オートクレーブ成形方法及びオートクレーブ成形装置
【課題】成形室に加熱手段や気体(空気など)循環手段を設けることなく、複雑な断面形状を有する成形品(複合材料)に対して万遍なく大きな熱量供給を行うことが出来ると共に成形の為の圧力、温度の制御が容易で、硬化時間を大幅に短縮できる効率の良い複合材料の成形方法を提供すること。
【解決手段】繊維基材とマトリックスによって形成された複合材料を真空バッグに収納して成形室に設置し、複合材料に必要な所定温度の飽和水蒸気を成形室に供給し、成形室内を複合材料に必要とされる所定温度と所定圧力に維持するように制御して硬化工程を行う。
【解決手段】繊維基材とマトリックスによって形成された複合材料を真空バッグに収納して成形室に設置し、複合材料に必要な所定温度の飽和水蒸気を成形室に供給し、成形室内を複合材料に必要とされる所定温度と所定圧力に維持するように制御して硬化工程を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機、自動車および一般産業において用いられる複合材料成形品のオートクレーブ成形方法及びオートクレーブ成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等の強化材にマトリックスと呼ばれるエポキシ樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させたシート状の複合材料(プリプレグ)を加熱、加圧成形して所望の断面形状を有する成形品を得る技術が知られている。
【0003】
炭素繊維やガラス繊維は弾性率が高いため、これらの繊維を板状の繊維の層にして、繊維方向が異なるように複数枚積層した複合材料にすることで、軽量で強度の高い製品を得ることができ、航空機、自動車および一般産業に広く利用されている。
熱硬化性樹脂を基質とする複合材料は常温では柔らかく、ある一定の温度で加熱すると反応硬化する特性を持つ。
【0004】
この複合材料の成形技術として、一つはホットプレス装置によって成形する技術がある。この技術は、図14に示すように、上金型と下金型に挟み込むようにして複合材料をセットし、温度と圧力を制御するための時間変化を示す図15のパターン図に沿って加熱と加圧を行い、樹脂の硬化が完了すると、図14に示す如く、所定の断面形状を有する成形品を得る。通常、金型には材料を加熱するために内部に電熱ヒータや専用コイルを持ち、熱伝導や電磁誘導によって金型を加熱してその熱を利用する。
【0005】
上記複合材料は、上述したように炭素繊維やアラミド繊維等とマトリックスと呼ばれる樹脂とで形成されたもので、例えば、エポキシ樹脂ならば樹脂の粘度が最も低くなる90℃〜100℃付近まで加熱すると、常温では粘弾性のある樹脂が軟化点に達して流動性が増す。この温度を保持することによって、材料に含まれていた空気や積層された材料間に噛み込んでいた空気が抜けて、ボイドと呼ばれる空洞を製品に残さないようにできる(デュエル工程)。
【0006】
この工程が終われば、引き続き所定の温度まで加熱し、同時に所定の圧力になるまで昇圧を始める。所定の温度まで到達する少し前に所定の圧力に達し、所定の温度と圧力を保持する。所定の温度で硬化が始まり、硬化が完了する時間まで保持し続ける。通常、1時間程度で硬化が完了する。昇温速度は積層された材料の総厚によって異なり、厚い程ゆっくりと昇温する。急速に昇温すると材料が加熱された際、温度ムラとなり硬化状態に差異が発生して、ひいては、強度不足による破壊に至ることがある。昇温速度は経験や実験等によって決められる。また、昇圧速度は所定の温度に到達する少し前に所定の圧力に達するように圧力カーブを描けばよい。
ただし、上述した圧力プロファイルは一例であり、デュエル工程後に昇圧開始としたが、デュエル工程と同時に、或いは、工程前に昇圧を開始する場合がある。また、デュエル工程自体を省略する場合もある。
【0007】
上述したホットプレス装置の他に、オートクレーブ成形方法によっても、こうした複合材料の成形品を得ることができる。
オートクレーブ成形方法は、成形室に複合材料を設置し、加圧空気、窒素或いはそれらの混合気体を供給すると共に加熱手段を設けて、複合材料を所定温度まで昇温させ、加圧し、成形を行う方法である。
また、その際、複合材料に対して万遍なく加熱を行うことができるようにするために、成形室内で加熱空気を循環させるようにしている。
【0008】
上述したホットプレス装置及びオートクレーブ成形方法に関する従来技術としては、次の文献を挙げることができる。
【特許文献1】特開2010−115822号公報
【特許文献2】特開2006−88049号公報
【特許文献3】特開2009−51074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のホットプレス装置を利用した成形の場合、上金型と下金型による一方向の面圧力によって成形されるため、面圧力方向と直交する面には圧力が掛からない。そのため、面圧力方向に対して直角方向の複合材料の緻密性が悪く、本来の強度が得られない課題が生じる。また、凹凸のある複雑な断面形状品ほどその傾向が顕著となる。また、ホットプレス装置を利用して、異なる断面形状を有する複合材成形品を形成しようとすると一体成形が難しく、2個以上の部材を貼り合わせることになり工程が複雑になる。更に、ホットプレス装置の場合、上下の金型内部に電熱ヒータや専用コイルを必要とするため、金型自体が高価なものとなる。また、金型は圧力に対する疲労強度や堅牢性が要求されるため、大型で重量物となり易く、ここでも金型コストが課題になってくる。
【0010】
これに対し、オートクレーブ成形方法は、複雑な断面形状を有する成形品の成形に適したものであるが、その加熱、加圧に種々の問題がある。
複合材料に対する熱供給は、一般に加熱した空気或いは窒素を用いる。真空バッグに収容されて成形室(チャンバー)に設置された複合材料に対しては、加熱空気(その他の気体)による熱量供給が均一になされる必要があり、その為に、成形室には加熱空気を循環させる循環手段(電動モータとファン)と、熱量を持続供給させるための加熱手段(ヒータ)とを設ける必要があり、装置として大掛かりな設備となると共にその制御も必要である。
【0011】
また、このようなオートクレーブ成形方法は、空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを用いているので、金型のような金属に比べて熱伝導率が小さい故にそれらの気体は断熱材として働き、また、気体故に単位流量当たりの熱容量が小さいこともあって複合材料の昇温率が低い。また、加熱された気体を万遍なく複合材料に接触させるためには、好適な流れのガスの循環を作りださなければならず、難しいところがあった。
【0012】
本発明は、複合材料分野のオートクレーブ成形方法を改善するものであって、これまで複合材料分野のオートクレーブ成形方法において全く用いられてこなかった飽和水蒸気を主に用いることで、成形室に加熱手段や気体(空気など)循環手段を設けることなく、複雑な断面形状を有する成形品(複合材料)に対して万遍なく大きな熱量供給を行うことが出来ると共に成形の為の圧力、温度の制御が容易であり、昇温率を高め、温度ムラを解消することで昇温時間や硬化時間、ひいては生産リードタイムを大幅に短縮できる効率の良い複合材料の成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明にかかるオートクレーブ成形方法は、上記の課題を解決するために、繊維基材とマトリックスによって形成された複合材料を真空バッグに収納して成形室に設置し、加熱加圧して成形するオートクレーブ成形方法であって、加熱源及び所定圧の加圧源として、複合材料に必要な所定温度の飽和水蒸気を成形室に供給し、成形室内が複合材料に必要とされる所定の温度及び圧力に維持されるように、その温度及び圧力の少なくとも一方を制御して硬化工程を行う、ことを特徴とする。
【0014】
本発明にかかるオートクレーブ成形装置は、上記の課題を解決するために、繊維基材とマトリクスによって形成された複合材料(13)を真空バッグ(15)に収納して成形室(1)に設置し、加熱加圧して成形するオートクレーブ成形装置であって、加熱源及び所定加圧源として、複合材料(13)に必要な所定温度の飽和水蒸気を成形室に供給する飽和水蒸気供給手段(32)、飽和水蒸気の供給を制御し、成形室(1)内を複合材料(13)に必要とされる所定の温度と圧力に維持するように制御する制御手段(34)、とからなることを特徴とする。
【0015】
本発明において、飽和水蒸気とは、一定圧力のもとで、水と水蒸気とが平衡状態にあるとき、この水蒸気をその水の飽和水蒸気といい、このときの水蒸気の圧力をその水の飽和水蒸気圧あるいは最大水蒸気圧という。即ち、飽和水蒸気は温度によって圧力が決定する(例えば、130℃で0.3MPa。ただし、ここでは絶対圧を示す)。
【0016】
本発明において、対象となる繊維基材としては、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等で、これまでに複合材料として使用されているもの全てを含む。更に、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などで、やはり、この種の複合材料に対して使用されるもの全てを含む。
【0017】
また、本発明において、マトリックスとは、複合材料の分野で用いられている術語であり、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を指し、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂(EP)、フェノール樹脂(PF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)等を含み、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリアミド樹脂(PA)、ABS樹脂(ABS)等を含む。
更に、複合材料は、繊維基材にマトリックスを含浸させたもの以外にマトリックスの注入、塗布、積層等も含まれる。
【0018】
また、上記真空バッグとは、この種のオートクレーブにおいて既知の素材のものを用いてよく、例えば、ナイロン、ポリイミド等で、勿論、耐熱、耐水性があればよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる方法によれば、これまで、複合材料分野のオートクレーブとして全く考えられてこなかった飽和水蒸気を用いることで、飽和水蒸気の所定の圧力と温度を利用し、且つ、大きな熱量を持つ点も有効利用し、成形室に加熱手段や気体(空気など)循環手段を設けることなく、真空バッグ(蒸気に対応できる)に収容された複雑な断面形状を有する成形品(複合材料)に対して万遍なく熱、圧力供給を行うことが出来る。また、成形品に部分的な強度不足が発生するといった加工ムラが生じるのを未然に回避できる。
また、飽和水蒸気故の大きな熱量の供給によって、成形室内での温度ムラが生じ難く、複合材料の硬化時間を大幅に短縮できるという顕著な効果を奏するに至ったのである。また、既設のオートクレーブを改良することで実施可能であるという利点も有する。
【0020】
また、本発明にかかる装置によれば、飽和水蒸気供給手段等の設備は必要とするものの、従来技術のように成形室にヒータ、気体循環手段(ファン、整流板(誘導板)など)を設ける必要がなくなり、装置の設備コストを低減できると共に飽和水蒸気の供給によるものであるから、成形室内の気流の整流を行わなくても、成形室に充満させるだけのことで万遍なく複合材料に熱及び圧力を付加できる利点がある。
本発明のその他の利点については、以下の実施例の説明から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のオートクレーブ成形方法は、次のように実施されるのが好ましい。
即ち、成形に必要な補充加圧源として飽和水蒸気圧よりも高い所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを成形室に供給し、これらの飽和水蒸気と所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスの供給を制御し、成形室内が複合材料に必要とされる所定の温度及び圧力に維持されるように、その温度及び圧力の少なくとも一方を制御して硬化工程を行う。
このように、補充の所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを追加することで成形の為の圧力、温度の制御が容易である。
尚、補充加圧源として用いる所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスは、常温であってもよく、また、所定温度に予熱されていてもよい。そして、混合ガスを用いる場合には、その混合比率は自在に選択してよい。
【0022】
また、加熱源及び所定圧の加圧源として、複合材料に必要な所定圧の飽和水蒸気を加熱して前記飽和水蒸気よりも高い所定温度の過熱水蒸気にした後にこれを成形室に供給し、前記成形室内が複合材料に必要とされる所定の温度及び圧力に維持されるように、その温度及び圧力の少なくとも一方を制御して硬化工程を行うのが好ましい。
これにより、飽和水蒸気を加熱して過熱水蒸気にしてこれを用いることで、飽和水蒸気圧よりも低圧側の圧力範囲をカバーすることで、結果的に圧力と温度に対してフルレンジでの制御が可能となり、且つ、過熱水蒸気故の大きな熱量の供給によって、成形室内での温度ムラが生じ難く、複合材料の硬化時間を大幅に短縮できるという顕著な効果を奏するに至ったのである。また、既設のオートクレーブを改良することで実施可能であるという利点も有する。
【0023】
尚、補記すると、一般に飽和水蒸気には、ごくわずかな水分が含まれているので湿り飽和蒸気、又は湿り蒸気と呼ばれる。1kgの湿り蒸気の中に、Xkgの乾き飽和蒸気と(1−X)kgの水分が含まれている場合、Xを乾き度、(1−X)を湿り度と呼ぶ。次に、乾き飽和蒸気を更に熱すると温度は上昇する。このように飽和水蒸気圧に相当した温度より高い温度の水蒸気を過熱水蒸気という。飽和水蒸気は白い湯気が立つのに対し、過熱水蒸気は無色透明の気体であり、飽和温度に下がるまでは結露しない。過熱水蒸気をある物質に吹きかけるとその表面温度は上昇し、その物質の持つ水分は蒸発する。この性質を利用して乾燥機や調理機に応用されている。
本発明に利用する過熱水蒸気は、例えば、100℃、0.1MPa(標準気圧又は大気圧)の飽和水蒸気を加熱して130℃、0.1MPaの過熱水蒸気にして用いることができる。
【0024】
また、成形室を一部開放状態として飽和水蒸気のみを供給し、成形室を所定温度まで昇温させた後に所定時間維持したデュエル工程を行い、しかる後に成形室を密閉し、飽和水蒸気と所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスとを供給して昇圧工程から硬化工程に移行することが好ましい。
【0025】
上記マトリックスの硬化工程が完了した後に当該成形室に冷却水を供給して複合材料を冷却し、しかる後に複合材料を乾燥室に移送して空気を供給し、乾燥させて後に前記真空バッグを複合材料から離型させることが好ましい。
【0026】
本発明のオートクレーブ成形装置は、次のように実施されるのが好ましい。
成形に必要な補充加圧源として飽和水蒸気圧よりも高い所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを成形室に供給する圧縮空気供給手段(33)を備えているのが好ましい。
このように、補充の所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを追加することが出来るようになって、成形の為の圧力、温度の制御が容易となる。
【0027】
更に、加熱源及び所定加圧源として、複合材料(13)に必要な所定圧の前記飽和水蒸気を加熱する飽和水蒸気加熱手段(35)、前記飽和水蒸気加熱手段(35)を含み、飽和水蒸気を加熱して前記飽和水蒸気よりも高い所定温度の過熱水蒸気にした後にこれを成形室に供給する過熱水蒸気供給手段(36)を備えているのが好ましい。
これにより、飽和水蒸気圧よりも低圧側の圧力範囲をカバーし、結果的に圧力と温度に対してフルレンジでの制御が可能となり、且つ、過熱水蒸気故の大きな熱量の供給によって、成形室内での温度ムラが生じ難く、複合材料の硬化時間を大幅に短縮できるという顕著な効果を奏する。また、既設のオートクレーブ装置を改良することで実施可能であるという利点も有する。
【0028】
上記飽和水蒸気供給手段(32)には、所望圧を得るための減圧弁(23)が設けられると共に主通蒸自動弁(24)と温度制御自動弁(25)とが並列接続されて設けられ、これらの減圧弁(23)、主通蒸自動弁(24)及び温度制御自動弁(25)が前記制御手段(34)により制御されるように構成されているのが好ましい。
これらの弁を備えることで、成形室(1)の温度、圧力制御を個別に制御し易く、制御が容易となる。
【0029】
前記成形室(1)内に飽和水蒸気を供給するための複数のノズル(7)が前記複合材料(13)に対して略全体に噴射できるように配設され、該ノズル(7)が所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを供給するためのノズルを兼ねていることが好ましい。
このように構成することで、このようにノズルと兼用することで、構成の簡略化を図りながら、熱量供給ポイントと圧力供給ポイントとを同じところにすることが出来て、圧力温度の分布ムラが少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明にかかる実施例1のオートクレーブ装置の概略全体図。
【図2】本発明にかかる実施例1のオートクレーブ装置の要部の概略平面図。
【図3】本発明にかかる実施例1のオートクレーブ装置の温度と圧力を制御するための時間変化を示すパターン図。
【図4】本発明にかかる実施例1の成形方法のプロセスを示すフローチャート図。
【図5】本発明にかかる実施例1のオートクレーブ装置による成形室内雰囲気温度および圧力の時間変化のグラフ。
【図6】本発明にかかる実施例1のオートクレーブ装置の要部の別形態を示す空気用ノズルの概略図。
【図7】従来技術のホットプレス装置と本発明の方法により成形された試験片の曲げ強さ比較のグラフ。
【図8】本発明にかかる実施例2のオートクレーブ装置の温度と圧力を制御するための時間変化を示すパターン図。
【図9】本発明にかかる実施例2の成形方法のプロセスを示すフローチャート図。
【図10】本発明にかかる実施例3のオートクレーブ装置の過熱水蒸気供給手段の概略図。
【図11】本発明にかかる実施例3のオートクレーブ装置の温度と圧力を制御するための時間変化を示すパターン図。
【図12】本発明にかかる実施例3の成形方法のプロセスを示すフローチャート図。
【図13】本発明にかかる実施例4の成形方法のプロセスを示すフローチャート図。
【図14】従来技術のホットプレス装置による試験片成形概略図。
【図15】従来技術のホットプレス装置による温度と圧力を制御するための時間変化を示すパターン図。
【実施例】
【実施例1】
【0031】
本発明にかかるオートクレーブ成形方法と装置の好適実施例を、図面に基づいて詳述する。この第1の実施例は、マトリックスとして、熱硬化性樹脂を用いたものである。
図1及び図2に、本発明のオートクレーブ装置の全体を表す概略構成図を示す。
この装置は、主に成形室1、乾燥室2、水封式真空ポンプ3、制御盤4、自動搬送ライン(コンベア)5、ボイラ6とこれらをつなぐ配管や、後述する複数のバルブで構成されるが、次の構成を備えるものである。
【0032】
即ち、繊維基材(ここでは、炭素繊維)に、マトリックスとして、熱硬化性樹脂(ここでは、エポキシ樹脂)を含浸させた複合材料13を真空バッグ15に収納して成形室1に設置し、加熱加圧して成形するもので、加熱源及び所定加圧源として、複合材料13に必要な所定温度(ここでは、130℃)の飽和水蒸気を成形室1に供給する飽和水蒸気供給手段32、更に、成形に必要な補充加圧源として所定圧(ここでは、0.31MPaG。ただし、MPaGはゲージ圧(大気圧との差圧)を示す。)の空気(又は窒素或いはこれらの混合ガス)を成形室に供給する圧縮空気供給手段33、これらの飽和水蒸気と所定圧の空気(又は窒素或いはこれらの混合ガス)の供給を制御し、成形室1内を複合材料13に必要とされる所定温度(ここでは、130℃)と所定圧力(ここでは、0.3MPaG)に維持するように制御する制御手段34とからなる。
【0033】
上記飽和水蒸気供給手段32には、ボイラ6で沸かした生蒸気(ここでは、0.4MPaG、150℃)に対し、所望圧(ここでは、0.2MPaG)を得るための減圧弁23が設けられると共に主通蒸自動弁24と温度制御自動弁25とが並列接続されて設けられ、これらの減圧弁23、主通蒸自動弁24及び温度制御自動弁25が前記制御手段34により制御されるように構成されている。
また、前記成形室1内に飽和水蒸気を供給するための複数のノズル7(ここでは、20個/列×2列=40個)が前記複合材料13に対して略全体に噴射できるように配設されている。尚、変形例として後述するが、該ノズル7が所定圧の空気(又は窒素或いはこれらの混合ガス)を供給するためのノズルを兼ねてもよい。
【0034】
上記オートクレーブ装置の具体構成について、次に順次詳述する。
前記成形室1には、前記ボイラ6から、成形室1内部に噴射される飽和水蒸気が成型室1全体をカバーするように複数(ここでは、40個)の蒸気用ノズル7を有する配管8が設けられている。さらに、前記蒸気用ノズル7を有する配管8と同様に成形室1全体をカバーするように開口した複数の冷却用ノズル9を有する配管10が設けられ、圧縮空気が成形室1内部に噴射されるように開口した空気用ノズル11が設けられている。これらのボイラ6、配管8、蒸気用ノズル7が飽和水蒸気供給手段32を構成する。
【0035】
また、成形室1底部に溜まった凝縮した水滴や冷却水を排水するためのドレン用配管12と、予め複合材料13を成形型14に積層して全体を真空バッグ15で包んだものを予備真空引きしておき、これを本真空引きするための真空ノズル16とが設けられ、該真空ノズル16に接続しているフレキホース17aと前記真空バッグ15とを接続するための真空カプラ18とが設けられている。そして、成形室1を密閉するための扉19と、その扉19の開閉装置20とが設けられている。
この実施例では、前記複合材料13は、炭素繊維の積層物であり、使用される熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂を用いているが、その他に、フェノール樹脂なども使用され得る。
また、前記真空バッグ15の構成素材は、ここでは、ナイロンを用いているが、その他に、シリコーンゴムなど、耐熱、耐水性を備えたものであればよい。
また、前記成形型14の構成素材は、ここでは、FRPを用いているが、ホットプレス装置に用いる金型に比べて内蔵する加熱源が不要であり、型の厚みや強度も飽和水蒸気や圧縮空気による圧力に対して必要最小限で済むため、パールボードや石膏など多様な素材を選択できる。
【0036】
前記乾燥室2には、乾燥室2内部を加熱するためのブロア21,22が乾燥室2外に設置されており、自動搬送ライン5によって搬送された前記真空バッグ15が乾燥室2の中に収まるように十分な広さの空間を有する。
前記水封式真空ポンプ3は、封水によって羽根車を回転させて吸入、圧縮、排気を行う真空ポンプである。水封式真空ポンプ3は、油循環式真空ポンプとは異なり、油が真空用の配管を伝わり成形室1内を汚すようなことはない。
【0037】
前記制御盤4は、後述する真空バッグ15の自動搬送や成形のための一連の工程(飽和水蒸気、圧縮空気の供給調整など)を制御するための操作盤であり、上述した蒸気制御のための減圧弁23、主通蒸自動弁24、温度制御自動弁25、圧縮空気制御のための減圧弁29、空気導入自動弁30、扉開閉装置20、冷却水導入自動弁26、ドレン排水自動弁31、真空ポンプ3等の操作機構を含めて、制御手段34を構成している。
前記自動搬送ライン5は、オフラインで複合材料13を成形型14に積層して全体を真空バッグ15で包み予備真空引きしたものをオンライン上で自動搬送し、成形室1および乾燥室2に自動搬入搬出し、真空バッグ15を解体して成形品を型から外すための場所(図示せず)まで自動搬送するための搬送ライン(コンベア)である。
【0038】
次に、バルブを含む配管系統について説明する。
複数の蒸気用ノズル7を有する配管へと続く蒸気用配管8は、上流から順に説明すると、前記ボイラ6で沸かした飽和水蒸気を送るための配管であり、ボイラ6からの配管をつなぐフランジから蒸気圧を元圧に対して減圧するための減圧弁23へと続く。そこから蒸気量をコントロールして昇温を主な役割とした主通蒸自動弁24と所定の温度の保持を主な役割とした温度制御自動弁25とが並列に接続されている。さらにそこから配管8が延びて蒸気用ノズル7の配管8へと続く。
【0039】
そして、複数の冷却用ノズル9を有する配管へと続く冷却用配管10は、図示しない水槽から冷却水を送るための配管であり、水槽からの配管をつなぐフランジから水量をコントロールする冷却水導入自動弁26に接続され、冷却用ノズル9を有する配管10へと続く。
【0040】
次に、前記空気用ノズル11を有する配管へと続く空気用配管27は、コンプレッサー28から圧縮空気を送るための配管であり、コンプレッサー28からの配管をつなぐフランジから空気圧を元圧に対して減圧するための減圧弁29、空気量をコントロールする空気導入自動弁30、空気用ノズル11を有する配管27へと続く。これらのコンプレッサー28、空気用配管27、空気用ノズル11が圧縮空気供給手段33を構成している。尚、圧縮空気に代えて窒素を単独で用いる場合もあるが、ここでは、圧縮空気供給手段という名称としている。
【0041】
そして、前記ドレン用配管12は、成形室1の底部に溜まった凝縮した水滴や冷却水を排水するために排水口が成形室1底部に配置され、そこから配管12が下方へ延び、排水を行うためのドレン排水自動弁31が接続され、図示しないドレン槽へと続く。また、ドレン排水自動弁31は成形室1内の圧力を抜く働き(排気)も兼ねる。
【0042】
次いで、前記真空ノズル16へと続く真空ラインは、水封式真空ポンプ3と成形室1内にある真空ノズル16とを結合するように配設されている。水封式真空ポンプ3はポンプ内に給水することによりケーシング内の羽根車を回転させて吸入、圧縮、排気を行う装置である。真空ノズル16にフレキホース17aを接続し、反対側に真空カプラ18を接続する。その先に真空バッグ15の排気口があり、その排気口と前記真空カプラ18とをフレキホース17bで接続し、前記真空ポンプ3によって真空バッグ15内の残存空気を排出する。
【0043】
次に、真空バッグ15の流れを、図2を用いて説明する。図2は本発明の装置全体を示す概略平面図である。バッギング場所で成形型に複合材料13を積層し、これを真空バッグ15内に挿入して予備真空引きを行う(バッギング工程)。予備真空引きされた真空バッグ15を自動搬送ライン5のスタート位置にセットし、制御盤4で所定の温度、圧力、時間をセットし、自動搬送開始ボタンを押すことで自動搬送が開始される。
【0044】
前記真空バッグ15は、図2の左から右に流れて行き、成形室1の前のステージまで到達すると一時停止し、扉19と一体になったステージが扉開閉装置20によって真空バッグ15を載せた状態で成形室1に入り、扉19によって成形室1は密閉される。真空バッグ15が所定の位置に到達すると、真空カプラ18によって真空ノズル16と接続され本真空引きが開始される(成形室搬入工程)。成形工程は後述するとして、排気冷却工程まで完了した前記真空バッグ15は成形室から搬出され、自動搬送ライン5によって再度右へ移動し、乾燥室2に搬入される(乾燥室搬入工程)。乾燥室2内で真空バッグ15を乾燥させ(乾燥工程)、乾燥工程が完了すれば自動搬送ライン5によって再度右へ移動し、停止位置で前記真空バッグ15が停止する。前記真空バッグ15を離型場所に運び、そこで真空バッグ15を解体して成形品を型から外す(離型工程)。
ただし、ここでは、乾燥室2の中で真空バッグ15を乾燥させたが、成形室1内で真空バッグ15の周囲を真空引きによって乾燥させてもよい。その場合は、乾燥室2を省略することができる。
【0045】
次に、オートクレーブ成形工程の一例について図3および図4を用いて説明する。図3は本発明の温度と圧力を制御するための時間変化を示すパターン図と、前記パターン図の進行に同期して連動する飽和水蒸気、圧縮空気、排気の各圧力のチャート図を示す。ただし、チャート図の縦軸はゲージ圧(大気圧との差圧)を示す。図4は成形過程のフローチャートを示す。
【0046】
予めボイラ6で元圧0.4MPaG、150℃の飽和水蒸気を準備し、減圧弁23で0.2MPaGに減圧する。主通蒸自動弁24で蒸気量を制御し、ドレン排水自動弁31を開放して無圧(大気圧)下で成形室1内に飽和水蒸気を導入して90℃まで昇温させる(昇温工程)。
次に、温度制御自動弁25の適宜開閉とドレン排水自動弁開放31による排気により90℃を1〜1.5時間保持する(デュエル工程)。
【0047】
次に、ドレン排水自動弁31を一旦閉じて排気圧が0.3MPaGに設定され、成形室1内が0.295MPaG以下であればドレン排水自動弁31は閉じたままであり、0.305MPaG以上になればドレン排水自動弁31が開き、再び0.295MPaG以下になればドレン排水自動弁31が閉る動作を行う。硬化条件として成形室1内の雰囲気温度が130℃、0.3MPaGとなるように目標の温度と圧力が設定される。再度、主通蒸自動弁24が作動し、飽和水蒸気を導入して130℃まで昇温させる。100℃までは無圧(大気圧)であるが、100℃を超えると成形室1内の圧力が上昇し、130℃の時の飽和水蒸気圧である0.2MPaGに向かう。
【0048】
前記成形室1内の雰囲気温度が130℃に到達したら0.3MPaGより少し高い、例えば0.31MPaGの圧縮空気を導入する。その理由は、圧縮空気の圧力が成形室1内の圧力よりも低いと空気が成形室内に入らないためである。圧縮空気も飽和水蒸気と同様、コンプレッサー28の能力によって決まるが、例えば、コンプレッサー28から0.6MPaGの圧縮空気を空気用配管27に給気し、減圧弁29によって0.31MPaGに減圧される。成形室1内の圧力は圧縮空気によって不足している圧力を補い、やがて0.3MPaGに達する(昇圧工程)。
【0049】
そして、前記成形室1内の雰囲気温度を130℃、圧力を0.3MPaGに保ち、その状態を所定の硬化時間だけ維持させる。硬化時間は複合材料13により決まる。例えば、この実施例の熱硬化性樹脂を基質とした通常の複合材料13の場合、1時間程度で反応硬化が完了する。ただし、導入した空気による吸熱、成形対象品(複合材料13)や成形室1の吸熱、成形室からの放熱によって成形室1内の温度は放っておくと低下するので適宜蒸気を導入する必要がある。また、成形室1内の圧力が低下する場合は、成形室1内の温度が130℃に達している場合は空気を導入する必要がある。
【0050】
そこで、成形室1内の温度が130℃、圧力が0.3MPaGであれば一旦水蒸気導入および空気導入を停止するが、前述の理由により成形室1内の温度と圧力は時間とともに低下する。基本的には温度低下は水蒸気導入で補正し、圧力低下は空気導入で補正する。再び水蒸気を導入すると成形室1内の温度と圧力が上昇し、排気条件の設定値を超えるとドレン排水自動弁31が開いて圧力が低下する。成形室1内の温度が130℃であれば水蒸気を導入できないので空気を導入する。するとまた、成形室1内の圧力が上昇し、温度が低下する。再び成形室1内の温度と圧力を確認し、130℃、0.3MPaGでなければ水蒸気導入に戻る。こうして、水蒸気および空気の給気と排気によって成形室1内の温度と圧力のバランスを取り、所定の硬化時間になるまで一連の動作を繰り返す(硬化工程)。
【0051】
次に、硬化工程が完了すると、ドレン排水自動弁31の設定値を0.2MPaGに設定してドレン排水自動弁31を制御し、空気導入して空気と置換する。成形室1内の温度が100℃以下になればドレン排水自動弁31を大気開放して一気に成形室1内の圧縮空気を排出する。同時に冷却用ノズル9から冷却水を放出し、真空バッグ15を冷却する。ドレン排水自動弁31を通して成形室1底部に流れた冷却水をドレン槽に排出する(排気冷却工程)。
【0052】
図5について説明すると、本発明の装置による成形室内雰囲気温度および圧力の時間変化のグラフを示す。図5のように成形室1内に1番から8番までの温度センサを配置し、雰囲気温度は8個の温度センサにより記録される。8番目の温度センサが温度制御用のセンサとして働く。圧力は図示しない圧力センサによって記録される。
【0053】
前記グラフは、硬化条件を硬化温度130℃、圧力0.3MPaG、硬化時間40分として成形した時の記録データを示す。
雰囲気温度が130℃になる硬化工程における温度分布については、8個の温度センサによる記録データのばらつき幅が2℃以内に収まり、成形室内の温度ムラが非常に少ないことが分かる。温度ムラは圧力が高いほど、気体分子の数が増えて熱が伝わり易くなるため小さくなる。
【0054】
一方、温度分布は硬化時間とも関係があり、厳密には最も温度の低い部位にある温度センサが目標温度である130℃に到達した時点から硬化時間のカウントが開始されるため、温度ムラが小さいほど最大温度の部位と最小温度の部位間の130℃到達時点のズレが小さくなり、硬化工程の全時間、つまり実質的な硬化時間は短くなる。
【0055】
尚、この実施例は、複合材料13を内包した真空バッグ15を自動搬送する例としたが、手動で搬送しても構わない。
また、各種バルブを自動制御するようにしたが、一連の動作手順を守って手動制御しても構わない。
【0056】
要するに、本発明のオートクレーブ成形方法は、繊維基材とマトリックス樹脂とからなる複合材料を真空バッグに収納して成形室に設置し、加熱加圧して成形するに、加熱源及び所定圧の加圧源として、複合材料に必要な所定温度の飽和水蒸気を成形室に供給し、更に、必要に応じて、成形に必要な補充加圧源として所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを成形室に供給し、これらの飽和水蒸気と所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスの供給を制御し、成形室内を複合材料に必要とされる所定温度と所定圧力に維持するように制御して硬化工程を行うのである。
【0057】
上記方法において、成形室1を一部開放状態として飽和水蒸気のみを供給し、成形室1を所定温度まで昇温させた後に所定時間維持したデュエル工程を行い、しかる後に成形室1を密閉し、飽和水蒸気と所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスとを供給して昇圧工程から硬化工程に移行するのが好ましいのである。このようなデュエル工程と加圧硬化工程を、飽和水蒸気と所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを一連に制御することで連続して容易に行い得る。
【0058】
また、熱硬化性樹脂の硬化工程が完了した後に当該成形室1に冷却水を供給して複合材料13を冷却し、しかる後に複合材料13を乾燥室2に移送して空気を供給し、乾燥させて後に前記真空バッグ15を複合材料13から離型させることが好ましい。このように、複合材料13が真空バッグ15に収容されていることで、冷却水による直接冷却を直ちに行い得ると共に熱風乾燥を行うことができる。
【0059】
(変形例1)
上記実施例1の一部を変えて実施する形態について述べる。
図6は、本発明にかかるオートクレーブ装置の要部の別形態を示す空気用ノズルの概略図であり、ここでは、成形室1内に飽和水蒸気を供給するための複数のノズル7が、圧縮空気を供給するためのノズル11(上記実施例では、成形室1の上部に設けられていた)と共用されている。これにより、真空バッグ15に降り注ぐ飽和水蒸気と同じような形態で圧縮空気が降り注ぐことになり、複合材料13(成形品)に対する局部的な圧力ムラが低減される。こうすることで更なる加工ムラのない安定した成形品を製造できる。
尚、ここで図中表示の部材番号の説明を省略したものは、先の実施例1の説明を参照。
【0060】
(変形例2)
また、マトリックスとしての熱硬化性樹脂が短時間で反応硬化することを特徴とした複合材料13である速硬化性プリプレグ(例えば、三菱レイヨン製タフキュア(商標名))を用いて、本発明の方法及び装置にて成形を行うことができる。この場合、反応硬化時間は、通常のプリプレグでは130℃×1時間に対して、130℃×30分で硬化させることができ、その上、熱量の大きな飽和水蒸気を用いているので、温度ムラが低減されて実質的な硬化時間が短縮され、明らかに生産性を向上させることができる。硬化時間が短縮された分、投入する熱エネルギーが減少するので省エネ化にもつながる。また、温度ムラが低減したことによって速硬化性の利点を最大限活かせることができるようになった。
【実施例2】
【0061】
上述した実施例1は、硬化条件の温度は飽和水蒸気の温度であって、硬化条件の圧力が飽和水蒸気圧よりも高い圧力の場合の成形例である。
一方、硬化条件の圧力が飽和水蒸気圧と同じ圧力の場合の成形については、成形に必要な補充加圧源としての所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスが不要になるため、上述した実施例から圧縮空気供給手段33を省略した形態となる。
【0062】
図8及び図9に基づいて詳しく説明すると、図8は本発明の温度と圧力を制御するための時間変化を示すパターン図と、前記パターン図の進行に同期して連動する飽和水蒸気、排気の各圧力のチャート図を示す。ただし、チャート図の縦軸はゲージ圧(大気圧との差圧)を示す。図9は成形過程のフローチャートを示す。
【0063】
成形プロセスは、上記実施例1と略同じであり、その部分についてはここでの説明を省略し、異なる部分について説明する。
繊維基材(ここでは、炭素繊維)に、マトリックスとして、熱硬化性樹脂(ここでは、エポキシ樹脂)を含浸させた複合材料13を真空バッグ15に収納して成形室1に設置し、加熱加圧して成形するもので、加熱源及び所定加圧源として、複合材料13に必要な所定温度(ここでは、130℃)の飽和水蒸気を成形室1に供給する飽和水蒸気供給手段32、この飽和水蒸気の供給を制御し、成形室1内を複合材料13に必要とされる所定温度(ここでは、130℃)と所定圧力(ここでは、0.2MPaG)に維持するように制御する制御手段34で実施される。
【0064】
上記実施例1にあっては、図3に示す空気圧の制御チャートが存在し、空気圧の制御を行っていたが、ここでは不要となる。
成形プロセスとしては、予めボイラ6で元圧0.4MPaG、150℃の飽和水蒸気を準備し、減圧弁23で0.2MPaGに減圧する。主通蒸自動弁24で蒸気量を制御し、ドレン排水自動弁31を開放して無圧(大気圧)下で成形室1内に飽和水蒸気を導入して90℃まで昇温させる(昇温工程)。
次に、温度制御自動弁25の適宜開閉とドレン排水自動弁開放31による排気により90℃を1〜1.5時間保持する(デュエル工程)。
【0065】
次に、ドレン排水自動弁31を一旦閉じて排気圧が0.2MPaGに設定され、成形室1内が0.195MPaG以下であればドレン排水自動弁31は閉じたままであり、0.205MPaG以上になればドレン排水自動弁31が開き、再び0.195MPaG以下になればドレン排水自動弁31が閉る動作を行う。硬化条件として成形室1内の雰囲気温度が130℃、0.2MPaGとなるように目標の温度と圧力が設定される。再度、主通蒸自動弁24が作動し、飽和水蒸気を導入して130℃まで昇温させる。100℃までは無圧(大気圧)であるが、100℃を超えると成形室1内の圧力が上昇し、130℃の時の飽和水蒸気圧である0.2MPaGに向かう(昇圧工程)。
【0066】
そして、前記成形室1内の雰囲気温度を130℃、圧力を0.2MPaGに保ち、その状態を所定の硬化時間だけ維持させる。実施例1において言及したように、硬化時間は複合材料13により決まる。
【0067】
そこで、成形室1内の温度が130℃、圧力が0.2MPaGであれば一旦水蒸気導入を停止するが、前述の理由により成形室1内の温度と圧力は時間とともに低下する。基本的には温度、圧力低下は水蒸気導入で補正する。再び水蒸気を導入すると成形室1内の温度と圧力が上昇し、排気条件の設定値を超えるとドレン排水自動弁31が開いて圧力が低下する。再び成形室1内の温度と圧力を確認し、130℃、0.2MPaGでなければ水蒸気導入に戻る。こうして、水蒸気の給気と排気によって成形室1内の温度と圧力のバランスを取り、所定の硬化時間になるまで一連の動作を繰り返す(硬化工程)。
尚、冷却工程は実施例1と同じであり、説明を省く。
【実施例3】
【0068】
更に、硬化条件の圧力が飽和水蒸気圧よりも低い圧力の場合の成形について説明する。実質同じ構成部については、上記実施例1の説明を援用し、ここでは説明を省略する。
図10に示すように、飽和水蒸気を加熱して過熱水蒸気にするための飽和水蒸気加熱手段35を準備することにより、硬化条件の圧力に相当する飽和水蒸気を加熱して過熱水蒸気とすることで硬化条件の温度に設定できる。
【0069】
前記飽和水蒸気加熱手段35は、ここでは電熱ヒータとされ、前記配管8に付設されて構成される。しかし、他に、前記配管8を減圧弁23の上流で分岐して、減圧弁23の下流で配管8を巻くように設置し、熱交換を行うことで過熱を実現できるようにしてもよい。これによって、減圧前の高温の飽和水蒸気で減圧後の飽和水蒸気を直接加熱することができる。
【0070】
この実施例の場合も、やはり成形に必要な補充加圧源としての所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスが不要になるため、上述の実施例1から圧縮空気供給手段33を省略した形態となり、成形プロセスも実施例2に準じる。尚、飽和水蒸気を生成するボイラの代わりに過熱水蒸気を生成するボイラを用いても構わない。この場合、前記飽和水蒸気加熱手段を省略した形態となる。
【0071】
図11及び図12に基づいて詳しく説明すると、図11は、本発明のこの実施例における温度と圧力を制御するための時間変化を示すパターン図と、前記パターン図の進行に同期して連動する過熱水蒸気、排気の各圧力のチャート図を示す。ただし、チャート図の縦軸はゲージ圧(大気圧との差圧)を示す。図12は成形過程のフローチャートを示す。
【0072】
成形プロセスは、上記実施例1と略同じであり、その部分についてはここでの説明を省略し、異なる部分について説明する。
繊維基材(ここでは、炭素繊維)に、マトリックスとして、熱硬化性樹脂(ここでは、エポキシ樹脂)を含浸させた複合材料13を真空バッグ15に収納して成形室1に設置し、加熱加圧して成形するもので、加熱源及び所定加圧源として、複合材料13に必要な所定温度(ここでは、130℃)の過熱水蒸気を成形室1に供給する過熱水蒸気供給手段36、この過熱水蒸気の供給を制御し、成形室1内を複合材料13に必要とされる所定温度(ここでは、130℃)と所定圧力(ここでは、0.1MPaG)に維持するように制御する制御手段34で実施される。
【0073】
上記実施例1にあっては、図3に示す空気圧の制御チャートが存在し、空気圧の制御を行っていたが、ここでは不要となる。
成形プロセスとしては、予めボイラ6で元圧0.4MPaG、150℃の飽和水蒸気を準備し、減圧弁23で0.1MPaG(120℃)に減圧する。ついで、0.1MPaG(120℃)の飽和水蒸気を加熱して0.1MPaG(130℃)の過熱水蒸気にする。主通蒸自動弁24で蒸気量を制御し、ドレン排水自動弁31を開放して無圧(大気圧)下で成形室1内に過熱水蒸気を導入して90℃まで昇温させる(昇温工程)。
次に、温度制御自動弁25の適宜開閉とドレン排水自動弁開放31による排気により90℃を1〜1.5時間保持する(デュエル工程)。
【0074】
次に、ドレン排水自動弁31を一旦閉じて排気圧が0.1MPaGに設定され、成形室1内が0.095MPaG以下であればドレン排水自動弁31は閉じたままであり、0.105MPaG以上になればドレン排水自動弁31が開き、再び0.095MPaG以下になればドレン排水自動弁31が閉る動作を行う。硬化条件として成形室1内の雰囲気温度が130℃、0.1MPaGとなるように目標の温度と圧力が設定される。再度、主通蒸自動弁24が作動し、過熱水蒸気を導入して130℃まで昇温させる。100℃までは無圧(大気圧)であるが、100℃を超えると成形室1内の圧力が上昇し、所定圧である0.1MPaGに向かう(昇圧工程)。
【0075】
そして、前記成形室1内の雰囲気温度を130℃、圧力を0.1MPaGに保ち、その状態を所定の硬化時間だけ維持させる。実施例1において言及したように、硬化時間は複合材料13により決まる。
【0076】
そこで、成形室1内の温度が130℃、圧力が0.1MPaGであれば一旦水蒸気導入を停止するが、前述の理由により成形室1内の温度と圧力は時間とともに低下する。基本的には温度、圧力低下は水蒸気導入で補正する。再び水蒸気を導入すると成形室1内の温度と圧力が上昇し、排気条件の設定値、ここでは0.105MPaGを超えるとドレン排水自動弁31が開いて圧力が低下する(0.095MPaG以下ならば閉じる)。再び成形室1内の温度と圧力を確認し、130℃、0.1MPaGでなければ水蒸気導入に戻る。こうして、水蒸気の給気と排気によって成形室1内の温度と圧力のバランスを取り、所定の硬化時間になるまで一連の動作を繰り返す(硬化工程)。
尚、冷却工程は実施例1と同じであり、説明を省く。
【実施例4】
【0077】
ここでは、マトリックスとして、熱可塑性樹脂を用いた複合材料13の成形について、図13に基づいて述べる。
基本的には先の実施例1と実質同じであり、同じ部分については、その説明を省略する。
マトリックスとして用いる熱可塑性樹脂は、ここでは、ポリプロピレン樹脂を用いているが、その他に、ポリアミド樹脂、ABS樹脂等も実施可能である。
図13は、実施例1における図4の硬化工程に対応する成形プロセスを示すフローチャートであるが、その工程は賦形工程である。
【0078】
飽和水蒸気を導入して行う昇温昇圧工程の後に、賦形工程に移行するが、ここでは、賦形条件が、熱硬化性樹脂の場合よりも高い150℃、0.6MPaGに設定される。
この条件が維持されなくなると、フローチャートに示すように、例えば、圧力が上昇するのであれば、排気を行って圧力を低下させ、また、温度が上昇するのであれば、空気の導入を行い、温度を低下させ、また、圧力が低下した場合にも、空気を導入して圧力を戻す制御がなされる。
こうした制御の具体説明は、実施例1の説明を援用する。
【0079】
熱可塑性樹脂の成形であるため、樹脂が軟化すれば成形が完成するため、熱硬化性樹脂と異なり、排気冷却工程への移行時間は短くなる。
こうした熱可塑性樹脂による従来のオートクレーブ成形のプロセスと変わるものではないが、その熱源、圧力源が、この複合材料に対するオートクレーブ成形の技術分野において行われたことのない水蒸気であって、これの温度、圧力を制御するところが異なるのである。
(比較例)
先ず、図14に示すような予備成型部材のC型材を、従来技術のホットプレス装置にて、図15に示す温度、圧力制御のもとに行った。
この成形は、ロールからプリプレグシートを引き出し、ホットプレス装置を通過させて均一な断面を有するC型材を成形することにより形成している。
【0080】
そして、同形のC型材を上述した本発明の方法及び装置によって、実施例1に基づいて成形した、C型材の側壁部(例えば、ホットプレス装置の場合であれば、加圧方向に対して平行な面)から幅10mm×長さ80mmの試験片を切り出し、JIS K7171に準拠して曲げ試験を行った。ただし、成形型に積層した複合材料の種類、層数などの条件は全て同じである。
試験片として、本発明の方法及び装置(実施例1)にて硬化温度130℃、圧力0.2MPaG、硬化時間1時間の条件で成形したC型材から切り出した試験片A、同方法、装置にて硬化温度130℃、圧力0.3MPaG、硬化時間1時間の条件で成形したC型材から切り出した試験片B、従来技術のホットプレス装置にて硬化温度130℃、圧力0.3MPaG、硬化時間1時間の条件で成形したC型材から切り出した試験片Cを用意した。
【0081】
各試験片について曲げ試験を行い、それぞれの曲げ強さを比較したグラフを図7に示す。
試験片Cはホットプレス装置の面圧力が十分作用していない為、同じ硬化条件である試験片Bと比較して明らかに曲げ強さが劣るのが分かる。本発明の方法及び装置の場合、蒸気による成形のため如何なる面にも等しい圧力がかかる。そのため、試験片Cでは不十分だった面圧力も試験片Bでは、十分な圧力がかかっていると言える。
また、試験片Aと試験片Bとを比較しても分かるように、圧力が高いほど曲げ強さが大きくなる。成形品の強度に対して、圧力が重要なファクターであることが窺える。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、凹凸のある複雑な断面形状を有する複合材成形品に対しても、等方性の圧力により隈なく成形に寄与できるため至る所本来の複合材料の強度を確保し、硬化時間を短縮できる材料を選択することで生産性向上を図り、装置構成の簡略化や安価な成形型を選択することにより経済性を高め、加工ムラのない安定した成形品を製造することで、航空機や自動車その他、複雑な断面形状を有する複合材成形品を必要とする産業の発展に寄与できる。
【符号の説明】
【0083】
1:成形室
7:ノズル
13:複合材料
15:真空バッグ
23:減圧弁
24:主通蒸自動弁
25:温度制御自動弁
32:飽和水蒸気供給手段
33:圧縮空気供給手段
34:制御手段
35:飽和水蒸気加熱手段
36:過熱水蒸気供給手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機、自動車および一般産業において用いられる複合材料成形品のオートクレーブ成形方法及びオートクレーブ成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等の強化材にマトリックスと呼ばれるエポキシ樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させたシート状の複合材料(プリプレグ)を加熱、加圧成形して所望の断面形状を有する成形品を得る技術が知られている。
【0003】
炭素繊維やガラス繊維は弾性率が高いため、これらの繊維を板状の繊維の層にして、繊維方向が異なるように複数枚積層した複合材料にすることで、軽量で強度の高い製品を得ることができ、航空機、自動車および一般産業に広く利用されている。
熱硬化性樹脂を基質とする複合材料は常温では柔らかく、ある一定の温度で加熱すると反応硬化する特性を持つ。
【0004】
この複合材料の成形技術として、一つはホットプレス装置によって成形する技術がある。この技術は、図14に示すように、上金型と下金型に挟み込むようにして複合材料をセットし、温度と圧力を制御するための時間変化を示す図15のパターン図に沿って加熱と加圧を行い、樹脂の硬化が完了すると、図14に示す如く、所定の断面形状を有する成形品を得る。通常、金型には材料を加熱するために内部に電熱ヒータや専用コイルを持ち、熱伝導や電磁誘導によって金型を加熱してその熱を利用する。
【0005】
上記複合材料は、上述したように炭素繊維やアラミド繊維等とマトリックスと呼ばれる樹脂とで形成されたもので、例えば、エポキシ樹脂ならば樹脂の粘度が最も低くなる90℃〜100℃付近まで加熱すると、常温では粘弾性のある樹脂が軟化点に達して流動性が増す。この温度を保持することによって、材料に含まれていた空気や積層された材料間に噛み込んでいた空気が抜けて、ボイドと呼ばれる空洞を製品に残さないようにできる(デュエル工程)。
【0006】
この工程が終われば、引き続き所定の温度まで加熱し、同時に所定の圧力になるまで昇圧を始める。所定の温度まで到達する少し前に所定の圧力に達し、所定の温度と圧力を保持する。所定の温度で硬化が始まり、硬化が完了する時間まで保持し続ける。通常、1時間程度で硬化が完了する。昇温速度は積層された材料の総厚によって異なり、厚い程ゆっくりと昇温する。急速に昇温すると材料が加熱された際、温度ムラとなり硬化状態に差異が発生して、ひいては、強度不足による破壊に至ることがある。昇温速度は経験や実験等によって決められる。また、昇圧速度は所定の温度に到達する少し前に所定の圧力に達するように圧力カーブを描けばよい。
ただし、上述した圧力プロファイルは一例であり、デュエル工程後に昇圧開始としたが、デュエル工程と同時に、或いは、工程前に昇圧を開始する場合がある。また、デュエル工程自体を省略する場合もある。
【0007】
上述したホットプレス装置の他に、オートクレーブ成形方法によっても、こうした複合材料の成形品を得ることができる。
オートクレーブ成形方法は、成形室に複合材料を設置し、加圧空気、窒素或いはそれらの混合気体を供給すると共に加熱手段を設けて、複合材料を所定温度まで昇温させ、加圧し、成形を行う方法である。
また、その際、複合材料に対して万遍なく加熱を行うことができるようにするために、成形室内で加熱空気を循環させるようにしている。
【0008】
上述したホットプレス装置及びオートクレーブ成形方法に関する従来技術としては、次の文献を挙げることができる。
【特許文献1】特開2010−115822号公報
【特許文献2】特開2006−88049号公報
【特許文献3】特開2009−51074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のホットプレス装置を利用した成形の場合、上金型と下金型による一方向の面圧力によって成形されるため、面圧力方向と直交する面には圧力が掛からない。そのため、面圧力方向に対して直角方向の複合材料の緻密性が悪く、本来の強度が得られない課題が生じる。また、凹凸のある複雑な断面形状品ほどその傾向が顕著となる。また、ホットプレス装置を利用して、異なる断面形状を有する複合材成形品を形成しようとすると一体成形が難しく、2個以上の部材を貼り合わせることになり工程が複雑になる。更に、ホットプレス装置の場合、上下の金型内部に電熱ヒータや専用コイルを必要とするため、金型自体が高価なものとなる。また、金型は圧力に対する疲労強度や堅牢性が要求されるため、大型で重量物となり易く、ここでも金型コストが課題になってくる。
【0010】
これに対し、オートクレーブ成形方法は、複雑な断面形状を有する成形品の成形に適したものであるが、その加熱、加圧に種々の問題がある。
複合材料に対する熱供給は、一般に加熱した空気或いは窒素を用いる。真空バッグに収容されて成形室(チャンバー)に設置された複合材料に対しては、加熱空気(その他の気体)による熱量供給が均一になされる必要があり、その為に、成形室には加熱空気を循環させる循環手段(電動モータとファン)と、熱量を持続供給させるための加熱手段(ヒータ)とを設ける必要があり、装置として大掛かりな設備となると共にその制御も必要である。
【0011】
また、このようなオートクレーブ成形方法は、空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを用いているので、金型のような金属に比べて熱伝導率が小さい故にそれらの気体は断熱材として働き、また、気体故に単位流量当たりの熱容量が小さいこともあって複合材料の昇温率が低い。また、加熱された気体を万遍なく複合材料に接触させるためには、好適な流れのガスの循環を作りださなければならず、難しいところがあった。
【0012】
本発明は、複合材料分野のオートクレーブ成形方法を改善するものであって、これまで複合材料分野のオートクレーブ成形方法において全く用いられてこなかった飽和水蒸気を主に用いることで、成形室に加熱手段や気体(空気など)循環手段を設けることなく、複雑な断面形状を有する成形品(複合材料)に対して万遍なく大きな熱量供給を行うことが出来ると共に成形の為の圧力、温度の制御が容易であり、昇温率を高め、温度ムラを解消することで昇温時間や硬化時間、ひいては生産リードタイムを大幅に短縮できる効率の良い複合材料の成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明にかかるオートクレーブ成形方法は、上記の課題を解決するために、繊維基材とマトリックスによって形成された複合材料を真空バッグに収納して成形室に設置し、加熱加圧して成形するオートクレーブ成形方法であって、加熱源及び所定圧の加圧源として、複合材料に必要な所定温度の飽和水蒸気を成形室に供給し、成形室内が複合材料に必要とされる所定の温度及び圧力に維持されるように、その温度及び圧力の少なくとも一方を制御して硬化工程を行う、ことを特徴とする。
【0014】
本発明にかかるオートクレーブ成形装置は、上記の課題を解決するために、繊維基材とマトリクスによって形成された複合材料(13)を真空バッグ(15)に収納して成形室(1)に設置し、加熱加圧して成形するオートクレーブ成形装置であって、加熱源及び所定加圧源として、複合材料(13)に必要な所定温度の飽和水蒸気を成形室に供給する飽和水蒸気供給手段(32)、飽和水蒸気の供給を制御し、成形室(1)内を複合材料(13)に必要とされる所定の温度と圧力に維持するように制御する制御手段(34)、とからなることを特徴とする。
【0015】
本発明において、飽和水蒸気とは、一定圧力のもとで、水と水蒸気とが平衡状態にあるとき、この水蒸気をその水の飽和水蒸気といい、このときの水蒸気の圧力をその水の飽和水蒸気圧あるいは最大水蒸気圧という。即ち、飽和水蒸気は温度によって圧力が決定する(例えば、130℃で0.3MPa。ただし、ここでは絶対圧を示す)。
【0016】
本発明において、対象となる繊維基材としては、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維等で、これまでに複合材料として使用されているもの全てを含む。更に、熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などで、やはり、この種の複合材料に対して使用されるもの全てを含む。
【0017】
また、本発明において、マトリックスとは、複合材料の分野で用いられている術語であり、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂を指し、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂(EP)、フェノール樹脂(PF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)等を含み、熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリアミド樹脂(PA)、ABS樹脂(ABS)等を含む。
更に、複合材料は、繊維基材にマトリックスを含浸させたもの以外にマトリックスの注入、塗布、積層等も含まれる。
【0018】
また、上記真空バッグとは、この種のオートクレーブにおいて既知の素材のものを用いてよく、例えば、ナイロン、ポリイミド等で、勿論、耐熱、耐水性があればよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明にかかる方法によれば、これまで、複合材料分野のオートクレーブとして全く考えられてこなかった飽和水蒸気を用いることで、飽和水蒸気の所定の圧力と温度を利用し、且つ、大きな熱量を持つ点も有効利用し、成形室に加熱手段や気体(空気など)循環手段を設けることなく、真空バッグ(蒸気に対応できる)に収容された複雑な断面形状を有する成形品(複合材料)に対して万遍なく熱、圧力供給を行うことが出来る。また、成形品に部分的な強度不足が発生するといった加工ムラが生じるのを未然に回避できる。
また、飽和水蒸気故の大きな熱量の供給によって、成形室内での温度ムラが生じ難く、複合材料の硬化時間を大幅に短縮できるという顕著な効果を奏するに至ったのである。また、既設のオートクレーブを改良することで実施可能であるという利点も有する。
【0020】
また、本発明にかかる装置によれば、飽和水蒸気供給手段等の設備は必要とするものの、従来技術のように成形室にヒータ、気体循環手段(ファン、整流板(誘導板)など)を設ける必要がなくなり、装置の設備コストを低減できると共に飽和水蒸気の供給によるものであるから、成形室内の気流の整流を行わなくても、成形室に充満させるだけのことで万遍なく複合材料に熱及び圧力を付加できる利点がある。
本発明のその他の利点については、以下の実施例の説明から明らかとなろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明のオートクレーブ成形方法は、次のように実施されるのが好ましい。
即ち、成形に必要な補充加圧源として飽和水蒸気圧よりも高い所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを成形室に供給し、これらの飽和水蒸気と所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスの供給を制御し、成形室内が複合材料に必要とされる所定の温度及び圧力に維持されるように、その温度及び圧力の少なくとも一方を制御して硬化工程を行う。
このように、補充の所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを追加することで成形の為の圧力、温度の制御が容易である。
尚、補充加圧源として用いる所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスは、常温であってもよく、また、所定温度に予熱されていてもよい。そして、混合ガスを用いる場合には、その混合比率は自在に選択してよい。
【0022】
また、加熱源及び所定圧の加圧源として、複合材料に必要な所定圧の飽和水蒸気を加熱して前記飽和水蒸気よりも高い所定温度の過熱水蒸気にした後にこれを成形室に供給し、前記成形室内が複合材料に必要とされる所定の温度及び圧力に維持されるように、その温度及び圧力の少なくとも一方を制御して硬化工程を行うのが好ましい。
これにより、飽和水蒸気を加熱して過熱水蒸気にしてこれを用いることで、飽和水蒸気圧よりも低圧側の圧力範囲をカバーすることで、結果的に圧力と温度に対してフルレンジでの制御が可能となり、且つ、過熱水蒸気故の大きな熱量の供給によって、成形室内での温度ムラが生じ難く、複合材料の硬化時間を大幅に短縮できるという顕著な効果を奏するに至ったのである。また、既設のオートクレーブを改良することで実施可能であるという利点も有する。
【0023】
尚、補記すると、一般に飽和水蒸気には、ごくわずかな水分が含まれているので湿り飽和蒸気、又は湿り蒸気と呼ばれる。1kgの湿り蒸気の中に、Xkgの乾き飽和蒸気と(1−X)kgの水分が含まれている場合、Xを乾き度、(1−X)を湿り度と呼ぶ。次に、乾き飽和蒸気を更に熱すると温度は上昇する。このように飽和水蒸気圧に相当した温度より高い温度の水蒸気を過熱水蒸気という。飽和水蒸気は白い湯気が立つのに対し、過熱水蒸気は無色透明の気体であり、飽和温度に下がるまでは結露しない。過熱水蒸気をある物質に吹きかけるとその表面温度は上昇し、その物質の持つ水分は蒸発する。この性質を利用して乾燥機や調理機に応用されている。
本発明に利用する過熱水蒸気は、例えば、100℃、0.1MPa(標準気圧又は大気圧)の飽和水蒸気を加熱して130℃、0.1MPaの過熱水蒸気にして用いることができる。
【0024】
また、成形室を一部開放状態として飽和水蒸気のみを供給し、成形室を所定温度まで昇温させた後に所定時間維持したデュエル工程を行い、しかる後に成形室を密閉し、飽和水蒸気と所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスとを供給して昇圧工程から硬化工程に移行することが好ましい。
【0025】
上記マトリックスの硬化工程が完了した後に当該成形室に冷却水を供給して複合材料を冷却し、しかる後に複合材料を乾燥室に移送して空気を供給し、乾燥させて後に前記真空バッグを複合材料から離型させることが好ましい。
【0026】
本発明のオートクレーブ成形装置は、次のように実施されるのが好ましい。
成形に必要な補充加圧源として飽和水蒸気圧よりも高い所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを成形室に供給する圧縮空気供給手段(33)を備えているのが好ましい。
このように、補充の所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを追加することが出来るようになって、成形の為の圧力、温度の制御が容易となる。
【0027】
更に、加熱源及び所定加圧源として、複合材料(13)に必要な所定圧の前記飽和水蒸気を加熱する飽和水蒸気加熱手段(35)、前記飽和水蒸気加熱手段(35)を含み、飽和水蒸気を加熱して前記飽和水蒸気よりも高い所定温度の過熱水蒸気にした後にこれを成形室に供給する過熱水蒸気供給手段(36)を備えているのが好ましい。
これにより、飽和水蒸気圧よりも低圧側の圧力範囲をカバーし、結果的に圧力と温度に対してフルレンジでの制御が可能となり、且つ、過熱水蒸気故の大きな熱量の供給によって、成形室内での温度ムラが生じ難く、複合材料の硬化時間を大幅に短縮できるという顕著な効果を奏する。また、既設のオートクレーブ装置を改良することで実施可能であるという利点も有する。
【0028】
上記飽和水蒸気供給手段(32)には、所望圧を得るための減圧弁(23)が設けられると共に主通蒸自動弁(24)と温度制御自動弁(25)とが並列接続されて設けられ、これらの減圧弁(23)、主通蒸自動弁(24)及び温度制御自動弁(25)が前記制御手段(34)により制御されるように構成されているのが好ましい。
これらの弁を備えることで、成形室(1)の温度、圧力制御を個別に制御し易く、制御が容易となる。
【0029】
前記成形室(1)内に飽和水蒸気を供給するための複数のノズル(7)が前記複合材料(13)に対して略全体に噴射できるように配設され、該ノズル(7)が所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを供給するためのノズルを兼ねていることが好ましい。
このように構成することで、このようにノズルと兼用することで、構成の簡略化を図りながら、熱量供給ポイントと圧力供給ポイントとを同じところにすることが出来て、圧力温度の分布ムラが少なくなる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明にかかる実施例1のオートクレーブ装置の概略全体図。
【図2】本発明にかかる実施例1のオートクレーブ装置の要部の概略平面図。
【図3】本発明にかかる実施例1のオートクレーブ装置の温度と圧力を制御するための時間変化を示すパターン図。
【図4】本発明にかかる実施例1の成形方法のプロセスを示すフローチャート図。
【図5】本発明にかかる実施例1のオートクレーブ装置による成形室内雰囲気温度および圧力の時間変化のグラフ。
【図6】本発明にかかる実施例1のオートクレーブ装置の要部の別形態を示す空気用ノズルの概略図。
【図7】従来技術のホットプレス装置と本発明の方法により成形された試験片の曲げ強さ比較のグラフ。
【図8】本発明にかかる実施例2のオートクレーブ装置の温度と圧力を制御するための時間変化を示すパターン図。
【図9】本発明にかかる実施例2の成形方法のプロセスを示すフローチャート図。
【図10】本発明にかかる実施例3のオートクレーブ装置の過熱水蒸気供給手段の概略図。
【図11】本発明にかかる実施例3のオートクレーブ装置の温度と圧力を制御するための時間変化を示すパターン図。
【図12】本発明にかかる実施例3の成形方法のプロセスを示すフローチャート図。
【図13】本発明にかかる実施例4の成形方法のプロセスを示すフローチャート図。
【図14】従来技術のホットプレス装置による試験片成形概略図。
【図15】従来技術のホットプレス装置による温度と圧力を制御するための時間変化を示すパターン図。
【実施例】
【実施例1】
【0031】
本発明にかかるオートクレーブ成形方法と装置の好適実施例を、図面に基づいて詳述する。この第1の実施例は、マトリックスとして、熱硬化性樹脂を用いたものである。
図1及び図2に、本発明のオートクレーブ装置の全体を表す概略構成図を示す。
この装置は、主に成形室1、乾燥室2、水封式真空ポンプ3、制御盤4、自動搬送ライン(コンベア)5、ボイラ6とこれらをつなぐ配管や、後述する複数のバルブで構成されるが、次の構成を備えるものである。
【0032】
即ち、繊維基材(ここでは、炭素繊維)に、マトリックスとして、熱硬化性樹脂(ここでは、エポキシ樹脂)を含浸させた複合材料13を真空バッグ15に収納して成形室1に設置し、加熱加圧して成形するもので、加熱源及び所定加圧源として、複合材料13に必要な所定温度(ここでは、130℃)の飽和水蒸気を成形室1に供給する飽和水蒸気供給手段32、更に、成形に必要な補充加圧源として所定圧(ここでは、0.31MPaG。ただし、MPaGはゲージ圧(大気圧との差圧)を示す。)の空気(又は窒素或いはこれらの混合ガス)を成形室に供給する圧縮空気供給手段33、これらの飽和水蒸気と所定圧の空気(又は窒素或いはこれらの混合ガス)の供給を制御し、成形室1内を複合材料13に必要とされる所定温度(ここでは、130℃)と所定圧力(ここでは、0.3MPaG)に維持するように制御する制御手段34とからなる。
【0033】
上記飽和水蒸気供給手段32には、ボイラ6で沸かした生蒸気(ここでは、0.4MPaG、150℃)に対し、所望圧(ここでは、0.2MPaG)を得るための減圧弁23が設けられると共に主通蒸自動弁24と温度制御自動弁25とが並列接続されて設けられ、これらの減圧弁23、主通蒸自動弁24及び温度制御自動弁25が前記制御手段34により制御されるように構成されている。
また、前記成形室1内に飽和水蒸気を供給するための複数のノズル7(ここでは、20個/列×2列=40個)が前記複合材料13に対して略全体に噴射できるように配設されている。尚、変形例として後述するが、該ノズル7が所定圧の空気(又は窒素或いはこれらの混合ガス)を供給するためのノズルを兼ねてもよい。
【0034】
上記オートクレーブ装置の具体構成について、次に順次詳述する。
前記成形室1には、前記ボイラ6から、成形室1内部に噴射される飽和水蒸気が成型室1全体をカバーするように複数(ここでは、40個)の蒸気用ノズル7を有する配管8が設けられている。さらに、前記蒸気用ノズル7を有する配管8と同様に成形室1全体をカバーするように開口した複数の冷却用ノズル9を有する配管10が設けられ、圧縮空気が成形室1内部に噴射されるように開口した空気用ノズル11が設けられている。これらのボイラ6、配管8、蒸気用ノズル7が飽和水蒸気供給手段32を構成する。
【0035】
また、成形室1底部に溜まった凝縮した水滴や冷却水を排水するためのドレン用配管12と、予め複合材料13を成形型14に積層して全体を真空バッグ15で包んだものを予備真空引きしておき、これを本真空引きするための真空ノズル16とが設けられ、該真空ノズル16に接続しているフレキホース17aと前記真空バッグ15とを接続するための真空カプラ18とが設けられている。そして、成形室1を密閉するための扉19と、その扉19の開閉装置20とが設けられている。
この実施例では、前記複合材料13は、炭素繊維の積層物であり、使用される熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂を用いているが、その他に、フェノール樹脂なども使用され得る。
また、前記真空バッグ15の構成素材は、ここでは、ナイロンを用いているが、その他に、シリコーンゴムなど、耐熱、耐水性を備えたものであればよい。
また、前記成形型14の構成素材は、ここでは、FRPを用いているが、ホットプレス装置に用いる金型に比べて内蔵する加熱源が不要であり、型の厚みや強度も飽和水蒸気や圧縮空気による圧力に対して必要最小限で済むため、パールボードや石膏など多様な素材を選択できる。
【0036】
前記乾燥室2には、乾燥室2内部を加熱するためのブロア21,22が乾燥室2外に設置されており、自動搬送ライン5によって搬送された前記真空バッグ15が乾燥室2の中に収まるように十分な広さの空間を有する。
前記水封式真空ポンプ3は、封水によって羽根車を回転させて吸入、圧縮、排気を行う真空ポンプである。水封式真空ポンプ3は、油循環式真空ポンプとは異なり、油が真空用の配管を伝わり成形室1内を汚すようなことはない。
【0037】
前記制御盤4は、後述する真空バッグ15の自動搬送や成形のための一連の工程(飽和水蒸気、圧縮空気の供給調整など)を制御するための操作盤であり、上述した蒸気制御のための減圧弁23、主通蒸自動弁24、温度制御自動弁25、圧縮空気制御のための減圧弁29、空気導入自動弁30、扉開閉装置20、冷却水導入自動弁26、ドレン排水自動弁31、真空ポンプ3等の操作機構を含めて、制御手段34を構成している。
前記自動搬送ライン5は、オフラインで複合材料13を成形型14に積層して全体を真空バッグ15で包み予備真空引きしたものをオンライン上で自動搬送し、成形室1および乾燥室2に自動搬入搬出し、真空バッグ15を解体して成形品を型から外すための場所(図示せず)まで自動搬送するための搬送ライン(コンベア)である。
【0038】
次に、バルブを含む配管系統について説明する。
複数の蒸気用ノズル7を有する配管へと続く蒸気用配管8は、上流から順に説明すると、前記ボイラ6で沸かした飽和水蒸気を送るための配管であり、ボイラ6からの配管をつなぐフランジから蒸気圧を元圧に対して減圧するための減圧弁23へと続く。そこから蒸気量をコントロールして昇温を主な役割とした主通蒸自動弁24と所定の温度の保持を主な役割とした温度制御自動弁25とが並列に接続されている。さらにそこから配管8が延びて蒸気用ノズル7の配管8へと続く。
【0039】
そして、複数の冷却用ノズル9を有する配管へと続く冷却用配管10は、図示しない水槽から冷却水を送るための配管であり、水槽からの配管をつなぐフランジから水量をコントロールする冷却水導入自動弁26に接続され、冷却用ノズル9を有する配管10へと続く。
【0040】
次に、前記空気用ノズル11を有する配管へと続く空気用配管27は、コンプレッサー28から圧縮空気を送るための配管であり、コンプレッサー28からの配管をつなぐフランジから空気圧を元圧に対して減圧するための減圧弁29、空気量をコントロールする空気導入自動弁30、空気用ノズル11を有する配管27へと続く。これらのコンプレッサー28、空気用配管27、空気用ノズル11が圧縮空気供給手段33を構成している。尚、圧縮空気に代えて窒素を単独で用いる場合もあるが、ここでは、圧縮空気供給手段という名称としている。
【0041】
そして、前記ドレン用配管12は、成形室1の底部に溜まった凝縮した水滴や冷却水を排水するために排水口が成形室1底部に配置され、そこから配管12が下方へ延び、排水を行うためのドレン排水自動弁31が接続され、図示しないドレン槽へと続く。また、ドレン排水自動弁31は成形室1内の圧力を抜く働き(排気)も兼ねる。
【0042】
次いで、前記真空ノズル16へと続く真空ラインは、水封式真空ポンプ3と成形室1内にある真空ノズル16とを結合するように配設されている。水封式真空ポンプ3はポンプ内に給水することによりケーシング内の羽根車を回転させて吸入、圧縮、排気を行う装置である。真空ノズル16にフレキホース17aを接続し、反対側に真空カプラ18を接続する。その先に真空バッグ15の排気口があり、その排気口と前記真空カプラ18とをフレキホース17bで接続し、前記真空ポンプ3によって真空バッグ15内の残存空気を排出する。
【0043】
次に、真空バッグ15の流れを、図2を用いて説明する。図2は本発明の装置全体を示す概略平面図である。バッギング場所で成形型に複合材料13を積層し、これを真空バッグ15内に挿入して予備真空引きを行う(バッギング工程)。予備真空引きされた真空バッグ15を自動搬送ライン5のスタート位置にセットし、制御盤4で所定の温度、圧力、時間をセットし、自動搬送開始ボタンを押すことで自動搬送が開始される。
【0044】
前記真空バッグ15は、図2の左から右に流れて行き、成形室1の前のステージまで到達すると一時停止し、扉19と一体になったステージが扉開閉装置20によって真空バッグ15を載せた状態で成形室1に入り、扉19によって成形室1は密閉される。真空バッグ15が所定の位置に到達すると、真空カプラ18によって真空ノズル16と接続され本真空引きが開始される(成形室搬入工程)。成形工程は後述するとして、排気冷却工程まで完了した前記真空バッグ15は成形室から搬出され、自動搬送ライン5によって再度右へ移動し、乾燥室2に搬入される(乾燥室搬入工程)。乾燥室2内で真空バッグ15を乾燥させ(乾燥工程)、乾燥工程が完了すれば自動搬送ライン5によって再度右へ移動し、停止位置で前記真空バッグ15が停止する。前記真空バッグ15を離型場所に運び、そこで真空バッグ15を解体して成形品を型から外す(離型工程)。
ただし、ここでは、乾燥室2の中で真空バッグ15を乾燥させたが、成形室1内で真空バッグ15の周囲を真空引きによって乾燥させてもよい。その場合は、乾燥室2を省略することができる。
【0045】
次に、オートクレーブ成形工程の一例について図3および図4を用いて説明する。図3は本発明の温度と圧力を制御するための時間変化を示すパターン図と、前記パターン図の進行に同期して連動する飽和水蒸気、圧縮空気、排気の各圧力のチャート図を示す。ただし、チャート図の縦軸はゲージ圧(大気圧との差圧)を示す。図4は成形過程のフローチャートを示す。
【0046】
予めボイラ6で元圧0.4MPaG、150℃の飽和水蒸気を準備し、減圧弁23で0.2MPaGに減圧する。主通蒸自動弁24で蒸気量を制御し、ドレン排水自動弁31を開放して無圧(大気圧)下で成形室1内に飽和水蒸気を導入して90℃まで昇温させる(昇温工程)。
次に、温度制御自動弁25の適宜開閉とドレン排水自動弁開放31による排気により90℃を1〜1.5時間保持する(デュエル工程)。
【0047】
次に、ドレン排水自動弁31を一旦閉じて排気圧が0.3MPaGに設定され、成形室1内が0.295MPaG以下であればドレン排水自動弁31は閉じたままであり、0.305MPaG以上になればドレン排水自動弁31が開き、再び0.295MPaG以下になればドレン排水自動弁31が閉る動作を行う。硬化条件として成形室1内の雰囲気温度が130℃、0.3MPaGとなるように目標の温度と圧力が設定される。再度、主通蒸自動弁24が作動し、飽和水蒸気を導入して130℃まで昇温させる。100℃までは無圧(大気圧)であるが、100℃を超えると成形室1内の圧力が上昇し、130℃の時の飽和水蒸気圧である0.2MPaGに向かう。
【0048】
前記成形室1内の雰囲気温度が130℃に到達したら0.3MPaGより少し高い、例えば0.31MPaGの圧縮空気を導入する。その理由は、圧縮空気の圧力が成形室1内の圧力よりも低いと空気が成形室内に入らないためである。圧縮空気も飽和水蒸気と同様、コンプレッサー28の能力によって決まるが、例えば、コンプレッサー28から0.6MPaGの圧縮空気を空気用配管27に給気し、減圧弁29によって0.31MPaGに減圧される。成形室1内の圧力は圧縮空気によって不足している圧力を補い、やがて0.3MPaGに達する(昇圧工程)。
【0049】
そして、前記成形室1内の雰囲気温度を130℃、圧力を0.3MPaGに保ち、その状態を所定の硬化時間だけ維持させる。硬化時間は複合材料13により決まる。例えば、この実施例の熱硬化性樹脂を基質とした通常の複合材料13の場合、1時間程度で反応硬化が完了する。ただし、導入した空気による吸熱、成形対象品(複合材料13)や成形室1の吸熱、成形室からの放熱によって成形室1内の温度は放っておくと低下するので適宜蒸気を導入する必要がある。また、成形室1内の圧力が低下する場合は、成形室1内の温度が130℃に達している場合は空気を導入する必要がある。
【0050】
そこで、成形室1内の温度が130℃、圧力が0.3MPaGであれば一旦水蒸気導入および空気導入を停止するが、前述の理由により成形室1内の温度と圧力は時間とともに低下する。基本的には温度低下は水蒸気導入で補正し、圧力低下は空気導入で補正する。再び水蒸気を導入すると成形室1内の温度と圧力が上昇し、排気条件の設定値を超えるとドレン排水自動弁31が開いて圧力が低下する。成形室1内の温度が130℃であれば水蒸気を導入できないので空気を導入する。するとまた、成形室1内の圧力が上昇し、温度が低下する。再び成形室1内の温度と圧力を確認し、130℃、0.3MPaGでなければ水蒸気導入に戻る。こうして、水蒸気および空気の給気と排気によって成形室1内の温度と圧力のバランスを取り、所定の硬化時間になるまで一連の動作を繰り返す(硬化工程)。
【0051】
次に、硬化工程が完了すると、ドレン排水自動弁31の設定値を0.2MPaGに設定してドレン排水自動弁31を制御し、空気導入して空気と置換する。成形室1内の温度が100℃以下になればドレン排水自動弁31を大気開放して一気に成形室1内の圧縮空気を排出する。同時に冷却用ノズル9から冷却水を放出し、真空バッグ15を冷却する。ドレン排水自動弁31を通して成形室1底部に流れた冷却水をドレン槽に排出する(排気冷却工程)。
【0052】
図5について説明すると、本発明の装置による成形室内雰囲気温度および圧力の時間変化のグラフを示す。図5のように成形室1内に1番から8番までの温度センサを配置し、雰囲気温度は8個の温度センサにより記録される。8番目の温度センサが温度制御用のセンサとして働く。圧力は図示しない圧力センサによって記録される。
【0053】
前記グラフは、硬化条件を硬化温度130℃、圧力0.3MPaG、硬化時間40分として成形した時の記録データを示す。
雰囲気温度が130℃になる硬化工程における温度分布については、8個の温度センサによる記録データのばらつき幅が2℃以内に収まり、成形室内の温度ムラが非常に少ないことが分かる。温度ムラは圧力が高いほど、気体分子の数が増えて熱が伝わり易くなるため小さくなる。
【0054】
一方、温度分布は硬化時間とも関係があり、厳密には最も温度の低い部位にある温度センサが目標温度である130℃に到達した時点から硬化時間のカウントが開始されるため、温度ムラが小さいほど最大温度の部位と最小温度の部位間の130℃到達時点のズレが小さくなり、硬化工程の全時間、つまり実質的な硬化時間は短くなる。
【0055】
尚、この実施例は、複合材料13を内包した真空バッグ15を自動搬送する例としたが、手動で搬送しても構わない。
また、各種バルブを自動制御するようにしたが、一連の動作手順を守って手動制御しても構わない。
【0056】
要するに、本発明のオートクレーブ成形方法は、繊維基材とマトリックス樹脂とからなる複合材料を真空バッグに収納して成形室に設置し、加熱加圧して成形するに、加熱源及び所定圧の加圧源として、複合材料に必要な所定温度の飽和水蒸気を成形室に供給し、更に、必要に応じて、成形に必要な補充加圧源として所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを成形室に供給し、これらの飽和水蒸気と所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスの供給を制御し、成形室内を複合材料に必要とされる所定温度と所定圧力に維持するように制御して硬化工程を行うのである。
【0057】
上記方法において、成形室1を一部開放状態として飽和水蒸気のみを供給し、成形室1を所定温度まで昇温させた後に所定時間維持したデュエル工程を行い、しかる後に成形室1を密閉し、飽和水蒸気と所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスとを供給して昇圧工程から硬化工程に移行するのが好ましいのである。このようなデュエル工程と加圧硬化工程を、飽和水蒸気と所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを一連に制御することで連続して容易に行い得る。
【0058】
また、熱硬化性樹脂の硬化工程が完了した後に当該成形室1に冷却水を供給して複合材料13を冷却し、しかる後に複合材料13を乾燥室2に移送して空気を供給し、乾燥させて後に前記真空バッグ15を複合材料13から離型させることが好ましい。このように、複合材料13が真空バッグ15に収容されていることで、冷却水による直接冷却を直ちに行い得ると共に熱風乾燥を行うことができる。
【0059】
(変形例1)
上記実施例1の一部を変えて実施する形態について述べる。
図6は、本発明にかかるオートクレーブ装置の要部の別形態を示す空気用ノズルの概略図であり、ここでは、成形室1内に飽和水蒸気を供給するための複数のノズル7が、圧縮空気を供給するためのノズル11(上記実施例では、成形室1の上部に設けられていた)と共用されている。これにより、真空バッグ15に降り注ぐ飽和水蒸気と同じような形態で圧縮空気が降り注ぐことになり、複合材料13(成形品)に対する局部的な圧力ムラが低減される。こうすることで更なる加工ムラのない安定した成形品を製造できる。
尚、ここで図中表示の部材番号の説明を省略したものは、先の実施例1の説明を参照。
【0060】
(変形例2)
また、マトリックスとしての熱硬化性樹脂が短時間で反応硬化することを特徴とした複合材料13である速硬化性プリプレグ(例えば、三菱レイヨン製タフキュア(商標名))を用いて、本発明の方法及び装置にて成形を行うことができる。この場合、反応硬化時間は、通常のプリプレグでは130℃×1時間に対して、130℃×30分で硬化させることができ、その上、熱量の大きな飽和水蒸気を用いているので、温度ムラが低減されて実質的な硬化時間が短縮され、明らかに生産性を向上させることができる。硬化時間が短縮された分、投入する熱エネルギーが減少するので省エネ化にもつながる。また、温度ムラが低減したことによって速硬化性の利点を最大限活かせることができるようになった。
【実施例2】
【0061】
上述した実施例1は、硬化条件の温度は飽和水蒸気の温度であって、硬化条件の圧力が飽和水蒸気圧よりも高い圧力の場合の成形例である。
一方、硬化条件の圧力が飽和水蒸気圧と同じ圧力の場合の成形については、成形に必要な補充加圧源としての所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスが不要になるため、上述した実施例から圧縮空気供給手段33を省略した形態となる。
【0062】
図8及び図9に基づいて詳しく説明すると、図8は本発明の温度と圧力を制御するための時間変化を示すパターン図と、前記パターン図の進行に同期して連動する飽和水蒸気、排気の各圧力のチャート図を示す。ただし、チャート図の縦軸はゲージ圧(大気圧との差圧)を示す。図9は成形過程のフローチャートを示す。
【0063】
成形プロセスは、上記実施例1と略同じであり、その部分についてはここでの説明を省略し、異なる部分について説明する。
繊維基材(ここでは、炭素繊維)に、マトリックスとして、熱硬化性樹脂(ここでは、エポキシ樹脂)を含浸させた複合材料13を真空バッグ15に収納して成形室1に設置し、加熱加圧して成形するもので、加熱源及び所定加圧源として、複合材料13に必要な所定温度(ここでは、130℃)の飽和水蒸気を成形室1に供給する飽和水蒸気供給手段32、この飽和水蒸気の供給を制御し、成形室1内を複合材料13に必要とされる所定温度(ここでは、130℃)と所定圧力(ここでは、0.2MPaG)に維持するように制御する制御手段34で実施される。
【0064】
上記実施例1にあっては、図3に示す空気圧の制御チャートが存在し、空気圧の制御を行っていたが、ここでは不要となる。
成形プロセスとしては、予めボイラ6で元圧0.4MPaG、150℃の飽和水蒸気を準備し、減圧弁23で0.2MPaGに減圧する。主通蒸自動弁24で蒸気量を制御し、ドレン排水自動弁31を開放して無圧(大気圧)下で成形室1内に飽和水蒸気を導入して90℃まで昇温させる(昇温工程)。
次に、温度制御自動弁25の適宜開閉とドレン排水自動弁開放31による排気により90℃を1〜1.5時間保持する(デュエル工程)。
【0065】
次に、ドレン排水自動弁31を一旦閉じて排気圧が0.2MPaGに設定され、成形室1内が0.195MPaG以下であればドレン排水自動弁31は閉じたままであり、0.205MPaG以上になればドレン排水自動弁31が開き、再び0.195MPaG以下になればドレン排水自動弁31が閉る動作を行う。硬化条件として成形室1内の雰囲気温度が130℃、0.2MPaGとなるように目標の温度と圧力が設定される。再度、主通蒸自動弁24が作動し、飽和水蒸気を導入して130℃まで昇温させる。100℃までは無圧(大気圧)であるが、100℃を超えると成形室1内の圧力が上昇し、130℃の時の飽和水蒸気圧である0.2MPaGに向かう(昇圧工程)。
【0066】
そして、前記成形室1内の雰囲気温度を130℃、圧力を0.2MPaGに保ち、その状態を所定の硬化時間だけ維持させる。実施例1において言及したように、硬化時間は複合材料13により決まる。
【0067】
そこで、成形室1内の温度が130℃、圧力が0.2MPaGであれば一旦水蒸気導入を停止するが、前述の理由により成形室1内の温度と圧力は時間とともに低下する。基本的には温度、圧力低下は水蒸気導入で補正する。再び水蒸気を導入すると成形室1内の温度と圧力が上昇し、排気条件の設定値を超えるとドレン排水自動弁31が開いて圧力が低下する。再び成形室1内の温度と圧力を確認し、130℃、0.2MPaGでなければ水蒸気導入に戻る。こうして、水蒸気の給気と排気によって成形室1内の温度と圧力のバランスを取り、所定の硬化時間になるまで一連の動作を繰り返す(硬化工程)。
尚、冷却工程は実施例1と同じであり、説明を省く。
【実施例3】
【0068】
更に、硬化条件の圧力が飽和水蒸気圧よりも低い圧力の場合の成形について説明する。実質同じ構成部については、上記実施例1の説明を援用し、ここでは説明を省略する。
図10に示すように、飽和水蒸気を加熱して過熱水蒸気にするための飽和水蒸気加熱手段35を準備することにより、硬化条件の圧力に相当する飽和水蒸気を加熱して過熱水蒸気とすることで硬化条件の温度に設定できる。
【0069】
前記飽和水蒸気加熱手段35は、ここでは電熱ヒータとされ、前記配管8に付設されて構成される。しかし、他に、前記配管8を減圧弁23の上流で分岐して、減圧弁23の下流で配管8を巻くように設置し、熱交換を行うことで過熱を実現できるようにしてもよい。これによって、減圧前の高温の飽和水蒸気で減圧後の飽和水蒸気を直接加熱することができる。
【0070】
この実施例の場合も、やはり成形に必要な補充加圧源としての所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスが不要になるため、上述の実施例1から圧縮空気供給手段33を省略した形態となり、成形プロセスも実施例2に準じる。尚、飽和水蒸気を生成するボイラの代わりに過熱水蒸気を生成するボイラを用いても構わない。この場合、前記飽和水蒸気加熱手段を省略した形態となる。
【0071】
図11及び図12に基づいて詳しく説明すると、図11は、本発明のこの実施例における温度と圧力を制御するための時間変化を示すパターン図と、前記パターン図の進行に同期して連動する過熱水蒸気、排気の各圧力のチャート図を示す。ただし、チャート図の縦軸はゲージ圧(大気圧との差圧)を示す。図12は成形過程のフローチャートを示す。
【0072】
成形プロセスは、上記実施例1と略同じであり、その部分についてはここでの説明を省略し、異なる部分について説明する。
繊維基材(ここでは、炭素繊維)に、マトリックスとして、熱硬化性樹脂(ここでは、エポキシ樹脂)を含浸させた複合材料13を真空バッグ15に収納して成形室1に設置し、加熱加圧して成形するもので、加熱源及び所定加圧源として、複合材料13に必要な所定温度(ここでは、130℃)の過熱水蒸気を成形室1に供給する過熱水蒸気供給手段36、この過熱水蒸気の供給を制御し、成形室1内を複合材料13に必要とされる所定温度(ここでは、130℃)と所定圧力(ここでは、0.1MPaG)に維持するように制御する制御手段34で実施される。
【0073】
上記実施例1にあっては、図3に示す空気圧の制御チャートが存在し、空気圧の制御を行っていたが、ここでは不要となる。
成形プロセスとしては、予めボイラ6で元圧0.4MPaG、150℃の飽和水蒸気を準備し、減圧弁23で0.1MPaG(120℃)に減圧する。ついで、0.1MPaG(120℃)の飽和水蒸気を加熱して0.1MPaG(130℃)の過熱水蒸気にする。主通蒸自動弁24で蒸気量を制御し、ドレン排水自動弁31を開放して無圧(大気圧)下で成形室1内に過熱水蒸気を導入して90℃まで昇温させる(昇温工程)。
次に、温度制御自動弁25の適宜開閉とドレン排水自動弁開放31による排気により90℃を1〜1.5時間保持する(デュエル工程)。
【0074】
次に、ドレン排水自動弁31を一旦閉じて排気圧が0.1MPaGに設定され、成形室1内が0.095MPaG以下であればドレン排水自動弁31は閉じたままであり、0.105MPaG以上になればドレン排水自動弁31が開き、再び0.095MPaG以下になればドレン排水自動弁31が閉る動作を行う。硬化条件として成形室1内の雰囲気温度が130℃、0.1MPaGとなるように目標の温度と圧力が設定される。再度、主通蒸自動弁24が作動し、過熱水蒸気を導入して130℃まで昇温させる。100℃までは無圧(大気圧)であるが、100℃を超えると成形室1内の圧力が上昇し、所定圧である0.1MPaGに向かう(昇圧工程)。
【0075】
そして、前記成形室1内の雰囲気温度を130℃、圧力を0.1MPaGに保ち、その状態を所定の硬化時間だけ維持させる。実施例1において言及したように、硬化時間は複合材料13により決まる。
【0076】
そこで、成形室1内の温度が130℃、圧力が0.1MPaGであれば一旦水蒸気導入を停止するが、前述の理由により成形室1内の温度と圧力は時間とともに低下する。基本的には温度、圧力低下は水蒸気導入で補正する。再び水蒸気を導入すると成形室1内の温度と圧力が上昇し、排気条件の設定値、ここでは0.105MPaGを超えるとドレン排水自動弁31が開いて圧力が低下する(0.095MPaG以下ならば閉じる)。再び成形室1内の温度と圧力を確認し、130℃、0.1MPaGでなければ水蒸気導入に戻る。こうして、水蒸気の給気と排気によって成形室1内の温度と圧力のバランスを取り、所定の硬化時間になるまで一連の動作を繰り返す(硬化工程)。
尚、冷却工程は実施例1と同じであり、説明を省く。
【実施例4】
【0077】
ここでは、マトリックスとして、熱可塑性樹脂を用いた複合材料13の成形について、図13に基づいて述べる。
基本的には先の実施例1と実質同じであり、同じ部分については、その説明を省略する。
マトリックスとして用いる熱可塑性樹脂は、ここでは、ポリプロピレン樹脂を用いているが、その他に、ポリアミド樹脂、ABS樹脂等も実施可能である。
図13は、実施例1における図4の硬化工程に対応する成形プロセスを示すフローチャートであるが、その工程は賦形工程である。
【0078】
飽和水蒸気を導入して行う昇温昇圧工程の後に、賦形工程に移行するが、ここでは、賦形条件が、熱硬化性樹脂の場合よりも高い150℃、0.6MPaGに設定される。
この条件が維持されなくなると、フローチャートに示すように、例えば、圧力が上昇するのであれば、排気を行って圧力を低下させ、また、温度が上昇するのであれば、空気の導入を行い、温度を低下させ、また、圧力が低下した場合にも、空気を導入して圧力を戻す制御がなされる。
こうした制御の具体説明は、実施例1の説明を援用する。
【0079】
熱可塑性樹脂の成形であるため、樹脂が軟化すれば成形が完成するため、熱硬化性樹脂と異なり、排気冷却工程への移行時間は短くなる。
こうした熱可塑性樹脂による従来のオートクレーブ成形のプロセスと変わるものではないが、その熱源、圧力源が、この複合材料に対するオートクレーブ成形の技術分野において行われたことのない水蒸気であって、これの温度、圧力を制御するところが異なるのである。
(比較例)
先ず、図14に示すような予備成型部材のC型材を、従来技術のホットプレス装置にて、図15に示す温度、圧力制御のもとに行った。
この成形は、ロールからプリプレグシートを引き出し、ホットプレス装置を通過させて均一な断面を有するC型材を成形することにより形成している。
【0080】
そして、同形のC型材を上述した本発明の方法及び装置によって、実施例1に基づいて成形した、C型材の側壁部(例えば、ホットプレス装置の場合であれば、加圧方向に対して平行な面)から幅10mm×長さ80mmの試験片を切り出し、JIS K7171に準拠して曲げ試験を行った。ただし、成形型に積層した複合材料の種類、層数などの条件は全て同じである。
試験片として、本発明の方法及び装置(実施例1)にて硬化温度130℃、圧力0.2MPaG、硬化時間1時間の条件で成形したC型材から切り出した試験片A、同方法、装置にて硬化温度130℃、圧力0.3MPaG、硬化時間1時間の条件で成形したC型材から切り出した試験片B、従来技術のホットプレス装置にて硬化温度130℃、圧力0.3MPaG、硬化時間1時間の条件で成形したC型材から切り出した試験片Cを用意した。
【0081】
各試験片について曲げ試験を行い、それぞれの曲げ強さを比較したグラフを図7に示す。
試験片Cはホットプレス装置の面圧力が十分作用していない為、同じ硬化条件である試験片Bと比較して明らかに曲げ強さが劣るのが分かる。本発明の方法及び装置の場合、蒸気による成形のため如何なる面にも等しい圧力がかかる。そのため、試験片Cでは不十分だった面圧力も試験片Bでは、十分な圧力がかかっていると言える。
また、試験片Aと試験片Bとを比較しても分かるように、圧力が高いほど曲げ強さが大きくなる。成形品の強度に対して、圧力が重要なファクターであることが窺える。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、凹凸のある複雑な断面形状を有する複合材成形品に対しても、等方性の圧力により隈なく成形に寄与できるため至る所本来の複合材料の強度を確保し、硬化時間を短縮できる材料を選択することで生産性向上を図り、装置構成の簡略化や安価な成形型を選択することにより経済性を高め、加工ムラのない安定した成形品を製造することで、航空機や自動車その他、複雑な断面形状を有する複合材成形品を必要とする産業の発展に寄与できる。
【符号の説明】
【0083】
1:成形室
7:ノズル
13:複合材料
15:真空バッグ
23:減圧弁
24:主通蒸自動弁
25:温度制御自動弁
32:飽和水蒸気供給手段
33:圧縮空気供給手段
34:制御手段
35:飽和水蒸気加熱手段
36:過熱水蒸気供給手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維基材とマトリックスによって形成された複合材料を真空バッグに収納して成形室に設置し、加熱加圧して成形するオートクレーブ成形方法であって、
加熱源及び所定圧の加圧源として、複合材料に必要な所定温度の飽和水蒸気を成形室に供給し、
成形室内が複合材料に必要とされる所定の温度及び圧力に維持されるように、その温度及び圧力の少なくとも一方を制御して硬化工程を行う、
ことを特徴とするオートクレーブ成形方法。
【請求項2】
更に、成形に必要な補充加圧源として飽和水蒸気圧よりも高い所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを成形室に供給し、
これらの飽和水蒸気と所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスの供給を制御し、成形室内が複合材料に必要とされる所定の温度及び圧力に維持されるように、その温度及び圧力の少なくとも一方を制御して硬化工程を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のオートクレーブ成形方法。
【請求項3】
更に、加熱源及び所定圧の加圧源として、複合材料に必要な所定圧の飽和水蒸気を加熱して前記飽和水蒸気よりも高い所定温度の過熱水蒸気にした後にこれを成形室に供給し、
前記成形室内が複合材料に必要とされる所定の温度及び圧力に維持されるように、その温度及び圧力の少なくとも一方を制御して硬化工程を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のオートクレーブ成形方法。
【請求項4】
成形室を一部開放状態として飽和水蒸気のみを供給し、成形室を所定温度まで昇温させた後に所定時間維持したデュエル工程を行い、しかる後に成形室を密閉し、飽和水蒸気と所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスとを供給して昇圧工程から硬化工程に移行することを特徴とする請求項2に記載のオートクレーブ成形方法。
【請求項5】
上記マトリックスの硬化工程が完了した後に当該成形室に冷却水を供給して複合材料を冷却し、しかる後に複合材料を乾燥室に移送して空気を供給し、乾燥させて後に前記真空バッグを複合材料から離型させることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載のオートクレーブ成形方法。
【請求項6】
繊維基材とマトリクスによって形成された複合材料(13)を真空バッグ(15)に収納して成形室(1)に設置し、加熱加圧して成形するオートクレーブ成形装置であって、
加熱源及び所定加圧源として、複合材料(13)に必要な所定温度の飽和水蒸気を成形室に供給する飽和水蒸気供給手段(32)、
飽和水蒸気の供給を制御し、成形室(1)内を複合材料(13)に必要とされる所定の温度と圧力に維持するように制御する制御手段(34)、
とからなることを特徴とするオートクレーブ成形装置。
【請求項7】
更に、成形に必要な補充加圧源として飽和水蒸気圧よりも高い所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを成形室に供給する圧縮空気供給手段(33)を備えている、
ことを特徴とする請求項6に記載のオートクレーブ成形装置。
【請求項8】
更に、加熱源及び所定加圧源として、複合材料(13)に必要な所定圧の前記飽和水蒸気を加熱する飽和水蒸気加熱手段(35)、
前記飽和水蒸気加熱手段(35)を含み、飽和水蒸気を加熱して前記飽和水蒸気よりも高い所定温度の過熱水蒸気にした後にこれを成形室に供給する過熱水蒸気供給手段(36)を備えている、
ことを特徴とする請求項6に記載のオートクレーブ成形装置。
【請求項9】
上記飽和水蒸気供給手段(32)には、所望圧を得るための減圧弁(23)が設けられると共に主通蒸自動弁(24)と温度制御自動弁(25)とが並列接続されて設けられ、これらの減圧弁(23)、主通蒸自動弁(24)及び温度制御自動弁(25)が前記制御手段(34)により制御されるように構成されている、
ことを特徴とする請求項6乃至請求項8の何れか一項に記載のオートクレーブ成形装置。
【請求項10】
前記成形室(1)内に飽和水蒸気を供給するための複数のノズル(7)が前記複合材料(13)に対して略全体に噴射できるように配設され、該ノズル(7)が所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを供給するためのノズルを兼ねていることを特徴とする請求項7に記載のオートクレーブ成形装置。
【請求項1】
繊維基材とマトリックスによって形成された複合材料を真空バッグに収納して成形室に設置し、加熱加圧して成形するオートクレーブ成形方法であって、
加熱源及び所定圧の加圧源として、複合材料に必要な所定温度の飽和水蒸気を成形室に供給し、
成形室内が複合材料に必要とされる所定の温度及び圧力に維持されるように、その温度及び圧力の少なくとも一方を制御して硬化工程を行う、
ことを特徴とするオートクレーブ成形方法。
【請求項2】
更に、成形に必要な補充加圧源として飽和水蒸気圧よりも高い所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを成形室に供給し、
これらの飽和水蒸気と所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスの供給を制御し、成形室内が複合材料に必要とされる所定の温度及び圧力に維持されるように、その温度及び圧力の少なくとも一方を制御して硬化工程を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のオートクレーブ成形方法。
【請求項3】
更に、加熱源及び所定圧の加圧源として、複合材料に必要な所定圧の飽和水蒸気を加熱して前記飽和水蒸気よりも高い所定温度の過熱水蒸気にした後にこれを成形室に供給し、
前記成形室内が複合材料に必要とされる所定の温度及び圧力に維持されるように、その温度及び圧力の少なくとも一方を制御して硬化工程を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載のオートクレーブ成形方法。
【請求項4】
成形室を一部開放状態として飽和水蒸気のみを供給し、成形室を所定温度まで昇温させた後に所定時間維持したデュエル工程を行い、しかる後に成形室を密閉し、飽和水蒸気と所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスとを供給して昇圧工程から硬化工程に移行することを特徴とする請求項2に記載のオートクレーブ成形方法。
【請求項5】
上記マトリックスの硬化工程が完了した後に当該成形室に冷却水を供給して複合材料を冷却し、しかる後に複合材料を乾燥室に移送して空気を供給し、乾燥させて後に前記真空バッグを複合材料から離型させることを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載のオートクレーブ成形方法。
【請求項6】
繊維基材とマトリクスによって形成された複合材料(13)を真空バッグ(15)に収納して成形室(1)に設置し、加熱加圧して成形するオートクレーブ成形装置であって、
加熱源及び所定加圧源として、複合材料(13)に必要な所定温度の飽和水蒸気を成形室に供給する飽和水蒸気供給手段(32)、
飽和水蒸気の供給を制御し、成形室(1)内を複合材料(13)に必要とされる所定の温度と圧力に維持するように制御する制御手段(34)、
とからなることを特徴とするオートクレーブ成形装置。
【請求項7】
更に、成形に必要な補充加圧源として飽和水蒸気圧よりも高い所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを成形室に供給する圧縮空気供給手段(33)を備えている、
ことを特徴とする請求項6に記載のオートクレーブ成形装置。
【請求項8】
更に、加熱源及び所定加圧源として、複合材料(13)に必要な所定圧の前記飽和水蒸気を加熱する飽和水蒸気加熱手段(35)、
前記飽和水蒸気加熱手段(35)を含み、飽和水蒸気を加熱して前記飽和水蒸気よりも高い所定温度の過熱水蒸気にした後にこれを成形室に供給する過熱水蒸気供給手段(36)を備えている、
ことを特徴とする請求項6に記載のオートクレーブ成形装置。
【請求項9】
上記飽和水蒸気供給手段(32)には、所望圧を得るための減圧弁(23)が設けられると共に主通蒸自動弁(24)と温度制御自動弁(25)とが並列接続されて設けられ、これらの減圧弁(23)、主通蒸自動弁(24)及び温度制御自動弁(25)が前記制御手段(34)により制御されるように構成されている、
ことを特徴とする請求項6乃至請求項8の何れか一項に記載のオートクレーブ成形装置。
【請求項10】
前記成形室(1)内に飽和水蒸気を供給するための複数のノズル(7)が前記複合材料(13)に対して略全体に噴射できるように配設され、該ノズル(7)が所定圧の空気又は窒素或いはこれらの混合ガスを供給するためのノズルを兼ねていることを特徴とする請求項7に記載のオートクレーブ成形装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−153133(P2012−153133A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−171356(P2011−171356)
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000139632)株式会社芦田製作所 (2)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月19日(2011.7.19)
【出願人】(000139632)株式会社芦田製作所 (2)
【Fターム(参考)】
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