説明

エンジンの異常判定システム

【課題】エアフローメータの異常判定の精度を向上させることができるシステムを提供すること。
【解決手段】エンジン2の異常判定システム1は、クランク角センサ2aから算出したエンジン2の回転数と、温度センサ12aから検出した温度と、圧力センサ12bから検出した圧力とからシリンダ流入ガスの流量を算出し、差圧センサ34、44から検出した差圧とEGR弁32、42の開度とからEGRガスの流量を算出し、算出したシリンダ流入ガスの流量から算出したEGRガスの流量を差し引いた新気流量の基準値と、エアフローメータ16により検出された新気流量の検出値との差が一致値以上であればエアフローメータ16を異常と判定する構成となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンの異常を判定するシステムに関し、詳しくは、EGR通路を備えたエンジンに取り込まれる新気流量を検出可能なエアフローメータの異常を判定するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エアフローメータからの新気流量の検出値は、燃料の噴射量の制御だけでなく、後処理装置やEGR制御にも使用されている。ここで、下記特許文献1には、このエアフローメータの異常を判定するシステムが開示されている。具体的には、ECUが予め記憶されたマップに基づいてエンジンの運転状態(エンジンの温度、エンジン回転速度、燃料噴射量など)から目標EGR弁開度などを算出することにより新気流量の基準値を設定し、この設定した新気流量の基準値とエアフローメータによって検出された新気流量の検出値とを比較し、この比較した両値の乖離が大きいとエアフローメータの異常と判定するシステムが開示されている。このようにしてエアフローメータの異常を判定できるため、排ガス性能に悪影響を及ぼすことを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−100516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した特許文献1の技術では、エンジンの運転状態から算出される目標吸気流量制御弁開度、目標排気流量制御弁開度、目標EGR弁開度によって新気流量の基準値を設定していたが、新気流量の基準値を設定するために使用するパラメータが多く、エンジンの運転状態の変動により新気流量の基準値が大きく変動するため、新気流量の基準値を設定しても、その精度が低くなることがあった。また、エンジンに還流されるEGRガス量をエンジンの運転状態と目標EGR開度とによって推定するのみであったので、推定精度が低くなることがあった。上述の理由で、異常の誤検出防止のために異常判定閾値の余裕を大きく取らなければならないという問題が発生していた。したがって、エアフローメータの異常判定の精度も低くなることがあった。
【0005】
本発明は、このような課題を解決しようとするもので、その目的は、エアフローメータの異常判定の精度を向上させることができるシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するためのものであって、以下のように構成されている。
請求項1に記載の発明は、エンジンと、該エンジンから排出される排気ガスの一部を排気系から取り出して吸気系に還流するEGR通路と、該エンジンに取り込まれる新気流量を検出可能なエアフローメータと、を備え、該EGR通路には、該EGR通路の内部を流れるEGRガスの流量を調節可能なEGR弁が備えられているエンジンの異常判定システムであって、前記エンジンには、クランク角を検出することにより自身の回転数を算出可能なクランク角センサが備えられており、前記吸気系には、前記エンジンに取り込まれるシリンダ流入ガスの温度と圧力とをそれぞれ検出可能な温度センサと圧力センサとが備えられており、前記EGR通路には、前記EGR弁の上流側と下流側との差圧を検出可能な差圧センサが備えられており、前記クランク角センサから算出した前記エンジンの回転数と、前記温度センサから検出した温度と、前記圧力センサから検出した圧力とから前記シリンダ流入ガスの流量を算出し、前記差圧センサから検出した差圧と前記EGR弁の開度とからEGRガスの流量を算出し、算出した前記シリンダ流入ガスの流量から算出したEGRガスの流量を差し引いた新気流量の基準値と、前記エアフローメータにより検出された新気流量の検出値との差が一定値以上であれば前記エアフローメータを異常と判定することを特徴とする構成である。
この構成によれば、シリンダ流入ガスの流量からEGRガスの流量を差し引いたものを新気流量の基準値として算出している。このとき、差圧センサから検出した差圧とEGR弁の開度とからEGRガスの流量を直接的に算出している。そのため、特許文献1の技術と比較すると、算出した新気流量の基準値の精度が高くなり、結果として、エアフローメータの異常判定の精度を向上させることができる。
【0007】
また、請求項2に記載の発明は、前記EGR通路は、複数のEGR通路から構成され、前記複数のEGR通路のうちのいずれか一つのEGR通路が作動しているときのみ、前記エアフローメータの異常判定を実行することを特徴とする構成である。
この構成によれば、EGR通路が複数備えられている場合であっても、新気流量の基準値の算出を簡易な方法で算出できる。
【発明の効果】
【0008】
以上、説明したように、本発明によれば、シリンダ流入ガスの流量からEGRガスの流量を差し引いたものを新気流量の基準値として算出している。このとき、差圧センサから検出した差圧とEGR弁の開度とからEGRガスの流量を直接的に算出している。そのため、特許文献1の技術と比較すると、算出した新気流量の基準値の精度が高くなり、結果として、エアフローメータの異常判定の精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、本発明に係るエンジンの異常判定システムの全体構成図である。
【図2】図2は、図1の異常判定システムの制御フローである。
【図3】図3は、過給圧とシリンダ流入ガスの流量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態を、図1〜3を用いて説明する。まず、図1を参照して、本発明の実施例に係るディーゼルエンジン2の異常判定システム1の全体構成(機械的構成と電気的構成)を説明する。
【0011】
はじめに、この異常判定システム1の機械的構成から説明する。この異常判定システム1は、主として、ディーゼルエンジン2と、ターボチャージャ3と、低圧EGR通路4と、高圧EGR通路5とから機械的に構成されている。以下、これら各構成部材2、3、4、5を個別に説明していく。
【0012】
まず、ディーゼルエンジン2から説明する。ディーゼルエンジン2には、その吸気側にインテークマニホールド12を介して吸気管10が接続されている。このインテークマニホールド12には、その内部の温度を検出可能な吸気温センサ12aと、その内部の過給圧を検出可能な過給圧センサ12bとが備えられている。一方、吸気管10には、取り込んだ新気流量を検出可能なエアフローメータ16が備えられている。これら吸気管10とインテークマニホールド12とが、特許請求の範囲に記載の「吸気系」に相当する。
【0013】
また、ディーゼルエンジン2には、その排気側にエキゾーストマニホールド22を介して排気管20が接続されている。この排気管20には、ディーゼルエンジン2から排出される排気ガスを浄化可能な後処理装置26が備えられている。また、ディーゼルエンジン2には、そのクランク角を検出可能なクランク角センサ2aが備えられている。これら排気管20とエキゾーストマニホールド22とが、特許請求の範囲に記載の「排気系」に相当する。
【0014】
次に、ターボチャージャ3を説明する。ターボチャージャ3は、吸気管10に備えられたコンプレッサ14と、このコンプレッサ14に接続され排気管20に備えられたタービン24とから構成されている。これにより、ディーゼルエンジン2から排出される排気ガスによってタービン24を駆動させると、この駆動力をコンプレッサ14に伝達できるため、吸気管10の新気を過給させることができる。
【0015】
なお、コンプレッサ14は、エアフローメータ16の下流側に備えられている。一方、タービン24は、後処理装置26の上流側に備えられている。
【0016】
次に、低圧EGR通路4を説明する。低圧EGR通路4は、低圧EGR配管30と、低圧EGR弁32と、差圧センサ34とから構成されている。低圧EGR配管30は、その一端がエアフローメータ16とコンプレッサ14との間の吸気管10に接続されている。また、その他端が後処理装置26の下流側の排気管20に接続されている。これにより、排気管20の排気ガスを吸気管10の新気に戻すことができる、いわゆる、排気を再循環させることができる。この低圧EGR通路4が、特許請求の範囲に記載の「EGR通路」に相当する。
【0017】
低圧EGR弁32は、低圧EGR配管30の排気ガスを吸気管10の新気に戻す流量を調節可能な弁である。差圧センサ34は、低圧EGR弁32の上流側と下流側との差圧を検出可能なセンサである。
【0018】
最後に、高圧EGR通路5を説明する。高圧EGR通路5は、高圧EGR配管40と、高圧EGR弁42と、差圧センサ44とから構成されている。高圧EGR配管40は、その一端がコンプレッサ14とインテークマニホールド12との間の吸気管10に接続されている。また、その他端がタービン24の上流側の排気管20に接続されている。これにより、排気管20の排気ガスを吸気管10の新気に戻すことができる、いわゆる、排気を再循環させることができる。この高圧EGR通路5が、特許請求の範囲に記載の「EGR通路」に相当する。
【0019】
高圧EGR弁42は、高圧EGR配管40の排気ガスを吸気管10の新気に戻す流量を調節可能な弁である。差圧センサ44は、高圧EGR弁42の上流側と下流側との差圧を検出可能なセンサである。
【0020】
次に、この異常判定システム1の電気的構成を説明する。この異常判定システム1には、制御装置を成すECU6が備えられている。このECU6は、クランク角センサ2aと電気的に接続されている。これにより、ECU6は、ディーゼルエンジン2の回転数を算出できる。このECU6は、吸気温センサ12aと電気的に接続されている。これにより、ECU6は、インテークマニホールド12の内部のシリンダ流入ガスの温度を検出できる。
【0021】
また、このECU6は、過給圧センサ12bと電気的に接続されている。これにより、ECU6は、インテークマニホールド12の内部のシリンダ流入ガスの過給圧を検出できる。また、このECU6は、エアフローメータ16と電気的に接続されている。これにより、ECU6は、吸気管10の内部の新気流量を検出できる。また、ECU6は、低圧EGR弁32と電気的に接続されている。これにより、ECU6は、低圧EGR弁32を任意の開度にすることができる。
【0022】
また、ECU6は、差圧センサ34と電気的に接続されている。これにより、ECU6は、低圧EGR弁32の上流側と下流側との差圧を検出できる。また、ECU6は、高圧EGR弁42と電気的に接続されている。これにより、ECU6は、高圧EGR弁42を任意の開度にすることができる。また、ECU6は、差圧センサ44と電気的に接続されている。これにより、ECU6は、高圧EGR弁42の上流側と下流側との差圧を検出できる。
【0023】
続いて、図2〜3を参照して、上述した構成から成る異常判定システム1におけるECU6の動作を説明する。なお、以下においてS1〜S6とは、図2における各ステップのことである。
【0024】
まず、ECU6は、クランク角センサ2aから算出したディーゼルエンジン2の回転数と、吸気温センサ12aから検出した温度と、過給圧センサ12bから検出した圧力とからシリンダ流入ガスの流量を算出する(S1)。この算出は、ECU6に予め記憶の二次元マップから行われている(図3参照)。この二次元マップは、エンジン回転数により複数設定されており、エンジン回転数に応じた二次元マップを用いることにより、ディーゼルエンジン2の回転数と吸気温とから、インテークマニホールド12の内部の新気の過給圧に対するシリンダ流入ガスの流量を導くことができる。
【0025】
次に、ECU6は、差圧センサ34から検出した差圧と低圧EGR弁32の開度とから低圧EGRガスの流量を算出する(S2)。この算出は、ECU6に予め記憶の三次元マップ(図示しない)から行われている。この三次元マップにより、低圧EGR弁32の差圧と低圧EGR弁32の開度とから低圧EGRガスの流量を導くことができる。
【0026】
次に、ECU6は、差圧センサ44から検出した差圧と高圧EGR弁42の開度とから高圧EGRガスの流量を算出する(S3)。この算出も、上述した低圧EGRガスの流量の導きと同様に行われている。
【0027】
次に、ECU6は、ステップS1で算出した算出したシリンダ流入ガスの流量から、ステップS2とステップS3とで算出した低圧EGRガスの流量と高圧EGRガスの流量とを合算した流量を差し引いた新気流量の基準値と、エアフローメータ16によって検出した新気流量の検出値との差が一定値以上(例えば、基準値と検出値との差が基準値に対して±数%以内)であるか否かを判定する(ステップS4)。この判定がYESであれば、ECU6は、エアフローメータ16を異常と判定して(ステップS5)フローを終了する。一方、この判定がNOであれば、ステップS6へと進み、エアフローメータ16を正常と判定してフローを終了する。以降、一定期間ごとに、これら各ステップを繰り返す。
【0028】
本発明の実施例に係るディーゼルエンジン2の異常判定システム1は、上述したように構成されている。この構成によれば、シリンダ流入ガスの流量から、低圧EGRガスの流量と高圧EGRガスの流量とを合算した流量を差し引いたものを新気流量の基準値として算出している。このとき、差圧センサ34から検出した差圧と低圧EGR弁32の開度とから低圧EGRガスの流量を算出している。また、差圧センサ44から検出した差圧と高圧EGR弁42の開度とから高圧EGRガスの流量を算出している。このように各EGR弁32、42の開度とその前後の差圧から直接的に各EGRガスの流量を算出している。また、新気流量の基準値を算出するのに各EGR弁32、42と各差圧センサ34、44のみを使用するため、特許文献1の技術と比較すると、簡易な構成でかつ算出した新気流量の基準値の精度が高くなり、結果として、エアフローメータ16の異常判定の精度を向上させることができる。
【0029】
上述した内容は、あくまでも本発明の一実施の形態に関するものであって、本発明が上記内容に限定されることを意味するものではない。
実施例では、低圧EGR通路4と高圧EGR通路5を同時に作動させているときにエアフローメータ16の異常判定を行っていた。しかし、これに限定されるものでなく、例えば、低圧EGR通路4あるいは高圧EGR通路5のみを作動させているときにエアフローメータ16の異常判定を行ってもよい。このようにすると、低圧EGR通路4と高圧EGR通路5とが備えられている場合であっても、新気流量の基準値の算出を簡易な方法で算出できる。
また、実施例では、エンジンの例としてディーゼルエンジン2を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、ガソリンエンジンであっても構わない。
【0030】
また、実施例では、異常判定システム1は、主として、ディーゼルエンジン2と、ターボチャージャ3と、低圧EGR通路4と、高圧EGR通路5とから機械的に構成されている例を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、低圧EGR通路4と、高圧EGR通路5とのいずれか一方であっても構わない。また、ターボチャージャ3を備えていない車両においても、本発明は適用可能である。
【0031】
また、吸気温センサ12aは必ずしもインテークマニホールド12に搭載されている必要はなく、例えば、吸気管10に搭載されインテークマニホールド12の内部の温度を推定してもよい(EGRガスエネルギーと新気エネルギーの混合から推定)。また、過給圧センサ12bは必ずしもインテークマニホールド12に搭載されている必要はなく、吸気管10に搭載されていてもよい。
【0032】
また、実施例では、新気流量の基準値と、新気流量の検出値とが不一致であるか否かを判定し(S4)、この判定がYESであれば、ECU6は、エアフローメータ16を異常と判定して(S5)動作を終了する形態を説明した。しかし、これに限定されるものでなく、新気流量の基準値と、新気流量の検出値とが不一致のとき、エアフローメータ16を異常と判定してもよい。その場合、エアフローメータ16の異常を正確に検出できる。
【符号の説明】
【0033】
1 異常判定システム
2 ディーゼルエンジン(エンジン)
2a クランク角センサ
4 低圧EGR(EGR)通路
5 高圧EGR(EGR)通路
12a 吸気温センサ
12b 過給圧センサ
30 低圧EGR配管
32 低圧EGR弁(EGR弁)
34 差圧センサ
40 高圧EGR配管
42 高圧EGR弁(EGR弁)
44 差圧センサ




【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、該エンジンから排出される排気ガスの一部を排気系から取り出して吸気系に還流するEGR通路と、該エンジンに取り込まれる新気流量を検出可能なエアフローメータと、を備え、該EGR通路には、該EGR通路の内部を流れるEGRガスの流量を調節可能なEGR弁が備えられているエンジンの異常判定システムであって、
前記エンジンには、クランク角を検出することにより自身の回転数を算出可能なクランク角センサが備えられており、
前記吸気系には、前記エンジンに取り込まれるシリンダ流入ガスの温度と圧力とをそれぞれ検出可能な温度センサと圧力センサとが備えられており、
前記EGR通路には、前記EGR弁の上流側と下流側との差圧を検出可能な差圧センサが備えられており、
前記クランク角センサから算出した前記エンジンの回転数と、前記温度センサから検出した温度と、前記圧力センサから検出した圧力とから前記シリンダ流入ガスの流量を算出し、
前記差圧センサから検出した差圧と前記EGR弁の開度とからEGRガスの流量を算出し、
算出した前記シリンダ流入ガスの流量から算出したEGRガスの流量を差し引いた新気流量の基準値と、前記エアフローメータにより検出された新気流量の検出値との差が一定値以上であれば前記エアフローメータを異常と判定することを特徴とするエンジンの異常判定システム。
【請求項2】
請求項1に記載のエンジンの異常判定システムであって、
前記EGR通路は、複数のEGR通路から構成され、前記複数のEGR通路のうちのいずれか一つのEGR通路が作動しているときのみ、前記エアフローメータの異常判定を実行することを特徴とするエンジンの異常判定システム。







【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−15115(P2013−15115A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149916(P2011−149916)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機 (4,162)
【Fターム(参考)】