説明

コーティング溶液およびその使用

【課題】 撥水性が高い物品表面を、簡単な方法で得る手段を提供すること。
【解決手段】 アルコール、テトラアルコキシシラン、疎水性シリカ微粒子および水を含むことを特徴とするコーティング溶液。アルコール、テトラアルコキシシランおよび疎水性シリカ微粒子を混合攪拌し、酸または塩基によりpHを2〜3に調整し、水を加えて攪拌することによってコーティング溶液を作製し、該コーティング溶液に被コーティング物品を浸漬した後、引き上げ、乾燥する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体物品の表面を超撥水処理するために用いるコーティング溶液、該コーティング溶液で処理されたコーティング物品、および該コーティング物品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス、プラスチックス、紙、布帛、金属などの固体表面に対して撥水性を付与することは多く行なわれているが、近年は、その撥水処理に際してさらに高い撥水性(超撥水性)が要求されている。
従来、物品表面を蓮の葉様にすれば撥水性が向上できることが知られており、そのために物品表面に凹凸を付与し、さらにフッ素化合物などの撥水性材料でコーティングする方法が知られているが、この方法では、コーティング物品の製造に2工程を要する。
また、非特許文献1では、超撥水性を有するガラス表面の作製方法として、パーフルオロアルキルシラン(PFAS)とテトラエトキシシラン(TEOS)を用いるゾルゲル法が記載されている。この方法は、PFASとTEOSとエタノールとを混合攪拌した溶液に、塩酸と水を加え加水分解してコーティング溶液を作製し、ガラスを浸漬して、乾燥、250℃で焼成することによってガラス表面に撥水性を付与する方法である。この方法で得られたガラス表面の接触角は118°であったことが記載されている。この方法では、高い温度で焼成する必要があるために、温度の影響を受ける被処理物品に適用できない欠点があり、また、撥水性も低いという欠点がある。
さらに、非特許文献2では、ゾルゲル膜中にコロイダルシリカ微粒子を分散させることで表面粗さを制御する方法が記載されている。この方法は、テトラエトキシシラン(TEOS)、塩酸水溶液、パーフルオロオクチルエチルトリエトキシシラン(FOETES)に対してコロイダルシリカ微粒子を配合し、配合液を物品表面にスピンコートするものである。シリコンウエハーにスピンコートした例において、150°弱の接触角を得ているが、さらに簡便な方法で高い撥水性が得られる方法が望まれる。
【0003】
【非特許文献1】Journal of Colloid and Interface Science 235,130−134(2001年)
【特許文献2】Polymer Preprints, Japan Vol.53, No.2 (2004年)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、上記の従来技術の問題点を解決することであって、撥水性が高い物品表面を、簡単な方法で得る手段を提供することにある。より具体的には、超撥水性を得るためのコーティング溶液、その製造方法、該コーティング溶液を用いてコーティング物品を製造する方法、および表面が超撥水性を有するコーティング物品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明では、ゾルゲル法によるコーティングに際して、コーティング溶液に疎水性シリカ微粒子を配合することにより、超撥水性コーティング物品が簡単に製造できることを見出し本発明に至った。
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
(1) アルコール、テトラアルコキシシラン、疎水性シリカ微粒子、および水を含むことを特徴とするコーティング溶液。
(2) 疎水性シリカ微粒子の平均粒径が5〜20nmである上記(1)記載のコーティング溶液。
(3) テトラアルコキシシランがテトラエトキシシランである上記(1)又は(2)記載のコーティング溶液。
(4) 疎水性シリカ微粒子の濃度が2〜4重量%である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のコーティング溶液。
(5) アルコール、テトラアルコキシシランおよび疎水性シリカ微粒子を混合攪拌し、酸又は塩基によりpHを2〜3に調整し、水を加えて攪拌する工程を含むコーティング溶液の製造方法。
(6) アルコール、テトラアルコキシシランおよび疎水性シリカ微粒子を混合攪拌し、酸又は塩基によりpHを2〜3に調整し、水を加えて攪拌することによってコーティング溶液を作製し、該コーティング溶液に被コーティング物品を浸漬した後、引き上げ、乾燥することを特徴とするコーティング物品の製造方法。
(7) 引き上げ速度が2mm/secである上記(6)に記載のコーティング物品の製造方法。
(8) 乾燥を室温で行なうことを特徴とする上記(6)又は(7)に記載のコーティング物品の製造方法。
(9) 乾燥を熱処理により行うことを特徴とする上記(6)〜(8)のいずれかに記載のコーティング物品の製造方法。
(10)上記(6)〜(9)のいずれかに記載の方法によって製造されたコーティング物品。
【発明の効果】
【0006】
以上の本発明によれば、接触角の高い超撥水性コーティング物品が簡単に製造できた。
さらに、本発明のコーティング物品の製造方法は、コーティング溶液に物品を浸漬、引き上げるという簡単な方法であり、ワンパスで表面の凹凸形成と疎水化処理とが同時にできるという利点も有する。また、乾燥を室温で行なうことができるので、熱に弱い物品に対しても適用できる。さらにまた、本発明のコーティングは、耐摩耗性を有し、透明であるという特徴も有している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明を具体的に説明するが、本発明はそれに限定されるわけではない。
本発明のコーティング溶液は、固体物品の表面を撥水処理するのに用いられる。固体物品は、金属、セラミック、ガラス、プラスチックなどの硬い素材でも、紙、繊維などの柔らかい素材でもいずれでも適用できる。本発明のコーティングはフレキシビリティーが高く、紙、繊維などに適用しても柔軟性を保つことができる。
【0008】
本発明のコーティング溶液に用いるアルコールとしては、メタノール、エタノール、プロピルアルコールなどが挙げられるが、沸点を考慮するとエタノールが好ましい。
【0009】
本発明のコーティング溶液に用いるテトラアルコキシシランにおいて、アルコキシ基の炭素数は1〜8程度が好ましいが、メトキシあるいはエトキシ基がより好ましく、エトキシ基が最も好ましい。
【0010】
本発明のコーティング溶液で用いる疎水性シリカ微粒子としては、日本アエロジル株式会社製、アエロジルR 972、972V、R972CF、R974、R812、R805、RX200、RX300、RY200などが挙げられ、中でもアエロジルR 972、RX200が好ましい。
疎水性シリカ微粒子の平均粒径は、1〜100nmが好ましく、5〜20nmがより好ましい。この粒径範囲であれば、コーティング物品表面に望ましい凹凸を付与することができる。
【0011】
コーティング溶液中の疎水性シリカ微粒子の濃度は、2重量%以上が好ましく、2〜4重量%がさらに好ましい。2重量%未満の場合は、物品表面をシリカ微粒子が十分被覆しないので超撥水性が得られない。一方、4重量%を超えると、シリカ微粒子による被覆にクラックが入る恐れがあるので好ましくない。
【0012】
コーティング溶液は、アルコール、テトラアルコキシシランおよび疎水性シリカ微粒子を混合攪拌し、酸又は塩基によりpHを2〜3に調整し、水を加えて攪拌する工程を含む方法によって製造することができる。酸を用いるとき1N塩酸を用いる。水は純水が好ましい。
好ましいコーティング溶液は、アルコールは70〜80重量%、テトラアルコキシシランは5〜15重量%、1N塩酸0.5〜2重量%、水は8〜12重量%程度である。
【0013】
コーティング溶液の作製にあたっては、アルコール、テトラアルコキシシランおよび疎水性シリカ微粒子を混合して、20分程度攪拌し、1N塩酸によりpHを2〜3に調整し、純粋を添加してから2.5〜3時間程度攪拌するのが好ましい。
【0014】
上記のようにして作製したコーティング溶液に、被コーティング物品であるガラス基板、紙などを浸漬した後、物品を引き上げ、乾燥することによってコーティング物品が得られる。引き上げ速度は、0.2〜20mm/secが好ましく、2mm/secが最も好ましい。引き上げ速度が遅いと、コーティングが付着しにくく、引き上げ速度が速いと均一に付着しない。
乾燥を熱処理により行うと耐久性が向上するので、より好ましい。熱処理温度は80〜150℃程度である。
コーティングの膜厚を可視光の波長である480nm以下にすることで、コーティングの透明性を確保できる。
以下には、本発明の実施例を詳述するが、本発明はこれに限られるものではない。
【実施例1】
【0015】
<超撥水性コーティング物品の製造方法>
原料として、エタノール、テトラエトキシシラン(TEOS)、疎水性シリカ微粒子であるRX200(日本アエロジル(株)社製、平均粒径12nm)、1N塩酸、および純水を、エタノール:テトラエトキシシラン:疎水性シリカ微粒子:1N塩酸:純水の重量比で24.90:3.33:x:0.33:2.85、x/全重量=0〜5重量%になるよう、準備した(表1)。表1には、重量(g)とともに重量%も記載した。
【0016】

【表1】

【0017】
エタノール、テトラエトキシシランおよび疎水性シリカ微粒子を混合し、20分攪拌した後、1N塩酸によりpH2.5に調整し、純水を加え3時間攪拌してコーティング溶液を作製した。
幅20mm、長さ100mmのガラス基板を上記で作製した各コーティング溶液に浸漬し、2mm/secの速度で引き上げ、30分間室温で乾燥した。
【実施例2】
【0018】
<コーティング物品の特性>
実施例1のコーティング後のガラス基板の撥水性は、接触角計Kyoma Interface Science Co. LTD. Model: CA-DTで測定した。測定は、接触角計に10μlの水を滴下して行なった。撥水性は滑水性ともいわれ、水滴が表面に付着せず、転がり落ち易くなる性質を示す。
結果は第1図に示した。この結果から、疎水性シリカ微粒子がコーティング溶液の2重量%以上であるとき、160°以上という高い接触角を有する超撥水性が得られていることが分かる。
【0019】
第2図には、実施例1でコーティング処理したガラス基板の表面のSEM(走査型電子顕微鏡写真像を示した。SEM像でみられるとおり、疎水性シリカ微粒子が2重量%以上であれば、基板表面のほぼ全体が疎水性シリカ微粒子で覆われることが分かる。
【0020】
さらに、第3図には、疎水性シリカ微粒子が4重量%のコーティング溶液中でコーティングしたガラス基板の断面SEM像を示した(40,000倍)。ガラス基板の表面が数十nmの一次凝集体と数百nmの二次凝集体とで覆われていることが分かる。この一次凝集体と二次凝集体とで形成される凹凸が表面の超撥水性をもたらしていると推定される。
【実施例3】
【0021】
<コーティング物品表面の磨耗強度>
実施例1で得られたガラス基板のうちシリカ4重量%のものについて磨耗強度を測定した。
対照として、(i)実施例1で作製したコーティング溶液をガラス基板にスプレー法で塗布した試料(スプレー法)、(ii)疎水性シリカ微粒子の代わりに親水性シリカ微粒子(日本アエロジル株式会社製 アエロジル200 粒径12nm)を用い、撥水性材料であるパーフルオロアルキルシラン(ヘプタデカフルオロデシルトリメトキシシラン GE東芝シリコーン株式会社TSL8233)を添加したコーティング溶液原料、すなわち、エタノール、TEOS、親水性シリカ微粒子、1N塩酸、純水、パーフルオロアルキルシランからなる原料を用いて実施例1と同様にコーティング溶液を作製し、実施例1と同様にコーティングした試料(ゾルゲル法+親水性シリカ)を用意した。
試料1cm2当たり4gの荷重を100mm/minの速度で試料上を移動させコーティングを磨耗させて後、実施例2と同様に接触角を測定した。結果を第4図に示した。第4図の横軸は、磨耗回数、縦軸が接触角である。第4図でゾルゲル法+疎水性シリカで表示されているのが本発明のガラス基板である。
第4図から明らかなように、本発明のゾルゲル法によって得たコーティングは、スプレー法で得たコーティングより磨耗強度が高いことが分かった。また、親水性シリカを用いる対照例よりもさらに磨耗強度が高いことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明により、撥水性に優れ、磨耗強度が高く、コーティングが透明なコーティング物品が簡単に得られた。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例のコーティング物品の接触角を示す。
【図2】実施例のコーティング物品のSEM像を示す(40,000倍)。
【図3】実施例のコーティング物品の断面SEM像を示す。
【図4】実施例と対照例のコーティング物品の磨耗強度測定結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール、テトラアルコキシシラン、疎水性シリカ微粒子、および水を含むことを特徴とするコーティング溶液。
【請求項2】
疎水性シリカ微粒子の平均粒径が5〜20nmである請求項1記載のコーティング溶液。
【請求項3】
テトラアルコキシシランがテトラエトキシシランである請求項1又は2記載のコーティング溶液。
【請求項4】
疎水性シリカ微粒子の濃度が2〜4重量%である請求項1〜3のいずれかに記載のコーティング溶液。
【請求項5】
アルコール、テトラアルコキシシランおよび疎水性シリカ微粒子を混合攪拌し、酸又は塩基によりpHを2〜3に調整し、水を加えて攪拌する工程を含むコーティング溶液の製造方法。
【請求項6】
アルコール、テトラアルコキシシランおよび疎水性シリカ微粒子を混合攪拌し、酸又は塩基によりpHを2〜3に調整し、水を加えて攪拌することによってコーティング溶液を作製し、該コーティング溶液に被コーティング物品を浸漬した後、引き上げ、乾燥することを特徴とするコーティング物品の製造方法。
【請求項7】
引き上げ速度が0.2〜20mm/secである請求項6に記載のコーティング物品の製造方法。
【請求項8】
乾燥を室温で行なうことを特徴とする請求項6又は7に記載のコーティング物品の製造方法。
【請求項9】
乾燥を熱処理により行うことを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載のコーティング物品の製造方法。
【請求項10】
請求項6〜9のいずれかに記載の方法によって製造されたコーティング物品。



【図1】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−232870(P2006−232870A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−45171(P2005−45171)
【出願日】平成17年2月22日(2005.2.22)
【出願人】(502435454)株式会社SNT (33)
【出願人】(592007612)横浜油脂工業株式会社 (29)
【Fターム(参考)】