説明

クラッチディスク、それを用いたクラッチディスク組立体及びクラッチ装置

【課題】 接着固定式クラッチディスクにおいて、クッション効果を低減させることなく接着強度を向上させる。
【解決手段】 クラッチディスク32は、軸方向に互いに対向して配置されフライホイール2と摩擦係合するための1対の環状の摩擦フェーシング33と、一方の摩擦フェーシング33とダンパー機構31との間に軸方向へ弾性変形可能に設けられ一方の摩擦フェーシング33に接着剤により固定された第1クッショニングプレート35と、他方の摩擦フェーシング33とダンパー機構31との間に軸方向へ弾性変形可能に設けられ他方の摩擦フェーシング33に接着剤により固定された第2クッショニングプレート36とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クラッチディスク、特に、摩擦フェーシングを接着固定しているクラッチディスク、それを用いたクラッチディスク組立体及びクラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クラッチディスク組立体は、入力側回転体と出力側回転体との間で摩擦係合によりトルクを伝達するためのものであり、一般に、1対の摩擦フェーシングを有するクラッチディスクと、クラッチディスクが固定される入力側プレートと、出力側ハブと、入力側プレートと出力側ハブとを円周方向弾性的に連結するダンパー部とを備えている。
【0003】
このクラッチディスク組立体によりトルクが伝達される場合、例えばクラッチカバー組立体のプレッシャープレートにより摩擦フェーシングがエンジン側のフライホイールに押し付けられる。この結果、クラッチディスクはフライホイールとプレッシャープレートとの間に挟持され、フライホイールに入力されたトルクがクラッチディスクを介して入力側プレートに入力される。そしてこのトルクは、ダンパー部を介して出力側ハブに伝達され、出力側のトランスミッションに出力される。このように、クラッチディスクがフライホイールに圧接されることで、クラッチディスク組立体はトルク伝達を可能としている(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
以上に述べたクラッチディスクとして、クラッチ連結時の衝撃を緩和するために複数のクッショニングプレートを備えたものが知られている。このクッショニングプレートは、板状部材が波型形状に折り曲げられ形成されており、1対の摩擦フェーシングに固定されている。この波型形状の部分は、クラッチディスクがフライホイールとプレッシャープレートとの間に狭持される際に軸方向に弾性変形可能となっている。このクッショニングプレートの弾性変形がクッションとして作用し、クラッチ連結時の衝撃が緩和される。
【0005】
一般的に、このクラッチディスクでは、摩擦フェーシングとクッショニングプレートとが複数の金属製のリベットにより連結されている。したがって、摩擦フェーシングとリベットとの係合部分、リベットの頭部の厚み、摩擦フェーシングの摩耗量等を考慮すると、摩擦フェーシングが必要以上に厚くなり、クラッチディスクの重量やコストが増大する。また、リベットは金属製であるため、リベット自体の重量もクラッチディスク全体の重量に大きく影響する。以上より、リベット固定式クラッチディスクは重量及びコストが増大する傾向にある。
【0006】
一方、トランスミッションによるスムーズな変速操作を考慮すると、クラッチディスクの重量は小さい方が好ましい。したがって、クラッチディスクの軽量化を図るために、摩擦フェーシングとクッショニングプレートとを接着剤により固定した接着固定式クラッチディスクが提案されている。
【特許文献1】特開2001−241463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
接着固定式クラッチディスクにおいて、接着部分はクッショニングプレートと摩擦フェーシングとが一体となり両部材の相対運動が拘束されるため剛性が高くなる。したがって、接着強度を考慮して接着面積を大きく設定すると、クッショニングプレートのクッション効果が低減する。また、クラッチディスクの剛性を考慮して接着面積を小さく設定すると、接着強度を確保することが困難となる。
【0008】
本発明の課題は、接着固定式クラッチディスクにおいて、クッション効果を低減させることなく接着強度を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載のクラッチディスクは、入力回転体から出力回転体へ摩擦係合によりトルクを伝達するためのクラッチディスク組立体のクラッチディスクであって、軸方向に互いに対向して配置され入力回転体と摩擦係合するための1対の環状の摩擦フェーシングと、一方の摩擦フェーシングと出力回転体とを連結しており一方の摩擦フェーシングに接着剤により固定された第1クッショニングプレートと、他方の摩擦フェーシングと出力回転体とを連結しており他方の摩擦フェーシングに接着剤により固定された第2クッショニングプレートとを備えている。
【0010】
このクラッチディスクでは、第1及び第2クッショニングプレートがそれぞれ片側の摩擦フェーシングと出力回転体との間で弾性変形可能に設けられている。そのため、接着固定部の剛性が高くなっても、第1及び第2クッショニングプレートの接着固定部以外の部分が弾性変形するため、接着部分の剛性に関係なくクッション効果を確保することができる。これにより、クッション効果を低減させることなく接着強度を向上させることができる。
【0011】
請求項2に記載のクラッチディスクは、請求項1において、第1クッショニングプレートが一方の摩擦フェーシングに接着固定される第1平坦部と、第1平坦部の内周側に設けられ出力回転体側の部材に固定された第1固定部と、第1平坦部及び第1固定部を弾性的に連結する第1弾性部とを有している。第2クッショニングプレートは、一方の摩擦フェーシングに接着固定される第2平坦部と、第2平坦部の内周側に設けられ出力回転体側の部材に固定された第2固定部と、第2平坦部及び第2固定部を弾性的に連結する第2弾性部とを有している。
【0012】
このクラッチディスクでは、第1及び第2弾性部が環状の部材であるため、第1及び第2クッショニングプレートの弾性力及び強度を確保することができる。
【0013】
請求項3に記載のクラッチディスクは、請求項2において、第1及び第2弾性部の少なくともいずれか一方がテーパ形状を有している。
【0014】
このクラッチディスクでは、第1及び第2弾性部の少なくともいずれか一方が皿バネのように作用する。そのため、第1及び第2クッショニングプレートの少なくともいずれか一方の弾性力を確保することができる。また、テーパ角等を調整することで、弾性力を調整することができ、クラッチディスクのクッション効果を調整することができる。
【0015】
請求項4に記載のクラッチディスクは、請求項3において、第1弾性部が内周側から外周側にかけて軸方向第2弾性部と反対側へ回転平面に対して傾斜している。
【0016】
請求項5に記載のクラッチディスクは、請求項3または4において、第2弾性部が内周側から外周側にかけて軸方向第1弾性部と反対側へ回転平面に対して傾斜している。
【0017】
請求項6に記載のクラッチディスクは、請求項2から5のいずれかにおいて、第1弾性部が第1固定部の外周側に設けられた環状の第1弾性環状部を有している。
【0018】
請求項7に記載のクラッチディスクは、請求項6において、第1弾性部が第1弾性環状部から半径方向外側へ延びる複数の第1弾性突出部をさらに有している。
【0019】
このクラッチディスクでは、第1弾性環状部と第1弾性突出部とを有しているため、両者の形状や組み合わせ方を変えることで第1弾性部の弾性力を調整することができ、クッション効果を調整することができる。
【0020】
請求項8に記載のクラッチディスクは、請求項2から5のいずれかにおいて、第1弾性部が第1固定部から半径方向外側へ延びる複数の第1弾性突出部を有している。
【0021】
このクラッチディスクでは、第1弾性突出部の形状や数量等を変えることで第1弾性部の弾性力を調整することができ、クッション効果を調整することができる。
【0022】
請求項9に記載のクラッチディスクは、請求項8において、第1弾性部が第1弾性突出部の外周側に固定された環状の第1弾性環状部をさらに有している。
【0023】
このクラッチディスクでは、第1弾性環状部と第1弾性突出部とを有しているため、両者の形状や組み合わせ方を変えることで第1弾性部の弾性力を調整することができ、クッション効果を調整することができる。
【0024】
請求項10に記載のクラッチディスクは、請求項2から9のいずれかにおいて、第1弾性部が少なくとも1つの第1孔部を有している。
【0025】
このクラッチディスクでは、第1孔部の形状及び数量等を変えることで第1弾性部の弾性力を調整することができ、クッション効果を調整することができる。
【0026】
請求項11に記載のクラッチディスクは、請求項2から10のいずれかにおいて、第2弾性部が第2固定部の外周側に設けられた環状の第2弾性環状部を有している。
【0027】
請求項12に記載のクラッチディスクは、請求項11において、第2弾性部が第2弾性環状部から半径方向外側へ延びる複数の第2弾性突出部をさらに有している。
【0028】
このクラッチディスクでは、第2弾性環状部と第2弾性突出部とを有しているため、両者の形状や組み合わせ方を変えることで第2弾性部の弾性力を調整することができ、クッション効果を調整することができる。
【0029】
請求項13に記載のクラッチディスクは、請求項2から10のいずれかにおいて、第2弾性部が第2固定部から半径方向外側へ延びる複数の第2弾性突出部を有している。
【0030】
このクラッチディスクでは、第2弾性突出部の形状や数量等を変えることで第2弾性部の弾性力を調整することができ、クッション効果を調整することができる。
【0031】
請求項14に記載のクラッチディスクは、請求項13において、第2弾性部が第2弾性突出部の外周側に設けられた環状の第2弾性環状部をさらに有している。
【0032】
このクラッチディスクでは、第2弾性環状部と第1弾性突出部とを有しているため、両者の形状や組み合わせ方を変えることで第2弾性部の弾性力を調整することができ、クッション効果を調整することができる。
【0033】
請求項15に記載のクラッチディスクは、請求項2から14のいずれかにおいて、第2弾性部が少なくとも1つの第2孔部を有している。
【0034】
このクラッチディスクでは、第2孔部の形状及び数量等を変えることで第2弾性部の弾性力を調整することができ、クッション効果を調整することができる。
【0035】
請求項16に記載のクラッチディスクは、請求項2から15のいずれかにおいて、第1平坦部が第1弾性部の外周側に設けられた環状の第1環状部を有している。
【0036】
このクラッチディスクでは、第1環状部により第1クッショニングプレートに対して摩擦フェーシングを全周にわたり接着固定することができる。これにより、従来に比べて接着強度を向上させることができる。
【0037】
請求項17に記載のクラッチディスクは、請求項16において、第1平坦部が第1環状部から半径方向外側へ延びる複数の第1突出部をさらに有している。
【0038】
このクラッチディスクでは、第1環状部の幅や第1突出部の形状及び数量等を変えることで従来よりも接着面積を大きくしつつ接着範囲を様々なパターンに限定することができる。
【0039】
請求項18に記載のクラッチディスクは、請求項2から15のいずれかにおいて、第1平坦部が第1弾性部から半径方向外側へ延びる複数の第1突出部を有している。
【0040】
これにより、従来よりも接着面積を大きくしつつ接着範囲を様々なパターンに限定することができる。
【0041】
請求項19に記載のクラッチディスクは、請求項18において、第1平坦部が第1突出部の外周側に設けられた環状の第1環状部をさらに有している。
【0042】
このクラッチディスクでは、第1環状部や第1突出部の形状及び数量等を変えることで従来よりも接着面積を大きくしつつ接着範囲を様々なパターンに限定することができる。
【0043】
請求項20に記載のクラッチディスクは、請求項2から19のいずれかにおいて、第2平坦部が第2弾性部の外周側に設けられた環状の第2環状部を有している。
【0044】
このクラッチディスクでは、第2環状部により摩擦フェーシングを全周にわたり接着固定することができる。これにより、接着強度を向上させることができる。
【0045】
請求項21に記載のクラッチディスクは、請求項20において、第2平坦部が第2環状部から半径方向外側へ延びる複数の第2突出部をさらに有している。
【0046】
このクラッチディスクでは、第2環状部の幅や第2突出部の形状及び数量等を変えることで従来よりも接着面積を大きくしつつ接着範囲を様々なパターンに限定することができる。
【0047】
請求項22に記載のクラッチディスクは、請求項2から19のいずれかにおいて、第2平坦部が第2弾性部から半径方向外側へ延びるように形成される複数の第2突出部を有している。
【0048】
これにより、従来よりも接着面積を大きくしつつ接着範囲を様々なパターンに限定することができる。
【0049】
請求項23に記載のクラッチディスクは、請求項22において、第2平坦部が第2突出部の外周側に設けられた環状の第2環状部をさらに有している。
【0050】
このクラッチディスクでは、第2環状部や第2突出部の形状及び数量等を変えることで従来よりも接着面積を大きくしつつ接着範囲を様々なパターンに限定することができる。
【0051】
請求項24に記載のクラッチディスクは、請求項2から23のいずれかにおいて、第1平坦部が半径方向内側から半径方向外側にかけて軸方向第2平坦部と反対側へ回転平面に対して傾斜している。
【0052】
このクラッチディスクでは第1平坦部が回転平面に対して傾斜しているため、クラッチ連結時において第1平坦部が皿バネのように作用する。そのため、第1弾性部から発生する軸方向荷重に加えて、摩擦フェーシングの外周側には第1平坦部から発生する軸方向の荷重が作用する。この結果、テーパ角等を適切に調整することで、クラッチ連結時において摩擦フェーシングの内周側と外周側とに作用する軸方向の荷重を均一にすることができ、摩擦フェーシングの偏摩耗を防止することができる。
【0053】
請求項25に記載のクラッチディスクは、請求項2から24のいずれかにおいて、第2平坦部が半径方向内側から半径方向外側にかけて軸方向第1平坦部と反対側へ回転平面に対して傾斜している。
【0054】
このクラッチディスクでは第2平坦部が回転平面に対して傾斜しているため、クラッチ連結時において第2平坦部が皿バネのように作用する。そのため、第2弾性部から発生する軸方向荷重に加えて、摩擦フェーシングの外周側には第2平坦部から発生する軸方向の荷重が作用する。この結果、テーパ角等を適切に調整することで、クラッチ連結時において摩擦フェーシングの内周側と外周側とに作用する軸方向の荷重を均一にすることができ、摩擦フェーシングの偏摩耗を防止することができる。
【0055】
請求項26に記載のクラッチディスクは、請求項24において、第1平坦部の回転平面に対する傾斜角が第1弾性部の回転平面に対する傾斜角よりも小さい。
【0056】
請求項27に記載のクラッチディスクは、請求項25において、第2平坦部の回転平面に対する傾斜角が第2弾性部の回転平面に対する傾斜角よりも小さい。
【0057】
請求項28に記載のクラッチディスク組立体は、入力回転体から出力回転体へ摩擦係合によりトルクを伝達するためのクラッチディスク組立体であって、請求項1から27のいずれかに記載のクラッチディスクと、クラッチディスクと出力回転体の間に配置されクラッチディスクと出力回転体とを回転方向に弾性的に連結するためのダンパー機構とを備えている。
【0058】
請求項29に記載のクラッチ装置は、入力回転体から出力回転体へトルクを伝達及び遮断するためのクラッチ装置であって、請求項28に記載のクラッチディスク組立体と、入力回転体に連結されたクラッチカバーと、クラッチカバーに相対回転不能に設けられ入力回転体に対して第1及び第2摩擦フェーシングを押圧するための押圧部材と、クラッチカバーに対して軸方向に弾性変形可能に設けられ押圧部材を入力回転体側へ付勢するための付勢部材とを有するクラッチカバー組立体とを備えている。
【発明の効果】
【0059】
本発明に係るクラッチディスクでは、第1及び第2クッショニングプレートが上記の構成を有しているため、クッション効果を低減させることなく接着強度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
本発明の各実施形態を図面を参照しながら説明する。
【0061】
1.第1実施形態
(1)クラッチ装置の構成
図1に本発明の第1実施形態としてのクラッチディスク32が採用されたクラッチ装置1の縦断面概略図、図2に平面概略図を示す。O−Oは、クラッチ装置1及びクラッチディスク組立体3の回転中心線を示す。
【0062】
このクラッチ装置1は、エンジン(図示せず)からトランスミッション(図示せず)へトルクを伝達及び遮断するためのもので、図1及び図2に示すようにクラッチディスク組立体3と、クラッチカバー組立体4とから構成されている。
【0063】
クラッチディスク組立体3は、摩擦係合によりトルクを伝達するためのもので、スプラインハブ30と、ダンパー機構31と、クラッチディスク32とから構成されている。スプラインハブ30は、トランスミッションのインプットシャフト5の外周側に配置されており、ハブ30aと、フランジ部30bとを有している。ハブ30aは、軸方向に延びる筒状の部材であり、インプットシャフト5にスプライン係合している。フランジ部30bは、ハブ30aの外周部から半径方向外側に延びる円板状の部分である。
【0064】
ダンパー機構31は、クラッチディスク32とスプラインハブ30とを回転方向に弾性的に連結するためのものであり、クラッチプレート31aと、リティーニングプレート31bと、複数のコイルスプリング31cとから構成されている。クラッチプレート31a及びリティーニングプレート31bは、フランジ部30bを軸方向に挟み込むように配置された円板状の部材であり、複数のリベット31dにより連結されている。フランジ部30b、クラッチプレート31a、リティーニングプレート31bには窓状に切り欠かれた複数の収容部30c、31e、31fがそれぞれ形成されており、各収容部30c、31e、31fにはコイルスプリング31cが回転方向に弾性変形可能に収容されている。
【0065】
クラッチディスク32は、摩擦係合によりトルクを伝達するためのもので、クラッチプレート31aの外周部に連結されている。クラッチディスク32の詳細については後述する。
【0066】
クラッチカバー組立体4は、摩擦係合によるトルク伝達を操作するためのもので、主に、クラッチカバー41と、プレッシャープレート42と、ダイヤフラムスプリング43とから構成されている。クラッチカバー41は、フライホイール2に固定された環状の部材であり、プレッシャープレート42、ダイヤフラムスプリング43及びクラッチディスク組立体3を内部に収容している。プレッシャープレート42は、クラッチディスク32をフライホイール2との間で狭持するための環状の部材であり、クラッチカバー41に対して相対回転不能にかつ軸方向へ相対移動可能に設けられている。
【0067】
ダイヤフラムスプリング43は、プレッシャープレート42をフライホイール2側へ付勢するためのもので、クラッチカバー41に対して相対回転不能にかつ軸方向へ弾性変形可能に設けられている。ダイヤフラムスプリング43は、環状部43bと、複数のレバー部43aとを有している。環状部43bは、プレッシャープレート42を軸方向に付勢するためのものであり、外周部がクラッチカバー41により支持されている。環状部43bの内周部は、プレッシャープレート42に当接している。レバー部43aは、環状部43bを軸方向に弾性変形させるためのもので、環状部43bから半径方向内側へ延びる部分である。レバー部43aの先端は、レリーズ装置6により軸方向へ移動可能に支持されている。
【0068】
(2)クラッチディスク32の詳細構成
図3に本発明の第1実施形態としてのクラッチディスク32の回転方向断面概略図を示す。第1実施形態としてのクラッチディスク32は、1対の摩擦フェーシング33と、第1クッショニングプレート35と、第2クッショニングプレート36とから構成されている。
【0069】
摩擦フェーシング33は、フライホイール2及びプレッシャープレート42と摩擦係合する部分であり、摩擦材料により形成された環状のプレートである。図3に示すように、摩擦フェーシング33は軸方向に互いに対向するよう配置されており、摩擦フェーシング33の間には第1クッショニングプレート35及び第2クッショニングプレート36が配置されている。
【0070】
第1クッショニングプレート35及び第2クッショニングプレート36は、1対の摩擦フェーシング33を軸方向に弾性的に、かつ、ダンパー機構31に相対回転不能に連結するためのもので、クラッチプレート31aの外周側に複数のリベット31dにより固定されている。
【0071】
第1クッショニングプレート35は、さらに第1平坦部35aと、第1弾性部35bと、第1固定部35cとを有しており、1枚のプレートが折り曲げられて成形されている。第1平坦部35aは、一方の摩擦フェーシング33に接着固定される環状のプレート部分である。本実施形態では、第1平坦部35aは回転軸に対して垂直に配置されている。すなわち、第1平坦部35aは回転平面に対して傾斜していない。第1平坦部35aと摩擦フェーシング33との間には、接着剤が硬化した接着層38が形成されている。接着層38は第1平坦部35a及び摩擦フェーシング33の全面にわたって形成されている。第1弾性部35bは、第1平坦部35aの内周側に設けられクラッチプレート31aに対して軸方向に弾性変形可能に固定された環状の部分である。第1固定部35cは、第1弾性部35bの内周側に設けられた環状のプレート部分であり、クラッチプレート31aの外周部に複数のリベット31dにより固定されている。
【0072】
第2クッショニングプレート36は、さらに第2平坦部36aと、第2弾性部36bと、第2固定部36cとを有しており、1枚のプレートが折り曲げられて成形されている。第2平坦部36aは、一方の摩擦フェーシング33に接着固定される環状のプレート部分である。本実施形態では、第2平坦部36aは回転軸に対して垂直に配置されている。すなわち、第2平坦部36aは回転平面に対して傾斜していない。第2平坦部36aと摩擦フェーシング33との間には、接着剤が硬化した接着層38が形成されている。接着層38は第2平坦部36a及び摩擦フェーシング33の全面にわたって形成されている。第2弾性部36bは、第2平坦部36aの内周側に設けられクラッチプレート31aに対して軸方向に弾性変形可能に固定された環状の部分である。第2固定部36cは、第2弾性部36bの内周側に設けられた環状のプレート部分であり、クラッチプレート31aの外周部に複数のリベット31dにより固定されている。本実施形態においては、第1固定部35c及び第2固定部36cはクラッチプレート31aの一方に重なるように固定されている。
【0073】
第1弾性部35b及び第2弾性部36bはテーパ形状を有している。具体的には、第1弾性部35bは外周側が軸方向第2弾性部36bと反対側(図3中右側)へ回転平面に対して傾斜している。第2弾性部36bは、内周側から外周側にかけて軸方向第1弾性部5bと反対側(図3中左側)へ回転平面に対して傾斜している。より具体的には、第1弾性部35b及び第2弾性部36bは、回転平面に対して傾斜角A1、A2だけ傾斜している。傾斜角A1、A2は、例えば0°<A1≦40°、0°<A2≦40°の範囲内に設定されている。第1平坦部35aと第2平坦部36aとの軸方向間には、一定の隙間が形成されている。以上の構成により、クラッチ連結時において第1弾性部35b及び第2弾性部36bは皿バネのように作用し弾性力を発生させる。
【0074】
このクラッチディスク32では、第1クッショニングプレート35及び第2クッショニングプレート36がそれぞれ片側の摩擦フェーシング33とダンパー機構31との間で弾性変形可能に設けられている。そのため、接着部分の剛性が第1弾性部35b及び第2弾性部36bの弾性力に与える影響は小さくなる。また、第1弾性部35b及び第2弾性部36bの傾斜角A1、A2や板厚等を調整することで、両弾性部35b、36bの弾性力を調整することができる。すなわち、このクラッチディスク32では接着部分の剛性に関係なく第1及び第2クッショニングプレート35、36のクッション効果を確保及び調整することができる。また、このクラッチディスク32では第1平坦部35a及び第2平坦部36aが全周にわたり摩擦フェーシング33に接着固定されている。そのため、従来に比べて接着強度を向上させることができる。
【0075】
以上の構成により、このクラッチディスク32では、クッション効果を低減させることなく接着強度を向上させることができる。また、クッション効果を容易に調整することができる。
【0076】
(3)動作
クラッチ装置1及びクラッチディスク組立体3の動作について説明する。
【0077】
図1に示すように、クラッチ連結解除時においてはレリーズ装置6によりダイヤフラムスプリング43の複数のレバー部43aの先端が軸方向トランスミッション側(図1では右側)に引かれ、ダイヤフラムスプリング43が軸方向に弾性変形する。この結果、プレッシャープレート42への付勢力が解除され、クラッチディスク組立体3のクラッチディスク32がフライホイール2とプレッシャープレート42との間に狭持されなくなり、クラッチ装置1の連結が解除される。
【0078】
クラッチ連結時においては、レリーズ装置6によりレバー部43aの先端が軸方向エンジン側に戻され、ダイヤフラムスプリング43の弾性力によりプレッシャープレート42が軸方向エンジン側へ付勢される。この結果、クラッチディスク32がフライホイール2とプレッシャープレート42との間に狭持され、第1クッショニングプレート35及び第2クッショニングプレート36が軸方向に弾性変形する。具体的には、図5(a)に示すように、まず第1弾性部35b及び第2弾性部36bが軸方向に弾性変形する。
【0079】
このとき、第1クッショニングプレート35及び第2クッショニングプレート36がそれぞれ片側の摩擦フェーシング33とダンパー機構31との間で弾性変形可能に設けられているため、接着部分の剛性が第1弾性部35b及び第2弾性部36bの弾性力に与える影響は小さくなる。これにより、接着部分の剛性に関係なく第1及び第2クッショニングプレート35、36のクッション効果を確保することができる。また、このクラッチディスク32では第1平坦部35a及び第2平坦部36aが全周にわたり摩擦フェーシング33に接着固定されている。そのため、従来に比べて接着強度を向上させることができる。これにより、このクラッチディスク32では、クッション効果を低減させることなく接着強度を向上させることができる。
【0080】
そして第1弾性部35b及び第2弾性部36bが弾性変形すると、図5(b)に示すように第1平坦部35aと第2平坦部36aとが軸方向に当接し、摩擦フェーシング33の間で第1平坦部35a、第2平坦部36a、接着層38が圧縮される。こうしてクラッチディスク32によりクラッチ連結時の衝撃を吸収しつつトルクが伝達される。
【0081】
2.第2実施形態
前述の第1実施形態の変形例として、以下のような場合も考えられる。図6に本発明の第2実施形態としてのクラッチディスク132の回転方向の断面概略図を示す。
【0082】
図6に示すように、本実施形態のクラッチディスク132は第1平坦部135a及び第2平坦部136aが回転平面に対して傾斜している。具体的には、第1平坦部135aは内周側から外周側にかけて軸方向第2平坦部136aと反対側(図6中右側)へ回転平面に対して傾斜している。また、第2平坦部136aは内周側から外周側にかけて軸方向第1平坦部135aと反対側(図6中左側)へ回転平面に対して傾斜している。より具体的には、図7に示すように第1平坦部135a及び第2平坦部136aは回転平面に対して傾斜角B1、B2だけ傾斜するように成形されている。傾斜角B1、B2は、例えば0°<B1≦10°、0°<B2≦10°の範囲内に設定されている。第1弾性部135b及び第2弾性部136bは、第1実施形態と同様に回転平面に対して傾斜角B1、B2だけ傾斜している。また、摩擦面の角度を考慮して、傾斜角B1、B2は傾斜角A1、A2よりも小さい角度に設定されている。
【0083】
クラッチ連結時において、摩擦フェーシング133は図示しないフライホイール及びプレッシャープレートに軸方向に狭持される。このとき、摩擦フェーシング133の内周側の第1弾性部135b及び第2弾性部136bが弾性変形するため、摩擦フェーシング133の内周側には外周側よりも大きい軸方向荷重が作用する。そのため、摩擦フェーシング133の内周部の面圧は外周部の面圧よりも大きくなり、摩擦フェーシング133が偏摩耗するおそれがある。
【0084】
しかし、このクラッチディスク132では第1平坦部135a及び第2平坦部136aが回転平面に対して傾斜している、すなわち第1平坦部135a及び第2平坦部136aもテーパ形状を有しているため、第1平坦部135a及び第2平坦部136aが皿バネのように作用する。そのため、第1弾性部135b及び第2弾性部136bから発生する軸方向荷重に加えて、摩擦フェーシング133の外周側には第1平坦部135a及び第2平坦部136aから発生する軸方向の荷重が作用する。この結果、傾斜角A1、A2、B1、B2等を適切に調整することで、クラッチ連結時において摩擦フェーシング133の内周側と外周側とに作用する軸方向の荷重を均一にすることができ、摩擦フェーシング133の偏摩耗を防止することができる。
【0085】
3.第3実施形態
前述の実施形態では、第1及び第2弾性部の形状が環状であるが、他の形状も考えられる。図8に本発明の第3実施形態としてのクラッチディスク232の平面概略図を示す。
【0086】
図8に示すように、本実施形態の第1クッショニングプレート235は、第1平坦部235aと、第1弾性部235bと、第1固定部235cとを有している。第1平坦部235a及び第1固定部235cの形状は前述の実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0087】
第1弾性部235bは、複数の第1弾性突出部235dから構成されている。具体的には、第1弾性突出部235dは、環状の第1固定部235cから半径方向外側へ延びる部分である。第1弾性突出部235dの外周側には、環状の第1平坦部235aが設けられている。第1平坦部235a及び第1固定部235cは、第1弾性突出部235dにより一体回転可能にかつ軸方向に弾性的に連結されている。第1固定部235cはリベット231dによりクラッチプレート231aの外周部に固定されている。第1弾性突出部235dはクラッチプレート231aから半径方向外側へ延びるように配置されている。第1平坦部235aは、第1弾性部235bによりクラッチプレート231aに一体回転可能にかつ弾性的に連結されている。第1平坦部235a及び第1固定部235cは、前述の第1実施形態と同様に回転平面に対して傾斜していない。また第1弾性部235bは、前述の第1実施形態と同様に回転平面に対して傾斜している。本実施形態においては、第2クッショニングプレート236は第1クッショニングプレート235と同形状であるため、詳細な説明は省略する。
【0088】
このクラッチディスク232では、第1弾性部235bが複数の第1弾性突出部235dから構成されているため、第1弾性突出部235dの形状や数量等を変えることで第1弾性部235bの弾性力を調整することができる。第2クッショニングプレート236についても同様に弾性力を調整可能である。これにより、このクラッチディスク232ではクッション効果を調整することができ、クッション効果を低減させることなく接着強度を向上させることができる。
【0089】
また、第3実施形態の変形例として、図9に示すような場合も考えられる。具体的には、第1固定部235cが環状ではなく第1弾性部235bと同様に複数のプレート部分から構成されている。言い換えると、第1弾性部235bと第1固定部235cとが一体で構成されている。この場合も、第1固定部235cが環状である場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0090】
4.第4実施形態
前述の第3実施形態では、第1弾性部235bが複数の第1弾性突出部235dから構成されているが、以下のような実施形態も考えられる。図10に本発明の第4実施形態としてのクラッチディスク332の平面概略図を示す。
【0091】
図10に示すように、本実施形態の第1クッショニングプレート335は、第1平坦部335aと、第1弾性部335bと、第1固定部335cとを有している。第1平坦部335a及び第1固定部335cの形状は前述の実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0092】
第1弾性部335bは、第1弾性環状部335eと、複数の第1弾性突出部335dとを有している。第1弾性環状部335eは、環状の第1固定部335cの外周側に設けられた環状の部分である。第1弾性突出部335dは、第1弾性環状部335eから半径方向外側へ延びる部分である。言い換えると、環状の第1弾性部335bの外周側に複数の孔部が形成されているとも考えることができる。前述の第1実施形態と同様に、第1弾性部335bは回転平面に対して傾斜している。本実施形態においては、第2クッショニングプレート336は第1クッショニングプレート335と同形状であるため、詳細な説明は省略する。
【0093】
このクラッチディスク332では、第1弾性部335bが複数の第1弾性突出部335dから構成されているため、第1弾性環状部335eの半径方向の幅や第1弾性突出部335dの形状及び数量等を変えることで第1弾性部335bの弾性力を調整することができる。第2クッショニングプレート336についても同様に弾性力を調整することができる。これにより、このクラッチディスク332ではクッション効果を調整することができ、クッション効果を低減させることなく接着面積を強度を向上させることができる。
【0094】
また、第4実施形態の変形例として、図11に示すように第1弾性突出部335dが第1固定部335cの外周側に設けられており、第1弾性環状部335eが第1弾性突出部335dの外周側に設けられている場合も考えられる。この場合も、同様の作用効果を得ることができる。
【0095】
さらに、第4実施形態の変形例として、第1弾性部335bに複数の第1孔部335iが形成されている場合も考えられる。具体的には、図12に示すように、第1弾性部335bに複数の第1孔部335iが円周方向に均等に形成されている。この場合も、第1孔部335iの形状及び数量等を調整することで、同様の作用効果を得ることができる。第1孔部335iの形状は図12に限定されず、他の形状(例えば円形)であってもよい。なお、第1孔部335iの位置を調整することで、図10及び図11に示すクラッチディスク332を得ることができる。
【0096】
5.第5実施形態
前述の実施形態では、第1平坦部の形状が環状であるが、他の形状も考えられる。図13に本発明の第5実施形態としてのクラッチディスク432の平面概略図を示す。
【0097】
図13に示すように、本実施形態の第1クッショニングプレート435は、第1平坦部435aと、第1弾性部435bと、第1固定部435cとを有している。第1弾性部435b及び第1固定部435cの形状は前述の実施形態と同様であるため、詳細な説明は省略する。また本実施形態においては、第2クッショニングプレート436は第1クッショニングプレート435と同形状であるため、詳細な説明は省略する。
【0098】
第1平坦部435aは、複数の第1突出部435fを有している。第1突出部435fは、環状の第1弾性部435bから半径方向外側へ延びる部分である。第1突出部435fと一方の摩擦フェーシング433とは接着剤により固定されている。このクラッチディスク432では、第1突出部435fの形状及び数量等を変えることで従来よりも接着面積を大きくしつつ接着範囲を様々なパターンに限定することができる。
【0099】
6.第6実施形態
前述の実施形態では、第1平坦部435aが複数の第1突出部435fから構成されているが、以下のような実施形態も考えられる。図14に本発明の第6実施形態としてのクラッチディスク532の平面概略図を示す。
【0100】
図14に示すように、第1クッショニングプレート535は、第1平坦部535aと、第1弾性部535bと、第1固定部535cとを有している。本実施形態の第1平坦部535aは、第1環状部535gと、複数の第1突出部535hとを有している。第1環状部535gは、環状の第1弾性部535bの外周側に設けられた環状の部分である。第1突出部535hは、第1環状部535gから半径方向外側へ延びる部分である。本実施形態においては、第2クッショニングプレート536は第1クッショニングプレート535と同形状であるため、詳細な説明は省略する。
【0101】
このクラッチディスク532では、第1環状部535gの半径方向の幅や第1突出部435fの形状及び数量等を変えることで従来よりも接着面積を大きくしつつ接着範囲を様々なパターンに限定することができる。
【0102】
また、第6実施形態の変形例として、図15に示すように第1突出部535hが第1弾性部535bの外周側に設けられており、第1環状部535gが第1突出部535hの外周側に設けられている場合も考えられる。この場合も、同様の作用効果を得ることができる。
【0103】
7.第7実施形態
前述の第3及び第4実施形態では、第1平坦部を環状のプレート部分、第1弾性部を環状のプレート部分、複数のプレート部分及びそれらを組み合わせたものとして記載している。また、第5及び第6実施形態では、第1弾性部を環状のプレート部分、第1平坦部を環状のプレート部分、複数のプレート部分及びそれらを組み合わせたものとして記載している。しかし、第3〜第6実施形態を組み合わせたものも考えられる。図16に本発明の第7実施形態としてのクラッチディスク632の平面概略図を示す。
【0104】
図16に示すように、このクラッチディスク632は第4実施形態の変形例(図10)と第5実施形態(図13)とを組み合わせたものである。具体的には、このクラッチディスク632の第1クッショニングプレート635は、第1平坦部635aと、第1弾性部635bと、第1固定部635cとを有している。第1弾性部635bは、第1弾性環状部635eと、第1弾性突出部335dとを有している。第1弾性環状部635eは、前述の第3実施形態と同様に環状を有している。第1弾性突出部635dは、第1弾性環状部635eから半径方向外側へ延びる複数の部分である。第1平坦部635aは、第1弾性突出部635dの外周側に設けられた複数の第1突出部635hから構成されている。本実施形態では、1つの第1弾性突出部635dの外周側に1つの第1突出部635が形成されている。本実施形態においては、第2クッショニングプレート636は第1クッショニングプレート635と同形状であるため、詳細な説明は省略する。以上の構成により、このクラッチディスク632では前述の第3及び第5実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
【0105】
このように、以上に述べた全ての実施形態を組み合わせて、様々な形状の第1及び第2クッショニングプレート635、636を備えたクラッチディスク632を得ることができる。
【0106】
8.その他の実施形態
本発明はかかる上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0107】
(1)平坦部及び弾性部
平坦部及び弾性部の形状や組み合わせは前述の実施形態に限定されず、その他の形状及び組み合わせであってもよい。また、前述の実施形態では第1及び第2クッショニングプレートを同形状として記載しているがこれに限定されず、異なる形状を有していてもよい。また、第2実施形態以外の実施形態のクラッチディスクが第2実施形態のように、第1及び第2平坦部が半径方向内側から半径方向外側にかけて回転平面に対して傾斜していてもよい。この場合においても、摩擦フェーシングの偏摩耗を防止することができる。また、平坦部にも弾性部と同様の孔部を設けてもよい。これにより、従来よりも接着面積を大きくしつつ接着範囲を様々なパターンに限定することができる。
【0108】
(2)第1及び第2弾性部
前述の実施形態では、第1クッショニングプレートと第2クッショニングプレートとの軸方向荷重の釣り合いを考慮して、第1及び第2弾性部がともにテーパ形状を有しているが、これに限定されない。例えば、第1クッショニングプレートがテーパ形状の第1弾性部を有し、第2クッショニングプレートがテーパ形状の部分を有さない環状のプレート部材であってもよい。この場合、第1弾性部の傾斜角や板厚等を調整することで、同様の効果を得ることができる。
【0109】
(3)第1及び第2固定部
前述の実施形態では、第1及び第2固定部がクラッチプレートの軸方向の一方に固定されているが、これに限定されない。例えば、第1固定部と第2固定部とがクラッチプレートの軸方向両側、すなわちクラッチプレートを挟み込むように固定されていてもよい。この場合、クラッチプレートの厚み分だけ第1平坦部と第2平坦部との軸方向間の隙間が大きくなる。
【0110】
(4)傾斜角
前述の実施形態の図面上では、傾斜角A1、A2及び傾斜角B1、B2はそれぞれ第1クッショニングプレート及び第2クッショニングプレートで同じ角度としているが、これに限定されない。例えば、傾斜角A1、A2が異なる角度に設定されていてもよい。
【0111】
(5)クラッチ装置の形式
前述の実施形態では、プルタイプのクラッチ装置で記載しているが、これに限定されない。例えば、プッシュタイプのクラッチ装置でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】本発明の第1実施形態としてのクラッチディスク32が採用されたクラッチ装置1の縦断面概略図。
【図2】本発明の第1実施形態としてのクラッチディスク32が採用されたクラッチ装置1の平面概略図。
【図3】本発明の第1実施形態としてのクラッチディスク32の回転方向の断面概略図。
【図4】図3の摩擦フェーシング33周辺の部分拡大図。
【図5】クラッチディスク32の変形状態を示す図。
【図6】本発明の第2実施形態としてのクラッチディスク132の半径方向の断面概略図。
【図7】図6の摩擦フェーシング33周辺の部分拡大図。
【図8】本発明の第3実施形態としてのクラッチディスク232の平面概略図。
【図9】本発明の第3実施形態の変形例としてのクラッチディスク232の平面概略図。
【図10】本発明の第4実施形態としてのクラッチディスク332の平面概略図。
【図11】本発明の第4実施形態の変形例としてのクラッチディスク332の平面概略図。
【図12】本発明の第4実施形態の変形例としてのクラッチディスク332の平面概略図。
【図13】本発明の第5実施形態としてのクラッチディスク432の平面概略図。
【図14】本発明の第6実施形態としてのクラッチディスク532の平面概略図。
【図15】本発明の第6実施形態の変形例としてのクラッチディスク532の平面概略図。
【図16】本発明の第7実施形態としてのクラッチディスク632の平面概略図。
【符号の説明】
【0113】
1 クラッチ装置
2 フライホイール(入力回転体)
3 クラッチディスク組立体
4 クラッチカバー組立体
5 インプットシャフト(出力回転体)
30 スプラインハブ
31 ダンパー機構
32 クラッチディスク
33 摩擦フェーシング
35 第1クッショニングプレート
35a 第1平坦部
35b 第1弾性部
35c 第1固定部
36 第2クッショニングプレート
36a 第2平坦部
36b 第2弾性部
36c 第2固定部
38 接着層
A1、A2、B1、B2 傾斜角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力回転体から出力回転体へ摩擦係合によりトルクを伝達するためのクラッチディスク組立体のクラッチディスクであって、
軸方向に互いに対向して配置され、前記入力回転体と摩擦係合するための1対の環状の摩擦フェーシングと、
一方の前記摩擦フェーシングと前記出力回転体とを連結しており、前記一方の摩擦フェーシングに接着剤により固定された第1クッショニングプレートと、
他方の前記摩擦フェーシングと前記出力回転体とを連結しており、前記他方の摩擦フェーシングに接着剤により固定された第2クッショニングプレートと、
を備えたクラッチディスク。
【請求項2】
前記第1クッショニングプレートは、前記一方の摩擦フェーシングに接着固定される第1平坦部と、前記第1平坦部の内周側に設けられ前記出力回転体側の部材に固定された第1固定部と、前記第1平坦部及び第1固定部を弾性的に連結する第1弾性部とを有し、
前記第2クッショニングプレートは、前記一方の摩擦フェーシングに接着固定される第2平坦部と、前記第2平坦部の内周側に設けられ前記出力回転体側の部材に固定された第2固定部と、前記第2平坦部及び第2固定部を弾性的に連結する第2弾性部とを有している、
請求項1に記載のクラッチディスク。
【請求項3】
前記第1及び第2弾性部の少なくともいずれか一方は、テーパ形状を有している、
請求項2に記載のクラッチディスク。
【請求項4】
前記第1弾性部は、内周側から外周側にかけて軸方向前記第2弾性部と反対側へ回転平面に対して傾斜している、
請求項3に記載のクラッチディスク。
【請求項5】
前記第2弾性部は、内周側から外周側にかけて軸方向前記第1弾性部と反対側へ回転平面に対して傾斜している、
請求項3または4に記載のクラッチディスク。
【請求項6】
前記第1弾性部は、前記第1固定部の外周側に設けられた環状の第1弾性環状部を有している、
請求項2から5のいずれかに記載のクラッチディスク。
【請求項7】
前記第1弾性部は、前記第1弾性環状部から半径方向外側へ延びる複数の第1弾性突出部をさらに有している、
請求項6に記載のクラッチディスク。
【請求項8】
前記第1弾性部は、前記第1固定部から半径方向外側へ延びる複数の第1弾性突出部を有している、
請求項2から5のいずれかに記載のクラッチディスク。
【請求項9】
前記第1弾性部は、前記第1弾性突出部の外周側に設けられた環状の第1弾性環状部をさらに有している、
請求項8に記載のクラッチディスク。
【請求項10】
前記第1弾性部は、少なくとも1つの第1孔部を有している、
請求項2から9のいずれかに記載のクラッチディスク。
【請求項11】
前記第2弾性部は、前記第2固定部の外周側に設けられた環状の第2弾性環状部を有している、
請求項2から10のいずれかに記載のクラッチディスク。
【請求項12】
前記第2弾性部は、前記第2弾性環状部から半径方向外側へ延びる複数の第2弾性突出部をさらに有している、
請求項11に記載のクラッチディスク。
【請求項13】
前記第2弾性部は、前記第2固定部から半径方向外側へ延びる複数の第2弾性突出部を有している、
請求項2から10のいずれかに記載のクラッチディスク。
【請求項14】
前記第2弾性部は、前記第2弾性突出部の外周側に設けられた環状の第2弾性環状部をさらに有している、
請求項13に記載のクラッチディスク。
【請求項15】
前記第2弾性部は、少なくとも1つの第2孔部を有している、
請求項2から14のいずれかに記載のクラッチディスク。
【請求項16】
前記第1平坦部は、前記第1弾性部の外周側に設けられた環状の第1環状部を有している、
請求項2から15のいずれかに記載のクラッチディスク。
【請求項17】
前記第1平坦部は、前記第1環状部から半径方向外側へ延びる複数の第1突出部をさらに有している、
請求項16に記載のクラッチディスク。
【請求項18】
前記第1平坦部は、前記第1弾性部から半径方向外側へ延びる複数の第1突出部を有している、
請求項2から15のいずれかに記載のクラッチディスク。
【請求項19】
前記第1平坦部は、前記第1突出部の外周側に設けられた環状の第1環状部をさらに有している、
請求項18に記載のクラッチディスク。
【請求項20】
前記第2平坦部は、前記第2弾性部の外周側に設けられた環状の第2環状部を有している、
請求項2から19のいずれかに記載のクラッチディスク。
【請求項21】
前記第2平坦部は、前記第2環状部から半径方向外側へ延びる複数の第2突出部をさらに有している、
請求項20に記載のクラッチディスク。
【請求項22】
前記第2平坦部は、前記第2弾性部から半径方向外側へ延びる複数の第2突出部を有している、
請求項2から19のいずれかに記載のクラッチディスク。
【請求項23】
前記第2平坦部は、前記第2突出部の外周側に設けられた環状の第2環状部をさらに有している、
請求項22に記載のクラッチディスク。
【請求項24】
前記第1平坦部は、半径方向内側から半径方向外側にかけて軸方向前記第2平坦部と反対側へ回転平面に対して傾斜している、
請求項2から23のいずれかに記載のクラッチディスク。
【請求項25】
前記第2平坦部は、半径方向内側から半径方向外側にかけて軸方向前記第1平坦部と反対側へ回転平面に対して傾斜している、
請求項2から24のいずれかに記載のクラッチディスク。
【請求項26】
前記第1平坦部の回転平面に対する傾斜角は、前記第1弾性部の回転平面に対する傾斜角よりも小さい、
請求項24に記載のクラッチディスク。
【請求項27】
前記第2平坦部の回転平面に対する傾斜角は、前記第2弾性部の回転平面に対する傾斜角よりも小さい、
請求項25に記載のクラッチディスク。
【請求項28】
入力回転体から出力回転体へ摩擦係合によりトルクを伝達するためのクラッチディスク組立体であって、
請求項1から27のいずれかに記載のクラッチディスクと、
前記クラッチディスクと前記出力回転体の間に配置され、前記クラッチディスクと前記出力回転体とを回転方向に弾性的に連結するためのダンパー機構と、
を備えたクラッチディスク組立体。
【請求項29】
入力回転体から出力回転体へトルクを伝達及び遮断するためのクラッチ装置であって、
請求項28に記載のクラッチディスク組立体と、
前記入力回転体に連結されたクラッチカバーと、前記クラッチカバーに相対回転不能に設けられ前記入力回転体に対して前記第1及び第2摩擦フェーシングを押圧するための押圧部材と、前記クラッチカバーに対して軸方向に弾性変形可能に設けられ前記押圧部材を前記入力回転体側へ付勢するための付勢部材とを有するクラッチカバー組立体と、
を備えたクラッチ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2007−24215(P2007−24215A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−208673(P2005−208673)
【出願日】平成17年7月19日(2005.7.19)
【出願人】(000149033)株式会社エクセディ (270)
【Fターム(参考)】