説明

エンジンオイルの劣化判定装置

【課題】エンジンオイルの劣化を精度良く検出する。
【解決手段】エンジンオイル中の添加剤残存量とオイル劣化指標(例えば単位時間あたりのペンタン不溶解分の増加量)との間に相関があり、しかもエンジンオイル中に添加剤残存無しとなった以降は、添加剤有りの状態のときと比べて、オイル劣化指標の特性が変化するという現象を利用し、エンジンオイル中の添加剤の有無に応じて、オイル劣化指標マップ(ペンタン溶解分マップA、B)を切り替える(ステップST22、ST23、ST24)。このようなマップの切り替えにより、オイル劣化検出の精度を高めることが可能となり、エンジンオイルの交換時期を適切に判断することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関を潤滑するエンジンオイルの劣化度合を判定するエンジンオイルの劣化判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載される内燃機関(以下、エンジンともいう)では、ピストン、クランクシャフト、コネクティングロッドなどの摺動各部をエンジンオイルにて潤滑している。このような潤滑用のエンジンオイルはエンジンの使用に伴って劣化する。
【0003】
エンジンオイルの劣化は、例えば、基油の酸化、摩耗防止剤や清浄分散剤などの添加剤の消耗、すすなどの燃焼生成物の外部からの混入、あるいは、エンジンオイル自体のポリマーのせん断などによって生じる。これらのいずれの場合でも、エンジンの性能を維持するためにはエンジンオイルの交換が必要である。
【0004】
エンジンオイルの交換時期を判定する方法として、エンジンオイルの劣化度合を定量的に示すパラメータを検出してオイル交換時期を判定する方法がある。オイル劣化度合を定量的に示すパラメータとしては、例えば、エンジンオイルの動粘度、全酸価(TAN:Total Acid Number)、全塩基価(TBN:Total Base Number)などがあり、これらの動粘度、全酸価、全塩基価のいずれか1つのパラメータもくしは複数のパラメータを検出(推定)して、エンジンオイルの劣化度合を判定している。
【0005】
また、他のオイル劣化判定方法として、エンジンオイルの電気抵抗値の変化から、エンジンオイル中の不溶解分濃度を検出し、その検出値に基づいてオイル劣化を判定する方法がある(例えば、特許文献1及び2参照)。
【特許文献1】特開平11−248092号公報
【特許文献2】特開平11−270787号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、エンジンオイルの劣化の判定には、上記したように動粘度、全酸価、全塩基価が用いられているが、これらの動粘度、全酸価、全塩基価のうち、どのパラメータをどのように評価すれば、正確なオイル劣化判定を行うことができるのかが現状では確立されておらず、より精度の高いオイル劣化判定方法の提供が望まれている。
【0007】
なお、エンジンオイル中の不溶解分濃度を検出する方法では、2つの電極を用いてエンジンオイルの電気抵抗値を検出して不溶解分濃度を求めているので、不溶解分濃度の検出値が他のオイル混入物(例えば添加物や燃料等)の影響を受ける可能性が高く、エンジンオイル中の不溶解分濃度のみを精度良く検出することは困難である。
【0008】
本発明はそのような実情を考慮してなされたもので、エンジンオイルの劣化を精度良く検出することができ、エンジンオイルの交換時期を適切に判断することが可能なエンジンオイルの劣化判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、内燃機関の運転状態に基づいてオイル劣化指標を求め、そのオイル劣化指標の積算値からエンジンオイルの劣化度合を判定するエンジンオイルの劣化判定装置において、エンジンオイル中の添加剤の有無を判定し、その判定結果に応じて、前記積算に用いるオイル劣化指標の特性を変更することを特徴としている。このような構成によれば、オイル劣化検出の精度を高めることが可能となり、エンジンオイルの劣化を適切に判定することができる。
【0010】
以下、本発明をより具体的に説明する。
【0011】
まず、エンジンオイルの劣化を判定するパラメータについて各種実験を行ったところ、エンジンオイル中のペンタン不溶解分を劣化寿命因子として選定することが適切であることが判明した。また、エンジンオイル中のペンタン不溶解分と酸化防止機能を有する添加剤(酸化防止剤)との関係を実験等により調べたところ、エンジンオイル中の添加剤残存量とペンタン不溶解分の混入増加量との間に相関があることが判明した。さらに、図8に示すように、エンジンオイル中の添加剤残存量が「0」になった以降は、添加剤有りの状態のときと比べて、ペンタン不溶解分の混入増加量の増加特性(図8に示すペンタン不溶解分の増加直線の傾き)が変化することを発見した。このような現象を利用して、本発明では、エンジンオイル中の添加剤の有無を判定し、その判定結果が添加剤無しの場合は、単位時間あたりのペンタン不溶解分の増加量を添加剤有りの場合よりも大きな値とするという構成を採用している。そして、このような特徴的構成を採用することにより、エンジンオイルの劣化を精度良く推定することができ、エンジンオイルの交換時期を適切に判断することができる。
【0012】
ここで、ペンタン不溶解分の混入増加量の増加特性を切り替える具体的な方法として、添加剤有りの場合に適合したペンタン不溶解分マップと、添加剤無しの場合に適合したペンタン不溶解分マップとを予め作成しておき、それら2つのマップのうち、いずれか一方のペンタン不溶解分マップをエンジンオイル中の添加剤の有無の判定結果に応じて選択するという方法を挙げることができる。
【0013】
また、エンジンオイル中の添加剤の有無を判定するパラメータとして、エンジンオイル中への水分混入量を挙げることができる。具体的には、エンジンオイル中に添加した酸化防止剤等の添加剤の消耗はエンジンオイル中への水分混入時の加水分解によるものが支配的である点、及び、エンジンオイル中への水分混入量はエンジン始動時の機関温度(冷却水温、油温)が低いほど多くなるという傾向がある点を利用して、エンジン始動時ごとの油温から添加剤消耗量を推定し、その添加剤消耗量の推定値を用いてエンジンオイル中の添加剤の有無を判定することができる。
【0014】
なお、以上の説明では、酸化防止機能を有する添加剤のエンジンオイル中の残存量に着目してエンジンオイルの劣化判定を行っているが、これに限られることなく、図8に示すような変化、つまり、エンジンオイル中の添加剤残存量が「0」になった以降に、単位時間あたりのペンタン不溶解分の増加量の増加特性が変化するような性状を有する他の添加剤があれば、その添加剤のエンジンオイル中の有無を判定し、その判定結果に応じてペンタン不溶解分マップを切り替えて、エンジンオイルの劣化判定を行うようにしてもよい。
【0015】
また、以上の説明では、単位時間あたりのペンタン不溶解分の増加量をオイル劣化指標としているが、エンジンオイル中の添加剤残存量に相関を示すものであれば、他のオイル劣化指標を用いてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、エンジンオイル中の添加剤の有無を判定し、その判定結果に応じてオイル劣化指標の特性を変更しているので、オイル劣化検出の精度を高めることが可能となり、エンジンオイルの劣化を適切に判定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0018】
まず、本発明のエンジンオイルの劣化判定装置を適用するエンジン(内燃機関)について説明する。
【0019】
−エンジン−
図1は本発明を適用するエンジンの概略構成を示す図である。なお、図1にはエンジンの1気筒の構成のみを示している。
【0020】
エンジン1は、多気筒ガソリンエンジンであって、燃焼室1aを形成するピストン1b及び出力軸であるクランクシャフト15を備えている。ピストン1bはコネクティングロッド16を介してクランクシャフト15に連結されており、ピストン1bの往復運動がコネクティングロッド16によってクランクシャフト15の回転へと変換される。
【0021】
クランクシャフト15には、外周面に複数の突起(歯)17a・・17aを有するシグナルロータ17が取り付けられている。シグナルロータ17の側方近傍にはクランクポジションセンサ27が配置されている。クランクポジションセンサ27は、例えば電磁ピックアップであって、クランクシャフト15が回転する際にシグナルロータ17の突起17aに対応するパルス状の信号(出力パルス)を発生する。
【0022】
エンジン1のシリンダブロック1cの下側には、エンジンオイルを貯留するオイルパン18が設けられている。このオイルパン18に貯留されたエンジンオイルは、エンジン1の運転時に、異物を除去するオイルストレーナを介してオイルポンプによって汲み上げられ、さらにオイルフィルタで浄化された後に、ピストン1b、クランクシャフト15、コネクティングロッド16などに供給され、各部の潤滑・冷却等に使用される。そして、このようにして供給されたエンジンオイルは、エンジン1の各部の潤滑・冷却等のために使用された後、オイルパン18に戻され、再びオイルポンプによって汲み上げられるまでオイルパン18内に貯留される。オイルパン18には、エンジンオイルの温度を検出する油温センサ22が配置されている。また、エンジン1のシリンダブロック1cには、エンジン水温(冷却水温)を検出する水温センサ21が配置されている。
【0023】
エンジン1の燃焼室1aには点火プラグ3が配置されている。点火プラグ3の点火タイミングはイグナイタ4によって調整される。イグナイタ4は、後述するECU(電子制御ユニット)100によって制御される。
【0024】
エンジン1の燃焼室1aには吸気通路11と排気通路12が接続されている。吸気通路11と燃焼室1aとの間に吸気バルブ13が設けられており、この吸気バルブ13を開閉駆動することにより、吸気通路11と燃焼室1aとが連通または遮断される。また、排気通路12と燃焼室1aとの間に排気バルブ14が設けられており、この排気バルブ14を開閉駆動することにより、排気通路12と燃焼室1aとが連通または遮断される。これら吸気バルブ13及び排気バルブ14の開閉駆動は、クランクシャフト15の回転が伝達される吸気カムシャフト及び排気カムシャフトの各回転によって行われる。
【0025】
一方、吸気通路11には、エアクリーナ7、熱線式のエアフローメータ23、吸気温センサ24(エアフローメータ23に内蔵)、及び、エンジン1の吸入空気量を調整するための電子制御式のスロットルバルブ5が配置されている。スロットルバルブ5はスロットルモータ6によって駆動される。スロットルバルブ5の開度はスロットルポジションセンサ26によって検出される。エンジン1の排気通路12には、排気ガス中の酸素濃度を検出するO2センサ25及び三元触媒8が配置されている。
【0026】
そして、吸気通路11には、燃料噴射用のインジェクタ(燃料噴射弁)2が配置されている。インジェクタ2には、燃料タンクから燃料ポンプによって所定圧力の燃料が供給され、吸気通路11に燃料が噴射される。この噴射燃料は吸入空気と混合されて混合気となってエンジン1の燃焼室1aに導入される。燃焼室1aに導入された混合気(燃料+空気)は点火プラグ3にて点火されて燃焼・爆発する。この混合気の燃焼室1a内での燃焼・爆発によりピストン1bが往復運動してクランクシャフト15が回転する。以上のエンジン1の運転状態は、ECU100によって制御される。
【0027】
−ECU−
ECU100は、図2に示すように、CPU101、ROM102、RAM103、バックアップRAM104などを備えている。
【0028】
ROM102は、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU101は、ROM102に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。RAM103は、CPU101での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM104は、エンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
【0029】
これらCPU101、ROM102、RAM103、及び、バックアップRAM104は、バス107を介して互いに接続されるとともに、外部入力回路105及び外部出力回路106と接続されている。外部入力回路105には、水温センサ21、油温センサ22、エアフローメータ23、吸気温センサ24、O2センサ25、スロットルポジションセンサ26、クランクポジションセンサ27、及び、オイル交換を行った後に操作されるリセットスイッチ28などが接続されている。また、外部出力回路106には、インジェクタ2、点火プラグ3のイグナイタ4、スロットルバルブ5のスロットルモータ6、及び、オイル交換時期に至ったことを運転者等に通知するためのウォーニングランプ9などが接続されている。
【0030】
そして、ECU100は、上記した各種センサの出力信号に基づいて、エンジン1の各種制御を実行する。さらに、ECU100は、下記の「オイル中の添加剤残存判定ルーチン」、「エンジンオイル寿命判定ルーチン」、及び、「オイル交換時リセットルーチン」などのエンジンオイル劣化判定に関する処理を実行する。
【0031】
−オイル中の添加剤残存判定ルーチン−
まず、エンジンオイル中の添加剤の消耗について説明する。
【0032】
エンジンオイル中に添加した酸化防止剤等の添加剤の消耗は、エンジンオイル中への水分混入時の加水分解によるものが支配的である。また、エンジンオイル中への水分混入量は、エンジン始動時の機関温度(冷却水温、油温等)が低いほど多くなるという傾向がある。このような点を考慮して、この例では、エンジンオイル中の添加剤残存量をエンジン始動時の油温に基づいて推定し、エンジンオイル中の添加剤残存の有無を判定している。その具体的な処理の例を図3のフローチャートを参照して説明する。なお、図3のオイル中の添加剤残存判定ルーチンは、ECU100においてエンジン1を始動するごとに実行される。
【0033】
ステップST11において、エンジン始動時に油温センサ22の出力信号を読み込んでエンジンオイルの油温を検出し、その検出した油温に基づいて図7に示すマップを参照して添加剤消耗量を算出する(ステップST12)。ここで、添加剤消耗量の算出に用いるマップは、エンジン始動時の油温と水分混入量との関係、及び、加水分解により添加剤が消耗する量とエンジン始動時の油温との関係等を、予め実験・計算等により求めてマップ化したものであり、ECU100のROM102内に記憶されている。なお、図7に示すマップの添加剤消耗量は、新品のエンジンオイル中に含まれる添加剤の量を100として規準化した値を用いている。
【0034】
ステップST13においては、ステップST12で算出した始動時の添加剤消耗量を用い、現在の添加剤残存値から始動時の添加剤消耗量を減算[添加剤残存値−始動時消耗量]し、その減算後の値を新たな添加剤残存値として記憶する。なお、添加剤残存値の初期値は100である。
【0035】
次に、ステップST14において、現在の添加剤残存値が「0」以上であるか否かを判定し、その判定結果が肯定判定である場合(添加剤残存値>0)は、このルーチンを一旦は終了する。一方、ステップST14の判定結果が否定判定である場合つまり添加剤残存値が「0」になった場合(添加剤無しの場合)は、ステップST15において添加無しフラグをONとしてこのルーチンを終了する。
【0036】
以上のように、添加剤残存無しになったときには、添加無しフラグがONとなり、後述する図4のフローチャートのステップST22の判定結果が肯定判定となる。
【0037】
−エンジンオイル寿命判定ルーチン−
まず、エンジンオイル寿命判定ルーチンでは、ペンタン不溶解マップAまたはペンタン不溶解マップBのいずれかのマップを用いる。
【0038】
ペンタン不溶解マップAは、エンジンオイル中に添加剤有りの場合に用いる3次元マップであって、図6に示すように、エンジン回転数、負荷、油温をパラメータとして予め実験・計算等により、単位時間あたりのペンタン不溶解分の増加量をD111・・Dxyzを求めてマップ化したものである。具体的には、例えばエンジン1のベンチテストにおいて、エンジン回転数、負荷、油温の各パラメータを変化させて、エンジン運転領域内の各種条件で、単位時間あたりのペンタン不溶解分の増加量を測定し、その各測定値をマップ化することによりペンタン不溶解分マップAを作成して、ECU100のROM102内に記憶しておく。なお、エンジン1の低回転・低負荷域から高回転域・高負荷までの各種運転条件の全体にわたって測定値を採取することは困難であるので、エンジン運転領域(運転条件)の端部分の測定値(図6に示すD111,Dx11,D1y1,Dxy1,D11z,Dx1z,D1yz,Dxyzに対応する部分の8個の測定値)と中央部の1個の測定値の計9個の測定値を採取し、これら採取した9個の測定値を用いて実験計画法(DoE:design of experiments)に基づいてマップを作成することが好ましい。
【0039】
ペンタン不溶解マップBは、エンジンオイル中に添加剤が無い場合に用いる3次元マップであって、添加剤無しとなった以後はオイル劣化指標が大きくなる点を考慮して、各種運転条件におけるオイル劣化指標(つまり単位時間あたりのペンタン不溶解分の増加量)をペンタン不溶解マップAよりも所定量だけ大きくしたマップである。具体的には、エンジンオイル中に添加剤無し(添加剤=0)となった時点以降の単位時間あたりのペンタン不溶解分の増加量の増加特性の変化(図8に示すペンタン不溶解分線の傾斜の変化)を予め実験等によって求め、その結果に基づいて、ペンタン不溶解マップAに対して、単位時間あたりのペンタン不溶解分の増加量を大きくする、という処理にてペンタン不溶解マップBを作成し、ECU100のROM102内に記憶しておく。
【0040】
次に、エンジンオイル寿命判定ルーチンを図4のフローチャートを参照して説明する。なお、エンジンオイル寿命判定ルーチンはECU100において、所定時間毎(例えば1秒毎)に繰り返して実行される。
【0041】
ステップST21において、エンジン回転数、負荷、油温などのエンジン運転条件を検出する。エンジン回転数は、クランクポジションセンサ27の出力信号から読み込む。負荷は、エアフローメータ23の検出信号から得られる吸入空気量に基づいて検出する。油温は、オイルパン18に配置した油温センサ22の出力信号から読み込む。
【0042】
ステップST22では、添加剤無しフラグがONであるか否かを判定する。ステップST22の判定結果が否定判定である場合、上記した2つのペンタン不溶解マップA、Bのうち、添加剤有りの場合のペンタン不溶解マップAを選択し(ステップST23)、ステップST24において、上記ステップST21で検出したエンジン回転数、負荷、油温に基づいて、ステップST23にて選択したペンタン不溶解マップAから得られるペンタン不溶解分の増加量を積算してペンタン不溶解分積算値を求める。
【0043】
ステップST25では、ペンタン不溶解分積算値が所定の判定値を超えているか否かを判定し、その判定結果が否定判定である場合、このルーチンを一旦終了する。ステップST25の判定結果が肯定判定である場合、ステップST26においてウォーニングランプ9を点灯した後にこのルーチンを終了する。なお、エンジンオイル中に添加剤が残存している状態でも、エンジン1の運転状況や外気温の環境条件などの影響により、ペンタン不溶解分の積算値が判定値よりも大きくなる場合があるので、ペンタン不溶解分積算値が判定値を超えたときには、添加剤が残存していても、それに関係なくウォーニングランプ9を点灯する。ここで、ステップST25に用いる判定値は、ペンタン不溶解分の積算値とオイル交換時期との関係などを考慮し、予め実験・計算等によって経験的に求めた値を設定する。
【0044】
一方、ステップST22の判定結果が肯定判定である場合、つまりエンジンオイル中に添加剤が無い場合には、ペンタン不溶解マップBを選択し(ステップST27)、ステップST24において、ステップST21で検出したエンジン回転数、負荷、油温に基づいて、ステップST27にて選択したペンタン不溶解マップBから得られるペンタン不溶解分の増加量を積算してペンタン不溶解分積算値を求める。次に、ステップST25において、ペンタン不溶解分の積算値が所定の判定値を超えているか否かを判定し、その判定結果が否定判定である場合、このルーチンを一旦終了する。ステップST25の判定結果が肯定判定である場合、ステップST26においてウォーニングランプ9を点灯して後にこのルーチンを終了する。
【0045】
以上のエンジンオイル寿命判定処理によれば、エンジンオイル中の添加剤残存量とペンタン不溶解分の混入増加量との間に相関があり、しかもエンジンオイル中の添加剤の残存値が「0」になった以降は、添加剤有りの状態のときと比べて、ペンタン不溶解分の混入増加量の増加特性(図8に示すペンタン不溶解分の増加直線の傾き)が変化するという現象を利用し、エンジンオイル中の添加剤の有無に応じて、ペンタン溶解分マップを切り替えているので、エンジンオイルの劣化を精度良く推定することができ、エンジンオイルの交換時期を適切に判断することができる。
【0046】
−オイル交換時リセットルーチン−
図5はオイル交換時リセットルーチンの処理内容を示すフローチャートである。この例のオイル交換時リセットルーチンは、上記したエンジンオイル寿命判定処理によってウォーニングランプ9が点灯し、オイル交換が実施された後に、リセットスイッチ28が操作された時点で開始され、まず、ステップST31においてウォーニングランプ9を消灯する。次に、添加剤残存値を100(初期値)に戻す処理(ステップST32)、ペンタン不溶解分積算値を「0」にする処理(ステップST33)、及び、添加剤無しフラグをOFFにする処理(ステップST34)を順次実行する。
【0047】
以上のような初期化が行われた後、再度、上記したオイル中の添加剤残存判定ルーチンにおいてエンジンオイル中の添加剤の消耗量が算出され、エンジンオイル寿命判定ルーチンにおいて、エンジンオイル中の添加剤が無しの状態になるまで添加剤有りの場合のペンタン不溶解マップAを用いてペンタン不溶解分の増加量を算出することにより、ペンタン不溶解分積算値が求められる。そして、エンジンオイル中の添加剤が無しとなった時点で、マップを切り替え、添加剤無しの場合のペンタン不溶解マップBを用いてペンタン不溶解分の増加量を算出することによりペンタン不溶解分積算値が求められ、ペンタン不溶解分積算値が判定値を超えた時点でウォーニングランプ9を点灯する、という処理が順次繰り返される。
【0048】
−他の実施形態−
以上の例では、ガソリンエンジンのエンジンオイルの劣化判定に本発明を適用した例を示したが、本発明はこれに限られることなく、例えばLPG(液化石油ガス)やLNG(液化天然ガス)などの他の燃料とする点火方式のエンジンのエンジンオイルの劣化判定にも適用可能であり、また、筒内直噴型エンジンのエンジンオイルの劣化判定にも適用可能である。さらに、点火方式のエンジンに限られることなく、ディーゼルエンジンなどのエンジンオイルの劣化判定にも本発明を適用することは可能である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】本発明のエンジンオイルの判定装置を適用するエンジンの一例を示す概略構成図である。
【図2】ECU等の制御系の構成を示すブロック図である。
【図3】ECUが実行するオイル中の添加剤残存判定ルーチンの処理内容を示すフローチャートである。
【図4】ECUが実行するエンジンオイル寿命判定ルーチンの処理内容を示すフローチャートである。
【図5】ECUが実行するオイル交換時リセットルーチンの処理内容を示すフローチャートである。
【図6】図4のエンジンオイル寿命判定ルーチンで用いるペンタン不溶解分マップを示す図である。
【図7】図4のエンジンオイル寿命判定ルーチンで用いる添加剤消耗量マップを示す図である。
【図8】エンジンオイル中の添加剤とペンタン不溶解分の時間変化を示すグラフである。
【符号の説明】
【0050】
1 エンジン
2 インジェクタ
3 点火プラグ
5 スロットルバルブ
6 スロットルモータ
9 ウォーニングランプ
18 オイルパン
22 油温センサ
23 エアフローメータ
27 クランクポジションセンサ
28 リセットスイッチ
100 ECU(判定装置)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の運転状態に基づいてオイル劣化指標を求め、そのオイル劣化指標の積算値からエンジンオイルの劣化度合を判定するエンジンオイルの劣化判定装置において、エンジンオイル中の添加剤の有無を判定し、その判定結果に応じて前記積算に用いるオイル劣化指標の特性を変更することを特徴とするエンジンオイルの劣化判定装置。
【請求項2】
請求項1記載のエンジンオイルの劣化判定装置において、
前記オイル劣化指標が、単位時間あたりのペンタン不溶解分の増加量であり、前記添加剤有無の判定結果が添加剤無しの場合は、前記単位時間あたりのペンタン不溶解分の増加量を添加剤有りの場合よりも大きな値とすることを特徴するエンジンオイルの劣化判定装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のエンジンオイルの劣化判定装置において、
添加剤有りの場合に適合したペンタン不溶解分マップと、添加剤無しの場合に適合したペンタン不溶解分マップとが設定されており、それら2つのマップのうち、いずれか一方のペンタン不溶解分マップを、前記添加剤有無の判定結果に応じて選択することを特徴とするエンジンオイルの劣化判定装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のエンジンオイルの劣化判定装置において、
前記内燃機関の始動時ごとの油温から添加剤消耗量を推定し、その添加剤消耗量の推定値を用いてエンジンオイル中の添加剤の有無を判定することを特徴とするエンジンオイルの劣化判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−146674(P2007−146674A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−338626(P2005−338626)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】