説明

カーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバの製造方法およびナノ構造作製方法

【目的】低電流のイオン照射で、選択成長性、数密度制御可能かつ、再現性良く製造可能なカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバおよび円錐状、角錐状、針状、柱状等の突起(ナノ構造)を提供することを目的とする。
【構成】煤状の炭素皮膜を基板上に形成した後、真空チャンバーでイオンビームを照射することで基板上の突起形状頂上部のみに選択的に一本のカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバを成長させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィールド・エミッション・ディスプレイのカソード電極(電子源)やテレビの電子銃ならびにX線発生源のための電子銃やSPM用のSTMあるいはAFM等の探針あるいは導入針やマニュピレータ用の微小プローブの先端、太陽電池、光触媒、触媒担体として使用される。
【背景技術】
【0002】
従来の炭素膜の成膜方法はアークイオンプレイティング法やアーク蒸着法、イオンビームスパッタ法さらにはECRプラズマCVD法等で成膜される。上記4つの方法によって得られる膜の特徴は、非常に緻密で堅い膜が形成される。アークイオンプレイティング法やアーク蒸着法は主に工具のコーティングに用いられる。ECRプラズマCVDは主にハードディスクの保護膜として使用される。
図1のカーボンナノファイバの成長装置を参照しながら従来技術によるカーボンナノファイバを成長させる場合について述べる。図1に示すように真空排気3、高エネルギービーム照射用のビーム径数mm〜数十cmのイオンガン4、駆動部2を設け、試料加熱が1000℃程度まで可能なヒーター加熱部5を備えた試料ステージ8からなる真空装置1を用いて、真空装置内にイオンガン4がカーボンナノファイバの成長させる方向と平行になるようにステージ8を可動させて、ステージ上に成長させたい基板6を配置する。
このような装置内で、真空度10−2〜10−8Pa程度、好ましくは10−3Pa〜10−5Pa程度とし、希ガスイオン種のアルゴンイオンを加速電圧0.1〜300keV、平均イオン電流密度を2μA/cm〜10mA/cm程度、イオンビームのスパッタ速度は2nm〜1μm/min程度として、室温で1〜100分のイオン照射により、探針先端より1μm程度のカーボンナノファイバを成長形成させる。このように、基板上にイオン照射を行うと、突起先端部の原子の化学結合及び移動が起こり、選択的に突起先端に1本の細線が形成されることになる。ここで、カーボンナノファイバの成長にあたっては室温で行ったが、室温から約500〜600℃まで加熱しながら行うことも可能であり、また室温から−150℃まで冷却しても良い。これらの場合には、カーボンナノファイバのみならずカーボンナノチューブも形成することができる。また、イオンビームのイオン電流密度、加速電圧を変えることにより、スパッタ速度を容易に変える事ができる。さらに、希ガスイオン種のアルゴンイオンを用いたが、ヘリウムイオン、ネオンイオン、キセノンイオンあるいは窒素イオン、酸素イオン又はCH基を含むイオン等の反応性ガスイオン種でも良い。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかながら、かかる従来の方法ではカーボンナノファイバを成長させる場合、アークイオンプレイティング法で成膜した炭素皮膜を用いるとイオン電流密度が前記のように220μA/cm2程度必要であり、大型基板にカーボンナノファイバを成長させる場合、大電流を出すイオン源が必要となる。また今回アークイオンプレイティング法を用いたが、アーク蒸着法ならびにECRプラズマCVD法によって形成された炭素膜は同様にカーボンナノファイバを成長させるために200μA/cm2の電流値が必要であることは確認された。
【0004】
本発明は上記課題に鑑みなされたもので、簡単な方法で、低電流のイオン照射で、選択成長性、数密度制御可能かつ、再現性良く製造可能なカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバおよび円錐状、角錐状、針状、柱状等の突起(ナノ構造)を提供することを目的とする。
請求項毎に目的を述べると、請求項1、2に係わる発明は、イオン照射によるカーボンナノファイバを成長させるためのカーボン供給源を容易に提供することを目的とする。請求項3〜7に係わる発明は、具体的且つ最適なカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバの製造方法を提供することを目的とする。請求項8に係わる発明は、選択成長性、数密度を制御して、金属、半導体、プラスチック、セラミックス等の任意の基板上に円錐状、角錐状、針状、柱状等の突起(ナノ構造)を製造する具体的且つ最適な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、請求項1に係わる発明は、煤状の炭素皮膜を基板上に形成した後、真空チャンバーでイオンビームを照射することで基板上の突起形状頂上部のみに選択的に一本のカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバを成長させることを特徴とする。
【0006】
このような製造方法により、容易にカーボン供給源を基板上に形成できると共に、低電流のイオン照射でカーボンナノファイバが製造でき、低コスト化が実現可能となる。
【0007】
請求項2に係わる発明は、請求項1の煤状炭素皮膜を炭素皮膜処理された基板にも適応することで、低電流のイオン照射で、更に効率よくかつ高密度にカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーが製造でき、低コスト化が実現可能となる。
【0008】
請求項3に係わる発明は、請求項1、2の煤状炭素皮膜は大気中において火炎先端に基板を近づけることで炭素膜を形成する事を特徴とする。
【0009】
請求項4に係わる発明は、例えば高分子基板、プラスチック基板の様に耐熱性の無い基板に、請求項1、2の煤状炭素皮膜を形成する事を特徴とする。
【0010】
請求項5に係わる発明は、請求項1〜4の煤状炭素皮膜の密度に応じてカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバの選択性成長を制御する事を特徴とする。
【0011】
請求項6に係わる発明は、請求項1〜5の煤状炭素皮膜の密度、厚さに応じてカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバの成長する本数(数密度)を制御する事を特徴とする。当該数密度は、1本/mm〜10本/mmの制御が可能である。
【0012】
請求項7に係わる発明は、請求項1〜6の煤状炭素皮膜の膜厚に応じてカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバの太さや長さを制御する事を特徴とする。
【0013】
請求項8に係わる発明は、請求項1〜7で成長したカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバ付き基板を、水、アルコール等の液体中で、例えば超音波洗浄等により洗浄することで、カーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバを除去し、選択成長性、数密度を制御して、基板上に円錐状、角錐状、針状、柱状等の突起(ナノ構造)を形成することを特徴とする。
【0014】
以上のような製造方法により、容易にカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバを選択的に密度や太さや長さの制御が可能となる。また、任意の基板に、選択的に、密度や太さや長さを制御して、円錐(コーン)状、角錐状、針(ニードル)状、柱(ロッド)状等の突起(ナノ構造)を形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る煤状炭素皮膜を用いるカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバの製造方法によれば、煤状炭素皮膜を容易に基板に付着させることができるので大型の形成装置は必要ない。また従来のイオンビーム電流密度を低減しカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバを成長させることができるので低コスト化が実現可能になる。さらにカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバの数密度や太さ、長さを用途に応じて容易に制御できる効果を奏する。また基板上に突起や貫通孔が形成されている場合においても、炭素膜を容易に基板に付着させることができ、下地の形状や材料の影響を受けないで形成が可能になる。さらに、形成されたカーボンナノチューブ、カーボンナノファイバを除去することで、基板構成元素からなる、円錐(コーン)状、角錐状、針(ニードル)状、柱(ロッド)状等の突起(ナノ構造)を、金属、半導体、プラスチック、セラミックス等の任意の基板上に成長領域を制御し、高密度に形成することが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら実施例に基づいて本発明を説明するが、もとより本発明は、これに限定されるものではない。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明に係るカーボンナノファイバの成長装置の図であって、構成は、上記背景技術で述べた図1と同様である。4インチφのシリコン基板上6にアークイオンプレイティング法にてグラファイト膜を3μm被服しておき、その基板を基板ステージ8上に搭載し、チャンバー1を真空排気させ、1×10-7Torr以下に達したところで、イオン源にアルゴンガスを導入し、イオン源を動作させ、約1.2kVで引き出し、220μA/cm2で基板ステージ8上の基板6にイオンを照射する。この照射する前に基板加熱ヒータ5で基板を約200℃まで加熱しておく。
【0018】
この状態で100分程度照射するとシリコン基板上に円錐状の突起が形成され、その円錐形の頂上にイオン照射方向に直径数nm〜数百nmで長さが0.1μm〜10μmのカーボンナノファイバが形成される。
【0019】
次に、本発明に係る煤状炭素皮膜の製造方法を図2により説明する。
図2は、基板上への煤状炭素皮膜を形成するところを横から見た図である。大気中において蝋燭11上に炎12を形成し、その上部を炭素皮膜を形成する基板13が移動し、表面上に煤を形成する。この時基板13の移動速度を変える事で煤の密度を制御することが可能となる。今回は1cm/秒の速度で移動させ、0.03 g/cm3程度の密度で形成することが可能となった。また炎と形成基板との距離を変える事で煤の厚さを制御することが可能となり、今回は5mm離し、2秒間で基板上に2μm厚の煤を形成することができた。
【0020】
この基板を従来の装置に導入し、カーボンナノファイバを成長させる。その場合、イオン電流密度は約 100μA/cm2,30分間で長さ0.1〜3μm程度の、従来と同様なカーボンナノファイバを基板上に約1x105mm-2の数密度で成長させることができる。
勿論1本の蝋燭上をカーボンナノファイバの形成する基板をX、Y方向にスキャンさせても良いが、大型基板の場合は、長尺の炎発生器上をX方向のみに移動させて基板上に煤を形成しても良い。また、ここでは火炎には蝋燭を用いたが、煤を生じるものであれば何でも良く、松脂、ナフタリン等の炭素化合物を燃焼させてもよいことは言うまでも無い。
【0021】
こうして成長したカーボンナノファイバをエチルアルコール中での超音波洗浄を2分施すことにより基板から除去することができた。カーボンナノファイバが除去された基板には、基板材料元素から成る、高さ1μm程度の円錐状突起が、約1x105mm-2の数密度で形成された。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】カーボンナノファイバの成長装置を示した図である。
【図2】基板上への煤状炭素皮膜を形成する図。
【符号の説明】
【0023】
1 真空装置
2 駆動部
3 真空排気
4 イオンガン
5 加熱部
6 基板
8 試料ステージ
11 蝋燭
12 炎
13 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
煤状の炭素皮膜を基板上に形成した後、真空チャンバーでイオンビームを照射することで基板上の突起形状頂上部のみに選択的に一本のカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバを成長させることを特徴とするカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバの製造方法。
【請求項2】
グラファイト、ダイヤモンドライクカーボン、無定形炭素等の炭素膜被覆を施した基板上に、さらに煤状の炭素皮膜を基板上に形成した後、真空チャンバーでイオンビームを照射することで基板上の突起形状頂上部のみに選択的に一本のカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバを成長させることを特徴とするカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバの製造方法。
【請求項3】
請求項1、2の煤状炭素皮膜は大気中において火炎先端に基板を近づけることで炭素膜を形成する事を特徴とするカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバの製造方法。
【請求項4】
請求項1、2の煤状炭素皮膜は、大気中においてガラス板、シリコン板等の鏡面板を火炎先端に近づけることでガラス板、シリコン板上に炭素膜を形成し、煤堆積したガラス板、シリコン板を水、アルコール等の液体中に浸すことで炭素皮膜とガラス板、シリコン板とを剥離し、剥離した煤膜を基板上にすくい堆積させることを特徴とするカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4の煤状炭素皮膜は煤堆積部分にのみカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバの選択性成長を制御する事を特徴とするカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の煤状炭素皮膜はその膜密度、厚さに応じて、成長するーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバの数密度(平面内に形成される本数)を制御する事を特徴とするカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6の煤状炭素皮膜は厚さに応じてカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバの太さや長さを制御する事を特徴とするカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7で成長したカーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバ付き基板を、水、アルコール等の液体中で、例えば超音波洗浄等により洗浄することで、カーボンナノチューブあるいはカーボンナノファイバを除去し、選択成長性、数密度を制御して、基板上に円錐(コーン)状、角錐状、針(ニードル)状、柱(ロッド)状等の突起(ナノ構造)を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−131475(P2006−131475A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−324856(P2004−324856)
【出願日】平成16年11月9日(2004.11.9)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】