説明

ゴム積層体

【課題】 ゴム物性を反映させた積層体を得ることが出来ると共に、面圧を受けた際の最大主歪みを小さくでき、剪断変形時の最大主歪みも小さくすることが出来るゴム積層体を提供することにある。
【解決手段】 ゴム部の中心部分と金属板の接着面から1mm範囲のゴム部の剪断弾性率の比が、1.5以下となるような金属接着剤を選択して使用することで、ゴム物性を反映させた積層体を得ることが出来、またゴムシートの外周から半径1/4以下のゴム部分の物性を、中心側ゴム部分の物性と異なったもの、即ち、外周部分のゴムの物性を、中心部のゴム物性よりも硬度が高いものとしたり、また中心部のゴム物性よりも伸びが高いものとすることで、面圧を受けた際の最大主歪みを小さくでき、剪断変形時の最大主歪みも小さくすることが出来る。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、橋梁用支承や免震積層体等に使用されるゴム積層体に係わり、更に詳しくはゴム物性を反映させた積層体を得ることが出来るゴム積層体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、橋梁用支承や免震積層体等に使用されるゴム積層体は、複数枚のゴムシートと金属板とを金属接着剤を介在させながら交互に積層して加硫接着することにより構成される。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】上記のようなゴム積層体は、接着剤に含まれる架橋剤の影響で接着界面近傍のゴム弾性が上昇し、積層体全体の剪断弾性率が上昇してしまうと言う現象があった。また、接着剤の影響がある範囲は一定であることから、ゴム厚の違いにより積層体の弾性率が異なってしまうと言う問題が発生していた。更に、橋梁用支承や免震積層体等に使用されるゴム積層体は、構造物の荷重を支えつつ剪断変形することから、鉄板の外周付近の接着界面付近に歪みが集中し、予想よりも低い剪断変形により破壊に至ってしまうと言う問題があった。
【0004】ところで、積層体のゴム物性に接着剤がどのような影響を与えているか否かを知ることにより、最適な接着剤の選択や、ゴム物性の異なったものを最適な位置に配置することで、目的とする剪断弾性率のゴム積層体を製作することは可能であるが、従来の方法では、ゴムの断面物性分布を正確に測定することが難しいと言う問題があった。
【0005】例えば、図10(a)に示すように、鉄板1に接着剤2を介して加硫接着されたゴム3の硬度分布を測定する場合、鉄板近傍Xのゴム硬度を硬度計の針4を突き刺して測定した場合、ゴム3は鉄板1に接着されていることから、ゴム3の変形が鉄板1から離れた位置Yのゴム変形に比べて小さく、実際の値よりも高い数値となって正確な硬度分布を測定することが出来ない。また、図10(b)に示すように、ゴム3の端部が鉄板1と接着していない状態のものを硬度計で測定した場合、端末部のゴム3aは針4を突き刺すことで横方向に逃げてしまい、端末部から離れた位置Yのゴム変形に比べてゴム3の変形が大きくなり、実際の値よりも低い数値となって正確な硬度分布を測定することが出来ない。
【0006】更に、図10(c)に示すように、金属接着剤5を未加硫ゴム6で挟んで加硫し、金属接着剤5の近傍Zを硬度計で測定する場合、硬化後の金属接着剤5に可撓性がある場合には、この方法が簡便であるが、パリパリに硬化するような種類の接着剤の場合には、上記(a)と同様な効果が出て実際の値よりも高い数値となって正確な硬度分布を測定することが出来ない。また、スライスカットによる断面各層の物性測定を行う場合、接着界面のゴムを採取することが非常に困難であり、うまく採取出来たとしてもスライス厚さが最低0.5 mmである事から、実際の接着界面付近のゴム物性を得ることは不可能に近いと言う問題があった。
【0007】この発明の目的は、ゴム物性を反映させた積層体を得ることが出来ると共に、面圧を受けた際の最大主歪みを小さくする、或いはその部分のゴムの破壊特性を向上させる事により、剪断変形時の破壊特性を向上することが出来るゴム積層体を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】この発明は上記目的を達成するため、ゴム部の中心部分と金属板の接着面から1mm範囲のゴム部の剪断弾性率の比が、1.5以下となるように設定したことを要旨とするものである。また、この発明はゴムシートの外周から半径1/4以下のゴム部分の物性を、中心側ゴム部分の物性と異なったもので構成したことを要旨とするものである。
【0009】この発明は、上記のように構成され、ゴム部の中心部分と金属板の接着面から1mm範囲のゴム部の剪断弾性率の比が、1.5以下となるような金属接着剤を選択して使用することで、ゴム物性を反映させた積層体を得ることが出来、またゴムシートの外周から半径1/4以下のゴム部分の物性を、中心側ゴム部分の物性と異なったもの、即ち、外周部分のゴムの物性を、中心部のゴム物性よりも硬度が高いものとする事で、剪断変形時にその部分に歪みが集中してもゴム自信が破壊しなくすることが出来るものである。また中心部のゴム物性よりも伸びが高いものとすることで、面圧を受けた際の最大主歪みを小さくする、或いはその部分のゴムの破壊特性を向上させる事により剪断変形時の破壊特性を向上することが出来るものである。
【0010】
【発明の実施の形態】以下、添付図面に基づき、この発明の実施形態を説明する。図1は、この発明を実施した一層のゴム積層体10の斜視図を示し、このゴム積層体10は、ゴムシート11と、そのゴムシート11の上下面側に配設された金属板12a,12bとを金属接着剤13を介在させて積層し、この積層体を加硫接着により一体的に成形してある。
【0011】この発明の第1実施形態では、中心部分のゴム部11aと、金属板12a,12bの接着面から1mm範囲のゴム部11bの剪断弾性率(G)の比が、1.5以下となるような金属接着剤13を選択して使用している。この金属接着剤13としては、例えば、メタロックG,ケムロック234B, シクソン511T, シクソンOSN2等が知られており、この発明で使用する金属接着剤13は、剪断弾性率(G)の比が1.5以下となるメタロックGやシクソン511Tを使用している。
【0012】このような金属接着剤13を使用することによって、ゴム物性を反映させたゴム積層体10とすることが出来、またこのゴム積層体10は、複数枚のゴムシート11と金属板12a,12bとを交互に積層させた多層構造のゴム積層体についても実施できるものである。以下の表1は、上記実施形態の評価結果を示している。
【0013】
【表1】


【0014】前記中心部分のゴム部11aと、金属板12a,12bの接着面から1mm範囲のゴム部11bとのゴム物性分布の測定方法としては、図2に示すように、ゴムシート11から成るゴム状弾性体の上下面に金属板12a,12bを金属接着剤を介して接着し、この積層体を加硫接着して測定サンプルを製作する。そして、前記サンプル14の側面に基準標識を記入する。基準標識としては、ゴム断面の各部分の位置が判るものであれば特に限定されるものではないが、剪断方向に垂直な線分、或いはメッシュを記入すると判りやすい。今回の場合は、0.25mm間隔のメッシュを基準標識として用いた。このサンプル14の金属板12a,12bを互いに反対方向(図2の実施形態では、図の矢印に示すように、互いに内側方向)に移動させてゴム状弾性体のサンプル14に剪断歪み変形を生じさせる。
【0015】そして、図3(a)または(b)に示すように、前記基準標識となる0.25mm間隔のメッシュ15に基づきゴム状弾性体の変形度合いを計測する。即ち、ゴム状弾性体の中心部分のゴム部11aと、金属板12a,12b近傍のゴム部11bとが同じ硬さのものであれば、図3(a)に示すように、メッシュ15の傾き、即ち、メッシュラインRが所定の傾斜角度で直線的となり、またゴム状弾性体の中心部分のゴム部11aが柔らかい層で、金属板12a,12b近傍のゴム部11bが硬い層の場合には、メッシュラインRが略S字状の形態となる。
【0016】この時のメッシュ15のメッシュラインRの変化をビデオマイクロスコープ等の撮影機を用いて撮影を行い変形度合いを計測することにより、接着界面近傍のゴム物性分布を測定する。この際、実際のゴム物性値は測定することは出来ないが、接着面から離れた中心部分のゴム部11aにおけるゴム物性値が判れば、その部分との歪みの比から接着界面付近のゴム部11bの物性値を算定推定することが出来る。算定方法の一例を、以下図4〜図6を用いて説明する。また、表2はその算定結果である。
【0017】図4は、実際のサンプルを剪断変形させた際の断面の状態を示している。この図から明らかなように、剪断方向に対して垂直の基準線はS字のラインを描いている。このラインを抽出したのが図5である。この図5に示す抽出したラインから明らかなように、接着面近傍のゴムは接着剤の影響によりゴムが硬くなっていることから、中心部分に比較して接着面近傍ではラインがたった状態になっている。このラインの傾きが間接的にはゴムの弾性率であることから、接着剤の影響のない中心部分との傾きの比を求めることにより、接着面近傍と中心部分との弾性率の比が求められる。
【0018】図6は、前記傾きの比を表したグラフであるが、このグラフから明らかなように殆ど接着面に近い部分のゴムの弾性が中心部分に比べて何倍になっているか判る。このサンプルの中心部分のゴム物性を切り出して測定することにより、図6の結果から接着界面の物性値は推定算出することが出来る。下記の表2はその結果を示している。
【0019】
【表2】


【0020】上記のように、ゴム状弾性体の側面に基準標識となる0.25mm間隔のメッシュラインRを記入し、ゴムを剪断変形させた測定を行った場合と、上記従来の硬度部分測定方法とを比較した場合、従来の何れの方法の場合も接着界面から0.5 mm以内の物性分布測定を行うことは不可能であり、更に金属を接着したままでの硬度測定の場合には、硬度がかなり高い値となり、反対に金属を取り除いた場合には、硬度が低い値となる問題があった。
【0021】次に、図7及び図8は、この発明にかかる積層体の第2実施形態を示し、この第2実施形態は、円盤状のゴムシート11と金属板12a,12bとを金属接着剤13を介在させて積層し、この積層体を加硫接着して構成したゴム積層体であって、前記ゴムシート11の外周から半径1/4以下のゴム部分、即ち、外周部分のゴム部11cの物性を、中心側ゴム部分11dの物性と異なったもので構成するものである。
【0022】即ち、外周部分のゴム部11cのゴムの物性を、中心側ゴム部分11dのゴム物性よりも硬度が高いものとしたり、中心部のゴム物性よりも伸びが高いものとして構成したものである。これにより、面圧を受けた際の最大主歪みを小さくすることが出来、剪断変形時の最大主歪みも小さくすることが出来るものである。以下の表3は、この発明の実施例と比較例との評価結果を示している。
【0023】
【表3】


【0024】以上のように、この発明のゴム積層体では、ゴム部の中心部分11aと金属板12a,12bの接着面から1mm範囲のゴム部の剪断弾性率の比が、1.5以下となるような金属接着剤13を選択して使用することで、ゴム物性を反映させた積層体を得ることが出来る。
【0025】またゴムシート11の外周から半径1/4以下のゴム部分11bの物性を、中心側ゴム部分11aの物性と異なったもの、即ち、外周部分のゴムの物性を、中心部のゴム物性よりも硬度が高いものとする事で、面圧を受けた際の最大主歪みを小さくでき、剪断変形時の最大主歪みも小さくすることが出来るものである。また中心部のゴム物性よりも伸びが高いものとすることで、剪断変形時にその部分に歪みが集中してもゴム自身が破壊しなくすることが出来るものである。
【0026】なお、第2実施形態の変形例として、図9に示すように円盤状に形成したゴムシート11の厚さ方向における金属板12a,12b近傍のゴム部分11eの物性と中心側ゴム部分11fの物性とを異なったもで構成することも可能であり、この場合、金属板12a,12b近傍のゴム部分11eの厚さは、ゴムシート11の厚さの1/4以下に設定するのが好ましい。また以下の表4は評価結果を示している。
【0027】
【表4】


【0028】
【発明の効果】この発明は、上記のようにゴム部の中心部分と金属板の接着面から1mm範囲のゴム部の剪断弾性率の比が、1.5以下となるように設定することで、ゴム物性を反映させた積層体を得ることが出来ると共に、面圧を受けた際の最大主歪みを小さくでき、剪断変形時の最大主歪みも小さくすることが出来る効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明を実施した一層のゴム積層体の斜視図である。
【図2】ゴム状弾性体から成るサンプルに剪断変形を与える方法を示す説明図である。
【図3】(a),(b)は、ゴム積層体のゴム部に剪断変形を与えた状態を示す説明図でしある
【図4】実際のサンプルを剪断変形させた際の断面の状態を示す説明図である。
【図5】実際のサンプルを剪断変形させた際の中心部分に比較して接着面近傍ではラインがたった状態になっていることを示す説明図である。
【図6】実際のサンプルを剪断変形させた際のラインの傾きの比を表したグラフ説明図である。
【図7】この発明の第2実施形態におけるゴム積層体のサンプルの斜視図である。
【図8】この発明の第2実施形態におけるゴム物性の異なる円盤状のゴムシートの斜視図である。
【図9】この発明の第3実施形態におけるゴム物性の異なる円盤状のゴムシートの斜視図である。
【図10】(a),(b),(c)は、従来のゴム状弾性体の断面硬度分布の測定方法を示す説明図である。
【符号の説明】
1 鉄板
2 接着剤
3 ゴム
3a 端末部のゴム
4 針
5 金属接着剤
6 未加硫ゴム6
10 ゴム積層体
11 ゴムシート
11a 中心部分のゴム部
11b 金属板近傍のゴム部
12a,12b 金属板
13 金属接着剤
14 サンプル
15 メッシュ
R メッシュライン

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ゴムシートと金属板とを金属接着剤を介在させて積層し、この積層体を加硫接着して成るゴム積層体において、前記ゴム部の中心部分と金属板の接着面から1mm範囲のゴム部の剪断弾性率の比が、1.5以下となるように設定して成るゴム積層体。
【請求項2】 前記ゴムシートと金属板との接着に、前記剪断弾性率の比が、1.5以下となるような金属接着剤を選択して使用する請求項1に記載のゴム積層体。
【請求項3】 ゴムシートと金属板とを金属接着剤を介在させて積層し、この積層体を加硫接着して成るゴム積層体において、前記ゴムシートの外周から半径1/4以下のゴム部分の物性を、中心側ゴム部分の物性と異なったもので構成して成るゴム積層体。
【請求項4】 前記外周部分のゴムの物性を、中心部のゴム物性よりも硬度が高いものとした請求項3に記載のゴム積層体。
【請求項5】 前記外周部分のゴムの物性を、中心部のゴム物性よりも伸びが高いものとした請求項3または4に記載のゴム積層体。

【図1】
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【図2】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図10】
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【図6】
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【公開番号】特開2000−301657(P2000−301657A)
【公開日】平成12年10月31日(2000.10.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−115812
【出願日】平成11年4月23日(1999.4.23)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】