説明

シリコンウェーハ及びその製造方法、並びに、半導体デバイスの製造方法

【課題】デバイス後工程で薄型化され、且つ、裏面研磨される半導体デバイス用として好適なシリコンウェーハを提供する。
【解決手段】シリコン基板11を用意する工程S11と、シリコン基板11上にn型のエピタキシャル膜12を成長させる第1のエピタキシャル工程S13と、エピタキシャル膜12上にデバイスが形成される第2のエピタキシャル膜13を成長させる第2のエピタキシャル工程S14とを備える。本発明によれば、デバイスが形成される第2のエピタキシャル膜13の下部に形成されるn型の第1のエピタキシャル膜12がバリア層として機能することから、デバイス後工程でシリコンウェーハの裏面側から導入される重金属がデバイス領域に到達することがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はシリコンウェーハ及びその製造方法に関し、特に、マルチチップパッケージ(MCP)に搭載される半導体デバイス用として好適なシリコンウェーハ及びその製造方法に関する。また、本発明は、MCPへの搭載が好適な半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体プロセスにおける問題点の一つとして、シリコンウェーハ中への不純物である重金属の混入が挙げられる。シリコンウェーハの表面側に形成されるデバイス領域へ重金属が拡散した場合、ポーズタイム不良、リテンション不良、接合リーク不良、及び酸化膜の絶縁破壊といったデバイス特性に著しい悪影響をもたらす。このため、シリコンウェーハに混入した重金属がデバイス領域に拡散するのを抑制するため、ゲッタリング法を採用するのが一般的である。ゲッタリングは、シリコン基板の表面にデバイス形成を行うデバイス前工程での重金属汚染防止を目的としている。
【0003】
一方、デバイス前工程の後に行われるシリコン基板の薄厚化、ワイヤーボンディングあるいは樹脂封入などのデバイス後工程での重金属汚染は、これまで特に重視されていなかった。これは、デバイス後工程の初期においてシリコンウェーハの裏面を研削除去する工程があり、この裏面研削時に導入されるスクラッチやダメージ等が強力なエクストリンシック・ゲッタリング(EG)によるゲッタリング源として作用するからである。
【0004】
しかしながら、最終的なチップ厚みは年々薄型化しており、特に、MCP搭載されるチップは100μm以下に薄型化されることが多く、製品によっては現在25μm以下まで薄型化され、将来的には10μm以下とも予測されている。チップの厚みが100μm以下まで薄型化されると、裏面研削時のダメージによってシリコンウェーハが割れやすくなるという問題が生じる。このような問題を解決するためには、裏面研削後にダメージ除去する工程、すなわちCMP法による裏面研磨工程を新たに追加する必要が生じる。
【0005】
ところが、裏面研磨によってシリコンウェーハ裏面のダメージを除去すると、裏面のゲッタリング源も消失することから、EG効果が失われてしまう。しかも、薄型化されたシリコンウェーハはイントリンシック・ゲッタリング(IG)層の厚みも薄いことから、酸素析出物による通常のIG層では十分なIG効果も期待できない。より詳細には、IG法を用いたエピタキシャルウェーハやシリコンウェーハであっても、熱処理によってエピタキシャル膜の厚みを含め、酸素析出核が存在しないDZ層がウェーハ表面から10μm以上形成される。チップの最終膜厚が薄くなってくるとIG層は殆ど存在しない状態になり、デバイス後工程で発生した不純物金属を全くゲッタリングできなくなる。
【0006】
このように、シリコンウェーハ裏面が研磨される薄型の半導体デバイスにおいては、デバイス後工程における重金属汚染の問題が顕在化し始めている。
【0007】
これに関し、特許文献1には、シリコン基板上に高濃度のボロンを含有するシリコンエピタキシャル膜(1層目)を100μm程度成長させ、さらに、デバイス領域となる高抵抗のシリコンエピタキシャル膜(2層目)を数十μm程度成長させる方法が記載されている。そして、このようなシリコンウェーハを用いてデバイス前工程を行った後、シリコン基板を裏面から研削することにより合計厚みを100μm程度に薄型化し、さらに裏面を鏡面研磨することが記載されている。
【0008】
特許文献1に記載された方法によれば、デバイス領域となる2層目のシリコンエピタキシャル膜の下部に、高濃度のボロンを含有する1層目のシリコンエピタキシャル膜が存在することから、鏡面研磨によってEG層が消失しても、高濃度ボロンの効果により重金属、特にCuやFeを効率よくゲッタリングすることができる。
【0009】
しかしながら、ボロンなどの不純物を高濃度に含むエピタキシャル膜を形成すると、エピタキシャル成長炉内のチャンバーやシリコンカーバイド製のサセプタなどにボロンが付着するなどして第2層目のエピタキシャル膜の比抵抗を制御できなくなるという問題がある。
【0010】
一方、特許文献2には、薄厚化されたウェーハ裏面に種々の方法によりゲッタリング能力を付与する技術が開示されている。例えば、薄厚化されたシリコンウェーハの裏面に多結晶シリコン膜や窒化膜を堆積させる方法、シリカ粒子を用いて裏面にダメージを与える方法、イオン注入により裏面にダメージ層を与える方法などが挙げられている。確かにこれらの方法は、チップ厚みがある程度厚ければ効果があるものと考えられるが、既に説明したとおり、最終的なチップ厚みが100μm以下、将来的には10μm程度まで薄型化されると、シリカ粒子などによる物理的ダメージ導入によって抗折強度が低下し、チップ割れの問題が生じてしまうため、歩留まりが大幅に低下することが予想される。また、デバイス後工程で多結晶シリコン膜や窒化膜を堆積させたり、イオン注入を行ったりすることは、量産品においては現実的ではない。
【0011】
他方、特許文献3,4には、イオン注入によってシリコン基板の内部にダメージを形成し、これをゲッタサイトとして用いる技術が記載されている。しかしながら、特許文献3,4に記載された方法は、デバイス前工程におけるゲッタリングを意図しているため、デバイス後工程で導入される重金属汚染に対しては必ずしも適切とは言えない。
【0012】
具体的に説明すると、デバイス後工程で導入される重金属はシリコンウェーハの裏面側から拡散するため、デバイス領域への到達を防止するためにはある程度深い位置にダメージ層を形成する必要がある。深い位置にイオン注入を行うためには、高エネルギー型のイオン注入装置を用いる必要があるが、高エネルギー型のイオン注入装置は出力電流が少ないため高濃度のイオンを注入するためには長時間に亘ってイオン注入を行う必要があり、量産品においては現実的でない。一方、高電流型のイオン注入装置は高濃度のイオン注入が可能であるが、飛程が短いため深い位置にイオン注入することはできない。
【0013】
これに関し、特許文献3には1×1015atoms/cmのリンをイオン注入すると記載され、特許文献4には3×1014atoms/cm以上のリンをイオン注入すると記載されているが、このような高濃度のイオンを深い位置に注入することは、上述の通り現実的でない。量産品においてこのような濃度でイオン注入する場合には、高電流型のイオン注入装置を用いることが必須であり、この場合、注入深さは1μm程度に制限される。特に、2μm以上の深さに注入することは事実上不可能である。
【0014】
但し、特許文献3,4は、デバイス前工程におけるゲッタリングを意図しているため、このようなドーズ量でイオン注入することはやむを得ないと考えられる。これは、デバイス前工程ではシリコンウェーハの厚みが約750μm程度と厚いため、厚いシリコンウェーハに含まれる多くの重金属をゲッタリングする必要があるからである。また、特許文献3,4が出願された当時のデバイス前工程では、1150℃を超えるような温度域で数時間の熱処理が行われていたため、ドーズ量が少ないと高温・長時間の熱処理によってイオン注入ダメージが回復してしまい、ゲッタリング能力が失われてしまう。この点も、特許文献3,4においてドーズ量を高くせざるを得ない理由の一つである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2005−317735号公報
【特許文献2】特開2006−41258号公報
【特許文献3】特許第2744022号公報
【特許文献4】特許第2746499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上述の通り、高いドーズ量のイオンを深い位置に注入することは、イオン注入装置の特性から見て現実的でないことから、特許文献3,4の方法をデバイス後工程で導入される重金属のゲッタリングに適用することは、たとえ効果があるにせよ現実的でない。他方、デバイス後工程で導入される重金属のゲッタリングに着目した場合、並びに、近年のデバイス前工程における温度履歴に着目した場合には、必ずしも特許文献3,4に記載された高濃度のイオン注入を行うことは必要でないと考えられる。本発明は、このような技術的知見に基づきなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明によるシリコンウェーハは、シリコン基板と、前記シリコン基板上に設けられたn型の第1のエピタキシャル膜と、前記第1のエピタキシャル膜上に設けられ、デバイスが形成される第2のエピタキシャル膜と、を備えることを特徴とする。
【0018】
本発明によるシリコンウェーハの製造方法は、シリコン基板の表面にn型の第1のエピタキシャル膜を形成する第1のエピタキシャル工程と、前記第1のエピタキシャル膜上にデバイスが形成される第2のエピタキシャル膜を形成する第2のエピタキシャル工程と、を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明による半導体デバイスの製造方法は、シリコン基板の表面にn型の第1のエピタキシャル膜を形成する第1のエピタキシャル工程と、前記第1のエピタキシャル膜上にデバイスが形成される第2のエピタキシャル膜を形成する第2のエピタキシャル工程と、前記第2のエピタキシャル膜に半導体素子を形成するデバイス前工程と、前記デバイス前工程を行った後、前記シリコン基板の一部を裏面側から除去することにより、前記シリコン基板と前記第1及び第2のエピタキシャル膜の合計厚みを100μm以下とする薄型化工程と、薄型化された前記シリコン基板の裏面を研磨する裏面研磨工程と、、を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明によれば、デバイスが形成される第2のエピタキシャル膜の下部に位置するn型の第1のエピタキシャル膜がバリア層として機能することから、デバイス後工程でシリコンウェーハの裏面側から導入される重金属がデバイス領域に到達することがない。これは、n型ドーパントが格子位置に移動することによりプラス電荷を持つため、Cuなど外部から侵入する陽イオンを阻害するものと考えられる。したがって、n型のエピタキシャル膜ではCuの固溶度が低下することから、裏面から侵入する重金属のバリアとして効果を発揮する。第1のエピタキシャル膜に含まれるn型のドーパントは、高温・長時間の熱処理を行うと拡散してしまうが、近年のデバイス前工程ではドーパントの拡散は無視できるレベルに抑えられる。
【0021】
本発明において、前記第1のエピタキシャル膜は、比抵抗が0.002Ω・cm以上200Ω・cm以下であることが好ましく、上述したようにドーパント濃度を高めたエピタキシャル膜を形成すると、エピタキシャル成長炉内のチャンバーやシリコンカーバイド製のサセプタなどにドーパントが付着するなどして第2層目のエピタキシャル膜の比抵抗を制御できなくなるため0.1Ω・cm以上20Ω・cm以下であることがより好ましい。比抵抗が上記の範囲となるようn型のドーパントのドーズ量を設定すれば、重金属のバリア層としての効果を十分に発揮することが可能となる。
【0022】
本発明において、前記第1のエピタキシャル膜は、厚みが0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。これによれば、平坦度の劣化や生産性低下を招くことなく、バリア層としての効果を得ることが可能となる。
【0023】
本発明において、前記第1のエピタキシャル膜には、リン(赤リンを含む)、アンチモン及び砒素からなる群より選ばれた1又は2以上のn型ドーパントが含まれていることが好ましい。これらのn型ドーパントを選択すれば、デバイスに悪影響を与えることなくバリア層を形成することが可能となる。
【0024】
本発明において、シリコン基板の初期酸素濃度は7×1017atoms/cm以上2.4×1018atoms/cm以下であることが好ましい。これによれば、デバイス前工程を行う前又はデバイス前工程中における熱処理によってシリコン基板に酸素析出物が形成されることから、これがNiなどの重金属のゲッタリング源となる。
【発明の効果】
【0025】
このように、本発明によるシリコンウェーハ及びその製造方法によれば、最終的なチップ厚みが100μm以下に薄型化される半導体デバイスの後工程における重金属汚染を防止することが可能となる。
【0026】
また、本発明による半導体デバイスの製造方法によれば、後工程における重金属汚染が防止された薄型の半導体デバイスを量産することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の好ましい実施形態によるシリコンウェーハ10の構造を示す略断面図である。
【図2】シリコンウェーハ10を用いて薄型化された半導体デバイス20の構造を示す略断面図である。
【図3】薄型化された半導体デバイス20を用いたMCP70の構造を示す略断面図である。
【図4】半導体デバイス20の製造方法を大まかに説明するためのフローチャートである。
【図5】シリコンウェーハ10の製造工程(ステップS10)を説明するためのフローチャートである。
【図6】デバイス後工程(ステップS30)を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるシリコンウェーハ10の構造を示す略断面図である。
【0030】
図1に示すように、本実施形態によるシリコンウェーハ10は、シリコン基板11とその表面11aに形成された2層のエピタキシャル膜12,13によって構成されている。1層目のエピタキシャル膜12は、重金属のバリア層として機能する。具体的には、エピタキシャル膜12にはn型のドーパントが含まれており、これによるCuイオンの固溶度低下によってバリア層として働く。2層目のエピタキシャル膜13はデバイス領域となる層である。
【0031】
シリコン基板11は、特に限定されるものではないが、ボロンまたはn型不純物がドーピングされた基板であり、ボロンまたはn型ドーパントに基づくシリコン基板11の比抵抗は0.002Ω・cm以上、200Ω・cm以下に調整される。
【0032】
また、シリコン基板11は、初期酸素濃度が7×1017atoms/cm以上2.4×1018atoms/cm以下であることが好ましい。これは、酸素濃度が7×1017atoms/cm未満であるとNiなどの重金属のゲッタリングに必要な酸素析出物が十分に形成されないからであり、酸素濃度が2.4×1018atoms/cm超でのCZ法による結晶引き上げは困難だからである。尚、本明細書で記載する酸素濃度は全てASTM F−121(1979)に規格されたフーリエ変換赤外分光光度法による測定値である。
【0033】
シリコン基板11の初期酸素濃度は、2.4×1018atoms/cmを超えない範囲でより高濃度であることが好ましく、酸素析出促進のためシリコン基板11内に炭素や窒素を含有させることがより好ましい。炭素の含有量としては、1×1016atoms/cm以上1.2×1017atoms/cm以下であることが好ましく、窒素の含有量としては、1×1013atoms/cm以上1×1014atoms/cm以下であることが好ましい。
【0034】
シリコン基板11に酸素析出物を形成するための酸素析出熱処理は、デバイス前工程を行う前に行っても構わないし、デバイス前工程中における熱プロセスによって代用しても構わない。
【0035】
また、シリコン基板11の表面11a側には、イオン注入によるダメージ層が形成されていても構わない。このようなダメージ層を形成すれば、これがCuやNiなどの重金属のゲッタリングサイトとして機能する。ダメージ層は、デバイス層を汚染しない非金属イオン種の注入によって形成され、そのドーズ量は、1×1013/cm以上3×1014/cm以下とすることが好ましい。ダメージ層の形成に用いられるイオン種は、p型ドーパントとして用いられるイオン種、n型ドーパントとして用いられるイオン種、さらには、非ドーパントイオンから選択することができる。p型ドーパントとして用いられるイオン種としては、ボロンを選択することが好ましい。さらに、非ドーパントとしては、ヘリウム、アルゴン、フッ素、酸素、窒素、炭素、シリコン又はゲルマニウムを選択することが好ましい。
【0036】
イオン種としてボロンを選択すれば、注入ダメージだけでなく、シリコン基板11のボロン濃度が高まることから、格子位置に導入されることによりボロン負イオンとなりCuなどの陽イオン金属に対してゲッタリング効果も高められる。また、n型ドーパントとして用いられるイオン種としては、リン、アンチモン又は砒素を選択することが好ましい。イオン種としてn型ドーパントを選択すれば、注入ダメージだけでなく、ダメージ層の領域近傍でn型ドーパントイオンが格子位置に導入され正イオンとなり、ボロン基板よりもCuイオンの固溶度が低くなることから、デバイス後工程における裏面研削、裏面研磨時におけるCuイオン汚染のバリアとして効果を発揮する。さらに、イオン種として非ドーパントイオンを選択した場合には、注入ダメージやデバイス熱処理により転位を発生し、これがゲッタリング源となるが、トランジスタのしきい値などに変動が生じる危険性がない。
【0037】
図1に示すように、エピタキシャル膜12は、シリコン基板11の表面11a側に形成されており、シリコン基板11の裏面から導入されたCuなどの陽イオンの固溶度を低下させる。すなわち、重金属のバリア層として機能する。
【0038】
エピタキシャル膜12の厚みは、シリコン基板11の表面11aから0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上3μm以下であることがより好ましい。これは、エピタキシャル膜12の厚みが0.1μm未満であるとバリア層としての機能が低下するからであり、厚みが10μmを超えると平坦度の劣化や生産性低下を招くからである。
【0039】
エピタキシャル膜12の比抵抗は、0.002Ω・cm以上200Ω・cm以下であることが好ましく、0.1Ω・cm以上20Ω・cm以下であることがより好ましい。
【0040】
エピタキシャル膜12のドーパント種は、リン、アンチモン、砒素から選択することができる。
【0041】
上記n型ドーパントには格子位置に導入され正イオンとなり、ボロン基板よりもCuイオンの固溶度が低くなることから、デバイス後工程における裏面研削、裏面研磨時におけるCuイオン汚染のバリアとして効果を発揮する。
【0042】
2層目のエピタキシャル膜13は、上述の通りデバイスが形成される膜であり、その膜厚はデバイス種により決定され特に限定しないが、1μm以上10μm以下とすることが好ましい。これは、エピタキシャル膜13の膜厚を10μm超に厚くすると、その分シリコン基板21の厚さが薄くなるため、酸素析出層の残厚が薄くなる事によりゲッタリング能力が低下するとともに、エピタキシャル成長に時間がかかり、かつ膜厚増加は平坦度劣化に繋がり最先端デバイスでは対応できないからである。また、エピタキシャル膜13の膜厚が1μm未満であると、デバイスの空乏層が1層目のエピタキシャル膜12に到達するおそれがあるからである。
【0043】
以上が本実施形態によるシリコンウェーハ10の構成である。このようなシリコンウェーハ10に対しては、デバイス前工程によって表面にデバイス形成を行った後、シリコン基板11の一部を裏面側から除去することにより、厚みを100μm以下とすることができる。
【0044】
図2は、薄型化された半導体デバイス(シリコンチップ)20の構造をそれぞれ示す略断面図である。半導体デバイス20は、研削やエッチングによってシリコン基板11の一部が裏面側から除去されているとともに、新たに露出した裏面11bが鏡面研磨されている。これにより、合計厚みが100μm以下まで薄型化されている場合であっても、抗折強度が確保されることから、チップの割れを防止することが可能となる。
【0045】
図3は、薄型化された半導体デバイス20を用いたMCP30の構造を示す略断面図である。図3に示すMCP30は、パッケージ基板31上に4つの半導体デバイス20が積層された構成を有している。上下に隣接する半導体デバイス20及びパッケージ基板31は、接着剤32によって固定されている。また、半導体デバイス20とパッケージ基板31はボンディングワイヤ33によって接続されており、これにより、各半導体デバイス20は、パッケージ基板31に設けられた内部配線(図示せず)を介して外部電極34に電気的に接続される。また、パッケージ基板31上には、半導体デバイス20及びボンディングワイヤ33を保護するための封止樹脂35が設けられている。
【0046】
このような構成を有するMCP30においては、1つの半導体デバイス20の厚みが例えば20μm程度まで薄型化されていることから、MCP全体の厚みを例えば1mm程度まで薄くすること可能となる。このため、モバイル機器など低背化が要求される用途への適用が好適である。
【0047】
次に、半導体デバイス20の製造方法についてフローチャートを参照しながら説明する。
【0048】
図4は、半導体デバイス20の製造方法を大まかに説明するためのフローチャートである。図4に示すように、半導体デバイス20の製造工程は、大きく分けてシリコンウェーハの製造工程(ステップS10)、デバイス前工程(ステップS20)、デバイス後工程(ステップS30)の3つに分類される。以下、それぞれの工程について詳細に説明する。
【0049】
図5は、シリコンウェーハ10の製造工程(ステップS10)を説明するためのフローチャートである。
【0050】
本実施形態においては、まず、シリコン基板11を用意する(ステップS11)。シリコン基板11は、チョクラルスキー(CZ)法によって引き上げられたシリコンインゴットから切り出されたCZウェーハであり、初期酸素濃度が7×1017atoms/cm以上2.4×1018atoms/cm以下であることが好ましい。比抵抗については、シリコン融液に添加するボロン量やn型ドーパント量によって調整することができ、初期酸素濃度については、シリコン融液の対流制御などによって調整することができる。
【0051】
次に、シリコン基板11に対して酸素析出熱処理を行う(ステップS12)。本発明において酸素析出熱処理を行うことは必須でないが、これを行うことにより酸素析出物が形成され、重金属のゲッタリング効果を高めることが可能となる。特に限定されるものではないが、酸素析出熱処理は次に説明する2通りの方法で行うことができる。
【0052】
第1の方法においては、まず、600℃以上900℃以下の温度で15分間以上4時間以下の酸素析出熱処理を行う。これにより、シリコン基板11に含まれる酸素が析出核を形成し、これがデバイスプロセスで成長することによりゲッタリングサイトとして機能する。また、このような温度条件での熱処理ではスリップ転位などが発生しにくいことから、歩留まりの低下を抑制することが可能となる。
【0053】
第2の方法においては、まず、シリコン基板11に対して、窒素原子含有雰囲気中にて1100℃以上1350℃以下の温度で1秒以上300秒以下に加熱した後、10℃/秒以上で降温させる第1の熱処理を行う。これにより、空孔がシリコン表層部に凍結される。次に、第1の熱処理に連続して、700℃以上1000℃以下の温度で10分間以上4時間加熱する第2の熱処理を行ってもよい。これにより、第1の熱処理で形成された空孔を起点として酸素析出核が成長する。次に、シリコン基板11の表面を研磨することにより、シリコン基板11の表面に形成された窒化物を除去する。研磨量としては、0.5μm以上5μm以下とすることが好ましい。
【0054】
このようにして酸素析出熱処理(ステップS12)が完了すると、次に、シリコン基板11の表面に1層目のエピタキシャル膜12を形成する(ステップS13)。エピタキシャル膜12の形成においては、トリクロロシランなどのシリコン原料ガスに、ホスフィンなどのn型ドーパントガスを添加することにより導電型をn型とする。エピタキシャル膜12の膜厚については特に限定されないが、0.1μm以上10μm以下とすればよい。比抵抗に関しては0.002Ω・cm以上200Ω・cm以下となるよう調整すればよい。
【0055】
そして、エピタキシャル膜12の表面に2層目のエピタキシャル膜13を形成する(ステップS14)。エピタキシャル膜13の形成においては、トリクロロシランなどのシリコン原料ガスに、ジボランなどのp型ドーパントガスあるいはホスフィンなどのn型ドーパントガスを添加することにより、導電型をp型もしくはn型とする。エピタキシャル膜13の膜厚については特に限定されないが、1μm以上10μm以下とすることが好ましい。ドーパント濃度については特に限定されず、比抵抗が1Ω・cm以上200Ω・cm程度以下となるよう調整すればよい。
【0056】
エピタキシャル膜12,13は、同一のエピタキシャル装置を用いて連続形成しても構わないし、それぞれ別のエピタキシャル装置を用いて形成しても構わない。同一のエピタキシャル装置を用いて連続形成する場合には、ステップS13の完了後、ステップS14を行う前にチャンバー内を十分にパージする必要がある。
【0057】
尚、エピタキシャル膜12,13を形成する前に、シリコン基板11に対してダメージ層形成のためのイオン注入を行っても構わない。この場合、1×1013atoms/cm以上5×1015atoms/cm以下、好ましくは5×1013atoms/cm以上1×1015atoms/cm以下のドーズ量でイオン注入を行うことが好ましい。
【0058】
以上により、シリコンウェーハ10が完成する。このように、本実施形態では、必ずしもイオン注入を行う必要がないことから、この場合、イオン注入装置が不要である。
【0059】
以上が本実施形態によるシリコンウェーハ10の製造工程(ステップS10)である。図4に示すように、シリコンウェーハの製造工程(ステップS10)が終わると、次にデバイス前工程(ステップS20)が行われる。デバイス前工程(ステップS20)は、シリコンウェーハの表面に半導体素子などを形成する工程であるが、製造される半導体デバイスの種類によって異なることから、その詳細については省略する。半導体デバイスの種類としては、MPUやDSPなどロジック系の半導体デバイス、DRAMやフラッシュメモリなどメモリ系の半導体デバイスが挙げられる。但し、デバイス前工程(ステップS20)では、バッチ式熱処理炉を用いた熱処理を行う場合、1100℃を超えない温度範囲で熱処理することが好ましく、枚葉式ランプ炉やレーザーアニーラーによる熱処理を行う場合、1100℃を超える工程もあるがミリ秒単位の超短時間熱処理であり、通常のRTPプロセスでも数秒から数分間の短時間熱処理で構成され、その昇降温速度も10℃/秒以上であれば、エピタキシャル膜12に含まれるn型ドーパントの拡散も無視できるレベルにとどまる。
【0060】
図6は、デバイス後工程(ステップS30)を説明するためのフローチャートである。
【0061】
図6に示すように、デバイス後工程においては、まずシリコンウェーハ10の裏面研削が行われる(ステップS31)。裏面研削は、シリコン基板11の一部を裏面側から粗研削することにより行い、これにより、シリコンウェーハ10の厚みを100μm以下に薄型化する。尚、本工程は、研削に限らず、エッチングなどによって行うことも可能である。
【0062】
次に、研削されたシリコン基板11の裏面を鏡面研磨する(ステップS32)これにより、裏面研削(ステップS31)によって導入されたダメージが除去され、機械的強度が高められる。
【0063】
次に、シリコンウェーハ10をダイシングすることにより、チップごとに個片化する(ステップS33)。これにより、個片化されたチップ(半導体デバイス20)が完成する。
【0064】
その後は、個片化された半導体デバイス20をパッケージ基板などに搭載し、ワイヤーボンディングや樹脂封止などを行えば、MCP30が完成する(ステップS34)。
【0065】
このようなデバイス後工程(ステップS30)では、特に裏面研削工程(ステップS31)や裏面研磨工程(ステップS32)などにおいて、シリコン基板11にCuやNiなどの重金属が混入することがあるが、本実施形態によるシリコンウェーハ10は、シリコン基板11とデバイスが形成されたエピタキシャル膜13との間に、バリア層として機能するエピタキシャル膜12が設けられていることから、CuやNiなどの重金属がデバイス領域に到達することがなくなる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態によれば、シリコン基板11とデバイスが形成されるエピタキシャル膜13との間にバリア層となるエピタキシャル膜12が設けられていることから、最終的なチップ厚みが100μm以下に薄型化され、且つ、裏面が鏡面研磨された場合であっても、ゲッタリング能力と機械的強度を確保することが可能となる。しかも、ダメージ層を形成するために、非金属イオンをシリコン基板に注入する必要がないことから、量産品への適用も好適である。
【0067】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【実施例】
【0068】
[比較例1]
直径100mm、厚み525μm、初期酸素濃度が1.1×1018atoms/cm、比抵抗が10Ω・cmから20Ω・cmに調整されたボロンドープのCZウェーハを複数作製した。
【0069】
[比較例2]
比較例1のサンプルを1枚用い、その表面にシリコンエピタキシャル成長を行った。条件としては、ジボランガスをトリクロロシランガスと同時に流すことにより、比抵抗5Ω・cmのp型エピタキシャル膜を3μm厚み成長させた。
【0070】
[実施例1]
比較例1のサンプルを5枚用い、基板の表面にシリコンエピタキシャル成長を行った。条件としては、ホスフィンガスとトリクロロシランガスを用いることにより、それぞれ比抵抗0.005Ω・cm、0.1Ω・cm、20Ω・cm、100Ω・cmのn型エピタキシャル膜を2μm厚み成長させた。
次に、別のエピタキシャル成長装置にて、ジボランガスとトリクロロシランガスを用い、比抵抗5Ω・cmのp型エピタキシャル膜を3μm厚み成長させた。
【0071】
[実施例2]
比較例1のサンプルを4枚用い、基板の表面にシリコンエピタキシャル成長を行った。条件としては、ホスフィンガスとトリクロロシランガスを用いることにより比抵抗が0.2Ω・cmになるように設定し、それぞれエピタキシャル膜を0.5μm、1μm、2μm、10μmの厚みになるように成長させた。
次に、同一チャンバー内で十分にパージを行った後、ジボランガスとトリクロロシランガスを用い、比抵抗5Ω・cmのp型エピタキシャル膜を3μm厚み成長させた。
【0072】
[実施例3]
比較例1のサンプルを4枚用い、基板の表面にシリコンエピタキシャル成長を行った。条件としては、ホスフィンガスとトリクロロシランガスを用いることにより比抵抗が2Ω・cmになるように設定し、それぞれエピタキシャル膜を0.5μm、1μm、2μm、10μmの厚みになるように成長させた。
次に、同一チャンバー内で十分にパージを行った後、ジボランガスとトリクロロシランガスを用い、比抵抗5Ω・cmのp型エピタキシャル膜を3μm厚み成長させた。
【0073】
[実施例4]
第1のn型エピタキシャル成長前にドーズ量が5×1013atoms/cmとなるようにアルゴンイオンを注入した他は、実施例1と同様にして実施例4のサンプルを作製した。
【0074】
[評価]
全てのサンプルに対して、デバイス前工程における低温プロセスを模した熱処理を施した後、表面にバックグラインドテープを貼り付け裏面側から研削を行うことにより、最終厚みを100μmとした。次に、20ppbのCuを添加したスラリーにて研削面を3μm研磨した。
得られたサンプルは、30日間放置した後に全反射蛍光X線評価にて表面に拡散してきたCu濃度を測定した。
その結果、比較例1、2では表面に1.2×1011atoms/cmのCuが検出された。これに対し、実施例1〜4のサンプルでは表面のCu濃度は1.0×1010atoms/cm以下である事が確認できた。
【符号の説明】
【0075】
10 シリコンウェーハ
11 シリコン基板
11a シリコン基板の表面
11b シリコン基板の裏面
12 第1のエピタキシャル膜
13 第2のエピタキシャル膜
20 半導体デバイス
30 MCP
31 パッケージ基板
32 接着剤
33 ボンディングワイヤ
34 外部電極
35 封止樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板と、
前記シリコン基板上に設けられたn型の第1のエピタキシャル膜と、
前記第1のエピタキシャル膜上に設けられ、デバイスが形成される第2のエピタキシャル膜と、を備えることを特徴とするシリコンウェーハ。
【請求項2】
前記第1のエピタキシャル膜は、比抵抗が0.002Ω・cm以上200Ω・cm以下であることを特徴とする請求項1に記載のシリコンウェーハ。
【請求項3】
前記第1のエピタキシャル膜は、厚みが0.1μm以上10μm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のシリコンウェーハ。
【請求項4】
前記第1のエピタキシャル膜には、リン、アンチモン及び砒素からなる群より選ばれた1又は2以上のn型ドーパントが含まれていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシリコンウェーハ。
【請求項5】
シリコン基板の表面にn型の第1のエピタキシャル膜を形成する第1のエピタキシャル工程と、
前記第1のエピタキシャル膜上にデバイスが形成される第2のエピタキシャル膜を形成する第2のエピタキシャル工程と、を備えることを特徴とするシリコンウェーハの製造方法。
【請求項6】
前記第1のエピタキシャル工程は、前記第1のエピタキシャル膜の比抵抗が0.002Ω・cm以上200Ω・cm以下となる条件で成膜することを特徴とする請求項5に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項7】
前記第1のエピタキシャル工程は、前記第1のエピタキシャル膜の厚みが0.1μm以上10μm以下となる条件で成膜することを特徴とする請求項5又は6に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項8】
前記第1のエピタキシャル工程は、ソースガスにリン、アンチモン及び砒素からなる群より選ばれた1又は2以上のn型ドーパントを添加して行うことを特徴とする請求項5乃至7のいずれか一項に記載のシリコンウェーハの製造方法。
【請求項9】
シリコン基板の表面にn型の第1のエピタキシャル膜を形成する第1のエピタキシャル工程と、
前記第1のエピタキシャル膜上にデバイスが形成される第2のエピタキシャル膜を形成する第2のエピタキシャル工程と、
前記第2のエピタキシャル膜に半導体素子を形成するデバイス前工程と、
前記デバイス前工程を行った後、前記シリコン基板の一部を裏面側から除去することにより、前記シリコン基板と前記第1及び第2のエピタキシャル膜の合計厚みを100μm以下とする薄型化工程と、
薄型化された前記シリコン基板の裏面を研磨する裏面研磨工程と、を備えることを特徴とする半導体デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−3577(P2011−3577A)
【公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−143059(P2009−143059)
【出願日】平成21年6月16日(2009.6.16)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】