説明

ギブ締め付け状態把握方法及び装置

【課題】ギブ締め付け状態の把握を簡単に行うことができるギブ締め付け状態把握方法及び装置を提供する。
【解決手段】ギブ締め付け状態把握装置8は、テーブル2を一定の移動範囲で往復移動させる測定用位置指令を、位置指令p0としてフィードバック制御機構7に与えることにより、前記一定の移動範囲でテーブルを往復移動させ、このときにパルスエンコーダ5とテーブル位置検出器6から、第1のテーブル位置検出値p1と第1のテーブル位置検出値p2を取得してメモリ44に保存するデータ取得部41と、メモリに保存した第1のテーブル位置検出値p1と第2のテーブル位置検出値p2とに基づいて、ロストモーション値Lを算出するロストモーション値計算処理部42と、この算出したロストモーション値Lと、ロストモーション設定値L1,L2とを比較することにより、ギブ21の締め付け状態を判定するギブ締め付け状態判定処理部43とを有する構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は工作機械などの産業機械に適用されるギブ締め付け状態把握方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械において案内面は、ワークの加工精度に影響するテーブル、コラム、サドルなどの部品(移動体)を案内して、摺動往復移動(運動)させるための支持部である。
【0003】
移動体の案内方式の中ですべり案内方式は、潤滑油を基準面(すべり案内面)に供給し、この潤滑油の潤滑性を利用して移動体をすべり案内面上ですべらす案内方式である。すべり案内面は、フッ素樹脂を接着してフライスで粗加工した後、キサゲ加工により仕上げる。すべり案内方式は振動減衰性がよいことから、大きな切削力がかかる重切削に適している。
【0004】
そして、切削力による移動体の浮き上がりを防止するため、すべり案内方式ではギブが使用されている(図2参照:詳細後述)。しかし、ギブの締め付けが弱すぎると、切削力による移動体の浮き上がりが生じて、ワークの加工精度が悪化してしまう。一方、ギブの締め付けが強すぎると、ギブと案内面との間の摩擦抵抗が大きなり過ぎてしまう。従って、支持部にギブを設置する際には、ギブの締め付け量を調整して、ギブの締め付け状態が最適な状態になるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3905405号公報
【特許文献2】特許第4510723号公報
【特許文献3】特開平3−264242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、工作機械を長時間使用すると、ギブと案内面との間の摩擦抵抗による案内面の磨耗などの経年変化により、必要なギブの締め付け量が得られなくなる場合がある。このため、定期的にギブの締め付け状態を把握し、ギブの締め付けが不足している場合には、ギブの締め付け量を再調整してギブの締め付け状態を最適な状態に保つ必要がある。
【0007】
しかし、従来、ギブの締め付け状態を把握する際には、機械本体カバーを外す等の準備作業が必要であったため、多くの作業時間を要していた。また、ギブの設置位置によっては、測定スペースの問題で、正確なギブの締め付け量の測定が困難な場合がある。このため、ギブの締め付け状態を簡単に把握することができる方法が望まれている。
【0008】
更に、金型等のワークを切削するときにはワークの加工精度(形状精度)が重要であり、ワークの形状精度をよくするためには、数値制御装置からの位置指令に従って送り機構の送り軸が正確に移動体を移動させる必要がある。ところが、工作機械の送り機構には送り軸をガイドするガイド部があり、このガイド部には転がりガイドや摺動面ガイドなどが使用されているため、このガイド部で摩擦抵抗が発生する。従って、特に、象限反転時のように機械停止(移動体停止)を含んで移動体の移動方向が変化するような場合には、ロストモーションが発生するため、ワークの形状精度が悪化する。しかし、このロストモーションは、位置指令や速度指令に補正量を加算することによって補正することが可能である。
【0009】
ところが、経年変化等により、ギブの締め付け状態が変化すると、前記補正量が必ずしも最適な補正量とはならなくなる。即ち、象限反転時のロストモーション補正は、ギブ締め付け状態の安定化なくしては成り立たない。この観点からも、ギブの締め付け状態を把握することは重要であり、ギブ締め付け状態の把握を簡単に行うことができる方法が望まれている。
【0010】
従って本発明は上記の事情に鑑み、ギブ締め付け状態の把握を簡単に行うことができるギブ締め付け状態把握方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決する第1発明のギブ締め付け状態把握方法は、移動体と、モータを前記移動体の駆動源として具備し前記移動体を直線的に往復移動可能な送り機構と、ギブを用いたすべり案内方式の案内面を有し前記移動体を前記案内面で案内して往復移動させる支持部と、前記モータの回転角を検出して第1の移動体位置検出値を得る第1の移動体位置検出手段と、前記移動体の位置を検出して第2の移動体位置検出値を得る第2の移動体位置検出手段と、前記第1の移動体位置検出値を微分して得られる移動体速度検出値を速度フィードバックとし前記第2の移動体位置検出値を位置フィードバックとして用いるフルクローズドループ方式のフィードバック制御、又は、前記移動体速度検出値を速度フィードバックとし前記第1の移動体位置を位置フィードバックとて用いるセミクローズドループ方式のフィードバック制御により、前記移動体の移動位置が位置指令に追従するように前記モータへ供給するモータ電流値を制御するフィードバック制御機構とを有する産業機械に適用されるギブ締め付け状態把握方法であって、
前記移動体を一定の移動範囲で往復移動させる測定用位置指令を、前記位置指令として前記フィードバック制御機構に与えることにより、前記一定の移動範囲で前記移動体を往復移動させ、このときに前記第1の移動体位置検出手段と前記第2の移動体位置検出手段から、前記第1の移動体位置検出値と前記第2の移動体位置検出値を取得して、記憶媒体に保存するデータ取得処理と、
前記記憶媒体に保存した前記第1の移動体位置検出値と前記第2の移動体位置検出値とに基づいて、ロストモーション値を算出するロストモーション値計算処理と、
このロストモーション値計算処理によって算出した前記ロストモーション値と、ロストモーション設定値とを比較することにより、前記ギブの締め付け状態を判定するギブ締め付け状態判定処理と、
を実施することを特徴とする。
【0012】
また、第2発明のギブ締め付け状態把握方法は、第1発明のギブ締め付け状態把握方法において、
前記データ取得処理では、前記移動体を往復移動させたとき、前記モータ電流値を取得して、記憶媒体に保存し、
前記ギブ締め付け状態判定処理では、前記記憶媒体に保存した前記モータ電流値と、モータ電流設定値とを比較することにより、前記ギブの締め付け状態を判定すること、
を特徴とする。
【0013】
また、第3発明のギブ締め付け状態把握装置は、移動体と、モータを前記移動体の駆動源として具備し前記移動体を直線的に往復移動可能な送り機構と、ギブを用いたすべり案内方式の案内面を有し前記移動体を前記案内面で案内して往復移動させる支持部と、前記モータの回転角を検出して第1の移動体位置検出値を得る第1の移動体位置検出手段と、前記移動体の位置を検出して第2の移動体位置検出値を得る第2の移動体位置検出手段と、前記第1の移動体位置検出値を微分して得られる移動体速度検出値を速度フィードバックとし前記第2の移動体位置検出値を位置フィードバックとして用いるフルクローズドループ方式のフィードバック制御、又は、前記移動体速度検出値を速度フィードバックとし前記第1の移動体位置を位置フィードバックとて用いるセミクローズドループ方式のフィードバック制御により、前記移動体の移動位置が位置指令に追従するように前記モータへ供給するモータ電流値を制御するフィードバック制御機構とを有する産業機械に装備されたギブ締め付け状態把握装置であって、
前記移動体を一定の移動範囲で往復移動させる測定用位置指令を、前記位置指令として前記フィードバック制御機構に与えることにより、前記一定の移動範囲で前記移動体を往復移動させ、このときに前記第1の移動体位置検出手段と前記第2の移動体位置検出手段から、前記第1の移動体位置検出値と前記第2の移動体位置検出値を取得して、記憶媒体に保存するデータ取得部と、
前記記憶媒体に保存した前記第1の移動体位置検出値と前記第2の移動体位置検出値とに基づいて、ロストモーション値を算出するロストモーション値計算処理部と、
ロストモーション値計算処理部で算出した前記ロストモーション値と、ロストモーション設定値とを比較することにより、前記ギブの締め付け状態を判定するギブ締め付け状態判定処理部と、
を有することを特徴とする。
【0014】
また、第4発明のギブ締め付け状態把握装置は、第3発明のギブ締め付け状態把握装置において、
前記データ取得部では、前記移動体を往復移動させたとき、前記モータ電流値を取得して、記憶媒体に保存し、
前記ギブ締め付け状態判定処理部では、前記記憶媒体に保存した前記モータ電流値と、モータ電流設定値とを比較することにより、前記ギブの締め付け状態を判定すること、
を特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
第1発明のギブ締め付け状態把握方法又は第3発明のギブ締め付け状態把握装置によれば、上記のような構成を有することを特徴としているため、簡単にギブの締め付け状態を把握することができ、ギブの締め付け量の調整作業を効率化することができる。また、産業機械が工作機械である場合には、ワークを切削中にびびり振動が発生したときやワークの加工精度が悪化したとき、その原因がギブの締め付け状態の悪化であるか否かを簡単に判断することができる。また、定期的にギブの締め付け状態の把握を実施することにより、機械の経年変化を把握することができ、計画的に保守点検作業を実施することが可能となる。
【0016】
また、第2発明のギブ締め付け状態把握方法又は第4発明のギブ締め付け状態把握装置によれば、上記のような構成を有することを特徴としており、ロストモーション値とモータ電流値の両方でギブの締め付け状態を把握するため、より正確にギブの締め付け状態を把握することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の形態例に係るギブ締め付け状態把握装置を装備した工作機械の要部構成を示す図である。
【図2】ギブを用いたすべり案内方式の案内面を有する支持部(ガイドレール)の横断面図である。
【図3】前記ギブ締め付け状態把握装置による設定値決定処理に関するフローチャートである。
【図4】第1のテーブル位置検出値波形、第2のテーブル位置検出値波形、位置偏差波形及びロストモーション値を示す図である。
【図5】モータ電流値波形及び第2のテーブル位置検出値波形を示す図である。
【図6】前記ギブ締め付け状態把握装置によるギブ締め付け状態把握処理に関するフローチャートである。
【図7】本発明の他の実施の形態例に係るギブ締め付け状態把握装置を装備した工作機械の要部構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0019】
図1〜図6に基づき、本発明の実施の形態例に係るギブ締め付け状態把握装置と、このギブ締め付け状態把握装置を装備している工作機械について説明する。
【0020】
図1に示すように、工作機械1は、移動体であるテーブル2と、送り機構3と、移動体を往復移動させる支持部としてのガイドレール4と、第1の移動体位置検出手段としてのパルスエンコーダ5と、第2の移動体位置検出手段としてのテーブル位置検出器6と、フルクローズドループ方式のフィードバック制御機構7とを有している。また、工作機械1には数値制御(NC)装置10も装備されている。なお、本工作機械1にはテーブル2の他にコラムやサドルなどの移動体(図示省略)も設けられているが、ここではテーブル2に本発明を適用した場合について例示している。勿論、コラムやサドルなどの移動体に関しても、テーブル2の場合と同様に本発明を適用することができる。
【0021】
テーブル2の送り機構3は、サーボモータ11をテーブル2の駆動源として具備しており、テーブル2を直線的に往復移動(往復運動)させることが可能なものである。詳述すると、送り機構3は、サーボモータ11の他、減速ギヤ装置12、サポートベアリング13、ボールスクリュー14なども備えている。
【0022】
ボールスクリュー14は、ネジ部14aと、このネジ部14aに螺合しているナット部14bとを有している。このボールスクリュー14には、ネジ部14aとナット部14bとの間のガタを無くすために与圧がかけられている。サポートベアリング13は固定部(図示省略)に固定され、ボールスクリュー14のネジ部14aを回転可能に支持している。サポートベアリング13にも、サポートベアリング13とネジ部14aとの間のガタを無くすために与圧がかけられている。
【0023】
ボールスクリュー14のナット部14bは、テーブルル2に取り付けられている。テーブル2にはワーク(図示省略)が載置される。減速ギヤ装置12は、第1ギヤ12aと、この第1ギヤ12aに噛合している第2ギヤ12bとを有している。第1ギヤ12aはサーボモータ11の回転軸11aに結合され、第2ギヤ12bはボールスクリュー14のネジ部14aに結合されている。
【0024】
従って、サーボモータ11の回転力が減速ギヤ装置12(ギア12a,12b)を介してボールスクリュー14のネジ部14aへ伝達されて、ネジ部14aが矢印A,Bの如く回転すると、ボールスクリュー14のナット部14bとともにテーブルル2が、矢印C,Dの如く直線的に往復移動(往復運動)する。
【0025】
パルスエンコーダ5は、サーボモータ11に取り付けられており、サーボモータ11の回転角を検出して、第1のテーブル位置検出値p1(第1の移動体位置検出値)を得る。サーボモータ11の回転角とテーブル2の移動位置は対応しているため、サーボモータ11の回転角を検出すれば、第1のテーブル位置検出値p1が得られる。テーブル位置検出器6は、固定部(図示省略)に固定されたスケール6bと、このスケール6bに対向させた状態でテーブル2に取り付けたスライダ6aとを有するインダクトシン方式のものであり、テーブル2の位置を検出して、第2のテーブル位置検出値p2(第2の移動体位置検出値)を得る。
【0026】
ガイドレール4はテーブル2の下側で且つテーブル2の左右両側に配設されている。図2には一方のガイドレール4の横断面を図示しているが、他方のガイドレール4もこれと同様の構造である。図2に示すように、ガイドレール4は、ギブ21を用いたすべり案内方式の案内面4aを有しており、テーブル2を案内面4aで案内して矢印C,D方向へ往復移動させることができる。ギブ21と案内面4aとの間には潤滑油が供給される。なお、図示例では、ガイドレール4の左右の面4a側にギブ21を設けているが、ガイドレール4の上面4b側や下面4c側にギブを設けて、これらの上面4bや下面4cを案内面とすることもできる。
【0027】
図1に示すように、フィードバック制御機構7は、パルスエンコーダ11による第1のテーブル位置検出値p1を微分して得られるテーブル速度検出値v(移動体速度検出値)を速度フィードバックとし、テーブル位置検出器6による第2のテーブル位置検出値p2を位置フィードバックとして用いるフルクローズドループ方式のフィードバック制御を行うものであり、テーブル2の移動位置が位置指令p0に追従するようにサーボモータ11へ供給するモータ電流値iを制御する。
【0028】
詳述すると、フィードバック制御機構7は例えばパーソナルコンピュータで実行されるソフトウエアなどによって各機能が構成されるものであり、位置偏差演算部31と、乗算部32と、速度偏差演算部33と、比例演算部34と、積分演算部35と、加算部36と、電流制御部37と、微分演算部38とを有している。なお、図1に示すフィードバック制御機構7のブロック線図において、sはラプラス演算子、Kpは位置ループゲイン、Kvは速度ループ比例ゲイン、Kviは速度ループ積分ゲインである。
【0029】
位置偏差演算部31では、NC装置10から与えられる位置指令p0と、テーブル位置検出器6からフィードバックされる第2のテーブル位置検出値p2との偏差(p0−p2)を演算して、位置偏差Δpを求める。乗算部32では、位置偏差Δpに位置ループゲインKpを乗算(Δp×Kp)することにより、テーブル2の移動速度(サーボモータ11の回転速度)を制御するための速度指令v0を求める。微分演算部37では、パルスエンコーダ5からフィードバックされる第1のテーブル位置検出値p1を時間で微分することより、テーブル2の移動速度に相当するテーブル速度検出値vを求める。速度偏差演算部33では、速度指令v0と、テーブル速度検出値vとの偏差(v0−v)を演算して、速度偏差Δvを求める。
【0030】
比例演算部34では、速度偏差Δvに速度ループ比例ゲインKvを乗算(Δv×Kv)することにより、サーボモータ11に対して要求するトルクτ1を求める。積分演算部35では、速度偏差Δvに速度ループ積分ゲインKviを乗算(Δv×Kvi)し、この乗算値を積分することより、サーボモータ11に対して要求するトルクτ2を求める。加算部36では、比例演算で求めたトルクτ1と、積分演算で求めたτ2とを加算(τ1+τ2)することにより、トルク指令τ0を求める。電流制御部37では、サーボモータ23のトルクがトルク指令τ0に追従するようにサーボモータ23へ供給する電流値iを制御する。このモータ電流値iの制御によりサーボモータ11の回転が制御されて、テーブル2の移動が制御されることにより、テーブル2の移動位置が位置指令p0に追従する。
【0031】
そして、本工作機械1にはギブ締め付け状態把握装置8が装備されている。ギブ締め付け状態把握装置8は例えばパーソナルコンピュータで実行されるソフトウエアなどにによって各機能が構成されるものであり、データ取得部41と、ロストモーション値計算処理部42と、ギブ締め付け状態判定処理部43と、RAMなどの記憶媒体であるメモリ44とを有している。このギブ締め付け状態把握装置8の機能である設定値決定処理とギブ締め付け状態把握処理とを、図1〜図6に基づいて説明する。
【0032】
まず、図1〜図5に基づき、設定値(モータ電流設定値、ロストモーション設定値)の決定処理について説明する。なお、図3のフローチャートの各ステップにはS1〜S8の符号を付した。
【0033】
設定値決定処理を行う際には、作業員が予めギブ21の締め付け状態を最適な状態に調整しておく。この状態で作業員のスイッチ操作などにより処理が開始されると(ステップS1)、ギブ締め付け状態把握装置8のデータ取得部41では、ステップS2〜S7の処理を実行する。
【0034】
ステップS2では、測定用NCプログラムを準備してNC装置10のNCメモリ51へ登録する。測定用NCプログラムは、図1に示す矢印C,Dの如くテーブル2を一定の移動範囲で往復移動させるための測定用の位置指令を、フィードバック制御機構7へ与えるためのものである。詳述すると、測定用NCプログラムは、図1に例示する第1の位置X1で停止しているテーブル2を、この第1の位置X1から、図1に例示する第2の位置X2まで直線的に移動(矢印C方向へ移動)させて、第2の位置X2で停止させた後、逆に、この第2の位置X2から、第1の位置X1まで直線的に移動(矢印D方向へ移動)させて、第1の位置X1で停止させるような測定用の位置指令を与えるためのNCプログラムである。また、この測定用NCプログラムに関して、加減速パラメータである補間前加減速(補間前ベル型時定数、最大加速度/加加速度)や補間後加減速時定数は、一定値に固定する。これらの加減速パラメータが変化してしまうと、正しい測定ができなくなるためである。このような測定用NCプログラムは、作業員が予めプログラミングしてデータ取得部41へ入力してもよく、データ取得部41で自動的に作成するようにしてもよい。
【0035】
続いて、ステップS3では、測定用NCプログラムを実行する。即ち、データ取得部41からNC装置10へ、NCメモリ51に登録されている測定用NCプログラムの実行指令を出力する。その結果、NC装置10ではNCメモリ51に登録されている測定用NCプログラムの実行し、テーブル2を一定の移動範囲で往復移動させる測定用位置指令を位置指令p0としてフィードバック制御機構7へ与える。従って、フィードバック制御機構7では、第1のテーブル位置検出値p1に基づいて得られるテーブル速度検出値vを速度フィードバックとし、第2のテーブル位置検出値p2を位置フィードバックとして用いるフルクローズドループ方式のフィードバック制御により、テーブル2の移動位置が測定用位置指令p0に追従するようにサーボモータ11へ供給するモータ電流値iを制御する。このことによってテーブル2を、一定の移動範囲(即ち第1の位置X1から第2の位置X2までの移動範囲)で往復移動させる。
【0036】
このときにステップS4ではデータ測定を行い、ステップS5では測定データを保存する。
【0037】
即ち、ステップS4では、テーブル2を往復移動させたときにパルスエンコーダ5で検出された第1のテーブル位置検出値p1を取得し(パルスエンコーダフィードバック)、且つ、テーブル2を往復移動させたときにテーブル位置検出器6で検出された第2のテーブル位置検出値p2も取得する(位置フィードバック)。更にステップS4では、テーブル2を往復移動させたときにフィードバック制御機構7の電流制御部37からサーボモータ11へ供給したモータ電流値iも取得する。
【0038】
ステップS5では、ステップS4で取得した第1のテーブル位置検出値p1と第2のテーブル位置検出値p2とモータ電流検出値iを、メモリ44へ保存する。従って、メモリ44には、テーブル2の往復移動にともなって変化する第1のテーブル位置検出値p1の履歴データと、第2のテーブル位置検出値p2の履歴データと、モータ電流値iの履歴データとが保存される。即ち、図4及び図5にはテーブル2の往復移動にともなって変化する第1のテーブル位置検出値p1の波形と、第2のテーブル位置検出値p2の波形と、モータ電流値iの波形とを例示しており、このような変化をする履歴データがメモリ44に保存される。
【0039】
そして、ステップS5でメモリ44に保存したデータ(第1のテーブル位置検出値p1、第2のテーブル位置検出値p2、モータ電流値i)に基づき、ステップS6ではロストモーション値設定値を決定し、ステップS7ではモータ電流設定値を決定する。
【0040】
即ち、ステップS6では、ステップS5でメモリ44に保存した第1のテーブル位置検出値p1と、第2のテーブル位置検出値p2とを読み込み、この第1のテーブル位置検出値p1と第2のテーブル位置検出値p2との偏差Δp3(=p1−p2)を演算する。その結果、図4に例示するような位置偏差Δp3が得られる。
【0041】
図4において、横軸は時間、縦軸はテーブル位置と位置偏差である。テーブル2が第1の位置X1から第2の位置X2へ向かって移動(矢印C方向へ移動)する往路においては、ギブ21の締め付け量に応じてギブ21と案内面4aとの間に生じる摩擦抵抗により、図4の左側に示すように第1のテーブル位置検出値p1に対して第2のテーブル位置検出値p2は遅れて追従する。テーブル2が第2の位置X2から第1の位置X1へ向かって移動(矢印D方向へ移動)する復路においても、前記摩擦抵抗により、図4の右側に示すように第1のテーブル位置検出値p1に対して第2のテーブル位置検出値p2は遅れて追従する。このため、前記往路における位置偏差Δp3の波形は、図4の左側に示すような下側に凸の形状となり、前記復路における位置偏差Δp3の波形は、図4の右側に示すような上側に凸の形状となる。
【0042】
従って、ステップS6では、前記往路における位置偏差Δp3のピーク値Δp3−1と、前記復路における位置偏差Δp3のピーク値Δp3−2とから、ロストモーション値Lを算出する。ロストモーション値Lは、ピーク値Δp3−1からピーク値Δp3−2までの幅である。
【0043】
そして更にステップS6では、このギブ21の締め付け状態が最適な場合のロストモーション値Lに対して、図4に例示するような第1のロストモーション設定値L1と、第2のロストモーション設定値L2とを決定する。即ち、ロストモーション値Lに対して、予め設定した一定値L3を加算(L+L3)したものを第1のロストモーション設定値L1とし、ロストモーション値Lから、予め設定した一定値L4を減算(L−L4)したものを第2のロストモーション設定値L2とする。この決定したロストモーション設定値L1,L2は、メモリ44に保存する。
【0044】
ステップS7では、ステップS5でメモリ44に保存したモータ電流値iを読み込む。そして、ステップS7では、このギブ21の締め付け状態が最適な場合のモータ電流値iに対して、図5に例示するような第1のモータ電流設定値I1と、第2のモータ電流設定値I2とを決定する。
【0045】
図5において、横軸は時間、縦軸は電流値とテーブル位置である。図5に示すように、前記往路においては、テーブル2を第1の位置X1で始動して加速し、且つ、ギブ21と案内面4aとの間の静止摩擦抵抗のため、モータ電流値iは比較的大きなピーク電流値i1となる。その後、テーブル2はほぼ一定速度となるため、モータ電流iはギブ21と案内面4aとの間の動摩擦抵抗に応じたほぼ一定の電流値i2となる。テーブル2が第2の位置X2に近づくと、テーブル2を減速して第2の位置X2で停止させるため、モータ電流iは始動時のピーク電流値i1とは逆向きのピーク電流値i3となる。前記復路においては、モータ電流iの方向は前記往路と逆になるが、モータ電流iの変化は前記往路と同様である。即ち、テーブル2を第2の位置X2で始動して加速し、且つ、ギブ21と案内面4aとの間の静止摩擦抵抗のため、モータ電流値iは比較的大きなピーク電流値i4となる。その後、テーブル2はほぼ一定速度となるため、モータ電流iはギブ21と案内面4aとの間の動摩擦抵抗に応じたほぼ一定の電流値i5となる。テーブル2が第1の位置X1に近づくと、テーブル2を減速して第1の位置X1で停止させるため、モータ電流iは始動時のピーク電流値i4とは逆向きのピーク電流値i6となる。
【0046】
ギブ21の締め付け状態が変化して、ギブ21と案内面4aとの間の摩擦抵抗が変化すると、モータ電流値iは、ピーク電流値i1,i3,i4,i6及び一定電流値i2,i5の何れにおいても変化する。従って、ギブ締め付け状態を判定するためのモータ電流設定値は、ピーク電流値i1,i3,i4,i6及び一定電流値i2,i5の何れに対して設定してもよいが、本実施の形態例では始動時の大きなピーク電流値i1に対して設定する。
【0047】
即ち、ステップS7では、モータ電流値iのピーク電流値i1に対して、図5に例示するような第1のモータ電流設定値I1と、第2のモータ電流設定値I2とを決定する。具体的には、ピーク電流値i1に対して、予め設定した一定値i7を加算(i1+i7)したものを第1のモータ電流設定値I1とし、ピーク電流値i1から、予め設定した一定値i8を減算(i1−i8)したものを第2のモータ電流設定値I2とする。この決定したモータ電流設定値I1,I2は、メモリ44に保存する。
【0048】
かくして、設定値の設定処理は終了する(ステップ8)。なお、ここではギブ締め付け状態把握装置8によって自動的に設定値の決定処理を行う場合について説明したが、これに限定するものではなく、作業員が手動で設定値を決定してメモリ44に保存するようにしてもよい。
【0049】
次に、図1〜図4,図6に基づき、ギブ締め付け状態把握処理について説明する。なお、図6のフローチャートの各ステップにはS11〜S25の符号を付した。
【0050】
工作機械1を一定期間使用するごとに、自動的に或いは作業員のスイッチ操作などにより処理が開始されると(ステップS11)、ギブ締め付け状態把握装置8のデータ取得部41ではステップS12〜S14の処理を実行し、ロストモーション値計算処理部42ではステップS15の処理を実行し、ギブ締め付け状態判定処理部43ではステップS17〜S24の処理を実行する。
【0051】
まず、ステップS12では、測定用NCプログラムを実行する。即ち、ギブ締め付け状態把握装置8のデータ取得部41からNC装置10へ、NCメモリ10に登録されている測定用NCプログラムの実行指令を出力する。その結果、NC装置10ではNCメモリ51に登録されている測定用NCプログラムの実行し、テーブル2を一定の移動範囲で往復移動させる測定用位置指令を位置指令p0としてフィードバック制御機構7へ与える。従って、フィードバック制御機構7では、第1のテーブル位置検出値p1に基づいて得られるテーブル速度検出値vを速度フィードバックとし、第2のテーブル位置検出値p2を位置フィードバックとして用いるフルクローズドループ方式のフィードバック制御により、テーブル2の移動位置が測定用位置指令p0に追従するようにサーボモータ11へ供給するモータ電流値iを制御する。このことによってテーブル2を、一定の移動範囲(即ち第1の位置X1から第2の位置X2までの移動範囲)で往復移動させる。
【0052】
このときにステップS13ではデータ測定を行い、ステップS14では測定データを保存する。
【0053】
即ち、ステップS13では、テーブル2を往復移動させたときにパルスエンコーダ5で検出された第1のテーブル位置検出値p1を取得し(パルスエンコーダフィードバック)、且つ、テーブル2を往復移動させたときにテーブル位置検出器6で検出された第2のテーブル位置検出値p2も取得する(位置フィードバック)。更にステップS13では、テーブル2を往復移動させたときにフィードバック制御機構7の電流制御部37からサーボモータ11へ供給したモータ電流値iも取得する。
【0054】
ステップS14では、ステップS13で取得した第1のテーブル位置検出値p1と第2のテーブル位置検出値p2とモータ電流検出値iを、メモリ44へ保存する。従って、メモリ44には、テーブル2の往復移動にともなって変化する第1のテーブル位置検出値p1の履歴データと、第2のテーブル位置検出値p2の履歴データと、モータ電流値iの履歴データとが保存される。即ち、図4及び図5に例示するような変化をする履歴データがメモリ44に保存される。
【0055】
続いて、ステップS15では、ステップS14でメモリ44に保存したデータ(第1のテーブル位置検出値p1,第2のテーブル位置検出値p2)に基づき、ロストモーション値Lを算出する。即ち、ステップS15では、ステップS14でメモリ44に保存した第1のテーブル位置検出値p1と、第2のテーブル位置検出値p2とを読み込み、この第1のテーブル位置検出値p1と第2のテーブル位置検出値p2との偏差Δp3(=p1−p2)を演算する。その結果、図4に例示するような位置偏差Δp3が得られる。
【0056】
前述の設定値決定処理の場合と同様に、テーブル2が第1の位置X1から第2の位置X2へ向かって移動(矢印C方向へ移動)する往路においては、ギブ21の締め付け量に応じてギブ21と案内面4aとの間に生じる摩擦抵抗により、図4の左側に示すように第1のテーブル位置検出値p1に対して第2のテーブル位置検出値p2は遅れて追従する。テーブル2が第2の位置X2から第1の位置X1へ向かって移動(矢印D方向へ移動)する復路においても、前記摩擦抵抗により、図4の右側に示すように第1のテーブル位置検出値p1に対して第2のテーブル位置検出値p2は遅れて追従する。このため、前記往路における位置偏差Δp3の波形は、図4の左側に示すような下側に凸の形状となり、前記復路における位置偏差Δp3の波形は、図4の右側に示すような上側に凸の形状となる。
【0057】
従って、ステップS15では、前記往路における位置偏差Δp3のピーク値Δp3−1と、前記復路における位置偏差Δp3のピーク値Δp3−2とから、ロストモーション値Lを算出する。ロストモーション値Lは、ピーク値Δp3−1からピーク値Δp3−2までの幅である。この算出したロストモーション値Lは、メモリ44に保存する。
【0058】
ギブ21の締め付け状態が最適な場合に比べて、ギブ21の締め付けが不足している場合には、ギブ21と案内面4aとの間の摩擦抵抗が低下するため、ロストモーション値Lは小さくなり、モータ電流値iも小さくなる。逆に、ギブ21の締め付け状態が最適な場合に比べて、ギブ21の締め付けが強い場合(これはギブ21の締め付け量の調整時を想定)には、ギブ21と案内面4aとの間の摩擦抵抗が増加するため、ロストモーション値Lは大きくなり、モータ電流値iも大きくなる。
【0059】
従って、ステップS16〜S19では、メモリ44に保存したデータ(ロストモーション値L、モータ電流i、ロストモーション設定値L1,L2、モータ電流設定値I1,I2)に基づいて、ギブ21の締め付け状態の判定処理を行う。
【0060】
まず、ステップS16では、ステップS14でメモリ44に保存したモータ電流値iと、設定値決定処理のステップS7でメモリ44に保存した第1のモータ電流設定値I1とを読み込み、このモータ電流値iのピーク電流値i1と第1のモータ電流設定値I1とを比較して、ピーク電流値i1が第1のモータ電流設定値I1以上(i1≧I1)か否かを判定する。
【0061】
その結果、ステップS16でピーク電流値i1が第1のモータ電流設定値I1以上(i1≧I1)である(即ちギブ21の締め付けが過大である)と判定した場合には、ステップS20へ進む。ステップS20では、モニタなどの報知手段(図示省略)により、ギブ21の締め付けが過大であることを作業員に知らせる。例えば、モニタに「締め付け過大」と表示する。ここで今回の処理は終了する(ステップS25)。一方、ステップS16でピーク電流値i1が第1のモータ電流設定値I1よりも小さい(i1<I1)と判定した場合には、ステップS17へ進む。
【0062】
ステップS17では、ステップS15でメモリ44に保存したロストモーション値Lと、設定値決定処理のステップS6でメモリ44に保存した第1のロストモーション設定値L1とを読み込み、このロストモーション値Lと第1のロストモーション設定値L1とを比較して、ロストモーション値Lが第1のロストモーション設定値L1以上(L≧L1)か否かを判定する。
【0063】
その結果、ステップS17でロストモーション値Lが第1のロストモーション設定値L1以上(L≧L1)である(即ちギブ21の締め付けが過大である)と判定した場合には、ステップS21へ進む。ステップS21では、前記報知手段により、ギブ21の締め付けが過大であることを作業員に知らせる。例えば、前記モニタに「締め付け過大」と表示する。ここで今回の処理は終了する(ステップS25)。なお、ギブ21の締め付けが過大の場合だけでなく、工作機械1を長時間使用してサポートベアリング13とネジ部14aとの間の与圧抜けやネジ部14aとナット部14bとの間の与圧抜けが発生した場合にも、ロストモーション値Lは大きくなる。このため、ロストモーション値Lとモータ電流値iに基づいてギブ締め付け状態を把握することにより、より正確にギブ締め付け状態を把握することができるようにしている。
【0064】
ステップS17でロストモーション値Lが第1のロストモーション設定値L1よりも小さい(L<L1)と判定した場合には、ステップS18へ進む。
【0065】
ステップS18では、ステップS14でメモリ44に保存したモータ電流値iと、設定値決定処理のステップS7でメモリ44に保存した第2のモータ電流設定値I2とを読み込み、このモータ電流値iのピーク電流値i1と第2のモータ電流設定値I2とを比較して、ピーク電流値i1が第2のモータ電流設定値I2以下(i1≦I2)か否かを判定する。
【0066】
その結果、ステップS18でピーク電流値i1が第2のモータ電流設定値I2以下(i1≦I2)である(即ちギブ21の締め付けが不足している)と判定した場合には、ステップS22へ進む。ステップS22では、前記報知手段により、ギブ21の締め付けが不足していることを作業員に知らせる。例えば、前記モニタに「締め付け不足」と表示する。ここで今回の処理は終了する(ステップS25)。一方、ステップS18でピーク電流値i1が第1のモータ電流設定値I1よりも大きい(i1>I2)と判定した場合には、ステップS19へ進む。
【0067】
ステップS19では、ステップS15でメモリ44に保存したロストモーション値Lと、設定値決定処理のステップS6でメモリ44に保存した第2のロストモーション設定値L2とを読み込み、このロストモーション値Lと第2のロストモーション設定値L2とを比較して、ロストモーション値Lが第2のロストモーション設定値L2以下(L≦L2)か否かを判定する。
【0068】
その結果、ステップS19でロストモーション値Lが第2のロストモーション設定値L2以下(L≦L2)である(即ちギブ21の締め付けが不足している)と判定した場合には、ステップS23へ進む。ステップS23では、前記報知手段により、ギブ21の締め付けが不足していることを作業員に知らせる。例えば、前記モニタに「締め付け不足」と表示する。ここで今回の処理は終了する(ステップS25)。
【0069】
一方、ステップS19でロストモーション値Lが第2のロストモーション設定値L2よりも大きい(L>L2)と判定した場合には、ステップS24へ進む。ステップS24では、前記報知手段により、ギブ21の締め付けが適正であることを作業員に知らせる。例えば、前記モニタに「締め付け適正」と表示する。ここで今回の処理は終了する(ステップS25)。
【0070】
以上のように、本実施の形態例のギブ締め付け状態把握装置8は、テーブル2と、サーボモータ11をテーブル2の駆動源として具備しテーブル2を直線的に往復移動可能な送り機構3と、ギブ21を用いたすべり案内方式の案内面4aを有しテーブル2を案内面4aで案内して往復移動させるガイドレール4と、サーボモータ11の回転角を検出して第1のテーブル位置検出値p1を得るパルスエンコーダ5と、テーブル2の位置を検出して第2のテーブル位置検出値p2を得るテーブル位置検出器6と、第1のテーブル位置検出値p1を微分して得られるテーブル速度検出値vを速度フィードバックとし第2のテーブル位置検出値p2を位置フィードバックとして用いるフルクローズドループ方式のフィードバック制御により、テーブル2の移動位置が位置指令p0に追従するようにサーボモータ11へ供給するモータ電流値iを制御するフィードバック制御機構7とを有する工作機械1に装備されたギブ締め付け状態把握装置8であって、テーブル2を一定の移動範囲で往復移動させる測定用位置指令を、位置指令p0としてフィードバック制御機構7に与えることにより、前記一定の移動範囲でテーブル2を往復移動させ、このときにパルスエンコーダ5とテーブル位置検出器6から、第1のテーブル位置検出値p1と第1のテーブル位置検出値p2を取得して、メモリ44に保存するデータ取得部41と、メモリ44に保存した第1のテーブル位置検出値p1と第2のテーブル位置検出値p2とに基づいて、ロストモーション値Lを算出するロストモーション値計算処理部42と、ロストモーション値計算処理部42で算出したロストモーション値Lと、ロストモーション設定値L1,L2とを比較することにより、ギブ21の締め付け状態を判定するギブ締め付け状態判定処理部43とを有することを特徴としている。
【0071】
このため、簡単にギブ21の締め付け状態を把握することができ、ギブ21の締め付け量の調整作業を効率化することができる。また、ワークを切削中にびびり振動が発生したときやワークの加工精度が悪化したとき、その原因がギブ21の締め付け状態の悪化であるか否かを簡単に判断することができる。また、定期的にギブ21の締め付け状態の把握を実施することにより、機械の経年変化を把握することができ、計画的に保守点検作業を実施することが可能となる。
【0072】
また、本実施の形態例のギブ締め付け状態把握装置8は、データ取得部41では、テーブル2を往復移動させたとき、モータ電流値iを取得して、メモリ44に保存し、ギブ締め付け状態判定処理部43では、メモリ44に保存したモータ電流値i(ピーク電流値i1)と、モータ電流設定値I1,I2とを比較することにより、ギブ21の締め付け状態を判定することを特徴としており、ロストモーション値Lとモータ電流値iの両方でギブ21の締め付け状態を把握するため、より正確にギブ21の締め付け状態を把握することができる。
【0073】
なお、上記では本発明のギブ締め付け状態把握装置8を、フルクローズドループ方式のフィードバック制御機構7を備えた工作機械1に適用して場合について説明したが、これに限定するものではなく、本発明は図7に示すようなセミクローズドループ方式のフィードバック制御機構107を備えた工作機械101にも適用することができる。なお、図7の工作機械101において、図1の工作機械1と同様の部分については同一の符号を付し、重複する詳細な説明は省略する。
【0074】
図7に示すように、本工作機械101に装備されたフィードバック制御機構107では、パルスエンコーダ5による第1のテーブル位置検出値p1を微分して得られるテーブル速度検出値vを速度フィードバックとし、パルスエンコーダ5による第1のテーブル位置検出値p1を位置フィードバックとて用いるセミクローズドループ方式のフィードバック制御により、テーブル2の移動位置が位置指令p0に追従するようにサーボモータ11へ供給するモータ電流値iを制御する。
【0075】
詳述すると、本フィードバック制御機構107の位置偏差演算部31では、NC装置10から与えられる位置指令p0と、パルスエンコーダ5からフィードバックされる第1のテーブル位置検出値p1との偏差(p0−p1)を演算して、位置偏差Δpを求める。その他の乗算部32、速度偏差演算部33、比例演算部34、積分演算部35、加算部36、電流制御部37、微分演算部38の機能については、図1のフィードバック制御機構7と同様である。
【0076】
また、テーブル2の移動位置を検出するため、図1の工作機械1ではテーブル位置検出器6を装備しているが、これに代えて、本工作機械101ではテーブル位置検出器106(第2の移動体位置検出器)を装備している。テーブル位置検出器106はレーザ測定器などであり、テーブル2の位置を検出して、第2のテーブル位置検出値p2(第2の移動体位置検出値)を得る。勿論、テーブル位置検出器6と同じインダクトシン方式のものを、テーブル位置検出器106として用いてもよい。
【0077】
そして、設定値決定処理やギブ締め付け状態把握処理を行う際、図1の工作機械1に装備されているギブ締め付け状態把握装置8ではテーブル位置検出器6による第2のテーブル位置検出値p2を取得するが、これに代えて、本工作機械101に装備されているギブ締め付け状態把握装置8ではテーブル位置検出器106による第2のテーブル位置検出値p2を取得する。その他の機能については工作機械1,101の何れに装備されているギブ締め付け状態把握装置8も同様である。
【0078】
また、室温変化等により、テーブル2やガイドレール4の温度が変化した場合には、テーブル2やガイドレール4の熱膨張により、ギブ21の締め付け状態が変化して、ギブ21と案内面4aとの間の摩擦抵抗が変化することがある。更には、ギブ21と案内面4aとの間に供給する潤滑油量が変化した場合にも、ギブ21と案内面4aとの間の摩擦抵抗が変化することがある。このような場合、テーブル2やガイドレール4の温度及び潤滑油量に応じた最適なロストモーション設定値L1,L2及びモータ電流設定値I1,I2の値を、予めパラメータとして保存しておき、ギブ締め付け状態把時のテーブル2やガイドレール4の温度及び潤滑油量に応じた最適なロストモーション設定値L1,L2及びモータ電流設定値I1,I2の値を、前記パラメータのなかから選択することができるようにしておけば、より適正なギブ締め付け状態の把握が可能となる。
【0079】
また、上記では本発明のギブ締め付け状態把握装置8を、工作機械1に適用した場合について説明したが、これに限定するものではなく、本発明は工作機械以外の産業機械にも適用することができる。即ち、移動体と、モータを前記移動体の駆動源として具備し前記移動体を直線的に往復移動可能な送り機構と、ギブを用いたすべり案内方式の案内面を有し前記移動体を前記案内面で案内して往復移動させる支持部と、前記モータの回転角を検出して第1の移動体位置検出値を得る第1の移動体位置検出手段と、前記移動体の位置を検出して第2の移動体位置検出値を得る第2の移動体位置検出手段と、前記第1の移動体位置検出値を微分して得られる移動体速度検出値を速度フィードバックとし前記第2の移動体位置検出値を位置フィードバックとして用いるフルクローズドループ方式のフィードバック制御、又は、前記移動体速度検出値を速度フィードバックとし前記第1の移動体位置を位置フィードバックとて用いるセミクローズドループ方式のフィードバック制御により、前記移動体の移動位置が位置指令に追従するように前記モータへ供給するモータ電流値を制御するフィードバック制御機構とを有する産業機械であれば、本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明はギブ締め付け状態把握方法及び装置に関するものであり、ギブを用いたすべり案内方式の案内面を有し移動体を前記案内面で案内して往復移動させる支持部を備えた工作機械などの産業機械に適用して有用なものである。
【符号の説明】
【0081】
1 工作機械
2 テーブル
3 送り機構
4 ガイドレール
4a ガイドレールの案内面
4b ガイドレールの上面
4c ガイドレールの下面
5 パルスエンコーダ
6 テーブル位置検出器
6a スライダ
6b スケール
7 フィードバック制御機構
8 ギブ締め付け状態把握装置
10 NC装置
11 サーボモータ
11a 回転軸
12 減速ギヤ装置
12a 第1ギヤ
12b 第2ギヤ
13 サポートベアリング
14 ボールスクリュー
14a ネジ部
14b ナット部
31 位置偏差演算部
32 乗算部
33 速度偏差演算部
34 比例演算部
35 積分演算部
36 加算部
37 電流制御部
38 微分演算部
41 データ取得部
42 ロストモーション値計算処理部
43 ギブ締め付け状態判定処理部
44 メモリ
51 NCメモリ
101 工作機械
106 テーブル位置検出器
107 フィードバック制御機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体と、モータを前記移動体の駆動源として具備し前記移動体を直線的に往復移動可能な送り機構と、ギブを用いたすべり案内方式の案内面を有し前記移動体を前記案内面で案内して往復移動させる支持部と、前記モータの回転角を検出して第1の移動体位置検出値を得る第1の移動体位置検出手段と、前記移動体の位置を検出して第2の移動体位置検出値を得る第2の移動体位置検出手段と、前記第1の移動体位置検出値を微分して得られる移動体速度検出値を速度フィードバックとし前記第2の移動体位置検出値を位置フィードバックとして用いるフルクローズドループ方式のフィードバック制御、又は、前記移動体速度検出値を速度フィードバックとし前記第1の移動体位置を位置フィードバックとて用いるセミクローズドループ方式のフィードバック制御により、前記移動体の移動位置が位置指令に追従するように前記モータへ供給するモータ電流値を制御するフィードバック制御機構とを有する産業機械に適用されるギブ締め付け状態把握方法であって、
前記移動体を一定の移動範囲で往復移動させる測定用位置指令を、前記位置指令として前記フィードバック制御機構に与えることにより、前記一定の移動範囲で前記移動体を往復移動させ、このときに前記第1の移動体位置検出手段と前記第2の移動体位置検出手段から、前記第1の移動体位置検出値と前記第2の移動体位置検出値を取得して、記憶媒体に保存するデータ取得処理と、
前記記憶媒体に保存した前記第1の移動体位置検出値と前記第2の移動体位置検出値とに基づいて、ロストモーション値を算出するロストモーション値計算処理と、
このロストモーション値計算処理によって算出した前記ロストモーション値と、ロストモーション設定値とを比較することにより、前記ギブの締め付け状態を判定するギブ締め付け状態判定処理と、
を実施することを特徴とするギブ締め付け状態把握方法。
【請求項2】
請求項1に記載のギブ締め付け状態把握方法において、
前記データ取得処理では、前記移動体を往復移動させたとき、前記モータ電流値を取得して、記憶媒体に保存し、
前記ギブ締め付け状態判定処理では、前記記憶媒体に保存した前記モータ電流値と、モータ電流設定値とを比較することにより、前記ギブの締め付け状態を判定すること、
を特徴とするギブ締め付け状態把握方法。
【請求項3】
移動体と、モータを前記移動体の駆動源として具備し前記移動体を直線的に往復移動可能な送り機構と、ギブを用いたすべり案内方式の案内面を有し前記移動体を前記案内面で案内して往復移動させる支持部と、前記モータの回転角を検出して第1の移動体位置検出値を得る第1の移動体位置検出手段と、前記移動体の位置を検出して第2の移動体位置検出値を得る第2の移動体位置検出手段と、前記第1の移動体位置検出値を微分して得られる移動体速度検出値を速度フィードバックとし前記第2の移動体位置検出値を位置フィードバックとして用いるフルクローズドループ方式のフィードバック制御、又は、前記移動体速度検出値を速度フィードバックとし前記第1の移動体位置を位置フィードバックとて用いるセミクローズドループ方式のフィードバック制御により、前記移動体の移動位置が位置指令に追従するように前記モータへ供給するモータ電流値を制御するフィードバック制御機構とを有する産業機械に装備されたギブ締め付け状態把握装置であって、
前記移動体を一定の移動範囲で往復移動させる測定用位置指令を、前記位置指令として前記フィードバック制御機構に与えることにより、前記一定の移動範囲で前記移動体を往復移動させ、このときに前記第1の移動体位置検出手段と前記第2の移動体位置検出手段から、前記第1の移動体位置検出値と前記第2の移動体位置検出値を取得して、記憶媒体に保存するデータ取得部と、
前記記憶媒体に保存した前記第1の移動体位置検出値と前記第2の移動体位置検出値とに基づいて、ロストモーション値を算出するロストモーション値計算処理部と、
ロストモーション値計算処理部で算出した前記ロストモーション値と、ロストモーション設定値とを比較することにより、前記ギブの締め付け状態を判定するギブ締め付け状態判定処理部と、
を有することを特徴とするギブ締め付け状態把握装置。
【請求項4】
請求項3に記載のギブ締め付け状態把握装置において、
前記データ取得部では、前記移動体を往復移動させたとき、前記モータ電流値を取得して、記憶媒体に保存し、
前記ギブ締め付け状態判定処理部では、前記記憶媒体に保存した前記モータ電流値と、モータ電流設定値とを比較することにより、前記ギブの締め付け状態を判定すること、
を特徴とするギブ締め付け状態把握装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−69192(P2013−69192A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−208497(P2011−208497)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】