説明

クッション

【課題】低密度のポリウレタン発泡体を原料としてクッションをモールド成形すると、通気性が悪かった。
【解決手段】クッションは、密度の高いポリウレタン発泡体を所定範囲の大きさに破砕して得られる第1粉砕物と、第1粉砕物の元となるポリウレタン発泡体より密度の低いポリウレタン発泡体を所定範囲の大きさに粉砕して得られる第2粉砕物とを、所定割合でバインダーと共に混合してモールド成形することで得られる。第1粉砕物としては、車両用シートから回収されたポリウレタン発泡体を用いることができ、第2粉砕物としては、軟質スラブ発泡体を用いることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、比較的密度の高いポリウレタン発泡体と、比較的密度の低いポリウレタン発泡体とを材質としてモールド成形することで、通気性に優れ、かつ成形品の欠損も少ないクッションに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、車両用シートにおける座部や背当部のクッションその他アームレストのクッションは、ポリオール類、ポリイソシアネート類、発泡剤および触媒を含有する原料を金型(モールド)で成形したポリウレタン発泡体である。これらのクッションは、モールド成形時に金型内面に接して出来る高密度のスキン層と、このスキン層に囲まれた内部の低密度のコア層とからなる。そして、コア層の全体に占める割合が大きいために、クッションに要求される柔軟性や通気性は、このコア層が呈する物性に大きく依存している。なお、クッションとしては、車両用シートに限らず、家庭や職場等で使用される座席用のものも広く含まれる。
前記クッションとしてのポリウレタン発泡体は、比較的低密度であって金型からの脱型後にクラッシング(完全化処理)の不要なホットキュアーモールド品と、比較的高密度であって、金型からの脱型後に前記クラッシングを必要とするコールドキュアーモールド品とがある。そして前記ホットキュアーモールド品の密度は、オーバーオールで約0.021〜0.029g/cmである。また前記コールドキュアーモールド品の密度は、約0.028〜0.065g/cmである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−258059号公報 表皮材の裏側に軟質ウレタンフォームシートを接着積層した座席体が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したクッションは、各種の座席に普遍的に求められる座り心地の良い硬さと適度の通気性等の物性を具備している。また前記クッションは、前述の通りポリウレタン原料を金型を使用してモールド成形したポリウレタン発泡体である。
【0005】
ところでポリウレタン発泡体の成形品には、前記モールド成形によるものでなく、一般に軟質スラブ発泡体と称されるものがある。これはポリオールとイソシアネートの2液および触媒その他の添加剤からなる反応混合物を、常温の大気圧下でベルトコンベアの搬送面に連続的に吐出して硬化させ、長尺のスラブ状成形品としたポリウレタン発泡体である。この軟質スラブ発泡体の密度は、約0.02〜0.035g/cmであって、梱包用の緩衝材や衝撃吸収材、吸水材、防音材等の多用途に亘って民生および産業分野で広く使用されている。
【0006】
この軟質スラブ発泡体は、製造現場では長尺スラブ状に連続的に成形されるので、これを適当な長さ寸法に裁断してから、各種の最終製品へ加工処理される。このため工場では、軟質スラブ発泡体を加工処理した後に大量の端材を生じている。そしてこれら端材の多くは、産業廃棄物として投棄処理されているのが現状である。しかし端材は、軟質スラブ発泡体から切り出されたものであるから、物性的には何等変わりがないので、その有効活用の途が模索されている。
【0007】
そこで出願人は、これら大量に発生する軟質スラブ発泡体の端材を使用して、座席用のクッションに再生することを着想し、クッションに要求される硬度、通気性等の物性を備えるポリウレタン発泡体を得るべく種々の実験を行った。例えば、軟質スラブ発泡体の端材を粉砕して所要砕径の粉砕物(チップ)とし、これをモールド成形することで座席用クッションを製造し、クッションに要求される硬度や通気性等の仕様を満たしているかを確認した。
【0008】
図1は、この実験に使用した金型10を概略的に示すもので、該金型10は、内部にクッションの外形を規定する形状のキャビティを画成した上型12および下型14からなる。この下型14のキャビティに、前記軟質スラブ発泡体の粉砕物(チップ)と所要のバインダーとからなる混合物を充填し、上型12を閉じ蒸気を通過させて加熱硬化させた後に脱型し、得られたクッションの物性を測定した。しかしこのクッションは、一般にクッションに要求される通気性の期待値をクリアしていなかった。なお通気性の試験は、ASTM(米国材料試験協会)に準拠したJIS K6400−7(K2004−7:2004のB法)で規定される測定方法で行った。この場合、クッションに要求される通気性の閾値は10.0ml/cm/secであった。
【0009】
前述の仕様でモールド成形したクッションの通気性が、期待値をクリアしなかった理由として次の原因が考えられる。すなわち軟質スラブ発泡体の粉砕物は密度が小さいので、クッションに要求される硬度を達成するためには、前記金型10への粉砕物の充填量を密にせざるを得ない。しかし充填量の多い粉砕物16は、図1に示す如く嵩が大きくなるので、モールド成形を行って得られたクッションは大きく圧縮されることになり、その結果として気泡も密になって通気性が低下する訳である。
【0010】
これと対比するため、前述の如くモールド成形されたポリウレタン発泡体を粉砕して所要砕径とした粉砕物を、前記金型10によりモールド成形してクッションを製造したところ、通気性はクッションに要求される期待値を満たしていた。これは、ポリウレタン発泡体の粉砕物の密度は比較的大きいため、金型10にこれを充填しても、図2に示すように金型充填量が大きくなく(嵩が小さい)、金型閉時に充分圧縮されないために気泡径が大きく確保され、結果として通気性はクッションとしての期待値をクリアしたものと考えられる。しかし、粉砕物の嵩が小さくて余り圧縮されないことに起因して、脱型後の成形品に欠損(ボイド)を生じやすい難点が指摘される。
【0011】
本発明は、軟質スラブ発泡体(ポリウレタン発泡体)から生ずる端材をモールド成形することでクッションに再生利用するに際し、クッションに要求される通気性の期待値を満足し、しかも成形品に欠損も生ずることのないクッションを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を解決するため、本発明に係るクッションは、JIS K6400−2 D法により測定した硬度150〜400NでJIS K7222により測定した密度0.028〜0.065g/cmのポリウレタン発泡体を平均砕径2〜10mmに粉砕した第1粉砕物を80〜90重量%と、硬度50〜150Nで密度0.020〜0.1g/cmポリウレタン発泡体を平均砕径2〜30mmに粉砕した第2粉砕物を20〜10重量%と、バインダーとの混合物をモールド中で加熱圧縮してなる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、クッションに要求される通気性を満たし、しかも脱型後の成形品に欠損(ボイド)を生じ難いクッションが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実験に使用される開放された金型の概略図であって、密度が小さく嵩張る粉砕物を充填してモールド成形する状態を示している。
【図2】図1に示す金型において、密度が大きく嵩の小さい粉砕物を充填してモールド成形する状態を示している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係るクッションは、ポリウレタン原料をモールド成形して製造されたポリウレタン発泡体を所定の砕径に粉砕して得た第1粉砕物と、前述した軟質スラブ発泡体を所定の砕径に粉砕して得た第2粉砕物とを所要重量%の比率でバインダーと共に攪拌混合し、得られた混合物を金型内で加熱圧縮して硬化成形させることで、座席用クッションに要求される硬度および通気性の何れをも満足させたものである。
【0016】
すなわち第1粉砕物は、前述したモールド成形品であるポリウレタン発泡体を所要の砕径にまで粉砕したものである。このモールド成形品としては、例えば車両用シートの座部や背当部から表皮を剥離して得たクッションが好適に使用される。また、車両アームレストに使用されていたクッションであってもよい。これらのクッションは、座席用シートの表皮を金型にセットした後にポリウレタン原料を充填し、金型内で加熱して発泡硬化させて得られるポリウレタン発泡体のモールド成形品であり、これ自体はクッションに要求される硬度および通気性を備えている。
【0017】
例えば、前記モールド成形品であるポリウレタン発泡体のクッションが備える硬度は150〜400Nであり、密度は0.028〜0.065g/cmである。また、通気性は40〜60(前記ASTMに準拠したJIS K6400−7で測定)である。そして前記モールド成形品のクッションは、粉砕機に投入して平均砕径2〜10mmになるまで粉砕することで第1粉砕物が得られる。
【0018】
また第2粉砕物は、前述した軟質スラブ発泡体の端材を所要の砕径にまで粉砕して得られる。この軟質スラブ発泡体としてのポリウレタン発泡体が備える硬度は50〜150Nで、密度は0.020〜0.1g/cmである。この軟質スラブ発泡体を粉砕機に投入して、平均砕径2〜30mmになるまで粉砕することで第2粉砕物が得られる。
【0019】
そして第1粉砕物を、例えば、80〜90重量%と、第2粉砕物を20〜10重量%と、後述するバインダーとを混合攪拌し、得られた混合物を前記金型10に充填し、これを加熱圧縮して発泡硬化させることで、所要形状に成形されたクッションが製造される。
【0020】
前記バインダーとしては、大気温度の下に空気湿分により硬化するものが好適に使用される。具体的には、溶剤型ポリウレタンや2液無溶剤ポリウレタン等のポリウレタン系バインダーであって、湿分や熱等をトリガーとして硬化し、前記第1粉砕物および第2粉砕物を結合させるものである。前記の2液無溶剤ポリウレタンとしては、トリエチルアミン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン等のアミン系硬化剤を使用したものが好ましい。これらのバインダーは、トルエンジイソシアネート(TDI)等の活性イソシアネートを含有する高分子量体を主成分とするが、これは粘性が高いために有機溶媒で希釈して使用される。
【0021】
前記有機溶媒としては、メチレンクロライド等のハロゲン化溶媒とするのが揮発性および不燃性の点から好ましい。具体的には、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)とポリエチレングリコール(PEG)との混合物、もしくは、これらにアミン触媒を添加したもの、あるいは分子量2500〜3500の軟質ウレタン発泡用ポリプロピレングリコールにトルエンジイソシアネート(TDI)を重付加させ、適宜の溶剤で希釈して得られるウレタン系結合剤が用いられる。
【0022】
そして前記バインダーの第1粉砕物および第2粉砕物に対する添加混合割合は、前記粉砕物の5〜20重量%で、好ましくは10重量%である。
【実施例】
【0023】
以下に、第1粉砕物および第2粉砕物の密度等の物性や、両粉砕物の混合割合その他バインダーの種類等を変更させた各種実施形態を、比較例との対比において説明する。なお、モールド成形されたクッションの通気性の測定は、前述したASTMに準拠したJIS K6400−7に従って行った。またクッションとして許容される通気性の閾値は、前記JIS K6400−7で測定して10.0ml/cm/secとした。
【0024】
〔第1実施形態〕
第1粉砕物は、車両用シートの座部と背当部を解体し、表皮を剥ぎ取ったクッション本体を粉砕することにより得た。この車両に使用されたクッションの物性は、かなりの年月を経たものであっても経年劣化は殆ど認められない。従って、廃車処分された車両から取り出したクッションであれば、新車に近い状態のものからでも中古車状態からのものであってもよい。
【0025】
廃車の車両用シートを解体して得たクッションは、先に述べた如くモールド成形されたポリウレタン発泡体である。この場合のポリウレタン発泡体の硬度は180N、通気度は50ml/cm/sec(JIS K6400−7で測定)、密度0.046g/cmであった。このポリウレタン発泡体を乾式のロータリー粉砕機に投入して粉砕することで、平均砕径2〜5mmの第1粉砕物を得た。
【0026】
第2粉砕物は、前述したポリウレタンの軟質スラブ発泡体の端材を粉砕することにより得た。但し、端材を使用するのは有効利用のためであって、軟質スラブ発泡体のバージン材を使ってもよいことは勿論である。軟質スラブ発泡体は、先に述べたように、例えば2液の反応混合物を常温の大気圧下にベルトコンベア状に連続的に吐出して硬化させたポリウレタン発泡体である。この軟質スラブ発泡体の硬度は100Nで、密度0.025g/cmであった。この端材としてのポリウレタン発泡体を乾式粉砕機に投入して粉砕することで、平均砕径2〜30mmの範囲にある第2粉砕物を得た。
【0027】
次に、第1粉砕物を80重量%と、第2粉砕物を20重量%で混合すると共に、これにバインダーとしてトルエンジイソシアネートを10重量%添加して、全体を混合攪拌した。得られたポリウレタン発泡体の混合物を、完成品としてのクッションの外部輪郭を規定するキャビティを画成した金型に充填し、型締めして加熱圧縮した。また金型に設けた連通孔を介して外部より乾燥水蒸気を注入し、前記バインダーを反応硬化させた。金型を冷却させた後に脱型して座席用クッションを得た。なお、型締め時間は5分、型加熱温度は120℃、加圧力は5kg/cmであった。
脱型により得たクッションの通気度をJIS K6400−7で測定したところ14.3ml/cm/secで、クッションに要求される通気度の閾値10.0ml/cm/secをクリアし、良好な通気性が確保されていた。またクッションの密度は、0.120g/cmであった。そして脱型後のクッションに欠損(ボイド)は存在しなかった。
【0028】
〔第2実施形態〕
第1粉砕物は、車両用のアームレストを解体し、表皮を剥ぎ取ったクッション本体を粉砕することにより得た。この車両用アームレストを解体して得たクッションは、先に述べた如くモールド成形されたポリウレタン発泡体である。この場合のポリウレタン発泡体の硬度は180N、通気度は50ml/cm/sec(JIS K6400−7で測定)、密度0.046g/cmであった。このポリウレタン発泡体を乾式のロータリー粉砕機に投入して粉砕することで、平均砕径2〜10mmの第1粉砕物を得た。
【0029】
第2粉砕物は、前述したポリウレタンの軟質スラブ発泡体の端材を粉砕することにより得た。この軟質スラブ発泡体の硬度は100Nで、密度0.025g/cmであった。このポリウレタン発泡体を乾式粉砕機に投入して粉砕することで、平均砕径2〜30mmの範囲にある第2粉砕物を得た。
【0030】
次に、第1粉砕物を50重量%と、第2粉砕物を50重量%で混合すると共に、これにバインダーとしてトルエンジイソシアネートを15重量%添加して、全体を混合攪拌した。得られたポリウレタン発泡体の混合物を、金型に充填し、型締めして加熱圧縮した。また金型に設けた連通孔を介して外部より乾燥水蒸気を注入し、前記バインダーを反応硬化させた。金型を冷却させた後に脱型して座席用クッションを得た。なお、型締め時間は5分、型加熱温度は120℃、加圧力は5kg/cmであった。
脱型により得たクッションの通気度は18.0ml/cm/secで、クッションに要求される通気度の閾値10.0ml/cm/secをクリアし、良好な通気性が確保されていた。またクッションの密度は、0.120g/cmであった。そして成形品としてのクッションに欠損(ボイド)は存在しなかった。
【0031】
以上の第1実施形態および第2実施形態並びに後記の第3実施形態および第4実施形態の結果を、比較例1および比較例2との対比において表1に示す。第3実施形態から比較例2までは、粉砕物の添加部数を変更した以外は、第1実施形態と同様の条件で成形することにより実施した。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、密度の異なる2種類のポリウレタン発泡体の粉砕物を所要の重量%でバインダーと共に混合してモールド成形することで、通気性に優れたクッションが得られるものである。そして、粉砕前の原料となるポリウレタン発泡体としては、例えば廃車の車両用シートを解体して得られるクッションのポリウレタン発泡体と、軟質スラブ発泡体の端材として多量に発生するポリウレタン発泡体とを使用することが出来るので、廃材をリサイクルして有効活用し得るものである。しかし原料としては、廃車を解体して得るクッションや軟質スラブ発泡体の端材に限られるものではなく、密度等の物性が夫々前記廃車のクッションや軟質スラブ発泡体の端材のそれに共通しているものであれば、そのまま原料として使用し得る。
【符号の説明】
【0033】
10 金型
12 上型
14 下型
16 粉砕物(チップ)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K6400−2 D法により測定した硬度150〜400NでJIS K7222により測定した密度0.028〜0.065g/cmのポリウレタン発泡体を平均砕径2〜10mmに粉砕した第1粉砕物を80〜90重量%と、
硬度50〜150Nで密度0.020〜0.1g/cmポリウレタン発泡体を平均砕径2〜30mmに粉砕した第2粉砕物を20〜10重量%と、
バインダーとの混合物をモールド中で加熱圧縮してなるクッション。
【請求項2】
前記第1粉砕物は、車両用シートから回収したポリウレタン発泡体の粉砕物であり、前記第2粉砕物は、軟質スラブ発泡体としてのポリウレタン発泡体の粉砕物である請求項1記載のクッション。
【請求項3】
前記バインダーは、トルエンジイソシアネートまたはメチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)およびそのプレポリマーであって、前記第1粉砕物および第2粉砕物に対し5〜20重量%の割合で配合される請求項1記載のクッション。
【請求項4】
前記第1粉砕物の原料となるポリウレタン発泡体の通気性は、JIS K6400−7で測定して40〜60ml/cm/secである請求項1記載のクッション。
【請求項5】
前記第2粉砕物の原料となるポリウレタン発泡体の通気性は、JIS K6400−7で測定して70〜300ml/cm/secである請求項1記載のクッション。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−79144(P2011−79144A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−230935(P2009−230935)
【出願日】平成21年10月2日(2009.10.2)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】