説明

コーナー学習システム

【課題】 コーナー開始点の検出精度を向上させる。
【解決手段】 サスペンションECU21は、操舵速度ωxが第1基準値ω1を上回ったときにナビゲーションECUに対して操舵開始点仮記憶指令を出力する。その後、操舵速度が第2基準値ω2にまで低下した後、基準時間のあいだ操舵速度が第2基準値ω2以下に収まり、操舵角度θxが判定操舵角度範囲θref(θ1〜θ2)内に入っており、かつ、横加速度Gyxが判定横加速度範囲Gyref(Gy1〜Gy2)内に入っているときに、車両がコーナーを走行中であると判定し、サスペンションECU21からナビゲーションECU11にコーナー開始推定点確定指令を出力する。これによりナビゲーションECU11は、記憶装置14に記憶されているコーナー開始点を、コーナー開始推定点に補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、道路のコーナー情報を学習するコーナー学習システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両に搭載されたナビゲーション装置から提供される道路状況データに対応させてサスペンション制御を行う装置が知られている。例えば、特許文献1に提案されたコーナー学習システムおいては、地図データベース内にコーナー形状情報(コーナー開始点、コーナー曲率半径)を記憶し、車両がコーナーを走行するときに、コーナー形状情報に基づいて車体のロールを抑制するようにサスペンションユニットの減衰力制御を行う。また、地図データベース内に記憶されたコーナー形状情報と、実際に車両が走行したときに特定した操舵開始点およびコーナー曲率半径とを比較し、相違がある場合には、比較結果をナビゲーション装置にフィードバックしてコーナー形状情報を補正するようにしている。
【特許文献1】特開2007−62445号
【発明の開示】
【0003】
しかしながら、特許文献1には、操舵開始点(コーナー開始推定点)を特定するための手法が明記されておらず、単に、ハンドル操作の開始点をコーナー開始点であると推定した場合には、このコーナー開始推定点と実際のコーナー開始点とに相違を生じるおそれがある。例えば、路面外乱や横風外乱等の外乱により操舵修正を行ったケース、車線変更を行ったケースが考えられる。こうしたケースにおいては、その操舵開始点がコーナー開始点であると推定されてしまう。従って、ナビゲーション装置に記憶されるコーナー形状情報が逆に不適切なものに記憶更新され、この結果、コーナー形状情報に基づいたサスペンション制御を良好に行うことができなくなってしまう。
【0004】
本発明の目的は、上記問題に対処するためになされたもので、コーナー開始点の推定精度を向上させることにある。
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の特徴は、車両の現在位置を検出するとともに、少なくともコーナー開始点を含むコーナー情報を地図情報とともに記憶したナビゲーション装置と、車両の挙動情報を取得する車両挙動情報取得手段と、車両の走行中に車両の挙動情報から操舵開始点を特定しその特定された操舵開始点を実際のコーナー開始点として推定するコーナー推定手段と、上記ナビゲーション装置に記憶されているコーナー開始点を上記コーナー推定手段により推定されたコーナー開始点に補正するコーナー情報補正手段とを備えたコーナー学習システムにおいて、上記コーナー推定手段は、上記操舵開始点を特定した後の車両挙動情報の推移に基づいて、上記操舵開始点における操舵が運転者の行ったコーナー走行用の操作によるものか否か判別するコーナー走行用操作判別手段と、上記操舵開始点における操舵が運転者の行ったコーナー走行用の操作によるものでないと判定された場合、上記操舵開始点を実際のコーナー開始点として推定しない推定除外手段とを備えたことにある。
【0006】
この発明においては、ナビゲーション装置に道路のコーナー開始点を含むコーナー情報が地図情報とともに記憶されており、この記憶されているコーナー開始点を、車両走行中に推定した実際のコーナー開始点に補正することによりコーナー開始点が学習される。実際のコーナー開始点は、車両の挙動情報から操舵開始点を特定することにより推定される。つまり、操舵開始点が実際のコーナー開始点として推定される。そして、コーナー情報補正手段は、ナビゲーション装置に記憶されているコーナー開始点を、車両走行中に推定したコーナー開始点に補正する。
【0007】
操舵開始点を道路のコーナー開始点として推定した場合、路面外乱や横風外乱により操舵修正を行ったケースや、車線変更により操舵がなされたケースにおいても、車両がコーナー開始点を通過したと誤判定するおそれがある。そこで、本発明においては、コーナー走行用操作判別手段により、操舵開始点を特定した後の車両挙動情報の推移に基づいて、操舵開始点における操舵が運転者の行ったコーナー走行用の操作によるものか否か判別する。そして、操舵開始点における操舵が運転者の行ったコーナー走行操作によるものでないと判定された場合は、推定除外手段により、その操舵開始点を実際のコーナー開始点であると推定しない。従って、外乱による操舵修正や車線変更による操舵操作が行われた場合には、その操舵開始点をコーナー開始推定点として更新記憶(学習)しない。また、操舵開始点における操舵が運転者の行ったコーナー走行用の操作によるものであると判定された場合、操舵開始点を実際のコーナー開始点であると推定する
【0008】
この結果、コーナー開始点の推定精度が向上する。従って、ナビゲーション装置に記憶されるコーナー開始点の位置精度が高まり、コーナー情報を利用したコーナー制御手段のコーナー制御を良好に行うことができる。コーナー制御手段としては、例えば、コーナー走行時にサスペンションの減衰力特性を変化させて車両のロール運動を抑制するロール抑制制御手段など挙げることができる。
【0009】
本発明の他の特徴は、上記車両挙動情報取得手段は、操舵角度情報と操舵速度情報と車両横加速度情報の少なくとも一つの情報を取得し、上記コーナー推定手段は、上記操舵速度あるいは上記操舵角度あるいは上記車両横加速度が判定基準値を超えたときに操舵が開始されたとして上記操舵開始点を特定し、上記コーナー走行用操作判別手段は、上記操舵開始点特定後の車両挙動情報の推移に基づいて、車両がコーナーを走行しているか否かを判別することにより、上記操舵開始点における操舵が運転者の行ったコーナー走行用の操作によるものか否か判別することにある。
【0010】
この発明においては、車両挙動情報として操舵角度情報と操舵速度情報と車両横加速度情報の少なくとも一つが取得される。そして、コーナー推定手段は、操舵速度あるいは操舵角度あるいは車両横加速度が判定基準値(操舵速度判定基準値あるいは操舵角度判定基準値あるいは横加速度判定基準値)を超えたときに操舵操作が開始されたとして操舵開始点を特定する。車両がコーナーに進入するときには、運転者の操舵操作により操舵角度、操舵速度、車両横加速度も増加する。従って、操舵速度あるいは操舵角度あるいは車両横加速度の増加を検出することで、操舵開始点を特定することができる。
【0011】
操舵開始点が特定されると、コーナー走行用操作判別手段は、その後の車両挙動情報の推移に基づいて、車両がコーナーを走行しているか否かを判別する。コーナー走行特有の車両挙動推移が検出された場合には、操舵開始点における操舵が運転者の行ったコーナー走行用の操作であると判定される。従って、この操舵開始点がコーナー開始点であると推定される。一方、外乱による操作や車線変更による操作では、コーナー走行特有の車両挙動推移が検出されない。この場合には、操舵開始点における操舵が運転者の行ったコーナー走行用の操作ではないと判定される。従って、推定除外手段により、その操舵開始点が実際のコーナー開始点であると推定されない。この結果、コーナー開始点の推定精度が向上する。
【0012】
本発明の他の特徴は、上記車両挙動情報取得手段は、操舵角度情報と車両横加速度情報の少なくとも一方の情報と、操舵速度情報とを取得し、上記コーナー走行用操作判別手段は、上記操舵開始点が特定された後、操舵速度が保舵走行判定値以下にまで低下したことを検出する保舵走行移行検出手段と、上記操舵速度が上記保舵走行判定値にまで低下したときの操舵角度が判定操舵角度範囲に入っていない場合に車両がコーナーを走行していないと判定する、あるいは、上記操舵速度が上記保舵走行判定値にまで低下したときの車両横加速度が判定横加速度範囲に入っていない場合に車両がコーナーを走行していないと判定するコーナー走行判定手段とを備えたことにある。
【0013】
この発明においては、コーナー走行用操作判別手段は、保舵走行移行検出手段とコーナー走行判定手段とを備える。保舵走行移行検出手段は、操舵開始点が特定された後、操舵速度が保舵走行判定値以下にまで低下したことを検出する。車両がコーナーを走行する場合、コーナーの途中で、転舵輪がコーナーの曲率にあった向きに保持される状態、つまり、操舵ハンドルを一定角度に保った保舵走行状態に至る。この保舵走行状態においては、操舵速度はほぼゼロにまで減少する。そこで、保舵走行移行検出手段は、操舵速度の低下を検出することにより、車両が保舵走行状態に至ったと推定する。
【0014】
一方、コーナーにおける保舵走行状態においては、操舵角度および車両横加速度は最大値をとる。従って、車両が実際にコーナーを走行しているか否かを判定するには、操舵角度と車両横加速度の少なくとも一方の大きさを調べればよい。そこで、この発明においては、コーナー走行判定手段は、車両が保舵走行に移行したときに、操舵角度が判定操舵角度範囲に入っていない場合に車両がコーナーを走行していないと判定する、あるいは、車両横加速度が判定横加速度範囲に入っていない場合に車両がコーナーを走行していないと判定する。
【0015】
この判定操舵角度範囲は、車両がコーナーを走行した場合に予測される操舵角度の範囲であり、判定横加速度範囲は、車両がコーナーを走行した場合に予測される車両横加速度の範囲である。従って、操舵角度あるいは車両横加速度がこの範囲から外れている場合には、車両がコーナーを走行していないと判定することができる。この結果、コーナー走行の有無を良好に判定することができ、最終的に、コーナー開始点の推定精度が向上する。
【0016】
本発明の他の特徴は、上記コーナー走行判定手段は、上記操舵速度が上記保舵走行判定値にまで低下した後に、上記操舵速度が上記保舵走行判定値以下となる状態が基準時間継続しない場合、あるいは、上記操舵角度が上記判定操舵角度範囲に入っている状態が上記基準時間継続しない場合、あるいは、上記車両横加速度が上記判定横加速度範囲に入っている状態が上記基準時間継続しない場合には、車両がコーナーを走行していないと判定することにある。
【0017】
この発明においては、保舵走行状態が保たれない場合、つまり、基準時間内に操舵速度が保舵走行判定値を上回ってしまう場合、あるいは、基準時間内に操舵角度が判定操舵角度範囲から外れる場合、あるいは基準時間内に車両横加速度が判定横加速度範囲から外れる場合に、車両がコーナーを走行していないと判定する。つまり、コーナー走行時特有の車両挙動状態の継続をチェックすることにより、一時的な条件成立による誤判定を防止する。この結果、コーナー開始点の推定精度が一層向上する。
【0018】
本発明の他の特徴は、上記車両挙動情報取得手段は、操舵角度情報と車両横加速度情報と操舵速度情報とを取得し、上記コーナー走行用操作判別手段は、上記操舵開始点が特定された後、上記操舵速度が保舵走行判定値以下にまで低下したことを検出する保舵走行移行検出手段と、上記操舵速度が上記保舵走行判定値にまで低下したときの操舵角度が判定操舵角度範囲に入っており、かつ、車両横加速度が判定横加速度範囲に入っている場合に車両がコーナーを走行していると判定するコーナー走行判定手段とを備えたことにある。
【0019】
この発明においては、車両が保舵走行状態に移行したことを検出したとき、操舵角度が判定操舵角度範囲に入っており、かつ、車両横加速度が判定横加速度範囲に入っている場合に車両がコーナーを走行していると判定する。従って、コーナー走行の有無を厳しく判定することができ、最終的に、コーナー開始点の推定精度が向上する。
【0020】
本発明の他の特徴は、上記コーナー走行判定手段は、上記操舵速度が上記保舵走行判定値にまで低下した後に、上記操舵速度が上記保舵走行判定値以下となる状態が基準時間継続し、かつ、上記操舵角度および上記車両横加速度が上記判定操舵角度範囲および上記判定横加速度範囲に入っている状態が上記基準時間継続している場合に車両がコーナーを走行していると判定することにある。
【0021】
この発明においては、車両が保舵走行に移行した後に、操舵速度、操舵角度、車両横加速度の3つが継続してコーナー走行特有の値をとるときに車両がコーナーを走行していると判定する。つまり、操舵速度が保舵走行判定値以下となり、操舵角度が判定操舵角度範囲内に入り、車両横加速度が判定横加速度範囲に入るという3つの条件が基準時間継続して成立した場合に、車両がコーナーを走行していると判定する。従って、一時的な条件成立による誤判定を防止する。この結果、コーナー開始点の推定精度が一層向上する。
【0022】
本発明の他の特徴は、上記車両挙動情報取得手段は、車速情報も含んで取得し、上記判定操舵角度範囲は車速と車両横加速度とに応じて設定され、上記判定横加速度範囲は車速と上記ナビゲーション装置に記憶されたコーナー曲率半径とに応じて設定されることにある。
【0023】
この発明によれば、車両がコーナーを走行しているか否かを判定する基準となる判定操舵角度範囲と判定横加速度範囲とが適正に設定されるため、車両がコーナー走行中であることを精度よく判定することができる。従って、コーナー開始点の推定精度が更に向上する。
【0024】
本発明の他の特徴は、上記操舵開始点が特定されたときの車両の位置情報を仮に記憶する仮位置情報記憶手段と、車両がコーナーを走行中であると判定されたときに、上記仮位置情報記憶手段に記憶されている車両の位置情報を読み出して実際のコーナー開始推定点情報として処理する仮位置情報処理手段とを備えたことにある。
【0025】
この発明においては、操舵開始点が特定されたとき、その車両の位置情報を仮位置情報記憶手段に記憶しておき、その後、車両がコーナーを走行中であることが判定されたときに、仮位置情報処理手段が仮位置情報記憶手段から車両の位置情報を読み出して実際のコーナー開始点推定情報として処理する。従って、車両がコーナー走行を開始した後であっても、操舵開始点の位置情報を正確に把握することができる。この結果、コーナー開始点の補正処理が容易となる。
【0026】
本発明の他の特徴は、上記ナビゲーション装置は上記コーナー情報として少なくともコーナー開始点とコーナー曲率半径とを記憶し、上記コーナー推定手段は上記コーナー開始点とコーナー曲率半径とを推定し、上記コーナー情報補正手段は上記ナビゲーション装置に記憶されているコーナー開始点とコーナー曲率半径とを上記コーナー推定手段により推定されたコーナー開始点とコーナー曲率半径とに補正することにある。
【0027】
この発明においては、ナビゲーション装置が、コーナー情報としてコーナー開始点に加えてコーナー曲率半径を記憶する。一方、コーナー推定手段は、車両走行中に実際のコーナー開始点とコーナー曲率半径とを推定する。このとき、コーナー走行用操作判別手段により、操舵開始点における操舵が運転者の行ったコーナー走行用の操作によるものでないと判定された場合には、その操舵開始点を実際のコーナー開始点として推定しない。従って、コーナーの曲率半径の推定もしないようにすることができる。この結果、コーナー開始点とコーナー曲率半径との推定精度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。図1は、本実施形態に係り、道路のコーナー形状(コーナー開始位置とコーナー曲率半径)を学習するコーナー学習システムの全体を概略的に示すブロック図である。このコーナー学習システムは、自車両の現在位置を検出するとともに各種情報を供給するナビゲーション装置10と、車両の各輪に組み付けられたサスペンションユニット30の作動を制御するサスペンション制御装置20とを備えている。
【0029】
ナビゲーション装置10とサスペンション制御装置20とは、ゲートウェイコンピュータ40および車両内に構築されたLAN(Local Area Network)50を介して、互いに通信可能に接続されている。ゲートウェイコンピュータ40は、ナビゲーション装置10とサスペンション制御装置20との間で共有される各種データおよびこれら装置10,20の連携を制御する制御信号の流れを統括的に制御するコンピュータである。
【0030】
ナビゲーション装置10は、図2に示すように、ナビゲーション電子制御ユニット11(以下の説明において、単にナビゲーションECU11という)を備えている。ナビゲーションECU11は、CPU、ROM、RAM、タイマなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品としており、ナビゲーション装置10の作動を統括的に制御するものである。そして、ナビゲーションECU11には、GPS(Global Positioning System)受信機12、ジャイロスコープ13、記憶装置14、車速センサ15およびLANインターフェース16が接続されている。
【0031】
GPS受信機12は、自車両の現在位置を検出するための電波を衛星から受信するとともに、検出した自車両の現在位置を例えば座標データとして検出して出力する。ジャイロスコープ13は、自車両の進行方向を検出するための車両の旋回速度を検出して出力する。車速センサ15は、車両の走行速度を検出して出力する。ナビゲーションECU11は、GPS受信機12、ジャイロスコープ13、車速センサ14から出力された各検出値を取得して、自車両の現在位置を検出する。
【0032】
記憶装置14は、ハードディスク、CD−RW、DVD−RAM、DVD−RWなどの情報の書き換えが可能な記憶媒体やCD−ROMやDVD−ROMなどの記録媒体およびこれら記録媒体のドライブ装置を含むものである。そして、記憶装置14は、ナビゲーションECU11で実行される各種プログラムおよび地図データ(地図情報)を記憶している。地図データは、地図データファイル、交差点データファイル、ノードデータファイル、道路データファイル、および、各地域のホテル、ガソリンスタンド等の施設情報が記憶された施設情報データファイル等から構成される。
【0033】
道路データファイルは、道路種別(高速道路、国道、県道など)を表す道路種別データ、道路形状を表す道路形状データなど、道路に関する種々のデータから構成される。この道路形状データには、コーナー形状情報(本発明のコーナー情報に相当する)も含まれている。コーナー形状情報は、コーナー開始点情報とコーナー曲率半径情報とを含んで構成される。
【0034】
LANインターフェース16は、LAN50と接続し、ナビゲーションECU11とゲートウェイコンピュータ40との間の通信を可能とするものである。これにより、LANインターフェース16は、LAN50を介して、ナビゲーションECU11からの各種情報をゲートウェイコンピュータ40に供給したり、サスペンション制御装置20から供給された各種情報をゲートウェイコンピュータ40から取得してナビゲーションECU11に供給したりする。
【0035】
サスペンション制御装置20は、図3に示すように、サスペンション電子制御ユニット21(以下の説明において、単にサスペンションECU21という)を備えている。このサスペンションECU21は、CPU、ROM、RAM、タイマなどからなるマイクロコンピュータを主要構成部品としており、サスペンションユニット30の作動特性(より具体的には、入力した上下方向の振動を減衰する減衰特性)を統括的に制御するものである。そして、サスペンションECU21には、車速センサ22、操舵角度センサ23、横加速度センサ24,LANインターフェース25および駆動回路26が接続されている。
【0036】
車速センサ22は、車速の走行速度である車速Vxを検出する。この車速センサ22は、ナビゲーションECU11に接続される車速センサ15を兼用して使用することができる。操舵角度センサ23は、図示しない操舵ハンドルの回転角度に応じた操舵角度θxを検出する。横加速度センサ24は、車両に働く横加速度Gyxを検出する。本実施形態においては、操舵角度θxは、操舵ハンドルの中立操舵位置を「0」として、中立操舵位置に対して右方向の操舵角度を正の値で示し、左方向の操舵角度を負の値で示す。また、サスペンションECU21は、検出した操舵角度θxを時間微分することにより操舵速度ωxを検出する。従って、サスペンションECU21は、操舵速度センサを備えているといえる。この場合、操舵速度ωxは、右方向への操舵操作されたとき(操舵ハンドルの時計方向への操作)正の値で示し、左方向への操舵操作されたとき(操舵ハンドルの反時計方向への操作)負の値で示す。また、横加速度Gyxは、車両が左に旋回中のときに正の値を、右に旋回中のときに負の値を示す。
尚、本明細書においては、操舵角度θx、操舵速度ωx、横加速度Gyxについて大小比較する場合、その絶対値をもちいて説明する。
【0037】
LANインターフェース25は、LAN50と接続し、サスペンションECU21とゲートウェイコンピュータ40との間の通信を可能とするものである。これにより、LANインターフェース25は、LAN50を介して、サスペンションECU21からの各種情報をゲートウェイコンピュータ40に供給したり、ナビゲーション装置10から供給された各種情報をゲートウェイコンピュータ40から取得してサスペンションECU21に供給したりする。
【0038】
駆動回路26は、後述するサスペンションユニット30のアクチュエータ35を駆動するためのものである。そして、駆動回路26内には、アクチュエータ35内の電動モータに流れる駆動電流を検出するための電流検出器26aが設けられている。この電流検出器26aによって検出された駆動電流は、電動モータの駆動を制御するために、サスペンションECU21にフィードバックされている。
【0039】
サスペンションユニット30は、図4に概略的に示すように、一端側が車体に回動可能に取り付けられるとともに、他端側が車軸を支持するハブ部材等に取り付けられたアッパーアーム31とロワーアーム32を備えている。そして、アッパーアーム31とロワーアーム32との間には、車体に入力する振動を減衰するためのコイルスプリング33および油圧ダンパー34が組み付けられている。また、油圧ダンパー34内には、油流路に設けられたオリフィスの流路径を変化させる減衰可変バルブが設けられており、この減衰可変バルブを作動させるためのアクチュエータ35が組み付けられている。これにより、アクチュエータ35が駆動すると、より詳しくは、アクチュエータ35を構成する電動モータが回転駆動すると、減衰可変バルブが回転作動してオリフィスの流路径を変化させることができる。このため、油流路内における作動油の流動特性を適宜変化させることができ、その結果、サスペンションユニット30の減衰特性を制御することができる。
【0040】
次に、上記のように構成した本発明に係るコーナー学習システムの作動について説明する。このコーナー学習システムは、ナビゲーション装置10とサスペンション制御装置20とが協調して作動することにより、実現されるものである。ここでは、まず、ナビゲーション装置10とサスペンション制御装置20との強調作動の概略を説明する。
【0041】
ナビゲーション装置10のナビゲーションECU11は、車両の現在位置を検出し、現在位置と地図データに基づいて、コーナー情報通知処理(図5)を行う。ナビゲーションECU11は、このコーナー情報通知処理において、車両の現在位置が地図データに記憶されたコーナー開始点の所定距離Xmだけ手前に達したと判断したときに、サスペンション制御装置20のサスペンションECU21に対してコーナー推定処理の開始指令を出力する。更に、ナビゲーションECU11は、車両が地図データに記憶されたコーナー開始点に到達したと判断したときに、サスペンションECU21に対してロール抑制制御の開始指令を出力する。
【0042】
サスペンションECU21は、ナビゲーションECU11からの指令に基づいてコーナー推定処理とロール抑制制御処理とを並行して行う。コーナー推定処理(図6)においては、車両の走行中における挙動情報(操舵角度θx、操舵速度ωx、横加速度Gyx、車速Vx)に基づいて、実際のコーナー開始点およびコーナー曲率半径(これらをコーナー形状と呼ぶ)を推定する。また、ロール抑制制御処理においては、車両の走行するコーナー形状等に応じて各サスペンションユニット30の減衰特性を決定し、この減衰特性に応じて電動モータに所定の駆動電流を流してアクチュエータ35を作動させる。この場合、旋回中心に対する車体外側のサスペンションユニット30の縮側の減衰力を大きくしてストロークを減少させないように制御し、旋回中心に対する車体内側のサスペンションユニット30の伸側の減衰力を大きくしてストロークを増加させないように制御する。これにより、車両の走行安定性が向上し、操縦安定性を良好にする。
【0043】
サスペンションECU21は、コーナー形状を推定するにあたって、操舵開始点を検出したときにナビゲーションECU11に対して操舵開始点仮記憶指令を出力しておき、その後の車両挙動状態の時間的推移に基づいて、車両がコーナーを走行中であるか否かを判断する。そして、コーナー走行中であると判定したときには、先に検出した操舵開始点をコーナー開始推定点とみなすコーナー開始推定点確定指令をナビゲーションECU11に出力する。逆に、コーナーを走行中ではないと判定したときには、先に検出した操舵開始点をコーナー開始推定点としない旨の記憶キャンセル指令をナビゲーションECU11に出力する。また、コーナー開始推定点が確定したときには、コーナー曲率半径の推定演算を行って、その情報をナビゲーションECU11に出力する。
【0044】
ナビゲーションECU11は、サスペンションECU21から受信した指令や演算結果に基づいてコーナー情報補正処理を行う。このコーナー情報補正処理においては、コーナー開始推定点が確定したときに、記憶装置14に記憶されている地図データにおけるコーナー形状を、このコーナー推定形状に記憶更新(学習)する。これにより、記憶装置14に記憶されているコーナー形状は、実際の道路のコーナーにあった精度の良いものに補正されていく。
【0045】
次に、上述した各処理についてフローチャートを用いて詳しく説明する。まず、ナビゲーション装置10のナビゲーションECU11が実行するコーナー情報通知処理について詳述する。図5は、ナビゲーションECU11が実行するコーナー情報通知処理ルーチンを表すフローチャートである。このコーナー情報通知処理ルーチンは、ナビゲーションECU11のROM内あるいは記憶装置14内に制御プログラムとして記憶され、図示しないイグニッションスイッチがオン状態とされると起動して所定の短い周期で繰り返される。
【0046】
コーナー情報通知処理ルーチンが起動すると、ナビゲーションECU11は、まず、ステップS11において、車両の現在位置情報と、前方道路のコーナー形状情報(コーナー開始点情報とコーナー曲率半径情報を含む)とを読み込む。車両の現在位置は、GPS受信機12,ジャイロスコープ13および車速センサ15からの検出値に基づいて検出される。また、コーナー形状情報は、記憶装置14に記憶された道路形状データファイルから読み出される。
【0047】
続いて、ナビゲーションECU11は、ステップS12において、フラグF1の値が「0」に設定されているか否かを判断する。このフラグF1は、後述するように車両がコーナー開始点の所定距離Xmだけ手前の位置に到達したときにF1=1に設定されるもので、コーナー情報通知処理ルーチンの起動時においてはF1=0に設定されている。従って、ここでは「YES」と判断されて、その処理をステップS13に進める。ステップS13においては、車両がコーナー開始点の所定距離Xmだけ手前の位置に到達したか否かを判断する。このコーナー開始点は、ステップS11にて読み込んだコーナー形状情報にて特定される点(座標位置)である。車両がコーナー開始点の所定距離Xm手前に到達していない場合には、コーナー情報通知処理ルーチンを一旦終了する。
【0048】
コーナー情報通知処理ルーチンは、所定の周期で繰り返され、同様な処理が行われる(S11〜S13)。そして、ナビゲーションECU11は、車両の現在位置情報とコーナー開始点情報とから、車両がコーナー開始点の所定距離Xm手前に到達したと判断すると(S13:YES)、その処理をステップS14に進める。このステップS14においては、フラグF1を「1」に設定する。続いて、ナビゲーションECU11は、ステップS15に処理を進め、サスペンションECU21に対してコーナー推定開始指令を送信する。また、ステップS16において、ステップS11で読み込んだコーナー形状情報をサスペンションECU21に送信する。
【0049】
続いて、ナビゲーションECU11は、ステップS17に処理を進め、車両がコーナー開始点に到達したか否かについて、ステップS11で読み込んだ車両の現在位置情報とコーナー開始点情報とから判断する。このステップS17の判断が最初に行われるときには、まだ車両はコーナー開始点の到達していない。従って、ステップS17の判断結果は「NO」となり、コーナー情報通知処理ルーチンを一旦終了する。
【0050】
コーナー情報通知処理ルーチンは繰り返される。この場合、フラグF1がF1=1に設定されているため、ステップS13〜ステップS16までの処理はスキップされることとなる。従って、上述したステップS11,12,17の処理のみが繰り返されることとなる。つまり、車両の現在位置情報とコーナー開始点情報とから、車両がコーナー開始点に到達したか否かの判断が繰り返される。ナビゲーションECU11は、こうした処理を繰り返し、車両がコーナー開始点に到達したと判断すると(S17:YES)、ステップS18に処理を進めて、サスペンションECU21に対してロール抑制制御の開始指令を送信する。
【0051】
続いて、ナビゲーションECU11は、ステップS19において、フラグF1をF1=0に設定し、コーナー情報通知処理ルーチンを一旦終了する。従って、次回からのコーナー情報通知処理ルーチンの実行に際しては、ステップS13において次のコーナー開始点への接近が判断されることとなる。つまり、直前回まで対象とされていたコーナーより1つ前方のコーナーを対象として、そのコーナーへの車両の接近が判断される。
【0052】
次に、サスペンション制御装置20のサスペンションECU21が実行するコーナー推定処理について詳述する。図6は、サスペンションECU21が実行するコーナー推定処理ルーチンを表すフローチャートである。このコーナー推定処理ルーチンは、サスペンションECU21のROM内に制御プログラムとして記憶される。サスペンションECU21は、ナビゲーションECU11から送信されたコーナー推定開始指令(S15)を受信すると、このコーナー推定処理ルーチンを開始し、所定の短い周期で繰り返す。
【0053】
コーナー推定処理ルーチンが起動すると、サスペンションECU21は、まず、ステップS21において、車速センサ22により検出される車速Vxと、操舵角度センサ23により検出される操舵角度θxと、横加速度センサ24により検出される横加速度Gyxと、操舵角度θxを時間微分して得た操舵速度ωxを読み込む。この車速Vx、操舵角度θx、横加速度Gyx、操舵角度θxは、本発明における車両挙動情報に相当する。
【0054】
続いて、サスペンションECU21は、ステップS22において、フラグF2の値が「0」に設定されているか否かを判断する。このフラグF2は、後述するように操舵速度ωxが第1基準値ω1を上回ったときにF2=1に設定され、後述するステップS23,S24の処理を繰り返さないようにするもので、コーナー推定処理ルーチンの起動時においてはF2=0に設定されている。従って、ここでは「YES」と判断されて、その処理をステップS23に進める。
【0055】
ステップS23においては、ステップS21において読み込んだ操舵速度ωxが第1基準値ω1を上回ったか否かを判断する。ここでは、直前回に読み込んだ操舵速度ωx-1(コーナー推定処理ルーチンにおける1制御周期前に読み込んだ操舵速度ωx)が第1基準値ω1以下で、かつ、今回読み込んだ操舵速度ωxが第1基準値ω1を上回っているか否かにより判断する。尚、コーナー推定処理ルーチンの開始時における操舵速度ωx-1の初期値は、例えば、値「0」に設定しておく。また、操舵速度ωxの比較は、1回の制御周期における値を用いずに、複数回の制御周期における値を平均して求め、平均値の比較により行うとよい。
【0056】
車両がコーナーに進入したときは、コーナー開始点において操舵操作がなされて操舵速度が増加する。そこで、ステップS23においては、操舵速度ωxが第1基準値ω1を上回ったことを、車両がコーナー開始点を通過したと推定する判定条件の一つとしている。この第1基準値ω1は、操舵開始判定基準値として用いられる。従って、ステップS23において、操舵速度ωxが第1基準値ω1を上回らない場合は、車両がコーナーに進入していないとして、コーナー推定処理ルーチンを一旦終了する。
【0057】
コーナー推定処理ルーチンは所定の短い周期で繰り返され、同様な処理が行われる(S21〜S23)。そして、操舵速度ωxが第1基準値ω1を上回ると、ステップS23の判断は「YES」となり、サスペンションECU21は、その処理をステップS24に進める。サスペンションECU21は、このステップS24において、ナビゲーションECU11に対して操舵開始点の仮記憶指令を出力する。ナビゲーションECU11は、この仮記憶指令により、現在車両位置情報を記憶装置14に設けた仮記憶エリア(本発明における仮位置情報記憶手段)に記憶する。
【0058】
車両がコーナーを走行しているか否かの判定結果は、この時点ではわからず後述する処理により出されるため、このステップS24においては、この操舵開始点を仮に記憶しておくことで、後からさかのぼってコーナー開始推定点(=操舵開始点)を求められるようにしている。続いて、ステップS25において、フラグF2をF2=1に設定する。
【0059】
次に、サスペンションECU21は、ステップS26において、操舵速度ωxが第2基準値ω2まで低下したか否かを判断する。車両がコーナーを走行する場合、コーナー開始点(コーナー進入地点)においては、ハンドル操作により操舵速度が増大する。そして、コーナーに入ったのちの旋回走行中においては、ハンドルがコーナー曲率に応じた角度で保舵されて操舵速度がほぼ「0」となる。つまり、定常的な保舵走行となる。一方、このコーナー内の保舵走行中においては、操舵角度および横加速度は最大値をとる。従って、こうした操舵速度の変化と、操舵角度および横加速度とから、実際に車両がコーナーを走行しているか否かを判定することが可能となる。
【0060】
そこで、本実施形態においては、操舵速度ωxが第1基準値ω1を上回ったときに(S23:YES)、車両がコーナー開始点を通過したと仮定しておき、その後、操舵速度ωxが第2基準値ω2まで低下したとときに(S26:YES)、車両がコーナー内で保舵走行(定常走行)に移ったと判断し、この保舵走行状態における操舵角度θx、横加速度Gyxに基づいて車両が実際にコーナーを走行しているか否かを判断する。従って、ステップS26における第2基準値ω2は、車両の保舵走行を判定するための基準値であり、本発明における保舵走行判定値に相当する。
【0061】
ステップS26において、操舵速度ωxが第2基準値ω2まで低下していない場合は、ステップS26の判断は「NO」となり、ステップS27の処理に進む。このステップS27においては、フラグF3が「1」に設定されているか否かについて判断される。このフラグF3は、車両が保舵走行をしている期間中にF3=1に設定されるもので、本コーナー推定処理ルーチンの起動時においてはF3=0に設定されている。従って、ここでは「NO」と判定されて本ルーチンを一旦終了する。
【0062】
コーナー推定処理ルーチンは所定の短い周期で繰り返される。従って、その後は、ステップS21による車両挙動情報(Vx,θx,Gyx,ωx)の取得と、ステップS26による操舵速度ωxの大きさ判定が繰り返されることとなる。
【0063】
サスペンションECU21は、ステップS26において操舵速度ωxが第2基準値ω2まで低下したと判断すると、つまり、保舵走行に移行したと判断すると、ステップS27において計時用のタイマを1単位だけインクリメントする。このタイマは、後述する処理からわかるように、車両のコーナー走行判定を基準時間のあいだ継続させることにより、判定条件の一時的な成立による誤判定を防止するものである。続いて、サスペンションECU21は、ステップS29において、フラグF3をF3=1に設定する。
【0064】
次に、サスペンションECU21は、ステップS30において、判定操舵角度範囲θref(θ1〜θ2)を算出する。この判定操舵角度範囲θref(θ1〜θ2)は、車両がコーナーを保舵走行中である場合に想定される操舵角度範囲であり、下記の式により算出される。
θref=Gyx(1+A・Vx2)L/Vx2±C1
つまり、
θ1=Gyx(1+A・Vx2)L/Vx2−C1
θ2=Gyx(1+A・Vx2)L/Vx2+C1
ここで、Aはスタビリティファクタ、Lはホイールベース、C1は判定許容値である。従って、判定操舵角度範囲θref(θ1〜θ2)は、走行中における車速Vxと横加速度Gyxとに応じて変化する関数により与えられるため、走行状態に応じた適切なものに設定される。
【0065】
続いて、サスペンションECU21は、ステップS31において、操舵角度センサ23により検出された操舵角度θxが判定舵角度範囲θref(θ1〜θ2)内に入っているか否かを判断する。操舵角度θxが判定操舵角度範囲θref(θ1〜θ2)内に入っていない場合には(S31:NO)、この時点で、車両がコーナーを走行中ではないと判定する。
【0066】
次に、サスペンションECU21は、ステップS32において、ナビゲーションECU11に対して記憶キャンセル指令を出力し、ステップS33においてタイマをリセット(ゼロクリア)し、ステップS34においてフラグF2,F3を「0」に設定する。ステップS32において出力される記憶キャンセル指令は、ナビゲーションECU11に対して、先に出力した操舵開始点仮記憶指令(S24)により仮に記憶した操舵開始点情報を無効にせよ、との意味を持つものである。つまり、ステップS23において検出した操舵開始点を実際のコーナー開始点として推定しないようにするためのものである。
【0067】
サスペンションECU21は、ステップS32〜S34の処理を行ったのち、コーナー推定処理ルーチンを一旦終了する。従って、次の制御周期からのコーナー推定処理ルーチンにおいては、ステップS21〜S23による処理、つまり、操舵速度ωxが第1基準値ω1を上回ったか否かについての判断処理が再び繰り返されることになる。
【0068】
一方、サスペンションECU21は、ステップS31において、操舵角度θxが判定操舵角度範囲θref(θ1〜θ2)内に入っていると判断した場合には、続いて、ステップS35において、判定横加速度範囲Gyref(Gy1〜Gy2)を算出する。この判定横加速度範囲Gyref(Gy1〜Gy2)は、車両がコーナーを保舵走行中である場合に想定される横加速度範囲であり、下記の式により算出される。
Gyref=(Vx2/R)±C2
つまり、
Gy1=(Vx2/R)−C2
Gy2=(Vx2/R)+C2
ここで、Rは地図データに記憶されているコーナー曲率半径、つまり、ナビゲーションECU11が行うコーナー情報通知処理のステップS16において出力されたコーナー情報に含まれるコーナー曲率半径である。また、C2は判定許容値である。従って、判定横加速度範囲Gyref(Gy1〜Gy2)は、走行中においては車速Vxとコーナー曲率半径Rとに応じて変化する関数により与えられるため、走行状態に応じた適切なものに設定される。
【0069】
続いて、サスペンションECU21は、ステップS36において、横加速度センサ24により検出された横加速度Gyxが判定横加速度範囲Gyref(Gy1〜Gy2)内に入っているか否か判断する。横加速度Gyxが判定横加速度範囲Gyref(Gy1〜Gy2)内に入っていない場合には(S36:NO)、この時点で、車両がコーナーを走行中ではないと判定して、上述したステップS32〜S34の処理を行った後、コーナー推定処理ルーチンを一旦終了する。従って、次の制御周期からのコーナー推定処理ルーチンにおいては、ステップS21〜S23による処理、つまり、操舵速度ωxが第1基準値ω1を上回ったか否かについての判断処理が再び繰り返されることになる。
【0070】
一方、サスペンションECU21は、ステップS36において、横加速度Gyxが判定横加速度範囲Gyref(Gy1〜Gy2)内に入っていると判断した場合には、ステップS37において、タイマの計時カウント値が基準時間に達したか否かを判断する。このタイマは、車両が保舵走行に移行したと判断された(ステップS26:YES)ときから計時を開始するものである。従って、保舵走行開始直後においては「NO」と判定され、本コーナー推定処理ルーチンを一旦終了する。コーナー推定処理ルーチンは、所定周期で繰り返し実行されるが、次の制御周期からはステップS23〜S25の処理がスキップされる。従って、車両挙動情報(Vx,θx,Gyx,ωx)を取得した後は、そのままステップS26の操舵速度ωxの判定処理に移行する。
【0071】
タイマの計時中において操舵速度ωxが第2基準値ω2を超えた場合(S26:NO)、つまり、保舵走行でなくなった場合には、ナビゲーションECU11に対する記憶キャンセル指令出力(S32)、タイマのリセット(S33)、フラグF2,F3の「0」設定(S34)を行って、コーナー推定処理ルーチンを一旦終了する。
【0072】
一方、サスペンションECU21は、操舵速度ωxが第2基準値ω2以下となっている場合には、上述したステップS28〜S37の処理を繰り返す。そして、操舵速度ωxが第2基準値ω2以下に維持され、操舵角度θxが判定操舵角度範囲θrefの範囲に収まり、横加速度Gyxが判定横加速度範囲Gyrefに収まるという3つの条件が基準時間のあいだ継続して成立すると、ステップS37の判断が「YES」となる。この条件が成立したときは、車両がコーナーを旋回していると判断できる。
【0073】
そこで、サスペンションECU21は、ステップS38において、ナビゲーションECU11に対してコーナー開始推定点確定指令を出力する。つまり、ステップS24において仮に記憶するように指令した操舵開始点を、正式にコーナー開始推定点として採用できるものであるとして、その旨をナビゲーションECU11に通知するのである。これにより、ナビゲーションECU11は、後述するように、記憶装置14に記憶されているコーナー開始点を、仮記憶されている操舵開始点(コーナー開始推定点)に更新記憶する。
【0074】
続いて、サスペンションECU21は、ステップS39において、コーナー推定曲率半径Rxを算出する。コーナー推定曲率半径Rxは、以下の式により算出される。
Rx=(Vx2)/Gyx
【0075】
そして、サスペンションECU21は、ステップS40において、コーナー推定曲率半径Rxを表すコーナー推定曲率半径情報をナビゲーションECU11に対して送信し、最後にステップS41においてフラグF2,F3を「0」に設定してコーナー推定処理ルーチンを終了する。このコーナー推定処理ルーチンは、ナビゲーションECU11から次のコーナー開始指令がサスペンションECU21に送信されると再開される。
【0076】
以上説明したコーナー推定処理ルーチンによれば、コーナー開始点を精度よく推定することができる。例えば、単に操舵量の変化点である操舵開始点をコーナー開始点であると推定した場合には、路面外乱等により操舵修正を行ったときの操舵操作や、車線変更を行ったときの操舵操作までも、コーナー開始点における操舵操作として誤判定してしまうおそれがある。これに対して、本実施形態においては、運転者が行ったコーナー走行用の操舵操作と、それ以外の操舵操作(外乱による操舵操作や車線変更による操舵操作)とを判別し、コーナー走行用以外の操舵操作を検出した場合には、その操舵開始点をコーナー開始点として推定しない。つまり、コーナー開始推定点から除外する。従って、コーナー開始点の推定精度が向上する。
【0077】
図7は、車両挙動状態(操舵速度ωx,操舵角度θx,横加速度Gyx)とコーナー推定処理との関係を表すタイミングチャートである。図中において、左側の車両挙動波形は路面外乱により操舵操作を行ったときの車両挙動状態を表し、中央の車両挙動波形は車線変更を行ったときの車両挙動状態を表し、右側の車両挙動波形はコーナー旋回走行を行ったときの車両挙動状態を表す。
【0078】
図7の右側の車両挙動波形に示すように、車両がコーナーに進入した場合には、そのコーナー開始点においてハンドル操作が行われて操舵速度ωxが増大する。この操舵速度ωxは、転舵輪がコーナーの曲率に対応した舵角に近づくほど減少する。そして、転舵輪がコーナーの曲率にあった舵角にまで達すると、操舵速度ωxは、ほぼゼロとなる。従って、車両は、操舵ハンドルが一定角度に保たれた保舵走行状態となる。
【0079】
車両がコーナーを旋回走行するとき、操舵角度θxおよび横加速度Gyxは増大し、保舵走行状態において最大値をとる。保舵走行状態においては、操舵角度θxおよび横加速度Gyxは、その旋回状態に応じた所定の大きさに維持される。この所定の大きさとは、操舵角度θxにおいては判定操舵角度範囲θref(θ1〜θ2)であり、横加速度Gyxにおいては判定横加速度範囲Gyref(Gy1〜Gy2)である。
【0080】
従って、操舵速度ωxが第1基準値ω1を上回ったとき(時刻5)、車両がコーナー開始点を通過し、その後、操舵速度ωxが第2基準値ω2(ゼロ近傍の保舵走行判定値)にまで低下したとき(時刻t6)に車両がコーナー内で保舵走行状態に移ったと考えられる。そして、保舵走行状態に移った時刻t6において、操舵角度θxは判定操舵角度範囲θref内の値をとり、横加速度Gyxは判定横加速度範囲Gyref内の値をとる。また、操舵角度θxおよび横加速度Gyxは、保舵走行中において継続して判定操舵角度範囲θref、判定横加速度範囲Gyref内の値をとる。
【0081】
ここで、車両挙動の推移と上述したコーナー推定処理との関係について説明する。サスペンションECU21は、操舵速度ωxが第1基準値ω1を上回った時刻t5(S23:YES)において操舵操作が開始されたと判断する。従って、この車両位置が操舵開始点となる。サスペンションECU21は、この時刻t5においてナビゲーションECU11に対して操舵開始点仮記憶指令を出力し、その後、操舵速度ωxが第2基準値ω2以下になるまで待機する。
【0082】
サスペンションECU21は、操舵速度ωxが第2基準値ω2にまで低下した時刻t6(S26:YES)においてタイマの計時を開始する。そして、その後の操舵速度ωx、操舵角度θx、横加速度Gyxに基づいてコーナー旋回走行が行われたか否かについて判断する。具体的には、操舵速度ωxが第2基準値ω2以下に維持され、操舵角度θxが判定操舵角度範囲θrefの範囲に収まり、横加速度Gyxが判定横加速度範囲Gyrefに収まるという3つの条件が基準時間のあいだ連続して成立したか否かについて判定する。
【0083】
コーナー旋回走行時においては、この3つの条件が継続して成立する。そして、時刻t7においてタイマの計測時間が基準時間に達すると、サスペンションECU21は、時刻t5で仮記憶した操舵開始点をコーナー開始推定点として確定し、ナビゲーションECU11に対してコーナー開始推定点確定指令を出力してコーナー推定処理を終了する。
【0084】
これに対して、路面外乱や車線変更による操舵操作時においては、操舵操作後の操舵速度ωx、操舵角度θx、横加速度Gyxの推移がコーナー走行時と相違する。路面外乱による修正操舵操作時においては、図7の左側波形に示すように、操舵操作が短時間で終了する。この操舵期間においては、車両挙動量(ωx,θx,Gyx)が安定する期間が無く、また、横加速度Gyxは小さな値をとる。
【0085】
この場合、サスペンションECU21は、操舵速度ωxが第1基準値ω1を上回った時刻t1において操舵開始点を検出し、ナビゲーションECU11に対して操舵開始点仮記憶指令を出力する。しかし、操舵速度ωxが第2基準値ω2にまで低下した時刻t2以降においても車両挙動量(ωx,θx,Gyx)が安定しない。また、横加速度Gyxが小さく判定横加速度範囲Gyrefに入らない。従って、サスペンションECU1は、時刻t2の時点で記憶キャンセル指令を出力する。このため、路面外乱によりなされた操舵操作と、コーナー走行用になされた操舵操作とを良好に判別することができる。
【0086】
また、車線変更による操舵操作時における車両挙動量(ωx,θx,Gyx)は、図7の中央波形に示すように推移する。この場合、サスペンションECU21は、時刻t3において操舵開始点を検出しナビゲーションECU11に対して操舵開始点仮記憶指令を出力する。しかし、操舵速度ωxが第2基準値ω2にまで低下した時刻t4以降においても保舵状態が継続しなく、車両挙動量(ωx,θx,Gyx)の安定期間が存在しない。また、時刻t4においては、操舵角度θxは判定操舵角度範囲θrefに入るものの、横加速度Gyxは判定横加速度範囲Gyrefに入らない。従って、サスペンションECU1は、時刻t4の時点で記憶キャンセル指令を出力する。このため、車線変更によりなされた操舵操作と、コーナー走行用になされた操舵操作とを良好に判別することができる。
【0087】
次に、ナビゲーションECU11の実行するコーナー情報補正処理について説明する。図8は、ナビゲーションECU11が実行するコーナー情報補正処理ルーチンを表すフローチャートである。このコーナー情報補正処理ルーチンは、ナビゲーションECU11のROM内あるいは記憶装置14内に制御プログラムとして記憶され、図示しないイグニッションスイッチがオン状態とされると起動して所定の短い周期で繰り返される。
【0088】
コーナー情報補正処理ルーチンは、コーナー開始点補正処理ルーチン(S50)とコーナー曲率半径補正処理ルーチン(S70)との2つのサブルーチンから構成される。図9は、コーナー開始点補正処理ルーチンを表すフローチャートである。このコーナー開始点補正処理ルーチンが起動されると、ナビゲーションECU11は、まず、ステップS51において、フラグF4が「0」に設定されているか否かを判断する。このフラグF4は、操舵開始点を仮記憶しているときにF4=1に設定されるもので、本サブルーチンの起動時においてはF4=0に設定されている。従って、ここでは、次のステップS52に処理を進める。
【0089】
ナビゲーションECU11は、ステップS52において、操舵開始点仮記憶指令を受信したか否かを判断する。この操舵開始点仮記憶指令は、サスペンションECU21がコーナー推定処理におけるステップS24にて送信する指令である。操舵開始点仮記憶指令を受信していない場合は、本サブルーチンを一旦抜けて、コーナー曲率半径補正処理を行うサブルーチンに移行する。メインルーチンであるコーナー情報補正処理ルーチンが所定の短い周期で繰り返されることから、このコーナー開始点補正処理サブルーチンも所定の周期で繰り返される。従って、ナビゲーションECU11は、サスペンションECU21から操舵開始点仮記憶指令が送信されるまで待機することになる。
【0090】
そして、ナビゲーションECU11は、サスペンションECU21から送信された操舵開始点仮記憶指令を受信すると、ステップS53において、車両の現在位置(座標位置)を検知し、その現在位置を表す情報を記憶装置14の予め設定した仮記憶エリアに仮に記憶する。この車両の現在位置が仮のコーナー開始推定点である。続いて、フラグF4をF4=1に設定して、本サブルーチンを一旦抜ける。従って、次回以降に本サブルーチンが開始されるときには、ステップS51の判断は「NO」となりステップS55の処理を行うことになる。
尚、現在位置を表す情報の記憶については、例えば、ナビゲーションECU11内のRAMや他の記憶素子を用いるようにしてもよい。
【0091】
ナビゲーションECU11は、ステップS55において、記憶キャンセル指令を受信したか否かを判断する。この記憶キャンセル指令は、サスペンションECU21がコーナー推定処理におけるステップS32にて送信する指令である。記憶キャンセル指令を受信していない場合は、続いて、ステップS56において、コーナー開始推定点確定指令を受信したか否かを判断する。このコーナー開始推定点確定指令は、サスペンションECU21がコーナー推定処理におけるステップS38にて送信する指令である。ナビゲーションECU11は、コーナー開始推定点確定指令を受信していない場合は、本サブルーチンを一旦抜ける。
【0092】
こうして、ナビゲーションECU11は、サスペンションECU21から記憶キャンセル指令あるいはコーナー開始推定点確定指令が送信されるまで待機する。待機中に記憶キャンセル指令を受信した場合には、ステップS57において、仮記憶位置情報を記憶装置14の仮記憶エリアから消去する。つまり、ステップS53において記憶した車両位置情報を消去する。例えば、操舵開始点を検出後、その操舵操作が路面外乱や車線変更によるものであると判定された場合には、サスペンションECU21から記憶キャンセル指令が送信され、仮記憶位置情報が消去される。続いて、ナビゲーションECU11は、ステップS58において、フラグF4をF4=0に設定して、本サブルーチンを一旦抜ける。従って、次回以降に本サブルーチンが開始されるときには、ステップS51の判断は「YES」となりステップS52により操舵開始点仮記憶指令を待つことになる。
【0093】
一方、ナビゲーションECU11は、ステップS56においてコーナー開始推定点確定指令を受信した場合には、その処理をステップS59に進め、記憶装置14の仮記憶エリアに記憶されている車両位置をコーナー開始推定点であると確定する。続いて、ナビゲーションECU11は、ステップS60において、記憶装置14に地図情報として記憶されているコーナー開始点と、先のステップS59で確定したコーナー開始推定点とのずれ量(距離)を算出し、所定値以上のずれが有るか否かを判断する。そして、算出したずれ量が所定値以上の場合には(S60:YES)、その処理をステップS61に進める。コーナー開始推定点と比較されるコーナー開始点とは、ナビゲーションECU11がコーナー情報通知処理におけるステップS11にて読み込んだ前方道路のコーナー形状情報におけるコーナー開始点である。
【0094】
ナビゲーションECU11は、ステップS60において、記憶装置14に地図情報として記憶されているコーナー開始点をコーナー開始推定点に補正する。つまり、記憶装置14に記憶されているコーナー開始点情報を、仮記憶エリアに記憶されているコーナー開始推定点情報に更新記憶する。尚、仮記憶エリアに記憶されているコーナー開始推定点情報は、更新記憶後に消去される。続いて、ステップS58に処理を進め、フラグF4をF4=0に設定して本サブルーチンを一旦抜ける。一方、ステップS60において、算出したずれ量が所定値未満と判定された場合には、ステップS61の補正処理を行わずに、ステップS58によるフラグ設定処理を行って本サブルーチンを抜ける。
【0095】
次に、コーナー情報補正処理ルーチンにおける2番目のサブルーチンであるコーナー曲率半径補正処理について説明する。図10は、コーナー曲率半径補正処理ルーチンを表すフローチャートである。このコーナー曲率半径補正処理ルーチンが起動されると、ナビゲーションECU11は、まず、ステップS71において、コーナー推定曲率半径情報を受信したか否かを判断する。このコーナー推定曲率半径情報は、サスペンションECU21がコーナー推定処理におけるステップS40において送信する情報である。コーナー推定曲率半径情報を受信していない場合は、本サブルーチンを一旦抜ける。本サブルーチンは、所定周期で繰り返される。従って、ナビゲーションECU11は、サスペンションECU21からコーナー推定曲率半径情報が送信されるまで待機することになる。
【0096】
そして、ナビゲーションECU11は、サスペンションECU21から送信されたコーナー推定曲率半径情報を受信すると、ステップS72において、記憶装置14に地図情報として記憶されているコーナー曲率半径Rと、コーナー推定曲率半径Rxとのずれ量(距離)を算出し、所定値以上のずれが有るか否かを判断する。そして、算出したずれ量が所定値以上の場合には(S72:YES)、ステップS73に処理を進める。
【0097】
ナビゲーションECU11は、ステップS73において、記憶装置14に地図情報として記憶されているコーナー曲率半径Rをコーナー推定曲率半径Rxに補正する。つまり、コーナー曲率半径情報を更新記憶する。このコーナー曲率半径Rは、ナビゲーションECU11がコーナー情報通知処理のステップS11にて読み込んだ前方道路のコーナー形状情報における曲率半径情報である。一方、ステップS72において、算出したずれ量が所定値未満と判定された場合には、ステップS73の補正処理を行わずに、本サブルーチンを抜ける。
【0098】
本コーナー情報補正処理ルーチンは、所定の周期で繰り返し実行される。従って、車両が実際にコーナーを通過するたびにコーナー形状が推定され、記憶装置14に記憶されているコーナー形状がコーナー推定形状と相違する場合には、記憶装置14に記憶されているコーナー形状がコーナー推定形状に書き換えられる。また、操舵開始点が検出された場合であっても、操舵開始点における操舵が運転者の行ったコーナー走行用の操作によるものでないと判定した場合には、記憶キャンセル指令によりコーナー推定形状による補正を行わないように構成している。この結果、記憶装置14に記憶されたコーナー情報の信頼性が高くなる。
【0099】
次に、サスペンションECU21の実行するロール抑制制御について説明する。図11は、サスペンションECU21が実行するロール抑制制御ルーチンを表すフローチャートである。このロール抑制制御ルーチンは、サスペンションECU21のROM内に制御プログラムとして記憶され、図示しないイグニッションスイッチがオン状態とされると起動して所定の短い周期で繰り返される。
【0100】
ロール抑制制御ルーチンが起動すると、サスペンションECU21は、ステップS81において、ロール抑制制御開始指令を受信したか否かを判断する。ロール抑制制御開始指令は、上述したコーナー情報通知処理におけるステップS18においてナビゲーションECU11からサスペンションECU21に出力される。この場合、ナビゲーションECU11は、コーナー情報通知処理において車両の現在位置を検出し、車両が記憶装置14に記憶されたコーナー開始点情報で表されるコーナー開始点に到達したと判断したときにロール抑制制御開始指令をサスペンションECU21に出力する。
【0101】
サスペンションECU21は、ロール抑制制御開始指令を受信するまで、この処理を所定の周期で繰り返す。そして、そして、ナビゲーションECU11からロール抑制制御開始指令を受信すると、ステップS82において、車体のロール運動を抑制すべくサスペンションユニット30の油圧ダンパー34の減衰力を制御する。車両がコーナーを旋回しているときには、ヨーモーメントが車体に作用するため、旋回中心に対する車体の外側のサスペンションユニット30にはストロークを減少させるような力が作用し、旋回中心に対する車体の内側のサスペンションユニット30にはストロークを増加させるような力が作用する。そこで、サスペンションECU21は、旋回中心に対する車体の外側のサスペンションユニット30の油圧ダンパー34の縮側の減衰力大きくしてストロークを減少させないように制御し、旋回中心に対する車体の内側のサスペンションユニット30の油圧ダンパー34の伸側の減衰力を大きくしてストロークを増加させないように制御する。そして、車速が一定である場合、コーナーの曲率が大きいほど、すなわちコーナー曲率半径Rが小さくコーナーの曲がり方がきついほど、ヨーモーメントが大きく、サスペンションユニットに作用する力が大きくなるため、サスペンションユニット30の油圧ダンパー34の減衰力を大きくするように制御する。また、コーナーの曲率が一定である場合、車速が大きいほど、ヨーモーメントが大きく、サスペンションユニットに作用する力が大きくなるので、サスペンションユニット30の油圧ダンパー34の減衰力を大きくするように制御する。これにより車体のロール運動が抑制される。
【0102】
サスペンションECU21は、車両のコーナー走行が終了するまでステップS82の減衰力制御を行い、コーナー走行の終了を検知した時点でロール抑制制御ルーチンを一旦終了する。ロール抑制制御ルーチンは、所定の周期で繰り返し実行される。従って、車両が記憶装置14に記憶されたコーナー情報で表されるコーナー開始点を通過するたびに、上述した減衰力制御が実施されることになる。この場合、記憶装置14に記憶されたコーナー情報が、過去の車両走行時において推定したコーナー推定情報に補正(学習)されており、しかも、このコーナー推定情報が路面外乱等による誤情報を含まない精度の良いものであるため、減衰力制御を実際の道路形状に沿った適切なものにすることができる。従って、減衰力制御の開始タイミングがずれてしまうといったケースが抑制され、乗員に違和感を与えない。
【0103】
以上、本実施形態のコーナー学習システムについて説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0104】
ここで、コーナー推定処理の変形例について説明する。
<変形例1>
本実施形態においては、サスペンションECU21にて操舵操作の開始を検出したときにナビゲーションECU11に仮記憶指令を出力して操舵開始点を一時的に記憶しておく構成を採用しているが、例えば、操舵操作の開始を検出したときにタイマの計時をスタートさせ、その後、車両がコーナー旋回走行をしていると判定したときのタイマ計時時間と車速とから車両の走行距離を演算して操舵開始点(コーナー開始推定点)を求めるようにしてもよい。この場合、タイマ計時中において車速を積分して走行距離を算出し、コーナー走行判定時点における車両位置から走行距離分だけ戻った位置をコーナー開始推定点として求めるようにするとよい。この走行距離の演算は、サスペンションECU21で行ってもナビゲーションECU11で行ってもよい。また、タイマ計時中に、コーナー走行中ではないと判定されたときにはタイマをリセットして走行距離の演算を停止する。
【0105】
<変形例2>
本実施形態においては、操舵開始点が検出された後において、操舵速度ωxが第2基準値ω2以下に維持され、操舵角度θxが判定操舵角度範囲θrefの範囲に収まり、横加速度Gyxが判定横加速度範囲Gyrefに収まるという3つの条件が基準時間のあいだ連続して成立したか否かに基づいて、コーナー旋回走行が行われたか否かを判定しているが、それに限るものではない。
【0106】
例えば、基準時間の継続を条件とせずに、単に、操舵速度ωxが第2基準値ω2以下にまで低下したときに、操舵角度θxが判定操舵角度範囲θrefの範囲に入り、かつ、横加速度Gyxが判定横加速度範囲Gyrefに入っていれば、その時点で、コーナー旋回走行が行われていると判定する構成を採用してもよい。換言すれば、操舵速度ωxが第2基準値ω2以下にまで低下したときに、操舵角度θxが判定操舵角度範囲θrefの範囲に入っていなければ、あるいは、横加速度Gyxが判定横加速度範囲Gyrefに入っていなければ、その時点で、コーナー旋回走行が行われていない判定する構成である。この場合、図6に示したコーナー推定処理ルーチンは、ステップS27,S28,S29,S32,S33,S37の処理および、ステップS34,S41のフラグF3の設定処理を除いたものとなる。
【0107】
この変形例2は、操舵開始点が特定された後の操舵速度ωxの推移を検出し、その操舵速度ωxが第2基準値ω2以下にまで低下したときの操舵角θxと横加速度Gyxとに基づいてコーナー旋回走行の有無を判定するものといえる。
【0108】
<変形例3>
操舵開始点が特定された後の操舵速度ωxの推移を検出し、操舵速度ωxが第2基準値ω2以下にまで低下したときに、操舵角度θxが判定操舵角度範囲θrefの範囲に入っているか否か、あるいは、横加速度Gyxが判定横加速度範囲Gyrefに入っているか否かのいずれか一方の判定のみを行う構成を採用してもよい。この場合、図6に示したコーナー推定処理ルーチンは、ステップS30,S31の処理を省略した構成、あるいは、ステップS28,S29の処理を省略した構成となる。この場合においても、基準時間の継続条件を省略した構成であってもよい。
【0109】
<変形例4>
操舵開始点が特定された後の操舵速度ωxの推移を検出し、操舵速度ωxが第2基準値ω2以下にまで低下したときに、その後の操舵速度ωx、操舵角度θx、横加速度Gyxのうちの少なくとも一つの継続時間をチェックする簡易な構成であってもよい。つまり、操舵速度ωxが第2基準値ω2以下となる継続時間が基準時間に達したか否かの判定、あるいは、操舵角度θxが判定操舵角度範囲θrefの範囲に入っている継続時間が基準時間に達したか否かの判定、あるいは、横加速度Gyxが判定横加速度範囲Gyrefに入っている継続時間が基準時間に達したか否かの判定の少なくとも一つを行う構成であってもよい。
【0110】
<変形例5>
本実施形態においては、サスペンションECU21でコーナー曲率半径を計算しているが、ナビゲーションECU11側で計算してもよい。この場合、例えば、横加速度センサ24のセンサ信号をナビゲーションECU11にも供給する構成により実施することができる。
【0111】
<変形例6>
本実施形態においては、ステップS23において操舵速度ωxが第1基準値ω1を上回ったときに操舵が開始されたとして操舵開始点を特定しているが、操舵角度θxが判定基準値を上回ったとき、あるいは、車両の横加速度Gyxが判定基準値を上回ったときに操舵が開始されたとして操舵開始点を特定してもよい。また、この変形例6は、上述した変形例1〜5のすべてに適応することができる。
【0112】
また、コーナー推定処理以外の構成においても種々の変更が可能である。
例えば、本実施形態においては、コーナー形状情報に基づいてロール抑制制御を行うようにしているが、ロール抑制制御に限るものでなく、種々のコーナー制御を行うことができる。例えば、コーナー開始点を通過するときに、運転者に注意喚起するためのアラームブザー等を作動させるようにしてもよい。
【0113】
また、本実施形態においては、記憶装置14に記憶されているコーナー形状情報をサスペンションECU21により推定したコーナー推定形状情報で書き換える(上書きする)ようにしているが、コーナー形状情報に対する補正値を記憶するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0114】
【図1】本発明の実施形態に係るコーナー学習システムの全体を概略的に示したブロック図である。
【図2】コーナー学習システムにおけるナビゲーション装置の構成を概略的に示したブロック図である。
【図3】コーナー学習システムにおけるサスペンション制御装置の構成を概略的に示したブロック図である。
【図4】サスペンション制御装置におけるサスペンションユニットの構成を説明するための図である。
【図5】ナビゲーションECUにより実施されるコーナー情報通知処理ルーチンを表すフローチャートである。
【図6】サスペンションECUにより実施されるコーナー推定処理ルーチンを表すフローチャートである。
【図7】操舵速度、操舵角度、横加速度等の時間的推移と、コーナー推定処理の動作とを表す説明図である。
【図8】ナビゲーションECUにより実施されるコーナー情報補正処理ルーチンを表すフローチャートである。
【図9】ナビゲーションECUにより実施されるコーナー開始点補正処理サブルーチンを表すフローチャートである。
【図10】ナビゲーションECUにより実施されるコーナー曲率半径補正処理サブルーチンを表すフローチャートである。
【図11】サスペンションECUにより実施されるロール抑制制御ルーチンを表すフローチャートである。
【符号の説明】
【0115】
10…ナビゲーション装置、11…ナビゲーションECU、12…GPS受信機、13…ジャイロスコープ、14…記憶装置、20…サスペンション制御装置、21…サスペンションECU、15,22…車速センサ、23…操舵角度センサ、24…横加速度センサ、30…サスペンションユニット、Gyx…横加速度、Gyref(Gy1〜Gy2)…判定横加速度範囲、θx…操舵角度、θref(θ1〜θ2)…判定操舵角度範囲、Rx…コーナー推定曲率半径、R…コーナー曲率半径、Vx…車速、ωx…操舵速度、ω1…第1基準値、ω2…第2基準値。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の現在位置を検出するとともに、少なくともコーナー開始点を含むコーナー情報を地図情報とともに記憶したナビゲーション装置と、
車両の挙動情報を取得する車両挙動情報取得手段と、
車両の走行中に、車両の挙動情報から操舵開始点を特定し、その特定された操舵開始点を実際のコーナー開始点として推定するコーナー推定手段と、
上記ナビゲーション装置に記憶されているコーナー開始点を、上記コーナー推定手段により推定されたコーナー開始点に補正するコーナー情報補正手段と
を備えたコーナー学習システムにおいて、
上記コーナー推定手段は、
上記操舵開始点を特定した後の車両挙動情報の推移に基づいて、上記操舵開始点における操舵が運転者の行ったコーナー走行用の操作によるものか否か判別するコーナー走行用操作判別手段と、
上記操舵開始点における操舵が運転者の行ったコーナー走行用の操作によるものでないと判定された場合、上記操舵開始点を実際のコーナー開始点として推定しない推定除外手段と
を備えたことを特徴とするコーナー学習システム。
【請求項2】
上記車両挙動情報取得手段は、操舵角度情報と操舵速度情報と車両横加速度情報の少なくとも一つの情報を取得し、
上記コーナー推定手段は、上記操舵速度あるいは上記操舵角度あるいは上記車両横加速度が判定基準値を超えたときに操舵が開始されたとして上記操舵開始点を特定し、
上記コーナー走行用操作判別手段は、上記操舵開始点特定後の車両挙動情報の推移に基づいて、車両がコーナーを走行しているか否かを判別することにより、上記操舵開始点における操舵が運転者の行ったコーナー走行用の操作によるものか否か判別することを特徴とする請求項1記載のコーナー学習システム。
【請求項3】
上記車両挙動情報取得手段は、操舵角度情報と車両横加速度情報の少なくとも一方の情報と、操舵速度情報とを取得し、
上記コーナー走行用操作判別手段は、
上記操舵開始点が特定された後、操舵速度が保舵走行判定値以下にまで低下したことを検出する保舵走行移行検出手段と、
上記操舵速度が上記保舵走行判定値にまで低下したときの操舵角度が判定操舵角度範囲に入っていない場合に車両がコーナーを走行していないと判定する、あるいは、上記操舵速度が上記保舵走行判定値にまで低下したときの車両横加速度が判定横加速度範囲に入っていない場合に車両がコーナーを走行していないと判定するコーナー走行判定手段と
を備えたことを特徴とする請求項2記載のコーナー学習システム。
【請求項4】
上記コーナー走行判定手段は、上記操舵速度が上記保舵走行判定値にまで低下した後に、上記操舵速度が上記保舵走行判定値以下となる状態が基準時間継続しない場合、あるいは、上記操舵角度が上記判定操舵角度範囲に入っている状態が上記基準時間継続しない場合、あるいは、上記車両横加速度が上記判定横加速度範囲に入っている状態が上記基準時間継続しない場合には、車両がコーナーを走行していないと判定することを特徴とする請求項3記載のコーナー学習システム。
【請求項5】
上記車両挙動情報取得手段は、操舵角度情報と車両横加速度情報と操舵速度情報とを取得し、
上記コーナー走行用操作判別手段は、
上記操舵開始点が特定された後、上記操舵速度が保舵走行判定値以下にまで低下したことを検出する保舵走行移行検出手段と、
上記操舵速度が上記保舵走行判定値にまで低下したときの操舵角度が判定操舵角度範囲に入っており、かつ、車両横加速度が判定横加速度範囲に入っている場合に車両がコーナーを走行していると判定するコーナー走行判定手段と
を備えたことを特徴とする請求項2記載のコーナー学習システム。
【請求項6】
上記コーナー走行判定手段は、上記操舵速度が上記保舵走行判定値にまで低下した後に、上記操舵速度が上記保舵走行判定値以下となる状態が基準時間継続し、かつ、上記操舵角度および上記車両横加速度が上記判定操舵角度範囲および上記判定横加速度範囲に入っている状態が上記基準時間継続している場合に車両がコーナーを走行していると判定することを特徴とする請求項5記載のコーナー学習システム。
【請求項7】
上記車両挙動情報取得手段は、車速情報も含んで取得し、
上記判定操舵角度範囲は車速と車両横加速度とに応じて設定され、上記判定横加速度範囲は車速と上記ナビゲーション装置に記憶されたコーナー曲率半径とに応じて設定されることを特徴とする請求項3ないし請求項6の何れか一項記載のコーナー学習システム。
【請求項8】
上記操舵開始点が特定されたときの車両の位置情報を仮に記憶する仮位置情報記憶手段と、
車両がコーナーを走行中であると判定されたときに、上記仮位置情報記憶手段に記憶されている車両の位置情報を読み出して実際のコーナー開始推定点情報として処理する仮位置情報処理手段と
を備えたことを特徴とする請求項2ないし請求項7の何れか一項記載のコーナー学習システム。
【請求項9】
上記ナビゲーション装置は、上記コーナー情報として少なくともコーナー開始点とコーナー曲率半径とを記憶し、
上記コーナー推定手段は、上記コーナー開始点とコーナー曲率半径とを推定し、
上記コーナー情報補正手段は、上記ナビゲーション装置に記憶されているコーナー開始点とコーナー曲率半径とを、上記コーナー推定手段により推定されたコーナー開始点とコーナー曲率半径とに補正することを特徴とする請求項1ないし請求項8の何れか一項記載のコーナー学習システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2009−12571(P2009−12571A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175359(P2007−175359)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】