説明

ゴム部材の製造方法及び製造装置

【課題】押出機から押し出された帯状ゴムを吸着パッドで吸着移動させる際に、帯状ゴムの落下を抑制可能なゴム部材の製造方法及び製造装置を提供する。
【解決手段】押出機1の口金8からゴムを帯状に押し出し、この帯状ゴム2の先端部を吸着パッド5で吸着して成形機7まで搬送し、成形機7で帯状ゴム2を成形するゴム部材の製造方法であって、口金8から帯状ゴム2を押し出す際に、帯状ゴム2の吸着パッド吸着面に対応する口金部分を、押出機1から押出した直後のゴム温度以上に加熱することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出機から押し出された未加硫の帯状ゴムを成形して得られるゴム部材の製造方法及び製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、タイヤは、トレッドゴム、カーカスプライ、インナーゴム、ビード部材等の種々の部材から構成されており、これらのタイヤ構成部材を組み合わせて加硫成形することで製造されている。タイヤ構成部材の中でもビード部材は、予め円環状に成形したものが使用される。
【0003】
具体的には、図5及び図6に示すように、ビード部材21は、ビードコア22と、その外周側に接合される断面略三角形状のビードフィラー23とを備えている。ビードコア2は、ゴム被覆された鋼線等の収束体から構成される。
【0004】
上記構成のビード部材は、たとえば、押出機から帯状に押し出されたゴムを所定長さに切断し、この帯状ゴムを、特許文献1に示すようなドラム状の成形機の外周に巻きつけた後、円環状に成形するとともに、ビードコアと接合することによって形成することができる。
【0005】
上記方法においては、押出機から押し出された帯状ゴムを成形機の所定位置まで正確に搬送することが要求される。そのためには、押出機から押し出された帯状ゴムの先端部を吸着パッドで吸着して成形機まで搬送する搬送装置を用いるのが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−164232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記搬送装置のように、帯状ゴムを吸着パッドで吸着して搬送する場合には、搬送途中で帯状ゴムが落下することがあり、そのため生産性が低下するといった問題があった。
【0008】
そこで、本発明では、上記問題に鑑み、押出機から押し出された帯状ゴムを吸着パッドで吸着移動させる際に、帯状ゴムの落下を抑制可能なゴム部材の製造方法及び製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
一般に、未加硫ゴムを押出機で押出す場合、未加硫ゴムの温度を上げすぎると、未加硫ゴムに含まれる老化防止剤や加工助剤等によりブルームが発生するおそれがある。ブルーム物の存在はその後の加硫処理において、ゴム部材界面の接着力が低下するおそれがあるとともに、ゴム中の老化防止剤や加工助剤等の含有量が減少することから加硫後のゴム特性の低下を招くおそれがある。
【0010】
そのため、押出機内のゴム温度はできる限り低くするのが好ましい。ところが、本発明者は、押出機から押出すゴムの温度が低いほど、室温状態での帯状ゴムのタック性(粘着性)が低くなり、これにより、帯状ゴムの落下率が高くなることを見いだした。
【0011】
そして、その知見をもとに、本発明者は、押出機から帯状ゴムを押出す際に、ゴム表面のみを加熱することでタック性を向上させつつ、ブルームの発生を抑制可能であることを見出して本発明を完成させるにいたったものである。
【0012】
すなわち、本発明では、押出機の口金から未加硫ゴムを帯状に押し出し、この帯状ゴムの先端部を吸着パッドで吸着して成形機まで搬送し、前記成形機で帯状ゴムを成形するゴム部材の製造方法であって、前記口金から帯状ゴムを押し出す際に、前記帯状ゴムの吸着パッド吸着面に対応する口金部分を、前記押出機から押し出した直後の帯状ゴム温度(T℃)以上に加熱することを特徴とする。
【0013】
これによって、帯状ゴムのブルーム発生を抑制し、加硫後のゴム特性の低下を抑制しつつ、室温における帯状ゴムの吸着パッド吸着面のタック性を向上させ、吸着パッドの吸着力を高めて、帯状ゴムの搬送途中での落下を抑制することが可能となる。
【0014】
通常、口金の温度は、押出機から押し出した直後の帯状ゴム温度(T℃)よりも低くなる。したがって、口金の温度をT℃まで加熱するだけでも帯状ゴムのタック性を向上させることができる。
【0015】
帯状ゴムの吸着パッド吸着面に対応する口金部分の温度は、T℃以上(T+25)℃以下になるように加熱するのが好ましい。本発明では、押出機から押出す最後の口金部分で瞬間的に帯状ゴムを加熱するため、(T+25)℃という高温でもブルームを生じることなく、また、軟化による変形を生じることなく帯状ゴムを押出すことが可能となる。なお、口金を加熱する際には、少なくとも帯状ゴムの吸着パッド吸着面に対応する口金部分を加熱すればよく、吸着パッド吸着面とは反対の面を併せて加熱することもできる。
【0016】
ただ、帯状ゴムの吸着パッド吸着面に対応する口金部分のみ加熱する方が温度制御が容易であること、また、後述するように押出機から押し出された帯状ゴムは、吸着パッド吸着面と反対の面がローラに触れるためタック性が低い方が好ましいこと、から帯状ゴムの吸着パッド吸着面に対応する口金部分のみ加熱するのが好ましい。
【0017】
本発明のゴム部材の製造方法は、帯状ゴムが、ビードフィラーのように断面略三角形状のものに対して好適に適用することができる。すなわち、断面略三角形状の帯状ゴムは幅方向に重さの偏りが存在し、吸着パッドが外れやすくなるところ、本発明では帯状ゴムのタック性を高めることにより吸着パッドの吸着状態を安定して維持することができる。
【0018】
本発明に係るゴム部材を製造するには、ゴムを帯状に押し出す押出機と、前記押出機から押し出された帯状ゴムの先端部を吸着パッドで吸着して成形機まで搬送する搬送装置と、前記帯状ゴムを成形する成形機とを備え、前記押出機の口金において、前記帯状ゴムの吸着パッド吸着面に対応する口金部分を加熱する加熱器が設けられた構成の製造装置を用いることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明では、帯状ゴムの吸着パッド吸着面に対応する口金部分を、前記押出機から押出した直後の帯状ゴム温度以上に加熱することにより、帯状ゴムのタック性を向上させることが可能となり、帯状ゴムの落下を抑制し、ひいては生産性を向上させることが可能なゴム部材の製造方法及び製造装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係るゴム部材の製造装置を示す概略図
【図2】口金を示す正面図
【図3】成形機に帯状ゴムを巻きつけた状態を示す図
【図4】成形機に帯状ゴムを巻きつけて起立片を起こした状態を示す図
【図5】ビード部材を示す平面図
【図6】図5の矢視断面図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を基に説明する。図1は、本発明に係るゴム部材の製造装置を示す概略図である。本実施形態ではゴム部材としてタイヤ構成部材であるビード部材を製造する場合について説明する。
【0022】
本発明のゴム部材の製造装置は、未加硫ゴムを帯状に押し出す押出機1と、押出機1から押し出された帯状ゴム2を冷却する冷却装置としての水槽3と、帯状ゴム2を所定長さに切断して前方に送る移動装置と、帯状ゴム2(ビードフィラー)の先端部を吸着パッド5で吸着して成形機まで搬送する搬送装置6と、帯状ゴム2を成形する成形機7とを備えている。
【0023】
上記構成のゴム部材の製造装置を用いてゴム部材を製造する方法について説明する。押出機1の先端には口金8が取り付けられており、その開口9から未加硫ゴムが帯状に押し出される。口金8の外表面には、図2に示すように、帯状ゴム2の吸着パッド5吸着面に対応する部分(略三角形状の開口9の上縁部)を加熱する加熱器10(電気ヒータ)が設けられている。加熱器10は、開口9の三角形状の上縁部に沿って取り付けられる。
【0024】
まず、押出機1の口金8から帯状ゴム2を押し出す。このとき、口金8の開口9の上縁部の温度が押出機1から押出した直後のゴム温度(T℃)以上になるように加熱器10を加熱する。
【0025】
押出機1から押し出された帯状ゴム2は、ローラ3aによって水槽3に導入し、冷却した後に移動装置に送る。移動装置は、コンベア11と、コンベア11の後部上方に配置される図示しない切断装置とを備えており、この切断装置によって帯状ゴム2を所定長さで切断する。
【0026】
コンベア10の前部上方には、搬送装置6の吸着パッド5が配置されている。吸着パッド5は昇降自在で、かつ、成形機7まで移動可能に設けられており、帯状ゴム2上面の先端部に吸着してこれを持ち上げ、コンベア11の移動速度に合わせて成形機7まで搬送する。
【0027】
成形機7は、円筒状の回転ドラム7aを備えている。図3に示すように、回転ドラム7aの回転軸方向一端側には、回転ドラム7aよりも小径で円盤状のビードコア支持部7bが付設されている。ビードコア12は、ビードコア支持部7bの外周上に載置され、ビードコア12の外周面が、回転ドラム7aの外周と面一になるように配される。そして、帯状ゴム2を寝かせた状態でドラム外周に巻き付け、帯状ゴム2の長さ方向端部同士を接合する。ドラム外周上には、複数の起立片13が伏した状態で配されている。
【0028】
そして、図4に示すように、帯状ゴム2の厚肉側を基端として起立片13を起立させ、これに伴って環状の帯状ゴムを起立させてビードフィラー14を形成する。それと同時にビードフィラー14の基端部をビードコア12に押し付けて両者を接合することで、ビード部材15を形成する。このように、回転ドラム7a外周で寝かせた状態で環状に形成した帯状ゴム2を起立させることで、拡径時に帯状ゴムの外周全体に均等に力がかかるために、高さが一定でよれのない円環状のビードフィラー14を得ることができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明について更に詳細に説明するが、本発明をその要旨を越えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。
【0030】
実施形態で説明したゴム部材の製造装置を用いて、ゴム部材としてビード部材を製造した。まず、帯状ゴム(ビードフィラー)を構成するゴム組成物として、天然ゴム(RSS#3)100部、カーボンブラック(HAF)50部、硫黄4部、老化防止剤2部、促進剤1部を配合し、これを押出機に供給して帯状に押し出した。押出機から押出した直後の帯状ゴム温度Tは85℃であり、口金8の温度Dは、加熱器10による加熱をしない状態で80℃であった。
【0031】
そして、加熱器10の出力をコントロールすることにより、帯状ゴム2の吸着パッド5吸着面に対応する口金部分の温度を種々変えて、帯状ゴムが吸着パッドから落下した割合及び帯状ゴム表面のブルーム物の有無を評価した。具体的な評価の内容は以下の通りである。
【0032】
[帯状ゴムの落下率]
ビード部材を900個製造する間に、吸着パッドから落下した帯状ゴムの回数を%表示した。
【0033】
[ブルーム物の有無]
押出機から押し出された帯状ゴムの表面にブルーム物が存在するか否かを目視で確認して以下の基準で評価した。
○:ブルーム物なし
×:ブルーム物あり
【0034】
[評価結果]
表1に帯状ゴム(ビードフィラー)の落下率及びブルーム物の有無の評価結果を示す。なお、表中、口金温度Dは、帯状ゴム2の吸着パッド5吸着面に対応する部分(略三角形状の開口9の上縁部)の温度を示している。また、D−Tの値は、口金温度Dから、押出し直後のゴム温度T(85℃)を引いた値を示している。
【0035】
表1の結果より、口金8の温度が押出し直後の帯状ゴム温度T(85)℃以上で、(T+25)℃以下の範囲にある場合(実施例1〜3)は、帯状ゴムの落下率が低く、かつブルームの発生も認められなかった。
【0036】
一方、口金8の温度が、押出し直後のゴム温度T(85℃)未満の場合(比較例1)、帯状ゴムの室温におけるタック性が低下したことにより落下率が高くなった。口金8の温度が、T+25℃よりも高い場合には(比較例2)、ブルームの発生が認められ、帯状ゴムの落下率も高くなった。これは、ブルーム物が吸着パッドに付着することで、吸着パッドと帯状ゴムとの密着性が低下するためと考えられた。
【0037】
【表1】

【符号の説明】
【0038】
1 押出機
2 帯状ゴム
3 水槽
5 吸着パッド
6 搬送装置
7 成形機
8 口金
9 開口
10 加熱器
11 コンベア
12 ビードコア
13 起立片
14 ビードフィラー
15 ビード部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
押出機の口金からゴムを帯状に押し出し、この帯状ゴムの先端部を吸着パッドで吸着して成形機まで搬送し、前記成形機で帯状ゴムを成形するゴム部材の製造方法であって、前記口金から帯状ゴムを押し出す際に、前記帯状ゴムの吸着パッド吸着面に対応する口金部分を、前記押出機から押出した直後の帯状ゴム温度(T℃)以上に加熱することを特徴とするゴム部材の製造方法。
【請求項2】
前記帯状ゴムの吸着パッド吸着面に対応する口金部分を、前記T℃以上(T+25)℃以下になるように加熱することを特徴とする請求項1記載のゴム部材の製造方法。
【請求項3】
前記帯状ゴムが、断面略三角形状のビードフィラーであることを特徴とする請求項1又は2記載のゴム部材の製造方法。
【請求項4】
ゴムを帯状に押し出す押出機と、前記押出機から押し出された帯状ゴムの先端部を吸着パッドで吸着して成形機まで搬送する搬送装置と、前記帯状ゴムを成形する成形機とを備え、前記押出機の口金において、前記帯状ゴムの吸着パッド吸着面に対応する口金部分を加熱する加熱器が設けられたことを特徴とするゴム部材の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−178030(P2011−178030A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−44591(P2010−44591)
【出願日】平成22年3月1日(2010.3.1)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】