説明

コーティング方法および微細構造素子および複数層微細構造素子およびその製造方法

【課題】微細構造領域とフラット領域とに「表面が単平面となるコート層」を形成できるコーティング方法を提供する。
【解決手段】平面状領域に微細な周期的構造が形成された微細構造領域10Aと、この微細構造領域に隣接する平坦な表面を有するフラット領域10Bとを形成された被コーティング体10の、微細構造領域10Aとフラット領域10Bとにわたりコーティング材料を液状態でコーティングして、コート層を形成するコーティング方法において、微細構造領域10Aとフラット領域10Bとに所定の段差量:ΔHを、微細構造領域10Aにおける微細な周期的構造の形態に応じて予め設定することにより、コーティングされたコート層の表面を、微細構造領域とフラット領域とにわたって実質的に平坦な単一面とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はコーティング方法および微細構造素子および複数層微細構造素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、液晶パネルには「個々の液晶画素に光を有効に集光するためのマイクロレンズアレイ」が用いられるのが通常であるが、このようなマイクロレンズアレイは一般に、マイクロレンズ面が形成された側の面を「別の部材の平坦な面」に所定の間隔で対向させて一体化される。このため、マイクロレンズ面が形成された側に「別部材と一体化するための平坦な面」を形成する必要がある。
【0003】
このような平坦な面を形成するのに、従来は、マイクロレンズ面が形成された側の面に、平行平板状の透明基板を接合し、この透明基板を研磨で薄肉化して所望の厚さに形成し、研磨された面で別部材に接合一体化していた。
【0004】
しかし、この方法では「研磨により透明基板の厚さ方向の大部分が削り落とされる」ことになり、透明基板材料の無駄が多く、また研磨に時間がかかり作業効率がよくない。材料コストや作業効率、環境の面から改善が望まれる。
【0005】
上記平坦な面を形成するのは、別部材の平坦な面との一体化のためであり、適当なコーティング材料を塗布して「表面が平坦な面となるコート層」を形成できれば、材料の無駄がなく作業も効率的である。
【0006】
ところでマイクロレンズアレイ等の光学部材は一般に、マイクロレンズ等のマイクロ光学面がアレイ配列パターンとして形成された「光学機能領域」と、この光学機能領域に接して設けられて平坦な表面を有する「フラット領域」とを有する。
このように、光学機能領域とフラット領域とが互いに接して存在する光学部材に、スピンコート等の従来の塗布手法で塗布を行うと、塗布形成されたコート層の表面には、光学機能領域とフラット領域との境界部に「段差」を生じ、コート層の表面が「単一の平面にならない」という問題があった。
【0007】
この問題を、図1を参照して説明する。
図1において、符号1で示す光学部材は、基板の片面にマイクロレンズアレイ(光学機能領域)MLAとフラット領域FDを形成されたものである。符号2はコーティング材料を塗布して形成された「コート層」を示す。
図の如く、形成されたコート層2の自由表面には、マイクロレンズアレイMLAとフラット領域FDとの境界部に対応して、高さ:hの段差が形成され、自由表面は「単一の平面」とならない。
従来、このような課題の解決を提案したものは、発明者の知る限りにおいて存在していない。
かかる課題を解決する方策として以下の如きものが考えられる。
即ち、所定の光学機能領域を形成した光学部材を「試作品として作製」し、上記の如き方法でコーティングを行ってコート層を形成する。
このように形成されたコート層表面には、一般に上述の段差が発生するので、発生した段差の高さ:hを精密に測定する。上記段差の高さ:hは一般に「μmオーダ」であるので、測定は「サブμmオーダ」で行なわねばならない。
そして、製品としての光学部材を製造するに当たっては、フラット部の高さを「測定された段差の高さの差:h」だけ、試作品のものより低く設定して製造する。
【0008】
このようにすれば、製品として製造された光学部材にコート層を形成するとき、コート層における段差の発生を回避できる。
【0009】
しかしながら、この方法だと、光学部材を製造する場合に、一々「試作品を作製してコーティングを行い、形成されたコート層における段差の高さ:hを精密測定」する必要があり面倒でもある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、上記コート層の表面に段差を発生させることのないコーティング方法の提供を課題とする。
この発明はまた、上記コーティング方法の実施により製造される微細構造素子の提供、さらには複数層微細構造素子の新規な製造方法およびこの製造方法で製造される複数層微細構造素子の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この発明にかかるコーティング方法は「平面状領域に微細な周期的構造が形成された微細構造領域と、この微細構造領域に隣接して平坦な表面を有するフラット領域とを形成された被コーティング体の、微細構造領域とフラット領域とにわたりコーティング材料を液状態でコーティングして、コート層を形成するコーティング方法」であり、以下の点を特徴とする(請求項1)。
【0012】
即ち、微細構造領域とフラット領域とに所定の段差量:ΔHを「微細構造領域における微細な周期的構造の形態に応じて予め設定する」ことにより、コーティングされたコート層の表面を、微細構造領域とフラット領域とにわたって実質的に平坦な単一面とする。
【0013】
若干、説明を補足する。
「被コーティング体」は、コーティングの対象となる物であり、平面状の領域に「微細構造領域と、この微細構造領域に隣接するフラット領域と」を形成され、この微細構造領域とフラット領域の形成された面に対してコーティングが行なわれる。
【0014】
「微細構造領域」には、「微細な周期的構造」が形成される。
「微細な周期的構造」は、単位となる微細形状が1次元的もしくは2次元的な周期をなして配列形成された構造である。
このような微細な周期的構造の具体例としては、マイクロレンズ面(凸や凹の球面レンズ面や非球面レンズ面、アキシコンレンズ面や、シリンドリカルレンズ面等のアナモルフィックレンズ面等)を「単位となる微細形状」としてこれを1次元的もしくは2次元的に配列してなるマイクロレンズアレイや、マイクロプリズムを「単位となる微細形状」としてこれを1次元的あるいは2次元的にアレイ配列したもの等、光学的な機能を持つものを挙げることができるが、これに限らず、例えば、半導体メモリのように、個々のメモリ要素がアレイ配列したもの等を微細な周期的構造の具体例として挙げることもできる。
【0015】
従って、微細構造領域には、微細な凹凸による周期的な構造が形成されている。上述の「光学機能領域」は、微細構造領域の1例である。
【0016】
「フラット領域」は、位置的には微細構造領域に隣接する領域であり、表面形状は平坦な面である。フラット領域は、例えば、マイクロレンズアレイ形成領域(前述の光学機能領域)を枠取るように囲繞して形成される。
【0017】
「コート層」は、被コーティング体の「微細構造領域とフラット領域と」にコーティング材料を液状態で塗布してコーティングした層である。コート層は、液状態で塗布されたコーティング材料が「固体状態(少なくとも、自由な流動を行わない状態)」となった状態である。
【0018】
例えば、コーティング材料として「無機のゾルゲル材料」を用いることができ、このゾルゲル材料を液状態、即ち、ゾル状態で塗布し、これを光及び/または熱によりゲル化し、さらに固化させた状態のものを「コート層」とすることができる。
【0019】
「コーティング材料」は、上記ゾルゲル材料に限らず、有機材料や無機材料や、周知のフォトレジストを用いることができる。
「コーティング」は、各種コーティング材料を液状態で、スピンコータ、バーコータ、スリットコータ、フローコータ等の各種コータを用いて塗布して実行することができる。
【0020】
請求項1記載のコーティング方法の特徴は、上述の如く「微細構造領域とフラット領域とに所定の段差量:ΔHを、微細構造領域における微細な周期的構造の形態に応じて予め設定することにより、コーティングされたコート層の表面を、微細構造領域とフラット領域とにわたって実質的に平坦な単一面とする」点にあるが、ここに「所定の段差量:ΔHを、微細構造領域における微細な周期的構造の形態に応じて予め設定する」とは、微細な周期的構造の形態に応じて「理論的に設定」することを意味する。
発明者らの研究により、コーティング材料を液状で「被コーティング体に形成されている微細構造領域とフラット領域と」にコーティングすると、コーティング材料は、コーティングされる微細構造領域とフラット領域との全域に亘り均一に塗布されることが分かった。
【0021】
微細構造領域にコーティングされるコーティング材料は液状であるので、微細構造領域の微細な凹凸の凹部にも隙間なく充填される。
【0022】
微細構造領域とフラット領域とに対し「同じ大きさの面積:Sの領域」を想定すると、これら各領域の面積:Sに塗布されるコーティング材料の量(以下、コーティング量という。):Vは等しい。「コーティング量:V」は、コーティング後にコート層(固化した層)として形成された状態での量である。
【0023】
フラット領域の表面は平坦であるから、フラット領域に塗布されたコーティング量:Vは厚さ:ζ=V/Sのコート層を形成する。
【0024】
一方、微細構造領域において、微細な周期的構造を構成する「単位となる微細形状(例えば、マイクロレンズ面)」の体積(説明の具体性のため「凸面形状」であるとする。)を「v」とし、面積:S内にこの微細形状がn個あるとすると、S内にn個の微細形状が占める体積は「n・v」となる。
【0025】
そうすると、微細構造領域内の面積:Sに塗布されるコーティング量:Vのうち「n・v」はコート層を構成しない。
微細形状の高さを「η」とすると、コーティング量:Vのうち「S・η―n・v」は、微細構造領域における「微細形状の底部から高さ:ηの部分まで」を充填するのに用いられ、そのあとは高さ:ξまで面積:S上に均一に塗布される。即ち、
V=Sξ+S・η―n・v
の関係が成り立つ。
【0026】
そこで、コーティング量:Vを、
V0=S・η―n・v
に設定すると、コーティング量:V0により「微細構造領域に形成されるコート層」の表面は「微細形状の頂部と同じ高さ」になる。
【0027】
この状態におけるコート層の表面が「フラット領域に形成されたコート層の表面と同一面になる条件(ξ=0)」を考える。
【0028】
コーティング量:V0のコーティング材料が、フラット領域の面積:S上に形成するコート層の厚さは「V0/S」である。
【0029】
上記「微細構造領域のおける微細形状の底部」を基準高さとして、この基準高さからのフラット領域の高さをH’とすると、
H’+V0/S=(V0+n・v)/S
が成り立てば、形成されたコート層の表面は至るところ同一高さの単一面になる。即ち、
H’=(V0+n・v)/S―V0/S=n・v/S
となるように、フラット領域の高さ:H’を設定すれば良いことになる。
【0030】
このとき、上記高さ:ηとH’との差が上述の「段差:ΔH」である。
【0031】
面積:Sあたりに塗布されるコーティング量:Vを、
V>V0
とすれば、コート層の表面は常に「段差のない実質的な単一平面」となる。
従って「V>V0」を満たす条件内でコーティング量:Vを調整して、所望のコート層厚:(ξ+η)を実現できる。
【0032】
上記「n」は、微細構造領域の設計条件として定まる。又、微細形状の体積:vは「微細形状の形態」により定まる。
微細形状の具体的な形態によっては、上記体積:vを「単純な解析表現で表現できない場合」もあるが、コンピュータによる演算で算出可能である。また、面積:Sは任意に設定できるから、これを例えば「1cm」に設定することができる(このとき、nは微細形状の面積密度になる)。
【0033】
このようにして、段差:ΔHは、微細構造領域に形成される微細な周期的構造の形態が定まれば、予めコーティング条件として理論的に設定できる。
【0034】
即ち、この発明のコーティング方法は、コーティング方式が任意であり、被コーティング体における微細構造領域とフラット領域とに、予め「微細構造領域に形成される微細な周期的構造の形態に応じて定まる段差:ΔH」を設定する点に特徴がある。
【0035】
以下、微細な周期的構造の形態の具体的な例について説明する。
請求項1記載のコーティング方法において、被コーティング体に形成される微細な周期的構造の形態が「凸のマイクロレンズの2次元配列」である場合には、凸のマイクロレンズの基底面(前記「微細形状の底部」)を基準面とし、マイクロレンズの高さ(前記「η」に対応する。)をH、フラット領域の高さをH’として、段差量:ΔH(=H−H’)を「マイクロレンズの高さ:Hの1/3」とすることができる(請求項2)。
【0036】
また、請求項1記載のコーティング方法において、被コーティング体に形成される微細な周期的構造の形態が「凹のマイクロレンズの2次元配列」である場合には、凹のマイクロレンズの基底面(凹マイクロレンズ面の最も深い部分)を基準面として、マイクロレンズの深さをH、フラット領域の高さをH’として、段差量:ΔH(=H−H’)を「マイクロレンズの深さ:Hの2/3」とすることができる(請求項3)。
【0037】
請求項1記載のコーティング方法において、被コーティング体に形成される微細な周期的構造の形態が「錐体形状の2次元配列」である場合には、錐体形状の基底面を基準として、錐体形状の高さをH、フラット領域の高さをH’として、段差量:ΔH(=H−H’)を「錐体形状の高さ:Hの2/3」とすることができる(請求項4)。
【0038】
なお、請求項4の場合の錐体は「凸の錐体」の場合であり、「凹の錐体」の場合には、段差量:ΔHを「錐体の深さ:Hの1/3」とすればよい。
【0039】
請求項1記載のコーティング方法において、被コーティング体に形成される微細な周期的構造の形態が「断面形状が三角形である1次元の周期的構造(断面が三角波状の周期的構造)」である場合には、三角形の底面を基準面とし、三角形の高さをH、フラット領域の高さをH’として、段差量:ΔH(=H−H’)を「三角形の高さ:Hの1/2」とすることができる(請求項5)。
【0040】
請求項1記載のコーティング方法において、被コーティング体に形成される微細な周期的構造の形態が「断面形状が矩形状の凸部と凹部の繰り返しである1次元の周期的構造」である場合、1次元の周期的構造における「凸部と凹部の繰り返しピッチ:a、凸部の幅:b」とし、凹部の底面を基準面として、凸部の高さをH、フラット領域の高さをH’として、段差量:ΔH(=H−H’)を「凸部の高さ:Hのb/a倍」とすることができる(請求項6)。
【0041】
この発明の微細構造素子は「平面状領域に微細な周期的構造が形成された微細構造領域と、この微細構造領域に隣接する平坦な表面を有するフラット領域とを形成された被コーティング体の、微細構造領域とフラット領域とにわたりコーティング材料を液状態でコーティングして、コート層を形成された微細構造素子」であって、上記請求項1〜6の何れか1のコーティング方法でコーティングされていることを特徴とする(請求項7)。
【0042】
従って、請求項7記載の微細構造素子では、コート層の表面が「微細構造領域とフラット領域とにわたり実質的に平坦な単一面」となっている。
【0043】
請求項7記載の微細構造素子は、例えば「微細な周期的構造として形成されたマイクロレンズ面に、別部材と一体化するための平坦な面を、コート層の表面として形成」して液晶パネルを構成するための「半製品」であることもできるし、微細な周期的構造として例えば「回折格子構造(グレーティング)」を形成され、この回折格子構造を保護する保護層としてコート層を形成した「回折光学素子」のような最終製品であることもできる。
【0044】
この発明の複数層微細構造素子製造方法(請求項8)は「基準平面を有する基板の基準平面上に、微細な周期的構造による微細構造領域と、これに隣接するフラット領域とを形成し、このように微細構造領域とフラット領域とを形成された基板表面に対しコーティング材料を液状態でコーティングしてコート層を形成する第1微細構造層形成工程と、この第1微細構造層形成工程により形成されたコート層の表面に、別の微細な周期構造による微細構造を形成する別微細構造形成工程をN(≧1)回、別微細構造形成工程により形成された微細構造上にコーティングを行ってコート層を形成するコート層形成工程をN回もしくはN−1回、交互に行って、N+1層の微細構造を形成するN層微細構造層形成工程とを有する複数層微細構造素子製造方法」であって、以下の如き特徴を有する。
【0045】
即ち、第1微細構造層形成工程において、基準平面上に形成する微細構造領域とフラット領域との段差量:ΔHを設ける。
また、N層微細構造層形成工程においては必要に応じて、コート層上に微細構造とともにこの微細構造に対して段差量:ΔH’を有するフラット領域を形成する。
【0046】
そして、段差量:ΔHおよびΔH’を、周期的構造の形態に応じて、請求項1〜6の何れか1に記載の大きさに設定する。
【0047】
請求項9記載の複数層微細構造素子は、請求項8記載の複数層微細構造素子製造方法により製造される2層微細構造素子である。
【0048】
従来から知られる複数層微細構造素子は、平行平面基板の表裏に別個に微細構造を形成したりしているが、請求項8の方法により、基板の同一基準面上に複数層の微細構造を積層して形成することができる。
【0049】
請求項8記載の複数層微細構造素子製造方法に関して若干補足する。
【0050】
「第1微細構造層形成工程」は、上記の如く「基準平面を有する基板の基準平面上に、微細な周期的構造による微細構造領域と、これに隣接するフラット領域とを形成し、このように微細構造領域とフラット領域とを形成された基板表面に対しコーティング材料を液状態でコーティングしてコート層を形成する」工程であり、上記の如く「基準平面上に形成する微細構造領域とフラット領域との段差量:ΔHを設け」るが、この段差量:ΔHは、上述した請求項1〜6の何れか1に記載の大きさに設定する。
【0051】
従って、第1微細構造層形成工程は、請求項1〜6の何れかに記載された方法と同じであり、微細構造領域とフラット領域とに形成されたコート層の表面は「実質的に平坦な単一面」である。
【0052】
続く、N層微細構造層形成工程は、第1微細構造層形成工程で形成されたコート層表面の「実質的に平坦な単一面」の上に、微細構造の形成をN回、コート層の形成をN回もしくはN−1回行う。
【0053】
上記「N」は1以上の整数である。
【0054】
従って、N層微細構造層形成工程のうちで最も簡単なものは、微細構造の形成回数:N=1、コート層の形成回数:N−1=0の場合であって、第1微細構造層形成工程で「微細構造領域とフラット層との上に形成された、実質的に平坦な単一面をなすコート層(以下、これを「第1コート層」と呼ぶ)の上に、微細構造領域に形成された微細構造とは異なる微細構造を形成したものとなる。このときは、基板表面にフラット領域とともに形成された微細構造と、第1コート層上に形成された「別の微細構造」とによる2層の微細構造層が形成されたものである。
【0055】
このようにして形成された「別の微細構造」の上にさらにコーティングを行って、第2のコート層を形成しても良い。即ち、この場合には、コート層の形成も2回行われる。
【0056】
この場合、最上に形成される第2のコート層の表面が「段差を有しても良い」場合であれば、上記「別の微細構造」には、これとともに所定の段差:ΔH’を有するフラット領域を形成する必要は無い。
【0057】
「別の微細構造の上に形成される第2のコート層の表面」が「実質的に平坦な単一面」であることを要求される場合には、第1コート層上に、上記「別の微細構造」とともに、この微細構造に対して段差量:ΔH’を有するフラット領域を形成し、この段差量を「別の微細構造の形態に応じて、請求項1〜6の何れか1に記載の大きさに設定して、第2のコート層の表面を実質的に平坦な単一面とする。
以下、第2のコート層の上に他の微細構造の形成と第3のコート層の形成とを行い、さらに、第3のコート層の上にさらに他の微細構造の形成と第4のコート層の形成を行うという具合にして、所望の積層数の微細構造とコート層とを得ることができる。
【0058】
上の説明から理解されるように、N層微細構造層形成工程において「第1コート層あるいは第2、第3・・のコート層上に微細構造とともに、この微細構造に対して段差量:ΔH’を有するフラット領域を形成する」のは必要に応じて行えばよい。
【発明の効果】
【0059】
以上に説明したように、この発明によれば新規なコーティング方法および微細構造素子および複数層微細構造素子およびその製造方法を提供できる。
【0060】
この発明のコーティング方法によれば、コート層の表面が、微細構造領域とフラット領域とにわたって実質的に平坦な単一面となるように、微細構造領域とフラット領域との段差量:ΔHを、微細構造領域における微細な周期的構造の形態に応じて予め、理論的に設定するので、「一々試作品を作製してコーティングを行い、形成されたコート層における段差の高さ:hを精密測定」する必要がない。
【0061】
従って、このコーティング方法を実施することにより、微細構造素子の製造を容易化できる。また、上記コーティング方法を利用する複数層微細構造素子の製造方法により、基板の同一面に容易に複数層の微細構造を積層することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0062】
以下、実施の形態を説明する。
図2(a)は、コーティング方法の実施の1形態として、マイクロレンズアレイを「微細な周期構造」として形成された被コーティング体10に対してコーティングを行い、コート層の表面を実質的な単一面とする場合を説明する。
【0063】
図2(a)に示すように、被コーティング体10は、石英ガラス等の透明材料による平行平板の片面の平面状領域に、微細な周期的構造として「凸のマイクロレンズ面をアレイ配列したマイクロレンズ面アレイ」が形成された微細構造領域10Aと、この微細構造領域10Aに隣接して平坦な表面を有するフラット領域10Bとを形成されている。
【0064】
図2(a)に示すように、微細構造領域10Aに形成されたマイクロレンズ面アレイの底部(基底部)から計った「微細形状であるマイクロレンズ面」の高さ:H、上記底部から計ったフラット領域10Bの高さ:H’の差(H―H’)を段差量:ΔHとする。
【0065】
図2(b)は、微細構造領域10Aにおけるマイクロレンズ面のアレイ配列状態を説明する図である。符号MLで示す個々のマイクロレンズ面は、1辺の長さ:2rの正方形形状を底面形状として正方行列状に密接して配列している。
【0066】
マイクロレンズ面MLの頂部は球面形状となっている。
このようなマイクロレンズ面アレイ形状は、平行平板の片面にフォトレジスト層を形成し、このフォトレジスト層に露光を行い、マイクロレンズ面となるフォトレジストの分布をパターニングし、加熱によりフォトレジストを軟化させて熱流動状態とし、軟化したフォトレジストの表面張力により球面形状を形成し、フォトレジストをポストベーキング後、異方性のエッチングを行ってフォトレジストの表面形状を平行平板の表面形状として転写することにより形成したものである。
【0067】
このように、マイクロレンズ面の形状は「頂部が球面で底部が正方形」という特殊な形状であるので、その体積:vを単純な数式では表せない。コンピュータによるシミュレーション計算で計算を行ったところ、前記体積:v、底辺の長さ:2r、底部からの高さ:Hとして、上記マイクロレンズ面形状に対して簡単な関係:
v=4rH/3
が得られた。
【0068】
従って、1個のマイクロレンズ面に対応する「面積:4rと高さ:Hの直方体」の体積:4rHのうちで、マイクロレンズ面形状以外の空間の占める体積は、
4rH−4rH/3=2rH/3
である。
このとき、コート層の表面がマイクロレンズ面の頂部と合致し、かつ、この表面がフラット部にコートされたコート層の表面と同一面になるためには、フラット領域に形成されるコート層の厚さが「2H/3」であればよいから、マイクロレンズ面の底部から計ったフラット領域の高さ:H’を、
2H/3
とすればよく、従って、微細構造領域10Aとフラット領域10Bとの段差量:ΔHは、
ΔH=H/3
とすればよい。
【0069】
上記シミュレーション結果と実際のコーティング結果とを対比するために、実際に、上記マイクロレンズ面形状を持つ種々の被コーティング体を作製し、コート層の表面が、微細構造領域とフラット領域とで実質的な単一面となるときの段差量:ΔHを調べたところ上記シミュレーション結果と非常によく一致する結果を得た。なお、コーティング材料は「無機のゾルゲル材料」を用いた。
【0070】
1例を図2(d)に示す。
図2(d)の横軸は、図2(a)に示す「マイクロレンズ面の高さ:H」をμm単位で示し、縦軸はフラット領域10Bの高さ:H’をμm単位で示している。この例では、上記r=10μmである。
【0071】
グラフにおける「4角印」はフラット領域の高さ:H’であり、「丸印」は、2H/3を表している。図の如く、H’と2H/3とは極めてよく合致しており、上記シミュレーションの正しさを裏付けている。
【0072】
従って、上に説明したようなマイクロレンズ面による微細構造領域を形成する場合であれば、マイクロレンズ面の頂部とフラット領域との段差量:ΔHを「マイクロレンズ面の高さ:Hの1/3」に設定すれば良く、「一々試作品を作製してコーティングを行ってコート層表面の段差:hを精密測定する必要」がなく、マイクロレンズ面の寸法や高さなどを所望のものに設定する場合にも段差量を上記理論に従い予め設定できる。
【0073】
上記H’とHとの関係「H’=2H/3」は、以下のように考えることにより、簡便に得ることができる。
即ち、図2(c)に示すように、マイクロレンズ面形状を、直径:2rの円を底面とする高さ:Hの球面状の凸面形状として捉え、その体積を「2・rπH/3」と考える。
そして、フラット領域にも、直径:2rの円を底面として考え、この底面を持つ高さ:H’の円柱を考える。この円柱の体積:「rπ・H’」と上記体積「2・rπH/3」と等置して得られる関係:
π・H’=2・rπH/3
から直ちに、上記「H’=2H/3」、従って、
ΔH=H−H’=H/3
が得られる。
【0074】
上に説明した実施の形態例では、微細構造領域に「凸のマイクロレンズ面アレイ」を形成した場合を説明したが、コート層の自由表面に段差が発生するメカニズムは上述したとおりである。
従って「微細構造領域に形成される種々の微細形状の1個に割り当てられる面積と同じ面積のフラット領域」に塗布されるコーティング材料の塗布量と「上記面積の微細形状に塗布される塗布量」とが略等しくなるように段差量:ΔHを設定すればコート層の表面は実質的な単一面となる。
【0075】
そして、段差量:ΔHは、具体的な微細形状、即ち、微細な周期構造の形態に応じて理論計算により求めることができる。
図3(a)に示す被コーティング体12のように、微細構造領域に形成される微細な周期的構造が「凹マイクロレンズ面CML」であれば、この凹マイクロレンズ面CMLの最凹部に接する面とフラット領域12FLの平坦部との高低差を「H’」、凹マイクロレンズ面CMLの深さを「H」として段差量:ΔHを定めればよい。
この場合、フラット領域12FLの平坦部は、凹マイクロレンズ面CMLの最凹部に接する面(基準面)よりも高く設定される。
【0076】
図3の例において、凹マイクロレンズ面CMLが、図2に即して説明した凸マイクロレンズ面を凹面形状としたものである場合には、図3(b)に示すように、コーティングされるコーティング材料は、凹マイクロレンズ面CMLの内部を充填するので、図2の場合の充填される部分と充填されない部分との関係が逆になる。
【0077】
従って、凹マイクロレンズ面CMLの深さ:H、フラット領域12FLの高さ:H’との間の関係は、
H’=(1/3)H
となり、段差量:ΔH(=H−H’)は、マイクロレンズの深さ:Hの2/3に設定すれば、図3(b)に示すようにコート層CTの自由表面は「段差の無い単一面」となる。
【0078】
図3(c)に示すのは、図3(b)のようにコーティングされたコート層CTの「段差の無い平坦な単一面」にブラックマトリックスBLを形成して、液晶パネルのTFT基板側に組み付けるようにしたものであり、請求項7の微細構造素子の実施の1形態を構成する。
【0079】
このとき、コート層CTは「被コーティング体の屈折率より大なる屈折率を有する」材料が用いられ、被コーティング体12に形成された凹マイクロレンズ面CMLを、高屈折率のコート層材料による凸マイクロレンズ面として機能させ、図3(c)の下方から入射する略平行な光束をブラックマトリックスBLの開口部へ集光させる。
【0080】
図2の例における凸マイクロレンズ面や、図3の例における凹マイクロレンズ面CMLの直径(上記2r)は一般的な例で10ないし20μm程度、レンズ面の高さ(深さ)は3〜10μm程度、コート層の厚みは10〜50μm程度である。
【0081】
図4は、被コーティング体14に形成される微細な周期的構造の形態が、錐体形状CNの2次元配列である場合を説明する図である。
【0082】
錐体形状CNが「底面を一辺の長さ:Aの正方形である高さ:Hの4角錐」で、これが正方行列状に密接して配列しているものとすれば、4角錐1個の体積は「A・H/3」であるから、上の説明から、錐体形状CNの基底面を基準面としてフラット領域14FLの高さ:H’は、
H’=(1/3)H
となり、段差量:ΔH(=H−H’)は、錐体形状の高さ:Hの2/3に設定すれば良いことになる。
【0083】
図5は、被コーティング体16に形成される微細な周期的構造の形態が「断面形状が三角形である1次元の周期的構造TRA」である場合を説明する図である。
周期的構造TRAは、図示の如く「断面が三角形形状で、図面に直交する方向にはこの断面形状が均一に続いている形態」を、図の左右方向へ密接して配列した形態である。
【0084】
この場合、周期的構造TRAの各断面の三角形の底面を基準面とした三角形の高さ:H、フラット領域16FLの高さ:H’の関係は、明らかに、
H’=(1/2)H
であり、段差量:ΔH(=H−H’)は三角形の高さ:Hの1/2に設定すればよい。なお、図5の例では、三角形状は2等辺三角形状であるが、三角形状がどのような形状であっても段差量:ΔHは「三角形の高さ:Hの1/2」である。
【0085】
このように、断面形状が1方向へ均一である微細形態を、上記1方向に直交する方向に密接に配列させる場合、例えば、断面形状が「長軸:L、短軸:Dの半楕円」である微細形状を、半楕円の長軸方向を1次元の配列方向として配列させた周期的構造の場合であれば、半楕円の面積が「LDπ/2」であるところから、半楕円の底面からのフラット領域の高さ:H’は「Dπ/2」とすればよく、段差量:
ΔH=H(=D)−H’=D(1−π/2)
とすればよい。
【0086】
以上、被コーティング体に形成する段差量について具体的な例を説明したが、微細構造領域とフラット領域との段差量は、微細構造領域の表面構造(微細な周期的構造)とフラット領域の表面構造(平面)との構造上の差異と「これら両領域に塗布されるコーティング材料の量が等しいこと」とによる段差の発生を解消するように、微細な周期的構造の形態に応じて予め設定されるのであり、微細な周期的構造異の形態が設計により確定されれば、段差量は理論的に演算することができるものであり、上記の具体例に限定されるものではない。
【0087】
1例として、図2に即して説明したマイクロレンズ面アレイにおいて、個々のマイクロレンズ面が底面形状として「半径:rの円形状」を有して互いに密接して正方行列状に配列されるものとし、レンズ面の断面形状が「長軸径:2r、短軸径:Hの半楕円形状」で、底面部が互いに接しない部分が平面であるとした場合には、直径:2rの正方形1個あたりに1つのマイクロレンズ面が存在する。
【0088】
このとき、マイクロレンズ面と底面部の「半径:rの円形」とを表面とする部分の体積は、「2πrH/3」となり、フラット領域に直径:2rの正方形1個を考えると、フラット領域の上記底面部からの高さ:H’は、
2/3・(πH/4)
となり、段差量:ΔH(=H−H’)=πH/6
となって、図2に即して説明した例の場合の「2H/3」よりも略20%大きくなる。
【0089】
図6は、同一の基板の同じ側の面に「2種の周期的構造を形成する微細構造素子」の製造過程におけるコーティング方法の実施を説明するための図である。
【0090】
形成される2種の周期的構造は、この形態例では図6(a)に示すようなサブウエーブ構造SWSと、回折機能を実現するためのグレーティングGRである。
サブウエーブ構造SWSのピッチは0.1μm〜1μm、グレーティングGRのピッチは1〜100μm程度である。
【0091】
どちらの構造も「断面形状が矩形状の凸部と凹部の繰り返し」である1次元の周期構造である。
このような微細構造素子を製造する際には、まず、ピッチの細かいサブウエーブ構造SWSを、電子ビーム描画等を用いるフォトリソグラフィにより基板20に形成する。
サブウエーブ構造SWSを形成した基板20の状態を図6(b)に示す。符号GRDMで示す領域は「グレーティングを形成するための領域」であるが、サブウエーブ構造SWSを形成する際、図6(c)(図6(b)の「符号Cで示す部分」を拡大した図である。)に示すように、サブウエーブ構造SWSに対するフラット領域となるように、サブウエーブ構造SWSに対して段差量:ΔHを持たせた平面状態として形成する。
【0092】
サブウエーブ構造SWSのピッチを図6(c)のように「a」とし、凸部の幅を「b」とする。また、凸部の高さを「H」とする。
【0093】
このとき、サブウエーブ構造SWSの凹部の底面を基準面とした凸部の高さ:H、フラット領域の高さ:H’が、関係:
H’={(a―b)/a}H
を満足するように設定すると、段差量:ΔH(=H−H’)は、凸部の高さ:Hのb/a倍となり、この条件を満足すれば、図6(d)に示すように、コーティング材料によるコーティングを行って得られるコート層CT1の表面は「平坦な単一面」となって、サブウエーブ構造SWSと領域GRDMとの境界で段差が発生することが無い。
【0094】
この製造方法においては、コーティング材料はフォトレジストであり、液状体のものをスピンコートでコーティングする。コーティングされるフォトレジストは液状であるので、サブウエーブ構造SWSの1μm以下の微細ピッチの凹部にも良好に充填させることができる。
【0095】
続いて、コート層CT1の領域GRDMに相当する部位に、公知の露光方法でグレーティングGRに対応するパターンをパターニングし、露光されたフォトレジストを除去して「グレーティングに応じたフォトレジストパターン」を形成する(図6(e))。そして、このフォトレジストパターンをマスクとしてエッチングを行い、上記フォトレジストパターンを基板20の表面部に転写する。
【0096】
その後、コート層CT1を形成していたフォトレジストを除去すれば、図6(f)に示すように、基板20にサブウエーブ構造SWSとグレーティングGRとが形成された「微細構造素子」が得られる。
【0097】
図7は、請求項9の複数層微細構造素子の1例として、前記微細構造形成回数:N=1の場合を説明図的に示している。
図7において、符号70は基板を示し、図において上方の面が「基準平面」となっている。この例において、基板70は透明な平行平板である。
符号72は「微細構造領域を形成する微細形状」であり、図に表れた「矩形形状の断面形状」は図面に直交する方向には一様である。即ち、微細形状72の左右方向への1次元の周期的配列により「微細な周期的構造」を形成している。
符号72Aは周期的構造の端部に「微細構造領域に隣接して形成された端部微細形状」を示す。端部微細形状72Aは、材質的には微細形状72と同じ材料で、微細形状72による微細構造領域の形成と同時に形成される。
これら微細形状72、端部微細形状72Aの材料は、例えば、Au、Al等の金属材料や他の適宜のものを用いることができる。
【0098】
微細形状72の周期的配列をAuやAlの薄膜構造として形成すると、このような微細構造領域に「位相差発生機能」を持たせることができる。このような場合、微細形状72の配列のピッチは100〜1000nmである。
【0099】
端部微細形状72Aは、その厚さが微細形状72の厚みと異なっており、端部微細形状72の図における上面は「微細形状72による微細構造領域に隣接するフラット領域」を形成している。
【0100】
図7における符号74はコート層を示し、符号76は「第2の微細な周期的構造による微細構造」を示している。
【0101】
コート層74の厚み(基準平面からの厚み)は100nm程度である。
【0102】
微細構造76は、図に示すような断面形状が矩形状の微細形状を配列する場合だと、例えば前述のサブ波長構造やグレーティングとしての機能を持たせることができるが、これに限らず、例えば、マイクロレンズアレイやマイクロプリズムアレイ等として構成することもできる。
【0103】
図7のような「2層微細構造素子」は以下のように製造できる。
即ち、まず、基準平面を有する基板70の基準平面上に、微細形状72の周期的構造による微細構造領域と、これに隣接するフラット領域(微細形状72Aの上面)とを形成する。
このとき、微細形状72による微細構造領域と、微細形状72Aの上面によるフラット領域とに段差量:ΔHを持たせ、この段差量:ΔHを、上に説明した各種のコーティング方法に従って、コート層74の上面が段差のない平坦な単一面となるように設定する。
【0104】
図7の場合であれば、図6(c)に即して説明した例のように、微細形状72の配列ピッチを「a」、微細形状72の幅を「b」、微細構造72の厚みをHとして、段差量:ΔHを「Hb/a」とすればよい。
【0105】
このようにして、第2の微細な周期的構造による微細構造76が形成されるべきコート層74の表面が「段差の無い平坦な単一面」として形成されるので、コート層74の表面を「研磨等により単一面化」する工程を必要とせず、コーティングされたコート層74の表面に直接、微細構造72を形成することができる。
【0106】
このようにして、図7に示す如き複数層微細構造素子を製造できる。
この複数層微細構造素子製造方法は、コート層74の表面が平坦な単一面として形成されるので、第2の微細な構造による微細構造76を形成する際に、コート層74の表面を研磨等により単一面化する必要がない。
従って、複数層微細構造素子を「より容易」且つ「より安価」に製造できる。
【0107】
最後に、図2に即して説明したような微細構造素子の製造について簡単に説明する。
【0108】
図8(a)は、微細構造素子の「被コーティング体」となる透明平行平板100の上に薄いクロム層102を形成した状態を示す。クロム層102上にフォトレジスト層104を形成し(b)、露光・現像を行って「微細構造領域となる部分」のフォトレジスト層104を除去する(c)。フォトレジスト層104の残留する部分は「フラット領域となるべき部分」に対応する。
【0109】
ついで、ウエットエッチングを行って、図8(d)に示すように「微細構造領域となる部分」のクロム層102を除去し、さらにクロム層102上のフォトレジスト層104を灰化して除去し(e)、再度、フォトレジスト層106を形成する(f)。
このフォトレジスト層106に露光・現像・加熱を行い、レジストの熱流動により凸のマイクロレズ面アレイに対応するレジスト形状領域を形成し、これに接するフラット部にはクロム層102を残す(g)。
【0110】
続いてドライエッチングによりフォトレジスト層106の表面形状を透明平行平板100の表面形状として転写しつつ、クロム層102をエッチングで除去する。この状態で、クロム層を除去された部分と、マイクロレンズ面アレイとして形成された部分の頂部との段差量が所望の段差量:ΔHとなるようにクロム層の除去のタイミングを設定する。
【0111】
その後、さらにエッチングを進行させ「フラット領域」を形成する。このようにして、図8(h)に示すように所望の被コーティング体100を得ることができる。そして、この被コーティング体100にコーティング材料をコーティングすることにより、図2に示した如き微細構造素子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】発明の課題を説明するための図である。
【図2】コーティング方法の実施の1形態を説明するための図である。
【図3】コーティング方法の実施の別形態を説明するための図である。
【図4】コーティング方法の実施の他の形態を説明するための図である。
【図5】コーティング方法の実施の他の形態を説明するための図である。
【図6】コーティング方法の実施の他の形態を説明するための図である。
【図7】複数層微細構造素子とその製造方法の実施の他の形態を説明するための図である。
【図8】図2に示したタイプの微細構造素子における被コーティング体の製造の1例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0113】
10 被コーティング体
10A 微細構造領域
10B フラット領域
ΔH 段差量
CT コート層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面状領域に微細な周期的構造が形成された微細構造領域と、この微細構造領域に隣接して平坦な表面を有するフラット領域とを形成された被コーティング体の、上記微細構造領域とフラット領域とにわたりコーティング材料を液状態でコーティングして、コート層を形成するコーティング方法において、
上記微細構造領域とフラット領域とに所定の段差量:ΔHを、上記微細構造領域における微細な周期的構造の形態に応じて予め設定することにより、
コーティングされたコート層の表面を、上記微細構造領域とフラット領域とにわたって実質的に平坦な単一面とすることを特徴とするコーティング方法。
【請求項2】
請求項1記載のコーティング方法において、
被コーティング体に形成される微細な周期的構造の形態が、凸のマイクロレンズ面の2次元配列であり、上記凸のマイクロレンズ面の基底面を基準面として、マイクロレンズ面の高さをH、フラット領域の高さをH’とするとき、これらHとH’とが、
H’=(2/3)H
の関係を満たし、段差量:ΔH(=H−H’)が、マイクロレンズ面の高さ:Hの1/3であることを特徴とするコーティング方法。
【請求項3】
請求項1記載のコーティング方法において、
被コーティング体に形成される微細な周期的構造の形態が、凹のマイクロレンズ面の2次元配列であり、上記凹のマイクロレンズ面の基底面を基準面として、マイクロレンズ面の深さをH、フラット領域の高さをH’とするとき、これらHとH’とが、
H’=(1/3)H
の関係を満たし、段差量:ΔH(=H−H’)が、マイクロレンズ面の深さ:Hの2/3であることを特徴とするコーティング方法。
【請求項4】
請求項1記載のコーティング方法において、
被コーティング体に形成される微細な周期的構造の形態が、錐体形状の2次元配列であり、上記錐体形状の基底面を基準面として、錐体形状の高さをH、フラット領域の高さをH’とするとき、これらHとH’とが、
H’=(1/3)H
の関係を満たし、段差量:ΔH(=H−H’)が、錐体形状の高さ:Hの2/3であることを特徴とするコーティング方法。
【請求項5】
請求項1記載のコーティング方法において、
被コーティング体に形成される微細な周期的構造の形態が、断面形状が三角形である1次元の周期的構造であり、上記三角形の底面を基準面として、三角形の高さをH、フラット領域の高さをH’とするとき、これらHとH’とが、
H’=(1/2)H
の関係を満たし、段差量:ΔH(=H−H’)が、三角形の高さ:Hの1/2であることを特徴とするコーティング方法。
【請求項6】
請求項1記載のコーティング方法において、
被コーティング体に形成される微細な周期的構造の形態が、断面形状が矩形状の凸部と凹部の繰り返しである1次元の周期的構造であり、1次元の周期的構造における上記凸部と凹部の繰り返しピッチをa、上記凸部の幅:bとし、上記凹部の底面を基準面として、凸部の高さをH、フラット領域の高さをH’とするとき、これらHとH’とが、
H’={(a―b)/a}H
の関係を満たし、段差量:ΔH(=H−H’)が、凸部の高さ:Hのb/a倍であることを特徴とするコーティング方法。
【請求項7】
平面状領域に微細な周期的構造が形成された微細構造領域と、この微細構造領域に隣接する平坦な表面を有するフラット領域とを形成された被コーティング体の、上記微細構造領域とフラット領域とにわたりコーティング材料を液状態でコーティングして、コート層を形成された微細構造素子であって、
請求項1〜6の何れか1のコーティング方法でコーティングされていることを特徴とする微細構造素子。
【請求項8】
基準平面を有する基板の上記基準平面上に、微細な周期的構造による微細構造領域と、これに隣接するフラット領域とを形成し、このように微細構造領域とフラット領域とを形成された基板表面に対しコーティング材料を液状態でコーティングしてコート層を形成する第1微細構造層形成工程と、
この第1微細構造層形成工程により形成されたコート層の表面に、別の微細な周期構造による微細構造を形成する別微細構造形成工程をN(≧1)回、別微細構造形成工程により形成された微細構造上にコーティングを行ってコート層を形成するコート層形成工程をN回もしくはN−1回、交互に行って、N+1層の微細構造を形成するN層微細構造層形成工程とを有する複数層微細構造素子製造方法において、
第1微細構造層形成工程において、基準平面上に形成する微細構造領域とフラット領域との段差量:ΔHを設け、
N層微細構造層形成工程においては必要に応じて、コート層上に微細構造とともにこの微細構造に対して段差量:ΔH’を有するフラット領域を形成し、
上記段差量:ΔHおよびΔH’を、上記周期的構造の形態に応じて、請求項1〜6の何れか1に記載の大きさに設定することを特徴とする複数層微細構造素子製造方法。
【請求項9】
請求項8記載の複数層微細構造素子製造方法により製造される複数層微細構造素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−104927(P2010−104927A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−280409(P2008−280409)
【出願日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【出願人】(000115728)リコー光学株式会社 (134)
【Fターム(参考)】