説明

クラッチレリーズ軸受およびこれを備えるクラッチレリーズ軸受装置

【課題】軸受トルクを増大させることなく、より軽量で、かつ密封性を向上したクラッチレリーズ軸受を簡便に提供する。
【解決手段】クラッチレリーズ軸受10は、ボール13を介して相対回転可能に設けられた内輪11および外輪12と、両輪11,12間に形成される環状空間の開口部に配設され、該開口部をそれぞれ封止する第1および第2シール部材15,16を主要な構成部材として備える。第1シール部材15は、内径端部15bが内輪11の円筒面11a2に摺接して接触シールからなるシール部S1を形成する。内輪11の一端には径方向に延在して第1シール部材15と軸方向に対向するカバー材19が固定され、このカバー材19に設けた環状の隆起部19cの端面と、これに相対向する第1シール部材15の端面との間に、径方向で直線状に延在するラビリンスシールS2が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車をはじめとする車両のクラッチ装置に組み込まれるクラッチレリーズ軸受、およびこれを備えるクラッチレリーズ軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クラッチレリーズ軸受装置は、マニュアルトランスミッション車のエンジンとトランスミッションとの間に配設され、クラッチペダルの操作に伴って軸方向移動し、クラッチのON/OFFを切り替えるものである。クラッチレリーズ軸受装置に組み込まれるクラッチレリーズ軸受100は、例えば図7に示すように、転動体としてのボール105を介して相対回転可能に設けられた内輪101および外輪102を備え、外輪102には、図示しないクラッチ装置の回転部材(ダイヤフラムスプリング)と当接する鍔部104が設けられる。また、内輪101と外輪102の間に形成される環状空間の開口部にはシール部材106,106が配設される。図示例のシール部材106は、外径端部が外輪102に固定された状態で内径端部(リップ)が全周に亘って内輪101の外径面に摺接するようになっている。これにより、前記開口部が封止され、環状空間に充填したグリースの外部漏洩や、環状空間への異物侵入が可及的に防止される(例えば、特許文献1を参照)。
【0003】
なお、図7に示すシール部材106,106は双方共にいわゆる接触型であるが、両シール部材106のうち、何れか一方または双方は、内径端部が内輪101の外径面と所定の隙間を介して対向する、いわゆる非接触型とされる場合もある(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開2006−189086号公報
【特許文献2】特開平11−270583号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、クラッチレリーズ軸受が泥水に浸るような過酷な使用環境下においても所期の軸受性能を安定的に維持すべく、両輪間に形成される環状空間の密封性を一層高める必要が生じている。例えば、上述した図7に示す軸受構成において密封性を一層高めるには、内輪101の外径面に摺接するシール部材106のリップの数を増加させる、リップの接触代を増大させる等の手段を採用することが考えられるが、このような手段では軸受トルクの増大、ひいてはクラッチ装置の機能低下を招くおそれがある。
【0005】
また、図7に示す軸受では、内輪101のリア側一端(図中右側の一端)に、径方向に延在する鍔部101aを一体的に設けることによって、リア側のシール部材106が抜脱等するのを可及的に防止するようにしている。しかしながら、かかる構成では、内輪101の形状が複雑化して製造コストが増大するおそれが、また内輪101、ひいては軸受100の重量化を招くおそれがある。
【0006】
本発明は以上の問題点に鑑みてなされたものであり、軸受トルクを増大させることなく、より軽量で、かつより高い密封性を具備するクラッチレリーズ軸受を簡便に提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明では、クラッチ装置の回転部材との当接部を有するクラッチレリーズ軸受であって、転動体を介して相対回転可能に設けられた内輪および外輪と、両輪間に形成される環状空間の開口部に配設され、内径端部が内輪の外径面と協働して前記開口部を封止するシール部材とを備えるものにおいて、内輪の一端に、径方向に延在してシール部材と軸方向に対向するカバー材を固定し、このカバー材とシール部材との間に、径方向に延在するラビリンスシールを形成したことを特徴とするクラッチレリーズ軸受を提供する。
【0008】
上記のように、本発明にかかるクラッチレリーズ軸受では、シール部材の内径端部と内輪の外径面との協働で形成されるシール部よりも軸受外方側に、非接触シールであるラビリンスシールが付加的に設けられる。そのため、軸受トルクを増大させることなく、密封性の向上が図られる。また、ラビリンスシールを形成する一方側の部材は、内輪の一端に固定した(内輪とは別部材の)カバー材であって、当該カバー材は、シール部材の抜脱を防止し得るだけの強度を具備していれば足り、内輪の主要部に必要とされるほどの強度は不要である。そのため、カバー材は、例えば、形状自由度の高い(加工の容易な)薄肉の鋼板や樹脂で形成することが可能であり、従って、軸受の軽量化を図りつつ、この種のラビリンスシールを簡便に形成することが可能となる。
【0009】
前記ラビリンスシールは、径方向で直線状に延在させることができる。かかる構成のラビリンスシールは、カバー材又はシール部材の少なくとも一方に環状の隆起部を設け、この隆起部で(隆起部と、これに対向する相手部材もしくは相手部材に設けた隆起部との間に)形成することができる。
【0010】
ラビリンスシールは、前述のように、径方向で直線状に延在させる他、径方向で蛇行状に延在させることもできる。この場合、前述した構成に比べ、ラビリンスシールの全長を長大化することができるため、密封性を一層高めることが可能となる。かかる構成のラビリンスシールは、カバー材に一又は複数の環状突起を設けると共に、シール部材に、カバー材の環状突起と径方向位置を異ならせて一又は複数の環状突起を設け、カバー材の環状突起とシール部材の環状突起とで形成することができる。なお、環状突起の形成態様(位置、数、断面形状等)はラビリンスシールを形成可能である限りにおいて任意であり、必要とされる密封性や、軸受タイプ(外輪回転タイプ、内輪回転タイプ)に応じて適宜設定可能である。さらに言えば、径方向で蛇行状に延在するラビリンスシールとは、凹円弧と凸円弧とが交互に連続したものに限定されるわけではない。
【0011】
以上に示す本発明に係るクラッチレリーズ軸受は、例えば、固定体と、固定体との間に形成される容積可変チャンバの容積変動により固定体に沿って軸方向移動可能に設けられた可動体とを備え、該可動体にクラッチレリーズ軸受が設けられるタイプ、簡単に述べると油圧駆動式のクラッチレリーズ軸受装置に組み込んで好適に使用可能である。
【発明の効果】
【0012】
以上のように、本発明によれば、軸受トルクを増大させることなく、より軽量で、かつより高い密封性を具備するクラッチレリーズ軸受を簡便に提供することができる。また、これにより、グリース漏れや異物侵入等によるクラッチ機能の低下を可及的に防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0014】
図1は本発明に係るクラッチレリーズ軸受を組み込んだクラッチレリーズ軸受装置、詳細には、油圧によって駆動される油圧駆動式のクラッチレリーズ軸受装置の一例を示す断面図であり、クラッチが係合している状態を示すものである。同図に示すクラッチレリーズ軸受装置1は、ギアボックスのケーシング50に取り付けられた固定体30と、固定体30に対して軸方向移動可能に設けられ、固定体30と協働して容積可変チャンバ40を形成する可動体20とで主要部が構成される。容積可変チャンバ40には図示しない制御用油圧発生器が接続され、チャンバ40内には制御流体としてのオイルが充満されている。なお、便宜上、以下の説明では、図中左側をフロント側、図中右側をリア側という。
【0015】
固定体30は、リア側一端に容積可変チャンバ40の底部を構成するラジアルエッジ34が設けられたガイドチューブ33と、内径面に設けた溝部32にラジアルエッジ34の外径側一端を嵌合した円筒状の外側本体31とで主要部が構成される。
【0016】
可動体20は、ピストン支持チューブ21を介してガイドチューブ33に外嵌されたピストン22と、ピストン22のフロント側一端に配設され、図示しないクラッチ装置の回転部材(以下、これをダイヤフラムスプリングという)との当接部を有するクラッチレリーズ軸受10とを主要な構成部材として備える。ピストン22は、軸方向に延在する外側円筒部22aおよび内側円筒部22bと、両円筒部をフロント側一端で接続する環状部22cと、外側円筒部22aの基端から外径側に張り出した突起部22dとを有する。ピストン22のうち、内側円筒部22bは外側本体31の内周に挿入されて固定体30との間に容積可変チャンバ40を形成し、突起部22dは、外側円筒部22aの外周に配設された予圧スプリング24のフロント側一端を係止する役割を担う。ピストン支持チューブ21のフロント側一端はピストン22の環状部22cを若干越えて延設され、この延設部分の外径面に形成された環状溝21aに皿ばね23が嵌合される。皿ばね23は、ピストン22の環状部22cと協働してクラッチレリーズ軸受10(の内輪11)を弾性的に支持するためのばね力を有するものであり、クラッチレリーズ軸受10は、皿ばね23のばね力でピストン22側に押圧されることによって調心が許容されるようになっている。
【0017】
以上の構成からなるクラッチレリーズ軸受装置1において、クラッチを解除状態にする際の各部材の挙動を簡単に説明する。まず、図示しない油圧発生器によって容積可変チャンバ40内のオイルが加圧されると、容積可変チャンバ40の容積が増大するよう、ピストン22がフロント側に移動する。ピストン22は移動中にクラッチレリーズ軸受10を作動させる。クラッチレリーズ軸受10が作動すると、図示しないダイヤフラムスプリングにはスラスト力が付加され、これによりクラッチが解除される。
【0018】
以下、本発明の要旨であるクラッチレリーズ軸受10について詳述する。図示例のクラッチレリーズ軸受10はいわゆるアンギュラ玉軸受からなり、図2にも拡大して示すように、複数の転動体(ボール)13を介して相対回転可能に設けられた内輪11および外輪12と、両輪間に組み込まれ、ボール13を円周方向等間隔で保持する保持器14と、両輪間に形成される環状空間のリア側およびフロント側開口部にそれぞれ配設された第1および第2シール部材15,16と、内輪11のリア側一端に固定されたカバー材19とを備える。両輪11,12間に形成される環状空間には潤滑材としてのグリースが充満される。なお、図示例のクラッチレリーズ軸受10は、内輪11が静止側、外輪12が回転側を構成する外輪回転タイプの軸受である。
【0019】
内輪11は、例えば鋼板のプレス成形品とされ、軸方向に延びる略円筒状をなし、外径面にボール13の転動面11a1が形成された筒状部11aと、筒状部11aのフロント側一端から径方向内側に延び、先端部がピストン22の環状部22cと皿ばね23との間に介在する鍔部11bとを一体に有する。鍔部11bのリア側端面は、これが当接するピストン22の環状部22cの端面形状に対応する形で、軸線と直交する方向の平坦面に形成される。
【0020】
外輪12は、内輪11同様に鋼板のプレス成形品とされ、軸方向に延びる略円筒状をなし、内径面にボール13の転動面12a1が形成された筒状部12aと、筒状部12aのフロント側一端から内径側に延在し、図示しないダイヤフラムスプリングとの当接部となる鍔部12bとを一体に有する。筒状部12aの内径面のうち、両シール部材15,16が固定される領域は軸線と平行な円筒面12a2に形成される。鍔部12bは、外側本体31とピストン22のフランジ部22dとの間で作用する予圧スプリング24によってダイヤフラムスプリングに常時当接しており、その断面形状は、ダイヤフラムスプリングと線接触(断面図では点接触)するように、フロント側に突出した凸円弧状とされる。
【0021】
内輪11および外輪12形成用の鋼板としては、例えば浸炭鋼板を使用することができる。使用可能な浸炭鋼として、ニッケルクロム鋼(SNC)、ニッケルクロムモリブデン鋼(SNCM)、クロム鋼(SCr)、クロムモリブデン鋼(SCM)などが挙げられる。なお、内輪11および外輪12の何れか一方又は双方は、上記のような鋼板のプレス成形品とする他、鍛造成形品、あるいは切削等の機械加工品とすることも可能である。
【0022】
第2シール部材16は、断面略L字形状に形成された芯金17と、この芯金17表面を被覆するように加硫接着されたゴム製の被覆部18とからなり、全体として、リア側を開口させた断面略コの字形状を呈する。この第2シール部材16は、外径端部16aが外輪12の円筒面12a2(厳密には、フロント側の円筒面12a2)に圧入固定され、この状態で内径端部16b(リップ)が全周に亘って内輪11の外径面に接触する。これにより、いわゆる接触シールからなるシール部S1が形成され、両輪11,12間に形成される環状空間のフロント側開口部が密封される。
【0023】
第1シール部材15は、第2シール部材16と同様に、断面略L字形状に形成された芯金17と、この芯金17表面を被覆するように加硫接着されたゴム製の被覆部18とからなり、全体として、フロント側を開口させた断面略コの字形状を呈する。この第1シール部材15は、外径端部15aが外輪12の円筒面12a2(厳密には、リア側の円筒面12a2)に圧入固定され、この状態で内径端部15b(リップ)が全周に亘って内輪11の円筒状の外径面11a2に接触することにより、いわゆる接触シールからなるシール部S1を形成する。
【0024】
両シール部材15,16を構成する被覆部18の形成に用いるゴム材料としては、耐摩耗性や耐水性(耐候性)に優れる公知のゴム材料、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、耐熱ニトリルゴム、ポリアクリルゴム、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、フッ素ゴム(FKM)等が使用可能である。
【0025】
カバー材19は、全体として径方向に延在する略円盤状をなし、フロント側に屈曲した内径端部19bを内輪11の内径面に嵌合させることにより、内輪11のリア側一端に固定される。このカバー材19は、所定の軸方向隙間を介して第1シール部材15のリア側端面と対向する環状部19aと、この環状部19aの外径側所定領域をフロント側に断面コの字形状に所定量隆起させてなる隆起部19cとを有する。隆起部19cは、環状部19aよりも第1シール部材15に近接しており、そのフロント側端面が、第1シール部材15のリア側端面との間に径方向で直線状に延びるラビリンスシールS2を形成する。
【0026】
本実施形態において、カバー材19は、少なくとも内輪11の各部より薄肉の鋼板素材をプレス成形して得られるプレス成形品とされる。このように、カバー材19を薄肉鋼板で形成することができるのは、このカバー材19は、軸受運転時の内圧上昇等に伴って第1シール部材15が、環状空間のリア側開口部から抜脱するのを防止し得るだけの強度を具備していれば足り、内輪11(の筒状部11aや鍔部11b)に必要とされるほどの強度は不要なためである。なお、カバー材19と内輪11の間の固定強度を高めるために、例えば、カバー材19の内径端部19bと内輪11との間に接着剤を介在させるようにしても良い。
【0027】
そして、第1シール部材15と内輪11との協働で形成される接触シール部S1と、カバー材19と第1シール部材15との協働で形成されるラビリンスシールS2とで、両輪11,12間に形成される環状空間のリア側開口部が密封される。
【0028】
以上に示すように、本発明にかかるクラッチレリーズ軸受10では、第1シール部材15の内径端部15bと内輪11の外径面(円筒面11a2)との協働で形成されるシール部S1よりも軸受外方側に、非接触シールであるラビリンスシールS2が付加的に設けられる。そのため、軸受トルクを増大させることなく、両輪11,12間に形成される環状空間の両開口部のうち、リア側開口部における密封性の向上が図られる。また、ラビリンスシールS2を形成する一方側の部材は、内輪11よりも薄肉の鋼板素材から形成されたものであり、このような薄肉鋼板は形状自由度が高く、しかも軽量である。従って、クラッチレリーズ軸受10の軽量化を図りつつ、ラビリンスシールS2を簡便に形成することが可能となる。以上のことから、本発明によれば、軽量・低トルクでありながら、より高い密封性を具備するクラッチレリーズ軸受10を簡便に提供することができる。
【0029】
以上で説明した実施形態では、カバー材19に隆起部19cを設け、この隆起部19cの端面と、これに相対向する第1シール部材15の端面との間に径方向で直線状に延在するラビリンスシールS2を形成しているが、かかる態様のラビリンスシールS2を形成する手段はこれに限定されない。すなわち、例えば、第1シール部材15を構成する被覆部18に他所よりもリア側に隆起した隆起部を設け、この隆起部の端面と、これに相対向するカバー材19の端面との間(あるいは、カバー材19に設けた隆起部19cの端面との間)に径方向で直線状に延在するラビリンスシールS2を形成することも可能である。なお、第1シール部材15の被覆部18は加硫接着されるものであり、被覆部18の形態は、成形金型の形状を変更するだけで容易に変更可能である。したがって、この種のラビリンスシールS2も特段のコスト増を招くことなく、容易に形成することが可能である。
【0030】
以上、本発明の一実施形態に係るクラッチレリーズ軸受10について説明を行ったが、本発明はこれに限定適用されるものではない。以下、本発明を適用したクラッチレリーズ軸受の他の実施形態について説明を行うが、以上で説明したものと実質的に同一の機能を奏する部材・部位には共通の参照番号を付し、重複説明を省略する。
【0031】
図3は、本発明の第2実施形態に係るクラッチレリーズ軸受10を示すものである。同図に示すクラッチレリーズ軸受10が図2に示すものと異なる主な点は、カバー材19の径方向に離隔した二箇所に環状突起19d,19dを設けると共に、第1シール部材15を構成する被覆部18に、カバー材19に設けた環状突起19dとは径方向位置を異ならせるようにして(厳密には、環状突起19d,19d間に位置するようにして)環状突起15cを設け、各環状突起15c,19dで、径方向で蛇行状に延在するラビリンスシールS2を形成した点にある。かかる構成では、径方向で直線状に延在するラビリンスシールS2を形成した第1実施形態に比べ、ラビリンスシールS2の全長を長大化することができるので、密封性を一層向上することができる。なお、第1シール部材15を構成する被覆部18は芯金17表面に加硫接着(型成形)されるものであるから、被覆部18に環状突起15cを形成することによる特段のコスト増は生じない。
【0032】
図4〜図6は、本発明の第3〜第5実施形態に係るクラッチレリーズ軸受10をそれぞれ示すものであり、図3に示すクラッチレリーズ軸受10の変形例である。まず、図4に示す実施形態が図3に示すものと異なる主な点は、図3に示すカバー材19に設けた2つの環状突起19dのうち、径方向外側に設けた環状突起19dを省略した点にある。また、図5に示す実施形態が図3に示すものと異なる主な点は、カバー材19に1つの環状突起19dを設けると共に、この環状突起19dを挟みこむようにして、第1シール部材15の被覆部18に2つの環状突起15c,15cを設けた点にある。また、図6に示す実施形態が図3に示すものと異なる主な点は、図3に示すカバー材19に設けた2つの環状突起19d,19dのうち、径方向内側に設けた環状突起19dを省略した点にある。
【0033】
なお、以上では、内輪11を静止側、外輪12を回転側としたクラッチレリーズ軸受10に、本発明を適用した場合について説明を行ったが、これとは逆に、内輪11を回転側、外輪12を静止側としたクラッチレリーズ軸受10に本発明の構成を適用することももちろん可能である。ただしこの場合、ダイヤフラムスプリングとの当接部は、内輪11のフロント側一端に径方向外側に延在するように設けられた鍔部となる(図示は省略)。またこの場合、外輪12のフロント側一端に設けた鍔部は不要となる。
【0034】
また、図3〜図6の各実施形態に示すクラッチレリーズ軸受10では、凹円弧と凸円弧とが交互に連続する蛇行状のラビリンスシールS2を形成しているが、いわゆるパルス波形のように、矩形波状に蛇行したラビリンスシールS2を形成することも可能である。かかる構成は、カバー材19および第1シール部材15にそれぞれ設ける環状突起19d,15cを断面矩形状に形成することで容易に得られる(図示は省略)。また、上述した各実施形態はあくまでも一例であり、カバー材19および第1シール部材15にそれぞれ設ける環状突起19d,15cの位置、数、断面形状等は、求められる密封性等に応じて適宜変更可能である。
【0035】
以上では、カバー材19を薄肉の鋼板素材で形成した場合について説明を行ったが、カバー材19は樹脂材料やセラミックスで形成することも可能である。この場合、クラッチレリーズ軸受を一層軽量化することができる。
【0036】
また、以上では、シール部材15,16の双方を、いわゆる接触型としたクラッチレリーズ軸受について説明を行ったが、シール部材15,16の何れか一方又は双方を、いわゆる非接触型としたクラッチレリーズ軸受に上記本発明の構成を適用することも可能である。
【0037】
以上、本発明について説明を行ったが、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものでなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、さらに種々なる形態で実施し得ることは勿論のことである。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲に記載の均等の意味、および範囲内の全ての変更を含む。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】クラッチレリーズ軸受を組み込んだクラッチレリーズ軸受装置の全体構成を示す断面図である。
【図2】本発明の第1実施形態に係るクラッチレリーズ軸受の断面図である。
【図3】本発明の第2実施形態に係るクラッチレリーズ軸受の断面図である。
【図4】本発明の第3実施形態に係るクラッチレリーズ軸受の断面図である。
【図5】本発明の第4実施形態に係るクラッチレリーズ軸受の断面図である。
【図6】本発明の第5実施形態に係るクラッチレリーズ軸受の断面図である。
【図7】従来構成のクラッチレリーズ軸受を概念的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0039】
1 クラッチレリーズ軸受装置
10 クラッチレリーズ軸受
11 内輪
12 外輪
13 ボール(転動体)
15 第1シール部材
15a 外径端部
15b 内径端部
15c 環状突起
16 第2シール部材
17 芯金
18 被覆部
19 カバー材
19c 隆起部
19d 環状突起
20 可動体
30 固定体
40 容積可変チャンバ
S1 シール部
S2 ラビリンスシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クラッチ装置の回転部材との当接部を有するクラッチレリーズ軸受であって、転動体を介して相対回転可能に設けられた内輪および外輪と、両輪間に形成される環状空間の開口部に配設され、内径端部が内輪の外径面と協働して前記開口部を封止するシール部材とを備えるものにおいて、
前記内輪の一端に、径方向に延在して前記シール部材と軸方向に対向するカバー材を固定し、このカバー材と前記シール部材との間に、径方向に延在するラビリンスシールを形成したことを特徴とするクラッチレリーズ軸受。
【請求項2】
前記ラビリンスシールを直線状に延在させた請求項1に記載のクラッチレリーズ軸受。
【請求項3】
前記カバー材又は前記シール部材の少なくとも一方に環状の隆起部を設け、この隆起部で前記ラビリンスシールを形成した請求項2に記載のクラッチレリーズ軸受。
【請求項4】
前記ラビリンスシールを蛇行状に延在させた請求項1に記載のクラッチレリーズ軸受。
【請求項5】
前記カバー材に一又は複数の環状突起を設けると共に、前記シール部材に、前記カバー材の環状突起と径方向位置を異ならせて一又は複数の環状突起を設け、前記カバー材の環状突起と前記シール部材の環状突起とで、前記ラビリンスシールを形成した請求項4に記載のクラッチレリーズ軸受。
【請求項6】
固定体と、固定体との間に形成される容積可変チャンバの容積変動により固定体に沿って軸方向移動可能に設けられた可動体とを備え、可動体に、請求項1〜5の何れか一項に記載のクラッチレリーズ軸受が設けられたクラッチレリーズ軸受装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−180244(P2009−180244A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−17582(P2008−17582)
【出願日】平成20年1月29日(2008.1.29)
【出願人】(000102692)NTN株式会社 (9,006)
【Fターム(参考)】