説明

コラーゲン産生促進剤、光老化防止剤、保湿機能改善剤および皮膚用剤組成物

【課題】γ−グルタミルトランスペプチダーゼ阻害活性を発揮することによってコラーゲン産生を促進させる化合物を有効成分とし、皮膚のしわ・たるみ等の老化防止・改善に有用なコラーゲン産生促進剤、光老化防止剤および保湿機能改善剤を提供し、並びに該コラーゲン産生促進剤、光老化防止剤または保湿機能改善剤を含有し、皮膚のしわ・たるみまたは光老化等の老化防止・改善、皮膚の保湿機能の維持改善に有効な皮膚用剤用組成物を提供する。
【解決手段】皮膚の線維芽細胞内のグルタチオン量を減少させるγ−グルタミルトランスペプチダーゼ阻害剤を有効成分とするものであって、皮膚の線維芽細胞におけるコラーゲン産生を著明に促進させる作用を有する皮膚用剤を提供する。また紫外線ダメージを軽減する皮膚用剤を提供する。また保湿機能改善のための皮膚用剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガンマ−グルタミルトランスペプチターゼ(γ−Glutamyltranspeptidase、GGT)阻害活性に基づき、皮膚の真皮層線維芽細胞におけるコラーゲン産生能を活性化する作用、また紫外線ダメージを軽減する作用並びに角質水分量を上昇させる作用により、皮膚の張り、艶や保湿効果を維持、増強し、皮膚のしわ・たるみ、また光老化等の老化症状を防止・改善する著明な効果を有する成分を含有する皮膚用剤用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は表皮、真皮、脂肪層(皮下組織)の3層構造を示し、真皮は線維組織と弾性組織でできた厚い層で、そのほとんどはコラーゲン等の細胞外マトリックスからなり、この層が皮膚に弾力性と強さを与え、張りや艶のあるみずみずしい肌の状態を保っている。しかしながら、紫外線の照射や乾燥等の外的因子の影響、又は加齢によって、細胞外マトリックスの主要構成成分であるコラーゲンの産生量が減少するとともに、コラーゲン分解酵素であるマトリクス・メタロプロテアーゼ量が増加し、その結果として、真皮中のコラーゲンの減少、分解、変性が加速することにより、皮膚のバリア機能が低下し、保湿機能や弾力性がそこなわれ、皮膚の張りや艶がなくなり、しわ・たるみ等の皮膚の老化症状を呈するようになる。
【0003】
皮膚の加齢変化に見られるしわ・たるみ等の発生は、外見上の老化現象の主たるものであり、多くの中高齢者にとって切実な問題となっている。従来、このような皮膚症状を改善する方法としては、コラーゲンを配合した化粧料を塗布することが主流であったが、一過性に皮膚表面の保湿性を補うものであることから、十分な効果を発揮するものではなかった。そこで、コラーゲン量の低下を改善する安全性の高い有効成分が望まれている。
【0004】
かかる状況の中で、皮膚の張り、艶の維持や皮膚の保湿機能の改善等を含む皮膚の老化防止・改善を目的として、皮膚のコラーゲン量を増加させる化粧料の開発が進められてきた。例えば、天然物由来の抽出物が、1型コラーゲン産生促進作用を有することが報告され(特許文献1及び2)、真皮細胞外マトリクスを構成するコラーゲン合成を刺激する作用を有する成分として、アスコルビン酸等を含有させたものなどが報告されている(特許文献3)。また、本発明者らによって、皮膚線維芽細胞のコラーゲン産生量が、該線維芽細胞内のグルタチオン量の減少と関連して増加してくることを見出し、この機序によってコラーゲン産生を亢進する活性を有する化合物群について報告している(特許文献4)。
【0005】
一方、細胞内のグルタチオンを分解する酵素として、γ−グルタミルトランスペプチダーゼ(γ−Glutamyltranspeptidase、GGT)が知られている。GGTは、細胞外の主なシステイン(Cys)のプールであるグルタチオンを分解し、グルタチオン生合成に必要なCysを細胞に供給する酵素として重要な役割をはたし、その阻害剤は、細胞のグルタチオン量を制御する生理作用があると考えられる。本発明者らは、高い活性ならびに高い選択性を有するGGT阻害剤について、特許文献5に報告した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−186471号公報
【特許文献2】特開2007−302607号公報
【特許文献3】特開2004−075646号公報
【特許文献4】特開2006−151860号公報
【特許文献5】WO 2007/066705 A1公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Cutrin et al., Kidney International, Vol. 57 (2000), pp. 526-533)
【非特許文献2】Aberkane et al., Biochem. Biophy. Res. Commun. 285, 1162-1167 (2001)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、GGT阻害活性を発揮することによってコラーゲン産生を促進させるだけでなく、紫外線によるダメージを防ぎ、光老化も防止できる化合物を有効成分とし、皮膚のしわ・たるみ等の老化防止・改善に有用なコラーゲン産生促進剤、光老化防止剤および保湿機能改善剤を提供し、並びに該コラーゲン産生促進剤、光老化防止剤または保湿機能改善剤を含有し、皮膚のしわ・たるみ、あるいは紫外線ダメージによる光老化、または保湿機能改善等の老化防止・改善、整肌作用に有効な皮膚用剤用組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決することを主な目的として、種々の検討を重ねた結果、線維芽細胞内グルタチオン量の減少がコラーゲン産生量の増加と関連していることを見出し、さらに、GGT阻害剤の機能を鋭意検討した結果、GGT阻害剤が(i)線維芽細胞内グルタチオン量を減少させ、コラーゲン産生量を増加させること、(ii)紫外線による皮膚ダメージを防ぎ、光老化を防止・改善できること、および(iii)角質水分量を増加させ得ること等の新規機能を有することを発見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のコラーゲン産生促進剤は、γ−グルタミルトランスペプチダーゼを阻害する化合物を有効成分とするものである。また、本発明の光老化防止剤は、γ−グルタミルトランスペプチダーゼを阻害する化合物を有効成分とするものである。また、本発明の保湿機能改善剤は、γ−グルタミルトランスペプチダーゼを阻害する化合物を有効成分とするものである。
【0011】
本発明のコラーゲン産生促進剤、光老化防止剤または保湿機能改善剤において、前記化合物は、脱離基を有するホスホン酸ジエステル誘導体を含むことが好ましい。また前記化合物は、下記一般式(1)で(式中、R1およびR2の少なくとも一方が脱離基を表し、R1およびR2の少なくともいずれか一方が下記一般式(2)〜一般式(6)(式中、R3が置換基を有していてもよいアリール基、および置換基を有していてもよい複素環残基のいずれかであり、R4,R5,R6,R7,R8およびR9のそれぞれが、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、および電子吸引基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基であり、R4〜R8の置換基のうち隣接する2つの置換基が互いに結合して環を形成してもよい。)のいずれかを表す。)で示されるホスホン酸ジエステル誘導体を含むことが好ましい。また前記化合物は、2−アミノ−4−{[3−(カルボキシメチル)フェニル](メチル)ホスホノ}ブタン酸を含むことが好ましい。
【0012】
また、本発明には、上記コラーゲン産生促進剤、光老化防止剤または保湿機能改善剤を含有する、皮膚用剤用組成物も含まれる。また、皮膚用剤用組成物は、しわまたは肌弾力の改善用であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明のコラーゲン産生促進剤は、線維芽細胞内グルタチオン量を減少させるGGT阻害剤を有効成分とするものであって、皮膚の線維芽細胞におけるコラーゲン産生を著明に促進させる作用を有するものである。これにより、本発明のコラーゲン産生促進剤は、皮膚の線維芽細胞におけるコラーゲン産生を著明に促進する作用を有し、皮膚の老化防止・改善、具体的には、皮膚のハリ、艶の維持改善によるしわ・たるみの防止・改善、又は皮膚の保湿機能の維持改善等において有効な作用を発揮する。
【0014】
また、本発明の光老化防止剤は、皮膚の細胞が紫外線により受けるダメージを軽減させることもできる。
【0015】
また、本発明の保湿機能改善剤は、皮膚の角質水分量を上昇させることにより、皮膚の保湿機能を改善することができる。
【0016】
そして、本発明のGGT阻害活性によるコラーゲン産生促進剤を含有する皮膚用剤用組成物は、皮膚の線維芽細胞におけるコラーゲンの産生を著明に向上させる作用を有し、また肌弾力およびしわを改善させ得る。また本発明のGGT阻害活性による光老化防止剤を含有する皮膚用剤用組成物は、紫外線によるダメージを軽減し、光老化の防止・改善等において有効な作用を発揮する。また、本発明のGGT阻害活性による保湿機能改善剤を含有する皮膚用剤用組成物は、角質層の水分量を上昇させることにより、肌の保湿機能改善および整肌において有効な作用を発揮する。それゆえ、皮膚の老化防止・改善用または整肌用として、具体的には、皮膚のハリ、艶の維持改善によるしわ・たるみの防止・改善用として、又は光老化の防止・改善、あるいは皮膚の保湿機能の維持改善用などとして、有効に利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例において得られたヒト皮膚由来線維芽細胞の細胞内グルタチオン量の測定結果を示す図面である。
【図2】実施例において得られたヒト皮膚由来線維芽細胞のコラーゲン染色像の結果を示す図面である。
【図3】実施例において得られた化粧水連用による角質水分量の変化率をしめす図である。
【図4】実施例において得られた化粧水連用3ヶ月の肌粘弾性の経時変化を示す図である。
【図5】実施例において得られた化粧水連用3ヶ月後のしわスコアを示す図である。
【図6】実施例において得られたUV照射下におけるヒト正常皮膚由来線維芽細胞の生存率に及ぼすGGT阻害剤の影響を示す図である。
【図7】実施例において得られたUV照射下におけるヒト正常皮膚由来線維芽細胞内のH産生量の上昇におよぼすGGT阻害剤の影響を示す図である。
【図8】実施例において得られたUV曝露によって亢進したヒト皮膚線維芽細胞の細胞内H産生量におよぼすGGT阻害剤の影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
従来、GGTは細胞外のグルタチオンを分解する酵素であることが知られていた。そこで、一般的に考えて、GGTの活性を阻害すれば、グルタチオンの分解が妨げられるため、細胞内のグルタチオン量も増加ないしは維持されるものと考えられる。この予測を裏付ける学術論文として、例えば、非特許文献1が挙げられる。本文献では、ラット腎臓にGGT阻害剤であるアシビシンを投与すると、コントロールと比較してグルタチオン量が上昇する(Fig.6)。また、アシビシン投与によりGGT活性も低下することが示されている(Fig.1)。つまり、非特許文献1では、GGT阻害剤を加えることで、グルタチオンの分解が抑制され、その結果、グルタチオン量が増加することが示されている。また、非特許文献2には、ヒトGGTを高度に発現させたV79GGT細胞系にアシビシンを投与しても、細胞内グルタチオン量に大きな差は認められないというデータが記載されている(Table 2)。なお、GGTはアシビシンにより濃度依存的に阻害されている(Table 1)。一方、細胞内のグルタチオン量は、GGT以外にも、生合成や代謝、輸送といった様々な要因が関係するため、単純にGGT活性とグルタチオン量の関係性を導くのは難しい。さらに、従来、GGT阻害剤として頻用されてきたアシビシンは、GGT以外の酵素も幅広く阻害し、細胞の生合成系を多岐にわたって撹乱することから、アシビシンを使った従来の研究におけるグルタチオン量とGGTの関係性については未だ不明瞭なままである。
【0019】
そこで、本発明者らは、アシビシンに代わるGGT選択的な阻害剤を用いて、独自に鋭意検討したところ、選択的GGT阻害剤が線維芽細胞内のグルタチオン量を減少させるという現象を世界で初めて発見した。このような知見は、例えば、上記非特許文献1,2にはもちろんのこと、上記特許文献4,5にも全く開示も示唆もされていない。本発明者らは、この新規知見に基づき、本GGT阻害剤が細胞内グルタチオン量を減少させ、結果としてコラーゲン産生を促進させること、また紫外線によるダメージを軽減すること、加えて角質水分量を上昇させ得ること等のGGT阻害剤の新規機能を見出し、本発明を完成させた。したがって、本発明は、本発明者らが独自に見出した全く新規で独創的なものであるといえる。
【0020】
また、本発明者らは、後述する実施例に示すように、GGT阻害剤が、コラーゲン産生促進だけでなく、皮膚の線維芽細胞が紫外線照射によって受けるダメージを軽減し得ることを見出している。皮膚の老化として光老化がある。光老化は紫外線を浴びることによって生じる老化であり、その原因の1つに活性酸素種による生体内成分の酸化があげられる。光老化によって皮膚のコラーゲン量が減少するため、皮膚の弾力性が衰え、皺が出現する。コラーゲンの減少は、コラーゲン分解能の亢進が大きく関与していることが知られている。後述する実施例に示すように、GGT阻害剤は紫外線曝露によって増加した細胞内活性酸素種産生量を有意に低下させたことから、光老化に対する予防効果あるいは改善効果を有することが明らかとなった。なお、本発明でいう光老化防止剤とは、光老化を防止および/または改善する組成物のことを意図する。
【0021】
また、本発明者らは、GGT阻害剤は、皮膚の角質層の水分量を増加させる機能を有することも確認している。これにより、GGT阻害剤を用いた肌の保湿機能を改善・維持し、整肌作用を有する組成物を提供することも本発明に含まれる。なお、本発明でいう保湿機能改善剤とは、皮膚(肌)の保湿機能を改善および/または保湿機能が低下するのを防止する(保湿機能を維持する)組成物のことを意図する。
【0022】
以下、本発明の具体的な実施態様の一例について説明する。
【0023】
本発明において用いるGGT阻害剤としては、酵素選択性が高く、不可逆的な阻害活性を発揮することを特徴とするホスホン酸ジエステル誘導体群(特許文献5)も使用することができる。このホスホン酸ジエステル誘導体群は、特に生体毒性が低いため、好ましく使用できる。
【0024】
具体的には、例えば、以下に示すホスホン酸ジエステル誘導体群を好適に用いることができる。
【0025】
1.一般式(1)
【0026】
【化1】

【0027】
(式中、R1およびR2の少なくとも一方が脱離基を表す。)で示される、ホスホン酸ジエステル誘導体。
【0028】
2.上記一般式(1)
(式中、R1およびR2の少なくともいずれか一方が一般式(2)〜一般式(6)
【0029】
【化2】

【0030】
(式中、R3が置換基を有していてもよいアリール基、および置換基を有していてもよい複素環残基のいずれかであり、R4,R5,R6,R7,R8およびR9のそれぞれが、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、および電子吸引基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基であり、R4〜R8の置換基のうち隣接する2つの置換基が互いに結合して環を形成してもよい。)のいずれかを表す。)で示されるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0031】
3.上記一般式(1)
(式中、R1がOR10であり、R2がOR11であり、R10およびR11が水素原子を除く。)で示されるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0032】
4.上記3に示すホスホン酸ジエステル誘導体であって、R10が、置換基を有していてもよいアルキル基、および置換基を有していてもよいアリール基のいずれかであり、R11が置換基を有していてもよいアリール基であるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0033】
5.上記4に示すホスホン酸ジエステル誘導体であって、前記置換基を有していてもよいアルキル基の置換基が、置換基を有していてもよいフェニル基、窒素を有する複素環残基、アルキルスルファニル基、アリールスルファニル基、ヒドロキシ基、カルバモイル基、アミノ基、グアニジノ基、アルコキシ基、アミド基、カルボキシ基およびカルボキシ基の等価体からなる群より選択される少なくとも1つの基であるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0034】
6.上記4に示すホスホン酸ジエステル誘導体であって、前記R10の置換基を有していてもよいアルキル基が、一般式(7)
【0035】
【化3】

【0036】
(式中、R12が、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基および水素原子のいずれかを表し、R13が、水素原子および一般式(8)
【0037】
【化4】

【0038】
(式中、n1が0〜4の整数を、n2が0および1のいずれかを、n3が0〜4の整数を、X1がアミド基およびアルケニル基のいずれかを、X2がカルボキシ基、およびカルボキシ基の等価体のいずれかを、R14が水素原子および低級アルキル基のいずれかを表す。)のいずれかを表す。)であるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0039】
7.上記5または6に示すホスホン酸ジエステル誘導体であって、カルボキシ基およびカルボキシ基の等価体が、−COOR、−CONR、−COR、−CN、−NO、−NHCOR、−OR、−SR、−OCOR、−SOR、および−SONRからなる群より選択される少なくとも1つの基であり、Rが水素原子およびアルキル基のいずれかであるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0040】
8.上記6に示すホスホン酸ジエステル誘導体であって、前記R12の置換基を有していてもよいアルキル基の置換基が、置換基を有していてもよいフェニル基、窒素を有する複素環残基、アルキルスルファニル基、アリールスルファニル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、カルバモイル基、アミノ基、グアニジノ基、アルコキシ基、およびアミド基からなる群より選択される少なくとも1つの基であるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0041】
9.上記4に示すホスホン酸ジエステル誘導体であって、前記置換基を有していてもよいアリール基の置換基が、カルボキシ基およびカルボキシ基の等価体のいずれかにより置換されていてもよいアルキル基、電子吸引基、カルボキシ基、およびカルボキシ基の等価体からなる群より選択される少なくとも1つの基であるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0042】
10.前記置換基を有してもよいアリール基が、置換基を有してもよいフェニル基である上記4に示すホスホン酸ジエステル誘導体。
【0043】
11.上記10に示すホスホン酸ジエステル誘導体であって、前記置換基を有してもよいフェニル基が、一般式(9)
【0044】
【化5】

【0045】
(式中、Y1が、−R’、−OR’、および電子吸引基からなる群より選択される1つの基を表し、Y2が、カルボキシ基およびカルボキシ基の等価体のいずれかで置換されていてもよく、かつ二重結合を有していてもよいアルキル基、水素原子、カルボキシ基、ならびにカルボキシ基の等価体からなる群より選択される1つの基を表し、隣接する2つの置換基Y1とY2とが互いに結合して環を形成してもよく、R’が水素原子、および二重結合を有していてもよいアルキル基のいずれかを表す。)であるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0046】
12.上記9または11に示すホスホン酸ジエステル誘導体であって、電子吸引基が、ハロゲン原子、−COOR’、−CONR’、−COR’、−OCOR’、−CF、−CN、−SR’、−S(O)R’、−SOR’、−SONR’、−PO(OR’)、および−NOからなる群より選択される少なくとも1つの基であり、R’が前記と同じ意味を表すホスホン酸ジエステル誘導体。
【0047】
13.上記9または11に示すホスホン酸ジエステル誘導体であって、カルボキシ基およびカルボキシ基の等価体が、−COOR”、−CONR”、−COR”、−CN、−NO、−NHCOR”、−OR”、−SR”、−OCOR”、−SOR”、−SONR”からなる群より選択される少なくとも1つの基であり、R”が水素原子および二重結合を有していてもよいアルキル基のいずれかであるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0048】
14.一般式(10)
【0049】
【化6】

【0050】
(式中、R12,R14,X2,Y1およびn3は前記と同じ意味を表す。)で示されるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0051】
15.一般式(11)
【0052】
【化7】

【0053】
(式中、R12,R14,X2,Y1,n1およびn3は前記と同じ意味を表す。)で示されるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0054】
16.一般式(12)
【0055】
【化8】

【0056】
(式中、R15が低級アルキル基を表し、Wが一般式(13)〜一般式(16)
【0057】
【化9】

【0058】
のいずれかを表し、R16が水素原子および低級アルキル基のいずれかを表し、Y1およびY2が前記と同じ意味を表す。)で示されるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0059】
17.一般式(17)
【0060】
【化10】

【0061】
(式中、R12およびY1は前記と同じ意味を表す。)で示されるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0062】
18.一般式(18)
【0063】
【化11】

【0064】
(式中、Y1およびY2は前記と同じ意味を表す。)で示されるホスホン酸ジエステル誘導体。
【0065】
19.一般式(19)
【0066】
【化12】

【0067】
(式中、Mがアルカリ金属を表し、R17が置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を含むアルコキシカルボニル基を表す。)で示される2−置換アミノ−4−ホスホノブタン酸の金属塩。
【0068】
20.一般式(20)
【0069】
【化13】

【0070】
(式中、R18が置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基を表し、R17が前記と同じ意味を表す。)で示される2−置換アミノ−4−ホスホノブタン酸エステル。
【0071】
なお、上記1〜20に示すホスホン酸ジエステル誘導体の詳細な製造方法や諸性質については特許文献5に開示されている。本発明ではこの特許文献5の記載を必要に応じて援用でき、またこの特許文献5の記載内容は本発明に適宜利用できることを付言する。つまり、この特許文献5の開示内容も本発明の一部であり、特許文献5の記載内容に基づき補正することも可能である。
【0072】
なかでも特に、上記一般式(12)において、Wが一般式(13)または(15)であるホスホン酸ジエステル誘導体は、特許文献5の実施例にて実際に合成され、かつGGT阻害活性も確認されており好ましい。
【0073】
また上記ホスホン酸ジエステル誘導体は、脱離基がリン酸基から脱離することでGGT活性を発揮することが本発明者らの研究で確認されている。つまり、脱離基が脱離しやすい程、GGT活性が向上する。しかし、この脱離基の脱離しやすさは、化合物の安定性とも関連するため、一概に脱離しやすい脱離基を有する化合物が好ましいとはいえない。この脱離基の脱離しやすさと安定性とのバランスが優れる化合物の例示として、上記1〜20のホスホン酸ジエステル誘導体を挙げることができ、上記一般式(12)において、R15が一般式(13)または(15)であるホスホン酸ジエステル誘導体がより好ましく、さらに2−アミノ−4−{[3−(カルボキシメチル)フェニル](メチル)ホスホノ}ブタン酸が特に好ましい。
【0074】
また、上記ホスホン酸ジエステル誘導体には単体および混合物のみならず、光学異性体が含まれていてもよい。例えば、実施例で用いている2−アミノ−4−{[3−(カルボキシメチル)フェニル](メチル)ホスホノ}ブタン酸であれば、2つのキラル原子が存在するため、合計4種の光学異性体の混合物である。
【0075】
本発明のGGT阻害活性によるコラーゲン産生促進剤、光老化防止剤または保湿機能改善剤は、皮膚のハリ、艶の維持改善によるしわ・たるみの防止・改善用として、又は紫外線ダメージ(光老化)の防止・改善、あるいは皮膚の保湿機能の維持改善用といった皮膚用剤用組成物として皮膚に塗布して使用できるほか、パップ剤、化粧料、浴用剤、ときに皮下注射用剤としての剤形も目的に応じて任意に選択することができる。特に、好適には化粧料として広く利用することが可能で、クリーム、軟膏、乳液、溶液、ゲル、粉剤、顆粒剤等の剤形やパック、ローション、パウダー、スティック等の形態とすることができる。その製剤形態も水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水−油2層系、水−油−粉末3層系等、幅広い形態とすることができる。すなわち、基礎化粧料であれば、洗顔料、化粧水、乳液、クリーム、ジェル、エッセンス(美容液)、パック、マスク等の形態に、上記の多様な剤形において広く利用可能である。また、メーキャップ化粧料であれば、ファンデーション等、トイレタリー製品としてはボディーソープ、石けん等の形態に広く利用可能である。さらに、医薬品等としては、各種の軟膏剤、クリーム剤等の形態に広く利用が可能である。そして、これらの剤形及び形態に、本発明のGGT阻害活性によるコラーゲン産生促進剤の製剤形態が限定されるものではない。
【0076】
GGT阻害剤の配合量は特に限定するものではなく、配合する剤形の種類、性状、品質、期待する効果の程度により異なるが、例えば、0.00001〜50.0重量%、より好ましくは0.00005〜10.0重量%、さらには0.0005〜1.0重量%が特に好ましい。特に、GGT阻害剤をリポソーム化する等して、浸透促進を行う場合、より少ない配合量でも効果が期待できる。
【0077】
上記の皮膚用剤には、上記コラーゲン産生促進剤成分以外に、通常化粧料や医薬品等の皮膚用剤に用いられる成分、例えば、美白剤、保湿剤、酸化防止剤、油性成分、紫外線吸収剤、界面活性剤、増粘剤、アルコール類、粉末成分、色剤、水性成分、水、各種皮膚栄養・ビタミン剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0078】
その他、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等のキレート剤、カフェイン、タンニン、トラネキサム酸及びその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸及びその誘導体または、その塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の他の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類なども適宜配合することができる。
【0079】
また、例えば、油脂類として、オリーブ油、アボカド油、パーム油、ヤシ油、硬化ヒマシ油等の植物油脂、牛脂、豚脂等の動物油脂を利用できる。また、ロウ類としては、例えば、ミツロウ、カルナバロウ、鯨ロウ、ラノリンなどが挙げられる。鉱物油としては、例えば、流動パラフィン、ワセリン、パラフィン、スクワレン、スクワランなどが挙げられる。例えば、脂肪酸類としては、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸などの天然脂肪酸のほか、イソノナン酸、カプロン酸などの合成脂肪酸も利用できる。
【0080】
また、アルコール類として、エタノール、イソプロパノールなどの天然アルコール、2−ヘキシルデカノール、イソステアリルアルコール、2−オクチルドデカノールなどの合成アルコール、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、バチルアルコール、ペンタエリトリトール、ソルビトール、マンニトール、ブドウ糖、ショ糖などの多価アルコール類なども利用できる。
【0081】
その他、ミリスチン酸イソプロピル等のエステル類、ステアリン酸アルミニウム等の金属セッケン、ガム質や水溶性高分子化合物として、アラビアゴム、カラギーナン、ゼラチン、アルギン酸およびその塩、ヒアルロン酸およびその塩、コンドロイチン硫酸、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロースなど配合してもよい。
【0082】
界面活性剤(アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤)、ビタミン類、アミノ酸、保湿剤、動物あるいは植物、生薬の抽出物やエキス、微生物培養代謝物、α−ヒドロキシ酸、無機顔料、紫外線吸収剤、収斂剤、殺菌・消毒薬、頭髪用剤、香料、色素・着色剤、その他、ホルモン類、金属イオン封鎖剤、pH調整剤、キレート剤、防腐・防バイ剤、清涼剤、安定化剤、乳化剤、動・植物性タンパク質およびその分解物、動・植物性多糖類およびその分解物、動・植物性糖タンパク質およびその分解物、血流促進剤、消炎剤・抗アレルギー剤、細胞賦活剤、角質溶解剤、創傷治療剤、増泡剤、増粘剤、口腔用剤、消臭・脱臭剤、苦味料、調味料、酵素なども利用可能である。
【0083】
また、本発明には、皮膚線維芽細胞内のグルタチオン量を減少させることによって、前記皮膚線維芽細胞におけるコラーゲン産生を促進するコラーゲン産生促進剤において、γ−グルタミルトランスペプチダーゼを阻害する化合物を有効成分とするコラーゲン産生促進剤あるいは光老化防止剤も包含され得る。
【0084】
なお、上述した本発明の実施態様において、コラーゲン産生促進剤は、GGT阻害剤を用いてコラーゲン産生を促進する方法、あるいはコラーゲン産生の促進のためのGGT阻害剤の使用と読み替えることもできる。また、光老化防止剤は、GGT阻害剤を用いて光老化を防止および/または改善する方法(紫外線ダメージを軽減する方法)、あるいは光老化の防止および/または改善のためのGGT阻害剤の使用(紫外線ダメージを軽減するためのGGT阻害剤の使用)と読み替えることもできる。また、保湿機能改善剤は、GGT阻害剤を用いて皮膚の保湿機能を維持および/または改善する方法(保湿機能が低下するのを防止する方法)、あるいは保湿機能の維持および/または改善のためのGGT阻害剤の使用(保湿機能の低下を防止するためのGGT阻害剤の使用)と読み替えることもできる。
【0085】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0086】
<1.細胞内グルタチオン量への影響>
以下のような実験を行なって、GGT阻害剤2−アミノ−4−{[3−(カルボキシメチル)フェニル](メチル)ホスホノ}ブタン酸(GGT5a)のヒト正常皮膚由来線維芽細胞内グルタチオン量への影響を確認した。
【0087】
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(CCD-1059SK、大日本製薬株式会社)を、10%FBS(fetal bovine serum)を含むDMEM培地で3〜6回継代培養した。次いで、細胞数が4.5×105個になるように直径35mmのTCシャーレ(Greiner社製)に播種し、GGT5aを添加して、0〜10時間培養した。その後、25mM Tris-HCl(pH7.4)溶液500μlを用いて細胞を回収し、100,000×gで30分間遠心分離した。上清(480μl)に0.56M Borate Buffer(pH 10.4)溶液500μl及びo−フタルアルデヒド溶液73μlを加え、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、細胞内グルタチオン量を測定した。HPLCの測定において、カラムはODS Crestpak C18S(日本分光株式会社))を用いた。溶出は、移動相A(30 mM sodium acetate)及び移動相B(92.3%メタノール/7%アセトニトリル)を用いたグラジェント溶出により行なった。観測は、o−フタルアルデヒド誘導体について、励起波長230nm、吸収波長444nmで行なった。
【0088】
この結果、GGT阻害剤2−アミノ−4−{[3−(カルボキシメチル)フェニル](メチル)ホスホノ}ブタン酸(GGT5a)が細胞内グルタチオン量を減少させることがわかった(図1)。
<2.コラーゲン産生能の評価>
上記のGGT阻害剤GGT5aのコラーゲン産生能向上作用を調べるために、以下の実験を行なった。
【0089】
(1)試料の作製
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞(CCD-1059SK、大日本製薬株式会社)を、10%FBS(fetal bovine serum)を含むDMEM培地で3〜6回継代培養した。次いで、細胞数が1×10個になるようにカルチャースライド(Culture slide:Falcon社製)に調製し、10%FBSを含むDMEM培地で24時間培養して、細胞をスライドに固定させ、更に、細胞周期を合わせるためにDMEM培地のみで24時間培養した。その後、10%FBSを含むEMEM培地に交換し、同時にGGT5aを添加して24時間培養して、以下に示す各サンプル群を調製した。また、コントロールとして被験化合物を添加しない群、ポジティブコントロールとして、ビタミンC(VC)添加群を調製した。
【0090】
<サンプル群>
1)コントロール群
2)GGT5a 10μM添加群
3)VC 114μM添加群(ポジティブコントロール)
(2)コラーゲンの産生量の測定
(1)で調製した1)〜3)のサンプル群について、次の手順により、コラーゲンの産生量を免疫組織化学的に解析した。
【0091】
カルチャースライドをPBS溶液で5分間、3回洗浄した後、4%パラホルムアルデヒド溶液を添加して4℃で一晩静置し、サンプルを固定した。0.1%Triton−Xを含むPBS溶液で5分間、3回洗浄後、3%H溶液で5分間、内因性peroxidaseのブロッキングを行なった。次いで、10%標準ヤギ血清(normal goat serum)を用いて5分間、非特異的反応のブロッキングを行なった。その後、抗ラット1型コラーゲン抗体(Anti-rat type I collagen 抗体(LSL社製)200倍希釈液)を用いて一次抗体の反応を60分間行なった。PBS溶液で5分間、3回洗浄した後、ビオチン標識ヤギ抗ウサギ免疫グロブリン抗体(Biotinylated Goat anti-rabbit immunogloblins抗体(DAKO社製)400倍希釈液)を用いて二次抗体の反応を30分間行なった。PBS溶液で5分間、3回洗浄した後、酵素溶液(Horseradish peroxidase-labelled streptavidine-biotine complex(DAKO社製)400倍希釈液)による反応を30分間行なった。PBS溶液で5分間、3回洗浄した後、DAB(3,3-diaminobenzidin tetra-hydrocheloride)溶液を5分間反応させ、peroxidase発色反応を行なった。PBS溶液で5分間、3回洗浄した後、水溶性封入剤で封入して、標本を作製した。得られた標本における陽性反応(1型コラーゲンの発現)箇所における染色強度を、NIH imageソフトを用いて定量化し、画像解析により1型コラーゲンの産生量を解析した。
【0092】
得られたコラーゲン産生量の解析結果を表1及び図2に示す。
【0093】
表中の値は、コントロールを100としたときの各サンプルの染色強度(1スライドにつき細胞20個について測定して平均した値)の割合として表した。
【0094】
【表1】

【0095】
その結果、表1及び図2に示されるように、GGT阻害剤GGT5aは、ポジティブコントロールとして用いたVCに比べて、極めて低濃度で著明なコラーゲン産生能向上作用を奏することが確認された。
<3.角質水分量の評価>
上記のGGT阻害剤GGT5aの肌への美容効果を検証するために、GGT阻害剤を配合した化粧水の使用により角質水分量が変化するかを評価した。
(1)試験期間・被験者
・12月中旬〜2月下旬(8週間連用、評価測定3回)
・20代健常女性1名、30代健常女性3名、40代健常女性8名(全12名)
(2)試験概要
GGT5a(0.0005%)を配合した化粧水を1日2回(朝・夜;プラセボ化粧水、GGT5a配合化粧水を半顔ずつ)、8週間使用し、前後の肌状態を測定比較することでGGT阻害剤の皮膚の角質水分量への影響を評価した。なお、評価測定は、被験者が洗顔した後約20分間、恒温恒湿室(室温20℃、相対湿度50%)で安静な状態を保ち馴化したのち、その一定環境下にて左右の頬部を対象に行った。化粧水の処方を以下に示す。なお、プラセボ化粧水はGGT阻害剤を配合していない以外は同じ処方である。
(処方) (重量%)
カルボキシメチルデキストランナトリウム塩 0.05
グリセリン 2
BG(ブチレングリコール) 2
1,2−ヘキサンジオール 0.5
ペンチレングリコール 1
カプリリルグリコール 0.1
フェノキシエタノール 0.2
ヒアルロン酸水溶液 2
チューベロース多糖体水溶液 1
ローズ水 3
クエン酸 0.01
クエン酸ナトリウム 0.04
GGT阻害剤 0.0005
精製水 全体で100となる量
皮膚表面水分測定装置Corneometer CM825(Courage+Khazaka electronic GmbH)を用い、左右の頬部に各1点ずつ設定した被験部位を、それぞれ10回ずつ測定し角質水分量の変化率を計測した。測定値の上下2点ずつを除いた中間点6点の平均値をもって、その部位の角質水分量とした。グラフは、連用前の被験者平均を100としたときの4週/8週連用後の角質水分量の変化を示している。
【0096】
結果を図3に示す。同図に示すように、プラセボ化粧水では角質水分量が経時的に減少したのに対して、GGT阻害剤配合化粧水を連用した場合には、有意な角質水分量の上昇が認められた。
<4.肌弾力改善の評価>
上記のGGT阻害剤GGT5aの肌への美容効果を検証するために、女性被験者10名に対し、連用評価試験を行った。被験者10名にGGT阻害剤を配合した化粧水を使用してもらい、使用前と1ヵ月後〜3ヵ月後まで1ヶ月ごとに肌を測定機器で測定し、結果をもとに評価を行った。また、GGT阻害剤の相対的な有用性を評価するために、すでにしわの改善効果が認められている化粧品原料「マトリキシル」との比較を行った。マトリシキシルは、3%配合サンプルで、コラーゲン合成の増加により、しわの改善効果が認められている既知の化粧品原料である。なお、使用した化粧水の処方は、GGT阻害剤の濃度を10倍の0.005重量%とした以外は、上記と同じ処方である。また、プラセボ化粧水は、GGT阻害剤を配合していない以外は同じ組成である。またマトリキシル配合化粧水も、GGT阻害剤に替えて、マトリキシルを3%配合した以外は同じ組成の化粧水である。
【0097】
(1)試験内容
被験者 :30代〜50代の一般女性10名
試験期間:5月中旬〜8月下旬
測定回数:4回(連用前・1ヶ月目・2ヶ月目・3ヶ月目)
使用機器:Cutometer(Courage+Khazaka electronic GmbH)
測定部位:頬部(左・右)
なお、測定はすべて、洗顔後、恒温恒湿下(20℃、RH50%)で20分間、肌を室温に馴化させてから行った。
【0098】
(2)サンプル
1.プラセボ化粧水
2.マトリキシル(3%)配合化粧水
3.GGT阻害剤(0.005%)配合化粧水
被験者には、1日に朝・晩の2回、洗顔後にサンプルを使用してもらった。被験者を5人ずつ2群(A群・B群)に分け、それぞれ以下の要領で顔に塗布し、その後、専用の保湿クリームを全顔に塗布してもらった。
【0099】
A群・・・左半顔:マトリキシル(3%)配合化粧水
右半顔:GGT阻害剤(0.005%)配合化粧水
B群・・・左半顔:プラセボ化粧水
右半顔:GGT阻害剤(0.005%)配合化粧水
なお、保湿クリームは、本試験用に作成した保湿クリームで、最低限の保湿効果が得られるように処方してあり、肌の弾力改善、美白効果、抗炎症効果をもつ原料は配合していない。
【0100】
肌弾力の経時変化を調べた結果を図4に示す。連用前のそれぞれの数値を100とした時の相対値をグラフにプロットし、縦軸は弾力パラメータR7(Ur/Uf;単位:なし)の平均変化率(単位:%)を表している。数値が100よりも高いほど肌の弾力が連用前に比べて高くなったことを表している。同図に示すように、プラセボは1ヶ月以降から減少しているのに対し、マトリキシル、GGT阻害剤を使用したものは1ヶ月後から持続的に数値の増加が見られる。また、マトリキシルは2ヶ月後〜3ヶ月後にほとんど変化が見られないが、GGT阻害剤は2ヵ月後から3ヶ月後にかけて大きく数値が上昇しているのがわかる。
<5.しわ改善の評価>
顔画像解析機「VISIA evolution(TM)(Canfield Co.,Ltd.)」を用い、上記のGGT阻害剤配合化粧水を連用した部位」(以後、GGT阻害剤(+)部位)、「マトリキシル配合化粧水を連用した部位」(同、マトリキシル(+)部位)、「プラセボ化粧水を連用した部位」(同、プラセボ部位)のそれぞれを1ヶ月ごとに撮影し、『一定の長さと形状(線状)が認められる部分をしわとして検出し、解析枠内に占めるその割合を表した値』を“しわスコア”として評価した。
【0101】
結果を図5に示す。GGT阻害剤(+)部位・マトリキシル(+)部位・プラセボ部位のそれぞれについて、化粧水連用3ヶ月後のしわスコアを、試験開始前の状態を100とした場合の相対値で示した。しわスコアは、その値が小さいほど、しわが少ない肌であることを意味している。
【0102】
3ヶ月後のしわスコアは、プラセボ部位で259.1%と大幅な増加が見られたのに対し、マトリキシル(+)部位で86.6%、GGT阻害剤(+)部位では80.9%へ減少した。GGT阻害剤が持つコラーゲン産生促進効果が、しわの改善につながっていることを確認できる結果となった。
<6.紫外線(UV)ダメージの軽減機能の評価>
GGT阻害剤GGT5aの存在下で、皮膚由来の線維芽細胞に対して紫外線暴露した場合のダメージを評価した。具体的な実験方法は以下のとおり。
(1)ヒト正常皮膚由来線維芽細胞の培養
ヒト正常皮膚由来線維芽細胞は、10%牛胎児血清(FBS)、ペニシリン(penicillin、50 units/ml、明治製菓)およびストレプトマイシン(streptomycin、50 mg/ml、明治製菓)を含むDulbecco’s modified Eagle’s medium(DMEM)培地(日水製薬)に細胞数が1.0×10cells/mlになるように調整し、37℃、5%COに調整したインキュベータ内において培養し、2日ごとに培地交換した。細胞がコンフルエントになった時点で本培養を開始し、DMEM培地に交換すると同時にGGT阻害剤を濃度10μMとなるように添加して3時間培養した後、紫外線照射を行った。さらにその後、細胞内活性酸素種産生量の測定には1時間培養した後、実験に供した。また、細胞生存率の測定には24時間培養した後、実験に供した。
(2)ヒト正常皮膚由来線維芽細胞への紫外線照射
紫外線照射にはUVランプ(TOSHIBA殺菌ランプ GL15)を使用した。UV−340 UV LIGHT METER(佐藤商事株式会社)を用いて、UV強度が20μWとなるようにUVランプの高さを調節した。シャーレをUVランプ下に設置し、ふたを開けてUVを1分間照射した。
(3)細胞生存率の測定(MTT法)
Methylthiazole tetrazolium(MTT)法は色素で生細胞を染色し、相対的な細胞量を簡便に測定する方法である。細胞内に取り込まれたほぼ無色素のテトラゾリウム塩が、ミトコンドリアの酸化還元酵素によって還元されて不溶性の着色物質(フォルマザン、formazan)を形成する。生成したフォルマザン量は生細胞数に対応するため、この色素を有機溶媒で抽出して吸光度を測定した。
【0103】
細胞を1.0×10cells/mlの濃度に調節して、直径35mmのプラスチックシャーレに1.0×10cellsずつ播き、各サンプルを添加した。本培養終了後、培地1mlに対して0.5%MTT溶液200μlを添加し、COインキュベータ内でさらに2時間インキュベートした。アスピレーターまたはマイクロピペットで培地を完全に取り除いた後、0.04N HCl/イソプロパノールを1ml添加し、ピペッティングしながら赤紫色のフォルマザンを溶解した。その後、吸光光度計(UV mini 1240)を用いて570nmの波長で吸光度を測定した。
(4)細胞内過酸化水素(H)産生量の測定
活性酸素種(ROS)産生量は、細胞内のperoxidesをDCFH−DAの標識によって測定した。また、サンプルをBradford法でタンパク定量を行い、タンパク量あたりのROS産生量を算出した。活性酸素種産生量の測定には、吸光度法および蛍光顕微鏡法の2つの方法を用いた。測定方法は以下の通りである。
【0104】
(a)吸光度法
・本培養終了30分前に2.4 mM DCFH−DA液を5μl添加する。
・本培養終了後、培地を取り除き、PBS 1mlで2回洗浄(氷上で行う)
・Hanks’solutionを150μl添加してラバーポリスマンで細胞をかきとり、150μl細胞液を96穴プレートに入れる(2穴)。タンパク定量用に残り全量を別に冷凍保存しておく。
・マルチラベルカウンター(Wallac 1420 ARVOsx)にて、波長485nm、蛍光波長535nmで蛍光度を測定した。
・冷凍保存しておいたサンプル細胞液を超音波{4min、(30sインターバル)×3回}にかけ細胞膜を破壊する。
・遠心分離(15000rpm、5min、4℃)。
・タンパク定量は吸光光度計(UV mini 1240)で595nmの吸光度を測定する。
【0105】
(b)蛍光顕微鏡法
・本培養終了30分前に2.4mM DCFH−DA液を5μl添加する。
・本培養終了後、培地を取り除き、PBS 1mlで2回洗浄(氷上で行う)。
・シャーレの壁をペンチで取り外し、少量のHOを滴下し、カバーガラス(24mm×24mm)を上にかぶせる。
・蛍光顕微鏡(OLYMPUS LSC101)下で観察し写真撮影する。
【0106】
結果を以下に示す。まず、紫外線照射下におけるヒト正常皮膚由来線維芽細胞の生存率に及ぼすGGT阻害剤の影響を調べた結果を図6に示す。同図に示すように、紫外線を照射することによって皮膚線維芽細胞の生存率は約20%低下した。また、GGT阻害剤を添加すると、紫外線によって低下した生存率を回復させる傾向が認められた。
【0107】
次に、紫外線照射下におけるヒト正常皮膚由来線維芽細胞のH産生量の上昇におよぼすGGT阻害剤の影響を調べた結果を図7,図8に示す。同図に示すように、ヒト正常皮膚由来線維芽細胞のH産生量は紫外線を照射することによって、照射していない群よりも高い値を示した。一方GGT阻害剤は、紫外線照射によって上昇したH量を減少させた。
【0108】
〔処方例:美容液〕
以下に示す処方の美容液を常法により製造した。
(組成) (重量%)
ソルビット 4.0
グリセリン 3.0
ブチレングリコール 3.0
ポリエチレングリコール 1500 5.0
POE(20)オレイルアルコールエーテル 0.5
ショ糖脂肪酸エステル 0.2
メチルセルロース 0.2
GGT阻害剤 0.005
精製水 全体で100となる量
〔処方例:乳液〕
以下に示す処方の乳液を常法により製造した。
(処方) (重量%)
グリセリン 1.5
ショ糖脂肪酸エステル 1.5
モノステアリン酸ソルビタン 1.0
スクワラン 7.5
ジプロピレングリコール 5.0
GGT阻害剤 0.005
精製水 全体で100となる量
〔処方例:クリーム〕
以下に示す処方のクリームを常法により製造した。
(処方) (重量%)
グリセリン 3.0
ブチレングリコール 3.0
スクワラン 19.0
ステアリン酸 5.0
モノステアリン酸グリセリン 5.0
モノステアリン酸ソルビタン 12.0
モノステアリン酸ポリエチレンソルビタン 38.0
エデト酸ナトリウム 0.03
GGT阻害剤 0.005
精製水 全体で100となる量
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によれば、GGT阻害活性を発揮することによってコラーゲン産生量を向上させるコラーゲン産生促進剤が提供される。また、GGT阻害剤は、紫外線によるダメージの軽減効果や角質水分量の増加作用も奏する。このため、本発明によれば、皮膚のしわ・たるみ等の老化防止・改善、紫外線による光老化の防止・改善、さらに皮膚の保湿機能の維持改善等に好適な皮膚用剤が提供されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
γ−グルタミルトランスペプチダーゼを阻害する化合物を有効成分とすることを特徴とする、コラーゲン産生促進剤。
【請求項2】
前記化合物は、脱離基を有するホスホン酸ジエステル誘導体を含む、請求項1記載のコラーゲン産生促進剤。
【請求項3】
前記化合物は、一般式(1)
【化1】

(式中、R1およびR2の少なくとも一方が脱離基を表し、R1およびR2の少なくともいずれか一方が一般式(2)〜一般式(6)
【化2】

(式中、R3が置換基を有していてもよいアリール基、および置換基を有していてもよい複素環残基のいずれかであり、R4,R5,R6,R7,R8およびR9のそれぞれが、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、および電子吸引基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基であり、R4〜R8の置換基のうち隣接する2つの置換基が互いに結合して環を形成してもよい。)のいずれかを表す。)で示されるホスホン酸ジエステル誘導体を含む請求項1または2記載のコラーゲン産生促進剤。
【請求項4】
前記化合物は、2−アミノ−4−{[3−(カルボキシメチル)フェニル](メチル)ホスホノ}ブタン酸を含む、請求項1〜3のいずれかに記載のコラーゲン産生促進剤。
【請求項5】
γ−グルタミルトランスペプチダーゼを阻害する化合物を有効成分とすることを特徴とする、光老化防止剤。
【請求項6】
前記化合物は、脱離基を有するホスホン酸ジエステル誘導体を含む、請求項5記載の光老化防止剤。
【請求項7】
前記化合物は、一般式(1)
【化3】

(式中、R1およびR2の少なくとも一方が脱離基を表し、R1およびR2の少なくともいずれか一方が一般式(2)〜一般式(6)
【化4】

(式中、R3が置換基を有していてもよいアリール基、および置換基を有していてもよい複素環残基のいずれかであり、R4,R5,R6,R7,R8およびR9のそれぞれが、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、および電子吸引基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基であり、R4〜R8の置換基のうち隣接する2つの置換基が互いに結合して環を形成してもよい。)のいずれかを表す。)で示されるホスホン酸ジエステル誘導体を含む請求項5または6記載の光老化防止剤。
【請求項8】
前記化合物は、2−アミノ−4−{[3−(カルボキシメチル)フェニル](メチル)ホスホノ}ブタン酸を含む、請求項5〜7のいずれかに記載の光老化防止剤。
【請求項9】
γ−グルタミルトランスペプチダーゼを阻害する化合物を有効成分とすることを特徴とする、保湿機能改善剤。
【請求項10】
前記化合物は、脱離基を有するホスホン酸ジエステル誘導体を含む、請求項9記載の保湿機能改善剤。
【請求項11】
前記化合物は、一般式(1)
【化5】

(式中、R1およびR2の少なくとも一方が脱離基を表し、R1およびR2の少なくともいずれか一方が一般式(2)〜一般式(6)
【化6】

(式中、R3が置換基を有していてもよいアリール基、および置換基を有していてもよい複素環残基のいずれかであり、R4,R5,R6,R7,R8およびR9のそれぞれが、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、および電子吸引基からなる群より選択される少なくとも1つの置換基であり、R4〜R8の置換基のうち隣接する2つの置換基が互いに結合して環を形成してもよい。)のいずれかを表す。)で示されるホスホン酸ジエステル誘導体を含む請求項9または10記載の保湿機能改善剤。
【請求項12】
前記化合物は、2−アミノ−4−{[3−(カルボキシメチル)フェニル](メチル)ホスホノ}ブタン酸を含む、請求項9〜11のいずれかに記載の保湿機能改善剤。
【請求項13】
請求項1〜4のいずれかに記載のコラーゲン産生促進剤、請求項5〜8のいずれかに記載の光老化防止剤、あるいは請求項9〜12のいずれかに記載の保湿機能改善剤を含有する、皮膚用剤用組成物。
【請求項14】
しわまたは肌弾力の改善用である、請求項13に記載の皮膚用剤用組成物。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−270115(P2010−270115A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99957(P2010−99957)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(506122327)公立大学法人大阪市立大学 (122)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【Fターム(参考)】