説明

エンジン回転数制御装置

【課題】エンジン回転数制御装置について、負荷変動が連続する使用状況においても、エンジン回転数を安定的に維持するとともにスロットル駆動モータの駆動を最小限に抑えてその耐久性を確保する。
【解決手段】電子制御ユニット10Aとスロットルバルブ4を開閉させるDCモータ30を備えており、アクセルポジションセンサ信号による目標エンジン回転数及びクランクポジションセンサ信号による実際のエンジン回転数を基に、電子制御ユニット10Aが所定の演算により制御信号DUTYを生成してDCモータ30に駆動信号として出力し、アクセル操作による目標エンジン回転数を実現させるように制御を行うエンジン回転数制御装置において、実際のエンジン回転数の目標エンジン回転数に対する乖離が所定の基準量以下である場合に、電子制御ユニット10Aは実際のエンジン回転数が目標エンジン回転数に一致していると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン回転数制御装置に関し、殊に、実際のエンジン回転数を検知しながらスロットルバルブを開閉するスロットル駆動モータに出力してスロットル開度を調整することにより、アクセル操作に応じた目標エンジン回転数を安定的に実現させるエンジン回転数制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子的制御手段に駆動制御されたスロットル駆動モータでスロットルバルブを開閉操作してアクセル操作に応じた目標エンジン回転数を安定的に実現させるための電子ガバナは、例えば特開平5−240073号公報に記載されているように周知であり、また、特開平4−116256号公報や特開平6−133629号公報に記載されているように、農業用機器等に使用される汎用エンジンの分野でも用いられている。
【0003】
例えば、農業機器に属する大型芝刈り機においては、従来より燃料噴射制御装置としてキャブレターが使用されるのが一般的であるが、近年の環境問題を起因とする燃費性能・作業能率等の確保の要請から、電子ガバナを備えたエンジン回転数制御装置を採用したものが増加しつつある。
【0004】
図1は、このような大型芝刈り機エンジン用として、電子ガバナを備えて後述する本発明の実施の形態とハード構成が共通している従来例としてのエンジン回転数制御装置の配置図を示している。このエンジン回転数制御装置は、電子制御ユニット10Bが図示しないアクセルポジションセンサ(APS)による信号とクランクポジションセンサ(CPS)による信号を取り込み、これらの入力信号に基づいて、電子ガバナ3のスロットル駆動モータであるDCモータ30への駆動信号を生成して、スロットルバルブ4の開閉制御を行うものである。
【0005】
具体的には、電子制御ユニット10BはAPS信号から目標エンジン回転数を入手し、CPS信号から実際のエンジン回転数を算出して、PID制御アルゴリズム等の所定の演算方法を利用することにより、目標エンジン回転数と実際のエンジン回転数の差を限りなく小さくするようにDCモータ30の駆動信号(制御信号DUTY)を演算して、実際のエンジン回転数を目標エンジン回転数に収束させる方向で制御を実行する。
【0006】
このような大型芝刈り機は一般にZTRと呼ばれ、操縦者が搭乗して走行しながら自然の植物を刈り取るものであることから、刈り取り対象である植物の抵抗が変化することでエンジンの負荷が常に激しく変動しやすい特徴を有しており、エンジン回転数を一定の状態に安定させることが難しいという問題点を有している。
【0007】
また、エンジン回転数制御を行う電子制御ユニット10Bでは、目標エンジン回転数が1rpm単位で設定されていることから、スロットルバルブを作動させる電子ガバナ3のDCモータ30は、連続する微細な負荷変動に対してもエンジン回転数を一定に維持するために常に休まずに駆動することになる。そのため、DCモータ30は比較的短期間で消耗してダメージを受け、使用寿命が短くなりやすい傾向があり、これがサージングを生じる原因の一つとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−240073号公報
【特許文献2】特開平4−116256号公報
【特許文献3】特開平6−133629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような問題を解決しようとするものであり、電子的制御手段がスロットル駆動モータを駆動操作しながら吸入空気量を調整することでエンジン回転数を制御するエンジン回転数制御装置について、負荷変動が連続する使用状況においても、エンジン回転数を安定的に維持するとともにスロットル駆動モータの駆動を最小限に抑えてその耐久性を確保することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本発明は、アクセルポジションセンサ信号及びクランクポジションセンサ信号が入力される電子的制御手段とスロットルバルブを開閉させるスロットル駆動モータを備えており、アクセルポジションセンサ信号による目標エンジン回転数及びクランクポジションセンサ信号による実際のエンジン回転数を基に、電子的制御手段が所定の演算により制御信号DUTYを生成してスロットル駆動モータに駆動信号として出力し、アクセル操作による目標エンジン回転数を実現させるように制御を行うエンジン回転数制御装置において、その電子的制御手段は、実際のエンジン回転数の目標エンジン回転数に対する乖離が所定の基準量以下である場合は、実際のエンジン回転数が目標エンジン回転数に一致していると判定する、ことを特徴とするものとした。
【0011】
従来のエンジン回転数制御においては、エンジンに微小な負荷が連続的に加わるような使用状況に対し、実際のエンジン回転数を目標エンジン回転数に一致させるべく常にスロットル駆動モータを駆動操作して制御を行うため、実際のエンジン回転数が安定しにくいことに加え、スロットル駆動モータが短期間で消耗しやすかった。これに対し、目標エンジン回転数に対し実際のエンジン回転数を一致させる制御に所定の余裕幅を設けて、両者の乖離が所定の基準量以下である限り乖離はないものとしてスロットル駆動モータを敏感に駆動させない制御を行うことにより、スロットル駆動モータの消耗を最小限に抑えながら実際のエンジン回転数の安定化を実現しやすいものとした。
【0012】
また、このエンジン回転数制御装置において、その乖離の基準量は目標エンジン回転数を中心として±15rpm〜±35rpmで設定されているものとすれば、エンジン回転数制御として充分な精度を達成しながらスロットル駆動モータの消耗が軽減されやすいものとなり、この場合、その基準量が目標エンジン回転数を中心として±20rpm〜±30rpmで設定されているものとすれば、エンジン回転数制御の精度確保とスロットル駆動モータの消耗回避のバランスの観点から、より優れたものとなる。
【0013】
さらにまた、上述したエンジン回転数制御装置が大型芝刈り機エンジン用であるものとすれば、エンジンの負荷が常に激しく変動しやすい大型芝刈り機において、エンジン回転数の安定化及びスロットル駆動モータの耐久性の確保について極めて有効なものとなる。
【発明の効果】
【0014】
目標エンジン回転数に対し実際のエンジン回転数を一致させ制御において所定の余裕幅を設けて両者の乖離が所定の基準量以下である場合に乖離がないものとしてスロットル駆動モータを駆動させないものとした本発明によると、負荷変動が連続する使用状況においても、エンジン回転数を安定的に維持するとともにスロットル駆動モータの駆動を最小限に抑えて、その耐久性を充分に確保できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態及び従来例に共通したエンジン回転数制御装置のハード構成を示す配置図である。
【図2】図1のエンジン回転数制御装置による制御ロジックを示すフローチャートである。
【図3】本発明による制御結果を示す目標エンジン回転数、実際のエンジン回転数、トルクのグラフである。
【図4】従来例による制御結果を示す目標エンジン回転数、実際のエンジン回転数、トルクのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を説明する。
【0017】
図1は、本実施の形態のエンジン回転数制御装置のハード構成を示す配置図であるが、この装置は前述した従来のエンジン回転数制御装置とハード構成が共通していることからその詳細な説明は省略するが、その電子制御ユニット10Aのソフト構成及びこれによるエンジン回転数制御方法が異なる。
【0018】
この電子ガバナ3を備えたエンジン回転数制御装置は、主としてエンジンの負荷が常に変動しやすい大型芝刈り機用エンジンに付設することを想定したものであり、その電子制御ユニット10Aの演算に基づく制御信号DUTYを、スロットルバルブ4の駆動モータであるDCモータ30に駆動信号として送信することで、スロットルバルブ4を開閉操作するようになっている。
【0019】
このDCモータ30の回転は、センタギア31を介してスロットルシャフト33に直結したシャフトギア32を回転させ、スロットルバルブ4の開度を調整しながら目標エンジン回転数に収束するように吸入空気量を変化させるようになっている。尚、スロットルバルブ4の開き方向の動作は電子制御ユニット10Aの演算結果に基づくDCモータ30の駆動により行われるが、閉じ方向の動作はスロットルシャフト33に設けたリターンスプリング34により行われる。
【0020】
そして、その制御信号DUTYは、図示しないクランクポジションセンサによる信号から算出された実際のエンジン回転数が、図示しないアクセルポジションセンサによる信号から定められる目標エンジン回転数に一致するように、所定の演算方法により算出されて生成され、フィードバック制御の駆動信号として出力されるものである。
【0021】
図4のグラフは、従来のエンジン回転数制御装置を大型草刈り機エンジンに適用した場合の、実際のエンジン回転数、目標エンジン回転数、トルクの各推移をイメージ的に表したものであるが、微細なトルク変動が連続することに対応して電子制御ユニット10Bが実際のエンジン回転数を目標エンジン回転数に収束させるように、連続的にスロットルバルブを開閉操作する結果、実際のエンジン回転数が安定しにくいことに加え、DCモータ30が休まずに駆動して短期間で消耗するという問題があった。
【0022】
これに対し、本実施の形態のエンジン回転数制御装置における電子制御ユニット10Aによる制御では、検知している実際のエンジン回転数の目標エンジン回転数に対する乖離が予め定めた基準量以下に収まっている場合は、実際のエンジン回転数が目標エンジン回転数に一致している、即ち乖離がないと判定するものとして、負荷変動に対して従来例よりも鈍感な制御を行うようにした。
【0023】
この場合、実際のエンジン回転数と目標エンジン回転数との間の乖離がないと判定する基準量として、目標エンジン回転数を中心として±15rpm〜±35rpmの範囲で設定することにより、エンジン回転数制御としては充分な精度を達成しながらスロットル駆動モータの消耗が軽減されやすいものとなるが、この基準量を±20rpm〜±30rpmの範囲で設定、さらに好ましくは±25rpmで設定することにより、エンジン回転数制御の精度確保とスロットル駆動モータの消耗回避のバランスの観点から、より優れたものとなる。
【0024】
図2は、この電子制御ユニット10Aによる制御ロジックをフローチャートで示したものであるが、エンジンのクランキング後にアクセルポジションセンサによる信号を検知(S1)すると、これを基に目標エンジン回転数を検出し(S2)、クランクポジションセンサによる信号を基にエンジンの負荷変動量を検出する(S3)。
【0025】
そして、乖離がないと判定するための基準量を例えば±25rpmと設定した場合は、実際のエンジン回転数と目標エンジン回転数の乖離Nが25rpm以下であるか否かを判断し(S4)、Yesであれば実際のエンジン回転数は目標エンジン回転数に一致していると判定し(S6)、NoであればDCモータ30を駆動させることで(S5)実際のエンジン回転数を目標エンジン回転数に一致させるようにし(S6)、その後リターンする。
【0026】
図3は、本実施の形態によるエンジン回転数制御装置を大型芝刈り機用エンジンに付設した場合の実際のエンジン回転数、目標エンジン回転数、トルクの各推移をイメージ的に表したものであるが、本実施の形態のエンジン回転数制御装置による制御では、トルクが連続的に変動した場合でも実際のエンジン回転数と目標エンジン回転数との乖離が予め設定した基準量である±25rpm以下(上下幅として50rpm)である場合はスロットルバルブを開閉させるDCモータが駆動されないため、微細なトルク変動に対しスロットルバルブが敏感に反応しないものとなって、実際のエンジン回転数が安定しやすいことに加えDCモータの駆動(回数)が最小限に抑えられる結果となる。
【0027】
以上、述べたように、電子的制御手段がスロットル駆動モータを駆動操作しながら吸入空気量を調整することでエンジン回転数を制御するエンジン回転数制御装置について、本発明により、負荷変動が連続する使用状況においても、エンジン回転数を安定的に維持するとともにスロットル駆動モータの駆動を最小限に抑えその使用寿命の短縮化を回避できるようになった。
【符号の説明】
【0028】
3 電子ガバナ、4 スロットルバルブ、10A 電子制御ユニット、30 DCモータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクセルポジションセンサ信号及びクランクポジションセンサ信号が入力される電子的制御手段とスロットルバルブを開閉させるスロットル駆動モータを備えて、前記アクセルポジションセンサ信号による目標エンジン回転数及び前記クランクポジションセンサ信号による実際のエンジン回転数を基に前記電子的制御手段が所定の演算により制御信号DUTYを生成して前記スロットル駆動モータに駆動信号として出力し、アクセル操作による前記目標エンジン回転数を実現させるように制御を行うエンジン回転数制御装置において、前記電子的制御手段は、前記実際のエンジン回転数の前記目標エンジン回転数に対する乖離が所定の基準量以下である場合は、前記実際のエンジン回転数が前記目標エンジン回転数に一致していると判定することを特徴とするエンジン回転数制御装置。
【請求項2】
前記基準量は、前記目標エンジン回転数を中心として±15rpm乃至±35rpmで設定されている、ことを特徴とする請求項1に記載したエンジン回転数制御装置。
【請求項3】
前記基準量は、前記目標エンジン回転数を中心として±20rpm乃至±30rpmで設定されていることを特徴とする請求項2に記載したエンジン回転数制御装置。
【請求項4】
大型芝刈り機エンジン用であることを特徴とする請求項1,2または3に記載したエンジン回転数制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−27016(P2011−27016A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−172724(P2009−172724)
【出願日】平成21年7月24日(2009.7.24)
【出願人】(000153122)株式会社ニッキ (296)
【Fターム(参考)】