説明

クランク軸の油孔洗浄装置

【課題】より低価格な油孔洗浄装置を提供することを課題とする。
【解決手段】油孔洗浄装置では、油孔48をボール49で塞ぎ、油孔46の他端117を閉塞部材87で塞いだ状態で、(a)と(c)に示すように、油孔46の一端116を閉塞部材81で塞ぐと共に油孔45の一端119へ洗浄ノズル54で洗浄液を注入するか、又は(b)に示すように、油孔45の一端119を閉塞部材61で塞ぐと共に油孔46の一端116へ洗浄ノズル74で洗浄液を注入する。
【効果】全油孔を開放して洗浄液を注入する場合に比べ、油孔内の液圧力の低下を防止できるので、洗浄液供給手段の負荷が軽減される。そのため、洗浄液供給手段の能力を下げられ、洗浄液供給手段の価格が下がるので、より低価格な油孔洗浄装置を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク軸に設けられている油孔を洗浄する、クランク軸の油孔洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
クランク軸には、コンロッドと連結されるピン部及びクランクケースで支持されるジャーナル部の焼付きを防止するため、潤滑油を流すことができる油孔が形成されている。この油孔は、クランク軸に孔開け加工して形成されるが、孔開け加工後に油孔内に切屑やダストが残留することが多い。切屑やダストは、クランク軸を次工程に送る前に除去する必要がある。
【0003】
従来、孔開け加工後にクランク軸の油孔から切屑やダストを除去する装置として、クランク軸の油孔洗浄装置が知られている(例えば、特許文献1(第1図)参照。)。
【0004】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図10は従来の技術の基本構成を説明する図であり、油孔洗浄装置200は、支持部201に水平方向に移動可能に設けられクランク軸202に臨む3台の洗浄ガン203を備えている。洗浄ガン203は、支持部201に支持されているシリンダ204と、このシリンダ204のシリンダロッド205の先端に取付けられているノズル本体206と、このノズル本体206に設けられクランク軸202の斜め油孔に向けて配置されている洗浄ノズル207とからなる。また、ノズル本体206の洗浄液供給孔208には、配管を介して洗浄液供給手段が接続される。
【0005】
洗浄液供給手段から供給された洗浄液は、洗浄ノズル207から高圧でクランク軸202の斜め油孔へ噴射されるので、油孔内に残留した切屑やダストを洗浄液によって洗い流すことができる。
【0006】
ところで、油孔洗浄装置200は、クランク軸202の油孔を洗浄する際、洗浄ノズル207から噴射される洗浄液圧力は高圧であることが要求されるため、洗浄液供給手段の運転圧力を高くする必要がある。高能力の洗浄液供給手段を用意することになれば、洗浄液供給手段が大型になるので、油孔洗浄装置200の大型化を招く。その結果、油孔洗浄装置200の価格が高騰する。
【0007】
そこで、より低価格な油孔洗浄装置が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】実開平1−66438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、より低価格な油孔洗浄装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1に係る発明は、軸直角方向にピン部を横断するピン部横断油孔と、軸直角方向にジャーナル部を横断するジャーナル部横断油孔と、前記ピン部の外周面から前記ジャーナル部に向かって開けられ前記ピン部横断油孔及び前記ジャーナル部横断油孔に交差する斜め油孔と、前記ピン部の外周面近傍にて前記斜め油孔に詰められる栓部材と、を有するクランク軸を対象として、前記油孔を洗浄する、クランク軸の油孔洗浄装置であって、この油孔洗浄装置は、前記ピン部横断油孔の一端を塞ぐ第1閉塞部材と、この第1閉塞部材を塞ぎ位置から開放位置まで移動させる第1閉塞部材移動手段と、前記ピン部横断油孔の一端へ洗浄液を注入する第1洗浄ノズルと、この第1洗浄ノズルを移動させる第1洗浄ノズル移動手段と、前記ジャーナル部横断油孔の一端を塞ぐ第2閉塞部材と、この第2閉塞部材を塞ぎ位置から開放位置まで移動させる第2閉塞部材移動手段と、前記ジャーナル部横断油孔の一端へ洗浄液を注入する第2洗浄ノズルと、この第2洗浄ノズルを移動させる第2洗浄ノズル移動手段と、前記ジャーナル部横断油孔の他端を塞ぐ第3閉塞部材と、この第3閉塞部材を塞ぎ位置から開放位置まで移動させる第3閉塞部材移動手段と、前記第1洗浄ノズル及び/又は前記第2洗浄ノズルへ洗浄液を供給する洗浄液供給手段と、前記ピン部横断油孔の他端及び/又は前記ジャーナル部横断油孔の他端から排出された洗浄液を回収する洗浄液回収手段と、前記第1〜第3閉塞部材移動手段、前記第1〜第2洗浄ノズル移動手段を制御する制御部と、からなることを特徴とする。
【0011】
請求項2に係る発明では、制御部は、ジャーナル部横断油孔の一端及び他端を塞ぎ、第1洗浄ノズルでピン部横断油孔へ洗浄液を注入する第1洗浄工程と、前記ピン部横断油孔の一端及び前記ジャーナル部横断油孔の他端を塞ぎ、第2洗浄ノズルで前記ジャーナル部横断油孔へ洗浄液を注入する第2洗浄工程と、前記ジャーナル部横断油孔の一端及び他端を塞ぎ、前記第1洗浄ノズルで前記ピン部横断油孔へ洗浄液を注入する第3洗浄工程と、前記第1洗浄ノズルで前記ピン部横断油孔へ洗浄液を注入すると共に、前記第2洗浄ノズルで前記ジャーナル部横断油孔へ洗浄液を注入する第4洗浄工程とを、この順で実施することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明では、斜め油孔を栓部材で塞ぎ、ジャーナル部横断油孔の他端を第3閉塞部材で塞いだ状態で、ジャーナル部横断油孔の一端を第2閉塞部材で塞ぐと共にピン部横断油孔の一端へ第1洗浄ノズルで洗浄液を注入するか、又はピン部横断油孔の一端を第1閉塞部材で塞ぐと共にジャーナル部横断油孔の一端へ第2洗浄ノズルで洗浄液を注入することにより、全ての油孔を開放して油孔に洗浄液を注入する場合に比べ、油孔内の洗浄液圧力の低下を防止できる。
【0013】
この圧力低下の防止により、洗浄液供給手段の負荷が軽減されるため、洗浄液供給手段の能力を下げることが可能となる。そのため、洗浄液供給手段の価格を下げることができるので、油孔洗浄装置の低価格化に寄与する。請求項1によれば、より低価格な油孔洗浄装置を提供することができる。
【0014】
請求項2に係る発明では、制御部は、ピン部横断油孔へ洗浄液を注入する第1洗浄工程と、ジャーナル部横断油孔へ洗浄液を注入する第2洗浄工程と、ピン部横断油孔へ洗浄液を注入する第3洗浄工程と、ピン部横断油孔及びジャーナル部横断油孔へ洗浄液を注入する第4洗浄工程とを、この順で実施するので、ピン部横断油孔及びジャーナル部横断油孔を確実に洗浄することができる。
【0015】
加えて、第1洗浄工程では、ジャーナル部横断油孔の一端及び他端を塞ぎ、第1洗浄ノズルでピン部横断油孔へ洗浄液を注入するので、栓部材とピン部横断油孔との間に形成される袋小路部の圧力が負圧になる。すなわち、洗浄液がピン部横断油孔を通過するときに、袋小路部に吸引力が作用するため、袋小路部に残留した切屑やダストを除去できる。
【0016】
また、第2洗浄工程では、ピン部横断油孔の一端及びジャーナル部横断油孔の他端を塞ぎ、第2洗浄ノズルでジャーナル部横断油孔へ洗浄液を注入するので、洗浄液の一部が袋小路部へ送られる。このとき、洗浄液は、第1洗浄工程で除去しきれずに袋小路部に固着した切屑やダストを崩すことができる。
【0017】
さらに、第3洗浄工程では、ジャーナル部横断油孔の一端及び他端を塞ぎ、第1洗浄ノズルでピン部横断油孔へ洗浄液を注入する。洗浄液がピン部横断油孔を通過するときに、袋小路部に吸引力が作用するので、第2洗浄工程で崩した切屑やダストを除去することができる。
【0018】
そして、第4洗浄工程では、第1洗浄ノズルでピン部横断油孔へ洗浄液を注入すると共に、第2洗浄ノズルでジャーナル部横断油孔へ洗浄液を注入するので、斜め油孔に吸引力が作用する。したがって、斜め油孔に残留した切屑やダストを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明に係るクランク軸の全体図である。
【図2】図1の2部拡大図である。
【図3】図2の3矢視透視図である。
【図4】第1閉塞部材集合体と第1洗浄ノズル集合体の構成を説明する図である。
【図5】第2閉塞部材集合体と第2洗浄ノズル集合体と第3閉塞部材集合体の構成を説明する図である。
【図6】油孔洗浄装置の系統図である。
【図7】第1〜第4洗浄工程を説明する図である。
【図8】第1〜第4エアブロー工程を説明する図である。
【図9】図7(a)の変更例を説明する図である。
【図10】従来の技術の基本構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0021】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
図1に示されるように、クランク軸10は、左から右へ順に、フライホイールに連結される連結部材11、クランクケースに支持される第1ジャーナル部12、第1アーム部13、コンロッドの大端部に連結される第1ピン部14、第2アーム部15、第2ジャーナル部16、第3アーム部17、第2ピン部18、第4アーム部19、第3ジャーナル部21、第5アーム部22、第3ピン部23、第6アーム部24、第4ジャーナル部25、第7アーム部26、第4ピン部27、第8アーム部28、第5ジャーナル部29、カム軸駆動装置に連結される連結軸31、が一体化されてなる。
【0022】
また、第3アーム部17の上部に第3バランスウエイト34が設けられ、第4アーム部19の上部に第4バランスウエイト35が設けられ、第5アーム部22の上部に第5バランスウエイト36が設けられ、第6アーム部24の上部に第6バランスウエイト37が設けられ、第7アーム部26の下部に第7バランスウエイト38が設けられ、第8アーム部28の下部に第8バランスウエイト39が設けられている。次に第1ジャーナル部12、第1アーム部13、第1ピン部14、第2アーム部15の詳細構造を説明する。
【0023】
図2に示されるように、第1ジャーナル部12は、連結部材11から右へ延ばされて形成され、第1アーム部13は、第1ジャーナル部12から上へ延ばされて形成され、第1ピン部14は、第1アーム部13から右へ延ばされて形成され、第2アーム部15は、第1ピン部14から第2ジャーナル部16まで延ばされて形成されている。また、第1アーム部13の下部には、第1バランスウエイト32が設けられ、第2アーム部15の下部には、第2バランスウエイト33が設けられている。
【0024】
加えて、第2アーム部15、第1ピン部14、第1アーム部13、第1ジャーナル部12に、潤滑油が流れる第1の油孔部41(詳細後述)が形成されている。
【0025】
なお、クランク軸10には、第1の油孔部41の他に、第1の油孔部41より右側に第2の油孔部(図1の符号42)が設けられ、この第2の油孔部より右側に第3の油孔部(図1の符号43)が設けられ、この第3の油孔部より右側に第4の油孔部(図1の符号44)が設けられている。これらの油孔部の構造は同一であるので、代表して第1の油孔部41の詳細構造を次図で説明する。
【0026】
図3に示されるように、第1の油孔部41は、軸直角方向(図左右方向)に第1ピン部14を横断するピン部横断油孔45と、軸直角方向に第1ジャーナル部12を横断するジャーナル部横断油孔46と、第1ピン部14の外周面47から第1ジャーナル部12に向かって開けられピン部横断油孔45及びジャーナル部横断油孔46に交差する斜め油孔48と、からなる。また、第1ピン部14の外周面47近傍の斜め油孔48には、例えば栓部材としてのプラグボール49が詰められている。
【0027】
すなわち、クランク軸10は、ピン部横断油孔45と、ジャーナル部横断油孔46と、斜め油孔48と、プラグボール49と、を有する。
【0028】
ところで、油孔45、46、48は孔開け加工で形成されるが、孔開け加工後に油孔に切屑やダストが残留することがあるため、孔開け加工後には切屑やダストを除去するために油孔の洗浄が必要になる。次にクランク軸10の油孔を洗浄する油孔洗浄装置の構成を説明する。
【0029】
図4に示されるように、油孔洗浄装置50は、想像線で示すようにピン部横断油孔45、51、52、53の各々の一端に当てた状態でピン部横断油孔45、51、52、53へ洗浄液を注入する4つの第1洗浄ノズル54、55、56、57が設けられている第1洗浄ノズル集合体58と、この第1洗浄ノズル集合体58に連結され第1洗浄ノズル54、55、56、57を矢印(1)のように移動させる第1洗浄ノズル移動手段59と、ピン部横断油孔45、51、52、53の各々の一端に当ててピン部横断油孔45、51、52、53を塞ぐ第1閉塞部材61、62、63、64が設けられている第1閉塞部材集合体65と、この第1閉塞部材集合体65に連結され第1閉塞部材集合体65を塞ぎ位置から開放位置まで移動させる第1閉塞部材移動手段66と、第1閉塞部材移動手段66及び第1洗浄ノズル移動手段59を制御する制御部67とを備える。
【0030】
なお、第1洗浄ノズル移動手段59及び第1閉塞部材移動手段66は、油圧シリンダが好適であるが、空圧シリンダ、電動シリンダを適用してもよい。次にピン部横断油孔45、51、52、53に対する洗浄液の注入構造を説明する。
【0031】
第1洗浄ノズル集合体58は、洗浄液供給手段(後述)が配管68を介して接続されていると共に配管68から続いて洗浄液が流れる第1流路69を内部に備えているので、洗浄液は第1流路69を通って第1洗浄ノズル54、55、56、57から排出され、ピン部横断油孔45、51、52、53へ注入される。次にジャーナル部横断油孔を洗浄する油孔洗浄装置50の構成要素を説明する。
【0032】
図5に示されるように、油孔洗浄装置50は、前述の構成に加えて、想像線で示すようにジャーナル部横断油孔46、71、72、73の各々の一端に当てた状態でジャーナル部横断油孔46、71、72、73へ洗浄液を注入する4つの第2洗浄ノズル74、75、76、77が設けられている第2洗浄ノズル集合体78と、この第2洗浄ノズル集合体78に連結され第2洗浄ノズル74、75、76、77を矢印(2)のように移動させる第2洗浄ノズル移動手段79と、ジャーナル部横断油孔46、71、72、73の各々の一端に当ててジャーナル部横断油孔46、71、72、73を塞ぐ第2閉塞部材81、82、83、84が設けられている第2閉塞部材集合体85と、この第2閉塞部材集合体85に連結され第2閉塞部材集合体85を塞ぎ位置から開放位置まで移動させる第2閉塞部材移動手段86と、想像線で示すようにジャーナル部横断油孔46、71、72、73の各々の他端に当ててジャーナル部横断油孔46、71、72、73を塞ぐ第3閉塞部材87、88、89、91が設けられている第3閉塞部材集合体92と、この第3閉塞部材集合体92に連結され第3閉塞部材集合体92を塞ぎ位置から開放位置まで移動させる第3閉塞部材移動手段93とを備える。
【0033】
また、第2洗浄ノズル移動手段79、第2閉塞部材移動手段86、第3閉塞部材移動手段93は制御部67で制御される。なお、第2洗浄ノズル移動手段79、第2閉塞部材移動手段86、第3閉塞部材移動手段93は、油圧シリンダが好適であるが、空圧シリンダ、電動シリンダを適用してもよい。次にジャーナル部横断油孔46、71、72、73に対する洗浄液の注入構造を説明する。
【0034】
第2洗浄ノズル集合体78は、洗浄液供給手段(後述)が配管94を介して接続されていると共に配管94から続いて洗浄液が流れる第2流路95を内部に備えているので、洗浄液は第2流路95を通って第2洗浄ノズル74、75、76、77から排出され、ジャーナル部横断油孔46、71、72、73へ注入される。次に第1洗浄ノズル集合体(図4の符号58)と第2洗浄ノズル集合体78へ洗浄液を供給する油孔洗浄装置50の構成要素を説明する。
【0035】
図6に示されるように、油孔洗浄装置50は、前述の構成に加えて、第1洗浄ノズル集合体58及び/又は第2洗浄ノズル集合体78へ洗浄液を供給する洗浄液供給手段96と、ピン部横断油孔(図4の符号45、51、52、53)の他端及び/又はジャーナル部横断油孔(図5の符号46、71、72、73)の他端から排出された洗浄液を回収する洗浄液回収手段97とを備える。
【0036】
なお、洗浄液は、純水等の洗浄水が好適であるが、その他の液体洗浄剤であれば種類は問わない。
【0037】
洗浄液供給手段96は、ポンプが好適であり、吸込側にストレーナ112を備え、吐出側に配管113、第1切換弁98、配管115、第2切換弁99が接続されている。さらに、第2切換弁99に配管68を介して第1洗浄ノズル集合体58が接続され、第2切換弁99に配管94を介して第2洗浄ノズル集合体78が接続されている。
【0038】
第2切換弁99は、第1洗浄ノズル集合体58のみに洗浄液を吐出させる位置101、第1洗浄ノズル集合体58と第2洗浄ノズル集合体78の両方に洗浄液を吐出させる位置102、第2洗浄ノズル集合体78のみに洗浄液を吐出させる位置103に切換えることができる弁である。
【0039】
これらの位置101、102、103は、制御部67からの指令に基づいて選択させることができるので、ピン部横断油孔のみ、ピン部横断油孔及びジャーナル部横断油孔、ジャーナル部横断油孔のみ、のいずれかに洗浄液を流すことができる。
【0040】
加えて、洗浄液回収手段97は、洗浄液104を貯留するタンク105と、ピン部横断油孔(図4の符号45、51、52、53)の他端及び/又はジャーナル部横断油孔(図5の符号46、71、72、73)の他端から排出された洗浄液を受けるオイルパン106と、このオイルパン106から回収した洗浄液をタンク105へ戻す配管107とからなる。
【0041】
さらに、第1切換弁98には、エアコンプレッサ108が接続され、第1切換弁98は、圧縮エアを供給する位置109、洗浄液を供給する位置111に切換えることができる弁である。また、第1切換弁98の位置109、111は、制御部67の指令により切換え可能である。
【0042】
すなわち、エアコンプレッサ108は、洗浄液供給手段96の代わりに、第1洗浄ノズル集合体58のみ、第1洗浄ノズル集合体58と第2洗浄ノズル集合体78の両方、第2洗浄ノズル集合体78のみ、のいずれかに圧縮エアを供給することができる。この圧縮エアを用いれば、油孔をエアブロー(詳細後述)できる。
以上に述べた油孔洗浄装置50の作用を次に述べる。
【0043】
図7(a)は第1洗浄工程を説明する図であり、ジャーナル部横断油孔46の一端116を第2閉塞部材81で塞ぎ、ジャーナル部横断油孔46の他端117を第3閉塞部材87で塞ぎ、第1洗浄ノズル54でピン部横断油孔45へ矢印(4)のように洗浄液を注入する。
【0044】
第1洗浄工程では、ジャーナル部横断油孔46の一端116及び他端117を塞ぎ、第1洗浄ノズル54でピン部横断油孔45へ洗浄液を注入するので、プラグボール49とピン部横断油孔45との間に形成される袋小路部118の圧力が負圧になる。すなわち、洗浄液がピン部横断油孔45を通過するときに、袋小路部118に矢印(5)のように吸引力が作用するため、袋小路部118に残留した切屑やダストを除去できる。
【0045】
(b)は第2洗浄工程を説明する図であり、ピン部横断油孔45の一端119を第1閉塞部材61で塞ぎ、ジャーナル部横断油孔46の他端117を第3閉塞部材87で塞ぎ、第2洗浄ノズル74でジャーナル部横断油孔46へ矢印(6)のように洗浄液を注入する。
【0046】
第2洗浄工程では、ピン部横断油孔45の一端119及びジャーナル部横断油孔46の他端117を塞ぎ、第2洗浄ノズル74でジャーナル部横断油孔46へ洗浄液を注入するので、洗浄液の一部が矢印(7)のように袋小路部118へ送られる。このとき、洗浄液は、第1洗浄工程で除去しきれずに袋小路部118に固着した切屑やダストを崩すことができる。
【0047】
(c)は第3洗浄工程を説明する図であり、ジャーナル部横断油孔46の一端116を第2閉塞部材81で塞ぎ、ジャーナル部横断油孔46の他端117を第3閉塞部材87で塞ぎ、第1洗浄ノズル54でピン部横断油孔45へ矢印(8)のように洗浄液を注入する。
【0048】
第3洗浄工程では、ジャーナル部横断油孔46の一端116及び他端117を塞ぎ、第1洗浄ノズル54でピン部横断油孔45へ洗浄液を注入する。洗浄液がピン部横断油孔45を通過するときに、袋小路部118に矢印(9)のように吸引力が作用するので、第2洗浄工程で崩した切屑やダストを除去することができる。
【0049】
(d)は第4洗浄工程を説明する図であり、第1洗浄ノズル54でピン部横断油孔45へ矢印(10)のように洗浄液を注入すると共に、第2洗浄ノズル74でジャーナル部横断油孔46へ矢印(11)のように洗浄液を注入する。
【0050】
第4洗浄工程では、第1洗浄ノズル54でピン部横断油孔45へ洗浄液を注入すると共に、第2洗浄ノズル74でジャーナル部横断油孔46へ洗浄液を注入するので、斜め油孔48に矢印(12)のように吸引力が作用する。したがって、斜め油孔48に残留した切屑やダストを除去することができる。
【0051】
制御部(図6の符号67)は、ピン部横断油孔45へ洗浄液を注入する第1洗浄工程と、ジャーナル部横断油孔46へ洗浄液を注入する第2洗浄工程と、ピン部横断油孔45へ洗浄液を注入する第3洗浄工程と、ピン部横断油孔45及びジャーナル部横断油孔46へ洗浄液を注入する第4洗浄工程とを、この順で実施するので、ピン部横断油孔45及びジャーナル部横断油孔46を確実に洗浄することができる。
【0052】
油孔洗浄装置(図6の符号50)は、(b)に示すようにピン部横断油孔45の一端119を塞ぐ第1閉塞部材61と、この第1閉塞部材61を塞ぎ位置から開放位置まで移動させる第1閉塞部材移動手段(図4の符号66)と、(a)、(c)、(d)に示すようにピン部横断油孔45の一端119へ洗浄液を注入する第1洗浄ノズル54と、この第1洗浄ノズル54を移動させる第1洗浄ノズル移動手段(図4の符号59)と、(a)、(c)に示すようにジャーナル部横断油孔46の一端116を塞ぐ第2閉塞部材81と、この第2閉塞部材81を塞ぎ位置から開放位置まで移動させる第2閉塞部材移動手段(図5の符号86)と、(b)、(d)に示すようにジャーナル部横断油孔46の一端116へ洗浄液を注入する第2洗浄ノズル74と、この第2洗浄ノズル74を移動させる第2洗浄ノズル移動手段(図5の符号79)と、(a)、(b)、(c)に示すようにジャーナル部横断油孔46の他端117を塞ぐ第3閉塞部材87と、この第3閉塞部材87を塞ぎ位置から開放位置まで移動させる第3閉塞部材移動手段(図5の符号93)と、(d)に示すように第1洗浄ノズル54及び/又は第2洗浄ノズル74へ洗浄液を供給する洗浄液供給手段(図6の符号96)と、ピン部横断油孔45の他端136及び/又はジャーナル部横断油孔46の他端117から排出された洗浄液を回収する洗浄液回収手段(図6の符号97)と、第1〜第3閉塞部材移動手段、第1〜第2洗浄ノズル移動手段を制御する制御部(図6の符号67)と、からなる。
【0053】
(a)と(c)に示されるように、斜め油孔48をプラグボール49で塞ぎ、ジャーナル部横断油孔46の他端117を第3閉塞部材87で塞いだ状態で、ジャーナル部横断油孔46の一端116を第2閉塞部材81で塞ぐと共にピン部横断油孔45の一端119へ第1洗浄ノズル54で洗浄液を注入するか、又は(b)に示されるように、斜め油孔48をプラグボール49で塞ぎ、ジャーナル部横断油孔46の他端117を第3閉塞部材87で塞いだ状態で、ピン部横断油孔45の一端119を第1閉塞部材61で塞ぐと共にジャーナル部横断油孔46の一端116へ第2洗浄ノズル74で洗浄液を注入することにより、全ての油孔を開放して洗浄液を注入する場合に比べ、油孔内の洗浄液圧力の低下を防止できる。
【0054】
この圧力低下の防止により、洗浄液供給手段(図6の符号96)の負荷が軽減されるため、洗浄液供給手段の能力を下げることが可能となる。そのため、洗浄液供給手段の価格を下げることができるので、油孔洗浄装置の低価格化に寄与する。したがって、より低価格な油孔洗浄装置を提供することができる。
【0055】
これまでに説明した油孔洗浄装置では、洗浄ノズルで油孔に洗浄液を注入して洗浄したが、洗浄後に油孔内に洗浄液が残留することがある。油孔内に洗浄液が残留した状態では、クランク軸を劣化させるため、油孔にエアブローを施す必要がある。そこで、洗浄ノズルから洗浄液に代えて圧縮エアを噴出させ、この圧縮エアで油孔をエアブローする例を次図で説明する。
【0056】
図8(a)は第1エアブロー工程を説明する図であり、ジャーナル部横断油孔46の一端116を第2閉塞部材81で塞ぎ、ジャーナル部横断油孔46の他端117を第3閉塞部材87で塞ぎ、エアコンプレッサ(図6の符号108)から供給された圧縮エアを第1洗浄ノズル54からピン部横断油孔45へ矢印(13)のように注入する。
【0057】
第1エアブロー工程では、圧縮エアがピン部横断油孔45を通過するときに、袋小路部118に矢印(14)のように吸引力が作用するため、袋小路部118に残留した洗浄液を除去できる。
【0058】
(b)は第2エアブロー工程を説明する図であり、ピン部横断油孔45の一端119を第1閉塞部材61で塞ぎ、ジャーナル部横断油孔46の他端117を第3閉塞部材87で塞ぎ、第2洗浄ノズル74でジャーナル部横断油孔46へ矢印(15)のように圧縮エアを注入する。
【0059】
第2エアブロー工程では、圧縮エアが矢印(16)のように斜め油孔48及びピン部横断油孔45へ送られるので、圧縮エアは、特に斜め油孔48に残った洗浄液を除去できる。
【0060】
(c)は第3エアブロー工程を説明する図であり、ジャーナル部横断油孔46の一端116を第2閉塞部材81で塞ぎ、ジャーナル部横断油孔46の他端117を第3閉塞部材87で塞ぎ、第1洗浄ノズル54でピン部横断油孔45へ矢印(17)のように圧縮エアを注入する。
【0061】
第3エアブロー工程では、圧縮エアがピン部横断油孔45を通過するときに、袋小路部118に矢印(18)のように吸引力が作用するので、第1エアブロー工程で除去しきれなかった洗浄液を除去できる。
【0062】
(d)は第4エアブロー工程を説明する図であり、第1洗浄ノズル54でピン部横断油孔45へ矢印(19)のように圧縮エアを注入すると共に、第2洗浄ノズル74でジャーナル部横断油孔46へ矢印(20)のように圧縮エアを注入する。
【0063】
第4エアブロー工程では、ピン部横断油孔45及びジャーナル部横断油孔46へ圧縮エアを注入したとき、斜め油孔48に矢印(21)のように吸引力が作用するので、斜め油孔48に残留した洗浄液を除去できる。
【0064】
制御部(図6の符号67)は、第1エアブロー工程と、第2エアブロー工程と、第3エアブロー工程と、第4エアブロー工程とを、この順で実施するので、ピン部横断油孔45、ジャーナル部横断油孔46及び斜め油孔48を確実にエアブローすることができる。
【0065】
ところで、前述の油孔洗浄装置では、図7(a)に示されるように、ピン部横断油孔45を洗浄するとき、第1洗浄ノズル54をピン部横断油孔45に当て、第2閉塞部材81及び第3閉塞部材87をジャーナル部横断油孔46に当てるようにしたが、洗浄ノズルと油孔の密着度、及び閉塞部材と油孔の密着度をより高めることができれば、油孔内の洗浄液圧力の低下防止をより強化できる。油孔内の洗浄液圧力の低下防止をより強化することができる例を次図で説明する。
【0066】
図9において、図7(a)と共通の構造は符号を流用して詳細な説明は省略する。この例での主たる変更点は、油孔の端部に施されている面取り部に密着するように、洗浄ノズルの先端を円錐形に形成したことである。
【0067】
第1洗浄ノズル121は、先端が円錐形に形成され先端に第1先細り部122を備えると共に、ピン部横断油孔45の一端部123に嵌められている。この一端部123には、第1洗浄ノズル121の第1先細り部122が密着する第1面取り部124が形成されている。
【0068】
加えて、第2閉塞部材125は、先端が円錐形に形成され先端に第2先細り部126を備えると共に、ジャーナル部横断油孔46の一端部127に嵌められている。この一端部127には、第2先細り部126が密着する第2面取り部128が形成されている。
【0069】
さらに、第3閉塞部材129は、先端が円錐形に形成され先端に第3先細り部131を備えると共に、ジャーナル部横断油孔46の他端部132に嵌められている。この他端部132には、第3先細り部131が密着する第3面取り部133が形成されている。また、ピン部横断油孔45の他端部134にも面取り部135が形成されている。
【0070】
第1洗浄ノズル121の第1先細り部122がピン部横断油孔45の一端部123の第1面取り部124に密着し、第2閉塞部材125の第2先細り部126がジャーナル部横断油孔46の一端部127の第2面取り部128に密着し、第3閉塞部材129の第3先細り部131がジャーナル部横断油孔46の他端部132の第3面取り部133に密着するので、図7(a)の油孔洗浄装置に比べて油孔45の一端部123、油孔46の一端部127及び他端部132から洗浄液が外部へ漏れ難くなる。したがって、油孔内の洗浄液圧力の低下防止をより強化することができる油孔洗浄装置を提供できる。
【0071】
なお、洗浄ノズルの先端及び閉塞部材の先端に先細り部を設け、油孔の端部に面取り部を設けることは、図7(a)〜(d)のすべてに適用できる。さらに、図8(a)〜(d)のすべてに適用することにより、エアブロー時に油孔内のエア圧力が低下することを防止できる。
【0072】
尚、本発明に係る第1〜第3閉塞部材移動手段及び第1〜第2洗浄ノズル移動手段は、実施の形態ではシリンダを適用したが、ロボットや自動機を適用してもよい。
【0073】
また、本発明に係る第1閉塞部材、第2閉塞部材、第3閉塞部材、第1洗浄ノズル、第2洗浄ノズルの数量は、実施の形態では各々4つとしたが、クランク軸のピン部及びジャーナル部の数量に応じて変更することができるため、数量は任意である。
【0074】
さらに、本発明に係る栓部材は、実施の形態ではプラグボールを適用したが、油孔に圧入される円柱状部材を適用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の油孔洗浄装置は、クランク軸の油孔洗浄に好適である。
【符号の説明】
【0076】
10…クランク軸、12…第1ジャーナル部(ジャーナル部)、14…第1ピン部(ピン部)、16…第2ジャーナル部(ジャーナル部)、18…第2ピン部(ピン部)、23…第3ピン部(ピン部)、25…第4ジャーナル部(ジャーナル部)、27…第4ピン部(ピン部)、29…第5ジャーナル部(ジャーナル部)、45、51、52、53…ピン部横断油孔、46、71、72、73…ジャーナル部横断油孔、47…外周面、48…斜め油孔、49…プラグボール(栓部材)、50…油孔洗浄装置、54、55、56、57…第1洗浄ノズル、59…第1洗浄ノズル移動手段、61、62、63、64…第1閉塞部材、66…第1閉塞部材移動手段、67…制御部、74、75、76、77…第2洗浄ノズル、79…第2洗浄ノズル移動手段、81、82、83、84…第2閉塞部材、86…第2閉塞部材移動手段、87、88、89、91…第3閉塞部材、93…第3閉塞部材移動手段、96…洗浄液供給手段、97…洗浄液回収手段、104…洗浄液、116、119…一端、117…他端。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸直角方向にピン部を横断するピン部横断油孔と、軸直角方向にジャーナル部を横断するジャーナル部横断油孔と、前記ピン部の外周面から前記ジャーナル部に向かって開けられ前記ピン部横断油孔及び前記ジャーナル部横断油孔に交差する斜め油孔と、前記ピン部の外周面近傍にて前記斜め油孔に詰められる栓部材と、を有するクランク軸を対象として、前記油孔を洗浄する、クランク軸の油孔洗浄装置であって、
この油孔洗浄装置は、前記ピン部横断油孔の一端を塞ぐ第1閉塞部材と、この第1閉塞部材を塞ぎ位置から開放位置まで移動させる第1閉塞部材移動手段と、
前記ピン部横断油孔の一端へ洗浄液を注入する第1洗浄ノズルと、この第1洗浄ノズルを移動させる第1洗浄ノズル移動手段と、
前記ジャーナル部横断油孔の一端を塞ぐ第2閉塞部材と、この第2閉塞部材を塞ぎ位置から開放位置まで移動させる第2閉塞部材移動手段と、
前記ジャーナル部横断油孔の一端へ洗浄液を注入する第2洗浄ノズルと、この第2洗浄ノズルを移動させる第2洗浄ノズル移動手段と、
前記ジャーナル部横断油孔の他端を塞ぐ第3閉塞部材と、この第3閉塞部材を塞ぎ位置から開放位置まで移動させる第3閉塞部材移動手段と、
前記第1洗浄ノズル及び/又は前記第2洗浄ノズルへ洗浄液を供給する洗浄液供給手段と、
前記ピン部横断油孔の他端及び/又は前記ジャーナル部横断油孔の他端から排出された洗浄液を回収する洗浄液回収手段と、
前記第1〜第3閉塞部材移動手段、前記第1〜第2洗浄ノズル移動手段を制御する制御部と、からなることを特徴とするクランク軸の油孔洗浄装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記ジャーナル部横断油孔の一端及び他端を塞ぎ、前記第1洗浄ノズルで前記ピン部横断油孔へ洗浄液を注入する第1洗浄工程と、
前記ピン部横断油孔の一端及び前記ジャーナル部横断油孔の他端を塞ぎ、前記第2洗浄ノズルで前記ジャーナル部横断油孔へ洗浄液を注入する第2洗浄工程と、
前記ジャーナル部横断油孔の一端及び他端を塞ぎ、前記第1洗浄ノズルで前記ピン部横断油孔へ洗浄液を注入する第3洗浄工程と、
前記第1洗浄ノズルで前記ピン部横断油孔へ洗浄液を注入すると共に、前記第2洗浄ノズルで前記ジャーナル部横断油孔へ洗浄液を注入する第4洗浄工程とを、
この順で実施することを特徴とする請求項1記載のクランク軸の油孔洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−132875(P2011−132875A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292529(P2009−292529)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】