説明

ゴム成形体の射出成形方法

【課題】射出成形により未加硫のゴム成形体を成形するにあたり、ゴム成形体の脱型性を確保しつつ、サイクルタイムを短縮することができるゴム成形体の射出成形方法を提供すること。
【解決手段】下型7のキャビティ壁面9をトレイ36で被覆し、上型8のキャビティ壁面35を蓋体38で被覆した後、キャビティ11に未加硫ゴム組成物を射出注入して、トレイ36上にビードフィラー1bを成形し、そのビードフィラー1bが未加硫状態である間に、ビードフィラー1bをトレイ36および蓋体38と共に成形型6より取り出すようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ビードフィラーなどのゴム成形体を成形する射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複数のゴム成形体を組み合わせたゴム複合体からなる製品としては従来種々知られているが、その代表的なものに空気入りタイヤが挙げられる。空気入りタイヤは、例えば図10に示すように、サイドウォールゴム2やトレッドゴム3、インナーライナーゴム5など、ゴム成形体からなる複数の部材が貼り合わされて構成されている。
【0003】
カーカスプライ4は、平行配列された複数本のカーカスコードがゴム被覆されてなるゴム成形体であり、一対のビード部1に架け渡されるようにして配され、幅方向端部がビード部材10を挟み込むように巻き返されている。ビード部材10は、図11に示すように、径方向に縦長となる断面略三角形状の硬質ゴムからなる環状のビードフィラー1bと、ビードフィラー1bの内周に配された環状のビードコア1aとを有する。ビードコア1aは、例えばゴム被覆された鋼線の収束体から構成される。
【0004】
ビードフィラーは、一般に押出成形や射出成形により成形される。前者では、押出機を利用して、所定の断面形状を有する口金から未加硫ゴム組成物を押し出し、所定の長さで切断した後、端部同士を接合することにより成形される。後者では、押出機に類似の機構を利用して、加熱保持された成形型のキャビティに未加硫ゴム組成物を射出注入することにより成形される。
【0005】
ところで、押出成形では、切断や接合などの工程が必要となるため、工数が多くなるという問題があった。また、接合させる端部同士を密着させることにより、局所的に肉厚となる部分が形成され、ユニフォミティが低下する傾向にあった。下記特許文献1には、線状ゴムを渦巻状に積層することでビードフィラーを成形する方法が開示されているが、かかる方法では、ビードフィラーの先端部が線状ゴムの厚みによって丸みを帯びてしまうため、タイヤを成形する際にカーカスプライとの密着性が悪くなり、部材間の剥離が生じる原因になりやすい。
【0006】
これに対して、射出成形によれば、例えば下記特許文献2に記載されているように、ユニフォミティを確保して精度良くビードフィラーを成形することができる。しかしながら、通常の射出成形では、成形型内のゴム成形体に熱と圧力が一定時間加えられ、加硫工程を経た後に脱型が行われるため、得られるビードフィラーは加硫されたものであった。そのため、タイヤを成形する際に未加硫のカーカスプライとの接着性が良好ではなかった。
【0007】
一方、射出成形により未加硫のビードフィラーを成形する場合、次のような問題がある。即ち、未加硫のビードフィラーを成形型より取り出す際、剛性が低い未加硫の状態では成形型に粘着しやすく、形状を保持できずに形崩れを起こしやすくなるという問題がある。かかる問題は、成形型内でビードフィラーを十分に冷却して適度な剛性を持たせることにより改善されるものであるが、かかる冷却工程によってサイクルタイムが大幅に延びてしまうという問題がある。
【特許文献1】特開平11−105155号公報
【特許文献2】特開平5−69500号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、射出成形により未加硫のゴム成形体を成形するにあたり、ゴム成形体の脱型性を確保しつつ、サイクルタイムを短縮することができるゴム成形体の射出成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係るゴム成形体の射出成形方法は、成形型のキャビティに被覆部材を配設し、前記キャビティを構成するキャビティ壁面を被覆する被覆工程と、前記キャビティに未加硫ゴム組成物を射出注入し、前記被覆部材上にゴム成形体を成形する射出注入工程と、前記射出注入工程の後、前記ゴム成形体が未加硫状態である間に、前記ゴム成形体を前記被覆部材と共に前記成形型より取り出す脱型工程と、を備えるものである。
【0010】
本発明の射出成形方法では、まず、キャビティに被覆部材が配設され、キャビティ壁面が被覆部材により被覆される。これにより、射出注入された未加硫ゴム組成物が被覆部材を介してキャビティに充填され、ゴム成形体が被覆部材上に成形される。次に、成形されたゴム成形体が、未加硫状態である間に成形型から取り出される。未加硫状態のゴム成形体は、剛性が低く成形型に粘着しやすいものであるが、本発明では、ゴム成形体が被覆部材と共に取り出されることにより、成形型に粘着することなく、また形崩れを起こすことなく、脱型が円滑に行われる。
【0011】
上述のように、本発明では、未加硫状態のゴム成形体の剛性を高めるべく十分に冷却する必要がなく、加えて成形型内での加硫工程を省略しているため、射出成形のサイクルタイムを大幅に短縮することができる。脱型したゴム成形体は、成形型外で十分に冷却させることができ、形崩れを起こすことなく被覆部材から容易に取り出すことができる。ここで、「未加硫状態」とは、加硫が行われていない状態を指すが、加硫反応が全く進行していないものに限られず、JISK6200で定義される加硫不足(最適加硫に到達していない加硫状態)に相当するものも含まれるとする。
【0012】
上記において、前記射出注入工程と前記脱型工程との間に、前記ゴム成形体を冷却する冷却工程を備えるものが好ましい。
【0013】
これによりゴム成形体が未加硫状態である間に冷却されるため、加硫反応を進行させることなく、未加硫状態のゴム成形体をより確実に得ることができる。本発明では、ゴム成形体がトレイと共に取り出されることによって、成形型との粘着や形崩れが効果的に抑制されるため、上記冷却工程では、ゴム成形体の剛性を高めるための冷却時間を確保する必要がなく、サイクルタイムに悪影響を与えない。
【0014】
上記において、前記被覆部材は、前記成形型に吸引固定された状態で前記キャビティに配設され、前記脱型工程では、前記被覆部材が吸引固定を解除された状態で前記成形型から離反されるものが好ましい。
【0015】
上記構成によれば、被覆部材をキャビティに容易且つ確実に配設することができる。また、脱型の際には、吸引固定が解除された状態で成形型から離反されるため、被覆部材をゴム成形体と共に円滑に脱型することができる。
【0016】
上記において、前記成形型が、型締め状態で界面に前記キャビティが形成される第1の型と第2の型とを備え、前記被覆部材が、前記第1の型が有する第1のキャビティ壁面を被覆する第1被覆部材と、前記第2の型が有する第2のキャビティ壁面を被覆する第2被覆部材と、を備えるものが好ましい。
【0017】
上記構成によれば、キャビティを構成する第1のキャビティ壁面と第2のキャビティ壁面とが各々被覆されるため、ゴム成形体の成形型との粘着がより確実に妨げられ、脱型性が良好に確保される。
【0018】
上記本発明の好ましい実施形態として、前記第1被覆部材が、未加硫ゴム組成物が射出注入される凹部を有するトレイであり、前記第2被覆部材が、平板状の蓋体であるものが挙げられる。
【0019】
被覆部材の形状は、成形型のキャビティおよびゴム成形体の形状に応じて適宜に設定されるものであるが、凹部を有するトレイと平板状の蓋体とで被覆部材を構成することにより、その取り扱いが容易になる。
【0020】
上記において、前記ゴム成形体が、径方向に縦長となる断面略三角形状をなす環状のビードフィラーであるものが好ましい。
【0021】
本発明は、ゴム成形体としてビードフィラーを成形する場合に特に有用となるものであり、従来のビードフィラーの成形に係る不具合を効果的に解消することができる。即ち、本発明が射出成形方法であることにより、径方向に縦長となる断面略三角形状をなす環状のビードフィラーを、良好なユニフォミティで精度良く成形することができる。しかも、未加硫状態のビードフィラーが得られることにより、タイヤ成形時に未加硫のカーカスプライとの接着性が良好となる。そして、成形型から未加硫状態のビードフィラーを取り出すにあたり、成形型と粘着して形崩れを起こすなど脱型性が問題になり易いところ、本発明によれば、ゴム成形体がトレイと共に取り出されることによって脱型性が確保される。加えて、上述のように冷却時間および加硫時間を確保する必要がなく、サイクルタイムを大幅に短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。本実施形態では、ゴム成形体の一例としてビードフィラーを取り上げ、具体的には図11に示すようなビードコア1aが内周に一体化されたビードフィラー1b、即ちビード部材10の成形について説明する。
【0023】
まず、ビード部材10の成形に用いられる成形型について説明する。図1は、成形型の(a)型締め状態および(b)型開き状態を示す斜視図である。図2は、型締め状態における成形型の縦断面図であり、図1(a)のA−A断面に相当する。
【0024】
成形型6は、下型7(前記第1の型に相当する。)と上型8(前記第2の型に相当する。)とからなり、型締め状態で界面に環状のキャビティ11が形成されている。キャビティ11は、下型7の上面に形成された凹状のキャビティ壁面9(前記第1のキャビティ壁面に相当する。)と、上型8の下面とから構成されている。即ち、上型8の下面の一部がキャビティ壁面35(前記第2のキャビティ壁面に相当する。)となり、キャビティ壁面9と共にキャビティ11を構成している。
【0025】
上型8は、その上面の中心から下面に向かって延びるスプルー12と、スプルー12から幅方向両側に分岐して延びるランナー13と、ランナー13の端部から断面積を小さくしながら延びてキャビティ11に連通するゲート14とを備える。スプルー12には、後述する射出機構27より未加硫ゴム組成物が供給され、供給された未加硫ゴム組成物は、ランナー13およびゲート14を介してキャビティ11に注入される。
【0026】
ここで、未加硫ゴム組成物とは、原料ゴムに加硫剤などの配合材料を常法にて配合し、加熱架橋を可能に調製したものをいう。原料ゴムとしては特に制限がなく、天然ゴム、スチレンーブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレンゴム(IR)などの汎用のゴムを用いることができる。
【0027】
図3は、上型8の横断面図であり、図1(b)および図2のB−B断面に相当する。流路15は、略環状に形成されており、上型8の側面に供給口17および排出口18を有する。供給口17には、後述する温水供給機構30より温水が供給される。供給された温水は、流路15に沿って上型8内を流れ、排出口18より排出される。流路15は、キャビティ11上方の領域を避けつつ、ランナー13の上方近傍を通って上型8の略全域に形成されている。
【0028】
図4は、上型8の横断面図であり、図1(b)および図2のC−C断面に相当する。流路16は、流路15と同様に略環状に形成され、供給口19および排出口20を有するが、供給口19には後述する冷水供給機構31より冷水が供給される点と、キャビティ11の上方近傍を通るように形成されている点において流路15と異なる。
【0029】
下型7には、上型8に形成された流路15、16と同様に、キャビティ11下方の領域を避けて通る流路21と、キャビティ11の下方近傍を通る流路22とが形成されている。流路21には、温水供給機構30より温水が供給され、流路22には、冷水供給機構31より冷水が供給される。また、下型7のキャビティ11下方には、エジェクタピン23が設けられている。エジェクタピン23は、後述する押圧機構28により上下動され、先端部がキャビティ壁面9に揃えられた位置とキャビティ11に侵入する位置との間で、変位可能に構成されている。
【0030】
吸引孔32は、上型8を貫通して延びており、上型8の上面とキャビティ壁面35とで開口している(図9参照)。本実施形態では、キャビティ11の周方向に沿って等間隔で4つの吸引孔32が形成されている。上型8の上面に形成された各吸引孔32の開口部は、不図示の導管を介して後述する吸引機構33に接続されている。
【0031】
成形型6の材質としては、特に限られるものではないが、鉄若しくは鉄を主成分とする鋼材からなる金型が好ましく用いられる。また、アルミニウムやアルミニウム合金、亜鉛合金など、射出成形に一般的に用いられる材質でもよい。
【0032】
図5は、射出成形機の構成を簡易的に示したブロック図である。図5に示す射出成形機は、固定盤24と可動盤25とからなる一対のプレートを有し、固定盤24に下型7が取り付けられ、可動盤25に上型8が取り付けられる。昇降機構26は、例えば油圧シリンダにより駆動され、可動盤25を昇降させる機能を有する。これにより、成形型6の型締めおよび型開きが行われる。
【0033】
射出機構27は、シリンダや材料供給装置を備え、未加硫ゴム組成物を成形型6のキャビティ11に射出注入する機能を有する。押圧機構28は、固定盤24に設けられ、下型7の下面からエジェクタピン23を上方に突き上げる機能を有する。吸引機構33は、上型8の上面にて吸引孔32と接続されており、キャビティ壁面35に形成された吸引孔32の開口からエアを吸引可能に構成されている。制御装置29は、各機構の動作を制御する機能を有する。
【0034】
温水供給機構30は、成形型6の流路15、21に温水を供給する機能を有する。冷水供給機構31は、成形型6の流路16、22に冷水を供給する機能を有する。温水供給機構30および冷水供給機構31は、上型8または下型7より排出された温水または冷水を温調した後、再び供給するように循環可能に構成されている。温水および冷水の温度や流量、供給タイミングなどは制御装置29により制御される。
【0035】
次に、ビード部材10の成形に用いられるトレイ(前記第1被覆部材に相当する。)と蓋体(前記第2被覆部材に相当する。)について説明する。図6は、トレイおよび蓋体の(a)斜視図および(b)断面図である。
【0036】
トレイ36は、環状の凹部37を有する丸皿状部材であり、本実施形態では0.3〜0.5mm厚の合成樹脂により形成されている。トレイ36は、下型7の上面に沿った外面形状を有し、キャビティ11に配設されてキャビティ壁面9を被覆可能に構成されている。また、ビード部材10の形状に沿った内面形状を有しており、後述するように凹部37に未加硫ゴム組成物が注入されてビード部材10が成形される。なお、トレイ36の形状はこれに限られず、被覆するキャビティ壁面や成形するゴム成形体に応じて適宜に変更される。
【0037】
蓋体38は、上面視ドーナツ形の平板状部材であり、本実施形態では成形型6と同じ金属材料により形成されている。蓋体38の外径は、トレイ36の凹部37の外径と略同寸法に設定されている。一方、蓋体38の内径は、凹部37の内径よりも大きく、ビードコア1aの外径と略同寸法に設定されている。
【0038】
トレイ36および蓋体38の材質としては耐熱性を備えるものが好ましく、具体的には、成形型6が加熱保持される100〜130℃程度の温度で変形しないものが好ましい。例えばポリプロピレン等の熱可塑性樹脂でもよいが、ガラス繊維等の樹脂強化材を含有するものが好ましく用いられる。更に、エポキシ樹脂やシリコーン系樹脂等の耐熱性樹脂、各種金属材料も好ましく用いられる。上記の素材により形成されたトレイ36または蓋体38によれば、後述する脱型の際に成形型6と粘着せず、ゴム成形体の形崩れが効果的に防止される。
【0039】
次に、ビード部材10を成形する方法について説明する。図7は、ビード部材の成形手順を示すフローチャートである。図8は、ビード部材の成形手順を示す成形型6の縦断面図である。図9は、図8(b)におけるキャビティ周辺の拡大図である。
【0040】
まず、図8(a)に示すように、型開き状態の成形型6に対して、下型7にトレイ36がはめ込まれるとともに、上型8に蓋体38が固定される(#1)。トレイ36は、上述のように下型7の上面に沿った外面形状を有しており、キャビティ壁面9に適切にはめ込まれる。一方、蓋体38は、吸引機構33によりキャビティ壁面35に吸引固定され、ゲート14を塞がない位置に配置される。トレイ36をはめ込んだ後、その凹部37の内周側部分にビードコア1aがはめ込まれる(#2)。
【0041】
続いて、可動盤25が降下し、図8(b)および図9に示すように、下型7に上型8が密着されて型締めが行われる(#3)。これにより、下型7と上型8の界面にキャビティ11が形成され、トレイ36および蓋体38がキャビティ11に配設される(前記被覆工程に相当する。)。かかる状態において、キャビティ壁面9はトレイ36により被覆されており、キャビティ壁面35は蓋体38により被覆されている。また、ゲート14は、ビードコア1aと蓋体38との間隙からキャビティ11に連通している。
【0042】
型締め後、射出機構27により未加硫ゴム組成物がキャビティ11に射出注入される(#4、前記射出注入工程に相当する。)。かかる時点において、成形型6は、温水供給機構30から供給される温水により所定温度に加熱保持されている。この温度は、未加硫ゴム組成物の流動性が確保されるものであれば加硫温度より低温であってもよく、または従来の射出成形と同様に加硫温度であっても構わない。
【0043】
射出注入された未加硫ゴム組成物はキャビティ11に充填され、ビードコア1aが内周に一体化された環状のビードフィラー1b、即ちビード部材10が成形される。本実施形態では、キャビティ壁面9がトレイ36により被覆されており、未加硫ゴム組成物はトレイ36の凹部37に注入され、ビード部材10がトレイ36上に成形される。
【0044】
続いて、成形されたビードフィラー1bが未加硫状態である間に、冷水供給機構31より冷水が供給され、ビード部材10が冷却される(#5、前記冷却工程に相当する。)。成形型6が加硫温度に保持されている場合は、少なくとも加硫温度より低温になるまで冷却される。これにより、ビードフィラー1bが加硫されずに未加硫状態で保持される。本発明では、後述するようにビード部材10の脱型性が確保されるため、ビードフィラー1bの剛性を高めるべく冷却を十分に行う必要がない。
【0045】
その後、可動盤25が上昇し、図8(c)に示すように成形型6の型開きが行われる(#6)。このとき、吸引機構33による蓋体38の吸引固定は解除された状態となっており、蓋体38がビード部材10と共に上型8から離れるため、型開き時の上型8との粘着は効果的に抑制される。なお、吸引機構33にエア噴出機能を持たせ、型開きの際にキャビティ壁面35に形成された吸引孔32の開口よりエアを噴出させるようにしてもよい。これにより、蓋体38を上型8から容易に離反させることができる。
【0046】
そして、図8(d)に示すように、未加硫状態のビードフィラー1b(ビード部材10)がトレイ36と蓋体38と共に成形型6から取り出される(#8、前記脱型工程に相当する。)。ビード部材10は、トレイ36に載せられた状態で取り出されるため、下型7に粘着することなく、また形崩れを起こすことなく円滑に脱型される。ビード部材10を脱型する際は、押圧機構28によりエジェクタピン23が上方に突き上げられる。これにより、エジェクタピン23の先端部でトレイ36が脱型方向(本実施形態では上方)に押圧されて脱型が容易になる(#7)。
【0047】
脱型されたビード部材10は、成形型6外で十分に冷却させることができ、形崩れを起こすことなくトレイ36から容易に取り出すことができる。また、脱型後、別のトレイ36、蓋体38およびビードコア1aを配設することで、次のビード部材10の成形に直ちに開始することができる。
【0048】
成形されたビード部材10は、例えば図10に示すように、カーカスプライ4などの他の未加硫のゴム成形体と組み合わされて空気入りタイヤを構成する。本発明により成形されたビードフィラー1bは未加硫状態であり、加硫工程を経たビードフィラーを用いる場合に比べて、カーカスプライ4との接着性に優れたものとなる。ここで、ビードフィラー1bは、加硫が全く進行していないものに限られず、加硫不足に相当する状態であっても構わない。但し、サイクルタイムの短縮およびカーカスプライ4との接着性の観点から、未加硫ゴム組成物の射出注入後直ちに冷却を開始し、できる限り加硫を進行させないことが好ましい。
【0049】
本発明により成形されるゴム成形体は、ビードフィラー1bに限られるものではなく、例えば図10に示したサイドウォールゴム2などのタイヤ構成部材や、タイヤ以外のゴム複合体を構成するゴム成形体であってもよい。
【0050】
<別実施形態>
(1)前述の実施形態では、成形型6が、凹状のキャビティ壁面9を上面に有する下型7と、平坦な下面を有する上型8とからなる例を示したが、本発明はこれに限られず、成形するゴム成形体に応じて種々の形状の成形型を使用することができる。例えば、上型8の下面に凹状のキャビティ壁面が形成されていても構わない。かかる場合、平板状の蓋体38に代えて、上型8の下面に沿った外面形状を有するトレイが用いられる。したがって、被覆部材は、凹部を有する複数のトレイからなるものでもよい。
【0051】
(2)前述の実施形態では蓋体38がトレイ36と別個の部材である例を示したが、トレイ36の凹部37にビードコア1a等の部材を配設する必要が無い場合には、蓋体38がトレイ36と一体化されたものでもよい。これにより、蓋体38の成形型6への配設がより簡単に行われる。かかる場合、ゲート14に連通する穴を蓋体38に設けておくことで、凹部37に未加硫ゴム組成物を注入することができる。また、トレイ36よりゴム成形体を取り出す際は、蓋体38を切除するなどしてトレイ36から分離させればよい。
【0052】
(3)前述の実施形態のように成形型6の開閉方向が鉛直となる竪型の射出成形機の場合、脱型時にゴム成形体の粘着が問題になるのは主に下型7である。そのため、被覆部材としてトレイ36を単独で使用し、キャビティ壁面9のみを被覆して射出成形を行っても構わない。即ち、脱型性が確保されるものであれば、キャビティを構成するキャビティ壁面を全て被覆する必要は無く、本発明では少なくとも1つのキャビティ壁面を被覆すればよい。
【0053】
(4)被覆部材としては、薄いシート状またはフィルム状の部材を用いることができる。即ち、型開き状態の成形型6に対し、当該被覆部材を下型7の上面に沿わせて配設することによりキャビティ壁面9が被覆され、前述の実施形態のトレイ36のように扱うことができる。かかる場合、当該被覆部材の形状を、キャビティ壁面9の展開図に対応させることにより、キャビティ壁面9を被覆した際に表面が波打たず、ゴム成形体の表面に影響を及ぼすことがない。
【0054】
(5)成形型や射出成形機の構成は、前述の実施形態で示したものに限られない。例えば、前述の実施形態では、成形型の開閉方向が鉛直となる竪型の射出成形機の例を示したが、これに代えて開閉方向が水平となる横型にしてもよい。かかる場合、左右どちらかのキャビティ壁面は凹部を有する被覆部材により被覆されており、ゴム成形体は被覆部材上に成形される。
【0055】
前述の実施形態では、蓋体38を上型8に吸引固定する例を示したが、これと同様にトレイ36を下型7に吸引固定してもよい。これにより、下型7からのトレイ36の浮き上がりを防止することができる。また、脱型時にエアを噴出させれば下型7からのゴム成形体の脱型を容易に行うことができる。更に、前述の実施形態のような温水と冷水による温調に代えて、例えば油やヒーターなど種々の温調手段を用いることができる。かかる場合、成形型の適宜の箇所に温度センサを配設し、検出された温度に基づいて温度制御がなされるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】成形型の斜視図
【図2】型締め状態における成形型の縦断面図
【図3】上型の横断面図
【図4】上型の横断面図
【図5】射出成形機の構成を簡易的に示すブロック図
【図6】トレイおよび蓋体の斜視図および断面図
【図7】ビード部材の成形手順を示すフローチャート
【図8】ビード部材の成形手順を示す成形型の縦断面図
【図9】図8(b)におけるキャビティ周辺の拡大図
【図10】空気入りタイヤの子午線断面図
【図11】ビード部材を一部破断させて示した斜視図
【符号の説明】
【0057】
1 ビード部
1a ビードコア
1b ビードフィラー
4 カーカスプライ
6 成形型
7 下型
8 上型
9 キャビティ壁面
10 ビード部材
11 キャビティ
13 ランナー
23 エジェクタピン
24 固定盤
25 可動盤
27 射出機構
30 温水供給機構
31 冷水供給機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形型のキャビティに被覆部材を配設し、前記キャビティを構成するキャビティ壁面を被覆する被覆工程と、
前記キャビティに未加硫ゴム組成物を射出注入し、前記被覆部材上にゴム成形体を成形する射出注入工程と、
前記射出注入工程の後、前記ゴム成形体が未加硫状態である間に、前記ゴム成形体を前記被覆部材と共に前記成形型より取り出す脱型工程と、を備えるゴム成形体の射出成形方法。
【請求項2】
前記射出注入工程と前記脱型工程との間に、前記ゴム成形体を冷却する冷却工程を備える請求項1に記載のゴム成形体の射出成形方法。
【請求項3】
前記被覆部材は、前記成形型に吸引固定された状態で前記キャビティに配設され、
前記脱型工程では、前記被覆部材が吸引固定を解除された状態で前記成形型から離反される請求項1又は2に記載のゴム成形体の射出成形方法。
【請求項4】
前記成形型が、型締め状態で界面に前記キャビティが形成される第1の型と第2の型とを備え、
前記被覆部材が、前記第1の型が有する第1のキャビティ壁面を被覆する第1被覆部材と、前記第2の型が有する第2のキャビティ壁面を被覆する第2被覆部材と、を備える請求項1〜3いずれか1項に記載のゴム成形体の射出成形方法。
【請求項5】
前記第1被覆部材が、未加硫ゴム組成物が射出注入される凹部を有するトレイであり、
前記第2被覆部材が、平板状の蓋体である請求項4に記載のゴム成形体の射出成形方法。
【請求項6】
前記ゴム成形体が、径方向に縦長となる断面略三角形状をなす環状のビードフィラーである請求項1〜5いずれか1項に記載のゴム成形体の射出成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−248037(P2006−248037A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−67628(P2005−67628)
【出願日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】