説明

ガラス基材上への酸化鉄コーティングの蒸着

【課題】 本発明の目的は、見た目に美しい金色の外観を有するコーティングされたガラス製品を提供することである。
【解決手段】 本発明は、ガラス製品上に酸化鉄コーティングを施す方法を定める。製品は、建築用グレイジングとして用いられるのが好ましい。上記方法には、コーティングが蒸着される表面を有する加熱ガラス基材を供給する過程が含まれる。コーティングされる表面に向けてかつその表面に沿って、フェロセン及びオキシダントが送り出され、フェロセン及びオキシダントはガラス基材の表面またはその付近で反応して酸化鉄コーティングを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コーティングされたガラス製品、特にコーティングされた建築用ガラスを製造するための連続化学蒸着(CVD)法に関し、そのようにして製造されたコーティングされた製品に関する。具体的には、本発明は、酸化鉄(Fe)の層でコーティングされたガラス製品を製造するための改良された方法と、それによって形成されたコーティングされたガラス製品に関する。
【背景技術】
【0002】
コーティングされたガラス製品を製造するための既知の工程は、種々の諸物性を有するコーティングされたガラス製品を産することができる。コーティングの選択によって制御可能な、諸物性の1つは、コーティングされた製品の見掛けの色である。ガラス製品、特に建築用ガラスとして用いられるガラスに対し、見た目に美しい色の1つは、金色の外観を有するガラスである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第5,798,142号
【特許文献2】米国特許第6,521,295号
【特許文献3】米国特許第5,698,262号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って、本発明の目的は、見た目に美しい金色の外観を有するコーティングされたガラス製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ガラス製品上に酸化鉄コーティングを施す方法を定める。製品は、建築用グレイジングとして用いられるのが好ましい。上記方法には、コーティングが蒸着される表面を有する加熱ガラス基材を供給する過程が含まれる。コーティングされる表面に向けてかつその表面に沿って、フェロセン及びオキシダントが送り出され、フェロセン及びオキシダントはガラス基材の表面またはその付近で反応して酸化鉄コーティングを形成する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明に基づき、基材、特にガラス基材上に、酸化鉄層を蒸着する方法が提供される。酸化鉄層は、本明細書において定義されるように、鉄が通常は種々の原子価を示し、場合によっては、微量の混入物、例えば炭素を含むような酸化鉄を主として含有するコーティングである。具体的には、本発明は、フェロセンとオキシダントの組合せから酸化鉄層を大気圧化学蒸着することに関する。不活性キャリアガスは、フェロセン及びオキシダントと結合されるのが好ましい。さらに、本発明の範囲内で、溶媒と他のプリカーサとを併用することができることもあり得る。本発明で用いるのに好適なオキシダントは、元素状酸素ガスである。
【0007】
本発明の方法と共にフェロセンを用いると、蒸着される鉄の原子価を有意に制御して酸化鉄層を蒸着することが可能になるということが分かった。生成された層の原子価の制御は、限定されるものではないが層の色を含む層の諸物性という点から重要である。その上、本発明と共にフェロセンを用いると、より厚い酸化鉄コーティングを可能にする蒸着速度の増加がもたらされ、さらに、結果として生ずるコーティングされたガラス製品の諸物性が制御される。
【0008】
酸化鉄コーティングは、単独で用いられるか、または基材に塗布される追加コーティングと併用されることができる。本発明を追加層と共に用いて、建築用グレイジング用途に対して見た目に美しい金色を有する太陽光抑制低反射率製品を製造することができることが好ましい。蒸着された酸化鉄層は、主としてFeの形であるのが最も好ましい。
【0009】
本発明の方法は、オンラインのフロートガラス製造工程において実行されるのが好ましく、そのような工程は当該分野で既知である。そのような工程の例は、非特許文献1に見つけることができ、非特許文献1は引用を以って本明細書の一部となす。
【0010】
本発明の好適実施形態においては、コーティングが蒸着される表面を有する加熱ガラス基材を供給する。フェロセンと、オキシダントと、好適には不活性キャリアガスとが、コーティングされる表面に向けてかつその表面に沿って送り出される。混合物をガラス基材の表面またはその付近で反応させて酸化鉄コーティングを形成する。その後、コーティングされたガラス基材を常温まで冷却する。不活性キャリアガスは、ヘリウムまたは窒素またはその組合せのいずれかであるのが好ましい。酸素ガスは本発明に用いるのに好適なオキシダントであるが、他のオキシダントが用いられることもあり、他のオキシダントの使用は可能でありかつ本発明の範囲内である。通常は、本発明に基づき、約200Å/秒以上の成長(蒸着)速度を達成することができる。
【0011】
本発明に用いられるプリカーサ混合物は、約0.1ないし約5.0%の範囲にあるフェロセンの気相濃度を含むことができるのが好ましい。フェロセン濃度は、約0.3ないし約3.0%の範囲にあるのが好ましく、最も好ましくは約0.6ないし約2.5%である。
【0012】
酸素は、気相濃度で表して約1ないし約50%の量で存在するのが好ましい。酸素は、約3ないし約40%の範囲で存在するのが好ましく、最も好ましくは約5ないし約35%である。
【0013】
上述したように、フェロセンを溶解するのにオプションの溶媒が用いられることがあり、それは蒸着方法によって決まる。溶媒が用いられるのであれば、溶媒の濃度は、個々のフェロセン溶液の濃度及び所望のフェロセン濃度を生じさせるのに必要な流速によって決まることになる。
【0014】
上述した好適な搬送方法は、オンラインのフロートガラス製造工程において、化学蒸着工程を通じて行われる。CVD工程において用いるためのプリカーサを準備するいくつかの可能な方法は、薄膜蒸発器と共に溶液搬送のみならずバブラの使用を含むことができる。そのような工程は非特許文献2(カラム3の60行目など)に記載されており、非特許文献2は引用を以って本明細書の一部となす。
【0015】
本明細書に記載の本発明の工程から製造される製品は、透過及び反射(T及びRg)の両方において金色になるのが好ましい。そのような製品は、以前から知られていた。というのも、既知のシリコンベースの金色製品と、実際にスパッタされた金(即ち、スパッタされた元素状態で存在する金)製品でさえもが、緑の透過特性を有する(即ち、a*<0)からである。
【0016】
本明細書中で用いられているように、金色なる語は、約−5ないし約10の値a*(約−5≦a*≦約10)と、約10ないし約40の値b*(約10≦b*≦約40)を示す。見た目に美しい金色は、本発明の実施形態において最も好ましいものであり得るが、約−1ないし約8の値a*(約−1≦a*≦約8)と、約18ないし約40の値b*(約18≦b*≦約40)を有することができる。ここで、値a*及びb*は、CIELAB表色系で画定されるものである。
【0017】
本発明に基づいて蒸着された酸化鉄コーティングは、好ましくは約300ないし約700Åの厚さを有し、より好ましくは約400ないし約650Åの厚さを有し、最も好ましくは約500ないし約625Åの厚さを有する。
【0018】
上記した蒸着速度(約200Å/秒以上)によって、酸化鉄層の厚さを当該分野で既知のものよりも厚くすることができる。酸化鉄層は非常に吸収性があり(特に青領域において)、層が厚くなれば吸収する光が増えることになるから、酸化鉄層の厚さを厚くできることは有利であり得る。以前に得られたよりも厚いこれらの層は、従って、見た目がより美しい色を生み出すことができ、反射率と透過率の両方において金色を有する製品を得ることもできる。
【0019】
本発明に基づいて製造されるガラスの更なる利点は、コーティングされた製品が既知の酸化鉄製品よりも相対的に応力に強いようにすることができることである。具体的には、本明細書に記載のガラス製品は、焼き戻し時に、或いは曲げまたは形成後に、見た目に美しい色を保っていることができる。
【0020】
上記したように、本発明と併せて、本明細書に記載の酸化鉄コーティングが施された上に追加コーティングを施すことも可能である。コーティングは、酸化鉄コーティングと基材の間及び/または酸化鉄コーティングの上方に塗布されることがある。特に、「低E(low‐E)」コーティングを形成するのに適した他の層と共に塗布される酸化鉄コーティングを本発明に基づき施すことが可能であることを理解されたい。本発明と共に用いることができるそのような低Eコーティングの例は、非特許文献3に見つけることができ、非特許文献3は引用を以って本明細書の一部となす。
【0021】

【0022】
以下の例は、本発明を実行するために発明者が現在考えている最良の形態(ベストモード)を構成するが、本発明を更に説明及び開示するためだけに示されているものであって、本発明に制限を加えるものと解釈されるべきではない。
【0023】
与えられた全ての例は、実際の実験結果を示す。実験室コンベア炉上において632.2℃(1170°F)で、5080mm/分(200ipm(インチ毎分))のライン速度で蒸着を実行した。全ての例に対して、全流量は35ないし45slm(標準リットル毎分)であった。基材は、呼び厚さ200オングストロームのSiO膜でコーティングされた304.8mm×1219mm(12”×48”)のソーダ石灰フロートガラスであった。
【0024】
表1は、バブラ装置を経由してフェロセンが搬送された例を与える。フェロセンバブラは、190℃(374°F)で保持された。それぞれの表において、厚さはオングストロームで記載されている。Oは光学的に決定された厚さを示し、Pは化学エッチング及びプロファイリングによって確立された厚さを表す。厚さの値が記載されていないものについては、結果が得られなかった。ミノルタ分光光度計CM−2002を用いて反射を測定した。値は、254mm(10”)のコーティング幅の横断方向に測定した幾つかの測定値の平均である。
【表1】

【0025】
表2は、酢酸エチル(EtOAc)を溶媒として用いてフェロセンを溶液として搬送する方法を示している。薄膜蒸発器は、260℃(500°F)に保たれていた。
【表2】

【0026】
同様に、表3は、溶媒THF(テトラヒドロフラン)中に溶解した搬送フェロセンの有効性を示している。薄膜蒸発器は、260℃(500°F)に保たれていた。
【表3】

【0027】
表4は、工程の再現性を示している。0.2%のフェロセン及び14.4%の酸素を含む41.5slmの全流量で追加の17の試料を作製した。
【表4】

【0028】
上記したように、本発明のコーティングを追加層と共に用いて最終製品に追加機能を提供することができる。このことは、本発明に基づきピルキントン(Pilkington)社のEnergy Advantage(登録商標)上に酸化鉄を蒸着することによって証明されている。得られた一体構造の諸物性を表5にまとめた。
【表5】

【0029】
6mmの試料の日射物性及び熱的性質を計算するにあたり、3mmのガラス基材上で成長させた酸化鉄膜の諸物性を基に6mmの基材の場合を推定した。この6mmの一体構造の試料の日射熱取得率(Solar Heat Gain Coefficient:SHGC)は0.54、冬期U値(Uwinter)は0.65である。第2の表面上にコーティングが施され、断熱ガスとして空気が用いられて、6mmの採光窓板ガラスを用いてIGユニット内に載置されるとき、得られたSHGCは0.47、冬期U値0.34である。
【0030】
上文で用いられているUファクターは、製品が熱の放出をどの程度防ぐかの尺度である。放熱速度は、窓アセンブリのUファクターで示される。Uファクター評価は、概ね0.20ないし1.20である。Uファクターが小さければ小さいほど、熱流に対する窓の抵抗は大きくなり、その断熱値は良くなる。Uファクターは、国家窓製品評価委員会(National Fenestration Rating Council:NFRC)が提供するエネルギー性能評価(標識)に含まれる。
【0031】
上文で用いられている日射熱取得率(SHGC)は、太陽光によって生じる熱を製品がどの程度遮断するかの尺度である。SHGCは、窓に入射し、直接透過及び吸収され、その後内側へ放出される入射日射の割合である。SHGCは、0から1の間の数で表される。窓のSHGCが小さければ小さいほど、その窓が透過する太陽熱は少なくなる。
【0032】
特許法の規定に基づき、本発明についてその好適実施形態を表すと考えられるものを説明してきた。しかし、本発明は、本発明の精神または範囲から逸脱することなく、具体的に例証及び説明されている以外の方法で実行可能であることに留意されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧のオンラインのフロートガラス工程において大気圧下化学蒸着法を用いてガラス製品上に酸化鉄コーティングを被着する方法であって、
前記コーティングが蒸着される表面を有する加熱ガラス基材を供給する過程と、
フェロセンとオキシダントとを予め混合して、気体のプリカーサ混合物を形成する過程と、
前記コーティングされる表面に向けてかつその表面に沿ってフェロセン及びオキシダントを混合して形成された前記プリカーサ混合物を送り出す過程と、
前記ガラス基材の前記表面またはその付近で前記フェロセン及び前記オキシダントを混合して形成された前記プリカーサ混合物を反応させて、主としてFeからなる酸化鉄コーティングを形成する過程とを含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記フェロセン及び前記オキシダントと共に不活性キャリアガスを供給する過程を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記オキシダントが、酸素ガスであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記コーティングされたガラス製品を常温まで冷却する過程を更に含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記不活性キャリアガスが、ヘリウム及び窒素の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記酸化鉄層が、200Å/秒に等しいかそれ以上の速度で蒸着されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記フェロセンの気相濃度が、0.1ないし5.0%の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記フェロセンの気相濃度が、0.3ないし3.0%の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記フェロセンの気相濃度が、0.6ないし2.5%の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項10】
前記オキシダントの気相濃度が、1ないし50%の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項11】
前記オキシダントの気相濃度が、3ないし40%の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項12】
前記オキシダントの気相濃度が、5ないし35%の範囲にあることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項13】
前記蒸着された酸化鉄コーティングが、300ないし700Åの厚さを有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
溶媒中にフェロセンを溶解する過程を更に含むことを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項15】
前記基材と前記酸化鉄層との間に追加の層を設ける過程を更に含むことを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記酸化鉄層の上に追加の層を設ける過程を更に含むことを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の方法。

【公開番号】特開2012−20936(P2012−20936A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242277(P2011−242277)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【分割の表示】特願2006−551063(P2006−551063)の分割
【原出願日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(502098020)ピルキングトン・ノースアメリカ・インコーポレイテッド (18)
【Fターム(参考)】