説明

エンボス圧延加工用ロールおよび銅条・銅箔の製造方法

【課題】 生産能率や製造歩留まりの低下を引き起こすことなく、被加工物の銅条材や銅箔材の表面に所望の寸法の微細な凸状の立体パターンを常に正確かつ均一に形成する。
【解決手段】 所望の凸状の立体パターン9を被加工物(銅条材5)の表面に形成するためのエンボス凹型穴15が中空円筒状のスリーブ材の外周面に形成され、かつ前記エンボス凹型穴15に連なり前記スリーブ材の円筒中心方向へと伸びて当該方向へと余剰な圧延油8b、8cを逃がすように設定された圧延油逃し孔3が形成された金型本体スリーブ1と、外周に前記金型本体スリーブ1が同軸的に重ね合わされて、前記金型本体スリーブ1と共に回転するように設定されたロール軸体2とを備えて、圧延油8aを用いつつ前記金型本体スリーブ1の外周面を前記ロール軸体2と共に回転させながら前記被加工物である銅条材5の表面に押圧させることで、前記凸状の立体パターン9を前記被加工物(銅条材5)の表面に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンボス圧延加工の際に圧延油を必要とする、例えば銅条材や銅箔材のような被加工物の表面に、エンボス圧延加工を施して、微小な凸状の立体パターンを形成するためのエンボス圧延加工用ロール、およびそれを用いてエンボス圧延加工を銅条材や銅箔材に施す工程を含んだ銅条・銅箔の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅条材や箔材は、極めて多様な工業分野や工業製品に用いられているが、例えばフレキシブルプリント配線板や各種放熱板などのように、使用形態として異種部材と接着されて用いられるものも少なくない。このような場合、両者の接着性を向上させるために、粗化めっきやエッチングなどのような化学的な表面処理や、ブラスト処理等の機械的な表面処理などを、両者または少なくとも一方の接着面に施すことにより、その接着面を敢えて適度に荒らす、という手法が採用されることが多い。あるいはさらに一般的に、銅条材や銅箔材以外の金属条材や金属箔材についても同様に、その表面を適度に荒らして微小な凹凸を形成するという手法が用いられる場合も多い。
【0003】
金属箔材等の表面に凹凸を形成する方法として、エンボス圧延と呼ばれる加工方法がある。
エンボス圧延加工は一般に、その主要な治工具であるエンボス圧延加工用ロールと呼ばれるロール金型の加工面に形成された凹凸からなる立体的パターンを、被加工物の金属箔や金属板条に対してエンボス圧延プロセスによって転写させる加工方法である。そのプロセスに用いられるエンボス圧延加工用ロールの表面には、凹凸の立体的パターンが形成されており、そのエンボス圧延加工用ロールを圧延機に取り付けて、エンボス圧延加工が行われる。
【0004】
銅箔などのような金属箔材にエンボス圧延加工を施すために用いられる圧延機は、図示は省略するが、圧延加工の対象となる金属箔材に対して回転しながら直接に接して圧延荷重を印加するように、その金属箔材の上下にそれぞれ1本ずつ配置された2本のワークロールと、そのそれぞれのワークロールをバックアップする中間ロールおよびバックアップロール等を備えている。その各種ロールには、例えば鍛鋼ロールなどが用いられるのが一般的である(特許文献1、2)。
また、圧延機は、ワークロールの直径や、中間ロール、バックアップロールの本数などの違いによって、4段圧延機、6段圧延機、12段圧延機、20段圧延機など、様々な形式があり、具体的な用途や仕様に適したものが選択される。
このようなエンボス圧延加工においては、平圧延の場合と同様に、加工を行う際に不可避的に伴う発熱に起因して高温化するロール金型および金属箔材を冷却する必要性、およびロール金型からの金属箔材の離型を円滑なものとする必要性、ならびに異物等の洗い流しなどの必要性から、圧延油が一般に用いられている(特許文献3)。
【0005】
前述の粗化めっきやエッチングなどのような化学的な表面処理方法、あるいはブラスト処理等の機械的な表面処理方法では、その処理時間が長く掛かる傾向にあり、また要求される粗度が大きい場合には益々処理時間が長く必要になったりプロセス管理がさらに煩雑になるなどして、生産性が悪化することとなる。また、ブラスト処理では砥粒のサイズとは異なった粗度が得られないので、粗度設定の自由度に制約も多い。従って、斯様な工業的生産性の観点からすると、処理時間が極めて短くて済み、生産性を飛躍的に高くすることができるエンボス圧延プロセスは、極めて有利な特質を備えた加工方法として、多大な期待が寄せられている。
【0006】
【特許文献1】特開平04−66208号公報
【特許文献2】特開2001−179312号公報
【特許文献3】特開2006−281249号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような従来のエンボス圧延加工プロセスによって、微細な突起状のエンボスパターンを銅箔材や銅条材の表面に形成する場合、圧延荷重やロール金型の仕様等を適切なものとしているにも関わらず、形成されたエンボスパターンの高さをはじめとする各種寸法や形状に、著しい不良や欠陥が多発する場合があるという問題があった。
【0008】
斯様なエンボスパターンの形成不良は、エンボス加工中にかけ流し方式で供給される圧延油の余剰分がロール金型のエンボス凹型穴に充満することに起因して発生する場合が多い、ということを、我々は種々の実験および実製造ラインにおけるエンボスパターン不良発生の際の原因解析・考察等により、確認したのであった。すなわち、適正量と考えられる量の圧延油をかけ流しながら、ロール金型を用いて適正な荷重を印加してエンボス加工を行っても、ロール金型の凹型穴の中に圧延油が既に充満していると、その凹型穴の中に被加工物が塑性変形して進入して行くことが妨げられてしまう。その結果、エンボスパターンの高さをはじめとする各種寸法や形状に不良や欠陥が発生する、ということである。
この知見によれば、圧延油を過剰に塗布することを回避すれば、上記のようなエンボスパターンの形成不良の問題は克服できるようにも考えられる。ところが、例えば高さ100μm以下のような極めて微細な突起状のエンボスパターンを銅箔材や銅条材の表面に形成する場合、圧延油のかけ流し量や塗布量に極めて微少な量の誤差や不均一が生じただけでも、それに因って圧延油がロール金型における例えば局所的な領域内の凹型穴の中に充満し、その領域内上記のようなエンボスパターンの形成不良がやはり発生することとなる。また、斯様に微少な誤差や不均一が発生しないようにするためには、圧延油のかけ流し量や塗布量を極めて厳密に制御・管理しなければならないが、これは実際上、極めて困難ないしは実質的に不可能なことである。
【0009】
他方、それならば圧延油のかけ流しを止めてしまう、といった方策も考えられるが、そうすると、また別の問題が生じてしまう。
すなわち、圧延油は一般に、潤滑油および冷却油としての役割を有している。ロール金型は高速回転しながら被加工物である銅条やその他の金属板材等に対して大きな荷重を印加しつつ塑性加工を行っている。このため、ロール金型は、圧延プロセスにおいては高温になる。そして高温になると、サーマルクラウンと呼ばれる熱膨張が生じやすくなる。このため、圧延油のかけ流しを行わない場合には、圧延油による冷却効果は見込めないことになるから、ロール金型や被加工物が高温にならないようにすることが必要となる。そして、そのためには、圧延速度を抑えなければならなくなる。従って、生産能率が低下してしまう。
また、圧延油は(特にかけ流しの圧延油は)、外部から進入する異物を洗い流すという役割も有している。一般に、圧延中には異物が混入しやすいが、斯様な異物を洗い流して除去することができないと、被加工物にロールマークと呼ばれる異物起因の凹みや異物押し込みなどが発生する虞が極めて高くなる。ロールマークが発生すると、製品出荷時にそのロールマークの発生部位を除去しなければならなくなるので、歩留まりが低下してしまうこととなる。
【0010】
このように、従来の技術では、圧延油のかけ流しを行うことで、サーマルクラウンやロールマークの発生を抑止ないしは解消することができるが、これとは裏腹に、エンボスパターンの形成不良や欠陥が発生する虞が高くなるという問題があった。
また、圧延油のかけ流しを行なわないようにすると、エンボスパターンの高さや形状の不良や欠陥の発生は抑止ないしは解消されるが、圧延油の塗布量が不足したり、あるいは予め圧延油を塗布したとしてもその塗布量が不均一になるなどして、サーマルクラウンやロールマークが発生し、延いては生産能率や歩留まりの低下を引き起こしてしまうという問題があった。
本発明は、このような問題に鑑みて成されたもので、その目的は、生産能率や製造歩留まりの低下を引き起こすことなく、被加工物の銅条材や銅箔材の表面に所望の寸法の微細な凸状の立体パターンを常に正確・均一(あるいは確実)に形成することが可能なエンボス圧延加工用ロールおよび銅条・銅箔の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のエンボス圧延加工用ロールは、所望の凸状の立体パターンを被加工物の表面に形成するためのエンボス凹型穴が中空円筒状のスリーブ材の外周面に形成され、かつ前記エンボス凹型穴に連なり前記スリーブ材の円筒中心方向へと伸びて当該方向へと余剰な圧延油を逃がすように設定された圧延油逃し孔が形成された金型本体スリーブと、外周に前記金型本体スリーブが同軸的に重ね合わされて、前記金型本体スリーブと共に回転するように設定されたロール軸体とを備えて、圧延油を用いつつ前記金型本体スリーブの外周面を前記ロール軸体と共に回転させながら前記被加工物の表面に押圧させることで、前記凸状の立体パターンを前記被加工物の表面に形成するように設定してなることを特徴としている。
本発明の銅条・銅箔の製造方法は、所望の凸状の立体パターンを被加工物である銅材の表面に形成するためのエンボス凹型穴が中空円筒状のスリーブ材の外周面に形成され、かつ前記エンボス凹型穴に連なり前記スリーブ材の円筒中心方向へと伸びて当該方向へと余剰な圧延油を逃がすように設定された圧延油逃し孔が形成された金型本体スリーブと、外周に前記金型本体スリーブが同軸的に重ね合わされて、前記金型本体スリーブと共に回転するように設定されたロール軸体とを備えたエンボス圧延加工用ロールを用いて、前記金型本体スリーブの外周面を前記ロール軸体と共に回転させながら圧延油を用いつつ前記被加工物である銅材の表面に押圧させることで、前記エンボス凹型穴における余剰の圧延油を前記圧延油逃し孔によって前記エンボス凹型穴からその外部へと排出しつつ、前記被加工物である銅材の表面に前記凸状の立体パターンを形成する工程を含むことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所望の凸状の立体パターンを被加工物である銅材の表面に形成するためのエンボス凹型穴が中空円筒状のスリーブ材の外周面に形成され、かつ前記エンボス凹型穴に連なり前記スリーブ材の円筒中心方向へと伸びて当該方向へと余剰な圧延油を逃がすように設定された圧延油逃し孔が形成された金型本体スリーブと、外周に前記金型本体スリーブが同軸的に重ね合わされて、前記金型本体スリーブと共に回転するように設定されたロール軸体とを備えたエンボス圧延加工用ロールを用いて、前記金型本体スリーブの外周面を前記ロール軸体と共に回転させながら圧延油を用いつつ前記被加工物である銅材の表面に押圧させることで、前記エンボス凹型穴における余剰の圧延油を前記圧延油逃し孔によって前記エンボス凹型穴からその外部へと排出しつつ、前記被加工物である銅材の表面に前記凸状の立体パターンを形成するようにしたので、圧延油のかけ流しを行うことでサーマルクラウンやロールマークの発生を抑止ないしは解消しつつ、被加工物の銅条材や銅箔材の表面に所望の寸法および形状の微細な凸状の立体パターンを正確・均一に形成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本実施の形態に係るエンボス圧延加工用ロールおよびそれを用いた銅条・銅箔の製造方法について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係るエンボス圧延加工用ロールの主要な構成を示す図、図2は、図1に示したエンボス圧延加工用ロールを用いた4段圧延機の概要構成を模式的に示す図、図3は、本発明の実施の形態に係るエンボス圧延加工用ロールおよびそれを用いた圧延銅箔の製造方法における主要な作用(図3(a))について、従来のエンボス加工方法の場合(図3(b))と比較して模式的に示す図である。
【0014】
本実施の形態に係るエンボス圧延加工用ロール10は、図1に示したように、金型本体スリーブ1と、その金型本体スリーブ1が同軸的に重ね合わされるように組み付けられて、その金型本体スリーブ1と共に回転するように設定されたロール軸体2とから、その主要部が構成されている。
【0015】
金型本体スリーブ1には、所望の凸状の立体パターン9を例えば銅条材や銅箔のような被加工物の表面に形成するためのエンボス凹型穴15を、中空円筒状のスリーブ材(エンボス凹型穴15等が形成される前の金属製素材として円筒状に形成された部材)の外周面に形成してなるものである。そして、エンボス凹型穴15に連なり、この金型本体スリーブ1(前記のスリーブ材)の円筒中心方向へと伸びて、その方向へと余剰な圧延油8b、8cを逃がすように設定された圧延油逃し孔3が形成されている。
【0016】
図1に示した構造では、エンボス凹型穴15および圧延油逃し孔3は、金型本体スリーブ1の厚さ方向に貫通する孔を、例えばレーザ加工によって設けることで、金型本体スリーブ1の外周面から内周面まで同直径で直管的(直線的)に連なる一連の貫通孔として設けられたものとなっている。
但し、エンボス凹型穴15および圧延油逃し孔3は、このような態様のもののみには限定されないことは勿論である。この他にも、例えば図3(a)に示したように、エンボス凹型穴15についてはその直径および断面形状を、所望の凸状の立体パターン9に則した大きさおよび形状のものとし、それに連なる圧延油逃し孔3については、余剰な圧延油8b、8cをエンボス凹型穴15の外へと有効に排出させることができる程度の直径を有する直管的(直線的)な貫通孔とするようにしてもよい。図3(a)に示した一例では、エンボス凹型穴15の方が圧延油逃し孔3よりも直径が大きく、かつそのエンボス凹型穴15の立体的な形状も直管的ではなく、所望の凸状の立体パターン9の形状に則した切頭円錐状(立断面台形状)となっている。
あるいは、図示は省略するが、エンボス凹型穴15の平面視における形状についても、円形のみには限定されず、その他にも、例えば楕円形、矩形、菱形、多角形など、形成したい所望の凸状の立体パターン9に則した種々のパターン形状とすることも可能であることは勿論である。
また、エンボス凹型穴15および圧延油逃し孔3の形成方法は、上記のようなレーザ加工のみには限定されないことは勿論である。この他にも、例えば機械切削加工などによっても形成することが可能である。
【0017】
ロール軸体2は、その外周に金型本体スリーブ1が同軸的に重ね合わされ、滑りや空転などを引き起こすことのないように組み付けられて、金型本体スリーブ1と共に回転するように設定されたものである。
このロール軸体2の外周面には、金型本体スリーブ1の圧延油逃し孔3と連なって、エンボス凹型穴15における余剰な圧延油8b、8cを圧延油逃し孔3からさらにその外部へと逃すための圧延油逃し溝4が形成されている。圧延油逃し溝4は、ロール軸体2の中心軸と平行方向に直線的に伸びるように、そのロール軸体2の外周面に、例えば切削加工またはレーザ加工などによって形成されている。
従って、金型本体スリーブ1のエンボス凹型穴15における余剰な圧延油8b、8cは、そのエンボス凹型穴15と連なるように設けられた圧延油逃し孔3を通り、さらにその圧延油逃し孔3に連なるようにロール軸体2の外周面に設けられた圧延油逃し溝4を通っ
て、エンボス圧延加工用ロールの軸方向に沿って流動し、もしくは吸引されて行き、最終的には、このエンボス圧延加工用ロール10の外部へと排出されるように設定されている。
【0018】
本実施の形態に係るエンボス圧延加工用ロール10では、上記の如く、金型本体スリーブ1とロール軸体2とを分割して形成し、それらを空転や位置ずれなどが生じることのないように組み付けて、一体のエンボス圧延加工用ロール10を構成するようにしているので、ロール軸体2と組み付ける前の単体の状態の金型本体スリーブ1に孔開け加工等を施すことにより、その金型本体スリーブ1に圧延油逃し孔3やエンボス凹型穴15を、簡易かつ正確に形成することができる。また、ロール軸体2の外周面は、金型本体スリーブ1が組みつけられて一体のエンボス圧延加工用ロール10となった状態では、金型本体スリーブ1の内周面によって覆われてしまうので、その状態では圧延油逃し溝4をロール軸体2の外周面に形成することは困難ないし不可能である。しかし、金型本体スリーブ1が組み付けられていない、ロール軸体2が単体の状態のときには、そのロール軸体2の外周面に圧延油逃し溝4を簡易かつ正確に形成することができるようになっている。
【0019】
なお、本実施の形態に係るエンボス圧延加工用ロール10の形成材料としては、例えば鍛鋼ロールや超硬ロール、あるいはその他の一般的なものとすることが可能である。具体的には、例えば、超硬合金、サーメット、ハイス鋼、ダイス鋼、鍛鋼などからなるものとすることが可能である。
また、圧延油逃し溝4は、ロール軸体2の外周面に設けることのみには限定されず、金型本体スリーブ1の内周面に設けることも可能である。
また、上記のような圧延油逃し溝4に対して直交または斜交する補助逃し溝(図示省略)を、さらに設けるようにしてもよい。このようにすることにより、エンボス凹型穴15における余剰な圧延油8b、8cを、さらに効果的に排出することが可能となる。
また、金型本体スリーブ1をその軸方向に直列に複数個連結的に配置して、幅広の被加工物にエンボス圧延加工を施すことに対応できるようにすることなども可能である。
【0020】
本実施の形態に係る銅条・銅箔の製造方法では、図2に一例を示したような圧延機が用いられる。この圧延機は、エンボス圧延加工用ロール10と、ワークロール12と、バックアップロール13と、バックアップロール14とを、被加工物である銅条材5の表面にエンボス圧延を施すための主要部として備えている。この図2に示した圧延機では、例えば条状(帯状)の銅条材5が、同図における左から右へと、矢印6で示した方向に送られて行くように設定されている。
【0021】
エンボス圧延加工用ロール10は、図1に示したようなエンボス凹型穴15および圧延油逃し孔3ならびに圧延油逃し溝4を備えたワークロールであり、被加工物である銅条材5の表面に対して回転しながら直接的に接して圧延荷重を印加することで、銅条材5の表面にエンボスパターンを形成するように設定されている。すなわち、このエンボス圧延加工用ロール10は、エンボス金型としてその表面に設けられているエンボス凹型穴15を銅条材5の表面に押し当てて、その部分の銅条材5を塑性変形させることで、エンボス凹型穴15を転写してなる凸状の立体パターン9を含んだエンボスパターンを銅条材5の表面に形成するための、エンボス加工用のワークロールである。
【0022】
ワークロール12は、銅条材5を挟んでエンボス圧延加工用ロール10と対面配置されて、図2に示した一例では上方からエンボス圧延加工用ロール10によって銅条材5へと印加される圧延荷重を下方で支えることで、このワークロール12とエンボス圧延加工用ロール10との間に挟まれた銅条材5に対して所定の圧延荷重でエンボス圧延加工が行われるようにするためのものである。銅条材5の片面(図2では上面)のみにエンボス圧延加工を施す場合には、このワークロール12の表面にはエンボス圧延加工用ロール10の
場合のようなエンボス金型(エンボス凹型穴15)は設けられていない。また、銅条材5の表裏両面にエンボス加工を施す場合には、ワークロール12も上記のエンボス圧延加工用ロール10と同様のエンボス凹型穴15および圧延油逃し孔3ならびに圧延油逃し溝4を備えたものとすることで、被加工物である銅条材5の表裏両面に正確かつ均一なエンボス加工を行うことが可能となる。
【0023】
バックアップロール13、バックアップロール14は、それぞれエンボス圧延加工用ロール10、ワークロール12に対して、一般的な圧延機の場合と同様に、それらの駆動制御や圧延荷重制御等の、いわゆるバックアップ機能を行うためのものである。
【0024】
本発明の実施の形態に係る銅条・銅箔の製造方法は、上記のような圧延機を用いて、圧延油8aをかけ流しながら、被加工物である銅条材または銅箔(これらを纏めて銅条材5とも呼ぶ)の片面または両面にエンボス加工を行うものである。
被加工物の銅条材5を、図2に示したような圧延機に投入すると、そこに装備されているエンボス圧延加工用ロール10によって、本発明の実施の形態に係るエンボス圧延加工が被加工物である銅条材5に施される。そのエンボス圧延加工用ロール10によるエンボス圧延加工プロセスが行われている間ずっと、圧延油8aをかけ流し続ける。あるいは、さらにそれに加えて、被加工物の銅条材5がエンボス圧延加工用ロール10に到達する以前の段階で(図2では領域7として示してある位置で)、圧延油8aを塗布する。
【0025】
圧延機に投入された被加工物である銅条材5がエンボス圧延加工用ロール10に至ると、そのエンボス圧延加工用ロール10では、金型本体スリーブ1の外周面をロール軸体2と共に回転させながら、圧延油8aを潤滑油兼冷却油として用いつつ、被加工物である銅条材5の表面に押圧させることで、その銅条材5の表面に凸状の立体パターン9が形成される。このエンボス圧延加工プロセスで圧延油8aをかけ流し続けるようにする場合、一般に、図3(b)に示したように、エンボス凹型穴15の空間内に余剰な圧延油8cが残留して溜まりやすくなり、延いてはロールマークやエンボス圧延不良が発生する虞があったが、本実施の形態に係るエンボス圧延加工用ロールおよびそれを用いた銅条・銅箔の製造方法では、図3(a)に示したように、エンボス凹型穴15における余剰の圧延油8b、8cは、圧延油逃し孔3および圧延油逃し溝4によって、エンボス圧延加工用ロール10の外部へと排出される。
【0026】
次に、本実施の形態に係る銅条・銅箔の製造方法における主要な作用について、従来の製造方法と比較・対照して説明する。
エンボス圧延加工プロセスでは一般に、主要な治工具であるエンボス圧延加工用ロール10の冷却や、異物の洗い流しなどを目的として、圧延油8aのかけ流しをしながら、エンボス圧延プロセスを行っている。
そのエンボス圧延プロセスでは、エンボス圧延加工用ロール10の表面に形成されているエンボス凹型穴15の空間内に、圧延荷重によって銅条材5の表面付近が塑性変形して入り込むことにより、その銅条材5の表面に凸状の立体パターン9が形成される。
【0027】
ところが、かけ流しを行って圧延油8aを追加供給し続けていると、図3(b)に示したように、銅条材5の表面上やエンボス圧延加工用ロール10の表面における圧延油8b等の被膜圧延油量が過多になり、それによって余剰となった圧延油8cが、エンボス圧延加工用ロール10の表面に設けられているエンボス凹型穴15の空間内に充満してしまう。そうすると、この状態で圧延荷重を加えても、そのとき既にエンボス凹型穴15の空間内は余剰の圧延油8cの充満に因って塞がれてしまっている状態になっているのであるから、もはや銅条材5がエンボス凹型穴15の空間内に流れ込むことはできなくなっている。このような要因によって、圧延荷重やロール金型の仕様等を適切なものとしているにも関わらず、形成された凸状の立体パターン9の高さをはじめとする各種寸法や形状に、著
しい不良や欠陥が多発していた。
【0028】
そこで、本実施の形態に係る銅条・銅箔の製造方法では、図3(a)に示したように、エンボス凹型穴15における余剰の圧延油8bを、圧延油逃し孔3および圧延油逃し溝4によって、エンボス圧延加工用ロール10の外部へと排出するようにしている。
このようにすることにより、エンボス圧延加工プロセスを行っている間ずっと、エンボス圧延加工用ロール10の冷却や異物等の洗い流しなどを目的として圧延油8のかけ流しを継続しても、エンボス凹型穴15における余剰な圧延油8b、8cは圧延油逃し孔3および圧延油逃し溝4によってエンボス凹型穴15の外部へと排出されるので、余剰の圧延油8cがエンボス凹型穴15の空間内に充満することを回避することが可能となる。その結果、凸状の立体パターン9の高さをはじめとする各種寸法や形状の不良や欠陥の発生を懼れることなく十分な量の圧延油8aのかけ流しを行って、圧延油8aのかけ流しを行わない場合に生じる虞のあったサーマルクラウンやロールマークやエンボスパターン形状不良などの発生に起因した生産能率や製造歩留まりの低下を引き起こすことなしに、被加工物の銅条材5の表面に所望の寸法の微細な凸状の立体パターン9を常に正確かつ均一に形成することが可能となる。
【0029】
また、このような本実施の形態に係る銅条・銅箔の製造方法によって加工される銅条材5は、エンボス凹型穴15の直径や奥行等の寸法を所望の微細な寸法に設定すると共にその分布密度等を所望の設定にすることにより、被加工物の圧延仕上がりでの表面粗度を高精度に設定するこが可能となるため、各種アプリケーションに対する設計の自由度が大幅に向上する。従って、本実施の形態に係る銅条・銅箔の製造方法は、高性能な金属素材の製品特性の向上等にも寄与することができる。
【実施例】
【0030】
上記の実施の形態で説明したようなエンボス圧延加工用ロールを用いて、平板状の銅箔にエンボス加工を施してなる銅条・銅箔を製造した。
この実施例では、金型本体スリーブ1としては、外径50mm、内径46mm、長さ100mmの、鍛鋼材からなるものを用いた。そしてエンボス凹型穴15および圧延油逃し孔3は、機械加工により、金型本体スリーブ1をその厚さ方向(肉厚方向)に直管的に貫通する一連の孔として形成した。
凸状の立体パターン9を形成するためのエンボス凹型穴15は、図4に示したように、平面視で直径21の寸法が0.5mmの、円形のものとした。また、その隣り合うエンボス凹型穴15同士のピッチは、横方向ピッチ22、縦方向ピッチ23共に、1mmとした。
【0031】
ロール軸体2としては、鋼材からなる、直径46mm、長さ100mmのものを用いた。そしてこのロール軸体2の外周面に、その軸方向に沿って直線的に伸びた圧延油逃し溝4を、機械的切削加工によって形成した。その圧延油逃し溝4の主要な仕様寸法は、幅0.5mm、深さ100μm、長さ100mm、周方向ピッチ1.5mmとした。
【0032】
そして、上記のような金型本体スリーブ1をロール軸体2の外周に組み付け、焼き嵌め・冷し嵌めなどの一般的な方法で、両者を空転や位置ずれが生じることのないように固定し、エンボス圧延加工用ロール10とした。
【0033】
圧延機としては、図2に示したような構造の4段圧延機を用いた。
供試材としては、一般的な圧延銅箔TPC材である、厚さ33μm、幅40mm、長さ100mの帯状の、C1100コイル材を用意した。
【0034】
本発の実施例に係るエンボス圧延加工は、圧延油逃し孔3および圧延油逃し溝4を形成
してなる金型本体スリーブ1およびロール軸体2を備えたエンボス圧延加工用ロール10を用いて、毎分3L(リットル)の流量で圧延油8aをかけ流しながら、線圧約15kN/cmの荷重で行った(試料1)。
比較例1のエンボス圧延加工は、圧延油逃し孔3および圧延油逃し溝4を有さない従来の一般的な鍛鋼ロール(図示省略)を用いて、その他は本発明に係る実施例の設定と同様に、毎分3L(リットル)の流量で圧延油をかけ流しながら、線圧約15kN/cmの荷重で行った(試料2)。
比較例2のエンボス圧延加工は、圧延油逃し孔3および圧延油逃し溝4を有さない従来の一般的な鍛鋼ロールを用い、かつ圧延油のかけ流しをすることなしに、潤滑油および冷却油として適量と推定される圧延油を事前に(図2の領域7を通過する段階までに)銅条材5の表面に塗布して、線圧約15kN/cmの荷重で行った(試料3)。
その結果は、表1に纏めて示したようなものとなった。
【0035】
【表1】

【0036】
実施例のエンボス圧延加工によってエンボス加工を施して得られた試料1では、異物の巻き込みに起因すると想定されるロールマークは全く発生しておらず、また、凸状の立体パターン9の高さ寸法も平均12.4μmとなり、目標高さまで十分に立っており均一な加工面が形成されていた。
【0037】
他方、比較例1のエンボス圧延加工によってエンボス加工を施して得られた試料2では、エンボス圧延加工プロセスで圧延油のかけ流しを行ったことで、遺物の除去や冷却は可能となったので、ロールマークは全く発生しなかった。しかし、図3(b)に模式的に示したような、エンボス凹型穴15の空間内に余剰の圧延油8cが充満したことに起因したものと想定される、凸状の立体パターン9の高さ寸法不良が多発し、その平均高さは2.4μmとなり、目標高さの12μmよりも著しく低いものとなった。
【0038】
また、比較例2のエンボス圧延加工によってエンボス加工を施して得られた試料3では、投入する銅条材5の表面に、事前に塗布量を調節して圧延油8aを塗布しておいたので、形成された凸状の立体パターン9の高さ寸法は平均12.1μmとなり、目標高さの12μmに適合するものとなったが、一連の銅条材5に施すエンボス圧延加工プロセスの途中からロールマークが多発するようになった。これは、かけ流しによる圧延油8aの供給を行わなかったことに起因して発生したものと想定される。
【0039】
このような結果から、本発明の実施例に係るエンボス圧延加工用ロールを用いた銅条・銅箔の製造方法によれば、圧延油8aのかけ流しを行うことで、サーマルクラウンやロールマークの発生を抑止ないしは解消することができ、かつ被加工物である銅条材5の表面に所望の寸法の微細な凸状の立体パターン9を正確かつ均一(あるいは確実)に形成することが可能となることが確認された。
【0040】
なお、上記の実施の形態および実施例では、被加工物が銅条材である場合について説明したが、その他にも、例えば極薄の銅箔やその他金属の極薄材、もしくは可塑性の材質の非金属材料などにも、本発明に係るエンボス圧延加工用ロールが適用可能であることは勿論である。
また、凸状の立体パターン9の形状についても、種々のバリエーションが可能であることは言うまでもない。
また、本発明に係るエンボス圧延加工用ロールおよびそれを用いた銅条・銅箔の製造方法は、上記に説明したエンボス加工を行うためのものであれば、圧延機の構造、ワークロールの材質、圧延油の種類などのような各種仕様上の制限等はないことは言うまでもない。
また、圧延油逃し溝4は、ロール軸体2の中心軸に対して斜め方向に、例えば螺旋状に形成することなども可能である。
また、圧延油逃し溝4は省略し、圧延油逃し孔3のみを用いるようにすることも可能である。但し、その場合には、エンボス圧延加工を長く続けて行くうちに、圧延油逃し孔3に余剰な圧延油8bが蓄積されて行き、遂にはエンボス凹型穴15にも余剰な圧延油8cが充満することになることなども想定される。そのような場合には、例えば、金型本体スリーブ1の領域11の部分などに、ブレードやスキージ等(図示省略)のような箆状の治工具を配置して、エンボス形成直後に金型本体スリーブ1の表面に残っている余剰な圧延油8b、8cを拭き取るようにすることなどが有効である。
また、本発明によって製造される銅条・銅箔は、FPC(フレキシブルプリント配線板)用や、放熱板用、各種二次電池における集電体用など、種々のアプリケーションに対応した表面粗度を有するものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態に係るエンボス圧延加工用ロールの主要な構成を示す図である。
【図2】図1に示したエンボス圧延加工用ロールを用いた4段圧延機の概要構成を模式的に示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るエンボス圧延加工用ロールおよびそれを用いた圧延銅箔の製造方法における主要な作用(図3(a))について、従来のエンボス加工方法の場合(図3(b))と比較して模式的に示す図である。
【図4】本発明の実施例に係る製造方法に用いたエンボス圧延加工用ロール10に形成してなるエンボス凹型穴15の、平面視における形状およびピッチを模式的に示す図である。
【符号の説明】
【0042】
1 金型本体スリーブ
2 ロール軸体
3 圧延油逃し孔
4 圧延油逃し溝
5 銅条材
8 圧延油
9 凸状の立体パターン
10 エンボス圧延加工用ロール
15 エンボス凹型穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所望の凸状の立体パターンを被加工物の表面に形成するためのエンボス凹型穴が中空円筒状のスリーブ材の外周面に形成され、かつ前記エンボス凹型穴に連なり前記スリーブ材の円筒中心方向へと伸びて当該方向へと余剰な圧延油を逃がすように設定された圧延油逃し孔が形成された金型本体スリーブと、
外周に前記金型本体スリーブが同軸的に重ね合わされて、前記金型本体スリーブと共に回転するように設定されたロール軸体と
を備えて、圧延油を用いつつ前記金型本体スリーブの外周面を前記ロール軸体と共に回転させながら前記被加工物の表面に押圧させることで、前記凸状の立体パターンを前記被加工物の表面に形成するように設定してなる
ことを特徴とするエンボス圧延加工用ロール。
【請求項2】
請求項1記載のエンボス圧延加工用ロールにおいて、
前記ロール軸体の外周面に、前記金型本体スリーブの圧延油逃し孔と連なって前記余剰な圧延油を前記圧延油逃し孔からさらにその外部へと逃す圧延油逃し溝を設けた
ことを特徴とするエンボス圧延加工用ロール。
【請求項3】
請求項1記載のエンボス圧延加工用ロールにおいて、
前記金型本体スリーブの内周面に、当該金型本体スリーブの圧延油逃し孔と連なって前記余剰な圧延油を前記圧延油逃し孔からさらにその外部へと逃す圧延油逃し溝を設けた
ことを特徴とするエンボス圧延加工用ロール。
【請求項4】
請求項2または3記載のエンボス圧延加工用ロールにおいて、
前記圧延油逃し溝が、前記金型本体スリーブまたは前記ロール軸体の中心軸と平行方向に直線的に伸びるように形成されたものである
ことを特徴とするエンボス圧延加工用ロール。
【請求項5】
請求項2ないし4のうちいずれか1つの項に記載のエンボス圧延加工用ロールにおいて、
前記圧延油逃し溝に対して直交または斜交するように設けられた補助逃し溝を、さらに備えた
ことを特徴とするエンボス圧延加工用ロール。
【請求項6】
請求項1ないし5のうちいずれか1つの項に記載のエンボス圧延加工用ロールにおいて、
前記エンボス凹型穴および前記圧延油逃し孔は、前記金型本体スリーブの厚さ方向に貫通する孔を前記スリーブ材にレーザ加工によって設けることで、前記金型本体スリーブの外周面から内周面まで同直径で貫通する一連の貫通孔として設けられたものである
ことを特徴とするエンボス圧延加工用ロール。
【請求項7】
所望の凸状の立体パターンを被加工物である銅材の表面に形成するためのエンボス凹型穴が中空円筒状のスリーブ材の外周面に形成され、かつ前記エンボス凹型穴に連なり前記スリーブ材の円筒中心方向へと伸びて当該方向へと余剰な圧延油を逃がすように設定された圧延油逃し孔が形成された金型本体スリーブと、外周に前記金型本体スリーブが同軸的に重ね合わされて、前記金型本体スリーブと共に回転するように設定されたロール軸体とを備えたエンボス圧延加工用ロールを用いて、前記金型本体スリーブの外周面を前記ロール軸体と共に回転させながら、圧延油をかけ流しで用いつつ、前記被加工物である銅材の表面に押圧させることで、前記エンボス凹型穴における余剰の圧延油を前記圧延油逃し孔によって前記エンボス凹型穴からその外部へと排出しつつ前記被加工物である銅材の表面
に前記凸状の立体パターンを形成する工程を含む
ことを特徴とする銅条・銅箔の製造方法。
【請求項8】
請求項7記載の銅条・銅箔の製造方法において、
前記ロール軸体の外周面または前記金型本体スリーブの内周面に、前記金型本体スリーブの圧延油逃し孔と連なって前記余剰な圧延油を前記圧延油逃し孔からさらにその外部へと逃す圧延油逃し溝を設けておき、前記エンボス凹型穴における余剰の圧延油を、前記圧延油逃し孔および前記圧延油逃し溝によって前記エンボス凹型穴からその外部へと排出する
ことを特徴とする銅条・銅箔の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−82676(P2010−82676A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−256995(P2008−256995)
【出願日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】