説明

エンジンの制御装置

【課題】バルブタイミングを可変とする可変バルブタイミング機構と、始動時用回転位相にロックするロック機構とを備えたエンジンにおいて、クランク角センサの異常時であっても、エンジンを始動できるようにする。
【解決手段】始動時にクランク角センサの異常を検出すると、吸気カムシャフトの回転位相が始動時用回転位相にロックされているものと仮定して、カム角センサが出力するカムシャフト回転角信号に基づいて点火タイミングや燃料噴射タイミングなどのエンジン制御タイミングを決定する故障時制御を実行する。故障時制御の開始から判定期間STが経過した時点で、エンジン回転速度NEが判定速度SNEに達していない場合には、ロック機構による始動時用回転位相へのロックが行われておらず、実際には、回転位相が初期位相(最遅角位相)であると推定し、該推定に基づきカムシャフト回転角信号からエンジン制御タイミングを決定する制御に切替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可変バルブタイミング機構を備えたエンジンの制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クランク角センサの正常時には、クランク角センサが出力するクランク回転角信号に基づきクランクシャフトの回転角を検出し、クランク角センサの異常時には、カム角センサが出力するカム回転角信号に基づきクランクシャフトの回転角を検出し、検出したクランクシャフトの回転角に基づきエンジン制御タイミングを決定するエンジンの制御装置があった(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、エンジンのクランクシャフトに対するカムシャフトの回転位相を変化させてエンジンバルブのバルブタイミングを可変とする可変バルブタイミング機構、及び、前記回転位相をその調整可能範囲の中間の始動時用回転位相にロックするロック機構を備え、エンジンの停止時に、ロック機構によって始動時用回転位相にロックし、係る回転位相のロック状態でエンジンを始動させる可変バルブタイミング制御装置があった(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−220079号公報
【特許文献2】特開2010−138699号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、エンジンの停止時に、始動時用回転位相にロックできたか否かによって、再始動時におけるカム角センサの信号の位相が異なることになる。
従って、クランク角センサの異常時に、実際には始動時用回転位相にロックされていないのに、始動時用回転位相にロックされているものとして、カム角センサが出力するカム回転角信号に基づきクランクシャフトの回転角を検出すると、エンジン制御タイミング(点火制御タイミングや燃料噴射タイミングなど)が目標タイミングからずれ、エンジン始動に失敗することがあるという問題があった。
【0006】
そこで、本願発明は、クランク角センサの異常時であっても、エンジンを始動させることができるエンジンの制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そのため、本願発明は、エンジンの始動時であってクランク角センサが異常である場合に、カムシャフトの回転位相が始動時用回転位相にロックされていると仮定し、カム角センサの出力に基づきクランクシャフトの回転角を検出してエンジンを制御する第1の故障時制御を行い、前記第1の故障時制御によってエンジンが始動しない場合に、カムシャフトの回転位相が可変バルブタイミング機構における調整可能範囲の一方端である初期位相であると推定し、カム角センサの出力に基づきクランクシャフトの回転角を検出してエンジンを制御する第2の故障時制御に切替えるようにした。
【発明の効果】
【0008】
上記発明によると、たとえカムシャフトの回転位相が始動時用回転位相にロックされていない場合であっても、カム角センサの出力からクランクシャフトの回転角を精度良く検出でき、これによりエンジン制御タイミングを適切に決定してエンジンを始動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本願発明の実施形態におけるエンジンの構成図である。
【図2】本願発明の実施形態における可変バルブタイミング機構の油圧回路図である。
【図3】本願発明の実施形態におけるロック機構を示す断面図である。
【図4】本願発明の実施形態におけるクランク回転角信号POS及びカム回転角信号CAMを示すタイムチャートである。
【図5】本願発明の実施形態における最遅角位相(初期位相)でのエンジン制御タイミングと始動時用回転位相でのエンジン制御タイミングとを示すタイムチャートである。
【図6】本願発明の実施形態における始動時の故障時制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本発明に係るエンジンの制御装置の実施形態を説明する。
図1は、本発明に係る制御装置を適用する車両用エンジン(内燃機関)のシステム構成を示す図である。
図1に示すエンジン101は、直列4気筒ガソリン内燃機関であるが、V型機関や水平対向機関であってもよく、また、気筒数を4気筒に限定するものではない。
【0011】
エンジン101の各気筒に空気を導入するための吸気管102には、エンジン101の吸入空気流量QAを検出する吸入空気量センサ103を設けてある。吸入空気量センサ103として、例えば、吸気の質量流量を検出する熱線式流量計などを用いることができる。
吸気バルブ105は、各気筒の燃焼室104の吸気口を開閉し、吸気バルブ105の上流側の吸気管102には、気筒毎に燃料噴射弁106を備えている。尚、エンジン101は、燃料噴射弁106が燃焼室104内に直接燃料を噴射する筒内直接噴射式内燃機関であってもよい。
【0012】
燃料噴射弁106から噴射された燃料は、吸気バルブ105を介して燃焼室104内に空気と共に吸引され、点火プラグ107による火花点火によって着火燃焼し、該燃焼による圧力がピストン108をクランクシャフト109に向けて押し下げることで、クランクシャフト109を回転駆動する。
また、排気バルブ110は、燃焼室104の排気口を開閉し、排気バルブ110が開くことで排ガスが排気管111に排出される。
排気管111には、三元触媒等を備えた触媒コンバータ112が設置され、触媒コンバータ112によって排気を浄化する。
【0013】
吸気バルブ105及び排気バルブ110(エンジンバルブ)は、クランクシャフト109によって回転駆動される吸気カムシャフト115及び排気カムシャフト211の回転に伴って開動作する。
排気バルブ110は、一定のバルブタイミングで開動作するが、吸気バルブ105のバルブタイミングは、可変バルブタイミング機構114によって可変とされる。
【0014】
可変バルブタイミング機構114は、クランクシャフト109に対する吸気カムシャフト115の回転位相を変化させることで、吸気バルブ105のバルブ作動角の位相(開時期IVO及び閉時期IVC)を連続的に進角方向及び遅角方向に変化させる機構である。
また、点火プラグ107それぞれには、点火プラグ107に対して点火エネルギを供給する点火モジュール116が直付けされている。点火モジュール116は、点火コイル及び点火コイルへの通電を制御するパワートランジスタを備えている。
【0015】
エンジン制御装置201は、コンピュータを備え、各種のセンサやスイッチからの信号を入力し、予め記憶されたプログラムに従って演算処理を行うことで、燃料噴射弁106、可変バルブタイミング機構114、点火モジュール116などの各種デバイスの操作量を演算して出力する装置であり、本願発明に係る制御装置としての制御機能を、後述するように有している。
【0016】
また、エンジン制御装置201は、吸入空気量センサ103の出力信号を入力する他、クランクシャフト109の回転角信号POSを出力するクランク角センサ203、アクセルペダル207の踏込み量(アクセル開度ACC)を検出するアクセル開度センサ206、吸気カムシャフト115の回転角信号CAMを出力するカム角センサ204、エンジン101の冷却水の温度TWを検出する水温センサ208、触媒コンバータ112上流側の排気管111に設置され、排気中の酸素濃度に基づいて空燃比AFを検出する空燃比センサ209などからの出力信号を入力し、更に、エンジン101の運転及び停止のメインスイッチであるイグニッションスイッチ(IGNスイッチ)205の信号を入力する。
【0017】
図2は、可変バルブタイミング機構114の構造を示す。
可変バルブタイミング機構114は、クランクシャフト109に対する吸気カムシャフト115の回転位相を、油圧を用いて変化させる機構であり、クランクシャフト109によりタイミングチェーンを介して回転駆動されるカムスプロケット(タイミングスプロケット)51と、吸気カムシャフト115の端部に固定されてカムスプロケット51内に回転自在に収容された回転部材53と、回転部材53をカムスプロケット51に対して相対的に回転させる油圧回路54とを備え、更に、カムスプロケット51と回転部材53との回転位相(換言すれば、クランクシャフト109に対する吸気カムシャフト115の回転位相)を、その調整可能範囲の中間に位置する中間ロック位相で機械的にロックするロック機構60を設けてある。
【0018】
カムスプロケット51は、外周にタイミングチェーン(又はタイミングベルト)が噛合する歯部を有する回転部(図示省略)と、該回転部の前方に配置されて回転部材53を回転自在に収容するハウジング56と、該ハウジング56の開口を閉塞するカバー(図示省略)とで構成される。
ハウジング56は、前後両端が開口形成された円筒状を呈し、内周面には、4つの隔壁部63が90°間隔で突設されている。隔壁部63は、横断面台形状を呈し、それぞれハウジング56の軸方向に沿って設けられる。
【0019】
回転部材53は、吸気カムシャフト115の前端部に固定されており、円環状の基部77の外周面に90°間隔で4つのベーン78a,78b,78c,78dが設けられている。
第1〜第4ベーン78a〜78dは、それぞれ断面が略逆台形状を呈し、隔壁部63間の凹部に配置され、前記凹部を回転方向の前後に隔成し、進角側油圧室82と遅角側油圧室83とを形成する。
【0020】
油圧回路54は、進角側油圧室82に対する作動油の給排を行うための第1油圧通路91と、遅角側油圧室83に対する作動油の給排を行うための第2油圧通路92と、油圧通路91,92を介した作動油の給排を制御する電磁式の油圧制御弁(スプール弁)93と、油圧制御弁93にオイルパン94内の作動油を圧送するエンジン駆動のオイルポンプ95とを有する。
【0021】
尚、油圧制御弁93のオイル入口ポートと、オイルポンプ95との間には、オイルの逆流を防止する逆止弁96を設けてある。
第1油圧通路91は、回転部材53の基部77内に略放射状に形成されて各進角側油圧室82に連通する4本の分岐路91dに接続され、第2油圧通路92は、各遅角側油圧室83に開口する4つの油孔92dそれぞれに接続される。
【0022】
エンジン制御装置201は、油圧制御弁93を操作して、進角側油圧室82及び遅角側油圧室83の油圧を制御することで、吸気カムシャフト115の回転位相を制御する。即ち、進角側油圧室82に作動油を供給し、遅角側油圧室83から作動油を排出することで、回転位相を進角方向に変化させ、進角側油圧室82から作動油を排出し、遅角側油圧室83に作動油を供給することで、回転位相を遅角方向に変化させることができ、油圧制御弁93の操作量を変更することで、最遅角位相から最進角位相までの間(調整可能範囲)の任意の回転位相に、吸気バルブ105のバルブタイミングを変化させることができる。
ここで、隔壁部63間の凹部内で、第1〜第4ベーン78a〜78dが回転できる角度範囲が、回転位相(バルブタイミング)の調整可能範囲であり、図2の位置が最遅角位相で、第1〜第4ベーン78a〜78dが図2の位置から図2における時計回りに回転して隔壁部63に突き当たった位置が最進角位相である。
【0023】
エンジン制御装置201は、クランク角センサ203の出力信号から検出したクランクシャフト109の基準角度位置と、カム角センサ204の出力信号から検出した吸気カムシャフト115の基準角度位置との間の位相差角度から、クランクシャフト109に対する吸気カムシャフト115の実際の回転位相を検出する。
そして、エンジン制御装置201は、エンジン運転条件(例えば、エンジン負荷及びエンジン回転速度)に基づいて設定した目標回転位相に実際の回転位相を近づけるように、油圧制御弁93の電磁アクチュエータへの通電を制御するデューティ比(操作量)を制御する。
【0024】
油圧制御弁93の制御を停止した状態(油圧制御弁93の電磁アクチュエータへの通電を停止した状態)では、吸気カムシャフト115の回転位相が、調整可能範囲の一方端である最遅角位相(初期位相)に戻るように、換言すれば、進角側油圧室82から作動油を排出し、遅角側油圧室83に作動油を供給するように、油圧制御弁93のポート切替え特性を設定してある。
また、吸気カムシャフト115の回転位相を可変する可変バルブタイミング機構114においては、動弁反力が主に回転位相の遅角方向に作用するため、進角側油圧室82及び遅角側油圧室83の油圧低下状態で吸気カムシャフト115が回転すると、吸気カムシャフト115の回転位相は遅角方向に変化し、最終的には初期位相である最遅角位相にまで戻る。
【0025】
次に、可変バルブタイミング機構114に設けたロック機構60を説明する。
ロック機構60は、クランクシャフト109に対する吸気カムシャフト115の回転位相を、その調整可能範囲(最遅角位相から最進角位相までの範囲)の中間に位置する中間ロック位相に機械的にロックする機構であり、中間ロック位相として、エンジン101の始動時に適した始動時用回転位相を設定してある。
【0026】
エンジン101の始動時であって、進角側油圧室82及び遅角側油圧室83の油圧が低下していて、しかも、オイルポンプ95の吐出量が少なく、進角側油圧室82及び遅角側油圧室83の油圧を上昇させることが難しい状態では、クランキングによって発生する動弁反力が吸気カムシャフト115に作用すると、クランクシャフト109に対する吸気カムシャフト115の回転位相、引いては、吸気バルブ105のバルブタイミングが始動に適したタイミングから大きく変動してしまい、エンジン101始動性が悪化する。
そこで、エンジン101の始動時(クランキング時)に、吸気カムシャフト115の回転位相(吸気バルブ105のバルブタイミング)が始動に適した中間ロック位相に保持されるように、ロック機構60によって回転位相を中間ロック位相にロックし、係るロック状態でエンジン101の始動(クランキング)が行われるようにする。
【0027】
ロック機構60は、図3に示すように、ベーン78dに対して吸気カムシャフト115の軸方向に沿って形成した摺動用孔85と、摺動用孔85内に摺動自在に設けたロックピン84と、カムスプロケット51の内端面に形成された係止穴86と、ロックピン84を係止穴86(カムスプロケット51)に向けて付勢する付勢手段としてのコイルスプリング87とを備える。
そして、ベーン78d(回転部材53)のカムスプロケット51に対する相対角度が、中間ロック位相に相当する角度になったときに、摺動用孔85内と係止穴86とが同一軸上に並んで連続するように形成されている。
【0028】
ロックピン84は、外端側に弾装されたコイルスプリング87のばね力で係止穴86に向けて付勢されており、回転位相が中間ロック位相になって摺動用孔85内と係止穴86とが同一軸上に並ぶと、ロックピン84は、コイルスプリング87のばね力で係止穴86に挿入され、ベーン78d(回転部材53)のカムスプロケット51に対する相対角度が固定される。
摺動用孔85の後端部には拡径部85aが形成され、ロックピン84の外端側にフランジ部84aが形成されており、フランジ部84aが拡径部85aに嵌挿されることで、摺動用孔85の内周とロックピン84の外周とで囲まれる環状の圧力室88が形成され、圧力室88に対する作動油の給排は、ロック用油圧通路98を介し、ロック用の電磁式油圧制御弁97によって制御される。
【0029】
ここで、圧力室88の油圧は、コイルスプリング87の付勢力に抗してロックピン84を係止穴86から抜く方向の力としてロックピン84に作用する。従って、ロック状態で圧力室88に油圧を供給すると、コイルスプリング87の付勢力に抗してロックピン84が係止穴86から抜けて、図3に示すようなロック解除状態になり、その後、摺動用孔85内と係止穴86とが同一軸上に並んでもロックピン84が係止穴86に挿入されず、中間ロック位相を通過して回転位相を変化させることができる。
【0030】
一方、圧力室88の油圧を低下させれば、コイルスプリング87のばね力によって、ロックピン84は、係止穴86が設けられるカムスプロケット51に向けて付勢され、この状態で、摺動用孔85内と係止穴86とが同一軸上に並ぶと、ロックピン84は、コイルスプリング87のばね力で係止穴86に挿入され、回転位相が中間ロック位相に機械的にロックされる。
尚、ロック機構60の構造を上記のものに限定するものではない。また、1つの油圧制御弁によって、ベーン78dで隔成される各油圧室82,83への作動油の給排、及び、ロック機構60への作動油の給排を制御することができる。
【0031】
ここで、エンジン制御装置201は、ロック要求に基づき、電磁式油圧制御弁97を制御して圧力室88の油圧(ロック解除圧)をドレンする一方、吸気カムシャフト115の回転位相を始動時用回転位相よりも進角した位置に一旦移動させ、その後、始動時用回転位相を通過するような目標回転位相を設定して、この目標回転位相に向けて油圧制御弁93を制御する。
これにより、回転位相が遅角方向に変化する途中で、摺動用孔85内と係止穴86とが同一軸上に並んで連続したときに、ロックピン84が、コイルスプリング87のばね力で係止穴86に挿入され、回転位相が始動時用回転位相にロックされる。
【0032】
ロック機構60によるロック状態では、カムスプロケット51(ハウジング56)に対して回転部材53(ベーン)が固定されるため、吸気カムシャフト115とカムスプロケット51(ハウジング56)との組み付け角度が固定され、吸気バルブ105のバルブタイミングが機械的に固定されることになる。
従って、エンジン101の始動時に、油圧室82,83の油圧が低下した状態になっていても、ロック機構60によって回転位相が機械的にロックされていれば、エンジン始動に最適なバルブタイミングで吸気バルブ105が安定的に開駆動され、高い始動性を維持できる。
尚、ロック機構60の構造及びエンジン停止時のロック制御を上記のものに限定するものではなく、公知のロック機構60の構造及びエンジン停止時のロック制御を適宜採用できる。
【0033】
図4は、クランク角センサ203が出力する回転角信号POS、及び、カム角センサ204が出力する回転角信号CAMの波形を示す。
クランク角センサ203は、クランクシャフト109に軸支したシグナルプレートに設けた被検出部を検出することで、クランク角10deg(単位クランク角)毎にクランク回転角信号POS(パルス信号)を出力するセンサであるが、図4に示すように、一部でパルス信号が欠落するように設定されている。
【0034】
具体的には、クランクシャフト109の1回転当たり、クランク角180deg間隔の2箇所で、パルスが2個連続して欠落し、パルス周期がクランク角30degとなる部分を設けてあり、これにより、クランク回転角信号POSは、16パルス連続して出力した後、2パルスだけ欠落する期間があり、その後、再度16パルス連続して出力する出力パターンを繰り返す。
従って、2パルスだけ欠落した後の最初のクランク回転角信号POSから次の欠落期間後の最初のクランク回転角信号POSまでは、クランク角180degになり、このクランク角180degは、本実施形態の4気筒エンジン101における気筒間の行程位相差(点火間隔)に相当する。
【0035】
また、本実施形態では、クランク回転角信号POSが、各気筒の上死点前60deg(BTDC60deg)及び上死点前70deg(BTDC70deg)の2箇所で欠落するように設定してあり、2パルスだけ欠落した後の最初のクランク回転角信号POSは、各気筒の上死点前50deg(BTDC60deg)のクランク角位置であることを示す。従って、パルス信号の欠落箇所を検出することで、欠落箇所を基準にクランクシャフト109の回転角、引いては、ピストン位置を検出できるように設定されている。
尚、クランク回転角信号POSの欠落箇所であるか否かは、クランク回転角信号POSの周期変化に基づいて判断できる。
【0036】
但し、クランク角センサ203が、クランク角10deg毎のクランク回転角信号POSを欠落なく出力するセンサと、クランク角180deg間隔の2箇所で、基準クランク角信号REF(パルス信号)を出力するセンサとを備えることができる。
一方、カム角センサ204は、吸気カムシャフト115に軸支したシグナルプレートに設けた被検出部を検出することで、カム角90deg(クランク角180deg)毎に、気筒ナンバーに対応する数のカム回転角信号CAM(パルス信号)を出力するセンサである。
【0037】
本実施形態の4気筒エンジン101における点火は、第1気筒→第3気筒→第4気筒→第2気筒の順に行われるため、係る点火順に対応させて、カム回転角信号CAM(パルス信号)は、カム角90deg(クランク角180)毎に、1パルス、3パルス、4パルス、2パルスだけ出力されるようになっている。尚、複数連続して出力されるカム回転角信号CAMの間隔は、クランク角で30deg(カム角で15deg)に設定してある。
従って、エンジン制御装置201は、カム回転角信号CAMの連続発生数を計数することで、例えばどの気筒が次に圧縮上死点になる気筒であるかを判断できる一方、前述のように、クランク回転角信号POSの欠落箇所(又は基準クランク角信号REF)を基準とするクランク回転角信号POSの発生数からピストン位置(クランク回転角)を検出できる。
【0038】
そして、エンジン制御装置201は、各気筒における点火制御タイミングや燃料噴射タイミングなどのエンジン制御タイミングを、各気筒の行程及びピストン位置(クランク回転角)に基づき検出し、点火モジュール116や燃料噴射弁106などへの操作信号を出力する。
また、可変バルブタイミング機構114によってクランクシャフト109に対する吸気カムシャフト115の回転位相が変化することで、クランク回転角信号POSに対するカム回転角信号CAMの位相が変化するから、係る位相の変化を検出することで、可変バルブタイミング機構114によるバルブタイミングの進角及び遅角変化(最遅角位相からの進角量)を検出することができる。
【0039】
具体的には、エンジン制御装置201は、クランク回転角信号POSに基づき検出した基準クランク角位置から、カム角90deg毎に出力されるカム回転角信号CAM(複数パルスが連続して出力される場合の先頭パルス)までのクランク角を検出することで、可変バルブタイミング機構114によるバルブタイミングの変換角度(クランクシャフト109に対する吸気カムシャフト115の回転位相)を検出し、該検出結果が目標に近づくように、油圧制御弁93の電磁アクチュエータへの通電を制御するデューティ比(操作量)を制御する。
このように、クランクシャフト109に対する吸気カムシャフト115の回転位相の検出には、クランク角センサ203及びカム角センサ204を用いるため、例えば、クランク角センサ203が故障すると実際の回転位相が不明となる。
【0040】
このため、エンジン制御装置201は、クランク角センサ203の故障時には、可変バルブタイミング機構114の制御(油圧制御弁93の電磁アクチュエータへの通電)を停止する。エンジン運転中に油圧制御弁93の電磁アクチュエータへの通電を停止すると、吸気バルブ105のバルブタイミングは、最遅角位相である初期位相(デフォルト位置)に向けて変化し、最遅角位相(調整可能範囲の一方端)を保持することになる。
尚、クランク角センサ203の異常の有無は、例えば、カム回転角信号CAMが発生している状態、換言すれば、カム回転角信号CAMの出力ラインにおける信号レベルが、ハイレベルとローレベルとの間での切り替わっている状態で、クランク回転角信号POSが発生しない場合(ハイレベル又はローレベルに張り付いている場合)に、クランク角センサ203に異常が発生していると判断することができる。
【0041】
一方、点火制御タイミングや燃料噴射タイミングなどのエンジン制御タイミングの検出においても、クランク角センサ203及びカム角センサ204を用いるが、クランク角センサ203が故障しても、カム角センサ204のカム回転角信号CAMから各気筒の行程及びピストン位置(クランク回転角)を検出することが可能である。
前述のように、可変バルブタイミング機構114の制御を停止すると、吸気カムシャフト115の回転位相が遅角方向に変化して最遅角位相を保持するから、カム角90deg毎のカム回転角信号CAM(複数パルスが連続して出力される場合の先頭パルス)は、最遅角位相に対応する一定のピストン位置で出力されることになる。
【0042】
即ち、可変バルブタイミング機構114の制御を停止した状態では、カム角90deg毎に出力されるカム回転角信号CAM(複数パルスが連続して出力される場合の先頭パルス)は、最遅角位相に応じた既知の基準クランク角位置を示し、その後に連続して出力されるカム回転角信号CAMは、各気筒の行程を示すことになる。更に、カム角90deg毎に出力されるカム回転角信号CAM(複数パルスが連続して出力される場合の先頭パルス)の周期はエンジン回転速度を示し、このエンジン回転速度に基づきクランク角度を時間に変換できる。
従って、エンジン制御タイミングである点火制御タイミングや燃料噴射タイミングに相当するクランク角位置(クランクシャフト109の回転角)は、カム角90deg毎に出力されるカム回転角信号CAM(複数パルスが連続して出力される場合の先頭パルス)を起点とした時間計測で検出することができ、クランク角センサ203が故障しても、エンジン制御タイミングの検出精度は低下するものの、点火や燃料噴射の制御を続けて、エンジン101の運転を継続させることが可能である。
【0043】
ここで、エンジン101の停止時に、ロック機構60によって始動時用回転位相にロックするから、エンジン101の始動時にクランク角センサ203の異常を検出した場合には、カム角90deg毎のカム回転角信号CAM(複数パルスが連続して出力される場合の先頭パルス)は、始動時用回転位相に対応する一定のピストン位置で出力されているものと見なして、カム回転角信号CAMからエンジン制御タイミングを決定することができる。
しかしながら、エンジン101の運転中(ロック機構60によるロック実施前)にクランク角センサ203に異常が発生したことを検出した場合には、可変バルブタイミング機構114の制御(油圧制御弁93の電磁アクチュエータへの通電)が停止されるために、吸気カムシャフト115の回転位相が遅角方向に変化して最遅角位相(初期位相)を保持し、そのままエンジン101が停止されることで、エンジン101の停止中も最遅角位相を保持することなる。
【0044】
このため、エンジン101の始動時に、クランク角センサ203の異常を検出しても、それが前回運転時から継続する異常であれば、吸気カムシャフト115の回転位相は最遅角位相である場合があり、前回のエンジン停止時にロック機構60によるロックを行った以降にクランク角センサ203に異常が生じた場合には、吸気カムシャフト115の回転位相は始動時用回転位相にロックされていることになる。
従って、エンジン101の始動時に、クランク角センサ203の異常を検出したときに、ロック機構60によるロックが行われていて、吸気カムシャフト115の回転位相が始動時用回転位相になっているものと判断し、カム回転信号CAMに基づきエンジン制御タイミングの検出を行わせると、実際の回転位相が最遅角位相(初期位相)であった場合、始動時用回転位相(中間ロック位相)と最遅角位相との角度差の分だけ、エンジン制御タイミングに誤差が生じ、エンジン101を始動できなくなる可能性がある。
【0045】
図5は、吸気カムシャフト115の回転位相が最遅角位相(初期位相)である場合と、始動時用回転位相(中間ロック位相)にロックしてある場合とで、同じ点火制御タイミング(点火コイルへの通電開始タイミング及び通電遮断タイミング)を検出した例を示す。
この図5に示すように、吸気カムシャフト115の回転位相が最遅角位相である場合と、始動時用回転位相にロックしてある場合とでは、カム回転角信号CAMの発生タイミングにずれが生じる。
【0046】
図5に示した例では、双方共に、3パルス連続するカム回転角信号CAMの先頭パルスの立下りを起点に、同じ点火制御タイミング、即ち、点火コイルへの通電を開始するまでの時間、及び、通電を遮断して点火火花を発生させるまでの時間を計測しているが、最遅角位相と始動時用回転位相とのずれ分だけ、点火制御タイミングがずれる。
従って、実際の回転位相が初期位相である最遅角位相に戻っているのに、始動時用回転位相にロックされているものとして、点火制御タイミングを決定すると、目標の点火時期よりもより遅角した位置で遅れて点火してしまう。その結果、混合気を着火燃焼させることができずに失火し、エンジン101を始動できなくなる可能性がある。
【0047】
尚、本実施形態では、吸気カムシャフト115の回転位相がロック機構60によって始動時用回転位相にロックされている場合、カム角90deg毎に出力されるカム回転角信号CAM(複数パルスが連続して出力される場合の先頭パルス)の位置が、BTDC70degの位置であり、吸気カムシャフト115の回転位相が最遅角状態である場合、カム角90deg毎に出力されるカム回転角信号CAM(複数パルスが連続して出力される場合の先頭パルス)の位置が、BTDC50degの位置に設定されているものとする。
【0048】
本実施形態のエンジン制御装置201は、上記のような始動不良の発生を抑制するために、図6のフローチャートに示す手順に従って、エンジン101の始動時にクランク回転角を検出し、エンジン制御タイミングの決定を行う。
まず、ステップS301では、イグニッションスイッチ205がスタート位置であるか否か(スタータモータを起動させるスタートスイッチがオンであるかオフであるか)を判断する。
イグニッションスイッチ205がスタート位置であって、スタータモータによるエンジン101のクランキング状態(エンジン101の始動時)であれば、ステップS302へ進む。
【0049】
ステップS302では、クランク角センサ203に異常が発生しているか否かを判断する。具体的には、クランキングによってクランクシャフト109が回転し、係る回転に連動して吸気カムシャフト115が回転した結果、カム角センサ204からカム回転角信号CAMが出力されているのに、クランク角センサ203が、クランク回転角信号POSを出力しない場合に、クランク角センサ203が異常であると判定する。
但し、クランク角センサ203における異常の有無を判定する方法を、上記のものに限定するものではなく、例えば、クランク角センサ203の信号出力ラインの断線やショートを検出することができる。
【0050】
また、クランク角センサ203の異常には、クランク角センサ203自体の故障の他、クランク角センサ203の信号出力ラインの異常や、エンジン制御装置201におけるクランク回転角信号POSの入力回路の異常などが含まれる。
また、クランク角センサ203の異常には、クランク回転角信号POSが出力されなくなる異常(ハイレベル又はローレベルに張り付く異常)の他、クランク回転角信号POSが本来出力される位置で抜けを生じるような異常も含まれ、係る異常の有無は、クランク回転角信号POSの発生周期などから判定できる。
【0051】
クランク角センサ203に異常がない場合には、クランク角センサ203が出力するクランク回転角信号POSの歯抜け箇所を基準とする計数結果に基づき、クランク回転角の検出を行えるので、そのまま、本ルーチンを終了させることで、クランク角センサ203の出力に基づきエンジン制御タイミングを検出する制御(正常時制御)を行わせる。
前記エンジン制御タイミングとは、点火制御タイミングや燃料噴射タイミングなどであり、例えば点火制御タイミングは、点火コイルへの通電を開始させるクランク回転角と、点火コイルへの通電を遮断して放電火花を発生させるクランク回転角とを含み、係る点火コイルへの通電を制御するクランク回転角になったか否かを、クランク回転角信号POSの歯抜け箇所を基準とするクランク回転角信号POSの計数値に基づき判断し、点火コイルへの通電を制御する。
また、燃料噴射タイミングは、燃料噴射弁106に対して噴射パルス信号を出力して噴射を開始させるタイミングであり、クランク回転角信号POSの歯抜け箇所を基準とするクランク回転角信号POSの計数値に基づいて、噴射開始タイミングであるクランク回転角になったか否かを判断して、噴射パルス信号の出力を制御する。
【0052】
一方、クランク角センサ203に異常が発生していて、クランク角センサ203の出力を用いてクランク回転角(エンジン制御タイミング)を検出することができない場合には、カム角センサ204が出力するカム回転角信号CAMに基づきクランク回転角を検出してエンジン制御タイミングを決定するために、ステップS303へ進む。
換言すれば、ステップS303へ進んだ場合には、カム回転角信号CAMに基づき、点火コイルへの通電を制御するクランク回転角や、燃料噴射を開始させるクランク回転角を検出し、点火コイルへの通電制御や燃料噴射弁106に対する噴射パルス信号の出力制御を行う。
但し、エンジン制御タイミングは、点火制御タイミングや燃料噴射タイミングに限定されず、クランク回転角で制御タイミングが設定される公知の種々の制御が含まれる。
【0053】
ステップS303では、ロック機構60によって吸気カムシャフト115の回転位相が始動時用回転位相(中間ロック位相)にロックされていて、カム角センサ204がカム角90deg毎にカム回転角信号CAMを出力する位置(カム信号出力基準位置)が、BTDC70degであると仮定し、カム角センサ204が出力するカム回転角信号CAMに基づき、点火制御タイミングや燃料噴射タイミングなどのエンジン制御タイミングを決定する制御(第1の故障時制御)を行う。
具体的には、カム回転角信号CAMの出力周期を計測することで、カム角90deg毎のカム回転角信号CAMを特定し、当該カム回転角信号CAMの出力位置が、上死点前70deg(BTDC70deg)の位置であるとする。また、カム角90deg毎のカム回転角信号CAMの周期からエンジン回転速度NEを算出する。そして、エンジン回転速度NEに基づき、上死点前70deg(BTDC70deg)から目標とするエンジン制御タイミングまでのクランク角度を時間に変換し、当該時間だけ上死点前70degから経過した時点を、目標とするエンジン制御タイミングとして検出する。
【0054】
例えば、点火制御タイミングとして、点火コイルへの通電を開始させるクランク回転角と、点火コイルへの通電を遮断して放電火花を発生させるクランク回転角とを設定する場合、図5に示すように、カム角90deg毎のカム回転角信号CAMの立下りを時間計測の基準点とし、この基準点から点火コイルへの通電を開始させるクランク回転角までの角度を時間に換算し、当該時間が経過した時点で点火コイルへの通電を開始させる。また、前記基準点から点火コイルへの通電を遮断させるクランク回転角までの角度を時間に換算し、当該時間が経過した時点で点火コイルへの通電を遮断させ、火花点火を行わせる。
また、エンジン制御タイミングを適用する気筒は、カム回転角信号CAMの連続発生数に基づき検出し、検出した気筒の点火モジュール116や燃料噴射弁106に対して操作信号を出力することで、点火や燃料噴射を行わせる。
【0055】
ステップS304では、ステップS303における第1の故障時制御、即ち、吸気カムシャフト115の回転位相が始動時用回転位相(中間ロック位相)にロックされていると仮定し、カム信号出力基準位置をBTDC70degとする第1の故障時制御を開始してからの経過時間Tが、判定時間STに達したか否か(T≧STであるか否か)を判断する。
前記判定時間STは、カム信号出力基準位置をBTDC70degとする第1の故障時制御を継続させる時間の上限値であり、吸気カムシャフト115の回転位相が実際に始動時用回転位相にロックされている場合に、始動完了までに要する標準時間よりも余裕時間だけ長い時間として予め設定してある。従って、判定時間STだけ第1の故障時制御を継続させてもエンジン101が始動しなかった場合には、吸気カムシャフト115の回転位相が始動時用回転位相(中間ロック位相)にロックされているとの仮定が間違いであり、そのために、点火制御タイミングや燃料噴射タイミングなどに誤差が生じたものと推定できるようになっている。
【0056】
経過時間Tが判定時間STに達していない場合には、本ルーチンをそのまま終了させることで、カム信号出力基準位置をBTDC70degとする第1の故障時制御を継続する。
一方、カム信号出力基準位置をBTDC70degとする第1の故障時制御を、判定時間STだけ継続した場合には、ステップS305へ進み、エンジン回転速度NEが判定速度SNE(例えば500rpm)未満であるか否かを判定することで、エンジン101が始動したか否かを判断する。前記判定速度SNEは、クランキング速度(初爆前のクランキング状態でのエンジン回転速度)よりも高く、エンジン101が始動したとき、換言すれば、初爆による回転上昇によって到達するエンジン回転速度である。
尚、エンジン回転速度NEの上昇速度(加速度)が判定速度を超えたときに、エンジン101が始動したと判断させることができる。
【0057】
ステップS305で、エンジン回転速度NEが判定速度SNE以上であると判断された場合、換言すれば、エンジン101の始動完了を示すエンジン回転速度NEの上昇を検出した場合には、そのまま本ルーチンを終了させることで、カム信号出力基準位置をBTDC70degとする故障時制御(第1の故障時制御)を、エンジン101が停止するまで継続させる。
ステップS305で、エンジン回転速度NEが判定速度SNE未満であると判断された場合、即ち、吸気カムシャフト115の回転位相が始動時用回転位相(中間ロック位相)にロックされていると仮定し、カム信号出力基準位置をBTDC70degとする第1の故障時制御を判定時間STだけ継続して実施しても、エンジン101を始動させることができなかった場合には、ステップS306へ進む。
【0058】
ステップS306へ進んだ場合には、吸気カムシャフト115の回転位相が、ロック機構60によって始動時用回転位相にロックされているとする仮定が間違っていて、カム角センサ204が出力するカム回転角信号CAMに基づいて検出したエンジン制御タイミングが目標よりも遅角していて、点火や燃料噴射のタイミングが目標よりも遅すぎたために、エンジン101を始動させることができなかったものと推定できる。
ここで、判定時間STは一定時間としても良いが、始動に要する時間が、エンジン101の温度(冷却水温度や潤滑油温度など)、外気温度、スタータモータの電源電圧(バッテリ電圧)、燃料性状などのエンジン101の運転条件で異なるため、これらの運転条件のうちの少なくとも1つに応じて可変に設定することができる。
【0059】
判定時間STをエンジン101の運転条件に応じて可変に設定する場合、始動に要する時間が長くなる条件のときに判定時間STをより長く設定すればよく、具体的には、エンジン温度や外気温度が低いほど判定時間STを長くし、スタータモータの電源電圧が低いほど判定時間STを長くし、燃料性状としてのオクタン価が高いほど判定時間STを長くするとよい。
また、始動に要した期間を時間で判断する変わりに、燃料噴射の積算回数又は点火の積算回数で判断することができ、この場合、燃料噴射の回数又は点火の回数を積算すると共に、判定時間STに代えて判定回数SNを設定し、ステップS304では、第1の故障時制御による燃料噴射又は点火の積算回数と、判定回数SNとを比較し、積算回数が判定回数SNに達したときに、ステップS305へ進むようにする。
【0060】
ステップS306では、吸気カムシャフト115の回転位相が最遅角位相(初期位相)であって、カム角センサ204がカム角90deg毎にカム回転角信号CAMを出力する位置(カム信号出力基準位置)が、BTDC50degであると推定し、カム角センサ204が出力するカム回転角信号CAMに基づき、点火制御タイミングや燃料噴射タイミングなどのエンジン制御タイミングを決定する制御(第2の故障時制御)に切り替える。
即ち、ロック機構60によって吸気カムシャフト115の回転位相が始動時用回転位相にロックされているものと仮定した第1の故障時制御で、エンジン101を始動させることができなかった場合には、実際には始動時用回転位相にロックされておらず、吸気カムシャフト115の回転位相が実際には最遅角位相(初期位相)であるため、クランク回転角(エンジン制御タイミング)の検出結果に誤差が生じたものと推定し、吸気カムシャフト115の回転位相が最遅角位置(調整可能範囲の一方端)である場合に適合する第2の故障時制御に切り替える。
【0061】
例えば、エンジン101の前回運転時の停止直前にクランク角センサ203に異常が発生し、これに基づき可変バルブタイミング機構114の制御を停止した結果、吸気カムシャフト115の回転位相が初期位相である最遅角位相にまで戻り、そのままエンジン101が停止した場合には、再始動時には、吸気カムシャフト115の回転位相が初期位相である最遅角位相になっている。
ここで、クランク角センサ203の故障状態が継続していれば、実際の回転位相を検出することができず、始動時用回転位相にロックされているか否かが不明であり、また、始動時には、油圧不足のため、始動時用回転位相にまで回転位相を変化させてロック機構60によるロックを行わせることも難しい。
【0062】
そこで、エンジン101の始動時に、クランク角センサ203が故障している場合には、ロック機構60によって始動時用回転位相にロックされているものと仮定し、当該仮定に基づきカム角センサ204の出力からエンジン制御タイミングを決定する第1の故障時制御を行う。
実際に吸気カムシャフト115の回転位相が始動時用回転位相にロックされていれば、カム角センサ204の出力からクランク回転角(エンジン制御タイミング)を検出でき、その結果、エンジン101を始動させることができる。
【0063】
一方、実際の回転位相が最遅角位相(初期位相)であれば、始動時用回転位相にロックされているものとしてカム角センサ204の出力からクランク角(エンジン制御タイミング)を検出すると、始動時用回転位相と最遅角位相との角度差だけクランク回転角(エンジン制御タイミング)の検出結果に誤差が生じ、その結果、エンジン101を始動させることができなくなる。従って、第1の故障時制御で、エンジン101を始動させることができなかったことは、吸気カムシャフト115の回転位相が始動時用回転位相にロックされているとの仮定が間違いで、実際の吸気カムシャフト115の回転位相は最遅角位相であることを示す。
そこで、エンジン101を始動させることができなかった場合には、吸気カムシャフト115の回転位相が始動時用回転位相にロックされているとの仮定に基づく制御(第1の故障時制御)を停止し、吸気カムシャフト115の回転位相が最遅角位相であることを前提とする制御(第2の故障時制御)に切り替えることで、クランク回転角を検出できるようになり、エンジン101を始動させることが可能となる。
【0064】
尚、吸気カムシャフト115の回転位相が始動時用回転位相にロックされている場合と、吸気カムシャフト115の回転位相が最遅角位相である場合とで、吸気バルブ105のバルブタイミングが異なり、これによって充填効率が変化するので、吸気カムシャフト115の回転位相による充填効率の違いに応じて燃料噴射量を変更することができる。但し、始動時には吸気ポート壁面に付着する液状燃料(壁流分)などを考慮して燃料噴射量を決定する必要があり、充填効率の違い及び壁流分を考慮した結果としての燃料噴射量が、略同等となることがあり得る。
【0065】
ここで、上記のような制御機能を有するエンジン制御装置201を備えたエンジン101の効果を説明する。
上記エンジン101では、クランク角センサ203が故障しても、カム角センサ204を用いてクランク回転角を検出して、エンジン101を始動させ、かつ、運転を継続させることができる。
また、クランク角センサ203が故障している状態でエンジン101を始動させるときに、吸気カムシャフト115の回転位相が始動時用回転位相にロックされているものと仮定して、カム角センサ204を用いてクランク回転角を検出した結果、エンジン101を始動させることができなかった場合に、吸気カムシャフト115の回転位相が初期位相の最遅角位相であると推定し、カム角センサ204の出力からクランク回転角を検出する制御に切り替えるので、たとえ始動時用回転位相にロックされていない始動時であっても、エンジン101を始動させることができる。
【0066】
また、エンジン101の始動に成功したか失敗したかを判定するタイミングを決定する判定時間ST(判定期間)を、エンジン101の温度などの運転条件に応じて可変に設定することで、運転条件による始動時間の延びを、始動の失敗として誤判定することを抑制でき、エンジン101の始動に成功したか失敗したかを精度良く、かつ、可及的速やかに判断することができ、第2の故障時制御への移行を的確に行え、最終的には、始動性を良好に維持できる。
また、第1の故障時制御を継続させる判定期間を、燃料噴射又は点火の積算回数とすれば、クランキング速度のばらつきなどに影響されることなく、また、クランキング開始から燃料噴射して点火動作を開始するまでの期間を、始動に要した期間から除外でき、始動に成功したか失敗したかの判定精度を高めることができる。
【0067】
尚、可変バルブタイミング機構を、排気カムシャフト211の回転位相を可変とし、排気バルブ110のバルブタイミングを変化させる機構とし、カム角センサ204を、排気カムシャフト211に設けたエンジン101とすることができる。この場合、可変バルブタイミング機構114の初期位相を最進角位相とし、始動時用回転位相を最進角位相よりも遅角側に位置する中間ロック位相とすることができる。
【0068】
また、可変バルブタイミング機構114と共に、バルブ作動角の中心位相を変化させることなく、エンジンバルブの最大バルブリフト量及びバルブ作動角を可変とする可変バルブリフト機構を備えることができる。
また、カム角センサとして、例えば、気筒番号毎に異なるパルス幅のカム回転角信号CAMを出力するカム角センサ204を用いることができる。
また、信号待ちなどの自動停止条件でエンジン101を自動的に停止させるアイドルストップ制御機能を備えた車両において、クランク角センサ203が故障した場合には、アイドルストップ制御を禁止したり、アイドルストップ制御の実施頻度を低下させる制限を行ったりすることが好ましい。
【0069】
ここで、上記実施形態から把握し得る請求項以外の技術的思想について、以下に効果と共に記載する。
(イ)請求項2記載のエンジンの制御装置において、
前記エンジンの運転条件として、前記エンジンの温度、外気温度、スタータモータの電源電圧、燃料性状のうちの少なくとも1つを含むエンジンの制御装置。
上記発明によると、前記エンジンの温度、外気温度、スタータモータの電源電圧、燃料性状などによってエンジンの始動時間が変わることに対応して、第1の故障時制御を継続させる時間を変化させるから、実際に始動時用回転位相にロックされている状態で、第2の故障時制御への切り替えを誤って行ってしまうことを抑制できる。
【0070】
(ロ)エンジンのクランクシャフトに対する吸気カムシャフトの回転位相を変化させて吸気バルブのバルブタイミングを可変とする可変バルブタイミング機構と、
前記回転位相をその調整可能範囲の中間の始動時用回転位相にロックするロック機構と、
前記クランクシャフトの回転角信号を出力するクランク角センサと、
前記吸気カムシャフトの回転角信号を出力するカム角センサと、
を備えたエンジンの制御装置であって、
前記エンジンの始動時であって前記クランク角センサが異常である場合に、前記回転位相が前記始動時用回転位相にロックされていると仮定して、前記カム角センサの出力に基づき前記クランクシャフトの回転角を検出して前記エンジンを制御する第1の故障時制御を行い、前記第1の故障時制御によって前記エンジンが始動しない場合に、前記回転位相が最遅角位相であると推定し、前記カム角センサの出力に基づき前記クランクシャフトの回転角を検出して前記エンジンを制御する第2の故障時制御に切替えるエンジンの制御装置。
【0071】
上記発明によると、吸気バルブのバルブタイミングを可変とする可変バルブタイミング機構を備えたエンジンにおいて、エンジンの始動時であってクランク角センサが異常である場合には、まず、吸気カムシャフトの回転位相が始動時用回転位相にロックされているものと仮定して、カム角センサの出力からクランクシャフトの回転角を検出し、係る制御でエンジンが始動しない場合には、吸気カムシャフトの回転位相が初期位相である最遅角位相であるものとして、カム角センサの出力からクランクシャフトの回転角を検出する制御に切り替え、非ロック状態で始動する場合に、適切なエンジン制御タイミングでエンジンを制御して、エンジンを始動させることができるようにする。
【0072】
(ハ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のエンジンの制御装置において、
前記エンジン101のクランキング開始に伴い前記カム角センサからの信号が出力される状態で、前記クランク角センサからの信号出力がない場合に、前記クランク角センサの異常を判定するエンジンの制御装置。
上記発明によると、カム角センサからカム回転角信号が出力される状態は、クランクシャフト及びカムシャフトが回転している状態であり、係るエンジンの回転状態において、クランク角センサが正常であれば、クランク回転角信号を出力するから、クランク回転角信号が出力されない場合には、クランク角センサに何らかの異常が発生しているものと判定する。
【0073】
(ニ)請求項1〜3のいずれか1つに記載のエンジンの制御装置において、
前記第1の故障時制御の継続期間が判定期間に達したときに、エンジン回転速度が判定速度よりも高くなっていれば前記第1の故障時制御をそのまま継続させ、エンジン回転速度が前記判定速度を下回っていれば前記第1の故障時制御から前記第2の故障時制御に切替えるエンジンの制御装置。
上記発明によると、第1の故障時制御を判定期間だけ継続したときに、エンジン回転速度が判定速度よりも高くなっていれば、実際にカムシャフトの回転位相が始動時用回転位相になっていたため、クランクシャフトの回転角を検出でき、そのためにエンジンの始動に成功したものと判断し、第1の故障時制御を継続させる。一方、第1の故障時制御を判定期間だけ継続したときに、エンジン回転速度が判定速度を下回っていれば、カムシャフトの回転位相が実際は初期位相であるため、クランクシャフトの回転角の検出結果に誤差が生じ、そのために始動に失敗したものと判断し、第2の故障時制御に切替える。
【符号の説明】
【0074】
60…ロック機構、101…エンジン(内燃機関)、105…吸気バルブ、106…燃料噴射弁、107…点火プラグ、109…クランクシャフト、114…可変バルブタイミング機構、115…吸気カムシャフト、115…点火モジュール、201…エンジン制御装置、203…クランク角センサ、204…カム角センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンのクランクシャフトに対するカムシャフトの回転位相を変化させてエンジンバルブのバルブタイミングを可変とする可変バルブタイミング機構と、
前記回転位相をその調整可能範囲の中間の始動時用回転位相にロックするロック機構と、
前記クランクシャフトの回転角信号を出力するクランク角センサと、
前記カムシャフトの回転角信号を出力するカム角センサと、
を備えたエンジンの制御装置であって、
前記エンジンの始動時であって前記クランク角センサが異常である場合に、前記回転位相が前記始動時用回転位相にロックされていると仮定し、前記カム角センサの出力に基づき前記クランクシャフトの回転角を検出して前記エンジンを制御する第1の故障時制御を行い、前記第1の故障時制御によって前記エンジンが始動しない場合に、前記回転位相が前記調整可能範囲の一方端である初期位相であると推定し、前記カム角センサの出力に基づき前記クランクシャフトの回転角を検出して前記エンジンを制御する第2の故障時制御に切替えるエンジンの制御装置。
【請求項2】
前記第1の故障時制御を判定期間だけ継続しても前記エンジンが始動しなかった場合に、前記第2の故障時制御に切替え、かつ、
前記判定期間を、前記エンジンの運転条件に応じて可変とする請求項1記載のエンジンの制御装置。
【請求項3】
前記判定期間を、燃料噴射又は点火の積算回数が設定数に達するまでの期間とする請求項2記載のエンジンの制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−159013(P2012−159013A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18348(P2011−18348)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(509186579)日立オートモティブシステムズ株式会社 (2,205)
【Fターム(参考)】