説明

エンジン制御装置及びこれを備えた作業機械

【課題】目標流量が急激に増大した場合でも応答性の悪化を抑制することができるエンジン制御装置及びこれを備えた作業機械を提供すること。
【解決手段】アクチュエータに要求される作動油流量に基づいてエンジン5の目標回転数を設定する回転数設定手段と、アクチュエータに要求される作動油流量が急激に増加する可能性のある急負荷作業の期間中にあるか否かを判定する作業状態判定手段とを備え、前記回転数設定手段は、急負荷作業期間中にはないと判定された場合には通常時目標回転数を設定する一方、前記急負荷作業期間中にあると判定された場合には前記通常時目標回転数以上の急負荷時目標回転数に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧ポンプを駆動するためのエンジンを制御するエンジン制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、エンジンによって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、この油圧ポンプから供給される作動油によって駆動するアクチュエータとを備えた作業機械が知られている。
【0003】
この種の作業機械では、アクチュエータに要求される動力に応じてエンジンの回転数を制御するエンジン制御装置を備えたもの(例えば、特許文献1)が知られている。
【0004】
特許文献1のエンジン制御装置は、操作レバーの操作量に応じて算出された油圧ポンプの目標流量を当該油圧ポンプの最大傾転で吐出させるためのエンジン回転数(以下、第一回転数と称す)と、前記目標流量を吐出させるために要する油圧ポンプの必要馬力を得ることができるとともに燃料消費率が最も低くなるエンジン回転数(以下、第二回転数と称す)とを算出し、これら第一及び第二回転数のうち回転数の大きな方を選択するようになっている。
【特許文献1】特開平11−2144号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、油圧ポンプの吐出量を増大させるためには、油圧ポンプの傾転を大きくするか、又はエンジンの回転数を大きくすることが考えられるが、エンジン回転数を大きくするためには、傾転を大きくする場合よりも長い時間を要するため、吐出量の増大について応答性を良好にするためには、油圧ポンプの傾転を調整することが望まれる。
【0006】
そして、前記特許文献1のエンジン制御装置において、第一回転数が選択された場合、エンジン回転数を小さくすることにより油圧ポンプの傾転を最大にして燃費の改善を図ることができるものの、傾転をさらに大きくすることができないため流量を確保するためにはエンジン回転数を上げざるを得ず、目標流量を得るための応答性が悪化するという問題があった。
【0007】
一方、第二回転数が選択された場合においても、このように選択されたエンジン回転数に対応して設定される油圧ポンプの傾転が最大傾転に近いものであるときには、その後、目標流量が急激に増大した場合に前記と同様に目標流量を得るための応答性が悪化するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、目標流量が急激に増大した場合でも応答性の悪化を抑制することができるエンジン制御装置及びこれを備えた作業機械を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は、エンジンと、このエンジンによって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、この油圧ポンプから供給される作動油により駆動されるアクチュエータと、このアクチュエータに要求される作動油流量を吐出するための前記油圧ポンプの傾転を前記エンジン回転数に応じて調整する調整手段とを備えた作業機械に設けられ、前記アクチュエータに要求される作動油流量に基づいて前記エンジンの回転数を制御するエンジン制御装置であって、前記アクチュエータに要求される作動油流量に基づいてエンジンの目標回転数を設定する回転数設定手段と、この回転数設定手段により設定された目標回転数に基づいて前記エンジンの回転数を調整する回転数調整手段と、前記アクチュエータに要求される作動油流量が急激に増加する可能性のある急負荷作業の期間中にあるか否かを判定する作業状態判定手段とを備え、前記回転数設定手段は、前記作業状態判定手段により急負荷作業期間中にはないと判定された場合には通常時目標回転数を設定する一方、前記作業状態判定手段により急負荷作業期間中にあると判定された場合には前記通常時目標回転数以上の急負荷時目標回転数を設定することを特徴とするエンジン制御装置を提供する。
【0010】
本発明によれば、アクチュエータに要求される作動油流量が急激に増加する可能性のある急負荷作業期間にあると判定された場合に設定される急負荷時目標回転数が、急負荷作業期間中にないと判定された通常時回転数以上の回転数に設定されるため、その分、通常作業時よりも油圧ポンプの傾転を小さく維持することができる。
【0011】
そのため、本発明によれば、急負荷作業期間中にはエンジンの回転数をできるだけ大きく設定して、その分、油圧ポンプの傾転を小さく維持することにより、その後急激に目標流量が増大した場合にはポンプ傾転を大きくすることにより迅速な対応をすることができる。
【0012】
したがって、本発明によれば、目標流量が急激に増大した場合でも応答性の悪化を抑制することができる。
【0013】
前記急負荷期間中にあるか否かを判定するために、前記作業状態判定手段は、現時点から第一時間前までの第一経過期間における前記油圧ポンプの吐出流量の推移を記憶する記憶部と、前記第一経過期間における前記吐出流量の最大値から最小値を減じた第一最大変化流量と現時点から前記第一時間よりも短い第二時間までの第二経過期間における吐出流量の最大値から最小値を減じた第二最大変化流量とを算出する差分演算部と、前記第一最大変化流量と第二最大変化流量とを比較することにより急負荷作業の期間中にあるか否かを判定する判定部とを備えている構成とすることができる。
【0014】
このようにすれば、過去の第一経過期間中の第一最大変化流量と、この第一経過期間よりも短い期間である直近の第二経過期間中の第二最大変化流量とを利用して、例えば、直近の第二最大変化流量が第一最大変化流量の所定の割合まで増加しているときに急負荷期間中にあると判定することができる。
【0015】
また、前記急負荷期間中にあるか否かを判定するために、前記作業状態判定手段は、現時点から第一時間前までの第一経過期間における前記油圧ポンプの動力の推移を記憶する記憶部と、前記第一経過期間における前記油圧ポンプの動力の最大値から最小値を減じた第一最大変化動力と現時点から前記第一時間よりも短い第二時間までの第二経過期間における前記油圧ポンプの動力の最大値から最小値を減じた第二最大変化動力とを算出する差分演算部と、前記第一最大変化動力と第二最大変化動力とを比較することにより急負荷作業の期間中にあるか否かを判定する判定部とを備えている構成とすることもできる。
【0016】
このように構成した場合にも、前記構成と同様に、第一最大変化動力と第二最大変化動力とを利用して、例えば、直近の第二最大変化動力が第一最大変化動力の所定の割合まで増加しているときに急負荷作業期間にあると判定することができる。
【0017】
一方、前記急負荷時目標回転数を設定するために、前記回転数設定手段は、前記急負荷作業期間中にあると判定された場合に現時点から特定の時間が経過した後に必要になると想定される前記エンジンの想定回転数を特定する手段と、前記急負荷時目標回転数が前記特定時間の間に前記想定回転数まで増加するときの当該回転数の増加率であって前記急負荷作業期間中に許容される許容増加率を特定する手段と、この許容増加率に従い前記特定時間が経過したときに前記想定回転数まで増大することになる理想回転数を特定する手段とを備え、少なくとも前記理想回転数以上の回転数を前記急負荷時目標回転数に設定する構成とすることができる。
【0018】
このようにすれば、急負荷期間中に要求されるものとして想定される想定回転数までエンジンの回転数を増大させることを仮定したときに、この回転数の増加率が急負荷期間中に許容される許容増加率となるように特定された理想回転数以上の回転数を前記急負荷時目標回転数に設定することができるので、このように設定された急負荷時目標回転数から前記想定回転数までの回転数の増加率を前記許容増加率以下に収めることができる。
【0019】
したがって、この構成によれば、以後、想定回転数までの回転数の増大を要求された場合であっても、回転数を急激に増大させることを回避できるため、応答性が悪化するのをより確実に抑制することができる。
【0020】
具体的に、前記回転数設定手段は、現時点から第一時間前までの第一経過期間における前記油圧ポンプの吐出流量の推移及びエンジン回転数の推移を記憶する記憶部と、前記第一経過期間におけるエンジン回転数の単位時間当たりの回転数増加率の平均値を前記許容増加率として算出する増加率演算部と、前記第一時間よりも短い第二時間が経過したときに、前記回転数増加率平均値に従い上昇するエンジン回転数によって前記第一経過期間における吐出流量の最大値を前記油圧ポンプが最大傾転で吐出可能となる現時点の回転数を第一理想回転数として算出する第一回転数演算部とを備えている構成とすることができる。
【0021】
このようにすれば、過去第一時間の間に発生した最大流量が、この第一時間よりも短い第二時間後の目標流量となった場合でも、この目標流量を、回転数増加率平均値に従って増加したエンジン回転数によって油圧ポンプが最大傾転で吐出することができる現時点の回転数(第一理想回転数)を算出することができるので、この第一理想回転数以上の回転数を現時点における目標回転数とすることにより、前記最大流量を第二時間経過後に吐出させる必要が生じた場合であっても、エンジン回転数の増加率を過去第一経過期間における回転数増加率平均値以下に抑えることができる。
【0022】
より具体的に、前記第一回転数演算部は、前記第二時間が経過したときの予想増加回転数と、前記第一経過期間における吐出流量の最大値と、前記油圧ポンプの最大傾転とに基づいて前記第一理想回転数を算出することができる。
【0023】
さらに、前記回転数設定手段は、前記第一経過期間における油圧ポンプの動力の推移を記憶しており、前記増加率演算部は、前記第一経過期間における油圧ポンプの吐出圧の単位時間当たりの吐出圧増加率の平均値を算出し、前記第一回転数演算部は、前記第二時間が経過したときに、前記吐出圧増加率平均値に従い上昇する吐出圧と前記回転数増加率平均値に従い上昇するエンジン回転数とによって、第一経過期間における動力の最大値を前記油圧ポンプが最大傾転で出力可能となる現時点のエンジン回転数を第二理想回転数として算出し、少なくとも前記第一理想回転数及び第二理想回転数のうち大きなもの以上の回転数を前記急負荷時目標回転数に設定することが好ましい。
【0024】
このようにすれば、将来の目標流量を想定して算出された第一理想回転数と、将来の油圧ポンプの動力を想定して算出された第二理想回転数のうち、少なくとも大きな理想回転数以上の回転数を前記急負荷時目標回転数として設定することができるので、将来の目標流量及び動力を確実に確保しながら、これらを確保するためのエンジン回転数の増加率をできるだけ小さく抑えることにより、応答性の悪化を抑制することができる。
【0025】
また、前記理想回転数を算出するために、前記回転数設定手段は、現時点から第一時間前までの第一経過期間における前記油圧ポンプの吐出流量の推移、動力の推移及びエンジン回転数の推移を記憶する記憶部と、前記第一経過期間におけるエンジン回転数の単位時間当たりの回転数増加率の平均値を前記許容増加率として算出するとともに前記第一経過期間における油圧ポンプの吐出圧の単位時間当たりの吐出圧増加率の平均値を算出する増加率演算部と、前記第一時間よりも短い第二時間が経過したときに前記回転数増加率平均値に従い上昇するエンジン回転数、及び前記吐出圧増加率平均値に従い上昇する吐出圧によって、前記第一経過期間における前記油圧ポンプの動力の最大値を前記油圧ポンプが最大傾転で出力可能となる現時点の回転数を前記理想回転数として算出する第一回転数演算部とを備えている構成とすることもできる。
【0026】
このようにすれば、過去第一時間の間に発生した最大動力が、この第一時間よりも短い第二時間経過後の目標動力となった場合でも、この目標動力を、回転数増加率平均値に従って増加したエンジン回転数、及び吐出圧増加率平均値に従って増加した吐出圧によって油圧ポンプが最大傾転で出力することができる現時点の回転数(理想回転数)を算出することができるので、この理想回転数以上の回転数を現時点における目標回転数とすることにより、前記最大動力を第二時間経過後に出力させる必要が生じた場合であっても、エンジン回転数の増加率を過去第一経過期間における回転数増加率平均値以下に抑えることができる。
【0027】
具体的に、前記油圧ポンプの吐出圧を検出する検出手段をさらに備え、前記第一回転数演算部は、前記第二時間が経過したときの予想増加回転数及び予想増加吐出圧と、現時点における前記油圧ポンプの吐出圧と、前記油圧ポンプの最大傾転とに基づいて前記理想回転数を算出することができる。
【0028】
そして、前記回転数設定手段は、前記アクチュエータに要求される作動油流量を前記油圧ポンプに吐出させるためのエンジン回転数のうち、予め設定されたマップに基づいて燃料消費率が小さい小燃費回転数を特定する第二回転数演算部を備え、前記急負荷作業期間中にあると判定された場合に、前記理想回転数及び小燃費回転数のうち大きなものを前記急負荷時目標回転数に設定する一方、前記急負荷作業期間中にはないと判定された場合に、前記小燃費回転数を通常時目標回転数に設定することが好ましい。
【0029】
このようにすれば、急負荷期間にあると判定された場合に、前記理想回転数及び小燃費回転数のうち大きなものを急負荷時目標回転数として設定することができるので、目標回転数が必要以上に大きくなるのを抑制することができ、燃料消費率の悪化を抑制することができる。
【0030】
一方、前記回転数設定手段は、前記アクチュエータに要求される作動油流量を前記油圧ポンプが最大傾転で吐出することが可能となるエンジンの最大傾転時回転数を算出する第二回転数演算部を備え、前記急負荷作業期間中にあると判定された場合に、前記理想回転数及び最大傾転時回転数のうち大きなものを前記急負荷時目標回転数に設定する一方、前記急負荷作業期間にはないと判定された場合に、前記最大傾転時回転数を通常時目標回転数に設定するように構成することもできる。
【0031】
このようにすれば、急負荷期間中にあると判定された場合に、前記理想回転数及び最大傾転時回転数のうち大きなものを急負荷時目標回転数として設定することができるので、目標回転数が必要以上に大きくなるのを抑制することができ、燃料消費率の悪化を抑制することができる。
【0032】
さらに、本発明は、エンジンと、このエンジンによって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、この油圧ポンプから供給される作動油により駆動されるアクチュエータと、このアクチュエータに要求される作動油流量を吐出するための前記油圧ポンプの傾転を前記エンジン回転数に応じて調整する調整手段と、前記エンジン制御装置とを備えた作業機械を提供する。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、アクチュエータに要求される作動油流量が急激に増加する可能性のある急負荷作業期間にあると判定された場合に設定される急負荷時目標回転数が、急負荷作業期間中にないと判定された通常時回転数以上の回転数に設定されるため、その分、通常作業時よりも油圧ポンプの傾転を小さく維持することができる。
【0034】
そのため、本発明によれば、急負荷作業期間中にはエンジンの回転数をできるだけ大きく設定して、その分、油圧ポンプの傾転を小さく維持することにより、その後急激に目標流量が増大した場合にはポンプ傾転を大きくすることにより迅速な対応をすることができる。
【0035】
したがって、本発明によれば、目標流量が急激に増大した場合でも応答性の悪化を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照して説明する。
【0037】
図1は、本発明の実施形態に係る作業機械の電気的構成及び油圧系統を概略的に示す全体図である。
【0038】
図1を参照して、例えば、油圧ショベルを代表とする作業機械には、図示は省略するが、上部旋回体(駆動対象物の一例)を下部走行体に対し旋回駆動するための油圧モータ2や、前記上部旋回体に設けられた作業アタッチメント(駆動対象物の一例)を起伏させるための油圧シリンダ3等を含むアクチュエータが設けられている。以下、これら油圧モータ2及び油圧シリンダ3をアクチュエータの一例として含む油圧系統を備えた作業機械について説明する。
【0039】
作業機械は、油圧回路4と、エンジン5と、このエンジン5によって駆動される可変容量型の油圧ポンプ6と、この油圧ポンプ6から供給される作動油により駆動される前記油圧モータ2及び油圧シリンダ3と、前記油圧ポンプ6から吐出される作動油圧を検出する圧力センサ7と、これら油圧モータ2及び油圧シリンダ3に要求される動力に基づいてエンジン5の回転数を制御するコントローラ(エンジン制御装置)8と、このコントローラ8に接続された第一ダイヤル14及び第二ダイヤル15とを備えている。
【0040】
前記油圧回路4は、前記油圧ポンプ6から吐出された作動油を前記油圧モータ2及び油圧シリンダ3に供給することが可能な油路と当該油圧モータ2及び油圧シリンダ3から排出された作動油をタンク25に回収するための油路とを適宜切換可能な切り換え弁を適所に備えたものである。また、油圧回路4は、オペレータの入力操作を受ける操作レバー9を備え、この操作レバー9はオペレータの入力操作に応じて前記油圧モータ2や油圧シリンダ3を駆動するための電気信号を前記コントローラ8に出力するようになっている。
【0041】
前記エンジン5は、エンジン本体24と、このエンジン本体24に設けられたエンジン制御部10及び回転数センサ11とを備えている。エンジン本体24は、油圧ポンプ6を回転駆動可能となるように当該油圧ポンプ6に連結された出力軸24aを備えている。エンジン制御部10は、コントローラ8からの制御信号に応じて燃料噴射量を調整するようになっている。回転数センサ11は、前記出力軸24aの回転数を検出可能に構成されている。
【0042】
油圧ポンプ6は、車軸式の可変容量型のポンプであり、その傾転を調整するためのレギュレータ12を備えている。このレギュレータ12は、前記コントローラ8に対し電気的に接続されている。
【0043】
コントローラ8は、各種演算処理を実行するCPU、初期設定等を記憶するROM及び各種情報を一時的に記憶するためのRAM等から構成されるものである。このコントローラ8には、前記操作レバー9、圧力センサ7、第一ダイヤル14、第二ダイヤル15、回転数センサ11、エンジン制御部10及びレギュレータ12が電気的に接続されている。
【0044】
図2は、コントローラの構成を機能的に示すブロック図である。
【0045】
図2を参照して、コントローラ8は、目標流量演算部16と、差分演算部17と、記憶部18と、増加率演算部19と、判定部20と、第一回転数演算部21と、第二回転数演算部22と、駆動制御部23として機能する。
【0046】
記憶部18には、図7及び図8に示すように、現時点からT時間(第一時間)前までの第一経過期間における油圧ポンプ6の流量と、第一経過期間におけるエンジン5の回転数とが記憶されている。
【0047】
目標流量演算部16は、前記操作レバー9によって入力された信号と、前記第一ダイヤル14によって入力されたアクセル指令信号と、圧力センサ7によって入力された油圧ポンプ6の吐出圧に関する信号とに基づいて現時点における目標流量Qrを算出する。この目標流量Qrは、前記記憶部18に記憶される。
【0048】
差分演算部17は、前記記憶部18に記憶された情報に基づいて、現時点からT時間前までの第一経過期間における流量の最大値Q(T)maxから第一経過時間における流量の最小値Q(T)min(図7参照)を減じた第一経過時間における最大変化流量ΔQ(T)(第一最大変化流量)を算出する。さらに、差分演算部17は、現時点から前記T時間よりも短いt時間(第二時間)前までの第二経過期間における流量の最大値Q(t)maxから第二経過期間における流量の最小値Q(t)minを減じた第二経過期間における最大変化流量ΔQ(t)(第二最大変化流量)を算出する。
【0049】
増加率演算部19は、前記第一経過期間におけるエンジン回転数の単位時間当たりの増加率の平均値Bを算出する。すなわち、この増加率演算部19では、図8に示すエンジン回転数の推移のうち、回転数が増加している区間b1〜b8を切り出して、この増加区間b1〜b8に基づいて単位時間当たりの回転数増加率平均値Bを算出する。
【0050】
第一回転数演算部21は、下記式(1)を用いて、前記回転数増加率平均値Bに基づくt時間経過後の予想増加回転数ΔN(t)を算出する。
【0051】
ΔN(t)=B×t ・・・(1)
さらに、第一回転数演算部21は、油圧ポンプ6の流量Qと油圧ポンプ6の傾転qとエンジン回転数Nとの関係式(2)を利用して、第一経過期間における流量の最大値Q(t)maxを、油圧ポンプ6の最大傾転qmaxと、t時間経過後の予想増加回転数ΔN(t)と、次の目標とすべき回転数N1との関係を下記式(3)のように表し、この式(3)を用いて下記式(4)に示すように前記回転数N1を算出する。
【0052】
Q=q×N ・・・(2)
Q(t)max=qmax×{N1+ΔN(t)} ・・・(3)
N1={Q(t)max−qmax×ΔN(t)} ・・・(4)
この式(4)によって、油圧ポンプ6が第一経過期間における流量の最大値Q(t)maxをt時間経過後に最大傾転qmaxで吐出可能となる理想回転数N1(第一理想回転数)を算出することができる。
【0053】
第二回転数演算部22は、目標流量Qrを、油圧ポンプ6が最大傾転qmaxで吐出するためのエンジン回転数N2(以下、最大傾転時回転数N2と称す)を下記式(5)によって算出する。
【0054】
N2=Qr/qmax ・・・(5)
なお、最大傾転時回転数N2は、前記第一ダイヤル14によって入力された回転数に基づいて設定されるようにしてもよい。
【0055】
判定部20は、前記第一経過期間における最大変化流量ΔQ(T)に前記第二ダイヤル15によって入力された応答性係数Aを乗じた値と、前記第二経過期間における最大変化流量ΔQ(t)とを、下記式(6)を用いて比較する。
【0056】
ΔQ(t)≧ΔQ(T)×A ・・・(6)
そして、判定部20は、前記式(6)を満たす場合に、油圧ポンプ6に要求される流量が急激に増大する可能性がある急負荷作業期間にあると判定し、前記式(6)を満たさないときに、通常の作業期間にあると判定する。
【0057】
さらに、判定部20は、前記急負荷作業期間にあると判定した場合に、前記理想回転数N1と最大傾転時回転数N2とを比較して、大きい回転数を急負荷時目標回転数として採用する。
【0058】
駆動制御部23は、採用された目標回転数に基づいて、油圧ポンプ6の傾転及びエンジン5の燃料噴射流量を算出し、これらに対応する電気信号を前記エンジン制御部10及びレギュレータ12に出力するようになっている。
【0059】
以下、前記コントローラ8により実行される処理を図3を用いて説明する。図3は、コントローラにより実行される処理を示すフローチャートである。
【0060】
当該処理が開始されると、まず、現時点における作業状態の判定処理Uが実行される。この作業状態判定処理Uで急負荷作業期間にあると判定されると急負荷用回転数演算処理Vが実行される一方、前記作業状態判定処理Uで通常作業期間にあると判定されると通常回転数演算処理Oが実行される。
【0061】
そして、これらの演算処理V、Oにより設定された目標回転数に基づいて、前記駆動制御部23により油圧ポンプ6の傾転及びエンジン5の燃料噴射流量が算出され、これらに対応する指令がエンジン制御部10及びレギュレータ12に出力される(ステップS1)。
【0062】
図4は、図3の作業状態判定処理Uの処理内容を示すフローチャートである。図7は、現時点からT時間前のポンプ流量の推移を示すグラフである。
【0063】
図4及び図7を参照して、作業状態判定処理Uでは、まず、前記操作レバー9による入力信号と、第一ダイヤル14によるアクセル指令信号と、圧力センサ7によって入力された油圧ポンプ6の吐出圧とに基づいて現時点で要求されている目標流量Qrを算出して、これを記憶部18に記憶する(ステップU1)。
【0064】
次いで、第二経過期間における流量の最大値Q(t)max及び最小値Q(T)minを記憶部18から読み出すとともに(ステップU2)、これらの値の差分である第二経過期間の最大変化流量ΔQ(t)を算出する(ステップU3)。
【0065】
次に、第一経過期間における流量の最大値Q(T)max及び最小値Q(T)minを記憶部18から読み出すとともに(ステップU4)、これらの値の差分である第一経過期間の最大変化流量ΔQ(T)を算出する(ステップU5)。
【0066】
そして、前記第二ダイヤル15による応答性係数Aが入力され(ステップU6)、この応答性係数Aを乗じた第一経過期間の最大変化流量ΔQ(T)と、前記第二経過期間の最大変化流量ΔQ(t)とを比較する(ステップU7)。
【0067】
すなわち、このステップU7では、図7に示すように、第一期間内で最も流量変化が大きかったときの期間(図示の例では2t〜tの期間)を急負荷期間にあるものと仮定して、このときの最大の流量幅ΔQ(T)に対し、現時点から直近の期間である第二経過期間(t〜現在までの期間)における流量幅ΔQ(t)がどれだけ近づいているのかを判定することにより、現在が急負荷期間にあるか否かを判定している。具体的に、本実施形態においては、応答性係数Aが0.8に設定されている。なお、本実施形態では、第一ダイヤル14により応答性係数Aを入力するようにしているが、記憶部18に予め応答性係数Aを記憶しておいてもよい。
【0068】
また、前記ステップU7では、下記式(7)に基づいて急負荷作業期間にあるか否かを判定することもできる。
【0069】
Q(T)max≧qmax×{Nqb+ΔN(t)}・・・(7)
ここで、Nqbは、例えば、目標流量Qrを油圧ポンプ6が最大傾転qmaxで吐出するためのエンジン回転数として予め算出されたものである。つまり、この不等式(7)を満たす場合には、予想増加回転数ΔN(t)だけエンジン回転数が増加するとともに油圧ポンプ6の傾転を最大qmaxにしても、第一経過期間における最大流量Q(T)maxを吐出させることができないため、急負荷作業期間にあると判定することができる一方、前記不等式(7)を満たさない場合には、予想増加回転数ΔN(t)だけエンジン回転数が増加すれば、油圧ポンプ6が最大傾転qmaxで前記最大流量Q(T)maxを吐出することができるため、通常作業期間にあると判定することができる。
【0070】
前記ステップU7において、急負荷作業期間にあると判定されると(ステップU7でYES)、前記急負荷用回転数演算処理Vが実行される一方、通常作業期間にあると判定されると(ステップU7でNO)、前記通常回転数演算処理Oが実行される。
【0071】
図5は、図3の急負荷用回転数演算処理Vの処理内容を示すフローチャートである。図8は、現時点からT時間前のエンジン回転数の推移を示すグラフである。
【0072】
図5及び図8を参照して、急負荷用回転数演算処理Vでは、図8の区間b1〜b8に示すエンジン回転数の増加区間を記憶部18から読み出し(ステップV1)、これら増加区間b1〜b8に基づいて単位時間当たりの回転数増加率平均値Bを算出する(ステップV2)。
【0073】
次いで、この回転数増加率平均値Bに基づいてt時間後の予想増加回転数ΔN(t)を算出する(ステップV3)。具体的には、前記式(1)に示すように、回転数増加率平均値Bに対し時間tを乗じることにより予想増加回転数ΔN(t)を算出する。
【0074】
次に、前記第一経過期間における流量の最大値Q(T)maxを、時間tの経過後に最大傾転qmaxで吐出可能となる理想回転数N1を前記式(4)に基づいて算出する(ステップV4)。つまり、このステップV4では、過去第一時間Tまで遡ったときの最大流量Q(T)maxが、この第一時間Tよりも短い第二時間tが経過した時点で要求されると想定した上で、前記回転数増加率平均値Bに従い増加した回転数によって、最大流量Q(T)maxを油圧ポンプ6が最大傾転qmaxで吐出可能となる現時点における理想回転数N1を算出することにより、実際に第二時間t経過後に最大流量Q(T)maxが要求された場合であっても、エンジン5の回転数の増加を、前記回転数増加率平均値Bに相当する増加、つまり、過去の実績ある回転数増加に抑えることを目的とした処理を行っている。
【0075】
次いで、前記ステップU1で算出された目標流量Qrを、油圧ポンプ6が最大傾転qmaxで吐出するための最大傾転時回転数N2を算出する(ステップV5)。具体的には、前記式(5)によって算出される。
【0076】
そして、前記のように算出された理想回転数N1と最大傾転時回転数N2とを比較して(ステップV6)、より大きな回転数を急負荷時目標回転数として採用する(ステップV7、V8)。
【0077】
このようにより大きな回転数を採用するのは、回転数が大きい分だけ油圧ポンプ6の傾転を小さくすることができるので、以後、急激に目標流量が増大した場合であっても油圧ポンプ6の傾転調整によって流量変化に迅速に対応することができるようにするためである。すなわち、前記式(5)に示すように油圧ポンプ6の流量に対してポンプ傾転qとエンジン回転数Nとは反比例の関係にあるため、流量を一定とした場合、エンジン回転数を大きくするほど傾転を小さく抑えることができる。
【0078】
図6は、図3の通常回転数演算処理の処理内容を示すフローチャートである。
【0079】
一方、前記通常回転数演算処理Oでは、目標流量Qrを前記油圧ポンプ6が最大傾転qmaxで吐出することができるエンジン5の回転数N2(最大傾転時回転数N2)を算出し、これを通常時目標回転数として採用する(ステップO1)。
【0080】
以上説明したように、本実施形態によれば、急負荷作業期間にあると判定された場合に設定される急負荷時目標回転数(N1又はN2)が、急負荷作業期間中にないと判定された通常時回転数(N2)以上の回転数に設定されるため、その分、通常作業時よりも油圧ポンプ6の傾転を小さく維持することができる。
【0081】
そのため、本実施形態によれば、急負荷時作業期間中にはエンジン5の回転数をできるだけ大きく設定して、その分、油圧ポンプ6の傾転を小さく維持することにより、その後急激に目標流量が増大した場合にはポンプ傾転を大きくすることにより迅速な対応をすることができる。
【0082】
したがって、本実施形態によれば、目標流量が急激に増大した場合でも応答性の悪化を抑制することができる。
【0083】
具体的に、前記実施形態では、図4のステップU7のように過去の第一経過期間中の最大変化流量ΔQ(T)と、この第一経過期間よりも短い期間である直近の第二経過期間中の最大変化流量ΔQ(t)とを比較することにより、急負荷期間にあるか否かを判定することができる。
【0084】
また、前記実施形態では、図5のステップV4のように、過去T時間の間に発生した最大流量Q(T)maxが、このT時間よりも短いt時間後の目標流量となった場合でも、この目標流量を、回転数増加率平均値Bに従って増加したエンジン回転数(N1+ΔN(t))によって油圧ポンプ6が最大傾転qmaxで吐出することができる理想回転数N1を算出することができるので、この理想回転数N1以上の回転数を現時点における目標回転数とすることにより、最大流量Q(T)maxをt時間経過後に吐出させる必要が生じた場合であっても、エンジン回転数の増加率を回転数増加率平均値B以下に抑えることができる。
【0085】
そして、前記実施形態では、急負荷作業期間にあると判定された場合に、図5のステップV6のように、前記理想回転数N1と、目標流量Qrを油圧ポンプ6が最大傾転qmaxで吐出可能となる最大傾転時回転数N2とを比較して大きい回転数を目標回転数に設定するようにしているので、急負荷時目標回転数が必要以上に大きくなるのを抑制することができ、燃料消費率の悪化を抑制することができる。
【0086】
以下、別の実施形態について説明する。
【0087】
図13は、現時点からT時間前の油圧ポンプの動力の推移を示すグラフである。図14は、現時点からT時間前の油圧ポンプの吐出圧の推移を示すグラフである。
【0088】
図2、図13及び図14を参照して、本実施形態における記憶部18には、第一経過期間における油圧ポンプ6の動力と、第一経過期間におけるエンジン5の回転数(図8参照)とが記憶されている。なお、油圧ポンプ6の動力とは、油圧ポンプ6の流量と吐出圧とを乗じて得られるものであり、その結果として、前記記憶部18には、第一経過期間における油圧ポンプ6の流量及び吐出圧の推移も記憶されている。
【0089】
目標流量演算部16は、前記実施形態と同様に、操作レバー9及び第一ダイヤル14からの入力信号、及び圧力センサ7により検出された油圧ポンプ6の吐出圧に基づいて現時点における目標流量Qrを算出する。この目標流量Qrは、前記記憶部18に記憶される。
【0090】
また、目標流量演算部16は、前記目標流量Qrと、圧力センサ7により検出された油圧ポンプ6の吐出圧とを乗じることにより、現時点における目標動力Wrを算出する。
【0091】
差分演算部17は、前記記憶部18に記憶された情報に基づいて、第一経過期間における動力の最大値W(T)maxから第一経過期間における動力の最小値W(T)minを減じた第一経過期間における最大変化動力ΔW(T)(第一変化動力)を算出する。さらに、差分演算部17は、現時点から前記T時間よりも短いt時間(第二時間)前までの第二経過時間における動力の最大値W(t)maxから第二経過期間における動力の最小値W(t)minを減じた第二経過期間における最大変化動力ΔW(t)(第二最大変化動力)を算出する。
【0092】
増加率演算部19は、前記第一経過期間における油圧ポンプ6の吐出圧の単位時間当たりの増加率の平均値Cを算出する。すなわち、この増加率演算部19では、図14に示す油圧ポンプ6の吐出圧の推移のうち、吐出圧が増加している区間c1〜c8を切り出して、この増加区間c1〜c8に基づいて単位時間当たりの吐出圧増加率Cを算出する。
【0093】
第一回転数演算部21は、下記式(8)を用いて、前記吐出圧増加率平均値Cに基づくt時間経過後の予想増加吐出圧ΔP(t)を算出する。
【0094】
ΔP(t)=C×t ・・・(8)
また、第一回転数演算部21は、前記実施形態と同様に、前記式(1)を用いて、前記回転数増加率平均値Bに基づくt時間経過後の予想増加回転数ΔN(t)をも算出する。
【0095】
さらに、第一回転数演算部21は、油圧ポンプ6の吐出圧Pとエンジン回転数Nと油圧ポンプ6の傾転qと動力Wとの関係式(9)を利用して、第一経過期間における動力の最大値W(T)maxを、油圧ポンプ6の最大傾転qmaxと、t時間経過後の予想増加吐出圧ΔP(t)と、次の目標とすべき回転数N3と、圧力センサ7により検出された現時点での吐出圧Prと、前記予想増加回転数ΔN(t)の関係を下記式(10)のように表し、この式(10)を用いて下記式(11)に示すように回転数N3を算出する。
【0096】
W=P×q×N ・・・(9)
W(T)max=(Pr+ΔP(t))×qmax×(N3+ΔN(t))・・・(10)
N3=W(T)max/[{Pr+ΔP(t)}×qmax]−ΔN(t)・・・(11)
この式(11)によって、油圧ポンプ6が第一経過期間における動力の最大値W(T)maxをt時間経過後に最大傾転qmaxで出力可能となる理想回転数N3(第二理想回転数)を算出することができる。
【0097】
第二回転数演算部22は、前記油圧ポンプ6に目標流量Qrを吐出させるためのエンジン5の回転数であって、燃料消費率ができるだけ小さくなる回転数N4(以下、小燃費回転数N4と称す)を算出する。例えば、第二回転数演算部22は、油圧ポンプ6に目標流量Qrを吐出させるために必要なエンジン5の動力(馬力)を算出し、この動力を出力するためのエンジン回転数を図9に示すようなマップに基づいて特定する。具体的に、マップには、等燃費線と等馬力線とが設定されており、これら両線の交点D1、D2のうちエンジン回転数がより小さくなるもの(図示の例ではD1)が前記第二回転数演算部22によって特定される。なお、同図からも明らかなように、特定の馬力を出力するのに当たってはエンジン回転数を小さくするほど燃費が向上する傾向にある。
【0098】
判定部20は、前記第一経過期間における最大変化動力ΔW(T)に前記第二ダイヤル15によって入力された応答性係数Aを乗じた値と、第二経過期間における最大変化動力ΔW(t)とを、下記式(12)を用いて比較する。
【0099】
ΔW(t)≧ΔW(T)×A ・・・(12)
そして、判定部20は、前記式(12)を満たす場合に、油圧ポンプ6に要求される動力が急激に増大する可能性がある急負荷作業期間にあると判定し、前記式(12)を満たさないときに、通常の作業期間にあると判定する。
【0100】
さらに、判定部20は、前記急負荷作業期間にあると判定した場合に、前記理想回転数N3と小燃費回転数N4とを比較して、大きい回転数を目標回転数として採用する。
【0101】
以下、前述した本実施形態に係るコントローラ8により実行される処理を説明する。
【0102】
図示は省略するが、本実施形態に係るコントローラ8による処理の全体的な流れは、前記実施形態と同様である。すなわち、処理が開始されると、まず、現時点における作業状態の判定処理Xが実行される。この作業状態判定処理Xで急負荷作業期間にあると判定されると急負荷用回転数演算処理Fが実行される一方、前記作業状態判定処理Xで通常作業期間にあると判定されると通常回転数演算処理Gが実行される(図2参照)。
【0103】
そして、これらの演算処理F、Gにより設定目標回転数に基づいて、前記駆動制御部23により油圧ポンプ6の傾転及びエンジン5の燃料噴射量が算出され、これらに対応する指令がエンジン制御部10及びレギュレータ12に出力される(ステップS1に相当)。
【0104】
図10は、別の実施形態に係る作業状態判定処理Xの処理内容を示すフローチャートである。
【0105】
図10及び図13を参照して、作業状態判定処理Xでは、まず、前記操作レバー9による入力信号と、第一ダイヤル14によるアクセル指令信号と、圧力センサ7によって入力された油圧ポンプ6の吐出圧とに基づいて目標流量Qr及び目標動力Wrを算出して、これらを記憶部18に記憶する(ステップX1)。
【0106】
次いで、第二経過期間における動力の最大値W(t)max及び最小値W(t)minを記憶部18から読み出すとともに(ステップX2)、これらの値の差分である第二経過期間の最大変化動力ΔW(t)を算出する(ステップX3)。
【0107】
次に、第一経過期間における動力の最大値W(T)max及び最小値W(T)minを記憶部18から読み出すとともに(ステップX4)、これらの値の差分である第一経過期間の最大変化動力ΔW(T)を算出する(ステップX5)。
【0108】
そして、前記第二ダイヤル15による応答性係数Aが入力され(ステップX6)、この応答性係数Aを乗じた第一経過期間の最大変化動力ΔW(T)と、第二経過期間の最大変化動力W(t)とを比較する(ステップX7)。
【0109】
すなわち、このステップX7では、図13に示すように、第一期間内で最も動力変化が大きかったときの期間(図示の例では2t〜tの期間)を急負荷期間にあるものと仮定して、このときの動力幅ΔW(T)に対し、現時点から直近の期間(図示の例ではt〜現在)である第二経過期間における動力幅ΔW(t)がどれだけ近づいているのかを判定することにより、現在が急負荷期間にあるか否かを判定している。具体的に、本実施形態においては、応答性係数Aが0.8に設定されている。
【0110】
また、前記ステップX7では、下記式(13)に基づいて急負荷作業期間にあるか否かを判定することもできる。
【0111】
W(T)max≧Pr×qmax×{Nwb+ΔN(t)}・・・(13)
ここで、Prは、圧力センサ7により検出された油圧ポンプ6の吐出圧であり、Nwbとしては、例えば、前記理想回転数N3と同様に、油圧ポンプ6に目標流量Qrを吐出させるためのエンジン5の回転数であって、燃料消費率ができるだけ小さくなる回転数が採用される。つまり、この不等式(13)を満たす場合には、予想増加回転数ΔN(t)だけエンジン回転数が増加するとともに油圧ポンプ6の傾転を最大qmaxとしても、第一経過期間における最大動力W(T)maxを出力することができないため、急負荷作業期間にあると判定することができる一方、前記不等式(13)を満たさない場合には、予想増加回転数ΔN(t)だけエンジン回転数が増加すれば、油圧ポンプ6が最大傾転qmaxで最大動力W(T)maxを出力することができるため、通常作業期間にあると判定することができる。
【0112】
前記ステップX7において、急負荷作業期間にあると判定されると(ステップX7でYES)、前記急負荷用回転数演算処理Fが実行される一方、通常作業期間にあると判定されると(ステップX7でNO)、前記通常回転数演算処理Gが実行される。
【0113】
図11及び図14を参照して、急負荷用回転数演算処理Fでは、まず、前記実施形態のステップV1〜V3を実行することにより、時間t経過後の予想増加回転数ΔN(t)を算出する。
【0114】
そして、図14の区間c1〜c8に示すポンプ吐出圧の増加区間を記憶部18から読み出し(ステップF1)、これら増加区間c1〜c8に基づいて単位時間当たりの吐出圧増加率平均値Cを算出する(ステップF2)。
【0115】
次いで、この吐出圧増加率平均値Cに基づいてt時間後の予想増加吐出圧ΔP(t)を算出する(ステップF3)。具体的には、前記式(8)吐出圧増加率平均値Cに時間tを乗じることにより予想増加吐出圧ΔP(t)を算出する。
【0116】
次に、前記第一経過期間における油圧ポンプ6の動力の最大値W(T)maxを、時間tの経過後に最大傾転qmaxで出力可能となる理想回転数N3を前記式(11)に基づいて算出する(ステップF4)。つまり、このステップF4では、過去第一時間Tまで遡ったときの最大動力W(T)maxが、この第一時間Tよりも短い第二時間tが経過した時点で要求されると想定した上で、前記吐出圧増加率平均値Cに従い増加した吐出圧及び前記回転数増加率平均値Bに従い増加した回転数によって、最大動力W(T)maxを油圧ポンプ6が最大傾転qmaxで吐出可能となる理想回転数N3を算出することにより、実際に第二時間t経過後に最大動力W(T)maxが要求された場合であっても、エンジン5の回転数の増加は、前記回転数増加率平均値Bに相当する増加、つまり、過去の実績のある回転数増加に抑えることができる。
【0117】
次いで、前記ステップX1で算出された目標流量Qrを吐出するための回転数であって、エンジン5の燃料消費率が小さくなる小燃費回転数N4を算出する(ステップF5)。具体的には、図9に示す等燃費線と等馬力線との交点D1、D2のうち、エンジン回転数が小さいものが特定される。
【0118】
そして、前記のように算出された理想回転数N3と小燃費回転数N4とを比較して(ステップF6)、より大きな回転数を目標回転数として採用する(ステップF7、F8)。このように大きな回転数を採用するのは、回転数が大きい分だけ油圧ポンプ6の傾転を小さくすることができるので、以後、急激に目標流量が増大した場合であっても油圧ポンプ6の傾転調整によって流量変化に迅速に対応することができるようにするためである。
【0119】
一方、前記通常回転数演算処理Gでは,前記油圧ポンプ6に目標流量Qrを吐出させるためのエンジン5の回転数であって、燃料消費率ができるだけ小さくなる小燃費回転数N4を算出し、これを目標回転数として採用する(ステップG1)。
【0120】
以上説明したように、前記実施形態によれば、図10のステップX7に示すように第一経過期間における最大変化動力ΔW(T)と、第二経過期間における最大変化動力ΔW(t)とを利用して、急負荷作業期間にあるか否かを判定することができる。
【0121】
また、前記実施形態によれば、図8のステップF4に示すように過去T時間の間に発生した最大動力W(T)maxが、このT時間よりも短いt時間経過後の目標動力となった場合でも、この目標動力を、回転数増加率平均値Bに従って増加したエンジン回転数、及び吐出圧増加率平均値に従って増加した吐出圧によって油圧ポンプ6が最大傾転qmaxで出力することができる現時点の理想回転数N3を算出することができるので、この理想回転数N3以上の回転数を現時点における目標回転数とすることにより、前記最大動力W(T)maxをt時間経過後に出力させる必要が生じた場合であっても、エンジン回転数の増加率を第一経過期間における回転数増加率平均値B以下に抑えることができる。
【0122】
そして、前記実施形態では、図11のステップF6に示すように急負荷期間にあると判定された場合に、理想回転数N3及び小燃費回転数N4のうち大きなものを目標回転数として設定することができるので、目標回転数が必要以上に大きくなるのを抑制することができ、燃料消費率の悪化を抑制することができる。
【0123】
なお、前記各実施形態で実行される処理を図15に示すように並行して行うこともできる。
【0124】
具体的には、前記作業状態判定処理UとXとをそれぞれ実行するとともに、この判定処理U、Xごとにその判定結果に応じて急負荷用回転数演算処理V、F又は通常回転数演算処理O、Gをそれぞれ実行し、急負荷用回転数演算処理V、Fの双方が実行された場合には、それぞれの処理V、Fで採用されたエンジン回転数N1〜N4のうち一番回転数の高いものを採用する(ステップS0)。
【0125】
前記実施形態によれば、将来の目標流量を想定して算出された理想回転数N1(第一理想回転数)、将来の油圧ポンプ6の動力を想定して算出された理想回転数N3(第二理想回転数)、前記最大傾転回転数N2、及び小燃費回転数N4のうちの一番回転数の高いものを目標回転数として設定することができるので、将来の目標流量及び動力を確実に確保しながら、これらを確保するためのエンジン回転数の増加率をできるだけ小さく抑えることにより、応答性の悪化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0126】
【図1】本発明の実施形態に係る作業機械の電気的構成及び油圧系統を概略的に示す全体図である。
【図2】コントローラの構成を機能的に示すブロック図である。
【図3】コントローラにより実行される処理を示すフローチャートである。
【図4】図3の作業状態判定処理Uの処理内容を示すフローチャートである。
【図5】図3の急負荷用回転数演算処理Vの処理内容を示すフローチャートである。
【図6】図3の通常回転数演算処理の処理内容を示すフローチャートである。
【図7】現時点からT時間前のポンプ流量の推移を示すグラフである。
【図8】現時点からT時間前のエンジン回転数の推移を示すグラフである。
【図9】エンジンの動力と燃費と回転数とトルクとの関係を示す図である。
【図10】別の実施形態に係る作業状態判定処理Xの処理内容を示すフローチャートである。
【図11】別の実施形態に係る急負荷用回転数演算処理Fの処理内容を示すフローチャートである。
【図12】別の実施形態に係る通常回転数演算処理Gの処理内容を示すフローチャートである。
【図13】現時点からT時間前のポンプ動力の推移を示すグラフである。
【図14】現時点からT時間前のポンプ吐出圧の推移を示すグラフである。
【図15】さらに別の実施形態に係る処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0127】
B 回転数増加率平均値
C 吐出圧増加率平均値
F、V 急負荷用回転数演算処理
G、O 通常回転数演算処理
U、X 作業状態判定処理
T 第一時間
t 第二時間
N1、N3 理想回転数
N2 最大傾転回転数
N4 小燃費回転数
1 エンジン制御装置
2 油圧モータ(アクチュエータ)
3 油圧シリンダ(アクチュエータ)
5 エンジン
6 油圧ポンプ
7 圧力センサ
8 コントローラ(制御部)
16 目標流量演算部
17 差分演算部
18 記憶部
19 増加率演算部
20 判定部
21 第一回転数演算部
22 第二回転数演算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、このエンジンによって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、この油圧ポンプから供給される作動油により駆動されるアクチュエータと、このアクチュエータに要求される作動油流量を吐出するための前記油圧ポンプの傾転を前記エンジン回転数に応じて調整する調整手段とを備えた作業機械に設けられ、前記アクチュエータに要求される作動油流量に基づいて前記エンジンの回転数を制御するエンジン制御装置であって、
前記アクチュエータに要求される作動油流量に基づいてエンジンの目標回転数を設定する回転数設定手段と、
この回転数設定手段により設定された目標回転数に基づいて前記エンジンの回転数を調整する回転数調整手段と、
前記アクチュエータに要求される作動油流量が急激に増加する可能性のある急負荷作業の期間中にあるか否かを判定する作業状態判定手段とを備え、
前記回転数設定手段は、前記作業状態判定手段により急負荷作業期間中にはないと判定された場合には通常時目標回転数を設定する一方、前記作業状態判定手段により急負荷作業期間中にあると判定された場合には前記通常時目標回転数以上の急負荷時目標回転数を設定することを特徴とするエンジン制御装置。
【請求項2】
前記作業状態判定手段は、現時点から第一時間前までの第一経過期間における前記油圧ポンプの吐出流量の推移を記憶する記憶部と、前記第一経過期間における前記吐出流量の最大値から最小値を減じた第一最大変化流量と現時点から前記第一時間よりも短い第二時間までの第二経過期間における吐出流量の最大値から最小値を減じた第二最大変化流量とを算出する差分演算部と、前記第一最大変化流量と第二最大変化流量とを比較することにより急負荷作業の期間中にあるか否かを判定する判定部とを備えていることを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項3】
前記作業状態判定手段は、現時点から第一時間前までの第一経過期間における前記油圧ポンプの動力の推移を記憶する記憶部と、前記第一経過期間における前記油圧ポンプの動力の最大値から最小値を減じた第一最大変化動力と現時点から前記第一時間よりも短い第二時間までの第二経過期間における前記油圧ポンプの動力の最大値から最小値を減じた第二最大変化動力とを算出する差分演算部と、前記第一最大変化動力と第二最大変化動力とを比較することにより急負荷作業の期間中にあるか否かを判定する判定部とを備えていることを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項4】
前記回転数設定手段は、前記急負荷作業期間中にあると判定された場合に現時点から特定の時間が経過した後に必要になると想定される前記エンジンの想定回転数を特定する手段と、前記急負荷時目標回転数が前記特定時間の間に前記想定回転数まで増加するときの当該回転数の増加率であって前記急負荷作業期間中に許容される許容増加率を特定する手段と、この許容増加率に従い前記特定時間が経過したときに前記想定回転数まで増大することになる理想回転数を特定する手段とを備え、少なくとも前記理想回転数以上の回転数を前記急負荷時目標回転数に設定することを特徴とする請求項1に記載のエンジン制御装置。
【請求項5】
前記回転数設定手段は、現時点から第一時間前までの第一経過期間における前記油圧ポンプの吐出流量の推移及びエンジン回転数の推移を記憶する記憶部と、前記第一経過期間におけるエンジン回転数の単位時間当たりの回転数増加率の平均値を前記許容増加率として算出する増加率演算部と、前記第一時間よりも短い第二時間が経過したときに、前記回転数増加率平均値に従い上昇するエンジン回転数によって前記第一経過期間における吐出流量の最大値を前記油圧ポンプが最大傾転で吐出可能となる現時点の回転数を第一理想回転数として算出する第一回転数演算部とを備えていることを特徴とする請求項4に記載のエンジン制御装置。
【請求項6】
前記第一回転数演算部は、前記第二時間が経過したときの予想増加回転数と、前記第一経過期間における吐出流量の最大値と、前記油圧ポンプの最大傾転とに基づいて前記第一理想回転数を算出することを特徴とする請求項5に記載のエンジン制御装置。
【請求項7】
前記回転数設定手段は、前記第一経過期間における油圧ポンプの動力の推移を記憶しており、前記増加率演算部は、前記第一経過期間における油圧ポンプの吐出圧の単位時間当たりの吐出圧増加率の平均値を算出し、前記第一回転数演算部は、前記第二時間が経過したときに、前記吐出圧増加率平均値に従い上昇する吐出圧と前記回転数増加率平均値に従い上昇するエンジン回転数とによって、第一経過期間における動力の最大値を前記油圧ポンプが最大傾転で出力可能となる現時点のエンジン回転数を第二理想回転数として算出し、少なくとも前記第一理想回転数及び第二理想回転数のうち大きなもの以上の回転数を前記急負荷時目標回転数に設定することを特徴とする請求項5に記載のエンジン制御装置。
【請求項8】
前記回転数設定手段は、現時点から第一時間前までの第一経過期間における前記油圧ポンプの吐出流量の推移、動力の推移及びエンジン回転数の推移を記憶する記憶部と、前記第一経過期間におけるエンジン回転数の単位時間当たりの回転数増加率の平均値を前記許容増加率として算出するとともに前記第一経過期間における油圧ポンプの吐出圧の単位時間当たりの吐出圧増加率の平均値を算出する増加率演算部と、前記第一時間よりも短い第二時間が経過したときに前記回転数増加率平均値に従い上昇するエンジン回転数、及び前記吐出圧増加率平均値に従い上昇する吐出圧によって、前記第一経過期間における前記油圧ポンプの動力の最大値を前記油圧ポンプが最大傾転で出力可能となる現時点の回転数を前記理想回転数として算出する第一回転数演算部とを備えていることを特徴とする請求項4に記載のエンジン制御装置。
【請求項9】
前記油圧ポンプの吐出圧を検出する検出手段をさらに備え、前記第一回転数演算部は、前記第二時間が経過したときの予想増加回転数及び予想増加吐出圧と、現時点における前記油圧ポンプの吐出圧と、前記油圧ポンプの最大傾転とに基づいて前記理想回転数を算出することを特徴とする請求項8に記載のエンジン制御装置。
【請求項10】
前記回転数設定手段は、前記アクチュエータに要求される作動油流量を前記油圧ポンプに吐出させるためのエンジン回転数のうち、予め設定されたマップに基づいて燃料消費率が小さい小燃費回転数を特定する第二回転数演算部を備え、前記急負荷作業期間中にあると判定された場合に、前記理想回転数及び小燃費回転数のうち大きなものを前記急負荷時目標回転数に設定する一方、前記急負荷作業期間中にはないと判定された場合に、前記小燃費回転数を通常時目標回転数に設定することを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項11】
前記回転数設定手段は、前記アクチュエータに要求される作動油流量を前記油圧ポンプが最大傾転で吐出することが可能となるエンジンの最大傾転時回転数を算出する第二回転数演算部を備え、前記急負荷作業期間中にあると判定された場合に、前記理想回転数及び最大傾転時回転数のうち大きなものを前記急負荷時目標回転数に設定する一方、前記急負荷作業期間にはないと判定された場合に、前記最大傾転時回転数を通常時目標回転数に設定することを特徴とする請求項1〜9の何れか1項に記載のエンジン制御装置。
【請求項12】
エンジンと、このエンジンによって駆動される可変容量型の油圧ポンプと、この油圧ポンプから供給される作動油により駆動されるアクチュエータと、このアクチュエータに要求される作動油流量を吐出するための前記油圧ポンプの傾転を前記エンジン回転数に応じて調整する調整手段と、請求項1〜11の何れか1項に記載のエンジン制御装置とを備えた作業機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−281149(P2009−281149A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−130842(P2008−130842)
【出願日】平成20年5月19日(2008.5.19)
【出願人】(000246273)コベルコ建機株式会社 (644)
【Fターム(参考)】