コーティング方法
本発明の主題は、レーザアブレーションにもとづくコーティング方法であって、基材とアブレーションされるターゲットとの間の距離が例外的に小さいコーティング方法に関する。この短い距離は、基材のコーティングを、工業的規模においても、好ましくは低真空あるいは非真空の雰囲気のもとですら可能にする。本発明は、あらゆる大型サイズの物体または種々の形状を有する物体の最適なコーティングに関して好ましい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、レーザアブレーションにもとづくコーティング方法であって、基材とアブレーションされるターゲットとの間の距離が例外的に小さいコーティング方法に関する。この短い距離は、基材のコーティングを、工業的規模においても可能にし、さらには低真空あるいは非真空のもとですら可能にする。
【背景技術】
【0002】
近年では、レーザ技術において大幅な進歩が達成されており、今や、例えば冷間アブレーションに使用することができるまずまずの効率で動作する半導体ファイバ式のレーザシステムを製造することが可能になっている。そのような冷間加工のために意図されたレーザとして、ピコ秒レーザおよびフェムト秒レーザが挙げられる。例えば、ピコ秒レーザの場合には、冷間加工範囲という用語は、100ピコ秒以下のパルス継続時間を指す。パルスの継続時間の相違に加えて、ピコ秒レーザは、反復速度に関してフェムト秒レーザから相違している。最新のピコ秒レーザが、1〜4MHzの領域の反復速度を有する一方で、フェムト秒レーザは、kHz範囲の反復速度しか達成することができない。最大でも、冷間アブレーションは、材料を蒸発(アブレーション)させるときに実際の蒸発可能な材料への熱の伝達が生じないように材料を蒸発させることができ、換言すると、それぞれのパルスによってアブレーションされる材料のみにパルスエネルギーが加えられる。
【0003】
全ファイバ式のダイオード励起の半導体レーザの競争相手が、レーザビームを最初にファイバへと導き、そこからさらに加工対象の点へとさらに導くランプ励起のレーザ源である。優先日において出願人の知りうる情報によれば、これらのファイバ式のレーザシステムが、現時点において、工業的規模でのレーザアブレーション式の製造のために利用できる唯一の方法である。
【0004】
現在のファイバレーザにおいて使用されるファイバ、およびその結果としての低い放射パワーが、蒸発させることができる材料の範囲を制限している。すなわち、アルミニウムは、適度なパルスパワーによって蒸発させることが可能であるが、銅、タングステン、などといったより蒸発が難しい材料は、かなり大きなパルスパワーを必要とする。
【0005】
技術水準における別の問題は、レーザビームの走査幅である。一般に使用される方法は、ミラーフィルムスキャナを使用する直線走査であり、これは、理論的には70mm程度の公称走査線幅を可能にすると考えることができるが、実際には、走査幅が不都合にも30mmの小ささまでに制限される可能性があり、これは、走査される領域の縁が非一様な品質になり、さらには/あるいは中央の領域と相違する可能性があることを意味する。このような小さな走査幅も、現時点において利用可能なレーザ設備を大きくて広い物体の工業的規模のコーティング用途に使用することを、経済的および技術的に実現不可能にしている。
【0006】
冷間アブレーション用として意図された本出願の優先日の時点において公知のパルスレーザ設備の有効出力は、出願人の知る限りでは、アブレーションにおいて10W程度に限られている。この場合、反復速度が、4MHzのレーザパルス速度へと制限されうる。パルスの速度をさらに高めようと試みた場合、従来技術によるスキャナでは、レーザビームパルスのかなりの部分が、制御不能にレーザ装置の壁構造へと向けられるだけでなく、プラズマの形態のアブレーションされた材料へも向けられる。これは、アブレーションされた材料で形成される表面の品質の悪化、および表面の生成の速度の低下という正味の影響を有し、さらにはターゲットに衝突する放射フラックスが過剰に変化し、これが形成されるプラズマの構造に露見し、非一様なコーティング表面という結果につながりかねないという影響も有している。これらの問題は、形成すべきプラズマ材料のプルームのサイズが大きくなるほど、深刻になる。
【0007】
従来技術による構成においては、アブレーションの最中にレーザビームの焦点が蒸発させられる材料に対して変化することによっても問題が引き起こされ、これが、当然ながら、材料の表面におけるパルスエネルギー密度を(通常は)低下させて、不完全なプラズマの蒸発/形成につながるため、プラズマの品質をすぐに変化させる。これは、低エネルギーのプラズマおよび不必要に大量のかけら/粒子につながるほか、表面形態の変化を引き起こし、コーティングの付着を乏しくし、さらに/またはコーティングの厚さを変化させる。
【0008】
近年におけるレーザ技術の大きな進歩が、半導体ファイバ式の高出力レーザシステムにおいて使用され、したがって冷間アブレーション式の方法の発展を助けるツールをもたらしている。
【0009】
しかしながら、従来からのファイバレーザのファイバは、充分な正味の出力のパルス状のレーザ放射を光ファイバを通して被加工領域へと運ぶ高出力の使用を妨げている。必要とされる出力レベルを被加工領域に加えようとすると、光ファイバにおける吸収ゆえにそのような出力の損失が生じ、従来からのファイバ材料は、そのような損失に耐えることができない。ソースからターゲットへとレーザ放射を運ぶためにファイバ技術を使用する理由の1つは、ただ1つのレーザビームであっても、開いた空間を通って運ぶことが、産業の環境の作業者にとってそれなりの危険を構成することにあり、大規模の動作において、まったく不可能でないにせよ、技術的にきわめて難題である。
【0010】
本出願の優先日の時点において、全ファイバ式のダイオード励起の半導体レーザは、ランプ励起のレーザと競争しており、両方の種類において、レーザビームは、最初にファイバへと導かれ、そこから被加工領域の焦点へと導かれている。これらのファイバ式のレーザシステムが、産業規模のレーザアブレーションの用途に適した唯一のシステムである。
【0011】
ファイバレーザにおいて現時点で利用できるファイバ、ならびにその結果としての低い放射の出力という限界が、ターゲット材料の蒸発/アブレーションのためのファイバ材料の使用を制約している。低エネルギーのパルスを使用してアルミニウムの蒸発/アブレーションが可能である一方で、銅、タングステン、などといった蒸発/アブレーションがより難しい材料は、かなり大きいパルスの出力を必要とする。同じことが、同じ従来技術を使用して新規な化合物を生成することが目的である状況にも当てはまる。言及が当然な例として、いくつかの例の中でも、アブレーション後の状況における適切な気相反応によって、炭素から直接的にダイアモンドを製造すること、またはアルミニウムおよび酸素から直接的に酸化アルミニウムを製造することが挙げられる。
【0012】
他方で、この分野における進歩に対する最も大きな障害の1つは、破損することなく、あるいはレーザビームの品質を損なうことなく、高出力のレーザパルスに耐えるというファイバの能力であると思われる。
【0013】
新規な冷間アブレーション技法を使用することによって、コーティング、薄膜の製造、ならびに切断/スコアリング/彫り込み、などに関する品質および製造能力の問題が、レーザの出力を大きくすること、およびレーザビームのターゲット表面への衝突のスポットのサイズを小さくすることに注力することによって対処されてきた。しかしながら、出力の大部分が雑音に消費されてしまう。品質および製造能力の問題は、たとえいくつかのレーザ製造者がレーザの出力に関する問題を解決しても、未解決のままである。コーティング/薄膜ならびに切断/スコアリング/彫り込み、などの両者の典型的なサンプルは、低い反復速度、狭い走査幅、および長い加工時間においてのみ製造可能であり、したがって工業的な規模の応用には役に立たない。これは、大きな物体の場合にとくに真実である。
【0014】
パルスエネルギー含量ゆえ、パルスの出力を増加させると同時にパルスの継続時間を短くする場合に、この問題は増幅される。ナノ秒パルスレーザは、それ自身が冷間アブレーション法に適しているというわけではないが、そのようなナノ秒パルスレーザを使用しても、大きな問題に直面する。
【0015】
パルスの継続時間をフェムト秒またはアト秒の範囲まで短くすると、問題はほとんど克服不可能になる。例えば、パルスの継続時間が10〜15psであるピコ秒レーザシステムでは、レーザの総出力が100Wであって、反復速度が20MHzであるとき、パルスエネルギーは、10〜30μmのスポットについて5μJでなければならない。出願人の知る限りでは、このようなパルス出力に耐えることができるファイバは、本出願の優先日においては入手することができない。
【0016】
パルスが短いほど、ファイバの断面を通って送られなければならない単位時間当たりのエネルギーは、より大きくなる。上述のパルス継続時間およびレーザ出力の条件において、個々のパルスの振幅レベルは、おおむね400kWの出力に相当しうる。200kWに耐えることができ、継続時間が15psであるパルスを最適なパルスの形状をひずませることなく通過させることができるファイバの製造でさえ、出願人の最良の知識によれば、本出願の優先日よりも前では不可能である。
【0017】
目的が、任意の利用可能な材料からのプラズマ生成の可能性を妨げないことにある場合、パルスの出力レベルを、例えば200kW〜80MWの範囲において自由に選択できなければならない。現在のファイバレーザの限界に関係する問題は、ファイバのみに起因するものではなく、特定の総出力を目標とするときに光コネクタを使用して別個のダイオード励起レーザを互いに接続することにも起因する。このような組み合わせビームは、従来からの技法を使用して単一のファイバにて加工の点へと導かれている。
【0018】
結果として、伝送経路が高出力のパルスを加工の点へと伝送するために展開されるとき、光コネクタが、少なくともファイバそのものと同じ出力に耐えることができなければならない。通常の出力レベルであっても、適切な光コネクタの製造はきわめて高価であり、動作が或る程度は不確実である。また、使用において消耗し、特定の間隔で交換が必要である。
【0019】
製造速度は、反復速度に直接的に比例する。他方で、従来技術のミラーフィルムスキャナ(すなわち、ガルバノスキャナまたは同様の往復式の他のスキャナ)は、変向点におけるミラーの停止、加速、および減速、ならびにミラーの一瞬の停止でさえもが、特定の問題を引き起こして、走査の目的におけるそのようなミラーの有用性を損ない、走査幅に大きな影響を及ぼすような動作サイクルを有している。反復速度を高めることによって生産の速度を拡大しようと試みた場合、加速および減速の段階が、結果として走査領域を狭くし、あるいは放射が減速中および/または加速中のミラーを介してターゲットに衝突するため、ターゲットにおける放射の分布、したがってプラズマが非一様になる。
【0020】
コーティング/薄膜の製造速度を、単純にパルスの反復速度を高めることによって高めようと試みる場合、上述の従来技術のスキャナは、kHz範囲の低いパルス周波数が使用される場合でさえも、パルスを制御不能な様相でターゲット上の重なり合うスポットへと導く。
【0021】
同じ問題が、ナノ秒範囲のレーザにも当てはまるが、パルスエネルギーが高く継続時間が長いため、問題がさらにより深刻である。これは、ナノ秒範囲のただ1つのパルスでさえも、ターゲット材料に深刻で顕著な浸食を引き起こすからである。
【0022】
従来技術の技法においては、ターゲットが非一様に消耗するだけでなく、容易に砕ける可能性もあり、これがプラズマの品質に悪影響を及ぼす。このため、このような技法を使用してコーティング対象の表面も、プラズマに起因する問題を抱えることになる。表面がかけらを含む可能性があり、あるいはプラズマが非一様に分布する可能性があり、高精度を必要とする用途においては厄介となりうる(塗装または着色の用途においては、悪影響が用途に特有の検出限界未満にとどまるならば必ずしも問題にはならない)ような表面の区域を生じる可能性がある。現在の方法は、ターゲットを1度だけ使用しており、したがって同じターゲット表面を再使用することはできない。手つかずのターゲット表面のみを使用し、あるいはターゲットおよび/またはビームスポットを互いに対して適切に動かすることによって、この問題を解決することが試みられている。
【0023】
機械加工の種類の用途においては、流れの制御に関する穴の穿孔の場合など、かけらを含んでいる廃棄物または過剰な材料が、やはり非一様な(したがって欠陥のある)切断線につながる可能性がある。表面が、放出されたかけらに起因して非一様な外観を得る可能性もあり、これは例えば特定の半導体の製造において容認できない。
【0024】
さらに、ミラーフィルムスキャナの往復運動が慣性力を生み、この慣性力が、たとえミラーがベアリングに支持されている場合でも、構造体に荷重をもたらす。このような慣性力が、とくにはミラーが最大仕様の付近において使用される場合に、ミラーの固定具を次第に緩ませる可能性があり、その結果、長い時間期間において設定が徐々に変化する可能性があり、そのような設定の変化が、製品の品質の非一様な再現性として露見しうる。さらに、停止および方向の変向が必要であるため、このようなミラーフィルムスキャナにおいては、アブレーションおよびプラズマの生成に使用できる走査幅がきわめて限られる。たとえいずれの場合も動作が遅かった場合でも、製造サイクルの全長に対する有効な製造サイクルが短い。製造を向上させるという観点から、ミラーフィルムスキャナを使用するシステムは、必然的にプラズマの生成速度に関して遅く、走査幅が狭く、長期安定性に乏しく、プラズマ中の有害な粒子放射に直面する可能性が高く、これらに対応する結果が、このようなシステムを使用して機械加工された製品および/またはコーティングされた製品につきまとう。
【0025】
ファイバレーザ技術には、大量のエネルギーをファイバを通って伝送することができないなど、他の問題もつきまとう。大量のエネルギーをファイバを通って伝送すると、ファイバの溶融および/または分解につながり、あるいはファイバを通って伝送される高出力によって引き起こされるファイバの変質の結果として、伝送されるビームが劣化することになる。すでに10μJのパルス出力でさえも、ファイバが些細な構造的欠陥または品質的不備を有していると、ファイバを損傷させる可能性がある。ファイバ基盤の技術において、最も損傷を受けやすい構成要素は、例えば励起ダイオードなどといったレーザ出力源を接続するために使用される光ファイバコネクタである。
【0026】
パルスが短いほど、所与のエネルギーのための出力は大きく、すなわちエネルギー含量を一定に保ちつつレーザパルスを短くするとき、この問題は強調される。この問題は、ナノ秒レーザにおいてとくに顕著である。
【0027】
パルスの継続時間を、フェムト秒、さらにはアト秒の範囲まで短くすると、問題はほとんど克服不可能になる。例えば、パルスの継続時間が10〜15psであるピコ秒レーザシステムは、レーザの総出力が100Wであって、反復速度が20MHzであるとき、パルスエネルギーが10〜30μmのスポットにつき5μJでなければならない。本出願の優先日までに、出願人は、このパルスに耐えうるファイバを知らない。
【0028】
ファイバレーザの用途の重要な分野の1つであるレーザアブレーションにおいては、最大かつ最適なパルスの出力およびエネルギーを達成することがきわめて重要である。パルスの継続時間が15psであり、パルスエネルギーが5μJであり、総出力が1000Wである状況において、パルスの出力レベルは、約400,000W(400kW)である。本出願の優先日の時点において、出願人の知る限りでは、15psの継続時間を有する200kWのパルスでさえも、パルスを最適な形状に保ちつつ通すことができるファイバの製造に誰も成功していない。
【0029】
いずれの場合も、任意の利用可能な材料からのプラズマ生成の可能性を妨げないという目的において、パルスの出力は、例えば200kW〜80MWの範囲において比較的自由に選択されなければならない。
【0030】
しかしながら、今日のファイバレーザの限界に関する問題は、ファイバのみに起因するものではなく、得られるビームをただ1つのファイバによって加工の点へと運ぶことができるよう、所望の総出力を達成すべく光コネクタを使用して別個のダイオード励起レーザを互いに接続することにも起因している。
【0031】
適切な光コネクタは、高出力のパルスを加工の点へと運ぶ光ファイバと同じ出力に耐えることができなくてはならない。さらに、レーザパルスの適切な形状を、レーザパルスを運ぶプロセスの全体にわたって維持することも、重要である。現在の出力レベルに耐える光コネクタは、きわめて製造が高価であり、やや信頼性に欠け、短い寿命しか有しておらず、したがって定期的な交換を必要とする。
【0032】
レーザビームおよびアブレーションにもとづく従来技術の技法は、出力および品質に関する問題を抱えている。例として、とくにはアブレーション関連の走査の場合に、反復速度を、一様かつ良好な製品品質での工業規模の大量生産を可能にできる水準まで高めることができない。さらに、従来技術によるスキャナは、(真空チャンバ内の)蒸発装置の外部に位置しており、したがってレーザビームが真空チャンバの光学窓を通過しなければならず、これが利用可能な出力を常に或る程度減少させる。
【0033】
本出願の優先日の時点において出願人の知る限りでは、アブレーションに利用できる従来技術の設備の有効出力は10W程度である。これは、切断がレーザによって達成される場合に、反復速度がわずかに4MHzに制限されうることを意味する。パルスの速度をさらに高めようと試みた場合、従来技術によるスキャナでは、レーザビームパルスの大部分が、レーザ装置の壁構造へと制御不能に向けられ、プラズマの形態のアブレーションされた材料へも向けられる。これは、形成される表面の品質の低下、および製造速度の低下という正味の効果を有している。さらに、ターゲットを外す放射フラックスが一定のままでなく、これがプラズマの構造に悪影響を及ぼす可能性があり、したがってコーティング対象の表面に衝突するとき、コーティングを非一様にする可能性がある。
【0034】
したがって、ターゲットが加工対象の物体および/または部品である機械加工の用途においても、切断の能率および品質の両者が損なわれることが容易に生じうる。さらに、かけらおよびしぶきが、切断点の周囲の表面あるいはコーティング対象の表面に着陸する大きな危険が存在する。さらに、従来技術の技法を用いた場合、繰り返しの表面処理に時間がかかり、最終結果が一様な品質でなくなる可能性がある。
【0035】
本出願の優先日の時点において出願人に知られている従来技術によるスキャナでは、走査速度が約3m/s未満にとどまるばかりか、走査速度が真に一定ではなく、走査の最中に変化する。これは、主として、従来技術によるスキャナが、走査のプロセスを繰り返すために、走査距離を終えたときに停止し、次いで反対方向へと向きを変える枢動ミラーにもとづいているという事実ゆえである。往復ミラーもこの技術分野において知られているが、それらも安定な運動に関して同じ問題を抱えている。平面ミラーを用いて実現されるアブレーション技法が、米国特許6,372,103号明細書および米国特許第6,063,455号明細書に開示されている。加速、減速、および停止を伴う運動ゆえに走査速度が一定でなく、プラズマの発生および品質は走査速度に完全に依存するため、加工の点からの蒸発によって生成されるプラズマの発生が、ターゲットの各部において相違し、とくには走査範囲の極点において相違する。或る意味で、従来技術による設備を使用するとき、エネルギーレベルおよび単位時間当たりのパルスの数が大になると、このような問題がより顕著になることを、主たる法則と考えることができる。成功するアブレーションにおいては、材料が原子の粒子へと蒸発させられる。しかしながら、混乱の要因が存在するとき、ターゲット材料が、数マイクロメートルのサイズのかけらを放出または補足する可能性があり、これは当然ながら、アブレーションが展開される表面の製造品質を損なう。
【0036】
現時点で公知のスキャナの速度は低いため、パルス周波数を高めることは、ミラー構造に進入するパルス状のレーザビームのエネルギーレベルを、レーザビームがミラーへの進入までにスキャナによって拡大されないならば、今日のミラー構造を溶融/焼損させてしまうようなレベルまで高める結果となりうる。したがって、別途のコリメータレンズ手段を、スキャナとアブレーションのターゲットとの間に追加しなければならない。
【0037】
現在のスキャナの動作の限界を決定づけている特性は、それらが軽量あることである。これは、それらのマスが小さいことを意味し、したがってレーザビームのエネルギーを吸収する能力が限られていることを意味する。この事実も、従来技術による用途における溶融/焼損の危険を高めている。
【0038】
従来技術の技法におけるさらなる問題は、レーザビームの走査幅である。これらの技術的解決策は、理論的には最大70mmにもなる走査線幅の使用を可能にするようなミラーフィルムスキャナを使用する線走査を展開しているが、実際には、走査幅が不都合にもわずか30mmに制限される可能性があり、それによって表面上に非一様に散乱した非一様な品質の格子状領域が残される可能性がある。このような小さな走査幅も、大きくて広い物体に関する表面処理用途のための現行のレーザ設備が、工業用として適切でなく、あるいは技術的に実現不可能であるという事実の一因である。
【0039】
従来技術に従い、レーザビームの焦点が外れる状況が生じた場合、得られるプラズマが、かなり低い品質になりうる。さらに、放出されるプラズマが、ターゲットから放出されたかけらを含む可能性もある。同時に、ターゲットから放出されるように意図された材料が、使い物にならなくなる程度にまで損傷する可能性がある。この状況は、材料源として厚すぎるターゲットが使用される従来技術による技術的解決策の典型である。最適な焦点を維持するために、ターゲットを、ターゲットの浸食に一致するようにレーザビームの方向に向かって動かさなければならない。これは、たとえターゲットを焦点へと戻すことができた場合でも、ターゲット表面の構造および組成が、ターゲットから蒸発させられた材料の量に比例して変化してしまっている可能性があるという点で、問題を未解決のままに残している。従来技術の技法において、厚いターゲットの表面構造は、材料が消費されるにつれて変化するであろう。例えば、ターゲットが化合物または混合物である場合、この変化は容易に検出される。
【0040】
従来技術による構成においては、アブレーションの最中にレーザビームの焦点が蒸発させられる材料に対して変化すると、材料の表面におけるパルスエネルギー密度が通常は低下して、プラズマの蒸発/形成が不完全になるため、プラズマの品質がすぐに変化してしまう。これは、低エネルギーのプラズマ、不必要に大量のかけら/粒子、ならびに表面の形態の変化につながり、付着およびコーティングの厚さの変化につながりうる。
【0041】
焦点を調節することによって問題を軽減する試みがなされている。従来技術による設備において、レーザパルスの反復速度が例えば200kHz未満などと低く、走査速度がわずかに3m/s以下である場合、変化がプラズマの強度に対してゆっくりとした影響しか有さない一方で、設備が焦点を調節することによってプラズマの強度の変化に反応するための時間を有する。いわゆるプラズマ強度のリアルタイムの測定システムを、a)表面の品質および一様性が重要でない場合、またはb)低い走査速度が使用される場合には、使用することが可能である。
【0042】
換言すると、本出願の優先日の時点において出願人が知りうる情報によれば、従来技術による技法を使用して高品質のプラズマを生成することは不可能である。また、従来技術の技法を使用したのでは生成することができないコーティングが多数存在する。
【0043】
従来技術によるシステムは、それらにおいて使用しなければならない複雑なシステムを必要とする。従来技術の方法においては、ターゲットが、通常は太い棒または厚いシートの形態である。この場合、ターゲットが消費されるにつれて、ズーム合焦レンズを使用しなければならず、あるいはターゲットをレーザビームに向かって動かさなければならない。このような構成を実際に実現することは、充分な信頼性が求められ、大きすぎる品質の変動の回避が求められる場合、まったく不可能ではないにせよ技術的にきわめて高価かつ困難であり、その場合、精密な調節はほぼ不可能であり、厚いターゲットの準備が高価であることなどがある。
【0044】
米国特許明細書は、従来技術の技法を、どのようにして無作為な偏光の光を使用するのではなく、S偏光あるいはP偏光または円偏光の光を使用して、レーザパルスをアブレーションターゲットへと向けるために使用することができるのかを説明している。
【発明の開示】
【0045】
レーザアブレーションにもとづく現在のコーティング方法は、例えば三次元の物体を良好な品質のコーティングによって効率的にコーティングすることを可能にしていない。従来技術の方法を使用して生成される材料プラズマプルームは、蒸発させられるターゲットとコーティングされる基材との間の距離を大きく(例えば、上述のように30〜70mm)しており、したがって三次元の物体の表面が非一様な厚さまたは品質になる。さらに、従来技術の方法は、小さくて平坦な物体のコーティングにおいて控えめな成功を収めるだけでも、高コストがつきまとう高い真空レベル(典型的には、少なくとも10−5〜10−6mbarの範囲)の使用を必要とする。
【0046】
本発明の主題は、コーティング対象の物体(すなわち、基材)とレーザビームを使用してアブレーションされる材料(すなわち、ターゲット)との間の距離が、0.1mm〜10mmであるような方法で、物体を1つ以上のコーティングによってコーティングするためのレーザアブレーション方法である。本発明によれば、経済的および工業的に実現可能な様相で、良好な品質の任意の平坦な表面または三次元表面あるいは三次元の物体でさえも製造可能である。
【0047】
通常は、種々のコーティング方法は、一様なコーティング結果を達成するために、大幅に大きな距離を展開している。
【0048】
今や、本発明が、アブレーションされるターゲット材料とコーティングされる基材との間の距離が充分に小さく、すなわち0.1mm〜10mmの間に保たれるような方法で、平坦な物体およびとくには三次元の幾何学的物体を、優秀な技術的特性(表面の一様性、平滑さ、硬さ、ならびに必要であれば光学的特性および結晶構造)を備えて、工業用として実現可能な製造速度を使用してコーティングできるという驚くべき発見にもとづいてなされた。
【0049】
同じ文脈において、同じ技術的に良好な品質の表面を、本発明によれば、低真空において製造することができ、通常の気圧の気体雰囲気においてさえも特定の条件のもとで製造できるという観察もなされた。これは、当然ながら、製造コストを、設備の要件(良好な真空チャンバ)の軽減ならびに製造の処理時間の迅速化のおかげで、劇的に低くする。以前は、いくつかのとくに大型の物体をレーザアブレーションを使用してコーティングすることは、大型の物体ゆえに製造が経済的に実行不可能になるほどに大きくて真空に時間がかかる真空チャンバが必要であるため、経済的に実現不可能であった。さらに、結晶の水を含んでいる石材料など、特定の材料においては、高真空の使用が許されない。なぜならば、高真空が、高い温度との組み合わせにおいて、結晶の水の喪失を生じさせ、したがって石材料を分解させてしまうからである。
【0050】
本発明による表面の製造速度は、従来技術の製造速度と比べて非常に大きい。従来技術の方法が、24時間で1カラット(0.2g)のダイアモンド材料の製造を可能にするとき、本方法は、例えば20ワットのレーザ出力を使用して4時間で4カラット(0.8g)を生み出す。本発明によれば、所望の材料(例えば、ダイアモンド)の品質特性を、現在の要件に合わせて調節できることが明らかになった。
【0051】
本発明の目的は、従来技術の技法に関する問題を解決でき、あるいは少なくとも軽減できる表面処理設備一式を提示することにある。本発明の別の目的は、コーティング対象の物体を、本出願の優先日における従来技術の技法によって知られているよりも、より効率的に、かつより高品質のコーティングによってコーティングするための方法、設備一式、および/または構成を提示することにある。また別の目的は、表面処理設備によって物体を繰り返しコーティングする技法を使用して実現される三次元の印刷ユニットであって、本出願の優先日における従来技術の技法によって知られているよりも効率的に、かつより良好な表面の品質にて物体を繰り返しコーティングする技法を使用して実現される三次元の印刷ユニットを提示することにある。本発明の目的は、以下のとおり以下の目標に関係している。
【0052】
本発明の主たる目標の1つは、ターゲット材料がプラズマ中にいかなるかけらも形成することがなく、すなわちプラズマが純粋であり、あるいはそのようなかけらが存在する場合でも、ごく少数しか存在せず、かつプラズマの生成源であるターゲット(このターゲットをアブレーションすることによってプラズマが生成される)のアブレーション深さよりもサイズが小さいように、いかにして事実上任意の利用可能なターゲットを使用することによって高品質の微細なプラズマを生成するのかという問題を解決するための少なくとも新規な方法および/またはそれに関係する設備を生み出すことにある。
【0053】
本発明のもう1つの目標は、冷間加工方法において使用するために、ターゲット材料がプラズマ中へといかなるかけらも形成せず、換言するとプラズマが純粋であり、あるいはそのようなかけらが存在する場合でも、少数だけしか存在せず、かつプラズマの発生源であるターゲット(このターゲットをアブレーションすることによってプラズマが生成される)のアブレーション深さよりもサイズが小さいよう、高品質のプラズマを放出することによって、微細かつ一様な切断面をいかにして生成するかという問題を解決するための少なくとも新規な方法および/またはそれに関係する設備を生み出すことにある。
【0054】
さらに、本発明の第3の目標は、粒子状のかけらをまったく含んでおらず、換言するとプラズマが純粋であり、あるいはそのようなかけらが存在する場合でも、少数だけしか存在しておらず、かつプラズマの発生源であるターゲット(このターゲットをアブレーションすることによってプラズマが生成される)のアブレーション深さよりもサイズが小さい高品質のプラズマを使用して、基材として機能する領域をいかにしてコーティングするかという問題、すなわち換言すると、実質的に任意の材料から生成できる純粋なプラズマを使用することによって、基材表面をいかにしてコーティングするかという問題を解決するための少なくとも新規な方法および/またはそれに関係する設備を生み出すことにある。
【0055】
さらに、本発明の第4の目標は、かけらの発生を抑えること、あるいはそのようなかけらのサイズをアブレーション深さよりも小さく制限することによって、粒子状のかけらにおける運動エネルギーの浪費を低減するような方法で、高品質のプラズマを使用して基材への付着のための良好な付着特性を有するコーティングをいかにして生成するかという問題を解決するための少なくとも新規な方法および/またはそれに関係する設備を生み出することにある。同時に、かけらが存在しないということは、かけらが核生成および凝固の現象によってプラズマプルームの均質性に悪影響を及ぼしかねない冷たい表面を形成することがない。さらに、第4の目標によれば、加熱の影響を受ける領域が最小限にされるとき、あるいは好ましくは短い放射パルスが使用されるとき、すなわち換言すると、継続時間がピコ秒範囲またはさらに短いパルスおよび2つの連続するパルスの間の特定の間隔が適用されるとき、放射エネルギーが効率的にプラズマエネルギーへと変換される。
【0056】
さらに、本発明の第5の目標は、いかにして広い走査幅をプラズマの高品質と同時に達成し、工業規模において大きい物体のための幅広いコーティング幅を達成するかという問題を解決するための少なくとも新規な方法および/またはそれに関係する設備を生み出すことにある。
【0057】
さらに、本発明の第6の目標は、上記目標に沿って工業規模の用途において使用するための高い反復速度をいかにして達成するかという問題を解決するための少なくとも新規な方法および/またはそれに関係する設備を生み出すことにある。
【0058】
本発明の第7の目標は、いかにして第1〜第6の目標に沿って製品を製造する目的のために表面をコーティングするための高品質のプラズマを生成する一方で、しかしながら必要な場合に、同じ品質のコーティング/薄膜を製造するためのコーティング段階において再使用するためにターゲット材料を節約するかという問題を解決するための少なくとも新規な方法および/またはそれに関係する設備を生み出すことにある。
【0059】
本発明のまた別の追加の目標は、前記第1、第2、第3、第4、および/または第5の目標に沿った方法および設備を、適切な目標に沿った製品のそれぞれの適切な種類の目的の中で、いかに表面の冷間加工および/またはコーティングを行うかという問題を解決するために使用することにある。
【0060】
本発明の目標は、プラズマの使用にもとづく表面処理装置であって、本発明の実施の形態に従って放射の伝送線にタービンスキャナを有している表面処理装置によって、高品質のプラズマを生成することによって実現される。
【0061】
本発明の実施の形態による表面処理装置を使用するとき、処理対象の表面からの材料の除去および/またはコーティングの生成を、放射の出力に関する不必要な制約無しで、充分な製造速度において、必要とされる高品質のコーティングの水準まで高めることができる。
【0062】
さらに、本発明の他の実施の形態が、従属請求項に例として提示される。本発明の実施の形態を、適切な部分にて組み合わせることができる。
【0063】
本発明の実施の形態を、製品および/またはコーティングの製造に使用することができ、製品の材料は、かなり自由に選択可能である。例えば、半導体ダイアモンド材料を、大量生産に適した様相で、経済的に、反復可能な様相で、良好な品質で製造することができる。
【0064】
本発明の一群の実施の形態において、表面処理は、レーザアブレーションにもとづいており、タービンスキャナを備えている放射伝送線での伝送のための放射源として、ほぼ任意のレーザ源を使用することが可能である。したがって、適切なレーザ源として、CW半導体レーザなどのレーザ、ならびにパルスの継続時間がピコ秒、フェムト秒、またはアト秒の範囲にあるパルス状のレーザシステムが挙げられ、後者の3つのパルスの継続時間は、冷間加工法に適したレーザ源を代表している。しかしながら、本発明は、このような放射源の選択に限られるわけではない。
発明の詳細な説明
【0065】
本発明の主題は、1つ以上のコーティングによって物体をコーティングするためのレーザアブレーション方法であって、コーティング対象の物体(すなわち、基材)とレーザビームを用いてアブレーションされる材料(すなわち、ターゲット)との間の距離が0.1mm〜10mmであるような方法で物体をコーティングする方法に関する。本発明の一実施の形態においては、基材とターゲットとの間の距離が、1mm〜8mmであり、より好ましくは3mm〜6mmである。必要とされる距離は、コーティング対象の基材ならびに表面について所望される品質および/または技術的特性に依存して決まる。
【0066】
本発明のさらに別の実施の形態においては、ターゲットと基材との間の距離が、2μm〜1mmと短い。このような距離を使用して、優れた表面の品質が、本発明によれば、例えば針およびナイフの先端などといった尖った物体において、良好な製造速度で達成される。表面の硬さも優秀である。本発明の一実施の形態は、ダイアモンドでコーティングされた針、ナイフ、および刃であり、とくにはこれらすべての先端である。ダイアモンドを、他の硬いコーティング材料で置き換えることも可能である。
【0067】
本方法の好ましい一実施の形態においては、コーティング対象の表面が、ただ1つのターゲットからアブレーションされた材料で構成される。
【0068】
本方法の他の好ましい実施の形態においては、コーティング対象の表面が、いくつかのターゲットから同時にアブレーションされた材料で構成される。
【0069】
さらに、本発明の別の好ましい実施の形態においては、コーティング対象の表面が、アブレーションされた材料で形成されたプラズマ材料プルームへと反応性物質を導入することによって形成され、この反応性物質が、プラズマ材料のプルームのアブレーションされた材料と反応し、基材へのコーティングの化合物を形成する。
【0070】
したがって、ターゲットがレーザパルスでアブレーションされたときに、プラズマ材料の分子レベルのプルームが形成される。
【0071】
分かり易くするため、原子レベルが、少なくとも部分的にイオン化状態にある気体(電子を電気力によって原子核に拘束して残している原子部分をさらに含んでもよい)も指すことを指摘しておかなければならない。したがって、例えばひとたびイオン化したネオンを、原子レベルのプラズマと見なすことができる。当然ながら、別個の電子および原子核のみでもっぱら構成される粒子の物体も、プラズマと考えられる。このように、純粋の良好なプラズマは、気体、原子レベルのプラズマ、および/またはプラズマのみを含み、例えば固体のかけらおよび/または粒子を含まない。
【0072】
パルスレーザ蒸着(PLD)用途におけるパルスの使用に関して、PLDにおけるレーザパルスの継続時間が長いほど、プラズマのエネルギーレベルならびにターゲットに衝突するパルスによってターゲットから蒸発する物質の原子の速度が低くなることに、注意すべきである。したがって、パルスが短いほど、蒸発した物質のエネルギーレベルおよび物質のプルームにおける原子の速度が高くなる。他方で、これは、物質の蒸発によって得られたプラズマが、より均質かつ一様であって、かけら、クラスタ、マイクロ粒子、またはマクロ粒子などといった固相および/または液相の析出物ならびに/あるいは凝固物を含まないことも意味する。換言すると、アブレーションされる材料のアブレーションしきい値を超える限りにおいて、パルスが短く、反復速度が高いほど、生成されるプラズマの品質が良好である。
【0073】
材料に衝突するレーザパルスの熱が導かれる深さは、種々のレーザシステムにおいて大きく異なる。この領域は、とりわけ、熱影響ゾーン(HAZ)と呼ばれる。HAZの深さは、基本的に、レーザパルスの出力および継続時間によって決定される。例えば、ナノ秒パルスのレーザシステムが、典型的には、数百ミリジュール以上のパルス出力を生み出す一方で、ピコ秒のレーザシステムは、1〜10μJ(マイクロジュール)の範囲のパルス出力を生み出す。この2つが同じ反復速度を有する場合、ナノ秒のレーザシステムによって生成される1000倍も強力なパルスのHAZが、ピコ秒レーザのHAZよりもはるかに大きいことは自明である。さらに、大幅に薄い被アブレーション層は、表面から放出されるかけらのサイズに直接的な影響を有し、これがいわゆる冷間アブレーション法における利点である。ナノサイズの範囲の粒子は、表面に大きな欠陥を引き起こすことがまれであり、主に基材に衝突したときにコーティングにピンホールを引き起こすだけである。本発明の一実施の形態によれば、固相(ならびに、存在するのであれば液相)で存在するかけらは、電界および/または磁界を使用して取り除かれる。これは、より低い電気的な移動性を有するかけらを、プラズマプルームから離れるように案内できるよう、収集用電界を使用し、ターゲットを帯電した状態に保つことによって達成できる。磁気フィルタ処理が、同じ方法で、粒子をプラズマから分離できるよう、プラズマプルームを偏向させることによって機能する。
【0074】
用語「表面」は、本発明によれば、表面または3D材料を指すことができる。本明細書においては、「表面」について、いかなる幾何学的または三次元的な制限も置かれない。したがって、本発明に従って3D材料をコーティングできるだけでなく、3D材料を製造することもできる。
【0075】
本発明による基材のコーティングは、物体の全体について平滑でピンホールのない表面の形成を可能にする。
【0076】
本発明によれば、基材を、例えば、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上述の基材の1つ以上の組み合わせで構成できる。
【0077】
同様に、ターゲットを、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上述のターゲットの1つ以上の組み合わせで構成できる。
【0078】
ここで、半合成の化合物とは、例えば、変更された天然ポリマーまたは変更された天然ポリマーを含んでいる複合材料を指す。
【0079】
換言すると、本発明は、特定の基材またはターゲットに限定されない。
【0080】
本発明によれば、金属を、例えば、別の金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上述の基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0081】
金属化合物を、例えば、金属、別の金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0082】
ガラスを、例えば、金属、金属化合物、別のガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0083】
石を、例えば、金属、金属化合物、ガラス、別の石材料、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0084】
セラミックを、例えば、金属、金属化合物、ガラス、石、別のセラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0085】
合成ポリマーを、例えば、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、別の合成ポリマー、半合成ポリマー、複合材料、天然ポリマー、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0086】
さらに、半合成ポリマーを、本発明によれば、例えば、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、別の半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0087】
さらに、天然ポリマーを、本発明によれば、例えば、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、別の天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0088】
さらに、複合材料を、本発明によれば、例えば、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、別の複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0089】
紙およびボール紙も、上述のすべての化合物でコーティングすることができる。
【0090】
複合材料の1つの定義が、複合材料を以下のように定義しているPolymer Science Dictionary(Alger、M.S.M.、Elsewier Applied Science、1990、p.81)にある。すなわち、「2つ以上の単純(または、モノリシック)な材料の組み合わせで構成される固体材料であって、個々の成分がそれらの別個の独自性を維持している。複合材料は、個々の構成材料とは異なる特性を呈し、『複合』という属性の使用は、主たる技術的目標が構成材料の特性よりも優れた特性を有する材料を生成することにあるため、物理的な特性の改善を指すことが多い。また、複合材料は、複合材料の構成成分にもとづく2つ以上の相で形成される混成構造である。これらの相は、連続的であってよく、あるいは相のうちの1つ以上が、連続的な母材の中に分散させた相であってもよい」。
【0091】
本発明によれば、完全に新規な化合物の他に、2つ以上の材料が分子レベルで複合材料を構成するように使用されている複合材料を製造することも可能である。本発明の一実施の形態においては、例えばポリシロキサンおよびダイアモンドから表面または3D構造が製作され、本発明の別の実施の形態においては、例えばポリシロキサンおよびチッ化炭素(炭チッ化物)から表面または3D構造が製作される。本発明によれば、複合材料の2つ以上の成分の相対量を、自由に選択することができる。
【0092】
またさらに、無機のモノマーまたはオリゴマー材料を、本発明によれば、例えば、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、別の無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0093】
またさらに、有機のモノマーまたはオリゴマー材料を、本発明によれば、例えば、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または別の有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0094】
本発明によれば、上記すべての基材の組み合わせも、上記基材の1つ以上の組み合わせによってコーティングすることができる。
【0095】
本発明の一実施の形態によれば、アブレーションされた材料を、3D印刷(三次元)のために使用することができる。本出願の優先日の時点において知られている従来技術による3D印刷(例えば、Scroff Development Inc.のJP−System 5、BPM Technology Inc.のBallistic Particle Manufacturing、Solidscape Inc.のthe Model Maker、3D Systems Inc.のMulti Jet ModellingおよびZ CorporationのZ402 System)は、比較的控えめな機械的耐久性を有する材料を利用している。本発明による設備は、高い効率を可能にし、すなわち比較的安価な方法での迅速な層生成速度を可能にするため、例えばグラファイトまたはダイアモンドの形態の炭素を使用するときに、アブレーションされた材料を、例えばインクジェットプリンタの原理に従って、1枚ごとに印刷対象の物体に相当する層へと導くことができる。このようにして、例えば炭素を使用して充分に耐久性のある構造を製造することができる。しかしながら、本発明の実施の形態は、ダイアモンドのみに限定されるわけではなく、他の材料も、アブレーションされる材料の選択にもとづいて使用することができる。このように、本発明の実施の形態による設備を、例えばダイアモンドまたは炭チッ化物などといったほぼ任意の適切な材料から中空または中実の物体を製造するために使用することができる。
【0096】
このように、例えばダビデ(David)の有名な像を、最初にダイアモンドの層で構成される1枚ごとで印刷することができ、その後にアブレーションを使用して、層の間に存在しうるエッジを平滑化することができる。像に、ダイアモンド材料のドーピング/合金化によって、各層ごとに別個であってもよい適切な色の調子を与えることができる。このように、ツール、スペア部品または同様の物体、表示装置の部品、PDAの外郭構造、あるいは携帯電話機などといった他の物体、またはその一部など、ほぼ任意の3D物体を直接的に印刷することが可能である。
【0097】
本発明の好ましい実施の形態によれば、コーティングされた表面が、1mm2当たりのピンホールが1個未満であり、好ましくは1cm2当たりのピンホールが1個未満であり、最も好ましくはコーティングされた領域にまったくピンホールを含まないように形成される。ここで、用語「ピンホール」は、コーティング全体を貫通している穴または基本的にコーティングを貫通している穴を意味する。ピンホールの存在は、コーティングの品質および寿命を大幅に低下させる。本発明の主題は、この方法に従ってこのように製造された製品も包含する。
【0098】
本発明の別の実施の形態によれば、コーティングされた表面が、表面の最初の50%が、形成された表面に1000nmを超える直径の粒子が形成されていないように形成され、好ましくはこれらの粒子のサイズが100nmを超えず、最も好ましくはこれらの粒子のサイズが30nmを超えないように形成される。このような粒子は、コーティングの品質および寿命を大きく損なう。このような粒子は、コーティングに腐食のための通り道を形成する。本発明の主題は、この方法に従ってこのように製造された製品も包含する。
【0099】
本発明のまた別の好ましい実施の形態によれば、コーティング対象の物体、すなわち基材が、パルス状の冷間加工レーザを使用してターゲットをアブレーションすることによって、コーティング対象の物体上に形成される表面の最大粗さが原子間力顕微鏡(AFM)を使用して1平方マイクロメートルの面積について測定したときに±100nmであるようにコーティングされている。より好ましくは、表面の最大粗さが25nm未満であり、最も好ましくは10nm未満である。本発明の主題は、この方法に従ってこのように製造された製品も包含する。
【0100】
本発明によるコーティング方法においては、レーザアブレーションが、パルスレーザを使用して実行される。本発明のとくに好ましい一実施の形態においては、アブレーションのために使用されるレーザ装置が、ピコ秒レーザなどの冷間加工レーザである。本発明の別の好ましい実施の形態においては、レーザ設備が、フェムト秒レーザであり、さらに別の好ましい実施の形態においては、アト秒レーザである。
【0101】
本発明による方法においては、冷間加工レーザの出力が、好ましくは少なくとも10Wであり、より好ましくは少なくとも20Wであり、最も好ましくは少なくとも50Wである。ここで、レーザ設備の出力について、上限は設定されない。
【0102】
本発明による方法においては、用途にとって充分な耐久性を有し、適切な光学的特性を有している高品質の(所望の色であり、あるいは透明である)表面を、粗い真空あるいは通常の気圧の気体雰囲気においてレーザアブレーションを使用して基材をコーティングすることによって達成することができる。
【0103】
コーティングを、基材の温度を約60℃にし、あるいは基材の温度を大きく高める(>100℃)などによって、室温または室温付近で実行することができる。
【0104】
これは、建設産業による使用のために石、金属、複合材料、および種々のポリマーシートなどの大きな物体(広い基材表面)をコーティングする場合に、とくに有利である。従来技術の現在のコーティング法においては、このような物体を充分に高い真空へと持ち込むことは、きわめて高価につくうえ、きわめて時間もかかり、したがってコーティングプロセスの処理時間を劇的に増加させる。例えば多孔性材料(石など)をコーティングする場合など、多数の用途において、高真空を達成することは不可能である。さらに加熱が必要とされる場合には、多くの種類の石がそれらの結晶水を脱離させ、これは当然ながら、この石材料の構造を変化させ、目的の用途のための有用性を損ない、あるいは破壊してしまう。
【0105】
したがって、コーティングを通常の気圧または通常の気圧に近い低真空で実行できる場合、品質および作業の経済性の両者に効果がある。特定の用途においては、これまでは製造が不可能であった製品の製造が可能になる。
【0106】
例えば、多くの石製品を、本発明によれば、耐久性のある表面を製造するために酸化アルミニウムでコーティングすることができる。このような表面は、気体だけでなく、水分も防止し、したがって例えば石を破壊する菌類または氷が石材料の内部または表面に形成されることを防止する。本発明によれば、石材料を、酸化アルミニウムで直接的にコーティングすることができ、あるいは例えば、最初に金属アルミニウムでコーティングを行い、形成されたアルミニウム表面を、その後にRTA+光、熱酸化(500℃)、または沸騰水での熱酸化などといった多数の方法によって酸化させることができる。ジルコニウムなどの特定の元素がアルミニウムに添加される場合には、酸化する金属表面が、純粋なアルミニウムよりもさらに効果的に広がり、石のすべての空洞へと広がる密な酸化物表面を形成する。さらに、表面が透明になる。本発明によれば、石材料を、酸化による表面の最終的な形成に先立って表面へと顔料または着色剤を追加することによって、特定の色へと着色することも可能である。石製品に色を与えるこのような表面を、本発明に従ってレーザアブレーションを使用して製造することができる。本発明によれば、酸化アルミニウム表面を、ダイアモンド表面、チッ化炭素表面、別の石表面、または他の何らかの酸化物表面など、任意の他の硬い表面で置き換えることができる。本発明の一実施の形態においては、自己清浄化表面が、石製品の最上のコーティングとして蒸着される。
【0107】
酸化アルミニウム表面は、モノリシックな結晶構造を有する場合、一般にサファイア表面と呼ばれる。
【0108】
このような自己清浄化表面を、例えば酸化チタニウムまたは酸化亜鉛で製作できる。本発明によれば、基材を、好ましい酸化物で直接的にコーティングすることができ、あるいは好ましい金属を酸素含有の周辺に蒸発させることによってコーティングすることができる。本発明による表面の厚さは、好ましくは10nm〜150nmであり、より好ましくは15nm〜100nmであり、最も好ましくは20nm〜50nmである。
【0109】
基材にUV保護コーティングが必要とされる場合、先の光触媒表面を、アルミニウムの層でさらにコーティングすることができる。
【0110】
本発明の別の実施の形態においては、レーザアブレーションが、10−1〜10−12気圧の真空中で実行される。
【0111】
コーティングが真空中で実行される場合、本発明によるコーティングまたは3D物体の製造が、好ましくは10−3〜10−9気圧の圧力のもとで実行され、最も好ましくは10−4〜10−8気圧の圧力のもとで実行される。
【0112】
高真空が使用される場合、それは本発明の実施の形態によれば、とくには単結晶ダイアモンド、酸化アルミニウム、またはシリコンなどといった単結晶材料の表面を形成する場合にとくに有益であろう。本発明に従って製造される単結晶ダイアモンドまたはシリコン材料は、とりわけ、例えば半導体として有用であり、ダイアモンドの場合には宝石としても有用であり、レーザ設備の部品(励起ダイオードの光バー、レンズの技術的解決策、ファイバ)として有用であり、きわめて長持ちする表面が必要とされる用途においてそのような表面として有用である。
【0113】
本発明によれば、半導体ダイアモンドを、例えばイリジウム基板上に成長させることができ(図4)、半導体シリコンを、例えばプラスチックまたは紙の上に直接的に成長させることができる。シリコン層が充分に薄く、例えば5〜15μmである場合、このような半導体を曲げることができ、さらには例えば曲げることができる電子機器の製造に使用することができる。ダイアモンド主体およびシリコン主体の半導体材料の両者を、好ましくはピコ秒レーザを使用し、さらに好ましくはタービンスキャナを備えたピコ秒レーザを使用して、所望の形状へと切断することができる。本発明に従って製造されるダイアモンドおよびシリコン半導体材料を、例えば所望の導電性を達成するために、適切な元素でドーピングでき、組み合わせることができる。
【0114】
本発明による別の実施の形態においては、基材の上に1つ以上のダイアモンド表面が形成される。このようなダイアモンド表面においては、sp3結合の数が好ましくはきわめて多く、従来技術のダイアモンド状カーボン(DLC)表面の場合と異なり、本発明によるすべての表面厚さにおいて、製造された表面がきわめて硬く、傷つきにくい。ダイアモンド表面は、好ましくは透明である。さらに、例えば1マイクロメートルの厚さで黒色であり、200℃までの温度にしか耐えることができない従来技術の低品質のDLCと対照的に、高温にも耐える。本発明に従って製造されるダイアモンド表面は、好ましくは水素を含まない炭素源を使用して製造される。有利には、炭素源が焼結カーボンであり、最も好ましくは熱分解カーボン、ガラス状炭素である。
【0115】
本発明によれば、熱分解カーボンが、例えばMEMS用途のために単結晶ダイアモンド材料を製造する場合に、とくに好ましいターゲットである。
【0116】
より控えめな品質のDLC表面を製造すべき場合も、それを、本発明に従って迅速かつ低コストで行うことができる。
【0117】
着色されたダイアモンド表面が必要とされる場合、カーボンに加えて、所望の色を生み出す元素または化合物を蒸発させることによって、形成されるダイアモンド表面に色を着けることができる。
【0118】
本発明に従って製造されるダイアモンド表面は、下方の表面の機械的な摩耗および裂けを防止するだけでなく、化学的な攻撃も防止する。ダイアモンド表面は、例えば金属を酸化から守り、それらの装飾または他の機能が損なわれないようにする。さらに、ダイアモンド表面は、下方の表面を酸およびアルカリから保護する。
【0119】
本発明による方法の一好ましい実施の形態においては、ターゲットが、材料が基本的に常にこれまでにアブレーションされていないターゲットの場所において蒸発させられるように、レーザビームによってアブレーションされる。
【0120】
これは、常に新鮮な表面がアブレーションされるようにターゲットを動かすことによって達成できる。従来技術の現在の方法においては、ターゲットブランク材が、通常は太い棒または厚いシートの形態である。これらは、焦点合わせのズームレンズの使用を必要とし、あるいはターゲットブランク材を、それが消費されるにつれてレーザビームに対して動かさなければならない。これを実現する単なる試みは、通常は充分な確実性で可能であるとしても、きわめて困難かつ高価であり、さらには品質の変動が大きく、すなわち精度の制御がほぼ不可能であり、厚いターゲットブランク材の製造が高価である。
【0121】
これは、とりわけ従来技術のスキャナに起因してレーザビームの制御の技術に限界が存在するため、とくにはレーザ設備のパルス周波数が高められる場合に、中断なしでは実行できない。パルスの速度を4MHz以上へとさらに高めようと試みる場合、従来技術によるスキャナでは、レーザビームパルスの大部分が、制御不能にレーザ装置の壁構造へと向けられるだけでなく、プラズマの形態のアブレーションされた材料へも向けられる。これは、アブレーションされた材料で形成される表面の品質を低下させ、かつそのような表面の製造速度を遅くするという正味の効果を有し、さらにはターゲットに衝突する放射フラックスが過剰に変化し、これが形成されるプラズマの構造に露見し、結果としてコーティング表面が一様でなくなる可能性がある。レーザビームのすべてまたは一部分が、すでにアブレーションされた表面に衝突する場合、それらのパルスに関し、ターゲットと基材との間の距離が変化する。ターゲットに衝突するパルスがターゲットの先にアブレーションされた場所へと衝突する場合、パルスごとに放出される材料の量が異なり、数ミクロンのサイズの粒子がターゲットからアブレーションされる。このような粒子は、基材に衝突した場合に、形成される表面の品質を大きく悪化させ、したがって製品の特性を悪化させる。
【0122】
本発明の一実施の形態においては、米国特許第6,372,103号明細書に記載されているように、ターゲット材料が、回転運動する従来技術のターゲット材料である。本発明による他の実施の形態においては、ターゲット材料が、やはり市販されているタイル状のターゲット・シートである。
【0123】
本発明の好ましい一実施の形態においては、ターゲット材料が、フィルム/テープとして供給される。
【0124】
そのような好ましい一実施の形態においては、フィルム/箔が、例えば図7に示されているようにロールの形態である。フィルムが、最初に1つのレーザビームの広がりの幅にて最初から最後まで蒸発させられたとき、テープ/箔は、完全に新しい経路を形成できるように、片側へと充分な量だけ動かされる。これを、テープ/箔の全幅が使い尽くされるまで続けることができる。このシステムの重要な利点は、当然ながら、ソース材料が一定のままであるため、蒸発結果が最上の品質で一定のままである点にある。
【0125】
本発明の別の実施の形態は、図7の箔/テープ(46)が、レーザビームの焦点深度と比べて、a)薄く、b)同じ厚さであり、あるいはc)厚いという事実にもとづいている。事例c)に関しては、材料のうちのレーザビームの焦点深度を超える部分が、別途のロール(48)に集められる。テープ/箔の厚さは、例えば5μm〜5mmであってよく、好ましくは20μm〜1mmであり、最も好ましくは50μm〜200μmである。
【0126】
本発明のとくに好ましい一実施の形態においては、ターゲットと基材との間の距離が、全アブレーションプロセスを通じて基本的に一定に保たれる。
【0127】
本発明のまた別の実施の形態によるコーティング方法においては、レーザビームについて調節機構が必要とされず、すなわち本発明の実施の形態による箔/フィルムの蒸発システムが、焦点の調節の工程そのものを必要としない。フィルムの供給の手つかずの表面がターゲットとして機能するので、箔/フィルムが常に焦点へと調節されたままであるため、機構そのものが不要である。フィルムのうち、レーザビーム(図17)の焦点深度に対応する材料部分のみが利用される。したがって、滑らかなコーティング結果が達成され、コーティングプロセスの際に、合焦ユニットは不要である。
【0128】
また、ターゲット材料は高価であり、かつ好ましくはターゲット材料の手つかずの表面のみが使用されるがゆえ、可能な限り薄いターゲットを使用することが工業的に好ましい。テープの形態のターゲット材料は、当然ながら、より複雑でなく、より経済的な製造方法ゆえ、現在のターゲット材料よりも大幅に安価であり、さらにはより容易に入手可能である。
【0129】
本発明の別の好ましい実施の形態においては、シートの供給が適用される。ここでは、それぞれの物体をコーティングするために、シートの形態の新しいターゲットが供給される。この供給方法は、例えば平滑な表面を有する薄くて小さいシートとして今日において日常的に製造されている酸化アルミニウムのセラミックシートによく適している。大きなターゲットの製造は、通常は困難かつ高価である。
【0130】
走査幅が、従来技術の技術的解決策における問題の1つである。それらは、ミラーフィルムスキャナを用いる直線走査を利用しており、これは、理論的には約70mmという公称の走査線幅を可能にすると考えられるが、実際には、走査幅が不都合にも30mm程度に限られる可能性があり、これは、走査領域の縁が非一様な品質となる可能性があり、さらには/あるいは中央の領域と相違する可能性がある。このような小さな走査幅も、現時点で利用可能なレーザ設備を大きくて広い物体のコーティング用途に使用することが、経済的または技術的に実現不可能であることを意味している。
【0131】
本発明の好ましい一実施の形態においては、レーザビームが、タービンスキャナを介してターゲットへと向けられる。
【0132】
タービンスキャナは、ターゲット材料を充分に高いパルス出力を使用して蒸発させて、良好かつ一様な品質のプラズマを可能にし、したがって良好な品質の表面および3D構造を生成できるような方法で、先の平面ミラースキャナに関する出力伝達の問題を解決する。また、タービンスキャナは、よりも大きな走査幅を促進し、結果として、ただ1組のレーザ設備でより広い表面積をコーティングできるようにする。これは、加工速度が良好であり、形成される表面の品質が一様であることを意味する。本発明による方法の一好ましい実施の形態においては、ターゲットの走査の幅を、10mm〜700mmとすることができ、好ましくは100mm〜400mmとすることができ、最も好ましくは150mm〜300mmとすることができる。当然ながら、小型サイズの用途においては、より小さくなければならない。
【0133】
本発明は、1つのレーザ源のみに限定されない。本発明の一実施の形態によれば、基材が、1つ以上のターゲットから蒸発させられたプラズマ材料プルーム中に不動に保たれる。本発明のより好ましい一実施の形態によれば、レーザアブレーションによって1つ以上のターゲットから蒸発させられたプラズマ材料プルーム中で、基材が動かされる。コーティングが真空中または反応ガスの雰囲気中で実行される場合には、コーティングが、好ましくは、別個の真空チャンバ内で実行される。
【0134】
本発明によれば、コーティング対象の物体上に形成される表面の最大粗さが±100nmであるような方法で、物体をコーティングすることができる。本発明の好ましい一実施の形態においては、コーティング対象の物体上に形成される表面の最大粗さが±25nmであり、本発明のさらにより好ましい実施の形態においては、コーティング対象の物体上に形成される表面の最大粗さが±2nmである。
【0135】
形成される表面の平滑さを、実際の要件および必要とされる機能に従って調節することができる。
【0136】
本発明による方法においては、形成される表面の厚さは制限されない。本発明によれば、物体を、1nmから、きわめて厚い表面あるいは3D構造にまでコーティングすることができる。
【0137】
コーティング対象の物体(すなわち、基材)とアブレーションされる材料(すなわち、ターゲット)との間の距離は、従来技術によれば、30mm〜70mmであり、好ましくは30mm〜50mmである。
【0138】
このように、本発明による方法によれば、種々の機能を有する表面および/または3D構造を生み出すことができる。そのような表面として、例えば、種々のガラスおよびプラスチック製品(レンズ、眼鏡、サングラス、画面カバー、建物および車両の窓、実験室用、美術用、および家庭用のガラス製品)におけるきわめて硬くて傷つきにくい表面および3D材料(傷つくことのない表面)が挙げられ、その場合に、とくに好ましい光学コーティング材料として、MgF2、SiO2、TiO2、Al2O3が挙げられ、とくに好ましい硬質コーティング材料として、種々の金属酸化物、炭化物、およびチッ化物、ならびに、言うまでもないがダイアモンドコーティングが挙げられる。また、以下におけるきわめて硬くて傷つきにくい表面および3D構造も挙げられる。すなわち、電気通信装置のケース構造体、屋根を被覆するための金属シート、室内装飾または建物のボード、当て木、および窓枠などといった種々の金属製品およびそれらの表面;皿洗いシンク、蛇口、オーブン、金属コイン、宝石、工具、およびこれらの部品;自動車および他の車両のエンジンならびにそれらの部品、自動車および他の車両における金属被覆および金属塗装面;船舶、ボート、および航空機において使用される金属表面を有する物体、航空機用タービン、および内燃機関;ベアリング;フォーク、ナイフ、およびスプーン;はさみ、ナイフ、回転刃、のこぎり、および金属表面を有するあらゆる種類のカッター、ねじおよびナット;金属表面を有する反応炉、ポンプ、蒸留カラム、タンク、およびフレーム構造など、化学工業プロセスにおいて使用される金属製のプロセス設備;油、気体、および化学品の配管ならびに種々のバルブおよび制御ユニット;石油掘削設備の部品およびドリルのビット;水配管;兵器およびそれらの部品、弾丸、およびカートリッジ;摩耗および裂けにさらされる抄紙機の部品、例えばコーティングペースト塗布設備の部品など、摩耗および裂けにさらされる金属ノズル;雪かき器、シャベル/鋤、および子供向け遊具の金属構造物;ガードレール構造、交通標識およびポスト;金属の缶および容器;外科用具、人工関節、インプラント、および器具;カメラおよびビデオカメラならびに酸化あるいは他の摩耗および裂けにさらされる電子装置の金属部品、宇宙船ならびに摩擦および高温に耐える宇宙船の被覆の技術的解決策、である。
【0139】
さらに、本発明に従って製造されるさらに他の製品として、腐食性の化合物に耐える表面および3D材料、半導体材料、LED材料、視認の角度に応じて色を変化させる顔料およびそれらで製作されて表面、ビームエクスパンダおよびダイオード励起の光バーなど、すでに述べたレーザ設備および励起ダイオードの部品、宝石用の原石材料、医療品の表面および三次元形態の医療品、自己清浄化表面、上述した汚染および/または水分に耐え、(必要であれば)自己清浄性である石およびセラミック材料(コーティングされた石製品、および表面に石表面が形成されている製品)、例えば本発明の実施の形態に従って緑に着色された大理石など、着色された石製品、ならびに自己清浄化砥石など、建設産業用の種々の製品を、挙げることができる。
【0140】
さらに、本発明に従って製造される製品として、例えば種々のレンズおよび画面シールドの技術的解決策における反射防止(AR)表面、UV保護をもたらすコーティング、ならびに水、溶液、または空気の浄化に使用されるUV活性表面を挙げることができる。上述のように、形成される表面の厚さを調節することができる。したがって、本発明に従って形成されるダイアモンドまたはチッ化炭素表面の厚さは、例えば1nm〜3,000nmであってよい。さらに、きわめて一様なダイアモンド表面を製造することができる。すなわち、形成されたダイアモンド表面の最大粗さが、±25nm程度であることができ、好ましくは±10nmであり、低摩擦が求められる特定のきわめて厳しい用途においては、±2nmのレベルまで調節することができる。したがって、本発明によるダイアモンド表面は、下方の表面の機械的な摩耗および裂けを防止するだけでなく、化学的な攻撃も防止する。ダイアモンド表面は、例えば金属の酸化を防止し、それらの装飾または他の機能が損なわれないようにする。さらに、ダイアモンド表面は、下方の表面を酸およびアルカリから保護する。本発明によるダイアモンド表面は、下方の表面の機械的な摩耗および裂けを防止するだけでなく、化学的な攻撃も防止する。ダイアモンド表面は、例えば金属の酸化を防止し、それらの装飾または他の機能が損なわれないようにする。さらに、ダイアモンド表面は、下方の表面を酸およびアルカリから保護する。特定の用途においては、装飾用の金属表面が望まれる。本発明に従ってターゲットとして利用される特定のとくに装飾的な金属または金属化合物は、例えば、金、銀、クロム、白金、タンタル、チタニウム、銅、亜鉛、アルミニウム、鉄、鋼、黒亜鉛、黒ルテニウム、ルテニウム、コバルト、バナジウム、チッ化チタニウム、チッ化チタニウムアルミニウム、チタン炭チッ化物、チッ化ジルコニウム、チッ化クロム、チタニウム炭化ケイ素、および炭化クロムである。これらの材料を、当然ながら、例えば耐摩耗性の表面あるいは酸化または他の化学反応からの保護の表面など、他の特性を達成するためにも使用することができる。
【0141】
この文脈において言及しておくべき金属化合物として、金属酸化物、チッ化物、ハロゲン化物、および炭化物が挙げられるが、金属化合物の羅列がこれらに限定されるわけではない。
【0142】
本発明に従って製造される種々の酸化物表面として、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタニウム、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化すず、酸化タンタル、などが挙げられ、さらにはこれらを互いに組み合わせ、あるいは例えば金属、ダイアモンド、炭化物、またはチッ化物と組み合わせた複合材料としての組み合わせが挙げられる。これらの材料を、本発明に従い、反応ガスの雰囲気を使用することによって金属から製造することも可能である。
【実施例】
【0143】
以下の項で、本発明による方法および製品を説明するが、本発明が以下に提示される実施例に限定されるわけではない。Corelase Oy製の10Wピコ秒レーザ X‐laseおよびCorelase製の20W‐80Wピコ秒レーザ X‐laseの両者を使用(USPLD)して、表面を製造した。パルスエネルギーは、光学系によって所望の領域へと焦点を合わせ、1平方cmの面積に向けられたパルスエネルギーを指す。使用した波長は、1064nmである。コーティング対象の表面の温度を、室温から200℃までの範囲とした。ターゲット材料の温度は、室温〜700℃の範囲で種々の製品に合わせて調節した。酸化物、金属、および種々のカーボン主体の材料を、コーティングのためのターゲット材料として使用した。コーティングが酸素の相にて実行される場合には、酸素の圧力を10−4〜10−1mbarの範囲とした。低出力のレーザにおいては、従来からの平面ミラースキャナ、またはガルバノスキャナを使用した。その後に、自身の軸を中心にして回転するスキャナ、またはタービンスキャナを使用してコーティングを実行した。タービンスキャナが、走査速度の調節を可能にし、ターゲット材料へと向けられるビームの走査速度を、1m/s〜350m/sの範囲で調節することができた。ガルバノスキャナを成功裏に使用するためには、典型的には1MHz未満の低いパルス周波数が必要であった。他方で、タービンスキャナによれば、1MHz〜30MHzなどといった高い反復速度を使用しても、良好な品質のコーティングを製造できた。製造されたコーティングを、AFM、ESEM、FTIR、およびRaman、ならびに共焦点顕微鏡によって調べた。さらに、光学的特性(透過)ならびに抵抗率などといった特定の電気的特徴を検査した。使用するスポットサイズスポットサイズを、20〜80μmの範囲で変化させた。
【0144】
調べたすべての表面にピンホールは存在しなかった。表面の粗さ、すなわち平滑さを、AFM設備を使用して1μm2の面積について測定した。
【0145】
実施例1
この実施例は、(焼結カーボンからの)ダイアモンドコーティングによる大理石のコーティングに関する。レーザ設備の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを5μJとし、パルスの継続時間を20psとし、ターゲットと基材との間の距離を4mmとし、真空レベルを10−6気圧とした。生成したダイアモンド表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して調べた。ダイアモンド表面の厚さは、約500nmであり、最大粗さは、±10nmであった。表面において、マイクロ粒子は観察できなかった。
【0146】
実施例2
この実施例は、(焼結カーボンからの)ダイアモンドコーティングによるアルミニウム箔のコーティングに関する。レーザ設備の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを5μJとし、パルスの継続時間を20psとし、ターゲットと基材との間の距離を4mmとし、真空レベルを10−5気圧とした。このプロセスにおいて、アルミニウム箔は、空色に着色された。生成されたダイアモンド表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して調べた。ダイアモンド表面の厚さは、約200nmであり、最大粗さは、±8nmであった。表面において、マイクロ粒子は観察できなかった。
【0147】
実施例3
この実施例は、シリコンウエハ、二酸化シリコン片、ポリカーボネートシート、およびマイラーフィルムの(熱分解カーボンからの)ダイアモンドコーティングによるコーティングに関する。レーザ設備の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを5μJとし、パルスの継続時間を20psとし、ターゲットと基材との間の距離を8mmとし、真空レベルを10−5気圧とした。生成されたダイアモンド表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。ダイアモンド表面の厚さは、約150nmであり、最大粗さは、±20nmであった。表面において、マイクロ粒子もナノ粒子も観察されなかった。
【0148】
実施例4
この実施例は、二酸化シリコン片のダイアモンドコーティングによるコーティングに関する。レーザ装置の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を2MHzとし、パルスエネルギーを10μJとし、パルスの継続時間を15psとし、ターゲットと基材との間の距離を2mmとし、真空レベルを10−3気圧とした。生成されたダイアモンド表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。ダイアモンド表面の厚さは、約50nmであり、最大粗さは、±4nmであった。形成された表面において、マイクロ粒子は観察できなかった。表面は、優秀な粗さ特性を有しており、ナノ粒子の最大サイズは20nmであった。
【0149】
実施例5
この実施例は、銅シート片の酸化銅でのコーティングに関する。レーザ設備の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを5μJとし、パルスの継続時間を17psとし、ターゲットと基材との間の距離を10mmとし、真空レベルを10−1気圧とした。一様な品質の酸化銅表面が生成された。生成された表面の厚さは、おおむね5μmであった。
【0150】
実施例6
実施例6は、レーザアブレーションを用いて製造されたダイアモンドコーティングを備えている装飾的な雪かき器に関する(図6)。ダイアモンドコーティングのおかげで、この雪かき器は、きわめて耐久性に富み、傷がつきにくい。さらに、ダイアモンド表面の疎水性、およびとくにはダイアモンド表面の最小限の(ナノ範囲の)粗さが、摩擦を小さくし、雪かきに必要とされるエネルギーを少なくし、雪かきをより容易にする。
【0151】
雪かき器の基本材料は、例えばプラスチックまたは金属であってよい。この実施例による雪かき器においては、アルミニウムの基本材料の上に、クロムの厚さ1マイクロメートルの層が電解を使用して形成されている。代案として、これを本発明によるレーザアブレーションを使用して行うことができる。プラスチック表面について、金属コーティングは、レーザアブレーション(冷間アブレーション)を用いて最も容易に形成される。使用される金属、金属合金、または金属化合物、ならびに表面の厚さを、自由に選択することができ、ユニークな雪かき器を製造することができる。とくにはレーザアブレーションによって金属表面を形成することで、望ましい基本色を有するきわめて薄い金属表面を、経済的に製造することができる。すべての表面を覆うダイアモンドコーティングが、今や金属表面の酸化または機械的な摩耗を防止する。ユニークな特徴を、ホログラフィック表面によって高めることができ、顧客の指定する像または文字列を、表面上に製造することができる。機械的な彫り込みに加え、ホログラフィック表面を、その場合に、彫り込みを必要とされる表面を貫いて正確、迅速、かつ経済的に可能にするレーザ彫り込みを使用して、きわめて効率的に製造することも可能である。ホログラフィック表面の良好な品質が、その下方に位置するレーザアブレーションによって製造された金属表面の平滑さによって改善される。図に示されている表面は、実際には物理的に互いに貼り付いているが、図では、説明の目的のために、分離させて示されている。
【0152】
実施例7
この実施例は、酸化アルミニウムコーティングによる大理石のコーティングに関する。表面を、酸化アルミニウムを直接的にアブレーションすることによって形成した。レーザ設備の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを4μJとし、パルスの継続時間を10psとし、ターゲットと基材との間の距離を3mmとし、真空レベルを10−6気圧とした。生成された酸化アルミニウム表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。酸化アルミニウム表面の厚さは、おおむね500nmであり、最大粗さは、±5nmであった。表面において、マイクロ粒子もナノ粒子も観察することはできなかった。
【0153】
実施例8
この実施例は、酸化アルミニウムコーティングによる大理石のコーティングに関する。表面を、酸化アルミニウムを直接的にアブレーションすることによって形成した。レーザ設備の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを4μJとし、パルスの継続時間を10psとし、ターゲットと基材との間の距離を3mmとし、真空レベルを0気圧とした。生成された酸化アルミニウム表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。酸化アルミニウム表面の厚さは、おおむね5nmであり、最大粗さは、±10nmであった。表面にナノ粒子を見ることができた。
【0154】
実施例9
この実施例は、ベースラッカーを有しているプラスチック製眼鏡フレームの酸化アルミニウムコーティングによるコーティングに関する。表面を、酸化アルミニウムを直接的にアブレーションすることによって形成した。レーザ設備の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを4μJとし、パルスの継続時間を20psとし、ターゲットと基材との間の距離を3mmとし、真空レベルを10−6気圧とした。生成された酸化アルミニウム表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。酸化アルミニウム表面の厚さは、おおむね300nmであり、最大粗さは、±2nmであった。表面にマイクロ粒子もナノ粒子も見られなかった。
【0155】
実施例10
この実施例は、花こう岩片の酸化アルミニウムコーティングによるコーティングに関する。表面を、酸化アルミニウムを直接的にアブレーションすることによって形成した。レーザ設備の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを4μJとし、パルスの継続時間を10psとし、ターゲットと基材との間の距離を9mmとし、真空レベルを10−3気圧とした。生成された酸化アルミニウム表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。サファイア表面の厚さは、おおむね1nmであり、最大粗さは、±9nmであった。表面において、有意なマイクロまたはナノ粒子は観察されなかった。
【0156】
実施例11
この実施例は、携帯電話機のプラスチック製ケース殻を最初にアルミニウムでコーティングし、その後に酸化アルミニウムコーティングでコーティングすることに関する。酸化アルミニウム表面を、酸化アルミニウムを直接的にアブレーションすることによって形成した。レーザ設備の性能パラメータは、以下のとおりとした。反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを4μJとし、パルスの継続時間を10psとし、ターゲットと基材との間の距離を3mmとし、真空レベルを10−6気圧とした。
【0157】
生成された酸化アルミニウム表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。表面の厚さは、おおむね300nmであり、最大粗さは、±5nmであった。表面において、マイクロ粒子もナノマイクロ粒子も観察できなかった。アルミニウム層の表面は、測定されなかった。
【0158】
実施例12
この実施例は、鋼片の酸化チタニウムコーティングによるコーティングに関する。表面を、チタニウムを酸素含有のヘリウム雰囲気においてアブレーションすることによって形成した。レーザ装置の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を20MHzとし、パルスエネルギーを4μJとし、パルスの継続時間を10psとし、ターゲットと基材との間の距離を1mmとし、真空レベルを10−2気圧とした。生成された酸化チタニウム表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。酸化チタニウム表面の厚さは、おおむね50nmであり、最大粗さは、±3nmであった。
【0159】
実施例13
この実施例は、ステンレス鋼製の骨用ねじのダイアモンドコーティング(焼結カーボン)によるコーティングに関する。レーザ装置の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を20MHzとし、パルスエネルギーを4μJとし、パルスの継続時間を10psとし、ターゲットと基材との間の距離を1mmとし、真空レベルを10−5気圧とした。生成されたダイアモンド表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。ダイアモンド表面の厚さは、おおむね100nmであり、最大粗さは、±3nmであった。
【0160】
実施例14
この実施例は、ステンレス鋼製の骨用ねじのダイアモンドコーティングによるコーティングに関する。表面を、酸化チタニウムを直接にアブレーションすることによって形成した。レーザ装置の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを2.5μJとし、パルスの継続時間を20psとし、ターゲットと基材との間の距離を8mmとし、真空レベルを10−7気圧とした。生成されたダイアモンド表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。ダイアモンド表面の厚さは、おおむね100nmであり、最大粗さは、±5nmであった。
【0161】
本発明とともに提示された事実から、材料がそれからアブレーションされる(すなわち、ターゲットとして機能する)のか、あるいは材料がそこへともたらされる(すなわち、基材として機能する)のかに応じて、表面処理プロセスの或る段階においてターゲットと呼ばれる物体が、表面処理プロセスの別の段階において基材となることができ、あるいはこの反対も然りであることは、当業者にとって明らかである。すなわち、少なくとも理論的には、同じ物体が、機械加工/コーティングプロセスの段階に応じて、ターゲットおよび基材の両者として機能することができる。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】本発明による方法の用途について、考えられる種々の分野を示している。
【図2】本発明の実施の形態によるアブレーションコーティング装置一式を示している。
【図3】本発明の実施の形態による装置を使用して生成された基材上の多層構造を示している。
【図4】蒸発させられるカーボン素材(ブランク材127)が熱分解カーボンで構成され、ターゲットと基材との間の距離が4mmである構成において、レーザアブレーションによって単結晶ダイアモンドバーが製造される本発明の一実施の形態を示している。
【図5】この場合には雪かき器であるが、本発明に従ってコーティングされる大型の三次元形状の物体を示している。
【図6】本発明に従ってコーティングされる電気通信装置のカバー構造を示している。
【図7】ターゲットがテープとして供給される本発明の一実施の形態によるアブレーションコーティング装置一式を示している。
【図8】本発明の特定の実施の形態においてレーザビームを走査するために使用されるタービンスキャナを示している。
【図9】熱間加工(マイクロ秒およびナノ秒パルスレーザ、長いパルス)と冷間加工(ピコ秒およびフェムト秒レーザ、短いパルス)との間の相違を、アブレーション対象の材料へと伝達される熱およびターゲット材料に生じる損傷に関して示している。
【図10】石製品をコーティングするための本発明による特定の実施の形態を示している。
【図11】本発明に従ってコーティングされた特定の医療器具を示している。
【図12】本発明に従ってコーティングされた特定の医療品を示している。
【図13】本発明に従ってコーティングされる航空機の特定の部品を示している。
【図14】本発明に従って酸化アルミニウムでコーティングされた特定の光学製品を示している。
【図15】処理済みの表面を有している本発明の実施の形態による製品の特定の例を示している。
【技術分野】
【0001】
本発明の主題は、レーザアブレーションにもとづくコーティング方法であって、基材とアブレーションされるターゲットとの間の距離が例外的に小さいコーティング方法に関する。この短い距離は、基材のコーティングを、工業的規模においても可能にし、さらには低真空あるいは非真空のもとですら可能にする。
【背景技術】
【0002】
近年では、レーザ技術において大幅な進歩が達成されており、今や、例えば冷間アブレーションに使用することができるまずまずの効率で動作する半導体ファイバ式のレーザシステムを製造することが可能になっている。そのような冷間加工のために意図されたレーザとして、ピコ秒レーザおよびフェムト秒レーザが挙げられる。例えば、ピコ秒レーザの場合には、冷間加工範囲という用語は、100ピコ秒以下のパルス継続時間を指す。パルスの継続時間の相違に加えて、ピコ秒レーザは、反復速度に関してフェムト秒レーザから相違している。最新のピコ秒レーザが、1〜4MHzの領域の反復速度を有する一方で、フェムト秒レーザは、kHz範囲の反復速度しか達成することができない。最大でも、冷間アブレーションは、材料を蒸発(アブレーション)させるときに実際の蒸発可能な材料への熱の伝達が生じないように材料を蒸発させることができ、換言すると、それぞれのパルスによってアブレーションされる材料のみにパルスエネルギーが加えられる。
【0003】
全ファイバ式のダイオード励起の半導体レーザの競争相手が、レーザビームを最初にファイバへと導き、そこからさらに加工対象の点へとさらに導くランプ励起のレーザ源である。優先日において出願人の知りうる情報によれば、これらのファイバ式のレーザシステムが、現時点において、工業的規模でのレーザアブレーション式の製造のために利用できる唯一の方法である。
【0004】
現在のファイバレーザにおいて使用されるファイバ、およびその結果としての低い放射パワーが、蒸発させることができる材料の範囲を制限している。すなわち、アルミニウムは、適度なパルスパワーによって蒸発させることが可能であるが、銅、タングステン、などといったより蒸発が難しい材料は、かなり大きなパルスパワーを必要とする。
【0005】
技術水準における別の問題は、レーザビームの走査幅である。一般に使用される方法は、ミラーフィルムスキャナを使用する直線走査であり、これは、理論的には70mm程度の公称走査線幅を可能にすると考えることができるが、実際には、走査幅が不都合にも30mmの小ささまでに制限される可能性があり、これは、走査される領域の縁が非一様な品質になり、さらには/あるいは中央の領域と相違する可能性があることを意味する。このような小さな走査幅も、現時点において利用可能なレーザ設備を大きくて広い物体の工業的規模のコーティング用途に使用することを、経済的および技術的に実現不可能にしている。
【0006】
冷間アブレーション用として意図された本出願の優先日の時点において公知のパルスレーザ設備の有効出力は、出願人の知る限りでは、アブレーションにおいて10W程度に限られている。この場合、反復速度が、4MHzのレーザパルス速度へと制限されうる。パルスの速度をさらに高めようと試みた場合、従来技術によるスキャナでは、レーザビームパルスのかなりの部分が、制御不能にレーザ装置の壁構造へと向けられるだけでなく、プラズマの形態のアブレーションされた材料へも向けられる。これは、アブレーションされた材料で形成される表面の品質の悪化、および表面の生成の速度の低下という正味の影響を有し、さらにはターゲットに衝突する放射フラックスが過剰に変化し、これが形成されるプラズマの構造に露見し、非一様なコーティング表面という結果につながりかねないという影響も有している。これらの問題は、形成すべきプラズマ材料のプルームのサイズが大きくなるほど、深刻になる。
【0007】
従来技術による構成においては、アブレーションの最中にレーザビームの焦点が蒸発させられる材料に対して変化することによっても問題が引き起こされ、これが、当然ながら、材料の表面におけるパルスエネルギー密度を(通常は)低下させて、不完全なプラズマの蒸発/形成につながるため、プラズマの品質をすぐに変化させる。これは、低エネルギーのプラズマおよび不必要に大量のかけら/粒子につながるほか、表面形態の変化を引き起こし、コーティングの付着を乏しくし、さらに/またはコーティングの厚さを変化させる。
【0008】
近年におけるレーザ技術の大きな進歩が、半導体ファイバ式の高出力レーザシステムにおいて使用され、したがって冷間アブレーション式の方法の発展を助けるツールをもたらしている。
【0009】
しかしながら、従来からのファイバレーザのファイバは、充分な正味の出力のパルス状のレーザ放射を光ファイバを通して被加工領域へと運ぶ高出力の使用を妨げている。必要とされる出力レベルを被加工領域に加えようとすると、光ファイバにおける吸収ゆえにそのような出力の損失が生じ、従来からのファイバ材料は、そのような損失に耐えることができない。ソースからターゲットへとレーザ放射を運ぶためにファイバ技術を使用する理由の1つは、ただ1つのレーザビームであっても、開いた空間を通って運ぶことが、産業の環境の作業者にとってそれなりの危険を構成することにあり、大規模の動作において、まったく不可能でないにせよ、技術的にきわめて難題である。
【0010】
本出願の優先日の時点において、全ファイバ式のダイオード励起の半導体レーザは、ランプ励起のレーザと競争しており、両方の種類において、レーザビームは、最初にファイバへと導かれ、そこから被加工領域の焦点へと導かれている。これらのファイバ式のレーザシステムが、産業規模のレーザアブレーションの用途に適した唯一のシステムである。
【0011】
ファイバレーザにおいて現時点で利用できるファイバ、ならびにその結果としての低い放射の出力という限界が、ターゲット材料の蒸発/アブレーションのためのファイバ材料の使用を制約している。低エネルギーのパルスを使用してアルミニウムの蒸発/アブレーションが可能である一方で、銅、タングステン、などといった蒸発/アブレーションがより難しい材料は、かなり大きいパルスの出力を必要とする。同じことが、同じ従来技術を使用して新規な化合物を生成することが目的である状況にも当てはまる。言及が当然な例として、いくつかの例の中でも、アブレーション後の状況における適切な気相反応によって、炭素から直接的にダイアモンドを製造すること、またはアルミニウムおよび酸素から直接的に酸化アルミニウムを製造することが挙げられる。
【0012】
他方で、この分野における進歩に対する最も大きな障害の1つは、破損することなく、あるいはレーザビームの品質を損なうことなく、高出力のレーザパルスに耐えるというファイバの能力であると思われる。
【0013】
新規な冷間アブレーション技法を使用することによって、コーティング、薄膜の製造、ならびに切断/スコアリング/彫り込み、などに関する品質および製造能力の問題が、レーザの出力を大きくすること、およびレーザビームのターゲット表面への衝突のスポットのサイズを小さくすることに注力することによって対処されてきた。しかしながら、出力の大部分が雑音に消費されてしまう。品質および製造能力の問題は、たとえいくつかのレーザ製造者がレーザの出力に関する問題を解決しても、未解決のままである。コーティング/薄膜ならびに切断/スコアリング/彫り込み、などの両者の典型的なサンプルは、低い反復速度、狭い走査幅、および長い加工時間においてのみ製造可能であり、したがって工業的な規模の応用には役に立たない。これは、大きな物体の場合にとくに真実である。
【0014】
パルスエネルギー含量ゆえ、パルスの出力を増加させると同時にパルスの継続時間を短くする場合に、この問題は増幅される。ナノ秒パルスレーザは、それ自身が冷間アブレーション法に適しているというわけではないが、そのようなナノ秒パルスレーザを使用しても、大きな問題に直面する。
【0015】
パルスの継続時間をフェムト秒またはアト秒の範囲まで短くすると、問題はほとんど克服不可能になる。例えば、パルスの継続時間が10〜15psであるピコ秒レーザシステムでは、レーザの総出力が100Wであって、反復速度が20MHzであるとき、パルスエネルギーは、10〜30μmのスポットについて5μJでなければならない。出願人の知る限りでは、このようなパルス出力に耐えることができるファイバは、本出願の優先日においては入手することができない。
【0016】
パルスが短いほど、ファイバの断面を通って送られなければならない単位時間当たりのエネルギーは、より大きくなる。上述のパルス継続時間およびレーザ出力の条件において、個々のパルスの振幅レベルは、おおむね400kWの出力に相当しうる。200kWに耐えることができ、継続時間が15psであるパルスを最適なパルスの形状をひずませることなく通過させることができるファイバの製造でさえ、出願人の最良の知識によれば、本出願の優先日よりも前では不可能である。
【0017】
目的が、任意の利用可能な材料からのプラズマ生成の可能性を妨げないことにある場合、パルスの出力レベルを、例えば200kW〜80MWの範囲において自由に選択できなければならない。現在のファイバレーザの限界に関係する問題は、ファイバのみに起因するものではなく、特定の総出力を目標とするときに光コネクタを使用して別個のダイオード励起レーザを互いに接続することにも起因する。このような組み合わせビームは、従来からの技法を使用して単一のファイバにて加工の点へと導かれている。
【0018】
結果として、伝送経路が高出力のパルスを加工の点へと伝送するために展開されるとき、光コネクタが、少なくともファイバそのものと同じ出力に耐えることができなければならない。通常の出力レベルであっても、適切な光コネクタの製造はきわめて高価であり、動作が或る程度は不確実である。また、使用において消耗し、特定の間隔で交換が必要である。
【0019】
製造速度は、反復速度に直接的に比例する。他方で、従来技術のミラーフィルムスキャナ(すなわち、ガルバノスキャナまたは同様の往復式の他のスキャナ)は、変向点におけるミラーの停止、加速、および減速、ならびにミラーの一瞬の停止でさえもが、特定の問題を引き起こして、走査の目的におけるそのようなミラーの有用性を損ない、走査幅に大きな影響を及ぼすような動作サイクルを有している。反復速度を高めることによって生産の速度を拡大しようと試みた場合、加速および減速の段階が、結果として走査領域を狭くし、あるいは放射が減速中および/または加速中のミラーを介してターゲットに衝突するため、ターゲットにおける放射の分布、したがってプラズマが非一様になる。
【0020】
コーティング/薄膜の製造速度を、単純にパルスの反復速度を高めることによって高めようと試みる場合、上述の従来技術のスキャナは、kHz範囲の低いパルス周波数が使用される場合でさえも、パルスを制御不能な様相でターゲット上の重なり合うスポットへと導く。
【0021】
同じ問題が、ナノ秒範囲のレーザにも当てはまるが、パルスエネルギーが高く継続時間が長いため、問題がさらにより深刻である。これは、ナノ秒範囲のただ1つのパルスでさえも、ターゲット材料に深刻で顕著な浸食を引き起こすからである。
【0022】
従来技術の技法においては、ターゲットが非一様に消耗するだけでなく、容易に砕ける可能性もあり、これがプラズマの品質に悪影響を及ぼす。このため、このような技法を使用してコーティング対象の表面も、プラズマに起因する問題を抱えることになる。表面がかけらを含む可能性があり、あるいはプラズマが非一様に分布する可能性があり、高精度を必要とする用途においては厄介となりうる(塗装または着色の用途においては、悪影響が用途に特有の検出限界未満にとどまるならば必ずしも問題にはならない)ような表面の区域を生じる可能性がある。現在の方法は、ターゲットを1度だけ使用しており、したがって同じターゲット表面を再使用することはできない。手つかずのターゲット表面のみを使用し、あるいはターゲットおよび/またはビームスポットを互いに対して適切に動かすることによって、この問題を解決することが試みられている。
【0023】
機械加工の種類の用途においては、流れの制御に関する穴の穿孔の場合など、かけらを含んでいる廃棄物または過剰な材料が、やはり非一様な(したがって欠陥のある)切断線につながる可能性がある。表面が、放出されたかけらに起因して非一様な外観を得る可能性もあり、これは例えば特定の半導体の製造において容認できない。
【0024】
さらに、ミラーフィルムスキャナの往復運動が慣性力を生み、この慣性力が、たとえミラーがベアリングに支持されている場合でも、構造体に荷重をもたらす。このような慣性力が、とくにはミラーが最大仕様の付近において使用される場合に、ミラーの固定具を次第に緩ませる可能性があり、その結果、長い時間期間において設定が徐々に変化する可能性があり、そのような設定の変化が、製品の品質の非一様な再現性として露見しうる。さらに、停止および方向の変向が必要であるため、このようなミラーフィルムスキャナにおいては、アブレーションおよびプラズマの生成に使用できる走査幅がきわめて限られる。たとえいずれの場合も動作が遅かった場合でも、製造サイクルの全長に対する有効な製造サイクルが短い。製造を向上させるという観点から、ミラーフィルムスキャナを使用するシステムは、必然的にプラズマの生成速度に関して遅く、走査幅が狭く、長期安定性に乏しく、プラズマ中の有害な粒子放射に直面する可能性が高く、これらに対応する結果が、このようなシステムを使用して機械加工された製品および/またはコーティングされた製品につきまとう。
【0025】
ファイバレーザ技術には、大量のエネルギーをファイバを通って伝送することができないなど、他の問題もつきまとう。大量のエネルギーをファイバを通って伝送すると、ファイバの溶融および/または分解につながり、あるいはファイバを通って伝送される高出力によって引き起こされるファイバの変質の結果として、伝送されるビームが劣化することになる。すでに10μJのパルス出力でさえも、ファイバが些細な構造的欠陥または品質的不備を有していると、ファイバを損傷させる可能性がある。ファイバ基盤の技術において、最も損傷を受けやすい構成要素は、例えば励起ダイオードなどといったレーザ出力源を接続するために使用される光ファイバコネクタである。
【0026】
パルスが短いほど、所与のエネルギーのための出力は大きく、すなわちエネルギー含量を一定に保ちつつレーザパルスを短くするとき、この問題は強調される。この問題は、ナノ秒レーザにおいてとくに顕著である。
【0027】
パルスの継続時間を、フェムト秒、さらにはアト秒の範囲まで短くすると、問題はほとんど克服不可能になる。例えば、パルスの継続時間が10〜15psであるピコ秒レーザシステムは、レーザの総出力が100Wであって、反復速度が20MHzであるとき、パルスエネルギーが10〜30μmのスポットにつき5μJでなければならない。本出願の優先日までに、出願人は、このパルスに耐えうるファイバを知らない。
【0028】
ファイバレーザの用途の重要な分野の1つであるレーザアブレーションにおいては、最大かつ最適なパルスの出力およびエネルギーを達成することがきわめて重要である。パルスの継続時間が15psであり、パルスエネルギーが5μJであり、総出力が1000Wである状況において、パルスの出力レベルは、約400,000W(400kW)である。本出願の優先日の時点において、出願人の知る限りでは、15psの継続時間を有する200kWのパルスでさえも、パルスを最適な形状に保ちつつ通すことができるファイバの製造に誰も成功していない。
【0029】
いずれの場合も、任意の利用可能な材料からのプラズマ生成の可能性を妨げないという目的において、パルスの出力は、例えば200kW〜80MWの範囲において比較的自由に選択されなければならない。
【0030】
しかしながら、今日のファイバレーザの限界に関する問題は、ファイバのみに起因するものではなく、得られるビームをただ1つのファイバによって加工の点へと運ぶことができるよう、所望の総出力を達成すべく光コネクタを使用して別個のダイオード励起レーザを互いに接続することにも起因している。
【0031】
適切な光コネクタは、高出力のパルスを加工の点へと運ぶ光ファイバと同じ出力に耐えることができなくてはならない。さらに、レーザパルスの適切な形状を、レーザパルスを運ぶプロセスの全体にわたって維持することも、重要である。現在の出力レベルに耐える光コネクタは、きわめて製造が高価であり、やや信頼性に欠け、短い寿命しか有しておらず、したがって定期的な交換を必要とする。
【0032】
レーザビームおよびアブレーションにもとづく従来技術の技法は、出力および品質に関する問題を抱えている。例として、とくにはアブレーション関連の走査の場合に、反復速度を、一様かつ良好な製品品質での工業規模の大量生産を可能にできる水準まで高めることができない。さらに、従来技術によるスキャナは、(真空チャンバ内の)蒸発装置の外部に位置しており、したがってレーザビームが真空チャンバの光学窓を通過しなければならず、これが利用可能な出力を常に或る程度減少させる。
【0033】
本出願の優先日の時点において出願人の知る限りでは、アブレーションに利用できる従来技術の設備の有効出力は10W程度である。これは、切断がレーザによって達成される場合に、反復速度がわずかに4MHzに制限されうることを意味する。パルスの速度をさらに高めようと試みた場合、従来技術によるスキャナでは、レーザビームパルスの大部分が、レーザ装置の壁構造へと制御不能に向けられ、プラズマの形態のアブレーションされた材料へも向けられる。これは、形成される表面の品質の低下、および製造速度の低下という正味の効果を有している。さらに、ターゲットを外す放射フラックスが一定のままでなく、これがプラズマの構造に悪影響を及ぼす可能性があり、したがってコーティング対象の表面に衝突するとき、コーティングを非一様にする可能性がある。
【0034】
したがって、ターゲットが加工対象の物体および/または部品である機械加工の用途においても、切断の能率および品質の両者が損なわれることが容易に生じうる。さらに、かけらおよびしぶきが、切断点の周囲の表面あるいはコーティング対象の表面に着陸する大きな危険が存在する。さらに、従来技術の技法を用いた場合、繰り返しの表面処理に時間がかかり、最終結果が一様な品質でなくなる可能性がある。
【0035】
本出願の優先日の時点において出願人に知られている従来技術によるスキャナでは、走査速度が約3m/s未満にとどまるばかりか、走査速度が真に一定ではなく、走査の最中に変化する。これは、主として、従来技術によるスキャナが、走査のプロセスを繰り返すために、走査距離を終えたときに停止し、次いで反対方向へと向きを変える枢動ミラーにもとづいているという事実ゆえである。往復ミラーもこの技術分野において知られているが、それらも安定な運動に関して同じ問題を抱えている。平面ミラーを用いて実現されるアブレーション技法が、米国特許6,372,103号明細書および米国特許第6,063,455号明細書に開示されている。加速、減速、および停止を伴う運動ゆえに走査速度が一定でなく、プラズマの発生および品質は走査速度に完全に依存するため、加工の点からの蒸発によって生成されるプラズマの発生が、ターゲットの各部において相違し、とくには走査範囲の極点において相違する。或る意味で、従来技術による設備を使用するとき、エネルギーレベルおよび単位時間当たりのパルスの数が大になると、このような問題がより顕著になることを、主たる法則と考えることができる。成功するアブレーションにおいては、材料が原子の粒子へと蒸発させられる。しかしながら、混乱の要因が存在するとき、ターゲット材料が、数マイクロメートルのサイズのかけらを放出または補足する可能性があり、これは当然ながら、アブレーションが展開される表面の製造品質を損なう。
【0036】
現時点で公知のスキャナの速度は低いため、パルス周波数を高めることは、ミラー構造に進入するパルス状のレーザビームのエネルギーレベルを、レーザビームがミラーへの進入までにスキャナによって拡大されないならば、今日のミラー構造を溶融/焼損させてしまうようなレベルまで高める結果となりうる。したがって、別途のコリメータレンズ手段を、スキャナとアブレーションのターゲットとの間に追加しなければならない。
【0037】
現在のスキャナの動作の限界を決定づけている特性は、それらが軽量あることである。これは、それらのマスが小さいことを意味し、したがってレーザビームのエネルギーを吸収する能力が限られていることを意味する。この事実も、従来技術による用途における溶融/焼損の危険を高めている。
【0038】
従来技術の技法におけるさらなる問題は、レーザビームの走査幅である。これらの技術的解決策は、理論的には最大70mmにもなる走査線幅の使用を可能にするようなミラーフィルムスキャナを使用する線走査を展開しているが、実際には、走査幅が不都合にもわずか30mmに制限される可能性があり、それによって表面上に非一様に散乱した非一様な品質の格子状領域が残される可能性がある。このような小さな走査幅も、大きくて広い物体に関する表面処理用途のための現行のレーザ設備が、工業用として適切でなく、あるいは技術的に実現不可能であるという事実の一因である。
【0039】
従来技術に従い、レーザビームの焦点が外れる状況が生じた場合、得られるプラズマが、かなり低い品質になりうる。さらに、放出されるプラズマが、ターゲットから放出されたかけらを含む可能性もある。同時に、ターゲットから放出されるように意図された材料が、使い物にならなくなる程度にまで損傷する可能性がある。この状況は、材料源として厚すぎるターゲットが使用される従来技術による技術的解決策の典型である。最適な焦点を維持するために、ターゲットを、ターゲットの浸食に一致するようにレーザビームの方向に向かって動かさなければならない。これは、たとえターゲットを焦点へと戻すことができた場合でも、ターゲット表面の構造および組成が、ターゲットから蒸発させられた材料の量に比例して変化してしまっている可能性があるという点で、問題を未解決のままに残している。従来技術の技法において、厚いターゲットの表面構造は、材料が消費されるにつれて変化するであろう。例えば、ターゲットが化合物または混合物である場合、この変化は容易に検出される。
【0040】
従来技術による構成においては、アブレーションの最中にレーザビームの焦点が蒸発させられる材料に対して変化すると、材料の表面におけるパルスエネルギー密度が通常は低下して、プラズマの蒸発/形成が不完全になるため、プラズマの品質がすぐに変化してしまう。これは、低エネルギーのプラズマ、不必要に大量のかけら/粒子、ならびに表面の形態の変化につながり、付着およびコーティングの厚さの変化につながりうる。
【0041】
焦点を調節することによって問題を軽減する試みがなされている。従来技術による設備において、レーザパルスの反復速度が例えば200kHz未満などと低く、走査速度がわずかに3m/s以下である場合、変化がプラズマの強度に対してゆっくりとした影響しか有さない一方で、設備が焦点を調節することによってプラズマの強度の変化に反応するための時間を有する。いわゆるプラズマ強度のリアルタイムの測定システムを、a)表面の品質および一様性が重要でない場合、またはb)低い走査速度が使用される場合には、使用することが可能である。
【0042】
換言すると、本出願の優先日の時点において出願人が知りうる情報によれば、従来技術による技法を使用して高品質のプラズマを生成することは不可能である。また、従来技術の技法を使用したのでは生成することができないコーティングが多数存在する。
【0043】
従来技術によるシステムは、それらにおいて使用しなければならない複雑なシステムを必要とする。従来技術の方法においては、ターゲットが、通常は太い棒または厚いシートの形態である。この場合、ターゲットが消費されるにつれて、ズーム合焦レンズを使用しなければならず、あるいはターゲットをレーザビームに向かって動かさなければならない。このような構成を実際に実現することは、充分な信頼性が求められ、大きすぎる品質の変動の回避が求められる場合、まったく不可能ではないにせよ技術的にきわめて高価かつ困難であり、その場合、精密な調節はほぼ不可能であり、厚いターゲットの準備が高価であることなどがある。
【0044】
米国特許明細書は、従来技術の技法を、どのようにして無作為な偏光の光を使用するのではなく、S偏光あるいはP偏光または円偏光の光を使用して、レーザパルスをアブレーションターゲットへと向けるために使用することができるのかを説明している。
【発明の開示】
【0045】
レーザアブレーションにもとづく現在のコーティング方法は、例えば三次元の物体を良好な品質のコーティングによって効率的にコーティングすることを可能にしていない。従来技術の方法を使用して生成される材料プラズマプルームは、蒸発させられるターゲットとコーティングされる基材との間の距離を大きく(例えば、上述のように30〜70mm)しており、したがって三次元の物体の表面が非一様な厚さまたは品質になる。さらに、従来技術の方法は、小さくて平坦な物体のコーティングにおいて控えめな成功を収めるだけでも、高コストがつきまとう高い真空レベル(典型的には、少なくとも10−5〜10−6mbarの範囲)の使用を必要とする。
【0046】
本発明の主題は、コーティング対象の物体(すなわち、基材)とレーザビームを使用してアブレーションされる材料(すなわち、ターゲット)との間の距離が、0.1mm〜10mmであるような方法で、物体を1つ以上のコーティングによってコーティングするためのレーザアブレーション方法である。本発明によれば、経済的および工業的に実現可能な様相で、良好な品質の任意の平坦な表面または三次元表面あるいは三次元の物体でさえも製造可能である。
【0047】
通常は、種々のコーティング方法は、一様なコーティング結果を達成するために、大幅に大きな距離を展開している。
【0048】
今や、本発明が、アブレーションされるターゲット材料とコーティングされる基材との間の距離が充分に小さく、すなわち0.1mm〜10mmの間に保たれるような方法で、平坦な物体およびとくには三次元の幾何学的物体を、優秀な技術的特性(表面の一様性、平滑さ、硬さ、ならびに必要であれば光学的特性および結晶構造)を備えて、工業用として実現可能な製造速度を使用してコーティングできるという驚くべき発見にもとづいてなされた。
【0049】
同じ文脈において、同じ技術的に良好な品質の表面を、本発明によれば、低真空において製造することができ、通常の気圧の気体雰囲気においてさえも特定の条件のもとで製造できるという観察もなされた。これは、当然ながら、製造コストを、設備の要件(良好な真空チャンバ)の軽減ならびに製造の処理時間の迅速化のおかげで、劇的に低くする。以前は、いくつかのとくに大型の物体をレーザアブレーションを使用してコーティングすることは、大型の物体ゆえに製造が経済的に実行不可能になるほどに大きくて真空に時間がかかる真空チャンバが必要であるため、経済的に実現不可能であった。さらに、結晶の水を含んでいる石材料など、特定の材料においては、高真空の使用が許されない。なぜならば、高真空が、高い温度との組み合わせにおいて、結晶の水の喪失を生じさせ、したがって石材料を分解させてしまうからである。
【0050】
本発明による表面の製造速度は、従来技術の製造速度と比べて非常に大きい。従来技術の方法が、24時間で1カラット(0.2g)のダイアモンド材料の製造を可能にするとき、本方法は、例えば20ワットのレーザ出力を使用して4時間で4カラット(0.8g)を生み出す。本発明によれば、所望の材料(例えば、ダイアモンド)の品質特性を、現在の要件に合わせて調節できることが明らかになった。
【0051】
本発明の目的は、従来技術の技法に関する問題を解決でき、あるいは少なくとも軽減できる表面処理設備一式を提示することにある。本発明の別の目的は、コーティング対象の物体を、本出願の優先日における従来技術の技法によって知られているよりも、より効率的に、かつより高品質のコーティングによってコーティングするための方法、設備一式、および/または構成を提示することにある。また別の目的は、表面処理設備によって物体を繰り返しコーティングする技法を使用して実現される三次元の印刷ユニットであって、本出願の優先日における従来技術の技法によって知られているよりも効率的に、かつより良好な表面の品質にて物体を繰り返しコーティングする技法を使用して実現される三次元の印刷ユニットを提示することにある。本発明の目的は、以下のとおり以下の目標に関係している。
【0052】
本発明の主たる目標の1つは、ターゲット材料がプラズマ中にいかなるかけらも形成することがなく、すなわちプラズマが純粋であり、あるいはそのようなかけらが存在する場合でも、ごく少数しか存在せず、かつプラズマの生成源であるターゲット(このターゲットをアブレーションすることによってプラズマが生成される)のアブレーション深さよりもサイズが小さいように、いかにして事実上任意の利用可能なターゲットを使用することによって高品質の微細なプラズマを生成するのかという問題を解決するための少なくとも新規な方法および/またはそれに関係する設備を生み出すことにある。
【0053】
本発明のもう1つの目標は、冷間加工方法において使用するために、ターゲット材料がプラズマ中へといかなるかけらも形成せず、換言するとプラズマが純粋であり、あるいはそのようなかけらが存在する場合でも、少数だけしか存在せず、かつプラズマの発生源であるターゲット(このターゲットをアブレーションすることによってプラズマが生成される)のアブレーション深さよりもサイズが小さいよう、高品質のプラズマを放出することによって、微細かつ一様な切断面をいかにして生成するかという問題を解決するための少なくとも新規な方法および/またはそれに関係する設備を生み出すことにある。
【0054】
さらに、本発明の第3の目標は、粒子状のかけらをまったく含んでおらず、換言するとプラズマが純粋であり、あるいはそのようなかけらが存在する場合でも、少数だけしか存在しておらず、かつプラズマの発生源であるターゲット(このターゲットをアブレーションすることによってプラズマが生成される)のアブレーション深さよりもサイズが小さい高品質のプラズマを使用して、基材として機能する領域をいかにしてコーティングするかという問題、すなわち換言すると、実質的に任意の材料から生成できる純粋なプラズマを使用することによって、基材表面をいかにしてコーティングするかという問題を解決するための少なくとも新規な方法および/またはそれに関係する設備を生み出すことにある。
【0055】
さらに、本発明の第4の目標は、かけらの発生を抑えること、あるいはそのようなかけらのサイズをアブレーション深さよりも小さく制限することによって、粒子状のかけらにおける運動エネルギーの浪費を低減するような方法で、高品質のプラズマを使用して基材への付着のための良好な付着特性を有するコーティングをいかにして生成するかという問題を解決するための少なくとも新規な方法および/またはそれに関係する設備を生み出することにある。同時に、かけらが存在しないということは、かけらが核生成および凝固の現象によってプラズマプルームの均質性に悪影響を及ぼしかねない冷たい表面を形成することがない。さらに、第4の目標によれば、加熱の影響を受ける領域が最小限にされるとき、あるいは好ましくは短い放射パルスが使用されるとき、すなわち換言すると、継続時間がピコ秒範囲またはさらに短いパルスおよび2つの連続するパルスの間の特定の間隔が適用されるとき、放射エネルギーが効率的にプラズマエネルギーへと変換される。
【0056】
さらに、本発明の第5の目標は、いかにして広い走査幅をプラズマの高品質と同時に達成し、工業規模において大きい物体のための幅広いコーティング幅を達成するかという問題を解決するための少なくとも新規な方法および/またはそれに関係する設備を生み出すことにある。
【0057】
さらに、本発明の第6の目標は、上記目標に沿って工業規模の用途において使用するための高い反復速度をいかにして達成するかという問題を解決するための少なくとも新規な方法および/またはそれに関係する設備を生み出すことにある。
【0058】
本発明の第7の目標は、いかにして第1〜第6の目標に沿って製品を製造する目的のために表面をコーティングするための高品質のプラズマを生成する一方で、しかしながら必要な場合に、同じ品質のコーティング/薄膜を製造するためのコーティング段階において再使用するためにターゲット材料を節約するかという問題を解決するための少なくとも新規な方法および/またはそれに関係する設備を生み出すことにある。
【0059】
本発明のまた別の追加の目標は、前記第1、第2、第3、第4、および/または第5の目標に沿った方法および設備を、適切な目標に沿った製品のそれぞれの適切な種類の目的の中で、いかに表面の冷間加工および/またはコーティングを行うかという問題を解決するために使用することにある。
【0060】
本発明の目標は、プラズマの使用にもとづく表面処理装置であって、本発明の実施の形態に従って放射の伝送線にタービンスキャナを有している表面処理装置によって、高品質のプラズマを生成することによって実現される。
【0061】
本発明の実施の形態による表面処理装置を使用するとき、処理対象の表面からの材料の除去および/またはコーティングの生成を、放射の出力に関する不必要な制約無しで、充分な製造速度において、必要とされる高品質のコーティングの水準まで高めることができる。
【0062】
さらに、本発明の他の実施の形態が、従属請求項に例として提示される。本発明の実施の形態を、適切な部分にて組み合わせることができる。
【0063】
本発明の実施の形態を、製品および/またはコーティングの製造に使用することができ、製品の材料は、かなり自由に選択可能である。例えば、半導体ダイアモンド材料を、大量生産に適した様相で、経済的に、反復可能な様相で、良好な品質で製造することができる。
【0064】
本発明の一群の実施の形態において、表面処理は、レーザアブレーションにもとづいており、タービンスキャナを備えている放射伝送線での伝送のための放射源として、ほぼ任意のレーザ源を使用することが可能である。したがって、適切なレーザ源として、CW半導体レーザなどのレーザ、ならびにパルスの継続時間がピコ秒、フェムト秒、またはアト秒の範囲にあるパルス状のレーザシステムが挙げられ、後者の3つのパルスの継続時間は、冷間加工法に適したレーザ源を代表している。しかしながら、本発明は、このような放射源の選択に限られるわけではない。
発明の詳細な説明
【0065】
本発明の主題は、1つ以上のコーティングによって物体をコーティングするためのレーザアブレーション方法であって、コーティング対象の物体(すなわち、基材)とレーザビームを用いてアブレーションされる材料(すなわち、ターゲット)との間の距離が0.1mm〜10mmであるような方法で物体をコーティングする方法に関する。本発明の一実施の形態においては、基材とターゲットとの間の距離が、1mm〜8mmであり、より好ましくは3mm〜6mmである。必要とされる距離は、コーティング対象の基材ならびに表面について所望される品質および/または技術的特性に依存して決まる。
【0066】
本発明のさらに別の実施の形態においては、ターゲットと基材との間の距離が、2μm〜1mmと短い。このような距離を使用して、優れた表面の品質が、本発明によれば、例えば針およびナイフの先端などといった尖った物体において、良好な製造速度で達成される。表面の硬さも優秀である。本発明の一実施の形態は、ダイアモンドでコーティングされた針、ナイフ、および刃であり、とくにはこれらすべての先端である。ダイアモンドを、他の硬いコーティング材料で置き換えることも可能である。
【0067】
本方法の好ましい一実施の形態においては、コーティング対象の表面が、ただ1つのターゲットからアブレーションされた材料で構成される。
【0068】
本方法の他の好ましい実施の形態においては、コーティング対象の表面が、いくつかのターゲットから同時にアブレーションされた材料で構成される。
【0069】
さらに、本発明の別の好ましい実施の形態においては、コーティング対象の表面が、アブレーションされた材料で形成されたプラズマ材料プルームへと反応性物質を導入することによって形成され、この反応性物質が、プラズマ材料のプルームのアブレーションされた材料と反応し、基材へのコーティングの化合物を形成する。
【0070】
したがって、ターゲットがレーザパルスでアブレーションされたときに、プラズマ材料の分子レベルのプルームが形成される。
【0071】
分かり易くするため、原子レベルが、少なくとも部分的にイオン化状態にある気体(電子を電気力によって原子核に拘束して残している原子部分をさらに含んでもよい)も指すことを指摘しておかなければならない。したがって、例えばひとたびイオン化したネオンを、原子レベルのプラズマと見なすことができる。当然ながら、別個の電子および原子核のみでもっぱら構成される粒子の物体も、プラズマと考えられる。このように、純粋の良好なプラズマは、気体、原子レベルのプラズマ、および/またはプラズマのみを含み、例えば固体のかけらおよび/または粒子を含まない。
【0072】
パルスレーザ蒸着(PLD)用途におけるパルスの使用に関して、PLDにおけるレーザパルスの継続時間が長いほど、プラズマのエネルギーレベルならびにターゲットに衝突するパルスによってターゲットから蒸発する物質の原子の速度が低くなることに、注意すべきである。したがって、パルスが短いほど、蒸発した物質のエネルギーレベルおよび物質のプルームにおける原子の速度が高くなる。他方で、これは、物質の蒸発によって得られたプラズマが、より均質かつ一様であって、かけら、クラスタ、マイクロ粒子、またはマクロ粒子などといった固相および/または液相の析出物ならびに/あるいは凝固物を含まないことも意味する。換言すると、アブレーションされる材料のアブレーションしきい値を超える限りにおいて、パルスが短く、反復速度が高いほど、生成されるプラズマの品質が良好である。
【0073】
材料に衝突するレーザパルスの熱が導かれる深さは、種々のレーザシステムにおいて大きく異なる。この領域は、とりわけ、熱影響ゾーン(HAZ)と呼ばれる。HAZの深さは、基本的に、レーザパルスの出力および継続時間によって決定される。例えば、ナノ秒パルスのレーザシステムが、典型的には、数百ミリジュール以上のパルス出力を生み出す一方で、ピコ秒のレーザシステムは、1〜10μJ(マイクロジュール)の範囲のパルス出力を生み出す。この2つが同じ反復速度を有する場合、ナノ秒のレーザシステムによって生成される1000倍も強力なパルスのHAZが、ピコ秒レーザのHAZよりもはるかに大きいことは自明である。さらに、大幅に薄い被アブレーション層は、表面から放出されるかけらのサイズに直接的な影響を有し、これがいわゆる冷間アブレーション法における利点である。ナノサイズの範囲の粒子は、表面に大きな欠陥を引き起こすことがまれであり、主に基材に衝突したときにコーティングにピンホールを引き起こすだけである。本発明の一実施の形態によれば、固相(ならびに、存在するのであれば液相)で存在するかけらは、電界および/または磁界を使用して取り除かれる。これは、より低い電気的な移動性を有するかけらを、プラズマプルームから離れるように案内できるよう、収集用電界を使用し、ターゲットを帯電した状態に保つことによって達成できる。磁気フィルタ処理が、同じ方法で、粒子をプラズマから分離できるよう、プラズマプルームを偏向させることによって機能する。
【0074】
用語「表面」は、本発明によれば、表面または3D材料を指すことができる。本明細書においては、「表面」について、いかなる幾何学的または三次元的な制限も置かれない。したがって、本発明に従って3D材料をコーティングできるだけでなく、3D材料を製造することもできる。
【0075】
本発明による基材のコーティングは、物体の全体について平滑でピンホールのない表面の形成を可能にする。
【0076】
本発明によれば、基材を、例えば、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上述の基材の1つ以上の組み合わせで構成できる。
【0077】
同様に、ターゲットを、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上述のターゲットの1つ以上の組み合わせで構成できる。
【0078】
ここで、半合成の化合物とは、例えば、変更された天然ポリマーまたは変更された天然ポリマーを含んでいる複合材料を指す。
【0079】
換言すると、本発明は、特定の基材またはターゲットに限定されない。
【0080】
本発明によれば、金属を、例えば、別の金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上述の基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0081】
金属化合物を、例えば、金属、別の金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0082】
ガラスを、例えば、金属、金属化合物、別のガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0083】
石を、例えば、金属、金属化合物、ガラス、別の石材料、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0084】
セラミックを、例えば、金属、金属化合物、ガラス、石、別のセラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0085】
合成ポリマーを、例えば、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、別の合成ポリマー、半合成ポリマー、複合材料、天然ポリマー、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0086】
さらに、半合成ポリマーを、本発明によれば、例えば、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、別の半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0087】
さらに、天然ポリマーを、本発明によれば、例えば、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、別の天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0088】
さらに、複合材料を、本発明によれば、例えば、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、別の複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0089】
紙およびボール紙も、上述のすべての化合物でコーティングすることができる。
【0090】
複合材料の1つの定義が、複合材料を以下のように定義しているPolymer Science Dictionary(Alger、M.S.M.、Elsewier Applied Science、1990、p.81)にある。すなわち、「2つ以上の単純(または、モノリシック)な材料の組み合わせで構成される固体材料であって、個々の成分がそれらの別個の独自性を維持している。複合材料は、個々の構成材料とは異なる特性を呈し、『複合』という属性の使用は、主たる技術的目標が構成材料の特性よりも優れた特性を有する材料を生成することにあるため、物理的な特性の改善を指すことが多い。また、複合材料は、複合材料の構成成分にもとづく2つ以上の相で形成される混成構造である。これらの相は、連続的であってよく、あるいは相のうちの1つ以上が、連続的な母材の中に分散させた相であってもよい」。
【0091】
本発明によれば、完全に新規な化合物の他に、2つ以上の材料が分子レベルで複合材料を構成するように使用されている複合材料を製造することも可能である。本発明の一実施の形態においては、例えばポリシロキサンおよびダイアモンドから表面または3D構造が製作され、本発明の別の実施の形態においては、例えばポリシロキサンおよびチッ化炭素(炭チッ化物)から表面または3D構造が製作される。本発明によれば、複合材料の2つ以上の成分の相対量を、自由に選択することができる。
【0092】
またさらに、無機のモノマーまたはオリゴマー材料を、本発明によれば、例えば、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、別の無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0093】
またさらに、有機のモノマーまたはオリゴマー材料を、本発明によれば、例えば、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または別の有機のモノマーまたはオリゴマー材料、あるいは上記基材の1つ以上の組み合わせでコーティングすることができる。
【0094】
本発明によれば、上記すべての基材の組み合わせも、上記基材の1つ以上の組み合わせによってコーティングすることができる。
【0095】
本発明の一実施の形態によれば、アブレーションされた材料を、3D印刷(三次元)のために使用することができる。本出願の優先日の時点において知られている従来技術による3D印刷(例えば、Scroff Development Inc.のJP−System 5、BPM Technology Inc.のBallistic Particle Manufacturing、Solidscape Inc.のthe Model Maker、3D Systems Inc.のMulti Jet ModellingおよびZ CorporationのZ402 System)は、比較的控えめな機械的耐久性を有する材料を利用している。本発明による設備は、高い効率を可能にし、すなわち比較的安価な方法での迅速な層生成速度を可能にするため、例えばグラファイトまたはダイアモンドの形態の炭素を使用するときに、アブレーションされた材料を、例えばインクジェットプリンタの原理に従って、1枚ごとに印刷対象の物体に相当する層へと導くことができる。このようにして、例えば炭素を使用して充分に耐久性のある構造を製造することができる。しかしながら、本発明の実施の形態は、ダイアモンドのみに限定されるわけではなく、他の材料も、アブレーションされる材料の選択にもとづいて使用することができる。このように、本発明の実施の形態による設備を、例えばダイアモンドまたは炭チッ化物などといったほぼ任意の適切な材料から中空または中実の物体を製造するために使用することができる。
【0096】
このように、例えばダビデ(David)の有名な像を、最初にダイアモンドの層で構成される1枚ごとで印刷することができ、その後にアブレーションを使用して、層の間に存在しうるエッジを平滑化することができる。像に、ダイアモンド材料のドーピング/合金化によって、各層ごとに別個であってもよい適切な色の調子を与えることができる。このように、ツール、スペア部品または同様の物体、表示装置の部品、PDAの外郭構造、あるいは携帯電話機などといった他の物体、またはその一部など、ほぼ任意の3D物体を直接的に印刷することが可能である。
【0097】
本発明の好ましい実施の形態によれば、コーティングされた表面が、1mm2当たりのピンホールが1個未満であり、好ましくは1cm2当たりのピンホールが1個未満であり、最も好ましくはコーティングされた領域にまったくピンホールを含まないように形成される。ここで、用語「ピンホール」は、コーティング全体を貫通している穴または基本的にコーティングを貫通している穴を意味する。ピンホールの存在は、コーティングの品質および寿命を大幅に低下させる。本発明の主題は、この方法に従ってこのように製造された製品も包含する。
【0098】
本発明の別の実施の形態によれば、コーティングされた表面が、表面の最初の50%が、形成された表面に1000nmを超える直径の粒子が形成されていないように形成され、好ましくはこれらの粒子のサイズが100nmを超えず、最も好ましくはこれらの粒子のサイズが30nmを超えないように形成される。このような粒子は、コーティングの品質および寿命を大きく損なう。このような粒子は、コーティングに腐食のための通り道を形成する。本発明の主題は、この方法に従ってこのように製造された製品も包含する。
【0099】
本発明のまた別の好ましい実施の形態によれば、コーティング対象の物体、すなわち基材が、パルス状の冷間加工レーザを使用してターゲットをアブレーションすることによって、コーティング対象の物体上に形成される表面の最大粗さが原子間力顕微鏡(AFM)を使用して1平方マイクロメートルの面積について測定したときに±100nmであるようにコーティングされている。より好ましくは、表面の最大粗さが25nm未満であり、最も好ましくは10nm未満である。本発明の主題は、この方法に従ってこのように製造された製品も包含する。
【0100】
本発明によるコーティング方法においては、レーザアブレーションが、パルスレーザを使用して実行される。本発明のとくに好ましい一実施の形態においては、アブレーションのために使用されるレーザ装置が、ピコ秒レーザなどの冷間加工レーザである。本発明の別の好ましい実施の形態においては、レーザ設備が、フェムト秒レーザであり、さらに別の好ましい実施の形態においては、アト秒レーザである。
【0101】
本発明による方法においては、冷間加工レーザの出力が、好ましくは少なくとも10Wであり、より好ましくは少なくとも20Wであり、最も好ましくは少なくとも50Wである。ここで、レーザ設備の出力について、上限は設定されない。
【0102】
本発明による方法においては、用途にとって充分な耐久性を有し、適切な光学的特性を有している高品質の(所望の色であり、あるいは透明である)表面を、粗い真空あるいは通常の気圧の気体雰囲気においてレーザアブレーションを使用して基材をコーティングすることによって達成することができる。
【0103】
コーティングを、基材の温度を約60℃にし、あるいは基材の温度を大きく高める(>100℃)などによって、室温または室温付近で実行することができる。
【0104】
これは、建設産業による使用のために石、金属、複合材料、および種々のポリマーシートなどの大きな物体(広い基材表面)をコーティングする場合に、とくに有利である。従来技術の現在のコーティング法においては、このような物体を充分に高い真空へと持ち込むことは、きわめて高価につくうえ、きわめて時間もかかり、したがってコーティングプロセスの処理時間を劇的に増加させる。例えば多孔性材料(石など)をコーティングする場合など、多数の用途において、高真空を達成することは不可能である。さらに加熱が必要とされる場合には、多くの種類の石がそれらの結晶水を脱離させ、これは当然ながら、この石材料の構造を変化させ、目的の用途のための有用性を損ない、あるいは破壊してしまう。
【0105】
したがって、コーティングを通常の気圧または通常の気圧に近い低真空で実行できる場合、品質および作業の経済性の両者に効果がある。特定の用途においては、これまでは製造が不可能であった製品の製造が可能になる。
【0106】
例えば、多くの石製品を、本発明によれば、耐久性のある表面を製造するために酸化アルミニウムでコーティングすることができる。このような表面は、気体だけでなく、水分も防止し、したがって例えば石を破壊する菌類または氷が石材料の内部または表面に形成されることを防止する。本発明によれば、石材料を、酸化アルミニウムで直接的にコーティングすることができ、あるいは例えば、最初に金属アルミニウムでコーティングを行い、形成されたアルミニウム表面を、その後にRTA+光、熱酸化(500℃)、または沸騰水での熱酸化などといった多数の方法によって酸化させることができる。ジルコニウムなどの特定の元素がアルミニウムに添加される場合には、酸化する金属表面が、純粋なアルミニウムよりもさらに効果的に広がり、石のすべての空洞へと広がる密な酸化物表面を形成する。さらに、表面が透明になる。本発明によれば、石材料を、酸化による表面の最終的な形成に先立って表面へと顔料または着色剤を追加することによって、特定の色へと着色することも可能である。石製品に色を与えるこのような表面を、本発明に従ってレーザアブレーションを使用して製造することができる。本発明によれば、酸化アルミニウム表面を、ダイアモンド表面、チッ化炭素表面、別の石表面、または他の何らかの酸化物表面など、任意の他の硬い表面で置き換えることができる。本発明の一実施の形態においては、自己清浄化表面が、石製品の最上のコーティングとして蒸着される。
【0107】
酸化アルミニウム表面は、モノリシックな結晶構造を有する場合、一般にサファイア表面と呼ばれる。
【0108】
このような自己清浄化表面を、例えば酸化チタニウムまたは酸化亜鉛で製作できる。本発明によれば、基材を、好ましい酸化物で直接的にコーティングすることができ、あるいは好ましい金属を酸素含有の周辺に蒸発させることによってコーティングすることができる。本発明による表面の厚さは、好ましくは10nm〜150nmであり、より好ましくは15nm〜100nmであり、最も好ましくは20nm〜50nmである。
【0109】
基材にUV保護コーティングが必要とされる場合、先の光触媒表面を、アルミニウムの層でさらにコーティングすることができる。
【0110】
本発明の別の実施の形態においては、レーザアブレーションが、10−1〜10−12気圧の真空中で実行される。
【0111】
コーティングが真空中で実行される場合、本発明によるコーティングまたは3D物体の製造が、好ましくは10−3〜10−9気圧の圧力のもとで実行され、最も好ましくは10−4〜10−8気圧の圧力のもとで実行される。
【0112】
高真空が使用される場合、それは本発明の実施の形態によれば、とくには単結晶ダイアモンド、酸化アルミニウム、またはシリコンなどといった単結晶材料の表面を形成する場合にとくに有益であろう。本発明に従って製造される単結晶ダイアモンドまたはシリコン材料は、とりわけ、例えば半導体として有用であり、ダイアモンドの場合には宝石としても有用であり、レーザ設備の部品(励起ダイオードの光バー、レンズの技術的解決策、ファイバ)として有用であり、きわめて長持ちする表面が必要とされる用途においてそのような表面として有用である。
【0113】
本発明によれば、半導体ダイアモンドを、例えばイリジウム基板上に成長させることができ(図4)、半導体シリコンを、例えばプラスチックまたは紙の上に直接的に成長させることができる。シリコン層が充分に薄く、例えば5〜15μmである場合、このような半導体を曲げることができ、さらには例えば曲げることができる電子機器の製造に使用することができる。ダイアモンド主体およびシリコン主体の半導体材料の両者を、好ましくはピコ秒レーザを使用し、さらに好ましくはタービンスキャナを備えたピコ秒レーザを使用して、所望の形状へと切断することができる。本発明に従って製造されるダイアモンドおよびシリコン半導体材料を、例えば所望の導電性を達成するために、適切な元素でドーピングでき、組み合わせることができる。
【0114】
本発明による別の実施の形態においては、基材の上に1つ以上のダイアモンド表面が形成される。このようなダイアモンド表面においては、sp3結合の数が好ましくはきわめて多く、従来技術のダイアモンド状カーボン(DLC)表面の場合と異なり、本発明によるすべての表面厚さにおいて、製造された表面がきわめて硬く、傷つきにくい。ダイアモンド表面は、好ましくは透明である。さらに、例えば1マイクロメートルの厚さで黒色であり、200℃までの温度にしか耐えることができない従来技術の低品質のDLCと対照的に、高温にも耐える。本発明に従って製造されるダイアモンド表面は、好ましくは水素を含まない炭素源を使用して製造される。有利には、炭素源が焼結カーボンであり、最も好ましくは熱分解カーボン、ガラス状炭素である。
【0115】
本発明によれば、熱分解カーボンが、例えばMEMS用途のために単結晶ダイアモンド材料を製造する場合に、とくに好ましいターゲットである。
【0116】
より控えめな品質のDLC表面を製造すべき場合も、それを、本発明に従って迅速かつ低コストで行うことができる。
【0117】
着色されたダイアモンド表面が必要とされる場合、カーボンに加えて、所望の色を生み出す元素または化合物を蒸発させることによって、形成されるダイアモンド表面に色を着けることができる。
【0118】
本発明に従って製造されるダイアモンド表面は、下方の表面の機械的な摩耗および裂けを防止するだけでなく、化学的な攻撃も防止する。ダイアモンド表面は、例えば金属を酸化から守り、それらの装飾または他の機能が損なわれないようにする。さらに、ダイアモンド表面は、下方の表面を酸およびアルカリから保護する。
【0119】
本発明による方法の一好ましい実施の形態においては、ターゲットが、材料が基本的に常にこれまでにアブレーションされていないターゲットの場所において蒸発させられるように、レーザビームによってアブレーションされる。
【0120】
これは、常に新鮮な表面がアブレーションされるようにターゲットを動かすことによって達成できる。従来技術の現在の方法においては、ターゲットブランク材が、通常は太い棒または厚いシートの形態である。これらは、焦点合わせのズームレンズの使用を必要とし、あるいはターゲットブランク材を、それが消費されるにつれてレーザビームに対して動かさなければならない。これを実現する単なる試みは、通常は充分な確実性で可能であるとしても、きわめて困難かつ高価であり、さらには品質の変動が大きく、すなわち精度の制御がほぼ不可能であり、厚いターゲットブランク材の製造が高価である。
【0121】
これは、とりわけ従来技術のスキャナに起因してレーザビームの制御の技術に限界が存在するため、とくにはレーザ設備のパルス周波数が高められる場合に、中断なしでは実行できない。パルスの速度を4MHz以上へとさらに高めようと試みる場合、従来技術によるスキャナでは、レーザビームパルスの大部分が、制御不能にレーザ装置の壁構造へと向けられるだけでなく、プラズマの形態のアブレーションされた材料へも向けられる。これは、アブレーションされた材料で形成される表面の品質を低下させ、かつそのような表面の製造速度を遅くするという正味の効果を有し、さらにはターゲットに衝突する放射フラックスが過剰に変化し、これが形成されるプラズマの構造に露見し、結果としてコーティング表面が一様でなくなる可能性がある。レーザビームのすべてまたは一部分が、すでにアブレーションされた表面に衝突する場合、それらのパルスに関し、ターゲットと基材との間の距離が変化する。ターゲットに衝突するパルスがターゲットの先にアブレーションされた場所へと衝突する場合、パルスごとに放出される材料の量が異なり、数ミクロンのサイズの粒子がターゲットからアブレーションされる。このような粒子は、基材に衝突した場合に、形成される表面の品質を大きく悪化させ、したがって製品の特性を悪化させる。
【0122】
本発明の一実施の形態においては、米国特許第6,372,103号明細書に記載されているように、ターゲット材料が、回転運動する従来技術のターゲット材料である。本発明による他の実施の形態においては、ターゲット材料が、やはり市販されているタイル状のターゲット・シートである。
【0123】
本発明の好ましい一実施の形態においては、ターゲット材料が、フィルム/テープとして供給される。
【0124】
そのような好ましい一実施の形態においては、フィルム/箔が、例えば図7に示されているようにロールの形態である。フィルムが、最初に1つのレーザビームの広がりの幅にて最初から最後まで蒸発させられたとき、テープ/箔は、完全に新しい経路を形成できるように、片側へと充分な量だけ動かされる。これを、テープ/箔の全幅が使い尽くされるまで続けることができる。このシステムの重要な利点は、当然ながら、ソース材料が一定のままであるため、蒸発結果が最上の品質で一定のままである点にある。
【0125】
本発明の別の実施の形態は、図7の箔/テープ(46)が、レーザビームの焦点深度と比べて、a)薄く、b)同じ厚さであり、あるいはc)厚いという事実にもとづいている。事例c)に関しては、材料のうちのレーザビームの焦点深度を超える部分が、別途のロール(48)に集められる。テープ/箔の厚さは、例えば5μm〜5mmであってよく、好ましくは20μm〜1mmであり、最も好ましくは50μm〜200μmである。
【0126】
本発明のとくに好ましい一実施の形態においては、ターゲットと基材との間の距離が、全アブレーションプロセスを通じて基本的に一定に保たれる。
【0127】
本発明のまた別の実施の形態によるコーティング方法においては、レーザビームについて調節機構が必要とされず、すなわち本発明の実施の形態による箔/フィルムの蒸発システムが、焦点の調節の工程そのものを必要としない。フィルムの供給の手つかずの表面がターゲットとして機能するので、箔/フィルムが常に焦点へと調節されたままであるため、機構そのものが不要である。フィルムのうち、レーザビーム(図17)の焦点深度に対応する材料部分のみが利用される。したがって、滑らかなコーティング結果が達成され、コーティングプロセスの際に、合焦ユニットは不要である。
【0128】
また、ターゲット材料は高価であり、かつ好ましくはターゲット材料の手つかずの表面のみが使用されるがゆえ、可能な限り薄いターゲットを使用することが工業的に好ましい。テープの形態のターゲット材料は、当然ながら、より複雑でなく、より経済的な製造方法ゆえ、現在のターゲット材料よりも大幅に安価であり、さらにはより容易に入手可能である。
【0129】
本発明の別の好ましい実施の形態においては、シートの供給が適用される。ここでは、それぞれの物体をコーティングするために、シートの形態の新しいターゲットが供給される。この供給方法は、例えば平滑な表面を有する薄くて小さいシートとして今日において日常的に製造されている酸化アルミニウムのセラミックシートによく適している。大きなターゲットの製造は、通常は困難かつ高価である。
【0130】
走査幅が、従来技術の技術的解決策における問題の1つである。それらは、ミラーフィルムスキャナを用いる直線走査を利用しており、これは、理論的には約70mmという公称の走査線幅を可能にすると考えられるが、実際には、走査幅が不都合にも30mm程度に限られる可能性があり、これは、走査領域の縁が非一様な品質となる可能性があり、さらには/あるいは中央の領域と相違する可能性がある。このような小さな走査幅も、現時点で利用可能なレーザ設備を大きくて広い物体のコーティング用途に使用することが、経済的または技術的に実現不可能であることを意味している。
【0131】
本発明の好ましい一実施の形態においては、レーザビームが、タービンスキャナを介してターゲットへと向けられる。
【0132】
タービンスキャナは、ターゲット材料を充分に高いパルス出力を使用して蒸発させて、良好かつ一様な品質のプラズマを可能にし、したがって良好な品質の表面および3D構造を生成できるような方法で、先の平面ミラースキャナに関する出力伝達の問題を解決する。また、タービンスキャナは、よりも大きな走査幅を促進し、結果として、ただ1組のレーザ設備でより広い表面積をコーティングできるようにする。これは、加工速度が良好であり、形成される表面の品質が一様であることを意味する。本発明による方法の一好ましい実施の形態においては、ターゲットの走査の幅を、10mm〜700mmとすることができ、好ましくは100mm〜400mmとすることができ、最も好ましくは150mm〜300mmとすることができる。当然ながら、小型サイズの用途においては、より小さくなければならない。
【0133】
本発明は、1つのレーザ源のみに限定されない。本発明の一実施の形態によれば、基材が、1つ以上のターゲットから蒸発させられたプラズマ材料プルーム中に不動に保たれる。本発明のより好ましい一実施の形態によれば、レーザアブレーションによって1つ以上のターゲットから蒸発させられたプラズマ材料プルーム中で、基材が動かされる。コーティングが真空中または反応ガスの雰囲気中で実行される場合には、コーティングが、好ましくは、別個の真空チャンバ内で実行される。
【0134】
本発明によれば、コーティング対象の物体上に形成される表面の最大粗さが±100nmであるような方法で、物体をコーティングすることができる。本発明の好ましい一実施の形態においては、コーティング対象の物体上に形成される表面の最大粗さが±25nmであり、本発明のさらにより好ましい実施の形態においては、コーティング対象の物体上に形成される表面の最大粗さが±2nmである。
【0135】
形成される表面の平滑さを、実際の要件および必要とされる機能に従って調節することができる。
【0136】
本発明による方法においては、形成される表面の厚さは制限されない。本発明によれば、物体を、1nmから、きわめて厚い表面あるいは3D構造にまでコーティングすることができる。
【0137】
コーティング対象の物体(すなわち、基材)とアブレーションされる材料(すなわち、ターゲット)との間の距離は、従来技術によれば、30mm〜70mmであり、好ましくは30mm〜50mmである。
【0138】
このように、本発明による方法によれば、種々の機能を有する表面および/または3D構造を生み出すことができる。そのような表面として、例えば、種々のガラスおよびプラスチック製品(レンズ、眼鏡、サングラス、画面カバー、建物および車両の窓、実験室用、美術用、および家庭用のガラス製品)におけるきわめて硬くて傷つきにくい表面および3D材料(傷つくことのない表面)が挙げられ、その場合に、とくに好ましい光学コーティング材料として、MgF2、SiO2、TiO2、Al2O3が挙げられ、とくに好ましい硬質コーティング材料として、種々の金属酸化物、炭化物、およびチッ化物、ならびに、言うまでもないがダイアモンドコーティングが挙げられる。また、以下におけるきわめて硬くて傷つきにくい表面および3D構造も挙げられる。すなわち、電気通信装置のケース構造体、屋根を被覆するための金属シート、室内装飾または建物のボード、当て木、および窓枠などといった種々の金属製品およびそれらの表面;皿洗いシンク、蛇口、オーブン、金属コイン、宝石、工具、およびこれらの部品;自動車および他の車両のエンジンならびにそれらの部品、自動車および他の車両における金属被覆および金属塗装面;船舶、ボート、および航空機において使用される金属表面を有する物体、航空機用タービン、および内燃機関;ベアリング;フォーク、ナイフ、およびスプーン;はさみ、ナイフ、回転刃、のこぎり、および金属表面を有するあらゆる種類のカッター、ねじおよびナット;金属表面を有する反応炉、ポンプ、蒸留カラム、タンク、およびフレーム構造など、化学工業プロセスにおいて使用される金属製のプロセス設備;油、気体、および化学品の配管ならびに種々のバルブおよび制御ユニット;石油掘削設備の部品およびドリルのビット;水配管;兵器およびそれらの部品、弾丸、およびカートリッジ;摩耗および裂けにさらされる抄紙機の部品、例えばコーティングペースト塗布設備の部品など、摩耗および裂けにさらされる金属ノズル;雪かき器、シャベル/鋤、および子供向け遊具の金属構造物;ガードレール構造、交通標識およびポスト;金属の缶および容器;外科用具、人工関節、インプラント、および器具;カメラおよびビデオカメラならびに酸化あるいは他の摩耗および裂けにさらされる電子装置の金属部品、宇宙船ならびに摩擦および高温に耐える宇宙船の被覆の技術的解決策、である。
【0139】
さらに、本発明に従って製造されるさらに他の製品として、腐食性の化合物に耐える表面および3D材料、半導体材料、LED材料、視認の角度に応じて色を変化させる顔料およびそれらで製作されて表面、ビームエクスパンダおよびダイオード励起の光バーなど、すでに述べたレーザ設備および励起ダイオードの部品、宝石用の原石材料、医療品の表面および三次元形態の医療品、自己清浄化表面、上述した汚染および/または水分に耐え、(必要であれば)自己清浄性である石およびセラミック材料(コーティングされた石製品、および表面に石表面が形成されている製品)、例えば本発明の実施の形態に従って緑に着色された大理石など、着色された石製品、ならびに自己清浄化砥石など、建設産業用の種々の製品を、挙げることができる。
【0140】
さらに、本発明に従って製造される製品として、例えば種々のレンズおよび画面シールドの技術的解決策における反射防止(AR)表面、UV保護をもたらすコーティング、ならびに水、溶液、または空気の浄化に使用されるUV活性表面を挙げることができる。上述のように、形成される表面の厚さを調節することができる。したがって、本発明に従って形成されるダイアモンドまたはチッ化炭素表面の厚さは、例えば1nm〜3,000nmであってよい。さらに、きわめて一様なダイアモンド表面を製造することができる。すなわち、形成されたダイアモンド表面の最大粗さが、±25nm程度であることができ、好ましくは±10nmであり、低摩擦が求められる特定のきわめて厳しい用途においては、±2nmのレベルまで調節することができる。したがって、本発明によるダイアモンド表面は、下方の表面の機械的な摩耗および裂けを防止するだけでなく、化学的な攻撃も防止する。ダイアモンド表面は、例えば金属の酸化を防止し、それらの装飾または他の機能が損なわれないようにする。さらに、ダイアモンド表面は、下方の表面を酸およびアルカリから保護する。本発明によるダイアモンド表面は、下方の表面の機械的な摩耗および裂けを防止するだけでなく、化学的な攻撃も防止する。ダイアモンド表面は、例えば金属の酸化を防止し、それらの装飾または他の機能が損なわれないようにする。さらに、ダイアモンド表面は、下方の表面を酸およびアルカリから保護する。特定の用途においては、装飾用の金属表面が望まれる。本発明に従ってターゲットとして利用される特定のとくに装飾的な金属または金属化合物は、例えば、金、銀、クロム、白金、タンタル、チタニウム、銅、亜鉛、アルミニウム、鉄、鋼、黒亜鉛、黒ルテニウム、ルテニウム、コバルト、バナジウム、チッ化チタニウム、チッ化チタニウムアルミニウム、チタン炭チッ化物、チッ化ジルコニウム、チッ化クロム、チタニウム炭化ケイ素、および炭化クロムである。これらの材料を、当然ながら、例えば耐摩耗性の表面あるいは酸化または他の化学反応からの保護の表面など、他の特性を達成するためにも使用することができる。
【0141】
この文脈において言及しておくべき金属化合物として、金属酸化物、チッ化物、ハロゲン化物、および炭化物が挙げられるが、金属化合物の羅列がこれらに限定されるわけではない。
【0142】
本発明に従って製造される種々の酸化物表面として、例えば、酸化アルミニウム、酸化チタニウム、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化すず、酸化タンタル、などが挙げられ、さらにはこれらを互いに組み合わせ、あるいは例えば金属、ダイアモンド、炭化物、またはチッ化物と組み合わせた複合材料としての組み合わせが挙げられる。これらの材料を、本発明に従い、反応ガスの雰囲気を使用することによって金属から製造することも可能である。
【実施例】
【0143】
以下の項で、本発明による方法および製品を説明するが、本発明が以下に提示される実施例に限定されるわけではない。Corelase Oy製の10Wピコ秒レーザ X‐laseおよびCorelase製の20W‐80Wピコ秒レーザ X‐laseの両者を使用(USPLD)して、表面を製造した。パルスエネルギーは、光学系によって所望の領域へと焦点を合わせ、1平方cmの面積に向けられたパルスエネルギーを指す。使用した波長は、1064nmである。コーティング対象の表面の温度を、室温から200℃までの範囲とした。ターゲット材料の温度は、室温〜700℃の範囲で種々の製品に合わせて調節した。酸化物、金属、および種々のカーボン主体の材料を、コーティングのためのターゲット材料として使用した。コーティングが酸素の相にて実行される場合には、酸素の圧力を10−4〜10−1mbarの範囲とした。低出力のレーザにおいては、従来からの平面ミラースキャナ、またはガルバノスキャナを使用した。その後に、自身の軸を中心にして回転するスキャナ、またはタービンスキャナを使用してコーティングを実行した。タービンスキャナが、走査速度の調節を可能にし、ターゲット材料へと向けられるビームの走査速度を、1m/s〜350m/sの範囲で調節することができた。ガルバノスキャナを成功裏に使用するためには、典型的には1MHz未満の低いパルス周波数が必要であった。他方で、タービンスキャナによれば、1MHz〜30MHzなどといった高い反復速度を使用しても、良好な品質のコーティングを製造できた。製造されたコーティングを、AFM、ESEM、FTIR、およびRaman、ならびに共焦点顕微鏡によって調べた。さらに、光学的特性(透過)ならびに抵抗率などといった特定の電気的特徴を検査した。使用するスポットサイズスポットサイズを、20〜80μmの範囲で変化させた。
【0144】
調べたすべての表面にピンホールは存在しなかった。表面の粗さ、すなわち平滑さを、AFM設備を使用して1μm2の面積について測定した。
【0145】
実施例1
この実施例は、(焼結カーボンからの)ダイアモンドコーティングによる大理石のコーティングに関する。レーザ設備の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを5μJとし、パルスの継続時間を20psとし、ターゲットと基材との間の距離を4mmとし、真空レベルを10−6気圧とした。生成したダイアモンド表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して調べた。ダイアモンド表面の厚さは、約500nmであり、最大粗さは、±10nmであった。表面において、マイクロ粒子は観察できなかった。
【0146】
実施例2
この実施例は、(焼結カーボンからの)ダイアモンドコーティングによるアルミニウム箔のコーティングに関する。レーザ設備の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを5μJとし、パルスの継続時間を20psとし、ターゲットと基材との間の距離を4mmとし、真空レベルを10−5気圧とした。このプロセスにおいて、アルミニウム箔は、空色に着色された。生成されたダイアモンド表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して調べた。ダイアモンド表面の厚さは、約200nmであり、最大粗さは、±8nmであった。表面において、マイクロ粒子は観察できなかった。
【0147】
実施例3
この実施例は、シリコンウエハ、二酸化シリコン片、ポリカーボネートシート、およびマイラーフィルムの(熱分解カーボンからの)ダイアモンドコーティングによるコーティングに関する。レーザ設備の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを5μJとし、パルスの継続時間を20psとし、ターゲットと基材との間の距離を8mmとし、真空レベルを10−5気圧とした。生成されたダイアモンド表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。ダイアモンド表面の厚さは、約150nmであり、最大粗さは、±20nmであった。表面において、マイクロ粒子もナノ粒子も観察されなかった。
【0148】
実施例4
この実施例は、二酸化シリコン片のダイアモンドコーティングによるコーティングに関する。レーザ装置の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を2MHzとし、パルスエネルギーを10μJとし、パルスの継続時間を15psとし、ターゲットと基材との間の距離を2mmとし、真空レベルを10−3気圧とした。生成されたダイアモンド表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。ダイアモンド表面の厚さは、約50nmであり、最大粗さは、±4nmであった。形成された表面において、マイクロ粒子は観察できなかった。表面は、優秀な粗さ特性を有しており、ナノ粒子の最大サイズは20nmであった。
【0149】
実施例5
この実施例は、銅シート片の酸化銅でのコーティングに関する。レーザ設備の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを5μJとし、パルスの継続時間を17psとし、ターゲットと基材との間の距離を10mmとし、真空レベルを10−1気圧とした。一様な品質の酸化銅表面が生成された。生成された表面の厚さは、おおむね5μmであった。
【0150】
実施例6
実施例6は、レーザアブレーションを用いて製造されたダイアモンドコーティングを備えている装飾的な雪かき器に関する(図6)。ダイアモンドコーティングのおかげで、この雪かき器は、きわめて耐久性に富み、傷がつきにくい。さらに、ダイアモンド表面の疎水性、およびとくにはダイアモンド表面の最小限の(ナノ範囲の)粗さが、摩擦を小さくし、雪かきに必要とされるエネルギーを少なくし、雪かきをより容易にする。
【0151】
雪かき器の基本材料は、例えばプラスチックまたは金属であってよい。この実施例による雪かき器においては、アルミニウムの基本材料の上に、クロムの厚さ1マイクロメートルの層が電解を使用して形成されている。代案として、これを本発明によるレーザアブレーションを使用して行うことができる。プラスチック表面について、金属コーティングは、レーザアブレーション(冷間アブレーション)を用いて最も容易に形成される。使用される金属、金属合金、または金属化合物、ならびに表面の厚さを、自由に選択することができ、ユニークな雪かき器を製造することができる。とくにはレーザアブレーションによって金属表面を形成することで、望ましい基本色を有するきわめて薄い金属表面を、経済的に製造することができる。すべての表面を覆うダイアモンドコーティングが、今や金属表面の酸化または機械的な摩耗を防止する。ユニークな特徴を、ホログラフィック表面によって高めることができ、顧客の指定する像または文字列を、表面上に製造することができる。機械的な彫り込みに加え、ホログラフィック表面を、その場合に、彫り込みを必要とされる表面を貫いて正確、迅速、かつ経済的に可能にするレーザ彫り込みを使用して、きわめて効率的に製造することも可能である。ホログラフィック表面の良好な品質が、その下方に位置するレーザアブレーションによって製造された金属表面の平滑さによって改善される。図に示されている表面は、実際には物理的に互いに貼り付いているが、図では、説明の目的のために、分離させて示されている。
【0152】
実施例7
この実施例は、酸化アルミニウムコーティングによる大理石のコーティングに関する。表面を、酸化アルミニウムを直接的にアブレーションすることによって形成した。レーザ設備の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを4μJとし、パルスの継続時間を10psとし、ターゲットと基材との間の距離を3mmとし、真空レベルを10−6気圧とした。生成された酸化アルミニウム表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。酸化アルミニウム表面の厚さは、おおむね500nmであり、最大粗さは、±5nmであった。表面において、マイクロ粒子もナノ粒子も観察することはできなかった。
【0153】
実施例8
この実施例は、酸化アルミニウムコーティングによる大理石のコーティングに関する。表面を、酸化アルミニウムを直接的にアブレーションすることによって形成した。レーザ設備の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを4μJとし、パルスの継続時間を10psとし、ターゲットと基材との間の距離を3mmとし、真空レベルを0気圧とした。生成された酸化アルミニウム表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。酸化アルミニウム表面の厚さは、おおむね5nmであり、最大粗さは、±10nmであった。表面にナノ粒子を見ることができた。
【0154】
実施例9
この実施例は、ベースラッカーを有しているプラスチック製眼鏡フレームの酸化アルミニウムコーティングによるコーティングに関する。表面を、酸化アルミニウムを直接的にアブレーションすることによって形成した。レーザ設備の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを4μJとし、パルスの継続時間を20psとし、ターゲットと基材との間の距離を3mmとし、真空レベルを10−6気圧とした。生成された酸化アルミニウム表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。酸化アルミニウム表面の厚さは、おおむね300nmであり、最大粗さは、±2nmであった。表面にマイクロ粒子もナノ粒子も見られなかった。
【0155】
実施例10
この実施例は、花こう岩片の酸化アルミニウムコーティングによるコーティングに関する。表面を、酸化アルミニウムを直接的にアブレーションすることによって形成した。レーザ設備の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを4μJとし、パルスの継続時間を10psとし、ターゲットと基材との間の距離を9mmとし、真空レベルを10−3気圧とした。生成された酸化アルミニウム表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。サファイア表面の厚さは、おおむね1nmであり、最大粗さは、±9nmであった。表面において、有意なマイクロまたはナノ粒子は観察されなかった。
【0156】
実施例11
この実施例は、携帯電話機のプラスチック製ケース殻を最初にアルミニウムでコーティングし、その後に酸化アルミニウムコーティングでコーティングすることに関する。酸化アルミニウム表面を、酸化アルミニウムを直接的にアブレーションすることによって形成した。レーザ設備の性能パラメータは、以下のとおりとした。反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを4μJとし、パルスの継続時間を10psとし、ターゲットと基材との間の距離を3mmとし、真空レベルを10−6気圧とした。
【0157】
生成された酸化アルミニウム表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。表面の厚さは、おおむね300nmであり、最大粗さは、±5nmであった。表面において、マイクロ粒子もナノマイクロ粒子も観察できなかった。アルミニウム層の表面は、測定されなかった。
【0158】
実施例12
この実施例は、鋼片の酸化チタニウムコーティングによるコーティングに関する。表面を、チタニウムを酸素含有のヘリウム雰囲気においてアブレーションすることによって形成した。レーザ装置の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を20MHzとし、パルスエネルギーを4μJとし、パルスの継続時間を10psとし、ターゲットと基材との間の距離を1mmとし、真空レベルを10−2気圧とした。生成された酸化チタニウム表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。酸化チタニウム表面の厚さは、おおむね50nmであり、最大粗さは、±3nmであった。
【0159】
実施例13
この実施例は、ステンレス鋼製の骨用ねじのダイアモンドコーティング(焼結カーボン)によるコーティングに関する。レーザ装置の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を20MHzとし、パルスエネルギーを4μJとし、パルスの継続時間を10psとし、ターゲットと基材との間の距離を1mmとし、真空レベルを10−5気圧とした。生成されたダイアモンド表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。ダイアモンド表面の厚さは、おおむね100nmであり、最大粗さは、±3nmであった。
【0160】
実施例14
この実施例は、ステンレス鋼製の骨用ねじのダイアモンドコーティングによるコーティングに関する。表面を、酸化チタニウムを直接にアブレーションすることによって形成した。レーザ装置の性能パラメータは、以下のとおりとした。すなわち、反復速度を4MHzとし、パルスエネルギーを2.5μJとし、パルスの継続時間を20psとし、ターゲットと基材との間の距離を8mmとし、真空レベルを10−7気圧とした。生成されたダイアモンド表面を、AFM(原子間力顕微鏡)設備を使用して検査した。ダイアモンド表面の厚さは、おおむね100nmであり、最大粗さは、±5nmであった。
【0161】
本発明とともに提示された事実から、材料がそれからアブレーションされる(すなわち、ターゲットとして機能する)のか、あるいは材料がそこへともたらされる(すなわち、基材として機能する)のかに応じて、表面処理プロセスの或る段階においてターゲットと呼ばれる物体が、表面処理プロセスの別の段階において基材となることができ、あるいはこの反対も然りであることは、当業者にとって明らかである。すなわち、少なくとも理論的には、同じ物体が、機械加工/コーティングプロセスの段階に応じて、ターゲットおよび基材の両者として機能することができる。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】本発明による方法の用途について、考えられる種々の分野を示している。
【図2】本発明の実施の形態によるアブレーションコーティング装置一式を示している。
【図3】本発明の実施の形態による装置を使用して生成された基材上の多層構造を示している。
【図4】蒸発させられるカーボン素材(ブランク材127)が熱分解カーボンで構成され、ターゲットと基材との間の距離が4mmである構成において、レーザアブレーションによって単結晶ダイアモンドバーが製造される本発明の一実施の形態を示している。
【図5】この場合には雪かき器であるが、本発明に従ってコーティングされる大型の三次元形状の物体を示している。
【図6】本発明に従ってコーティングされる電気通信装置のカバー構造を示している。
【図7】ターゲットがテープとして供給される本発明の一実施の形態によるアブレーションコーティング装置一式を示している。
【図8】本発明の特定の実施の形態においてレーザビームを走査するために使用されるタービンスキャナを示している。
【図9】熱間加工(マイクロ秒およびナノ秒パルスレーザ、長いパルス)と冷間加工(ピコ秒およびフェムト秒レーザ、短いパルス)との間の相違を、アブレーション対象の材料へと伝達される熱およびターゲット材料に生じる損傷に関して示している。
【図10】石製品をコーティングするための本発明による特定の実施の形態を示している。
【図11】本発明に従ってコーティングされた特定の医療器具を示している。
【図12】本発明に従ってコーティングされた特定の医療品を示している。
【図13】本発明に従ってコーティングされる航空機の特定の部品を示している。
【図14】本発明に従って酸化アルミニウムでコーティングされた特定の光学製品を示している。
【図15】処理済みの表面を有している本発明の実施の形態による製品の特定の例を示している。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の表面によって物体を加工および/またはコーティングするためのレーザアブレーション方法であって、
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、コーティング対象の物体である基材とレーザビームによってアブレーションされる材料であるターゲットとの間の距離が、0.1mm〜10mmであることを特徴とする方法。
【請求項2】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、基材とターゲットとの間の距離が、1mm〜8mmであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、基材とターゲットとの間の距離が、3mm〜6mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、前記基材が、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、紙、ボール紙、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、前記ターゲットが、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、レーザアブレーションが、パルスレーザを使用することによって実行されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、アブレーションに使用されるレーザ設備が、ピコ秒レーザなどの冷間加工レーザであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
コーティングされた表面が、表面が1mm2当たりに含むピンホールが1個未満であり、好ましくは1cm2当たりに含むピンホールが1個未満であり、最も好ましくはコーティングされた領域にまったくピンホールを含まないように形成されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
コーティングされた表面が、表面の最初の50%が、形成された表面に1000nmを超える直径の粒子が形成されておらず、好ましくはそのような粒子のサイズが100nmを超えず、最も好ましくはそのような粒子のサイズが30nmを超えないように形成されるように、形成されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
コーティング対象の物体、すなわち基材が、コーティング対象の物体へと形成される表面の最大粗さが原子間力顕微鏡(AFM)を使用して1平方マイクロメートルの面積について測定したときに±100nmとなるような方法で、ターゲットをパルス状の冷間加工レーザを使用してアブレーションすることによってコーティングされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、レーザアブレーションが、通常の大気圧のもとで実行されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、レーザアブレーションが、10−1〜10−12気圧の真空中で実行されることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、材料が基本的に常にそれまでは有意にはアブレーションされていないターゲットの領域から蒸発させられるような方法で、ターゲットがレーザビームを使用することによってアブレーションされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、ターゲットが、シートとして供給されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、ターゲットが、フィルム/テープとして供給されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、ターゲットの厚さが、5μm〜5mm、好ましくは20μm〜1mm、最も好ましくは50μm〜200μmであることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、レーザビームが、タービンスキャナを介してターゲットへと向けられることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項18】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、ターゲットへと加えられる走査幅が、10mm〜800mm、好ましくは100mm〜400mm、最も好ましくは150mm〜300mmであることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、基材が、レーザアブレーションを使用して1つ以上のターゲットから蒸発させられたプラズマ材料プルーム中で動かされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項20】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、ターゲットと基材との間の距離が、アブレーションプロセスの全体にわたって基本的に一定に保たれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項21】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、コーティングされた表面が、複数のターゲットから同時にアブレーションされた材料で構成されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項22】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、コーティング対象の表面が、アブレーションされた材料で形成されたプラズマ材料プルームへと反応性物質を導入して、該反応性物質をプルームのプラズマ材料の前記アブレーションされた材料と反応させ、基材上のコーティングの化合物を形成することによって、形成されることを特徴とする請求項1または21に記載の方法。
【請求項23】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、表面処理設備の放射伝送線にタービンスキャナを有している表面処理設備一式。
【請求項1】
1つ以上の表面によって物体を加工および/またはコーティングするためのレーザアブレーション方法であって、
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、コーティング対象の物体である基材とレーザビームによってアブレーションされる材料であるターゲットとの間の距離が、0.1mm〜10mmであることを特徴とする方法。
【請求項2】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、基材とターゲットとの間の距離が、1mm〜8mmであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、基材とターゲットとの間の距離が、3mm〜6mmであることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、前記基材が、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、紙、ボール紙、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、前記ターゲットが、金属、金属化合物、ガラス、石、セラミック材料、合成ポリマー、半合成ポリマー、天然ポリマー、複合材料、無機または有機のモノマーまたはオリゴマー材料であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、レーザアブレーションが、パルスレーザを使用することによって実行されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、アブレーションに使用されるレーザ設備が、ピコ秒レーザなどの冷間加工レーザであることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
コーティングされた表面が、表面が1mm2当たりに含むピンホールが1個未満であり、好ましくは1cm2当たりに含むピンホールが1個未満であり、最も好ましくはコーティングされた領域にまったくピンホールを含まないように形成されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項9】
コーティングされた表面が、表面の最初の50%が、形成された表面に1000nmを超える直径の粒子が形成されておらず、好ましくはそのような粒子のサイズが100nmを超えず、最も好ましくはそのような粒子のサイズが30nmを超えないように形成されるように、形成されていることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項10】
コーティング対象の物体、すなわち基材が、コーティング対象の物体へと形成される表面の最大粗さが原子間力顕微鏡(AFM)を使用して1平方マイクロメートルの面積について測定したときに±100nmとなるような方法で、ターゲットをパルス状の冷間加工レーザを使用してアブレーションすることによってコーティングされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項11】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、レーザアブレーションが、通常の大気圧のもとで実行されることを特徴とする請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、レーザアブレーションが、10−1〜10−12気圧の真空中で実行されることを特徴とする請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、材料が基本的に常にそれまでは有意にはアブレーションされていないターゲットの領域から蒸発させられるような方法で、ターゲットがレーザビームを使用することによってアブレーションされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項14】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、ターゲットが、シートとして供給されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項15】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、ターゲットが、フィルム/テープとして供給されることを特徴とする請求項13に記載の方法。
【請求項16】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、ターゲットの厚さが、5μm〜5mm、好ましくは20μm〜1mm、最も好ましくは50μm〜200μmであることを特徴とする請求項15に記載の方法。
【請求項17】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、レーザビームが、タービンスキャナを介してターゲットへと向けられることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項18】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、ターゲットへと加えられる走査幅が、10mm〜800mm、好ましくは100mm〜400mm、最も好ましくは150mm〜300mmであることを特徴とする請求項17に記載の方法。
【請求項19】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、基材が、レーザアブレーションを使用して1つ以上のターゲットから蒸発させられたプラズマ材料プルーム中で動かされることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項20】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、ターゲットと基材との間の距離が、アブレーションプロセスの全体にわたって基本的に一定に保たれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項21】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、コーティングされた表面が、複数のターゲットから同時にアブレーションされた材料で構成されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項22】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、コーティング対象の表面が、アブレーションされた材料で形成されたプラズマ材料プルームへと反応性物質を導入して、該反応性物質をプルームのプラズマ材料の前記アブレーションされた材料と反応させ、基材上のコーティングの化合物を形成することによって、形成されることを特徴とする請求項1または21に記載の方法。
【請求項23】
高品質のプラズマを使用することによって物体を加工および/またはコーティングするために、表面処理設備の放射伝送線にタービンスキャナを有している表面処理設備一式。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2009−527644(P2009−527644A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555816(P2008−555816)
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【国際出願番号】PCT/FI2007/000049
【国際公開番号】WO2007/096464
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(508257577)ピコデオン・リミテッド・オサケユキテュア (6)
【氏名又は名称原語表記】PICODEON LTD OY
【Fターム(参考)】
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年2月23日(2007.2.23)
【国際出願番号】PCT/FI2007/000049
【国際公開番号】WO2007/096464
【国際公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【出願人】(508257577)ピコデオン・リミテッド・オサケユキテュア (6)
【氏名又は名称原語表記】PICODEON LTD OY
【Fターム(参考)】
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