説明

カーボンナノチューブ集合体、その製造方法および成形体、組成物、複合体

【課題】非常に高導電性、高品質、分散性が良好な2層カーボンナノチューブ集合体およびその製造方法を得ることを課題とする。
【解決手段】以下の(1)〜(4)の条件を満たすカーボンナノチューブ集合体。
(1)体積抵抗率が1×10−4Ω・cm以上、1×10−2Ω・cm以下。
(2)カーボンナノチューブ集合体の50%以上が2層カーボンナノチューブ。
(3)カーボンナノチューブ集合体の測定波長532nmにおけるラマンG/D比が30以上、200以下。
(4)燃焼ピーク温度が550℃以上、700℃以下。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カーボンナノチューブ製造方法、カーボンナノチューブ集合体およびその成形体に関する。さらに、カーボンナノチューブ集合体を用いた組成物、複合体にも関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブは実質的にグラファイトの1枚面を巻いて筒状にした形状を有しており、1層に巻いたものを単層カーボンナノチューブ、多層に巻いたものを多層カーボンナノチューブという。カーボンナノチューブは、通常層数の少ない方が高グラファイト構造を有し、単層カーボンナノチューブは電気伝導性や熱伝導性などの特性も高いことが知られており、多層カーボンナノチューブはグラファイト化度が低いため電気伝導性や熱伝導性が一般的に単層カーボンナノチューブにくらべて低いことも知られている。一方、多層カーボンナノチューブはグラファイト層数が多いことから、単層カーボンナノチューブと比較して、耐久性が高いことが知られている。
【0003】
多層カーボンナノチューブの中でも、2層カーボンナノチューブは単層カーボンナノチューブの特性と多層カーボンナノチューブの両方の特性を有しているために、種々の用途において有望な素材として注目を集めている。
【0004】
近年では、化学気相成長法、プラズマ法、パルスアーク法などで2層カーボンナノチューブの割合が高いカーボンナノチューブ集合体を合成できることが知られるようになってきている。
【0005】
その中で特許文献1,非特許文献1に示す方法は触媒化学気相成長法により、比較的品質が良く、純度が高い2層カーボンナノチューブを製造している。しかしながら、特許文献1のカーボンナノチューブは、強固で非常に大きなバンドル構造を有しているため、1本1本のカーボンナノチューブが有しているナノ効果を発揮できず、各種用途展開が困難であると推察される。特に樹脂や溶媒への分散が非常に困難であるために、種々の用途への展開が限られる。また非特許文献1のカーボンナノチューブは横型固定床反応器を用いて合成を行っているため、触媒への原料ガスの接触が不均一であり、高品質なカーボンナノチューブが得られていない。また特許文献1,非特許文献1いずれもカーボンナノチューブの収量を多くするために、原料ガスを50vol%、20vol%と高濃度で使用している。これは原料ガスとして反応性が低いメタンを使用しているためであるが、このような高濃度で合成を行うとアモルファスカーボン等の副生物が多くなってしまうという課題を有している。さらに原料ガスの爆発範囲内でカーボンナノチューブ合成を行っているために、その製造には過大な安全対策や設備が必要になるなど量産化に向けた大きな課題を有しているのが現状であった。
【0006】
また特許文献2ではメタンを用いて2層カーボンナノチューブを合成しているが、原料ガスであるメタンの線速が9.5×10−3cm/sec以下であることを規定している。比較的高品質な2層カーボンナノチューブが得られているがラマンG/D比が20程度である。メタンの線速が遅いために、アモルファスカーボンが生成し、非常に高品質な2層カーボンナノチューブ集合体まで到達していないのが現状であった。
【特許文献1】特開2006−335604号公報
【特許文献2】WO2007/074629
【非特許文献1】ケミカル フィジックス レターズ(Chemical Physics Letters)391(2004), 308−313
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような事情に鑑みなされたものであり、非常に高導電性、高品質、分散性が良好な2層カーボンナノチューブ集合体およびその製造方法を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、鋭意検討を行った結果、メタンを濃度10体積%以下、線速4cm/sec以上、15cm/sec以下で流通させ、触媒と500〜1200℃で接触させることにより体積抵抗率が低く、高品質で分散性の良好な2層カーボンナノチューブ集合体が得られることを見出し、本発明に到ったものである。またそれにより得られるカーボンナノチューブ集合体は成形体、組成物、複合体としても良く、さらに透明導電フィルムとして良好な性能を発揮することを見出し、本発明に到ったものである。
【0009】
すなわち本発明は、下記の構成からなる。
<1>メタンを濃度10体積%以下で含む原料ガスを線速4cm/sec以上、15cm/sec以下で流通させ、触媒と500〜1200℃で接触させることを特徴とするカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
<2>上記接触が縦型流動床型反応器内にて行われることを特徴とする<1>記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
<3>前記メタン濃度が5体積%以下であることを特徴とする<1>または<2>に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
<4>前記触媒がFeにマグネシアを担持した触媒であることを特徴とする<1>から<3>のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
<5>前記触媒のかさ密度が0.30g/mL以上、2.00g/mL以下であることを特徴とする<1>から<4>のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
<6>メタンと触媒の接触時間が8.0×10−2g・min/mL以上、1.0×10g・min/mL以下であることを特徴とする<1>から<5>のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
<7>メタンと触媒を接触させて得られたカーボンナノチューブ集合体を気相酸化することを特徴とする<1>から<6>のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
<8>気相酸化後のカーボンナノチューブ集合体の測定波長532nmにおけるラマンG/D比が30以上になるまで気相酸化することを特徴とする<7>記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
<9>以下の(1)〜(4)の条件を満たすカーボンナノチューブ集合体。
(1)体積抵抗率が1×10−4Ω・cm以上、1×10−2Ω・cm以下
(2)カーボンナノチューブ集合体の50%以上が2層カーボンナノチューブ
(3)カーボンナノチューブ集合体の測定波長532nmにおけるラマンG/D比が30以上、200以下
(4)燃焼ピーク温度が550℃以上、700℃以下
<10>カーボンナノチューブ集合体中の3層以上のカーボンナノチューブが10%以下であることを特徴とする<9>に記載のカーボンナノチューブ集合体。
<11>炭素原子に対する酸素原子の割合が4%未満であることを特徴とする<9>または<10>に記載のカーボンナノチューブ集合体。
<12>10℃/minで昇温した時の熱重量測定での200℃から400℃の重量減少が5%以下であることを特徴とする<9>から<11>のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ集合体。
<13><9>から<12>に記載のカーボンナノチューブ集合体からなるカーボンナノチューブ成形体。
<14><9>から<12>に記載のカーボンナノチューブ集合体を含む組成物。
<15>液状の分散媒にカーボンナノチューブ集合体が分散している<14>記載のカーボンナノチューブ組成物。
<16>さらに界面活性剤、導電性高分子もしくは非導電性高分子から選択される一種以上を含有することを特徴とする<14>記載のカーボンナノチューブ組成物。
<17>カーボンナノチューブ集合体の濃度が0.01重量%から20重量%であることを特徴とする<14>から<16>のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ組成物。
<18><14>記載のカーボンナノチューブ組成物からなる成形体。
<19><14>から<17>のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ組成物を用いて導電層が基材上に形成されてなる導電性複合体。
<20>前記基材がフィルムであることを特徴とする<19>記載の導電性複合体。
<21>基材が透明基材であり、かつ以下の特徴を有する<20>記載の導電性複合体。
(1)表面抵抗が1×10Ω/□未満
(2)550nmの波長の光透過率が以下の条件を満たす
導電性フィルムの透過率/透明基材の透過率>0.85
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、メタンを濃度10体積%以下、線速4cm/sec以上、15cm/sec以下で流通させ、触媒と500〜1200℃で接触させることにより体積抵抗率が低く、高品質で分散性の良好な2層カーボンナノチューブ集合体が得られる。また本カーボンナノチューブ集合体は成形体、組成物、複合体としても良く、さらに透明導電フィルムとして良好な性能を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明はメタンを濃度10体積%以下、線速4cm/sec以上、15cm/sec以下で流通させ、触媒と500〜1200℃で接触させることを特徴とするカーボンナノチューブ集合体の製造方法(第1発明)であり、さらに以下の(1)〜(4)の条件を満たすカーボンナノチューブ集合体(第2発明)である。
(1)体積抵抗率が1×10−4Ω・cm以上、1×10−2Ω・cm以下
(2)カーボンナノチューブ集合体の50%以上が2層カーボンナノチューブ
(3)カーボンナノチューブ集合体の測定波長532nmにおけるラマンG/D比が30以上、200以下
(4)燃焼ピーク温度が550℃以上、700℃以下
本発明においてメタンの濃度は反応で使用する原料ガス全体に対して10体積%以下が好ましい。ここで言う体積%は101325Pa(1気圧)、25℃にて測定されたガスの体積%で示すことができる。カーボンナノチューブ合成反応においては、メタンが難分解性ガスであることから、収率を上げるためにメタンを高濃度で流通させることが通常であったが、高濃度メタンを加熱温度下流通させるとメタン自身の気相分解や触媒上での副反応によりアモルファスカーボン等の副生物が多量に生成する。高品質カーボンナノチューブ集合体を得るためにはメタンの濃度を10体積%以下で流通させることが好ましい。より好ましくは7体積%以下であり、さらに好ましくは5体積%以下である。メタンの爆発下限は5体積%以下であるために、この範囲であれば高品質カーボンナノチューブ集合体を安全な反応条件にて得ることが可能となる。これにより、過大な安全装置等を設ける必要がないので量産化も行いやすい。ただしあまりにメタンの濃度が希薄すぎるとカーボンナノチューブの生成効率が低下するため、1体積%以上が好ましい。
【0012】
原料ガス中、メタンは希釈ガスと共に反応に供する。希釈ガスとしては、特に限定されないが、酸素ガス以外のものが好ましく使用される。酸素は爆発の可能性があるので通常使用しないが、爆発範囲外であれば使用しても構わない。希釈ガスとしては、窒素、アルゴン、水素、ヘリウム、ネオン等が好ましく使用される。水素は、触媒金属の活性化に効果があるので好ましい。アルゴンの如き分子量が大きいガスはアニーリング効果が大きく、アニーリングを目的とする場合には好ましい。特に窒素およびアルゴンが好ましい。
【0013】
メタンの線速は4cm/sec以上、好ましくは15cm/sec以下で流通させる。カーボンナノチューブ合成反応においては、メタンが難分解性ガスであることから、収率を上げるためにメタンを低線速にて流通させることが通常であったが、メタンを低線速にて加熱温度下流通させるとメタン自身の気相分解や触媒上での副反応によりアモルファスカーボン等の副生物が多量に生成する。高品質カーボンナノチューブ集合体を得るためにはメタンの線速を4cm/sec以上、15cm/sec以下で流通させることが好ましい。さらに好ましくは4cm/sec以上、10cm/sec以下であり、さらに好ましくは4cm/sec以上、9cm/sec以下である。15cm/secより線速が速いと、触媒が大きく舞い上がり反応温度域(均熱帯)から外れ、高品質なカーボンナノチューブ集合体が得られない。
【0014】
触媒とメタンとを接触させる温度は、500〜1200℃が好ましく、さらに好ましくは700℃〜1000℃の範囲である。より好ましくは750℃〜950℃の範囲である。温度が500℃よりも低いと、カーボンナノチューブ集合体の収率が悪くなる。また温度が1200℃よりも高いと、使用する反応器の材質に制約があると共に、カーボンナノチューブ同士の接合が始まり、カーボンナノチューブの形状のコントロールが困難になる。メタンを触媒に接触させながら反応器を反応温度にしてもよいし、熱による前処理終了後、反応器を反応温度にしてから、メタンの供給を開始しても良い。
【0015】
カーボンナノチューブ集合体を生成させる反応の前に、触媒に熱による前処理を行ってもよい。熱による前処理の時間は、特に限定しない。前処理の温度は、触媒活性が発揮されれば反応温度以下でも構わないし、反応温度と同じでも、反応温度以上でも構わない。熱による前処理を行うことにより、触媒をより活性な状態にすることもある。この時、ガスを流すことも可能である。ガスとしては、特に限定されない。ガスとしては、窒素、アルゴン、水素、ヘリウム、ネオン等が好ましく使用される。水素は、触媒金属の活性化に効果があるので好ましい。アルゴンの如き分子量が大きいガスは、アニーリング効果が大きく、アニーリングを目的とする場合には好ましい。特に窒素および/またはアルゴンが好ましい。
【0016】
熱による前処理、およびカーボンナノチューブ集合体を生成させる反応は、減圧もしくは大気圧で行うことが好ましい。
【0017】
触媒とメタンの接触を減圧で行う場合は、真空ポンプなどで反応系を減圧にすることができる。また大気圧で前処理や反応を行う場合は、メタンと希釈ガスを混合した、混合ガスとして触媒と接触させてもよい。
【0018】
希釈ガスとしては、特に限定されないが、酸素ガス以外のものが好ましく使用される。酸素は爆発の可能性があるので通常使用しないが、爆発範囲外であれば使用しても構わない。希釈ガスとしては、窒素、アルゴン、水素、ヘリウム、ネオン等が好ましく使用される。水素は、触媒金属の活性化に効果があるので好ましい。アルゴンの如き分子量が大きいガスは、アニーリング効果が大きく、アニーリングを目的とする場合には好ましい。特に窒素およびアルゴンが好ましい。
【0019】
本発明において反応方式は特に限定しないが、縦型流動床型反応器を用いて反応させることが好ましい。縦型流動床型反応器とは、メタンが、鉛直方向(以下「縦方向」と称する場合もある)に流通するように設置された反応器である。該反応器の一方の端部から他方の端部に向けた方向にメタンが流通し、触媒層を通過する。反応器は、例えば管形状を有する反応器を好ましく用いることができる。なお、上記において、鉛直方向とは、鉛直方向に対して若干傾斜角度を有する方向をも含む(例えば水平面に対し90°±15°、好ましくは90°±10°)。なお、好ましいのは鉛直方向である。なお、メタンの供給部および排出部は、必ずしも反応器の端部である必要はなく、メタンが前記方向に流通し、その流通過程で触媒層を通過すればよい。
【0020】
触媒は、縦型流動床型反応器中、反応器の水平断面方向全面に存在させた状態にあり、反応時には流動床を形成した状態とする。このようにすることにより、触媒とメタンを有効に接触させることができる。横型反応器の場合、触媒とメタンを有効に接触させるため、メタンの流れに対して垂直方向で反応器の断面全面に存在させた状態にするには、重力がかかる関係上、触媒を左右から挟み込む必要がある。しかし、カーボンナノチューブ集合体の生成反応の場合、反応するに従って触媒上にカーボンナノチューブ集合体が生成して、触媒の体積が増加するので、左右から触媒を挟みこむ方法は好ましくない。また、横型で流動床を形成させることは難しい。本発明では反応器を縦型にし、反応器内にガスが透過できる台を設置して、その上に触媒を置くことによって、触媒を両側から挟みこむことなく、反応器の断面方向に均一に触媒を存在させることができ、メタンを鉛直方向に流通させる際に流動床を形成させることもできる。触媒を縦型流動床反応器の水平断面方向全面に存在させた状態とは、水平断面方向に全体に触媒が広がっていて触媒底部の台が見えない状態を言う。このような状態の好ましい実施態様としては、例えば、次のような態様がある。
【0021】
A.反応器内にガスが透過できる触媒を置く台(セラミックスフィルターなど)を置き、そこに所定の厚みで触媒を充填する。この触媒層の上下が多少凸凹してもかまわない(図1(a))。図1(a)は、反応器1の中に触媒を置く台2が設置され、その上に触媒3が反応器の水平断面方向全体に存在している状態を示す概念図である。
【0022】
B.Aと同様の触媒を置く台上に、触媒以外の物体(充填材)と触媒を混ぜて充填する。この触媒層は均一であることが好ましいが、上下が多少凸凹してもかまわない(図1(b))。図1(b)は反応器1の中に触媒を置く台2が設置され、その上に触媒以外の物体と触媒の混合物4が反応器の断面方向全体に存在している状態を示す概念図である。
【0023】
C.反応器上部から触媒を噴霧などで落とし、触媒粉末がガスを介して反応器水平断面方向に均一に存在している状態(図1(c))。図1(c)は反応器1上部から噴霧した触媒5が反応器水平断面方向全体に広がった触媒状態を示す概念図である。縦型流動床反応器の一例としては上述Cのような触媒を反応器上部から噴霧などによって落とす態様や、一般に沸騰床型と言われる触媒が流動する態様(上述AやBに準ずる方法)が挙げられる。
【0024】
流動床型は、触媒を連続的に供給し、反応後の触媒とカーボンナノチューブ集合体を含む集合体を連続的に取り出すことにより、連続的な合成が可能であり、カーボンナノチューブ集合体を効率よく得ることができ好ましい。
【0025】
流動床型反応において、原料のメタンと触媒が均一に効率よく接触するためにカーボンナノチューブ合成反応が均一に行われ、アモルファスカーボンなどの不純物による触媒被覆が抑制され、触媒活性が長く続くと考えられる。
【0026】
縦型反応器とは対照的に、横型反応器は横方向(水平方向)に設置された反応器内に、石英板上に置かれた触媒が設置され、該触媒上をメタンが通過して接触、反応する態様の反応装置を指す。この場合、触媒表面ではカーボンナノチューブが生成するが、触媒内部にはメタンが到達しないためにほとんど反応しない。これに対して、縦型反応器では触媒全体に原料のメタンが接触することが可能となるため、効率的に、多量のカーボンナノチューブ集合体を合成することが可能である。
【0027】
反応器は耐熱性であることが好ましく、石英製、アルミナ製等の耐熱材質からなることが好ましい。
【0028】
本発明における触媒として触媒金属を含む。触媒金属の種類は、特に限定されないが、好ましくは3〜12族の金属、特に好ましくは、5〜11族の金属が用いられる。中でも、V、Mo、Mn、Fe、Co、Ni、Pd、Pt、Rh、W、Cu等が好ましい。さらに好ましくは、Fe、CoおよびNiであり、最も好ましいのはFeである。ここで金属とは、0価の状態とは限らない。反応中は0価の金属状態になっていると推定できるが、広く金属を含む化合物または金属種でよい。例えば、ギ酸塩、酢酸塩、トリフルオロ酢酸塩、クエン酸アンモニウム塩、硝酸塩、硫酸塩、ハロゲン化物塩などの有機塩または無機塩、エチレンジアミン4酢酸錯体やアセチルアセトナート錯体のような錯塩などが用いられる。また触媒金属は微粒子であることが好ましい。微粒子の粒径は0.5〜10nmであることが好ましい。触媒金属が微粒子であると外径の細いカーボンナノチューブが生成しやすい。
【0029】
触媒金属は1種類だけを使用しても、2種類以上を使用してもよい。2種類以上の触媒金属を使用する場合は、Feを含むことが特に好ましい。
【0030】
また本発明で触媒金属は担体に担持された状態のものであっても良い。ここで担体とは特に限定されないが、シリカ、アルミナ、マグネシア、チタニア、ゼオライトが好ましく用いられる。この中でも特にマグネシアが好ましい。マグネシアは、市販品を使用しても良いし、合成したものを使用しても良い。マグネシアの好ましい製法としては、金属マグネシウムを空気中で加熱する、水酸化マグネシウムを850℃以上に加熱する、炭酸水酸化マグネシウム3MgCO・Mg(OH)・3HOを950℃以上に加熱する等の方法がある。
【0031】
担体に触媒金属を担持する方法は、特に限定されない。例えば、担持したい触媒金属の塩を溶解させた非水溶液(例えばエタノール溶液)中または水溶液中に、担体を含浸し、攪拌や超音波照射などにより充分に分散混合した後、乾燥させる(含浸法)。さらに空気、酸素、窒素、水素、不活性ガスおよびそれらの混合ガスから選ばれたガス中または真空中、高温(300〜1000℃)で加熱することにより、担体に触媒金属を担持してもよい。
【0032】
触媒金属担持量は、多いほどカーボンナノチューブの収量が上がるが、多すぎると触媒金属の粒子径が大きくなり、生成するカーボンナノチューブが太くなる。触媒金属担持量が少ないと、担持される触媒金属の粒子径が小さくなり、外径の細いカーボンナノチューブが得られるが、収率が低くなる傾向がある。最適な触媒金属担持量は、マグネシアの細孔容量や外表面積、担持方法によって異なるが、マグネシアに対して0.1〜20重量%の触媒金属を担持することが好ましい。2種類以上の触媒金属を使用する場合、その比率は限定されない。
【0033】
触媒のかさ密度が0.30g/mL以上、2.00g/mL以下であることにより、触媒とメタンとの接触効率が良くなり、よりいっそう高品質なカーボンナノチューブを効率よく、多量に合成することが可能となる。触媒のかさ密度が0.30g/mL未満では、触媒を取り扱いづらいといった問題点がある。またかさ密度が小さすぎると、メタンと接触させる際に、縦型反応器中で触媒が大きく舞い上がり、触媒が反応器の均熱帯を外れることがあり、高品質なカーボンナノチューブを得ることが困難になる。また触媒のかさ密度が2.00g/mLを超えると、触媒とメタンとが均一に効率よく接触することが困難になり、やはり高品質なカーボンナノチューブを得ることが困難になる。触媒のかさ密度が大きすぎる場合、縦型反応器に触媒を設置した際、触媒が密に詰まってしまうためメタンと均一に接触ができず、高品質なカーボンナノチューブを生成することが困難になる。触媒のかさ密度が上記の範囲であると、メタンと触媒金属との接触効率が上がるため、均一で高品質なカーボンナノチューブを効率よく、かつ、多量に製造することが可能となる。また、触媒のかさ密度が大きすぎる場合、流動床中で触媒が動きにくいために、メタンは、触媒層の最も通りやすい箇所だけを通ってしまうという、いわゆるショートパスの問題が生じる。触媒のかさ密度が上記の範囲であると、触媒が動くことによって、固定されたショートパスができにくい。よって触媒のかさ密度は0.30g/mL以上、2.00g/mL以下である。触媒のかさ密度は、より好ましくは0.40g/mL以上、1.70g/mL以下であり、さらに好ましくは0.50g/mL以上、1.50g/mL以下である。
【0034】
かさ密度とは単位かさ体積あたりの粉体質量のことである。以下にかさ密度の測定方法を示す。粉体のかさ密度は、測定時の温度、湿度に影響されることがある。ここで言うかさ密度は、温度20±10℃、湿度60±10%で測定したときの値である。50mLメスシリンダーを測定容器として用い、メスシリンダーの底を軽く叩きながら、予め定めた容積を占めるように粉末を加える。かさ密度の測定に際しては10mL以上の粉末を加えることが好ましい。その後、メスシリンダーの底を床面1cmの高さから落とすことを20回繰り返した後、目視にて粉末が占める容積値の変化率が±0.2mL以内であることを確認し、詰める操作を終了する。もし容積値に目視にて±0.2mL以上の変化があれば、メスシリンダーの底を軽く叩きながら粉末を追加し、再度メスシリンダーの底を床面1cmの高さから落とすことを20回繰り返し、目視にて粉末が占める容積値に±0.2mL以上の変化がないことを確認して操作を終了する。上記の方法で詰めた一定量の粉末の重量を求めることを3回繰り返し、その平均重量を粉末が占める容積で割った値(=重量(g)/体積(mL))を粉末のかさ密度とする。測定に供するカーボンナノチューブ製造用触媒は、20g±5gとする。なお、カーボンナノチューブ製造用触媒の量が前記量に満たない場合は、評価可能な量で測定するものとする。
【0035】
触媒のかさ密度が影響するのは、触媒を加熱温度下にメタンと接触させるときである。このとき触媒の状態は、触媒調製時(反応前)と比較してどのように変化しているか、詳細は不明である。しかし、反応前後で触媒のかさ密度は大きく変化しない。そのため、触媒調製時(反応前)の触媒かさ密度を上記範囲にすることで、高品質なカーボンナノチューブを得ることができる。
【0036】
メタンと触媒の接触時間は8.0×10−2g・min/mL以上、1.0×10g・min/mL以下であることが好ましい。ここで接触時間とは反応中に供した触媒量(g)をメタンの流速(mL/min)で除した値である。縦型反応器の特徴でもあるが、原料ガスとの接触効率が高いために、横型反応器と比較して、原料ガスが同量でも一度に多くの触媒量を反応させることが可能である。このため接触時間は長くなる。しかしながら接触時間が長すぎると副反応が起こり、アモルファスカーボンが増える傾向にあるので、1.0×10g・min/mL以下が好ましい。また接触時間が短いとCNTの製造効率が悪くなり、収量が大きく減少する。このため、8.0×10−2g・min/mL以上が好ましい。
【0037】
上記のような製造工程によって製造されたカーボンナノチューブ集合体は、2層カーボンナノチューブ以外に、単層カーボンナノチューブやアモルファスカーボンなどの不純物も含んでいる。本発明のカーボンナノチューブ集合体の製造においては、以上のように生成したカーボンナノチューブ集合体に対して気相酸化を行うことが好ましい。カーボンナノチューブ集合体の気相酸化は、焼成処理する方法により行われる。このような気相酸化を行うことで、生成物中のアモルファスカーボンなどの不純物および耐熱性の低い単層CNTを選択的に除去することが可能となり、2層カーボンナノチューブの純度を向上することができる。
【0038】
気相酸化として焼成処理を行う場合、酸化温度は雰囲気ガスに影響されるため、酸素濃度が高い場合には比較的低温で、酸素濃度が低い場合には比較的高温で焼成処理することが好ましい。大気下で焼成処理を行う場合は、カーボンナノチューブ集合体の燃焼ピーク温度±50℃の範囲内で焼成処理をすることが好ましい。燃焼ピーク−50℃未満で焼成処理を行っても、不純物や単層カーボンナノチューブは除去されにくく、2層カーボンナノチューブの純度を向上することは困難であると考えられる。また燃焼ピーク温度+50℃超で焼成処理を行うと、2層カーボンナノチューブまで消失してしまう。よってカーボンナノチューブ集合体の燃焼ピーク温度付近で焼成するのが好ましい。さらに好ましくは燃焼ピーク温度±30℃の範囲である。大気下で焼成処理を行う場合は、焼成処理の温度は、300〜900℃の範囲で選択することが好ましく、400〜600℃がより好ましい。酸素濃度が大気よりも高い場合はこれよりも低目の温度範囲、酸素濃度が大気よりも低い場合には高めの温度範囲を選択する。
【0039】
カーボンナノチューブ集合体の燃焼ピーク温度は、示差熱分析装置により熱分析することで測定が可能である。約1mgの試料を示差熱分析装置(例えば島津製作所製 DTG−60)に設置し、空気中、10℃/分の昇温速度にて室温から900℃まで昇温する。その時、試料の燃焼時の発熱ピーク温度を求めることが可能である。
【0040】
焼成温度が低いときは焼成処理時間を長く、焼成温度が高いときは焼成時間を短くするなどして、反応条件を調整することができる。よって焼成処理時間は本発明のカーボンナノチューブが得られる限り特に限定されない。焼成処理時間は、5分から24時間が好ましく、より好ましくは10分から12時間、さらに好ましくは30分から5時間である。焼成は大気下で行うことが好ましいが、酸素濃度を調節した酸素/不活性ガス下で行っても良い。このときの酸素濃度は特に限定されない。酸素0.1%〜100%の範囲で適宜設定して良い。また不活性ガスはヘリウム、窒素、アルゴン等が用いられる。
【0041】
また、酸化処理は、酸素または酸素を含む混合気体を間欠的にカーボンナノチューブに接触させて焼成処理を行なう方法によっても行なうことができる。酸素または酸素を含む混合気体を間欠的に接触させて焼成処理する場合は、比較的高温で処理が可能である。これは間欠的に酸素または酸素を含む混合気体を流すために、酸化が起きても、酸素を消費した時点ですぐに反応が停止するからである。大気と同等濃度の酸素下で焼成処理を行う場合は、温度範囲は、400〜1200℃程度が好ましく、450〜950℃程度がより好ましい。前述のようにカーボンナノチューブの製造時には、温度が500〜1200℃程度になる。したがって、カーボンナノチューブの製造後、すぐに焼成処理をする場合は、このような間欠的焼成処理を行うことが好ましい。
【0042】
上記の様な気相酸化を実施するが、気相酸化後のカーボンナノチューブ集合体の測定波長532nmにおけるラマンG/D比が30以上になるまで気相酸化することが好ましい。ラマンG/D比とはカーボンナノチューブ集合体をラマン分光分析法により評価した時の値である。ラマン分光分析法で使用するレーザー波長は532nmとする。ラマン分光分析法により得られるラマンスペクトルにおいて1590cm-1付近に見られるラマンシフトは、グラファイト由来のGバンドと呼ばれ、1350cm-1付近に見られるラマンシフトはアモルファスカーボンやグラファイトの欠陥に由来のDバンドと呼ばれる。このGバンド、Dバンドの高さ比、G/D比が高いカーボンナノチューブほど、グラファイト化度が高く、高品質であることを示している。本発明の製造方法によれば、上記焼成により、ラマンG/D比が向上するが、焼成はラマン分光分析測定したときに、532nmの波長においてG/D比が30以上になるまで気相酸化することが好ましい。G/D比が30以上とは相当な高品質カーボンナノチューブ集合体であることを示している。通常のカーボンナノチューブ集合体の製造方法では、このように気相酸化によりラマンG/D比を30以上まで高めることは困難であったが、上述の製造方法により生成するカーボンナノチューブ集合体は高品質であるために、気相酸化しても欠陥が生成ことなく、アモルファスカーボン等の副生物を除去することが可能であるため、このようにラマンG/D比を30以上に向上させることが可能である。
【0043】
本第2発明は以下の特徴を有するカーボンナノチューブ集合体である。
(1)体積抵抗率が1×10−4Ω・cm以上、1×10−2Ω・cm以下。
(2)カーボンナノチューブ集合体の50%以上が2層カーボンナノチューブ。
(3)カーボンナノチューブ集合体の測定波長532nmにおけるラマンG/D比が30以上、200以下。
(4)燃焼ピーク温度が550℃以上、700℃以下。
【0044】
本発明においてカーボンナノチューブ集合体とは、複数のカーボンナノチューブが存在している総体(集合体)を意味し、存在形態は特に限定されず、それぞれが独立で、あるいは束状、絡まり合うなどの形態あるいはこれらの混合形態で存在していてもよい。また、種々の層数、直径のものが含まれていてもよい。また、分散液や他の成分を配合した組成物中、あるいは他の成分と複合した複合体中に含まれる場合でも複数のカーボンナノチューブが含まれていればこれら複数のカーボンナノチューブについて、カーボンナノチューブ集合体が含まれていると解する。また、カーボンナノチューブ製造法由来の不純物(例えば触媒)を含み得るが、実質的には炭素で構成されたものを示す。
【0045】
本第2発明において、上記のカーボンナノチューブ集合体は体積抵抗率が1×10−4Ω・cm以上、1×10−2Ω・cm以下であるが、この体積抵抗率は以下のようにカーボンナノチューブ膜を作製し、その膜の表面抵抗値を4端子法によって測定後、表面抵抗値とカーボンナノチューブ膜の膜厚を掛けることによって算出することができる。表面抵抗値はJISK7149準処の4端子4探針法を用い、例えばロレスタEP MCP−T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)にて測定することが可能である。高抵抗測定の際は、ハイレスターUP MCP−HT450(ダイアインスツルメンツ製、10V、10秒)を用いて測定することが可能である。
【0046】
カーボンナノチューブ20mgをN-メチルピロリドン16mLと混合し、超音波ホモジナイザー、出力20Wで超音波を20分照射した後、エタノール10mLと混合し、内径35mmφのろ過器を使用することによってろ取物を得るが、この時点でろ取物を採取するのではなく、このろ取物をろ過器とろ取に用いたフィルターごと60℃で2時間乾燥することによって作製することが出来る。作製したカーボンナノチューブ膜はピンセットなどでろ紙から剥離して測ることもできるし、剥離出来ないときはフィルターとカーボンナノチューブ膜を併せた全体の厚みを測定後、フィルターのみの厚みを全体から差し引いて算出しても良い。ろ過に使用するろ過用のフィルターはメンブレンフィルター(OMINIPOREMEMBRANE FILTERS、FILTER TYPE: 1.0μm JA、47mmφ)を使用することができる。また、フィルターの口径はろ液が通過するのであれば1.0μm以下であっても構わないが、NMPおよびエタノールに溶解しない材質である必要があり、好ましくはフッ素樹脂(PTFE)製のフィルターを使用するのが好ましい。
【0047】
カーボンナノチューブの形態は、高分解能透過型電子顕微鏡で調べることができる。グラファイトの層は、透過型電子顕微鏡でまっすぐにはっきりと見えるほど好ましいが、グラファイト層は乱れていても構わない。
【0048】
本発明の透過型電子顕微鏡で観測した時に50%以上が2層カーボンナノチューブであるが、この含有量はカーボンナノチューブ集合体中に含まれる任意のカーボンナノチューブ100本中の2層カーボンナノチューブの本数で評価する。
【0049】
上記任意のカーボンナノチューブの層数と本数の数え方は、透過型電子顕微鏡で40万倍で観察し、75nm四方の視野の中で視野面積の10%以上がカーボンナノチューブである視野中から任意に抽出した100本のカーボンナノチューブについて層数を評価する。一つの視野中で100本の測定ができない場合は、100本になるまで複数の視野から測定する。このとき、カーボンナノチューブ1本とは視野中で一部カーボンナノチューブが見えていれば1本と計上し、必ずしも両端が見えている必要はない。また視野中で2本と認識されても視野外でつながって1本となっていることもあり得るが、その場合は2本と計上する。
【0050】
通常カーボンナノチューブは層数が少ないほどグラファイト化度が高い、つまり導電性が高く、層数が増えるほどグラファイト化度が低下する傾向がある。2層カーボンナノチューブは層数が単層カーボンナノチューブよりも多いため、耐久性が高く、高いグラファイト化度も併せ持つため、耐久性が高く高導電性のカーボンナノチューブ集合体という点で2層カーボンナノチューブの割合は多いほど好ましく、本発明では上記方法で測定したときのカーボンナノチューブの割合は50%以上、つまり100本中50本以上であることが必要であり、100本中60本以上が2層カーボンナノチューブであることがより好ましく、100本中70本以上が2層カーボンナノチューブであることが更に好ましい。
【0051】
ラマンG/D比は上述したとおり、カーボンナノチューブ集合体の品質を評価することが可能である。ここでラマンG/D比を評価するときは、波長532nmを用いる。G/D比は高いほど良いが、30以上であれば高品質カーボンナノチューブ集合体と言うことができる。G/D比は、好ましくは40以上、200以下であり、さらに好ましくは50以上、150以下である。またカーボンナノチューブ集合体のような固体のラマン分光分析法は、サンプリングによってばらつくことがある。そこで少なくとも3カ所、別の場所をラマン分光分析し、その相加平均をとるものとする。
【0052】
本発明のカーボンナノチューブ集合体の燃焼ピーク温度は550℃以上、700℃以下であることが必要である。好ましくは560℃以上、650℃以下である。ここでいう燃焼ピーク温度は、示差熱分析装置にて測定されるものである。示差熱分析装置としては、例えば島津製作所製 TGA−60などを用いることができる。示差熱分析装置にサンプルおよびリファレンスとしてα―アルミナを白金皿に約1〜10mgずつ、それぞれ秤量、設置し、空気中、10℃/分の昇温速度にて室温から900℃まで昇温することでサンプルの燃焼ピーク温度を測定することができる。燃焼ピーク温度は、カーボンナノチューブの品質、直径およびバンドルの太さと相関があると考えられる。すなわち、燃焼は酸素分子の攻撃による酸化反応と考えられるので、カーボンナノチューブのグラファイト化度が低いと、あるいはカーボンナノチューブを構成するグラフェンシートに欠陥が多いと、酸素分子の攻撃を受けやすくなるため、燃焼ピークが低くなる。直径の太いカーボンナノチューブは、通常そのグラファイト化度が低くなる傾向があるため、燃焼ピークが低くなる。
【0053】
また、直径の細いカーボンナノチューブは、通常バンドルを形成している。1本1本は同じカーボンナノチューブであったとしても、そのバンドルが太いとバンドルの内側のカーボンナノチューブは酸素の攻撃を受けにくいために、カーボンナノチューブ集合体の燃焼ピーク温度は上昇する。逆にバンドルが細くなると、バンドルの内側のカーボンナノチューブも容易に酸素の攻撃を受けやすくなるために、カーボンナノチューブ集合体の燃焼ピーク温度が低下する。
【0054】
したがって、燃焼ピーク温度が700℃より高いカーボンナノチューブ集合体は、品質は高く、直径は細いものの、バンドルが太すぎて、バンドルの乖離が非常に困難となり、溶媒や樹脂への分散が困難となる。燃焼ピーク温度が550℃より低いカーボンナノチューブ集合体は、品質が悪い、つまりグラファイト化度が低いために、種々の用途に展開したときに特性が向上しない。以上の点から燃焼ピーク温度は550℃以上、700℃以下であり、560〜650℃であることが品質および分散性の点で好ましい。
【0055】
本発明においてカーボンナノチューブ集合体中の3層以上のCNTが10%以下であることが好ましい。一般にカーボンナノチューブ層数が多くなるほど、耐熱性があがる。従って層数の少ない、特に2層カーボンナノチューブを得ようとする場合、耐熱性が低い単層カーボンナノチューブやアモルファスカーボンとは、後に記載する気相酸化法により、選択的に酸化することが可能であり、2層カーボンナノチューブの純度を向上することができる。しかし、カーボンナノチューブ集合体中に3層カーボンナノチューブが多量に含まれると、それを2層カーボンナノチューブから選択的に除去することは困難となる。また3層カーボンナノチューブ以上の多層カーボンナノチューブが多く含まれるカーボンナノチューブ集合体は電気伝導性等の特性が大きく低下する。よって3層カーボンナノチューブ以上の多層カーボンナノチューブは10%以下が好ましい。さらに好ましくは8%以下である。この場合の3層以上のカーボンナノチューブの含有量も同様に任意の100本中の本数で評価する。
【0056】
本発明のカーボンナノチューブ集合体の炭素原子に対する酸素原子の割合は、X線光電子分光法(XPS)の表面組成解析を用いることで評価できる。例えば、励起X線:Monochromatic AlKα1,2線、X線径:1000μm、光電子脱出角度:90°(試料表面に対する検出器の傾き)の条件を用いて測定が可能である。本発明における炭素原子に対する酸素原子の割合が4%未満であることとは、このX線光電子分光法(XPS)の表面組成解析による結果であり、炭素原子に対する官能基としての酸素原子の割合が4%(atomic%)未満であることを示しており、高品質なカーボンナノチューブであることを示している。ここでいう酸素原子が多いということは酸素原子含有官能基化(C=OやC−O等)の割合が多いと言うことであり、カーボンナノチューブのグラファイト構造に欠陥が導入されたことを示している。逆に炭素原子に対する酸素原子の割合が少ない(4%未満)ということはカーボンナノチューブに導入されている酸素原子含有官能基化(C=OやC−O等)の割合が少ないことを示している。炭素原子に対する官能基としての酸素原子の割合が3%(atomic%)以下であることが、さらに好ましい。
【0057】
本発明のカーボンナノチューブ集合体は10℃/minで昇温した時の熱重量測定での200℃から400℃の重量減少が5%以下であることが好ましい。本発明における10℃/分で昇温した時の熱重量測定(Thermogravimetry)での200℃から400℃の重量減少量は、カーボンナノチューブ集合体を大気下、熱分析することで測定が可能である。熱分析するとは、約1mgの試料を示差熱分析装置(例えば島津製作所製 TGA-60)に設置し、空気中、10℃/分の昇温速度にて室温から900℃まで昇温する。その時の200℃から400℃の間での重量減少量と200℃から900℃までの重量減少量を測定し、200℃から900℃までの重量減少量に対する200℃から400℃の間での重量減少量の割合を算出した値のことである。
【0058】
一般に、アモルファスカーボンなどのカーボンナノチューブ以外の炭素不純物は400℃以下で分解するため、アモルファスカーボンなどのカーボンナノチューブ以外の炭素不純物を含むカーボンナノチューブ集合体の熱重量測定をおこなうと、200℃から400℃の間での重量減少が観測され、炭素不純物が多いほど200℃から400℃での重量減少量は多くなる。通常、炭素不純物の量が多いほどカーボンナノチューブ集合体としての特性は低下する。
【0059】
本発明のカーボンナノチューブを用いることにより、非常に導電性の高いカーボンナノチューブ成形体を製造することができ、好適には非常に導電性の高い強度的にも優れたカーボンナノチューブ成形体を製造することが出来る。
【0060】
本発明のカーボンナノチューブ集合体からなるカーボンナノチューブ成形体とは、本発明のカーボンナノチューブ集合体が成形、加工により、賦形された状態にあるもののカーボンナノチューブ集合体すべてのことをいう。また、成形、加工とはカーボンナノチューブ集合体の形状が変わる操作や工程を経過するすべての操作を示す。カーボンナノチューブ成形体の例としてはカーボンナノチューブ集合体からなる糸、チップ、ペレット、シート、ブロック等があげられ、これらを組み合わせる、または更に成形、加工を施した結果物もカーボンナノチューブ成形体とする。
【0061】
カーボンナノチューブの成形方法は特に限定されないが、例えば、溶媒中にカーボンナノチューブを分散し、分散液をろ過、乾燥することにより、カーボンナノチューブのシートを作製することができる。またカーボンナノチューブ分散体を凝固浴に細い口金から糸状に含浸することにより、カーボンナノチューブ集合体の糸として成形することも可能である。
【0062】
本発明のカーボンナノチューブ集合体はカーボンナノチューブ以外の物質に混合または分散させることによって非常に導電性の高い、または強度に優れた、または熱伝導性に優れた、または導電性が高く強度に優れた組成物とすることができる。ここでいうカーボンナノチューブ以外の物質とは、例えば樹脂、金属、ガラス、有機溶剤、水などのことであり、接着剤やセメント、石膏、セラミックスのようなものでもよい。本発明におけるカーボンナノチューブ集合体を含む組成物とはこれらの物質にカーボンナノチューブ集合体が混合または分散されている状態の物質全てをいう。ここでいう分散とは、カーボンナノチューブ集合体中のカーボンナノチューブが一本ずつほぐれている状態でも、バンドルを組んだ状態でも1本から様々な太さのバンドルが混ざっていても上記物質中に均一に散らばっていれば、カーボンナノチューブが分散していると表現する。また、ここでいう混合されている状態とは、カーボンナノチューブ集合体が上記物質に不均一に散らばっている状態や、単に、固体状のカーボンナノチューブ集合体と固体状態の上記物質を混ぜ合わせただけの状態も含まれる。
【0063】
上記組成物における各成分の配合割合は、以下のとおりである。
【0064】
すなわち、カーボンナノチューブ集合体を含有する組成物は、液中、カーボンナノチューブを0.01重量%以上含有していることが好ましく、0.1重量%以上含有していることがより好ましい。上限としては、通常20重量%以下であることが好ましい。20重量%以上であると取扱いが困難になったりする。より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下の濃度で含有していることである。
【0065】
上記カーボンナノチューブ以外の物質のうち樹脂としては、本発明のカーボンナノチューブ集合体を混合または分散できれば特に制限はなく、樹脂であれば天然樹脂であっても合成樹脂であっても特に制限無く使用することができる。また、合成樹脂としては熱硬化性、熱可塑性に関わらず好適に使用できる。
【0066】
熱可塑性樹脂である場合は、得られた成形体の衝撃強度に優れ、かつ成形効率の高いプレス成形や射出成形が可能であるため好ましいものである。
【0067】
熱硬化性樹脂としては特に限定されないが、例えば不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、シアネートエステル樹脂、ベンゾオキサジン樹脂、フェノール(レゾール型)樹脂、ユリア・メラミン樹脂、熱硬化性ポリイミド等や、これらの共重合体、変性体、および、2種類以上ブレンドした樹脂などを使用することができる。また、更に耐衝撃性向上のために、上記熱硬化性樹脂にエラストマー、合成ゴム、天然ゴムもしくはシリコーン等の柔軟成分を添加した樹脂であってもよし、合成ゴム、天然ゴムもしくはシリコーン等のエラストマーだけでもよい。
【0068】
熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えば、液晶ポリエステル、非液晶ポリエステル等のポリエステル樹脂や、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン等のポリオレフィンや、スチレン系樹脂の他、ポリオキシメチレン、ポリアミド、ポリカーボネート樹脂、ポリメチレンメタクリレート、ポリ塩化ビニル、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリアリレート、ポリエーテルニトリル、フェノール(ノボラック型など)樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂、更にポリスチレン系、ポリオレフィン系、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリブタジエン系、ポリイソプレン系、フッ素系等の熱可塑エラストマー、これらの共重合体、変性体、およびこれらの樹脂を2種類以上ブレンドした樹脂などであってもよい。また、更に耐衝撃性向上のために、上記熱可塑性樹脂にその他のエラストマー、合成ゴム、天然ゴムもしくはシリコーン等の柔軟成分を添加した樹脂であってもよい。
【0069】
ここで、スチレン系樹脂とは、スチレンおよび/またはその誘導体(総称して芳香族ビニル系単量体と称する場合がある)から生成した単位を含有する樹脂のことである。たとえば芳香族ビニル系単量体の1種または2種以上を重合した重合体、芳香族ビニル系単量体の1種または2種以上とそれと共重合可能な単量体の1種または2種以上を共重合した共重合体などが挙げられる。また、ゴム強化したスチレン系樹脂も好ましく用いられる。ゴム質重合体と芳香族ビニル系単量体との反応形態としては、芳香族ビニル系単量体を含有する(共)重合体がゴム質重合体に一部グラフトした構造をとるものと、非グラフト構造をとるものとの2種類の形態が挙げられる。スチレン系樹脂としては、PS(ポリスチレン)、HIPS(高衝撃ポリスチレン)、AS樹脂、AES樹脂、ABS樹脂、MBS(メタクリル酸メチル/ブタジエン/スチレン共重合体)(“/”は共重合を意味する)樹脂、ASA(アクリロニトリル/スチレン/アクリルゴム共重合体)樹脂などが挙げられる。
【0070】
ポリカーボネート樹脂としては特に限定されないが、たとえば芳香族二価フェノール系化合物とホスゲンまたは炭酸ジエステルとを反応させることにより得られる粘度平均分子量が10000〜1000000の範囲内の芳香族ホモまたはコポリカーボネート樹脂が挙げられる。
【0071】
ポリアミド樹脂としては特に限定されないが、例えばナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、ナイロン610、ナイロン612、ナイロン9T(Tはテレフタル酸)、ナイロン66/6、ナイロン66/6T、ナイロン66/6I(Iはイソフタル酸)、ナイロン6/6T、ナイロン6/6T、ナイロン12/6T、ナイロン6T/6I、ナイロン66/6T/6I、ナイロン66/6/6T、ナイロン66/6/6I、ナイロン6T/M5T(M5はメチルペンタジアミン)、ポリメタキシリレンアジパミド、およびこれらの共重合体ないし混合物などを好ましく使用することができる。また、これらの誘導体も使用可能である。
【0072】
ポリエステル樹脂としては特に限定されないが、例えばジカルボン酸とグリコールとの重縮合物、環状ラクトンの開環重合物、ヒドロキシカルボン酸の重縮合物、二塩基酸とグリコールとの重縮合物などが挙げられ、具体的には、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリプロピレンテレフタレート樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリブチレンナフタレート樹脂、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート樹脂およびポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4'−ジカルボキシレート樹脂などのほか、ポリエチレン−1,2−ビス(フェノキシ)エタン−4,4'−ジカルボキシレート樹脂、ポリエチレンイソフタレート/テレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート樹脂、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート/イソフタレート樹脂等の共重合体や混合物を挙げることができる。また、これらの誘導体も挙げることができる。
【0073】
本発明のカーボンナノチューブ含有樹脂組成物に高い難燃性または高い成形性を付与する場合には、樹脂としてフェノール系樹脂などを用いることもできる。かかるフェノール系樹脂とは、少なくともフェノール性水酸基を有する成分を単独もしくは共重合されたものを指し、例えば各種フェノール樹脂(フェノールノボラック、クレゾールノボラック、オクチルフェノール、フェニルフェノール、ナフトールノボラック、フェノールアラルキル、ナフトールアラルキル、フェノールレゾールなど)や変性フェノール樹脂(アルキルベンゼン変性(特にキシレン変性)、カシュー変性、テルペン変性など)などを挙げることができる。
【0074】
その他、ポリビニルアルコールに代表されるポリアルコール系樹脂、ポリ酢酸ビニルに代表されるポリカルボン酸系樹脂、ポリアクリル酸エステルの様なアクリル樹脂や、ポリアクリロニトリルの様な樹脂も挙げられる。
【0075】
また、アクリル系、シリコーン系、酢酸ビニル樹脂、ビニルエーテル樹脂等のビニル系などの接着剤、粘着剤も挙げることができる。
【0076】
金属としては、本発明のカーボンナノチューブ集合体を混合または分散できれば特に制限はなく、アルミニウム、銅、銀、金、鉄、ニッケル、亜鉛、鉛、スズ、コバルト、クロム、チタン、タングステンなどがあげられ、これらを単独または複合して使用できる。ガラスとしては本発明のカーボンナノチューブ集合体を混合または分散できれば特に制限はなく、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ほう酸ガラスなどが挙げられる。
【0077】
有機溶剤としては本発明のカーボンナノチューブ集合体を混合または分散できれば特に制限はなく、アルコール、芳香族化合物、脂肪族化合物、グリコール化合物、アミド化合物、エステル化合物、エーテル化合物など種々の有機化合物が使用可能で、一般に有機合成などで使用される有機溶剤なども挙げることができ、これらの化合物は単一で用いても混合して用いても構わない。アルコールとしてはメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノールなどを挙げることができ、これらの異性体、誘導体なども挙げることができる。芳香族化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、フェノール、ピリジン、チオフェン、フランなどを挙げることができ、これらの異性体、誘導体なども挙げることができる。脂肪族化合物としては、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカンなどを挙げることができ、これらの異性体、誘導体なども挙げることができる。グリコール化合物としてはエチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどを挙げることができ、これらの異性体、誘導体なども挙げることができる。アミド化合物としてはジメチルホルムアミド、エチルメチルホルムアミド、ジメチルアセチルアミドなどを挙げることができ、これらの異性体、誘導体なども挙げることができる。エステル化合物としてはギ酸エステル(ギ酸メチル、ギ酸エチルなど)、酢酸エステル(酢酸エチル、酢酸メチルなど)、酪酸エステル(酪酸メチル、酪酸エチルなど)などを挙げることができ、これらの異性体、誘導体なども挙げることができる。エーテル化合物としてはジエチルエーテル、エチルメチルエーテル、テトラヒドロフランなどを挙げることができ、これらの異性体、誘導体なども挙げることができる。その他、一般に有機合成などで使用される有機溶剤としてクロロホルムやジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、超臨界二酸化炭素、二硫化炭素などが挙げられる。
【0078】
ここで、カーボンナノチューブ組成物からなる成形体とは、上記カーボンナノチューブ組成物の中でも、固形状のものについては圧縮、裁断、粉砕、伸張、穿穴などの操作によって成形、加工されたものや、溶融後特定の形で再び固形状にしたもののことである。
【0079】
また、本発明において液状の分散媒にカーボンナノチューブ集合体が分散しているカーボンナノチューブ組成物とは、上記カーボンナノチューブ以外の物質として液状物を含むカーボンナノチューブ組成物のことである。
【0080】
上記のように本発明のカーボンナノチューブ集合体は液状の分散媒に分散させてなるカーボンナノチューブ分散液とすることができるが、界面活性剤、導電性高分子もしくは非道電成功分子の各種高分子材料等の添加剤を含有させるのも好ましい。なぜなら、上記界面活性剤やある種の高分子材料は、カーボンナノチューブの分散能や分散安定化能等を向上させるのに役立からである。
【0081】
界面活性剤としては、イオン性界面活性剤のものと非イオン性界面活性剤のものに分けられるが、本発明ではいずれの界面活性剤を用いることも可能である。イオン性界面活性剤としては、例えば以下のような界面活性剤があげられる。かかる界面活性剤は単独でもしくは2種以上を混合して用いることができる。
【0082】
イオン性界面活性剤は、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤および陰イオン性界面活性剤にわけられる。陽イオン性界面活性剤としては、アルキルアミン塩、第四級アンモニウム塩などがあげられる。両イオン性界面活性剤としては、アルキルベタイン系界面活性剤、アミンオキサイド系界面活性剤がある。陰イオン性界面活性剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族スルホン酸系界面活性剤、モノソープ系アニオン性界面活性剤、エーテルサルフェート系界面活性剤、フォスフェート系界面活性剤、カルボン酸系界面活性剤であり、中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香環を含むもの、すなわち芳香族系イオン性界面活性剤が好ましく、特にアルキルベンゼンスルホン酸塩、ドデシルフェニルエーテルスルホン酸塩等の芳香族系イオン性界面活性剤が好ましい。
【0083】
非イオン性界面活性剤としては、例えば以下のような界面活性剤をあげられる。かかる界面活性剤は単独でもしくは2種以上を混合して用いることができる。
【0084】
非イオン性界面活性剤の例としては、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルなどの糖エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレン樹脂酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエチルなどの脂肪酸エステル系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン・ポリプロピレングリコールなどのエーテル系界面活性剤、ポリオキシアルキレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルジブチルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルスチリルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルベンジルフェニルエーテル、ポリオキシアルキルビスフェニルエーテル、ポリオキシアルキルクミルフェニルエーテル等の芳香族系非イオン性界面活性剤があげられる。中でも、分散能、分散安定能、高濃度化に優れることから、芳香族系非イオン性界面活性剤が好ましく、中でもポリオキシエチレンフェニルエーテルが好ましい。
【0085】
界面活性剤以外にも導電性高分子もしくは非導電性高分子の各種高分子材料もカーボンナノチューブの他に添加ができる剤として用いることができる。例えば、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸アンモニウム塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウム塩等の水溶性ポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(Na−CMC)、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アミロース、シクロアミロース、キトサン等の糖類ポリマー等がある。またポリチオフェン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリイソチアナフテン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン等の導電性ポリマーおよびそれらの誘導体も使用できる。なかでも、導電性ポリマーおよびそれらの誘導体を使用することによりカーボンナノチューブの導電特性を効率的に発揮することができ好ましい。
【0086】
本発明で用いる分散液の製造方法には特に制限はなく、例えばカーボンナノチューブ集合体と添加剤、分散媒を塗装製造に慣用の混合分散機(例えばボールミル、ビーズミル、サンドミル、ロールミル、ホモジナイザー、アトライター、デゾルバー、ペイントシェーカー等)を用いて混合し、分散液を製造することができる。
【0087】
本発明において、特に優れた導電性や、透明電極の導電層に利用する場合は、上記カーボンナノチューブ分散液は、塗布前に遠心分離、フィルター濾過によってサイズ分画することが好ましい。例えば、分散液を遠心分離することによって、未分散のカーボンナノチューブや、過剰量の添加剤、カーボンナノチューブ合成時に混入する可能性のある触媒などは沈殿するので、遠心上清を回収すれば液中に分散しているカーボンナノチューブを液の形で採取することができる。未分散のカーボンナノチューブおよび、不純物などは沈殿物として除去することができ、それによって、カーボンナノチューブの再凝集を防止でき、分散液の安定性を向上することができる。さらに、強力な遠心力においては、カーボンナノチューブの太さや長さによって分離することができ、フィルムの光透過率を向上させることができる。
【0088】
遠心分離する際の遠心力は、100G以上の遠心力であればよく、好ましくは、1000G以上、より好ましくは10,000G以上である。上限としては特に制限はないが、汎用超遠心機の性能より200,000G以下であることが好ましい。
【0089】
また、フィルター濾過に用いるフィルターは、0.05μmから0.2μmの間で適宜選択することができる。それにより、未分散のカーボンナノチューブや、カーボンナノチューブ合成時に混入する可能性のある不純物等のうち比較的サイズの大きいものを除去することができる。
【0090】
このようにサイズ分画する場合においては、この分画される量を見越して、サイズ分画後の組成が上記範囲となるように調製する。サイズ分画前の配合割合の決定は、遠心分離後の沈殿物やフィルター上に残った分画物を乾燥させた後、400℃で1時間焼成した後秤量し、濃度を算出する方法により行われる。このようなサイズ分画の結果、カーボンナノチューブの長さや、層数、その他性状等バンドル構造の有無などでカーボンナノチューブを分離することができる。
【0091】
本発明において、カーボンナノチューブ組成物を用いて導電層を形成する方法は、前記カーボンナノチューブ分散液を使用することによって形成可能であるが、導電層を形成することができればその方法は特に制限はなく、カーボンナノチューブ分散液を公知の塗布方法、例えば吹き付け塗装、浸漬コーティング、スピンコーティング、ナイフコーティング、キスコーティング、グラビアコーティング、スクリーン印刷、インクジェット印刷、パット印刷、他の種類の印刷、またはロールコーティングなどが利用できる。最も好ましい塗布方法は、ロールコーティングである。また塗布は、何回行ってもよく、異なる2種類の塗布方法を組み合わせても良い。分散液の分散媒が揮発性の場合は風乾、加熱、減圧などの方法により不要な分散媒を除去することができる。それによりカーボンナノチューブは、3次元編目構造を形成し基材に固定化される。その後、液中の成分である界面活性剤、導電性高分子もしくは非導電性高分子の各種高分子材料等の添加剤を適当な溶媒を用いて除去するのも好ましい。この操作により、電荷の分散が容易になり導電層の導電性が向上する。
【0092】
上記界面活性剤、導電性高分子もしくは非導電性高分子の各種高分子材料等の添加剤を除去するための溶媒としては界面活性剤、導電性高分子もしくは非導電性高分子の各種高分子材料等の添加剤を溶解するものであれば特に制限はなく、水性溶媒でも非水性溶媒でもよい。具体的には水性溶媒であれば、水やアルコール類が挙げられ、非水性溶媒であれば、クロロホルム、アセトニトリルなどがあげられる。
【0093】
導電層の導電性を向上させたい場合は、カーボンナノチューブ組成物中のカーボンナノチューブ量を増やすことも可能である。また、少ないカーボンナノチューブ量でより導電性を向上させたい場合は、カーボンナノチューブ集合体中のカーボンナノチューブはカーボンナノチューブ組成物中に均一に分散し、バンドルは細いほど好ましく、バンドルがほぐれた1本だけの状態で分散していることがより好ましい。バンドルの太さの調整については、前記分散方法の分散時間や添加剤として加えた界面活性剤、導電性高分子もしくは非導電性高分子の各種高分子材料等の種類を変えることで調製が可能である。
【0094】
導電層を形成するためのカーボンナノチューブ集合体の分散媒としては水系溶媒でも良いし非水系溶媒でも良い。非水系溶媒としては、炭化水素類(トルエン、キシレン等)、塩素含有炭化水素類(メチレンクロリド、クロロホルム、クロロベンゼン等)、エーテル類(ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブ等)、エーテルアルコール(エトキシエタノール、メトキシエトキシエタノール等)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル等)、ケトン類(シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等)、アルコール類(エタノール、イソプロパノール、フェノール等)、低級カルボン酸(酢酸等)、アミン類(トリエチルアミン、トリメタノールアミン等)、窒素含有極性溶媒(N、N−ジメチルホルムアミド、ニトロメタン、N−メチルピロリドン等)、硫黄化合物類(ジメチルスルホキシド等)などを用いることができる。
【0095】
これらのなかでも透明電極の導電層を形成するための分散媒としては、水、アルコール、トルエン、アセトン、エーテルおよびそれらを組み合わせた溶媒を含有する分散媒であることが好ましい。水系溶媒が必要である場合、および後述するようにバインダーを用いる場合であって、そのバインダーが無機ポリマー系バインダーの場合には、水、アルコール類、アミン類などの極性溶媒が使用される。また、後述するようにバインダーとして常温で液状のものを用いる場合には、それを分散媒として用いることもできる。
【0096】
上記分散液における各成分の配合割合は、以下のとおりである。
【0097】
すなわち、カーボンナノチューブ集合体を含有する分散液は、液中、カーボンナノチューブを0.01重量%以上含有していることが好ましく、0.1重量%以上含有していることがより好ましい。上限としては、通常20重量%以下であることが好ましい。20重量%以上であると分散液の粘度が高くなるなどして取扱いが困難になったりする、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは2重量%以下の濃度で含有していることである。
【0098】
界面活性剤およびその他の添加剤の少なくとも1種の含有量としては、特に限定されるものではないが、好ましくは、0.1〜50重量%、より好ましくは、0.2〜30重量%である。上記添加剤の少なくとも1種とカーボンナノチューブの混合比は(添加剤/カーボンナノチューブ)としては、特に限定はないが、重量比で好ましくは0.1〜20、より好ましくは0.3〜10である。本発明の液は、カーボンナノチューブ、界面活性剤等の添加剤、分散媒以外の物質が含まれていてもかまわない。
【0099】
また本発明のカーボンナノチューブを含む分散液は、所望のカーボンナノチューブ含量よりも高濃度の分散液を作製し、溶媒で薄めて所望の濃度として使用することも可能である。溶媒としてはいかなる溶媒であってもよいが、使用目的に応じて選択される。導電性がさほど必要で無い用途は、カーボンナノチューブ濃度を薄めて使うこともあるし、最初から薄い状態で作成しても良い。
【0100】
また、本発明の分散液やそれにバインダーなどを添加した液は、透明基材だけでなく、あらゆる被塗布部材、例えば着色基材および繊維に塗布を施すための透明被覆液としても使える。その際の被塗布部材、例えば、クリーンルームなどの床材や壁材にコーティングすれば帯電防止床壁材として使用できるし、繊維に塗布すれば帯電防止衣服やマット、カーテンなどとして使用できる。
【0101】
本発明においては上記のように液を塗布してカーボンナノチューブを含む透明導電性フィルムを形成後、このフィルムを有機または無機透明被膜を形成しうるバインダー材料でオーバーコーティングすることも好ましい。オーバーコーティングすることにより、さらなる電荷の分散や、移動に効果的である。
【0102】
また、本発明の透明導電性フィルムは、液中に有機または無機透明被膜を形成しうるバインダー材料を含有させ、適当な基材に塗布後、必要により加熱して塗膜の乾燥ないし焼付(硬化)を行っても得ることができる。その際の加熱条件は、バインダー種に応じて適当に設定する。バインダーが光または放射線硬化性の場合には、加熱硬化ではなく、塗布後直ちに塗膜に光または放射線を照射することにより塗膜を硬化させる。放射線としては電子線、紫外線、X線、ガンマー線等のイオン化性放射線が使用でき、照射線量はバインダー種に応じて決定する。
【0103】
上記バインダー材料としては、導電性塗料に使用されるものであれば特に制限はなく、各種の有機および無機バインダー、すなわち透明な有機ポリマーまたはその前駆体(以下「有機ポリマー系バインダー」と称する場合もある)または無機ポリマーまたはその前駆体(以下「無機ポリマー系バインダー」と称する場合もある)が使用できる。有機ポリマー系バインダーは熱可塑性、熱硬化性、あるいは紫外線、電子線などの放射線硬化性のいずれであってもよい。適当な有機バインダーの例としては、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリアミド系(ナイロン6、ナイロン11、ナイロン66、ナイロン6、10等)、ポリエステル系(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等)、シリコン系ポリマー、ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアクリロニトリル、ポリアクリレート、ポリスチレン誘導体、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール等)、ポリケトン、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリアセタール、フッ素樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラニン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン、セルロース系ポリマー、蛋白質類(ゼラチン、カゼイン等)、キチン、ポリペプチド、多糖類、ポリヌクレオチドなど有機ポリマー、ならびこれらのポリマーの前駆体(モノマー、オリゴマー)がある。これらは単に溶剤の蒸発により、あるいは熱硬化または光もしくは放射線照射による硬化により有機ポリマー系透明被膜(もしくはマトリックス(液中に配合する場合))を形成することができる。
【0104】
有機ポリマー系バインダーとして好ましいのは、放射線もしくは光によりラジカル重合硬化可能な不飽和結合を有する化合物であり、これはビニル基ないしビニリデン基を有するモノマー、オリゴマー、あるいはポリマーである。この種のモノマーとしてはスチレン誘導体(スチレン、メチルスチレン等)、アクリル酸もしくはメタクリル酸またはそれらの誘導体(アルキルアクリートもしくはメタクリレート、アリルアクリレートもしくはメタクリレート等)、酢酸ビニル、アクリロニトリル、イタコン酸等がある。オリゴマーあるいはポリマーは、主鎖に二重結合を有する化合物または直鎖の両末端にアクリロイルもしくはメタクリロイル基を有する化合物が好ましい。この種のラジカル重合硬化性バインダーは、高硬度で耐擦過性に優れ、透明度の高い導電フィルム膜(もしくはマトリックス(液中に配合する場合))を形成することができる。
【0105】
無機ポリマー系バインダーの例としては、シリカ、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム等の金属酸化物のゾル、あるいは無機ポリマーの前駆体となる加水分解または熱分解性の有機リン化合物および有機ボロン化合物、ならびに有機シラン化合物、有機チタン化合物、有機ジルコニウム化合物、有機鉛化合物、有機アルカリ土類金属化合物などの有機金属化合物がある。加水分解性または熱分解性の有機金属化合物の具体的例は、アルコキシドまたはその部分加水分解物、酢酸塩などの低級カルボン酸塩、アセチルアセトンなどの金属錯体である。
【0106】
これらの1種もしくは2種以上の無機ポリマー系バインダーを焼成すると、酸化物または複合酸化物からなるガラス質の無機ポリマー系透明被膜(もしくはマトリックス(液中に配合する場合))を形成することができる。無機ポリマー系マトリックスは、一般にガラス質であり、高硬度で耐擦過性に優れ、透明性も高い。
【0107】
バインダーの使用量は、オーバーコートをするのに十分な量、液中に配合する場合には塗布に適した粘性を得るのに十分な量であればよい。少なすぎると塗布がうまくいかず、多すぎても導電性を阻害し良くない。
【0108】
本発明で用いる液に用いる分散媒としては、一般に前述したような溶媒を使用するが、光または放射線硬化性の有機ポリマー系バインダーの場合には、常温で液状のバインダーを選択することにより、溶剤を存在させずに100%反応系のバインダー、あるいはこれを非反応性液状樹脂成分で希釈した無溶剤の組成物とすることができる。それにより、被膜の硬化乾燥時に溶媒の蒸発が起こらず、硬化時間が大幅に短縮され、かつ溶媒回収操作が不要となる。
【0109】
本発明のカーボンナノチューブ集合体を用いてなるカーボンナノチューブ集合体を用いてなる透明導電性フィルム形成用液は上記のカーボンナノチューブと界面活性剤等の分散剤、溶媒、バインダーの他にカップリング剤、架橋剤、安定化剤、沈降防止剤、着色剤、電荷調製剤、滑剤等の添加剤を配合することができ、それらの種類、量について特に制限はない。
【0110】
また、本発明のカーボンナノチューブ集合体を用いてなる透明導電性フィルム形成用液には、別の導電性材料、無機材料、あるいはこれらの材料の組合せをさらに含むことができる。導電性有機材料としては、バッキーボール、カーボンブラック、フラーレン、多種カーボンナノチューブ、ならびにそれらを含む粒子を好ましく挙げることができる。
【0111】
無機材料としては、アルミニウム、アンチモン、ベリリウム、カドミウム、クロム、コバルト、銅、ドープ金属酸化物、鉄、金、鉛、マンガン、マグネシウム、水銀、金属酸化物、ニッケル、白金、銀、鋼、チタン、亜鉛、ならびにそれらを含む粒子があげられる。好ましくは、酸化インジウムスズ、酸化アンチモンスズ、およびそれらの混合物があげられる。これらの導電性材料を含有させて得たフィルム、あるいはオーバーコーティングして得たフィルムは電荷の分散、または移動に非常に有利である。また、これらカーボンナノチューブ以外の導電性材料を含む層とカーボンナノチューブを含む層を積層させてもよい。
【0112】
本発明のカーボンナノチューブ集合体を用いてなる透明導電性フィルムは、基材と接着させたまま使用することもできるし、基材から剥離させ自立フィルムとして用いることもできる。自立フィルムを作製するには、透明導電性フィルム上にさらに有機ポリマー系バインダーを塗布した後、基材を剥離すればよい。また、作製時の基材を熱分解により焼失あるいは溶融させ、別の基材に透明導電性フィルムを転写して用いることもできる。その際は、作製時の基材の熱分解温度<転写基材の熱分解温度であることが好ましい。
【0113】
本発明のカーボンナノチューブ集合体を用いてなる透明導電性フィルムの厚さは、中程度の厚さから非常に薄い厚さまで種々の範囲をとることができる。例えば、本発明のフィルムは約0.5nm〜約1000μmの間の厚さとしうる。好ましい実施形態ではフィルムの厚さは約0.005〜約1000μmとなりうる。別の好ましい実施形態ではフィルムの厚さは約0.05〜約500μmである。また、別の好ましい実施形態ではフィルムの厚さは約1.0〜約200μmである。さらに別の好ましい実施形態ではフィルムの厚さは約1.0〜約50μmである。
【0114】
本発明のカーボンナノチューブ集合体を用いてなる導電性フィルムは、優れた透明性を示す。導電性フィルムは基材も含め光透過率を測定するため、以下の指標を光透過率として使用する。例えば、本発明のフィルムは、550nmの光源を用いて測定したときに、透明導電性フィルムの透過率/透明基材の透過率が少なくとも約0.6である。好ましい実施形態では、約0.8以上である。別の好ましい実施形態では、0.85超である。
【0115】
導電性フィルムの導電性はフィルムの表面抵抗値を測定して評価する。表面抵抗値はJISK7149準処の4端子4探針法を用い、例えばロレスタEP MCP−T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)にて測定することが可能である。高抵抗測定の際は、ハイレスターUP MCP−HT450(ダイアインスツルメンツ製、10V、10秒)を用いて測定することが可能である。本発明の透明導電性フィルムの表面抵抗値は10Ω/□未満であることが好ましい。EMI/RFI(電磁干渉)シールド、低視認性、ポリマーエレクトロニクス(例えば、OLEDディスプレイの透明導電層、ELランプ、プラスチックチップ)など透明導電性コーティングの種々の用途に有用である。導電性を必要とする種々の用途を達成するために、本発明のフィルムの表面抵抗は導電層の膜厚を制御することにより、容易に調整可能である。例えば膜厚を厚くすることにより表面抵抗は低くなり、膜厚を薄くすることにより高くなる傾向にある。例えば、EMI/RFIシールドの導電性コーティングの抵抗は10Ω/□未満であれば一般に許容される。さらに、透明性の低視認性コーティングは通常10Ω/□未満、好ましくは10Ω/□未満であれば一般に許容される。ポリマーエレクトロニクスおよび元々導電性を持つポリマー(ICP)の場合、抵抗値は通常10Ω/□未満である。したがって、好ましい実施形態では、フィルムの表面抵抗は約10Ω/□未満の範囲内である。EMI/RFIシールドの導電性コーティングの抵抗は好ましくは約10〜10Ω/□範囲内である。さらに、透明性の低視認性コーティングは10Ω/□未満の範囲内であり、好ましくは10Ω/□未満の範囲内である。ポリマーエレクトロニクスおよび元々導電性を持つポリマー(ICP)の場合、好ましく抵抗値は10−2〜10Ω/□の範囲内である。
【0116】
かくして得られる本発明の導電性フィルムは、表面抵抗が1×10Ω/□未満であり、かつ、550nmの波長の光透過率が以下の条件を満たす
導電性フィルムの透過率/透明基材の透過率>0.85
好ましくは、表面抵抗が1×10Ω/□以上、5×10Ω/□未満である。
【実施例】
【0117】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、下記の実施例は例示のために示すものであって、いかなる意味においても、本発明を限定的に解釈するものとして使用してはならない。
【0118】
実施例中、各種物性評価は以下の方法で行った。
【0119】
[熱分析]
約1mgの試料を示差熱分析装置(島津製作所製 DTG−60)に設置し、空気中、10℃/分の昇温速度にて室温から900℃まで昇温した。そのときのDTA曲線から発熱による燃焼ピーク温度を読みとった。
【0120】
また同時に、200℃から400℃までの重量減少量と200℃から900℃までの重量減少量を測定し、200℃から900℃までの重量減少量に対する200℃から400℃の間での重量減少量の割合を算出した。
【0121】
[ラマン分光分析]
共鳴ラマン分光計(ホリバ ジョバンイボン製 INF−300)に粉末試料を設置し、532nmのレーザー波長を用いて測定を行った。G/D比の測定に際しては、サンプルの異なる3ヶ所について分析を行い、その相加平均を求めた。
【0122】
[高分解能透過型電子顕微鏡写真]
カーボンナノチューブ集合体1mgをエタノール1mLに入れて、約15分間超音波バスを用いて分散処理を行った。分散した試料をグリッド上に数滴滴下し、乾燥した。このように試料の塗布されたグリッドを透過型電子顕微鏡(日本電子社製 JEM−2100)に設置し、測定を行った。測定倍率は5万倍から50万倍である。加速電圧は120kVである。
【0123】
[走査型電子顕微鏡写真]
カーボンナノチューブ集合体約1mgをエタノール1mLに入れて、約15分間超音波バスを用いて分散処理を行った。分散した試料をグリッド上に数滴滴下し、乾燥した。このように試料の塗布されたグリッドを走査型電子顕微鏡(日本電子社製 JSM−6301NF)に設置し、測定を行った。測定倍率は1000倍から6万倍である。加速電圧は5kVである。
【0124】
[透明導電性フィルム作製]
カーボンナノチューブ集合体分散液300μLにメタノール/水(重量比1/1)をぬれ剤として300μL添加後、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ(株)社製(ルミラー(登録商標)U36))上にバーコーター(No.8、塗布厚み12μm)を用いて塗布し、風乾した後、蒸留水にてリンスし、60℃乾燥機内で2分間乾燥させ、カーボンナノチューブ集合体を固定化した。
【0125】
[光透過率測定]
光透過率はカーボンナノチューブ集合体塗布フィルムを分光光度計(日立製作所 U−2100)に装填し、波長550nmでの光透過率を測定した。
【0126】
[表面抵抗測定]
表面抵抗値はJIS K7149(1994年12月制定)準処の4端子4探針法を用い、ロレスタEP MCP−T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)を用いて行った。高抵抗測定の際は、ハイレスターUP MCP−HT450(ダイアインスツルメンツ製、10V、10秒)を用いて測定した。
【0127】
<実施例1>
(マグネシアへの触媒金属塩の担持)
クエン酸アンモニウム鉄(和光純薬工業社製)2.46gをメタノール(関東化学社製)500mLに溶解した。この溶液に、マグネシア(岩谷化学工業社製)を100g加え、室温にて60分間攪拌し、その後エバポレーターを使用して、水浴温40℃から60℃で減圧条件にてメタノールを除去した。その後、120℃乾燥機にて2時間乾燥し、マグネシア粉末に触媒金属塩が担持された固体触媒を得た。この時の触媒のかさ密度は0.58g/mLであった。
【0128】
(2層カーボンナノチューブの合成)
図2に示した縦型反応器でカーボンナノチューブを合成した。
【0129】
反応器100は内径75mm、長さは1700mmの円筒形石英管である。中央部に石英焼結板101を具備し、石英管下方部には、不活性ガスおよび原料ガス供給ライン104、上部には廃ガスライン105および、密閉型触媒供給機102および触媒投入ライン103を具備する。さらに、反応器を任意温度に保持できるように、反応器の円周を取り囲む加熱器106を具備する。加熱器106には装置内の流動状態が確認できるよう点検口107が設けられている。
【0130】
触媒132gを取り、触媒投入ライン103を通して、石英焼結板101上に触媒をセットした。次いで、原料ガス供給ライン104から窒素ガスを10.0L/分で供給開始した。反応器内を窒素ガス雰囲気下とした後、温度を850℃に加熱した(昇温時間30分)。
【0131】
850℃に到達した後、温度を保持し、原料ガス供給ライン104の窒素流量を16.5L/分に上げ、石英焼結板上の固体触媒の流動化を開始させた。加熱炉点検口107から流動化を確認した後、さらにメタンを0.78L/分(メタン濃度4.5体積%、メタン線速6.5cm/sec)で反応器に供給開始した。該混合ガスを60分供給した後、窒素ガスのみの流通に切り替え、合成を終了させた。この時のメタンと触媒の接触時間は1.69×10−1g・min/mLであった。
【0132】
加熱を停止させ室温まで放置し、反応器から触媒とカーボンナノチューブ集合体を含有する組成物を取り出した。得られたカーボンナノチューブ集合体を以下の工程に供した。
【0133】
得られたカーボンナノチューブ集合体を前記の方法で熱分析した。燃焼ピーク温度は480℃であった。
【0134】
(カーボンナノチューブ集合体の焼成、精製処理)
カーボンナノチューブ集合体30gを磁性皿(150φ)に取り、大気下、450℃に加熱したマッフル炉(ヤマト科学社製、FP41)に入れ、3時間保持した後、自然放冷した。その後、上記のカーボンナノチューブから触媒を除去するため、次のように精製処理を行った。カーボンナノチューブを6Nの塩酸水溶液に添加し、80℃のウォーターバス内で1時間攪拌した。孔径1μmのフィルターを用いてろ過して回収物を得た。この操作をさらに2回繰り返し、最後に数回水洗した後、ろ過物を120℃のオーブンで一晩乾燥することでマグネシアおよび触媒金属を除去でき、カーボンナノチューブを精製することができた。
【0135】
(カーボンナノチューブ集合体の熱分析)
得られたカーボンナノチューブ集合体の熱分析を行った。燃焼ピーク温度は664℃であった。また、200℃から400℃までの重量減少量は200℃から900℃までの重量減少の5%であることがわかった。
【0136】
(カーボンナノチューブ集合体の高分解能透過型電子顕微鏡分析)
上記のようにして得たカーボンナノチューブ集合体を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、図3に示すように、カーボンナノチューブはきれいなグラファイト層で構成されており、層数が2層のカーボンナノチューブが観察された。またカーボンナノチューブ100本中の80%以上(85本)を2層のカーボンナノチューブが占めていた。また3層以上のカーボンナノチューブは10%以下(7本)であった。
【0137】
(カーボンナノチューブ集合体の共鳴ラマン分光分析)
上記のようにして得たカーボンナノチューブ集合体を、ラマン分光測定した。その結果、図4に示すように、波長532nmのラマン分光分析において、G/D比は53と、グラファイト化度の高い高品質2層カーボンナノチューブであることがわかった。
【0138】
(カーボンナノチューブ集合体の体積抵抗率測定)
上記のようにして得たカーボンナノチューブ集合体20mgをN-メチルピロリドン16mLと混合し、超音波ホモジナイザーを用いて20Wで20分超音波照射した後、エタノール10mLと混合し、内径35mmφのろ過器を用いて吸引ろ過し、このろ取物をろ過器とろ取に用いたフィルターごと60℃で2時間乾燥機中で乾燥した。カーボンナノチューブ膜付きメンブレンフィルターを取り外し、メンブレンフィルターごと膜厚みを測定し、メンブレンフィルターの膜厚みを差し引いたところ、カーボンナノチューブ膜の厚みは65μmであった。メンブレンフィルターはOMINIPOREMEMBRANE FILTERS、FILTER TYPE: 1.0μm JA、47mmφを使用した。得られたカーボンナノチューブ膜をJISK7149準処の4端子4探針法を用いてロレスタEP MCP−T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)にて測定したところ、0.249Ω/□であった。したがって体積抵抗率は1.62×10―3Ω・cmである。
(カーボンナノチューブ集合体の表面組成解析)
X線光電子分光法(XPS)にて表面組成を評価した。使用した機器はESCALAB220iXLで励起X線はMonochromatic AlKα1,2線でX線径は1000μmである。光電子脱出角度は90°である。その結果、炭素原子に対する酸素原子の割合は2.5%であった。
【0139】
(カーボンナノチューブ集合体分散液調製)
50mLの容器に上記カーボンナノチューブ集合体10mgおよびポリスチレンスルホン酸ナトリウム水溶液(アルドリッチ社製、30重量%、重量平均分子量20万)100mgを量りとり、蒸留水9.93mLを加えて、超音波ホモジナイザー出力25W、20分間で氷冷下分散処理し、カーボンナノチューブ集合体分散液を調製した。調製した液には凝集体は目視では確認できず、カーボンナノチューブ集合体はよく分散していた。得られた液を高速遠心分離機にて10000G、15分遠心処理し、上清を得た。この時の上清のCNT濃度は0.095重量%であった。
【0140】
上記で得たカーボンナノチューブ集合体分散液を用いて、前記の方法で透明導電性フィルムを得た。得られた透明導電性フィルムの表面抵抗値は1.6×10Ω/□、光透過率は85%(透明導電性フィルム85%/PETフィルム90.7%=0.94)であり、高い導電性および、透明性を示した。
【0141】
<実施例2>
(マグネシアへの触媒金属塩の担持)
実施例1と同様に行い、触媒金属塩をマグネシアに担持した。
【0142】
(2層カーボンナノチューブの合成)
上記触媒を用いて、反応中の窒素を11.0L/分、メタンを0.52L/分(メタン濃度4.5体積%、メタン線速4.3cm/sec)で流通させる以外は実施例1と同様な方法でカーボンナノチューブを合成した。この時のメタンと触媒の接触時間は2.54×10−1g・min/mLであった。
【0143】
得られたカーボンナノチューブ集合体を前記の方法で熱分析した。燃焼ピーク温度は475℃であった。
【0144】
(カーボンナノチューブ集合体の焼成、精製処理)
実施例1と同様の操作を行った。
【0145】
(カーボンナノチューブ集合体の高分解能透過型電子顕微鏡分析)
上記のようにして得たカーボンナノチューブ集合体を高分解能透過型電子顕微鏡で観察したところ、カーボンナノチューブはきれいなグラファイト層で構成されており、層数が2層のカーボンナノチューブが観察された。またカーボンナノチューブ100本中の73%(73本)を2層のカーボンナノチューブが占めていた。また3層以上のカーボンナノチューブは10%以下(2本)であった。
【0146】
(カーボンナノチューブ集合体の共鳴ラマン分光分析)
上記のようにして得たカーボンナノチューブ集合体を、ラマン分光測定した。その結果、波長532nmのラマン分光分析でG/D比は38と、グラファイト化度の高い高品質2層カーボンナノチューブであることがわかった。
【0147】
(カーボンナノチューブ集合体の体積抵抗率測定)
上記のようにして得たカーボンナノチューブ集合体20mgをN-メチルピロリドン16mLと混合し、超音波ホモジナイザーを用いて20Wで20分超音波照射した後、エタノール10mLと混合し、内径35mmφのろ過器を用いて吸引ろ過し、このろ取物をろ過器とろ取に用いたフィルターごと60℃で2時間乾燥機中で乾燥した。カーボンナノチューブ膜付きメンブレンフィルターを取り外し、メンブレンフィルターごと膜厚みを測定し、メンブレンフィルターの膜厚みを差し引いたところ、カーボンナノチューブ膜の厚みは71.5μmであった。メンブレンフィルターはOMINIPOREMEMBRANE FILTERS、FILTER TYPE: 1.0μm JA、47mmφを使用した。得られたカーボンナノチューブ膜をJISK7149準処の4端子4探針法を用いてロレスタEP MCP−T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)にて測定したところ、0.383Ω/□であった。したがって体積抵抗率は2.74×10―3Ω・cmである。
【0148】
(カーボンナノチューブ集合体分散液調製)
実施例1と同様の操作を行いカーボンナノチューブ集合体の分散液を調製した。この時の上清のCNT濃度は0.090重量%であった。
【0149】
上記で得たカーボンナノチューブ集合体分散液を用いて、前記の方法で透明導電性フィルムを得た。得られた透明導電性フィルムの表面抵抗値は1.7×10Ω/□、光透過率は85%(透明導電性フィルム85%/PETフィルム90.7%=0.94)であり、高い導電性および、透明性を示した。
【0150】
<比較例1>
(マグネシアへの触媒金属塩の担持)
実施例1と同様の操作を行い、固体触媒を得た。
【0151】
(2層カーボンナノチューブの合成)
反応中メタンを0.78L/分(メタン濃度100体積%、メタン線速0.39cm/sec)、窒素ガスを流さないこととした以外は実施例1と同様の操作を行ない、触媒とカーボンナノチューブ集合体を含有する組成物を取り出した。得られたカーボンナノチューブ集合体を以下の工程に供した。
【0152】
得られたカーボンナノチューブ集合体を前記の方法で熱分析した。燃焼ピーク温度は569℃であった。
【0153】
(カーボンナノチューブ集合体の焼成、精製処理)
カーボンナノチューブ集合体30gを磁性皿(150φ)に取り、大気下、540℃に加熱したマッフル炉(ヤマト科学社製、FP41)に入れ、3時間保持した後、自然放冷した。その後、上記のカーボンナノチューブから触媒を除去するため、次のように精製処理を行った。カーボンナノチューブを6Nの塩酸水溶液に添加し、80℃のウォーターバス内で1時間攪拌した。孔径1μmのフィルターを用いてろ過して回収物を得た。この操作をさらに2回繰り返し、最後に数回水洗した後、ろ過物を120℃のオーブンで一晩乾燥することでマグネシアおよび触媒金属を除去でき、カーボンナノチューブを精製することができた。
【0154】
(カーボンナノチューブ集合体の共鳴ラマン分光分析)
上記のようにして得たカーボンナノチューブ集合体を、ラマン分光測定した。その結果、図4に示すように、波長532nmのラマン分光分析において、ラマンG/D比は3であった。
【0155】
(カーボンナノチューブ集合体の体積抵抗率測定)
上記のようにして得たカーボンナノチューブ集合体20mgをN-メチルピロリドン16mLと混合し、超音波ホモジナイザーを用いて20Wで20分超音波照射した後、エタノール10mLと混合し、内径35mmφのろ過器を用いて吸引ろ過し、このろ取物をろ過器とろ取に用いたフィルターごと60℃、2時間乾燥機中で乾燥した。カーボンナノチューブ膜付きメンブレンフィルターを取り外し、メンブレンフィルターごと膜厚みを測定し、メンブレンフィルターの膜厚みを差し引いたところ、カーボンナノチューブ膜の厚みは105.5μmであった。メンブレンフィルターはOMINIPOREMEMBRANE FILTERS、FILTER TYPE: 1.0μm JA、47mmφを使用した。得られたカーボンナノチューブ膜をJISK7149準処の4端子4探針法を用いてロレスタEP MCP−T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)にて測定したところ、53.45Ω/□であった。したがって体積抵抗率は5.64×10−1Ω・cmである。
【0156】
<比較例2>
(マグネシアへの触媒金属塩の担持)
実施例1と同様の操作を行い、固体触媒を得た。
【0157】
(2層カーボンナノチューブの合成)
メタンを9mL/分(メタン濃度4.5体積%、メタン線速0.11cm/sec)、窒素を200mL/分反応中に流通した以外は実施例1と同様の操作を行ない、触媒とカーボンナノチューブ集合体を含有する組成物を取り出した。得られたカーボンナノチューブ集合体を以下の工程に供した。
【0158】
得られたカーボンナノチューブ集合体を前記の方法で熱分析した。燃焼ピーク温度は517℃であった。
【0159】
(カーボンナノチューブ集合体の焼成、精製処理)
カーボンナノチューブ集合体30gを磁性皿(150φ)に取り、大気下、500℃に加熱したマッフル炉(ヤマト科学社製、FP41)に入れ、1時間保持した後、自然放冷した。その後、上記のカーボンナノチューブから触媒を除去するため、次のように精製処理を行った。カーボンナノチューブを6Nの塩酸水溶液に添加し、80℃のウォーターバス内で1時間攪拌した。孔径1μmのフィルターを用いてろ過して回収物を得た。この操作をさらに2回繰り返し、最後に数回水洗した後、ろ過物を120℃のオーブンで一晩乾燥することでマグネシアおよび触媒金属を除去でき、カーボンナノチューブを精製することができた。
【0160】
(カーボンナノチューブ集合体の共鳴ラマン分光分析)
上記のようにして得たカーボンナノチューブ集合体を、ラマン分光測定した。その結果、図4に示すように、波長532nmのラマン分光分析において、ラマンG/D比は20であった。
【0161】
(カーボンナノチューブ集合体の体積抵抗率測定)
上記のようにして得たカーボンナノチューブ集合体20mgをN-メチルピロリドン16mLと混合し、超音波ホモジナイザーを用いて20Wで20分超音波照射した後、エタノール10mLと混合し、内径35mmφのろ過器を用いて吸引ろ過し、このろ取物をろ過器とろ取に用いたフィルターごと60℃で2時間乾燥機中で乾燥した。カーボンナノチューブ膜付きメンブレンフィルターを取り外し、メンブレンフィルターごと膜厚みを測定し、メンブレンフィルターの膜厚みを差し引いたところ、カーボンナノチューブ膜の厚みは65.3μmであった。メンブレンフィルターはOMINIPOREMEMBRANE FILTERS、FILTER TYPE: 1.0μm JA、47mmφを使用した。得られたカーボンナノチューブ膜をJISK7149準処の4端子4探針法を用いてロレスタEP MCP−T360((株)ダイアインスツルメンツ社製)にて表面抵抗値を測定したところ、5.89Ω/□であった。したがって体積抵抗率は3.85×10−2Ω・cmである。
【0162】
<比較例3>
ナノテクポート社製2層カーボンナノチューブのラマンG/D比(532nm)は14であった。実施例1と同様の方法でカーボンナノチューブ膜を作製したところ、カーボンナノチューブ膜の厚みは22.0μm、表面抵抗値は39.65Ω/□であった。したがって体積抵抗率は8.72×10−2Ω・cmであった。
【0163】
<比較例4>
アーク放電法により製造された名城ナノカーボン社製単層カーボンナノチューブ(単層は任意のカーボンナノチューブ中、67%であった)のラマンG/D比(532nm)は43であった。実施例1と同様の方法でカーボンナノチューブ膜を作製したところ、カーボンナノチューブ膜の厚みは62.0μm、表面抵抗値は1.842Ω/□であった。したがって体積抵抗率は1.14×10−2Ω・cmであった。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】図1は反応管断面に均一に触媒が存在している状態を示す。
【図2】図2は実施例で使用した縦型流動床装置の概略図である。
【図3】図3は実施例1で得られたカーボンナノチューブの高分解能透過型電子顕微鏡写真である。
【図4】図4は実施例1で得られたカーボンナノチューブのラマン分光分析チャートである。
【符号の説明】
【0165】
1 反応器
2 触媒を置く台
3 触媒
4 触媒以外の物体と触媒の混合物
5 触媒
100 反応器
101 石英焼結板
102 密閉型触媒供給機
103 触媒投入ライン
104 原料ガス供給ライン
105 廃ガスライン
106 加熱器
107 点検口
108 触媒

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタンを濃度10体積%以下で含む原料ガスを線速4cm/sec以上、15cm/sec以下で流通させ、触媒と500〜1200℃で接触させることを特徴とするカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項2】
上記接触が縦型流動床型反応器内にて行われることを特徴とする請求項1記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項3】
前記メタン濃度が5体積%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項4】
前記触媒がFeにマグネシアを担持した触媒であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項5】
前記触媒のかさ密度が0.30g/mL以上、2.00g/mL以下であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項6】
メタンと触媒の接触時間が8.0×10−2g・min/mL以上、1.0×10g・min/mL以下であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項7】
メタンと触媒を接触させて得られたカーボンナノチューブ集合体を気相酸化することを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項8】
気相酸化後のカーボンナノチューブ集合体の測定波長532nmにおけるラマンG/D比が30以上になるまで気相酸化することを特徴とする請求項7記載のカーボンナノチューブ集合体の製造方法。
【請求項9】
以下の(1)〜(4)の条件を満たすカーボンナノチューブ集合体。
(1)体積抵抗率が1×10−4Ω・cm以上、1×10−2Ω・cm以下
(2)カーボンナノチューブ集合体の50%以上が2層カーボンナノチューブ
(3)カーボンナノチューブ集合体の測定波長532nmにおけるラマンG/D比が30以上、200以下
(4)燃焼ピーク温度が550℃以上、700℃以下
【請求項10】
カーボンナノチューブ集合体中の3層以上のカーボンナノチューブが10%以下であることを特徴とする請求項9に記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項11】
炭素原子に対する酸素原子の割合が4%未満であることを特徴とする請求項9または10に記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項12】
10℃/minで昇温した時の熱重量測定での200℃から400℃の重量減少が5%以下であることを特徴とする請求項9から11のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ集合体。
【請求項13】
請求項9から12に記載のカーボンナノチューブ集合体からなるカーボンナノチューブ成形体。
【請求項14】
請求項9から12に記載のカーボンナノチューブ集合体を含む組成物。
【請求項15】
液状の分散媒にカーボンナノチューブ集合体が分散している請求項14記載のカーボンナノチューブ組成物。
【請求項16】
さらに界面活性剤、導電性高分子もしくは非導電性高分子から選択される一種以上を含有することを特徴とする請求項14記載のカーボンナノチューブ組成物。
【請求項17】
カーボンナノチューブ集合体の濃度が0.01重量%から20重量%であることを特徴とする請求項14から16のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ組成物。
【請求項18】
請求項14記載のカーボンナノチューブ組成物からなる成形体。
【請求項19】
請求項14から17のいずれか1項に記載のカーボンナノチューブ組成物を用いて導電層が基材上に形成されてなる導電性複合体。
【請求項20】
前記基材がフィルムであることを特徴とする請求項19記載の導電性複合体。
【請求項21】
基材が透明基材であり、かつ以下の特徴を有する請求項20記載の導電性複合体。
(1)表面抵抗が1×10Ω/□未満
(2)550nmの波長の光透過率が以下の条件を満たす
導電性フィルムの透過率/透明基材の透過率>0.85

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−6663(P2010−6663A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169670(P2008−169670)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】