説明

クロック発生回路

【課題】クロック発生回路において、コストの増大を回避すること。
【解決手段】ディジタル位相比較器1、ディジタルループフィルタ2、DDS3、バンドパスフィルタ4、増幅器5、OCXO6および第1分周器7は、ディジタルPLLを構成する。OCXO6から与えられるDDS3の動作周波数をfSとし、DDS3の出力設定周波数をfOとし、nを自然数とすると、DDS3からは、ディジタル/アナログ変換のイメージ成分として、[n×fS±fO]の周波数の信号が出力される。バンドパスフィルタ4は、このイメージ成分の周波数を通過帯域とする特性を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、クロック発生回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クロック発生回路や周波数シンセサイザにおいて、ディジタルPLL(PLL:Phase Locked Loop)が用いられている。例えば、位相比較の際に基準位相を与える基準発振源と、その出力の基準位相と直接ディジタルシンセサイザ(DDS:Direct Digital Synthesizer)の出力位相とを比較する位相比較器と、その出力の位相差を積分するループフィルタと、その積分出力のアナログの直流電圧をディジタル信号に変換するA/D変換器と、外部から発生周波数を位相インクリメント値として与え設定した周波数設定データを、発生周波数より高い周波数の基準入力クロックの1周期ごとに加算累積することにより、入力クロックの周波数の1/2以下の任意周波数の信号を直接ディジタル的に発生するDDSとを具え、A/D 変換器の出力をDDSへ発生周波数の微調整用データとして与えて、DDSの出力信号をN分周する分周器を通し基準発振源の周波数と同一周波数としたのち位相比較器へ入力して位相同期ループPLLを完成するように構成した周波数シンセサイザが公知である(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平8−340254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近時、種々の装置の高速化に伴って動作周波数が高くなってきており、より周波数の高いクロック信号が必要となる。DDSを用いたディジタルPLLにおいて、DDSの出力可能な最大出力周波数は、理論的にはサンプリング定理に従い、DDSの動作クロック周波数の1/2以下であるが、実際には動作クロック周波数の1/3〜1/4以下に制限される。DDSの動作クロックを高周波化すれば、DDSの出力周波数が高くなるので、クロック発生回路の出力周波数を高くすることができる。しかし、DDSに動作クロックを供給するOCXO(Oven Controlled Xtal Oscillator、温度制御型水晶発振器)等の発振器を高周波化するのは困難であるため、高周波のOCXO等の発振器を用いると、コストの増大を招くという問題点がある。
【0005】
この発明は、上述した従来技術による問題点を解消するため、コストの増大を回避することができるクロック発生回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するため、このクロック発生回路は、ディジタル位相比較器、ディジタルループフィルタ、DDSおよびバンドパスフィルタによりディジタルPLLを構成し、DDSにおいてディジタル値をアナログの出力波形に変換する際に発生するイメージ成分を抽出可能なバンドパスフィルタを用いることを要件とする。
【0007】
このクロック発生回路によれば、DDSからディジタル/アナログ変換のイメージ成分として、次の(1)式で表される周波数の信号が出力され、この信号がバンドパスフィルタを通過する。ただし、fSは、OCXO等の発振器から与えられるDDSの動作周波数であり、fOはDDSの出力設定周波数であり、nは自然数である。従って、DDSの動作周波数を高周波化しなくても、DDSから従来よりも高周波の信号が出力される。
n×fS±fO ・・・(1)
【発明の効果】
【0008】
このクロック発生回路によれば、OCXO等の発振器を高周波化せずに済むので、コストの増大を回避することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に添付図面を参照して、このクロック発生回路の好適な実施の形態を詳細に説明する。
【0010】
図1は、実施の形態にかかるクロック発生回路の構成を示すブロック図である。図2は、DDSの出力スペクトラムの一例を示すスペクトラム図である。図1に示すように、このクロック発生回路は、ディジタル位相比較器(DPD)1、ディジタルループフィルタ2、DDS3、バンドパスフィルタ(BPF)4、増幅器5、OCXO6等の発振器および分周比Nの第1分周器7からなるディジタルPLLと、分周比Mの第2分周器8を備えている。ここで、NおよびMは2以上の自然数である。個々の詳細な構成および動作については、周知であるので、説明を省略する。
【0011】
ディジタル位相比較器1は、第1分周器7の出力信号の位相と基準信号の位相を比較し、その位相差を図示省略した高速クロックでカウントした値を出力する。このクロック発生回路が、伝送装置や無線通信装置内で用いられるクロック信号を発生するシステムクロックモジュールとして用いられる場合には、基準信号は、例えば基地局からディジタル位相比較器1に与えられる。ディジタルループフィルタ2は、ディジタル位相比較器1から出力されたカウント値に基づいてDDS3に出力周波数設定データΔφを与える。
【0012】
DDS3とOCXO6は、数値データで出力周波数を可変するNCO(Nemerically Controlled Oscillator)を構成する。OCXO6は、DDS3にDDS3の動作周波数fSを与える。通常、この動作周波数fSはDDS3の出力設定周波数fOよりも高い。
【0013】
DDS3は、ディジタルループフィルタ2から与えられた出力周波数設定データΔφと、OCXO6から与えられた動作周波数fSとに応じて、次の(2)式で表される出力設定周波数fOの発振信号を生成する。ただし、Kは前記出力周波数設定データΔφのビット数である。
O=(Δφ/2K)×fS ・・・(2)
【0014】
また、図2に示すように、DDS3からは、出力設定周波数fO以外の周波数成分としてイメージ成分や高調波成分が発生する。これらの成分は、DDS3の出力部に配置されているディジタル/アナログ変換器(DAC:Digital Analog Converter)においてディジタル値をアナログの出力波形に変換する際に発生する。イメージ成分は前記(1)式で表される。m次の高調波成分は次の(3)式で表される。ただし、mは2以上の整数である。
n×fS±mfO ・・・(3)
【0015】
図2に示すように、n=1の場合のイメージ成分の信号レベルはキャリア比、すなわちfO成分の信号レベルに対して−18dBcである。一方、高調波成分の信号レベルはキャリア比−50dBcである。従って、高周波成分を利用する場合には、イメージ成分を利用する場合よりも増幅器5としてゲインの高い増幅器を用いるか、あるいは増幅器を多段に接続する必要がある。その分、高周波成分を利用する場合には、回路規模が大きくなり、消費電力が増大する。
【0016】
そこで、本実施の形態では、イメージ成分を利用する。回路規模や消費電力の制約が緩い場合には、高周波成分を利用してもよい。なお、図2に示す例では、fSが17MHzであり、fOが3MHzである。
【0017】
バンドパスフィルタ4は、前記イメージ成分の信号を抽出する。つまり、バンドパスフィルタ4の通過帯域中心周波数fBPFは、前記(1)式で表される。増幅器5は、バンドパスフィルタ4を通過したイメージ成分の信号を増幅する。第1分周器7は、増幅器5の出力信号を1/Nに分周する。従って、ディジタル位相比較器1は、イメージ成分の信号を1/N分周した信号の位相と基準信号の位相とを比較する。このディジタルPLLにより、増幅器5からは、基準信号に位相同期した、前記(1)式で表される周波数の信号が出力される。
【0018】
第2分周器8は、増幅器5の出力信号を1/Mに分周する。第2分周器8で分周された信号は、クロック発生回路からクロック信号として出力される。クロック発生回路から出力されるクロック信号の周波数をfCLKとすると、fCLK、M、前記fS、前記fO、前記nおよび前記fBPFの間には、次の(4)式の関係がある。
CLK=(n×fS±fO)/M=fBPF/M ・・・(4)
【0019】
換言すれば、クロック発生回路は、上記(4)式を満足するように、出力周波数fOおよび動作周波数fSが設定されたDDS3およびOCXO6、通過帯域中心周波数fBPFのバンドパスフィルタ4、並びに分周比Mの第2分周器8を用いて構成される。nについては、その値が大きくなるほど、前記(4)式で決まるfCLKの信号レベルが低くなるので、小さい値であるのが好ましい。例えば、nは1であるのが好ましい。
【0020】
例えば、nを1とし、fSを17MHzとし、DDS3に出力設定周波数fOとして3MHzを設定し、バンドパスフィルタ4の通過帯域中心周波数fBPFを20MHzとすると、増幅器5、すなわちバンドパスフィルタ4から周波数20MHzの信号が出力される(図2において、20MHzに出現しているDACイメージ成分のスペクトラム)。第2分周器8の分周比を2とすると、クロック発生回路からは出力周波数fCLKが10MHzのクロック信号が出力される。
【0021】
伝送装置や無線通信装置内で用いられるクロック信号として、例えば10MHz程度の周波数が望まれている。従って、上述した例のように10MHzのクロック信号を出力する構成は、伝送装置や無線通信装置用のシステムクロックモジュールとして有用である。
【0022】
以上説明したように、本実施の形態によれば、DDS3で発生するDACイメージ成分を利用することにより、DDS3の動作周波数fSを高周波化しなくても、DDS3から従来よりも高周波の信号が出力される。従って、OCXO6を高周波化せずに済むので、コストの増大を回避することができる。また、fO、fS、fBPFおよびMの組み合わせを選択することによって、例えば各種通信装置において要望される周波数のクロック信号を発生させることができる。
【0023】
ところで、バンドパスフィルタ4の通過帯域中心周波数fBPFをDDS3の出力設定周波数fOとし、バンドパスフィルタ4の出力信号(例えば、3MHz)をアナログPLLで周波数変換して高周波化するようにしても、OCXO6を高周波化しないで例えば10MHzのクロック信号を発生させることができる。しかし、この場合には、次のような欠点がある。
【0024】
第1に、クロック発生回路がディジタルPLLとアナログPLLの二段構成となるため、モジュール面積が拡大し、大型化してしまうという欠点がある。また、ディジタルPLL用の部材とアナログPLL用の部材が必要であるため、モジュール構成部材が増加し、特にそれぞれに高額な発振器が必要であるため、コストが増大するという欠点がある。第2に、ディジタルPLLの後段にアナログPLLが従属接続される構成であるため、DDSの出力位相雑音にアナログPLLの位相比較器のフロアノイズが加算されてしまう。その結果、最終的に出力されるクロック信号の出力位相雑音がDDSの出力位相雑音よりも劣化するという欠点がある。本実施の形態にかかるクロック発生回路には、これらの欠点がない。
【0025】
以上において本発明は、上述した実施の形態に限らず、種々変更可能である。例えば、fO、fS、fBPFおよびMの組み合わせは、種々、選択可能である。また、第2分周器8を設けずに、増幅器5の出力信号をそのままクロック信号として出力してもよい。また、DDS3に動作周波数を与える発振器はOCXO6に限らない。また、高調波成分を利用する場合、例えばfSを17MHzとし、fOを5MHzとすると、DDS3において10MHzの高調波成分が発生する。従って、この組み合わせでfBPFを10MHzとし、第2分周器8を設けない構成とすることによっても、10MHzのクロック信号を発生させることができる。
【0026】
(付記1)出力周波数設定データおよび動作周波数に応じた周波数の信号を生成する直接ディジタルシンセサイザと、前記直接ディジタルシンセサイザの出力信号のうち、前記直接ディジタルシンセサイザの出力設定周波数以外の成分の信号を抽出するバンドパスフィルタと、前記バンドパスフィルタの出力信号を分周する第1分周器と、前記第1分周器の出力信号の位相と基準信号の位相の差に基づく値を出力するディジタル位相比較器と、前記ディジタル位相比較器の出力値に基づいて前記直接ディジタルシンセサイザに前記出力周波数設定データを与えるディジタルループフィルタと、前記直接ディジタルシンセサイザに前記動作周波数として前記直接ディジタルシンセサイザの前記出力設定周波数よりも高い周波数の信号を与える発振器と、前記バンドパスフィルタの出力信号を分周する第2分周器と、を備え、前記第2分周器の出力信号をクロック信号として出力することを特徴とするクロック発生回路。
【0027】
(付記2)前記バンドパスフィルタは、前記直接ディジタルシンセサイザにおいてディジタル値をアナログの出力波形に変換する際に発生するイメージ成分を抽出することを特徴とする付記1に記載のクロック発生回路。
【0028】
(付記3)前記バンドパスフィルタの通過帯域中心周波数をfBPFとし、前記第2分周器の分周比をMとし、前記第2分周器の出力信号の周波数をfCLKとし、前記発振器から与えられる前記直接ディジタルシンセサイザの前記動作周波数をfSとし、前記直接ディジタルシンセサイザの出力設定周波数をfOとし、nを自然数とするとき、次の関係式が成り立つことを特徴とする付記2または3に記載のクロック発生回路。
CLK=(n×fS±fO)/M=fBPF/M
【0029】
(付記4)出力周波数設定データおよび動作周波数に応じた周波数の信号を生成する直接ディジタルシンセサイザと、前記直接ディジタルシンセサイザの出力信号のうち、前記直接ディジタルシンセサイザの出力設定周波数以外の成分の信号を抽出するバンドパスフィルタと、前記バンドパスフィルタの出力信号を分周する分周器と、前記分周器の出力信号の位相と基準信号の位相の差に基づく値を出力するディジタル位相比較器と、前記ディジタル位相比較器の出力値に基づいて前記直接ディジタルシンセサイザに前記出力周波数設定データを与えるディジタルループフィルタと、前記直接ディジタルシンセサイザに前記動作周波数として前記直接ディジタルシンセサイザの前記出力設定周波数よりも高い周波数の信号を与える発振器と、を備え、前記バンドパスフィルタの出力信号をクロック信号として出力することを特徴とするクロック発生回路。
【0030】
(付記5)前記バンドパスフィルタは、前記直接ディジタルシンセサイザにおいてディジタル値をアナログの出力波形に変換する際に発生するイメージ成分を抽出することを特徴とする付記4に記載のクロック発生回路。
【0031】
(付記6)前記バンドパスフィルタの通過帯域中心周波数をfBPFとし、前記分周器の出力信号の周波数をfCLKとし、前記発振器から与えられる前記直接ディジタルシンセサイザの前記動作周波数をfSとし、前記直接ディジタルシンセサイザの出力設定周波数をfOとし、nを自然数とするとき、次の関係式が成り立つことを特徴とする付記4または5に記載のクロック発生回路。
CLK=n×fS±fO=fBPF
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】実施の形態にかかるクロック発生回路の構成を示すブロック図である。
【図2】DDSの出力スペクトラムの一例を示すスペクトラム図である。
【符号の説明】
【0033】
1 ディジタル位相比較器
2 ディジタルループフィルタ
3 DDS
4 バンドパスフィルタ
6 OCXO
7 第1分周器
8 第2分周器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力周波数設定データおよび動作周波数に応じた周波数の信号を生成する直接ディジタルシンセサイザと、
前記直接ディジタルシンセサイザの出力信号のうち、前記直接ディジタルシンセサイザの出力設定周波数以外の成分の信号を抽出するバンドパスフィルタと、
前記バンドパスフィルタの出力信号を分周する第1分周器と、
前記第1分周器の出力信号の位相と基準信号の位相の差に基づく値を出力するディジタル位相比較器と、
前記ディジタル位相比較器の出力値に基づいて前記直接ディジタルシンセサイザに前記出力周波数設定データを与えるディジタルループフィルタと、
前記直接ディジタルシンセサイザに前記動作周波数として前記直接ディジタルシンセサイザの前記出力設定周波数よりも高い周波数の信号を与える発振器と、
前記バンドパスフィルタの出力信号を分周する第2分周器と、
を備え、
前記第2分周器の出力信号をクロック信号として出力することを特徴とするクロック発生回路。
【請求項2】
出力周波数設定データおよび動作周波数に応じた周波数の信号を生成する直接ディジタルシンセサイザと、
前記直接ディジタルシンセサイザの出力信号のうち、前記直接ディジタルシンセサイザの出力設定周波数以外の成分の信号を抽出するバンドパスフィルタと、
前記バンドパスフィルタの出力信号を分周する分周器と、
前記分周器の出力信号の位相と基準信号の位相の差に基づく値を出力するディジタル位相比較器と、
前記ディジタル位相比較器の出力値に基づいて前記直接ディジタルシンセサイザに前記出力周波数設定データを与えるディジタルループフィルタと、
前記直接ディジタルシンセサイザに前記動作周波数として前記直接ディジタルシンセサイザの前記出力設定周波数よりも高い周波数の信号を与える発振器と、
を備え、
前記バンドパスフィルタの出力信号をクロック信号として出力することを特徴とするクロック発生回路。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−153009(P2009−153009A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−330462(P2007−330462)
【出願日】平成19年12月21日(2007.12.21)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】