説明

ガラス基板およびこれを用いたフラットパネルディスプレイ並びにガラス基板の製造方法

【課題】定盤に裏面を隙間なく吸着した状態でコーターによって塗布材料を表面に塗布する場合でも、塗布膜の厚みのバラツキを可及的に抑制し得るガラス基板を提供する。
【解決手段】フラットパネルディスプレイに用いられ、1辺の寸法が300mm以上の矩形をなし、平均板厚が0.3〜4.0mmのガラス基板1であって、裏面を定盤2の上に隙間なく吸着した場合に、直交する2辺のいずれか一方の辺1aに沿うあらゆる位置での他方の辺1bに平行な縦断面Sにおいて、その上部輪郭線L1から定盤2に下ろした垂線の長さを他方の辺1bに沿う方向での位置Xとの関係で示す関数T(X)で表し、且つ、上部輪郭線L1の両端部A,Bを結ぶ仮想直線L2から定盤2に下ろした垂線の長さを位置Xとの関係で示す関数D(X)で表したときに、|D(X)−T(X)|≦7.5μmなる関係が成立するように構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フラットパネルディスプレイ用のガラス基板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
周知のように、プラズマディスプレイ(PDP)、フィールドエミッションディスプレイ(FED(サーフェイスエミッションディスプレイ(SED)を含む))、液晶ディスプレイ(LCD)、エレクトロルミネッセンスディスプレイ(ELD)等のフラットパネルディスプレイは、表面に微細な電極や隔壁等の素子或いは構造体を形成した2枚のガラス基板を対向させて製作される。
【0003】
この種のガラス基板は、オーバーフローダウンドロー法(フュージョン法)やスロットダウンドロー法などのダウンドロー法や、フロート法に代表される公知の方法により溶融ガラスを板引き成形した後、その板引き成形により得られた大型のガラス元板を四辺が所定寸法の矩形になるように切断することで得られる。
【0004】
そして、この矩形状に切断されたガラス基板の表面には、コーターと称される塗布装置によってフラットパネルディスプレイの種類に応じた塗布材料を塗布することにより所定の塗布膜が形成された後、更にその塗布膜を例えばフォトレジスト法により露光・現像することにより上述の素子や構造体が形成される。
【0005】
そのため、コーターによってガラス基板上に形成される塗布膜の厚みが不均一であると、露光を施した場合に露光ムラが生じ、精度よく素子や構造体を形成できなくなり、絶縁不良、発光不良、或いは画質劣化などのフラットパネルディスプレイにとって致命的な欠陥を招くおそれがある。
【0006】
このような塗布膜の厚みの不良は、主としてガラス基板の板厚の特性が不適切であることに起因して生じる。その理由は、ガラス基板の板厚の特性が不適切であると、コーターからガラス基板の表面までの距離が部分的に変化し、コーターによって塗布材料を一定厚みでガラス基板に塗布することが困難となるためである。
【0007】
そこで、例えば、特許文献1では、このようなガラス基板の板厚の特性に着目して、上述の塗布膜の厚みが不均一になるという上述の問題に対処しようとしている。すなわち、同文献には、短辺寸法が300〜3000mm、長辺寸法が300〜3000mm、且つ、平均板厚が1.5〜3.0mmのガラス基板について、最大板厚と最小板厚との板厚差が20μm以下とすること、及び長さ100mm単位間に亘る板厚測定範囲における前記板厚差を10μm以下とすることなどが開示されている。
【特許文献1】特開2004−87382号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、コーターによってガラス基板の表面に塗布材料を塗布する際、より正確な塗布を実現するために、ガラス基板の裏面を定盤の上に隙間なく吸着保持し、ガラス基板を定盤上に固定する場合がある。この場合、ガラス基板の裏面は定盤に密着しているため、ガラス基板の表面には、ガラス基板の裏面を定盤に吸着する前にガラス基板の裏面に生じていた凹凸の影響が生じる。すなわち、ガラス基板の表面に上方に凸となる凸部があり、同じ位置でガラス基板の裏面にも下方に凸となる凸部がある場合には、ガラス基板の裏面を定盤に吸着すると、ガラス基板の裏面の凸部が上方に押されてガラス基板の表面の凸部がより大きくなる。そのため、ガラス基板を定盤に吸着する前と、吸着した後で、ガラス基板の表面側に現れる凹凸の状態は大きく変化し、しかも、上述した例のように、吸着後のガラス基板の方が、表面に現れる凹凸の振幅も大きくなる傾向にある。したがって、ガラス基板の裏面を定盤の上に隙間なく吸着保持した状態で、ガラス基板の板厚特性を管理する必要が生じる。
【0009】
また、コーターによってガラス基板の表面に塗布材料を塗布する場合、塗布膜の厚みを一定にするために、ガラス基板の表面の高さを基準としてコーターの姿勢を調整するのが通例であるので、ガラス基板の板厚特性は、コーターの姿勢を調整することを念頭にして管理する必要がある。
【0010】
ガラス基板の製造工程には、複数の塗布工程が含まれる場合があり、この場合にはガラス基板表面の中央部側の領域には、既に前工程で塗布膜やパターンが形成されて、ガラス基板表面の正確な高さを計測できないことがある。したがって、コーターの姿勢は、コーターの移動方向と直交する方向におけるガラス基板の両端部表面の高さを基準として調整することが実用上も好ましい。これは、ガラス基板の両端部であれば、塗布膜等が形成されずに正確な高さの計測が可能であるからである。しかしながら、特許文献1に開示されているガラス基板の板厚特性は、このようなガラス基板の両端部表面の高さを基準としてコーターの姿勢を調整することを前提とした規定ではない。そのため、同文献に開示の板厚特性を満たす場合でも、上記のようにコーターの姿勢を調整したときにガラス基板とコーターとの距離が不均一になり、均一に塗布膜を形成できないという事態が生じ得る。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑み、定盤に裏面を隙間なく吸着した状態でコーターによって塗布材料を表面に塗布する場合でも、塗布膜の厚みのバラツキを可及的に抑制し得るガラス基板を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために創案された本発明に係るガラス基板は、フラットパネルディスプレイに用いられ、1辺の寸法が300mm以上の矩形をなし、平均板厚が0.3〜4.0mmのガラス基板であって、裏面を定盤の上に隙間なく吸着した場合に、直交する2辺のいずれか一方の辺に沿うあらゆる位置での他方の辺に平行な縦断面において、その上部輪郭線から前記定盤に下ろした垂線の長さを前記他方の辺に沿う方向での位置Xとの関係で示す関数T(X)で表し、且つ、前記上部輪郭線の両端部を結ぶ仮想直線から前記定盤に下ろした垂線の長さを前記位置Xとの関係で示す関数D(X)で表したときに、|D(X)−T(X)|≦7.5μmなる関係が成立することに特徴づけられる。なお、T(X)、D(X)は、位置Xでの上部輪郭線から定盤に下ろした垂線の長さ、および仮想直線から定盤に下ろした垂線の長さをそれぞれ意味する。また、このように上部輪郭線から定盤に下ろした垂線の長さ、および仮想直線から定盤に下ろした垂線の長さを関数T(X),D(X)で表したのは、他方の辺に沿う方向の位置によってそれぞれの垂線の長さが変化するためである。
【0013】
このような構成によれば、裏面を定盤の上に隙間なく吸着した状態におけるガラス基板の板厚の特性が、ガラス基板の直交する2辺のいずれか一方の辺に沿うあらゆる位置での他方の辺に平行な縦断面において、その上部輪郭線の両端部を結ぶ仮想直線を基準として規定される。この仮想直線は上部輪郭線の両端部を結んだ直線であるので、仮想直線が水平線に対して傾斜しているか否かに関わらず、仮想直線と平行となるようにコーターの姿勢を調整することはできる。そして、この仮想直線と、ガラス基板の実際の表面状態を表す上部輪郭線の間のズレが極僅かである場合には、上部輪郭線と仮想直線とが略一致し、コーターとガラス基板表面との間の距離をほぼ一定にすることができる。したがって、上部輪郭線と、仮想直線との間の距離を適正に管理することで、コーターにより形成される塗布膜に生じる厚みのバラツキを抑制することができる。そして、このような観点から、本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、仮想直線と上部輪郭線との間に、上記の|D(X)−T(X)|≦7.5μmなる関係が成立すれば、コーターにより形成される塗布膜の厚みのバラツキを可及的に抑制できることを見出した。換言すれば、上記数値範囲を満たして始めて塗布膜の厚みのバラツキを可及的に抑制できるのであって、当該数値範囲を逸脱すればそのような作用効果を享受できなくなる。
【0014】
上記の構成において、溶融ガラスを板引き成形することにより製作されたものであり、その板引き方向が、前記他方の辺と平行となることが好ましい。
【0015】
すなわち、オーバーフローダウンドロー法(フュージョン法)やスロットダウンドロー法などのダウンドロー法や、フロート法などのいずれの製法を採用して溶融ガラスを板引き成形したとしても、製作されたガラス基板の板厚のバラツキは、板引き方向で小さく、板引き方向と直交する方向で大きくなる傾向がある。したがって、当該板引き成形に由来するガラス基板の板厚特性の傾向を利用する観点からも、ガラス基板の板引き方向が他方の辺と平行、すなわち、板引き方向に平行な縦断面において、上記の|D(X)−T(X)|≦7.5μmなる関係を満足するようにすることが好ましい。
【0016】
以上のガラス基板は、PDP、FED、LCDに用いられることにより、その効果を最大限に発揮できるものであると共に、このガラス基板を用いて、フラットパネルディスプレイを製作すれば、品質の優れたディスプレイを得ることができる。
【0017】
また、上記課題を解決するために創案された本発明に係る方法は、フラットパネルディスプレイに用いられ、1辺の寸法が300mm以上の矩形をなし、平均板厚が0.3〜4.0mmのガラス基板を成形する成形工程の後に、前記ガラス基板の裏面を定盤の上に吸着した状態で、塗布材料を塗布するコーターを移動させながら前記ガラス基板の表面に塗布膜を形成する塗布工程を有するガラス基板の製造方法であって、前記成形工程と前記塗布工程との間に、前記成形工程で成形された前記ガラス基板の中から、裏面を前記定盤の上に隙間なく吸着した場合に、直交する2辺のいずれか一方の辺に沿うあらゆる位置での他方の辺に平行な縦断面において、その上部輪郭線から前記定盤に下ろした垂線の長さを前記他方の辺に沿う方向の位置Xとの関係で示す関数T(X)で表し、且つ、前記上部輪郭線の両端部を結ぶ仮想直線から前記定盤に下ろした垂線の長さを前記位置Xとの関係で示す関数D(X)で表したときに、|D(X)−T(X)|≦7.5μmなる関係が成立するガラス基板を選択する選別工程を有し、該選別工程で選択された前記ガラス基板に対してのみ前記塗布工程を実行することに特徴づけられる。
【0018】
このような方法によれば、選択工程で、成形工程で成形されたガラス基板の中から、|D(X)−T(X)|≦7.5μmなる関係が成立するガラス基板が選択される。そして、このように選択されたガラス基板であれば、既に段落0013で述べたように、コーターにより形成される塗布膜の厚みのバラツキを可及的に抑制できる。したがって、当該選択されたガラス基板、すなわち、|D(X)−T(X)|≦7.5μmなる関係が成立するガラス基板に対してのみ塗布工程を実行すれば、塗布膜の厚みに不適正なバラツキが生じるような板厚特性が不良なガラス基板に対して塗布工程を実行しなくて済む。そのため、不良なガラス基板に対して実行する塗布工程に要する経済的・時間的な無駄を確実に低減できる。
【0019】
上記の方法において、前記塗布工程で、前記コーターにより前記塗布材料を塗布する際に、前記コーターと前記上部輪郭線の両端部との間の距離が一定となるように前記コーターの姿勢を制御しながら、前記コーターを前記ガラス基板の前記一方の辺に沿う方向に移動させることが好ましい。
【0020】
このようにすれば、仮想直線は上部輪郭線の両端部を結ぶ直線であるので、コーターと上部輪郭線の両端部との間の距離が一定になるように制御するだけで、コーターを仮想直線と平行にすることができる。したがって、ガラス基板に塗布材料する際のコーターの姿勢を、簡単な制御で適正に保つことが可能となる。
【発明の効果】
【0021】
以上のように本発明によれば、定盤に裏面を隙間なく吸着した状態でコーターによって塗布材料を表面に塗布する場合でも、塗布膜の厚みのバラツキを可及的に抑制し得るガラス基板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明に係るガラス基板について説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態に係るフラットパネルディスプレイ用のガラス基板を定盤の上に吸着した状態を模式的に示す斜視図である。このガラス基板1は、1辺が300mm以上の矩形をなし、平均板厚が0.3〜4.0mmとされており、図示しない複数の吸引孔を有する定盤2上に吸着保持されている。この吸着保持されたガラス基板1の裏面は、定盤2に隙間なく密着しており、ガラス基板1の裏面の凹凸は定盤2により矯正された状態となっている。その一方で、ガラス基板1の表面には、裏面側に生じていた凹凸が加算された凹凸が現れている。
【0024】
そして、このように裏面を定盤2に吸着した状態で、本実施形態に係るガラス基板1は、直交する2辺の一方の辺1aに沿うあらゆる位置での他方の辺1bに平行な縦断面Sにおいて次に示すような特徴を有する。すなわち、図2に示すように、当該縦断面Sにおいて、その上部輪郭線L1から定盤2に下ろした垂線の長さを他方の辺1bに沿う方向での位置Xとの関係で示す関数T(X)で表し、且つ、上部輪郭線L1の両端部A,Bを結ぶ仮想直線L2から定盤2に下ろした垂線の長さを位置Xとの関係で示す関数D(X)で表したときに、次の関係式を満たす。
|D(X)−T(X)|≦7.5・・・・・(1)
【0025】
このような構成によれば、裏面を定盤2の上に隙間なく吸着したガラス基板1の板厚の特性が、仮想直線L2を基準として規定される。この仮想直線L2は直線であるので、仮に水平線に対して傾斜している場合でも、当該仮想直線L2と平行になるようにコーター3の姿勢を調整することは容易である。すなわち、この仮想直線L2と、ガラス基板1の実際の表面状態を表す上部輪郭線L1との間のズレが極僅かである場合には両者が略一致し、コーター3とガラス基板1の表面との間の距離をほぼ一定にすることができる。したがって、上部輪郭線L1と、仮想直線L2との間の距離を適正に管理することで、コーター3により形成される塗布膜の厚みにバラツキが生じるという事態を防止することができる。そして、このような観点から、本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、一方の辺1aに沿うあらゆる位置での縦断面Sにおいて、仮想直線L2と上部輪郭線L1との間に上記の式(1)に示す関係が成立すれば、コーター3により形成される塗布膜の厚みのバラツキを可及的に抑制できることを見出した。換言すれば、上記数値範囲を満たして始めて塗布膜の厚みのバラツキを可及的に抑制できるのであって、当該数値範囲を逸脱すればそのような作用効果を享受できなくなる。
【0026】
なお、一方の辺1aに沿うあらゆる位置での他方の辺1bに平行な縦断面Sにおいて、上記の式(1)に示す関係が成立する場合を説明したが、当該他方の辺1bは、ガラス基板1の成形時における板引き方向と平行であることが好ましい。これは、オーバーフローダウンドロー法(フュージョン法)やスロットダウンドロー法などのダウンドロー法や、フロート法などのいずれの製法を採用して溶融ガラスを板引き成形したとしても、製作されたガラス基板1の板厚のバラツキは、板引き方向で小さく、板引き方向と直交する方向で大きくなる傾向があるためである。また、勿論、他方の辺1bに沿うあらゆる位置での一方の辺1aに平行な縦断面においても、上記の式(1)に示す関係が成立するようにしてもよい。
【0027】
そして、以上のようなガラス基板1は、次のようにして製造される。
【0028】
まず、1辺の寸法が300mm以上の矩形をなし、平均板厚が0.3〜4.0mmのガラス基板1を成形する成形工程を実行する。その後、コーター3によってガラス基板1に塗布材料を形成する塗布工程の前に、成形工程で成形されたガラス基板1の中から、裏面を定盤2の上に隙間なく吸着した場合に、直交する2辺のいずれか一方の辺1aに沿うあらゆる位置での他方の辺1bに平行な縦断面Sにおいて、上記の式(1)の関係式を満足するガラス基板1を選択する選別工程を行う。そして、この選別工程で選択されたガラス基板1に対してのみ塗布工程を実行する。
【0029】
このようにすれば、上記の式(1)に示す関係式を満足するガラス基板1に対してのみと塗布工程が実行されるので、塗布膜の厚みに不適正なバラツキが生じるような板厚特性が不良なガラス基板に対して塗布工程を実行しなくて済む。そのため、不良なガラス基板に対して実行する塗布工程に要する経済的・時間的な無駄を確実に低減できる。
【0030】
さらに、塗布工程では、図2に示すように、コーター3により塗布材料を塗布する際に、コーター3と上部輪郭線L1の両端部A,Bとの間の距離が一定に維持されるように、コーター3の姿勢(傾き)を調整しながら、図1に示すように、コーター3をガラス基板1の一方の辺1aに沿う方向に移動させる。
【0031】
詳述すると、コーター3とガラス基板1の表面との距離を可能な限り一定にするために、ガラス基板1を定盤2に吸着した後に、コーター3の移動方向と直交する方向におけるガラス基板1の両端部(上部輪郭線L1の両端部A,B)の高さを測定し、その計測した両端部の高さに基づいてコーター3の姿勢が調整される。この理由は、ガラス基板1の製造工程に複数の塗布工程が含まれる場合には、ガラス基板1の両端部よりも中央部側には前工程で既に塗布膜やパターンが形成されていることがあり、当該中央部領域においてガラス基板1の正確な高さを計測できなくなるためである。したがって、コーター3の姿勢は、正確な計測ができるガラス基板1の両端部の高さを基準として調整する。
【0032】
さらに、このようにコーター3の姿勢を調整すれば、仮想直線L2は上部輪郭線L1の両端部A,Bを結ぶ直線であるので、コーター3と上部輪郭線L1の両端部A,Bとの間の距離が一定になるように制御するだけで、コーター3を仮想直線L2と平行にすることができる。したがって、ガラス基板1に塗布材料する際のコーター3の姿勢を簡単な制御で適正範囲に保つことが可能となる。そして、このようにコーター3の姿勢を調整することを前提としてガラス基板1の表面の凹凸を管理すれば、ガラス基板1に過剰な品位を与える必要がなくなるので、ガラス基板1の製造効率を向上させることもできる。
【0033】
なお、塗布工程の後には、ガラス基板1の表面に形成された塗布膜を露光・現像して、ガラス基板1の表面に微細な電極や隔壁等の素子或いは構造体を形成するフォトレジスト工程が行われる。この際、塗布工程で形成された塗布膜の厚みを略一定とされていることから、当該フォトレジスト工程で、塗布膜の膜厚不良が原因となる露光ムラ等の不具合が生じるという事態がなく、精度よく素子又は構造体をガラス基板1の表面に形成することが可能となる。
【0034】
そして、最終的に、このように素子や構造体が形成された2枚のガラス基板1を対向させて組み付けることにより、品質の優れたフラットパネルディスプレイを製作することができる。
【実施例】
【0035】
本発明の有用性を実証すべく、対比試験を行った。当該対比試験の条件は次に示す通りである。
【0036】
まず、実施例1〜9に係るガラス基板1、および比較例1〜3に係るガラス基板1として、フロート法により、短辺寸法が500mm、長辺寸法1000mmであって、平均板厚が1.8mmのPDP用のガラス基板を成形した。そして、それぞれのガラス基板1に対して、裏面を定盤2の上に隙間なく吸着した状態で、長辺1aに沿う方向の10mm間隔毎の位置での短辺1bに平行な縦断面Sにおいて、上部輪郭線L1から定盤2に下ろした垂線の長さを短辺1bに沿う方向での位置Xの関数T(X)として測定するとともに、上部輪郭線L1の両端部A,Bを結ぶ仮想直線L2から定盤2に下ろした垂線の長さを同じく位置Xの関数D(X)として測定した。なお、この実施例では、位置Xは、上部輪郭線L1の端部Aを基準位置として、その端部Aからの水平方向距離で定義され、その値は0mmから上部輪郭線L1の両端部A,Bの水平方向距離X0mm(略500mm)までの数値をとる。また、T(X)の測定に際しては、レーザー板厚測定器を使用し、各位置でのガラス基板1の上部輪郭線L1から定盤2に下ろした垂線の長さを測定した。一方、D(X)は、レーザー板厚測定器で測定した上部輪郭線L1の両端部A,Bでの定盤2に下ろした垂線の長さをそれぞれD1,D2とした場合に、次式で求められる。
D(X)={D1×(X0−X)+D2×X}/X0・・・(2)
【0037】
そして、実施例1〜9に係るガラス基板1、および比較例1〜4に係るガラス基板1のそれぞれの表面に、実際にコーター3によって塗布膜を形成し、その形成した塗布膜の膜厚を評価した。その結果を以下の表に示す。なお、表中では、各ガラス基板1の中で、D(X)−T(X)の絶対値が最大となる値を、D(X)−T(X)の値として示している。また、塗布膜の膜厚の評価では、塗布膜の膜厚が、その平均膜厚の±5.0%以内である場合を「○」とし、この範囲を逸脱する場合を「×」とした。このような評価基準としたのは、塗布膜の膜厚が平均膜厚の±5.0%の範囲内になければ、塗布膜の膜厚のバラツキが実用上問題となる程度となって、フォトリソグラフィー法により塗布膜を露光・現像してパータニングする際に露光ムラ等の不具合が生じやすくなるためである。
【0038】
【表1】

【0039】
上記の結果によれば、|D(X)−T(X)|の値が7.5μmを超える比較例1〜3に係るガラス基板1では、塗布膜厚が評価基準を満たさないという結果となった。これに対し、|D(X)−T(X)|の値が7.5μm以下となる実施例1〜9に係るガラス基板1では、塗布膜厚が評価基準を満たす良好な結果を得た。このことからも、ガラス基板1において、|D(X)−T(X)|の値が7.5μm以下であれば、ガラス基板1の裏面を定盤2に隙間なく吸着した状態で、ガラス基板1の表面側にコーター3によって塗布材料を塗布する場合でも、塗布膜の厚みのバラツキを可及的に抑制し得ることが認識できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の一実施形態に係るフラットパネルディスレプレイ用のガラス基板を定盤の上に吸着した状態を模式的に示す斜視図である。
【図2】図1に示すガラス基板の一方の辺に沿う任意の位置での他方の辺に平行な縦断面である。
【符号の説明】
【0041】
1 ガラス基板
2 定盤
3 コーター
L1 上部輪郭線
L2 仮想直線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フラットパネルディスプレイに用いられ、1辺の寸法が300mm以上の矩形をなし、平均板厚が0.3〜4.0mmのガラス基板であって、
裏面を定盤の上に隙間なく吸着した場合に、直交する2辺のいずれか一方の辺に沿うあらゆる位置での他方の辺に平行な縦断面において、その上部輪郭線から前記定盤に下ろした垂線の長さを前記他方の辺に沿う方向での位置Xとの関係で示す関数T(X)で表し、且つ、前記上部輪郭線の両端部を結ぶ仮想直線から前記定盤に下ろした垂線の長さを前記位置Xとの関係で示す関数D(X)で表したときに、|D(X)−T(X)|≦7.5μmなる関係が成立することを特徴とするガラス基板。
【請求項2】
溶融ガラスを板引き成形することにより製作されたものであり、その板引き方向が、前記他方の辺と平行となる請求項1に記載のガラス基板。
【請求項3】
プラズマディスプレイ、フィールドエミッションディスプレイ、又は液晶ディスプレイに用いられることを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス基板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス基板を用いて製作したことを特徴とするフラットパネルディスプレイ。
【請求項5】
フラットパネルディスプレイに用いられ、1辺の寸法が300mm以上の矩形をなし、平均板厚が0.3〜4.0mmのガラス基板を成形する成形工程の後に、前記ガラス基板の裏面を定盤の上に吸着した状態で、塗布材料を塗布するコーターを移動させながら前記ガラス基板の表面に塗布膜を形成する塗布工程を有するガラス基板の製造方法であって、
前記成形工程と前記塗布工程との間に、前記成形工程で成形された前記ガラス基板の中から、裏面を前記定盤の上に隙間なく吸着した場合に、直交する2辺のいずれか一方の辺に沿うあらゆる位置での他方の辺に平行な縦断面において、その上部輪郭線から前記定盤に下ろした垂線の長さを前記他方の辺に沿う方向の位置Xとの関係で示す関数T(X)で表し、且つ、前記上部輪郭線の両端部を結ぶ仮想直線から前記定盤に下ろした垂線の長さを前記位置Xとの関係で示す関数D(X)で表したときに、|D(X)−T(X)|≦7.5μmなる関係が成立するガラス基板を選択する選別工程を有し、該選別工程で選択された前記ガラス基板に対してのみ前記塗布工程を実行することを特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項6】
前記塗布工程で、前記コーターにより前記塗布材料を塗布する際に、前記コーターと前記上部輪郭線の両端部との間の距離が一定となるように前記コーターの姿勢を調整しながら、前記コーターを前記ガラス基板の前記一方の辺に沿う方向に移動させる請求項5に記載のガラス基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−120797(P2010−120797A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−294535(P2008−294535)
【出願日】平成20年11月18日(2008.11.18)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】