説明

グリース組成物及びウォータポンプ用転がり軸受

【課題】水分が混入した場合でも、白色組織剥離及び腐食の発生を抑制し、良好な潤滑を長時間維持することが可能なグリース組成物、並びに前記グリース組成物を封入してなり、耐水性に優れるウォータポンプ用転がり軸受を提供する。
【解決手段】鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種からなる基油と、増ちょう剤とを含み、かつ、オレオイルザルコシンをグリース全量の0.1〜5質量%の割合で含有することを特徴とするグリース組成物、並びに前記グリース組成物を封入してなるウォータポンプ用転がり軸受。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水が混入した場合でも優れた潤滑性能を示す耐水性のグリース組成物に関する。また、本発明は、ウォータポンプにおいてインペラの回転軸を支承するために組み込まれ、優れた潤滑寿命を示すウォータポンプ用転がり軸受転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
図1に示すように、エンジンの冷却水を圧送して循環させるウォータポンプ50は、インペラ51が固定された回転軸52を、軸方向に間隔をおいて配置された複数個のウォータポンプ用転がり軸受55によりケーシング56に支承して構成されている。冷却水はインペラ51と転がり軸受55との間に配置されたメカニカルシール57により密封されている。しかし、ウォータポンプ用転がり軸受55は、メカニカルシール57の回転軸52との摺動面は水潤滑状態であるため、水蒸気等が漏れてウォータポンプ用転がり軸受10側に浸入し、更には軸受内部にまで浸入してウォータポンプ用転がり軸受55が劣化してしまう。そこで、水蒸気等がインペラ51側からウォータポンプ用転がり軸受55に浸入するのを防止するとともに軸受内部に封入した潤滑グリースの漏洩を防止するために、ウォータポンプ用転がり軸受55のインペラ51側にシール装置(図示せず)が設けられている。また、ウォータポンプ用転がり軸受55の駆動側58にも、外部からの塵埃の侵入を防止するとともに軸受内部に封入した潤滑グリースの漏洩を防止するためにシール装置(図示せず)が設けられている。
【0003】
しかし、このような密封対策を行っても、メカニカルシール57やシール装置の経時劣化等により軸受内部に水が入り込む可能性があり、ウォータポンプ用転がり軸受に封入されるグリースにも耐水性が要求されている。封入グリースに水分が混入すると軸受寿命を大きく低下させることが知られており、例えば、古村らは、潤滑油(#180タービン油)に6%の水分が混入すると、混入しない場合に比べて転がり疲れ寿命が数分の1から20分の1にまで低下することを報告している(古村恭三郎、城田伸一、平川清:表面起点および内部起点の転がり疲れについて、NSK Bearing Journal、No.636、pp.1-10、1977)。また、Schatzbergらは、潤滑油中に僅か100ppmの水分が混入するだけで鋼の転がり強さが32〜48%も低下することを報告している(P.Schtzberg、I.M.Felsen:Effects of water and oxygen during rolling contact lubrication、Wear 12、pp.331-342、1968)。
【0004】
このような寿命低下は、混入した水分から発生した水素が軸受材料に作用し、白色組織剥離と呼ばわれる金属剥離を引き起こすことが考えられている。このような剥離を防ぐために、亜硝酸ナトリウム等の不動態酸化剤を添加したグリース(例えば、特許文献1参照)、有機アンチモン化合物や有機モリブデン化合物を添加したグリース(例えば、特許文献2参照)、粒径2μm以下の無機系化合物を添加したグリース(例えば、特許文献3参照)等のように、グリースを改良することが行われている。これらは、転がり接触部に添加剤に由来する被膜を生成して軸受材料への水素の浸入を防いでいるが、被膜が形成されるまでの間に振動や速度変化による転動体の滑りが起こると、転がり接触部で金属剥離が起こる場合がある。
【0005】
グリースの改良以外の対策として、軸受材料にステンレス鋼を使用したり(例えば、特許文献4参照)、転動体をセラミックス製にすること(例えば、特許文献5参照)等が提案されているが、これら材料からなる軸受は一般に高価となる。
【0006】
また、軸受鋼のような鉄は、水により容易に腐食(錆)が生じ、軸受から異音が発生するという問題がある。水の混入が考えられる軸受では、耐腐食性を有することも非常に重要であり、上記と同様の方法により耐腐食性を同時に付与することがなされているが、錆の発生を抑制する効果が十分に得られていない。
【0007】
【特許文献1】特許第2878749号公報
【特許文献2】特許第3512183号公報
【特許文献3】特開平9−169989号公報
【特許文献4】特開平3−173747号公報
【特許文献5】特開平4−244624号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、水分が混入した場合でも、白色組織剥離及び腐食の発生を抑制し、良好な潤滑を長時間維持することが可能なグリース組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、このようなグリース組成物を封入してなり、耐水性に優れるウォータポンプ用転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下のグリース組成物及びウォータポンプ用転がり軸受を提供する。
(1)鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種からなる基油と、増ちょう剤とを含み、かつ、オレオイルザルコシンをグリース全量の0.1〜5質量%の割合で含有することを特徴とするグリース組成物。
(2)ウォータポンプにおいてインペラの回転軸を支承するための転がり軸受であって、内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に配設してなり、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配設された空間内に上記(1)記載のグリース組成物が封入されていることを特徴とするウォータポンプ用転がり軸受。
【発明の効果】
【0010】
本発明のグリース組成物は、防錆性能に優れるオレオイルザルコシンを含有することで耐腐食性及び白色組織剥離に対する優れた耐性を発現する。
【0011】
また、本発明のウォータポンプ用転がり軸受は、このようなグリース組成物を封入したことにより、水分が混入した場合でも優れた潤滑寿命を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に関して詳細に説明する。
【0013】
本発明のグリース組成物において、基油は鉱油及び合成油から選ばれる。
【0014】
鉱油は、減圧蒸留、油剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、硫酸洗浄、白土精製、水素化精製等を、適宜組み合わせて精製したものを用いることができる。
【0015】
合成油としては、炭化水素系油、芳香族基油、エステル系油、エーテル系油等が挙げられる。炭化水素系油としては、ノルマルパラフィン、イソパラフィン、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−デセンオリゴマー、1−デセンとエチレンコオリゴマー等のポリ−α−オレフィンまたはこれらの水素化物等が挙げられる。芳香族系油としては、モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン、あるいはモノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン等が挙げられる。エステル系油としては、ジブチルセバケート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート、ジオクチルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジトリデシルグルタレート、メチル・アセチルシノレート等のジエステル油、あるいはトリオクチルトリメリテート、トリデシルトリメリテート、テトラオクチルピロメリテート等の芳香族エステル油、更にはトリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンベラルゴネート、ペンタエリスリトール−2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールベラルゴネート等のポリオールエステル油、更にはまた、多価アルコールと二塩基酸・一塩基酸の混合脂肪酸とのオリゴエステルであるコンプレックスエステル油等が挙げられる。エーテル系油としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコールモノエーテル、ポリプロピレングリコールモノエーテル等のポリグリコール、あるいはモノアルキルトリフェニルエーテル、アルキルジフェニルエーテル、ジアルキルジフェニルエーテル、ペンタフェニルエーテル、テトラフェニルエーテル、モノアルキルテトラフェニルエーテル、ジアルキルテトラフェニルエーテル等のフェニルエーテル油等が挙げられる。
【0016】
上記の鉱油、合成油は、それぞれ単独で使用してもよく、混合物として使用してもよい。また、基油は、40℃における動粘度が10〜400mm/sであることが好ましく、より好ましくは20〜250mm/s、更に好ましくは40〜150mm/sである。動粘度を前記範囲とすることで、低温起動時の異音の発生や、高温での油膜切れ等の不具合を解消することができる。
【0017】
増ちょう剤は、ゲル構造を形成し、上記の基油をゲル構造中に保持する能力があれば制限はない。例えば、Li,Na等からなる金属石けん、Li,Na,Ba,Ca等から選択される複合金属石けん、ベントン、シリカゲル、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物等の非石けん類を適宜選択して使用できるが、ウォータポンプ用転がり軸受は高速回転され高温になる傾向にあるため、グリースの耐熱性を考慮すると、ウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ウレタン化合物またはこれらの混合物が好ましい。ウレア化合物としてジウレア化合物、トリウレア化合物、テトラウレア化合物、ポリウレア化合物またはこれらの混合物が挙げられる。これらの中でもジウレア化合物、ウレア・ウレタン化合物、ジウレタン化合物またはこれらの混合物が好ましく、特にジウレア化合物が好ましい。
【0018】
増ちょう剤の配合量は、グリース全量の5〜40質量%であることが好ましく、5質量%未満ではグリース状態を維持することが困難となり、40質量%を超えるとグリースが硬くなりすぎて潤滑状態を十分に発現することができなくなるため、好ましくない。
【0019】
本発明では、オレオイルザルコシンを必須添加剤とする。このオレオイルザコリシンは防錆剤として優れた性能を有する。オレオイルザルコシンの含有量はグリース全量の0.1〜5質量%であり、0.1質量%未満では充分な防錆性能が得られず、5質量%を超えて添加しても増分に見合う効果の向上がみられない。これらを考慮すると、オレオイルザルコシンの添加量は、グリース全量の0.5〜3質量%がより好ましい。
【0020】
白色組織剥離の発生を抑制するには、オレオイルザルコシンによる防錆作用に加えて、転がり接触部に酸化膜が形成しやすくなれば、より効果的となる。そこで、グリース組成物には、下記の一般式(1)で表されるジアルキルジチオカルバミン酸系化合物、一般式(2)で表されるジアルキルジチオリン酸系化合物、一般式(3)〜(5)で表される有機亜鉛化合物、一般式(6)で表されるアルキルキサントゲン酸亜鉛から選ばれる少なくとも1種の有機金属塩を添加することが好ましい。
【0021】
【化1】

【0022】
【化2】

【0023】
【化3】

【0024】
一般式(1)、(2)において、Mは金属種を示し、具体的にはSb、Bi、Sn、Ni、Te、Se、Fe、Cu、Mo、Znから選択できる。また、R、Rは、同一基であっても、異なる基であってもよく、アルキル基、シクロアルキル基、アルケニル基、アリール基、アルキルアリール基、アリールアルキル基から選択される。R、Rとして特に好ましい基としては、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、1,1,3,3−テトラメチルヘキシル基、1,1,3−トリメチルヘキシル基、1,3−ジメチルブチル基、1−メチルウンデカン基、1−メチルヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−エチルブチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルシクロヘキシル基、3−ヘプチル基、4−メチルシクロヘキシル基、n−ブチル基、イソブチル基、イソプロピル基、イソヘプチル基、イソペンチル基、ウンデシル基、エイコシル基、エチル基、オクタデシル基、オクチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、シクロペンチル基、ジメチルシクロヘキシル基、デシル基、テトラデシル基、ドコシル基、ドデシル基、トリデシル基、トリメチルシクロヘキシル基、ノニル基、プロピル基、ヘキサデシル基、ヘキシル基、ヘニコシル基、ヘプタデシル基、ヘプチル基、ペンタデシル基、ペンチル基、メチル基、第三ブチルシクロヘキシル基、第三ブチル基、2−ヘキセニル基、2−メタリル基、アリル基、ウンデセニル基、オレイル基、デセニル基、ビニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、ヘプタデセニル基、トリル基、エチルフェニル基、イソプロピルフェニル基、第三ブチルフェニル基、第二ペンチルフェニル基、n−ヘキシルフェニル基、第三オクチルフェニル基、イソノニルフェニル基、n−ドデシルフェニル基、フェニル基、ベンジル基、1−フェニルメチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、1,1−ジメチルベンジル基、2−フェニルイソプロピル基、3−フェニルヘキシル基、ベンズヒドリル基、ビフェニル基等があり、またこれらの基はエーテル基を有していてもよい。
【0025】
一般式(3)〜(5)において、R、Rは、同一基であっても、異なる基であってもよく、炭素数1〜18の炭化水素基及び水素原子から選択される。特に、R、Rが共に水素原子である、メルカプトベンゾチアゾール亜鉛(一般式(3))、ベンゾアミドチオフェノール亜鉛(一般式(4))、メルカプトベンゾイミダゾール亜鉛(一般式(5))を好適に使用することができる。
【0026】
一般式(6)において、Rは炭素数1〜18の炭化水素基である。
【0027】
上記の有機金属塩の添加量は、単独使用、混合使用ともに、グリース全量に対して0.1〜20質量%である。有機金属塩の添加量が、0.1質量%未満では酸化膜の形成促進に効果がなく、20質量%を超えても増分に見合う効果の向上が得られないばかりか、軸受材料との酸化反応を異常に促進して腐食や異常摩耗を発生させるおそれがある。有機金属塩の添加量は、0.5〜10質量%の範囲が特に好ましい。
【0028】
グリース組成物には、各種性能を更に向上させるために、所望によりその他の添加剤を添加してもよい。例えば、酸化防止剤、他の防錆剤、極圧剤、油性向上剤、金属不活性化剤等をそれぞれ単独で、あるいは2種以上を混合して添加することができる。
【0029】
酸化防止剤は、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ジチオリン酸亜鉛等が挙げられるが、アミン系酸化防止剤及びフェノール系酸化防止剤が好適である。アミン系酸化防止剤としては、フェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン、ジフェニルアミン、フェニレンジアミン、オレイルアミドアミン、フェノチアジン等が挙げられる。また、フェノール系酸化防止剤としては、p−t−ブチル−フェニルサリシレート、2,6−ジ−t−ブチル−p−フェニルフェノール、2,2´−メチレンビス(4−メチル−6−t−オクチルフェノール)、4、4´−ブチリデンビス−6−t−ブチル−m−クレゾール、テトラキス〔メチレン−3−(3´,5´−ジ−t−ブチル−4´−ヒドキシフェニル)プロピオネート〕メタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、n−オクタデシル−β−(4´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、2−n−オクチル−チオ−4,6−ジ(4´−ヒドロキシ−3´,5´−ジ−t−ブチル)フェノキシ−1,3,5−トリアジン、4、4´−チオビス(6−t−ブチル−m−クレゾール)、2−(2´−ヒドロキシ−3´−t−ブチル−5´−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0030】
他の防錆剤として、例えばエステル類が挙げられる。具体的には、多塩基カルボン酸及び多価アルコールの部分エステルであるソルビタンモノラウレート、ソルビタントリステアレート、ソルビタンモノオレエート、ソルビタントリオレエート等のソルビタンエステル類、ポリオキシエチレンラウレート、ポリオキシエチレンオレエート、ポリオキシエチレンステアレエート等のアルキルエステル類等が挙げられる。
【0031】
油性向上剤としては、オレイン酸やステアリン酸等の脂肪酸、ラウリルアルコールやオレイルアルコール等のアルコール、ステアリルアミンやセチルアミン等のアミン、リン酸トリクレジル等のリン酸エステル、動植物油等が挙げられる。
【0032】
極圧剤としては、リン系、ジチオリン酸亜鉛、有機モリブデン等が挙げられる。
【0033】
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0034】
これらその他の添加剤の添加量は、本発明の効果を損なわない範囲であれば制限はないが、通常はグリース全量の0.1〜20質量%である。添加量が0.1質量%未満では添加効果が十分ではなく、20質量%を超えて添加しても効果が飽和するとともに、基油の量が相対的に少なくなるため潤滑性が低下するおそれがある。
【0035】
グリース組成物の製造方法には制限がないが、一般的には基油中で増ちょう剤を反応させて得られる。その際、オレオイルザルコシンは、得られたグリース組成物に所定量添加し、ニーダーやロールミル等で十分攪拌し、均一に分散させる。この距離を行うときは、加熱することも有効である。また、その他の添加剤は、オレオイルザルコシンと同時に添加することが工程上好ましい。
【0036】
また、本発明は上記のグリース組成物を封入してなるウォータポンプ用の転がり軸受(例えば、図1のウォータポンプ用転がり軸受55)に関する。上述したように、ウォータポンプ用転がり軸受には水が浸入しやすいが、上記のグリース組成物はオレオイルザイルコシンを含有するため、本発明のウォータポンプ用転がり軸受は水分が混入しても腐食を効果的に抑え、白色組織剥離も効果的に抑えることができ、長寿命となる。
【実施例】
【0037】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれにより何ら制限されることはない。
【0038】
(実施例1〜2、比較例1〜3)
表1に示す配合にて試験グリースを調製した。即ち、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネートを溶解した鉱油と、オクタデシルアミンを溶解した鉱油とを攪拌混合してウレア系ベースグリースとし、徐冷後にオレイルザルコシン(日本油脂(株)製)及び酸化防止剤(p.p´−ジオクチルジフェニルアミン;東京化成(株)製)を所定量添加し、更に攪拌し、脱泡処理して実施例1の試験グリースを得た。また、鉱油に代えて、鉱油とポリα−オレフィン油との混合油を用いて、同様の工程により実施例2の試験グリースを得た。
【0039】
比較のために、実施例1のウレア系ベースグリースを用い、酸化防止剤のみを添加して比較例1の試験グリース、酸化防止剤及びバリウムスルホネートを添加して比較例2の試験グリースを得た。また、実施例2のウレア系ベースグリースを用い、酸化防止剤及びバリウムスルホネートを添加して比較例3の試験グリースを得た。
【0040】
尚、混和ちょう度は、何れの試験グリースもLNGI No.2に調整した。そして、各試験グリースについて、下記に示す(1)防錆試験及び(2)軸受耐水性試験を行った。結果を表1に併記する。
【0041】
(1)防錆試験
日本精工(株)製玉軸受「608」に試験グリースを軸受空間(内輪と外輪と玉とで形成される空間)の20体積%を占めるように封入し、高湿恒温槽(温度80℃、湿度90%)に入れて一週間放置後、軸家を分解して目視にて内輪の錆の発生状況を間作した。錆の発生が見られないものを「A」、1〜5箇所に錆が発生しているものを「B」、6箇所以上に錆が発生しているものを「C」とした。
(2)軸受耐水性試験
日本精工(株)製円すいころ軸受「HR32017(内径85mm、外径130mm)」に試験グリースを封入し、ラジアル荷重35.8N、アキシアル荷重15.7N、回転速度1500rpmにて外部から水を軸受内部に20ml/hの割合で注入しながら連続回転させた。そして、回転中に振動が発生したときに剥離が発生したと判断し、回転開始から100時間以内に振動が発生した回数(剥離発生数)を計数した。試験は各試験グリースとも10回行い、下記式から剥離発生確率を算出した。
剥離発生確率(%)=(剥離発生数/試験数)×100
【0042】
【表1】

【0043】
表1に示すように、本発明に従いオレオイルザルコシンを含有する各実施例のグリース組成物を封入することで、防錆性能及び剥離防止効果が極めて良好で、長寿命の転がり軸受となることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】ウォータポンプの一例を示す一部断面図である。
【符号の説明】
【0045】
50 ウォータポンプ
51 インペラ
52 回転軸
55 ウォータポンプ用転がり軸受
56 ケーシング
57 メカニカルシール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油及び合成油から選ばれる少なくとも1種からなる基油と、増ちょう剤とを含み、かつ、オレオイルザルコシンをグリース全量の0.1〜5質量%の割合で含有することを特徴とするグリース組成物。
【請求項2】
ウォータポンプにおいてインペラの回転軸を支承するための転がり軸受であって、内輪と外輪との間に複数の転動体を転動自在に配設してなり、前記内輪及び前記外輪の間に形成され前記転動体が配設された空間内に請求項1記載のグリース組成物が封入されていることを特徴とするウォータポンプ用転がり軸受。

【図1】
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【公開番号】特開2008−56839(P2008−56839A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−237393(P2006−237393)
【出願日】平成18年9月1日(2006.9.1)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】