説明

ゴム金属積層体

【課題】NBRと金属を積層させるに際し、フェノール樹脂系接着剤で接着させたゴム金属積層体であって、高温での耐摩擦・摩耗特性にすぐれ、また水や不凍液浸せき後の接着強度の低下が少なく、それによる剥れなどを有効に防止したものを提供する。
【解決手段】NBRと金属とを積層させるに際し、ノボラック型およびレゾール型フェノール樹脂、NBR、ホワイトカーボンおよび炭素数2以上のアルコキシ基を有するビニルトリアルコキシシランカップリング剤を含有する接着剤で接着させたゴム金属積層体。本発明に係るゴム金属積層体は、高温での耐摩擦・摩耗特性にすぐれ、また水や不凍液浸せき後の接着強度の低下が少なく、それによる剥れなどを有効に防止し得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム金属積層体に関する。さらに詳しくは、NBRと金属との積層体であるゴム金属積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンガスケット部等の温度変化が大きくなる部分では、その温度変化に基因してエンジンとガスケットとの接合面間にフレッティング(摩耗)が生ずる。ガスケットとして用いられるゴム金属積層体は、例えばこのようなフレッティングによって大きなせん断応力が生じ、ゴムと金属との間の摩擦によりゴムの剥離や摩耗が発生し、金属からゴム層が剥れてしまうといった問題がみられる。
【0003】
ここで、ゴムの耐摩擦・摩耗特性を向上させるために一般的に用いられているカーボンブラックの配合では、ゴム金属積層体に用いられるゴムの摩耗あるいは剥れを防止することは困難である。また、ゴム表面にPTFEやポリエチレン樹脂の溶液を塗布して摩擦係数を下げ、ゴムの摩耗を低減する方法も行われているが、これらの溶液から形成された被膜の剥離や摩耗が起ると、ゴムが瞬時に摩耗してしまう場合があり、ゴム自身の耐摩擦・摩耗特性を改善することが課題である。
【0004】
また、接着性に乏しければ、摩擦・摩耗時にゴムが摩耗しない場合にあってもゴムの剥離を避けることができず、逆に接着性にすぐれていても、ゴムの耐摩耗性が乏しければゴムが摩耗するため、ゴム金属積層体においてゴムの耐摩耗性を向上させるためには、ゴムそれ自体の耐摩耗性を向上させることに加えて、金属との接着性を高めることが必要となる。
【0005】
水やLLC(ロングライフクーラント)に対する耐性が必要とされるゴムと金属との複合体を形成させるためには、金属としてステンレス鋼が多く用いられるが、ステンレス鋼上に直接加硫接着剤を適用してゴムと加硫接着させたステンレス鋼-ゴム複合体は、耐水、耐LLC性が悪く、これらの浸せき試験を実施すると接着剥離を生ずるようになる。
【0006】
このための対策として、金属板上にプライマーとしてのシラン系下塗り剤およびフェノール樹脂系上塗り剤を用いることにより、耐液性を向上させる種々の提案がなされているが、環境対策上好ましくない6価クロムイオンを含む塗布型クロメート処理を施したステンレス鋼の場合程の密着性を得ることはできず、近年のエンジンや不凍液では、ゴムの剥れが生じるといった問題がみられる。また、フェノール樹脂系上塗り接着剤は、LLCや高温時での摩耗に弱く、高面圧の圧縮により、接着剤層で剥れが発生する。
【0007】
本出願人は、ゴム金属積層体に関する種々の提案を行っており、次のようなものが例示される。
・特許文献1〜2には、プライマー層およびフェノール樹脂系接着剤層を介してステンレス鋼板上にゴムを積層させたゴム金属積層体であって、プライマー層として有機金属化合物およびシリカを含有する表面処理剤層を設けたものあるいはシランカップリング剤、有機金属化合物およびシリカを含有する下地処理層を設けたものが記載されている。
・特許文献3には、塗布型クロメート処理していない金属板上に接着剤を塗布し、そこにNBRの水性ラテックスとカーボンブラック粒子の水性分散液を含有する水系ゴム塗液を塗布、乾燥させた後プレス加硫して、金属・ゴム複合材料を製造する方法が記載されており、接着剤としてはフェノール系接着剤、シラン系またはチタネート系カップリング剤の少くとも一種が用いられると述べられ、シラン系カップリング剤としてビニル基、アミノ基、メルカプト基等の官能基を有するメトキシシラン類およびエトキシシラン類が代表的な例として挙げられるとされている。
・特許文献4には、基板の所定部位に接着剤を塗布してシール材を接着する際、接着剤をインクジェットヘッドのノズルから吐出して塗布するガスケットの製造方法が記載されており、シール材としてはニトリルゴム等が用いられ、適切なプライマーを任意に塗布した後、接着剤の塗布が行われ、接着剤としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(2-エトキシエトキシ)シラン等のシラン系接着剤、あるいはノボラック型やレゾール型のフェノール樹脂にヘキサメチレンテトラミン等の硬化剤と充填剤を加え、溶剤を用いて溶液としたものなどが用いられると述べられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005−180682号公報
【特許文献2】特開2005−249031号公報
【特許文献3】特許第3933017号公報
【特許文献4】特開2007−292274号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、NBRと金属を積層させるに際し、フェノール樹脂系接着剤で接着させたゴム金属積層体であって、高温での耐摩擦・摩耗特性にすぐれ、また水や不凍液浸せき後の接着強度の低下が少なく、それによる剥れなどを有効に防止したものを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる本発明の目的は、NBRと金属とを積層させるに際し、ノボラック型およびレゾール型フェノール樹脂、NBR、ホワイトカーボンおよび炭素数2以上のアルコキシ基を有するビニルトリアルコキシシランカップリング剤を含有する接着剤で接着させたゴム金属積層体によって達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るゴム金属積層体は、高温での耐摩擦・摩耗特性にすぐれ、また水や不凍液浸せき後の接着強度の低下が少なく、それによる剥れなどを有効に防止し得る。
【0012】
また、本発明で接着剤の一成分として用いられるゴム糊は、混練されたNBRコンパウンドを、量産時の状況を考慮して例えば15日間放置後に有機溶媒溶液として調製した場合にあっても、混練直後のNBRコンパウンドから有機溶媒溶液として調製した場合と比較して、その粘度の増大はわずかにとどまるといった性質を有している。
【0013】
さらに、接着剤中にゴム糊を一定量混ぜることにより、工程数の削減、接着剤コストの削減が可能となり、好ましくは接着剤中にゴム層形成に用いられるものと同じNBRが含まれるので、ゴム層との接着性にすぐれた接着剤層を形成させることができる。
【0014】
このような必須各成分よりなる接着剤において、NBRはゴム層との接着性を向上させ、また柔軟性を向上させ、ホワイトカーボンはゴム層およびプライマー層との接着性を向上させると共に、接着剤自身の強度の向上、耐水性の向上を図り、シランカップリング剤はゴム層およびプライマー層との接着性を向上させると共に、接着剤自身の強度を向上させ、また耐水性の向上を図ることができる。かかる各成分の働きにより、水やLLCに対する耐性を向上させると共に、高温下での耐摩耗性の向上が図られ、また高面圧での圧縮による剥れを有効に防止することができる。
【0015】
なお、ホワイトカーボンを含有するNBRコンパウンドを長期間放置すると、シリカが凝集し、この凝集シリカを含有するゴム糊を接着剤に混ぜると、接着剤塗布表面にザラツキがみられ、接着力、耐摩耗性を悪化させるが、予め調製したゴム糊(NBRコンパウンド溶液)にシリカ等の他の成分を混ぜるという方法をとることにより、かかる難点を克服することができる。ゴム糊調製に用いられるNBRコンパウンドは、経時的に安定である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係るゴム金属積層体は、ノボラック型およびレゾール型フェノール樹脂、NBR、ホワイトカーボンおよび炭素数2以上のアルコキシ基を有するビニルトリアルコキシシランカップリング剤を含有する接着剤で、NBRと金属とを積層させて作製される。
【0017】
金属と接着されるNBRおよび接着剤成分としてのNBRとしては、結合アクリロニトリル含量(AN含量)が18〜48%、好ましくは31〜42%で、ムーニー粘度ML1+4(100℃)が30〜85、好ましくは40〜70のアクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴムが用いられ、実際にはこのような性状を示す市販品がそのまま用いられる。
【0018】
金属と接着されるNBRの場合、AN含量がこれよりも少ないと、ゴム層の積層に際して用いられる接着剤との接着性が乏しくなり、一方AN含量がこれよりも多い場合には、耐寒性が損なわれるようになる。ムーニー粘度については、その値がこれよりも小さいと耐摩擦・摩耗特性が乏しくなり、一方これよりも大きいと混練加工性が損なわれるようになる。
【0019】
このNBRには、接着剤成分として用いられるNBRの場合と同様に、ホワイトカーボンおよび特定性状のシランカップリング剤が添加されて用いられることが好ましい。また、カーボンブラック等の充填剤、酸化亜鉛等の受酸剤、ステアリン酸等の加工助剤、老化防止剤、パラフィン系、ポリエステル系等の可塑剤、有機過酸化物、イオウ等の加硫剤など、ゴム工業で一般的に用いられている各種配合剤が適宜配合して用いられる。なお、充填剤としては、耐摩耗性の観点から粒子径が小さく、補強性の高い無機充填剤が用いられることが好ましく、また有機過酸化物架橋剤が用いられる場合には、トリアリルイソシアヌレートによって代表される多官能性不飽和化合物が共架橋剤として併用されることが好ましい。
【0020】
有機過酸化物の市販品としては、例えば日本油脂製品パーブチルZ、パーヘキサZ、パーブチルP、パークミルD、パーヘキサ25B、パーブチルC、パーブチルD、パークミルP等が挙げられ、また硫黄系化合物としては、イオウの他に例えばテトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム類化合物、2-メチカプトンベンゾチアゾール、ジベンゾチアジルジスルフィド等のチアゾール類化合物、ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジエチルジチオカルバミン酸亜鉛、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛等のジチオ酸カルバミン塩類等が挙げられる。
【0021】
NBRと金属との接着に用いられる接着剤は、上記の如きNBRに加えて、ノボラック型およびレゾール型フェノール樹脂、ホワイトカーボンおよび特定性状のシランカップリング剤が添加して用いられる。NBRに各種配合剤をインターミックス、ニーダ、バンバリーミキサ等の混練機またはオープンロールを用いて配合したNBRコンパウンドを、ケトン類、エステル類、エーテル類、芳香族炭化水素類またはこれらの混合溶媒に溶解させた有機溶媒溶液であるゴム糊に、他の接着剤成分が添加されて接着剤が調製される。NBRについての混練を行わず、これらの各成分を溶媒に溶解させ、3本ロール、ボールミル、ホモジナイザ等で湿式精密分散させることによっても、接着剤の調製を行うことができる。
【0022】
有機溶媒としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジプロピルケトン、シクロヘキサノン、ホロン、イソホロン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のポリオールモノエーテル類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類が用いられる。
【0023】
フェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂との両者が併用される。これらのフェノール樹脂の一方、例えばレゾール型フェノール樹脂のみが用いられた場合には、圧縮試験でゴム面剥れを生ずるようになる。ノボラック型フェノール樹脂としては、フェノール、p-クレゾール、m-クレゾール、p-第3ブチルフェノールなどのフェノール水酸基に対してo-位および/またはp-位に2個または3個の置換可能な核水素原子を有するフェノール類またはそれらの混合物とホルムアルデヒドとを、シュウ酸、塩酸、マレイン酸などの酸触媒の存在下において縮合反応させることによって得られる、融点80〜150℃の樹脂、好ましくはm-クレゾールとホルムアルデヒドから製造された融点120℃以上のものが使用される。
【0024】
レゾール型フェノール樹脂としては、フェノール、p-クレゾール、m-クレゾール、p-第3ブチルフェノールなどのフェノール水酸基に対してo-位および/またはp-位に2個または3個の置換可能な核水素原子を有するフェノール類またはそれらの混合物とホルムアルデヒドとを、アンモニア、アルカリ金属水酸化物、水酸化マグネシウムなどのアルカリ触媒の存在下において、縮合反応させることによって得られるものが使用される。
【0025】
これら2種類のフェノール樹脂は、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して、レゾール型フェノール樹脂が約10〜1000重量部、好ましくは約60〜400重量部の割合で用いられる。これらの各成分は、成分合計量濃度が約3〜10重量%になるように有機溶剤を加え、混合、攪拌することにより、フェノール樹脂系接着剤として調製される。レゾール型フェノール樹脂の割合がこれよりも少なく用いられると、金属面への接着性が低下するようになり、一方これよりも多い割合で用いられると、ゴム層への接着性が低下するようになる。これらのフェノール樹脂と共に、その硬化剤であるヘキサメチレンテトラミン等も用いられる。
【0026】
NBR用フェノール樹脂系接着剤としては、実際には市販品、例えば東洋化学研究所製品メタロックN31、ロームアンドハース社製品シクソン715(フェノール樹脂系接着剤溶液であるシクソン715Aとヘキサメチレンテトラミン含有硬化剤であるシクソン715Bよりなる)、ロードファーイースト社製品TS1677-13、同社製品ケムロック205等を用いることができ、好ましくはノボラック型フェノール樹脂およびレゾール型フェノール樹脂が9:1〜1:9の割合で配合されたものが用いられ、一般にメタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系有機溶剤またはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤を単独または混合溶剤の溶剤溶液として用いられる。
【0027】
これらのフェノール樹脂は、NBR 100重量部当り約100〜900重量部、好ましくは約240〜900重量部の割合で用いられる。使用割合がこれよりも少なくと、金属への接着性に劣るようになり、一方これよりも多い使用割合で用いられると、ゴム層への接着性が劣るようになる。
【0028】
ホワイトカーボン(シリカ)は、ハロゲン化珪酸または有機珪素化合物の熱分解法や珪砂を加熱還元し、気化したSiOを空気酸化する方法などで製造される乾式法ホワイトカーボン、珪酸ナトリウムの熱分解法などで製造される湿式法ホワイトカーボンなどであって、非晶質シリカを用いることができ、その粒子径は0.01〜0.1μmのものが用いられる。シリカの粒子径がこれより大きいと、耐摩耗性が悪化し、一方シリカの粒子径がこれより小さいと、シリカをゴムに分散させる際に粒子が凝集して大きくなり、やはり耐摩耗性が悪化するようになる。かかるシリカとしては、市販品、例えば日本シリカ工業製品ニップシールなどがそのまま用いられる。また、その比表面積(BET法による)が約20〜300m2/g、好ましくは約50〜250m2/g程度のものが一般に用いられる。ホワイトカーボンは、その価格、取扱性および耐摩耗性の良さから、充填剤として一般的に用いられているカーボンブラックと比べて耐摩耗性に劣るものの、接着剤の接着性を向上させ、また高温高面圧でのゴムのフローを防止する。
【0029】
ホワイトカーボンは、NBR 100重量部当り、約15〜100重量部、好ましくは約30〜80重量部の割合で用いられる。ホワイトカーボンがこれより少ない割合で用いられると、目的とする金属との接着性が得られず、摩擦・摩耗時にゴムの剥離が発生するようになり、一方これより多い割合で用いられると、ゴム硬度が高くなり、またゴム弾性も失われるようになる。また、粒子径が、これ以上のものが用いられると耐摩擦・摩耗特性を損ねることとなり好ましくない。
【0030】
また、シランカップリングとしては、炭素数2以上のアルコキシ基を有するビニルトリアルコキシシラン CH2=CHSi(OR)3、例えばビニルトリエトキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルトリス(2-エトキシエチキシ)シラン等が用いられる。
【0031】
無機充填剤であるホワイトカーボンと反応するアルコキシ基の炭素原子が1であるビニルトリメトキシシランでは、凝集防止効果がなく、分子量のより大きいアルコキシ基であることが好ましく、このためアルコキシ基はアルコキシアルコキシ基であってもよい。また、ビニル基は、ポリマーと反応することにより、無機充填剤ホワイトカーボンの凝集防止により有効に作用する。
【0032】
シランカップリング剤は、その少くとも一種がNBR100重量部に対して約2〜10重量部で、かつホワイトカーボンに対して約3〜30重量%、好ましくは約5〜20重量%の割合で用いられる。シランカップリング剤の使用割合がこれよりも少ないと、ホワイトカーボンに凝集がみられ、塗布表面でのザラツキの発生や耐摩耗性が損なわれるようになる。一方、これよりも多い割合で使用されると、ゴムの架橋密度が上がり、シール性の悪化、熱劣化後の屈曲による割れの発生、熱劣化後の耐摩耗性の悪化などがみられるようになる。
【0033】
接着剤の調製は、NBRに各種配合剤を配合したNBRコンパウンドを、調製後約0〜15日間放置して裁断した後、例えばメチルエチルケトン-トルエン(重量比1:9)混合溶媒中に、固形分(NBRコンパウンド)濃度約10〜30重量%のゴム糊を調製した後、これにフェノール樹脂系接着剤溶液およびメチルエチルケトン等の有機溶媒を添加することによって行われる。ゴム糊中のNBRに対するフェノール樹脂系接着剤溶液中のフェノール樹脂の割合は、前記の如き割合で用いられ、また接着剤中の固形分濃度(NBRコンパウンドおよびフェノール樹脂よりなる固形分の濃度)は、約2〜15重量%、好ましくは約3〜10重量%程度とされる。
【0034】
溶液による希釈量は、塗布厚み、塗布方法などに応じて適宜選択される。接着剤の塗布厚みは、一般には約1〜10μm、好ましくは約2〜6μmであり、塗布厚みがこれよりも薄い場合には、金属の凹凸表面をすべて被覆することができず、接着性が低下するようになる。一方、塗布厚みがこれよりも厚いと、柔軟性が損なわれることがある。接着剤溶液の塗布方法としては、浸せき、スプレー、ロールコータ、フローコータ、インジェクト等任意の方法が用いられる。
【0035】
これらの接着剤によってNBRと積層される金属としては、一般に金属板が用いられ、金属板としては、ステンレス鋼板、軟鋼板、亜鉛メッキ鋼板、SPCC板(冷間圧延鋼板)、鋼板、銅板、マグネシウム板、アルミニウム板、アルミニウムダイキャスト板等が用いられる。これらは、一般に脱脂した状態で用いられ、必要に応じて金属表面をショットブラスト、スコッチブライド、ヘアーライン、ダル仕上げなどで粗面化することが行われる。また、その板厚は、シール材用途の場合にあっては、一般に約0.1〜1mm程度のものが用いられる。好ましくは、SUS301、SUS301H、SUS304、SUS430等のステンレス鋼板が用いられる。
【0036】
これらの金属板上には、好ましくはプレイマー層が形成される。プライマー層は、ゴム金属積層体の耐熱性および耐水性の大幅な向上が望めるものであり、特にゴム金属積層体をシール材として使用する場合にはそれを形成させることが望ましい。
【0037】
プライマー層としては、リン酸亜鉛皮膜、リン酸鉄皮膜、バナジウム、ジルコニウム、チタニウム、モリブデン、タングステン、マンガン、亜鉛、セリウム等の金属の化合物、特にこれら金属の酸化物等の無機系皮膜、シラン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン等の有機系皮膜など、一般に市販されている薬液あるいは公知技術をそのまま用いることができるが、好ましくは少くとも1個以上のキレート環とアルコキシ基を有する有機金属化合物を含んだプライマー層や、さらにこれに金属酸化物またはシリカを添加したプライマー層、さらに好ましくはこれらのプライマー層形成成分にアミノ基含有アルコキシシランとビニル基含有アルコキシシランとの加水分解縮合生成物を加えたプライマー層が用いられる。この加水分解縮合生成物は、単独でも用いられる。
【0038】
これらのプライマー成分は、その固形分濃度が約0.2〜5重量%程度となるように、アルコール類やケトン類の有機溶媒溶液として調製され、それの液安定性が保たれる限度内において、そこに20重量%以下の水を混合して用いることもできる。得られたプライマー溶液は、金属板上に浸せき、スプレー、刷毛、ロールコータ等を用いて、約50〜300mg/m2程度の目付量で塗布され、室温または温風にて乾燥させた後、約100〜250℃で約0.5〜20分間焼付け処理され、プライマー層を形成される。
【0039】
金属板上への接着剤層の形成は、好ましくはプライマー層を形成させた金属板上に接着剤溶液を塗布し、室温条件下で風乾させた後、約100〜250℃で約5〜30分間程度加熱することにより行われる。接着剤層は、一層のみならず多層の構成とすることもでき、例えばプライマー層上に有機金属化合物を含むフェノール系接着剤層を形成させ、さらにその上に前記NBRコンパウンドを含むフェノール系接着剤層を設けて多段塗布した上で、ゴム層を設けることもできる。このような構成をとることにより、接着剤の塗布工程は増加するものの、プライマー層およびゴム層との接着性をより強固なものとすることが可能となる。
【0040】
接着剤層上には、NBRコンパウンド溶液よりなるゴム糊を約10〜200μm程度の厚さになるように塗布し、乾燥させた後、約150〜230℃で約0.5〜30分間程度加硫が行われる。得られたゴム金属積層体上には、必要に応じてゴムとの粘着防止を目的として、樹脂系、グラファイト系等の粘着防止剤をゴム層上に塗布することも行われる。
【実施例】
【0041】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0042】
実施例1
(1) NBR(JSR製品N235S;CN含量36%) 100重量部
SRFカーボンブラック(I2吸着量29g/kg、DBP吸油量72ml/100g) 60 〃
ホワイトカーボン(日本シリカ製品ニップシールLP; 40 〃
比表面積200m2/g、粒子径0.02μm)
酸化亜鉛 5 〃
ステアリン酸 2 〃
老化防止剤(大内新興化学製品Nocrac 224) 2 〃
トリアリルイソシアヌレート(日本化成製品タイク) 1.2 〃
1,3-ビス(第3ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン 6 〃
(三建化工製品サンペロックスTY-13)
ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン 3 〃
(モメンティブ・パーフォーマンス・マテリアルズ社製品A-172)
(合計) 219.2重量部
以上の各配合成分について、ニーダでポリマーを素練りした後、まずカーボンブラック、酸化亜鉛、ステアリン酸および老化防止剤を加えて混練し、次いでホワイトカーボンおよびシランカップリング剤を一緒に入れ、最大温度が130℃となる条件下で混練を行った。その後、オープンロールで有機過酸化物および架橋助剤を加えて混練し、NBRコンパウンドを得た。
(2) 調製後15日間放置したこのNBRコンパウンド250重量部、メチルエチルケトン75重量部およびトルエン675重量部を攪拌混合し、固形分(NBRコンパウンド)濃度25重量%のゴム糊を調製した。
(3) アルカリ脱脂した厚さ0.2mmのステンレス鋼板(日新製鋼製品SUS301)の表面に、チタンテトラ(アセチルアセトネート)1.0重量%、アルコキシシラン加水分解縮合物2.5重量%、水10.0重量%およびメタノール86.5重量%よりなるシラン系プライマーを浸せき法によって塗布し、加熱空気で乾燥させた後、約200℃で約5分間焼付け処理して、プライマー層(目付量250mg/m2)を形成させた。
【0043】
ここで用いられたアルコキシシラン加水分解縮合物は、次のようにして製造された。
【0044】
攪拌機、加熱ジャケットおよび滴下ロートを備えた三口フラスコに、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン40重量部および水20重量部を仕込み、pHが4〜5になる迄酢酸を加えてpHを調整し、数分間攪拌した。さらに攪拌を続けながら、ビニルトリエトキシシラン40重量部を滴下ロートを使って徐々に滴下し、滴下終了後約60℃で5時間加熱還流を行い、室温迄冷却してアルコキシシラン加水分解縮合物を得た。
【0045】
(4) フェノール樹脂系接着剤溶液(ロームアンドハース社製品 97重量部
シクソン715A;有機溶媒溶液中のレゾールフェノール樹脂、
ノボラックフェノール樹脂の固形分濃度38重量%、
NBR 100重量部当りのフェノール樹脂量217重量部に相当)
ヘキサメチレンテトラミン含有硬化剤(同社製品シクソン715-B) 3 〃
前記(2)で得られたゴム糊(固形分濃度25重量%) 68 〃
メチルエチルケトン 969 〃
以上の各成分よりなる接着剤組成物溶液(固形分濃度5重量%)を、上記(3)で得られたプライマー層形成ステンレス鋼板上に浸せき塗布し、室温条件下で風乾させた後、約200℃で約5分間加熱して、厚さ約2μmの接着剤層を形成させた。
(5) プライマー層および接着剤層形成ステンレス鋼板上に、前記(2)で得られたゴム糊をナイフコータで塗布、乾燥させて、厚さ約20μmの未加硫ゴム層を形成させ、次いで180℃、6分間のプレス加硫を行って、NBRゴム層を形成させた。
(6) イソシアネート変性1,2-ポリブタジエン 25重量部
(日本曹達製品TP1001;50重量%酢酸ブチル溶液)
水酸基含有1,2-ポリブタジエン 25 〃
(同社製品GQ-1000;45重量%キシレン溶液)
ポリエチレンワックス(分子量2000、融点110℃、粒子径 125 〃
1μm、15重量%トルエン溶液)
ポリテトラフルオロエチレン 125 〃
(粒子径1μm、15重量%トルエン分散液)
トルエン 950 〃
上記組成を有する表面コート剤を、上記(5)で得られた加硫ゴム層形成ステンレス鋼表面に浸せき塗布し、200℃、5分間に空気加熱による加熱処理を行い、厚さ5μmの粘度防止層を形成させて、ゴム金属積層体を作製した。
(7) このようにして得られたゴム金属積層体について、次の各項目の測定を行った。
ゴム糊の粒度:JIS K5400準拠
混練直後または25℃に10日間放置後のNBRコンパウンドを裁断し
た後溶剤中に溶解させ、未溶解粒子の粒度を測定
高温摩擦摩耗試験:混練後25℃に10日間放置したNBRコンパウンドを用いて調製
されたゴム糊を使用して作製したゴム金属積層体について、
JIS K7125、P8147に準拠して測定
新東科学製表面性試験機を用い、
相手材:硬質Crめっき製鋼球(直径10mm)
移動速度:400mm/分
往復動移動幅:30mm
温度:150℃
荷重:2.5kg
の条件下での往復動試験により摩擦摩耗試験を行い、ゴムが
摩耗して、接着剤層が露出する迄の回数を測定
圧縮試験:ゴム金属積層体のゴム面に、ステンレス鋼製凸状体を150℃、2トンf/
cm2(98MPa)、5分間の条件下で圧縮したときのゴムの状態(剥れの有
無)を目視により評価
接着強度:JIS K6850準拠(万能材料試験機を用い、雰囲気温度:常温、引張速度
50mm/分、チャック間距離:50mmの設定条件下で測定)
初期、水中浸せき後(95℃、120時間浸せき)および不凍液(トヨタ純正
LLCと水との容積比1:1混合液)浸せき後(100℃、120時間浸せき)の接
着強度を測定
【0046】
実施例2
実施例1(1)において、シラン系カップリング剤として、ビニルトリ(イソプロポキシ)シラン(東レ・ダウコーニング製品Z-6550)が同量用いられた。
【0047】
実施例3
実施例1(1)において、シラン系カップリング剤として、ビニルトリエトキシシラン(モメンティブ・パーフォーマンス・マテリアルズ社製品A-151)が同量用いられた。
【0048】
比較例1
実施例1(1)において、シラン系カップリング剤として、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン CH2=C(CH3)COOC3H6Si(OCH3)3(東レ・ダウコーニング製品Z-6030)が同量用いられた。
【0049】
比較例2
実施例1(1)において、シラン系カップリング剤として、n-オクチルトリエトキシシラン CH3(CH2)7Si(OC2H5)(モメンティブ・パーフォーマンス・マテリアルズ社製品A-137)が同量用いられた。
【0050】
比較例3
実施例1(1)において、シラン系カップリング剤を用いないで、NBRコンパウンドを得た。
【0051】
比較例4
実施例1(1)において、ホワイトカーボンおよびシラン系カップリング剤を用いないで、NBRコンパウンドを得た。
【0052】
比較例5
実施例1(4)において、次の各成分よりなる接着剤組成物溶液が用いられた。
フェノール樹脂系接着剤溶液(大日本インキ化学製品 97重量部
フェノライトPNレジン;メタノール溶媒溶液中のノボラック
フェノール樹脂の固形分濃度38重量%)
ヘキサメチレンテトラミン含有硬化剤(シクソン715-B) 3 〃
メチルエチルケトン 967 〃
【0053】
比較例6
実施例1(4)において、次の各成分を順次添加し、
メチルエチルケトン 90重量部
未加硫NBR(NSR製品N-237;中高ニトリル) 2 〃
レゾール型フェノール樹脂(ロードファーイースト社製品 5 〃
ケムロックTS1677)
塩素化ポリエチレン(ダイソー製品SE-200Z) 3 〃
調製された接着剤組成物溶液をプライマー層形成ステンレス鋼板上に塗布し、室温条件下で風乾させた後、約200℃で約5分間加熱して、厚さ約2μmの接着剤層を形成させた。
【0054】
比較例7
実施例1(1)において、シラン系カップリング剤として、ビニルトリメトキシシラン(モメンティブ社製品A171)が同量用いられた。
【0055】
比較例8
実施例1(1)において、シラン系カップリング剤として、ビニルトリアセトキシシラン(東レ・ダウコーニング製品Z-6075)が同量用いられた。
【0056】
比較例9
実施例1(4)において、次の各成分を順次添加し、
メチルエチルケトン 95重量部
レゾール型フェノール樹脂(ロードファーイースト社製品 5 〃
ケムロックTS1677)
調製された接着剤組成物溶液をプライマー層形成ステンレス鋼板上に塗布し、室温条件下で風乾させた後、約150℃で約5分間加熱して、厚さ約2μmの接着剤層を形成させた。
【0057】
実施例2〜3および比較例1〜9での他の工程および測定は、実施例1と同様に行われた。各実施例および比較例で得られた結果は、次の表に示される。

実施例 比較例
測定・評価項目
ゴム糊の粒度
混練直後(μm) 50 50 50 50 50 60 70 50 50 60 60 50
10日間後(μm) 80 80 80 >200 >200 >200 80 80 80 >200 >200 80
高温摩擦摩耗試験
接着層露出迄 250 230 220 90 70 80 80 200 150 110 100 60
の回数
圧縮試験
ゴム面剥れ なし なし なし なし なし なし あり なし なし なし なし あり
の有無
接着強度
初期 (MPa) 23 25 24 14 16 15 20 23 18 25 24 15
水中浸せき後 21 22 19 9 11 10 8 18 15 14 15 12
(MPa)
不凍液浸せき後 22 24 18 8 10 9 10 5 17 11 12 13
(MPa)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NBRと金属とを積層させるに際し、ノボラック型およびレゾール型フェノール樹脂、NBR、ホワイトカーボンおよび炭素数2以上のアルコキシ基を有するビニルトリアルコキシシランカップリング剤を含有する接着剤で接着させたゴム金属積層体。
【請求項2】
金属がステンレス鋼である請求項1記載のゴム金属積層体。
【請求項3】
金属がプライマー塗布ステンレス鋼板である請求項2記載のゴム金属積層体。
【請求項4】
炭素数2以上のアルコキシ基を有するシラン系カップリング剤としてアルコキシアルコキシ基を有するシラン系カップリング剤が用いられた請求項1記載のゴム金属積層体。
【請求項5】
NBRが配合剤を配合したNBRコンパウンドとして用いられ、これの有機溶媒溶液であるゴム糊に、フェノール樹脂、ホワイトカーボンおよびシランカップリング剤を添加した接着剤が用いられた請求項1記載のゴム金属積層体。
【請求項6】
金属と積層させるNBRおよび接着剤成分としてのNBRとして同じNBRが用いられた請求項1記載または5のゴム金属積層体。
【請求項7】
フェノール樹脂、NBR、ホワイトカーボンおよび炭素数2以上のアルコキシ基を有するビニルトリアルコキシシランカップリング剤を含有する、NBRと金属との積層用接着剤。

【公開番号】特開2011−98541(P2011−98541A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255845(P2009−255845)
【出願日】平成21年11月9日(2009.11.9)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】