説明

エンジンマウントのストッパ構造

【課題】エンジンマウントの外筒とエンジンマウントブラケットとの間に配置されるサイドストッパの損傷を防止する。
【解決手段】エンジンを支持するエンジンマウントの内筒は断面コの字状のエンジンマウントブラケット11を介してエンジンに取り付けられ、エンジンマウントの外筒8は車体側取付けブラケット12を介して車体に取り付けられ、エンジンマウントの外筒8とエンジンマウントブラケット11との隙間に弾性体から成るサイドストッパ30,31を有するエンジンマウント11のストッパ構造において、エンジンマウントの外筒の周方向表面にはマスダンパを取り付け、マスダンパ32,33はエンジンマウントの外筒の軸方向両側において、外筒の軸方向に軸方向端面よりは突出され、外筒9の軸方向端面がサイドストッパ30,31に接触をしない厚さを有して配置されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はエンジンマウントのストッパ構造に係り、特に、エンジンを支持するエンジンマウントにおける、エンジン揺動を規制するためのサイドストッパの損傷防止を図ったエンジンマウントのストッパ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
フロントエンジン・フロントドライブ式の車両のエンジンを右側・左側・後側の3点のエンジンマウントにより支持している構造においては、図7・図8に示すように、エンジン101の後側を支持する後側エンジンマウント102がサスペンションフレーム103の上に設けられることが多い。後側エンジンマウント102は、内筒104及び外筒105とこれら内筒104及び外筒105の間に介装した弾性体106とを有している。内筒104は、断面コの字状のエンジンマウントブラケット107を介してエンジン101に取り付けられる。外筒105は、車体側取付けブラケット108・109を介して車体のサスペンションフレーム103に取り付けられる。
このような場合、後側エンジンマウント102、前輪サスペンションのスタビライザ110、前輪のステアリングハウジング111に対し、機能上の理想位置を満足させようとすると、スタビライザ110及びステアリングハウジング111の上部に後側エンジンマウント102が配置されることが一般的である。
【0003】
ところが、スタビライザ110及びステアリングハウジング111の上部に後側エンジンマウント102を配置した場合、このような位置関係から、サスペンションフレーム103へ後側エンジンマウント102を取り付けるための車体側取付けブラケット108・109の各脚部112・113の脚長L1・L2が長くなってしまう。
このため、エンジン101の振動に対する車体側取付けブラケット108・109の剛性は下がり、後側エンジンマウント102自ら車両左右に振動が発生し(図7矢印A)、この振動がサスペンションフレーム103を介して車体に伝播し、図9に示すように、フロア114やダッシュパネル115の振動、車室116内のこもり音を誘発する。現状、この対策の一つとして、後側エンジンマウント102の外筒105の周方向表面117にマスダンパ118を取り付けることで固有振動数を変化させ、振動のレベルを低減させている。
【0004】
また、エンジンを右側・左側・後側の3点で支持しているエンジンマウントの構造においては、車両のNVH性能を向上させるべく、右側エンジンマウントの弾性体、左側エンジンマウントの弾性体、後側エンジンマウント102の弾性体106の各特性を柔らかく設定する(バネ定数を下げる)必要が有る。一方で、弾性体106の特性を柔らかくすることにより、エンジン101が大きく揺動するような運転状況下においては、特にエンジン101の動きが大きくなり、外筒105の軸方向端面119・120とエンジンマウントブラケット107の一対の取付部121・122とが干渉し、操縦安定性にも影響を及ぼすことになる(図10参照)。
したがって、通常は両要求を満足させるように、エンジンマウントに弾性体のストッパを設け、動きを強制的に規制する構造を採るのが一般的である。例えば、図11に示すように、後側エンジンマウント102の外筒105の軸方向両端に、外筒105の軸方向端面119・120とエンジンマウントブラケット107の一対の取付部121・122との隙間に金属同士の干渉を防止するため、弾性体から成る薄板状のサイドストッパ123・124を有するストッパ構造を採用している。(特許文献1)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2659678号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、エンジンマウントのストッパ構造については、図11に示すように、外筒105の軸方向端面119・120とエンジンマウントブラケット107の一対の取付部121・122との隙間に緩衝材として弾性体から成るサイドストッパ123・124を追加した簡素なものが一般的であり、特に外筒105についても板金を筒型に丸めて形成した形状が一般的である。
したがって、エンジン101の揺動が発生し、外筒105がサイドストッパ123・124に接触する際には、図12に示すように、断面が筒状の軸方向端面119・120がサイドストッパ123・124に当接することになり、面ではなく線に近い状態での当たりとなる。
このとき、エンジンマウントの弾性体特性(バネ硬さ)、エンジンの重量バランス、支持バランス等により揺動量が大きい車両では、外筒105の軸方向端面119・120とエンジンマウントブラケット107の取付部121・122とが強く干渉、多く干渉を起こすことで、外筒105がサイドストッパ123・124を必要以上に削ることがある。
その状況によっては、外筒105がサイドストッパ123・124を突き破り、緩衝機能を失うとともに、外筒105と相手側の板金製のエンジンマウントブラケット107との干渉が発生し、異音、塗装はがれによる腐食等の不具合が発生する。
【0007】
この発明は、エンジンマウントの外筒とエンジンマウントブラケットとの間に配置されるサイドストッパの損傷を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、エンジンを支持するエンジンマウントは内筒及び外筒とこれら内筒及び外筒の間に介装した弾性体と有し、前記内筒は断面コの字状のエンジンマウントブラケットを介してエンジンに取り付けられ、前記外筒は車体側取付けブラケットを介して車体に取り付けられ、前記エンジンマウントの外筒軸方向両端には前記外筒と前記エンジンマウントブラケットとの隙間に金属同士の干渉を防止するため、弾性体から成るサイドストッパを有するエンジンマウントのストッパ構造において、前記エンジンマウントの外筒の周方向表面にはエンジンマウント固有の振動レベルを低減させるためのマスダンパを取り付け、前記マスダンパは前記エンジンマウントの外筒の軸方向両側において、外筒の軸方向に軸方向端面よりは突出され、前記外筒の軸方向端面が前記サイドストッパに接触をしない厚さを有して配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
この発明のエンジンマウントのストッパ構造は、エンジンマウントの外筒の周方向表面に取り付けたマスダンパを外筒の軸方向端面よりは突出させて配置することにより、マスダンパの広い面がサイドストッパと面接触することになる。
これにより、この発明のエンジンマウントのストッパ構造は、マスダンパをストッパとして利用することができ、外筒の軸方向端面の金属エッジがサイドストッパに線接触することが無く、サイドストッパの損傷を防ぐことができ、サイドストッパの耐久性が向上し、金属接触による部品損傷、異音発生が持続的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は後側エンジンマウントのストッパ構造の平面図である。(実施例)
【図2】図2はマスダンパ部分の拡大平面図である。(実施例)
【図3】図3は後側エンジンマウントの斜視図である。(実施例)
【図4】図4はエンジンを支持した状態の後側エンジンマウントの側面図である。(実施例)
【図5】図5はエンジンマウントで指示されたエンジンの斜視図である。(実施例)
【図6】図6は後側エンジンマウントのストッパ構造の平面図である。(変形例)
【図7】図7はエンジンを支持した状態の後側エンジンマウントの斜視図である。(従来例)
【図8】図8はエンジンを支持した状態の後側エンジンマウントの側面図である。(従来例)
【図9】図9は車体への振動伝播の状態を示す後側エンジンマウントの側面図である。(従来例)
【図10】図10は後側エンジンマウントの断面斜視図である。(従来例)
【図11】図11は後側エンジンマウントのストッパ構造の平面図である。(従来例)
【図12】図12は外筒とエンジンマウントブラケットとの干渉状体を示す後側エンジンマウントの断面図である。(従来例)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下図面に基づいて、この発明の実施例を説明する。
【実施例】
【0012】
図1〜図5は、この発明の実施例を示すものである。図5において、1はエンジン、2はサスペンションフレーム、3は前輪サスペンションのスタビライザ、4は前輪のステアリングハウジングである。エンジン1は、右側エンジンマウント5、左側エンジンマウント6、後側エンジンマウント7により右側、左側、後側の3点を支持されている。エンジン1の後側を支持する後側エンジンマウント7は、サスペンションフレーム2上に配置されたスタビライザ3及びステアリングハウジング4の上部に配置されている。
後側エンジンマウント7は、図3・図4に示すように、内筒8及び外筒9とこれら内筒8及び外筒9の間に介装した弾性体10とを有している。内筒8は、断面コの字状のエンジンマウントブラケット11を介してエンジン1に取り付けられる。外筒9は、車体側取付けブラケット12・13を介して車体のサスペンションフレーム2に取り付けられる。
前記エンジンマウントブラケット11は、図1に示すように、一対の取付部14・15とこれら取付部14・15を連結する連結部16と有し、平面視でコ字形状に形成されている。エンジンマウントブラケット11は、一対の取付部14・15を内筒8に締結ボルト17により取り付けられ、連結部16を締結ボルト18によりエンジン1に取り付けられる。
前記車体側取付けブラケット12・13は、それぞれ樋形状の脚部19・20を有し、各脚部19・20の一側に固定部21・22を有するとともに他側に取付部23・24を有している。車体側取付ブラケット12・13は、図4に示すように、固定部21・22を外筒8の周方向表面25に溶接等で固定し、取付部23・24をサスペンションフレーム2に締結ボルト26・27により取り付けられる。
【0013】
前記後側エンジンマウント7は、図1に示すように、外筒9の軸方向両端に、外筒9の軸方向端面28・29とエンジンマウントブラケット11の一対の取付部14・15との隙間に金属同士の干渉を防止するため、弾性体から成る薄板状のサイドストッパ30・31を配置している。
後側エンジンマウント7の外筒9の周方向表面25には、エンジンマウント固有の振動レベルを低減させるための金属製の一対のマスダンパ32・33を取り付けている。マスダンパ32・33は、図2に示すように、円弧状に湾曲された角棒形状に形成され、外筒9の軸方向両側において、外筒9の軸方向に軸方向端面28・29よりは各側面34・35を突出長さL3だけ突出され、外筒9の軸方向端面28・29がサイドストッパ30・31に接触をしない厚さを有して配置されている。
【0014】
従来、ストッパ構造においては、図12に示すように、エンジン101の揺動時に後側エンジンマウント102の外筒105の軸方向端面119・120の金属エッジがサイドストッパ123・124に線接触しており、サイドストッパ123・124が切れるなど、損傷原因となっていた。
前記後側エンジンマウント7のストッパ構造は、後側エンジンマウント7の外筒9の周方向表面25に取り付けたマスダンパ32・33の各側面34・35を、外筒9の軸方向端面28・29よりは突出させて配置することにより、マスダンパ32・33の広い側面34・35がサイドストッパ30・31と面接触することになる。
これにより、この後側エンジンマウント7のストッパ構造は、マスダンパ32・33をストッパとして利用することができ、外筒9の軸方向端面28・29の金属エッジがサイドストッパ30・31に線接触することが無く、サイドストッパ30・31の損傷を防ぐことができ、サイドストッパ30・31の耐久性が向上し、金属接触による部品損傷、異音発生が持続的に防止できる。
【0015】
また、後側エンジンマウント7のマスダンパ32・33は、図4に示すように、外筒9の軸方向から見て、エンジンマウントブラケット11の取付部14・15と外筒9の軸方向端面28・29とが重なる区間S内に配置されている。
この後側エンジンマウント7のストッパ構造は、マスダンパ32・33をエンジンマウントブラケット11の取付部14・15と外筒9の軸方向端面28・29とが重なる区間S、即ち両者が接触する可能性のある区間S内に配置することで、外筒9とサイドストッパ30・31との接触を確実に防止することができる。
なお、上述実施例においては、一対のマスダンパ32・33を外筒9に取り付けたが、コストダウン、要求マス重量より、図6に示すように、左右のマスダンパ32・33を中間のマスダンパ36で接続して一体化し、外筒9の軸方向両側において、外筒9の軸方向に軸方向端面28・29よりは各側面34・35を突出され、外筒9の軸方向端面28・29がサイドストッパ30・31に接触をしない厚さを有して配置することで、同様の効果を奏することができる。
また、上述実施例においては、マスダンパ32・33を金属製としてが、弾性体とすることで、サイドストッパ30・31との接触を和らげて損傷を防ぐことができ、サイドストッパ30・31の耐久性を向上し、部品損傷、異音発生の持続的な防止を図ることできる。
【産業上の利用可能性】
【0016】
この発明は、エンジンマウントの外筒とエンジンマウントブラケットとの間に配置されるサイドストッパの損傷を防止するものであり、エンジンに限らず、振動する重量物を支持するマウントに適用することができる。
【符号の説明】
【0017】
1 エンジン
2 サスペンションフレーム
7 後側エンジンマウント
8 内筒
9 外筒
10 弾性体
11 エンジンマウントブラケット
12 車体側取付けブラケット
13 車体側取付けブラケット
14 取付部
15 取付部
16 連結部
25 周方向表面
28 軸方向端面
29 軸方向端面
30 サイドストッパ
31 サイドストッパ
32 マスダンパ
33 マスダンパ
34 側面
35 側面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンを支持するエンジンマウントは内筒及び外筒とこれら内筒及び外筒の間に介装した弾性体と有し、
前記内筒は断面コの字状のエンジンマウントブラケットを介してエンジンに取り付けられ、
前記外筒は車体側取付けブラケットを介して車体に取り付けられ、
前記エンジンマウントの外筒軸方向両端には前記外筒と前記エンジンマウントブラケットとの隙間に金属同士の干渉を防止するため、弾性体から成るサイドストッパを有するエンジンマウントのストッパ構造において、
前記エンジンマウントの外筒の周方向表面にはエンジンマウント固有の振動レベルを低減させるためのマスダンパを取り付け、
前記マスダンパは前記エンジンマウントの外筒の軸方向両側において、外筒の軸方向に軸方向端面よりは突出され、前記外筒の軸方向端面が前記サイドストッパに接触をしない厚さを有して配置されていることを特徴とするエンジンマウントのストッパ構造。
【請求項2】
前記マスダンパは前記外筒の軸方向から見て、前記エンジンマウントブラケットと前記外筒の軸方向端面とが重なる区間内に配置されていることを特徴とする請求項1に記載のエンジンマウントのストッパ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−140994(P2012−140994A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−292768(P2010−292768)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000002082)スズキ株式会社 (3,196)
【Fターム(参考)】