手段である。
【0024】
図2は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、前述のブロック109の、トルクベース制御手段における目標スロットル開度演算ブロックの一例である。
【0025】
ブロック201は、エンジン回転数,アクセル開度,ISC目標空気量から、アクセル全開時のトルクを実現するために必要な最大目標開口面積,ドライバが要求するトルクを実現するために必要な目標開口面積、及び目標トルク比を演算する。
【0026】
ブロック202は、エンジン回転数,大気圧,目標過給圧,吸入空気量,吸気管圧力,吸気温、前述のブロック201で演算された最大目標開口面積,目標開口面積から、エンジンが発生する最大トルクの基本値である最大基本トルク,ドライバの要求トルクを実現するために必要な空気量の目標値である目標空気量,最大トルクを補正するために実際の吸入空気量等に基づき演算される最大トルク補正量、前記最大基本トルクに対して、前記最大トルク補正量で補正された最大トルクを演算する。ブロック203は、エンジン回転数、前述のブロック201で演算された目標トルク比、前述のブロック202で演算された最大トルクから、エンジンの発生するトルクの目標値である目標トルクを演算する。ブロック204は、エンジン回転数,エンジン負荷,吸気側進角値,排気側進角値、前述のブロック203で演算された目標トルク、ブロック205で演算される制御用トルク比等から、補機等によるトルク変動分を補償するために必要な等トルク補正量を演算する。なお、エンジン負荷は吸気管圧力、もしくは、吸入空気量で代表させる。ブロック205は、エンジン回転数,前述の目標トルク,前述の最大トルク,前述のブロック204で演算された等トルク補正量から、目標トルクに対して、等トルク補正を行い、目標スロットル開度の算出に必要な制御用トルク比を算出する。ブロック206は、エンジン回転数、及び前述のブロック205で演算された制御用トルク比から、目標スロットル開度を演算する。ブロック207は、前述のブロック206で演算された目標スロットル開度の実現に必要な電流を、スロットル駆動モータに供給するスロットル駆動手段である。
【0027】
図3は、本発明の対象となるエンジンの制御装置が制御するエンジン回りの一例を示している。
【0028】
エンジン301は、運転者の開度調整により吸入する空気量を制限するスロットルバルブ302、スロットルバルブをバイパスして、吸気管306へ接続された流路の流路面積を制御し、エンジンのアイドル時の回転数を制御するアイドルスピードコントロールバルブ303、スロットル部を通過する空気量を計測する吸入空気量センサ304、吸入空気流量センサ304の下流側に設置され排気側のタービンに連動して吸入空気量を加圧する過給器305、吸気管306内の圧力を検出する吸気管圧力センサ307、排気ガスの一部を吸気管306内へ戻すEGRバルブ308、吸気管306の流入空気に対して渦流発生により流速を制御するスワールコントロールバルブ309、エンジンの要求する燃料を供給する燃料噴射弁310、吸気弁の開閉の位相信号を出力するカム角度センサ311、エンジンのシリンダ内に供給された燃料の混合気に点火する点火栓に、エンジン制御装置319の点火信号に基づいて点火エネルギを供給する点火モジュール312、排気弁の開閉の位相信号を出力するカム角度センサ313、エンジンのシリンダブロックに設置されエンジンの冷却水温を検出する水温センサ314、エンジンの排気管に設置され排気ガス中の酸素濃度を検出する酸素濃度センサ315、エンジンのクランク角度を検出するクランク角度センサ316、アクセル開度を検出するアクセル開度センサ317、エンジンの運転,停止のメインスイッチであるイグニッションキイスイッチ318、エンジンの各補機類を制御するエンジン制御装置319から構成されている。
【0029】
ただし、吸気管圧力センサ307は、吸気の温度を計測する吸気温センサが一体化されることもある。なお、酸素濃度センサ315は、排気空燃比に対して比例的な信号を出力するもの、もしくは、排気ガスが理論空燃比に対して、リッチ側/リーン側の2つの信号を出力するものでもよい。また、本実施例では過給器305を備えているが、備えていなくても、空気量,燃料,点火の各制御が成立することは言うまでもない。
【0030】
図4は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の内部構成の一例である。CPU401の内部にはエンジンに設置された各センサの電気的信号をデジタル演算処理用の信号に変換、及びデジタル演算用の制御信号を実際のアクチュエータの駆動信号に変換するI/O部402が設定されており、I/O部402には、水温センサ403,クランク角度センサ404,カム角度センサ405,酸素濃度センサ406,吸入空気量センサ407,吸気管圧力センサ408,スロットル開度センサ409,アクセル開度410,イグニッションSW411が入力されている。CPU401からの出力信号はドライバ413を介して、燃料噴射弁412〜415,点火コイル416〜419,スロットル駆動モータ420へ出力信号が送られる。
【0031】
図5は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、前述のブロック201の、目標トルク比演算の詳細なブロックの一例である。ブロック501では、アクセル開度よりドライバ要求開口面積、及びテーブル設定値の最大値であるドライバ最大要求開口面積をテーブル検索する。ドライバ最大要求開口面積は、アクセル全開時のドライバ要求開口面積に相当する。ブロック502では、ISC目標空気量よりISC目標開口面積、及びテーブル設定値の最大値であるISC最大目標開口面積をテーブル検索する。加算器503では、ドライバ最大要求開口面積とISC最大目標開口面積を加算し、最大目標開口面積を求める。加算器504では、ドライバ要求開口面積とISC目標開口面積を加算し、目標開口面積を求める。ブロック505では、エンジン回転数,目標開口面積より目標トルク比をマップ検索する。
【0032】
図6は、本発明の対象となる内燃機関のトルク制御装置の、前述のブロック202の、最大トルク演算の詳細なブロックの一例である。ブロック601では、システム選択信号により、エンジン周りの構成において、過給器付きか否かを判定し、過給器付きの場合、目標過給圧を目標基準圧力とし、過給器付きでない場合、大気圧を目標基準圧力とする。ブロック602では、エンジン回転数,目標基準圧力より最大基本トルクを演算する。ブロック603では、最大目標開口面積,目標開口面積,吸気温,吸気管圧力,吸入空気量,目標基準圧力,エンジン回転数より最大トルク補正量を演算する。乗算器604では、最大トルク補正量と最大基本トルクを乗算し、最大トルクを求める。
【0033】
図7は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、前述のブロック603の、最大トルク補正量演算の詳細なブロックの一例である。ブロック701では、目標開口面積,目標基準圧力,吸気温,吸気管圧力より目標空気量を演算する。ブロック702では、最大目標開口面積,目標基準圧力、吸気温より最大目標空気量を演算する。ブロック703では、エンジン回転数,目標基準圧力より最大基本空気量を演算する。ブロック704では、吸入空気量を目標空気量で除算し、空気量補正量を演算する。ブロック705では、空気量補正量と最大目標空気量を乗算し、前記乗算値を最大基本空気量で除算し、最大トルク補正量を演算する。ここでは、エンジントルク∝空気量の関係を前提にしているため、前記演算結果をトルク補正量としている。
【0034】
数1は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、前述のブロック701の目標空気量、及び、前述のブロック702の最大目標空気量を求める理論式を示している。数1の(1)(2)より目標空気量、また、数1の(1)(3)より最大目標空気量を求める。ここで、数1の(3)のηは、限りなく1に近い値(たとえば0.9999)を設定する。
【0035】
【数1】

【0036】
図8は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、前述のブロック203の、目標トルク演算の詳細なブロックの一例である。乗算器801では、最大トルクと目標トルク比を乗算し、ドライバ要求トルクを求める。ブロック802では、外部要求トルク,ドライバ要求トルクより、目標トルクを演算する。
【0037】
図9は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、前述のブロック204の、等トルク補正の詳細なブロックの一例である。減算器901では、吸気側進角値から排気側進角値を減算し、オーバーラップ量とする。ブロック902では、オーバーラップ量,制御用トルク比より基準VTC等トルク補正量をマップ検索する。ブロック903では、エンジン回転数よりVTC等トルク補正量へのエンジン回転数補正量をテーブル検索する。基準VTC等トルク補正量,エンジン回転数補正量は乗算904で乗算され、VTC等トルク補正量を求める。ブロック905では、目標トルク,SCV点火時期補正量より基準SCV等トルク補正量をマップ検索する。ブロック906では、エンジン回転数よりSCV等トルク補正量へのエンジン回転数補正量をテーブル検索する。基準SCV等トルク補正量,エンジン回転数補正量は乗算器907で乗算され、SCV等トルク補正量を求める。ブロック908では、エンジン回転数,エンジン負荷よりMBTをマップ検索する。減算器909では、MBTから基本点火時期を減算し、ブロック910では、前記減算値より基準点火効率をテーブル検索する。減算器911では、MBTから要求点火時期を減算し、ブロック912では、前記減算値より点火効率をテーブル検索し、除算器913では、基準点火効率を前記テーブル検索値で除算し、目標点火効率を求める。
【0038】
図10は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、前述のブロック205の、制御用トルク比演算の詳細なブロックの一例である。除算器1001では、目標トルクを最大トルクで除算し、制御用基本トルク比を求める。制御用基本トルク比,VTC等トルク補正量,SCV等トルク補正量,目標点火効率が乗算器1002で乗算され、制御用トルク比を求める。
【0039】
図11は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、前述のブロック206の、目標スロットル開度演算の詳細なブロックの一例である。ブロック1101では、エンジン回転数,制御用トルク比より目標スロットル開口面積をマップ検索する。ブロック1102では、目標スロットル開口面積もしくはISC目標開口面積の大きい方を選択する。ブロック1103では、前記選択値より目標スロットル開度をテーブル検索する。
【0040】
図12は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、環境変化時のスロットル開度の挙動の一例である。大気圧低下、または、吸気温度上昇による環境変化時において、ライン1201は従来制御でのスロットル開度の挙動であり、ライン1202は本発明によるスロットル開度の挙動である。従来制御では、環境変化による発生トルクの変動に対する補正量が、スロットル開度の演算に用いられるため、ライン1201に示すように、アクセル全開前にスロットル開度が全開になる。本発明では、環境変化時においても、発生トルクの最大値は、スロットル全開時のトルクとするため、環境変化に伴う補正は、最大基本トルク、及び、最大トルク補正量の演算で行われる。これにより、ライン1202に示すように、環境変化に関わらず、アクセル全開時にスロットル開度が全開になる。
【0041】
図13は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、外部要求トルク発生時のスロットル開度と目標トルクの挙動の一例である。ライン1301は外部要求トルク発生前の目標トルクであり、ライン1302はその時のスロットル開度である。時間1303で外部要求トルクが発生すると、目標トルクが外部要求トルクに基づき演算されるため、ライン1301からライン1304に切り替わる。これに伴い、スロットル開度もライン1302からライン1305に切り替わることで、外部要求トルク発生時においても、スロットル開度の制御が可能になり、目標トルクを実現することができる。
【0042】
図14は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、最大トルク補正量反映時におけるスロットル開度とトルクの挙動の一例である。ライン1401はスロットル開度、ライン1402は従来制御での最大トルク補正量、ライン1403は本発明での最大トルク補正量である。スロットル開度の中間領域である時間1404でトルク変動が発生した場合、従来制御では、スロットル全開後の時間1405で最大トルク補正値が演算されるのに対し、本発明では、時間1404でライン1403の補正量が演算される。この補正に伴うトルクの制御内容を以下で説明する。
【0043】
まず、従来制御での最大トルクは、ライン1406に示すように、時間1405で補正量が反映されるため、最大トルクに基づいて演算される目標トルクも、ライン1407に示すように、時間1405まで補正が行われない。よって、時間1404から時間1405までは、目標トルクと実発生トルクがずれるので、目標トルクが実現されない。これに対し、本発明では、ライン1408で示すように、時間1404で最大トルクが補正されるため、これに伴い、ライン1409に示すように、目標トルクも補正される。よって、時間1404からスロットル全開時の時間1410までの間に、目標トルクの実現が可能になるため、時間1410において、発生トルクの最大値が、スロットル全開時の目標トルク(最大トルク)になる。
【0044】
図15は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、図2の制御ブロックのフローチャートの一例である。ステップ1501でエンジン回転数,アクセル開度,ISC目標空気量を読み込む。ステップ1502でアクセル開度,ISC目標空気量により、最大目標開口面積を演算する。ステップ1503でアクセル開度,ISC目標空気量により、目標開口面積を演算する。ステップ1504でエンジン回転数,目標開口面積により、目標トルク比を演算する。ステップ1505で大気圧,目標過給圧,吸気温,吸気管圧力,吸入空気量を読み込む。ステップ1506でエンジン回転数,大気圧または目標過給圧により、最大基本トルクを演算する。ステップ1507で目標開口面積,大気圧,目標過給圧,吸気温,吸気管圧力により、目標空気量を演算する。ステップ1508で最大目標開口面積,目標過給圧,吸気温,吸気管圧力,エンジン回転数,吸入空気量,目標空気量により、最大トルク補正量を演算する。ステップ1509で最大基本トルク,最大トルク補正量により、最大トルクを演算する。ステップ1510で最大トルク,目標トルク比により、目標トルクを演算する。ステップ1511で吸気側進角値,排気側進角値を読み込む。ステップ1512でエンジン回転数,吸気管圧力,吸入空気量,吸気側進角値,排気側進角値,目標トルク,制御用トルク比により等トルク補正量を演算する。ステップ1513で目標トルク,最大トルク,等トルク補正量により制御用トルク比を演算する。ステップ1514でエンジン回転数,制御用トルク比により目標スロットル開度を演算する。ステップ1515で目標スロットル開度に基づき、スロットルの駆動を行う。
【0045】
図16は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、図5の制御ブロックのフローチャートの一例である。ステップ1601でアクセル開度により、ドライバ要求開口面積、及びドライバ最大要求開口面積をテーブル検索する。ステップ1602でISC目標空気量により、ISC目標開口面積、及びISC最大目標開口面積をテーブル検索する。ステップ1603でドライバ最大要求開口面積とISC最大目標開口面積を加算し、最大目標開口面積を求める。ステップ1604でドライバ要求開口面積とISC目標開口面積を加算し、目標開口面積を求める。ステップ1605でエンジン回転数,目標開口面積により、目標トルク比をマップ検索する。
【0046】
図17は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、図6の制御ブロックのフローチャートの一例である。ステップ1701で過給器付きエンジンが選択されているか否かを判断する。選択されている時は、ステップ1702で目標過給圧を目標基準圧力に設定する。選択されていない時は、ステップ1703で大気圧を目標基準圧力に設定する。ステップ1704でエンジン回転数,目標基準圧力により、最大基本トルクを演算する。ステップ1705で最大目標開口面積,目標開口面積,吸気温,吸気管圧力,吸入空気量,目標基準圧力,エンジン回転数により、最大トルク補正量を演算する。ステップ1706で最大基本トルク,最大トルク補正量を乗算し、最大トルクを求める。
【0047】
図18は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、図7の制御ブロックのフローチャートの一例である。ステップ1801で目標開口面積,目標基準圧力,吸気温,吸気管圧力により、目標空気量を演算する。ステップ1802で最大目標開口面積,目標基準圧力,吸気温により、最大目標空気量を演算する。ステップ1803でエンジン回転数,目標基準圧力により、最大基本空気量を演算する。ステップ1804で吸入空気量を目標空気量で除算し、空気量補正量を求める。ステップ1805で、空気量補正量,最大目標空気量を乗算し、前記乗算値を最大基本空気量を除算し、最大トルク補正量を求める。
【0048】
図19は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、図8の制御ブロックのフローチャートの一例である。ステップ1901で最大トルク,目標トルク比を乗算し、ドライバ要求トルクを求める。ステップ1902でドライバ要求トルク,外部要求トルクにより、目標トルクを演算する。
【0049】
図20は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、図9の制御ブロックのフローチャートの一例である。ステップ2001で吸気側進角値から排気側進角値を減算し、オーバーラップ量を求める。ステップ2002でオーバーラップ量,制御用トルク比により、基準VTC等トルク補正量をマップ検索する。ステップ2003でエンジン回転数により、基準VTC等トルク補正量へのエンジン回転数補正量をテーブル検索する。ステップ2004で基準VTC等トルク補正量,エンジン回転数補正量を乗算し、VTC等トルク補正量を求める。
【0050】
図21は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、図9の制御ブロックのフローチャートの一例である。ステップ2101で目標トルク,SCV点火時期補正量により、基準SCV等トルク補正量をマップ検索する。ステップ2102でエンジン回転数により、基準SCV等トルク補正量へのエンジン回転数補正量をテーブル検索する。ステップ2103で基準SCV等トルク補正量,エンジン回転数補正量を乗算し、SCV等トルク補正量を求める。
【0051】
図22は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、図9の制御ブロックのフローチャートの一例である。ステップ2201でエンジン回転数,エンジン負荷により、MBTをマップ検索する。ステップ2202でMBTから基本点火時期を減算し、ステップ2203で前記減算値により、基準点火効率をテーブル検索する。ステップ2204でMBTから要求点火時期を減算し、ステップ2205で前記減算値により、点火効率をテーブル検索し、ステップ2206で基準点火効率を前記検索した点火効率で除算し、目標点火効率を求める。
【0052】
図23は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、図10の制御ブロックのフローチャートの一例である。ステップ2301で目標トルクを最大トルクで除算し、制御用基本トルク比を求める。ステップ2302で制御用基本トルク比,VTC等トルク補正量,SCV等トルク補正量,目標点火効率を乗算し、制御用トルク比を求める。
【0053】
図24は、本発明の対象となるエンジンの制御装置の、図11の制御ブロックのフローチャートの一例である。ステップ2401でエンジン回転数,制御用トルク比により、目標スロットル開度をマップ検索する。ステップ2402で目標スロットル開口面積またはISC目標開口面積の値が大きい方を選択する。ステップ2403でステップ2402の選択値により、目標スロットル開度をテーブル検索する。
【0054】
以上、本発明の一実施形態について詳述したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではない。また、本発明の特徴的な機能を損なわない限り、各構成予想は上記構成に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0055】
109 トルクベース制御手段
201 目標トルク比演算手段
202 最大トルク演算手段
203 目標トルク演算手段
206 目標スロットル開度演算手段
302 スロットルバルブ
304 吸入空気量センサ
305 過給器
307 吸気管圧力センサ
314 水温センサ
316 クランク角度センサ
317 アクセル開度センサ
319 エンジン制御装置
603 最大トルク補正量演算ブロック
701 目標空気量演算ブロック
702 最大目標空気量演算ブロック
703 最大基本空気量演算ブロック
802 目標トルク演算ブロック
1101,1103 目標スロットル開口面積検索ブロック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともエンジン回転数と大気圧または過給圧とに基づいてエンジンの最大基本トルクを決定する手段と、
少なくとも大気圧または過給圧と吸気温度と吸気管圧力とのうち二つ以上のパラメータに基づいて、エンジンの吸入する目標空気量を演算する手段と、
少なくともエンジン回転数と前記大気圧または過給圧と吸気温度とのうち二つ以上のパラメータと、前記目標空気量と、吸入空気量とに基づいて、最大トルク補正量を演算する手段と、
前記最大トルク補正量と前記最大基本トルクとに基づいて、最大トルクを補正する手段と、
補正された最大トルクと、エンジン回転数と、アクセル開度とに基づいて、目標トルクを演算する手段と、
前記補正された最大トルクと、前記目標トルクとに基づいて、スロットルバルブを制御する手段と
を有することを特徴とするエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記最大トルク補正量の演算手段は、
前記目標空気量と吸入空気量を比較して、目標値との誤差を補正する空気量補正量を演算する手段と、
大気圧または過給圧,吸気温度の少なくとも二つ以上のパラメータに基づいて、エンジンの吸入する最大目標空気量を演算する手段と、
エンジン回転数、前記大気圧または過給圧に基づいて、最大基本空気量を決定する手段と
を有することを特徴とする請求項1記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記空気量補正量は、
吸入空気量と前記目標空気量の比率に基づいて、
演算されることを特徴とする請求項2記載のエンジンの制御装置。
【請求項4】
前記最大トルク補正量は、
前記空気量補正量と前記最大基本空気量の比率に基づいて
演算されることを特徴とする請求項2記載のエンジンの制御装置。
【請求項5】
前記最大トルク補正量は、
前記最大目標空気量と前記最大基本空気量の比率に基づいて
演算されることを特徴とする請求項2記載のエンジンの制御装置。
【請求項6】
前記スロットルバルブ制御手段は、
前記補正された最大トルクと前記目標トルクの比率と、エンジン回転数に基づいて、
前記目標トルクを実現するための目標スロットル開口面積を決定する手段と、
前記目標スロットル開口面積に基づいて、目標スロットル角度を決定する手段と
を有することを特徴とする請求項1記載のエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2011−137435(P2011−137435A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−28(P2010−28)
【出願日】平成22年1月4日(2010.1.4)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】