説明

カーボンナノファイバーの精製方法および用途

【課題】触媒を用いて製造されたカーボンナノファイバーについて、残留する触媒を十分に除去し、高純度なカーボンナノファイバーを得ることができる精製方法とその用途を提供する。
【解決手段】触媒を用いて製造されたカーボンナノファイバーについて、無機酸とキレート剤を含む溶液を用いて残留触媒を除去する工程を含むことを特徴とするカーボンナノファイバーの精製方法であり、好ましくは、無機酸が硫酸、塩酸、および硝酸からなる群から選択される少なくとも1種であり、キレート剤がアミノカルボン酸キレート、ホスホン酸系キレート、グルコン酸系キレート、および有機酸からなる群から選択される少なくとも1種であり、無機酸の濃度0.1〜10wt%、キレート剤の濃度0.01〜5wt%の水溶液を用いて精製するカーボンナノファイバーの精製方法とその用途を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒を用いて製造されたカーボンナノファイバーについて、残留触媒を除去するカーボンナノファイバーの精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(カーボンナノファイバー)は、グラファイトが筒状に形成されたナノレベルの微細な繊維状の物質であり、優れた導電性を有しているため導電性材料として期待されている。
【0003】
カーボンナノファイバーの製造方法として、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法などが知られている。化学気相成長法のなかでも、触媒を用いた触媒化学気相成長法が知られている。この方法は、微細な触媒粒子に炭素を含む原料ガスを高温下で接触させて、原料ガスの反応で生成したカーボンを繊維状に成長させる方法である。
【0004】
この触媒は、気相成長によるカーボンナノファイバーの合成時には必要であるが、ファイバー製造後に残留すると不純物になる。そこで、この触媒の除去方法として、酸水溶液で洗浄した後に、アセトンと酸の混合溶液で処理する除去方法が知られている(特許文献1)。さらに、硫酸、塩酸、硝酸等を用いて酸処理して触媒を除去する方法(特許文献2)や、強酸に加えて過酸化水素等の助剤や界面活性剤を添加する方法も提案されている。しかし、カーボンナノファイバーに残留する触媒を除去する従来の処理方法は精製効率が低く、触媒の残存率が高いなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許3388222号公報
【特許文献2】特開2008−37695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、カーボンナノファイバーについて従来の精製方法における上記問題を解消したものであり、触媒を用いて製造されたカーボンナノファイバーについて、残留する触媒を十分に除去し、高純度なカーボンナノファイバーを得ることができる精製方法、およびこの方法によって精製された高純度のカーボンナノファイバーを用いた用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の構成からなるカーボンナノファイバーの精製方法に関する。
〔1〕触媒を用いて製造されたカーボンナノファイバーについて、無機酸とキレート剤を含む溶液を用いて残留触媒を除去する工程を含むことを特徴とするカーボンナノファイバーの精製方法。
〔2〕無機酸が硫酸、塩酸、および硝酸からなる群から選択される少なくとも1種である上記[1]に記載するカーボンナノファイバーの精製方法。
〔3〕キレート剤がアミノカルボン酸キレート、ホスホン酸系キレート、グルコン酸系キレート、および有機酸からなる群から選択される少なくとも1種である上記[1]または上記[2]に記載するカーボンナノファイバーの精製方法。
〔4〕無機酸の濃度0.1〜10wt%、キレート剤の濃度0.01〜5wt%の水溶液を用いる上記[1]〜上記[3]の何れかに記載するカーボンナノファイバーの精製方法。
〔5〕カーボンナノファイバーを、無機酸とキレート剤を含む水溶液中で、40〜80℃で撹拌して残留触媒を除去する上記[1]〜上記[4]の何れかに記載するカーボンナノファイバーの精製方法。
〔6〕触媒がFe、Ni、Co、Mn、Cu、Mg、Al、およびCaからなる群から選択される1種の酸化物、または2種以上の酸化物である上記[1]〜上記[5]の何れかに記載するカーボンナノファイバーの精製方法。
【0008】
また、本発明は精製されたカーボンナノファイバーを用いた以下の用途に関する。
〔7〕上記[1]〜上記[6]の何れかに記載する精製方法により精製されたカーボンナノファイバー。
〔8〕上記[7]に記載するカーボンナノファイバーを極性溶媒から選ばれた一種以上の分散媒に分散させてなるカーボンナノファイバー分散液。
〔9〕上記[8]に記載するカーボンナノファイバー分散液とバインダー成分を含有する塗料組成物またはペースト組成物。
〔10〕上記[9]に記載する塗料組成物またはペースト組成物によって形成された導電性塗膜。
【発明の効果】
【0009】
本発明のカーボンナノファイバーの精製方法は、無機酸と共にキレート剤を用いることによって、カーボンナノファイバーに残留する触媒を確実に除去するので、精製効率が飛躍的に向上し、高純度なカーボンナノファイバーを得ることができる。
【0010】
具体的には、従来のキレート剤を含まない無機酸を用いた精製方法では、残留触媒の量は約1500ppm〜約3000ppmであるが、本発明の精製方法では残留触媒の量を4ppm以下、好ましくは1ppm未満に低減することができ、従来の精製方法に比べて格段に精製効果が良い。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施形態に基いて具体的に説明する。
本発明の精製方法は、触媒を用いて製造されたカーボンナノファイバーについて、無機酸とキレート剤を含む溶液を用いて残留触媒を除去する工程を含むことを特徴とするカーボンナノファイバーの精製方法である。
【0012】
触媒を用いた気相成長によるカーボンナノファイバーの製造方法では、例えば、平均粒径1μm以下の触媒粒子を還元ガス雰囲気下で加熱して活性化し、活性化した触媒粒子に原料ガス(一酸化炭素と水素の混合ガス等)を500℃〜800℃の温度下で接触させ、原料ガスの反応によって生成したカーボンを繊維状に成長させる。
【0013】
カーボンナノファイバーの製造に用いる触媒は、例えば、Fe、Ni、Co、Mn、Cu、Mg、Al、およびCaからなる群から選ばれた一種の酸化物粉末、または二種以上の酸化物の混合粉末、あるいは二種以上の複合酸化物粉末である。
【0014】
この方法によって、繊維径1〜100nm、アスペクト比5以上のカーボンナノファイバーを製造することができる。このカーボンナノファイバーはX線回折測定によるグラファイト層の[002]面の間隔が0.35nm以下であると好ましい。グラファイト層の[002]面の積層間隔が上記範囲内であるカーボンナノファイバーは結晶性が高いため、電気抵抗が小さく高導電の材料を得ることができる。さらに、カーボンナノファイバーの圧密体の体積抵抗値が1.0Ω・cm以下であると、良好な導電性を発揮することができる。また、一酸化炭素を主な原料ガスとした気相成長法によって製造されたカーボンナノファイバーは、トルエン着色透過率:95%以上のものが得られ、高純度の観点から好ましい。
【0015】
本発明の精製方法は無機酸およびキレート剤を含む溶液を用いる。例えば、無機酸およびキレート剤を混合した水溶液を用い、この水溶液中でカーボンナノファイバーを、40〜80℃で撹拌して残留触媒を除去する。加熱することにより精製効率を向上することができる。液温は40〜80℃が好ましい。液度が40℃より低いと処理時間が長くなり、80℃より高いと精製効果はよいが、カーボンナノファイバーの表面抵抗が高くなる傾向がある。
【0016】
無機酸の濃度は0.1〜10wt%が好ましく、0.5〜5wt%がより好ましい。無機酸の濃度が0.1wt%未満では精製効率が低く、10wt%を超えると導電性が低下する。キレート剤の濃度は0.01〜5wt%が好ましく、0.05〜3wt%がより好ましい。キレート剤の濃度が0.01wt%未満の場合や5wt%を超える場合には精製効率が低くなる。カーボンナノファイバーの濃度は1〜10wt%が好ましい。
【0017】
無機酸としては、硫酸、塩酸、または硝酸を単独に用い、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができる。また、キレート剤としては、アミノカルボン酸系キレート、ホスホン酸系キレート、グルコン酸系キレート、有機酸が挙げられる。キレート剤はこれらのものを単独でまたは2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0018】
(イ)アミノカルボン酸キレートとして以下の化合物を用いることができる。
エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸(HEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、2−ヒドロキシプロピレンジアミン二コハク酸(HPDS)、2−ヒドロキシプロピレンジアミン−N,N'−二コハク酸(HPDDS)、エチレンジアミン二コハク酸(EDDS)、エチレンジアミンジグルタル酸(EDGA)、O,O’−ビス(2−アミノエチル)エチレングリコール−N,N,N’,N’−四酢酸(EGTA)、エチレンジアミン−N,N’−ジグルタル酸(EDDG)、トランス−1,2−ジアミノシクロヘキサン−N,N,N’,N’−四酢酸(CyDTA)、グリシンアミド−N,N'−二コハク酸(GADS)。
【0019】
(ロ)ホスホン酸系キレートとして以下の化合物を用いることができる。
1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸(HEDP)、1−ヒドロキシプロピリデン−1,1−ジホスホン酸、1,2−プロパンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)、ジエチレントリアミンペンタ(メチレンホスホン酸)、エチレンジアミンビス(メチレンホスホン酸)、アミノトリス(メチレンホスホン酸)、ヘキサメチレンジアミンテトラ(メチレンホスホン酸)。
【0020】
(ハ)グルコン酸系キレートとしては、グルコン酸、グルコン酸ナトリウム、グルコン酸カルシウムなどをを用いることができる。(ニ)有機酸としては、クエン酸、シュウ酸、酒石酸、コハク酸などを用いることができる。精製効率の観点から、好ましくは、ヒドロキシエチレンジアミン三酢酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、グルコン酸、酒石酸、1−ヒドロキシプロピリデン−1,1−ジホスホン酸を用いるとよい。
【実施例】
【0021】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。なお本発明は実施例の範囲に限定されない。
〔実施例1〜5、比較例1〜6〕
触媒粒子(平均粒径50nm〜100nm)を還元ガスによって活性化した後に、原料ガス(COと水素の混合ガス)を550℃〜650℃で触媒粒子に接触させて製造したカーボンナノファイバー(繊維径10〜100nm、CNFと略記)について、無機酸とキレート剤を含む水溶液(精製液)を用い、この水溶液に上記CNFを浸漬し、液温50℃で撹拌してCNFを精製した。触媒の種類および精製液の組成を表1に示す。また、精製前後の触媒含有量を表2に示す。
【0022】
精製処理後に乾燥した粉末をビーズミルで撹拌しながらエタノール分散液を調製した。この分散液に乾燥塗膜固形分中のカーボンナノファイバー含有率が4.5wt%となるようにアクリル樹脂溶液を混合して塗料を調製した。この塗料をバーコーターを用いて、厚さ100μmのポリエステルフィルムに、塗工量が0.25g/m2になるように塗布し、80℃で3分間乾燥して塗膜を作製した。塗膜の表面抵抗率(Ω/□)について三菱化学製ハイレスタUPを用いて測定した。この結果を表2に示す。
【0023】
表2に示すように、精製後の実施例2の残留触媒量は2ppm、実施例3の残留触媒量は4ppmであるが、その他の触媒は何れも残留触媒量が1ppm未満であり、格段に精製効果が高く、高純度なカーボンナノファイバーを得ることができる。
一方、比較例1〜3、比較例5は残留触媒量が多く、比較例4および比較例6の残留触媒量は少ないが表面抵抗が高い。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒を用いて製造されたカーボンナノファイバーについて、無機酸とキレート剤を含む溶液を用いて残留触媒を除去する工程を含むことを特徴とするカーボンナノファイバーの精製方法。
【請求項2】
無機酸が硫酸、塩酸、および硝酸からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載するカーボンナノファイバーの精製方法。
【請求項3】
キレート剤がアミノカルボン酸キレート、ホスホン酸系キレート、グルコン酸系キレート、および有機酸からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1または請求項2に記載するカーボンナノファイバーの精製方法。
【請求項4】
無機酸の濃度0.1〜10wt%、キレート剤の濃度0.01〜5wt%の水溶液を用いる請求項1〜請求項3の何れかに記載するカーボンナノファイバーの精製方法。
【請求項5】
カーボンナノファイバーを、無機酸とキレート剤を含む水溶液中で、40〜80℃で撹拌して残留触媒を除去する請求項1〜請求項4の何れかに記載するカーボンナノファイバーの精製方法。
【請求項6】
触媒がFe、Ni、Co、Mn、Cu、Mg、Al、またはCaからなる群から選択される1種の酸化物、または2種以上の酸化物である請求項1〜請求項5の何れかに記載するカーボンナノファイバーの精製方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6の何れかに記載する精製方法により精製されたカーボンナノファイバー。
【請求項8】
請求項7に記載するカーボンナノファイバーを極性溶媒から選ばれた一種以上の分散媒に分散させてなるカーボンナノファイバー分散液。
【請求項9】
請求項8に記載するカーボンナノファイバー分散液とバインダー成分を含有する塗料組成物またはペースト組成物。
【請求項10】
請求項9に記載する塗料組成物またはペースト組成物によって形成された導電性塗膜。

【公開番号】特開2013−75784(P2013−75784A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216219(P2011−216219)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【Fターム(参考)】