説明

サスペンション装置

【課題】簡単な構成によって制動時のジャダー振動及び非制動時のフラッター振動をともに低減可能なサスペンション装置を提供する。
【解決手段】車両の前輪2を車体に対して揺動可能とされたサスペンションアーム20を介して支持するサスペンション装置1を、サスペンションアームは、車両の前後方向に離間して設けられた前側取付部21及び後側取付部22において車体に連結され、前側取付部と後側取付部との少なくとも一方に設けられ、車体に固定される第1部材32、サスペンションアームに固定される第2部材31、第1部材と第2部材との間に設けられた弾性部材33を有するとともに、前輪による制動力の増加に応じて車両前後方向のバネ定数が増加する可変剛性ブッシュ30を備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に設けられるサスペンション装置に関し、特にタイヤ等のアンバランスに起因するフラッター振動及びブレーキ制動力変動に起因するジャダー振動をともに低減するものに関する。
【背景技術】
【0002】
乗用車等の自動車のサスペンション装置は、車輪が取り付けられるハブベアリングハウジングを、車体に対して揺動するサスペンションアームによってストローク可能に支持するものである。
例えば前輪用のサスペンション装置として一般的なマクファーソンストラット式のサスペンションにおいては、ダンパ及びスプリングを一体化したストラットの下端部をハウジングに締結するとともに、ハウジングの下部をサスペンションアームによってボールジョイントを介して支持している。
サスペンションアームの車体側取付部は、一般に前後方向に離間して一対設けられ、ここには防振等のため、内筒と外筒との間に防振用のゴムを加硫接着したブッシュが設けられている。
【0003】
上述したようなサスペンション装置のブッシュの剛性設定は、例えばタイヤ、リムの重量、剛性アンバランスや振れに起因するフラッター振動や、ブレーキロータの偏磨耗のため周期的に制動力が変化することに起因するジャダー振動等の抑制のために重要である。
このようなサスペンション装置のブッシュに関する従来技術として、ブッシュに粘性液体を封入し、ブッシュに振動荷重が入力された時に減衰効果を持たせ、フラッター振動やブレーキジャダー振動を低減することが知られている。
また、例えば特許文献1には、防振支持性能とブッシュの耐久性との両立を図ることを目的として、ゴム部材にすぐり部を設けるとともに、外筒の開口部からすぐり部の内部へ高減衰ゴム部材を嵌め込んだ構成とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−052913号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述したような液体封入ブッシュや高減衰ゴムを嵌め込んだブッシュは、構造が複雑で製造工程が煩雑となり、コストが高くなってしまう。
また、液体封入ブッシュは一般的なゴムブッシュに対して耐久性が劣り、さらに高周波振動の遮断が劣ってロードノイズが悪化するという問題点がある。
さらに、車輪起因のフラッター振動とブレーキ起因のジャダー振動とでは、これらを低減するのに最適なブッシュのバネ定数が異なることから、両方の振動をともに抑制することは困難であった。
本発明の課題は、簡単な構成によって制動時のジャダー振動及び非制動時のフラッター振動をともに低減可能なサスペンション装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下のような解決手段により、上述した課題を解決する。
請求項1の発明は、車両の前輪を車体に対して揺動可能とされたサスペンションアームを介して支持するサスペンション装置であって、前記サスペンションアームは、車両の前後方向に離間して設けられた前側取付部及び後側取付部において前記車体に連結され、前記前側取付部と前記後側取付部との少なくとも一方に設けられ、前記車体に固定される第1部材、前記サスペンションアームに固定される第2部材、前記第1部材と前記第2部材との間に設けられた弾性部材を有するとともに、前記前輪による制動力の増加に応じて車両前後方向のバネ定数が増加する可変剛性ブッシュを備えることを特徴とするサスペンション装置である。
【0007】
請求項2の発明は、前記可変剛性ブッシュは、前記サスペンションアームの前記前側取付部及び前記後側取付部のうち、前記前輪の車軸中心からの車両前後方向距離が遠い側に設けられることを特徴とする請求項1に記載のサスペンション装置である。
請求項3の発明は、前記前側取付部は車両前後方向における位置が前記前輪より前方側に配置され、前記後側取付部は車両前後方向における位置が前記前輪と重なった位置に配置され、前記可変剛性ブッシュは前記前側取付部に設けられることを特徴とする請求項2に記載のサスペンション装置である。
請求項4の発明は、前記前側取付部は車両前後方向における位置が前記前輪と重なった位置に配置され、前記後側取付部は車両前後方向における位置が前記前輪より後方側に配置され、前記可変剛性ブッシュは前記後側取付部に設けられることを特徴とする請求項2に記載のサスペンション装置である。
請求項5の発明は、前記サスペンションアームは、マクファーソンストラット式サスペンションのロワアームであることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のサスペンション装置である。
【0008】
請求項6の発明は、前記第1部材と前記第2部材の一方は鉛直方向にほぼ沿って配置され前記車体に固定される内筒であり、前記第1部材と前記第2部材の他方は前記内筒が挿入される外筒であり、前記弾性部材は前記内筒の外周面と前記外筒の内周面との間に配置されるとともに、所定値以上の制動力発生時に対向する面間が密着するスグリ部が形成されることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のサスペンション装置である。
請求項7の発明は、前記第1部材と前記第2部材の一方は車両前後方向にほぼ沿って配置され前記車体に固定される外筒であり、前記第1部材と前記第2部材の他方は前記外筒に挿入される内筒であり、前記弾性部材は前記内筒の外周面と前記外筒の内周面との間に配置され、所定値以上の制動力発生時に前記外筒の端面と当接する弾性部材を有し、軸方向の荷重に対する剛性を非制動時に対して増加させるストッパ部が設けられることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のサスペンション装置である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、サスペンションアームの前側取付部と後側取付部との少なくとも一方に、前輪による制動力の増加に応じて車両前後方向のバネ定数が増加する可変剛性ブッシュを備える構成とすることによって、フラッター振動が発生しやすい一定速走行時等の非制動時においては、ブッシュの剛性(バネ定数)を低くすることによってフラッター振動を抑制し、ブレーキジャダー振動が発生しやすい制動時においては、ブッシュの剛性(バネ定数)を高くすることによってジャダー振動を抑制することができる。
また、可変剛性ブッシュは、前側取付部及び後側取付部のうち、前輪の車軸中心からの車両前後方向距離が遠い側に設けられることによって、上述した効果をより確実に得ることができる。
また、第1部材と第2部材の一方は鉛直方向にほぼ沿って配置され車体に固定される内筒であり、他方は内筒が挿入される外筒であり、弾性部材は内筒の外周面と外筒の内周面との間に配置されるとともに、所定値以上の制動力発生時に対向する面間が密着するスグリ部が形成されることによって、非制動時にはこのスグリ部が機能して可変剛性ブッシュの剛性を低下させ、制動時にはスグリ部の対向する面間が当接することによってスグリ部の剛性低下効果を減殺し、可変剛性ブッシュの剛性を向上することができる。
また、弾性部材を介して接合された第1部材及び第2部材を車両前後方向にほぼ沿って配置し、所定値以上の制動力発生時に外筒の端面と当接する弾性部材を有し、軸方向の荷重に対する剛性を非制動時に対して増加させるストッパ部を設けることによって、制動時以外のブッシュの性能を変化させることなく制動時のみ可変剛性ブッシュの剛性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を適用したサスペンション装置の実施例1の模式的平面図であって、一定速走行時の状態を示すものである。
【図2】実施例1のサスペンション装置の模式的側面図であって、一定速走行時の状態を示すものである。
【図3】実施例1のサスペンション装置の模式的平面図であって、制動時の状態を示すものである。
【図4】実施例1のサスペンション装置の模式的側面図であって、制動時の状態を示すものである。
【図5】実施例1のサスペンション装置のフロントブッシュを上方から見た状態を示す模式図であって、図5(a)、図5(b)、図5(c)は無負荷時、一定速走行時、減速時の状態をそれぞれ示している。
【図6】図1のフロントブッシュの荷重−変位線図である。
【図7】フロントブッシュのバネ定数とフラッター振動との相関を示すグラフである。
【図8】フロントブッシュのバネ定数とブレーキジャダー振動との相関を示すグラフである。
【図9】本発明を適用したサスペンション装置の実施例2の模式的平面図であって、一定速走行時の状態を示すものである。
【図10】実施例2のサスペンション装置の模式的側面図であって、一定速走行時の状態を示すものである。
【図11】実施例2のサスペンション装置の模式的平面図であって、制動時の状態を示すものである。
【図12】実施例2のサスペンション装置の模式的側面図であって、制動時の状態を示すものである。
【図13】実施例2のサスペンション装置のリアブッシュを上方から見た状態を示す模式図であって、図13(a)、図13(b)、図13(c)は無負荷時、一定速走行時、減速時の状態をそれぞれ示している。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明は、簡単な構成によって制動時のジャダー振動及び非制動時のフラッター振動をともに低減可能なサスペンション装置を提供する課題を、制動時に前輪に後引き力が発生したときのブッシュの変形によって一部のスグリ部の対向する面間を密着させ、あるいは、外筒をストッパに当接させて、ブッシュのバネ定数を高くすることによって解決した。
【実施例1】
【0012】
以下、本発明を適用したサスペンション装置の実施例1について説明する。
実施例1のサスペンション装置は、例えば乗用車等の自動車のフロントサスペンションとして用いられるマクファーソンストラット式のものである。
図1及び図2は、実施例1のサスペンション装置の模式的平面図及び模式的側面図であって、車両の一定速走行時の状態を示すものである。また、図3及び図4は、図1及び図2にそれぞれ対応する図であって、制動時の状態を示すものである。なお、サスペンション装置は実質的に左右対称に構成され、各図は左側を示している。
【0013】
サスペンション装置1は、前輪2を支持するものである。前輪2は、タイヤ3をリム4に組み込んで構成されている。
サスペンション装置1は、前輪2を回転可能に支持する図示しないハブベアリングハウジング(以下単に「ハウジング」と称する)を図示しない車体に対してストローク可能に支持するものである。
【0014】
サスペンション装置1は、ストラット10、ロワアーム20、フロントブッシュ30、リアブッシュ40を有し、さらに、ステアリング装置50が設けられている。
ストラット10は、ほぼ上下方向に沿って配置され、その伸縮方向は所定のサスペンションジオメトリを実現するため、所定の角度だけ後傾しかつ内傾している。
ストラット10は、ショックアブソーバ11、アッパマウント12、スプリング13等を備えて構成されている。
【0015】
ショックアブソーバ11は、伸縮時のピストン速度に応じた減衰力を発生する油圧式緩衝装置である。
ショックアブソーバ11は、円筒状に形成され内部にシリンダが設けられた筐体であるシェルケースの上端部からロッド11aを突き出して構成されている。
また、シェルケースの外周面部には、スプリング13の下端部を受けるスプリングシート11bがつば状に張り出して形成されている。
ショックアブソーバ11の下端部は、図示しないブラケットを介して、ハウジングに締結され固定されている。
【0016】
アッパマウント12は、ロッド11aの上端部が固定されるとともに、車体の図示しないストラットタワー上部に締結されるものである。
アッパマウント12の下部には、スプリング13の上端部を受けるスプリングシート12aが設けられている。
また、アッパマウント12は、転舵時に前輪2とともにストラット10全体を車体に対して回転させるための軸受12bが設けられている。
【0017】
スプリング13は、圧縮コイルスプリングであって、上端部はアッパマウント12のスプリングシート12aに当接し、下端部はショックアブソーバ11のスプリングシート11bに当接している。
ショックアブソーバ11は、このスプリング13の内径側に挿入されている。
【0018】
ロワアーム20は、車体に対して揺動可能に取り付けられ、ハウジングの下端部を支持するものである。
ロワアーム20は、フロントブッシュ取付部21、リアブッシュ取付部22、ボールジョイント23、横伸部24、縦伸部25等を備えて構成されている。
【0019】
フロントブッシュ取付部21は、フロントブッシュ30が圧入され固定される部分であって、円筒状に形成され、中心軸は上下方向にほぼ沿って配置されている。
リアブッシュ取付部22は、リアブッシュ40が圧入され固定される部分であって、円筒状に形成され、中心軸は車両前後方向にほぼ沿ったロワアーム20の揺動中心軸に沿って配置されている。
フロントブッシュ取付部21とリアブッシュ取付部22とは、図1に示すように前後方向に離間して、前輪2に対して車幅方向内側に配置されている。
【0020】
フロントブッシュ取付部21とリアブッシュ取付部22の中心部を結んだ直線である揺動中心軸は、図2に示すように、側面角ρだけ前下がりとなるように傾斜している。また、フロントブッシュ取付部21はこの直線と直交するように前傾し、リアブッシュ取付部22はこの直線と同心に配置されている。
フロントブッシュ取付部21は、車両の前後方向における位置がタイヤ3よりも前方に配置されている。
リアブッシュ取付部22は、タイヤ3の車幅方向内側に設けられ、車両の前後方向における位置がタイヤ3の中心部よりやや後方寄りに配置されている。
このような配置により、前輪2の車軸中心からの車両前後方向距離は、フロントブッシュ取付部21のほうがリアブッシュ取付部22よりも遠くなっている。
【0021】
ボールジョイント23は、リアブッシュ取付部22に対して車幅方向外側に設けられ、ハウジングの下端部をロワアーム20に対して揺動可能に支持する部分である。
ボールジョイント23は、図1に示すように、車両前後方向における位置が、タイヤ3の中心よりもやや前方よりに配置され、車幅方向における位置がリム4内径側の車幅方向内側の領域に配置されている。
【0022】
横伸部24は、リアブッシュ取付部22とボールジョイント23とを連結する部分であって、車幅方向にほぼ沿って伸びている。
縦伸部25は、横伸部24のリアブッシュ取付部22近傍の領域から前方へ突き出して形成され、フロントブッシュ取付部21と横伸部24とを連結する部分である。
横伸部24及び縦伸部25は、例えばスチールプレス成型品の結合あるいはアルミニウム系合金による鍛造等によって一体に形成されている。
【0023】
フロントブッシュ30は、フロントブッシュ取付部21に取り付けられる防振用の弾性体ブッシュである。
図5は、フロントブッシュ30を上方から見た平面図であって、図5(a)はロワアーム20に組み込まれる前の無負荷状態を示し、図5(b)は車両の一定速走行状態を示し、図5(c)は車両の制動時を示している。
フロントブッシュ30は、外筒31、内筒32、ゴム部33を有し、ゴム部33には、フロントブッシュ30の軸方向に貫通した開口部であるフロントスグリ部34、リアスグリ部35が形成されている。
【0024】
外筒31は、フロントブッシュ取付部21に圧入され固定される円筒状の部材である。
内筒32は、外筒31の内径側に挿入される円筒状の部材である。内筒32は、車体に図示しないボルト等によって締結され固定される。
ゴム部33は、外筒31の内周面と内筒32の外周面との間にわたして設けられ、これらと加硫接着によって結合されている。
【0025】
フロントスグリ部34及びリアスグリ部35は、上方から見た形状が内筒32を中心とする円弧状に形成されている
フロントスグリ部34は、内筒32に対して車両前方側かつ車幅方向内側に配置されている。
リアスグリ部35は、内筒32に対して車両後方側かつ車幅方向外側に配置されている。リアスグリ部35の幅は、無負荷状態においては、フロントスグリ部34に対して広く設定されている。
フロントスグリ部34及びリアスグリ部35の配置については、後に詳しく説明する。
【0026】
また、フロントスグリ部34の内筒32側の面部から、外筒31側の面部34bに向けて突き出した凸部34aが形成されている。
この凸部34aと面部34bとの間隔は、図5(a)に示す無負荷状態においては、リアスグリ部35の径方向幅よりも狭くなっている。
【0027】
リアブッシュ40は、リアブッシュ取付部22に取り付けられる防振用の弾性体ブッシュである。
図2に示すように、リアブッシュ40は、外筒41、内筒42、及び、図示しないゴム部を有する。
外筒41は、リアブッシュ取付部22に圧入され固定される円筒状の部材である。
内筒42は、外筒41の内径側に挿入される円筒状の部材である。内筒42は、車体に図示しないボルト等によって締結され固定される。
ゴム部は、外筒41の内周面と内筒42の外周面との間にわたして設けられ、これらと加硫接着によって結合されている。
【0028】
ステアリング装置50は、前輪2を操向するものであって、ステアリングギヤボックス51、タイロッド52、ボールジョイント53等を備えている。
ステアリングギヤボックス51は、図示しないステアリングホイール及びこれに接続されたステアリングシャフトの回転運動を、車幅方向の直進運動に変換するラックアンドピニオン機構等を備えている。
タイロッド52は、ステアリングギヤボックス51のラックの動きをハウジングに伝達する軸状の部材である。タイロッド52は、ハウジング側の端部がステアリングギヤボックス51側の端部に対して前進するよう、車幅方向に対して傾斜して配置されている。
ボールジョイント53は、タイロッド52のハウジング側の端部に設けられ、ハウジングに形成されたナックルアームとタイロッド52とを揺動可能に連結するものである。
【0029】
以下、実施例1のフロントブッシュ30の動作について、より詳細に説明する。
図1に示すように、前輪2の中心面とタイロッド52の軸線との交点a及びボールジョイント23の中心bを結んだ直線L1と、フロントブッシュ30の反力線L2との交点cから、フロントブッシュ30の中心に引いた直線L3を設定することができる。
フロントブッシュ30の周方向におけるフロントスグリ部34及びリアスグリ部35の中央部は、この直線L3近傍となるように配置されている。
【0030】
図1、図2、及び、図5(b)に示す車両の一定速走行状態(駆動力も制動力も負荷されないかあるいはごく小さい状態)では、サスペンション装置1が有するキャスター角γに起因して、タイヤ3の鉛直方向接地荷重Wとストラット10軸力との釣り合いから、図2に示す前後力Fwbが発生する。また、図1に示すように、前後力Fwbとタイロッド52の軸力との合力と、フロントブッシュ30及びリアブッシュ40に作用する力との釣り合いから、フロントブッシュ30には、上述した直線L3方向に沿って、内筒32を外筒31に対して車両後方側へ相対変位させるラジアル方向力Rfが作用する。
【0031】
その結果、フロントスグリ部34においては、凸部34aと面部34bとの間隔が広くなり、フロントスグリ部35は広がる。
一方、リアスグリ部35は狭まる。
これにより、フロントスグリ部34及びリアスグリ部35はともに間隔を有する状態となって外筒31に対する内筒32の直線L3に沿った方向の支持剛性(バネ定数)は比較的小さい状態となる。
【0032】
これに対し、図3、図4、及び、図5(c)に示す車両のブレーキによる制動状態(例えば、車体に作用する減速度が0.3G以上)では、タイヤ3の踏面に作用する後引き力であるブレーキ力BFの作用によって、一定速走行状態における前後力Fwbに相当する前後力Fwb’は、Fwdに対して逆向きとなる。
このため、フロントブッシュ30には、上述した直線L3方向に沿って、内筒32を外筒31に対して車両前方側に相対変位させるラジアル方向力Rfbが作用する。
【0033】
その結果、フロントスグリ部34においては、凸部34aと面部34bとが当接し、フロントスグリ部34が実質的に機能しない状態となって、外筒31に対する内筒32の直線L3に沿った方向の支持剛性(バネ定数)は比較的大きい状態となる。
このような作用により、フロントブッシュ30は、本発明にいう可変剛性ブッシュとして機能する。
【0034】
以下、実施例1のサスペンション装置によるフラッター振動及びジャダー振動の低減効果について説明する。
図6は、フロントブッシュ30の荷重−変位線図である。図6において、縦軸は外筒31と内筒32との間に直線L3方向に沿って作用する荷重を示しており、上側が内筒32を後方に引く方向の荷重を示している。また、横軸は外筒31と内筒32の直線L3方向に沿った相対変位を示している。
図6に示すように、実施例1のフロントブッシュ30においては、フラッター振動が問題となる領域(荷重Rf近傍)においては、バネ定数(図中の傾き)が比較的低く、ジャダー振動が問題となる領域(荷重Rfb近傍)においては、バネ定数が比較的高くなっている。
なお、このようなフロントブッシュ30の剛性設定は、上述したキャスター角γ、サスペンションアームの側面角ρ、接地荷重W、さらに車両の重心高、前後ブレーキ制動力配分などを考慮して設定する。
【0035】
図7は、フロントブッシュの剛性(バネ定数)とフラッター振動との相関を示すグラフである。図7において、横軸は車速を示し、縦軸はステアリングホイール端における振動速度を示している。
また、フロントブッシュのバネ定数が相対的に高いもののデータを実線で示し、相対的に低いもののデータを破線で示している。
図7に示すように、バネ定数が高いフロントブッシュにおいては、高速側においてバネ定数が低いものに対して、フラッター振動が悪化することがわかる。
このようなフラッター振動は、前輪2の重量アンバランス、剛性アンバランス、振れ等によって、主に一定速走行時(非減速時)に発生する。
【0036】
図8は、フロントブッシュの剛性(バネ定数)とジャダー振動との相関を示すグラフである。図8において、横軸は振動周波数を示し、縦軸はステアリングホイール端における振動速度を示している。
また、フロントブッシュのバネ定数が相対的に高いもののデータを実線で示し、相対的に低いもののデータを破線で示している。
図8に示すように、ブレーキ起因のジャダー振動に関しては、フロントブッシュのバネ定数を高くすると、共振周波数が上昇するが振動の増大は少なく、この周波数領域で人間が感じる振動速度としては減少する。
【0037】
この点、実施例1によれば、フロントブッシュ30に一定速走行時には通常のスグリ部として機能してバネ定数を低下させ、減速時には対向する面間が密着してバネ定数を増加させるフロントスグリ部34を設けたことによって、一定速走行時にはフロントブッシュ30の直線L3方向におけるバネ定数を低くしてフラッター振動を抑制することができる。
一方、制動時にはフロントブッシュ30の直線L3方向におけるバネ定数を高くしてブレーキジャダー振動を抑制することができる。
【実施例2】
【0038】
次に、本発明を適用したサスペンション装置の実施例2について説明する。以下、上述した実施例1と実質的に共通する箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図9乃至図13に示す実施例2のサスペンション装置101は、実施例1のサスペンション装置1のロワアーム20、フロントブッシュ30、リアブッシュ40に代えて、以下説明するロワアーム120、フロントブッシュ130、リアブッシュ140を備えている。
【0039】
ロワアーム120は、車体に対して揺動可能に取り付けられ、ハウジングの下端部を支持するものである。
ロワアーム120は、フロントブッシュ取付部121、リアブッシュ取付部122、ボールジョイント123、L状部124、縦伸部125等を備えて構成されている。
【0040】
フロントブッシュ取付部121は、フロントブッシュ130が圧入され固定される部分であって、円筒状に形成され、中心軸は車両前後方向にほぼ沿ったロワアーム120の揺動中心軸に沿って配置されている。
リアブッシュ取付部122は、リアブッシュ140が圧入され固定される部分であって、円柱状のシャフトとして形成され、中心軸は上述した揺動中心軸に沿って配置されている。
フロントブッシュ取付部121とリアブッシュ取付部122とは、図9に示すように前後方向に離間して、前輪2に対して車幅方向内側に配置されている。
【0041】
フロントブッシュ取付部121とリアブッシュ取付部122の中心部を結んだ直線である揺動中心軸は、図10に示すように、側面角ρだけ前下がりとなるように傾斜している。また、フロントブッシュ取付部121及びリアブッシュ取付部122は、この直線と同心に配置されている。
フロントブッシュ取付部121は、車両の前後方向における位置がタイヤ3の前端部近傍に配置されている。
リアブッシュ取付部122は、車両の前後方向における位置がタイヤ3の後端部よりも後方に配置されている。
このような配置により、前輪2の車軸中心からの車両前後方向距離は、フロントブッシュ取付部121に対してリアブッシュ取付部122のほうが遠くなっている。
【0042】
ボールジョイント123は、フロントブッシュ取付部121及びリアブッシュ取付部122に対して車幅方向外側に設けられ、ハウジングの下端部をロワアーム120に対して揺動可能に支持する部分である。
ボールジョイント123は、図9に示すように、車両前後方向における位置が、タイヤ3の中心よりもやや前方よりに配置され、車幅方向における位置がリム4内径側の車幅方向内側の領域に配置されている。
【0043】
L状部124は、リアブッシュ取付部122とボールジョイント123とを連結する部分であって、ボールジョイント123近傍の領域は車幅方向にほぼ沿って伸び、リアブッシュ取付部122近傍の領域は前後方向にほぼ沿って伸びるよう、L字状に湾曲している。
リアブッシュ取付部122は、このL状部124の後端部から突き出して形成されている。
縦伸部25は、L状部124の屈曲部から前方へ突き出して形成され、フロントブッシュ取付部121とL状部124とを連結する部分である。
L状部124及び縦伸部25は、例えばスチールプレス成型品の結合あるいはアルミニウム系合金による鍛造等によって一体に形成されている。
【0044】
フロントブッシュ130は、フロントブッシュ取付部121に取り付けられる防振用の弾性体ブッシュである。
図10に示すように、フロントブッシュ130は、外筒131、内筒132、及び、図示しないゴム部を有する。
外筒131は、フロントブッシュ取付部121に圧入され固定される円筒状の部材である。
内筒132は、外筒131の内径側に挿入される円筒状の部材である。内筒132は、車体に図示しないボルト等によって締結され固定される。
ゴム部は、外筒131の内周面と内筒132の外周面との間にわたして設けられ、これらと加硫接着によって結合されている。
【0045】
リアブッシュ140は、外筒141、内筒142、ゴム部143、フロントストッパ144、リアストッパ145等を備えて構成されている。
外筒141は、円筒状に形成された部材であって、その外周面を保持するブラケット141aによって車体に締結され固定される。
内筒142は、外筒141の内径側に挿入される円筒状部材である。内筒142の内径側には、サスペンションアーム120のリアブッシュ取付部122のシャフト部が挿入され、シャフト部の突端部に形成されたネジ部にナットNを締結することによってサスペンションアーム120に固定される。
ゴム部143は、外筒141の内周面と内筒142の外周面との間にわたして設けられ、これらと加硫接着によって結合されている。
【0046】
フロントストッパ144及びリアストッパ145は、リアブッシュ取付部122のシャフト部に固定され、ここから外径側につば状に張り出して形成された円盤状の部材である。フロントストッパ144及びリアストッパ145は、例えばゴム等の弾性を有する材料によって形成されている。
フロントストッパ144及びリアストッパ145は、外筒141の前後両端面とそれぞれ対向して配置されている。
図13(a)に示すように、無負荷状態においては、フロントストッパ144と外筒141の前端面との間の間隔Cfは、リアストッパ145と外筒141の後端面との間の間隔Crよりも大きくなっている。
【0047】
図9、図10に示すように、一定速走行時においては、外筒141に対して内筒142が前方に引かれることによって、図13(b)に示すように、フロントストッパ144と外筒141の前端面との間の間隔Cfは、リアストッパ145と外筒141の後端面との間の間隔Crとほぼ同じとなっている。
図11、図12に示すように、制動時においては、外筒141に対して内筒142が後方へ押されることによって、図13(c)に示すように、外筒141の前端面はフロントストッパ144と当接し、リアブッシュ140の軸方向荷重に対する剛性(バネ定数)は高くなる。
【0048】
以上説明した実施例2のサスペンション装置においても、上述した実施例1の効果と実質的に同様の効果を得ることができる。
【0049】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施例に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
例えば、サスペンション装置の構成は、上述した各実施例のものに限定されず、適宜変更することができる。
例えば、実施例1のフロントブッシュのように中心軸が上下方向に配置されたブッシュを、実施例2のようなL字ロワアームのリアブッシュとして用いることができる。また、実施例2のリアブッシュのように中心軸がサスペンション揺動軸に沿って配置されたブッシュを、フロントブッシュとして用いることができる。
また、実施例のサスペンション装置は例えばマクファーソンストラット式のものであったが、ハウジングの上部をアッパーアームによって位置決めするダブルウィッシュボーン式やマルチリンク式のサスペンション装置にも本発明を適用することができる。
さらに、ブッシュの剛性を変化させる手法、例えばスグリ部やストッパ部の形状、構成なども適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0050】
1 サスペンション装置 2 前輪
3 タイヤ 4 リム
10 ストラット 11 ショックアブソーバ
11a ロッド 11b スプリングシート
12 アッパマウント 12a スプリングシート
12b 軸受 13 スプリング
20 ロワアーム 21 フロントブッシュ取付部
22 リアブッシュ取付部 23 ボールジョイント
24 横伸部 25 縦伸部
30 フロントブッシュ 31 外筒
32 内筒 33 ゴム部
34 フロントスグリ部 34a 凸部
34b 面部 35 リアスグリ部
40 リアブッシュ 41 外筒
42 内筒
50 ステアリング装置 51 ステアリングギヤボックス
52 タイロッド 53 ボールジョイント
101 サスペンション装置
120 ロワアーム 121 フロントブッシュ取付部
122 リアブッシュ取付部 123 ボールジョイント
124 L状部 125 前伸部
130 フロントブッシュ 131 外筒
132 内筒
140 リアブッシュ 141 外筒
141a ブラケット 142 内筒
143 ゴム部 144 フロントストッパ
145 リアストッパ N ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前輪を車体に対して揺動可能とされたサスペンションアームを介して支持するサスペンション装置であって、
前記サスペンションアームは、車両の前後方向に離間して設けられた前側取付部及び後側取付部において前記車体に連結され、
前記前側取付部と前記後側取付部との少なくとも一方に設けられ、前記車体に固定される第1部材、前記サスペンションアームに固定される第2部材、前記第1部材と前記第2部材との間に設けられた弾性部材を有するとともに、前記前輪による制動力の増加に応じて車両前後方向のバネ定数が増加する可変剛性ブッシュを備えること
を特徴とするサスペンション装置。
【請求項2】
前記可変剛性ブッシュは、前記サスペンションアームの前記前側取付部及び前記後側取付部のうち、前記前輪の車軸中心からの車両前後方向距離が遠い側に設けられること
を特徴とする請求項1に記載のサスペンション装置。
【請求項3】
前記前側取付部は車両前後方向における位置が前記前輪より前方側に配置され、
前記後側取付部は車両前後方向における位置が前記前輪と重なった位置に配置され、
前記可変剛性ブッシュは前記前側取付部に設けられること
を特徴とする請求項2に記載のサスペンション装置。
【請求項4】
前記前側取付部は車両前後方向における位置が前記前輪と重なった位置に配置され、
前記後側取付部は車両前後方向における位置が前記前輪より後方側に配置され、
前記可変剛性ブッシュは前記後側取付部に設けられること
を特徴とする請求項2に記載のサスペンション装置。
【請求項5】
前記サスペンションアームは、マクファーソンストラット式サスペンションのロワアームであること
を特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のサスペンション装置。
【請求項6】
前記第1部材と前記第2部材の一方は鉛直方向にほぼ沿って配置され前記車体に固定される内筒であり、
前記第1部材と前記第2部材の他方は前記内筒が挿入される外筒であり、
前記弾性部材は前記内筒の外周面と前記外筒の内周面との間に配置されるとともに、所定値以上の制動力発生時に対向する面間が密着するスグリ部が形成されること
を特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のサスペンション装置。
【請求項7】
前記第1部材と前記第2部材の一方は車両前後方向にほぼ沿って配置され前記車体に固定される外筒であり、
前記第1部材と前記第2部材の他方は前記外筒に挿入される内筒であり、
前記弾性部材は前記内筒の外周面と前記外筒の内周面との間に配置され、
所定値以上の制動力発生時に前記外筒の端面と当接する弾性部材を有し、軸方向の荷重に対する剛性を非制動時に対して増加させるストッパ部が設けられること
を特徴とする請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のサスペンション装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−235841(P2011−235841A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−111034(P2010−111034)
【出願日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【Fターム(参考)】