説明

シラン誘導体および有機薄膜形成体

【課題】安価な汎用紫外線光源から得られる低エネルギー量の紫外線照射によって選択的に基体表面を疎水性から親水性に変換することができる有機薄膜を形成するシラン誘導体、並びに基体表面に該シラン誘導体を含有する有機薄膜形成体を得ること。
【解決手段】β―ニトロシンナミル基、及びハロゲン原子及び又はアルコキシ基を含有することを特徴とするシラン誘導体であり、得られる有機薄膜は疎水性であるが、安価な水銀灯光源から放射される波長250nm以上の紫外線を照射することにより、β―ニトロシンナミル基が光分解して親水性に変化することができ、しかも高感度である。このため、親水性と疎水性の差を利用して、基体表面に種々の物質のパターニング形成が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロニクス製品において、安価な汎用紫外線光源から得られる低エネルギー量の紫外線照射によって選択的に基体表面を疎水性から親水性に変換することができる有機薄膜を形成するシラン誘導体、並びに基体表面に該シラン誘導体を含有する有機薄膜形成体に関する。
【背景技術】
【0002】
エレクトロニクス製品において、光リソグラフィー法などを用いてパターン形成する工程は煩雑で、大量のフォトレジスト材料や現像液などの廃棄物が排出され、環境負荷の面から改善が求められる。そこで、感光層の厚みが単分子レベルである、数nmの感光性の有機薄膜を用いたパターン形成法の開発が行われている。
【0003】
フェニルトリクロロシランやベンジルトリクロロシランなどのアリールシラン化合物やアルキルシラン化合物より基板上に形成した疎水性の自己組織化単分子膜に193nmの波長の遠紫外線を照射すると、珪素―炭素結合の開裂に伴い基板表面が親水化されることが記載されている。(非特許文献1)また、パーフルオロ炭化水素を含有するシラン誘導体から形成された疎水性単分子膜を172nmの波長の遠紫外線を照射すると、親水性に変換できることが開示されている。(特許文献1)
【0004】
上記した自己組織化単分子膜は遠紫外線を照射することにより、疎水性から親水性に変換することができるが、光源として遠紫外線照射が必要である。しかし、遠紫外線光源は高価であり、安価な光源が望まれる。水銀灯は一般に光源として広く使用され、安価である。したがって安価な水銀灯から放射される紫外線に対して、高感度な感光性シラン誘導体が望まれている。
【0005】
そこで、o−ニトロベンジルエステル含有シラン誘導体(特許文献2、3)、ベンジルフェニルスルフィド基含有シラン誘導体(特許文献4)、o−ニトロアニリド基含有シラン誘導体(特許文献5)などが開示されている。これらは、いずれも水銀灯照射により親水性に変化するが、まだ実用上感度などの問題がある、さらに改善を要する。
【0006】
【非特許文献1】Science、1991年、252巻、551〜554頁
【特許文献1】特開2000−282240号公報
【特許文献2】特開2002−80481号公報
【特許文献3】特開2003−321479号公報
【特許文献4】特開2003−301059号公報
【特許文献5】特開2004−231590号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、安価な汎用紫外線光源から得られる低エネルギーの紫外線照射のよって、基板表面の疎水性の有機薄膜を親水性に変換するシラン誘導体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、β―ニトロシンナミル基を含有するシラン誘導体が基体表面に有機薄膜を形成でき、250nm以上の紫外線照射により比較的低エネルギーでβ―ニトロシンナミル基が光脱離して親水性へ変換することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、β―ニトロシンナミル基、及びハロゲン原子及び又はアルコキシ基を含有することを特徴とするシラン誘導体であり、下記一般式[1]で表されることを特徴とするシラン誘導体を提供するものである。
【化4】

(式中、mは0又は1であり、nは1〜20の整数を表す。R1〜R5は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のフルオロアルキル基、置換基を有しても良いアルコキシ基、置換基を有しても良いフェニル基、置換基を有しても良いベンジル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アリール基を表し、又、隣接して多核芳香族環又は多核複素環を形成しても良い。X1〜X3は、それぞれ独立して炭素数1〜5のアルコキシ基を表す。R6は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のフルオロアルキル基を表し、Yは、一般式[2]又は[3]で表される結合を示す。)
【化5】

【化6】

【0010】
また、本発明は、基体表面に、本発明のシラン誘導体を含有する有機薄膜が形成されてなる有機薄膜形成体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシラン誘導体は疎水性であるが、安価な水銀灯光源から放射される波長250nm以上の紫外線を照射することにより、光分解して親水性に変化することができる。したがって、本発明のシラン誘導体で基体表面を薄膜を形成すると、紫外線照射により、基体表面を疎水性から親水性へ変換することができるため、親水性と疎水性の差を利用して、基体表面に種々の物質のパターニング形成が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明のシラン誘導体及び有機薄膜形成体を詳細に説明する。
本発明のシラン誘導体は、前記一般式[1]で表される化合物である。式中、mは0又は1であり、nは1〜20の整数を表す。R6は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のフルオロアルキル基を表し、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、トリフルオロメチル基、パーフルオロオクチル基などが挙げられる。
【0013】
R1〜R5は、それぞれ独立して水素原子;フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基など炭素数1〜20のアルキル基;フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、2,2,2、−トリフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロノニル基、パーフルオロデシル基などの炭素数1〜20のフルオロアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、t−ブトキシ基、トリフルオロメトキシ基などの置換基を有しても良いアルコキシ基;フェニル基、4−フルオロフェニル基、2−クロロフェニル基、2−ニトロフェニル基、3−メチルフェニル基、2,4−ジメトキシフェニル基、ペンタフルオロフェニル基などの置換基を有しても良いフェニル基;ベンジル基、4−クロロベンジル基、2−メチルベンジル基、2,4−ジフルオロベンジル基、ペンタフルオロベンジル基などの置換基を有しても良いベンジル基;ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アリール基を表し、又、隣接して1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アンスリル基、2−アンスリル基、9−アンスリル基などの多核芳香族環;キノリニル基、イソキノリニル基、アクリジニル基、アンスロニル基などの多核複素環を形成しても良い。
【0014】
β―ニトロシンナミル基の具体例として、β―ニトロシンナミル基、4−メトキシ−β―ニトロシンナミル基、4−ドデシル−β―ニトロシンナミル基、4−パーフルオロオクチル−β―ニトロシンナミル基などが挙げられる。
【0015】
X1〜X3は、それぞれ独立してメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などの炭素数1〜5のアルコキシ基を表す。
【0016】
Yは、一般式[2]又は[3]で表される結合を示す。
【化7】

【化8】

【0017】
本発明にシラン誘導体は、既知の方法により合成できる。Yが一般式[2]で表されるオキシアミド基の場合、例えば、β−ニトロシンナミルアルコール誘導体をN−N´−ジスクシンイミジルカーボネートと第3アミンの存在下に反応させて、生成したカーボネートとアミノ基含有シラン化合物と反応させて製造できる。β−ニトロシンナミルアルコール誘導体としては、β―ニトロシンナミルアルコール、4−メトキシ−β―ニトロシンナミルアルコール、4−ドデシル−β―ニトロシンナミルアルコール、4−パーフルオロオクチル−β―ニトロシンナミルアルコールなどが挙げられる。アミノ基含有シラン化合物としては、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、4−アミノブチルトリエトキシシラン、m−アミノフェニルトリメトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシラン、p−アミノフェニルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0018】
Yが一般式[3]で表されるオキシスルホニル基の場合、2−(4−クロロスルホニルフェニル)エチルトリメトキシシランのようなスルホニルクロリド基含有シラン化合物と、第3アミンの存在下にβ−ニトロシンナミルアルコール誘導体を反応させることにより製造できる。
【0019】
本発明の有機薄膜形成体は、基体表面に、本発明のシラン誘導体を含有する有機薄膜が形成されてなることを特徴とする。基体としては、本発明のシラン誘導体を含有する有機薄膜を形成できるものであれば特に制限はない。例えば、ソーダガラス板などのガラス基板、ITOガラスなどの表面に電極が形成された基板、表面に絶縁層が形成された基板、シリコンウエーハ基板などのシリコン基板、セラミック基板などが挙げられる。また、有機薄膜を形成する前に、オゾン;超音波;蒸留水、イオン交換水、アルコールなどの洗浄剤などにより洗浄した後に使用することが望ましい。
【0020】
基体表面に、シラン誘導体を含有する有機薄膜を形成する方法は特に制限されない。例えば、シラン誘導体の溶液を基体に公知の方法で塗布し、塗膜を加熱乾燥する方法が挙げられる。塗工方法としては、例えば、ディッピング法、スピンコータ、ダイコータなどの公知の塗工装置を使用する塗工方法が挙げられる。また、シラン誘導体の蒸気下の配置して化学蒸着させる方法を利用することもできる。
【0021】
シラン誘導体を溶解する溶媒としては、シラン誘導体に不活性であり、シラン誘導体を溶解するものであれば特に制限されない。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、ペンタン、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素類、酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、メタノールなどのアルコール類、クロロホルム、ジクロロメタンなどの塩素溶剤類が挙げられる。
【0022】
シラン誘導体の塗膜を形成した後、溶媒を除去して成膜を完了するために、100〜200℃程度の加熱をすることが望ましい。また、多層に重なった有機分子層を除去するために溶媒洗浄することが望ましい。得られる有機薄膜層の厚みは特に制限されないが、通常、1〜100nm程度である。
【0023】
得られる有機薄膜は、紫外線照射により表面の疎水性が失われて、親水性に変化する性質を持つ。この変化は、表面の水接触角を測定することにより確認できる。したがって、本シラン誘導体を含有する有機薄膜層を形成した後、マスクを用いてパターン状に紫外線を照射することにより、疎水性表面がパターン状に親水性に変化させることができる。
【0024】
形成された基板上の親水性―疎水性の差を利用して、金属触媒の表面への選択吸着によりさせて金属配線基板を製造できる。また、版胴表面の親インキ性の差を利用してオフセット印刷版を製造できる。さらに、スクリーン印刷やインクジェット印刷において、インキ受容基板上に本発明のシラン誘導体で有機薄膜を形成することにより、印字ドットの横方向への拡散を制御することができる。また、紫外線照射により生成した有機酸基を化学処理により活性化し、次いで求核性官能基を含む多価官能基含有化合物を有機酸と反応させることにより高分子グラフト基板も製造することができる。用いられる基板としては、金属配線などの電子・電気素子、DNAチップ、バイオチップなどの医療診断用素子、神経回路などの生物素子を作製するために用いられるものを使用することができる。
【0025】
照射装置に用いる光源としては、水銀の蒸気圧が点灯中で1〜10Paであるような、いわゆる低圧水銀灯、あるいはそれ以上の圧力を有する高圧水銀灯、さらに高い圧力の超高圧水銀灯、蛍光体が塗布された水銀灯、レーザー、蛍光管、冷陰極管、その他の放電管等を用いることができ、特に水銀灯が実用上好ましい。水銀灯の発光スペクトルは184〜450nmの範囲であり、本発明のシラン誘導体を含有する有機薄膜を効率的に光反応させるのに適している。水銀灯には、メタルハライドランプ、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、クセノンフラッシュランプ、ディープUVランプ、UVレーザーなどが実用化されており、発光波長領域としては上記範囲を含むので、電源サイズ、入力強度、ランプ形状などに応じて適宜選択して用いることができる。
【0026】
(作用)
本発明のシラン誘導体は、β―ニトロシンナミリ基及びハロゲン原子及び又はアルコキシ基を含有するシラン誘導体であり、基体上に本発明のシラン誘導体を含有する有機薄膜を形成してなる有機薄膜形成体は表面が疎水性であるが、250nm以上の紫外線照射により比較的高感度で有機薄膜中のβ―ニトロシンナミリ基が光脱離して親水性へ変化する。マスクなどを用いてパターン状に紫外線照射することにより、親水性のパターニング形成が可能となる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
【0028】
合成例1
シラン誘導体1の合成
1.89g(8.97ミリモル)の3−メトキシ−β―ニトロシンナミルアルコール、
2.31g(9.02ミリモル)のN,N−ジスクシンイミジルカーボネート、2.02ml(27.0ミリモル)のトリエチルアミン、20mlのN,N−ジメチルホルムアミドを窒素置換した50mlのナスフラスコの中に入れ、室温で5時間攪拌した。その後、N,N−ジメチルホルムアミドを留去し、得られた粗製物をカラムクロマトグラフィーで精製して2.48gの3−メトキシ−β―ニトロシンナミル−N―ヒドロキシスクシンイミジルカーボネートを得た。次にこの化合物を1.08g(3.24ミリモル)と、0.72g(3.25ミリモル)の3−(トリエトキシシリル)プロピルアミン、50mlの乾燥テトラヒドロフランを窒素置換した100mlのナスフラスコの中へいれ、室温で3時間攪拌した。反応後、溶媒を留去し、得られる粗製物をカラムクロマトグラフィーで精製して、シラン誘導体1を得た。
【0029】
合成例2
シラン誘導体2の合成
1.89g(8.97ミリモル)の3−メトキシ−β―ニトロシンナミルアルコール、
2.31g(9.02ミリモル)のN,N−ジスクシンイミジルカーボネート、2.02ml(27.0ミリモル)のトリエチルアミン、20mlのN,N−ジメチルホルムアミドを窒素置換した50mlのナスフラスコの中に入れ、室温で5時間攪拌した。その後、N,N−ジメチルホルムアミドを留去し、得られた粗製物をカラムクロマトグラフィーで精製して2.48gの3−メトキシ−β―ニトロシンナミル−N―ヒドロキシスクシンイミジルカーボネートを得た。次にこの化合物を1.08g(3.24ミリモル)と、0.77g(3.25ミリモル)の4−(トリエトキシシリル)ブチルアミン、50mlの乾燥テトラヒドロフランを窒素置換した100mlのナスフラスコの中へいれ、室温で3時間攪拌した。反応後、溶媒を留去し、得られる粗製物をカラムクロマトグラフィーで精製してシラン誘導体2を得た。
【0030】
合成例3
シラン誘導体3の合成
1.89g(8.97ミリモル)の3−メトキシ−β―ニトロシンナミルアルコール、
2.31g(9.02ミリモル)のN,N−ジスクシンイミジルカーボネート、2.02ml(27.0ミリモル)のトリエチルアミン、20mlのN,N−ジメチルホルムアミドを窒素置換した50mlのナスフラスコの中に入れ、室温で5時間攪拌した。その後、N,N−ジメチルホルムアミドを留去し、得られた粗製物をカラムクロマトグラフィーで精製して2.48gの3−メトキシ−β―ニトロシンナミル−N―ヒドロキシスクシンイミジルカーボネートを得た。次にこの化合物を1.08g(3.24ミリモル)と、0.83g(3.25ミリモル)の1−(4−アニリノ)−プロピルトリメトキシシラン、50mlの乾燥テトラヒドロフランを窒素置換した100mlのナスフラスコの中へいれ、室温で3時間攪拌した。反応後、溶媒を留去し、得られる粗製物をカラムクロマトグラフィーで精製してシラン誘導体3を得た。
【0031】
合成例4
シラン誘導体4の合成
75mlのベンゼンに5.05g(50ミリモル)のトリエチルアミン、10.51g(50ミリモル)の3−メトキシ−β―ニトロシンナミルアルコールを加えて溶解した攪拌溶液中に、16.24g(50ミリモル)の2−(4−クロロスルホニルフェニル)エチルトリメトキシシランを加えた。混合物をさらに4時間攪拌した。反応後、溶媒を留去し、得られる粗製物をカラムクロマトグラフィーで精製してシラン誘導体4を得た。
【0032】
合成例5
75mlのベンゼンに5.05g(50ミリモル)のトリエチルアミン、14.56g(50ミリモル)の4−n−オクチル−β―ニトロシンナミルアルコールを加えて溶解した攪拌溶液中に、16.24g(50ミリモル)の2−(4−クロロスルホニルフェニル)エチルトリメトキシシランを加えた。混合物をさらに4時間攪拌した。反応後、溶媒を留去し、得られる粗製物をカラムクロマトグラフィーで精製してシラン誘導体5を得た。
【0033】
実施例1
合成例1で得たシラン誘導体を無水トルエンに溶解して、濃度0.5重量%の溶液を得た。洗剤と共に超音波洗浄し、次いでイオン交換水、エタノールで順次洗浄した後に60℃で乾燥し、オゾン発生装置中で洗浄したソーダライムガラスをこの溶液に浸漬した後、基板を引き出し、150℃で10分間加熱熟成し、続いて、トルエン中、超音波洗浄により、多層の吸着分を除去し、シラン誘導体1の有機薄膜を成膜した。
得られた有機薄膜を形成した基板表面に、水5μlをマイクロシリンジを用いて滴下して、60秒後に、接触角測定器(協和界面科学社製CA−Z型)を用いて測定した。この基板表面に254nmの紫外線(殺菌灯、 mW/cm2)を照射し、一定時間経過毎に接触角を測定した。その結果を表1に示す。
【0034】
実施例2〜5
シラン誘導体1の代わりにシラン誘導体2〜5を用いる他は、実施例1と同様の操作を行い有機薄膜を得た。得られた有機薄膜それぞれの水接触角測定および紫外線照射による水接触角測定の変化を測定した。それらの結果を表1に併記する。
【表1】

【0035】
表1より明らかなように、本発明のシラン誘導体1〜5から得られる有機薄膜は、紫外線照射により水に対する接触角が時間とともに減少し、疎水性から親水性に変化することが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のシラン誘導体は疎水性であるが、安価な水銀灯光源から放射される波長250nm以上の紫外線を照射することにより、光分解して親水性に変化することができ、しかも高感度である。また、本発明のシラン誘導体で基体表面を薄膜を形成すると、紫外線照射により、基体表面を疎水性から親水性へ変換することができるため、親水性と疎水性の差を利用して、基体表面に種々の物質のパターニング形成が可能となる。この性質を利用して、印刷版、金属配線などの電子・電気素子、DNAチップ、バイオチップなどの医療診断用素子、神経回路などの生物素子などを作製するために用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
β―ニトロシンナミル基、及びハロゲン原子又はアルコキシ基を含有することを特徴とするシラン誘導体。
【請求項2】
下記一般式[1]で表されることを特徴とするシラン誘導体。
【化1】

(式中、mは0又は1であり、nは1〜20の整数を表す。R1〜R5は、それぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のフルオロアルキル基、置換基を有しても良いアルコキシ基、置換基を有しても良いフェニル基、置換基を有しても良いベンジル基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アリール基を表し、又、隣接して多核芳香族環又は多核複素環を形成しても良い。X1〜X3は、それぞれ独立して炭素数1〜5のアルコキシ基を表す。R6は水素原子、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のフルオロアルキル基を表し、Yは、一般式[2]又は[3]で表される結合を示す。)
【化2】

【化3】

【請求項3】
基体表面に、請求項1〜2のいずれかに記載のシラン誘導体を含有する有機薄膜が形成されてなる有機薄膜形成体。

【公開番号】特開2007−31350(P2007−31350A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−217543(P2005−217543)
【出願日】平成17年7月27日(2005.7.27)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】