説明

ガスセンサ

【課題】SnOを主成分とするガス検知層の被毒耐性を高め、感度を確保し、長期間の使用に対する耐久性を得ることのできるガスセンサを提供する。
【解決手段】ガスセンサ1の製造過程において、ガス検知層8を形成する際に、単に、純度の高い原材料を用いてSnOを調製するだけでなく、使用する器具や装置を厳選し、それらの使用方法や手順についても十分に注意を払い、不純物、特にFe、Pb、およびBiのSnOへの混入を抑制する。その結果、Fe、Pb、およびBiの合計の含有量を、SnOとFe、Pb、およびBiの合計量に対し、0.030質量%未満に抑えたガス検知層8を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SnOを主成分とするガス検知層を用いて特定ガスの検知を行うガスセンサに関し、詳細には、においセンサとして好適なガスセンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、WOやSnO等の金属酸化物半導体を主成分とするガス検知層を有し、NOx等の被検知ガスによってガス検知層の電気的特性(例えば、抵抗値)が変化することを利用し、被検知ガスの濃度変化を検知するガスセンサが知られている。金属酸化物半導体としてWOを用いたガス検知層は、感度が高い。なお、感度は、ガス検知層のベース抵抗値(被検知ガスに接触していないときの抵抗値)に対するガス抵抗値(被検知ガスに接触しているときの抵抗値)をいい、「ガス抵抗値/ベース抵抗値」で求められる。感度は、1に近いほど低く(良好でない)、1から離れるほど高い(良好である)。
【0003】
しかし、WOを用いたガス検知層は、ベース抵抗値が比較的大きいため、ガス検知層に電流を流すための周辺回路に高価な部品を用いる必要がある。一方、金属酸化物半導体としてSnOを用いたガス検知層は、感度が、WOを用いたものに比べて低いものの、ベース抵抗値が小さいので、安価な部品を用いた周辺回路を設計することができる。そこで、ガス検知層をWO層とSnOなどの層からなる2層構造とすれば、WOの良好な感度を維持しつつ、ベース抵抗値(センサ抵抗)を下げることができる(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
ところで、ガスセンサにおいて、被検知ガスに含まれ得るSi等の有毒物によってガス検知層が被毒すると、感度の低下を招く虞がある。被毒によってガス検知層の感度が低下しても、被毒前のガス検知層の感度がもともと高ければ、キャリブレーション等を行えばガス検知性能を維持することが可能である。しかし、SnOを用いたガス検知層は、上記のように、もとの感度が低いため、被毒によってさらに感度が低下すれば正確なガス検知が難しくなる。このような場合、ガス検知層の被毒耐性を向上するには、ガス検知層をガラス膜で覆って保護するとよい(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−349859号公報
【特許文献2】特開2008−157747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に記載のガスセンサは、製造過程において、ガス検知層を形成する上で必要な工程数が増えて作業が繁雑となり、また、部品(材料)点数も増えるため、生産コストの増加を招く。さらに、熱膨張差の異なる異種材料(特許文献1ではWO層とSnO層、特許文献2ではガラス膜とSnO層)の積層によってガス検知層が形成されることとなるため、長期間の使用においてガス検知層にクラックや剥離が生じるなど、ガスセンサの耐久性に問題を生ずる虞があった。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであり、SnOを主成分とするガス検知層の被毒耐性を高め、感度を確保し、長期間の使用に対する耐久性を得ることのできるガスセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の実施態様に係るガスセンサは、被検知ガス中の特定ガスの濃度変化に応じて電気的特性が変化する金属酸化物半導体を主成分とし、前記特定ガスの濃度検知を行うガス検知層を有するガスセンサにおいて、前記金属酸化物半導体はSnOであり、前記ガス検知層をICP発光分光分析した場合に、前記ガス検知層に含まれるFe、Pb、およびBiの合計の含有量が、SnOとFe、Pb、およびBiの合計量に対し、0.030質量%未満であることを特徴とする。
【0009】
本実施態様によれば、ガス検知層の主成分として金属酸化物半導体のうちでもベース抵抗値の小さなSnOを用いたので、扱う電流が比較的小さくて済み、ガスセンサの周辺回路に安価な部品を用いることができるので、生産コストを低減することができる。また、ガス検知層に含まれるFe、Pb、およびBiの合計の含有量が0.030質量%未満であるので、シリコン等の有毒物に対する被毒耐性が確保される。SnOは被検知ガスに対する感度が、例えば同じ金属酸化物半導体のWOより低いが、被毒耐性を得ることによって長期間の使用においても初期の感度を維持することができるので、ガスセンサとして耐久性を得ることができる。また、ガス検知層をSnOの単層構造とすることで、複層構造とした場合であれば生ずる虞のある層間の剥離やクラック等が、発生する虞がないことからも、ガスセンサとして耐久性を得ることができる。本実施態様では、ガスセンサの製造過程において、ガス検知層を形成する際に、単に、純度の高い原材料を用いてSnOを調製するだけでなく、使用する器具や装置を厳選し、それらの使用方法や手順についても十分に注意を払っている。その結果、Fe、Pb、およびBiの合計の含有量を、SnOとFe、Pb、およびBiの合計量に対し、0.030質量%未満に抑えたガス検知層を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】ガスセンサ1の平面図である。
【図2】図1の1点鎖線A−Aにおいて矢視方向からみたガスセンサ1の断面図である。
【図3】発熱抵抗体5の平面図である。
【図4】図1の1点鎖線B−Bにおいて矢視方向からみたガスセンサ1の断面図である。
【図5】評価1の結果を表すグラフである。
【図6】評価2の結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を具体化したガスセンサの一実施の形態について、図面を参照して説明する。まず、図1〜図4を参照し、一例としてのガスセンサ1の構造について説明する。図1に示すように、ガスセンサ1は、概略、平面形状が、例えば縦2.6mm、横2mmの略矩形に形成された板状をなす基体15の一面側に、被検出ガス中の特定ガスの検知を行うガス検知部16が形成された構造を有する。なお、基体15の厚み方向(図1では紙面表裏方向)をガスセンサ1の上下方向とし、ガス検知部16が形成された基体15の一面側を、ガスセンサ1の上側として説明する。
【0012】
ガスセンサ1の基体15は、図2に示すように、所定の厚みを有するシリコン基板2と、シリコン基板2の上面に形成された絶縁被膜層3と、シリコン基板2の下面に形成された絶縁被膜層4とを有する。シリコン基板2には厚み方向に貫通する開口部21が設けられ、開口部21は、内周面22が、シリコン基板2の上面側から下面側へ向け拡径されている。開口部21は、基体15の一面側に設けられたガス検知部16の配置位置(詳細には後述する発熱抵抗体5の配置位置)に対応させて、開口されている。
【0013】
絶縁被膜層3は絶縁層31〜34および保護層35から構成される。絶縁層31はシリコン基板2の上面に形成されており、所定の厚みを有するSiO膜からなる。絶縁層31の下面の一部は、シリコン基板2の開口部21内において外部に露出されている。絶縁層31の上面には、所定の厚みを有するSi膜ならなる絶縁層32が形成されている。さらに、絶縁層32の上面に、所定の厚みを有するSiO膜からなる絶縁層33および絶縁層34が形成されている。絶縁層33と絶縁層34との間には、後述する発熱抵抗体5や、発熱抵抗体5に通電するためのリード部12が設けられている。絶縁層34の上面には、所定の厚みを有するSi膜からなる保護層35が形成されている。保護層35は、絶縁層34ごと発熱抵抗体5およびリード部12を覆っており、発熱抵抗体5やリード部12の腐食や外傷による損傷を防止する。
【0014】
絶縁被膜層4は、絶縁層41および絶縁層42から構成される。絶縁層41はシリコン基板2の下面に形成されており、絶縁層31と同様に、所定の厚みを有するSiO膜からなる。絶縁層41の下面には、所定の厚みを有するSi膜ならなる絶縁層42が形成されている。絶縁層41,42は、シリコン基板2の開口部21に対応する部分が、それぞれ除去されている。
【0015】
次に、発熱抵抗体5は、上記したように、絶縁被膜層3の絶縁層33と絶縁層34との間に設けられている。具体的には、絶縁層33の上面に、図3に示す、発熱抵抗体5のパターンが渦巻き状に形成される。さらに発熱抵抗体5の両端それぞれに接続する一対のリード部12のパターンが形成される。その状態で、絶縁層33上に絶縁層34(図2参照)が形成されることによって、発熱抵抗体5およびリード部12が絶縁層33と絶縁層34との間に埋設される。発熱抵抗体5は、後述するガス検知部16を加熱して活性化させるためのものであり、ガス検知部16に対応する位置に設けられている。また、上記した開口部21(図2参照)は、発熱抵抗体5によるガス検知部16の加熱効率を高めるための構造であり、発熱抵抗体5の形成位置に対応させて、開口されている。発熱抵抗体5およびリード部12は、PtからなるPt層と、TaからなるTa層とから構成された2層構造を有する。
【0016】
また、図4に示すように、リード部12のそれぞれの末端の位置には、絶縁層34および保護層35を貫通するスルーホール14が形成されている。スルーホール14には、内部に露出したリード部12と電気的に接触し、保護層35の上面側へ電極を引き出す引出電極13が、それぞれ設けられている。引出電極13は、リード部12と同様に、Pt層とTa層とから構成されている。そして、この引出電極13の表面上に、Auからなり、発熱抵抗体5への通電のため外部回路(図示外)との接続を担う一対の接続端子9が形成されている。図1に示すように、接続端子9は、ガスセンサ1の長手方向の一方の縁端寄りの位置に、後述する接続端子10とともに配置されている。
【0017】
次に、図2に示すように、基体15の上面(絶縁被膜層3の保護層35の上面)には、ガス検知部16が形成される。ガス検知部16は、検知電極6と、密着層7と、ガス検知層8とを有する。検知電極6は、図1に示すように、基体15の上面に、櫛歯状のパターンに形成された一対の電極からなり、互いに非接触となるように、一方の電極の櫛歯形状をなす部位の間に他方の電極の櫛歯形状をなす部位が配置されている。検知電極6は、基体15の厚み方向において、発熱抵抗体5と重なる位置に配置されている。この検知電極6を構成する一対の電極は、ガス検知層8を介し、互いに電気的に接続されている。
【0018】
図2に示す、密着層7は、基体15(保護層35)の上面に、凹凸構造を有する薄膜として形成されている。なお、密着層7は、検知電極6の周囲には存在しない。密着層7はアルミナから形成され、ガス検知層8と保護層35との間の密着性を向上させて、ガス検知層8の剥離を防止する。
【0019】
次に、ガス検知層8は、金属酸化物半導体のSnOを主成分とし、被検知ガス中の特定ガスによって自身の電気的特性(具体的には電気抵抗値)が変化する性質を有するガス感応膜であり、検知電極6を覆って密着層7上に形成されている。ガス検知層8は、被検知ガス中に含まれ得るCHCOOCや、NH、HS、(CH、CHSH、(CH)Nなどの特定ガスの有無や濃度に応じ、自身の電気抵抗値が変化する。なお、このガス検知層8を覆って、ガス検知層8を被毒から保護するためのコーティングが施されていてもよい。
【0020】
また、図1に示すように、基体15(保護層35)の上面には、上記の検知電極6を構成する一対の電極間への通電を行うため、検知電極6と接続する一対のリード部11のパターンが形成されている。図4に示すように、各リード部11の末端の表面上に、Auからなり、外部回路(図示外)との接続を担う一対の接続端子10が形成されている。検知電極6およびリード部11も、上記の発熱抵抗体5およびリード部12と同様に、Pt層とTa層とから構成された2層構造を有する。
【0021】
このような構造を有する本実施の形態のガスセンサ1では、上記のように、ガス検知層8の主成分として、金属酸化物半導体のSnOを用いている。SnOは、同様の金属酸化物半導体のWOと比べ、ベース抵抗値が小さいものの、感度が低い。換言すると、特定ガスを検知したときに変化する抵抗値の変化幅が小さい。発明者等によれば、SnOが不純物としてFe、PbおよびBiを含有する場合、ガス検知層8のベース抵抗値が増加したり、ガス検知層8が有毒物に被毒した際に感度が低下する度合い(「劣化割合」ともいう。)が大きくなったりする虞がある。
【0022】
後述する実施例1の評価1,評価2によると、ガス検知層8に対し公知のICP(誘導結合プラズマ;Inductively Coupled Plasma)発光分光分析を行った場合に、ガス検知層8に含まれるFe、Pb、およびBiの合計の含有量が、SnOとFe、Pb、およびBiの合計量に対し、0.030質量%未満であれば、ガス検知層8のベース抵抗値を小さい状態に維持できることや、被毒に対する耐性(被毒耐性)を高めることができることがわかった。もっとも、ガスセンサ1を製造するにあたり、純度の高い原材料を用いてSnOを調製すれば、Fe、Pb、およびBiの合計の含有量を0.030質量%未満とすることは、数値上、容易に達成可能である。しかし、現実には、ガスセンサ1の製造過程において、不純物が思わぬところからSnOに混入する場合があり、結果的に、製品のガス検知層8におけるFe、Pb、およびBiの合計の含有量が、0.030質量%以上となってしまう虞がある。こうした不純物の混入を抑制するには、特にガス検知層8を形成する過程において、使用する器具や装置を厳選することや、それらの使用方法や手順についても十分に注意を払うことが肝要である。そこで、本実施の形態では、実施例1に説明する製造工程に従ってガスセンサ1を製造し、SnOへの不純物の混入を抑制するために積極的な気遣いを行うことで、Fe、Pb、およびBiの合計の含有量を、SnOとFe、Pb、およびBiの合計量に対し、0.030質量%未満に抑えたガス検知層8を形成している。
【実施例1】
【0023】
以下、ガスセンサ1の製造工程について説明する。なお、作製途中のガスセンサ1の中間体を、基板と称する。また、各工程の説明に用いる工程名に付した括弧内の数字は、各工程の実施順序を示している。
【0024】
(1) シリコン基板2の洗浄
まず、厚みが400μmのシリコン基板2を洗浄液中に浸し、洗浄処理を行った。
【0025】
(2) 絶縁層31,41の形成
上記シリコン基板2を熱処理炉に入れ、熱酸化処理にて厚さが100nmのSiO膜からなる絶縁層31,41をシリコン基板2の両面(上面および下面)に形成した。
【0026】
(3) 絶縁層32,42の形成
次に、LP−CVDにてSiHCl、NHをソースガスとし、絶縁層31,41それぞれの表面上に、厚さが200nmのSi膜からなる絶縁層32,42を形成した。
【0027】
(4) 絶縁層33の形成
次に、プラズマCVDにてTEOS、Oをソースガスとし、絶縁層32の表面上に厚さが100nmのSiO膜からなる絶縁層33を形成した。
【0028】
(5) 発熱抵抗体5およびリード部12の形成
その後、DCスパッタ装置を用い、絶縁層33の表面上に厚さ20nmのTa層を形成し、その層上に厚さ220nmのPt層を形成した。スパッタ後、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、ウエットエッチング処理で発熱抵抗体5およびリード部12のパターンを形成した。
【0029】
(6) 絶縁層34の形成
そして、(4)と同様に、プラズマCVDにてTEOS、Oをソースガスとし、絶縁層33、発熱抵抗体5およびリード部12の表面上に、厚さが100nmのSiO膜からなる絶縁層34を形成した。このようにして、厚さ200nmのSiO膜からなる絶縁層33,34内に、発熱抵抗体5およびリード部12を埋設した。
【0030】
(7) 保護層35の形成
さらに、(3)と同様に、LP−CVDにてSiHCl、NHをソースガスとし、絶縁層34の上面に、厚さが200nmのSi膜からなる保護層35を形成した。
【0031】
(8) 接続端子9の開口の形成
次いで、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、ドライエッチング法で保護層35および絶縁層34のエッチングを行い、接続端子9の形成を予定する部分にスルーホール14を開け、リード部12の末端の一部を露出させた。
【0032】
(9) 検知電極6,リード部11および引出電極13の形成
次に、DCスパッタ装置を用い、保護層35の表面上に厚さ20nmのTa層を形成し、さらにその表面上に厚さ40nmのPt層を形成した。スパッタ後、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、ウエットエッチング処理にて、櫛歯状の平面形状を有する検知電極6およびリード部11のパターンを形成した。また、(8)で形成したスルーホール14内および周辺にもTa層およびPt層を形成し、リード部12の末端を保護層35の上面側に引き出す引出電極13のパターンを形成した。
【0033】
(10) 接続端子9,10の形成
そして、DCスパッタ装置を用い、上記電極部分が作製された基板の電極側の表面上に、厚さ400nmのAu層を形成した。スパッタ後、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、ウエットエッチング処理で接続端子9,10を形成した。これにより、接続端子9はリード部12の末端と電気的に接続され、接続端子10は、引出電極13を介し、リード部11の末端と電気的に接続された。
【0034】
(11) 開口部21の形成
次いで、フォトリソグラフィによりレジストのパターニングを行い、マスクとなる絶縁膜(図示外)をドライエッチング処理により形成した。そしてTMAH溶液中に基板を浸し、シリコン基板2の異方性エッチングを行って下面側を開口し、発熱抵抗体5の配置位置に対応する部分の絶縁層31を凹部底面に露出させた開口部21を形成した。
【0035】
(12) 密着層7の形成
櫛歯状の検知電極6および保護層35上に、密着層7となるヒロックAl膜をスパッタリング法により成膜する。次いで、フォトリソグラフィによるレジストパターニング後、検知電極6の上面および周囲面に接するAl膜を、リン酸を主としたウェットエッチング処理により除去する。その後、Al膜に酸化処理を施してAl膜とし、密着層7を櫛歯電極6の間およびその周囲の保護層35上に形成した。
【0036】
(13) 基板の切断
ダイシングソーを用いて基板を切断し、平面視矩形で2.6mm×2mmの大きさにした。
【0037】
(14) ガス検知層8の形成
(a) 加水分解
純水600gにSnCl・5HOを30g溶解させて調製したSnイオン含有溶液に、NHOHを滴下し、中和反応にて析出物を沈殿させた。ここで、Snイオン含有溶液の調製にあたって、純水中にSnCl・5HOを投入したり攪拌したりする際に、本実施の形態では、一般的に用いられるステンレス製のサジを使用せず、フッ素樹脂製のものを使用した。また、Snイオン含有溶液の溶媒としても、上記のように純水(より好ましくは超純水)を用い、Snイオン含有溶液中に不純物(特にFe)が混入しないように極力気を付けた。
【0038】
(b) 析出物の洗浄
上記(a)で得られた析出物をろ過して媒体から分離した後、純水でよく洗浄し、次いで乾燥させた。
【0039】
(c) ペースト調製
乾燥した上記の析出物を、らいかい機で1時間粉砕した後、適量の有機溶剤と混合し、らいかい機あるいはポットミルで4時間粉砕後、バインダーおよび粘度調整剤を適量添加し、さらに4時間粉砕してペーストを調製した。
【0040】
(d) ペースト塗布
調製したペーストを、膜厚印刷により、基板上の密着層7および検知電極6の表面に塗布し、未焼成のガス検知層8を形成した。
【0041】
(e) ガス検知層8の焼成
熱処理炉にガス検知層8が塗布された基板を挿入し、一般大気中、600℃で1時間焼成した。ところで、一般的に、ガスセンサの製造に用いられる熱処理炉として、一品番のガスセンサの製造のみに用いる専用の熱処理炉が用意されることは少なく、他の品番のガスセンサや、その他の製品や部品の製造にも共用利用される汎用の熱処理炉が用いられることが多い。こうした場合に、他の品番のガスセンサや他の製品の材料として使用された、本実施の形態のガスセンサにとっての不純物(特にPbやBi)が、熱処理炉内にて揮発し残留している虞がある。ゆえに、本実施の形態では、ガス検知層8の焼成を行う前に、熱処理炉をガス検知層6の焼成温度以上で仮焼きを行い、かつ、熱処理炉内の清掃と換気を、念入りに、行った。このように基板ごとガス検知層8の焼成を行って、図1に示す、ガスセンサ1が完成した。
【0042】
次に、上記製造工程に従いガスセンサ1を作製し、ガス検知層8をICP発光分光分析した場合に、Fe、Pb、およびBiの合計の含有量が、SnOと、Fe、Pb、およびBiの合計量に対し、0.030質量%未満となるようにしたことによる効果を確認するため評価試験を行った。
【0043】
[評価試験1]
まず、ガス検知層8に含まれるFe、Pb、およびBiの合計量の違いがガス検知層8のベース抵抗値に及ぼす影響について確認するため、評価試験を行った。この評価試験では、上記ガスセンサ1の製造工程に従い、ガス検知層8を形成する過程において、不純物としてSnOにFe、Pb、Biが混入しないよう極力気を遣って作製したガスセンサのサンプルを用意し、サンプル1とした。また、比較用に、上記ガスセンサ1の製造工程で、ガス検知層8を形成する過程において、SnOへのFe、Pb、Biの混入に対し、特に気を遣わずに作製したガスセンサのサンプルを複数用意した。そして、作製した各サンプルのガス検知層をICP発光分光分析し、SnOとFe、Pb、Biの合計量に対するFe、Pb、Biそれぞれの含有量を測定し、合計の含有量を求めた。表1に示すように、サンプル1では、ガス検知層におけるFe、Pb、Biそれぞれの含有量が、いずれも0.001質量%未満であった。なお、表1において、「<」は「未満」を示すが、実際にはICP発光分光分析にて検出されなかった(検出限界)ことを意味する。よって、サンプル1のFe、Pb、Biの合計の含有量は、0.003質量%に満たない。また、サンプル1との対比のため、Fe、Pb、Biの合計の含有量が、0.027,0.030,0.035,0.300[質量%]であったサンプルを抽出し、それぞれ表1に示すように、サンプル2,3,4,5とした。
【0044】
【表1】

【0045】
次に、温度25℃、相対湿度40%RHで、Oを20.9Vol%としたOとNとの混合ガスをベースガスとして用い、このベースガス雰囲気中に各サンプル1〜5を晒す。そして、各サンプル1〜5の発熱抵抗体の温度を350℃に制御しつつ、検知電極間に電流を流し、ガス検知層のベース抵抗値をそれぞれ測定した。なお、ここで測定されるベース抵抗値は、厳密にはガス検知層の検知電極間に介在する部分の抵抗値となる。ベース抵抗値の測定結果を図5の対数グラフに示す。
【0046】
図5に示すように、ガス検知層におけるFe、Pb、Biの合計の含有量が増えるに従い、ベース抵抗値が増加する傾向がみられた。Fe、Pb、Biの合計の含有量が0.1質量%未満のサンプル1〜4は、ベース抵抗値が1000kΩ前後であった。そのうちのサンプル1,2は、1000kΩ以下のベース抵抗値を確保できたが、サンプル3,4は、ベース抵抗値が1000kΩを上回った。ガス検知層のベース抵抗値が小さければ扱う電流も小さくて済み、ガスセンサの周辺回路に安価な電子部品を使用できるが、一般に、ガス検知層のベース抵抗値が1000kΩ以下であることが、安価な電子部品を使用する上での一つの目安とされている。この評価試験1の結果から、ガス検知層におけるFe、Pb、Biの合計の含有量が0.030質量%未満であれば、ベース抵抗値を1000kΩ以下とすることができ、好ましいことが確認された。
【0047】
[評価試験2]
次いで、ガス検知層8に含まれるFe、Pb、およびBiの合計量の違いが、ガス検知層8の被毒耐性に及ぼす影響について確認するため、評価試験を行った。この評価試験では、まず、サンプル1〜5を上記のベースガス雰囲気中に晒し、発熱抵抗体の温度を350℃に制御して、ガス検知層のベース抵抗値(Rair1)を測定した。さらに、被検知ガスとして酢酸エチル1ppmをベースガス中に打ちこみ、10秒後に、ガス検知層のガス抵抗値(Rgas1)を測定した。そして感度(Rgas1/Rair1)を求め、これを初期状態におけるガス検知層の感度(初期感度)とした。前述したとおり、感度の良否(高低)は1が基準であるため、初期感度を1から減算した値{1−(Rgas1/Rair1)}を、初期感度の変化幅として求めた。
【0048】
次に、ベースガスにヘキサメチルジシラザン(HMDS)10ppmを混合した雰囲気中にサンプル1〜5を30分間曝露し、ガス検知層をSiに被毒させた。Si被毒後に、再度、ガス検知層の感度測定を行った。すなわち、上記同様の条件で、ガス検知層のベース抵抗値(Rair2)と、ガス抵抗値(Rgas2)を測定し、感度(Rgas2/Rair2)を求め、これを被毒後におけるガス検知層の感度(被毒感度)とした。そして、被毒感度を1から減算した値{1−(Rgas2/Rair2)}を、被毒感度の変化幅として求めた。
【0049】
さらに、初期感度に対する被毒感度の変化率(感度低下の度合い)を、劣化割合として、(1)の式から求めた。
【数1】

各サンプル1〜5の劣化割合について求めた結果を図6のグラフに示す。
【0050】
図6に示すように、ガス検知層におけるFe、Pb、Biの合計の含有量が増えるに従い、劣化割合が増加する傾向がみられた。Fe、Pb、Biが検出されなかった(合計の含有量が0.003質量%未満)サンプル1は、Si被毒後の被毒感度の変化幅が、初期感度の変化幅からほとんど変わらず、劣化割合が0%であった。Fe、Pb、Biの合計の含有量が0.027質量%のサンプル2は、劣化割合が25%であり、比較的良好な被毒耐性を有することがわかった。しかし、Fe、Pb、Biの合計の含有量が0.030質量%以上のサンプル3〜5は、いずれも劣化割合が50%を越え、望ましい被毒耐性を得られないことがわかった。ガス検知層の表面に不純物が析出すると、Siが不純物に吸着してガス検知層の被検知ガスとの結合サイトを塞ぎ、結合に必要なスペースを確保し辛くさせてしまうため、感度低下を招くと推測される。ゆえに、この評価試験2の結果から、ガス検知層におけるFe、Pb、Biの合計の含有量が0.030質量%未満であれば、ガス検知層が良好な被毒耐性を確保できることがわかった。
【0051】
なお、本発明は上記実施の形態に限られず、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々の変更を加えてもよい。例えば、基体15のシリコン基板2は、シリコンから作製したが、アルミナや、その他の半導体材料から作製してもよい。また、ガスセンサ1の平面形状は矩形に限らず、任意の形状をなしてもよく、その大きさ、厚み、各部材の配置についても限定されるものではない。
【0052】
また、絶縁被膜層3,4を、SiO膜とSi膜からなる複層構造としたが、SiO膜またはSi膜からなる単層構造としてもよい。また、発熱抵抗体5を絶縁層33と絶縁層34の間に埋設したが、ガス検知部16を効率よく加熱できる位置に配置されていればよい。また、ガス検知層8における不純物の測定にICP発光分光分析を用いたが、原子吸光分析など、他の分析法を用いてもよい。
【符号の説明】
【0053】
1 ガスセンサ
8 ガス検知層
15 基体
16 ガス検知部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検知ガス中の特定ガスの濃度変化に応じて電気的特性が変化する金属酸化物半導体を主成分とし、前記特定ガスの濃度検知を行うガス検知層を有するガスセンサにおいて、
前記金属酸化物半導体はSnOであり、
前記ガス検知層をICP発光分光分析した場合に、前記ガス検知層に含まれるFe、Pb、およびBiの合計の含有量が、SnOとFe、Pb、およびBiの合計量に対し、0.030質量%未満であることを特徴とするガスセンサ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−276451(P2010−276451A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−128877(P2009−128877)
【出願日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】