説明

シフト制御装置

【課題】自動復帰中のシフトレバーがシフトポジションを通過するときに、当該シフトポジションがシフトレバーによって選択されたことを検出する誤検出またはシフト操作部の故障の誤検出を防止するとともに、シフト操作部の劣化進行度が低いときの操作性の低下を抑制するシフト制御装置を提供することを課題とする。
【解決手段】シフトレバーがDポジション12からHポジション13へ自動的に復帰する経路上にNポジション11が配置される場合、シフトレバーがHポジション13へ自動的に復帰するときの復帰速度に基づいてシフト操作部の劣化の進行度を算出するとともに、Nポジション11が選択されたこと、または、前記シフト操作部が故障したことを検出するのに要する認識時間を、算出した劣化の進行度に応じて変更するシフト制御装置1aとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定のホームポジションに自動的に復帰するシフトレバーを有するシフト操作部に備わるシフト制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
変速機として自動変速機(オートマチックトランスミッション)が備わる車両には、前進(D)、後退(R)、ニュートラル(N)などの状態を自動変速機に設定するためのシフト操作部が備わっている。また、シフト操作部には、運転者がシフトレバーを操作して自動変速機の状態を設定したのちにシフトレバーを手放して解放すると、シフトレバーが所定の位置(ホームポジション)に自動的に復帰する構造のものがある。
【0003】
このようなシフト操作部は、シフトレバーが移動する経路(シフトパターン)上に、自動変速機の状態に対応する複数のシフトポジションが配置され、さらに、シフトレバーがシフトポジションの1つに位置したときに、シフトレバーが位置するシフトポジションを通知するための信号(シフト位置信号)が、自動変速機を制御するシフト制御装置に入力されるように構成される。そして、シフト制御装置は入力されたシフト位置信号に応じて自動変速機の状態を設定するように構成される。
以下、前進(D)の状態に対応するシフトポジションをDポジション、後退(R)の状態に対応するシフトポジションをRポジション、ニュートラル(N)の状態に対応するシフトポジションをNポジションと称する。また、シフトレバーが自動的に復帰するポジションをHポジション(ホームポジション)と称する。
【0004】
シフトポジションの配置は特に限定されるものではないが、自動変速機をニュートラルの状態に設定するためのNポジションは、操作性、利便性を鑑み、Dポジション、Rポジションの各シフトポジション、およびHポジションからシフトレバーを直接移動できる位置に配置されることが好ましい。そこで、NポジションとDポジションを直接つなぐ経路、NポジションとRポジションを直接つなぐ経路、NポジションとHポジションを直接つなぐ経路を組み合わせたシフトパターンが好適である。このようなシフトパターンの場合、運転者がシフトレバーをHポジションからDポジションやRポジションに操作するときにシフトレバーが必ずNポジションを通過するとともに、シフトレバーがDポジションやRポジションからHポジションに自動的に復帰するとき(自動復帰中)に必ずNポジションを通過する。
【0005】
そして、Hポジションに自動復帰中のシフトレバーがNポジションを通過するときに、Nポジションが選択されたことをシフト制御装置が検出すると、シフトレバーの自動復帰中に自動変速機がニュートラルの状態に設定されてしまう。
【0006】
このような問題を解決するため、例えば、特許文献1には、シフトレバーがニュートラルポジション(Nポジション)に位置するときに、ニュートラルポジションが選択されたことをシフトコントロールECU(シフト制御装置)が検出するために要する時間(認識時間)を、他のシフトポジションの認識時間より長く設定するシフト操作装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−7993号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されるシフト操作装置(シフト操作部)は、シフトレバーが、各シフトポジションに設定される認識時間を超えてシフトポジションで保持されたときに、シフトレバーが位置するシフトポジションが選択されたことをシフトコントロールECUが検出するように構成されている。そして、ニュートラルポジションに設定される認識時間が他のシフトポジションに設定される認識時間より長いため、中立位置(ホームポジション)に向かって自動復帰中のシフトレバーがニュートラルポジションを通過するときに、ニュートラルポジションがシフトレバーによって選択されたことをシフトコントロールECUが検出する誤検出を防止できる。
【0009】
しかしながら、経時劣化等によるシフト操作装置の劣化(耐久劣化)によって、シフトレバーが中立位置に自動的に復帰するときの移動速度(復帰速度)が遅くなる場合がある。そして復帰速度が遅くなると、自動復帰中のシフトレバーがニュートラルポジションを通過するときに、認識時間を超えてシフトレバーがニュートラルポジションで保持されているとシフトコントロールECUが判定する場合がある。そしてこの場合、自動復帰中のシフトレバーがニュートラルポジションを通過するときに、ニュートラルポジションがシフトレバーによって選択されたことをシフトコントロールECUが検出する誤検出が発生する。このような誤検出を防止するため、ニュートラルポジションに設定される認識時間を充分に長くする必要がある。
【0010】
また、1つのシフトポジションを通知するシフト位置信号が所定の認識時間を超えてシフト制御装置に入力されたときに、シフト制御装置がシフト操作装置の故障を検出したと判定する構成の場合、シフト操作装置の劣化の進行度が高くなってシフトレバーの復帰速度が遅くなったとき、自動復帰中のシフトレバーがニュートラルポジションを通過するときに所定の認識時間を超えたシフト位置信号が出力されて、シフト操作装置が故障したとシフト制御装置が誤検出する虞がある。このように構成されるシフト制御装置においても、誤検出を防止するためニュートラルポジションに設定される認識時間を充分に長く設定することが好ましい。
【0011】
このように構成されるシフト操作装置では、ニュートラルポジションに設定される認識時間が、シフト操作装置の劣化の進行度が低いときに必要となる認識時間より長いことになる。したがって、運転者が自動変速機をニュートラルの状態に設定するとき、シフト操作装置の劣化の進行度が低いときにもシフトレバーを長時間に亘ってニュートラルポジションで保持する必要があり操作性が低下するという問題がある。
【0012】
そこで、本発明は、自動復帰中のシフトレバーがシフトポジションを通過するときに、当該シフトポジションがシフトレバーによって選択されたことを検出する誤検出またはシフト操作部の故障の誤検出を防止するとともに、シフト操作部の劣化の進行度が低いときの操作性の低下を抑制するシフト制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために本発明の請求項1は、変速機の状態に対応する複数のシフトポジションと、前記複数のシフトポジションの1つを選択するためのシフトレバーと、前記シフトレバーが自動的に復帰するホームポジションと、前記シフトレバーが前記複数のシフトポジションの1つに位置したときにシフト位置信号を出力するシフト位置検出手段と、を有するシフト操作部に備わり、前記シフトレバーが位置する前記シフトポジションに設定される認識時間を超えて前記シフト位置信号が入力したときに、当該シフトポジションが選択されたこと、または、前記シフト操作部が故障したことを検出するシフト制御装置とする。そして、前記シフト操作部の劣化の進行度を検出する劣化状態検出手段をさらに備え、前記劣化の進行度に応じて前記認識時間を変更することを特徴とする。
【0014】
請求項1の発明によると、シフトレバーが位置するシフトポジションが選択されたことをシフト制御装置が検出するのに要する認識時間、または、シフト操作部が故障したことを検出するのに要する認識時間をシフト操作部の劣化の進行度に応じて変更できる。したがって、シフト操作部の劣化の進行度が高いときに認識時間を長く設定することができる。
【0015】
また、本発明の請求項2は請求項1に記載のシフト制御装置であって、前記シフトポジションが、少なくとも第1シフトポジションと第2シフトポジションを有し、前記シフトレバーが前記ホームポジションと前記第2シフトポジションの間を移動する経路上に前記第1シフトポジションが配置される場合、前記第1シフトポジションに設定される前記認識時間を前記劣化の進行度に応じて変更することを特徴とする。
【0016】
請求項2の発明によると、ホームポジションと第2シフトポジションの間をシフトレバーが移動する経路上に配置される第1シフトポジションの認識時間を、シフト操作部の劣化の進行度に応じて変更できる。したがって、シフト操作部の劣化の進行度が高いときに第1シフトポジションの認識時間を長く設定することができる。
【0017】
また、本発明の請求項3は請求項2に記載のシフト制御装置であって、前記シフトレバーが、前記第2シフトポジションから前記ホームポジションに自動的に復帰するときの、前記第1シフトポジションに設定される前記認識時間を前記劣化の進行度に応じて変更することを特徴とする。
【0018】
請求項3の発明によると、シフトレバーが第2シフトポジションからホームポジションに自動的に復帰するときの第1シフトポジションの認識時間を、劣化の進行度に応じて変更できる。したがって、シフト操作部の劣化の進行度が高いとき、シフトレバーが第2シフトポジションからホームポジションに自動的に復帰するときの第1シフトポジションの認識時間を長く設定することができる。
【0019】
また、本発明の請求項4は請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシフト制御装置であって、前記劣化状態検出手段は、前記シフト操作部の使用開始からの積算時間に応じて前記劣化の進行度を検出することを特徴とする。
【0020】
請求項4の発明によると、劣化状態検出手段は、シフト操作部の使用開始からの積算時間に応じて劣化の進行度を検出できる。したがって、シフト操作部の使用開始からの積算時間が長いときに認識時間を長く設定することができる。
【0021】
また、本発明の請求項5は請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシフト制御装置であって、前記劣化状態検出手段は、前記シフトレバーが、前記複数のシフトポジションの1つから前記ホームポジションに自動的に復帰するときに要する復帰時間に応じて前記劣化の進行度を検出することを特徴とする。
【0022】
請求項5の発明によると、劣化状態検出手段は、シフトレバーがシフトポジションの1つからホームポジションに自動的に復帰するのに要する復帰時間に応じて劣化の進行度を検出できる。したがって、復帰時間が長いときに認識時間を長く設定することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明によると、自動復帰中のシフトレバーがシフトポジションを通過するときに、当該シフトポジションがシフトレバーによって選択されたことを検出する誤検出またはシフト操作部の故障の誤検出を防止するとともに、シフト操作部の劣化の進行度が低いときの操作性の低下を抑制するシフト制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本実施形態に係るシフト操作部を示す斜視図である。
【図2】シフトポジションに対応して配置される電極を示す図である。
【図3】シフト制御装置が、Nポジションに設定される認識時間を変更する手順を示すフローチャートである。
【図4】(a),(b)は、シフトレバーがDポジションからHポジションに自動的に復帰するときのレバー側電極の動作を示す図である。
【図5】劣化進行度判定マップの一例と認識時間設定マップの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための形態について、適宜図を参照して詳細に説明する。
図1に示す、本実施形態に係るシフト操作部1は、変速機として備わる自動変速機1b(図2参照)の状態を設定するために図示しない車両に取り付けられている。
図1に示すように、シフト操作部1は、複数のシフトポジション(Rポジション10、Nポジション11、Dポジション12)と、複数のシフトポジションの1つを選択するためのシフトレバー3と、を含んで構成される。前記したように、シフトポジションのそれぞれは自動変速機1bの状態に対応し、Rポジション10は後退の状態、Nポジション11はニュートラルの状態、Dポジション12は前進の状態に対応している。
【0026】
なお、自動変速機1b(図2参照)は、ギヤ式の変速機構を有するものであってもよいし、ベルト式の変速機構を有するものであってもよく、その種類および形式は限定されない。
【0027】
シフトレバー3は、内部構造を遮蔽するパネル2にゲート溝で形成されるシフトパターン4に沿って移動するように備わり、運転者はシフトレバー3を操作してシフトポジションの1つを選択する。また、本実施形態のシフトレバー3は、運転者が操作後に手放して解放すると所定の位置に自動的に復帰するように構成される。シフトレバー3が自動的に復帰する所定の位置をホームポジション(Hポジション13)と称する。
【0028】
各シフトポジションおよびHポジション13の配置は限定されるものではないが、前記したように、Nポジション11は、Rポジション10、Dポジション12、Hポジション13からシフトレバー3を直接移動できる位置に配置されることが好ましく、例えば、縦方向のゲート溝に沿って、Rポジション10、Nポジション11、Dポジション12の順に一列に配置される。
【0029】
さらに、横方向のゲート溝を縦方向のゲート溝のNポジション11の位置から略直角に分岐し、横方向のゲート溝の先端を縦方向に曲げた先端部にHポジション13が配置される。
このような配置によって、シフトレバー3がHポジション13とDポジション12の間を移動する経路上にNポジション11が配置される。同様に、シフトレバー3がHポジション13とRポジション10の間を移動する経路上にNポジション11が配置される。そこで、例えば、Dポジション12を特許請求の範囲に記載の第2シフトポジションとすると、Nポジション11が第1シフトポジションに相当する。
【0030】
また、前記したように、本実施形態に係るシフト操作部1は、シフトレバー3をHポジション13に自動的に復帰するように構成されている。つまり、運転者がシフトレバー3をHポジション13以外のシフトポジション(Rポジション10、Nポジション11、Dポジション12)に移動したときに運転者がシフトレバー3を手放して解放すると、戻りスプリング等で構成される図示しない自動復帰機構によってシフトレバー3がHポジション13に自動的に復帰する。シフトレバー3をHポジション13に自動的に復帰する自動復帰機構には公知の技術を適用することができ、詳細な説明は省略する。
【0031】
このように、シフト操作部1は、シフトレバー3がHポジション13に自動的に復帰するため、シフトレバー3が位置する各シフトポジションおよびHポジション13を電気的に検出するように構成される。
例えば、図2に示すように、Rポジション10に対応する位置にR電極10a、Nポジション11に対応する位置にN電極11a、Dポジション12に対応する位置にD電極12a、およびHポジション13に対応する位置にH電極13aがそれぞれ備わる。そして、シフトレバー3が1つのシフトポジションに位置するとき、当該シフトポジションに対応する電極(R電極10a、N電極11a、D電極12a)がシフトレバー3に備わるレバー側電極3aと接触するように構成され、シフトレバー3がHポジション13に位置するとき、H電極13aがレバー側電極3aと接触するように構成される。一例として、シフトレバー3がNポジション11に位置するとき、レバー側電極3aとN電極11aが接触するように構成される。
【0032】
また、R電極10a、N電極11a、D電極12aおよびH電極13aは、自動変速機1bを制御するシフト制御装置1aに電気的に接続され、さらに、図示しない信号発生機からレバー側電極3aにシフト位置検出用の電気信号(以下、シフト位置信号と称する)が供給される構成とすれば、シフト制御装置1aはR電極10a、N電極11a、D電極12aおよびH電極13aの1つを介して、レバー側電極3aに供給されるシフト位置信号を入力することができる。
【0033】
そして、シフト制御装置1aは、シフト位置信号を入力する電極を識別することによって、レバー側電極3aと接触している電極を識別でき、ひいては、シフトレバー3が位置するシフトポジションまたはHポジション13を検出できる。シフトレバー3が位置するシフトポジションはシフトレバー3によって選択されたシフトポジションであり、シフト制御装置1aは、シフト位置信号によって、シフトレバー3が位置するシフトポジションが選択されたことを検出できる。
【0034】
このように、本実施形態に係るシフト操作部1(図1参照)は、レバー側電極3a、R電極10a、N電極11a、およびD電極12aを備え、シフトレバー3がシフトポジションの1つに位置したときにシフト位置信号を出力してシフト制御装置1aに入力するように構成される。したがって、レバー側電極3a、R電極10a、N電極11a、およびD電極12aの各電極で特許請求の範囲に記載されるシフト位置検出手段を構成する。
【0035】
そして、シフト制御装置1aは、シフトレバー3によって選択されたシフトポジションに基づいて自動変速機1bを制御する。例えば、N電極11aを介してシフト制御装置1aにシフト位置信号が入力されたとき、シフト制御装置1aは、シフトレバー3によってNポジション11が選択されたと判定して自動変速機1bをニュートラルの状態に設定する。
また、シフト制御装置1aが、シフトレバー3によって選択されたシフトポジションを表示部1cに表示する構成とすれば、運転者は、シフトレバー3で選択したシフトポジションを表示部1cの表示によって確認することができる。
【0036】
シフトレバー3が位置するシフトポジションが選択されたことを、シフト制御装置1aがシフト位置信号によって検出する構成の場合、ノイズやチャタリングによる誤検出を防止するため、シフト制御装置1aに所定の時間を超えてシフト位置信号が入力されたときに、シフトレバー3が位置するシフトポジションが選択されたことを、シフト制御装置1aが検出する構成が好ましい。以下、シフト制御装置1aが、シフトレバー3が位置するシフトポジションが選択されたことを検出するために必要なシフト位置信号の入力時間を認識時間と称する。
【0037】
認識時間は、Rポジション10、Nポジション11、およびDポジション12のそれぞれに設定される固有の時間であり、シフト制御装置1aは、設定された認識時間を超えてシフト位置信号が入力されたときに、シフトレバー3が位置するシフトポジションが選択されたことを検出するように構成される。例えば、従来、Rポジション10、Dポジション12については0.2秒の認識時間が設定され、Nポジション11については1.5秒以上の認識時間が設定される。つまり、シフト制御装置1aは、Rポジション10、Dポジション12については、0.2秒以上のシフト位置信号が入力されたときにシフトレバー3が位置するシフトポジションが選択されたことを検出し、Nポジション11については、1.5秒以上のシフト位置信号が入力されたときに、Nポジション11が選択されたことを検出している。
【0038】
本実施形態に係るシフト操作部1は、シフトレバー3がRポジション10、Dポジション12からHポジション13に自動的に復帰するとき、すなわち、自動復帰中に、シフトレバー3がNポジション11を通過するようにシフトパターン4が形成される。自動復帰中のシフトレバー3がNポジション11を通過するときにN電極11aを介してシフト位置信号がシフト制御装置1aに入力される時間を計測したところ0.8秒程度であったため、Nポジション11の認識時間を0.8秒以上に設定する。この構成によって、自動復帰中のシフトレバー3がNポジション11を通過するときに、Nポジション11が選択されたことをシフト制御装置1aが検出する誤検出を防止することができ、シフトレバー3がHポジション13に自動的に復帰するときに自動変速機1bがニュートラルの状態に設定されることを防止できる。
【0039】
また、図示しない自動復帰機構に使用される戻りバネの経時劣化や潤滑油の経時劣化による自動復帰機構の劣化、つまり、シフト操作部1(図1参照)の劣化によってシフトレバー3が自動的に復帰するときの復帰速度が遅くなると、自動復帰中のシフトレバー3がNポジション11を通過するときに、N電極11aを介してシフト制御装置1aにシフト位置信号が入力される時間が0.8秒より長くなる場合がある。そこで、シフトレバー3の復帰速度の低下を考慮し、Nポジション11の認識時間を1.5秒に設定している。この構成によって、シフトレバー3の復帰速度が低下した場合に、自動復帰中のシフトレバー3がNポジション11を通過するときに、Nポジション11が選択されたことをシフト制御装置1aが検出する誤検出を防止できる。
【0040】
しかしながら、Nポジション11の認識時間を1.5秒に設定すると、運転者がシフトレバー3の操作によって自動変速機1bをニュートラルの状態に設定するとき、シフトレバー3をNポジション11で1.5秒以上保持する必要があり操作性が低下する。例えば、シフト操作部1の劣化の進行度(劣化進行度)が低いときは0.8秒で充分なNポジション11の認識時間が1.5秒に設定されているため操作性が低下する。
【0041】
そこで、本実施形態に係るシフト制御装置1aは、Nポジション11に設定される認識時間をシフト操作部1の劣化進行度に応じて好適に変更する。そして、自動復帰中のシフトレバー3がNポジション11を通過するときに、Nポジション11が選択されたことをシフト制御装置1aが検出する誤検出を防止するとともに、シフト操作部1の劣化進行度が低いときの操作性の低下を抑制する。
【0042】
以下、シフト制御装置1aがNポジション11に設定される認識時間を変更する手順を図3を参照して説明する(適宜図1、図2参照)。この手順は、シフト制御装置1aが実行するプログラムに組み込まれ、例えば、運転者の操作によってシフトレバー3がRポジション10またはDポジション12に位置したときに実行するように構成される。
【0043】
最初に、シフト制御装置1aは、劣化進行度を検出する。シフト制御装置1aがシフト操作部1の劣化進行度を検出する方法は限定するものではないが、本実施形態においてシフト制御装置1aは、シフトレバー3がDポジション12またはRポジション10からHポジション13に復帰するときに要する時間(復帰時間)に基づいて、シフト操作部1の劣化進行度を検出する。そこで、シフト制御装置1aはシフトレバー3が自動的に復帰するときの復帰時間を計測する(ステップS1)。具体的にシフト制御装置1aは、シフトレバー3がRポジション10からHポジション13に自動的に復帰するのに要する復帰時間、または、シフトレバー3がDポジション12からHポジション13に自動的に復帰するのに要する復帰時間を計測する。そして、計測した復帰時間に基づいて復帰速度を算出する(ステップS2)。
【0044】
例えば、シフトレバー3がDポジション12からHポジション13に自動的に復帰するときの復帰時間を計測する場合、シフト制御装置1aは、図4の(a)に示すようにシフトレバー3がDポジション12から移動してレバー側電極3aとD電極12aが非接触になり、シフト位置信号の入力がなくなったときを初期状態として内蔵するタイマをスタートする。そして、シフト制御装置1aは、図4の(b)に示すようにレバー側電極3aがHポジション13のH電極13aと接触し、H電極13aを介してシフト位置信号が入力されるまでの時間を計測する。このように計測された時間が復帰時間になる。
シフト制御装置1aは、Rポジション10からHポジション13に自動的に復帰するときの復帰時間も同様に計測できる。
【0045】
また、シフト制御装置1aは、Dポジション12からHポジション13までの復帰時間を計測した場合、Dポジション12からHポジション13までの経路長を、計測した復帰時間で除すことによって復帰速度を算出できる。同様に、Rポジション10からHポジション13までの復帰時間を計測した場合、Rポジション10からHポジション13までの経路長を、計測した復帰時間で除すことによって復帰速度を算出できる。Dポジション12からHポジション13までの経路長およびRポジション10からHポジション13までの経路長はシフトパターン4に沿った経路長であり、シフト操作部1の設計値として予め設定される値(固定値)である。
【0046】
前記したように、シフト操作部1の劣化進行度が高くなると復帰速度が低下することから、本実施形態のシフト制御装置1aは、算出した復帰時間(復帰速度)に基づいてシフト操作部1の劣化進行度を検出する(ステップS3)。このように、本実施形態のシフト制御装置1aは、シフト操作部1の劣化進行度を検出する機能を有し、特許請求の範囲に記載の劣化状態検出手段に相当する。
【0047】
例えば、復帰速度と劣化進行度の関係が予め決定され、図示しない記憶部に、図5に示す劣化進行度判定マップMP1として記憶される構成とすれば、シフト制御装置1aは、算出した復帰速度に応じて劣化進行度判定マップMP1を参照してシフト操作部1の劣化進行度を検出できる。
【0048】
一例として劣化進行度を「低」(低い)、「中」(中間)、「高」(高い)の3段階とする場合、図5の劣化進行度判定マップMP1に示すように2つの速度閾値V1,V2(V1<V2)を設定する。そして、シフト制御装置1aは、算出した復帰速度が速度閾値V1以下の場合、シフト操作部1の劣化の進行度が高く復帰速度が遅くなっていると判定し、劣化進行度判定マップMP1を参照して劣化進行度を「高」(高い)と検出する。また、シフト制御装置1aは、算出した復帰速度が速度閾値V2以上であれば、シフト操作部1の劣化の進行度が低く復帰速度が速く維持されていると判定し、劣化進行度判定マップMP1を参照して劣化進行度を「低」(低い)と検出する。さらに、シフト制御装置1aは、算出した復帰速度が速度閾値V1より高く速度閾値V2より低い場合、劣化進行度判定マップMP1を参照して劣化進行度を「中」(中間)と検出する。
このような速度閾値V1,V2は、Nポジション11に設定される認識時間を好適に変更するための値として、実験計測等によって設定される特性値である。
【0049】
シフト制御装置1aは、シフト操作部1の劣化進行度を検出した後(ステップS3)、劣化進行度に応じてNポジション11の認識時間を設定する。例えば、劣化進行度と認識時間の関係が予め決定され、図示しない記憶部に、図5に示すような認識時間設定マップMP2として記憶される構成とすれば、シフト制御装置1aは、検出した劣化進行度に応じて認識時間設定マップMP2を参照して、Nポジション11の認識時間を設定できる。このような認識時間設定マップMP2は、実験計測等によって設定される。
【0050】
例えば、図5の認識時間設定マップMP2に示すように、シフト操作部1の劣化進行度が「高」のときの認識時間をT1、劣化進行度が「中」のときの認識時間をT2、劣化進行度が「低」のときの認識時間をT3とすると、T1>T2>T3となることが好ましい。つまり、劣化進行度が「高」であって復帰速度が遅い場合に自動復帰中のシフトレバー3がNポジション11を通過するとき、レバー側電極3aとN電極11aが接する時間が長く、シフト制御装置1aに、N電極11aを介してシフト位置信号が入力される時間が長くなる。したがって、自動復帰中のシフトレバー3がNポジション11を通過するときに、Nポジション11が選択されたことをシフト制御装置1aが検出しないように、Nポジション11の認識時間を長く設定する。
【0051】
一方、シフト操作部1の劣化進行度が「低」であって復帰速度が速い場合、自動復帰中のシフトレバー3がNポジション11を通過するとき、レバー側電極3aとN電極11aが接する時間が短く、シフト制御装置1aにN電極11aを介してシフト位置信号が入力される時間が短くなる。したがって、Nポジション11の認識時間を短く設定しても、自動復帰中のシフトレバー3がNポジション11を通過するときに、Nポジション11が選択されたことをシフト制御装置1aが検出しない。そして、Nポジション11の認識時間を短く設定することによって良好な操作性を得られる。つまり、自動変速機1bをニュートラルの状態に設定するときに運転者がシフトレバー3をNポジション11で保持する時間が短くなって良好な操作性を得られる。
【0052】
このような認識時間T1,T2,T3は、自動復帰中のシフトレバー3がNポジション11を通過するときに、シフト制御装置1aがNポジション11を検出しないように決定される時間であり、シフト操作部1に要求される操作性や構成に応じて決定される特性値である。前記した一例によると、T1を1.5秒、T3を0.8秒とし、T2をT1(1.5秒)とT3(0.8秒)の間の例えば1.0秒とすることができるが、これらの値に限定するものではない。
【0053】
シフト制御装置1aは、ステップS3で検出した劣化進行度に基づいて認識時間設定マップMP2を参照し、劣化進行度が「高」のとき(ステップS4→Yes)、最も長い認識時間T1をNポジション11の認識時間に設定する(ステップS5)。また、シフト制御装置1aは、劣化進行度が「高」ではないとき(ステップS4→No)、劣化進行度が「低」であれば(ステップS6→Yes)、最も短い認識時間T3をNポジション11の認識時間に設定する(ステップS7)。
さらに、シフト制御装置1aは、劣化進行度が「低」でないとき(ステップS6→No)、認識時間T2をNポジション11の認識時間に設定する(ステップS8)。
【0054】
この構成によって、シフトレバー3がDポジション12やRポジション10からHポジション13に自動的に復帰するときの、Nポジション11に設定される認識時間をシフト操作部1の劣化進行度に応じて変更できる。したがって、自動復帰中のシフトレバー3がNポジション11を通過するときに、Nポジション11が選択されたことをシフト制御装置1aが検出する誤検出を防止できる。
【0055】
そしてシフト制御装置1aは、設定した認識時間で自動変速機1bを制御する。具体的にシフト制御装置1aは、設定した認識時間を超えたシフト位置信号がN電極11aを介して入力されたときに、シフトレバー3が位置するNポジション11が選択されたことを検出する。そして、自動変速機1bをニュートラルの状態に設定する。
【0056】
このように、本実施形態に係るシフト制御装置1a(図2参照)は、シフト操作部1(図1参照)の劣化進行度に応じてNポジション11に設定される認識時間を変更することを特徴とする。そして、シフト操作部1の劣化進行度が「低」の場合、Nポジション11の認識時間を短く設定して良好な操作性を確保する。また、シフト制御装置1aは、シフト操作部1の劣化進行度が「高」の場合、Nポジション11の認識時間を長く設定して、自動復帰中のシフトレバー3(図1参照)がNポジション11を通過するときに、Nポジション11が選択されたことを検出する誤検出を防止する。
したがって、本実施形態に係るシフト制御装置1aは、自動復帰中のシフトレバー3がNポジション11を通過するときに、Nポジション11が選択されたことを検出する誤検出を防止することができ、シフト操作部1の劣化進行度が低いときは、良好な操作性を得ることができるという優れた効果を奏する。
【0057】
なお、本実施形態は発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜設計変更可能である。
本実施形態に係るシフト制御装置1a(図2参照)は、シフト操作部1(図1参照)の劣化進行度に応じてNポジション11に設定する認識時間を変更する構成としたが、例えば、シフトレバー3(図1参照)がDポジション12またはRポジション10に位置しているときのみ、シフト制御装置1aがNポジション11に設定する認識時間を変更する構成としてもよい。この構成によると、シフトレバー3が自動的に復帰するときのみNポジション11に設定される認識時間を変更することができる。したがって、シフト操作部1の劣化進行度が高い場合であっても、シフトレバー3がHポジション13に位置するときはNポジション11に設定する認識時間を短くすることができ、運転者がシフトレバー3をHポジション13からNポジション11に操作するときの操作性の低下を回避できる。
【0058】
また、例えば、シフトレバー3(図1参照)にタッチセンサなど、運転者がシフトレバー3に接触していることを検出するセンサを備え、シフト制御装置1a(図2参照)は、運転者がシフトレバー3に接触していないことを検出したときのみ、劣化進行度を検出する構成としてもよい。自動復帰中のシフトレバー3に運転者が接触した状態であると、シフト制御装置1aが計測する復帰時間は正確な値とならない。したがって、この構成によって、正確な復帰時間を計測できないときに劣化進行度が検出されること、つまり、不正確な復帰時間に基づいて劣化進行度が検出されることを防止できる。
【0059】
また、本実施形態に係るシフト制御装置1a(図2参照)は、シフトレバー3(図1参照)がRポジション10またはDポジション12からHポジション13に自動的に復帰するときの復帰時間(復帰速度)に応じてシフト操作部1(図1参照)の劣化進行度を検出したが、シフト操作部1の使用を開始してからの積算時間に基づいて劣化進行度を検出する構成であってもよい。この場合、シフト制御装置1aは、シフト操作部1の積算時間が長くなるほど劣化進行度を「高」と検出し、Nポジション11の認識時間を長く設定するように構成すればよい。
【0060】
また、シフト操作部1(図1参照)に備わる図示しない自動復帰機構の潤滑油の粘度を測定または推定可能な構成とし、シフト制御装置1a(図2参照)が潤滑油の粘度に応じてシフト操作部1の劣化進行度を検出する構成としてもよい。この場合、シフト制御装置1aは、潤滑油の粘度が高いほどNポジション11に設定する認識時間を長くするように構成すればよい。
【0061】
また、シフト操作部1(図1参照)の劣化進行度も、図5の劣化進行度判定マップMP1に示す「高」、「中」、「低」の3段階に限定するものではなく、2段階であってもよいし4段階以上であってもよい。この場合、劣化進行度の段階数に応じて、劣化進行度を判定するための速度閾値および認識時間を設定すればよい。または、復帰速度の低下に対応して無段階に劣化進行度が設定される構成であってもよい。この場合、認識時間は、劣化進行度に対応して無段階に設定されるように構成されていてもよい。
【0062】
また、シフト位置信号が所定の認識時間を超えてシフト制御装置1a(図2参照)に入力されたときに、シフト操作部1(図1参照)の故障を検出したと判定するように構成されるシフト制御装置1aに本実施形態を適用することもできる。この場合、シフト操作部1の劣化の進行度が低いときは、Nポジション11(図1参照)の認識時間を、例えば2秒とし、シフト操作部1の劣化の進行度が高くなったときには、Nポジション11の認識時間を、例えば3秒とする。
この構成によると、シフト操作部1の劣化の進行度が高くなって、例えば、シフトレバー3がDポジション12(図1参照)からHポジション13(図1参照)に自動的に復帰するときの復帰時間が長くなり、Nポジション11(図1参照)を通過するときに2秒以上に亘ってシフト位置信号を出力する場合であっても、シフト制御装置1aは、シフト操作部1に故障が発生したと判定せず、シフト操作部1の故障の誤検出を防止できる。
【符号の説明】
【0063】
1 シフト操作部
1a シフト制御装置(劣化状態検出手段)
1b 自動変速機(変速機)
3 シフトレバー
4 シフトパターン
3a レバー側電極(シフト位置検出手段)
10 Rポジション(シフトポジション)
10a R電極(シフト位置検出手段)
11 Nポジション(シフトポジション、第1シフトポジション)
11a N電極(シフト位置検出手段)
12 Dポジション(シフトポジション、第2シフトポジション)
12a D電極(シフト位置検出手段)
13 Hポジション(ホームポジション)
13a H電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機の状態に対応する複数のシフトポジションと、
前記複数のシフトポジションの1つを選択するためのシフトレバーと、
前記シフトレバーが自動的に復帰するホームポジションと、
前記シフトレバーが前記複数のシフトポジションの1つに位置したときにシフト位置信号を出力するシフト位置検出手段と、を有するシフト操作部に備わり、
前記シフトレバーが位置する前記シフトポジションに設定される認識時間を超えて前記シフト位置信号が入力したときに、当該シフトポジションが選択されたこと、または、前記シフト操作部が故障したことを検出するシフト制御装置において、
前記シフト操作部の劣化の進行度を検出する劣化状態検出手段をさらに備え、前記劣化の進行度に応じて前記認識時間を変更することを特徴とするシフト制御装置。
【請求項2】
前記シフトポジションが、少なくとも第1シフトポジションと第2シフトポジションを有し、前記シフトレバーが前記ホームポジションと前記第2シフトポジションの間を移動する経路上に前記第1シフトポジションが配置される場合、
前記第1シフトポジションに設定される前記認識時間を前記劣化の進行度に応じて変更することを特徴とする請求項1に記載のシフト制御装置。
【請求項3】
前記シフトレバーが、前記第2シフトポジションから前記ホームポジションに自動的に復帰するときの、前記第1シフトポジションに設定される前記認識時間を前記劣化の進行度に応じて変更することを特徴とする請求項2に記載のシフト制御装置。
【請求項4】
前記劣化状態検出手段は、前記シフト操作部の使用開始からの積算時間に応じて前記劣化の進行度を検出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシフト制御装置。
【請求項5】
前記劣化状態検出手段は、前記シフトレバーが、前記複数のシフトポジションの1つから前記ホームポジションに自動的に復帰するときに要する復帰時間に応じて前記劣化の進行度を検出することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のシフト制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−225033(P2011−225033A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−94331(P2010−94331)
【出願日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】