説明

オルソフタル酸と無水フタル酸とイソフタル酸の回収方法および回収装置

【課題】不飽和ポリエステル樹脂(例えば、FRP)から、オルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上を得るためのオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上の回収方法および回収装置を提供する。
【解決手段】不飽和ポリエステル樹脂(例えば、FRP)と、植物油脂又は動物油脂とを、開放系容器内にて、窒素ガス等を送り込みながら、300℃〜360℃程度の温度にて加熱分解し、生じた気化物を冷却することにより、或いは、密閉系容器内にて、窒素ガス等を封入して加圧した条件下において300℃〜360℃程度の温度にて加熱分解した後、冷却することにより、粗生成物を得て、これを精製することで、オルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上を得る回収方法およびそのための回収装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オルソフタル酸と無水フタル酸とイソフタル酸の回収方法および回収装置に関し、特に、廃棄物としての不飽和ポリエステル樹脂、中でも繊維強化プラスチックから簡便にオルソフタル酸と無水フタル酸とイソフタル酸を回収することができるオルソフタル酸と無水フタル酸とイソフタル酸の回収方法および回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全や資源の有効利用の観点から、廃棄物の処理やその削減が問題となっており、多用されているプラスチック材料についても再利用(リサイクル)技術の確立が求められている。
【0003】
プラスチック材料のうち、不飽和ポリエステル樹脂は、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、無水フタル酸、無水マレイン酸、エチレングリコール、プロピレングリコール、スチレンを原材料として生成・架橋される、三次元網目構造に硬化した熱硬化性樹脂であり、加工容易である反面、加熱するとさらに硬くなり、燃やすと有害物質が出るという欠点があることから、その廃棄物の処理やリサイクルが困難であった。
【0004】
また、不飽和ポリエステル樹脂をガラス繊維に含浸させることにより得られる繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)は、軽量で耐久性があり、大型の成形品を作ることも容易であることから、ボートやバスタブ等に大量に使用されているが、その廃棄物の処理やリサイクルが困難であり、不法投棄等の問題を引き起こしている。
【0005】
そこで、不飽和ポリエステル樹脂、特にFRPが使用された廃棄物の処理やリサイクルする方法が求められていた。不飽和ポリエステル樹脂のような熱硬化性樹脂を処理する方法としては、例えば、特許文献1記載の方法が知られている。
【0006】
特許文献1には、熱硬化性樹脂を植物油脂中で加熱して分解反応を行うことにより、分解物を得る方法が記載されている。
【特許文献1】特開2003−128834号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1に記載の方法によれば、植物油脂中で加熱して得られた熱硬化性樹脂の分解物をボイラや焼却炉等の燃料として再利用することができること、オリゴマー化した分解物を再利用できること、が可能であるとしても、具体的な有用物質が得られていないため、原料としての再利用という点では十分と言えるものではなかった。
【0008】
そこで、本発明の目的は、不飽和ポリエステル樹脂から、オルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上を得るためのオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上の回収方法および回収装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、開放系容器内にて、窒素ガス又は不活性ガスを送り込みながら、植物油脂又は動物油脂中で300℃〜360℃の範囲内の温度にて不飽和ポリエステル樹脂を加熱分解する加熱分解工程と、前記加熱分解により気化した分解物を冷却することによりオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上を含む粗生成物を得る冷却工程と、前記粗生成物を精製してオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上を得る精製工程とを含むことを特徴とするオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上の回収方法を提供する。
【0010】
また、本発明は、上記目的を達成するため、密閉系容器内にて、窒素ガス又は不活性ガスを封入して加圧した条件下において植物油脂又は動物油脂中で不飽和ポリエステル樹脂を300℃〜360℃の範囲内の温度にて加熱分解する加熱分解工程と、前記加熱分解により分解された分解物を冷却することによりオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上を含む粗生成物を得る冷却工程と、前記粗生成物を精製してオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上を得る精製工程とを含むことを特徴とするオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上の回収方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、上記目的を達成するため、不飽和ポリエステル樹脂を、植物油脂又は動物油脂中で加熱分解するための開放系の反応容器と、加熱分解により気化した分解物を冷却してオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上を含む粗生成物を回収するための冷却容器と、前記反応容器と前記冷却容器とを連結する配管とを備えることを特徴とするオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上の回収装置を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記目的を達成するため、不飽和ポリエステル樹脂を、植物油脂又は動物油脂中で加熱分解するための密閉可能な反応容器を備えることを特徴とするオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上の回収装置を提供する。
【0013】
なお、本発明において、回収方法および回収装置とは、製造方法および製造装置をも意味するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、不飽和ポリエステル樹脂から、オルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上を簡便に得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
<第1の実施の形態>
〔回収方法〕
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る回収方法の回収フロー(大気圧下)を示す図である。本発明の第1の実施の形態に係る回収方法は、主として以下に説明する、加熱分解工程、冷却工程、精製工程の各工程を含んで構成される。
【0016】
(加熱分解工程)
加熱分解工程では、植物油脂又は動物油脂中で不飽和ポリエステル樹脂を開放系容器内にて、窒素ガス又は不活性ガスを送り込みながら、300℃〜360℃の範囲内の温度にて加熱して不飽和ポリエステル樹脂を分解させる。
【0017】
窒素ガス又は不活性ガスを送り込みながら加熱するのは、酸素の存在を排除するためである。酸素が実質的に存在していない雰囲気とすることが好適である。不活性ガスとしては、アルゴンガス等を用いることができる。
【0018】
加熱温度は、300℃〜360℃の範囲内とし、より好ましくは、320℃〜340℃の範囲内とする。300℃よりも低いと、不飽和ポリエステル樹脂がほとんど分解されず、360℃よりも高いと発火のおそれがある。
【0019】
加熱時間は、およそ20分〜180分の範囲内で、加熱温度や処理量等を考慮して適宜調整する。
【0020】
本実施の形態において、不飽和ポリエステル樹脂は、オルソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂、イソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂を使用することが好ましく、オルソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂を使用することがより好ましい。また、オルソ及びイソフタル酸の混合系不飽和ポリエステル樹脂も使用することができる。中でも、不飽和ポリエステル樹脂とガラス繊維からなる樹脂であるFRPを好適に使用できる。
【0021】
不飽和ポリエステル樹脂(例えば、FRP)は、廃棄物として回収されたもの等を用いることができ、これを油脂中にて効率的に液状化できるように適当な大きさに破砕する。好ましくは、1cm以下の大きさに破砕する。
【0022】
植物油脂又は動物油脂としては、大豆油、サフラワー油、ごま油、コーン油、菜種油、綿実油、オリーブ油、パーム油、ヤシ油、中鎖脂肪酸トリグリセライドなどの植物油、牛脂、豚脂などの動物脂が利用できる。これらは単独あるいは2種類以上を混合して使用することもできる。また、これらのエステル交換油や分別油、水素添加油、廃食用油も利用できる。
【0023】
不飽和ポリエステル樹脂(例えば、FRP)と、植物油脂又は動物油脂とは、質量比で1:1〜1:5の割合で加熱分解することが好適である。1:2〜1:5がより好ましく、特に、FRPの場合は1:3〜1:5とすることが望ましい。不飽和ポリエステル樹脂の比率が高くなると、流動性が悪くなり、ハンドリング性が低下する。一方、コスト面からは植物油の割合は低い方が良い。ハンドリングとコストの両面から1:3とすることがもっとも望ましい。
【0024】
(冷却工程)
続いて、冷却工程について説明する。
冷却工程では、加熱分解工程で気化した不飽和ポリエステル樹脂の分解物を冷却することによりオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上を含む粗生成物を得る。
【0025】
冷却方法は、特に限定されることなくあらゆる方法が適用でき、例えば、水冷容器中を通過させる等の方法により冷却できる。必要に応じてドライアイスなどを使用しても良い。
【0026】
なお、オルソフタル酸及び無水フタル酸とイソフタル酸は、それぞれ沸点又は昇華温度が異なるため、冷却温度を変化させて冷却工程を複数に分ける等の方法により、それぞれを分離することで、オルソフタル酸及び無水フタル酸のほか、イソフタル酸の粗生成物を得ることができる。具体的には、図3に示した冷却トラップ3の温度制御、仕切り板3Aの複数使用等により高純度のイソフタル酸も得ることが可能である。例えば、冷却トラップ3中に複数の仕切り板3Aにより仕切られた複数の空間を設け、各空間の温度制御を行うことにより高純度のイソフタル酸の粗生成物を得ることができる。
【0027】
(精製工程)
続いて、精製工程について説明する。
精製工程では、冷却工程で得た粗生成物を精製してオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上を得る。
【0028】
精製方法は、メタノール等のアルコールに粗生成物を溶解させて、植物油分解物などの非極性物質と分別した後、メタノール等を留去することにより、高純度のオルソフタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸が得られる。また、粗生成物をヘキサン等により洗浄しても高純度のオルソフタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸が得られる。
【0029】
オルソフタル系不飽和ポリエステル樹脂からは、大部分が無水フタル酸として得られる。
【0030】
図2は、本発明における無水フタル酸の生成機構を示す図である。不飽和ポリエステル樹脂が加熱され、結合鎖が切断されることで、フタル酸ジエステルラジカルが生じ、これが直接、無水フタル酸となるか、或いは、油脂から水素を受け取り、オルソフタル酸となった後、脱水して(油脂温度300℃以上)無水フタル酸となるものと考えられる。
【0031】
また、生成した無水フタル酸のごく一部は大気中の水分との接触により、加水分解反応を起こして再びオルソフタル酸に変化する場合もあるため、大気圧下においては、ごく少量のオルソフタル酸を含む無水フタル酸とオルソフタル酸の混合物が得られることがある。
【0032】
イソフタル系不飽和ポリエステル樹脂からは、イソフタル酸として得られる。
【0033】
(第1の実施の形態の効果)
以上の各工程の処理を行うことにより、簡便、かつ低コストにてオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸を回収(製造)することができる。本実施の形態によれば、不飽和ポリエステル樹脂を分解したときに得られる理論上の無水フタル酸量に対して15%以上、より好ましい条件によれば30%以上、さらに好ましい条件によれば50%以上の回収率にて不飽和ポリエステル樹脂(例えば、FRP)からオルソフタル酸と無水フタル酸を回収できる。また、不飽和ポリエステル樹脂を分解したときに得られる理論上のイソフタル酸量に対して15%以上、より好ましい条件によれば30%以上、さらに好ましい条件によれば50%以上の回収率にて不飽和ポリエステル樹脂(例えば、FRP)からイソフタル酸を回収できる。
【0034】
得られたオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸は、プラスチックや合成繊維の原料、塗料原料、プラスチックやゴムの可塑剤、機械油の安定剤などに利用することができる。
【0035】
〔回収装置〕
図3は、本発明の第1の実施の形態に係る回収方法(大気圧下)に使用する回収装置を示す概略断面図である(図3中、加熱部分は破線で表す)。
【0036】
回収装置1は、植物油脂又は動物油脂中で不飽和ポリエステル樹脂(図3では、植物油8中のUP樹脂7)を加熱分解するための反応容器2と、加熱分解工程で生じた気化物9を冷却して粗生成物10を回収するための冷却トラップ3と、反応容器1と冷却トラップ3とを連結する配管4とから主に構成されている。
【0037】
反応容器2は、外部に別に設けた或いは反応容器2に備え付けられた加熱手段(ヒーター5等)による熱を、収容物に伝えられる材料にて形成されており、例えば、銅やアルミを用いることができる。
【0038】
上記加熱手段は、収容物の温度を測定する温度センサー(例えば、熱電対)(図示せず)と配線された温度制御手段(コントローラー)(図示せず)を備えており、収容物中の温度を前述の温度範囲(300℃〜360℃)に保持している。
【0039】
反応容器2内には、破砕された不飽和ポリエステル樹脂(例えば、FRP)と、植物油脂又は動物油脂とを撹拌するためのミキサー6等の攪拌手段を設けて、反応容器2内で撹拌してもよい。さらに、斯かる攪拌手段を用いて加熱中も攪拌することにより、加熱分解における温度の偏りがないようにすることが望ましい。
【0040】
また、反応容器2には、容器上方に窒素ガス又は不活性ガスを送り込むためのガス入口2Aが設けられている。
【0041】
冷却トラップ3は、水冷等により冷却トラップ3内を通過する気化した不飽和ポリエステル樹脂の分解物(気化物9)を冷却できるように構成されており、図3で示されるように、仕切り板3Aを冷却トラップ3内に設置し、気化した不飽和ポリエステル樹脂の分解物(気化物9)が一気に通過してしまわないような構成とする。仕切り板3Aで仕切られた各空間には、粗生成物10が付着し、回収される。
【0042】
冷却トラップ3には、気化した不飽和ポリエステル樹脂の分解物(気化物9)の入口3Bと排気用の出口3Cが設けられている。排気用の出口3C付近に気化した不飽和ポリエステル樹脂の分解物(気化物9)の吸引手段(吸引ポンプ等)を設けて、ある程度のスピードをもって配管4内を気化物9が流れるようにすることが望ましい。
【0043】
配管4は、例えば、オルソフタル酸及び無水フタル酸が付着しないようにオルソフタル酸及び無水フタル酸の沸点295℃より高い温度に加熱して配管4内を気化物9が通過するようにする。300℃〜330℃程度とすることが望ましい。イソフタル酸の昇華温度は325℃であり、イソフタル酸も含んでいる場合には、330℃〜350℃程度とすることが望ましい。
【0044】
<第2の実施の形態>
〔回収方法〕
図4は、本発明の第2の実施の形態に係る回収方法の回収フロー(加圧下)を示す図である。本発明の第2の実施の形態に係る回収方法は、主として以下に説明する、加熱分解工程、冷却工程、精製工程の各工程を含んで構成される。使用する植物油脂又は動物油脂、および不飽和ポリエステル樹脂の種類等は、第1の実施の形態と同様である。
【0045】
(加熱分解工程)
加熱分解工程では、植物油脂又は動物油脂中で不飽和ポリエステル樹脂を密閉系容器内にて、窒素ガス又は不活性ガスを封入して加圧した条件下において300℃〜360℃の範囲内の温度にて加熱して不飽和ポリエステル樹脂を分解させる。
【0046】
密閉系容器に窒素ガス又は不活性ガスを送り込み、容器内に封入することで加圧条件下とする。容器内は酸素が実質的に存在していない雰囲気とすることが好適である。不活性ガスとしては、アルゴンガス等を用いることができる。圧力は、1.5MPa〜4.5MPaの範囲内であることが望ましく、2MPa〜4MPaの範囲内であることがより望ましい。
【0047】
加熱温度は、300℃〜360℃の範囲内とし、より好ましくは、320℃〜340℃の範囲内とする。300℃よりも低いと、不飽和ポリエステル樹脂がほとんど分解されない。
【0048】
加熱時間は、およそ20分〜180分の範囲で加熱温度や処理量等を考慮して適宜調整する。
【0049】
(冷却工程)
続いて、冷却工程について説明する。
冷却工程では、加熱分解工程で加熱分解された不飽和ポリエステル樹脂の分解物を冷却することによりオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上を含む粗生成物を得る。粗生成物は、沈殿物として得ることができる。
【0050】
冷却方法は、特に限定されることなくあらゆる方法が適用でき、例えば、放冷することにより冷却できる。必要に応じてドライアイスなどを使用しても良い。
【0051】
(精製工程)
続いて、精製工程について説明する。
精製工程では、冷却工程で得た粗生成物を精製してオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上を得る。密閉系容器でオルソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂を加熱分解すると、生成したオルソフタル酸の脱水反応が起きにくく、ほとんど無水フタル酸は得られず、大部分がオルソフタル酸として得られる。
また、生成したオルソフタル酸のごく一部が脱水反応を起こす場合もあるため、密閉系容器においては、ごく少量の無水フタル酸を含むオルソフタル酸と無水フタル酸の混合物が得られることがある。
【0052】
オルソ及びイソフタル酸の混合系不飽和ポリエステル樹脂を原料として用いた場合、本実施の形態における粗生成物は、主としてオルソフタル酸とイソフタル酸が混合物となるが、オルソフタル酸の沸点付近で沸騰させること等により、それぞれを分別することができる。
【0053】
精製方法は、メタノール等のアルコールに粗生成物を溶解させて、植物油分解物などの非極性物質と分別した後、メタノール等を留去することにより、高純度のオルソフタル酸及びイソフタル酸が得られる(ごく少量の無水フタル酸が得られることもある)。また、粗生成物をヘキサン等により洗浄しても高純度のオルソフタル酸及びイソフタル酸が得られる(ごく少量の無水フタル酸が得られることもある)。
【0054】
(第2の実施の形態の効果)
以上の各工程の処理を行うことにより、簡便、かつ低コストにてオルソフタル酸、ごく少量の無水フタル酸及びイソフタル酸を回収(製造)することができる。本実施の形態によれば、不飽和ポリエステル樹脂を分解したときに得られる理論上のオルソフタル酸に対して15%以上、より好ましい条件によれば30%以上、さらに好ましい条件によれば50%以上の回収率にて不飽和ポリエステル樹脂(例えば、FRP)からオルソフタル酸を回収できる(ごく少量の無水フタル酸を回収できる場合あり)。また、不飽和ポリエステル樹脂を分解したときに得られる理論上のイソフタル酸量に対して15%以上、より好ましい条件によれば30%以上、さらに好ましい条件によれば50%以上の回収率にて不飽和ポリエステル樹脂(例えば、FRP)からイソフタル酸を回収できる。
【0055】
得られたオルソフタル酸、無水フタル酸やイソフタル酸は、プラスチックや合成繊維の原料、塗料原料、プラスチックやゴムの可塑剤、機械油の安定剤などに利用することができる。
【0056】
〔回収装置〕
図5は、本発明の第2の実施の形態に係る回収方法(加圧下)に使用する回収装置を示す概略断面図である。
【0057】
回収装置11は、植物油脂又は動物油脂中で不飽和ポリエステル樹脂(図5では、植物油18中のFRP)を加熱分解するための反応容器12から主に構成されている。
【0058】
反応容器12は、外部に別に設けた或いは反応容器12に備え付けられた加熱手段(ヒーター13等)による熱を、収容物に伝えられる材料にて形成されており、例えば、銅やアルミを用いることができる。容器内の圧力が、1.5MPa〜4.5MPaの範囲内となった場合においても耐え得る材料である必要がある。
【0059】
上記加熱手段は、混合物の温度を測定する温度センサー(例えば、熱電対14)と配線された温度制御手段(コントローラー15)を備えており、収容物中の温度を300℃〜360℃の範囲内に保持・調整している。
【0060】
反応容器12内には、破砕された不飽和ポリエステル樹脂(例えば、FRP)と、植物油脂又は動物油脂とを撹拌するためのミキサー等の攪拌手段(図示せず)を設けてもよい。斯かる攪拌手段を用いて加熱中も攪拌することで加熱分解における温度の偏りがないようにすることが望ましい。
【0061】
また、反応容器12には、容器上方に窒素ガス17(又は不活性ガス)を送り込むための密閉可能なガス入口が設けられている。反応容器の外部に別に設けた或いは反応容器12に備え付けられた圧力計16により圧力を計測し、圧力が前述の範囲内(1.5MPa〜4.5MPa)となるようにガスを送り込み調整する。
【0062】
反応容器12は、加熱分解した収容物を冷却するための冷却手段を備えていてもよい。
【0063】
冷却後、図5に示されるように、反応容器12中で、分解物が溶融された植物油18(上層)と、オルソフタル酸(ごく少量の無水フタル酸を含む場合あり)とイソフタル酸を含有する沈殿物(粗生成物)19及びガラス繊維20の混合物(下層)とに分離される。
【0064】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はそれらによって限定されるものではない。
【実施例】
【0065】
〔大気圧下における回収方法〕
(実施例1)
オルソフタル酸系不飽和ポリエステル樹脂(ジャパンコンポジット社製、以下同じ)(以下、UP樹脂という)を直径5mmの粒子状の大きさに破砕した。破砕したUP樹脂50gと菜種白絞油(日清オイリオグループ社製、以下同じ)150gを反応容器に入れ、窒素ガスを吹き込みながら、UP樹脂が混ざるように攪拌をして、油温が340℃になった状態で90分間加熱した。
【0066】
反応容器から水冷冷却トラップまでの配管を無水フタル酸の沸点295℃より高い温度の300℃にして、配管内を気化物が通過するようにし、水冷冷却トラップ中で気化物を冷却することにより、9.1gの無水フタル酸とオルソフタル酸の混合粗生成物(針状結晶物)(図6参照)が回収できた。これをメタノールに溶解させて、植物油分解物などの非極性物質と分別した後、メタノールを留去して、高純度(図7のFTIRのデータ参照)の無水フタル酸とオルソフタル酸の混合物7.3gを得た。無水フタル酸の回収率は57%であった(UP樹脂中の無水フタル酸の含有量は25.8質量%であり、UP樹脂50g中の無水フタル酸は約12.9gである)。残存UP樹脂量(未分解物)は無く、全量が分解した。UP樹脂の分解速度は、2.5質量%/分であった。
なお、無水フタル酸とオルソフタル酸の混合物中のオルソフタル酸量はごく少量であるため、回収率はUP樹脂中の無水フタル酸含有量に対する割合として計算した。以下の実施例2、3、4、5及び比較例1についても同様である。
【0067】
ここで、図6は、回収した無水フタル酸とオルソフタル酸の混合粗生成物(針状結晶物)を写した写真であり、図7は、無水フタル酸とオルソフタル酸の混合粗生成物と精製した高純度の無水フタル酸とオルソフタル酸の混合物のFTIRのデータを示す図である。
【0068】
(実施例2)
油温を340℃に換えて、300℃,320℃としたほかは実施例1と同様にしてUP樹脂の分解を行ったところ、回収できた無水フタル酸とオルソフタル酸の混合物は、300℃では2.2gであり(回収率17%)、320℃では6.6gであった(回収率51%)。残存UP樹脂量(未分解物)は、300℃では90質量%であり、320℃では50質量%であった。また、UP樹脂の分解速度は、300℃では0.25質量%/分であり、320℃では0.9質量%/分であった。
【0069】
(実施例3)
UP樹脂50gに対して混合する菜種白絞油の割合を1:3に換えて、1:2,1:4,1:5としたほかは実施例1と同様にしてUP樹脂の分解を行ったところ、回収できた無水フタル酸とオルソフタル酸の混合物は、1:2では7.0gであり(回収率54%)、1:4では7.4gであり(回収率57%)、1:5では7.4gであった(回収率57%)。何れの場合も残存UP樹脂量(未分解物)は無く、全量が分解した。また、何れの場合もUP樹脂の分解速度は実施例1の2.5質量%/分と同じであり、ほとんど変化しなかった。なお、UP樹脂の比率が高いものほど流動性が悪く、ハンドリング性が低下した。
【0070】
(実施例4)
菜種白絞油に換えて、ヤシ油、パーム油、大豆油(いずれも日清オイリオグループ社製)を使用したほかは実施例1と同様にしてUP樹脂の分解を行ったところ、回収できた無水フタル酸とオルソフタル酸の混合物は、ヤシ油では7.4gであり(回収率57%)、パーム油では7.2gであり(回収率56%)、大豆油では7.1gであった(回収率55%)。何れの場合も残存UP樹脂量(未分解物)は無く、全量が分解した。また、UP樹脂の320℃での分解速度は、ヤシ油>パーム油>菜種油>大豆油の順で早く、ヤシ油では1.1質量%/分であり、パーム油では1.0質量%/分であり、大豆油では0.85質量%/分であった。
【0071】
(実施例5)
菜種白絞油に換えて、中鎖脂肪酸トリグリセライド(日清オイリオグループ社製)を使用し、油温を340℃に換えて、320℃としたほかは実施例1と同様にしてUP樹脂の分解を行ったところ、回収できた無水フタル酸とオルソフタル酸の混合物は、7.5gであった(回収率58%)。残存UP樹脂量(未分解物)は無く、全量が分解した。また、UP樹脂の分解速度は、1.1質量%/分であった。
【0072】
(比較例1)
油温を340℃に換えて、250℃とし、加熱時間を90分に換えて、60分としたほかは実施例1と同様にしてUP樹脂の分解を行ったところ、UP樹脂はほとんど分解せず、無水フタル酸は生成しなかった。
【0073】
〔加圧下における回収方法〕
(実施例6)
UP樹脂を直径5mmの粒子状の大きさに破砕した。破砕したUP樹脂50gと菜種白絞油150gを、反応容器(オートクレーブ)に入れて、密閉した反応容器内を窒素ガスで置換後、さらに窒素ガスを封入し、初期圧力を2MPaとした。油温が320℃で1時間分解反応を行った。このとき、圧力は3MPaまで上昇した。
【0074】
反応終了後、放冷して、37.0gのオルソフタル酸の粗生成物(沈殿物)を反応容器から回収した。粗生成物(沈殿物)について、ヘキサンで植物油分解物などの非極性物質を洗浄して、高純度のオルソフタル酸8.8gを得た。オルソフタル酸の回収率は61%であった(UP樹脂中のオルソフタル酸の含有量は28.9質量%である)。
なお、UP樹脂中に含まれるのは無水フタル酸であるが、回収されたのはオルソフタル酸であるため、UP樹脂中の無水フタル酸含有量はオルソフタル酸含有量に換算し、回収率の計算を行った。
【0075】
(比較例2)
油温を250℃としたほかは実施例6と同様にしてUP樹脂の分解を行ったところ、UP樹脂はほとんど分解せず、オルソフタル酸は生成しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る回収方法の回収フロー(大気圧下)を示す図である。
【図2】本発明における無水フタル酸の生成機構を示す図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る回収方法(大気圧下)に使用する回収装置を示す概略断面図である。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係る回収方法の回収フロー(加圧下)を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係る回収方法(加圧下)に使用する回収装置を示す概略断面図である。
【図6】回収した無水フタル酸とオルソフタル酸の混合粗生成物(針状結晶物)を写した写真である。
【図7】無水フタル酸とオルソフタル酸の混合粗生成物と精製した高純度の無水フタル酸とオルソフタル酸の混合物のFTIRのデータを示す図である。
【符号の説明】
【0077】
1:回収装置
2:反応容器
2A:ガス入口
3:冷却トラップ
3A:仕切り板
3B:気化物の入口
3C:排気用の出口
4:配管
5:ヒーター
6:ミキサー
7:不飽和ポリエステル樹脂(UP樹脂)
8:植物油
9:気化物
10:粗生成物
11:回収装置
12:反応容器
13:ヒーター
14:熱電対
15:コントローラ
16:圧力計
17:窒素ガス
18:植物油
19:沈殿物(粗生成物)
20:ガラス繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開放系容器内にて、窒素ガス又は不活性ガスを送り込みながら、植物油脂又は動物油脂中で300℃〜360℃の範囲内の温度にて不飽和ポリエステル樹脂を加熱分解する加熱分解工程と、
前記加熱分解により気化した分解物を冷却することによりオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上を含む粗生成物を得る冷却工程と、
前記粗生成物を精製してオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上を得る精製工程とを含むことを特徴とするオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上の回収方法。
【請求項2】
密閉系容器内にて、窒素ガス又は不活性ガスを封入して加圧した条件下において植物油脂又は動物油脂中で300℃〜360℃の範囲内の温度にて不飽和ポリエステル樹脂を加熱分解する加熱分解工程と、
前記加熱分解により分解された分解物を冷却することによりオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上を含む粗生成物を得る冷却工程と、
前記粗生成物を精製してオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸うちの1つ以上を得る精製工程とを含むことを特徴とするオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上の回収方法。
【請求項3】
前記不飽和ポリエステル樹脂が、繊維強化プラスチックであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上の回収方法。
【請求項4】
前記不飽和ポリエステル樹脂と、前記植物油脂又は前記動物油脂との比が、質量比で1:1〜1:5である請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上の回収方法。
【請求項5】
不飽和ポリエステル樹脂を、植物油脂又は動物油脂中で加熱分解するための開放系の反応容器と、加熱分解により気化した分解物を冷却してオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上を含む粗生成物を回収するための冷却容器と、前記反応容器と前記冷却容器とを連結する配管とを備えることを特徴とするオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上の回収装置。
【請求項6】
不飽和ポリエステル樹脂を、植物油脂又は動物油脂中で加熱分解するための密閉可能な反応容器を備えることを特徴とするオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上の回収装置。
【請求項7】
前記不飽和ポリエステル樹脂が、繊維強化プラスチックであることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載のオルソフタル酸、無水フタル酸及びイソフタル酸のうちの1つ以上の回収装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−16175(P2007−16175A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−200778(P2005−200778)
【出願日】平成17年7月8日(2005.7.8)
【出願人】(391017849)山梨県 (19)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【出願人】(599016431)学校法人 芝浦工業大学 (109)
【Fターム(参考)】