説明

ガラス回路基板及びガラス回路基板の製造方法

【課題】 コールドスプレー法によってガラス基板の貫通孔または凹部に導電性金属粒子を付着堆積させて電極または配線を形成した、ガラス基板と電極または配線との密着力が高いガラス回路基板及びその製造方法を実現する。
【解決手段】 ガラス基板11の凹部13に、ガラス基板11よりも硬質または弾性率が高い、例えば、チタン系材料である純Ti、TiN、TiC、TiCN、TiAlNなどにより中間層14を形成し、コールドスプレー法により導電性金属粒子を付着堆積させて金属配線16を形成する。導電性金属粒子が中間膜14に衝突した際のエネルギーが、導電性金属粒子の塑性変形に有効に利用されるので、導電性金属粒子を十分に塑性変形させることができ、ガラス基板11に対する金属配線16の密着力を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の貫通孔または凹部に電極または配線を備えたガラス回路基板及びガラス回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、各種回路基板に設けられた貫通孔または凹部に、金属層を設け電極または配線を形成する方法として、スパッタ法、めっき法、導電ペーストなどが一般的に用いられてきた。上述の形成方法は、例えば、スパッタ法は金属層の成長が遅く厚膜の形成には不向きである、めっき法は貫通電極を形成する場合に中心部に空孔が生じやすい、導電ペーストは、緻密な金属層の形成が困難であり、抵抗が高くなる傾向があるなどの課題があるため、近年、新しいプロセスとして、金属微粒子原料をガスと混合してエアロゾル化し、これを細いノズルを通して基板に高速で噴出して成膜する技術であるエアロゾルデポジション法を用いて電極などを形成する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、エアロゾルデポジション法を用いてスルーホールおよびビアホールに金属電極柱を形成する方法が開示されている。 しかし、エアロゾルデポジション法ではエアロゾル化が可能な微粒子を用いる必要があるため、使用可能な粒子径の上限は、粒径1μm程度の微粒子であり、粉末コストの低減ができないという問題があった。また、ノズル噴射口の面積が小さい微小ノズルを使用するため生産性が低いという問題があった。
本発明者らは上記のような問題点を解決するため、コールドスプレー法によって貫通孔または凹部に導電性金属粒子を付着堆積させて充填する方法を発明した(特許文献2)。コールドスプレー法とは、材料粉末の融点または軟化温度よりも低い温度のガス流に粉末を投入して、材料粉末を固相状態のまま基材に衝突させてその衝突エネルギーにより基材と粒子に塑性変形を生じさせて粒子を付着堆積する成膜技術であり、これによって得られた導電性金属膜は緻密で密度が高く、酸化や熱変質も少ないため熱伝導性、電気伝導性が良好であるという特徴を有する。このコールドスプレー法を用いて貫通孔または凹部を有する電子部品用の電子回路基板を製造することによって、環境負荷が小さく、導電性金属粒子に係る材料費および設備費などの総合的な費用を大幅に低減できると共に、生産性を向上し、金属配線の品質を改良することが可能になった。
【特許文献1】特開2005−244005号公報
【特許文献2】特願2008−049931号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献2に記載の発明では、アルミナ、窒化アルミ、窒化珪素、炭化珪素、酸化ジルコニウムなどの各種セラミックス基板材料に形成された貫通孔または凹部に導電性金属粒子を充填する方法として、コールドスプレー法により導電性金属粒子を固相状態のまま塑性変形させて緻密に付着堆積する方法を提案した。しかし、その後鋭意研究を重ねた結果、基板材料がガラスの場合には、前記各種セラミックス材料と比較して、導電性金属粒子が貫通孔または凹部に付着する付着力が弱いため、導電性金属粒子が貫通孔または凹部に付着堆積しない、または、充填された電極または配線の付着力が弱く基板から脱落しやすいという問題があることが明らかになった。
【0004】
そこで、本発明は、コールドスプレー法によってガラス基板の貫通孔または凹部に導電性金属粒子を付着堆積させて電極または配線を形成した、ガラス基板と電極または配線との密着力が高いガラス回路基板及びその製造方法を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、貫通孔または凹部が形成されたガラス基板からなり、前記ガラス基板よりも硬質または弾性率が高い材料により前記貫通孔または凹部の内面を覆って形成された中間膜と、コールドスプレー法により前記貫通孔または凹部に前記中間膜を介して導電性金属粒子を付着堆積させて形成された電極または配線と、を備えた、という技術的手段を用いる。
【0006】
コールドスプレー法により基板に形成された貫通孔または凹部に導電性金属粒子を付着堆積させて電極または配線を形成する場合には、導電性金属粒子が貫通孔または凹部に付着する付着力が弱いため、導電性金属粒子が貫通孔または凹部に付着堆積しない、または、充填された電極または配線の付着力が弱く基板から脱落しやすいという問題があった。 ガラス基板は、アルミナ、窒化アルミなどのセラミックス基板材料と比較して、硬さが1/3〜1/4程度と軟らかく、ヤング率は1/5〜1/6程度であるため、導電性金属粒子が衝突した際のエネルギーの一部がガラス表面の弾性変形に消費されてしまい、導電性金属粒子自体の変形が減少して緻密に堆積しなくなるためと考えられる。請求項1に記載の発明によれば、ガラス基板に形成された貫通孔または凹部の内面をガラス材料よりも硬質または弾性率が高い材料により覆って形成された中間膜を介して、コールドスプレー法により導電性金属粒子を付着堆積させて電極または配線が形成されているため、導電性金属粒子が中間膜に衝突した際のエネルギーが、導電性金属粒子の塑性変形に有効に利用されるので、導電性金属粒子を十分に塑性変形させることができ、ガラス基板に対する電極または配線の密着力を向上させることができる。なお、中間層は1層に限定されるものではなく、複数層に形成されているものも含む。
【0007】
請求項2に記載の発明では、請求項1に記載のガラス回路基板において、前記中間膜が、Ti、TiN、TiC、TiCN、TiAlNからなる群より選ばれた少なくとも1種類を含む膜で形成されている、という技術的手段を用いる。
【0008】
請求項2に記載の発明のように、中間膜をチタン系材料により形成することができる。これらのチタン系材料はガラスや金属との親和性が高く、PVD法(物理蒸着法)やCVD法(化学蒸着法)などの公知の方法によってガラス回路基板の表面に強固に密着した膜を容易に形成できるので、ガラス基板と電極または配線との密着力を向上させることができる。また、チタン系材料の熱膨張係数は、ガラス基板と導電性金属粒子により形成される電極または配線の熱膨張係数のほぼ中間の値であることから、両者の熱膨張差を緩和することができるため、ガラス基板と電極または配線との間に生じる熱応力を低減することができ、ガラス回路基板の熱的負荷に対する耐久性も向上させることができる。
【0009】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載のガラス回路基板において、前記中間膜と、前記電極または配線との間に、Cu、Alのうち1または2種を主成分とする第2の中間膜が形成されている、という技術的手段を用いる。
【0010】
チタン系材料からなる中間膜の熱膨張係数は、導電性金属粒子により形成される電極または配線の熱膨張係数よりも小さいため、両者の界面が十分に密着した状態でないと電極または配線の脱落や欠損につながるおそれがある。請求項3に記載の発明のように、中間膜と電極または配線との間に、導電性金属粒子と親和性が高いCu、Alのうち1または2種を主成分とする第2の中間膜を形成することにより、中間膜と電極または配線との熱膨張差を緩和することができるため、中間膜と電極または配線との密着力を向上させることができる。
【0011】
請求項4に記載の発明では、請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載のガラス回路基板において、前記導電性金属粒子が、Cu、Al、Au、Ag、Pd、Sn、Ni、Znのうち1または2種以上を主成分とする金属粉末である、という技術的手段を用いる。
【0012】
請求項4に記載の発明のように、導電性金属粒子として、Cu、Al、Au、Ag、Pd、Sn、Ni、Znのうち1または2種以上を主成分とする金属粉末を用いることができる。これらの導電性金属粒子は、電気抵抗率が低く配線または電極として好適であるとともに、軟質で塑性変形が容易であるため、ガラス基板と電極または配線との密着力を向上させることができる。
【0013】
請求項5に記載の発明では、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載のガラス回路基板において、前記凹部に形成された配線により、抵抗、コンデンサ、インダクタのうち少なくとも1種が形成されている、という技術的手段を用いる。
【0014】
請求項5に記載の発明のように、凹部に形成された配線により、抵抗、コンデンサ、インダクタのうち少なくとも1種を形成することができる。
【0015】
請求項6に記載の発明では、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載のガラス回路基板において、前記凹部に形成された配線により、アンテナが形成されている、という技術的手段を用いる。
【0016】
請求項6に記載の発明のように、凹部に形成された配線により、アンテナを形成することができる。凹部に形成された配線は、厚い膜として形成することができるため、寄生抵抗を小さくすることができる。アンテナを形成する配線の間がガラスであり容量及び抵抗が高いため、配線間の相互干渉を低減することができる。これらにより、アンテナのQ値(Quality Factor)を高くすることができ、高性能のアンテナを形成することができる。
【0017】
請求項7に記載の発明では、請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載のガラス回路基板において、前記貫通孔に形成された電極により、デバイスが形成された他の半導体基板と電気的に接続されている、という技術的手段を用いる。
【0018】
請求項7に記載の発明のように、貫通孔に形成された電極により、デバイスが形成された他の半導体基板と接合されたガラス回路基板を実現することができる。貫通孔に形成された電極は、ガラス基板との密着力が高く、空孔などの欠陥が導入されにくいため、デバイスが形成された他の半導体基板と電気的に接続することにより、信頼性の高いガラス回路基板を用いた半導体装置を構成することができる。
【0019】
請求項8に記載の発明では、ガラス基板に貫通孔または凹部を形成する貫通孔・凹部形成工程と、前記ガラス基板よりも硬質な材料により前記貫通孔または凹部の内面を覆う中間膜を形成する中間膜形成工程と、コールドスプレー法により前記貫通孔または凹部に前記中間膜を介して導電性金属粒子を付着堆積させて電極または配線を形成する電極・配線形成工程と、を備えた、という技術的手段を用いる。
【0020】
請求項8に記載の発明によれば、貫通孔・凹部形成工程によりガラス基板に貫通孔または凹部を形成し、中間膜形成工程によりガラス材料よりも硬質な材料により貫通孔または凹部の内面を覆う中間膜を形成し、電極・配線形成工程によりコールドスプレー法により前記貫通孔または凹部に前記中間膜を介して導電性金属粒子を付着堆積させて電極または配線を形成することができる。これにより、請求項1に記載の発明と同様に、ガラス基板に対する電極または配線の密着力が高いガラス回路基板を製造することができる。
【0021】
請求項9に記載の発明では、請求項8に記載のガラス回路基板の製造方法において、前記貫通孔・凹部形成工程において、ガラス基板の表面にブラスト法によって加工するためのレジストマスクを形成し、ブラスト法によって貫通孔または凹部を形成し、前記電極・配線形成工程において導電性金属粒子を付着堆積させた後に、前記レジストマスクを剥離し、電極または配線を形成する、という技術的手段を用いる。
【0022】
請求項9に記載の発明によれば、簡易な装置で能率良く加工することができ、ガラス基板の加工に好適なブラスト法によりガラス基板に貫通孔または凹部を形成することができる。また、ガラス基板表面にレジストマスクを残したままで中間膜及び電極または配線を形成するため、貫通孔または凹部以外の不要な部分への中間膜及び導電性金属粒子の付着を防止することができる。更に、貫通孔または凹部のみにノズルを近づけてコールドスプレーを行う必要がないとともに、各工程で同じレジストマスクを使用できることから、工程が簡略化され製造コストを削減することができる。
【0023】
請求項10に記載の発明では、請求項8または請求項9に記載のガラス回路基板の製造方法において、前記中間膜が、Ti、TiN、TiC、TiCN、TiAlNからなる群より選ばれた少なくとも1種類を含む膜で形成されている、という技術的手段を用いる。
【0024】
請求項10に記載の発明のように、中間膜をチタン系材料により形成することができる。これらのチタン系材料はガラスや金属との親和性が高く、PVD法(物理蒸着法)やCVD法(化学蒸着法)などの公知の方法によってガラス回路基板の表面に強固に密着した膜を容易に形成できるので、ガラス基板と電極または配線との密着力を向上させることができる。また、チタン系材料の熱膨張係数は、ガラス基板と導電性金属粒子により形成される電極または配線の熱膨張係数のほぼ中間の値であることから、両者の熱膨張差を緩和することができるため、ガラス基板と電極または配線との間に生じる熱応力を低減することができ、ガラス回路基板に対する熱的負荷に対する耐久性も向上させることができる。
【0025】
請求項11に記載の発明では、請求項10に記載のガラス回路基板の製造方法において、前記中間膜と、前記電極または配線との間に、Cu、Alのうち1または2種を主成分とする第2の中間膜が形成されている、という技術的手段を用いる。
【0026】
請求項11に記載の発明のように、中間膜と電極または配線との間に、導電性金属材料と親和性が高いCu、Alのうち1または2種を主成分とする第2の中間膜を形成することにより、中間膜と電極または配線との熱膨張差を緩和することができるため、中間膜と電極または配線との密着性を向上させることができる。
【0027】
請求項12に記載の発明では、請求項8ないし請求項11のいずれか1つに記載のガラス回路基板の製造方法において、前記導電性金属粒子が、Cu、Al、Au、Ag、Pd、Sn、Ni、Znのうち1または2種以上を主成分とする金属粉末である、という技術的手段を用いる。
【0028】
請求項12に記載の発明のように、導電性金属粒子として、Cu、Al、Au、Ag、Pd、Sn、Ni、Znのうち1または2種以上を主成分とする金属粉末を用いることができる。これらの導電性金属粒子は、電気抵抗率が低く配線または電極として好適であるとともに、軟質で塑性変形が容易であるため、ガラス基板と電極または配線との密着力を向上させることができる。
【0029】
請求項13に記載の発明では、請求項8ないし請求項12のいずれか1つに記載のガラス回路基板の製造方法において、前記電極・配線形成工程において、前記コールドスプレー法において使用するガスが窒素または圧縮空気であって、前記貫通孔または凹部の開口面に対して衝突するガス流量が10〜40L/(min・mm)である、という技術的手段を用いる。
【0030】
請求項13に記載の発明のように、電極・配線形成工程において、コールドスプレー法において使用するガスが窒素または圧縮空気であって、貫通孔または凹部の開口面に対して衝突するガス流量が10〜40L/(min・mm)とすることができる。コールドスプレー法に使用されるガスとして窒素または圧縮空気を用いた場合、ガス流量が10L/(min・mm)に満たない場合には電極または配線を形成することが困難であり、40L/(min・mm)を超えると噴射圧によってガラス回路基板に大きな割れや欠けが生じるため、10〜40L/(min・mm)の範囲が好適である。
【0031】
請求項14に記載の発明では、請求項8ないし請求項13のいずれか1つに記載のガラス回路基板の製造方法において、前記導電性金属粒子の平均粒子径は2〜30μmであること、という技術的手段を用いる。
【0032】
請求項14に記載の発明にように、導電性金属粒子は、平均粒子径は2〜30μmであるものを用いることができる。導電性金属粒子の平均粒子径が2μm未満では粒子の慣性力が小さいため、ガスの反流によって跳ね返されたり、高圧のガスが停滞して形成される淀み部を突き抜けて基板に到達することが難しく付着効率が低下し、30μmを超えると粒子がガス流によって十分加速されず付着効率が低下する。これにより、導電性金属粒子は、平均粒子径は2〜30μmであるものを好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態について図を参照して説明する。本実施形態では、ガラス基板の表面に金属配線を形成する。図1は、本発明に用いたコールドスプレー装置の概略図である。図2及び図3は、ガラス基板の表面に金属配線を形成する工程を示す断面説明図である。図4は、アンテナが形成されたガラス回路基板を示す説明図である。
【0034】
図1に示すように、コールドスプレー装置100は、大別して高圧ガス供給装置107、ガス加熱装置109、混合部110、粉末供給装置113、ノズル115を備えている。高圧ガス供給装置107から供給されたガスは、元圧を圧力調整器108で調節した後、ガス加熱装置109に導入され、必要に応じて加熱される。供給されたガスは、混合部110において粉末供給装置113から供給された粉末と混合され、ノズル115を通過する間に超音速まで加速され、ガラス回路基板に対して噴出される。ガス加熱装置109で加熱された温度はガス温度センサー111で測定し、ノズル入口側の圧力はガス圧力センサー112によって測定する。粉末供給装置113の機構は公知の各種方法を用いることができる。また、粉末供給装置113には粉末を搬送するためのキャリアガス供給装置114によりキャリアガスが導入される構造となっていて、キャリアガスを介して混合部110に粉末が供給される。
【0035】
次に、ガラス基板に配線パターンを形成する方法について説明する。まず、図2(A)に示すように、ガラス基板11の表面11aに、形成する金属配線パターンに対応したレジストマスク12を形成する。ここで、ガラス基板材料としては、硼珪酸ガラス、鉛ガラス、ソーダガラスなどを用いることができる。
【0036】
次に、図2(B)に示す貫通孔・凹部形成工程では、ガラス基板11の表面11aにブラスト加工を行い、レジストマスク12の開口部分に対応して凹部13を形成する。
【0037】
続いて、図2(C)に示す中間膜形成工程では、レジストマスク12を残した状態で凹部13の内面にガラス基板11よりも硬質または弾性率が高い材料により中間膜14を形成する。中間膜14としては、チタン系材料である純Ti、TiN、TiC、TiCN、TiAlNなどを好適に用いることができる。中間膜14は、例えば、スパッタリング法、イオンプレーティング法などのPVD法により形成する。これらの方法は、ガラス基板11との密着性が高い中間膜14を形成するために好適である。ここで、中間膜14の膜厚は0.05〜2μmが好適である。また、中間層14は単層に限定されるものではなく、複数層形成することもできる。
【0038】
続いて、図2(D)に示すように、中間膜14を覆って、例えばスパッタ法により、第2の中間膜15を形成する。第2の中間膜15は、Cu、Alのうち1または2種を主成分とする金属膜であり、単層でも複数層でもよい。例えば、Cu膜を用いる場合には0.1μm、Al膜を用いる場合には1μmになるように膜厚を調整することができる。
【0039】
続いて、図3(E)に示す電極・配線形成工程では、ガラス基板11をコールドスプレー装置100の基材保持部117に固定した後に、レジストマスク12を残した状態でコールドスプレー法により導電性金属粒子を噴射させて、凹部13に固相状態のまま付着堆積させ、金属配線16を形成する。
【0040】
導電性金属粒子の材料としては、電気抵抗率が低く、密着力向上のために軟質で塑性変形が容易な材料が好ましく、Cu、Al、Au、Ag、Pd、Sn、Ni、Znのうち1または2種以上を主成分とする金属粉末を好適に用いることができる。また、金属配線16は単層に限定されるものではなく、複数層で構成することもできる。
【0041】
続いて、図3(F)に示すように、レジストマスク12を剥離し、金属配線16を形成する。この段階では、金属配線16は、ガラス基板11の表面11aから突出した領域を有している。
【0042】
必要に応じて、図3(G)に示すように、ガラス基板11の表面11aから突出した領域を研削または研磨加工により平坦にし、ガラス基板11の表面11aから突出する領域がない金属配線16を形成することができる。
【0043】
以上の工程を経て、ガラス回路基板20を供することができる。上述の工程では、簡易な装置で能率良く加工することができガラス基板の加工に好適なブラスト法により、ガラス基板11に凹部12を形成することができる。また、ガラス基板11の表面11aにレジストマスク12を残したままで中間膜14及び金属配線16を形成するため、凹部12以外の不要な部分への中間膜14及び導電性金属粒子の付着を防止することができる。更に、凹部12のみにノズルを近づけてコールドスプレーを行う必要がないとともに、各工程で同じレジストマスク12を使用できることから、工程が簡略化され製造コストを削減することができる。
【0044】
電極・配線形成工程において、ガラス基板11はコールドスプレー装置100の基材保持部117に固定されるが、固定方法は締結、接着、吸引などの公知の方法を適宜用いることができる。また、ガラス基板11を加熱する必要がある場合は、加熱ヒータ118を基材保持部117の内部に組み込むことができるが、適宜公知の方法を利用すれば良い。本発明によって金属配線16を形成する場合には、ガラス基板11の加熱は必ずしも必要ではないが、300℃以下の範囲で加熱することによりガラス基板11の温度分布を均一にすることができ好ましい。
【0045】
コールドスプレー法に使用されるガスの種類として、導電性金属粒子を効率よく加速するためには比重が小さなヘリウムが好適であるが、窒素、圧縮空気などを使用することもできる。
【0046】
導電性金属粒子の材料としては、電極として要求される特性に応じて、Pt、Fe、Ti、Cr、Mn、Co、Zr、Mo、Wなどの元素を1種類以上含む合金材料粉末または、混合粉末を使用することも可能である。
【0047】
本発明に使用される導電性金属粒子は、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、湿式法、電解法など各種製法によって作製された粉末を使用することができるが、粉末の表面は酸化が少なく清浄であること、および粉末供給装置において十分な流動性が確保できることが好ましい。また、導電性金属粒子の平均粒子径は2〜30μmであることが好ましい。なお、平均粒子径とは、体積基準粒子分布で累積値50%の粒子径を示す。
【0048】
上述のガラス回路基板20の製造方法により、ガラス基板11の表面11aに種々の配線パターンを形成することができる。例えば、金属配線16により、抵抗、コンデンサ、インダクタなどの受動素子を形成することができる。これら受動素子と、他の能動素子を組み合わせることにより、各種機能性素子を作製することができる。金属配線16の一部がガラス基板11の表面11aから突出した構成では、レジストマスク12の厚さ分、例えば、100μm程度の高さの突出部を形成することができ、隣接する金属配線16間でエアアイソレーションの効果を奏することができる。
【0049】
また、金属配線16によりガラス回路基板20上にインダクタ22が形成されたアンテナ21を製造することができる。図4では、インダクタ22としてスパイラルインダクタを用いた例を示す。インダクタ22を形成する金属配線16は、例えば、幅50〜200μm、厚さは幅とのアスペクト比が1以上の程度までの厚い膜として形成することができる。これにより、寄生抵抗を小さくすることができる。また、金属配線16の間がガラスまたは空気であり、容量が小さく抵抗が高いため、金属配線16の相互干渉を低減することができる。これらにより、アンテナ21のL成分の特性を向上させることができるので、アンテナ21のQ値(Quality Factor)を高くすることができる。また、相互干渉を低減することができるため隣接する金属配線16の間隔を狭くすることが可能で、アンテナ21の構成要素としてのインダクタ22の専有面積を小さくすることができるので、アンテナ21を小型化することができる。インダクタ22の形状としては、ループ、メアンダまたはバッチ形状を採用することもできる。
【0050】
(変更例)
本実施形態では、中間層14と金属配線16との間に第2の中間層15を介在させたが、第2の中間層15を用いない構成を採用することもできる。この場合、第2の中間層15よりも中間層14の方が硬質または弾性率が高い材料で構成されているため、導電性金属粒子を十分に塑性変形させることができ、ガラス基板11に対する金属配線16の密着力を向上させることができる。
【0051】
本実施形態では、凹部13は、ブラスト加工により形成したが、これに限定されるものではなく、例えば、ドリル加工、超音波加工、エッチング法など各種の方法で形成することができる。また、凹部13の形状、寸法は、特定の形状、寸法に限定されるものではない。
【0052】
[第1実施形態の効果]
(1)ガラス基板11は、アルミナ、窒化アルミなどのセラミックス基板材料と比較して、硬さが1/3〜1/4程度と軟らかく、ヤング率は1/5〜1/6程度であるため、導電性金属粒子が衝突した際のエネルギーの一部がガラス表面の弾性変形に消費されてしまい、導電性金属粒子自体の変形が減少して緻密に堆積しなくなる。本実施形態では、ガラス基板11よりも硬質または弾性率が高い、例えば、チタン系材料である純Ti、TiN、TiC、TiCN、TiAlNなどにより中間層14を介して、コールドスプレー法により導電性金属粒子を付着堆積させて金属配線16が形成されているため、導電性金属粒子が中間膜14、第2の中間膜15に衝突した際のエネルギーが、導電性金属粒子の塑性変形に有効に利用されるので、導電性金属粒子を十分に塑性変形させることができ、ガラス基板11に対する金属配線16の密着力を向上させることができる。
【0053】
(2)チタン系材料はガラスや金属との親和性が高く、PVD法(物理蒸着法)やCVD法(化学蒸着法)などの公知の方法によってガラス回路基板の表面に強固に密着した膜を容易に形成できるので、ガラス基板11と金属配線16との密着力を向上させることができる。また、チタン系材料の熱膨張係数は、ガラス基板11と金属配線16の熱膨張係数のほぼ中間の値であることから、両者の熱膨張差を緩和することができるため、ガラス基板11と金属配線16との間に生じる熱応力を低減することができ、ガラス回路基板20の熱的負荷に対する耐久性も向上させることができる。
【0054】
(3)中間膜14と金属配線16との間に、導電性金属材料と親和性が高いCu、Alのうち1または2種を主成分とする第2の中間膜15を形成することにより、中間膜14と金属配線16との熱膨張差を緩和することができるため、中間膜14と金属配線16との密着性を向上させることができる。
【0055】
(4)導電性金属粒子として、Cu、Al、Au、Ag、Pd、Sn、Ni、Znのうち1または2種以上を主成分とする金属粉末を用いることができる。これらの導電性金属粒子は、電気抵抗率が低く配線または電極として好適であるとともに、軟質で塑性変形が容易であるため、ガラス基板11と金属配線16との密着力を向上させることができる。
【0056】
[第2実施形態]
本発明の第2実施形態について図を参照して説明する。本実施形態では、ガラス基板を貫通する貫通電極を形成する。図5は、貫通電極の形状を示す断面説明図である。図6は、ガラス回路基板と、ガラス回路基板と貫通電極で接合された半導体基板とからなる半導体装置の説明図である。なお、第1実施形態と同じ構成については、同じ符号を用いるとともに説明を省略する。
【0057】
図5に、本発明における貫通孔の形態を例示する。ガラス回路基板40の厚さ方向を貫通する貫通孔33としては、図5(A)に示すようなストレート形状、図5(B)に示すようなテーパー形状、図5(C)に示すような鼓形状などを採用することができる。
【0058】
貫通電極36は、第1実施形態の金属電極16と同様の工程で形成することができる。電極・配線形成工程においては、貫通孔33の一方の開口部をバックアップ材で塞いだ状態でコールドスプレーを行う。バックアップ材の材料としてはアルミナ、窒化アルミなどガラス以外の各種セラミックス材料が好適である。これにより、ガラス基板11の表面配線と裏面配線とを接続する貫通電極36や多層基板において各層に形成された回路を接続する貫通電極36などを形成することができる。貫通電極36は、ガラス基板11との密着力が高く、空孔などの欠陥が導入されにくいため、信頼性の高いガラス回路基板40を製造することができる。
【0059】
図5(B)に示すようなテーパー形状の貫通孔33を用いると、貫通孔33の内壁面に対して、導電性金属粒子が衝突しやすくなるため、導電性金属粒子を十分に塑性変形させることができ、ガラス基板11と貫通電極36との密着力を向上させることができる。
【0060】
図5(C)に示すような鼓形状の貫通孔33を形成する場合には、ガラス基板11の表裏両面にレジストマスク13を形成して、両側から交互に加工することによって中央部が細くなった鼓形状とすることができる。電極・配線形成工程においては、貫通電極36の一方の開口部からコールドスプレーを行った後に、反対側の面からコールドスプレーを行うことができる。このように鼓形状の貫通孔33に形成した貫通電極36は、ガラス基板11から剥離した場合でも、貫通孔33から脱落することがない。
【0061】
上述の製造方法により製造されたガラス回路基板40は、デバイスが形成された他の半導体基板と貫通電極により電気的に接続し、半導体装置を構成することができる。例えば、図6に示すようなMEMSが形成された半導体装置を構成することができる。半導体装置60は、SiO2基板に片持ち梁状に形成された可動部51が表面に設けられた半導体基板50と、ガラス回路基板40とが電気的に接続されて構成されている。ガラス回路基板40の裏側には凹部が形成されており、外周部が半導体基板50と陽極接合されている。可動部51は、ガラス回路基板40の凹部と半導体基板50とから形成される空間内に配置されている。貫通電極36a、36bは、ガラス回路基板40表面に形成された図示しない半導体素子などと電気的に接続されている。可動部51は、配線52を介して貫通電極36aと電気的に接続されている。可動部51のガラス基板11側の表面端部には表面電極53が形成されている。配線52と表面電極53とは図示しない配線により電気的に接続されている。ガラス回路基板40の裏面には、この表面電極53に対向する位置に貫通電極36bと接続された対向電極54が形成されている。上述の構成により、リレーとして作用する半導体装置60が構成される。この構成によれば、可動部51が配置される空間内を真空状態にすることができるため、可動部51の応答性を向上させることもできる。
【0062】
その他、磁気デバイス、電子デバイス、光デバイス等の各種デバイスが形成された半導体基板と接続して半導体装置を構成することができる。本実施形態の貫通電極36は、ガラス基板11との密着力が高く、空孔などの欠陥が導入されにくいため、デバイスが形成された他の半導体基板と接合することにより、信頼性の高いガラス回路基板40を用いた半導体装置を構成することができる。
【0063】
(変更例)
本実施形態では、貫通孔33は、ブラスト加工により形成したが、これに限定されるものではなく、例えば、ドリル加工、超音波加工、エッチング法など各種の方法で形成することができる。また、貫通孔33の形状、寸法は、特定の形状、寸法に限定されるものではない。
【0064】
[第2実施形態の効果]
ガラス基板11との密着力が高い貫通電極36を形成することができ、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0065】
[実施例]
本発明を以下の実施例によって詳細に説明する。 コールドスプレー法によって貫通孔または凹部に導電性金属粒子を充填する場合、平面に対して導電性金属粒子を付着堆積する場合と大きく異なる現象が発生する。すなわち、貫通孔または凹部のような凹部にガス流が衝突した場合、凹部に流入したガスが円滑に流出し難いため、内部に高圧のガスが停滞した淀み部を形成したり、流出した反流が流入しようとするガス流を乱すといった複雑な現象が発生し、導電性金属粒子の充填を著しく阻害する。前記のガス流による衝撃と凹部に形成される淀み部や反流の影響を低減するためには、基材に衝突するガスの流量と流速を減少させる必要があるが、単に流量や流速を減少させただけでは、導電性金属粒子の噴射速度も減少して金属電極の形成が困難になってしまう。そこで本発明者らは、基板に生じる割れや凹部に形成される淀み部が、単位面積当たりのガス流量に大きく関連していることを見出すことによって、ガスの流速を維持しながら上記の問題点を解決できる最適な条件範囲についても検討した。以下の説明においては、総合評価が良好であったものを「実施例」、その他のものを「比較例」と称する。なお、これら実施例により本発明が限定されるものではない。
【0066】
(実施例1)
本実施例では、ガラス基板の板厚方向に形成された貫通孔または凹部の内面に、チタン系材料からなる中間層を形成したことによる効果について検証した。
【0067】
ガラス基板は直径4インチのホウケイ酸系の耐熱ガラス(厚さ0.5mm)を使用し、ドリル加工によって形成したストレートの貫通孔とブラスト加工によって形成した凹部の形態)の2種類を準備した。貫通孔は直径300μm、凹部は開口部の直径280μm、深さ200μmとし、一枚の基板に対して2500個の穴を形成した。レジストマスク材はウレタンアクリレート系の紫外線硬化型樹脂を使用し、前記貫通孔の場合はドリル加工後にマスク材を基板に接着した。前記凹部の場合は、レジストマスク材を基板に接着した後にブラスト加工によって凹部を形成し、そのままの状態で実験に供した。また、レジストマスク材の厚さは100μmである。
【0068】
上記のガラス基板を用いて、貫通孔または凹部の内面にチタン系材料からなる中間層をスパッタリング法によって形成した。膜厚は、純TiおよびTiN、TiC、TiCN、TiAlNはいずれも0.2μmになるように成膜した。また、純Tiからなる第1の中間層の上に成膜するCuとAlの膜厚は、同じくスパッタリング法によってCuが0.1μm、Alは1μmになるように成膜した。成膜はレジストマスクが付着した状態で行ったが、損傷は認められず、そのままコールドスプレーの実験に供した。また、比較例の無電解Ni-Pめっきの膜厚は2μmとした。
【0069】
導電性金属粒子は水アトマイズ法で作製された平均粒子径が5μmの純Cu粉末を使用し、粉末供給量は15g/minに設定した。噴射ガスは窒素ガスを用い、ガス加熱装置109によって加熱してガス温度センサー111によってガス温度を測定した。また、単位面積当りのガス流量は20L/(min・mm)とし、ノズル出口開口部の直径が3〜8mmである公知の各種ラバルノズルの種類とガス圧力の組み合わせによって設定した。また、ノズルと基板間の距離は20mmとした。また、噴射速度は粒子画像流速測定装置
Particle Image Velocimetry(西華産業製)によって測定した。
【0070】
ガス流量を単位面積当りの流量として規定した理由は、ガラス製電子回路基板は一般に薄い板状であって概ね1.5mm以下の厚さである。従って、基板に衝突するガス流の衝撃によって割れや欠けが生じ易いため単位面積当りの流量で捉えた方が有効であることを見出したものである。すなわち毎分当たりの流量が同じであっても、ノズルの設計やノズル出口径によってガス流が衝突する面積が変化し、その結果として基板への衝撃力も変わるためである。ただし、基板にガス流が衝突する面積を正確に求めることが難しいため、本発明においてはノズル出口断面積を用いて計算した。
【0071】
結果を表1に示す。評価項目である金属電極の形成状態については、形成された金属電極の空隙率が1%未満を◎、1〜5%を○、5%以上を△、金属電極が完全に形成できなかったものを×として表した。なお、空隙率が5%未満であれば電気抵抗率、強度の両面から実用上の問題無く使用可能である。また、研磨による金属電極の脱落および欠けについては、2500個の穴に対して、全く脱落が発生しなかった場合を無、1個以上脱落が認められた場合を有として表し、欠けについては、2500個の穴に対して、全く欠けが発生しなかった場合を○、欠けが認められた金属電極の数が25個未満(1%未満)の場合を△、25個以上の場合は×として表した。なお、研磨加工は浜井産業(株)製の両面ラップ盤を使用し、平均粒径3μmのアルミナ砥粒によってラップ加工した状態で金属電極の状態を観察した。
【0072】
また、総合評価は、金属電極の形成状態が◎で基板の割れが無く、且つ研磨による脱落が無く、且つ欠けが○の場合を総合評価○とし、それ以外は全て×として表した。
【0073】
表1より、穴の内面に全く中間層を形成しない場合(比較例1)は、導電性金属粒子の充填性が極めて悪く、金属電極自体の形成が困難であった。また、無電解めっきによってNi−P中間層を形成した場合(比較例2)は緻密な金属電極が形成できたが、研磨処理によって電極の脱落と欠けが発生した。無電解めっきなどのめっき法によって中間層を形成する場合には、めっき液中の金属イオンが基材上に還元析出してめっき層が成長するため、基材に対して密着しているものの化学的に結合している訳ではないので、一般に密着力は低いため研磨による脱落や欠けが発生したものと推定される。
【0074】
一方、チタン系材料からなる中間層を形成した場合(実施例1−1〜1−7)は、導電性金属粒子の充填性が大幅に改良されて緻密な金属電極が形成され、研磨処理による金属電極の脱落および欠けが無くなったことから、密着性も向上したことが確認された。なお、チタン系材料からなる第1の中間層の上に、CuまたはAlからなる第2の中間層を形成した場合(実施例1−2、1−3)は、第2の中間層を形成しなかった場合(実施例1−1)と比較して明確な違いが認められなかったが、ガラス製電子回路基板はハンダ付けなどの加熱工程を経て最終製品になるため、そうした加熱冷却の条件が厳しい場合には第2の中間層を形成して密着性をさらに向上することが有効であると考えられる。
【0075】
噴射ガスの温度については、チタン系材料からなる中間層を形成した場合であっても、温度が350℃を超える場合(比較例3)には基板に割れが発生すると共に導電性金属粒子の酸化が発生して金属電極の空隙率が大きく増加した。また、150℃未満の場合(比較例4)には金属電極の空隙率が若干増加して密着性が低下し、研磨処理における金属電極の脱落と欠けが発生した。従って、噴射ガス温度は、150〜350℃が好適な範囲である。
【0076】
導電性金属粒子の噴射速度については、600m/sを超える場合(比較例5)には基板に割れが発生し、350m/s未満の場合(比較例6)には金属電極の空隙率が若干増加して密着性が低下し、研磨処理における金属電極の脱落と欠けが発生した。従って、噴射速度は、350〜600m/sが好適な範囲である。
【0077】
また、穴の形態の影響については、貫通孔および凹部による違いは認められず、本実施例においてはいずれも緻密な金属電極が形成された。なお、凹部をブラスト加工によって形成したガラス回路基板については、同じレジストマスクのままコールドスプレーまで一貫して処理することができた。
【0078】
(実施例2)
本実施例では、導電性金属粒子の種類と平均粒子径、ガスの種類、単位面積当りのガス流量の影響について調査した。
【0079】
ガラス回路基板は直径3インチのホウケイ酸系の耐熱ガラス(厚さ0.4mm)を使用し、ブラスト加工によってストレートの貫通孔を形成した。貫通孔の直径は280μmとし、一枚の基板に対して2500個の穴を形成した。レジストマスク材は実施例1と同じウレタンアクリレート系の紫外線硬化型樹脂を使用し、ブラスト加工前にマスク材を基板に接着した。また、レジストマスク材の厚さは100μmである。
【0080】
上記のガラス回路基板を用いて、貫通孔の内面にイオンプレーティング法によって純Tiからなる中間層を0.1μmの厚さに形成した後、その上からCuを0.2μmの厚さに成膜した。成膜はレジストマスクが付着した状態で行ったが、マスクの損傷は認められず、そのままコールドスプレーの実験に供した。
【0081】
導電性金属粒子はCu、Al、Au、Ag、Pd、Sn、Ni、Znの粉末を用いた。Cuは水アトマイズ法、AlおよびSn、Ni、Znはガスアトマイズ法で作製された球状の粉末を用い、Au、Ag、Pdは湿式還元法によって作製された粉末を使用した。導電性金属粒子の粒径について調査するため、Cuは平均粒子径が1、3、10、25、40μmの粉末を準備し、その他の材料は平均粒子径10μmの粉末を使用した。また、粉末供給量は20g/min一定とした。
【0082】
噴射ガスは窒素ガスと圧縮空気を用い、ガス温度は200℃一定とした。また、単位面積当りのガス流量の影響を調査するため、ノズル出口開口部の直径が3〜8mmである公知の各種ラバルノズルの種類とガス圧力の組み合わせによって7〜45L/(min・mm)の範囲に設定した。また、ノズルと基板間の距離は20mmとした。
【0083】
結果を表2に示す。評価項目である金属電極の形成状態、研磨による電極の脱落および欠け、総合評価に関しては、実施例1と同じ基準で表した。
【0084】
導電性金属粒子の平均粒子径が2μm未満の場合(比較例9)には、金属電極の空隙率が増加し、研磨処理による金属電極の脱落と欠けが発生した。平均粒子径が2μm未満の場合には、粒子の慣性力が小さくガスの反流などの影響を大きく受けるためと推定される。また、導電性金属粒子の平均粒子径が30μmを超える場合(比較例10)には、金属電極を完全に形成することができなかったが、この時の噴射速度は250m/sと低く、粒子が十分に加速されていなかった。
【0085】
一方、導電性金属粒子の平均粒子径が2〜30μmの範囲である実施例2−1〜2−11では、いずれも緻密な金属電極が形成され、研磨による脱落や欠けも発生しなかった。なお、この時の導電性金属粒子の噴射速度は350〜600m/sの範囲内であることを確認した。以上より、導電性金属粒子の平均粒子径は2〜30μmの範囲が好適である。
【0086】
導電性金属粒子の材料については、Cu、Al、Au、Ag、Pd、Sn、Ni、Znの8種類に関して同一条件で実験を実施したが(実施例2−3、2−5〜2−11)、いずれも緻密な金属電極が形成され、研磨による脱落や欠けも発生しなかった。これらの材料は比較的電気抵抗率が低く、軟質で塑性変形能が大きいため、これらの元素を1種類以上含む合金材料粉末または混合粉末であれば同様に緻密な金属電極を形成することができる。
【0087】
単位面積当りのガス流量については、10L/(min・mm)に満たない場合(比較例11)には、Cu粒子の平均粒子径が2〜30μmの範囲内であっても金属電極を完全に形成することができなかった。また、40L/(min・mm)を超える場合(比較例12)には基板に割れが発生した。従って、10〜40L/(min・mm)の範囲が好適である。 また、ガスの種類に関しては、圧縮空気と窒素ではほぼ同等の結果が得られた(実施例2−1、2−2)。
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
上述の実施例により、金属配線及び貫通電極を良好に形成することができることが確認された。
【0091】
[その他の実施形態]
電極・配線形成工程において、レジストマスク12は必ずしも使用しなくてもよい。この場合、凹部12または貫通孔32の位置にコールドスプレー装置100のノズル115を合わせてコールドスプレーを行ったり、ガラス基板11の表面11a全面にコールドスプレーを行った後に凹部12または貫通孔32以外に堆積した導電性金属粒子を研磨などにより除去することにより、金属配線16または貫通電極36を形成してもよい。
【0092】
第1実施形態の金属配線16と第2実施形態の貫通電極36とは、同時または連続して形成することができる。これにより、ガラス回路基板の製造工程を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明に用いたコールドスプレー装置の概略図である。
【図2】ガラス基板の表面に金属配線を形成する工程を示す断面説明図である。
【図3】ガラス基板の表面に金属配線を形成する工程を示す断面説明図である。
【図4】アンテナが形成されたガラス回路基板を示す説明図である。
【図5】貫通電極の形状を示す断面説明図である。
【図6】ガラス回路基板と、ガラス回路基板と貫通電極で接合された半導体基板とからなる半導体装置の説明図である。
【符号の説明】
【0094】
11 ガラス基板
12 レジストマスク
13 凹部
14 中間膜
15 第2の中間膜
16 金属配線
20 ガラス回路基板
21 アンテナ
33 貫通孔
36 貫通電極
40 ガラス回路基板
50 半導体基板
60 半導体装置
100 コールドスプレー装置
107 高圧ガス供給装置
108 圧力調整器
109 ガス加熱装置
110 混合部
111 ガス温度センサー
112 ガス圧力センサー
113 粉末供給装置
114 キャリアガス供給装置
115 ノズル
117 基材保持部
118 加熱ヒータ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
貫通孔または凹部が形成されたガラス基板からなり、
前記ガラス基板よりも硬質または弾性率が高い材料により前記貫通孔または凹部の内面を覆って形成された中間膜と、
コールドスプレー法により前記貫通孔または凹部に前記中間膜を介して導電性金属粒子を付着堆積させて形成された電極または配線と、を備えたことを特徴とするガラス回路基板。
【請求項2】
前記中間膜が、Ti、TiN、TiC、TiCN、TiAlNからなる群より選ばれた少なくとも1種を含む膜で形成されていることを特徴とする請求項1に記載のガラス回路基板。
【請求項3】
前記中間膜と、前記電極または配線との間に、Cu、Alのうち1または2種を主成分とする第2の中間膜が形成されていることを特徴とする請求項2に記載のガラス回路基板。
【請求項4】
前記導電性金属粒子が、Cu、Al、Au、Ag、Pd、Sn、Ni、Znのうち1または2種以上を主成分とする金属粉末であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1つに記載のガラス回路基板。
【請求項5】
前記凹部に形成された配線により、抵抗、コンデンサ、インダクタのうち少なくとも1種が形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載のガラス回路基板。
【請求項6】
前記凹部に形成された配線により、アンテナが形成されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載のガラス回路基板。
【請求項7】
前記貫通孔に形成された電極により、デバイスが形成された他の半導体基板と電気的に接続されていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1つに記載のガラス回路基板。
【請求項8】
ガラス基板に貫通孔または凹部を形成する貫通孔・凹部形成工程と、
前記ガラス基板よりも硬質な材料により前記貫通孔または凹部の内面を覆う中間膜を形成する中間膜形成工程と、
コールドスプレー法により前記貫通孔または凹部に前記中間膜を介して導電性金属粒子を付着堆積させて電極または配線を形成する電極・配線形成工程と、
を備えたことを特徴とするガラス回路基板の製造方法。
【請求項9】
前記貫通孔・凹部形成工程において、ガラス基板の表面にブラスト法によって加工するためのレジストマスクを形成し、ブラスト法によって貫通孔または凹部を形成し、
前記電極・配線形成工程において導電性金属粒子を付着堆積させた後に、前記レジストマスクを剥離し、電極または配線を形成することを特徴とする請求項8に記載のガラス回路基板の製造方法。
【請求項10】
前記中間膜が、Ti、TiN、TiC、TiCN、TiAlNからなる群より選ばれた少なくとも1種類を含む膜で形成されていることを特徴とする請求項8または請求項9に記載のガラス回路基板の製造方法。
【請求項11】
前記中間膜と、前記電極または配線との間に、Cu、Alのうち1または2種を主成分とする第2の中間膜が形成されていることを特徴とする請求項10に記載のガラス回路基板の製造方法。
【請求項12】
前記導電性金属粒子が、Cu、Al、Au、Ag、Pd、Sn、Ni、Znのうち1または2種以上を主成分とする金属粉末であることを特徴とする請求項8ないし請求項11のいずれか1つに記載のガラス回路基板の製造方法。
【請求項13】
前記電極・配線形成工程において、前記コールドスプレー法において使用するガスが窒素または圧縮空気であって、前記貫通孔または凹部の開口面に対して衝突するガス流量が10〜40L/(min・mm)であることを特徴とする請求項8ないし請求項12のいずれか1つに記載のガラス回路基板の製造方法。
【請求項14】
前記導電性金属粒子の平均粒子径は2〜30μmであることを特徴とする請求項8ないし請求項13のいずれか1つに記載のガラス回路基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−129934(P2010−129934A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−305781(P2008−305781)
【出願日】平成20年11月30日(2008.11.30)
【出願人】(000191009)新東工業株式会社 (474)
【出願人】(304027349)国立大学法人豊橋技術科学大学 (391)
【Fターム(参考)】