説明

ククルビット[7−12]ウリルに部分的に封入された多核金属錯体

本発明は、1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体を提供する。本発明は、更には、抗癌活性を有し1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体を投与することにより、癌を治療する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体に関する。本発明は、更には、抗癌活性を有し1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体を投与することにより癌を治療する方法、及び抗癌活性を有し1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体を含む医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
背景技術
ククルビットウリルは、メチレン架橋により6個のグリコールウリル単位が繋がって形成された環状オリゴマーに与えられた名前である。しかしながら、用語「ククルビットウリル」は化合物のファミリーを言うためにも使われているし、本明細書において使用されている(該ファミリーは、化合物ククルビットウリルを含む)。混乱を避けるために、本明細書では、化合物ククルビットウリルは「無置換ククルビット[6]ウリル」と言われる。
【0003】
ククルビットウリルは、環状化合物のファミリーである。ククルビットウリルは、4〜12の化学式(C)
【0004】
【化1】

【0005】
(式中、R、R、R及びRは任意の基であり得、ククルビットウリル中の異なった化学式(C)の単位において異なっていてもよい)の単位からなる大環状環を含む。ククルビットウリルは、中心空洞に2つの開口部を持つ中心空洞を有し、2つの開口部は、R基(及びR基)に囲まれており、そして中心空洞は2つの開口部よりも大きな直径を有している。ククルビットウリルは、ククルビットウリルの空洞内に気体及び揮発性の化合物を含む様々な化合物を封入できる。
【0006】
無置換ククルビット[6]ウリルは、R.Behrend,E.Meyer,F.Rusche,Leibigs Ann.Chem.,339,1,1905の論文中で1905年に初めて文献で報告された。無置換ククルビット[6]ウリルの大環状構造はW.A.Freeman et.al.,「Cucurbituril」,J.Am.Chem.Soc.,103(1981),7367-7368により1981年に初めて報告された。無置換ククルビット[6]ウリルはC36362412の化学式を有し、中心空洞を有する大環状化合物である。
【0007】
WO 00/68232は、様々な無置換及び置換されたククルビット[n]ウリルの合成について記載している。米国特許番号6,365,734もまた、様々なククルビット[n]ウリルの合成について記載している。
【0008】
更なるククルビット[n]ウリル、及びククルビット[n]ウリルの製造方法は、同時係属中の国際特許出願番号PCT/AU2004/001232に記載されている。
【0009】
様々なククルビットウリル類縁体もまた、近年報告されている。これらの類縁体は、上記のククルビットウリルの基本構造を有しているが、上記で示した化学式(C)の1つ又はいくつかの単位は、芳香族基のような他の基で置換されている(例えば、Lagona J. et al,「Cucurubit[n]uril Analogues」,OrganicLetters,2003,Vol 5,No.20,3745-3747で報告されている)。
【0010】
シスプラチンは、抗癌活性を有した単核プラチナ錯体である。シスプラチンは、精巣、卵巣、膀胱、頭部及び頸部、肺並びに子宮頸部癌を含む、様々なヒトの癌の治療に用いられている。しかしながら、シスプラチンは多くの欠点を有している。多くのヒトの癌は、シスプラチンに対して自然耐性を有しており、初めはシスプラチン治療に反応していた癌の多くは、その後、該薬物に対して耐性を獲得する。シスプラチンの使用は、その毒性によってさらに制限されている。カルボプラチンのような、抗癌活性を有するその他の単核プラチナ錯体が開発されている。これらの錯体のいくつかは、シスプラチンよりも低い毒性を有している。しかしながら、シスプラチンに対して自然耐性を有する癌細胞に活性を示す単核プラチナ錯体を発見することについてはほとんど成功していない。
【0011】
抗癌活性を有した全く新しい種類のプラチナ(II)錯体が、近年報告されている。これらの錯体は、2以上の結合したプラチナ中心を含んだ多核プラチナ(II)錯体であり、ここで該錯体は、体内の活性部位(例えば腫瘍)へ錯体が多核錯体として送達されるように、ヒト又は動物の体内での錯体の化学分解に対し耐性である。多核プラチナ錯体中の2以上のプラチナ中心はそれぞれDNAと結合することができ、該錯体はそれゆえ、シスプラチン及び他の単核プラチナ錯体と比べて、完全に異なる範囲のDNA付加体を形成することが可能である。これらの多核プラチナ錯体は、当該分野において、抗癌剤の独自の種類を構成すると認識される。これらの錯体は、シスプラチン、カルボプラチン及び米国特許番号4,225,529で記載されたものなどの単核プラチナ錯体と比較して異なる化学的及び生物学的特性を有している。単核プラチナ錯体とは対照的に、多くの多核プラチナ錯体は荷電種である。
【0012】
米国特許番号4,797,393は、ビス−プラチナ(II)錯体として活性部位に送達されるビス−プラチナ(II)錯体について記載している。このビス−プラチナ錯体は、架橋ジアミン又はポリアミン配位子を有し、プラチナ原子に配位した1級もしくは2級アミン又はピリジン型の窒素、ならびに、ハライド、サルフェート、ホスフェート、ナイトレート、カルボキシレート、置換されたカルボキシレート又はジカルボキシレートであり得る2つの異なる又は同一の配位子を有する。
【0013】
米国特許番号5,380,897は、ジアミン又はトリアミン架橋剤によって結合した3つのプラチナ配位圏を含む、トリ−プラチナ(II)錯体について記載している。
【0014】
これらのビス−プラチナ(II)及びトリス−プラチナ(III)錯体が、効果的な抗癌剤として認められている一方で、これらの錯体の癌を治療するための使用は、その動物及びヒトに対する毒性によって制限されている。その他の多核金属錯体もまた、抗癌又はその他の治療活性を有しているが、それらもまた動物及びヒトに対して毒性である。
【0015】
ビス−プラチナ(II)及びトリス−プラチナ(III)錯体並びに他の多核金属錯体の毒性を低減するための方法を開発することが望ましい。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0016】
発明の開示
本発明者らは、ククルビット[7−12]ウリル及びその類縁体が、多核金属錯体を部分的に封入することを見出した。本発明者らは、驚くべきことに、多核金属錯体は、ククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に封入された場合、遊離型の錯体よりもヒト及び動物に対してより低毒性であることを見出した。
【0017】
第一の局面において、本発明は1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体を提供する。該金属錯体は、典型的には、2核又は3核の金属錯体である。
【0018】
本発明のいくつかの態様において、金属錯体は化学式(IIA)、(IIB)、(IIC)又は(IID)
【0019】
【化2】

【0020】
(式中、
各Xは独立して選択され、単座配位子であるか、又は、化学式(IID)の場合、M原子に配位した2つのX基はそれぞれ単座配位子であるか、又は一緒にジカルボキシレート二座配位子を形成していてもよく、
各Bは独立して選択され、非共有電子対を有した窒素原子によりM原子に配位した配位子であり、
Eは、非共有電子対を有した窒素原子により各M原子に配位した配位子であり、かつ
各Mは、Pt(II)、Pd(II)及びAu(II)からなる群から独立して選択される)
の金属錯体である。
【0021】
いくつかの態様において、金属錯体は、化学式(IIIA)、(IIIB)、(IIIC)又は(IIID)
【0022】
【化3】

【0023】
(式中、
各Xは独立して選択され、単座配位子であるか、又は、化学式(IIID)の場合、M原子に配位した2つのX基はそれぞれ単座配位子であるか、又は一緒にジカルボキシレート二座配位子を形成していてもよく、
各Bは独立して選択され、非共有電子対を有した窒素原子によりM原子に配位した配位子であり、
各Eは独立して選択され、非共有電子対を有した窒素原子により2つのM原子の各々に配位した配位子であり、かつ
各Mは、Pt(II)、Pd(II)及びAu(II)からなる群から独立して選択される)
の金属錯体である。
【0024】
Xが単座配位子である場合、Xは典型的にはハライド、サルフェート、ホスフェート(すなわち、HPO又はHPO2−)、ナイトレート、カルボキシレート及び置換されたカルボキシレートからなる群から選択される。
【0025】
典型的には、Bはアミン、1級アミン、2級アミン、3級アミン、及び1以上のN原子を含む複素環を含む基、からなる群から選択される。
【0026】
典型的には、金属錯体はククルビット[7−12]ウリルにより封入されている。典型的には、該ククルビット[7−12]ウリルは、化学式(I)
【0027】
【化4】

【0028】
(式中、nは7〜12の整数であり、化学式(I)中の化学式(B)
【0029】
【化5】

【0030】
の各単位に関して、
及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ1価の基であるか、又は
、R及びこれらが結合した炭素原子は、置換されていてもよい環状基を一緒に形成するか、あるいは、化学式(B)の1つの単位のR及び化学式(B)の隣接する単位のRは、結合又は2価の基を一緒に形成し、
各Rは、独立して=O、=S、=NR、=CXZ、=CRZ及び=CZからなる群から選択され、ここでZは−NO、−COR、−COR又は−CXなどの電子吸引性基であり、Xはハロであり、RはH、置換されていてもよい直鎖、分岐又は環状の、飽和又は不飽和の炭化水素基であるか、あるいは置換されていてもよい複素環式基であり、かつ
各Rは、独立してH、アルキル及びアリールからなる群から選択される)
のククルビットウリルである。
【0031】
第二の局面において、本発明は多核金属錯体のインビボにおける毒性を低減する方法を提供し、該方法は、金属錯体と1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体との会合を形成することを含み、ここで該金属錯体は、1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体により部分的に封入されている。
【0032】
典型的には、金属錯体と1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体との会合は、金属錯体を1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に接触させることにより形成される。
【0033】
第三の局面において、本発明は対象中の癌を治療する方法を提供し、該方法は、抗癌活性を有し1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体の治療有効量を対象に投与することを含む。
【0034】
本発明は、更には、抗癌活性を有し1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体の、対象中の癌を治療するための医薬の製造における使用を提供する。
【0035】
癌は、例えば、精巣癌、卵巣癌、膀胱癌、頭部及び頸部の癌、肺癌又は子宮頸部癌であり得る。癌は、シスプラチンへの耐性を有した癌であってもよい。
【0036】
第四の局面において、本発明は、抗癌活性を有し1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体及び医薬的に許容される担体を含む、医薬組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
発明を実施するための様態
本明細書で用いられている、用語「ククルビット[n]ウリル」は、n単位の化学式(C)
【0038】
【化6】

【0039】
(式中、R、R、R及びRは任意の基であり得、nは4〜12の整数である)からなる環を含むククルビットウリルを言う。典型的には、R、R、R及びRは、上記の化学式(I)で定義されたとおりである。
【0040】
本明細書で用いられている、用語「無置換ククルビット[n]ウリル」は、ククルビット[n]ウリル中の化学式(C)の全ての単位において、RがOでありかつR、R及びRが全てHであるククルビット[n]ウリルを言い、用語「置換されたククルビット[n]ウリル」は、無置換ククルビット[n]ウリル以外のククルビット[n]ウリルを言う。
【0041】
本明細書で用いられている、ククルビット[n]ウリルの「類縁体」は、ククルビット[n]ウリルに類似する環状構造を有するが、化学式
【0042】
【化7】

【0043】
の単位の1つ又はいくつかが、芳香族基などの他の基で置換された化合物を言い、ここで該類縁体は、多核金属錯体を部分的に封入することができる。
【0044】
本明細書で用いられる場合、ククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体は、金属錯体の一部がククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体の空洞内に位置することを意味している。典型的には、特定の条件下で金属錯体がククルビット[n]ウリル又はその類縁体から遊離するという意味においては、該金属錯体は可逆的にククルビット[n]ウリル又はその類縁体に封入されている。
【0045】
単独で又は「アルキルアリール」のような複合語中で用いられている、用語「アルキル」は、直鎖の、分岐の又はモノもしくはポリ環状アルキルを意味し、好ましくはC1-30アルキルである。直鎖及び分岐のアルキルの例としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、アミル、イソアミル、sec-アミル、1,2-ジメチルプロピル、1,1-ジメチルプロピル、ヘキシル、4-メチルペンチル、1-メチルペンチル、2-メチルペンチル、3-メチルペンチル、1,1-ジメチルブチル、2,2-ジメチルブチル、3,3-ジメチルブチル、1,2-ジメチルブチル、1,3-ジメチルブチル、1,2,2-トリメチルプロピル、1,1,2-トリメチルプロピル、ヘプチル、5-メチルヘキシル、1-メチルヘキシル、2,2-ジメチルペンチル、3,3-ジメチルペンチル、4,4-ジメチルペンチル、1,2-ジメチルペンチル、1,3-ジメチルペンチル、1,4-ジメチルペンチル、1,2,3-トリメチルブチル、1,1,2-トリメチルブチル、ノニル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、又は7-メチルオクチル、1-、2-、3-、4-又は5-エチルヘプチル、1-、2-又は3-プロピルヘキシル、デシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、7-又は8-メチルノニル、1-、2-、3-、4-、5-、又は6-エチルオクチル、1-、2-、3-又は4-プロピルヘプチル、ウンデシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、7-、8-又は9-メチルデシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-又は7-エチルノニル、1-、2-、3-、4-又は5-プロピルオクチル、1-、2-又は3-ブチルヘプチル、1-ペンチルヘキシル、ドデシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、7-、8-、9-又は10-メチルウンデシル、1-、2-、3-、4-、5-、6-、7-又は8-エチルデシル、1-、2-、3-、4-、5-又は6-プロピルノニル、1-、2-、3-又は4-ブチルオクチル、1-2-ペンチルヘプチル等が挙げられる。環状アルキルの例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル、シクロノニル及びシクロデシル等が挙げられる。
【0046】
単独で又は複合語中で用いられている、用語「アルケニル」は、直鎖の、分岐の又は環状のアルケンを意味し、好ましくはC2-30アルケニルである。アルケニルの例としては、ビニル、アリル、1-メチルビニル、ブテニル、イソ-ブテニル、3-メチル-2-ブテニル、1-ペンテニル、シクロペンテニル、1-メチル-シクロペンテニル、1-ヘキセニル、3-ヘキセニル、シクロヘキセニル、1-ヘプテニル、3-ヘプテニル、1-オクテニル、シクロオクテニル、1-ノネニル、2-ノネニル、3-ノネニル、1-デセニル、3-デセニル、1,3-ブタジエニル、1,4-ペンタジエニル、1,3-シクロペンタジエニル、1,3-ヘキサジエニル、1,4-ヘキサジエニル、1,3-シクロヘキサジエニル、1,4-シクロヘキサジエニル、1,3-シクロヘプタジエニル、1,3,5-シクロヘプタトリエニル及び1,3,5,7-シクロオクタテトラエニルが挙げられる。
【0047】
単独で又は複合語中で用いられている、用語「アルコキシ」は、直鎖の又は分岐のアルコキシを意味し、好ましくはC1-30アルコキシである。アルコキシの例としては、メトキシ、エトキシ、n-プロピルオキシ、イソプロピルオキシ及び異なるブトキシ異性体が挙げられる。
【0048】
単独で又は複合語中で用いられている、用語「アリール」は、単一の、多核の、共役又は縮合した、芳香族炭化水素又は芳香族複素環系の残基を意味する。アリールの例としては、フェニル、ナフチル、ピリジル、フラニル等が挙げられる。アリールがヘテロアリールである場合、該芳香族複素環系は、N、O及びSから独立して選択される1〜4のヘテロ原子を含んでいてもよい。
【0049】
本発明は、1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体に関する。そのような、金属錯体と1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体との会合は、錯体とククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体との「会合付加体」と言われ得る。
【0050】
金属錯体は、ククルビット[7−12]又はその類縁体に部分的に封入されており、それゆえ金属錯体の一部は、ククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体の一方もしくは両方の開口部から突き出ている。本発明のいくつかの態様において、該金属錯体は2以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入されている。
【0051】
金属錯体は、任意の多核金属錯体であり得る。錯体中の金属中心は同一でも異なっていてもよい。
【0052】
典型的には、金属錯体は、上記で定義された化学式(IIA)、(IIB)、(IIC)、(IID)、(IIIA)、(IIIB)、(IIIC)又は(IIID)の金属錯体である。これらの化学式の金属錯体は抗癌活性を有している。これらの化学式の金属錯体はまた、錯体がヒト又は動物の体に投与された場合に、錯体が多核金属錯体として体内の活性部位(例えば腫瘍)に送達されるように、ヒト又は動物の体内において多核錯体の化学分解に対して耐性である。
【0053】
しかしながら、本発明は化学式(IIA)、(IIB)、(IIC)、(IID)、(IIIA)、(IIIB)、(IIIC)又は(IIID)の金属錯体に限定されない。該金属錯体は、例えば、化学式
【0054】
【化8】

【0055】
の錯体などの、他の多核金属錯体であってもよい。
【0056】
本発明のいくつかの態様において、金属錯体は、化学式(IIA)、(IIB)、(IIC)、(IID)、(IIIA)、(IIIB)、(IIIC)又は(IIID)の金属錯体であり、ここでMはPt(II)である。好ましくは、該金属錯体は、化学式(IIA)又は(IIIA)の金属錯体であり、ここでMはPt(II)である。これらの金属錯体は好ましい。なぜなら、X及びEがトランス配置である金属錯体は、そのような錯体の他の異性体よりもより効果的な抗癌剤であることが判明しているためである。
【0057】
化学式(IIA)、(IIB)、(IIC)、(IID)、(IIIA)、(IIIB)、(IIIC)及び(IIID)の金属錯体に関して、ククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体の空洞内に位置する錯体の一部は、典型的にはE又はEの一部である。
【0058】
化学式(IIA)、(IIB)、(IIC)、(IID)、(IIIA)、(IIIB)、(IIIC)又は(IIID)において、Xがカルボキシレート又は置換されたカルボキシレートである場合、Xは化学式:
CR(C(RCO
(式中、mは0〜5を含む整数であり、R基は、同一でも異なっていてもよく、水素、置換されていてもよい直鎖又は分岐のアルキル(例えば、C1−5アルキル)、置換されていてもよいアリール、置換されていてもよいアルキルアリール、置換されていてもよいアリールアルキル、置換されていてもよいアルケニル、置換されていてもよいアルキニル、置換されていてもよいシクロアルキル、置換されていてもよいシクロアルケニル、ハロゲン、擬ハロゲン、ヒドロキシ、カルボニル、ホルミル、ニトロ、アミド、アミノ、アルコキシ、アリールオキシ及び硫酸塩であり得、又は(R中の2つのR基は、(Rが二重結合した酸素又は硫黄を表すように、合わせられてもよい)で表され得る。任意の置換基は、アリール、炭素原子2〜6のシクロアルキル、シクロアルケニル、アリールアルキル、ハロゲン、擬ハロゲン、ヒドロキシル、アルコキシ、アシクロアミノ(acycloamino)又は炭素原子1〜5のカルボン酸塩もしくはエステルから選択され得る。
【0059】
本明細書で用いられている、用語「擬ハロゲン」は、「Advanced Inorganic Chemistry」,Cotton and Wilkinson,Interscience Publishers,1966の560ページで見られる意味を持つ。その本文は、遊離状態ではハロゲンを表わす2より多い電気陰性原子からなる分子として、擬ハロゲンを説明している。これらの分子の例は、シアニド、シアネート、チオシアネート及びアジドである。
【0060】
典型的には、Bは、アミン(NH)、1級アミン、2級アミン、3級アミン、及び1以上のN原子を含む複素環を含む基、からなる群から選択される。1以上のN原子を含む複素環は、芳香族基又は脂肪族基であり得る。Bがアミンの場合、Bは例えば分岐の又は直鎖のアルキルアミン(典型的にはC1−5アルキルアミン)、アリールアミン、アリールアルキルアミン又はアルケニルアミン(典型的にはC1−5アルケニルアミン)であり得る。Bはまた、シクロアルキルアミン、多環式の炭化水素アミン、ヌクレオシド、ヌクレオチド、ピリジン型窒素含有基、又はヒドロキシ、アルコキシ(典型的にはC1−5アルコキシ)、カルボン酸もしくは酸エステル、ニトロもしくはハロ置換基を有したアミンであり得る。
【0061】
好ましい1級アミンは、化学式NH-R10のアルキルアミンであり、ここでR10は、直鎖の又は分岐のC1−5アルキル、C−Cシクロアルキル基(すなわち、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル又はシクロヘキシル)、又は−CHOHである。
【0062】
好ましい2級アミンには、化学式NH(R10のアルキルアミンが挙げられ、各R10は独立して選択され、R10は上記のとおりである。
【0063】
1つのM原子に配位した2つのB配位子は、ジアミンのような二座配位子であり得る。同様に、E及び1つ又は2つのB配位子は、同一の三座又は四座の配位子の一部であり得る。
【0064】
Eは、非共有電子対を有する2以上のN原子を含む任意の配位子であり得、ここで1つのそのようなN原子は1つのM原子に配位しており、そのようなもう1つのN原子はもう1つのM原子に配位している。
【0065】
Eは、例えば化学式:
NDG-(C(R-(R-(C(R-NDG
(式中、n及びpは1〜6を含む整数であり、oは0又は1であり、
及びR基は、水素、アルキル(典型的にはC1−5アルキル)、アリール、シクロアルキル、シクロアルケニル、アリールアルキル、ハロゲン、擬ハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、カルボン酸エステル及びカルボン酸塩からなる群からそれぞれ独立して選択され、好ましくは全てのR及びR基はHであり、
は、アルキル(例えば、C1−5アルキル)、アリール(例えばフェニル)、アミノ、アルキルアミノ、化学式-(NH(CHNH)-のジアミノ(qは1〜4を含む整数)、ヒドロキシアルキル、アルコキシ、硫黄及び酸素からなる群から選択され、かつ
各D及びGは、水素、アルキル(典型的にはC1−5アルキル)、アリール、アルキルアリール、アリールアルキル、アルケニル、シクロアルキル、シクロアルケニル、ハロゲン、擬ハロゲン、ヒドロキシ、アルコキシ、アリールオキシ、硫酸又はその塩からなる群から独立して選択され、好ましくはD及びGは水素である)
を有し得る。
【0066】
Eは、例えば、スペルミジン、中心のN原子が二重にメチル化されたスペルミジン、スペルミン、ジピラゾリルメタン又は1,6−ヘキサンジアミンであり得る。
【0067】
B及びEが電荷において中性の場合、化学式(IIA)、(IIB)又は(IIC)の金属錯体の総電荷は、典型的には2であり、化学式(IID)の金属錯体は、典型的には中性である。B及びEが電荷において中性の場合、化学式(IIIA)、(IIIB)又は(IIIC)の金属錯体の総電荷は、典型的には4であり、化学式(IIID)の金属錯体は典型的には2である。
【0068】
抗癌活性を有する様々な多核プラチナ(II)錯体は、先行技術において報告されている。例えば、抗癌活性を有する様々な多核プラチナ(II)錯体は、Wheate NJ and Collins JG,「Multi-nuclear platinum complexes as anti-cancer drugs」,Coordinated Chemistry Reviews,241(2003),133-145の論文、及びFarrell,N,「Platinum-Based Drugs in Cancer Therapy」,Humana Press Totawa,Kellard L.R. and Farrell N.P.(Eds),2000,pp 321-338の章で報告されており、その両方とも本明細書中で参照として組み入れている。本発明で用いられている多核金属錯体は、これらの参考文献のいずれかに記載された任意の多核プラチナ(II)錯体であり得る。
【0069】
先行技術において報告された、抗癌活性を有する特定の多核プラチナ(II)錯体の例としては、
【0070】
【化9−1】

【0071】
【化9−2】

【0072】
が挙げられる。
【0073】
化学式(IIA)の金属錯体の例は、
【0074】
【化10】

【0075】
である。
【0076】
本発明のいくつかの態様において、金属錯体は化学式(IIA)の金属錯体であり、ここでXは塩素、BはアミンかつEはジピラゾリルメタンである。塩素対イオンを有したこの錯体は、{トランス-ジアミンクロロ(μ-ジピラゾリルメタン)プラチナ(II)}クロライドとして公知である。該錯体は、以下において「Di-Pt」と言われる。
【0077】
本発明のいくつかの他の態様において、金属錯体は化学式(IIA)の金属錯体であり、ここでXは塩素、BはアミンかつEはスペルミジンである。塩素対イオンを有したこの錯体は、{トランス-ジアミンクロロ(μ-スペルミジン)プラチナ(II)}クロライドとして公知である。この錯体は、以下において「BBR3571」と言われる。
【0078】
本発明のいくつかの態様において、金属錯体は化学式(IIIA)の金属錯体であり、ここでXは塩素、Bはアミン、Eはジピラゾリルメタンである。塩素対イオンを有したこの錯体は、{トランス-ジアミンビス{トランス-ジアミンクロロ(μ-ジピラゾリルメタン)プラチナ(II)}プラチナ(II)}クロライドとして公知である。この錯体は、以下において「Tri-Pt」と言われる。
【0079】
本発明のいくつかの態様において、金属錯体は化学式(IIIA)の金属錯体であり、ここでXは塩素、BはアミンかつEは1,6−ヘキサンジアミンである。ナイトレート対イオンを有したこの錯体は、{トランス-ジアミンビス{トランス-ジアミンクロロ(μ-1,6-ヘキサンジアミン)プラチナ(II)}プラチナ(II)}ナイトレートとして公知である。この錯体は、以下において「BBR3464」と言われる。
【0080】
ククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体は、金属錯体の一部を封入することのできる任意のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体であり得る。典型的には、ククルビット[7−12]ウリルは化学式(I)のククルビット[7−12]ウリルである。金属錯体が、2以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入される場合、該2以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体は同一でも異なっていてもよい。
【0081】
典型的には、化学式(I)において、R及びRが1価の基である場合、R及びRは、-R、-OR、-SR、-NR(各Rは独立して選択される)、-NO、-CN、-X、-COR、-COX、-COOR、
【0082】
【化11】

【0083】
(各Rは独立して選択される)、
【0084】
【化12】

【0085】
(各Rは独立して選択される)、-SeR、SiR(各Rは独立して選択される)、-SR、-SOR、
【0086】
【化13】

【0087】
-SOR、-S-S-R、-BR(各Rは独立して選択される)、-PR(各Rは独立して選択される)、
【0088】
【化14】

【0089】
(各Rは独立して選択される)、
【0090】
【化15】

【0091】
(各Rは独立して選択される)、-P(各Rは独立して選択される)、及び金属又は金属錯体からなる群から独立して選択される。(式中、RはH、置換されていてもよい直鎖、分岐もしくは環状の、飽和又は不飽和の炭化水素基、あるいは置換されていてもよい複素環式基であり、かつXはハロである。)Rは例えば、Hあるいは直鎖もしくは分岐のC1−5アルキル又はC2−5アルケニル、であり得る。
【0092】
及びRが1価の基である場合、R及びRは例えば、H、置換されていてもよいアルキル(例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル等のC1−5アルキル)、置換されていてもよいアルケニル、置換されていてもよいアルキニル、置換されていてもよい複素環、置換されていてもよいアリール(例えば、フェニル、ナフチル、ピリジル、フラニル又はチオフェニル)、-OR、-SR又は-NR-から選択され得る。
【0093】
いくつかの態様において、R及びRが1価の基である場合、R及びRは各々30未満の炭素原子を含む。R及びRは、例えば、炭素原子1〜30のアルキル基、炭素原子2〜30のアルケニル基、炭素原子5〜30の環状炭化水素基、O、N又はSのような1以上のヘテロ原子を有する炭素原子4〜30の環状基、炭素原子6〜30のアリール基、及びO、N又はSのような1以上のヘテロ原子を有する炭素原子5〜30のアリール基からなる群から独立して選択され得る。
【0094】
及びRは、例えば、メトキシ、エトキシ、プロピルオキシなどのアルコキシ基であってもよい。R及びRはまた、ヒドロキシ、ハロ、シアノ、ニトロ、アミノ、アルキルアミノ又はアルキルチオ基であってもよい。
【0095】
、R及びこれらが結合した炭素原子によって形成される置換されていてもよい環状基の例には、置換されていてもよい飽和又は不飽和の炭素原子5〜30の環状炭化水素基、及び置換されていてもよい飽和又は不飽和の炭素原子3〜30、典型的には炭素原子4〜30の、O、N又はSなどの1以上のヘテロ原子を有する環状基が挙げられる。
【0096】
化学式(I)の化合物における化学式(B)の隣接する単位のR及びRを連結し得る2価の基は、例えば、2価の置換されてもよい直鎖又は分岐の、飽和又は不飽和の、1以上の炭素原子を含む炭化水素基であり得る。2価の基は、1以上のO、N又はSのようなヘテロ原子からなるか又は含んでいてもよい。
【0097】
Rが、置換されていてもよい炭化水素基又は置換されていてもよい複素環式基である場合、炭化水素基又は複素環式基は、1以上の置換基で置換されてもよい。同様に、R、R及びこれらが結合した炭素原子が、置換されてもよい環状基を一緒に形成する場合、該環状基は1以上の置換基で置換されてもよい。任意の置換基はいずれの基でもあってよく、例えば、置換されていてもよいアルキル(例えばC1−5アルキル)、置換されていてもよいアルケニル(例えばC2-5アルケニル)、置換されていてもよいアルキニル(例えばC2−5アルキニル)、置換されていてもよい複素環、置換されていてもよいアリール、ハロ(例えばF、Cl、Br又はI)、ヒドロキシル、アルコキシル、カルボニル、ハロゲン化アシル、ニトロ、カルボン酸、カルボン酸エステル、アミノ、イミノ、シアノ、イソシアネート、チオール、チオール-エステル、チオ-アミド、チオ-ウレア、スルホン、スルファイド、スルホキシド又はスルホン酸基あるいは金属又は金属錯体であり得る。任意の置換基はまた、ボラン、ホスフィン、アルキルホスフィン、ホスフェート又はホスホルアミド(phosphoramide)のようなリン含有基、シリコン含有基、又はセレニウム含有基であってもよい。
【0098】
典型的には、Zは、-NO、-COR、-COR及び−CXからなる群から選択され、ここでXはハロ(例えばF、Cl、Br又はI)であり、かつRは、H、アルキル(例えば、C1−5アルキル)、アルケニル(例えばC2−5アルケニル)、アルキニル(例えばC2−5アルキニル)、アリール、ヘテロアリール、又は飽和もしくは不飽和の複素環である。
【0099】
今までに製造された大多数のククルビット[4−12]ウリルは、ククルビットウリルを形成する化学式(B)の全ての単位において、RがOかつRがHである、ククルビット[4−12]ウリルである。従って、本発明のいくつかの態様において、ククルビット[7−12]ウリルは化学式(I)のククルビット[7−12]ウリルであり、ここで化学式(I)を形成する化学式(B)の全ての単位においてRはOかつRはHである。
【0100】
化学式(I)のククルビット[7−12]ウリルは、WO 00/68232、米国特許番号6,365,734に記載された通りに、又は国際特許出願番号PCT/AU2004/001232に記載された通りに製造することができる。ククルビット[7−12]ウリルの類縁体は、Legano J.et.al,「Cucurbit(n)uril Analogue」,Organic Letters,2003,vol 5,no.20,3745-3747に記載された通りに製造することができ、これは参照として本明細書で組み入れている。
【0101】
多核金属錯体とククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体との会合付加体は、金属錯体をククルビット[7−12]又はその類縁体と接触させることにより製造することができる。典型的には、金属錯体及びククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体を溶媒、典型的には水に溶解又は懸濁することにより、金属錯体をククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に接触させる。
【0102】
会合付加体は例えば、以下の工程により形成され得る。
【0103】
金属錯体に対して1又は2モル当量のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体(注釈1)を水中に溶解又は懸濁し(注釈2)、次いで金属錯体を加え該混合物を周囲温度(35℃以下)で攪拌する。特にククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体が水系において低溶解性である場合には、添加について逆の順番を用いることができる(注釈3)。数時間後、全ての不溶物質を濾過によって収集又は除去する。会合付加体の構造はNMR分光法によって確認することができる。該水性混合物は、次いで凍結乾燥され(注釈4)、会合付加体を微細粉末として得る。
【0104】
注釈
1.化学量論は、会合付加体中の多核金属錯体に対するククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体の、2:1、1:1又は要求される任意の他の組み合わせの要件に依存している。
2.いくつかの例においては生理食塩水溶液を用いることができる。煮沸するための加熱は、水系にククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体を溶解するために用いることができ、次いでそれは、金属錯体の添加の前に周囲温度まで冷却される。
3.水系に溶けにくいククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に関しては、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、トリフルオロエタノール及びギ酸などの有機溶媒を水系に加えることができる。水系から会合付加体を分離する前に、有機溶媒は減圧下で除去される。
4.生理食塩水溶液を用いた場合、会合付加体は溶液から凍結乾燥により分離するのではなく、生理食塩水溶液からの結晶化によって分離される。
【0105】
本発明者らは、1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体が、会合していない錯体よりもヒト及び動物に対してより低毒性であることを見出した。
【0106】
本発明はそれゆえ、多核金属錯体のインビボにおける毒性を低減する方法を提供し、該方法は金属錯体と1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体との会合を形成することを含み、ここで金属錯体の一部は1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に封入されている。
【0107】
理論に縛られることを望むことなく、本発明者らは、1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された場合の多核金属錯体のインビボにおける毒性の低減は、金属錯体の封入化が金属錯体とヒト又は動物の体内の化合物との間の望ましくない反応を減少させることに起因していると考える。多核金属錯体の毒性は、少なくとも一部は、チオタンパク及び/又は血漿タンパクなどのヒト又は動物の体内の化合物と金属錯体との間の反応によるものと考えられ、その生成物は毒性反応を誘発すると考えられる。金属錯体の1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体による部分的な封入化は、これらの反応を、特に血流中において減らすと考えられる。望ましくない生物学的反応の減少は、ククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体が、ククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体のバルクにより立体的に、あるいはククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体の電気陰性ポータル(portals)による反発作用を通じて、体内の分子と多核金属錯体との間の反応を妨害することに起因すると考えられる。
【0108】
多くの多核金属錯体は、抗癌活性を有している。
【0109】
本発明は対象中の癌を治療する方法を提供し、該方法は、抗癌活性を有し1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体の治療有効量を対象に投与することを含む。多核金属錯体の抗癌活性は、錯体の癌細胞株に対する活性のインビトロスクリーニングにより、当業者によって容易に測定することができる。典型的には、抗癌活性を有した多核金属錯体は、上記で定義した化学式(IIA)、(IIB)、(IIC)、(IID)、(IIIA)、(IIIB)、(IIIC)又は(IIID)の金属錯体である。より典型的には、多核金属錯体は、MがPt(II)である化学式(IIA)、(IIB)、(IIC)、(IID)、(IIIA)、(IIIB)、(IIIC)又は(IIID)の金属錯体である。いくつかの態様において、抗癌活性を有した多核金属錯体は、
【0110】
【化16−1】

【0111】
【化16−2】

【0112】
【化16−3】

【0113】
から選択される。
【0114】
対象は哺乳類、好ましくはヒトであり得る。該対象は、動物モデル試験で用いられるような、非ヒト霊長類又は非霊長類であってもよい。該方法がヒトの薬物治療に使用するのに適切であることが特に企図される一方で、それはまた犬及び猫などのコンパニオンアニマル、馬、ポニー、ロバ、ラバ、ラマ、アルパカ、ブタ、ウシ及びヒツジなどの家畜、又は霊長類、猫科、犬科、ウシ科及び有蹄類などの動物園の動物の治療を含む、獣医治療にも適用できる。
【0115】
適切な哺乳類には、霊長類、齧歯目、ウサギ目、クジラ目、食肉目、奇蹄目及び偶蹄目のメンバーが挙げられる。
【0116】
本明細書で用いられている、用語「治療有効量」は、例えば、癌細胞の増殖又は拡大の速度を遅らせることにより癌を治療するための、所望の治療応答をもたらすのに有効な量を言う。特定の「治療有効量」は、明らかに、治療される特定の状態、対象の健康状態、治療される対象の種類、治療の継続期間、併用療法の性質(もしあれば)、及び用いられる特定の剤形、などの要因によって変化する。会合付加体は、例えば、会合付加体のLD50値を考慮し、シスプラチンと比較して有効な用量で投与される。
【0117】
用語「治療」(treating)、「治療」(treatment)などは、本明細書で用いられ、対象、組織又は細胞に影響を及ぼし、所望の薬理学的及び/又は生理学的効果を得ることを意味する。該効果は、完全に又は部分的に疾患又はそれらの兆候もしくは症状を防ぐという点に関して予防的であり、かつ/又は疾患の部分的又は完全な治癒という点に関して治療的であり得る。本明細書で用いられている「治療(Treating)」は、疾患の任意の治療、又は予防を範囲としており、(a)疾患にかかりやすい可能性があるがそれを有していると未だに診断されていない対象において、疾患が発生しないようにすること;(b)疾患を阻害する、すなわち、その発症を止めること;又は(c)疾患の影響を取り除く又は改善する、すなわち、疾患の影響の退行をもたらすこと、を含む。
【0118】
金属錯体と1以上のククルビット[7−12]又はその類縁体との会合付加体は、有効な組み合わせを与えるために、さらに他の治療剤と組み合されることができる。これは、該組み合わせが会合付加体の活性を排除しない限り、任意の化学的に相性の良い治療剤の組み合わせが含まれることを意図している。会合付加体及び他の治療剤は、別々に、連続で又は同時に投与され得ると理解される。
【0119】
会合付加体は、経口又は注射により非経口で対象に投与され得る。投与は、静脈内、動脈内、腹腔内、筋肉内、皮下、腔内、経皮又は例えば浸透圧ポンプによる注入であり得る。
【0120】
本発明の組成物は、1以上の医薬的に許容される担体と共に、抗癌活性及び1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体を有した多核金属錯体の少なくとも1つの会合付加体を含む。該組成物は、必要に応じて他の治療剤をも含むこともできる。本発明の組成物には、経口、直腸内、経鼻、局所(口腔及び舌下を含む)、膣内又は非経口(皮下、筋肉内、静脈内及び皮内を含む)投与に適切なものが含まれる。該組成物は、単位剤形で都合良く与えることができ、医薬の分野で周知の方法により製造され得る。このような方法は、活性成分を、医薬的に許容される担体及び組成物の任意の他の成分と会合させる工程を含む。通常、該組成物は、活性成分を担体及び組成物の任意の他の成分と均一かつ密に会合させること、及び必要であれば次いで生成物を成形すること、により製造される。
【0121】
本明細書で用いられている「医薬担体」は、対象に活性成分を送達するための医薬的に許容される溶媒、懸濁剤又はビヒクルである。担体は、液体又は固体であり得、予定された投与方法に留意して選択される。担体は、生物学的にもそれ以外でも望ましいという意味において、医薬的に「許容可能」である。すなわち該担体は、いかなる又は実質的な有害反応を引き起こすことなく活性成分と共に対象に投与することができる。
【0122】
本発明の経口使用のための医薬組成物は、医薬的に洗練され、かつ口当たりの良い製剤を製造するために、甘味剤、崩壊剤、香味剤、着色剤、防腐剤、滑剤、及び時間遅延剤の群から選択される1以上の剤を含むことができる。適切な甘味料には、スクロース、ラクトース、グルコース、アスパルテーム又はサッカリンが挙げられる。適切な崩壊剤には、コーンスターチ、メチルセルロース、ポリビニルピロリドン、キサンタンガム、ベントナイト、アルギン酸又は寒天が挙げられる。適切な香味剤としては、ペパーミント油、ウインターグリーン油、サクランボ、オレンジ又はラズベリー香料が挙げられる。適切な防腐剤には、安息香酸ナトリウム、ビタミンE、アルファトコフェロール(alphatocopherol)、アスコルビン酸、メチルパラベン、プロピルパラベン又は亜硫酸水素ナトリウムが挙げられる。適切な滑剤には、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸、オレイン酸ナトリウム、塩酸ナトリウム又はタルクが挙げられる。適切な時間遅延剤には、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルが挙げられる。
【0123】
錠剤の形態である本発明の医薬組成物は、(1)炭酸カルシウム、ラクトース、リン酸カルシウム又はリン酸ナトリウムのような不活性希釈剤、(2)コーンスターチ又はアルギン酸のような造粒剤及び崩壊剤、(3)スターチ、ゼラチン又はアカシアのような結合剤、及び(4)ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸又はタルクのような滑剤、を含んでいてもよい。該錠剤は被覆されていないか、又は消化管内での崩壊及び吸収を遅延させ、それゆえ長期間にわたる持続作用を与える公知の手法により被覆されていても良い。例えば、モノステアリン酸グリセリル又はジステアリン酸グリセリルのような時間遅延物質を用いることができる。
【0124】
非経口投与のための組成物には、滅菌された水性又は非水性の溶液、懸濁液及び乳液が挙げられる。そのような組成物に用いることのできる非水性担体の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物性油脂、及びオレイン酸エチルのような注射可能な有機エステルである。水性担体には、生理食塩水及び緩衝化媒体を含む、水、アルコール性/水性の溶液、乳液又は懸濁液が挙げられる。非経口ビヒクルには、流体であり、かつ栄養を補給するもの、電解質を補給するもの(リンガーデキストロースに基くもの等)を含む、塩化ナトリウム溶液、リンガーデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、乳酸化リンガー静脈ビヒクル、等が挙げられる。例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、増殖因子及び不活性ガス等の、防腐剤及び他の添加剤もまた存在し得る。
【0125】
獣医組成物は、例えば当該分野において慣用の方法により、製造され得る。そのような獣医組成物の例には、
(a)経口投与(例えば、錠剤、食べ物に混合するための粉末、顆粒又はペレット、舌に適用するためのペースト)、
(b)非経口投与(例えば、皮下、筋肉内又は静脈内注射(例えば、滅菌溶液又は懸濁液として)により、又は(適切な場合は)懸濁液又は溶液が乳頭を通じて乳房に導入される乳房内注射により)、
(c)局所適用(例えば、皮膚に適用されるクリーム、軟膏又はスプレーとして)、又は
(d)膣内(例えば、ペッサリー、クリーム又はフォームとして)
に適したものが挙げられる。
【実施例】
【0126】
本発明は、下記の限定しない実施例の参照により以下で説明される。
【0127】
実施例1
ククルビット[7−12]ウリルに封入されたジプラチナ錯体の製造(1:1会合付加体)
無置換ククルビット[7]ウリル(1モル当量)を、加熱した(60〜90℃)200mMのNaCl溶液(150mL)又はHO(150mL)に完全に溶解した。これに、1モル当量の{トランス-ジアミンクロロ(μ-ジピラゾリルメタン)プラチナ(II)}クロライド(Di-Pt)を加え、その溶液を1時間攪拌した。ゆっくりと蒸発させることにより会合付加体の結晶を得た。
無置換ククルビット[7]ウリルの代わりに無置換ククルビット[8]ウリルを用いた同様の手順を行い、白色粉末も得た。
類似の方法は、金属錯体と他の無置換又は置換されたククルビット[7−12]ウリル、又はククルビット[7−12]ウリルの類縁体との会合付加体を製造するのに用いることができる。
【0128】
実施例2
ククルビット[n]ウリルに封入されたトリプラチナ錯体の製造(1:2会合付加体)
水(10mL)中に溶解した約50mgの無置換ククルビット[7]ウリル又は無置換ククルビット[8]ウリルを、水(10mL)に溶解した2分の1モル当量のBBR3464に加えた。サンプルを室温で1時間攪拌し、その後溶液を凍結乾燥した。そのサンプルをH NMR分光法で分析したところ、金属錯体がククルビットウリルに封入されていることが示された。
類似の方法は、金属錯体と他の無置換又は置換されたククルビット[7−12]ウリル、又はククルビット[7−12]ウリルの類縁体との会合付加体の製造にも用いることができる。
【0129】
実施例3
会合付加体構造のNMR分析
無置換ククルビット[7]ウリル又は無置換ククルビット[8]ウリルの溶液(5mM)のアリコートを、DO中のBBR3571又はBBR3464の希釈溶液(1.5mM)を含有したNMRチューブに直接加え、そして各々の添加後に記録したH NMRスペクトルは、金属錯体がククルビットウリルに封入されていることを示した。
【0130】
実施例4
バイオアッセイ用サンプルの製造
水(10mL)中に溶解した約50mgの無置換ククルビット[7]ウリル又は無置換ククルビット[8]ウリルを、水(10mL)に溶解した等モル量のBBR3571に加えた。サンプルを室温で1時間攪拌し、その後溶液を凍結乾燥した。サンプルをH NMR分光法で分析したところ、金属錯体がククルビットウリルに封入されていることが示された。
BBR3464/無置換ククルビット[7]ウリル及びBBR3464/無置換ククルビット[8]ウリル付加体を実施例2のとおりに製造した。BBR3464/無置換ククルビット[10]ウリル付加体は実施例5に記載のとおりに製造した。
【0131】
実施例5
難溶性ククルビット[n]ウリル
水(2mL)中に溶解したBBR3464(6mg)を5mgの無置換ククルビット[10]ウリルに加え、別の4mLの水を加え、その懸濁液を一晩攪拌した。次いで、追加の5mgのククルビット[10]ウリル及び5mLの水を加え、懸濁液をさらに48時間攪拌した。次いでその懸濁液を遠心分離し、上清を凍結乾燥した。サンプルをH NMR分光法で分析したところ、金属錯体がククルビットウリルで封入されていることが示された。
【0132】
実施例6
インビトロにおけるバイオアッセイ
BBR3571、上記の実施例4で記載されたとおりに製造したBBR3571と無置換ククルビット[7]ウリルとの会合付加体、Di-Pt、及び上記の実施例1で記載されたとおりに製造したDi-Ptと無置換ククルビット[7]ウリルとの会合付加体を、L1210マウス白血病細胞及びそれに対応するシスプラチン耐性細胞L1210/DDPに対する細胞傷害活性について試験した。試験を、N.J.Wheate et al,Anti-Cancer Drug Design,16,91(2001)で概略が説明されている手順に従ってインビトロで実施した。その結果を表Iに示す。表Iの結果はIC50で表しており、これは、細胞増殖を50%阻害するのに必要な錯体又は会合付加体の最小濃度を示している。
【0133】
【表1】

【0134】
会合付加体は、遊離型の錯体と似たような値を示したことから、会合付加体は、これらの白血病細胞株に対して効果的な抗癌剤であると考えられる。BBR3571及びDi-Ptの通常の細胞傷害活性は、それゆえ、BBR3571及びDi-Ptと無置換ククルビット[7]ウリルとの会合付加体において維持された。
ククルビット[7−10]ウリルとの会合付加体を形成することによりプラチナ錯体の細胞傷害活性を調節できることは表IIに示しており、実施例4及び5に記載されたとおりに製造した、BBR3464と無置換ククルビット[7]ウリル、無置換ククルビット[8]ウリル又は無置換ククルビット[10]ウリルとの会合付加体を用いた、上記で概略した手順に従った。インビトロ試験は、錯体BBR3464の細胞傷害性は、封入するククルビット[n]ウリルのサイズを小さくすることよって低減されることを示している。
【0135】
【表2】

【0136】
実施例7
インビボにおけるバイオアッセイ
A.最大耐量(MTD)
プラチナ錯体BBR3571及びBBR3571と無置換ククルビット[7]ウリルとの会合付加体を、雌性balb/cヌードマウスでインビボにおいて試験した。
これらの試験結果は、生理食塩水溶液中で静脈内に送達された場合、会合付加体は遊離型の錯体よりも1.7倍高いBBR3571についての最大耐量(MTD)を有していることを示した。
【0137】
【表3】

【0138】
ククルビット[7]ウリル/BBR3571会合付加体の0.45mg/kgと比較して、遊離型のプラチナ錯体BBR3571の最大耐量は0.1mg/kgである。
B.インビボにおける会合付加体と対比した遊離型金属錯体の細胞傷害活性
1(等モル量)の薬物当量の、BBR3571と無置換ククルビット[7]ウリルとの会合付加体の細胞傷害活性を、遊離型金属錯体と比較した。この実験は、遊離型金属錯体のMTDに限定した。2008卵巣癌細胞株からの細胞を、雌性balb/cヌードマウスの脇腹に皮下接種した。一旦、腫瘍が約100mmの容積に達したら、マウスを無作為にグループに分け、MTDのBBR3571生理食塩水溶液、もしくは等モル量の無置換ククルビット[7]ウリルとBBR3571との会合付加体(0.27mg/kgの会合付加体)の生理食塩溶液を投与した。コントロールを生理食塩水もしくは無置換ククルビット[7]ウリルの生理食塩溶液として投与した。0、4及び8日目に、用量を投与した。結果は表IVに示す。
【0139】
【表4】

【0140】
100以下で定義される腫瘍増殖指数(TGI)(コントロールグループのマウスの相対組織容積中央値で除し、100を乗じた、治療グループのマウスの相対腫瘍容積中央値)。
コントロール(非治療)腫瘍の増殖遅延中央値で除した、治療腫瘍の増殖遅延中央値で定義される増殖遅延指数(GDI)。
遊離型錯体および会合付加体は、両方について1の薬物当量において同程度の活性を示す。
【0141】
実施例8
ククルビット[n]ウリル/金属錯体会合付加体の通常のH NMRスペクトル
実施例4で製造したBBR3571と無置換ククルビット[7]ウリル又は無置換ククルビット[8]ウリルとの会合付加体、実施例1で製造したDi-Ptと無置換ククルビット[7]ウリルとの会合付加体、実施例2に記載された方法と類似する方法により製造したTri-Ptと無置換ククルビット[7]ウリルとの会合付加体、実施例2で製造したBBR3464と無置換ククルビット[7]ウリル又は無置換ククルビット[8]ウリルとの会合付加体、及び実施例5で製造したBBR3464と無置換ククルビット[10]ウリルとの会合付加体をH NMR分光法により分析した。結果を表Vに示す。
ククルビット[n]ウリルの空洞の特有のシールド効果は、ほとんどの実施例において会合付加体としての金属錯体のプロトン共鳴が、遊離型金属錯体のサンプルと比較して場の上方にシフト(マイナス記号により示される)することを示している。これは、連結基Eがククルビット[n]ウリルの空洞内で拘束されることを示しており、それゆえ金属錯体がククルビットウリルに部分的に封入されていることを裏付ける。
【0142】
【化17】

【0143】
【表5】

【0144】
本発明者らは、ククルビット[7−12]ウリル及びその類縁体が多核金属錯体を部分的に封入し、得られた会合付加体は、遊離型金属錯体よりもヒト又は動物の体に対してより低毒性であることを見出した。多核金属錯体の大きさを考慮すると、それらはククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体内に完全には封入されていない。それにもかかわらず、驚くべきことに、多核金属錯体が1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された場合、得られた会合付加体は遊離型の錯体よりもヒト及び動物に対してより低毒性であり、それゆえ遊離型の錯体として投与され得るよりもより高用量の錯体を、1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体との会合付加体の一部としてヒト又は動物に投与することができることが本発明者らにより見出された。抗癌活性を有する多核金属錯体と1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体との会合付加体は、金属錯体を用いて治療され得る状態の治療に使用することができる。
【0145】
1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体による多核金属錯体の部分的な封入化はまた、多くのその他の利点を与えることができる。例えば、ククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体は、体内の所望の部位への、多核金属錯体のより優れた送達又は標的化を与える。標的化はククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体の適切な置換基を通じて達成され得る。例えば、ククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体の親油性基は、肝臓の腫瘍及び癌などの親油性腫瘍及び癌への、多核金属錯体の送達を補助することができる。さらに、高分子に付加された又は組込まれたククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体は、長期間にわたる多核金属錯体の送達のための手段を与え得る。加えて、異なるククルビット[7−12]ウリルは、多核金属錯体への異なる結合能力を有し得るため、経時的な多核金属錯体の特定の遊離速度を与えるために用いることができる。
【0146】
当業者に明らかなように、本発明の1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体は、医薬及び獣医の分野において広範囲の用途を有している。本発明の、多核金属錯体のインビボにおける毒性を低減させる方法は、例えば、抗癌活性を有した多核金属錯体を含む医薬的に活性な多核金属錯体の毒性を低減するために用いることができる。
【0147】
広く記載された本発明の精神又は範囲から離れることなく、多くの変形及び/又は修飾が、実施例において記載されたような本発明に対して行われることが当業者に理解される。それゆえ、実施例に記載された実施態様は全ての点において例示的であり限定的でないものとみなされる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体。
【請求項2】
金属錯体が2核又は3核金属錯体である、請求項1に記載の1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体。
【請求項3】
金属錯体が化学式(IIA)、(IIB)、(IIC)又は(IID)
【化1】

(式中、
各Xは独立して選択され、単座配位子であるか、又は、化学式(IID)の場合、M原子に配位した2つのX基はそれぞれ単座配位子であるか、又は一緒にジカルボキシレート二座配位子を形成していてもよく、
各Bは独立して選択され、非共有電子対を有した窒素原子によりM原子に配位した配位子であり、
Eは、非共有電子対を有した窒素原子により、各M原子に配位した配位子であり、及び
各Mは、Pt(II)、Pd(II)及びAu(II)からなる群から独立して選択される)
の金属錯体である、請求項1又は2に記載の1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体。
【請求項4】
金属錯体が化学式(IIIA)、(IIIB)、(IIIC)又は(IIID)
【化2】

(式中、
各Xは独立して選択され、単座配位子であるか、又は、化学式(IIID)の場合、M原子に配位した2つのX基はそれぞれ単座配位子であるか、又は一緒にジカルボキシレート二座配位子を形成していてもよく、
各Bは独立して選択され、非共有電子対を有した窒素原子によりM原子に配位した配位子であり、
各Eは独立して選択され、非共有電子対を有した窒素原子により、2つのM原子の各々に配位した配位子であり、かつ
各Mは、Pt(II)、Pd(II)及びAu(II)からなる群から独立して選択される)
の金属錯体である、請求項1又は2に記載の1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体。
【請求項5】
Xがハライド、サルフェート、ホスフェート、ナイトレート、カルボキシレート及び置換されたカルボキシレートからなる群から選択される単座配位子である、請求項3又は4に記載の1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体。
【請求項6】
Bがアミン、1級アミン、2級アミン、3級アミン、及び1以上のN原子を含む複素環を含む基、からなる群から選択される、請求項3〜5のいずれか1項に記載の1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体。
【請求項7】
MがPt(II)である、請求項3〜6のいずれか1項に記載の1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体。
【請求項8】
金属錯体が、
【化3−1】

【化3−2】

【化3−3】

から選択される、請求項1に記載の1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体。
【請求項9】
ククルビット[7−12]ウリルが化学式(I)
【化4】

(式中、nは7〜12の整数であり、化学式(I)中の化学式(B)
【化5】

の各単位に関して、
及びRは、同一でも異なっていてもよく、それぞれ1価の基であるか、又は
、R及びこれらが結合した炭素原子は、置換されていてもよい環状基を一緒に形成するか、あるいは、化学式(B)の1つの単位のR及び化学式(B)の隣接する単位のRは、結合又は2価の基を一緒に形成し、
各Rは、独立して=O、=S、=NR、=CXZ、=CRZ及び=CZからなる群から選択され、ここでZは電子吸引性基であり、Xはハロであり、RはH、置換されていてもよい直鎖、分岐又は環状の、飽和又は不飽和の炭化水素基であるか、あるいは置換されていてもよい複素環式基であり、かつ各Rは、独立してH、アルキル及びアリールからなる群から選択される)
のククルビットウリルである、請求項1〜8のいずれか1項に記載の1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体。
【請求項10】
金属錯体と1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体との会合を形成することを含み、ここで該金属錯体は1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体により部分的に封入されている、多核金属錯体のインビボにおける毒性を低減する方法。
【請求項11】
金属錯体が化学式(IIA)、(IIB)、(IIC)又は(IID)
【化6】

(式中、
各Xは独立して選択され、単座配位子であるか、又は、化学式(IID)の場合、M原子に配位した2つのX基はそれぞれ単座配位子であるか、又は、一緒にジカルボキシレート二座配位子を形成していてもよく、
各Bは独立して選択され、非共有電子対を有した窒素原子によりM原子に配位した配位子であり、
Eは、非共有電子対を有した窒素原子により、各M原子に配位した配位子であり、かつ
各Mは、Pt(II)、Pd(II)及びAu(II)からなる群から独立して選択される)
の金属錯体である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
金属錯体が化学式(IIIA)、(IIIB)、(IIIC)又は(IIID)
【化7】

(式中、
各Xは独立して選択され、単座配位子であるか、又は、化学式(IIID)の場合、M原子に配位した2つのX基はそれぞれ単座配位子であるか、又は、一緒にジカルボキシレート二座配位子を形成していてもよく、
各Bは独立して選択され、非共有電子対を有した窒素原子によりM原子に配位した配位子であり、
各Eは、独立して選択され、非共有電子対を有した窒素原子により、2つのM原子の各々に配位した配位子であり、及び
各Mは、Pt(II)、Pd(II)及びAu(II)からなる群から独立して選択される)
の金属錯体である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
Xがハライド、サルフェート、ホスフェート、ナイトレート、カルボキシレート及び置換されたカルボキシレートからなる群から選択される単座配位子である、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
Bが、アミン、1級アミン、2級アミン、3級アミン、及び1以上のN原子を含む複素環基を含む基、からなる群から選択される、請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
MがPt(II)である、請求項11〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
金属錯体が、
【化8−1】

【化8−2】

【化8−3】

から選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
抗癌活性を有し1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体の治療有効量を対象に投与することを含む、対象中の癌を治療する方法。
【請求項18】
金属錯体が化学式(IIA)、(IIB)、(IIC)又は(IID)
【化9】

(式中、
各Xは独立して選択され、単座配位子であるか、又は、化学式(IID)の場合、M原子に配位した2つのX基はそれぞれ単座配位子であるか、又は、一緒にジカルボキシレート二座配位子を形成していてもよく、
各Bは独立して選択され、非共有電子対を有した窒素原子によりM原子に配位した配位子であり、
Eは、非共有電子対を有した窒素原子により、各M原子に配位した配位子であり、かつ
各Mは、Pt(II)、Pd(II)及びAu(II)からなる群から独立して選択される)
の金属錯体である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
金属錯体が化学式(IIIA)、(IIIB)、(IIIC)又は(IIID)
【化10】

(式中、
各Xは独立して選択され、単座配位子であるか、又は、化学式(IIID)の場合、M原子に配位した2つのX基はそれぞれ単座配位子であるか、又は、一緒にジカルボキシレート二座配位子を形成していてもよく、
各Bは独立して選択され、非共有電子対を有した窒素原子によりM原子に配位した配位子であり、
各Eは独立して選択され、非共有電子対を有した窒素原子により、2つのM原子の各々に配位した配位子であり、かつ
各Mは、Pt(II)、Pd(II)及びAu(II)からなる群から独立して選択される)
の金属錯体である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
Xがハライド、サルフェート、ホスフェート、ナイトレート、カルボキシレート及び置換されたカルボキシレートからなる群から選択される単座配位子である、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
Bが、アミン、1級アミン、2級アミン、3級アミン、及び1以上のN原子を含む複素環基を含む基、からなる群から選択される、請求項18〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
MがPt(II)である、請求項18〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
金属錯体が、
【化11−1】

【化11−2】

【化11−3】

から選択される、請求項17に記載の方法。
【請求項24】
抗癌活性を有し1以上のククルビット[7−12]ウリル又はその類縁体に部分的に封入された多核金属錯体及び医薬的に許容される担体を含む、医薬組成物。
【請求項25】
金属錯体が、化学式(IIA)、(IIB)、(IIC)又は(IID)
【化12】

(式中、
各Xは独立して選択され、単座配位子であるか、又は、化学式(IID)の場合、M原子に配位した2つのX基はそれぞれ単座配位子であるか、又は、一緒にジカルボキシレート二座配位子を形成していてもよく、
各Bは独立して選択され、非共有電子対を有した窒素原子によりM原子に配位した配位子であり、
Eは、非共有電子対を有した窒素原子により、各M原子に配位した配位子であり、かつ
各Mは、Pt(II)、Pd(II)及びAu(II)からなる群から独立して選択される)
の金属錯体である、請求項24に記載の組成物。
【請求項26】
金属錯体が、化学式(IIIA)、(IIIB)、(IIIC)又は(IIID)
【化13】

(式中、
各Xは独立して選択され、単座配位子であるか、又は、化学式(IIID)の場合、M原子に配位した2つのX基はそれぞれ単座配位子であるか、又は、一緒にジカルボキシレート二座配位子を形成していてもよく、
各Bは独立して選択され、非共有電子対を有した窒素原子によりM原子に配位した配位子であり、
各Eは独立して選択され、非共有電子対を有した窒素原子により、2つのM原子の各々に配位した配位子であり、かつ
各Mは、Pt(II)、Pd(II)及びAu(II)からなる群から独立して選択される)
の金属錯体である、請求項24に記載の組成物。











【公表番号】特表2007−517809(P2007−517809A)
【公表日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−548042(P2006−548042)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【国際出願番号】PCT/AU2005/000045
【国際公開番号】WO2005/068469
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【出願人】(501401308)ニューサウス イノヴェイションズ プロプライエタリィ リミティッド (3)
【Fターム(参考)】