説明

エンジンの潤滑装置

【課題】エンジン性能の低下を伴うことなく、オイル消費量の増大を抑制することのできるエンジンの潤滑装置を提供する。
【解決手段】シリンダボアに対応して仕切られ相互にほぼ密閉状態で分離された複数の独立クランク室(126)を有する独立スカベンジシステムを備えるドライサンプ潤滑方式のエンジンにおいて、各クランク室における少なくとも隣接するクランク室同士を連通する連通路(127,128)と、連通路の有効開口面積を変更する開口面積変更手段(129)と、エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段と、運転状態検出手段により検出された運転状態に基づいて開口面積変更手段を連通路が所定の有効開口面積となるように制御する開口面積変更制御手段と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの潤滑装置、特にドライサンプ潤滑方式を採用するエンジンに好適なエンジンの潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、この種のドライサンプ潤滑方式を採用するエンジンでは、潤滑油ポンプが、スカベンジポンプとフィードポンプとから構成され、スカベンジポンプが、内燃機関のクランクケースの底部に設けられたオイルサンプから回収油路を介して潤滑油を吸引し潤滑油タンクに回収するようにされている。ところで、この回収油路のオイルサンプへの配置位置によっては、車両が勾配路を走行するとき、あるいは減速または旋回走行により慣性力が発生するときなど、エンジン(内燃機関)の使用形態によりクランク室内の潤滑油が流動して、回収油路のオイルサンプへの接続口が油面上に露出し、スカベンジポンプによる潤滑油の吸入が効率よく行われず、クランク室内に残った潤滑油をクランク軸が撹拌することによるフリクションで出力損失(エンジン性能低下)が発生することがある。そこで、これに対処すべく提案され、クランク室をシリンダボアに対応して仕切り、相互にほぼ密閉状態で分離される複数の独立クランク室に分割して、これらの各独立クランク室内の潤滑油をそれぞれ吸入するスカベンジポンプを設けるようにした、いわゆる、独立スカベンジシステムが知られている(例えば、特許文献1及び2)。
【0003】
一方、ドライサンプ潤滑方式を採用するエンジンは、通常、レース用車両やスポーツ仕様車などに搭載されることから、ピストンのポンピングロスを極力低減させることが要求されている。そこで、かかるポンピングロスを低減させる目的で、隣接する気筒間のジャーナル壁に貫通孔を設けて、ほぼ密閉状態で分離されている独立クランク室間を連通させるようにしたエンジンも知られている(例えば、特許文献3)。
【0004】
【特許文献1】特開2002−276317号公報
【特許文献2】特開平6−346712号公報
【特許文献3】特開平7−145753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、本発明者等の鋭意研究によれば、以下のことが判明した。すなわち、上述の独立スカベンジシステムにおいては、ほぼ密閉状態で分離されている独立クランク室間を連通させるとき、その通路の開口面積が小さいと独立クランク室内の圧力振幅が大きくなり、ある運転状態では、吸気通路ないしは燃焼室内の圧力との圧力差ΔPが大きくなり、シリンダとピストンの間からオイルが燃焼室内に吸い込まれる、いわゆるオイル上がりによるオイル消費量が増大する。反面、図6にその通路の開口面積を異ならせて示すように、通路の開口面積が大きくなると独立クランク室内の圧力振幅は小さくなる。この結果、圧力差ΔPは減少しオイル消費量に関しては改善される。しかし、通路の開口面積が大きくなると、図7に示すように、圧力変動幅が低下する。すると、エンジンの回転速度によってはポンプ仕事が悪化してフリクションが増加することにより、エンジン性能が低下する。すなわち、図8に示すように、エンジン性能の低下の要因であるフリクションは、エンジンの低速(例えば、1000rpm程度)、中速(例えば、4000rpm程度)の回転領域では通路開口面積の大きさにはさほど影響されないが、高速回転領域(例えば、8600rpm程度)においては、通路開口面積が大きくなるほど増加する傾向にあることが判明したのである。かかる高速回転領域でのエンジン性能の低下は、特に高速回転領域での使用頻度の高いレース用車両やスポーツ仕様車などに搭載されたエンジンにおいては好ましくない。
【0006】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、エンジン性能の低下を伴うことなく、オイル消費量の増大を抑制することのできるエンジンの潤滑装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明に係るエンジンの潤滑装置の一形態は、シリンダボアに対応して仕切られ相互にほぼ密閉状態で分離された複数の独立クランク室を有する独立スカベンジシステムを備えるドライサンプ潤滑方式のエンジンにおいて、各クランク室における少なくとも隣接するクランク室同士を連通する連通路と、前記連通路の有効開口面積を変更する開口面積変更手段と、前記エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段と、前記運転状態検出手段により検出された運転状態に基づいて前記開口面積変更手段を連通路が所定の有効開口面積となるように制御する開口面積変更制御手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
この本発明の一形態によれば、運転状態検出手段によって検出されたエンジンの運転状態に基づいて、連通路の有効開口面積を変更する開口面積変更手段が、その連通路が所定の有効開口面積となるように、開口面積変更制御手段により制御される。これにより、各クランク室内の圧力が適切に制御されるので、オイルが燃焼室内に吸い込まれることが抑制され、エンジン性能の低下を伴うことなくオイル消費量の増大が抑制される。
【0009】
ここで、上記本発明に係るエンジンの潤滑装置の一形態は、前記クランク室内の圧力を検出するクランク室内圧力検出手段をさらに備え、前記クランク室内圧力検出手段によりそれぞれ検出されるクランク室内圧力がガード値を超えないように、前記開口面積変更制御手段は前記開口面積変更手段を制御するようにしてもよい。
【0010】
このようにすると、クランク室内の実際の圧力に応じて、連通路の開口面積変更手段が制御されるので、クランク室内の圧力がガード値以下にされてより精度よくオイルの燃焼室内への吸い込みを抑制することができる。
【0011】
さらに、上記本発明に係るエンジンの潤滑装置の一形態は、スロットル弁より下流側の吸気通路内又は筒内の圧力を検出する吸気圧力検出手段と、車両の減速運転を検出する減速運転検出手段をさらに備え、前記減速運転検出手段により減速運転が検出されて、前記吸気圧力検出手段により検出されるスロットル弁より下流側の吸気通路内又は筒内の圧力が当該減速運転に対応する所定の閾値より小さいときは、前記開口面積変更制御手段は前記所定の有効開口面積を増大補正するようにしてもよい。
【0012】
このようにすると、スロットル弁より下流側の吸気通路内又は筒内の圧力により、スロットル弁周りのデポジット量が推定され、デポジット量に応じて有効開口面積が増大補正されるので、クランク室内の圧力がスロットル弁より下流側の吸気通路内又は筒内の圧力に対応して制御され、より精度よくオイルの燃焼室内への吸い込みを抑制することができる。
【0013】
ここで、本明細書で用いられる「圧力」は絶対圧基準で表わされている。なお、「負圧」とは、大気圧基準の圧力であり、負圧が大きいないしは高いということは絶対圧としては小さく、逆に、負圧が小さいないしは低いということは絶対圧としては大きく、より大気圧に近いことを意味する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0015】
図1は、本発明のエンジンの潤滑装置を、独立スカベンジシステムを備えるドライサンプ潤滑方式の火花点火式エンジン(以下、単にエンジンと称す)に適用した場合のシステム構成を示すスケルトン図である。
【0016】
図1を参照すると、本実施の形態におけるエンジン本体100は、シリンダブロック110の下部にクランクケース120が一体に設けられ、シリンダブロック110の上部にシリンダヘッド130及びヘッドカバー140が順次結合されて構成されている。そして、クランクケース120の下面には、底面がほぼ平坦で浅底のオイルパン部材150が不図示のボルトなどで取り付けられ、ドライサンプを形成している。
【0017】
なお、シリンダブロック110内の各ボアにはそれぞれピストン111が往復移動可能に収容され、コネクティングロッド112によってピストン111の往復運動がクランクシャフト113の回転運動に変換される。なお、本実施の形態において、シリンダブロック110の下部のクランクケース120には、クランクシャフト113を支承する軸受け面を有するクランクジャーナル壁122がシリンダブロック110に一体に形成されている。かくて、クランクシャフト113は各クランクジャーナル壁122と、当該クランクジャーナル壁122にボルト124で下側から固定されたベアリングキャップ125とにより、回転可能に支承される。また、これらのクランクジャーナル壁122とベアリングキャップ125とによって、クランクケース120内のクランク室が各シリンダボアに対応して仕切られ、オイルパン部材150と共に、相互にほぼ密閉状態で分離された複数の独立クランク室126(4気筒エンジンの場合、第1ないし第4の独立クランク室126#1,126#2,126#3,126#4)が形成されている。
【0018】
さらに、本実施の形態においては、図2にも示すように、これら第1ないし第4の独立クランク室126#1,126#2,126#3,126#4に対応させて、連通枝路127(第1ないし第4の連通枝路127#1,127#2,127#3,127#4)が形成され、これら第1ないし第4の連通枝路127#1,127#2,127#3,127#4が共通1個の連通路128に連通されている。かくて、これらの連通枝路127と共通1個の連通路128でもって、独立クランク室126同士が連通されている。そして、これらの連通枝路127には、それぞれ、電磁開閉弁129(第1ないし第4の電磁開閉弁129#1,129#2,129#3,129#4)が設けられている。これら第1ないし第4の電磁開閉弁129#1,129#2,129#3,129#4の開口面積、すなわち、開度を可変制御することにより、各独立クランク室126内の圧力が調整可能とされている。
【0019】
また、シリンダヘッド130には、燃焼室が形成され、この燃焼室に開口する吸気ポート131及び排気ポート132にそれぞれ連通されて、吸気マニホルド160及び排気マニホルド170が接続されている。吸気ポート131及び排気ポート132は、バルブガイドに摺動自在に案内された吸気バルブ133及び排気バルブ134によってそれぞれ開閉され、これらの吸気及び排気バルブ133、134は可変バルブタイミング機構を備えた吸気及び排気カムシャフト135,136によりバルブオーバーラップを変えつつそれぞれ駆動可能とされている。
【0020】
吸気ポート131は対応する吸気マニホルド160を介して吸気通路162に連結されている。吸気通路162内には、吸気量を制御するスロットル弁163が配置されており、本実施の形態においては、後述するECU300からの制御信号によりその開度が制御される、いわゆる電制スロットル弁とされている。また、吸気通路162のスロットル弁163の上流側には不図示のエアフローメータ及びエアクリーナが順に配置されている。
【0021】
一方、排気ポート132は排気マニホルド170及び排気管172を介して排気ガス浄化装置174に連結されており、この排気ガス浄化装置174内には排気ガス中のHC、CO、NOx等を浄化するための三元触媒が配置されている。
【0022】
また、各吸気ポート131に臨むべく吸気マニホルド160に設けられた不図示の各燃料噴射弁は燃料供給管を介して不図示の燃料リザーバ、いわゆるデリバリパイプに連結されており、デリバリパイプ内へは電制可変燃料ポンプから目標燃料圧となるように燃料が供給される。なお、燃焼室に臨んで設けられた不図示の点火プラグに給電するイグナイタも備えている。
【0023】
さらに、本実施の形態においては、エンジン本体100とは別体のオイルタンク180が設けられている。このオイルタンク180はエンジンルーム内の適宜位置に配置される。そして、エンジン本体100のオイルパン部材150で形成されたドライサンプに回収されたオイルがスカベンジポンプ(S/P)182によって吐出パイプ184を介してオイルタンク180に移送される。さらに、オイルタンク180に貯留されたオイルはフィードポンプ(F/P)186によって吸入パイプ188を介してオイルタンク180から吸入され、エンジン本体100内のオイルギャラリー189を経て潤滑部位に供給される。なお、本実施の形態においては、図2に示すように、4気筒エンジンの第1ないし第4の各独立クランク室126に対応させてオイルパン部材150の左右に形成された第1ないし第4のオイル吸込み口152が、共通1個の吸込み通路154に連通され、この吸込み通路154がスカベンジポンプ(S/P)182の吸込み側に接続されている。
【0024】
そして、本実施の形態において、このオイルタンク180にはその上方の内部空間とスロットル弁163より下流側の吸気通路162とを連通するガス通路190が設けられている。さらに、このガス通路190にはスロットル弁163の下流側の吸気負圧に応じて開度が変化するPCVバルブ192が介装されている。また、スロットル弁163より上流側の吸気通路162とヘッドカバー140の内部とを連通する第1新気導入通路194が設けられ、この第1新気導入通路194に電磁式の流量制御弁196が介装されている。また、ヘッドカバー140の内部とクランクケース120内に形成される各クランク室126内とは、シリンダヘッド130及びシリンダブロック110を貫通して形成された第2新気導入通路198でもって連通されている。
【0025】
さらに、本実施の形態においては、燃焼室を形成する筒内の圧力を検出する筒内圧力検出手段としての筒内圧力センサ200(第1ないし第4の筒内圧力センサ200#1,200#2,200#3,200#4)、クランクケース120内に形成されるクランク室126内の圧力を検出するクランク室内圧力検出手段としてのクランク室内圧力センサ202(第1ないし第4のクランク室内圧力センサ202#1,202#2,202#3,202#4)が設けられている。
【0026】
電子制御ユニット(ECU)300は、CPU(中央演算装置)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、ROM(リードオンリメモリ)、不揮発性メモリ、入出力ポート等を双方向バスで接続した公知の形式のデジタルコンピュータからなり、エンジンに設けられた各種センサと信号をやり取りして燃料噴射量、点火時期制御等の機関の基本制御を行う他、以下で述べるように、クランク室126内の圧力制御も行う。上述した筒内圧力センサ200及びクランク室内圧力センサ202の他に、燃料噴射量、点火時期制御等を行うのに必要なセンサとして、吸入空気量を計測するためのエアフローメータ、機関回転数を得るためのクランク角センサ、スロットル弁163の開度を得るためのスロットルポジションセンサや冷却水温センサなどがECU300に接続されており、これらの出力信号はECU300に供給される。なお、本実施形態では、車両の速度が不図示の車速センサから入力されている。
【0027】
さらに、アクセルペダルの踏込量に比例した出力電圧を発生するアクセル開度センサが設けられ、その出力電圧はECU300へ入力される。またECU300には、スロットル弁163のアクチュエータ、電磁式の流量制御弁196、電磁開閉弁129、不図示のイグナイタ及び燃料噴射弁等も接続されていて、ECU300からの出力信号により制御される。
【0028】
ここでまず、上記のように構成された本実施形態の一般的な作用を説明する。エンジン100の作動中においては、フィードポンプ186によりオイルタンク180内のオイルが不図示のオイルストレーナを介して吸引され、オイルフィルタを経て、クランクケース120ないしはシリンダブロック110に形成されたオイルギャラリー189から供給通路に供給される。そして、被潤滑部ないしは油圧作動部に供給されたオイルはその後、重力に従ってクランクケース120内部のオイルパン部材150で形成されたドライサンプに回収される。さらに、ドライサンプに回収されたオイルは他のブローバイガスなどと共にオイルストレーナを介してスカベンジポンプ182に吸引され、吐出パイプ184を介してオイルタンク180に吐出される。この結果、クランク室126内の圧力は、電磁式の流量制御弁196が開成されて新気が導入されない限り、低下し続ける。一方、この吐出されたオイルは、再度、フィードポンプ186によりエンジン100内に供給される。このように、エンジン100の作動中においてオイルは、エンジン100の被潤滑部ないしは油圧作動部に供給され、その残りの量がオイルタンク180に貯留され、その上方の内部空間にガス成分が滞留することになる。
【0029】
なお、このオイルタンク180の上方の内部空間に滞留しているガス成分は、スロットル弁163より下流側の吸気通路162に連通されているガス通路190を介して、吸気系に還流される。すなわち、エンジン100の高負荷領域を除く通常の運転条件下では、スロットル弁163の下流側の吸気系に十分な負圧が発生するので、この負圧に応じて開度が変化するPCVバルブ192が開くからである。
【0030】
以下、本実施形態において行われるクランク室126内の圧力制御の一手順について、図3のフローチャートを参照しつつ説明する。なお、この制御ルーチンは所定周期で実行される。
【0031】
まず、エンジンが始動され制御がスタートされると、ステップS301において、エンジンの暖機が完了しているか否かが判定され、暖機が完了しているとステップS302に進む。そして、ステップS302においては、不図示の車速センサからの出力信号に基づいて、車速が一定値以上か否かが判定される。車速が一定値未満のときは、この制御ルーチンは終了される。一方、車速が一定値以上であるときはステップS303に進み、エンジン回転数及び負荷が取得される。具体的には、クランク角センサからの出力信号に基づいて算出されるエンジン回転数と、スロットルポジションセンサからの出力信号に基き得られるスロットル弁163の開度とが取得される。そして、次のステップS304に進み、前のステップS303において取得されたエンジン回転数及び負荷に対応する電磁開閉弁129の最適弁開度がマップより求められて設定される。
【0032】
なお、この電磁開閉弁129の最適弁開度は、エンジン回転数及び負荷により表されるエンジン運転状態に対応させて、エンジン性能の低下を伴うことなくオイル消費量を最小にする独立クランク室126内の最適圧力を得ることができる、最適な連通路面積を予め実験により求め、この最適連通路面積を達成する弁開度としてマップに保管されている。例えば、電磁開閉弁129がデューティ制御される弁である場合には、そのデューティ比Xi,jの値が、図4に示すように、縦軸にスロットル弁開度、横軸にエンジン回転数を採った二次元マップの各アドレスに保管されている。なお、電磁開閉弁129がバタフライ式の弁などの場合には、その開度が同様の二次元マップの各アドレスに保管される。
【0033】
そこで、ステップS304において設定されたデューティ比Xi,jでもって電磁開閉弁129がデューティ制御され、各独立クランク室126(第1ないし第4の独立クランク室126#1,126#2,126#3,126#4)内の圧力が最適となるようにされる。なお、電磁開閉弁129の開度制御開始のタイミングは、各気筒におけるピストン111の位置(下降行程又は上昇行程にあるかなど)に対応するクランク角により決定される。今、エンジン100の点火順序が#1、#3、#4、#2の気筒の順であるとするとき、例えば、吸入行程にある#1気筒に対応する独立クランク室126#1内を最適圧力とするには、第1の電磁開閉弁129#1の開口面積が上述のデューティ比Xi,jで制御されるとともに、少なくとも隣接する圧縮行程の#2の気筒の電磁開閉弁129#2の開口面積がそれに対応して制御される。なお、他の気筒に関しても同様に電磁開閉弁129がデューティ制御される。
【0034】
次に、ステップS305においては、このようにして圧力が制御された各独立クランク室126内の圧力CPがガード値CPguardを超えているか否かが判定される。具体的には、各独立クランク室126に設けられたクランク室内圧力センサ202からの出力信号により、第1ないし第4の独立クランク室内圧力CP#1,CP#2,CP#3,CP#4がガード値CPguardを超えているか否かが判定される。超えていないときは後述するステップS307に進み、超えているときはステップS306に進む。そこで、このステップS306では、上述のステップS304で設定されたデューティ比Xi,jの値が補正される。この補正は、ガード値CPguardを超えた独立クランク室126内の圧力CPを低下させるべく、デューティ比Xi,jの値から一定の所定値Yを減ずるようにして行われてもよい。このようにすると、独立クランク室126内の圧力がガード値CPguard以下にされて、より精度よくオイルの燃焼室内への吸い込みが抑制される。
【0035】
また、独立クランク室内の圧力CPがガード値CPguardを超えていないとき、及び上述のデューティ比Xi,jの値が補正された後に進むステップS307においては、フュエルカット(以下、F/Cと称す)中であるか否かが判定され、F/C中でないときはこの制御ルーチンは終了される。一方、F/C中であるときはステップS308に進み、可変バルブタイミング機構が制御されてバルブオーバーラップが最大にされる。かくて、吸気通路162内での負圧の発生(圧力の低下)が抑制される。
【0036】
次に、本発明の他の実施の形態に係る制御に付き、図5のフローチャートを参照しつつ説明する。なお、この制御ルーチンは上述の制御ルーチンのサブルーチンとして同じく所定周期で実行される。
【0037】
そこで、この制御ルーチンが開始されると、ステップS501において車両が減速運転中であるか否かが判定される。この減速運転中であるか否かの判定は、例えば、車速センサからの出力信号及びスロットルポジションセンサからの出力信号に基づいてECU300にて行われ、これらが車両の減速運転を検出する減速運転検出手段を構成している。減速運転中でないときは、この制御ルーチンは終了される。
【0038】
そして、減速運転中であると判定されるとステップS502に進み、スロットル弁163より下流側の吸気通路160内、又は筒内の圧力Pが当該減速運転に対応する所定の圧力閾値より小さいか否かが判定される。より具体的には、スロットル弁163が閉じられた車両の減速運転時にそれぞれの減速度に対応して発生する通常時の圧力(負圧)を基準として、所定の圧力閾値が設定され、マップ化されて保管されており、この所定の圧力閾値に対し、例えば、筒内圧力Pが小さいか否かが判定される。筒内圧力Pが所定の圧力閾値より小さくないときは、この制御ルーチンは終了される。一方、筒内圧力Pが所定の圧力閾値より小さいときは、ステップS503に進み、前述した図4に示すデューティ比Xi,jの値がかさ上げ(増大)補正される。すなわち、デューティ比Xi,jの値に対し、一律に一定の所定値Zが加算される。
【0039】
これは、筒内圧力Pが所定の圧力閾値より小さいということは、いわゆるオイル上がりによるオイル消費量が多い結果として、スロットル弁163の下流ないしはその周辺へのデポジット付着の増大と予想される。したがって、このような場合には、電磁開閉弁129の有効開口面積を増大補正することにより、エンジン100の性能低下に関しては多少の犠牲を払いつつ、これ以上のオイル消費量の増大を防止するためである。そこで、次のステップS504においては、かかるエンジン100の性能低下状態を運転者に知らせるべく、警報が発せられる。
【0040】
なお、当該実施形態では、吸気圧力検出手段として筒内圧力センサ200を用いて筒内圧力Pを検出するようにしたが、これは吸気通路に設けた吸気圧力センサを用いてスロットル弁163より下流側の吸気通路160内の圧力を検出するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明のエンジンの潤滑装置をドライサンプ潤滑方式の火花点火式エンジンへ適用した実施形態のシステム構成スケルトン図である。
【図2】図1のクランクシャフト軸線に沿う断面図である。
【図3】本発明の実施形態において行われるオイル消費量低減のためのクランク室内圧力制御の一手順を示すフローチャートである。
【図4】デューティ比Xi,jの値が各アドレスに保管されている二次元マップの一例を示すグラフである。
【図5】本発明の他の実施形態において行われるデポジット増加判定の一手順を示すフローチャートである。
【図6】通路の開口面積と独立クランク室内の圧力振幅との関係を示すグラフであり、実線は開口面積が大、破線は開口面積が中、一点鎖線は開口面積が小の場合である。
【図7】通路の開口面積と圧力変動幅との関係を示すグラフである。
【図8】エンジンの異なる回転領域に対応した通路の開口面積とフリクションとの関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
100 エンジン本体
110 シリンダブロック 111 ピストン
126 独立クランク室
127 連通枝路
128 連通路
129 電磁開閉弁12912
130 シリンダヘッド
162 吸気通路
163 スロットル弁
180 オイルタンク
182 スカベンジポンプ
186 フィードポンプ
200 筒内圧力センサ
202 クランク室内圧力センサ
300 電子制御ユニット(ECU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダボアに対応して仕切られ相互にほぼ密閉状態で分離された複数の独立クランク室を有する独立スカベンジシステムを備えるドライサンプ潤滑方式のエンジンにおいて、
各クランク室における少なくとも隣接するクランク室同士を連通する連通路と、
前記連通路の有効開口面積を変更する開口面積変更手段と、
前記エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段と、
前記運転状態検出手段により検出された運転状態に基づいて前記開口面積変更手段を連通路が所定の有効開口面積となるように制御する開口面積変更制御手段と、
を備えることを特徴とするエンジンの潤滑装置。
【請求項2】
前記クランク室内の圧力を検出するクランク室内圧力検出手段をさらに備え、
前記クランク室内圧力検出手段によりそれぞれ検出されるクランク室内圧力がガード値を超えないように、前記開口面積変更制御手段は前記開口面積変更手段を制御することを特徴とする請求項1に記載のエンジンの潤滑装置。
【請求項3】
スロットル弁より下流側の吸気通路内又は筒内の圧力を検出する吸気圧力検出手段と、車両の減速運転を検出する減速運転検出手段をさらに備え、
前記減速運転検出手段により減速運転が検出されて、前記吸気圧力検出手段により検出されるスロットル弁より下流側の吸気通路内又は筒内の圧力が当該減速運転に対応する所定の閾値より小さいときは、前記開口面積変更制御手段は前記所定の有効開口面積を増大補正することを特徴とする請求項1又は2に記載のエンジンの潤滑装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−38146(P2010−38146A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−205879(P2008−205879)
【出願日】平成20年8月8日(2008.8.8)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】