説明

クレーンのマスト倒壊防止装置

【課題】操作ミスに起因するマストの倒壊を防止し、安全性を確保し得るクレーンのマスト倒壊防止装置を提供する。
【解決手段】クレーンは、互いにガイラインを介して連結されたブーム及びマストと、起伏ロープの巻き取り又は繰り出しによりブーム及びマストを起伏回動させる起伏用ウインチと、マストを略水平な輸送姿勢から作業姿勢に押し上げるためのマストサポート装置と、自力組立・分解時にマストの角度制限を解除し、マストを作業姿勢から輸送姿勢に戻すための回動を可能にするためのマスト格納手段とを備える。マスト倒壊防止装置40は、マストサポート装置がマストを作業姿勢に押し上げたときの張出位置にあることを検出する検出手段42と、マスト格納手段の操作が行われたとき検出手段の信号からマストサポート装置が張出位置にあることを判断し、それを条件にマストの回動を許可する制御手段43とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クローラクレーンなどのクレーンに装備されるマストがオペレータの操作ミスによって倒壊するのを防止するためのマスト倒壊防止装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、クローラクレーンなどのクレーンとして、例えば特許文献1に開示されているように、下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体のフレームの前端に、ブームの基端を回動可能に連結するとともに、このブームをガイラインを介して高い位置で支持するためのマストの基端を回動可能に連結し、このマストの先端側に設けたスプレッダと上記フレーム側に設けたスプレッダとの間に起伏ロープを巻き掛け、この起伏ロープを上記フレームに設けた起伏用ウインチにより巻き取り又は繰り出すことにより、上記ブーム及びマストを起伏回動させるように構成されたいわゆるマストタイプのものは知られている。
【0003】
そして、この種のクレーンにおいては、マストを上部旋回体上で略水平な輸送姿勢から作業姿勢に押し上げるためのマストサポート装置(マスト押し上げ機構やマスト引き起こし機構などともいう)が装備されている。また、クレーンの組立・分解時にマストをブーム代わりにして吊り作業つまりマスト吊り作業を行うことにより、自力でクレーンの組立や分解を行い得る構成になっている。マスト吊り作業の場合には、通常の吊り作業の場合と同様に過負荷防止装置によってマストの起伏角度が所定範囲に制限される一方、マストサポート装置は、通常、作業の支障にならないように、後方に倒伏した収納位置に戻すようになっている。このため、マスト吊り作業の後、マストを作業姿勢から輸送姿勢に戻すときには、以下のような手順で操作を行う必要がある。
(1)マストサポート装置を張出位置に移動させる。
(2)過負荷防止装置によるマストの角度制限を解除するためのリリーススイッチなどのマスト格納手段を操作する。
(3)起伏用ウインチにより起伏ロープを巻き取ってマストをマストサポート装置により支持されかつ垂直状態(起伏角度が90°の状態)よりも後方に傾いた位置にまで起伏回動させる。
(4)マストサポート装置でマストを支持した状態を維持しつつマストサポート装置を張出位置から収納位置に戻し、これにより、マストを搬送姿勢に戻す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−290789号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、オペレータが実際にマスト吊り作業の後、マストを作業姿勢から輸送姿勢に戻すときには上述した手順と異なる手順で操作を行うことがある。特に、マストサポート装置が張出位置にないにも拘わらず、そのことを確認せずにリリーススイッチなどのマスト格納手段を操作しながら起伏用ウインチによる起伏ロープの巻き取りによりマストを垂直位置よりも後方に傾いた位置にまで回動させることがある。この操作ミスの場合、マストがその自重によって後方に倒れ、マストや上部旋回体側の装置類が衝撃により破損するという問題があった。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、上述した操作ミスに起因するマストの倒壊を防止し、安全性を確保し得るクレーンのマスト倒壊防止装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、クレーンとして、上部旋回体のフレームの前端にそれぞれ基端が起伏回動可能に支持され、先端同士が互いにガイラインを介して連結されたブーム及びマストと、このマストの先端側に設けたスプレッダと上記フレーム側に設けたスプレッダとの間に巻き掛けた起伏ロープの巻き取り又は繰り出しを行うことにより上記ブーム及びマストを起伏回動させる起伏用ウインチと、上記マストを上部旋回体上で略水平な輸送姿勢から作業姿勢に押し上げるためのマストサポート装置と、自力組立・分解時に過負荷防止装置によるマストの角度制限を解除し、マストを作業姿勢から輸送姿勢に戻すための回動を可能にするためのマスト格納手段とを備えることを前提とする。そして、このクレーンのマスト倒壊防止装置として、上記マストサポート装置がマストを作業姿勢に押し上げたときの張出位置にあることを検出する検出手段と、上記マスト格納手段の操作が行われたとき、上記検出手段の信号に基づいてマストサポート装置が張出位置にあることを判断し、張出位置にあることを条件にマストの回動を許可する制御手段とを備える構成にする。
【0008】
この構成では、マスト吊り作業の後マストを作業姿勢から輸送姿勢に戻すとき、マストサポート装置が張出位置にないにも拘わらず、オペレータがそのことを確認することなくマスト格納手段を操作した場合には、制御手段は、マストサポート装置が張出位置にないと判断し、マストの回動を許可しないため、マストが過負荷防止装置による角度制限以上になることはない。一方、オペレータがマストサポート装置を張出位置に移動させた後、マスト格納手段を操作した場合には、制御手段は、マストサポート装置が張出位置にあることを判断し、マストの回動を許可するため、マストがマストサポート装置により支持されかつ垂直状態よりも後方に傾いた位置にまで回動することになる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1記載のクレーンのマスト倒壊防止装置において、上記制御手段で、マスト格納手段の操作が行われたときにマストサポート装置が張出位置にないと判断した場合、この制御手段の指令によりその状況をオペレータに報知する報知手段を備える構成にする。
【0010】
この構成では、マストサポート装置が張出位置にないにも拘わらず、オペレータがそのことを確認することなくマスト格納手段を操作した場合には、制御手段は、上述の如くマストの回動を許可しないだけでなく、報知手段によってその状況をオペレータに表示や音声で報知するように制御を行うので、オペレータはマストが回動しない状況を容易に認識することができ、操作ミスに早期に気付くことができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明におけるクレーンのマスト倒壊防止装置によれば、マスト吊り作業の後マストを作業姿勢から輸送姿勢に戻すマスト格納操作時にオペレータがマストサポート装置を張出位置に移動させずに誤ってマスト格納操作をした場合にはマストの回動が許可されず、マストが過負荷防止装置による角度制限以上になることはないので、操作ミスでマストが後方に倒れてマストや他の装置類が衝撃により破損するのを防止することができ、安全性を確保することができる。
【0012】
特に、請求項2に係る発明では、オペレータがマスト格納操作時に操作ミスをした場合には,マストの回動が許可されないだけでなく、その状況が表示や音声でオペレータに報知されるため、オペレータがその操作ミスに早期に気付くことができるという効果を併有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は本発明の実施形態に係るマスト倒壊防止装置を装備するマスト付きクローラクレーンの通常作業時の状態を示す側面図である。
【図2】図2は上記クローラクレーンの分解輸送直後の状態を示す側面図である。
【図3】図3は図2に示す状態からジャッキを下げかつマストを押し上げる途中の状態を示す側面図である。
【図4】図4は上記クローラクレーンのマスト吊り作業時の状態を示す側面図である。
【図5】図5は上記クローラクレーンの組立完了状態を示す側面図である。
【図6】図6は図4のX付近の拡大図である。
【図7】図7は張出位置検出器の取付状態を示す側面図である。
【図8】図8は上記マスト倒壊防止装置のブロック構成図である。
【図9】図9はマスト倒壊防止装置のコントローラによる制御内容を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための形態である実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1は本発明の一実施形態に係るマスト倒壊防止装置を装備するマスト付きクローラクレーンAの全体構成を示す。クローラクレーンAは、クローラ1により走行する下部走行体2と、この下部走行体2上に旋回装置3を介在して旋回可能に搭載された上部旋回体4とを備えている。
【0016】
上記上部旋回体4のフレーム5の前端部にはブーム6の基端及びマスト7の基端がそれぞれ起伏回動可能に支持されているとともに、上部旋回体4のフレーム5の中央部には複数(図では3つ)のウインチ8,9,10が前後方向に一列に配置され、上部旋回体4のフレーム5の後部にはガントリ11及びカウンタウエイト12がそれぞれ取り付けられている。また、上部旋回体4には、上記ブーム6の基端及びマスト7の基端とフレーム5との連結部の側方位置にキャブ13が設けられている。
【0017】
上記ブーム6の先端部にはブームポイントシーブ15、補助シーブ16及びアイドラシーブ17が設けられ、ブームポイントシーブ15からは主巻上ロープ18を介して主フック19が吊り下げられているとともに、補助シーブ16からは補巻上ロープ21を介して補フック22が吊り下げられている。主巻上ロープ18の一端は、アイドラシーブ17を通して、フレーム5上の例えば一番目のウインチ8に巻き付けられ、このウインチ8により主フック19が巻上又は巻下されるようになっている。また、補巻上ロープ21の一端は、アイドラシーブ17を通して、フレーム5上の二番目のウインチ9に巻き付けられ、このウインチ9により補フック22が巻上又は巻下されるようになっている。
【0018】
上記ブーム6の先端とマスト7の先端とは、ガイライン23を介して互いに連結されている。また、マスト7の先端には上部スプレッダ24が設けられているとともに、上記ガントリ11の頂部には下部スプレッダ25が設けられ、この両スプレッダ24,25間には起伏ロープ26が巻き掛けられている。この起伏ロープ26の一端は、フレーム5上の三番目の起伏用ウインチ10に巻き付けられ、このウインチ10で起伏ロープ26の巻き取り又は繰り出しを行うことにより、ブーム6及びマスト7が起伏回動するようになっている。
【0019】
上記クローラクレーンAは、図1に示す通常の吊り作業時に主フック19又は補フック22による吊り荷の制限とブーム6の起伏角度の制限を行うための過負荷防止装置(図示せず)を装備している。また、クローラクレーンAは、輸送時に一部を分解して輸送を行うものであり、図2ないし図5は、輸送時の状態から通常の吊り作業時の状態に移行するまでの組立工程を示すものである。
【0020】
すなわち、図2はトレーラBを用いてクローラクレーンAを輸送した直後の状態を示す。輸送時には、クローラ1、ブーム6及びカウンタウエイト12などは取り外され、マスト7及びガントリ11は、上部旋回体4上で後方に倒伏して格納されている。輸送の直後には、下部走行体2に設けたジャッキ31でクローラクレーンAを持ち上げ、トレーラBを引き出す。
【0021】
次に、図3に示すように、ジャッキ31を下げた後、ガントリ11を立ち上げる。続いて、起伏用ウインチ10から起伏ロープ26を繰り出すとともに、マスト7をその基端とフレーム5との連結軸回りに押し上げ、図4に示す作業姿勢にする。クローラクレーンAは、このマスト7を上部旋回体4上で略水平な輸送姿勢から作業姿勢に押し上げるためのマストサポート装置32を装備している。このマストサポート装置32は、マスト7の基端側を挟むようにかつそれに沿って延び、一端がマスト7の基端とフレーム5との連結軸に同軸にかつ相対回動自在に連結された左右一対のリンク部材33(一方のみ図示)と、図6に拡大詳示するように、この一対のリンク部材33の他端部間に連結軸34を介して架設され、かつマスト7の背面側に摺動可能に当接する摺動部材35と、一端がマスト7基端のフレーム5との連結軸よりも後方の位置でフレーム5に連結され、他端が上記摺動部材35に連結されたシリンダ36とを備え、シリンダ36の伸縮作動により摺動部材35をマスト7の背面側に摺動させつつマスト7をその基端とフレーム5との連結軸回りに起伏回動させる構成になっている。
【0022】
クローラクレーンAは、図4に示すようなマスト7を作業姿勢にした状態でマスト7の先端から吊りフック(図示せず)を下げ、この吊りフックを用いた吊り作業であるマスト吊り作業を行い、これにより、別のクレーンを使用することなく、自力でクローラ1、ブーム6及びカウンタウエイト12などの取り付けを行い、図5に示すような組立完了状態にまで移行し得るようになっている。
【0023】
一方、クローラクレーンAの通常の吊り作業時の状態から輸送時の状態に移行する場合には、先ず、ブーム6を地面に接するまで前方に倒伏させた後、上述した組立工程の場合と逆の手順を採る。また、その途中で行うマスト吊り作業ではクローラ1、ブーム6及びカウンタウエイト12などの取り外しを行う。
【0024】
このようなクローラクレーンAの自力組立・分解時に行うマスト吊り作業では、通常の吊り作業時と同様に、吊り荷の制限とマスト7の起伏角度の制限を行う必要がある。このため、クローラクレーンAは、上述した通常の吊り作業時用の過負荷防止装置とは別に、マスト吊り作業時用の過負荷防止装置(図示せず)を装備するとともに、マスト吊り作業の後、過負荷防止装置によるマスト7の角度制限を解除し、マスト7を作業姿勢から後方に倒伏させて略水平な輸送姿勢に戻すための倒伏回動を可能にするためのマスト格納手段としてのリリーススイッチ41(図8参照)をキャブ13内に装備している。
【0025】
また、通常の吊り作業時及びマスト吊り作業時には、上記マストサポート装置32は、作業の支障にならないように、後方に倒伏して格納される(図1参照)。それ故、マスト吊り作業の後、上記リリーススイッチ41を操作してマスト7を作業姿勢から輸送姿勢に戻すときには、オペレータは、先ず、マストサポート装置32がマスト7を作業姿勢に押し上げたときの張出位置にあることを確認し、張出位置になければマストサポート装置32を張出位置に移動させ、しかる後、リリーススイッチ41を操作してマスト7を作業姿勢から輸送姿勢に戻す必要があるが、オペレータがこの操作手順を間違えて、マストサポート装置32が張出位置にない状態でリリーススイッチ41を操作してマスト7の倒壊事故が発生することがある。
【0026】
そこで、本発明の特徴点として、クローラクレーンAは、このマスト7の倒壊を防止するために、図8に示すようなマスト倒壊防止装置40を装備している。このマスト倒壊防止装置40は、マストサポート装置32が張出位置にあることを検出する検出手段としての張出位置検出器42と、この張出位置検出器42の信号などを受け、所定条件のときにマスト7の回動を停止又は許容する制御手段としてのコントローラ43と、このコントローラ43の指令に基づいてマスト7の回動を停止するためのマスト巻上停止用のソレノイド44と、同じくコントローラ43の指令によりマストサポート装置32が張出位置にないことをオペレータに報知する報知手段としての表示装置45及び警報器46とを備えている。尚、マスト巻上停止用のソレノイド44は、図示していないが、フェイルセイフのためにオフ時に停止機能を発揮するようになっている。
【0027】
上記張出位置検出器42は、図7に示すように、フレーム5のマスト支持部5aにマストサポート装置32のリンク部材33の基端に対向して取り付けられており、マストサポート装置32のリンク部材33が格納位置から垂直位置を経て張出位置になったとき、検出器42の接触レバー42aがリンク部材33の基端に設けた突起部47に接触することにより検出信号を出力するようになっている。
【0028】
上記コントローラ43は、張出位置検出器42の信号に基づいてマスト7の回動を停止又は許容する制御の外、オペレータの操作によるマスト巻上の操作信号とマスト7の角度を検出するマスト角度検出器48の検出信号とに基づいてマスト7の角度制限をするマスト吊り作業時用の過負荷防止装置の制御手段の一部の機能と、リリーススイッチ41の操作時にマスト吊り作業時用の過負荷防止装置によるマスト7の角度制限を解除する機能とを兼ね備えたものである。このコントローラ43による制御のうち、マスト吊り作業時の状態からマスト7を後方に倒伏して格納するときの制御は、図9に示すフローチャートに従って行われる。
【0029】
すなわち、図9において、スタートした後、ステップS1でマスト角度検出器48の信号からマスト角度を読み込み、ステップS2でそのマスト角度がマスト7の角度制限の上限角度であるか否かを判定する。この判定がNOの上限角度未満のときには、ステップS7でマスト巻上停止用のソレノイド44をオンにしてマスト巻上(詳しくはマスト7の巻上方向の回動)を許容し、ステップS1に戻る。一方、判定がYESの上限角度以上のときには、ステップS3でマスト巻上停止用のソレノイド44をオフにしてマスト巻上を停止する。
【0030】
続いて、ステップS4でリリーススイッチ41がオン操作されているか否かを判定し、その判定がNOのときには、ステップS1に戻る一方、判定がYESのときには、更に、ステップS5で張出位置検出器42の信号からマストサポート装置32が張出位置にあるか否かを判定する。この判定がYESのときには、ステップS6でマスト巻上停止用のソレノイド44をオンにしてマスト巻上を許容し、制御を終了する。一方、判定がNOのときには、ステップS8でリリーススイッチ41がオン操作されているがマストサポート装置32が張出位置にないことをオペレータに報知するための警報を、表示装置45による画面表示及び警報器46による警報音でもって行い、制御を終了する。
【0031】
次に、上記マスト倒壊防止装置40の作用効果について説明するに、マスト吊り作業の後マスト7を作業姿勢から輸送姿勢に戻すとき、オペレータがマストサポート装置32を張出位置に移動させた後、リリーススイッチ41をオン操作するという正しい操作手順で操作を行った場合には、コントローラ43は、リリーススイッチ41のオン操作とマストサポート装置32の張出位置にあることを共に判定した上でマスト巻上つまりマスト7の巻上方向の回動を許可する(図9のステップS6)ため、マスト7がマストサポート装置32により支持されかつ垂直状態よりも後方に傾いた位置にまで回動することになる。
【0032】
一方、マスト吊り作業の後マスト7を作業姿勢から輸送姿勢に戻すとき、マストサポート装置32が張出位置にないにも拘わらず、オペレータがそのことを確認することなくリリーススイッチ41をオン操作した場合には、コントローラ43は、張出位置検出器42の信号からマストサポート装置32が張出位置にないと判定し、マスト巻上を許可しないため、マスト7がマスト吊り作業時用の過負荷防止装置による上限角度以上になることはない。この結果、オペレータの操作ミスでマスト7が後方に倒れてマスト7や上部旋回体4側の他の装置類が衝撃により破損するのを防止することができ、安全性を確保することができる。
【0033】
その上、マストサポート装置32が張出位置にないにも拘わらず、オペレータがそのことを確認することなくリリーススイッチ41をオン操作した場合には、コントローラ43は、上述の如くマスト巻上を許可しないだけでなく、その状況をオペレータに表示装置45の表示と警報器46の警報音とで報知するように制御を行うので、オペレータはマスト7が回動しない状況を容易に認識することができ,その対応策を早期に採ることができる。
【0034】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その他種々の形態を包含するものである。例えば上記実施形態では、マスト倒壊防止装置40のコントローラ43において、張出位置検出器42の信号に基づいてマスト7の回動を停止又は許容する制御の外、オペレータの操作によるマスト巻上の操作信号とマスト7の角度を検出するマスト角度検出器48の検出信号とに基づいてマスト7の角度制限をするマスト吊り作業時用の過負荷防止装置の制御手段の一部の機能と、リリーススイッチ41の操作時にマスト吊り作業時用の過負荷防止装置によるマスト7の角度制限を解除する機能とを兼ね備える構成にしたが、張出位置検出器42の信号に基づいてマスト7の回動を停止又は許容する制御のみを行い、他の機能を別の制御手段によって行うように構成してもよい。その場合、マスト倒壊防止装置40の制御手段としては、コントローラ43の代わりにリレー回路でマスト巻上停止用のソレノイド44などをオン・オフ制御するように構成してもよい。
【0035】
また、上記実施形態では、マストサポート装置32が張出位置にあることを検出する張出位置検出器42として、フレーム5のマスト支持部5aにマストサポート装置32のリンク部材33の基端に対向して取り付けられ、マストサポート装置32のリンク部材33が格納位置から垂直位置を経て張出位置になったとき接触レバー42aがリンク部材33の基端に設けた突起部47に接触して検出信号を出力するものを用いたが、本発明は、このものに限らず、例えばマストサポート装置32のシリンダ36の伸縮ストロークから検出信号を出力するものを用いてもよい。
【0036】
さらに、上記実施形態では、上部旋回体4のフレーム5の後部にガントリ11を取り付け、このガントリ11の頂部に設けた下部スプレッダ25とマスト7の先端側に設けた上部スプレッダ24との間に起伏ロープ26を巻き掛けてなるクローラクレーンAに適用した場合について述べたが、本発明は、上部旋回体4のフレーム5の後部に、ガントリを取り付けることなく、下部スプレッダを直接取り付け、この下部スプレッダとマスト7の先端側に設けた上部スプレッダ24との間に起伏ロープ26を巻き掛けてなるクローラクレーンなどにも同様に適用することができるのは勿論である。
【符号の説明】
【0037】
A クローラクレーン
4 上部旋回体
5 フレーム
6 ブーム
7 マスト
10 起伏用ウインチ
23 ガイライン
24 上部スプレッダ
25 下部スプレッダ
26 起伏ロープ
32 マストサポート装置
40 マスト倒壊防止装置
41 リリーススイッチ(マスト格納手段)
42 張出位置検出器(検出手段)
43 コントローラ(制御手段)
44 マスト巻上停止用のソレノイド
45 表示装置(報知手段)
46 警報器(報知手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部旋回体のフレームの前端にそれぞれ基端が起伏回動可能に支持され、先端同士が互いにガイラインを介して連結されたブーム及びマストと、
このマストの先端側に設けたスプレッダと上記フレーム側に設けたスプレッダとの間に巻き掛けた起伏ロープの巻き取り又は繰り出しを行うことにより上記ブーム及びマストを起伏回動させる起伏用ウインチと、
上記マストを上部旋回体上で略水平な輸送姿勢から作業姿勢に押し上げるためのマストサポート装置と、
自力組立・分解時に過負荷防止装置によるマストの角度制限を解除し、マストを作業姿勢から輸送姿勢に戻すための回動を可能にするためのマスト格納手段とを備えたクレーンにおいて、
上記マストサポート装置がマストを作業姿勢に押し上げたときの張出位置にあることを検出する検出手段と、
上記マスト格納手段の操作が行われたとき、上記検出手段の信号に基づいてマストサポート装置が張出位置にあることを判断し、張出位置にあることを条件にマストの回動を許可する制御手段とを備えたことを特徴とするクレーンのマスト倒壊防止装置。
【請求項2】
上記制御手段において、マスト格納手段の操作が行われたときにマストサポート装置が張出位置にないと判断した場合、この制御手段の指令によりその状況をオペレータに報知する報知手段を備えている請求項1記載のクレーンのマスト倒壊防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−131577(P2012−131577A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282534(P2010−282534)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(304020362)コベルコクレーン株式会社 (296)
【Fターム(参考)】