説明

クラッチ装置及びシートリフタ装置

【課題】高い精度を必要としない安価な構造のクラッチ装置を提供する。
【解決手段】シートリフタ装置1は、入出力軸21を通じてガイドホイール22に一方向のトルクが入力されたときには、第1摩擦ベルト31の張力を増大させることにより、入出力軸21の回転をロックする第1揺動プレート29と、入出力軸21を通じてガイドホイール22に他方向のトルクが入力されたときには、第2摩擦ベルト32の張力を増大させることにより、入出力軸21の回転をロックする第2揺動プレート30と、入出力軸21に対して入力側から前記一方向のトルクが入力されたときに、第1揺動プレート29を押圧することで、前記ロックを解除する第1押圧部材431と、入出力軸21に対して入力側から前記他方向のトルクが入力されたときに、第2揺動プレート30を押圧することで、前記ロックを解除する第2押圧部材432と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一側から入力されたトルクは他側に伝達する一方、他側から入力されたトルクは遮断して一側に伝達しないクラッチ装置及びそのクラッチ装置を備えたシートリフタ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車の座席シートには、シートクッションの高さ位置を調整するシートリフタ装置を備えたものがある。
【0003】
例えば、特許文献1には、操作レバーを上下方向に揺動操作することにより、シートクッションの高さ位置を調整することができるシートリフタ装置を備えた座席シートが開示されている。
【0004】
このシートリフタ装置は、操作レバーと、シートクッションの昇降機構と、操作レバーと昇降機構との間に介装されたクラッチ装置とを備えており、クラッチ装置によって、操作レバー(入力側)からの入力トルクを昇降機構(出力側)に伝達すると共に、例えば、シートクッションに着座する人の体重などに起因して出力側からの入力されるトルク(以下、逆入力トルクともいう)を遮断して入力側に伝達しないようにしている。これにより、シートリフタ装置は、操作レバーを揺動操作することにより、シートクッションの高さ位置を調整することができると共に、操作レバーを開放したときには、逆入力トルクに抗して、シートクッションの高さ位置を調整位置に保持することができる。
【0005】
このように入力側からの入力トルクを出力側に伝達するため及び出力側からの逆入力トルクを遮断して入力側に伝達しないために、前記クラッチ装置は、トルクを入力側から出力側に伝達するための出力軸と、該出力軸の入力側で、当該出力軸に対しトルクを入力するための入力側部材と、出力軸と同軸に配設される外輪とを備え、出力軸の外周面と外輪の内周面との間に形成される隙間には、周方向に並んで配置されると共に、その間の板ばねによって互いに周方向の反対方向に付勢された一対のローラを複数有している。ここで、出力軸の外周面は、所定のカム形状に形成されており、これによって出力軸の外周面と外輪の内周面との間に形成された隙間には、各ローラが楔係合するような楔隙間が形成されている。そうして、出力軸にトルクが出力側から入力されたときには、一対のローラのうち、出力軸の回転方向上流側のローラが楔隙間で楔係合して、出力軸が外輪に対して回転不能にロックされる。これにより、クラッチ装置は、逆入力トルクを遮断して出力側から入力側に伝達しないようにしている。一方、入力側部材に対してトルクが入力されたときには、回転方向上流側のローラを回転方向下流側に押圧するように構成されており、このことにより、回転方向上流側のローラを楔隙間から離脱させるようになっている。これにより、回転方向上流側のローラが楔隙間で楔係合しないから、入力側部材からトルクが入力された出力軸は、外輪に対して回転可能となる。これにより、クラッチ装置は、入力トルクを入力側から出力側に伝達するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−178806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記特許文献1に係るクラッチ装置では、前述したように、楔隙間に対して、ローラを噛み込ませて楔係合したり、そこから離脱したりするように構成しているため、各構成部品の寸法精度としては高い精度が要求されると共に、それらの組み付け精度もまた、高い精度が要求される。そのため、クラッチ装置の製造コスト、ひいてはこのクラッチ装置を適用したシートリフタ装置の製造コストが、高くなってしまう。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、例えばシートリフタ装置の構成要素として利用されるクラッチ装置であって、高い精度を必要としない安価な構造のクラッチ装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、プーリ状の回転部材と揺動部材との間にベルトを巻き掛けたベルト伝動機構を応用して、前記回転部材に一方向及び他方向の何れの方向のトルクが入力されたときでも、前記ベルトの張力によって前記回転部材を回転不能にロックするロック機構を創出すると共に、そのロック機構に、回転部材に対して入力側からトルクが入力されたときには、ロック機構のロックを解除するロック解除機構を組み合わせることで、入力側からのトルク入力に対しては出力側に伝達する一方、出力側からのトルク入力に対しては入力側に伝達しないようにした。
【0010】
具体的には、第1の発明では、入出力方向に延びる回転軸周りに回転する入出力軸を備え、前記入出力軸にトルクが入力側から入力されたときには、当該入出力軸を通じて出力側にトルクを伝達する一方、前記入出力軸にトルクが出力側から入力されたときには、トルクを遮断して入力側に伝達しないクラッチ装置を対象とする。そうして、前記入出力軸には、前記回転軸と同軸の回転部材が、回転一体に設けられ、前記回転軸に直交する方前記回転部材を挟んだ両側の一側において、前記回転軸と平行な第1揺動軸周りに揺動可能に支持される第1揺動部材と、前記回転部材を挟んだ両側の他側において、前記回転軸と平行な第2揺動軸周りに揺動可能に支持される第2揺動部材と、前記回転部材と前記第1揺動部材との間に巻き掛けられると共に、前記回転部材から前記第1揺動部材にトルクを伝達する第1ベルトと、前記第1ベルトに対し前記回転軸方向にずれて配置されかつ、前記回転部材と前記第2揺動部材との間に巻き掛けられると共に、前記回転部材から前記第2揺動部材にトルクを伝達する第2ベルトと、を備え、前記第1揺動軸は、前記第1揺動部材の中央位置からずれた偏心位置で、当該第1揺動部材を支持しており、それによって第1揺動部材は、前記入出力軸を通じて前記回転部材に一方向のトルクが入力されたときには、前記第1ベルトの緩み側に相当する相対的に腕の長い側が径方向の外方に前記回転部材から離れるように揺動することで、前記第1ベルトの張力を増大させ、そのことにより、前記回転部材及び前記入出力軸の回転をロックし、前記第2揺動軸は、前記第2揺動部材の中央位置からずれた偏心位置で、当該第2揺動部材を支持しており、それによって第2揺動部材は、前記入出力軸を通じて前記回転部材に他方向のトルクが入力されたときには、前記第2ベルトの緩み側に相当する相対的に腕の長い側が前記回転部材から径方向の外方に離れるように揺動することで、前記第2ベルトの張力を増大させ、そのことにより、前記回転部材及び前記入出力軸の回転をロックし、前記入出力軸に対して前記入力側から前記一方向のトルクが入力されたときに、前記第1揺動部材を、その腕の長い側が前記回転部材に近づくように押圧することで、前記回転部材及び前記入出力軸のロックを解除する第1ロック解除部材と、前記入出力軸に対して前記入力側から前記他方向のトルクが入力されたときに、前記第2揺動部材を、その腕の長い側が前記回転部材に近づくように押圧することで、前記回転部材及び前記入出力軸のロックを解除する第2ロック解除部材と、をさらに備えている。
【0011】
この構成によると、入出力軸を通じて回転部材にトルクが入力され、回転部材が一方向(例えば反時計回り)に回転するときには、回転部材から第1ベルトを介して第1揺動部材にトルクが伝達される。このトルクにより、第1揺動部材は、その腕の長い側が径方向の外方に回転部材から離れるように揺動し、それによって、第1ベルトの周長は相対的に長くなる。このことは、第1ベルトの張力を増大させ、回転部材に対して大きな制動力を発生させるため、回転部材は、回転不能にロックされる。尚、第2揺動部材は、回転部材が一方向に回転するときには、第2ベルトの張力を増大させるようには揺動しない。
【0012】
逆に、回転部材が他方向(例えば時計回り)に回転するときには、回転部材から第2ベルトを介して第2揺動部材にトルクが伝達され、第2揺動部材は、その腕の長い側が径方向の外方に回転部材から離れるように揺動する。それによって前記と同様に、第2ベルトの周長が長くなり、第2ベルトの張力が増大して、回転部材は、回転不能にロックされる。
【0013】
このように入出力軸に対して、例えば出力側から一方向及び他方向のトルクが入力されたときには、前述したように、第1及び第2ベルトによる制動力が回転部材に付与されて回転部材及び入出力軸がロックされるから、トルクが遮断されて、入力側にトルクが伝達されない。
【0014】
一方、入出力軸に対して入力側から一方向及び他方向のトルクが入力されたときにも、第1及び第2揺動部材が揺動して回転部材及び入出力軸がロックされ得るところ、前記の構成では、第1ロック解除部材及び第2ロック解除部材を備え、入力側から一方向のトルクが入出力軸に入力されたときには、第1ロック解除部材が第1揺動部材の腕の長い側を、回転部材に近づくように押圧する。これによって、前記とは逆に、第1ベルトの周長は相対的に短くなり、第1ベルトの張力が減少又は無くなり、回転部材は自由に回転し得る。つまり、ロックが解除されて、入出力軸を通じて出力側にトルクが伝達される。また、入力側から他方向のトルクが入出力軸に入力されたときには、第2ロック解除部材が第2揺動部材の腕の長い側を、回転部材に近づくように押圧し、このことにより、第2ベルトの張力が減少又は無くなる。そうしてこの場合も、ロックが解除されることになる。
【0015】
この構成のクラッチ装置は、回転部材と第1揺動部材との間に第1ベルトを巻き掛けると共に、回転部材と第2揺動部材との間に第2ベルトを巻き掛けることで構成されており、変形自由なベルトを用いることで、ベルトの変形が、各構成部材の寸法誤差や各構成部材間の組み付け精度を吸収し得るから、各構成部材の寸法精度や、各構成部材間の組み付け精度等について、高い精度は要求されない。従って、トルクが入力側から入力されたときには、トルクを出力側に伝達する一方、トルクが出力側から入力されたときには、トルクを遮断して入力側に伝達しないクラッチ装置を安価で実現することができる。
【0016】
第2の発明では、第1の発明において、前記入出力軸の入力側で、当該入出力軸に対し一方向及び他方向に回動可能に支持されると共に、前記入出力軸に対し一方向及び他方向のトルクを入力するための操作部をさらに備え、前記第1ロック解除部材は、前記操作部を前記一方向に回動させたときに前記第1揺動部材を押圧するように、前記操作部に対して取り付けられ、前記第2ロック解除部材は、前記操作部を前記他方向に回動させたときに前記第2揺動部材を押圧するように、前記操作部に対して取り付けられている。
【0017】
この構成によると、入出力軸に対して一方向のトルクが入力されるように操作部を一方向に回動したときには、第1ロック解除部材が第1揺動部材を押圧してロックを解除し、他方向のトルクが入力されるように操作部を他方向に回動したときには、第2ロック解除部材が第2揺動部材を押圧してロックを解除する。従って、この構成では、操作部を操作することだけで、ロックを解除することが可能であり、操作性が向上する。
【0018】
第3の発明では、座席シートのシートクッションの高さ位置を調整するシートリフタ装置を対象とする。そうして、第1又は第2の発明のクラッチ装置と、前記クラッチ装置の入出力軸の出力側に配設されると共に、前記クラッチ装置の入出力軸を通じて入力側から出力側に伝達されるトルクによって、前記シートクッションを昇降させる昇降機構と、を備えている。
【0019】
前述したように、クラッチ装置は、入出力軸にトルクが入力側から入力されたときには、トルクを出力側に伝達する一方、入出力軸にトルクが出力側から入力されたときには、トルクを遮断して入力側に伝達しないから、入力側から入出力軸に入力されるトルク、つまり使用者の操作に伴い入力されるトルクは、昇降機構に伝達される一方、昇降機構から入出力軸に入力されるトルク、つまりシートクッションに着座する乗員の体重等に起因して入力されるトルクは遮断される。そのため、シートリフタ装置は、例えば操作レバーから入出力軸にトルクを入力することによって、シートクッションの高さ位置を調整することができると共に、操作レバーを開放しているときには、シートクッションの高さ位置をそのまま保持することができる。
【0020】
また、前述したように、クラッチ装置は、その各構成部材の寸法精度や、各構成部材間の組み付け精度等について、高い精度が要求されないので、安価で製造することができる。そのため、このクラッチ装置を適用した本シートリフタ装置もまた、安価で製造することができる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によると、ベルトを利用して回転部材のロック機構を実現する一方、入力側からトルクが入力されたときには、そのロックを解除し得るようにしたから、寸法精度や組み付け精度として高い精度を必要とせずに、入力側から出力側へのトルクの伝達を許容する一方、出力側から入力側へのトルクの伝達を遮断するクラッチ装置が実現する。
【0022】
また、そのクラッチ装置を、シートリフタ装置に適用することによって、そのシートリフタ装置を安価で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明に係るクラッチ装置を適用したシートリフタ装置の概略図である。
【図2】図1のII矢視図である。
【図3】出力側ブラケットを取り外したときの図1のIII矢視図である。
【図4】出力側ブラケットを取り外したときのクラッチ本体部の概略図である。
【図5】図4のV−V線におけるクラッチ本体部の断面図である。
【図6】第1アームに力を加えたときの図2に相当する図である。
【図7】第1アームに力を加えたときの図3に相当する図である。
【図8】第1アームにさらに力を加えたときの図2に相当する図である。
【図9】第1アームにさらに力を加えたときの図3に相当する図である。
【図10】本発明に係るシートリフタ装置を備えた座席シートの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
【0025】
図1ないし3は、本発明に係るクラッチ装置を適用したシートリフタ装置1を示している。このシートリフタ装置1は、図10に示すような座席シート7のシートクッション71の高さ位置(図10の上下方向位置)を調整するための装置であり、入出力方向(図1の左右方向)に延びる回転軸X周りに回転する入出力軸21を備えたクラッチ装置のクラッチ本体部2と、該クラッチ本体部2の入出力軸21の入力側に配設されると共に、入出力軸21の入力側にトルクを入力する、操作部としての操作レバー4と、クラッチ本体部2の入出力軸21の出力側に配設されると共に、操作レバー4からクラッチ本体部2を介して伝達されるトルクによって、シートクッション71を昇降させる昇降機構6とを備えている。
【0026】
クラッチ本体部2は、入出力軸21に入力側からトルクが入力されたときには、出力側にトルクを伝達する一方、入出力軸21に出力側からトルクが入力されたときには、トルクを遮断して入力側には伝達しない機能を有し、図4,5に示すように、入出力軸21に外挿固定されて当該入出力軸21と一体回転すると共に、外周面に断面形状が円形状の摩擦面224を有する回転部材としてのガイドホイール22と、入出力軸21を回転可能に支持するブラケット23とを備えている。
【0027】
ガイドホイール22は、平プーリであり、入出力軸21を挿通するための挿通孔221aを有する円筒状のボス部221と、該ボス部221から径方向外方に向かって突出する円盤状のディスク部222と、該ディスク部222の外周縁から入出力方向の入力側及び出力側に向かって延びると共に、ディスク部222を外周側から覆う円筒状のプーリ部223とを備えている。このプーリ部223の外周面が摩擦面224を構成している。以下、本明細書中において径方向とは、ガイドホイール22の径方向を意味する。
【0028】
ブラケット23は、入出力方向の入力側に位置する入力側ブラケット231と、入出力方向の出力側に位置する出力側ブラケット232とを備えている。
【0029】
入力側ブラケット231は、略矩形平板状の部材であり、図4,5に示すように、その長辺方向(図4の左右方向)の略中央位置には、入出力軸21を挿通するための挿通孔231aが形成されている。この挿通孔231aは、図5に示すように、後述する出力側ブラケット232の挿通孔232aと入出力方向に対向している。また、挿通孔231aの周縁部には、入出力方向の出力側に向かって突出する円筒状の内周壁部231bが設けられており、この内周壁部231bは、後述する出力側ブラケット232の内周壁部232bと入出力方向に対向している。
【0030】
入力側ブラケット231の4隅には、図3ないし5に示すように、それぞれボルト孔231cが入出力方向に延びるように貫通形成されており、この4つのボルト孔231c,231c,・・・(図5においては2つのみ示す)は、それぞれ後述する出力側ブラケット232の各雌ねじ孔232cと入出力方向に対向している。
【0031】
入出力方向に背中合わせになった入力側ブラケット231の2つの側面のうち、入出力方向の出力側の側面には、図5に示すように、ガイドホイール22の摩擦面224の径方向外方位置において、入出力方向の入力側に向かって凹陥する2つの凹部231d,231eが形成されている。この2つの凹部231d,231eは、図4に示すように、回転軸Xを通って短辺方向(同図の上下方向)に拡がる仮想的な中央面に対して面対称に配置されている。また、凹部231dは後述する出力側ブラケット232の凹部232dと、凹部231eは後述する出力側ブラケット232の凹部232eと、それぞれ入出力方向に対向している。
【0032】
出力側ブラケット232は、図4,5に示すように、入力側ブラケット231よりも前記長辺方向に長い略矩形平板状の部材であり、その長辺方向の略中央位置には、入出力軸21を挿通するための挿通孔232aが形成されている。この挿通孔232aは、前述したように、入力側ブラケット231の挿通孔231aと入出力方向に対向している。この挿通孔232aの周縁側には、入出力方向の入力側に向かって突出する円筒状の内周壁部232bが設けられており、この内周壁部232bは、前述したように、入力側ブラケット231の内周壁部231bと入出力方向に対向している。
【0033】
また、出力側ブラケット232には、入出力方向に延びる4つの雌ねじ孔232c,232c,・・・(図5において2つのみ示す)が形成されており、この4つの雌ねじ孔232c,232c,・・・は、前述したように、それぞれ入力側ブラケット231の各ボルト孔231cと入出力方向に対向している。そうして、この4つのボルト孔231c,231c,・・・と、4つの雌ねじ孔232c,232c,・・・との間それぞれに、入出力方向に延びる貫通孔241を有する円筒状の支持部材24を挟み込んだ状態で、4つのボルト25,25,・・・(図5において2つのみ示す)が、それぞれ入力側ブラケット231のボルト孔231c、支持部材24の貫通孔241に挿通されて、その先端部が出力側ブラケット232の雌ねじ孔232cに螺着されることにより、入力側ブラケット231と出力側ブラケット232とが一体化されている。
【0034】
出力側ブラケット232の長辺方向の両端部には、それぞれ入出力方向に延びるボルト孔が形成されており、この2つのボルト孔には、図2,5に示すように、それぞれボルト26が挿通されて、後述するように、シートリフタ装置1をシートクッション71に取り付ける。
【0035】
入出力方向に背中合わせになった出力側ブラケット232の2つの側面のうち、入出力方向の入力側の側面には、図5に示すように、ガイドホイール22の摩擦面224の径方向外方位置において、入出力方向の出力側に向かって凹陥する2つの凹部232d,232eが形成されており、前述したように、凹部232dは入力側ブラケット231の凹部231dと、凹部232eは入力側ブラケット231の凹部231eと、それぞれ入出力方向に対向している。そうして、この凹部231dにその一端部が、凹部231eにその他端部が、それぞれ嵌め込まれるようにして、略円柱状の第1軸部材27が入力側ブラケット231及び出力側ブラケット232に取り付けられている。また、凹部231eにその一端部が、凹部232eにその他端部が、それぞれ嵌め込まれるようにして、略円柱状の第2軸部材28が入力側ブラケット231及び出力側ブラケット232に取り付けられている。そのため、第1軸部材27は、ガイドホイール22の摩擦面224の径方向外方位置において、その軸心Pと回転軸Xとが平行になるように配設されている一方、第2軸部材28は、ガイドホイール22の摩擦面224の径方向外方位置において、その軸心Qと回転軸Xとが平行になるように配設されている。そうして、第1軸部材27と第2軸部材28とは、図4に示すように、その軸心Pと軸心Qとが前記中央面に対して面対称になるように配設されている。この軸心Pが第1揺動軸を、軸心Qが第2揺動軸を、それぞれ構成する。
【0036】
第1軸部材27の入出力方向の入力側部分には、図5に示すように、第1揺動部材としての第1揺動プレート29が外挿されて、軸心P周りに揺動可能に支持されている。
【0037】
第1揺動プレート29は、図4,5に示すように、内外側面が共に円弧状の部材であり、その外側面が摩擦面291となっている。この第1揺動プレート29の中央から一端側に偏った位置には、第1軸部材27を挿通するための挿通孔292が入出力方向に延びるように貫通形成されている。そうして、第1揺動プレート29は、円弧状の摩擦面291の湾曲がガイドホイール22の外周面(つまり、摩擦面224)に沿うように、挿通孔292を通して第1軸部材27に外挿されている。そのため、第1揺動プレート29は、円弧状の摩擦面291の一端(図4の下端)から第1軸部材27の軸心Pまでの腕の長さが、他端(図4の上端)から第1軸部材27の軸心Pまでの腕の長さに比べて短くなるように設定されている。
【0038】
第2軸部材28の入出力方向の出力側部分、より詳しくは第1揺動プレート29とは異なる入出力方向位置(回転軸方向位置)には、図5に示すように、第2揺動部材としての第2揺動プレート30が外挿されて、軸心Q周りに揺動可能に支持されている。
【0039】
第2揺動プレート30は、図4,5に示すように、第1揺動プレート29と同一形状を有しており、第2軸部材28を挿通するための挿通孔302を有すると共に、その外側面が摩擦面301となっている。そうして、第2揺動プレート30は、円弧状の摩擦面301の湾曲がガイドホイール22の外周面に沿うように、挿通孔302から第2軸部材28に外挿されている。そのため、第2揺動プレート30もまた、第1揺動プレート29と同様に、円弧状の摩擦面301の一端(図4の下端)と第2軸部材28の軸心Qとの腕の長さが、他端(図4の上端)と第2軸部材28の軸心Qとの腕の長さに比べて短くなるように設定されている。また、第1揺動プレート29と第2揺動プレート30とは、図4に示すように、前記中央面に対して面対称となるように配設されている。従って、図4において、ガイドホイール22が反時計回りに回転するときには、軸心Pの位置は第1揺動プレート29において回転方向の下流側の位置に相当する一方、軸心Qの位置は第2揺動プレート30において回転方向の上流側に位置に相当する。つまり、軸心Pの第1揺動プレート29の摩擦面291に対するガイドホイール22の回転方向位置と、軸心Qの第2揺動プレート30の摩擦面301に対する回転方向位置とは、回転方向の上流、下流の観点において、反対である。
【0040】
第1揺動プレート29の摩擦面291と、ガイドホイール22の摩擦面224との間には、図4,5に示すように、第1ベルトとしての第1摩擦ベルト31が巻き掛けられて、第1揺動プレート29とガイドホイール22とをトルク伝達可能に連結している。
【0041】
第2揺動プレート30の摩擦面301と、ガイドホイール22の摩擦面224との間には、図4,5に示すように、第2ベルトとしての第2摩擦ベルト32が巻き掛けられて、第2揺動プレート30とガイドホイール22とをトルク伝達可能に連結している。ここで、前述したように、第1揺動プレート29と第2揺動プレート30とが入出力方向の異なる位置に配設されているため、第1摩擦ベルト31と第2摩擦ベルト32とは重なったり、接触したりすることはない。尚、第1揺動プレート29の摩擦面291、第2揺動プレート30の摩擦面301及びガイドホイール22の摩擦面224それぞれに対し、それぞれ径方向外方に突出する1対の規制壁(フランジ)を周方向全体に設け、第1摩擦ベルト31及び第2摩擦ベルト32のベルト幅方向移動を規制することにより、第1摩擦ベルト31と第2摩擦ベルト32とが確実に接触しないようにしてもよい。
【0042】
第1摩擦ベルト31及び第2摩擦ベルト32は、例えば、ゴム材料等からなる横断面略矩形状のベルト本体に、心線が略ベルト長さ方向に延びかつ、ベルト幅方向に所定のピッチ間隔をおいてスパイラル状に埋設されてなる平ベルトである。但し、第1及び第2摩擦ベルト31,32は、これに限定されるものではない。
【0043】
第1摩擦ベルト31が巻き掛けられた第1揺動プレート29及び第2摩擦ベルト32が巻き掛けられた第2揺動プレート30はそれぞれ、図3に概略的に示すように、入力側ブラケット231と出力側ブラケット232との間に配設された図外の止着台に取り付けられた板ばね33によって、軸部材近傍の一端部(同図の下側の端部)が径方向内方に付勢されている。換言すれば、板ばね33によって、第1揺動プレート29は、他端部(図3の上側の端部)が径方向外方に軸心P周り(図3の反時計回り)に回動する方向に付勢されている一方、第2揺動プレート30は、他端部(図3の上側の端部)が径方向外方に軸心Q周り(図3の時計回り)に回動する方向に付勢されている。このことで、各揺動プレートが各摩擦ベルトを径方向外方に押圧して第1摩擦ベルト31及び第2摩擦ベルト32に初張力を付与している。
【0044】
クラッチ本体部2は以上のように構成されており、ここでクラッチ本体部2の作用について説明する。
【0045】
例えば、入出力軸21に図4の反時計回りに回転するトルクが入力されると、ガイドホイール22と第1揺動プレート29との間に巻き掛けられた第1摩擦ベルト31によりトルクが伝達され、第1揺動プレート29の図4における下端側が張り側になり、上端側が緩み側になることで、第1揺動プレート29には、第1軸部材27の軸心Pを中心として反時計回り方向に回動する力が作用する。これにより、第1揺動プレート29の腕の長い側が、径方向外方へと移動するため、ベルトの周長が長くなり、第1摩擦ベルト31の張力が初張力よりも大きくなる。そのため、第1摩擦ベルト31とガイドホイール22の摩擦面224及び第1揺動プレート29の摩擦面291との間に比較的大きい制動力が生じるので、入出力軸21はロックされて、回転することができなくなる。尚、このとき第2揺動プレート30にも、第2摩擦ベルト32を介して第2軸部材28の軸心Qを中心として反時計回り方向に回動する力が作用し、これにより、第2揺動プレート30の腕の長い側が、径方向内方へと移動をする。このため、ベルトの周長は短くなり、第2摩擦ベルト32の張力は初張力よりも小さく、又は、無くなる。そのため、第2摩擦ベルト32は、入出力軸21の回転には何ら寄与しなくなる。
【0046】
これに対し、入出力軸21に図4の時計回りに回転するトルクが作用すると、前記とは逆に、第2揺動プレート30に対し、第2軸部材28の軸心Qを中心として図4の時計回り方向に回動する力が作用する。これにより、第2揺動プレート30の腕の長い側が、径方向外方へと移動し、第2摩擦ベルト32の周長が長くなって、その張力が初張力よりも大きくなる。そのため、第2摩擦ベルト32とガイドホイール22の摩擦面224及び第2揺動プレート30の摩擦面301との間に比較的大きい制動力が生じるので、入出力軸21はロックされて、回転することができなくなる。尚、このときに第1揺動プレート29には、前記とは逆に、第1軸部材27の軸心Pを中心として時計回り方向に回動する力が作用し、腕の長い側が径方向内方へと移動をして、ベルトの周長は短くなる。その結果、第1摩擦ベルト31は、入出力軸21の回転には何ら寄与しなくなる。
【0047】
つまり、軸心Pの第1揺動プレート29の摩擦面291に対するガイドホイール22の回転方向位置と、軸心Qの第2揺動プレート30の摩擦面301に対する回転方向位置とは、回転方向の上流、下流の観点において、反対であることから、入出力軸21に、時計回り方向及び反時計回り方向の何れの方向に回転するトルクが入力されても、2つの揺動プレートの何れか一方の揺動プレートが、その腕の長い側が径方向外方に移動するように回動する。これにより、摩擦ベルトからガイドホイール22への面圧が増大し、そのことにより、入出力軸21は回転不能にロックされる。そのため、クラッチ本体部2は、入出力軸21に対し、トルクが入力側から入力されても、出力側から入力されても、入出力軸21を回転不能にロックして、入出力軸21によるトルクの伝達を遮断する。つまり、このクラッチ本体部2がロック機構を構成している。
【0048】
次に、操作レバー4の構成について説明する。
【0049】
操作レバー4は、図1ないし3に示すように、クラッチ本体部2の入出力方向の入力側部分において、一端部が入出力軸21に回動可能に取り付けられる第2アーム41と、該第2アーム41における入出力方向の入力側の側面に対し、第2アーム41に対して相対的に回動可能に取り付けられる第1補助アーム42と、該第1補助アーム42が取り付けられた側面とは反対側の側面(つまり、入出力方向の出力側の側面)に対し、第2アーム41に対して相対的に回動可能に取り付けられる第2補助アーム43と、その一端部(図1の下側の端部)が第1補助アーム42の一端部(図1の上側の端部)及び第2補助アーム43の一端部(図1の上側の端部)に挟持された状態で固定される第1アーム44とを備えている。
【0050】
第2アーム41は、断面略矩形状の部材であり、その長手方向の一端部(図1における下端部)には、入出力軸21に外挿するための挿通孔が形成されており、他端部(図1における上端部)には、第1補助アーム42及び第2補助アーム43を取り付けるためのピン45を挿通するためのピン孔が形成されている。
【0051】
また、第2アーム41は、第2センタリングバネ46,46(図1において1つのみ示す)によって、その幅方向に対向する両側面(図2,3の左右の側面)が幅方向の中央に向かって付勢されており、これにより、第2アーム41は、操作が行われない非操作時には、幅方向に対し直交する方向(図1における上方)に延びるような、図1ないし3に示す中立位置に設定される。
【0052】
第2センタリングバネ46,46は、板ばねであり、各々の一端部が、入力側ブラケット231の側面のうち、入出力方向の入力側の側面に取り付けられた止着台47に固定されている一方、他端部によって第2アーム41を付勢している。
【0053】
第1補助アーム42は、断面略矩形状の部材であり、その長手方向の一端部(図2における下端部)には、後述する歯車5と係合する爪部材421が固定されている一方、他端部(図2における上端部)には、第1アーム44及び第2補助アーム43と一体に固定するためのボルト48,48を螺合するための2つの雌ねじ孔が形成されている。
【0054】
また、第1補助アーム42の雌ねじ孔の近傍には、ピン45を挿通するためのピン孔が形成されている。
【0055】
第2補助アーム43は、縦断面L字状の部材であり、そのL字状の外側の底面に相当する部分には、第1揺動プレート29を押圧するための第1押圧部材431と、第2揺動プレート30を押圧するための第2押圧部材432とが取り付けられている。この第1押圧部材431が第1ロック解除部材を、第2押圧部材432が第2ロック解除を、それぞれ構成している。
【0056】
第1押圧部材431は、図3に示すように、第2補助アーム43の幅方向(同図の左右方向)の外方に向かって延びると共に、その先端部(同図の左側の端部)で下方に屈曲して、第2補助アーム43の長手方向(同図の上下方向)に延びており、入出力方向視で略L字状を成す部材である。
【0057】
第2押圧部材432は、図3に示すように、第1押圧部材431よりも入出力方向の出力側で、第1押圧部材431とは逆方向の幅方向の外方に向かって延びると共に、その先端部で下方に屈曲して、第2補助アーム43の長手方向に延びており、入出力方向視で略L字状を成す部材である。
【0058】
また第2補助アーム43の一端部には、ボルト48,48を挿通するための2つのボルト孔が形成されており、その近傍には、ピン45を挿通するためのピン孔が形成されている。そうして、ピン45が第2補助アーム43のピン孔から第2アーム41のピン孔及び第1補助アーム42のピン孔に挿通されることにより、第2アーム41に対し、第1補助アーム42及び第2補助アーム43が回動自在に取り付けられている。
【0059】
第1アーム44は、断面略矩形状の部材であり、その長手方向の一端部(図1における下端部)には、ボルト48,48を挿通するための2つのボルト孔が形成されている。そうして、ボルト48,48が第2補助アーム43のボルト孔から第1アーム44のボルト孔に挿通されると共に、その先端部が第1補助アーム42の雌ねじ孔に螺着されることにより、第1アーム44と第1補助アーム42と第2補助アーム43とが一体に接合されている。
【0060】
また、第1アーム44の幅方向の両側面には、それぞれ第1センタリングバネ49の一方の端部が固定されており、この第1センタリングバネ49の略中央部は、第2アーム41に固定されている。これにより、第1アーム44の幅方向に対向する両側面が第1センタリングバネ49により、幅方向の中央に向かって付勢され、図1ないし3に示す中立位置になるように設定されている。このとき、第1アーム44と第2アーム41とは、一直線上に並んでいる。
【0061】
第1センタリングバネ49は、板ばねであり、そのばね定数は、第2センタリングバネ46のばね定数に比べて小さく設定されている。
【0062】
以上のように構成された操作レバー4は、第2アーム41の前記挿通孔から入出力軸21に外挿されて回動可能に取り付けられる。尚、操作レバー4は、図1ないし3に示す中立位置から、その時計回り方向及び反時計回り方向の両方向に所定角度(例えば、略20°)までしか回動することができないように規制されている。回動角度を規制する構成としては、種々の構成を採用し得るが、一例として、入力側ブラケット231に対し、そこから入出力方向に突出する突起を設けて、この突起によって、操作レバー4の第2アーム41の回動範囲を規制してもよい。
【0063】
操作レバー4が取り付けられた入出力軸21には、操作レバー4の第2アーム41よりも入出力方向の入力側の端部に歯車5が外挿されて、入出力軸21と回転一体に固定されている。この歯車5は、外周に等間隔で歯が形成された部材であり、詳しくは後述するが、その歯は操作レバー4の爪部材421の爪と係合する。
【0064】
昇降機構6としては、具体的な図示は省略するが、例えば、入出力軸21の入出力方向の出力側部分にピニオンギヤを取り付け、このピニオンギヤを介して伝達される入出力軸21のトルクによってシートクッション71を昇降させる公知の昇降機構を採用してもよい。
【0065】
本シートリフタ装置は以上のように構成されており、次にこのシートリフタ装置の動作について説明する。
【0066】
例えば、図10に示すような座席シート7のシートクッション71の高さ位置を調整する場合には、シートリフタ装置1は、ボルト26,26によって、操作レバー4が座席シート7の前後方向に延びるようにシートクッション71の側方に取り付けられる。このとき、操作レバー4は、図1ないし3に示す中立位置にある。この中立位置の状態では、第1摩擦ベルト31及び第2摩擦ベルト32には、前述したように、板ばね33,33によって初張力が付与されている。また、第1揺動プレート29の軸心Pから離れている一端部(図3の上側の端部)は、第1押圧部材431の先端部と当接している一方、第2揺動プレート30の軸心Qから離れている一端部(図3の上側の端部)は、第2押圧部材432の先端部と当接している。
【0067】
シートクッション71の高さを上昇させるときには、中立位置にある操作レバー4の第1アーム44に座席シート7の上方向の力を加える。ここで、第1センタリングバネ49のばね定数が、第2センタリングバネ46のばね定数よりも小さいことから、操作レバー4に付与した力が第1センタリングバネ49の付勢力よりも大きくなると、第1アーム44と、該第1アーム44と一体に接合された第1補助アーム42及び第2補助アーム43とが第2アーム41に対して、力を加えた方向(図2においては時計回り方向、図3においては反時計回り方向)(以下、荷重方向ともいう)にピン45の軸心周りに回動する。これにより、第1揺動プレート29の腕の長い側は、第1押圧部材431によって径方向内方に押圧されて、第1軸部材27の軸心Pを中心として図3の時計回り方向に回動する。従って、第1摩擦ベルト31の張力は減少又は無くなる(ロック解除動作)。これに対し、第2揺動プレート30は、中立位置において当該第2揺動プレート30に当接していた第2押圧部材432が径方向外方側に離れていくため、押圧部材によって押圧されず、中立位置における状態を維持する。従って、第2摩擦ベルト32の張力は初張力を維持する。
【0068】
第1アーム44にさらに力を加えると、図6,7に示すように、第1補助アーム42の爪部材421の爪が歯車5の歯と係合する。
【0069】
この図6,7に示す状態から、第1アーム44にさらに力を加えると、略同時に、その力が第2センタリングバネ46の付勢力よりも大きくなり、第2アーム41が荷重方向に回動し始める。そうして、操作レバー4は、図8,9に示すように、第2アーム41に対する第1アーム44、第1補助アーム42及び第2補助アーム43の傾きを図6,7の状態の傾きに保ったまま荷重方向に回動する。これにより、第1補助アーム42の爪部材421によって歯車5が荷重方向(図8の時計回り方向)に回動すると共に、入出力軸21及びガイドホイール22が荷重方向に回転する。このとき、前述したように、第1摩擦ベルト31の張力はほとんど無く、第1揺動プレート29にトルクは伝達されない。従って、入出力軸21及びガイドホイール22に図8の時計回り方向のトルクが入力されるものの、前述したような第1摩擦ベルト31による制動力は付与されず、入出力軸21はロックされない。一方、第2揺動プレート30には、前記と同様に、第2摩擦ベルト32を介して第2軸部材28の軸心Qを中心として図9の反時計回り方向に回動する力が作用し、第2揺動プレート30は、板ばね33の付勢力に抗して回動する。そのため、第2摩擦ベルト32の張力も減少又は無くなって、第2摩擦ベルト32による制動力も付与されず、入出力軸21は、荷重方向(図8の時計回り方向)に回転軸X周りに回転することができる。これにより、操作レバー4から入出力軸21に入力されたトルクが入出力方向の入力側から出力側に伝達され、この出力側に伝達されたトルクによって、昇降機構6がシートクッション71の高さを上昇させる。
【0070】
このようにシートクッション71の高さ位置を調整した後に(尚、所望の高さ位置までシートクッション71を上げるときに、前記の操作レバーの操作を複数回繰り返す場合がある)、第1アーム44を解放する(第1アーム44から手を離す)と、第1及び第2センタリングバネ49,46の弾性復元力により、第2アーム41と第1補助アーム42と第2補助アーム43と第1アーム44とが一直線になって、図1ないし3の中立位置まで戻る。
【0071】
シートクッション71の高さを下降させるときには、中立位置にある操作レバー4の第1アーム44に座席シート7の下方向の力を加える。これによって、前記とは逆に、第1揺動プレート29は、第1軸部材27の軸心Pを中心として図9の時計回りに相当する方向に回動する力が作用して、第1摩擦ベルト31の張力が低下又は無くなる。そのため、第1摩擦ベルト31によってガイドホイール22に制動力が付与されることはない。一方、第2揺動プレート30は、操作レバー4の図9の時計回り方向への回動に伴い、その腕の長い側が第2押圧部材432によって径方向内方に押圧され、第2軸部材28を中心として図9の反時計回り方向に回動する(ロック解除動作)。その結果、第2摩擦ベルト32の張力も低下又は無くなり、第2摩擦ベルト32による制動力は付与されず、入出力軸21はロックされない。
【0072】
また、操作レバー4による操作をしていないときには、例えば着座者の体重などに起因してシートクッション71側からのトルク(逆入力トルク)が入出力軸21に入力される。入出力軸21は、この逆入力トルクによって回転しようとするが、この場合は、前記第1及び第2押圧部材431,432による、第1及び第2揺動プレート29,30の押圧がないことから、前述したロック解除動作が行われない。従って、前記クラッチ本体部2の作用によって、何れの方向にも回転できずにロックされる。これにより、操作レバー4を開放したときには、逆入力トルクに抗して、シートクッション71の高さ位置を調整位置に保持することができる。
【0073】
従って、シートリフタ装置1を備えた座席シート7では、操作レバー4を座席シート7の上下方向に揺動操作することにより、シートクッション71の高さ位置を調整することができると共に、操作レバー4を解放したときには、シートクッション71の高さ位置を調整位置に保持することができる。
【0074】
以上説明したように、本発明に係るクラッチ装置を適用したシートリフタ装置1では、入力側からの入力トルクを出力側に伝達する一方、出力側からの入力トルクを遮断して入力側に伝達しないクラッチ機構を、第1及び第2摩擦ベルト31,32を利用して構成しているため、高い寸法精度や組み付け精度を必要としない。そのため、従来のローラ式のクラッチ装置を適用したシートリフタ装置に比べて安価でシートリフタ装置を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明は、高い精度を必要としない構造のクラッチ装置を得ることができるので、例えばシートリフタ装置を安価で得ることができる点で有用である。
【符号の説明】
【0076】
1 シートリフタ装置
2 クラッチ本体部
21 入出力軸
22 ガイドホイール(回転部材)
29 第1揺動プレート(第1揺動部材)
30 第2揺動プレート(第2揺動部材)
31 第1摩擦ベルト(第1ベルト)
32 第2摩擦ベルト(第2ベルト)
4 操作レバー(操作部)
41 第2アーム
42 第1補助アーム
43 第2補助アーム
431 第1押圧部材(第1ロック解除部材)
432 第2押圧部材(第2ロック解除部材)
44 第1アーム
6 昇降機構
7 座席シート
71 シートクッション
P 軸心(第1揺動軸)
Q 軸心(第2揺動軸)
X 回転軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入出力方向に延びる回転軸周りに回転する入出力軸を備え、前記入出力軸にトルクが入力側から入力されたときには、当該入出力軸を通じて出力側にトルクを伝達する一方、前記入出力軸にトルクが出力側から入力されたときには、トルクを遮断して入力側に伝達しないクラッチ装置であって、
前記入出力軸には、前記回転軸と同軸の回転部材が、回転一体に設けられ、
前記回転軸に直交する方向に前記回転部材を挟んだ両側の一側において、前記回転軸と平行な第1揺動軸周りに揺動可能に支持される第1揺動部材と、
前記回転部材を挟んだ両側の他側において、前記回転軸と平行な第2揺動軸周りに揺動可能に支持される第2揺動部材と、
前記回転部材と前記第1揺動部材との間に巻き掛けられると共に、前記回転部材から前記第1揺動部材にトルクを伝達する第1ベルトと、
前記第1ベルトに対し前記回転軸方向にずれて配置されかつ、前記回転部材と前記第2揺動部材との間に巻き掛けられると共に、前記回転部材から前記第2揺動部材にトルクを伝達する第2ベルトと、を備え、
前記第1揺動軸は、前記第1揺動部材の中央位置からずれた偏心位置で、当該第1揺動部材を支持しており、それによって第1揺動部材は、前記入出力軸を通じて前記回転部材に一方向のトルクが入力されたときには、前記第1ベルトの緩み側に相当する相対的に腕の長い側が径方向の外方に前記回転部材から離れるように揺動することで、前記第1ベルトの張力を増大させ、そのことにより、前記回転部材及び前記入出力軸の回転をロックし、
前記第2揺動軸は、前記第2揺動部材の中央位置からずれた偏心位置で、当該第2揺動部材を支持しており、それによって第2揺動部材は、前記入出力軸を通じて前記回転部材に他方向のトルクが入力されたときには、前記第2ベルトの緩み側に相当する相対的に腕の長い側が前記回転部材から径方向の外方に離れるように揺動することで、前記第2ベルトの張力を増大させ、そのことにより、前記回転部材及び前記入出力軸の回転をロックし、
前記入出力軸に対して前記入力側から前記一方向のトルクが入力されたときに、前記第1揺動部材を、その腕の長い側が前記回転部材に近づくように押圧することで、前記回転部材及び前記入出力軸のロックを解除する第1ロック解除部材と、
前記入出力軸に対して前記入力側から前記他方向のトルクが入力されたときに、前記第2揺動部材を、その腕の長い側が前記回転部材に近づくように押圧することで、前記回転部材及び前記入出力軸のロックを解除する第2ロック解除部材と、をさらに備えていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項2】
請求項1に記載のクラッチ装置において、
前記入出力軸の入力側で、当該入出力軸に対し一方向及び他方向に回動可能に支持されると共に、前記入出力軸に対し一方向及び他方向のトルクを入力するための操作部をさらに備え、
前記第1ロック解除部材は、前記操作部を前記一方向に回動させたときに前記第1揺動部材を押圧するように、前記操作部に対して取り付けられ、
前記第2ロック解除部材は、前記操作部を前記他方向に回動させたときに前記第2揺動部材を押圧するように、前記操作部に対して取り付けられていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項3】
座席シートのシートクッションの高さ位置を調整するシートリフタ装置であって、
請求項1又は2に記載のクラッチ装置と、
前記クラッチ装置の入出力軸の出力側に配設されると共に、前記クラッチ装置の入出力軸を通じて入力側から出力側に伝達されるトルクによって、前記シートクッションを昇降させる昇降機構と、を備えていることを特徴とするシートリフタ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−99467(P2011−99467A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−252991(P2009−252991)
【出願日】平成21年11月4日(2009.11.4)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】