説明

オイル供給構造

【課題】駆動力源の回転方向が変化する場合であっても、オイルポンプによる被供給部へのオイルの供給を適切に行うことのできるオイル供給構造を提供する。
【解決手段】出力トルクの回転方向を正転方向と逆転方向とに選択的に変更可能な駆動力源6と、出力トルクが伝達されて駆動力を発生させる出力部材Wと、出力トルクにより駆動されてオイルを吐出するオイルポンプ10とを備え、オイルポンプ10が吐出するオイルを被供給部14へ供給するオイル供給構造において、オイルポンプ10を、出力トルクの回転方向が正転方向の場合に被供給部14へ向けてオイルを吐出する正転用ポンプ10fと、出力トルクの回転方向が逆転方向の場合に被供給部14へ向けてオイルを吐出する逆転用ポンプ10rとの2種類のオイルポンプによって構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、駆動力源の出力トルクによりオイルポンプを駆動し、そのオイルポンプが吐出するオイルを被供給部へ供給するオイル供給構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電気自動車の一形態として、車輪のホイール内部もしくはその近傍にモータを配置しそのモータにより車輪を直接駆動する、いわゆるインホイールモータ方式の車両が開発されている。そのインホイールモータは、車輪の近傍に設けられて車輪に直接動力を伝達するものであるから、従来の車両に設けられている変速機やデファレンシャルなどの動力伝達機構を設ける必要がなくなり、車両の構成を簡素化することができる。その一例が特許文献1に記載されている。この特許文献1に記載されたインホイールモータは、ステータコアとステータコイルとロータとからなるモータと、モータの出力トルクにより回転するシャフトと、シャフトの一方端に設けられたオイルポンプと、オイル通路とを備えている。そして、オイルポンプがオイル通路を介してオイル溜まりからオイルを汲み上げ、その汲み上げたオイルを他のオイル通路を介して、開口端からモータのステータコイルの外周に供給するように構成されている。
【0003】
すなわち、この特許文献1に記載されているインホイールモータにおけるオイル供給構造は、インホイールモータのケーシング内の底部に設けられたオイル溜まりからオイル通路を介して吸入口からオイルを吸入し、その吸入したオイルを吐出口から他のオイル通路を介してステータコアなどのオイルの被供給部へ供給する構成となっている。すなわち底部のオイル溜まりに溜められたオイルをオイルポンプによって汲み上げて被供給部へ供給するようになっている。
【0004】
したがって、この特許文献1に記載されているインホイールモータでは、インホイールモータの出力トルクによって駆動されるオイルポンプにより、オイルがステータコアの外周に供給され、その供給されたオイルによってインホイールモータのステータコアやステータコイルを冷却すること、あるいはモータとホイールとの間の動力伝達経路内で用いられているギヤやベアリング等を潤滑することができる。
【0005】
【特許文献1】特開2005−73364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
駆動力源として車両に搭載されるインホイールモータは、車両を前進および後進させるために運転時にその回転方向が変更させられる場合がある。すなわち、車両の進行方向が前進・後進の間で切り替わることに伴って、インホイールモータの回転方向も車両を前進させる際の正転方向と、車両を後進させる際の逆転方向との間で選択的に変更させられる場合がある。
【0007】
これに対して、上記の特許文献1に記載されているインホイールモータにおけるオイル供給構造では、上記のようにインホイールモータの出力トルクによって駆動されるオイルポンプが設けられている。そのような駆動力源の動力を分用して駆動する形式のオイルポンプは、通常、例えばトロコイド(ロータリ)式や歯車式あるいはベーン式などの比較的簡単な構成の回転ポンプが用いられている。したがって、車両の前後進が切り替えられることなどによってインホイールモータの回転方向が変化すると、それに併せてオイルポンプの回転方向も変化し、その結果、オイルポンプの吸入口と吐出口との関係が入れ替わることになる。すなわち、オイルポンプの吐出方向が切り替わって反対になる。
【0008】
この場合、仮にオイル溜まりの容量を十分に大きくすることができたとして、本来の(すなわちオイルポンプが正転方向に駆動される際の)吐出口からオイル溜まりのオイルを吸入することができる構成であれば、あるいはそのような手段が設けられているのであれば、オイルポンプが逆転方向に駆動される場合であっても本来の吸入口からオイルを吐出させることができる。しかしながら、上記の特許文献1に記載されているインホイールモータのオイル供給構造では、インホイールモータのケーシング内部の限られた空間にオイル溜まりを設けなければならず、オイルポンプが逆転方向に駆動される際に吸入口から被供給部へ向けてオイルを吐出できるようには構成されていない。そのため、例えば、車両の後進時にインホイールモータが逆転方向に駆動される場合には、オイルポンプによる被供給部へのオイルの供給を適切に行えなくなる可能性があった。
【0009】
この発明は上記の技術的課題に着目してなされたものであり、駆動力源の回転方向が変化する場合であっても、簡単な構成で、オイルポンプによる被供給部へのオイルの供給を適切に行うことができるオイル供給構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、出力トルクの回転方向を正転方向と逆転方向とに選択的に変更可能な駆動力源と、前記出力トルクが伝達されて駆動力が発生する出力部材と、前記出力トルクにより駆動されてオイルを吐出するオイルポンプとを備え、該オイルポンプが吐出するオイルを被供給部へ供給するオイル供給構造において、前記オイルポンプは、前記出力トルクの回転方向が正転方向の場合に前記被供給部へ向けてオイルを吐出する正転用ポンプと、前記出力トルクの回転方向が逆転方向の場合に前記被供給部へ向けてオイルを吐出する逆転用ポンプとの2種類のオイルポンプにより構成されていることを特徴とするオイル供給構造である。
【0011】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記オイルポンプが、いずれも前記駆動力源と前記出力部材との間に設けられていて、前記出力部材と前記オイルポンプとの間に、前記駆動力源側から前記出力部材へのトルクの伝達を許容しかつ前記出力部材側から前記駆動力源へのトルクの伝達を遮断するワンウェイクラッチを更に備えていることを特徴とするオイル供給構造である。
【0012】
そして、請求項3の発明は、請求項1または2の発明において、前記駆動力源が、車輪を前記出力部材として該車輪のホイールに内蔵された電動機を含むことを特徴とするオイル供給構造である。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、駆動力源の出力トルクにより駆動されるオイルポンプによって、オイルの被供給部へオイルを供給する場合に、そのオイルポンプとして、正転用ポンプと逆転用ポンプとの2種類のオイルポンプが設けられる。したがって、正転方向および逆転方向のいずれの回転方向の出力トルクに対しても、その出力トルクによって正転用ポンプもしくは逆転用ポンプのいずれか一方が必ず駆動されることになる。そのため、駆動力源が正転方向もしくは逆転方向のいずれの回転方向に回転する場合であっても、被供給部へ適切にオイルを供給することができる。
【0014】
また、請求項2の発明によれば、駆動力源と出力部材との間に、正転用ポンプと逆転用ポンプとからなるオイルポンプが設けられるとともに、それらのオイルポンプと出力部材との間に、駆動力源から出力部材への方向のみトルクを伝達するワンウェイクラッチが設けられる。したがって、出力部材から駆動力源側へ向かうトルクが入力される場合、その出力部材からのトルクは、ワンウェイクラッチでその伝達が遮断され駆動力源へは伝達されない。そのため、出力部材から駆動力源側へ向かうトルクが発生した場合であっても、その出力部材からのトルクによる駆動力源の引き摺り損失の発生を回避することができる。
【0015】
さらに、この請求項2の発明では、正転方向の出力部材の回転数が駆動力源の回転数を上回る場合、言い換えると、出力部材が駆動力源以外の動力や慣性力等によって正転方向に回転している場合、あるいは出力部材の回転が停止している場合に、駆動力源を逆転方向に回転させることができる。すなわち、その場合の駆動力源の逆転方向の出力トルクはワンウェイクラッチで遮断されて出力部材へは伝達されない。そのため、例えば、駆動力源による正転方向の出力トルクは要求されていないものの、被供給部へのオイルの供給が必要な場合に、駆動力源を逆転方向に回転させることにより、その際の出力される逆転方向のトルクによって逆転用ポンプを駆動し、被供給部へオイルを供給することができる。
【0016】
そして、請求項3の発明によれば、車輪のホイール内部もしくはその近傍に設置された電動機、すなわちいわゆるインホイールモータを駆動力源とするオイル供給構造に対して、その被供給部へ適切にオイルを供給することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
この発明に係るオイル供給構造は、出力するトルクの回転方向を正転方向と逆転方向とに選択的に変更して制御することが可能な駆動力源によってオイルポンプを駆動し、そのオイルポンプにより吸入したオイルを吐出し、その吐出したオイルを被供給部へ供給して被供給部の潤滑あるいは冷却を行うように構成されていて、前記のオイルポンプとして、駆動力源の回転方向が正転方向の場合に駆動されて被供給部へ向けてオイルを吐出する正転専用のオイルポンプと、駆動力源の回転方向が正転方向とは反対の逆転方向の場合に駆動されて被供給部へ向けてオイルを吐出する逆転専用のオイルポンプとの2種類のオイルポンプが備えられている。
【0018】
そしてこの発明に係るオイル供給構造は、例えば、車両の駆動力源として車輪のホイール内に設置されたいわゆるインホイールモータの内部もしくは外部の被供給部へ向けてオイルを供給するように構成されている。このインホイールモータは、車体に支持されてホイールを直接駆動する電動機(モータ)であり、その駆動の形態は、回転子(ロータ)と一体の出力軸をホイール取付部に直接連結してホイールを駆動する形態以外に、出力軸と回転子との間に、減速機を介在させて、その減速機で増大させたトルクをホイールに伝達する形態であってもよい。そのインホイールモータは、前輪などの操舵輪においてはナックルアーム、後輪などの非操舵輪についてはアッパーアームおよびロアーアームなどのアーム部材を介して車体に支持されている。
【0019】
図1に、この発明に係るオイル供給構造の一例を模式的に示してある。この図1に示す例は、この発明のオイル供給構造を車両のインホイールモータに適用した構成を示してある。符号1は車両における車輪Wのホイールを示し、ホイルディスク2とその外周部に設けられているリム3とから構成され、そのリム3にタイヤ4を取り付けるように構成されている。そして、このホイール1の内周部分であって、ホイール1と同軸上にインホイールモータ5が配置されている。言い換えると、車輪Wのホイール1に、インホイールモータ5が内蔵されている。
【0020】
このインホイールモータ5は、主として、車両を走行させる駆動トルクを出力するためのものであり、誘導モータなどのモータ6がケーシング7の内部に収納されている。すなわち、このインホイールモータ5のモータ6は、車両の駆動力源であって、出力トルクを、車両を前進させる際の回転方向である正転方向と、その正転方向とは反対の回転方向である逆転方向とに選択的に切り替えることができる電動機である。そして、このインホイールモータ5は、そのケーシング7をアーム部材8に取り付けることにより、そのアーム部材8を介して車体(図示せず)に連結されて支持されている。
【0021】
上記のモータ6のトルクを出力する出力軸9が設けられている。これらのモータ6と出力軸9とは、直接連結されていてもよく、あるいは所定の変速比に設定された減速機などの伝動機構(図示せず)を介して連結されていてもよい。そして、その出力軸9が、オイルポンプ10およびワンウェイクラッチ11を介してホイール取付部であるホイールハブ12に連結されていて、そのホイールハブ12に前記のホイール1が装着されている。
【0022】
オイルポンプ10は、駆動力源であるモータ6の出力トルクが伝達されることにより駆動されて油圧を発生するものであり、外部から動力を得てその回転軸(図示せず)を駆動することによって吸入口(図示せず)からオイルを吸引し、その吸入したオイルを吐出口(図示せず)から吐出するように構成されている。例えば、歯車ポンプ、トロコイドポンプ、ベーンポンプ、ねじポンプなどの回転ポンプや、あるいはピストンポンプなどの各種構成の公知のポンプを採用することができる。そしてこのオイルポンプ10は、ケーシング7内の底部に設けられたオイル溜まり13に貯留しているオイルを吸入し、オイルによる冷却や潤滑を行う必要がある被供給部14へ向けてオイルを吐出して供給するようになっている。
【0023】
なお、オイル溜まり13は、各部に供給された後に落下するオイルを集合させて貯留する部分であり、ここではケーシング7の内部に設けられた例を示しているが、ケーシング7の外部に設置される構成であってもよい。また、被供給部14は、例えば、モータ6のロータやコイルエンド(共に図示せず)、あるいはインホイールモータ5の各回転部材を支持する軸受け(図示せず)や各回転部材の間で動力伝達を行う歯車等の伝動部材(図示せず)など、オイルによる冷却や潤滑が必要とされて上記のオイルポンプ10によってオイルが供給される個所である。
【0024】
そして、この発明におけるオイルポンプ10は、オイルポンプ10を駆動するモータ6の出力トルクの回転方向が正転方向の場合に被供給部14へ向けてオイルを吐出する正転用ポンプ10fと、モータ6の出力トルクの回転方向が逆転方向の場合に被供給部14へ向けてオイルを吐出する逆転用ポンプ10rとの2つのオイルポンプから構成されている。
【0025】
これら正転用ポンプ10fと逆転用ポンプ10rとは、出力軸9の軸線上であってモータ6と前述のワンウェイクラッチ11との間に直列に配置されていて、正転用ポンプ10fは、正転方向に駆動される場合にオイル溜まり13のオイルを吸入口(図示せず)から吸入し、その吸入したオイルを吐出口(図示せず)から被供給部14へ吐出して供給するようになっている。一方、逆転用ポンプ10rは、逆転方向に駆動される場合にオイル溜まり13のオイルを吸入口(図示せず)から吸入し、その吸入したオイルを吐出口(図示せず)から被供給部14へ吐出して供給するようになっている。
【0026】
このように、被供給部14へオイルを供給するためのオイルポンプ10として、上記の正転用ポンプ10fと逆転用ポンプ10rとの2つが備えられているので、モータ6の回転方向が正転方向もしくは逆転方向のいずれであっても、オイルポンプ10を駆動し、すなわち正転用ポンプ10fと逆転用ポンプ10rとのいずれか一方を駆動して、被供給部14へオイルを供給することができる。
【0027】
さらに、ワンウェイクラッチ11は、所定の方向に回転数差がある2つの回転部材で係合してトルクを伝達し、またこれとは反対方向に回転数差がある場合には解放状態となってトルクの伝達を行わないクラッチ機構である。具体的には、ワンウェイクラッチ11は、その入力側に上記のオイルポンプ10を介して出力軸9が連結されていて、出力側にホイールハブ12を介して車輪Wのホイール1が連結されていて、入力側の出力軸9の回転数が出力側のホイール1の回転数以上になる場合にトルクを伝達するように構成されている。言い換えると、このワンウェイクラッチ11は、駆動力源であるモータ6側から出力部材である車輪Wへのトルクの伝達を許容し、かつ出力部材である車輪W側からモータ6へのトルクの伝達を遮断するように構成されている。
【0028】
このように、車輪Wとモータ6との間に、上記のような車輪W側からモータ6へのトルクの伝達を遮断するワンウェイクラッチ11が設けられていることによって、モータ6が出力していない状態で車両が走行していて車輪Wが回転している場合、すなわち、例えば車両が惰力走行している場合や、あるいはインホイールモータ5以外の他の動力源の出力により車両が走行している場合に、モータ6への動力の伝達を遮断してモータ6における引き摺り損失の発生を回避することができる。
【0029】
さらに、上記のようなワンウェイクラッチ11が設けられていることによって、上記のようにモータ6の出力以外の動力により車輪Wが正転方向に回転している場合、あるいは車輪Wの回転が停止している場合に、モータ6を逆転方向に回転させて、逆転用ポンプ10rを駆動して被供給部14へオイルを適切に供給することができる。例えば、インホイールモータ5による駆動力が要求されていてモータ6が駆動されていた状態からインホイールモータ5による駆動力の要求がなくなりモータ6の駆動が停止されると、車輪Wは慣性力もしくはインホイールモータ5以外の他の動力源の出力により回転する、もしくは回転が停止することになる。このとき、その時点まで駆動されていたモータ6は依然として高温になっている場合があるが、上記のようにモータ6を逆転方向に回転させることにより、車輪Wを駆動させずに逆転用ポンプ10rのみを駆動することができる。そのため、その逆転用ポンプ10rが吐出するオイルによってモータ6の発熱部分を冷却することができ、モータ6の過熱を防止することができる。
【0030】
図2に、この発明に係るオイル供給構造を適用したインホイールモータ5の他の構成例を示してある。前述の図1で示したインホイールモータ5は、モータ6と出力軸9とが直接連結され、また出力軸9と車輪Wとがオイルポンプ10およびワンウェイクラッチ11を介して直接連結された構成となっているのに対し、この図2に示すインホイールモータ5は、モータ6と出力軸9とが歯車伝動機構15を介して連結され、また出力軸9と車輪Wとがオイルポンプ10およびワンウェイクラッチ11ならびに減速機構16を介して連結された構成となっている。
【0031】
図2において、モータ6のロータ軸(回転軸)6aと出力軸9とが、互いに並行で所定の間隔離れた位置に配置されている。そして、それらロータ軸6aと出力軸9とが、歯車伝動機構であるカウンタギヤ対15を介して互いに動力伝達可能に連結されている。そして、前述の図1に示した構成例と同様に、出力軸9の軸線上に、正転用ポンプ10fと逆転用ポンプ10rとからなるオイルポンプ10と、ワンウェイクラッチ11とが直列に配置されていて、さらに、ワンウェイクラッチ11とホイールハブ12との間に、減速機構としてプラネタリギヤ16が直列に配置されている。
【0032】
この図2の例で示すプラネタリギヤ16は、外歯歯車であるサンギヤ16sと、これと同心円上に配置された内歯歯車であるリングギヤ16rと、これらのサンギヤ16sとリングギヤ16rとに噛み合っているピニオンギヤを自転かつ公転自在に保持しているキャリア16cとを回転要素とするシングルピニオン型の遊星歯車機構である。
【0033】
そして、このプラネタリギヤ16のサンギヤ16sに、上記のオイルポンプ10およびワンウェイクラッチ11を介して出力軸9が連結され、プラネタリギヤ16のキャリア16cに、ホイールハブ12すなわち車輪Wが連結されている。一方、プラネタリギヤ16のリングギヤ16rは、例えばケーシング7などの固定部に連結されていて、その回転が固定されている。そのため、このプラネタリギヤ16は、リングギヤ16rが反力要素となっていて、サンギヤ16sを入力要素とすると、キャリア16cが出力要素となり、サンギヤ16sに入力されたトルクの回転数を減速してキャリア16cから出力するようになっている。したがって、このプラネタリギヤ16は、カウンタギヤ対15を介して出力軸9に伝達されるモータ6の出力トルクを減速して車輪Wへ伝達させる減速機構として機能している。
【0034】
この図2に示すような構成のインホイールモータ5にこの発明に係るオイル供給構造が適用される場合であっても、前述の図1に示す構成例の場合と同様に、被供給部14へオイルを供給するためのオイルポンプ10として正転用ポンプ10fと逆転用ポンプ10rとの2つが設けられることにより、モータ6の回転方向が正転方向もしくは逆転方向のいずれであっても、正転用ポンプ10fと逆転用ポンプ10rとのいずれか一方を駆動して、被供給部14へオイルを適切に供給することができる。
【0035】
以上のように、この発明に係るオイル供給構造によれば、インホイールモータ5のモータ6の出力トルクにより駆動されるオイルポンプ10によって、オイルの被供給部14へオイルを供給する場合に、そのオイルポンプ10として、正転用ポンプ10fと逆転用ポンプ10rとの2つのオイルポンプが設けられる。そのため、正転方向および逆転方向のいずれの回転方向の出力トルクに対しても、その出力トルクによって正転用ポンプ10fもしくは逆転用ポンプ10rのいずれか一方が必ず駆動されることになる。その結果、モータ6が正転方向もしくは逆転方向のいずれの回転方向に回転する場合であっても、正転用ポンプ10fもしくは逆転用ポンプ10rのいずれか一方により被供給部14へ向けてオイルを吐出することができ、被供給部14へ適切にオイルを供給することができる。
【0036】
また、モータ6と車輪Wとの間に、上記のように正転用ポンプ10fと逆転用ポンプ10rとからなるオイルポンプ10が設けられるとともに、それらのオイルポンプ10と車輪Wとの間に、モータ6から車輪Wへの方向のみトルクを伝達するワンウェイクラッチ11が設けられる。したがって、例えば惰力走行時やモータ6以外の動力による車両の走行時に、車輪Wからモータ6側へ向かうトルクが入力される場合、その車輪Wからのトルクは、ワンウェイクラッチ11でその伝達が遮断されモータ6へは伝達されない。そのため、車輪Wからモータ6側へ向かうトルクが発生した場合であっても、その車輪Wからのトルクによるモータ6の引き摺り損失の発生を回避することができる。
【0037】
さらに、正転方向の車輪Wの回転数がモータ6の回転数を上回る場合、言い換えると、車輪Wがモータ6以外の動力や慣性力等によって正転方向に回転している場合、あるいは車輪Wの回転が停止している場合に、モータ6を逆転方向に回転させることができる。すなわち、その場合のモータ6の逆転方向の出力トルクはワンウェイクラッチ11で遮断されるため車輪Wへは伝達されない。その結果、例えば、モータ6による正転方向の出力トルクは要求されていないものの、被供給部14へのオイルの供給が必要な場合に、モータ6を逆転方向に回転させることにより、その際の出力される逆転方向のトルクによって逆転用ポンプ10rを駆動し、被供給部14へオイルを供給することができる。そのため、例えば、モータ6が長時間あるいは高負荷で駆動された後にその回転が停止された直後の状態のように、モータ6による駆動力の要求はないものの、長時間あるいは高負荷での駆動により高温になっているモータ6を引き続き冷却する必要がある場合に、モータ6を逆転方向に回転させて逆転用ポンプ10rを駆動することにより、被供給部14へオイルを供給して、例えばモータ6のロータやコイルエンド等の高温となっている部分を適切に冷却することができる。
【0038】
なお、この発明は、上述した具体例に限定されないのであって、上述した具体例では、この発明に係るオイル供給構造を、車両のインホイールモータに適用した構成例を示しているが、インホイールモータに限らず、例えば電気自動車の駆動力源として用いられる電動機、あるいはハイブリッド車に用いられるモータ・ジェネレータなどに、この発明に係るオイル供給構造を適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】この発明のオイル供給構造を適用可能な構成の一例を模式的に示す概念図である。
【図2】この発明のオイル供給構造を適用可能な構成の他の例を模式的に示す概念図である。
【符号の説明】
【0040】
1…ホイール、 5…インホイールモータ、 6…モータ(駆動力源,電動機)、 9…出力軸、 10…オイルポンプ、 10f…正転用ポンプ、 10r…逆転用ポンプ、 11…ワンウェイクラッチ、 14…被供給部、 W…車輪(出力部材)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力トルクの回転方向を正転方向と逆転方向とに選択的に変更可能な駆動力源と、前記出力トルクが伝達されて駆動力が発生する出力部材と、前記出力トルクにより駆動されてオイルを吐出するオイルポンプとを備え、該オイルポンプが吐出するオイルを被供給部へ供給するオイル供給構造において、
前記オイルポンプは、前記出力トルクの回転方向が正転方向の場合に前記被供給部へ向けてオイルを吐出する正転用ポンプと、前記出力トルクの回転方向が逆転方向の場合に前記被供給部へ向けてオイルを吐出する逆転用ポンプとの2種類のオイルポンプにより構成されていることを特徴とするオイル供給構造。
【請求項2】
前記オイルポンプは、いずれも前記駆動力源と前記出力部材との間に設けられていて、 前記出力部材と前記オイルポンプとの間に、前記駆動力源側から前記出力部材へのトルクの伝達を許容しかつ前記出力部材側から前記駆動力源へのトルクの伝達を遮断するワンウェイクラッチを更に備えている
ことを特徴とする請求項1に記載のオイル供給構造。
【請求項3】
前記駆動力源は、車輪を前記出力部材として該車輪のホイールに内蔵された電動機を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のオイル供給構造。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−293779(P2009−293779A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−150772(P2008−150772)
【出願日】平成20年6月9日(2008.6.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】