説明

シリコン単結晶の製造方法

【課題】シリコン単結晶の育成において、直胴部の品質低下を防止しつつ、テール部の育成時における析出の発生を安定的に防止する。
【解決手段】シリコン融液21を加熱するヒータ15と、シリコン単結晶20とヒータ15との間に設けられた熱遮蔽体22とを有する引き上げ装置10を用い、直胴部及びテール部の育成時における熱遮蔽体22と湯面21aとの距離をそれぞれA,Bとし、直胴部及びテール部の育成時における引き上げ速度をそれぞれC,Dとした場合、A/Bを1以上1.6以下とし、C/Dを0.6以上とし、(A/B)×(C/D)で与えられる値Fを0.8以上1.3以下とする。これにより、大口径のるつぼ、例えば内径が850mm以上のるつぼを用いた場合であっても、テール部の育成時において析出の発生や直胴部の品質低下を安定的に防止することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チョクラルスキー法(CZ法)を用いたシリコン単結晶の製造方法に関し、特に、テール部の育成時において石英るつぼ内のシリコン融液が析出することを防止可能なシリコン単結晶の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン単結晶インゴットを育成する方法としては、CZ法が最も広く用いられている。CZ法は、るつぼ内に充填した多結晶シリコン塊をヒータで加熱することによってシリコン融液とし、このシリコン融液に浸漬した種結晶を引き上げることによってシリコン単結晶の育成を行う方法である。CZ法によるシリコン単結晶の育成においては、育成方向に径が拡大するショルダー部を形成し、次に育成方向に径が一定である直胴部(ボディ部)を形成し、最後に、育成方向に径が縮小するテール部を形成する。このうち、製品(シリコンウェーハ)として使用されるのは直胴部のみであり、ショルダー部やテール部は製品として使用されない部分となる。しかしながら、ショルダー部はシリコン単結晶の径を所望の径に拡大するために必要な部分であり、テール部は直胴部に転位を発生させることなくシリコン単結晶を融液から切り離すために必要な部分である。
【0003】
テール部は、製品として使用されない部分であることから、その形成は短時間で完了することが好ましい。このため、テール部の育成時においては、直胴部の育成時よりも引き上げ速度を高めることが一般的に行われている。しかしながら、引き上げ速度を高める(すなわち固化を促進させる)ためには、ヒータからシリコン融液への入熱量を減らす方向に制御する必要が生じることから、シリコン単結晶とシリコン融液との間の温度勾配が小さくなる。これにより、局所的にシリコン融液の温度が融点を下回り、析出(固化)が生じるおそれがある。
【0004】
このような問題を解決する方法として、特許文献1には、シリコン単結晶を囲繞する熱遮蔽体とシリコン融液の湯面との距離を、テール部の育成時において狭くする方法が開示されている。熱遮蔽体とシリコン融液の湯面との距離を狭くすると、ヒータからシリコン単結晶への輻射熱が減少するため、ヒータからシリコン融液への入熱量を増やす方向に制御する必要が生じ、その結果、シリコン単結晶とシリコン融液との間の温度勾配が大きくなる。これにより、シリコン融液の温度が高くなることから、局所的な析出の発生が防止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−120623号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者らの研究によれば、テール部の育成時において単に熱遮蔽体とシリコン融液の湯面との距離を狭くするだけでは、析出を十分に防止することができないケースや、析出は防止されるものの直胴部の品質が低下するケースが多々生じることが判明した。これらのケースは、より大口径のシリコン単結晶を育成するために大口径のるつぼを使用する場合において顕著であり、特に内径が850mm以上のるつぼを使用する場合には、単に熱遮蔽体とシリコン融液の湯面との距離を調整するだけでは制御マージンが狭くなりすぎ、析出の発生や直胴部の品質低下を安定的に防止することは困難である。
【0007】
したがって、本発明は、直胴部の品質低下を防止しつつ、テール部の育成時における析出の発生を安定的に防止可能な改良されたシリコン単結晶の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、大口径のるつぼを用いた場合であっても、テール部の育成時において析出の発生や直胴部の品質低下が生じない引き上げ条件を探求すべく鋭意研究を行った。その結果、テール部の育成時において析出の発生や直胴部の品質低下を安定的に防止するためには、直胴部の育成時における熱遮蔽体とシリコン融液の湯面との距離と、テール部の育成時における熱遮蔽体とシリコン融液の湯面との距離との関係(第1のパラメータ)のみならず、これに加え、直胴部の育成時における引き上げ速度とテール部の育成時における引き上げ速度との関係(第2のパラメータ)、さらには、これら第1のパラメータと第2のパラメータとの関係(第3のパラメータ)を所定の範囲内とする必要があることを知見した。本発明は、このような技術的知見に基づきなされたものである。
【0009】
本発明によるシリコン単結晶の製造方法は、るつぼ内のシリコン融液に浸漬した種結晶を引き上げることにより、育成方向に径が拡大するショルダー部と、育成方向に径が一定である直胴部と、育成方向に径が縮小するテール部とを有するシリコン単結晶を製造する方法であって、前記シリコン融液を加熱するヒータと、前記シリコン単結晶と前記ヒータとの間に設けられた熱遮蔽体とを有する引き上げ装置を用い、前記直胴部の育成時における前記熱遮蔽体と前記シリコン融液の湯面との距離をAとし、前記テール部の育成時における前記熱遮蔽体と前記シリコン融液の湯面との距離をBとし、前記直胴部の育成時における引き上げ速度をCとし、前記テール部の育成時における引き上げ速度をDとした場合、A/Bが1以上1.6以下であり、C/Dが0.6以上であり、(A/B)×(C/D)で与えられる値Fが0.8以上1.3以下であることを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、第1のパラメータである熱遮蔽体とシリコン融液の湯面との距離の変化率(A/B)、第2のパラメータである引き上げ速度の変化率(C/D)、さらには第3のパラメータであるこれらの関係(F)を上記の範囲に設定していることから、大口径のるつぼ、例えば内径が850mm以上のるつぼを用いた場合であっても、テール部の育成時において析出の発生や直胴部の品質低下を安定的に防止することが可能となる。
【0011】
本発明において、前記引き上げ装置は前記シリコン融液に磁場を印加する磁場印加手段をさらに有し、前記直胴部の育成時において前記シリコン融液に印加する磁場強度よりも、前記テール部の育成時において前記シリコン融液に印加する磁場強度を弱くすることが好ましい。本発明によれば、テール部の育成時においてシリコン融液の対流が増すことから、シリコン融液に局所的な低温領域が生じにくくなり、析出の発生がより効果的に防止される。
【0012】
この場合、前記直胴部の育成時において前記シリコン融液に印加する磁場強度に対して、前記テール部の育成時において前記シリコン融液に印加する磁場強度を70%以下とし、且つ、前記テール部の育成時において前記シリコン融液に印加する磁場強度を0.2T以上とすることが好ましい。これによれば、結晶成長速度が急激に変化することがないため、テール部の形状や引き上げ速度のコントロールが困難となることがない。
【0013】
本発明においてはC/Dが1超であることもまた好ましい。これによれば、テール部の育成時における熱遮蔽体とシリコン融液の湯面との距離をある程度大きく取ることが可能となるため、熱遮蔽体とシリコン融液との接触が生じる危険性を減らすことが可能となる。
【0014】
本発明においてはA/Bが1.3以下であることが好ましい。これによれば、テール部の育成時における直胴部への影響を最小限に抑えることが可能となる。
【0015】
本発明においては、前記テール部の育成時において、前記シリコン融液の残量が少なくなるほどFの値を大きくすることが好ましい。シリコン融液の残量が少なくなるとシリコン融液に析出が生じやすくなるが、上記の方法によれば析出の発生を確実に防止することが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、直胴部の品質低下を防止しつつ、テール部の育成時における析出の発生を安定的に防止することが可能なシリコン単結晶の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の好ましい実施形態によるシリコン単結晶の製造方法に適用可能な引き上げ装置の構成を示す模式図である。
【図2】シリコン単結晶引き上げ装置10によって引き上げられるシリコン単結晶20の構造を示す模式的な断面図である。
【図3】シリコン単結晶20の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【図4】実施例1の各サンプルにおける析出の有無を示すグラフである。
【図5】実施例1の各サンプルにおける欠陥発生の有無を示すグラフである。
【図6】実施例3の各サンプルにおける析出の有無を示すグラフである。
【図7】実施例3の各サンプルにおける欠陥発生の有無を示すグラフである。
【図8】実施例4の各サンプルにおける析出の有無を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。
【0019】
図1は、本発明の好ましい実施形態によるシリコン単結晶の製造方法に適用可能な引き上げ装置の構成を示す模式図である。
【0020】
図1に示すシリコン単結晶引き上げ装置10は、チャンバー11と、チャンバー11の底部中央を貫通して鉛直方向に設けられた支持回転軸12と、支持回転軸12の上端部に固定されたグラファイトサセプタ13と、グラファイトサセプタ13内に収容された石英るつぼ14と、グラファイトサセプタ13の周囲に設けられシリコン融液21を加熱するヒータ15と、支持回転軸12を昇降及び回転させるための支持軸駆動機構16と、種結晶を保持するシードチャック17と、シードチャック17を吊設する引き上げワイヤー18と、ワイヤー18を巻き取るためのワイヤー巻き取り機構19と、シリコン単結晶20とヒータ15との間に設けられた熱遮蔽体22と、各部を制御する制御装置23とを備えている。熱遮蔽体22は、ヒータ15及び石英るつぼ14からの輻射熱によるシリコン単結晶20の加熱を防止するとともに、シリコン融液21の温度変動を抑制する役割を果たす。
【0021】
チャンバー11の上部には、Arガスをチャンバー11内に導入するためのガス導入口24が設けられている。Arガスはガス管25を介してガス導入口24からチャンバー11内に導入され、その導入量はコンダクタンスバルブ26により制御される。
【0022】
チャンバー11の底部には、チャンバー11内のArガスを排気するためのガス排出口27が設けられている。密閉したチャンバー11内のArガスはガス排出口27から排ガス管28を経由して外部へ排出される。排ガス管28の途中にはコンダクタンスバルブ29及び真空ポンプ30が設置されており、真空ポンプ30でチャンバー11内のArガスを吸引しながらコンダクタンスバルブ29でその流量を制御することでチャンバー11内の減圧状態が保たれている。
【0023】
さらに、チャンバー11の外側には磁場印加手段31が設けられている。磁場印加手段31は、シリコン融液21に磁場を印加することによって対流を制御する役割を果たす。磁場印加手段31によって印加される磁場は、水平磁場であっても構わないし、カスプ磁場であっても構わない。
【0024】
シリコン単結晶20の引き上げにおいては、制御装置23によるコントロールにより、シリコン単結晶20の引き上げ速度と、シリコン単結晶20とシリコン融液21との間の温度勾配が高精度に制御される。シリコン単結晶20の引き上げ速度は、主にワイヤー巻き取り機構19による巻き取り速度によって制御され、温度勾配は、主にヒータ15の出力によって調整される。引き上げが進行すると、石英るつぼ14内のシリコン融液21がその分減少し、湯面21aが低下する。これにより変動する湯面21aと熱遮蔽体22との距離A,Bは、支持軸駆動機構16によって支持回転軸12を昇降させることにより調整される。後述するように、距離Aとは直胴部の育成時における湯面21aと熱遮蔽体22との距離を指し、距離Bとはテール部の育成時における湯面21aと熱遮蔽体22との距離を指す。
【0025】
図2は、シリコン単結晶引き上げ装置10によって引き上げられるシリコン単結晶20の構造を示す模式的な断面図である。
【0026】
図2に示すように、シリコン単結晶20は、育成方向Aに沿って上から順に、ショルダー部20a、直胴部20b及びテール部20cを有している。ショルダー部20aは、育成方向Aに径が拡大する部分であり、直胴部20bは育成方向Aに径が一定である部分であり、テール部20cは育成方向Aに径が縮小する部分である。既に説明したとおり、これらのうち、製品(シリコンウェーハ)として使用されるのは直胴部20bのみであり、ショルダー部20a及びテール部20cは製品として使用されない。しかしながら、ショルダー部は20aシリコン単結晶20の径を所望の径に拡大するために必要な部分であり、テール部20cは直胴部20bに転位を発生させることなくシリコン単結晶20をシリコン融液21から切り離すために必要な部分である。
【0027】
図3は、シリコン単結晶20の製造方法を説明するためのフローチャートである。
【0028】
図3に示すように、シリコン単結晶20の育成においては、まず単結晶を無転位化するためにダッシュ法によるシード絞り(ネック部の形成)を行う(ステップS1)。次に、必要な直径の単結晶を得るためにショルダー部20aを育成し(ステップS2)、単結晶が求める直径になったところで直径を一定にして直胴部20bを育成する(ステップS3)。直胴部20bを所定の長さまで育成した後、無転位の状態で単結晶をシリコン融液から切り離すためにテール絞り(テール部20cの形成)を行なう(ステップS4)。その後は、シリコン融液から切り離したシリコン単結晶20を所定の条件で冷却することにより、シリコン単結晶のインゴットを得ることができる。
【0029】
これらの工程における各パラメータは、図1に示した制御装置23によってコントロールされる。ここで、直胴部20bの育成時における熱遮蔽体22と湯面21aとの距離をAとし、テール部20cの育成時における熱遮蔽体22と湯面21aとの距離をBとし、直胴部20bの育成時における引き上げ速度をCとし、テール部20cの育成時における引き上げ速度をDとした場合、制御装置23は、A/Bを1以上1.6以下に設定し、且つ、C/Dを0.6以上1.4以下に設定する。さらには、(A/B)×(C/D)で与えられる値Fを0.8以上1.3以下に設定する。
【0030】
熱遮蔽体22と湯面21aとの距離は、シリコン単結晶20とシリコン融液21との温度勾配に大きな影響を与える。具体的には、熱遮蔽体22と湯面21aとの距離が狭くなると、ヒータ15及び石英るつぼ14からのシリコン単結晶20への輻射熱が減少するため、ヒータ15からシリコン融液21への入熱量を増大させる方向に制御する必要が生じ、その結果、温度勾配が大きくなる。逆に、熱遮蔽体22と湯面21aとの距離が広くなると、ヒータ15及び石英るつぼ14からのシリコン単結晶20への輻射熱が増大するため、ヒータ15からシリコン融液21への入熱量を減少させる方向に制御する必要が生じ、その結果、温度勾配が小さくなる。
【0031】
温度勾配が小さくなると、シリコン融液21の温度が低下するため、局所的にシリコン融液21の温度が融点を下回り、析出(固化)が生じるおそれがある。このような問題は、シリコン融液21の残量が減少するテール部20cの育成時において生じやすいことから、テール部20cの育成時におけるシリコン融液21の析出を防止するためには、A≧Bに設定する必要がある。距離Aは、直胴部20bが所望の品質で育成されるよう定められることから、テール部20cの育成時における距離Bをこれ以下にすればよい。一方、距離Aに対して距離Bを小さくしすぎると、テール部20cの育成時において、冷却されつつある直胴部20bの温度履歴に影響を与え、直胴部20bの品質を低下させるおそれがある。この点を考慮すればA/B≦1.6に設定する必要があり、A/B≦1.3に設定することが好ましい。また、熱遮蔽体22とシリコン融液21との接触などを確実に防止する観点からは、距離Bを20mm以上とすることが好ましい。
【0032】
一方、引き上げ速度も、シリコン単結晶20とシリコン融液21との温度勾配に大きな影響を与える。具体的には、引き上げ速度を遅くするためにはヒータ15からシリコン融液21への入熱量を増やす方向に制御する必要が生じることから、温度勾配が大きくなる。逆に、引き上げ速度を速くするためにはヒータ15からシリコン融液21への入熱量を減らす方向に制御する必要が生じることから、温度勾配が小さくなる。
【0033】
上述の通り、温度勾配の低下による析出の発生は、シリコン融液21の残量が減少するテール部20cの育成時において生じやすいことから、引き上げ速度Dを小さくすれば析出の発生を効果的に防止することができるが、テール部20cの育成時における引き上げ速度Dが遅すぎると、生産性が低下するばかりでなく、直胴部20bの品質にも影響を与えかねない。この点を考慮すれば、引き上げ速度Cと引き上げ速度Dとの関係は、A/Bとの関係において定める必要がある。但し、C/D<0.6に設定すると、A/Bをどのような値に設定しても析出の発生を確実に防止することは困難となるため、C/D≧0.6に設定する必要がある。また、C/D>1.4に設定すると、A/Bをどのような値に設定しても直胴部20bに生じる欠陥を確実に防止することは困難となるため、C/D≦1.4に設定する必要がある。また、直胴部20bにおける欠陥の発生を確実に防止する観点からは、引き上げ速度Dを0.3mm/min以上とすることが好ましい。
【0034】
このように、A/Bの値及びC/Dの値は、いずれも大きいほど析出の発生が抑制されるため、直胴部20bの品質を確保しつつ析出の発生を防止するためには、(A/B)×(C/D)で与えられる値Fを所定の範囲に設定すればよいことになる。具体的には、Fを0.8以上1.3以下に設定すれば、直胴部20bの品質を確保しつつ析出の発生を防止することが可能となる。つまり、F<0.8である場合は、テール部20cの育成時において析出が発生しやすくなり、F>1.3である場合は、テール部20cの育成時において直胴部20bに欠陥が発生しやすくなるため、0.8≦F≦1.3に設定する必要がある。
【0035】
析出の発生は、テール部20cの育成進行によってシリコン融液21の残量が少なくなるとより顕著になる。したがって、テール部20cの育成完了まで析出の発生を防止するためには、テール部20cの育成時においてシリコン融液21の残量が少なくなるほどFの値を大きくすることが好ましい。
【0036】
さらに、制御装置23により磁場印加手段31をコントロールすることによって、直胴部20bの育成時における磁場強度よりも、テール部20cの育成時における磁場強度を弱くすることが好ましい。磁場強度を弱くすると、シリコン融液21の対流が増すことから、シリコン融液21に局所的な低温領域が生じにくくなるからである。この場合、直胴部20bの育成時における磁場強度に対して、テール部20cの育成時における磁場強度を70%以下とし、且つ、テール部20cの育成時における磁場強度を0.2T以上とすることが好ましい。これによれば、結晶成長速度が急激に変化することがないため、テール部20cの形状や引き上げ速度のコントロールが困難となることがない。
【0037】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上記の実施形態に限定されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能であり、それらも本発明の範囲内に包含されるものであることはいうまでもない。
【実施例1】
【0038】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこの実施例に何ら限定されるものではない。
【0039】
内径が850mm〜950mmである複数の大口径の石英るつぼを用いて、直胴部における径が315mmであり、育成方向における直胴部の長さが2400mmであるシリコン単結晶をそれぞれ育成した。育成は直胴部においてOSFなどの欠陥が発生しない条件で行い、直胴部の育成時における引き上げ速度を0.25〜0.45mm/minの範囲に制御し、直胴部の育成時における熱遮蔽体とシリコン融液の湯面との距離を60〜90mmの範囲に制御した。
【0040】
引き上げ速度の制御と、熱遮蔽体と湯面との距離の制御は、A/Bの値とC/Dの値の組み合わせが各サンプル間において異なるよう設定した。各サンプルにおけるA/Bの値、C/Dの値及びFの値は表1に示すとおりである。磁場強度については0.3Tに固定した。
【0041】
【表1】

【0042】
これらサンプルの引き上げ中、サンプル20〜26についてはテール部の育成中に湯面の一部が析出し、これにより発生した転位が直胴部に伝搬した。表1に示すように、これらサンプル20〜26はいずれもF<0.8であった。他のサンプル1〜19においては、テール部の育成時に析出が発生することはなかった。
【0043】
次に、析出が発生することなく引き上げられたサンプル1〜19の直胴部からシリコンウェーハをそれぞれ切り出し、OSFなどの欠陥の有無をX線トポグラフ法により評価した。欠陥の評価に際しては、各シリコンウェーハを硫酸銅水溶液に浸漬後乾燥して、窒素雰囲気中900℃にて20分加熱し、冷却後、弗酸−硝酸混合液に浸漬して表層のCu−シリサイド層を除去してエッチング除去してから行った。その結果、各サンプルとも、直胴部においてOSFなどの欠陥が発生しない条件で引き上げたにもかかわらず、サンプル1〜8においては欠陥が生じていた。尚、有転位化したサンプル20〜26については、欠陥の評価は行わなかった。
【0044】
図4及び図5は各サンプルにおけるA/BとC/Dとの関係をプロットしたグラフであり、図4は析出の有無を示し、図5は欠陥発生の有無を示している。
【0045】
図4に示すように、析出の有無はF=0.8が境界となり、F<0.8の条件であると析出が発生する一方、F≧0.8であれば析出が発生しないことが判明した。一方、図5に示すように、欠陥発生の有無はF=0.8及びF=1.3が境界となり、F<0.8又はF>1.3の条件であると欠陥が発生する一方、0.8≦F≦1.3であれば欠陥が発生しないことが判明した。
【実施例2】
【0046】
内径が850mmである石英るつぼを用い、直胴部における径が315mmであり育成方向における直胴部の長さが2400mmであるシリコン単結晶を、引き上げ速度0.5mm/min、熱遮蔽体とシリコン融液の湯面との距離を70mm、直胴部の育成時における磁場強度を0.3Tに固定し、テール部の育成時における磁場強度を種々に変化させることによって育成した。テール部の育成時における磁場強度は、直胴部の育成時における磁場強度の比で表2に示すように設定した。そして、自動制御による引き上げ速度の変化が各サンプルにおいてどの程度生じるか評価した。表2において○と表記されているのは、60分以内に10分平均の引き上げ速度変化が20%未満である場合を示し、×と表記されているものは60分以内に10分平均の引き上げ速度変化が20%以上である場合を示している。
【0047】
【表2】

【0048】
その結果、表2に示すように、磁場強度比が0.7〜1.0のサンプル27〜29においては速度変化が20%未満であったのに対し、磁場強度比が0.6であるサンプル30においては20%以上の速度変化が発生した。大幅な速度変化は、磁場強度の低下によって自然対流が優勢になるために生じるものと考えられ、20%以上の速度変化が生じると、形状制御や速度コントロールが困難となり、融液からシリコン単結晶を切り離す際に有転位化したり、熱履歴の制御ができなくなるなどの問題が生じる。このような問題を防止するためには、表2に示すとおり、磁場強度比を0.7以上とすればよい。
【実施例3】
【0049】
テール部の育成時においてシリコン融液に磁場印加を行わない他は、実施例1と同じ条件で複数のシリコン単結晶を育成した。そして、実施例1と同様、析出の有無と欠陥発生の有無を評価した。析出の有無を評価した結果を図6に示し、欠陥発生の有無を評価した結果を図7に示す。
【0050】
図6に示すように、析出の有無はF=0.65が境界となり、実施例1よりも析出が生じにくくなった。しかしながら、図7に示すように、欠陥発生の有無はF=0.95及びF=1.2が境界となり、実施例1と比べると欠陥が発生しないF値の範囲が狭くなった(0.95≦F≦1.2)。これにより、テール部の育成時において磁場印加をしない場合、析出は抑制されるが、熱履歴の影響で制御マージンが狭くなることが判明した。
【実施例4】
【0051】
内径がいずれも760mmの石英るつぼを用いて、直胴部における径が315mmであり、育成方向における長さが2400mmであるシリコン単結晶をそれぞれ育成した。育成は、直胴部においてOSFなどの欠陥が発生しない条件で行い、直胴部の育成時における引き上げ速度を0.4mm/min、直胴部の育成時における熱遮蔽体と湯面との距離を80mmの範囲に制御した。
【0052】
A/Bの値とC/Dの値の組み合わせについては、各サンプル間において異なるよう設定した。磁場強度については0.3Tに固定した。そして、実施例1と同様、析出の有無を評価した。析出の有無を評価した結果を図8に示す。
【0053】
図8に示すように、析出の有無はF=0.65が境界となり、実施例1よりも析出が生じにくくなった。これにより、実施例1のように内径が850mm以上の大口径石英るつぼを使用すると、制御マージンが狭くなることが判明した。
【符号の説明】
【0054】
10 シリコン単結晶引き上げ装置
11 チャンバー
12 支持回転軸
13 グラファイトサセプタ
15 ヒータ
16 支持軸駆動機構
17 シードチャック
18 ワイヤー
19 ワイヤー巻き取り機構
20 シリコン単結晶
20a ショルダー部
20b 直胴部
20c テール部
21 シリコン融液
21a 湯面
22 熱遮蔽体
23 制御装置
24 ガス導入口
25 ガス管
26 コンダクタンスバルブ
27 ガス排出口
28 排ガス管
29 コンダクタンスバルブ
30 真空ポンプ
31 磁場印加手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
るつぼ内のシリコン融液に浸漬した種結晶を引き上げることにより、育成方向に径が拡大するショルダー部と、育成方向に径が一定である直胴部と、育成方向に径が縮小するテール部とを有するシリコン単結晶を製造する方法であって、
前記シリコン融液を加熱するヒータと、前記シリコン単結晶と前記ヒータとの間に設けられた熱遮蔽体とを有する引き上げ装置を用い、
前記直胴部の育成時における前記熱遮蔽体と前記シリコン融液の湯面との距離をAとし、前記テール部の育成時における前記熱遮蔽体と前記シリコン融液の湯面との距離をBとし、前記直胴部の育成時における引き上げ速度をCとし、前記テール部の育成時における引き上げ速度をDとした場合、
A/Bが1以上1.6以下であり、C/Dが0.6以上であり、(A/B)×(C/D)で与えられる値Fが0.8以上1.3以下であることを特徴とするシリコン単結晶の製造方法。
【請求項2】
前記引き上げ装置は、前記シリコン融液に磁場を印加する磁場印加手段をさらに有し、
前記直胴部の育成時において前記シリコン融液に印加する磁場強度よりも、前記テール部の育成時において前記シリコン融液に印加する磁場強度を弱くすることを特徴とする請求項1に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項3】
前記直胴部の育成時において前記シリコン融液に印加する磁場強度に対して、前記テール部の育成時において前記シリコン融液に印加する磁場強度を70%以下とし、且つ、前記テール部の育成時において前記シリコン融液に印加する磁場強度を0.2T以上とすることを特徴とする請求項2に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項4】
C/Dが1超であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項5】
A/Bが1.3以下であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項6】
前記テール部の育成時において、前記シリコン融液の残量が少なくなるほどFの値を大きくすることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。
【請求項7】
前記るつぼの内径が850mm以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載のシリコン単結晶の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−157224(P2011−157224A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−19283(P2010−19283)
【出願日】平成22年1月29日(2010.1.29)
【出願人】(302006854)株式会社SUMCO (1,197)
【Fターム(参考)】