説明

コンクリート養生用面状発熱体

【課題】 強度が高く、耐アルカリ性及び耐摩耗性に優れたコンクリート養生用面状発熱体を提供すること。
【解決手段】 通電により発熱する発熱層(A)と、その両面にそれぞれ少なくとも1層の絶縁層(B)と、が積層されてなるコンクリート養生用面状発熱体であり、
前記絶縁層(B)が、ポリエステル繊維の織布の両面を塩化ビニル樹脂で覆ってなる塩化ビニルターポリン層(B1)を有することを特徴とするコンクリート養生用面状発熱体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリートを養生するための面状発熱体に係り、さらに詳しくは、強度が高く、耐アルカリ性及び耐摩耗性に優れたコンクリート養生用面状発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
面状発熱体は、たとえば敷布、マット、定温倉庫の床、コンクリート構造体、タンクなどの加温や保温、あるいは、融雪、霜取り、融氷、凍結防止などの目的で多用途に使用されている。従来の面状発熱体としては、たとえば基布に導電性塗料を塗布した発熱層を有する面状発熱体、導電性線状体(線、帯、糸)を面状に配置して成る発熱層を持つ面状発熱体、導電性粒子が分散された導電性シートから成る発熱層を持つ面状発熱体、絶縁シート上に導電性塗料層から成る発熱層が形成された面状発熱体などが知られている。
【0003】
いずれのタイプの面状発熱体でも、面状発熱体に接触するものとの絶縁性を保持する必要があることから、面状発熱層の両面には、絶縁シートが積層してある。この面状発熱体に用いられる絶縁シートの材料としては、様々な物質が使用されているが、安価であることなどから、樹脂やゴムといった材料が広く用いられている。
面状発熱体の優れた発熱性を利用したコンクリートの養生も行われている(特許文献1)。ところが、単に種類を選ばずにゴムや樹脂を面状発熱体の絶縁層に使用すると、そのゴムや樹脂の種類によっては、固まる前のコンクリートからしみ出すアルカリ性の水溶液によって腐食され、ひいては発熱層にアルカリ性の水溶液が浸透して面状発熱体が故障したり、漏電するなどのトラブルを起こす可能性がある。また、ゴムや樹脂の種類によっては、強度が低いために、また風などにより固まったコンクリートとの間に生じる摩擦に耐えられないために絶縁層が破れて発熱層が露出するといった問題が生じる可能性がある。
【0004】
【特許文献1】特開2005−108582号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、強度が高く、耐アルカリ性及び耐摩耗性に優れたコンクリート養生用面状発熱体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意検討した結果、面状発熱体の絶縁シートとして、ポリエステル繊維の織布の両面を塩化ビニル樹脂で覆ってなる塩化ビニルターポリン層を有するものを使用することにより、強度が高く、耐アルカリ性及び耐摩耗性に優れたコンクリート養生用面状発熱体を提供できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
1. 通電により発熱する発熱層(A)と、その両面にそれぞれ少なくとも1層の絶縁層(B)と、が積層されてなるコンクリート養生用面状発熱体であり、
前記絶縁層(B)が、ポリエステル繊維の織布の両面を塩化ビニル樹脂で覆ってなる塩化ビニルターポリン層(B1)を有することを特徴とするコンクリート養生用面状発熱体;
2. 前記絶縁層(B)が、塩化ビニルターポリン層(B1)の、発熱層(A)と対向する側の面上に、更に塩化ビニル樹脂層(B2)を有してなることを特徴とする前記1記載のコンクリート養生用面状発熱体;
3. 前記発熱層(A)が、絶縁性糸から構成される経糸と、前記経糸に交差する、少なくとも発熱用導電性糸から構成される緯糸と、前記緯糸の両端部に電気的に接続するようにそれぞれ配置される電極線と、で折り込まれた織布からなることを特徴とする、前記1又は2に記載のコンクリート養生用面状発熱体;
を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るコンクリート養生用面状発熱体によれば、強度が高く、耐アルカリ性及び耐摩耗性に優れるため、固まる前のコンクリートからしみ出すアルカリ性の水溶液によって絶縁層が腐食されることもなく、また風などにより固まったコンクリートとの間に摩擦が生じても、発熱層が露出することを防ぐことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のコンクリート養生用面状発熱体は、通電により発熱する発熱層(A)と、その両面にそれぞれ少なくとも1層の絶縁層(B)と、が積層されてなり、前記絶縁層(B)が、ポリエステル繊維の織布の両面を塩化ビニル樹脂で覆ってなる塩化ビニルターポリン層(B1)を有することを特徴とする。
【0010】
本発明のコンクリート養生用面状発熱体を構成する発熱層(A)の具体的な構造は、特に限定されず、例えば基布に導電性塗料を塗布した発熱層、導電性線状体(線、帯、糸)を面状に配置してなる発熱層、導電性粒子が分散された導電性シートからなる発熱層、導電性塗料層からなる発熱層などが例示される。その中でも、発熱層(A)が、絶縁性糸から構成される経糸と、前記経糸に交差する、少なくとも発熱用導電性糸から構成される緯糸と、前記緯糸の両端部に電気的に接続するようにそれぞれ配置される電極線と、で折り込まれた織布からなるものが好ましい。これはいわゆる並列電極タイプで、かつ線面タイプのコンクリート養生用面状発熱体である。このコンクリート養生用面状発熱体は、コンクリート養生用面状発熱体の一部に破損が生じて導電性の緯糸からなる線状発熱素子の一部が切断されたとしても、他の導電性の緯糸には電流が供給され、発熱を維持することができる。また、切断された導電性の緯糸は、電流が流れずに発熱しないのみであり、他の導電性の緯糸に印加される電圧も変化せず、異常発熱などが発生する恐れもない。そのため、このタイプのコンクリート養生用面状発熱体は、耐屈曲性に優れ、多数回の屈曲でも異常が発生しない。
前記発熱層(A)は、その両端部にある電極から延びるコード及びコンセントを介して電源より通電されることで発熱する。
【0011】
発熱層(A)の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.5〜5mm程度である。
【0012】
本発明のコンクリート養生用面状を構成する絶縁層(B)は、ポリエステル繊維の織布の両面を塩化ビニル樹脂で覆ってなる塩化ビニルターポリン層(B1)を有することを必須とする。
【0013】
前記塩化ビニルターポリン層(B1)を構成するポリエステル繊維の織布は、前記塩化ビニルターポリン層(B1)に強度を付与するために使用される。ポリエステル繊維の織布としては、ポリエステル繊維を織ってなる布帛であれば、特に限定されない。ポリエステル繊維の織り方も、特に限定されない。塩化ビニルターポリン層(B1)は、可撓性を有するものが、様々な形状のコンクリートを養生するための形状追随性に優れるため望ましい。そのため、ポリエステル繊維の織布にも、強度と共に可撓性を有するものが好ましく用いられる。
【0014】
前記ポリエステル繊維の材料であるポリエステルとしては、特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリエチレンフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリプロピレンイソフタレート、ポリプロピレンフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート、ポリブチレンフタレートなどの芳香族ポリエステル;ポリエチレンアジペート、ポリプロピレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどの脂肪族ポリエステル;などが挙げられる。ポリエステルの中でも、強度の高いもの、及び得られる繊維に可撓性を付与するものが好ましく使用される。
【0015】
前記塩化ビニルターポリン層(B1)を構成する塩化ビニル樹脂は、前記塩化ビニルターポリン層(B1)に耐アルカリ性及び耐摩耗性を付与するために使用される。塩化ビニル樹脂としては、特に限定されないが、耐アルカリ性及び耐摩耗性と共に可撓性を有するものが好ましく使用される。可撓性を持たせるために、塩化ビニル樹脂に各種可塑剤や低分子量ポリマーを含有させたり、あるいは塩化ビニルモノマーに、塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーを共重合させてなる塩化ビニル樹脂を用いることが好ましい。
【0016】
前記可塑剤としては、特に限定されないが、例えば、ジ(2−エチルヘキシル)フタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジ(2−エチルヘキシル)アジピネート、ジイソノニルアジピネート、ジ(2−エチルヘキシル)アゼライネート、ジ(2−エチルヘキシル)セバシネート、トリクレシルフォスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)トリメリテート、エポキシ化大豆油、などが挙げられる。
【0017】
前記低分子量ポリマーとしては、特に限定されないが、例えば、塩素化パラフィン、低分子量ポリエステル、低分子量ブチルゴム、などが挙げられる。
【0018】
前記の、塩化ビニルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、特に限定されず、種々のモノマーを、本発明の効果を損ねない範囲で使用することができる。
【0019】
前記塩化ビニル樹脂には、前述した可塑剤や低分子量ポリマーの他、前記塩化ビニル樹脂以外の各種樹脂や各種ゴム、充填剤、補強剤、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光触媒体、などを、本発明の効果を損ねない範囲で使用することができる。
【0020】
本発明のコンクリート養生用面状発熱体は、前記絶縁層(B)が、塩化ビニルターポリン層(B1)の、発熱層(A)と対向する側の面上に、更に塩化ビニル樹脂層(B2)を有してなるものが好ましい。
【0021】
前記塩化ビニル樹脂層(B2)は、ポリ塩化ビニル(b2)を主成分として含有する組成物(b2’)からなる絶縁シート層である。なお、「主成分として含有する」とは、50重量%以上含有することを意味する。
【0022】
前記ポリ塩化ビニル(b2)の、分子量、分子量分布などは、固体状態を維持し、変形のないものあるいは変形があっても小さい範囲のものであれば、特に限定されない。
【0023】
また、前記組成物(b2’)には、ポリ塩化ビニル(b2)以外の各種樹脂、各種ゴム、充填剤、補強剤、可塑剤、低分子量ポリマー、顔料、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光触媒体、などを、本発明の効果を損ねない範囲で使用することができる。可塑剤及び低分子量ポリマーとしては、前述したものを挙げることができる。
【0024】
前記塩化ビニル樹脂層(B2)の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.1〜1mm、より好ましくは0.2〜0.7mm、更に好ましくは0.3〜0.5mmである。厚みが好ましい範囲内にあるほど、発熱層を保護する機能が保たれると共に、コスト面でも不利とならない。
【0025】
本発明のコンクリート養生用面状発熱体の一形態を構成する絶縁層(B)(複数であっても良い)、発熱層(A)、及び絶縁層(B)(複数であっても良い)は、この順序に積層され、それぞれの層間は、通常、公知の接着剤を用いて接着されるか、熱融着される。
【0026】
本発明のコンクリート養生用面状発熱体は、通常、広い面積を有するコンクリートに対して用いられるため、複数個を連結して使用される。連結は、コンクリート養生用面状発熱体の発熱層(A)からはみ出している部分の絶縁層(B)に穴を空けてハトメを作成し、ロープ等で複数個を繋ぐことにより行われる。
【0027】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。実施例中における部及び%は、特に言及がない限り、重量基準である。なお、本発明は、これら実施例に限定されない。
なお、コンクリート養生用面状発熱体の各特性の評価法は、下記のとおりである。
(1) 最外層の引張強度
面状発熱体の絶縁層のうちの最外層の樹脂シートについて、JIS K 6723に準拠して測定した。数値が大きいほど優れたものとなる。
(2) 最外層の耐摩耗性
面状発熱体の絶縁層のうちの最外層の樹脂シートについて、JIS K 7204に準拠して測定した。荷重:500gf、回転数:500回、摩耗輪:GC−150Hにて行った。数値が小さいほど優れたものとなる。
(3) 面状発熱体の耐屈曲疲労性
23℃の環境下、面状発熱体を通電して80℃に加温した状態で、屈曲サイクル50回/分にて、100,000回屈曲させ、耐屈曲疲労性を試験した。
【実施例1】
【0028】
以下に述べる層を順に、セメダイン210(セメダイン(株)社製)を用いて接着し、コンクリート養生用面状発熱体(1)を得た。
厚みが0.5mmのポリエチレンテレフタレート繊維の織布の両面を塩化ビニル樹脂で覆ってなる、厚みが1.0mmの塩化ビニルターポリン層(B1)(1);
厚みが0.4mmの塩化ビニル製絶縁シート層(B2)(1);
以下の構成の、厚みが1.2mmの発熱層(A)(1):2つの略平行な電極と、その電極間に延びる導電性緯糸と、前記2つの電極と略平行に延びる絶縁性経糸との織布からなり、導電性緯糸としては、ポリエチレンテレフタレート製絶縁糸に導電性塗料をコーティングしたものを用い、導電性塗料としては、テトラヒドロフラン900重量部に、ポリカーボネートポリウレタン(炭素数7のオキシカルボニルオキシポリメチレン繰り返し単位を有する、ヘキサメチレングリコールとホスゲンとの等モル反応物(塩酸は脱離して分離除去した)であるポリカーボネートポリオール77.3重量%、並びに、炭素数15の芳香族系多官能イソシアネートである、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)22.7重量%を共重合したポリカーボネートポリウレタン)100重量部を溶解し、カーボンブラック(三菱カーボンブラック#45L(三菱化学(株)社製)90重量部とケッチェンブラックEC(ライオン(株)社製)10重量部)を分散させた導電性塗料を用い、また、この発熱層の両側端には、2つの電極を、前記織布と同時に織り込むことにより形成したもの;
厚みが0.4mmの塩化ビニル製絶縁シート層(B2)(1);
及び厚みが0.5mmのポリエチレンテレフタレート繊維の織布の両面を塩化ビニル樹脂で覆ってなる厚みが1.0mmの塩化ビニルターポリン層(B1)(1)。
このコンクリート養生用面状発熱体(1)の最外層を形成する塩化ビニルターポリン層(B2)(1)の引張強度及び耐摩耗性を試験した。また、前記コンクリート養生用面状発熱体(1)に対して耐屈曲疲労性試験を行った。結果を表1に示す。
【0029】
〔比較例1〕
塩化ビニルターポリン層(B1)(1)の代わりに、厚みが1.0mmの塩化ビニル樹脂層(B1)(2)を最外層とする他は、実施例1と同様にしてコンクリート養生用面状発熱体(2)を作成した。
このコンクリート養生用面状発熱体(2)の最外層を形成する塩化ビニル樹脂層(B2)(2)の引張強度及び耐摩耗性を試験した。また、前記コンクリート養生用面状発熱体(2)に対して耐屈曲疲労性試験を行った。結果を表1に示す。
【0030】
〔比較例2〕
塩化ビニルターポリン層(B1)(1)の代わりに、厚みが0.5mmのポリエチレンテレフタレート繊維の織布の両面をポリエチレン樹脂で覆ってなる厚みが1.0mmのポリエチレンターポリン層(B1)(3)を最外層とする他は、実施例1と同様にしてコンクリート養生用面状発熱体(3)を作成した。
このコンクリート養生用面状発熱体(3)の最外層を形成するポリエチレンターポリン層(B1)(3)の引張強度及び耐摩耗性を試験した。また、前記コンクリート養生用面状発熱体(3)に対して耐屈曲疲労性試験を行った。結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
表1の結果より、コンクリート養生用面状発熱体の最外層を単なる塩化ビニル樹脂層とした比較例1では、最外層の強度が劣る。また、最外層にポリエチレンターポリン層を用いた比較例2では、最外層の耐摩耗性が劣る。
これに対し、本発明のコンクリート養生用面状発熱体である実施例1では、最外層の強度及び耐摩耗性に優れることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
通電により発熱する発熱層(A)と、その両面にそれぞれ少なくとも1層の絶縁層(B)と、が積層されてなるコンクリート養生用面状発熱体であり、
前記絶縁層(B)が、ポリエステル繊維の織布の両面を塩化ビニル樹脂で覆ってなる塩化ビニルターポリン層(B1)を有することを特徴とするコンクリート養生用面状発熱体。
【請求項2】
前記絶縁層(B)が、塩化ビニルターポリン層(B1)の、発熱層(A)と対向する側の面上に、更に塩化ビニル樹脂層(B2)を有してなることを特徴とする請求項1記載のコンクリート養生用面状発熱体。
【請求項3】
前記発熱層(A)が、絶縁性糸から構成される経糸と、前記経糸に交差する、少なくとも発熱用導電性糸から構成される緯糸と、前記緯糸の両端部に電気的に接続するようにそれぞれ配置される電極線と、で折り込まれた織布からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載のコンクリート養生用面状発熱体。

【公開番号】特開2007−144654(P2007−144654A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−339031(P2005−339031)
【出願日】平成17年11月24日(2005.11.24)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】