説明

シフトロック用カム

【課題】成形不良が少なく簡単に成形でき、自動車のシフトレバー装置に手作業でも簡単に組み付けることができるシフトロック用カムを提供する。
【解決手段】シフトロック用カム10は、自動車用シフトレバー装置の本体部20に組み付けられ、シフト操作を制限するためのものである。自動車用シフトレバー装置の本体部20は、シフトロック用カムの回転を制限するための2つのストッパー21a、22を備え、シフトロック用カム10は、回転軸2の周りで一方向に回転させて本体部20の一方のストッパー22に接触させるための接触部3と、回転軸の周りで他方向に回転させて本体部の他方のストッパー21aに接触させる又は、所定の位置で係合部材に係合させるための突起部1aと、突起部を片持ちで支持するとともに、突起部が他方のストッパーに接触しない位置まで撓むことが可能な支持部1bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のシフトレバー装置に簡単に組み付けることができるシフトロック用カムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シフトロックとは、AT(Automatic Transmission)を備える自動車において、Pレンジでシフトレバーをロックしてシフト操作を制限する機構である。シフトロックでは、ブレーキペダルを踏むことや解除ボタンを押すことによりシフトレバーのロックを解除してPレンジから他のレンジにシフト操作できるようにしている。
【0003】
従来のシフトロックは、シフトレバーをロックするカム部材と、それを回転自在に支持する支持部材とを含む多数の構成部品からなり、シフトレバー装置に取り付けるにも、カム部と支持部とを連結後にボルト等の留め具で固定するため作業時間を要していた。そのため、シフトロックの構成部品の一つとして、上記カム部と支持部とを一体成形してシフトレバー装置に留め具無しで簡単に組み付けることができるシフトロック用カムが開発されている。
【0004】
図5(a)、(b)に示すように、従来のシフトロック用カム50は、突起部50aと、軸部50bとを有し、さらに、突起部50aの近傍に開口Aを設けている。なお、ケーブル固定部63に固定されたロックケーブル(図示無し)は、ケーブル接続部50cに接続されており、シフトロック用カム50を回転させる。この開口Aは、突起部50aを鉛直方向(D方向)に所定の長さ撓ませるためのものである。開口Aは、具体的に、所定の幅を有する略帯状であって、突起部50aの周辺部と開口Aとの間の肉厚を薄くするように略円弧状に設けられている。
【0005】
このシフトロック用カム50は、図5(a)に示すように、軸部50bをシフトレバー装置の所定の位置に挿入した後、突起部50aがシフトレバー装置のストッパー61を乗り越えるようにD方向に撓ませてシフトロック用カム50をR方向に回転させることでシフトレバー装置に組み付けることができる。この突起部50aは、シフトロック用カム50の回転を制限するために設けられており、シフトレバー装置のストッパー61でR方向と逆方向の回転を制限している。なお、シフトロック用カム50のR方向の回転は、シフトロック用カム50の一部をシフトレバー装置のストッパー62に接触させることで制限している。
【0006】
上記のような従来のシフトロック用カムは、自身の回転を制限するための突起部を所定の長さ撓ませるだけでシフトレバー装置に簡単に組み付けることができ、その撓ませるために必要な荷重の大きさよってはその組み付けを手作業でも十分に実施できるものとなっている。
【0007】
また、その他の技術として、特許文献1は、シフトロックとキーインターロックとを兼ねるインターロックカムをシフトレバー装置にワンタッチで簡単に組み付けるために、リターンスプリングが軸部に仮係止されたインターロックカムの組み付け構造を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−291660号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のシフトロック用カムは、シフトレバー装置に組み付ける際、突起部を鉛直方向に撓ませるために大きな荷重を必要としていた。そのため、従来のシフトロック用カムを手作業でシフトレバー装置に組み付けるにしても簡単にワンタッチで実施することができず、特に、突起部を鉛直方向に撓ませるために作業時間を要していた。
【0010】
さらに、従来のシフトロック用カムは、突起部を鉛直方向に撓ませるための開口を有するため、一般的な可撓性部材である樹脂で成形する際、溶融樹脂が金型内で回り込んで合流、融着する部分に、成形不良の1つであるV字状等の接合痕(ウエルド)が生じ易いという問題があった。このウエルドを生じた部分は、外観上はもちろんのこと、接合強度等の機械的特性を著しく低下させるという問題を有する。そのため、樹脂で成形された従来のシフトロック用カムは、シフトレバー装置に組み付ける際に突起部に荷重を加えると割れる懸念があった。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、成形不良が少なく簡単に成形でき、自動車のシフトレバー装置に手作業でも簡単に組み付けることができるシフトロック用カムを提供することを主たる技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明に係るシフトロック用カム10は、自動車用シフトレバー装置の本体部20に組み付けられ、シフトレバー装置のシフト操作を制限するためのものである。自動車用シフトレバー装置の本体部20は、シフトロック用カムの回転を制限するための2つのストッパー21a、22を備え、シフトロック用カム10は、回転軸2の周りで一方向に回転させて本体部20の一方のストッパー22に接触させるための接触部3と、回転軸の周りで他方向に回転させて本体部の他方のストッパー21aに接触させる又は、所定の位置で係合部材に係合させるための突起部1aと、突起部を片持ちで支持するとともに、突起部が他方のストッパーに接触しない位置まで撓むことが可能な支持部1bとを備えることを特徴とする。
【0013】
このような構成にすると、シフトロック用カムをシフトレバー装置の本体部に組み付ける際に、従来よりも小さい荷重で突起部をストッパーに係止しない位置まで撓ませることができ、簡単に組み付けることができる。また、シフトロック用カムを金型で一体成形しても、溶融材料が金型内で回り込んで合流、融着する部分が突起部や支持部にないため、組み付けの際に成形不良による割れを抑えることができる。
【0014】
本発明に係るシフトロック用カム10の支持部1bは、回転の一方向に沿って湾曲している湾曲部1を有することが好ましい。このように構成すると、支持部の回転半径を小さくできるとともに、突起部を撓ませるために必要な部分をコンパクトに形成することができる。
【0015】
本発明に係るシフトロック用カム10の突起部1aは、テーパ部を有することが好ましい。このように構成すると、テーパ部に接触させるストッパーで簡単に突起部を撓ませることができる。
【0016】
本発明に係るシフトロック用カム10の材質は樹脂で構成されていてもよい。
【0017】
本発明に係るシフトロック用カム10は全体を一体成形することが好ましい。このように構成すると、シフトロック用カム10を簡単に大量生産することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るシフトロック用カムは、突起部を片持ちで支持しているため従来よりも小さい荷重で突起部を撓ませることができる。また、本発明に係るシフトロック用カムは、金型で一体成形しても、溶融材料が金型内で回り込んで合流、融着する部分が突起部や支持部にないため、組み付けの際に成形不良による割れを抑えることができる。その結果、本発明に係るシフトロック用カムは、手作業でも簡単にワンタッチでシフトレバー装置の本体部に組み付けすることができるとともに、組み付けの際の不良を抑えることができるため、生産性の大幅な向上が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】シフトレバー装置に組み付けたシフトロック用カムを示す図。
【図2】シフトロック用カムを示す図であり、(a)はシフトロック用カムの表面を示す図であり、(b)はシフトロック用カムの裏面を示す図。
【図3】シフトロック用カムを示す図であり、(a)は図1(a)のシフトロック用カムをX方向から見た矢視図であり、(b)は図1(a)のシフトロック用カムをY方向から見た矢視図。
【図4】シフトロック用カムの組み付けを説明する図。
【図5】従来のシフトロック用カムを示す図であり、(a)はシフトレバー装置に組み付け前を示す図であり、(b)はシフトレバー装置に組み付け後を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態では、構成の一例として、自動車のシフトレバー装置に組み付けられるシフトロック用カムついて以下に説明している。
【0021】
(実施形態)
図1は、シフトレバー装置に組み付けたシフトロック用カムを示す図であり、シフトレバー装置の本体部(筐体)の一部を示す図である。シフトロック用カム10は、図1に示すように、湾曲部1と、先端に係合部2aが設けられた軸部2と、接触部3と、ロックピン挿入部4と、先端に係合部5aが設けられた案内部5とを有する。また、シフトレバー装置の本体部20は、シフトロック用カム10を組み付ける部分に、ストッパー21aを有するケーブル固定部21と、ストッパー22と、案内部5が移動する開口部23と、ロックピン(図示無し)が移動する開口部24と、軸挿入部25とを有する。以下、各部の詳細について説明する。
【0022】
湾曲部1は、突起部1aと、突起部1aを片持ちで支持する支持部1bとを有し、軸部2の周りに沿って湾曲するように構成されている。突起部1aは、湾曲部1の開口部分に向かって末広がりのテーパ部を有している。湾曲部1は、突起部1aを軸部2の方向に所定の長さ撓むように構成されており、同様の構成であれば適宜変更してもよい。
【0023】
軸部2は、断面を略十字形とし、一端に十字の一字の一部を延長するように係合部2aを設けている。また、案内部5は、軸部2と同様に先端にL字状の係合部5aを設けている。接触部3は、ストッパー22と接触する部分と、シフトロックのケーブル(図示無し)を接続するためのケーブル接続部3aとを有する。ストッパー22と接触する部分は、図1では、平坦であるが、凸部やストッパー22の形状に応じて適宜変更してもよい。
【0024】
ロックピン挿入部4は、シフトレバーと一体的に移動するロックピンを挿入する部分であり、ロックピンを挿入後シフトロック用カム10を軸部2の周りに回転させることで、ロックピン挿入部4と開口部24とでロックピンの移動を制限する領域Lを形成すると、ロックピンの移動、すなわち、シフトレバーの移動を制限することができる。
【0025】
ケーブル固定部21は、主にシフトロックのケーブルを固定する部分である。ケーブル固定部21はストッパー21aを有し、そのストッパー21aは、シフトロック用カム10の一方向の回転を突起部1aに係合して止め、他方向の回転を可能とするように設けられている。具体的には、このシフトロック用カム10の他方向の回転時、ストッパー21aが、突起部1aのテーパ部に接触することにより支持部1bを撓ませて突起部1aを乗り越える。これにより、シフトロック用カム10の他方向の回転が可能となる。
【0026】
ストッパー22は、断面を円形とするものであるが接触部3と同様に適宜変更してもよい。開口部23は、一端で案内部5を貫通させ、それ以外の部分で貫通している方向で係合部5aと係合するような構成となっている。また、軸挿入部25は、一定の方向で軸部2を貫通させ、それ以外の部分で貫通している方向で係合部5aと係合するような構成となっている。この軸部2を軸挿入部25に、案内部5を開口部23にそれぞれ貫通させる作業は、同時に行えるよう予めシフトロック用カム10及びシフトレバー装置の本体部20をそれぞれ設計しておくことが好ましい。なお、開口部24は、上述にもあるように、ロックピンの移動する部分である。
【0027】
なお、特許文献1のインターロックカムは、軸部にリターンスプリングを保持するための厚みを有し、自身の回転を制限する機構に突起部を不要としているため、シフトロック用カム10とは構造上大きく異なっている。特に、特許文献1のインターロックカムは、回転自在にする軸部からの抜け防止機構がシフトロック用カム10と異なっており、そのバランスも悪いことから回転の際にブレを生じることが懸念されるが、シフトロック用カム10は、回転の中心である軸部2に係止部2aを設けているため回転の際にブレもほとんどない。また、特許文献1のインターロックカムは、シフトレバー装置の組み付けも予め軸部にリターンスプリングを仮係止する前準備が必要であり、シフトロック用カム10の組み付けと大きく異にしている。
【0028】
シフトロック用カム10は、予め金型を製造することにより射出成形等で簡単に大量生産することができる。このとき、溶融材料が金型内で回り込んで合流、融着する部分が、湾曲部1に存在しないため、湾曲部1にウエルドが生じ難く、シフトロック用カム10をシフトレバー装置の本体部20に組み付ける際に、撓みによる湾曲部1の割れを抑えることができる。ここで、シフトロック用カム10を成形する材料は、樹脂を用いることができる。
【0029】
図2は、シフトロック用カムを示す図である。図2(a)は、シフトロック用カムの表面を示す図であり、図2(b)は、シフトロック用カムの裏面を示す図である。また、図3は、シフトロック用カムを示す図である。図3(a)は、図1(a)のシフトロック用カムをX方向から見た矢視図であり、図3(b)は、図1(a)のシフトロック用カムをY方向から見た矢視図である。なお、図1と共通する部分には、同符号を付けている。
【0030】
シフトロック用カム10は、図2及び図3に示すように、軸部2及び案内部5をシフトレバー装置の本体部20に貫通させて組み付けるため、表面上の厚さを抑えることができる。さらに、シフトロック用カム10では、軸方向の抜けは係止部2a及び5aでそれぞれ係止し、軸部2の周りの回転は主に外周部に設けた湾曲部1と接触部3で制限されるため、全体をコンパクトに構成することができる。
【0031】
図4は、シフトロック用カムの組み付けを説明する図である。なお、図4は、図1のシフトロック用カム及びシフトレバー装置の本体部と同様の構成であるが、図4では一部を省略している。シフトロック用カム10をシフトレバー装置の本体部20に組み付ける手順は、以下の通りである。
【0032】
まず、シフトロック用カム10の軸部2をシフトレバー装置の軸挿入部25に、案内部5をシフトレバー装置の開口部23に所定の方向でそれぞれ挿入して係止部2a、5aを貫通させる。次にシフトロック用カム10を軸部2の周りでR1方向に回転させる。このとき、図4に示すように、突起部1aのテーパ部がストッパー21aに接触し、さらにR1方向に回転させると、支持部1bがR1方向の回転に伴って徐々に突起部1aをD1方向に移動させるように撓む。そして、その後、ストッパー21aが突起部1aを乗り越えて、図1に示すように、シフトロック用カム10をシフトレバー装置の本体部20に組み付けられる。このように、シフトロック用カム10は、簡単にワンタッチでシフトレバー装置の本体部20に組み付けることができる。
【0033】
なお、突起部1aは、図4で示すように、シフトロック用カム10をR1方向と逆方向に回転させると、ストッパー21aと、テーパ部の広い部分の面がほとんど垂直方向から接触することになり、支持部1bは、突起部1aはD1方向と反対方向に移動するように広がる。そのため、突起部1aはストッパー21aに係止してシフトロック用カム10の回転、つまり、R1方向と逆方向の回転を制限することができる。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、成形不良も少なく簡単に成形してシフトレバー装置にワンタッチで組み付けすることができるため、従来よりも、低コストで、かつ、生産性を高める目的で様々な自動車に用いられることが期待される。したがって、産業上の利用可能性は大きい。
【符号の説明】
【0035】
1 湾曲部
1a 突起部
1a 支持部
2 軸部
3 接触部
3a ケーブル接続部
4 ロックピン挿入部
5 案内部
10 シフトロック用カム
20 シフトレバー装置の本体部(筐体)
21 ケーブル固定部
21a、22 ストッパー
23、24 開口部
25 軸挿入部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用シフトレバー装置の本体部(20)に組み付けられ、
前記シフトレバー装置のシフト操作を制限するためのシフトロック用カム(10)において、
前記本体部は、前記シフトロック用カムの回転を制限するための2つのストッパー(21a、22)を備え、
前記シフトロック用カムは、
回転軸(2)の周りで一方向に回転させて
前記本体部の一方のストッパー(22)に接触させるための接触部(3)と、
回転軸の周りで他方向に回転させて
前記本体部の他方のストッパー(21a)に接触させる又は、
所定の位置で係合部材に係合させるための突起部(1a)と、
前記突起部を片持ちで支持するとともに、
前記突起部が前記他方のストッパーに接触しない位置まで撓むことが可能な
支持部(1b)とを備える
ことを特徴とするシフトロック用カム。
【請求項2】
前記支持部は、前記回転の一方向に沿って湾曲している湾曲部(1)を有する
ことを特徴とする請求項1記載のシフトロック用カム。
【請求項3】
前記突起部は、テーパ部を有する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシフトロック用カム。
【請求項4】
前記シフトロック用カムの材質は樹脂で構成されている
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のシフトロック用カム。
【請求項5】
前記シフトロック用カムは全体を一体成形されている
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のシフトロック用カム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−76549(P2012−76549A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−222145(P2010−222145)
【出願日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【出願人】(000192914)株式会社神菱 (6)
【Fターム(参考)】