説明

キャンバ制御装置

【課題】駆動部を小型化することができ、車両を小型化し、車両のコストを低くすることができるようにする。
【解決手段】車両のボディと、複数の車輪と、車輪に対してキャンバ角の付与及び付与の解除を行うためのアクチュエータと、所定の車輪に対してキャンバ角を付与する第1のアクチュエータ駆動処理手段と、所定の車輪に付与されたキャンバ角を解除する第2のアクチュエータ駆動処理手段とを有する。第1のアクチュエータ駆動処理手段によるアクチュエータの動作速度が、第2のアクチュエータ駆動処理手段によるアクチュエータの動作速度より高くされる。キャンバ角付与条件が成立した場合に、アクチュエータの動作速度が高くされるので、前記所定の車輪に急速にキャンバ角を付与することができ、車両の安定性を高くすることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャンバ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、加速時、制動時、旋回時等における車両の安定性を高くするために、車輪にキャンバ角を付与するようにした車両が提供されている。
【0003】
該車両においては、キャンバ角を付与したり、キャンバ角の付与を解除したりするためのアクチュエータに油圧シリンダが配設され、駆動部としての油圧モータから油圧シリンダに対して油圧を給排することによって、油圧シリンダが作動させられるようになっている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許明細書第6347802号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来の車両においては、車輪にキャンバ角を付与する場合、前記油圧シリンダに所定の油圧を供給する必要があり、油圧モータが大型化してしまう。したがって、油圧モータを駆動するためのエンジンの効率が低下し、車両の燃費が悪くなってしまう。
【0006】
また、前記車両においては、車輪にキャンバ角を付与する際の油圧モータの動作速度、及び車輪に付与されたキャンバ角を解除する際の油圧モータの動作速度については不明であるが、車輪にキャンバ角を付与する際と、車輪に付与されたキャンバ角を解除する際とで、油圧モータの動作速度を等しくしようとすると、油圧モータに加わる負荷を考慮し、負荷が最も大きくなる条件に基づいて油圧モータを設計する必要がある。したがって、油圧モータが大型化してしまう。その結果、車両が大型化し、車両のコストが高くなってしまう。
【0007】
本発明は、前記従来の車両の問題点を解決して、駆動部を小型化することができ、車両を小型化し、車両のコストを低くすることができるキャンバ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そのために、本発明のキャンバ制御装置においては、車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、該各車輪のうちの所定の車輪とボディとの間に配設され、前記所定の車輪に対してキャンバ角の付与及び付与の解除を行うためのアクチュエータと、キャンバ角付与条件が成立した場合に、前記アクチュエータを駆動することによって前記所定の車輪に対してキャンバ角を付与する第1のアクチュエータ駆動処理手段と、キャンバ角付与解除条件が成立した場合に、前記アクチュエータを駆動することによって前記所定の車輪に付与されたキャンバ角を解除する第2のアクチュエータ駆動処理手段とを有する。
【0009】
そして、前記第1のアクチュエータ駆動処理手段によってアクチュエータを駆動する際の動作速度が、前記第2のアクチュエータ駆動処理手段によってアクチュエータを駆動する際の動作速度より高くされる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、キャンバ制御装置においては、車両のボディと、該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、該各車輪のうちの所定の車輪とボディとの間に配設され、前記所定の車輪に対してキャンバ角の付与及び付与の解除を行うためのアクチュエータと、キャンバ角付与条件が成立した場合に、前記アクチュエータを駆動することによって前記所定の車輪に対してキャンバ角を付与する第1のアクチュエータ駆動処理手段と、キャンバ角付与解除条件が成立した場合に、前記アクチュエータを駆動することによって前記所定の車輪に付与されたキャンバ角を解除する第2のアクチュエータ駆動処理手段とを有する。
【0011】
そして、前記第1のアクチュエータ駆動処理手段によってアクチュエータを駆動する際の動作速度が、前記第2のアクチュエータ駆動処理手段によってアクチュエータを駆動する際の動作速度より高くされる。
【0012】
この場合、キャンバ角付与条件が成立した場合に、前記第1のアクチュエータ駆動処理手段によってアクチュエータを駆動する際の動作速度が、前記第2のアクチュエータ駆動処理手段によってアクチュエータを駆動する際の動作速度より高くされるので、前記所定の車輪に急速にキャンバ角を付与することができ、加速時、制動時、旋回時等における車両の安定性を高くすることができる。
【0013】
また、キャンバ角付与解除条件が成立した場合に、前記アクチュエータを駆動する際の動作速度が低くされるので、前記アクチュエータの駆動部を小型化することができ、車両を小型化することができるだけでなく、車両のコストを低くすることができる。
【0014】
そして、前記駆動部を駆動するためのエンジンの効率を向上させることができるので、車両の燃費を良くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態における車両の概念図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態における車輪の支持構造を示す図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態における車輪の力学モデルを示す図である。
【図5】モータ回転速度とモータトルクとの関係図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
【図7】本発明の第2の実施の形態におけるキャンバ駆動回路部を示す図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態におけるキャンバ制御処理手段の動作を示すフローチャートである。
【図9】本発明の第3の実施の形態におけるアクチュエータの要部を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
図2は本発明の第1の実施の形態における車両の概念図である。
【0018】
図において、11は車両の本体であるボディ、12は駆動源としてのエンジン、WLF、WRF、WLB、WRBは、前記ボディ11に対して回転自在に配設された左前方、右前方、左後方及び右後方の車輪であり、車輪WLF、WRFによって前輪が、車輪WLB、WRBによって後輪が構成される。そして、前記各車輪WLF、WRF、WLB、WRBは、アルミニウム合金等によって形成された図示されないホイール、及び該ホイールの外周に嵌(かん)合させて配設されたタイヤ36を備える。なお、この場合、前記車両は前輪駆動方式の構造を有し、前記エンジン12と車輪WLF、WRFとが図示されないドライブシャフトによって連結される。そして、エンジン12を駆動することによって発生させられた回転は、車輪WLF、WRFに伝達され、該車輪WLF、WRFが、回転させられ、駆動輪として機能する。
【0019】
本実施の形態において、前記車両は、前輪駆動方式の構造を有するようになっているが、後輪駆動方式、四輪駆動方式等の構造を有するようにすることもできる。その場合、前記エンジン12と車輪WLB、WRBとが図示されないプロペラシャフト、ディファレンシャル装置、ドライブシャフト等によって連結され、エンジン12を駆動することによって発生させられた回転は、後輪駆動方式の場合、車輪WLB、WRBに伝達され、該車輪WLB、WRBが、回転させられ、駆動輪として機能し、四輪駆動方式の場合、車輪WLF、WRF、WLB、WRBに伝達され、該車輪WLF、WRF、WLB、WRBが、回転させられ、駆動輪として機能する。また、本実施の形態においては、エンジン12を駆動することによって発生させられた回転を駆動輪に伝達するようになっているが、駆動源として駆動モータを使用し、駆動モータを駆動することによって発生させられた回転を駆動輪に伝達したり、駆動輪に駆動モータを一体に組み込み、各駆動モータを独立に駆動してそれぞれ車輪を回転させるようにすることができる。
【0020】
また、13は操作者である運転者が車両の操舵を行うための操作部としての、かつ、操舵装置としてのステアリングホイール、14は運転者が車両を加速するための操作部としての、かつ、加速操作部材としてのアクセルペダル、15は運転者が車両を制動するための操作部としての、かつ、制動操作部材としてのブレーキペダルであり、運転者がステアリングホイール13を操作して回転させると、ステアリングホイール13の操作量を表すステアリング角度に応じて車輪WLF、WRFに舵角が付与され、車両を旋回させることができる。また、運転者がアクセルペダル14を踏み込むと、アクセルペダル14の操作量を表す踏込量(ストローク)に応じて車両を加速することができ、運転者がブレーキペダル15を踏み込むと、ブレーキペダル15の操作量を表す踏込量に応じて車両を制動することができる。なお、前記舵角は、ステアリングホイール13の回転に伴って車輪WLF、WRFの向きが変化させられたときの、車両の前後方向と車輪WLF、WRFの向きとが成す角度である。
【0021】
前記ステアリングホイール13、アクセルペダル14、ブレーキペダル15等によって車両の操作要素が構成され、前記ステアリング角度、舵角、アクセルペダル14の踏込量、ブレーキペダル15の踏込量等によって車両の操作状態が表される。
【0022】
そして、31、32は、それぞれ、ボディ11と各車輪WLF、WRFとの間に配設され、各車輪WLF、WRFを回転自在に支持するとともに、各車輪WLF、WRFに舵角を独立させて形成し、キャンバ角を独立させて付与するためのアクチュエータ(車輪駆動部)であり、33、34は、それぞれ、ボディ11と各車輪WLB、WRBとの間に配設され、各車輪WLB、WRBを回転自在に支持するとともに、各車輪WLB、WRBにキャンバ角を独立させて付与するためのアクチュエータである。なお、アクチュエータ31、32によってキャンバ角可変機構及び舵角可変機構が、アクチュエータ33、34によってキャンバ角可変機構が構成される。
【0023】
前記各車輪WLF、WRF、WLB、WRBにおいては、タイヤ36のトレッド37が、転がり抵抗及びグリップ性能が異なる幅方向における複数の領域、本実施の形態においては、二つの領域に分割される。そして、トレッド37の幅方向における中心を表す中心線を区分線Ld1としたときの該区分線Ld1より外側(ボディ11から離れる側)に、損失正接を小さくすることによって、路面との摩擦によってタイヤ36に発生する転がり抵抗が小さく、路面を掴(つか)む力、すなわち、グリップ力を表すグリップ性能が低くされた第1の領域としての低転がり抵抗領域38が、前記区分線Ld1より内側(ボディ11側)に、損失正接を大きくすることによって、転がり抵抗が大きく、グリップ性能が高くされた第2の領域としての高グリップ領域39が形成される。
【0024】
そのために、前記低転がり抵抗領域38及び高グリップ領域39の各外周面には、それぞれ異なる溝のパターン(以下「トレッドパターン」という。)が形成される。すなわち、低転がり抵抗領域38には、タイヤ36の円周方向において溝が連続するリブタイプのトレッドパターンが形成され、高グリップ領域39には、タイヤ36の幅方向において溝が連続するラグタイプのトレッドパターンが形成される。また、高グリップ領域39に、独立した複数のブロックを備えるブロックタイプのトレッドパターンを形成することもできる。
【0025】
本実施の形態において、低転がり抵抗領域38及び高グリップ領域39は、トレッドパターンを異ならせることによって形成されるようになっているが、トレッド37の材料を異ならせることによって低転がり抵抗領域38及び高グリップ領域39を形成することもできる。
【0026】
なお、前記損失正接は、トレッド37が変形する際のエネルギーの吸収の度合いを示し、貯蔵剪(せん)断弾性率に対する損失剪断弾性率の比で表すことができる。損失正接が小さいほどエネルギーの吸収が少なくなるので、タイヤ36に発生する転がり抵抗が小さくなり、グリップ性能が低くなり、タイヤ36に発生する摩耗が少なくなる。これに対して、損失正接が大きいほどエネルギーの吸収が多くなるので、転がり抵抗が大きくなり、グリップ性能が高くなり、タイヤ36に発生する摩耗が多くなる。
【0027】
また、本実施の形態においては、前記区分線Ld1がトレッド37の幅方向における中心に置かれるようになっているが、区分線Ld1をトレッド37の幅方向における任意の位置に置き、低転がり抵抗領域38及び高グリップ領域39の各接地面積の割合を異ならせることもできる。
【0028】
本実施の形態においては、車両の通常走行時に低転がり抵抗領域38を路面に接地させると、転がり抵抗が小さくされるので、燃費を良くすることができる。また、車両の加速時、制動時、旋回時等に高グリップ領域39を路面に接地させると、グリップ性能が高くされるので、車両の加速性を高くしたり、制動距離を短くしたり、横すべりが発生するのを防止したりすることによって車両の安定性を高くすることができる。
【0029】
次に、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与するための前記アクチュエータ31〜34について説明する。この場合、各アクチュエータ31〜34におけるキャンバ角可変機構の構造は同じであるので、車輪WLF及びアクチュエータ31についてだけ説明する。
【0030】
図3は本発明の第1の実施の形態における車輪の支持構造を示す図である。
【0031】
図において、WLFは車輪、21はホイール、31はアクチュエータ、36はホイール21に配設されたタイヤである。
【0032】
前記アクチュエータ31は、ベース部材としての図示されないナックルに固定されたキャンバ制御用の駆動部としてのモータ41、前記ナックルに対してキャンバ軸42を揺動中心にして揺動自在に配設された可動部材としての可動プレート43、前記モータ41の回転運動を可動プレート43の揺動運動に変換する運動方向変換部としてのクランク機構45、前記エンジン12(図2)の回転をホイール21に伝達する伝動軸としてのドライブシャフト46、前記ステアリングホイール13が操作されるのに伴って車輪WLFの向きを変えるための操舵部材としてのロワアーム48等を備える。なお、前記モータ41として直流モータが使用される。
【0033】
そして、前記ホイール21は、可動プレート43に対して回転自在に支持され、ドライブシャフト46と連結される。
【0034】
また、前記クランク機構45は、前記モータ41の出力軸に取り付けられた第1の変換要素としてのウォームギヤ51、前記ナックルに対して回転自在に配設され、前記ウォームギヤ51と噛(し)合させられる第2の変換要素としてのウォームホイール52、及び該ウォームホイール52と前記可動プレート43とを連結する第3の変換要素としてのアーム53を有する。該アーム53は、一端において、ウォームホイール52の回転軸から偏心させた位置で、第1の連結部によってウォームホイール52と連結され、他端において、可動プレート43の上端の位置で、第2の連結部によって可動プレート43と連結される。この場合、可動プレート43によって第4の変換要素が構成される。
【0035】
そして、前記ウォームギヤ51及びウォームホイール52によって、回転運動の軸の向きが変換され、ウォームホイール52及びアーム53によって回転運動が直進運動に変換され、アーム53及び可動プレート43によって直進運動が揺動運動に変換される。
【0036】
したがって、モータ41を駆動すると、ウォームギヤ51及びウォームホイール52が回転させられ、アーム53が進退させられ、可動プレート43が揺動させられる。その結果、可動プレート43が傾けられた角度のキャンバ角が車輪WLFに付与される。
【0037】
次に、前記構成の車両の制御装置について説明する。
【0038】
図1は本発明の第1の実施の形態における車両の制御ブロック図である。
【0039】
図において、16は車両全体の制御を行うとともに、コンピュータを構成する制御部、41はそれぞれ前記車輪WLF、WRF、WLB、WRB(図2)ごとに配設されたモータ、61は第1の記憶部としてのROM、62は第2の記憶部としてのRAM、63は車速を検出する車速検出部としての車速センサ、64は前記ステアリングホイール13のステアリング角度を検出する操舵検出部としてのステアリングセンサ、65は車両のヨーレートを検出するヨーレート検出部としてのヨーレートセンサ、66は横G及び前後Gを検出する加速度検出部としてのGセンサ、68は各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに付与されたキャンバ角を検出するキャンバ角検出部としてのキャンバ角センサ、82はモータ41を駆動するためのモータ駆動部、83はモータ41の回転速度、すなわち、モータ回転速度を検出する回転速度検出部としてのエンコーダである。
【0040】
前記車速センサ63、ヨーレートセンサ65、Gセンサ66、キャンバ角センサ68等によって車両状態検出部が構成され、車速、ヨーレート、横G及び前後G、キャンバ角等によって車両状態が表される。
【0041】
前記構成の車両において、前記制御部16の図示されないキャンバ制御処理手段は、キャンバ制御処理を行い、車両の通常走行時に、低転がり抵抗領域38を路面に接地させることによって燃費を良くし、車両の加速時、制動時、旋回時等に、運転者によるアクセルペダル14、ブレーキペダル15、ステアリングホイール13等の操作量、車両に加わる横G及び前後Gの加速度、ヨーレート等の各パラメータが一定の条件を満たすと、車輪WLF、WRF、WLB、WRBのうちの所定の車輪、本実施の形態においては、すべての車輪WLF、WRF、WLB、WRBに負のキャンバ角、すなわち、ネガティブキャンバ角を付与し、高グリップ領域39を路面に接地させることによって車両の安定性を高くする。なお、本実施の形態においては、キャンバ角が付与されない状態で低転がり抵抗領域38が路面に接地させられる。
【0042】
そのために、前記キャンバ制御処理手段のキャンバ角付与条件成立判断処理手段は、キャンバ角付与条件成立判断処理を行い、前記各パラメータを読み込み、各パラメータとそれぞれ設定された第1の閾(しきい)値とを比較することによって、キャンバ角を付与する条件を表すキャンバ角付与条件が成立したかどうかを判断する。
【0043】
すなわち、各パラメータのうちの少なくとも一つのパラメータが第1の閾値より大きい場合、急加速、急制動、急旋回等が行われたと判断することができるので、キャンバ角付与条件成立判断処理手段は、キャンバ角付与条件が成立したと判断し、前記キャンバ制御処理手段のキャンバ設定処理手段は、キャンバ設定処理を行い、キャンバオン指令を出力する。
【0044】
また、前記キャンバ制御処理手段のキャンバ角付与解除条件成立判断処理手段は、キャンバ角付与解除条件成立判断処理を行い、前記各パラメータと、前記第1の閾値より所定の値だけそれぞれ小さく設定された第2の閾値とを比較することによって、キャンバ角の付与を解除する条件を表すキャンバ角付与解除条件が成立したかどうかを判断する。
【0045】
すなわち、前記各パラメータが前記第2の閾値より小さい場合、急加速、急制動、急旋回等が行われていないと判断することができるので、キャンバ角付与解除条件成立判断処理手段は、キャンバ角付与解除条件が成立したと判断する。
【0046】
このようにして、キャンバ角付与解除条件が成立したと判断されると、前記キャンバ設定処理手段は、キャンバオフ指令を出力する。
【0047】
ところで、前述されたように、本実施の形態においては、アクチュエータ31〜34を駆動することによって、車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与したり、キャンバ角の付与を解除したりするようになっているが、車輪WLF、WRF、WLB、WRBには、路面から車両の重量に対応する荷重が加わるので、車輪WLF、WRF、WLB、WRBを、キャンバ軸42を中心として、ネガティブキャンバ角が付与される方向に回転させようとするモーメントが発生する。
【0048】
したがって、車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与する場合にモータ41に必要となるモータトルクは、モーメントに応じた分だけ小さくなり、キャンバ角の付与を解除する場合にモータ41に必要となるモータトルクは、モーメントに応じた分だけ大きくなる。
【0049】
次に、車輪WLF、WRF、WLB、WRBの力学モデルについて説明する。この場合車輪WLF、WRF、WLB、WRBは構造が同じであるので、車輪WLFについてだけ説明する。
【0050】
図4は本発明の第1の実施の形態における車輪の力学モデルを示す図である。
【0051】
図において、42はキャンバ軸、81は路面、sh1は車輪WLFと路面81との接点q1から垂直に上方に延びる軸線である。
【0052】
前記接点q1において路面81からタイヤ36に加わる荷重をPとし、前記キャンバ軸42と前記軸線sh1との間の距離をw1とすると、車輪WLFをキャンバ軸42を中心として矢印A方向に回動させようとするモーメントM
M=P・w1
が発生する。そして、車輪WLFを矢印A方向に回動させる際に、シャフト、ベアリング等で発生する摩擦力に抗して必要となるトルクをTfとし、車輪WLFにキャンバ角を付与する場合にモータ41に必要となるモータトルクをTaとし、キャンバ角の付与を解除する場合にモータ41に必要となるモータトルクをTdとすると、
Ta=Tf−M
=Tf−P・w1
Td=Tf+M
=Tf+P・w1
になる。
【0053】
この場合、モータトルクTaよりモータトルクTdが大きいので、モータトルクTdに合わせてモータ41を設計すると、モータ41が大型化し、車両が大型化するだけでなく、車両のコストが高くなってしまう。
【0054】
次に、モータ回転速度NとモータトルクTとの関係について説明する。
【0055】
図5はモータ回転速度とモータトルクとの関係図である。図において、横軸にモータ回転速度Nを、縦軸にモータトルクTを採ってある。
【0056】
一般的に、モータを駆動する場合、モータ回転速度Nが低いほど発生させられるモータトルクTは大きくなり、モータ回転速度Nが高いほど発生させられるモータトルクTは小さくなる。
【0057】
ところで、車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与する場合、短時間で高グリップ領域39を路面に接地させ、車両の安定性を高くする必要があるので、急速にキャンバ角を付与する必要がある。したがって、モータ41を十分に高い第1の回転速度Naで駆動し、前記モータトルクTdを発生させようとすると、モータ41として線L1で表される特性を有する大型のモータを使用する必要がある。
【0058】
ところが、車輪WLF、WRF、WLB、WRBへのキャンバ角の付与を解除する場合、短時間で低転がり抵抗領域38を路面に接地させたり、燃費を良くしたりする必要がないので、急速にキャンバ角の付与を解除する必要はない。
【0059】
そこで、車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与する場合、第1の回転速度Naで駆動し、前記モータトルクTaを発生させ、車輪WLF、WRF、WLB、WRBへのキャンバ角の付与を解除する場合、前記第1の回転速度Naより低い第2の回転速度Ndで駆動し、前記モータトルクTdを発生させるようにすると、モータ41として線L2で表される特性を有する小型のモータを使用することができる。
【0060】
次に、線L2で表される特性を有するモータ41を使用して、車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与したり、キャンバ角の付与を解除したりする際のキャンバ制御処理手段の動作について説明する。
【0061】
すなわち、前記キャンバ角付与条件成立判断処理手段によって、キャンバ角付与条件が成立したと判断されると、前記キャンバ制御処理手段の第1のアクチュエータ駆動処理手段としての、かつ、第1のモータ駆動処理手段としてのモータ正方向駆動処理手段は、第1のアクチュエータ駆動処理としての、かつ、第1のモータ駆動処理としてのモータ正方向駆動処理を行い、速度制御によってモータ41を前記第1の回転速度Naで正方向に駆動する。
【0062】
そのために、前記モータ正方向駆動処理手段は、前記第1の回転速度Naを目標回転速度Nsaとし、エンコーダ83によって検出されたモータ回転速度Npを読み込み、前記目標回転速度Nsaとモータ回転速度Npとの偏差ΔNaを算出し、該偏差ΔNaに基づいて駆動信号を発生させ、該駆動信号をモータ駆動部82に送る。そして、該モータ駆動部82によって所定の電流が発生させられ、モータ41に送られる。その結果、モータ41を正方向に駆動することができる。
【0063】
そして、キャンバ角センサ68によって検出されたキャンバ角があらかじめ設定されたキャンバ角になると、前記モータ正方向駆動処理手段は、モータ41の駆動を停止させる。
【0064】
これにより、前記モータ41によってモータトルクTaを発生させ、車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与することができる。
【0065】
その後、前記キャンバ角付与解除条件成立判断処理手段によって、キャンバ角付与解除条件が成立したと判断されると、前記キャンバ制御処理手段の第2のアクチュエータ駆動処理手段としての、かつ、第2のモータ駆動処理手段としてのモータ逆方向駆動処理手段は、第2のアクチュエータ駆動処理としての、かつ、第2のモータ駆動処理としてのモータ逆方向駆動処理を行い、速度制御によってモータ41を前記第2の回転速度Ndで逆方向に駆動する。
【0066】
そのために、前記モータ逆方向駆動処理手段は、前記第2の回転速度Ndを目標回転速度Nsdとし、エンコーダ83によって検出されたモータ回転速度Npを読み込み、前記目標回転速度Nsdとモータ回転速度Npとの偏差ΔNdを算出し、該偏差ΔNdに基づいて駆動信号を発生させ、該駆動信号をモータ駆動部82に送る。そして、該モータ駆動部82によって所定の電流が発生させられ、モータ41に送られる。その結果、モータ41を逆方向に駆動することができる。
【0067】
そして、キャンバ角センサ68によって検出されたキャンバ角があらかじめ設定されたキャンバ角(例えば、零(0))になると、前記モータ正方向駆動処理手段は、モータ41の駆動を停止させる。
【0068】
これにより、前記モータ41によってモータトルクTdを発生させ、車輪WLF、WRF、WLB、WRBへのキャンバ角の付与を解除することができる。
【0069】
このように、本実施の形態においては、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与する場合にアクチュエータ31〜34を駆動する際の動作速度が、キャンバ角の付与を解除する場合にアクチュエータ31〜34を駆動する際の動作速度より高くされるので、モータ41によって発生させられるモータトルクをその分小さくすることができる。したがって、モータ41を小型化することができ、車両を小型化することができるだけでなく、車両のコストを低くすることができる。
【0070】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与し、同じ構造を有することによる発明の効果については同実施の形態の効果を援用する。
【0071】
図6は本発明の第2の実施の形態における車両の制御ブロック図、図7は本発明の第2の実施の形態におけるキャンバ駆動回路部を示す図、図8は本発明の第2の実施の形態におけるキャンバ制御処理手段の動作を示すフローチャートである。
【0072】
図6及び7において、84はキャンバ駆動回路部、Btは第1の蓄電装置としてのバッテリ、Cpは第2の蓄電装置としてのキャパシタ、41はキャンバ制御用の駆動部としてのモータ、s1は第1のスイッチ要素としてのキャパシタリレー、s2〜s5は第2〜第5のスイッチ要素としての切替リレーである。前記キャパシタリレーs1は、キャパシタCpをバッテリBtに対して接続したり、切り離したりするために配設される。前記キャパシタリレーs1及び切替リレーs2〜s5は、いずれも、制御部16から駆動信号を受けてオン・オフさせられる。
【0073】
本実施の形態においては、各スイッチ要素としてキャパシタリレー、切替リレー等のリレーが使用されるようになっているが、各スイッチ要素としてトランジスタ等を使用することができる。なお、前記バッテリBt及びキャパシタCpによって電源装置が構成される。また、キャパシタCpに代えて、第2の蓄電装置として、かつ、充電要素としてコンデンサを使用することもできる。
【0074】
前記バッテリBtに対して、第1〜第3の回路部cr1〜cr3が互いに並列に接続され、第1の回路部cr1にキャパシタリレーs1及びキャパシタCpが直列に接続され、第2の回路部cr2に切替リレーs2、s3が直列に接続され、第3の回路部cr3に切替リレーs4、s5が直列に接続される。そして、切替リレーs2、s3の結線部p1と、切替リレーs4、s5の結線部p2とを接続することによって形成された第4の回路部cr4に前記モータ41が配設される。
【0075】
なお、初期状態において、前記キャパシタリレーs1はオンにされ、切替リレーs2〜s5はオフにされ、バッテリBtからキャパシタCpに電流(直流)が供給され、キャパシタCpが充電される。
【0076】
次に、前記キャンバ制御処理手段の動作について説明する。
【0077】
まず、前記キャンバ制御処理手段は、キャンバオン指令が出力されるのを待機し、キャンバオン指令が出力されると、キャンバ制御処理手段の前記モータ正方向駆動処理手段は、切替リレーs2、s5をオンにし、切替リレーs3、s4をオフにする。
【0078】
これに伴って、バッテリBtからの電流が、切替リレーs2、モータ41及び切替リレーs5を流れるとともに、キャパシタCpからの電流がキャパシタリレーs1、切替リレーs2、モータ41及び切替リレーs5を流れ、モータ41を正方向に駆動し、あらかじめ設定されたキャンバ角が各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに付与される。この場合、キャンバ角検出部としての前記キャンバ角センサ68によって各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに付与されたキャンバ角が検出され、検出されたキャンバ角が設定されたキャンバ角と等しくなると、前記モータ正方向駆動処理手段は、切替リレーs2、s4をオフにし、切替リレーs3、s5をオンにする。その結果、モータ41及び切替リレーs3、s5が接続され、電流が短絡することによってモータ41を短絡制動し停止させることができる。
【0079】
このようにして、モータ41に大きい電流が供給され、モータ41が正方向に駆動されているときに、キャンバオフ指令が出力されると、前記キャンバ制御処理手段の充電終了判断処理手段は、充電終了判断処理を行い、キャパシタCpの充電が終了するのを待機する。なお、前記バッテリBt及びキャパシタCpからの電流によって、キャンバ角付与電流が構成される。
【0080】
そして、キャパシタCpの充電が終了すると、前記キャンバ制御処理手段の電源切替処理手段は、電源切替処理を行い、前記キャパシタリレーs1をオフにする。
【0081】
続いて、前記キャンバ制御処理手段の前記モータ逆方向駆動処理手段は、切替リレーs2、s5をオフにし、切替リレーs3、s4をオンにする。
【0082】
これに伴って、バッテリBtからの電流が、切替リレーs4、モータ41及び切替リレーs3を流れ、モータ41が逆方向に駆動され、キャンバ角の付与が解除され、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに付与されているキャンバ角が零にされる。この場合、キャンバ角センサ68によって、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに付与されたキャンバ角が検出され、モータ逆方向駆動処理手段は、検出されたキャンバ角が零になると、切替リレーs2、s4をオフにし、切替リレーs3、s5をオンにする。その結果、モータ41及び切替リレーs3、s5が接続され、電流が短絡することによってモータ41を短絡制動し停止させることができる。
【0083】
このようにして、モータ41に小さい電流が供給され、続いて、前記電源切替処理手段は、前記キャパシタリレーs1をオンにする。なお、前記バッテリBtからの電流によって、キャンバ角付与解除電流が構成される。
【0084】
このように、本実施の形態においては、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与する場合、バッテリBt及びキャパシタCpからモータ41に、十分に大きい第1の電流、すなわち、十分に大きい第1の電力が供給され、アクチュエータ31〜34を駆動する際の動作速度が高くされるので、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに急速にキャンバ角を付与することができる。その結果、加速時、制動時、旋回時等における車両の安定性を高くすることができる。
【0085】
また、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBへのキャンバ角の付与を解除する場合、バッテリBtからモータ41に、前記第1の電流より小さい第2の電流、すなわち、前記第1の電力より小さい第2の電力が供給され、アクチュエータ31〜34を駆動する際の動作速度が低くされるので、バッテリBt及びキャパシタCpの容量を、バッテリBtだけを使用してアクチュエータ31〜34を駆動する場合より小さくすることができる。したがって、バッテリBt及びキャパシタCpを小型化することができ、車両を小型化することができるだけでなく、車両のコストを低くすることができる。しかも、モータ41を駆動するための駆動源としてのエンジン12の効率を向上させることができる。その結果、車両の燃費を良くすることができる。
【0086】
さらに、キャパシタCpの充電が終了するまで車輪WLF、WRF、WLB、WRBへのキャンバ角の付与が解除されないので、キャパシタCpを十分に充電された状態にすることができる。したがって、急に、車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与する必要が生じても、キャンバ角を確実に付与することができる。
【0087】
また、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBは、車両の重量の影響を受けて、ネガティブキャンバ角が付与される側に付勢されるので、アクチュエータ31〜34を駆動して車輪WLF、WRF、WLB、WRBにネガティブキャンバ角を付与する際に、アクチュエータ31〜34において大きな駆動力を必要としない。
【0088】
したがって、前記モータ正方向駆動処理手段によってアクチュエータ31〜34を駆動する際の動作速度を高くすることができる。
【0089】
そして、アクチュエータ31〜34を駆動して、車輪WLF、WRF、WLB、WRBに付与されたネガティブキャンバ角を解除する際に、アクチュエータ31〜34において大きな駆動力が必要とされるが、前記モータ逆方向駆動処理手段によってアクチュエータ31〜34を駆動する際の動作速度を高くする必要がないので、アクチュエータ31〜34のモータ41を小型化することができる。
【0090】
次に、フローチャートについて説明する。
ステップS1 キャンバオン指令が出力されたかどうかを判断する。キャンバオン指令が出力された場合はステップS2に、出力されていない場合はステップS3に進む。
ステップS2 モータ正方向駆動処理を行う。
ステップS3 キャンバオフ指令が出力されたかどうかを判断する。キャンバオフ指令が出力された場合はステップS4に、出力されていない場合はステップS7に進む。
ステップS4 キャパシタCpの充電が終了するのを待機し、キャパシタCpの充電が終了した場合はステップS5に進む。
ステップS5 キャパシタリレーs1をオフにする。
ステップS6 モータ逆方向駆動処理を行う。
ステップS7 キャパシタリレーs1をオンにし、処理を終了する。
【0091】
次に、前記アクチュエータ31〜34に油圧回路を配設し、該油圧回路によって車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与したり、車輪WLF、WRF、WLB、WRBへのキャンバ角の付与を解除したりするようにした本発明の第3の実施の形態について説明する。なお、第1、第2の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与し、同じ構造を有することによる発明の効果については同実施の形態の効果を援用する。
【0092】
図9は本発明の第3の実施の形態におけるアクチュエータの要部を示す図である。
【0093】
図において、43は可動部材としての可動プレート、70は油圧回路であり、該油圧回路70は、アクチュエータ31(図2)の駆動部としての油圧シリンダ71、該油圧シリンダ71に油圧を選択的に供給する制御弁72、前記油圧シリンダ71を駆動するための油圧源73、油圧タンク78等を備える。そして、前記油圧源73は、第1の油圧源としてのポンプ74(p1)、第2の油圧源としてのポンプ75(p2)、前記ポンプ74、75を駆動するためのモータ76、77(M1、M2)等を備える。
【0094】
前記油圧シリンダ71は、シリンダ本体91、及び該シリンダ本体91内に配設され、第1、第2の油室93、94を形成するピストン92を備え、該ピストン92と前記可動プレート43とが連結部材としてのロッド95を介して連結される。そして、前記制御弁72は、ソレノイドSOL1、SOL2を駆動することによって位置A、B、Nを採り、位置Aにおいて、前記油圧源73と第1の油室93とを連結するとともに、第2の油室94と油圧タンク78とを連結し、位置Bにおいて、前記油圧源73と第2の油室94とを連結するとともに、第1の油室93と油圧タンク78とを連結し、位置Nにおいて、前記油圧源73と第1、第2の油室93、94とを遮断するとともに、第1、第2の油室93、94と油圧タンク78とを遮断する。
【0095】
次に、前記キャンバ制御処理手段の動作について説明する。
【0096】
この場合、キャンバオン指令が出力されると、前記キャンバ制御処理手段の第1のアクチュエータ駆動処理手段としての第1の油圧シリンダ駆動処理手段は、第1のアクチュエータ駆動処理としての第1の油圧シリンダ駆動処理を行い、モータ76、77を駆動するとともに、ソレノイドSOL1、SOL2を駆動することによって前記制御弁72を位置Bに置く。したがって、ポンプ74、75が作動させられ、ポンプ74、75から吐出された油が制御弁72を介して第2の油室94に供給され、ピストン92及びロッド95が後退させられる。その結果、車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角が付与される。
【0097】
また、キャンバオフ指令が出力されると、前記キャンバ制御処理手段の第2のアクチュエータ駆動処理手段としての第2の油圧シリンダ駆動処理手段は、第2のアクチュエータ駆動処理としての第2の油圧シリンダ駆動処理を行い、前記モータ76、77のうちの一方、本実施の形態においては、モータ76を駆動するとともに、ソレノイドSOL1、SOL2を駆動することによって前記制御弁72を位置Aに置く。したがって、ポンプ74が作動させられ、ポンプ74から吐出された油が制御弁72を介して第1の油室93に供給され、ピストン92及び第2の油室94が前進させられる。その結果、車輪WLF、WRF、WLB、WRBへのキャンバ角の付与が解除される。
【0098】
このように、本実施の形態においては、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与する場合、ポンプ74、75から吐出された大量の油が第2の油室94に供給され、アクチュエータ31〜34を駆動する際の動作速度を高くすることができるので、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBに急速にキャンバ角を付与することができる。したがって、加速時、制動時、旋回時等における車両の安定性を高くすることができる。
【0099】
また、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBへのキャンバ角の付与を解除する場合、ポンプ74から吐出された少量の油が第1の油室93に供給され、アクチュエータ31〜34を駆動する際の動作速度が低くされるので、ポンプ74、75の吐出量を、一つのポンプだけでアクチュエータ31〜34を駆動する場合より小さくすることができる。したがって、油圧源73を小型化することができ、車両を小型化することができるだけでなく、車両のコストを低くすることができる。しかも、モータ76、77を駆動するための駆動源としてのエンジン12の効率を向上させることができる。したがって、車両の燃費を良くすることができる。
【0100】
本実施の形態においては、エンジン12によってモータ76、77を駆動し、ポンプ74、75を作動させるようになっているが、エンジン12とポンプ74、75とを連結し、エンジン12によって直接ポンプ74、75を作動させることができる。その場合、エンジン12とポンプ75との間に係脱部材としてのクラッチが配設され、該クラッチを係脱させることによって、ポンプ75を選択的に作動させることができる。
【0101】
また、前記各実施の形態においては、タイヤ36のトレッド37に低転がり抵抗領域38及び高グリップ領域39が形成され、各車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角を付与することによって、低転がり抵抗領域38及び高グリップ領域39を選択的に路面に接地させるようにした車両について説明しているが、本発明を、トレッドに低転がり抵抗領域及び高グリップ領域がいずれも形成されない通常のタイヤを使用し、キャンバ角を付与することによって旋回性を高くするようにした車両に適用することができる。
【0102】
さらに、前記各実施の形態においては、すべての車輪WLF、WRF、WLB、WRBにキャンバ角が付与されるようになっているが、所定の車輪、例えば、後輪WLB、WRBだけにキャンバ角を付与することができる。
【0103】
なお、本発明は前記各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に基づいて種々変形させることが可能であり、それらを本発明の範囲から排除するものではない。
【符号の説明】
【0104】
11 ボディ
16 制御部
31〜34 アクチュエータ
WLF、WRF、WLB、WRB 車輪

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のボディと、
該ボディに対して回転自在に配設された複数の車輪と、
該各車輪のうちの所定の車輪とボディとの間に配設され、前記所定の車輪に対してキャンバ角の付与及び付与の解除を行うためのアクチュエータと、
キャンバ角付与条件が成立した場合に、前記アクチュエータを駆動することによって前記所定の車輪に対してキャンバ角を付与する第1のアクチュエータ駆動処理手段と、
キャンバ角付与解除条件が成立した場合に、前記アクチュエータを駆動することによって前記所定の車輪に付与されたキャンバ角を解除する第2のアクチュエータ駆動処理手段とを有するとともに、
前記第1のアクチュエータ駆動処理手段によってアクチュエータを駆動する際の動作速度が、前記第2のアクチュエータ駆動処理手段によってアクチュエータを駆動する際の動作速度より高くされることを特徴とするキャンバ制御装置。
【請求項2】
前記アクチュエータは、前記所定の車輪に対してキャンバ角の付与及び付与の解除を行うための駆動部としてモータを備える請求項1に記載のキャンバ制御装置。
【請求項3】
前記第1のアクチュエータ駆動処理手段は、前記モータを第1の回転速度で駆動し、
前記第2のアクチュエータ駆動処理手段は、前記モータを前記第1の回転速度より低い第2の回転速度で駆動する請求項2に記載のキャンバ制御装置。
【請求項4】
前記第1のアクチュエータ駆動処理手段は、前記モータに第1の電力を供給し、
前記第2のアクチュエータ駆動処理手段は、前記モータに前記第1の電力より小さい第2の電力を供給する請求項2に記載のキャンバ制御装置。
【請求項5】
前記アクチュエータは、前記所定の車輪に対してキャンバ角の付与及び付与の解除を行うための駆動部として油圧シリンダを備える請求項1に記載のキャンバ制御装置。
【請求項6】
前記第1のアクチュエータ駆動処理手段は、前記所定の車輪に対してネガティブキャンバ角を付与する請求項1〜5のいずれか1項に記載のキャンバ制御装置。
【請求項7】
キャンバ角が付与される車輪のタイヤに、転がり抵抗及びグリップ性能が異なる複数の領域が形成され、
前記第1のアクチュエータ駆動処理手段は、前記所定の車輪にキャンバ角を付与することによって、グリップ性能が高い領域を路面に接地させ、
前記第2のアクチュエータ駆動処理手段は、前記所定の車輪へのキャンバ角の付与を解除することによって、転がり抵抗が小さい領域を路面に接地させる請求項1〜6のいずれか1項に記載のキャンバ制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−280370(P2010−280370A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−98609(P2010−98609)
【出願日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【出願人】(591261509)株式会社エクォス・リサーチ (1,360)
【Fターム(参考)】