説明

コアシェル型微粒子及びこれを用いた機能デバイス

【課題】白金の使用量を低減し触媒活性を向上させるコアシェル型微粒子及びこれを用いた機能デバイスを提供すること。
【解決手段】コアシェル型微粒子は、面心立方結晶構造を有するルテニウムからなるコア粒子と、コア粒子の表面に形成され、面心立方結晶構造を有する白金からなるシェル層とを有する。コアシェル型微粒子は、多重双晶微粒子であって{111}結晶面によって囲まれた粒子を含有している。より好ましくは、コア粒子の平均直径は0.8nm以上、3.5nm以下、シェル層の厚さは0.2nm以上、1nm以下である。コアシェル型微粒子は、例えば、燃料電池を構成する触媒電極層の触媒粒子として用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コア金属粒子とシェル層を有するコアシェル型微粒子及びこれを用いた機能デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
水素やメタノール等の燃料を酸素又は空気を用いて電気化学的に酸化して、燃料の化学エネルギーを電気エネルギーに変換して取り出すことができる、DMFC(直接型メタノール燃料電池)、PEFC(固体高分子電解質型燃料電池)等の燃料電池は、高いエネルギー効率を有し、環境負荷が少なく、注目されている。
【0003】
燃料電池は、一般に、アノード電極(燃料極、負極)とカソード電極(酸化剤極、正極)でプロトン伝導性高分子電解質膜を挟み接合した膜・電極接合体を、燃料ガス又は酸化剤ガスのガス流路をもったセパレータで挟んだ構造を有する単位セルが、複数個、積層されて構成される。
【0004】
燃料電池の電極に使用される触媒には、白金(Pt)等の白金族元素の貴金属粒子からなる貴金属触媒が用いられている。燃料電池の製造コストに占める貴金属触媒のコストの割合が大きく、Pt等の貴金属は高価な材料であるために、燃料電池の低コスト化が進まず、燃料電池の普及の妨げとなっている。燃料電池の普及のためには、触媒の低貴金属化又は脱貴金属化が、重要な技術課題の一つとされ、研究開発が進められている。
【0005】
Ptの使用量を低減する方法として、Ptの粒子サイズを微細化して表面積を増加させる方法、Ptに他の金属を添加する方法、Ptと他の金属を合金化させる方法、非白金触媒を使用する方法等が検討されている。
【0006】
この技術課題に対して、触媒作用に寄与するPt等の原子は、触媒粒子の最表面に露出しているPt等の原子のみであり、触媒粒子の内部のPt等の原子は触媒作用に寄与しないので、Pt等の原子によってシェル層をコア粒子の表面に形成するコアシェル型微粒子からなる触媒が提案されている(例えば、特許文献1〜特許文献5を参照。)。
【0007】
先ず、「燃料電池用電極触媒及びその製造方法」と題する後記の特許文献1には、次の記載がある。
【0008】
特許文献1の発明の電極触媒は、ルテニウム粒子の表面の一部を白金層により被覆されている。これにより、触媒金属粒子の内部に存在し、反応に関与しない白金を低減させることができ、反応に関与する白金を選択的に粒子外表面に担持することができる。この電極触媒は、特にアノード触媒として有効である。なお、ルテニウム粒子の全部を白金が覆ってしまうと、一酸化炭素の酸化機能が発揮できないため、ルテニウム粒子の少なくとも一部は露出していることが望ましいとしている。
【0009】
また、「燃料電池用電極触媒」と題する後記の特許文献2には、次の記載がある。
特許文献2の第一番目の発明に係る燃料電池用電極触媒は、導電性担体に金属触媒を担持させた燃料電池用電極触媒であって、前記金属触媒が、300〜1300個のPt原子を平面状に隣り合わせて結合させた表面部を有していることを特徴とする。
【0010】
特許文献2の第三番目の発明に係る燃料電池用電極触媒は、第一番目又は第二番目の発明において、前記金属触媒の前記表面部が、(111)面のみを有していることを特徴とする。
【0011】
特許文献2の第四番目の発明に係る燃料電池用電極触媒は、導電性担体に金属触媒を担持させた燃料電池用電極触媒であって、前記金属触媒が、140〜4000個のPt原子を円弧面状に隣り合わせて結合させた表面部を有していることを特徴とする。
【0012】
特許文献2の第五番目の発明に係る燃料電池用電極触媒は、第一番目の発明において、前記金属触媒が、前記表面部よりも内側に位置して、Pd、Rh、Os、Ru、Ir、遷移金属のうちの少なくとも一種の原子を結合させた円弧面を有する中心部を有すると共に、合計500個以上の原子からなっていることを特徴とする。
【0013】
特許文献2の第六番目の発明に係る燃料電池用電極触媒は、第四番目又は第五番目の発明において、前記金属触媒の前記表面部が、(100)面よりも(111)面を多く有していることを特徴とする。
【0014】
特許文献2の実施形態に係る燃料電池用電極触媒は、特許文献2の図5に示すように、炭素材料からなる導電性担体21に金属触媒22を担持させた燃料電池用電極触媒20であって、導電性担体21が、球状をなすと共に、金属触媒22が、140〜4000個のPt原子を円弧面状に隣り合わせて結合させた厚さ方向に1個のPt原子の層からなる球状の表面部22aと、前記表面部22aよりも内側に位置して、Pd、Rh、Os、Ru、Ir、遷移金属(例えば、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn等)のうちの少なくとも一種の原子を結合させた円弧面を有する球状の中心部22bとを有し、当該金属触媒22が合計500個以上の原子からなると共に、当該金属触媒22の表面部22aが(100)面よりも(111)面を多く有しているものであるとしている。
【0015】
また、「コアシェル型のナノ粒子及びその製造方法」と題する後記の特許文献3には、次の記載がある。
【0016】
特許文献3の発明は、a)周期表の3〜15族に属する金属、半金属(metalloid)、ランタニド族金属、アクチニド族金属、これら元素の少なくとも2種の合金及び半導体化合物からなる群から選択される物質からなるナノ粒子コア及びb)前記ナノ粒子コアの表面に形成された結晶質のシェルからなるシェルを含むコアシェル型のナノ粒子を提供する。コアとして使用し得る金属又は半導体ナノ粒子は、結晶構造を有するものであって、それによってシェルのエピタキシャル成長が可能であるものであれば、特許文献3の発明においては何れも等価物と見なされるとしている。
【0017】
また、「金属或いはセラミックコア材料を含むコア/シェルタイプの触媒粒子及びそれらの製造方法」と題する後記の特許文献4には、次の記載がある。
【0018】
特許文献4の発明は多結晶バルクの貴金属表面(好ましくはPt)の特性と組み合わせたコア/シェル構造の原理に基づいている。従って、コア/シェルベースの触媒粒子であって、該粒子のシェルは多結晶バルクの貴金属(例えばPt)の特性を示すのに充分なだけ大きく、同時に該粒子のコアはシェル中に存在する貴金属(好ましくはPt)を含有しないものが提供される。
【0019】
個々の触媒粒子は、20〜100nmの範囲、好ましくは20〜50nmの範囲、及び、更に好ましくは20〜40nmの範囲の平均直径(dコア+シェル)を特徴とし、dコア+シェル=20〜100nmである。
【0020】
粒子の外部シェルの厚さ(tシェル)は、約1〜20nmの範囲、好ましくは約1〜10nmの範囲、より好ましくは約1〜8nmの範囲、及び、最も好ましくは約1〜3nmの範囲であるべきである。粒子の外部シェルは更には少なくとも3原子層の白金原子を含むべきである。Ptベースの合金の場合、合金化元素の原子を含む少なくとも3原子層の白金原子を含むべきである。より薄い層、特に薄い白金単分子層は比活性の望ましい増加をもたらさないとしている。
【0021】
また、「燃料電池用触媒とその製造方法、燃料電池用触媒を担持するカーボン粒子、膜電極接合体並びに燃料電池。」と題する後記の特許文献5には、次の記載がある。
【0022】
特許文献5の発明は、コア・シェル型の構造を有する燃料電池用触媒であって、コアがAu又はその合金の微粒子であり、シェルがPt又はその合金である燃料電池用触媒を提供する。前記燃料電池用触媒を、燃料電池を構成する膜電極接合体の正極触媒層に用いることにより、耐久性に優れた燃料電池を構成することができる。
【0023】
上記効果を実現させるためには、Pt又はPt合金のシェル層の厚さは2nm以下であることが好ましい。シェル層の厚さを2nm以下とすることにより、AuコアとPtシェルとの界面でのひずみの影響がシェルの表層まで伝播しやすくなり、引っ張り応力に起因したイオン化ポテンシャルを高める前記作用がPtシェル層表面で発現しやすくなるためである。また、シェル層は、Ptの単原子層に相当する厚さまで薄くすることができる。一方、ナノ粒子触媒の表面にAu原子とPt原子が共存する構造では、耐久性が低下する場合があるため、Auのコアは、全面がPtシェル層により被覆されていることが望ましいとしている。
【0024】
なお、「Al超微粒子」と題する後記の特許文献6には、Al多重双晶五角十面体粒子であるAl多重双晶粒子からなるAl超微粒子に関する記載がある。
【0025】
また、「モリブデン若しくはタングステン粒子又は該粒子からなる薄膜及びその製造方法」と題する後記の特許文献7には、面心立方格子(fcc)結晶構造をもつ粒子であり、熱力学的に安定又は準安定である大径の粒子構造を備えているモリブデン若しくはタングステン粒子に関する記載がある。
【0026】
更に、金属超微粒子に関して各種の研究がなされており、例えば、高分解能電子顕微鏡による金超微粒子の動的挙動の研究(例えば、後記の非特許文献1を参照。)、コバルト超微粒子の結晶相に及ぼすサイズ効果に関する研究(例えば、後記の非特許文献2を参照。)等が知られている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0027】
燃料電池の触媒電極層を構成するPtの使用量を低減するため、従来、非白金元素からなるコア粒子とPtからなるシェル層から形成されるコアシェル型微粒子が検討されており、多数の報告がなされている。
【0028】
しかし、触媒電極層の形成にコアシェル型微粒子を用いてもなおPt使用量の削減によるコスト抑制には限界があり、今なお、燃料電池は本格的な普及には至っていない。このため、更にPt使用量を削減するか、若しくは、同じPt使用量であっても、より触媒の効果が得られるように触媒活性を向上させる必要がある。
【0029】
触媒活性を向上させるためには、触媒電極層の形成に投入した総Pt原子数のうち、触媒作用に寄与できるPt原子数を増加させることが重要である。触媒作用に寄与できるPt原子数とは、触媒微粒子の表面に露出したPt原子であり、触媒活性を向上させるためには、触媒微粒子の表面を形成するPt原子の面密度を向上させることが必要である。
【0030】
触媒微粒子表面のPt原子の面密度は、触媒微粒子表面がアモルファスである場合よりも、触媒微粒子表面が結晶である場合に大であり、原子が規則正しく配列した結晶面の方が高密度である。更に、触媒微粒子表面が結晶である場合、結晶構造の中でも、体心立方(bcc)結晶構造や六方最密(hcp)結晶構造が有する結晶面、面心立方(fcc)結晶構造の{111}以外の結晶面よりも、面心立方(fcc)結晶構造の{111}結晶面が最も原子が高密度に充填された最密面となる。
【0031】
従って、面心立方(fcc)結晶構造の{111}結晶面で囲まれ、表面に{111}結晶面を有する微粒子が、最も触媒作用に寄与できる原子の割合が高く、触媒として望ましい形態の微粒子である。つまり、シェル層がPt原子からなるコアシェル型微粒子の場合、シェル層を形成するPt原子が、面心立方(fcc)結晶構造の{111}面として結晶成長し、コア粒子の表面を覆う微粒子となることが、触媒として最良の形態であると考えられる。
【0032】
なお、特許文献1、特許文献4、特許文献5で提案されているコアシェル型微粒子では、微粒子の結晶性については言及がなされていない。また、Ru原子からなる粒子をコアとするコアシェル型微粒子が記載されているが、常温常圧下で六方最密(hcp)結晶構造をとるRuは、常温常圧下で面心立方(fcc)結晶構造をとるPtとは結晶構造が異なるために、通常、コア粒子表面に形成されるPt層(シェル層)に高密度な原子面は形成されない。
【0033】
特許文献3に、コアシェル型微粒子において、シェル層を形成する方法として、コア粒子表面にシェル層をエピタキシャル成長させることによって、結晶質のシェル層を有するコアシェルナノ粒子が記載されているが、シェル層は、金属酸化物からなり、Pt等の貴金属原子からなるものではない。
【0034】
一般に、コアシェル型微粒子の形成において、コア粒子が面心立方(fcc)結晶構造をとり得ない材料からなり、シェル層が、コア粒子に整合したエピタキシャル成長によって形成される場合、シェル層も面心立方(fcc)結晶構造以外の結晶構造となり、微粒子表面に最密原子面である面心立方(fcc)結晶構造の{111}結晶面を形成することはできない。
【0035】
本発明は、上述したような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、白金の使用量を低減することができ、触媒活性を向上させることができるコアシェル型微粒子及びこれを用いた機能デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0036】
即ち、本発明は、第1の材料(例えば、後述の実施の形態におけるルテニウム)により形成され、面心立方結晶構造を有するコア粒子と、前記第1の材料と異なる第2の材料(例えば、後述の実施の形態における白金)により前記コア粒子の表面に形成され、面心立方結晶構造を有するシェル層とを有し、多重双晶微粒子であって{111}結晶面によって囲まれた粒子を含有している、コアシェル型微粒子に係るものである。
【0037】
また、本発明は、上記のコアシェル型微粒子を用いた機能デバイスに係るものである。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、第1の材料により形成され、面心立方結晶構造を有するコア粒子と、前記第1の材料と異なる第2の材料により前記コア粒子の表面に形成され、面心立方結晶構造を有するシェル層とを有し、多重双晶微粒子であって{111}結晶面によって囲まれた粒子を含有しているので、白金の使用量を低減することができ、触媒活性を向上させることができるコアシェル型微粒子を提供することができる。
【0039】
また、本発明によれば、上記のコアシェル型微粒子を用いたものであるので、白金の使用量を低減することができ、触媒活性を向上させることができる機能デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態における、DMFCの構成を説明する断面図である。
【図2】本発明の実施例における、PtRuコアシェル型微粒子の高分解能HAADF STEM像を示す図である。
【図3】同上、Ruコア微粒子の高分解能HAADF STEM像を示す図である。
【図4】同上、多重双晶粒子の形態を有するRuコア微粒子の高分解能HAADF STEM像を示す図である。
【図5】同上、Wコア微粒子の高分解能HAADF STEM像を示す図である。
【図6】同上、Moコア微粒子の高分解能HAADF STEM像を示す図である。
【図7】同上、燃料電池の構成を示す断面図である。
【図8】同上、燃料電池の発電特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
本発明のコアシェル型微粒子では、前記コア粒子は、0.8nm以上、5nm以下の平均直径を有する構成とするのがよい。
【0042】
また、前記コア粒子は、0.8nm以上、3.5nm以下の平均直径を有する構成とするのがよい。
【0043】
また、前記シェル層は、0.2nm以上、10nm以下の厚さを有する構成とするのがよい。
【0044】
また、前記シェル層は、0.2nm以上、3nm以下の厚さを有する構成とするのがよい。
【0045】
また、前記シェル層は、0.2nm以上、1nm以下の厚さを有する構成とするのがよい。
【0046】
また、前記第1の材料が、ニッケル、銅、パラジウム、銀、金、イリジウム、チタン、鉄、コバルト、ルテニウム、オスミウム、クロム、モリブデン、タングステンの何れかの金属、或いは、前記金属の何れかを含有する合金である構成とするのがよい。
【0047】
また、前記第2の材料が、白金、ニッケル、銅、パラジウム、銀、金の何れかの金属である構成とするのがよい。
【0048】
また、前記第1の材料がルテニウムであり、前記第2の材料が白金である構成とするのがよい。このような構成によれば、白金の使用量を削減することができ、劣化が少なく耐久性に優れ、高い触媒活性を長期間維持することができるコアシェル型微粒子を提供することができる。
【0049】
本発明の機能デバイスでは、前記コアシェル型微粒子を触媒電極層の触媒粒子として用い、燃料電池として構成されるのがよい。このような構成によれば、アノード触媒としてPtRuコアシェル型粒子を好適に使用することができ、白金の使用量を削減することができ、劣化が少なく耐久性に優れ、高い触媒活性を長期間維持することができ、高い出力密度及び出力維持率を有し、低価格化が可能である燃料電池を提供することができる。
【0050】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は上述した作用、効果を満たす構成であればよく、これらの実施形態に限定されるものではない。なお、以下に示す図面は構成が明瞭に分かり易くなるように描いているので、縮尺は厳密に正確なものではない。
【0051】
以下の説明では、1層の白金原子層の厚さは、白金単体の格子定数をa0=0.39231nmとし、a0/√3=0.2265nm(=d111)とする。
[実施の形態]
<コアシェル型微粒子の構成>
本発明は、白金以外の元素からなるコア金属粒子(以下の説明では、コア金属粒子を単に「コア粒子」と言う。)と、このコア金属粒子の表面に形成され白金等の貴金属からなるシェル層を有するコアシェル型微粒子に関するものである。このコアシェル型微粒子は、高い発電効率を実現することができる燃料電池の燃料極触媒として好適に使用することができる。
【0052】
本発明のコアシェル型微粒子は、そのコア粒子の結晶構造を面心立方(fcc)結晶構造として、コア粒子を構成する材料とは異なる材料によって、コア粒子表面に面心立方(fcc)結晶構造をエピタキシャルに成長させて、コア粒子表面を被覆するシェル層を形成したものである。
【0053】
ナノ粒子材料は、全構成原子のうち表面を占める原子の割合が高く、サブミクロン程度の通常サイズの粒子では見られないような電子状態を実現することができ、通常では発揮できないような電気的特性が得られる可能性を秘めている。本発明は、コア粒子とシェル層のハイブリッド構造からなるコアシェル型微粒子(ナノ粒子)において、原子レベルで構造制御することで、触媒活性を最大化させることを狙いとしている。
【0054】
本発明におけるコアシェル型微粒子は、第1の材料によって面心立方(fcc)結晶構造を有するコア微粒子を形成し、第1の材料と異なる第2の材料によって面心立方(fcc)結晶構造を有するシェル層をコア微粒子の表面にエピタキシャル成長させることによって形成され、面心立方(fcc)結晶構造の{111}結晶面を表面に有している。
【0055】
本発明におけるコアシェル型微粒子(コアシェル型触媒)は、好ましくは、貴金属以外の第1の材料によって面心立方(fcc)結晶構造を有するコア微粒子を形成し、好ましくは、貴金属からなる第2の材料によって面心立方(fcc)結晶構造を有するシェル層をコア微粒子の表面にエピタキシャル成長させることによって形成され、面心立方(fcc)結晶構造の{111}結晶面を触媒微粒子の表面に有している。
【0056】
面心立方(fcc)結晶構造の{111}面は、原子が最密に充填された結晶面であるため、アモルファス粒子や他の結晶構造、面心立方(fcc)結晶構造の{111}以外の面に比較して、触媒作用にあずかることができるシェル層の原子数を増大させ、触媒の効果を高め触媒活性を向上させることができ、触媒粒子の形成に必要とされる貴金属材料の量を低減することができ、燃料電池の製造コストを抑制することできる。
【0057】
コア粒子を形成する材料として、常温常圧下のバルク状態で、面心立方(fcc)結晶構造を有する材料はもちろん、常温常圧下のバルク状態において、六方最密(hcp)結晶構造、体心立方(bcc)結晶構造を有する材料を使用することができる。例えば、面心立方(fcc)結晶構造を有する材料として、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、金(Au)、イリジウム(Ir)等の金属、六方最密(hcp)結晶構造を有する材料として、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)等の金属、体心立方(bcc)結晶構造を有する材料として、鉄(Fe)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)等の金属を使用することができ、更に、これら金属の合金を使用することができ。
【0058】
粒子のサイズを非常に小さくしていくと、粒子を形成する全原子数のうち、粒子表面に出ている原子数の割合が大きくなるために、粒子の凝集エネルギーに対して、表面エネルギーを最小にしようとする効果が大きくなり、より表面積の小さい結晶構造、即ち、体心立方(bcc)結晶構造、六方最密(hcp)結晶構造よりも単位体積当たりの原子密度が高い最密結晶構造である面心立方(fcc)結晶構造に相変態する場合がある(非特許文献2を参照。)。例えば、常温常圧下で体心立方(bcc)結晶構造を有するα−Feは相変態して面心立方(fcc)結晶構造を有するγ−Feとなり、常温常圧下で六方最密(hcp)結晶構造有するα−Coは相変態して面心立方(fcc)結晶構造を有するβ−Coとなる。
【0059】
本発明のコアシェル型微粒子では、上記の効果を利用し、常温常圧下のバルク状態で六方最密(hcp)結晶構造を有するRu等、常温常圧下のバルク状態で体心立方(bcc)結晶構造を有するMo、W等が相変態した面心立方(fcc)結晶構造を有する微粒子を作製し、これをコア粒子として用いることができる。
【0060】
シェル層を形成する材料として、常温常圧のバルク状態で、面心立方(fcc)結晶構造を有するPtの他に、Ni、Cu、Pd、Ag、Au等も使用することができる。前述したように、面心立方(fcc)結晶構造を有するコア粒子に対しエピタキシャル成長によって、面心立方(fcc)結晶構造を有するシェル層を形成することができる。
【0061】
シェル層を構成する粒子の表面は、好ましくは、面心立方(fcc)結晶構造の少なくとも1つ以上の{111}結晶面を有しており、より好ましくは、シェル層を構成する粒子の表面の全ての面が面心立方(fcc)結晶構造の{111}面からなり、シェル層を形成する粒子が10面体又は20面体の多重双晶粒子(Multiply Twinned Particle)であることが望ましい。
【0062】
このような10面体又は20面体の多重双晶粒子の面は、面心立方(fcc)結晶構造の結晶面のうちで原子密度が最大である{111}面であるので(非特許文献1、特許文献5、特許文献6を参照。)、シェル層を形成する粒子の表面の原子密度を最大にすることができ、つまり触媒作用に寄与できる原子数を大きくすることができる。
【0063】
コア粒子の平均直径は、0.8nm以上、10nm以下の範囲、好ましくは、0.8nm以上、5nm以下の範囲、より好ましくは、0.8nm以上、3.5nm以下の範囲であることが望ましい。シェルの厚さは、約0.2nm以上、10nmの範囲、好ましくは、0.2nm以上、3nm以下の範囲、より好ましくは、0.2nm以上、1nm以下の範囲であることが望ましい。
【0064】
<コアシェル型微粒子の製造方法>
以下の説明では、コアシェル型微粒子を構成するコア粒子がルテニウム単体によって形成される場合を例にとって説明する。
【0065】
塩化ルテニウム(III)(RuCl3)等のルテニウム塩をエチレングリコールに溶かし、ルテニウム(III)イオンのエチレングリコール溶液を調製する。次に、この溶液に水酸化ナトリウム水溶液を加え、よく撹拌しながら、170℃まで昇温させ、その後、170℃に保つ。この時、ルテニウム(III)イオンがエチレングリコールによって還元され、ルテニウムナノ粒子の分散液が得られる。
【0066】
この分散液をマイクロ波加熱装置等によって1分〜40分間で120℃〜170℃まで昇温させることによって、平均粒子径(平均直径)1.4nm〜4.6nmのルテニウムナノ粒子を合成することができる。例えば、15分間で170℃まで昇温させることによって平均粒子径(平均直径)1.9nmのルテニウムナノ粒子を合成することができる。
【0067】
(ルテニウムナノ粒子の担体への吸着)
次に、ルテニウムナノ粒子の合成反応後の反応液に、カーボンブラック等の導電性炭素材料等からなる担体を混合し、担体にルテニウムナノ粒子を吸着させる。次に、反応液から担体に担持されたルテニウムナノ粒子を遠心分離器等によって分離し、取り出し、イオン交換水等で洗浄する。この後、次に説明するようにして、ルテニウムナノ粒子の表面を被覆するように白金層を形成する。
【0068】
(ルテニウムナノ粒子への白金層の形成)
ルテニウムナノ粒子の分散液に、塩化白金酸等の白金塩含有液と、テトラヒドロホウ酸ナトリウム等の還元剤含有液とを滴下することによって、ルテニウムナノ粒子の表面全体を被覆するように白金層を形成する。この方法によれば、白金塩含有液、還元剤含有液の滴下速度を制御することによって、ルテニウムナノ粒子の表面への白金の析出速度を最適に制御することができ、白金層の平均厚を制御することができる。
【0069】
白金塩含有液、還元剤含有液の滴下速度は、例えば、白金塩含有液、還元剤含有液をそれぞれシリンジに入れ、シリンジをシリンジポンプによって制御することによってできる。滴加速度は、早すぎなければ問題はない。滴下速度が早すぎると白金がルテニウムナノ粒子に析出せず、単独で析出することが電子顕微鏡で確認できるので、予め、白金がルテニウムナノ粒子の面に析出し、単独で析出しないような滴下速度の範囲を、電子顕微鏡で確認しておく。
【0070】
以上のようにして、担体に担持されたコアシェル型微粒子を逐次還元法によって作製することができるが、同時還元法によってコアシェル型微粒子を作製することもできる。
【0071】
(シェル層の厚さ(白金原子積層数)の評価方法)
作製したコアシェル型微粒子のシェル層の平均厚さは、コア粒子の平均直径とコアシェル型微粒子の平均直径(シェル層の外側直径に等しい。)をそれぞれSEM像(Scanning Electron Microscopy image)又はTEM像(Transmission Electron Microscopy image)により評価し、コア粒子、コアシェル型微粒子の平均粒子径(平均直径)を求め、コア粒子の平均粒子径(平均直径)R1とコアシェル型微粒子の平均粒子径(平均直径)R2の差((R2−R1)/2)により求められる。白金原子積層数は、白金層の平均厚さを白金の面間隔(d111=0.2265nm)で割ることにより求められる。なお、コア粒子とコアシェル型微粒子のそれぞれの平均粒子径(平均直径)は、粒子の短径及び長径の各方向について求められた粒子径の平均値とする。
【0072】
また、コア粒子、コアシェル型微粒子の粒径方向にTEM−EDX(Transmission Electron Microscopy-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:透過型電子顕微鏡エネルギー分散型X線分析法)、又は、TEM−EDX(Transmission Electron Microscopy-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:透過型電子顕微鏡エネルギー分散型X線分析法)によるライン分析によって、コア粒子とコアシェル型微粒子のそれぞれの平均粒子径(平均直径)を求めこれらより、シェル層の白金層の平均厚さ(白金原子積層数)を求めることができる。なお、コア粒子とコアシェル型微粒子のそれぞれの平均粒子径(平均直径)は、粒子の短径及び長径の各方向について求められた粒子径の平均値とする。
【0073】
以上の説明は、コア粒子がRu微粒子である場合のコアシェル型微粒子の製造方法であるが、コア粒子がルテニウム以外の材料からなる場合でも、コア粒子を合成するために使用する反応物質、溶媒、及び、反応条件を変更するだけで、白金層の形成等に関わる主要な工程を以上の説明と全く同様にして、コアシェル型微粒子を製造することができる。
【0074】
[コアシェル型微粒子が触媒粒子として適用される燃料電池]
図1は、本発明の実施の形態における、DMFCの構成を説明する断面図である。
【0075】
図1に示すように、メタノール水溶液が燃料25として、流路をもつ燃料供給部(セパレータ)50の入口26aから通路27aへと流され、基体である導電性のガス拡散層24aを通って、ガス拡散層24aによって保持された触媒電極22aに到達し、図1の下方に示すアノード反応に従って、触媒電極22a上でメタノールと水が反応し、水素イオン、電子、二酸化炭素が生成され、二酸化炭素を含む排ガス29aが出口28aから排出される。
【0076】
生成された水素イオンは、プロトン伝導性複合電解質によって形成された高分子電解質膜23中を、生成された電子はガス拡散層24a、外部回路70を通り、更に、基体である導電性のガス拡散層24bを通って、ガス拡散層24bによって保持された触媒電極22bに到達する。
【0077】
図1に示すように、空気又は酸素35が、流路をもつ空気又は酸素供給部(セパレータ)60の入口26bから通路27bへと流され、ガス拡散層24bを通って、ガス拡散層24bによって保持された触媒電極22aに到達し、図1の下方に示すカソード反応に従って、触媒電極22b上で水素イオン、電子、酸素が反応し、水が生成され、水を含む排ガス29bが出口28bら排出される。図1の下方に示すように全反応は、メタノールと酸素から電気エネルギーを取り出して水と二酸化炭素を排出するというメタノールの燃焼反応となる。
【0078】
図1において、高分子電解質膜23は、プロトン伝導性電解質からなる。高分子電解質膜23によって、アノード20とカソード30が隔てられ、高分子電解質膜23を通して水素イオンや水分子が移動する。高分子電解質膜23は、水素イオンの伝導性が高い膜であり、化学的に安定であって機械的強度が高いことが好ましい。
【0079】
図1において、触媒電極22a、22bは、集電体である導電性の基体を構成し、ガスや溶液に対して透過性をもったガス拡散層24a、24b上に密着して形成されている。ガス拡散層24a、24bは、例えば、カーボンペーパー、カーボンの成形体、カーボンの焼結体、焼結金属、発泡金属等の多孔性基体から構成される。燃料電池の駆動によって生じる水によるガス拡散効率の低下を防止するために、ガス拡散層は、フッ素樹脂等で撥水処理されている。
【0080】
触媒電極22a、22bは、触媒が担持された担体がプロトン伝導性高分子電解質によって結着され形成されている。担体として、例えば、アセチレンブラック、黒鉛のような炭素、アルミナ、シリカ等の無機物微粒子が使用される。プロトン伝導性高分子電解質を溶解させた有機溶剤に炭素粒子(触媒金属が担持されている。)が分散された溶液を、ガス拡散層24a、24bに塗布し、有機溶剤を蒸発させてプロトン伝導性高分子電解質によって結着された膜状の触媒電極22a、22bが形成される。
【0081】
高分子電解質膜23が、ガス拡散層24a、24b上に密着して形成された触媒電極22a、22bによって挟持され、膜電極接合体(MEA)40が形成されている。触媒電極22a、ガス拡散層24aによってアノード20が構成され、触媒電極22b、ガス拡散層24bによってカソード30が構成されている。触媒電極22a、22bと高分子電解質膜23は接合され、接合界面で水素イオンの高い伝導性が保持され、電気抵抗が低く保持される。
【0082】
なお、図1に示した例では、燃料25の入口26a、排ガス29aの出口28a、空気又は酸素(O2)35の入口26b、排ガス29bの出口28bの各開口部が、高分子電解質膜23、触媒電極22a、22bの面に垂直に配置されているが、上記の各開口部が、高分子電解質膜23、触媒電極22a、22bの面に平行に配置されている構成とすることもでき、上記の各開口部の配置に関して種々の変形が可能である。
【0083】
図1に示す燃料電池の製造は、各種文献に公知されている一般的な方法を利用することができるので、製造方法に関する詳細な説明は省略する。
【0084】
次に、コアシェル型微粒子に関する実施例について説明する。
【実施例】
【0085】
<PtRuコアシェル型微粒子の作製>
本発明のコアシェル型微粒子は以下の実施例に示す製造方法により作製することができる。
【0086】
(ルテニウムコア粒子の作製方法)
コアシェル型微粒子のコア粒子を構成するコア粒子は次のようにして行った。塩化ルテニウム(III)水和物(RuCl3・nH2O)をエチレングリコールに溶かし、ルテニウム(III)イオンが0.1mol/Lの濃度で溶解した溶液190mLを調製した。これに、0.5mol/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)水溶液10mLを加え、よく撹拌しながら、マイクロ波加熱装置を用いて1分間で170℃まで昇温させ、その後1時間170℃に保ったところ、ルテニウム(III)イオンがエチレングリコールによって還元され、濃い茶色のルテニウムナノ粒子の分散液が生成した。
【0087】
(ルテニウムナノ粒子のカーボンブラックへの吸着)
上記の分散液に担体としてカーボンブラック2.88gを加え、よく撹拌して分散させた後、0.5mol/L硫酸100mLを加えてよく撹拌した。次に、この分散液から遠心分離器を用いて、ルテニウムナノ粒子とカーボンブラックの混合物を沈降させ、上澄み液を除去し、カーボンブラックに担持されたルテニウムナノ粒子を得た。
【0088】
このカーボンブラックに担持されたルテニウムナノ粒子を50mLのイオン交換水に加え、よく撹拌して分散させた後、遠心分離器を用いて沈降させ、上澄み液を除去しカーボンブラックに担持されたルテニウムナノ粒子を洗浄した。この洗浄処理を合計5回繰返すことにより、カーボンブラックに担持されたルテニウムナノ粒子を精製した。最後に、カーボンブラックに担持されたルテニウムナノ粒子に窒素気流をあてて乾燥させた。TEM観察像から求めたルテニウムナノ粒子の平均粒子径(平均直径)は1.4nm(標準偏差は±0.3nm)であった。
【0089】
(ルテニウムナノ粒子への白金層の形成)
カーボンブラックに担持されたルテニウムナノ粒子を200mLのイオン交換水に分散させ、これにテトラヒドロホウ酸ナトリウム(NaBH4)の6.6mol/L水溶液と塩化白金酸六水和物(H2PtCl6・6H2O)の0.97mol/L水溶液とを滴下し、白金(IV)イオンを還元して、ルテニウムナノ粒子の表面上に白金層を形成した。滴下は、白金とルテニウムのモル比が、調製しようとするコアシェル型微粒子におけるモル比の設定値(仕込みのモル比)3:2になるまで行った。
【0090】
なお、調製されたコアシェル型微粒子を構成するPtのRuに対するモル比γ(Pt/Ru)のICP(誘導結合プラズマ)分析による組成分析の結果は、仕込みのモル比に一致していることが確認されており、原料中の金属は何れもほぼ100%が調製されたコアシェル型微粒子に含まれていることが確認されている。
【0091】
カーボンブラックに担持されたコアシェル型微粒子を、遠心分離によって反応液から分離した。このカーボンブラックに担持されたコアシェル型微粒子は、上述した洗浄処理を5回繰返すことによって精製した。最後に、カーボンブラックに担持されたコアシェル型微粒子に窒素気流をあてて乾燥させた。
【0092】
(白金層(シェル層)の厚さの評価)
作製されたコアシェル型微粒子をTEM像により評価し、コアシェル型微粒子の平均粒子径(平均直径)R2を求め、先に求められているルテニウムナノ粒子の平均粒子径(平均直径)R1と平均粒子径(平均直径)R2の差((R2−R1)/2)から、コアシェル型微粒子のシェル層の厚さtsを求めた。白金原子積層数は、シェル層(白金層)の厚さを白金の面間隔(d111=0.2265nm)で割ることにより求めた。
【0093】
コアシェル型微粒子の平均粒子径(平均直径)はR2=1.9nm(標準偏差は±0.4nm)であった。この白金含有触媒粒子の平均粒子径(平均直径)と、先に求めたルテニウムナノ粒子の平均粒子径(平均直径)R1=1.4nmから、白金層の平均厚さtsは0.25nm(=(1.9-1.4)/2)となり、この白金層の平均厚さは1.1層(=0.25/0.2265)の白金原子層に対応する。白金層は平均1層程度の白金原子層で構成されていることがわかった。
【0094】
(PtRuコアシェル型微粒子の高分解能HAADF STEM像)
図2は、本発明の実施例における、PtRuコアシェル型微粒子の高分解能HAADF STEM(High Angle Annular Dark Field Scanning Transmission Electron Microscope、高角度散乱暗視野走査透過電子顕微鏡、高角度環状暗視野走査透過電子顕微鏡)像を示す図、原子配列を示す模式図である。
【0095】
図2に示すHAADF STEM像では、個々の明点が、微粒子中に配列する個々の原子(列)を示しており、コア及びシェルを構成する原子の区別がつかず、原子配列に不連続性のない1つの粒子として観察されており、コアからシェルがエピタキシャル成長していると判断できる。図2に示すように、コアシェル型微粒子は、粒子内部から表面に渡って、規則正しい面心立方(fcc)結晶構造の原子配列をしており、面心立方(fcc)結晶構造を有するRuコア粒子に対してエピタキシャル成長した面心立方(fcc)結晶構造を有するPtシェルが形成されていることが明らかである。
【0096】
また、コアシェル型微粒子は、面心立方(fcc)結晶構造の{111}結晶面の複数で覆われていることもよく分かる。なお、図2に示すPtRuコアシェル型微粒子の平均直径は2.2nmであり、少なくとも5個のfcc(111)面と、2個のfcc(200)面を有している。また、PtRuコアシェル型微粒子の1個を構成する原子数は、粒径からラフに推定すると、300〜600程度と考えられる。
【0097】
(Ruコア微粒子の高分解能HAADF STEM像)
図3は、本発明の実施例における、Ruコア微粒子の高分解能HAADF STEM像を示す図である。
【0098】
図4は、本発明の実施例における、多重双晶粒子の形態を有するRuコア微粒子の高分解能HAADF STEM像を示す図、原子配列を示す模式図である。
【0099】
図3は、先述したコアシェル型微粒子の製造過程において、コア粒子の製造後、シェル層の形成前に取り出した、Ruコア粒子のHAADF STEM像を示す。図3から、Ruコア粒子は、常温大気圧下バルク状態にて六方最密(hcp)結晶構造のはずであるが、この図より、面心立方(fcc)結晶構造をとっていることがわかる。
【0100】
また、図4も図3と同様にRuコア粒子のHAADF STEM像を示すが、図4の模式図に示すように、Ruの原子配列は5回対称性を示しており、Ruコア粒子は面心立方(fcc)結晶構造を有し、多重双晶粒子を形成していることが分かる。図4に示す模式図に示す実線は双晶面を示している。このRuコア粒子に原子1〜2層の極薄のPtシェルを形成することで、面心立方(fcc)結晶構造の{111}面のみで覆われる多重双晶粒子のPtRuコアシェル型微粒子を形成することができる。なお、図3、図4に示すRuコア微粒子の平均直径は、図3では2.0nmであり、図4では2.0nmである。
【0101】
(Wコア微粒子、Moコア微粒子の高分解能HAADF STEM像)
図5は、本発明の実施例における、Wコア微粒子の高分解能HAADF STEM像を示す図である。
【0102】
なお、Wコア微粒子は次のようにして調製した。タングステンヘキサカルボニル(W(CO))0.28gを50℃のオレイルアミンに溶かした。これをよく撹拌しながら、マイクロ波加熱装置を用いて1分間で170℃まで昇温させ、その後1時間170℃に保ったところ、タングステンヘキサカルボニルが分解され、濃い茶色のタングステンナノ粒子の分散液が生成した。
【0103】
(タングステンナノ粒子のカーボンブラックへの吸着)
上記の分散液に担体としてカーボンブラック0.15gを加え、よく撹拌して分散させた後、この分散液から遠心分離器を用いて、タングステンナノ粒子とカーボンブラックの混合物を沈降させ、上澄み液を除去し、カーボンブラックに担持されたタングステンナノ粒子を得た。
【0104】
このカーボンブラックに担持されたタングステンナノ粒子を50mLのアセトンに加え、よく撹拌して分散させた後、遠心分離器を用いて沈降させ、上澄み液を除去しカーボンブラックに担持されたタングステンナノ粒子を洗浄した。この洗浄処理を合計5回繰返すことにより、カーボンブラックに担持されたタングステンナノ粒子を精製した。最後に、カーボンブラックに担持されたタングステンナノ粒子に窒素気流をあてて乾燥させた。TEM観察像から求めたタングステン粒子の平均粒子径(平均直径)は1.4nm(標準偏差は±0.3nm)であった。
【0105】
図6は、本発明の実施例における、Moコア微粒子の高分解能HAADF STEM像を示す図である。
【0106】
なお、Moコア微粒子は次のようにして調製した。モリブデンヘキサカルボニル(Mo(CO)6)0.21gを50℃のオレイルアミンに溶かした。これをよく撹拌しながら、マイクロ波加熱装置を用いて1分間で170℃まで昇温させ、その後1時間170℃に保ったところ、モリブデンヘキサカルボニルが分解され、濃い茶色のタングステンナノ粒子の分散液が生成した。
【0107】
(モリブデンナノ粒子のカーボンブラックへの吸着)
上記の分散液に担体としてカーボンブラック0.15gを加え、よく撹拌して分散させた後、この分散液から遠心分離器を用いて、モリブデンナノ粒子とカーボンブラックの混合物を沈降させ、上澄み液を除去し、カーボンブラックに担持されたモリブデンナノ粒子を得た。
【0108】
このカーボンブラックに担持されたモリブデンナノ粒子を50mLのアセトンに加え、よく撹拌して分散させた後、遠心分離器を用いて沈降させ、上澄み液を除去しカーボンブラックに担持されたモリブデンナノ粒子を洗浄した。この洗浄処理を合計5回繰返すことにより、カーボンブラックに担持されたモリブデンナノ粒子を精製した。最後に、カーボンブラックに担持されたモリブデンナノ粒子に窒素気流をあてて乾燥させた。TEM観察像から求めたモリブデン粒子の平均粒子径(平均直径)は1.8nm(標準偏差は±0.3nm)であった。
【0109】
図5は、常温常圧下のバルク状態で体心立方(bcc)結晶構造を有するWのコア粒子のHAADF STEM像を示し、図6は、常温常圧下のバルク状態で体心立方(bcc)結晶構造を有するMoのコア粒子のHAADF STEM像を示す。
【0110】
図5、図6に示すように、Wコア微粒子、Moコア微粒子は何れも面心立方(fcc)結晶構造を示しており、常温大気圧下で六方最密(hcp)結晶構造を有するRuのみならず、Mo、Wのように、面心立方(fcc)結晶構造を有するコア粒子を形成し、この表面に面心立方(fcc)結晶構造を有するシェル層を形成して、面心立方(fcc)結晶構造の{111}面を表面にもつコアシェル型微粒子を作製できることが分かる。
【0111】
<燃料電池の特性>
カーボンブラックに担持されたPtRuコアシェル型微粒子からなる触媒を、直接型メタノール燃料電池の単セルの燃料極に使用して、燃料電池の評価を行った。
【0112】
(燃料電池の構成)
図7は、本発明の実施例における、燃料電池のMEA(膜電極接合体)及びその近傍の構成を説明する断面図であり、基本的な構成は図1に示すものと同じである。
【0113】
先述のようにして作製された、カーボンブラックに担持されたPtRuコアシェル型微粒子からなる触媒を、直接型メタノール燃料電池の単セルの燃料極12aに使用して、燃料電池の評価を行った。
【0114】
カーボンブラックに担持されたコアシェル型微粒子と、NafionTM分散水溶液(ワコーケミカル社製)とを、質量比で7:3となるように混合し、イオン交換水を加えて粘度を調整して、ペースト状の混合物を作製した。
【0115】
次に、このペースト状の混合物を、ガス拡散層であるカーボンペーパー(東レ株式会社製)上に、ドクターブレード法で塗布した後、乾燥させて、アノード触媒層を形成した。この時、ペースト状混合物の塗布はコアシェル型微粒子の存在量が、ガス拡散層14aの1cm2当たり10mgになるようにした。ペースト状混合物の塗布、乾燥後、10mm×10mmの正方形に切断し、アノード(燃料極12a)とした。
【0116】
カソードも、触媒材料が異なることを除いて、アノード(燃料極12a)と同様にして作製した。先ず、白金触媒がカーボンに担持された触媒(田中貴金属工業株式会社製)とNafionTM分散水溶液(ワコーケミカル社製)とを、質量比で7:3になるように混合し、イオン交換水を加えて粘度を調整して、ペースト状の混合物を作製した。
【0117】
このペースト状の混合物を、ガス拡散層であるカーボンペーパー(東レ株式会社製)上にドクターブレード法で塗布した後、乾燥させて、カソード触媒層を形成した。この時、ペースト状混合物の塗布は白金の存在量が、ガス拡散層14bの1cm2当たり5mgになるようにした。ペースト状混合物の塗布、乾燥後、10mm×10mmの正方形に切断し、カソード(空気極12b)とした。
【0118】
プロトン伝導性高分子電解質膜10としてナフィオン112膜(商品名;デュポン社製)を12mm×12mmの正方形に切断し、これを燃料極12aと空気極12bで挟持し、温度150℃、圧力1MPaの条件下で10分間熱圧着し、電解質膜−電極接合体(MEA)を作製した。燃料極12aと空気極12bの全面は対向しプロトン伝導性高分子電解質膜10と接している。
【0119】
比較例として、次に示す燃料電池を作製しその性能評価を実施例と同様に行った。
【0120】
(比較例)
アノード触媒としてカーボンに担持された白金/ルテニウム合金触媒(白金とルテニウムのモル比は1:1;田中貴金属工業株式会社製)を用いた。これ以外は実施例と同様にして、触媒の性能評価を行った。なお、ここで使用した白金/ルテニウム合金触媒は、放射光を用いたX線吸収スペクトルから求められたXAFS(X-ray absorption fine structure)の解析から、Ru:Pt=1:1(モル比)の合金触媒であり、コアシェル構造を有していないことが確認されている。
【0121】
(アノード触媒の性能評価)
図8は、本発明の実施例、比較例における、燃料電池の発電特性を示す図であり、横軸は電流密度(mA/cm2)、左縦軸はセル電圧(V)、右縦軸は出力密度(mW/cm2)を示す。
【0122】
燃料電池の発電は、アノード(燃料極12a)側に80質量%の濃度のメタノール水溶液を一定の速度で供給しながら、室温で行った。電極1cm2 当たりの電流値を変えながら、各電流値における電圧を測定し、電流密度−電圧曲線及び電流密度−出力密度曲線を得た。
【0123】
図8に示すように、実施例の電池では、比較例の電池による最大出力密度の約1.4倍の最大出力密度が得られており、本発明の実施例によるPtRuコアシェル型微粒子からなる触媒は、比較例によるPtRu合金粒子からなる触媒よりも発電特性が優れていることが明らかである。
【0124】
白金含有触媒の耐久性、即ち、白金を含有する触媒の活性維持率は、この触媒を用いた燃料電池を初めて駆動させた時の出力電圧に対する、一定時間の経過後における出力電圧の比(出力維持率)によって評価することができる。この出力維持率は、長時間の発電後における触媒活性の初期状態の触媒活性に対する変化が反映されたものであり、触媒活性の維持率を示しており、出力維持率に基づいて、PtRuコアシェル型粒子からなる触媒のアノード触媒としての耐久性を評価することができる。
【0125】
ここでは、電極1cm2当たり100mAの一定電流を取り出す発電を800時間連続して行い、初期の出力に対する800時間後の出力の比として出力維持率を求めた。燃料電池(DMFC)の出力維持率は、実施例では92.3%であり、比較例では73.0%であった。この出力維持率の相違は、アノード触媒として白金/ルテニウム合金触媒を使用する比較例の場合には、触媒粒子表面にRuが多く存在するため、Ruの溶出による性能低下が著しいのに対し、アノード触媒としてPtRuコアシェル型粒子を使用する実施例の場合には、Ru微粒子の表面が白金層で完全に被覆されているため、Ruの溶出が抑えられていることによるものと考えられる。
【0126】
アノード触媒としてPtRuコアシェル型粒子を使用する実施例では、高い出力密度及び出力維持率を有し耐久性に優れた直接型メタノール燃料電池が得られている。即ち、実施例では、PtRuコアシェル型粒子からなる触媒を使用しているので、白金の使用量を削減することができ、劣化が少なく耐久性に優れ、高い触媒活性を長期間維持することができ、高い出力維持率を有し、低価格化が可能である燃料電池を可能としている。
【0127】
以上の説明では、燃料電池の触媒として好適に使用することができるコアシェル型微粒子を、PtRuコアシェル型粒子を例にとって説明したが、本発明におけるコアシェル型微粒子は、燃料電池に限らず他のエネルギーデバイス、更に、発光デバイス等の機能デバイスに広く適用することができる。
【0128】
シェル層をレアメタル層(例えば、白金(Pt)層)とする場合、本発明によるコアシェル型ナノ粒子では、高価なレアメタルの使用量を低減することができる。このようなコアシェル型ナノ粒子は、レアメタル層を反応触媒層として、或いは、金属電極として使用することができる。
【0129】
シェル層をレアメタル層(例えば、白金(Pt)層)とするコアシェル型ナノ粒子は、自動車等の排ガス処理用の触媒として、好適に使用することができ、また、ナノ粒子からなる各種金属電極の代替として使用することができる。例えば、有機EL素子、有機トランジスタ、有機イメージセンサーのアノード/カソード材料や、シリコン半導体、GaAs系、GaN系レーザ、LED等の電気デバイス(機能デバイス)の金属電極に使用することができる。また、リチウムイオン2次電池の電極の集電体としても使用することができる。
【0130】
以上、本発明を実施の形態、実施例について説明したが、本発明は上述の実施の形態、実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて各種の変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本発明によれは、燃料電池用の負極触媒等の触媒に利用することができるコアシェル型微粒子及びこれを用いた機能デバイスを提供することができる。
【符号の説明】
【0132】
10…電解質膜、12a…燃料極、12b…空気極、14a、14b…ガス拡散層、
20…アノード、22a、22b…触媒電極、23…高分子電解質膜、
24a、24b…ガス拡散層、25…燃料、26a、26b…入口、
27a、27b…通路、28a、28b…出口、29a、29b…排ガス、
30…カソード、35…空気又は酸素、40…膜電極接合体、50…燃料供給部、
60…空気又は酸素供給部、70…外部回路
【先行技術文献】
【特許文献】
【0133】
【特許文献1】特開2002−231257号公報(段落0006)
【特許文献2】特開2008−34216号公報(段落0007〜0013、段落0029、図5)
【特許文献3】特表2009−519374号公報(段落0008、段落0013)
【特許文献4】特表2010−501345号公報(段落0022〜0031)
【特許文献5】特開2010−92725号公報(段落0011、段落0013、段落0023)
【特許文献6】特開平9−316504号公報(段落0009〜0010)
【特許文献7】特開2008−208418号公報(段落0007〜0009)
【非特許文献】
【0134】
【非特許文献1】S. Iijima et al.,“ Structure Instability of Ultrafine Particles of Metals ”, Phys. Rev. Lett., 56, 616-619 (1986) (Fig.1〜Fig.3)
【非特許文献2】O. Kitakami et al.,“ Size effect on the crystal phae of cobalt fine particles ”, Phys. Rev. B, 56, 13849-13854 (1997) (Experiment, Result and Discussion)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の材料により形成され、面心立方結晶構造を有するコア粒子と、
前記第1の材料と異なる第2の材料により前記コア粒子の表面に形成され、面心立方 結晶構造を有するシェル層と
を有し、多重双晶微粒子であって{111}結晶面によって囲まれた粒子を含有している、コアシェル型微粒子。
【請求項2】
前記コア粒子は、0.8nm以上、5nm以下の平均直径を有する、請求項1に記載のコアシェル型微粒子。
【請求項3】
前記コア粒子は、0.8nm以上、3.5nm以下の平均直径を有する、請求項1に記載のコアシェル型微粒子。
【請求項4】
前記シェル層は、0.2nm以上、10nm以下の厚さを有する、請求項1に記載のコアシェル型微粒子。
【請求項5】
前記シェル層は、0.2nm以上、3nm以下の厚さを有する、請求項1に記載のコアシェル型微粒子。
【請求項6】
前記シェル層は、0.2nm以上、1nm以下の厚さを有する、請求項1に記載のコアシェル型微粒子。
【請求項7】
前記第1の材料が、ニッケル、銅、パラジウム、銀、金、イリジウム、チタン、鉄、コバルト、ルテニウム、オスミウム、クロム、モリブデン、タングステンの何れかの金属、或いは、前記金属の何れかを含有する合金である、請求項1に記載のコアシェル型微粒子。
【請求項8】
前記第2の材料が、白金、ニッケル、銅、パラジウム、銀、金の何れかの金属である、請求項1に記載のコアシェル型微粒子。
【請求項9】
前記第1の材料がルテニウムであり、前記第2の材料が白金である、請求項1に記載のコアシェル型微粒子。
【請求項10】
請求項1から請求項9の何れか1項に記載のコアシェル型微粒子を用いた機能デバイス。
【請求項11】
前記コアシェル型微粒子を触媒電極層の触媒粒子として用い、燃料電池として構成された、請求項10に記載の機能デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−41581(P2012−41581A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182053(P2010−182053)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】