コンクリート内部の鉄筋腐食計測方法
【課題】 コンクリートの破壊や、含水率の調整等をしなくとも、鉄筋の腐食状態を計測可能とする。
【解決手段】 コンクリート内部の鉄筋腐食計測方法は、コンクリートの表面のひずみを計測するひずみ計測工程と、ひずみ計測工程による計測結果に基づいて、コンクリート内部の鉄筋の腐食状態を推測する腐食状態推測工程とを含む。
【解決手段】 コンクリート内部の鉄筋腐食計測方法は、コンクリートの表面のひずみを計測するひずみ計測工程と、ひずみ計測工程による計測結果に基づいて、コンクリート内部の鉄筋の腐食状態を推測する腐食状態推測工程とを含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート内部の鉄筋腐食計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートに埋設されている鉄筋の腐食状態を計測する方法としては、鉄筋が腐食することによって変化する鉄筋表面の電位から鉄筋の腐食を診断する自然電位法が知られている(例えば特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−177124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の計測方法であると、鉄筋に電流を流すため、コンクリートの一部を破壊して、鉄筋の一部を露出させる必要があった。また、コンクリート表面の含水率が6〜8%となるように散水あるいは乾燥させる必要もあった。
このため、本発明の課題は、コンクリートの破壊や、含水率の調整等をしなくとも、鉄筋の腐食状態を計測可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明に係るコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法は、
コンクリートの表面のひずみを計測するひずみ計測工程と、
前記ひずみ計測工程による計測結果に基づいて、前記コンクリート内部の鉄筋の腐食状態を推測する腐食状態推測工程とを含むことを特徴としている。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載のコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法において、
前記ひずみ計測工程では、前記コンクリートの表面のひずみを光学的に計測していることを特徴としている。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項2に記載のコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法において、
前記ひずみ計測工程では、前記コンクリートの表面に密着若しくは近接させたラインスキャナ装置によって撮像した前記コンクリートの表面の画像を基に、前記ひずみを計測することを特徴としている。
【0008】
請求項4記載の発明は、請求項2又は3記載のコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法において、
前記ひずみ計測工程の前に、前記コンクリートの表面にひずみ計測時の基準となるマークを予め作成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明者らは、コンクリート内部の鉄筋の腐食状態とコンクリート表面のひずみに相関関係を見出した。これにより、コンクリート表面のひずみを計測することでコンクリート内部の鉄筋の腐食状態を推測することができることとなった。つまり、請求項1記載の発明のように、コンクリート表面のひずみを計測し、その計測結果を基にコンクリート内部の鉄筋の腐食状態を推測すれば、コンクリートの破壊や、含水率の調整等を行わなくとも鉄筋の腐食状態を計測することができる。
【0010】
ここで、コンクリート表面のひずみを計測する際には、当該表面にひずみゲージを貼付して計測する手法が一般的である。しかしながら、ひずみゲージを用いる場合、計測期間中、常に電源を投入していなければならず、停電などが生じるとひずみの計測が行えなくなるリスクがある。また、ひずみゲージに対して配線が必要であり、長期にわたる計測期間中に配線が断線してしまうと、やはりひずみの計測が行えなくなる。さらに、ひずみゲージはどうしても耐久性に問題があり、長期にわたってひずみを計測することが困難である。
このように、ひずみゲージを用いたひずみの計測にはリスクが大きいのが実状であるが、請求項2記載の発明のように、コンクリートの表面のひずみを光学的に計測するようにすれば、ひずみゲージを用いるリスクを回避でき、コンクリート表面の平面的なひずみを容易に計測することが可能となる。
また、ひずみゲージを用いた場合であるとゲージを貼り付けた範囲のひずみしかデータを取得できないといった問題もあるもあるが、請求項3記載の発明のように、コンクリートの表面に密着若しくは近接させたラインスキャナ装置によって撮像したコンクリートの表面の画像を基にひずみを計測するようにすれば、広範囲にわたって高解像度の画像を取り込むことができ、高精度な計測が可能となる。
また、請求項4記載の発明によれば、ひずみ計測工程の前に、コンクリートの表面にひずみ計測時の基準となるマークが予め作成されているので、そのマークによりひずみの計測が容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態のコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法で用いられるひずみ計測装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】図1のひずみ計測装置の概略構成を示す説明図である。
【図3】図1のひずみ計測装置をコンクリート表面に設置した状態を示す斜視図である。
【図4】実施例で用いられる試供体の概略構成を示す説明図である。
【図5】電食開始6時間後の試供体表面のX軸方向のひずみ分布を示す説明図である。
【図6】電食開始18時間後の試供体表面のX軸方向のひずみ分布を示す説明図である。
【図7】電食開始30時間後の試供体表面のX軸方向のひずみ分布を示す説明図である。
【図8】電食開始42時間後の試供体表面のX軸方向のひずみ分布を示す説明図である。
【図9】電食開始54時間後の試供体表面のX軸方向のひずみ分布を示す説明図である。
【図10】試供体表面に発生したひび割れを示す説明図である。
【図11】図10のひずみ分布に図11のひび割れを重ねて示した説明図である。
【図12】電食開始時間と腐食量との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を参照して実施形態を詳細に説明する。まず、本実施形態のコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法で用いられるひずみ計測装置について説明する。図1及び図2はひずみ計測装置の概略構成を示す説明図であり、図3はひずみ計測装置をコンクリート表面に設置した状態を示す斜視図である。なお、図1及び図2はひずみ計測装置の計測面側を示している。
【0013】
図1〜図3に示すように、ひずみ計測装置1は、基台2と、回転盤3と、駆動部4と、ラインスキャナ装置5と、コンピュータ6とを備えている。
基台2は、正面視略四角形状に形成されていて、その周囲には遮光板21が配設されている。また、基台2の四隅には、位置決め用ボルト22が取り付けられている。この位置決め用ボルト22は、計測対象であるコンクリートCの表面に取り付けられたボルト受け材(図示省略)に対して係合するようになっている。ボルト受け材は、接着剤等によってコンクリートCの表面に固定されている。
【0014】
回転盤3は、基台2によって回転自在に支持されている。この回転盤3の計測面側にはラインスキャナ装置5と、駆動部4とが取り付けられており、回転盤3を回転させると、図2に示すようにラインスキャナ装置5と駆動部4とも回転することになる。回転盤3の回転によってラインスキャナ装置5の走査方向を調節することができる。
【0015】
ラインスキャナ装置5は、CCDラインセンサ51と、光源52と、キャリッジ53と、ガイド部54とを備えている。CCDラインセンサ51は、複数の画素が一方向に沿って配列されていて、コンピュータ6に電気的に接続されている。キャリッジ53は、CCDラインセンサ51及び光源52を搭載していて、ガイド部54によって走査するようになっている。ここでCCDラインセンサ51の画素の配列方向と、キャリッジ53の走査方向とは直交している。また、CCDラインセンサ51は、コンクリートCの表面に密着若しくは近接するように配置されている。
ガイド部54は、駆動部4の動力に基づいてキャリッジ53を走査させるようになっている。
【0016】
コンピュータ6は、ひずみ計測部61と腐食状態計測部62とを備えている。
ひずみ計測部61は、CCDラインセンサ51で撮像したコンクリートCの表面の画像を取り込み、この画像から画像解析によりコンクリートCの表面のひずみを計測するものである。なお、画像解析法としては、例えばデジタル画像相関法が挙げられるが、これ以外にも基準画像と、計測用画像との2枚の画像を用いてひずみを計測できる画像解析法であれば如何なる画像解析法を用いることが可能である。
【0017】
腐食状態計測部62は、ひずみ計測部61での計測結果を基に、コンクリートC内部の鉄筋の腐食状態を推測する。ここで、腐食状態計測部62には、予め鉄筋の腐食状態と、コンクリートCの表面のひずみとの関係が記憶されていて、この関係にひずみ計測部61での計測結果を当てはめることで、鉄筋の腐食状態を推測するようになっている。なお、鉄筋の腐食状態とひずみとの関係は、種々の実験やシミュレーションを行うことにより取得している。
【0018】
次に、本実施形態の作用について説明する。
まず、コンクリートCの硬化直後、コンクリートCの表面に対してひずみ計測装置1を設置する。このとき、コンクリートCの表面には、ひずみ計測時の基準となるマークを予め作成しておくことが好ましい。基準マークを形成する手法としては、例えばコンクリートCの表面に基準マークとなる模様(まだら模様等)をスプレー塗料によって作成する手法や、コンクリートCの表面を研磨して骨材を露出させ、その露出部分を基準マークとする手法等が挙げられる。
なお、上記のマークを予め計測しておかなくとも、コンクリートCの表面に元からある傷や凹凸等をひずみ計測時の基準マークとすることも可能である。
【0019】
そして、設置時においては、コンクリートCの表面にボルト受け材を取り付け、そのボルト受け材に位置決め用ボルト22を係合することで、ひずみ計測装置1が固定される。
設置後、回転盤3を回転させて走査方向の調整を行ってから、駆動部4及びラインスキャナ装置5を駆動して、基準画像を撮像する。撮像時には、ラインスキャナ装置5の光源52を発光させた状態でキャリッジ53が走査するが、このときコンクリートCの表面を反射した光をCCDラインセンサ51が受光することにより当該表面の画像を撮像することになる。撮影された基準画像はコンピュータ6により取り込まれて、当該コンピュータ6内に記憶されている。
【0020】
所定期間経過し、ひずみの計測が必要な時期になると、再度コンクリートCの表面に対してひずみ計測装置1を設置する。設置後、回転盤3を回転させて走査方向の調整を行ってから、駆動部4及びラインスキャナ装置5を駆動して、計測用画像を撮像する。撮影された計測用画像はコンピュータ6により取り込まれる。
【0021】
コンピュータ6のひずみ計測部61は、CCDラインセンサ51からコンクリートCの計測用画像が入力されると、計測用画像と基準画像とを基に画像解析を行い、コンクリートCの表面のひずみを計測する。計測結果は、例えば二次元的に示すことも可能である(図5参照)。図中淡い部分はひずみが小さい部分を示し、濃い部分はひずみが大きい部分を示している。
そして、コンピュータ6の腐食状態計測部62は、ひずみ計測部61での計測結果を基に、コンクリートC内部の鉄筋の腐食状態を推測する。
【0022】
ここで、コンクリートCは、施工後においては長期にわたって放置されているので、その表面には汚れが付着してしまう。この汚れがひずみ計測時にノイズとして認識されることになるが、上記のひずみ計測を所定の期間毎に行い、計測結果を累積してデジタル画像相関法等を用いればその汚れの影響を除去することも可能である。
【0023】
以上のように、本実施形態によれば、コンクリートCの表面のひずみを計測し、その計測結果を基にコンクリートC内部の鉄筋の腐食状態を推測するので、コンクリートCの破壊や、含水率の調整等を行わなくとも鉄筋の腐食状態を計測することができる。
そして、本技術を用いると、乾燥収縮ひずみやアルカリ骨材反応などの方向性のないひずみ分布も測定できる。また、温度応力や外力によるひずみ分布等も測定できる。
【0024】
また、コンクリートCの表面のひずみを光学的に計測しているので、コンクリートCの表面の平面的なひずみを広範囲にわたって容易に計測することが可能となる。
さらに、コンクリートCの表面に密着若しくは近接させたラインスキャナ装置5によって撮像したコンクリートCの表面の画像を基にひずみを計測しているので、高解像度の画像を取り込むことができるため高精度な計測が可能となる。
また、上記ひずみをキャンセルするために、ラインスキャナ装置5を回転させ、任意の角度の複数のデータを取得することにより、腐食によるひずみ分布を抽出することができる。
【0025】
なお、本発明は上記実施形態に限らず適宜変更可能であるのは勿論である。
例えば、上記実施形態では、CCDラインセンサ51によってコンクリートCの表面のひずみを計測する場合を例示して説明したが、コンクリートCの表面のひずみを計測できるのであれば如何なる方法を用いることが可能である。例えば、光学的にひずみを計測するのであれば、カメラによりコンクリートCの表面を撮影して、その撮影画像を基にひずみを計測することもできる。また、物理的に計測する場合には、例えばひずみゲージ法を用いることも可能である。
【0026】
[実施例]
ここで、試供体100を用いて、実際発生したひび割れとひずみの関係について説明する。図4は試供体100の概略構成を示す説明図であり、(a)は鉄筋101の径方向に沿った切断面から見た断面図、(b)は鉄筋101の長手方向に沿った切断面から見た断面図である。
図4に示すように、試供体100は、240mm(高さ)×470mm(長さ)×370mm(幅)の直方体形状となるようにコンクリートにより形成されている。コンクリートの呼び強度は24N/mm2である。この試供体100の一面をひずみ計測用の表面103とする。試供体100の表面103から20mmの地点であって、両端面から90mm離れたところには鉄筋101が埋め込まれている。この鉄筋は直径Dが32mmであり、長さが290mmである。なお、鉄筋101は埋め込む前に予め錆を除去している。そして、試供体100は、表面103側を除いてシリコンシーラントにより被覆されている。この試供体100に腐食促進方法としての電食法を施す。具体的には、3%塩化ナトリウム水溶液に試供体100を浸漬し、0.2A〜0.5Aの直流電流を鉄筋101に通電した。そして、電食開始から6時間後、18時間後、30時間後、42時間後、54時間後に上述したひずみ計測装置1を用いて試供体100の表面103のひずみを計測した。
【0027】
図5〜図9は、電食開始からの経過時間毎に試供体表面のX軸方向のひずみ分布を示す説明図である。図中、色の濃い部分が引っ張りひずみの大きい部分である。また、X,Y軸の目盛りは画像のピクセル数であり、鉄筋101はX軸の5000ピクセルの位置に上下方向に配置されている。
これら図5〜図9を見ると、電食が進行するにつれて徐々に引っ張りひずみの大きい領域が鉄筋101に沿って広がっていくのがわかる。ここで、電食開始54時間後には、図10に示しように試供体100の表面103にひび割れ104が発生したことがわかる。このひび割れ104を54時間後のひずみ計測結果に重ねると、図11に示すように、引っ張りひずみが大きい領域に沿ってひび割れ104が発生したことがわかる。また、図12に示すように電食開始からの経過時間が長くなればなるほど鉄筋101の腐食量も増加していることもわかる。
【0028】
このように、ひずみ計測装置1を用いることによりひび割れ以前から、コンクリートの表面103において鉄筋101の腐食による引っ張りひずみが集中する領域を確認できることが明らかとなり、鉄筋101の腐食状況をモニタリングできる可能性が示された。
【符号の説明】
【0029】
1 ひずみ計測装置
2 基台
3 回転盤
4 駆動部
5 ラインスキャナ装置
6 コンピュータ
21 遮光板
22 位置決め用ボルト
51 CCDラインセンサ
52 光源
53 キャリッジ
54 ガイド部
61 ひずみ計測部
62 腐食状態計測部
100 試供体
101 鉄筋
C コンクリート
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート内部の鉄筋腐食計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリートに埋設されている鉄筋の腐食状態を計測する方法としては、鉄筋が腐食することによって変化する鉄筋表面の電位から鉄筋の腐食を診断する自然電位法が知られている(例えば特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−177124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の計測方法であると、鉄筋に電流を流すため、コンクリートの一部を破壊して、鉄筋の一部を露出させる必要があった。また、コンクリート表面の含水率が6〜8%となるように散水あるいは乾燥させる必要もあった。
このため、本発明の課題は、コンクリートの破壊や、含水率の調整等をしなくとも、鉄筋の腐食状態を計測可能とすることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1記載の発明に係るコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法は、
コンクリートの表面のひずみを計測するひずみ計測工程と、
前記ひずみ計測工程による計測結果に基づいて、前記コンクリート内部の鉄筋の腐食状態を推測する腐食状態推測工程とを含むことを特徴としている。
【0006】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載のコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法において、
前記ひずみ計測工程では、前記コンクリートの表面のひずみを光学的に計測していることを特徴としている。
【0007】
請求項3記載の発明は、請求項2に記載のコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法において、
前記ひずみ計測工程では、前記コンクリートの表面に密着若しくは近接させたラインスキャナ装置によって撮像した前記コンクリートの表面の画像を基に、前記ひずみを計測することを特徴としている。
【0008】
請求項4記載の発明は、請求項2又は3記載のコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法において、
前記ひずみ計測工程の前に、前記コンクリートの表面にひずみ計測時の基準となるマークを予め作成することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明者らは、コンクリート内部の鉄筋の腐食状態とコンクリート表面のひずみに相関関係を見出した。これにより、コンクリート表面のひずみを計測することでコンクリート内部の鉄筋の腐食状態を推測することができることとなった。つまり、請求項1記載の発明のように、コンクリート表面のひずみを計測し、その計測結果を基にコンクリート内部の鉄筋の腐食状態を推測すれば、コンクリートの破壊や、含水率の調整等を行わなくとも鉄筋の腐食状態を計測することができる。
【0010】
ここで、コンクリート表面のひずみを計測する際には、当該表面にひずみゲージを貼付して計測する手法が一般的である。しかしながら、ひずみゲージを用いる場合、計測期間中、常に電源を投入していなければならず、停電などが生じるとひずみの計測が行えなくなるリスクがある。また、ひずみゲージに対して配線が必要であり、長期にわたる計測期間中に配線が断線してしまうと、やはりひずみの計測が行えなくなる。さらに、ひずみゲージはどうしても耐久性に問題があり、長期にわたってひずみを計測することが困難である。
このように、ひずみゲージを用いたひずみの計測にはリスクが大きいのが実状であるが、請求項2記載の発明のように、コンクリートの表面のひずみを光学的に計測するようにすれば、ひずみゲージを用いるリスクを回避でき、コンクリート表面の平面的なひずみを容易に計測することが可能となる。
また、ひずみゲージを用いた場合であるとゲージを貼り付けた範囲のひずみしかデータを取得できないといった問題もあるもあるが、請求項3記載の発明のように、コンクリートの表面に密着若しくは近接させたラインスキャナ装置によって撮像したコンクリートの表面の画像を基にひずみを計測するようにすれば、広範囲にわたって高解像度の画像を取り込むことができ、高精度な計測が可能となる。
また、請求項4記載の発明によれば、ひずみ計測工程の前に、コンクリートの表面にひずみ計測時の基準となるマークが予め作成されているので、そのマークによりひずみの計測が容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本実施形態のコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法で用いられるひずみ計測装置の概略構成を示す説明図である。
【図2】図1のひずみ計測装置の概略構成を示す説明図である。
【図3】図1のひずみ計測装置をコンクリート表面に設置した状態を示す斜視図である。
【図4】実施例で用いられる試供体の概略構成を示す説明図である。
【図5】電食開始6時間後の試供体表面のX軸方向のひずみ分布を示す説明図である。
【図6】電食開始18時間後の試供体表面のX軸方向のひずみ分布を示す説明図である。
【図7】電食開始30時間後の試供体表面のX軸方向のひずみ分布を示す説明図である。
【図8】電食開始42時間後の試供体表面のX軸方向のひずみ分布を示す説明図である。
【図9】電食開始54時間後の試供体表面のX軸方向のひずみ分布を示す説明図である。
【図10】試供体表面に発生したひび割れを示す説明図である。
【図11】図10のひずみ分布に図11のひび割れを重ねて示した説明図である。
【図12】電食開始時間と腐食量との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図を参照して実施形態を詳細に説明する。まず、本実施形態のコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法で用いられるひずみ計測装置について説明する。図1及び図2はひずみ計測装置の概略構成を示す説明図であり、図3はひずみ計測装置をコンクリート表面に設置した状態を示す斜視図である。なお、図1及び図2はひずみ計測装置の計測面側を示している。
【0013】
図1〜図3に示すように、ひずみ計測装置1は、基台2と、回転盤3と、駆動部4と、ラインスキャナ装置5と、コンピュータ6とを備えている。
基台2は、正面視略四角形状に形成されていて、その周囲には遮光板21が配設されている。また、基台2の四隅には、位置決め用ボルト22が取り付けられている。この位置決め用ボルト22は、計測対象であるコンクリートCの表面に取り付けられたボルト受け材(図示省略)に対して係合するようになっている。ボルト受け材は、接着剤等によってコンクリートCの表面に固定されている。
【0014】
回転盤3は、基台2によって回転自在に支持されている。この回転盤3の計測面側にはラインスキャナ装置5と、駆動部4とが取り付けられており、回転盤3を回転させると、図2に示すようにラインスキャナ装置5と駆動部4とも回転することになる。回転盤3の回転によってラインスキャナ装置5の走査方向を調節することができる。
【0015】
ラインスキャナ装置5は、CCDラインセンサ51と、光源52と、キャリッジ53と、ガイド部54とを備えている。CCDラインセンサ51は、複数の画素が一方向に沿って配列されていて、コンピュータ6に電気的に接続されている。キャリッジ53は、CCDラインセンサ51及び光源52を搭載していて、ガイド部54によって走査するようになっている。ここでCCDラインセンサ51の画素の配列方向と、キャリッジ53の走査方向とは直交している。また、CCDラインセンサ51は、コンクリートCの表面に密着若しくは近接するように配置されている。
ガイド部54は、駆動部4の動力に基づいてキャリッジ53を走査させるようになっている。
【0016】
コンピュータ6は、ひずみ計測部61と腐食状態計測部62とを備えている。
ひずみ計測部61は、CCDラインセンサ51で撮像したコンクリートCの表面の画像を取り込み、この画像から画像解析によりコンクリートCの表面のひずみを計測するものである。なお、画像解析法としては、例えばデジタル画像相関法が挙げられるが、これ以外にも基準画像と、計測用画像との2枚の画像を用いてひずみを計測できる画像解析法であれば如何なる画像解析法を用いることが可能である。
【0017】
腐食状態計測部62は、ひずみ計測部61での計測結果を基に、コンクリートC内部の鉄筋の腐食状態を推測する。ここで、腐食状態計測部62には、予め鉄筋の腐食状態と、コンクリートCの表面のひずみとの関係が記憶されていて、この関係にひずみ計測部61での計測結果を当てはめることで、鉄筋の腐食状態を推測するようになっている。なお、鉄筋の腐食状態とひずみとの関係は、種々の実験やシミュレーションを行うことにより取得している。
【0018】
次に、本実施形態の作用について説明する。
まず、コンクリートCの硬化直後、コンクリートCの表面に対してひずみ計測装置1を設置する。このとき、コンクリートCの表面には、ひずみ計測時の基準となるマークを予め作成しておくことが好ましい。基準マークを形成する手法としては、例えばコンクリートCの表面に基準マークとなる模様(まだら模様等)をスプレー塗料によって作成する手法や、コンクリートCの表面を研磨して骨材を露出させ、その露出部分を基準マークとする手法等が挙げられる。
なお、上記のマークを予め計測しておかなくとも、コンクリートCの表面に元からある傷や凹凸等をひずみ計測時の基準マークとすることも可能である。
【0019】
そして、設置時においては、コンクリートCの表面にボルト受け材を取り付け、そのボルト受け材に位置決め用ボルト22を係合することで、ひずみ計測装置1が固定される。
設置後、回転盤3を回転させて走査方向の調整を行ってから、駆動部4及びラインスキャナ装置5を駆動して、基準画像を撮像する。撮像時には、ラインスキャナ装置5の光源52を発光させた状態でキャリッジ53が走査するが、このときコンクリートCの表面を反射した光をCCDラインセンサ51が受光することにより当該表面の画像を撮像することになる。撮影された基準画像はコンピュータ6により取り込まれて、当該コンピュータ6内に記憶されている。
【0020】
所定期間経過し、ひずみの計測が必要な時期になると、再度コンクリートCの表面に対してひずみ計測装置1を設置する。設置後、回転盤3を回転させて走査方向の調整を行ってから、駆動部4及びラインスキャナ装置5を駆動して、計測用画像を撮像する。撮影された計測用画像はコンピュータ6により取り込まれる。
【0021】
コンピュータ6のひずみ計測部61は、CCDラインセンサ51からコンクリートCの計測用画像が入力されると、計測用画像と基準画像とを基に画像解析を行い、コンクリートCの表面のひずみを計測する。計測結果は、例えば二次元的に示すことも可能である(図5参照)。図中淡い部分はひずみが小さい部分を示し、濃い部分はひずみが大きい部分を示している。
そして、コンピュータ6の腐食状態計測部62は、ひずみ計測部61での計測結果を基に、コンクリートC内部の鉄筋の腐食状態を推測する。
【0022】
ここで、コンクリートCは、施工後においては長期にわたって放置されているので、その表面には汚れが付着してしまう。この汚れがひずみ計測時にノイズとして認識されることになるが、上記のひずみ計測を所定の期間毎に行い、計測結果を累積してデジタル画像相関法等を用いればその汚れの影響を除去することも可能である。
【0023】
以上のように、本実施形態によれば、コンクリートCの表面のひずみを計測し、その計測結果を基にコンクリートC内部の鉄筋の腐食状態を推測するので、コンクリートCの破壊や、含水率の調整等を行わなくとも鉄筋の腐食状態を計測することができる。
そして、本技術を用いると、乾燥収縮ひずみやアルカリ骨材反応などの方向性のないひずみ分布も測定できる。また、温度応力や外力によるひずみ分布等も測定できる。
【0024】
また、コンクリートCの表面のひずみを光学的に計測しているので、コンクリートCの表面の平面的なひずみを広範囲にわたって容易に計測することが可能となる。
さらに、コンクリートCの表面に密着若しくは近接させたラインスキャナ装置5によって撮像したコンクリートCの表面の画像を基にひずみを計測しているので、高解像度の画像を取り込むことができるため高精度な計測が可能となる。
また、上記ひずみをキャンセルするために、ラインスキャナ装置5を回転させ、任意の角度の複数のデータを取得することにより、腐食によるひずみ分布を抽出することができる。
【0025】
なお、本発明は上記実施形態に限らず適宜変更可能であるのは勿論である。
例えば、上記実施形態では、CCDラインセンサ51によってコンクリートCの表面のひずみを計測する場合を例示して説明したが、コンクリートCの表面のひずみを計測できるのであれば如何なる方法を用いることが可能である。例えば、光学的にひずみを計測するのであれば、カメラによりコンクリートCの表面を撮影して、その撮影画像を基にひずみを計測することもできる。また、物理的に計測する場合には、例えばひずみゲージ法を用いることも可能である。
【0026】
[実施例]
ここで、試供体100を用いて、実際発生したひび割れとひずみの関係について説明する。図4は試供体100の概略構成を示す説明図であり、(a)は鉄筋101の径方向に沿った切断面から見た断面図、(b)は鉄筋101の長手方向に沿った切断面から見た断面図である。
図4に示すように、試供体100は、240mm(高さ)×470mm(長さ)×370mm(幅)の直方体形状となるようにコンクリートにより形成されている。コンクリートの呼び強度は24N/mm2である。この試供体100の一面をひずみ計測用の表面103とする。試供体100の表面103から20mmの地点であって、両端面から90mm離れたところには鉄筋101が埋め込まれている。この鉄筋は直径Dが32mmであり、長さが290mmである。なお、鉄筋101は埋め込む前に予め錆を除去している。そして、試供体100は、表面103側を除いてシリコンシーラントにより被覆されている。この試供体100に腐食促進方法としての電食法を施す。具体的には、3%塩化ナトリウム水溶液に試供体100を浸漬し、0.2A〜0.5Aの直流電流を鉄筋101に通電した。そして、電食開始から6時間後、18時間後、30時間後、42時間後、54時間後に上述したひずみ計測装置1を用いて試供体100の表面103のひずみを計測した。
【0027】
図5〜図9は、電食開始からの経過時間毎に試供体表面のX軸方向のひずみ分布を示す説明図である。図中、色の濃い部分が引っ張りひずみの大きい部分である。また、X,Y軸の目盛りは画像のピクセル数であり、鉄筋101はX軸の5000ピクセルの位置に上下方向に配置されている。
これら図5〜図9を見ると、電食が進行するにつれて徐々に引っ張りひずみの大きい領域が鉄筋101に沿って広がっていくのがわかる。ここで、電食開始54時間後には、図10に示しように試供体100の表面103にひび割れ104が発生したことがわかる。このひび割れ104を54時間後のひずみ計測結果に重ねると、図11に示すように、引っ張りひずみが大きい領域に沿ってひび割れ104が発生したことがわかる。また、図12に示すように電食開始からの経過時間が長くなればなるほど鉄筋101の腐食量も増加していることもわかる。
【0028】
このように、ひずみ計測装置1を用いることによりひび割れ以前から、コンクリートの表面103において鉄筋101の腐食による引っ張りひずみが集中する領域を確認できることが明らかとなり、鉄筋101の腐食状況をモニタリングできる可能性が示された。
【符号の説明】
【0029】
1 ひずみ計測装置
2 基台
3 回転盤
4 駆動部
5 ラインスキャナ装置
6 コンピュータ
21 遮光板
22 位置決め用ボルト
51 CCDラインセンサ
52 光源
53 キャリッジ
54 ガイド部
61 ひずみ計測部
62 腐食状態計測部
100 試供体
101 鉄筋
C コンクリート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの表面のひずみを計測するひずみ計測工程と、
前記ひずみ計測工程による計測結果に基づいて、前記コンクリート内部の鉄筋の腐食状態を推測する腐食状態推測工程とを含むことを特徴とするコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法。
【請求項2】
請求項1に記載のコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法において、
前記ひずみ計測工程では、前記コンクリートの表面のひずみを光学的に計測していることを特徴とするコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法。
【請求項3】
請求項2に記載のコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法において、
前記ひずみ計測工程では、前記コンクリートの表面に密着若しくは近接させたラインスキャナ装置によって撮像した前記コンクリートの表面の画像を基に、前記ひずみを計測することを特徴とするコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法。
【請求項4】
請求項2又は3記載のコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法において、
前記ひずみ計測工程の前に、前記コンクリートの表面にひずみ計測時の基準となるマークを予め作成することを特徴とするコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法。
【請求項1】
コンクリートの表面のひずみを計測するひずみ計測工程と、
前記ひずみ計測工程による計測結果に基づいて、前記コンクリート内部の鉄筋の腐食状態を推測する腐食状態推測工程とを含むことを特徴とするコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法。
【請求項2】
請求項1に記載のコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法において、
前記ひずみ計測工程では、前記コンクリートの表面のひずみを光学的に計測していることを特徴とするコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法。
【請求項3】
請求項2に記載のコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法において、
前記ひずみ計測工程では、前記コンクリートの表面に密着若しくは近接させたラインスキャナ装置によって撮像した前記コンクリートの表面の画像を基に、前記ひずみを計測することを特徴とするコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法。
【請求項4】
請求項2又は3記載のコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法において、
前記ひずみ計測工程の前に、前記コンクリートの表面にひずみ計測時の基準となるマークを予め作成することを特徴とするコンクリート内部の鉄筋腐食計測方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図12】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図12】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−2617(P2012−2617A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136874(P2010−136874)
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月16日(2010.6.16)
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】
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